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特許7402916新規ボツリヌスニューロトキシンおよびその誘導体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】新規ボツリヌスニューロトキシンおよびその誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20231214BHJP
   C12N 9/52 20060101ALI20231214BHJP
   C07K 14/33 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231214BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N9/52
C07K14/33
C12N15/63 Z
C12N15/57
C12N15/31 ZNA
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61P21/00
A61P27/02
A61P17/00
A61P1/00
A61P25/04
A61P3/04
A61P17/06
A61P37/08
【請求項の数】 25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022076994
(22)【出願日】2022-05-09
(62)【分割の表示】P 2019500553の分割
【原出願日】2017-07-07
(65)【公開番号】P2022119794
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】62/360,239
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】518438324
【氏名又は名称】ステンマルク,ポール
【氏名又は名称原語表記】STENMARK, Paul
【住所又は居所原語表記】Svantearrheniusvag 16c, 10691 Stockholm, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ステンマルク,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】ヅァン,シーツァイ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519362(JP,A)
【文献】特表2013-514091(JP,A)
【文献】特表2009-543556(JP,A)
【文献】国際公開第2012/041761(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/014854(WO,A1)
【文献】"Clostridium botulinum DNA, complete genome, strain: 111",[online], INTERNET,VERSION: AP014696.1,GenBank,2015年02月21日,ACCESSION: AP014696,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AP014696.1
【文献】"putative botulinum neurotoxin [Clostridium botulinum]",[online], INTERNET,VERSION: BAQ12790.1,GenBank,2015年02月21日,ACCESSION: BAQ12790,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAQ12790
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラクロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドであって、
(a)プロテアーゼドメイン;
(b)リンカー領域;
(c)転位置ドメイン;および
(d)受容体結合ドメイン
を含み、ここで、(a)、(b)および(c)は、配列番号1または2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有し、弛緩性麻痺を誘導するポリペプチドからのものであり、(d)は、BoNT血清型A、B、C、D、E、FまたはGからのものである、前記キメラBoNTポリペプチド。
【請求項2】
リンカー領域が、配列番号1のC461またはC467に対応する位置において1つの単置換変異を含む、請求項1に記載のキメラBoNTポリペプチド。
【請求項3】
配列番号22~30のいずれか1つに対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有さない、請求項1または2に記載のキメラBoNTポリペプチド。
【請求項4】
配列番号22~30のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキメラBoNTポリペプチド。
【請求項5】
改変クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドであって、改変BoNTポリペプチドが、
(a)プロテアーゼドメイン;
(b)リンカー領域;および
(c)転位置ドメイン
を含み、配列番号1または2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有し、
ここで、前記プロテアーゼドメインが不活性に改変されており、これにより、前記改変BoNTポリペプチドが弛緩性麻痺を誘導しない
前記改変BoNTポリペプチド。
【請求項6】
受容体結合ドメインをさらに含む、請求項5に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項7】
受容体結合ドメインが、BoNT血清型A、B、C、D、E、FまたはG、または配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドからのものである、請求項6に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項8】
不活性なプロテアーゼドメインが、配列番号1のR360、Y363、H227、E228、またはH231に対応する位置において1つ以上の置換変異を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項9】
1つ以上の置換変異が、配列番号1のR360A/Y363F、H227Y、E228Q、またはH231Yに対応する、請求項8に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項10】
(b)のリンカー領域においてさらに改変を含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項11】
リンカー領域における改変が、配列番号1のC461またはC467に対応する位置において1つの単置換変異を含む、請求項10に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項12】
単置換変異が、配列番号1におけるC461A、C461S、C467A、またはC467Sに対応する、請求項11に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項13】
受容体結合ドメインにおける改変が、配列番号1のC1240に対応する位置において置換変異を含む、請求項6~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項14】
配列番号31~38のいずれかに対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有さない、請求項5~13のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項15】
配列番号31~38のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項5~14のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項16】
請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラBoNTポリペプチドまたは請求項5~15のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸分子を含む、核酸ベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸分子または請求項17に記載の核酸ベクターを含む、細胞。
【請求項19】
請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラBoNTポリペプチドまたは請求項5~15のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドを発現する、細胞。
【請求項20】
請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラBoNTポリペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項21】
薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
望ましくない神経活動に関連する状態を処置することにおける使用のための、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
状態が、過活動の神経細胞または腺に関連し、ここで、状態が、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症(hyperhydrosis)、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛、および皮膚科学的または審美的/美容的状態、肥満/食欲低下からなる群より選択される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
請求項5~15のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドを、低分子、核酸、短いポリペプチドおよびタンパク質からなる群より選択される治療用分子と共有結合してなる、キメラ分子。
【請求項25】
治療用分子を神経細胞へ送達することにおける使用のための、請求項24に記載のキメラ分子を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年7月8日に出願された米国仮出願第62/360,239号の35U.S.C.§119(e)下における利益を主張し、該仮出願は、本明細書においてその全体において参考として援用される。
【0002】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所により付与されたR01NS080833下において、政府の支援によりなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)は、最も危険な潜在的なバイオテロ剤の一つであり、また、臨床的に、増加しつつあるリストの医学的状態を処置するためにも用いられる。
BoNTの7つの血清型(BoNT/A~G)が今日までに知られている。近年において、BoNTは、増加しつつあるリストの医学的状態を処置するために広く用いられてきた:微量のトキシンの局所注射により、標的領域における神経活動を減弱することができ、これは、多くの医学的状態において、ならびに美容目的のためにも、有益であり得る。BoNTの用途が増加するにつれて、限定要因および有害効果が報告されてきている。主要な限定要因は、患者における中和抗体の産生であり、これは将来の処置を無効にする。BoNTの使用を停止すると、しばしば、患者にとって、その疾患を処置/軽減する他の有効な方法が残らない。BoNTの使用に関連する有害効果は、眼瞼下垂および複視などの一過性の重篤でない事象から、生命を脅かす事象、死にまで至る。BoNTの限定要因および有害効果は、用量に大きく相関する。治療用トキシンとして新規のBoNTの型を開発することについての多大な関心が存在する。新たなBoNTの型は、過去45年間にわたり認識されていない。
【発明の概要】
【0004】
要旨
本開示は、少なくとも部分的に、Clostridium Botulinum菌株のゲノムデータベースを検索することから、新規のBoNT血清型であるBoNT/Xの同定に基づく。BoNT/Xは、他のBoNTと最も低い配列同一性を有し、既知のBoNT型に対して産生された抗血清により認識されない。BoNT/Xは、他のBoNTのようにSNAREタンパク質を切断する。しかし、BoNT/Xはまた、他のBoNTが切断できないいくつかのSNAREタンパク質、例えばVAMP4、VAMP5、およびYkt6をも切断する。BoNT/Xを用いて疾患を処置する組成物および方法が提供される。また本明細書において提供されるのは、BoNT/Xを作製する方法である。
【0005】
したがって、本開示のいくつかの側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、単離されたクロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを提供する。
本開示のいくつかの側面は、配列番号1に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0006】
本開示のいくつかの側面は、配列番号2のアミノ酸配列を含む、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。本開示のいくつかの側面は、配列番号2に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列からなる。
【0007】
本開示のいくつかの側面は、配列番号3のアミノ酸配列を含む、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。本開示のいくつかの側面は、配列番号3に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列からなる。
【0008】
本開示のいくつかの側面は、配列番号1のC461、C467、およびC1240に対応する位置において1つ以上の置換変異を含む、改変BoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、置換変異は、配列番号1におけるC461S、C461A、C467S、C467A、C1240S、C1240A、C461S/C1240S、C416S/C1240A、C461A/C1240S、C461A/C1240A、C467S/C1240S、C461S/C1240A、C467A/C1240S、またはC467A/C1240Aに対応する。
【0009】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号4~17のいずれかに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0010】
本開示のいくつかの側面は、配列番号2のC461またはC467に対応する位置において単置換変異を含む、改変BoNTポリペプチドを提供する。
いくつかの態様において、置換変異は、配列番号2におけるC461S、C461A、C467S、C467A、C1240S、C1240A、C461S/C1240S、C416S/C1240A、C461A/C1240S、C461A/C1240A、C467S/C1240S、C461S/C1240A、C467A/C1240S、またはC467A/C1240Aに対応する。
【0011】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号18~21のいずれかに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を有しない。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0012】
本開示のいくつかの側面は、配列番号22~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、キメラBoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、ポリペプチドは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0013】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号2におけるC461またはC467に対応する位置において、単置換変異をさらに含む。
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0014】
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、細胞に侵入する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、細胞中のSNAREタンパク質を切断する。いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、SNAP-25、VAMP1、VAMP2、VAMP3、VAMP4、VAMP5、Ykt6、およびシンタキシン1からなる群より選択される。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP1である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号39のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP2である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号40のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
【0015】
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP3である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号41のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP4である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号42のK87およびS88に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP5である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号43のR40およびS41に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
【0016】
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、Ykt6である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号44のK173およびS174に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、その対応する野生型BoNTポリペプチドと比較して増大した安定性を有する。
【0017】
いくつかの態様において、細胞は、分泌細胞である。いくつかの態様において、細胞は、神経細胞である。いくつかの態様において、細胞は、免疫細胞である。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、神経活動を抑制する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、弛緩性麻痺を誘導する。いくつかの態様において、細胞は、培養細胞である。いくつかの態様において、細胞は、in vivoのものである。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物からのものである。いくつかの態様において、哺乳動物は、ヒトである。いくつかの態様において、哺乳動物は、げっ歯類である。いくつかの態様において、げっ歯類は、マウスである。いくつかの態様において、げっ歯類は、ラットである。
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT血清型A、B、C、D、E、FまたはGに対する抗体と交差反応しない。
【0018】
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子を提供する。かかる核酸分子を含む核酸ベクターが提供される。本明細書において記載される核酸分子または核酸ベクターを含む細胞が提供される。いくつかの態様において、かかる細胞は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドを発現する。
【0019】
本開示のBoNTポリペプチドを生成する方法が提供される。かかる方法は、BoNTポリペプチドを発現する細胞を、前記BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、BoNTポリペプチドを培養物から回収することをさらに含む。
【0020】
本開示の他の側面は、(a)プロテアーゼドメイン;(b)改変リンカー領域;および(c)転位置ドメインを含む改変BoNTポリペプチドを提供し、ここで、(a)、(b)および(c)は、BoNT血清型Xからのものであり、およびここで、改変リンカー領域は、配列番号1のC461またはC467に対応する位置において1つの単置換変異を含む。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、(d)受容体結合ドメインをさらに含む。
【0021】
いくつかの態様において、改変リンカー領域は、配列番号1におけるC461SまたはC461Aに対応する置換変異を含む。いくつかの態様において、改変リンカー領域は、配列番号1におけるC467SまたはC467Aに対応する置換変異を含む。
いくつかの態様において、受容体結合ドメインは、BoNT/Xからのものである。いくつかの態様において、受容体結合ドメインは、改変されている。いくつかの態様において、受容体結合ドメインは、配列番号1におけるC1240SまたはC1240Aに対応する置換変異を含む。
いくつかの態様において、受容体結合ドメインは、A、B、C、D、E、FおよびGからなる群より選択される血清型からのものである。
【0022】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、細胞に侵入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、細胞中のSNAREタンパク質を切断する。いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、SNAP-25、VAMP1、VAMP2、VAMP3、VAMP4、VAMP5、Ykt6、およびシンタキシン1からなる群より選択される。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP1である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号39のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP2である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号40のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
【0023】
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP3である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号41のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP4である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号42のK87およびS88に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、VAMP5である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号43のR40およびS41に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
【0024】
いくつかの態様において、SNAREタンパク質は、Ykt6である。いくつかの態様において、BoNTは、配列番号44のK173およびS174に対応するアミノ酸残基の間を切断する。
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、その対応する野生型BoNTポリペプチドと比較して増大した安定性を有する。
【0025】
いくつかの態様において、細胞は、分泌細胞である。いくつかの態様において、細胞は、神経細胞である。いくつかの態様において、細胞は、免疫細胞である。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、神経活動を抑制する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、弛緩性麻痺を誘導する。いくつかの態様において、細胞は、培養細胞である。いくつかの態様において、細胞は、in vivoのものである。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物からのものである。いくつかの態様において、哺乳動物は、ヒトである。いくつかの態様において、哺乳動物は、げっ歯類である。いくつかの態様において、げっ歯類は、マウスである。いくつかの態様において、げっ歯類は、ラットである。
【0026】
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT血清型A、B、C、D、E、FまたはGに対する抗体と交差反応しない。
いくつかの態様において、改変リンカー領域は、人工リンカーを含む。いくつかの態様において、人工リンカーは、プロテアーゼの切断部位を含む。いくつかの態様において、プロテアーゼは、トロンビン、TEV、PreScission(3Cプロテアーゼ)、第Xa因子、MMP-12、MMP-13、MMP-17、MMP-20、グランザイム-B、およびエンテロキナーゼからなる群より選択される。いくつかの態様において、リンカーは、配列番号50~60のいずれかのアミノ酸配列を含む。
【0027】
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子を提供する。かかる核酸分子を含む核酸ベクターが提供される。本明細書において記載される核酸分子または核酸ベクターを含む細胞が提供される。いくつかの態様において、かかる細胞は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドを発現する。
【0028】
本開示のBoNTポリペプチドを生成する方法が提供される。かかる方法は、BoNTポリペプチドを発現する細胞を、前記BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、BoNTポリペプチドを培養物から回収することをさらに含む。
【0029】
本開示の他の側面は、配列番号1におけるR360、Y363、H227、E228、またはH231に対応する位置において1つ以上の置換変異を含む、改変BoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、1つ以上の置換変異は、配列番号1におけるR360A/Y363F、H227Y、E228Q、またはH231Yに対応する。
【0030】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号31~38のいずれかに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、ポリペプチドは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0031】
本開示の他の側面は、以下:a)不活性なプロテアーゼドメイン;b)リンカー領域;およびc)転位置ドメイン、を含む、改変BoNT/Xポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、改変BoNT/Xは、受容体結合ドメインをさらに含む。
いくつかの態様において、不活性なプロテアーゼドメインは、配列番号1のR360、Y363、H227、E228、またはH231に対応する位置において、1つ以上の置換変異を含む。いくつかの態様において、1つ以上の置換変異は、配列番号1のR360A/Y363F、H227Y、E228Q、またはH231Yに対応する。
【0032】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、細胞に侵入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、SNAREタンパク質を切断しない。
いくつかの態様において、改変BoNT/Xポリペプチドは、(b)のリンカー領域における改変をさらに含む。いくつかの態様において、リンカー領域における改変は、配列番号1のC461またはC467に対応する位置において1つの単置換変異を含む。いくつかの態様において、単置換変異は、配列番号1におけるC461A、C461S、C467A、またはC467Sに対応する。いくつかの態様において、改変BoNT/Xポリペプチドは、(d)の受容体結合ドメインにおける改変をさらに含む。
いくつかの態様において、受容体結合ドメインにおける改変は、配列番号1のC1240に対応する位置において置換変異を含む。
【0033】
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子を提供する。かかる核酸分子を含む核酸ベクターが提供される。本明細書において記載される核酸分子または核酸ベクターを含む細胞が提供される。いくつかの態様において、かかる細胞は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドを発現する。
【0034】
本開示のBoNTポリペプチドを生成する方法が提供される。かかる方法は、BoNTポリペプチドを発現する細胞を、前記BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、BoNTポリペプチドを培養物から回収することをさらに含む。
本明細書においてさらに提供されるのは、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドの、治療剤を神経細胞中に送達するための送達ビヒクルとしての使用である。
【0035】
本開示のいくつかの側面は、第2の部分に連結した第1の部分を含むキメラ分子を提供し、ここで、第1の部分は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドである。
いくつかの態様において、第1の部分と第2の部分とは、共有結合により連結している。いくつかの態様において、第1の部分と第2の部分とは、非共有結合的に連結している。
いくつかの態様において、第2の部分は、低分子、核酸、短いポリペプチドおよびタンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、第2の部分は、生理活性分子である。いくつかの態様において、第2の部分は、非ポリペプチド薬である。いくつかの態様において、第2の部分は、治療用ポリペプチドである。
【0036】
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるキメラBoNTポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子を提供する。かかる核酸分子を含む核酸ベクターが提供される。本明細書において記載される核酸分子または核酸ベクターを含む細胞が提供される。いくつかの態様において、かかる細胞は、本明細書において記載されるキメラBoNTポリペプチドを発現する。
【0037】
本開示のキメラBoNTポリペプチドを生成する方法が提供される。かかる方法は、キメラBoNTポリペプチドを発現する細胞を、前記キメラBoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、キメラBoNTポリペプチドを培養物から回収することをさらに含む。
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
いくつかの態様において、医薬組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含む。
【0038】
かかる医薬組成物、および医薬組成物の治療的投与のための指示を含むキットもまた提供される。
本開示のいくつかの側面は、状態を処置する方法を提供し、該方法は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチド、キメラ分子、または医薬組成物の治療有効量を、状態を処置するために対象に投与することを含む。
【0039】
いくつかの態様において、状態は、過活動の神経細胞または腺と関連する。いくつかの態様において、状態は、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス(anismus)、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症(hyperhydrosis)、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛、皮膚科学的または審美的/美容的状態、および肥満/食欲低下からなる群より選択される。
【0040】
いくつかの態様において、状態は、望ましくない神経活動に関連しない。いくつかの態様において、状態は、乾癬、アレルギー、血球貪食性リンパ組織球症、およびアルコール性膵疾患からなる群より選択される。
いくつかの態様において、投与することは、望ましくない神経活動が存在する場所への注射を介するものである。
【0041】
本開示のさらに他の側面は、クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを生成する方法を提供し、該方法は、以下:
(i)軽鎖(LC)および重鎖(H)のN末端ドメインを含む第1のBoNTフラグメントを得ること、ここで、第1のBoNTフラグメントは、C末端LPXTGG(配列番号60)モチーフを含む;
(ii)重鎖(H)のC末端ドメインを含む第2のBoNTフラグメントを得ること、ここで、第2のBoNTフラグメントは、そのN末端において、特異的なプロテアーゼ切断部位を含む;
(iii)第2のBoNTフラグメントを、特異的プロテアーゼにより切断すること、ここで、切断は、N末端において遊離のグリシン残基をもたらす;ならびに
(iv)第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとを、トランスペプチダーゼの存在下において接触させ、それにより、第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとをライゲーションして、ライゲーションされたBoNTを形成させること;
を含む。
【0042】
いくつかの態様において、第1のBoNTフラグメントは、アフィニティータグをさらに含む。いくつかの態様において、アフィニティータグは、N末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、C末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、His6、GST、Avi、Strep、S、MBP、Sumo、FLAG、HA、Myc、SBP、E、カルモジュリン、Softag 1、Softag 3、TC、V5、VSV、Xpress、Halo、およびFcからなる群より選択される。
【0043】
いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、アフィニティータグをさらに含む。いくつかの態様において、アフィニティータグは、N末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、C末端において第2のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、His6、GST、Avi、Strep、S、MBP、Sumo、FLAG、HA、Myc、SBP、E、カルモジュリン、Softag 1、Softag 3、TC、V5、VSV、Xpress、Halo、およびFcからなる群より選択される。
【0044】
いくつかの態様において、プロテアーゼは、以下からなる群より選択される:トロンビン、TEV、PreScission、MMP-12、MMP-13、MMP-17、MMP-20、グランザイム-B、エンテロキナーゼ、およびSUMOプロテアーゼ。いくつかの態様において、コグネイトな(cognate)プロテアーゼは、トロンビンである。
いくつかの態様において、第1のBoNTフラグメントは、BoNT血清型A、B、C、D、E、F、GまたはXからのものである。いくつかの態様において、第1のBoNTフラグメントは、BoNT/Xからのものである。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、BoNT血清型A、B、C、D、E、F、GまたはXからのものである。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、BoNT/Aからのものである。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、BoNT/Bからのものである。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、BoNT/Cからのものである。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、BoNT/Xからのものである。
【0045】
いくつかの態様において、トランスペプチダーゼは、ソルターゼである。いくつかの態様において、ソルターゼは、黄色ブドウ球菌からのもの(SrtA)である。
本開示のこれらのおよび他の側面、ならびに多様な利点および用途は、発明の詳細な説明を参照することにより明らかとなるであろう。本開示の各々の側面が多様な態様を包含し得ることは、理解されるであろうとおりである。
本願において同定される全ての文書は、それらの全体において本明細書において参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図面の簡単な説明
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある側面をさらに示すために含められ、これらの側面は、これらの図面の1つ以上を、本明細書において提示される特定の態様の詳細な記載と組み合わせて参照することにより、よく理解することができる。特許または出願の書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面による本特許または特許出願の公開は、要請および必要な手数料の支払いの後で、特許庁により提供されるであろう。
【0047】
図1A-C】図1A~1Eは、新たなBoNTとしてのBoNT/Xの同定を示す。図1Aは、ClustalW法により分析されたBoNT/A~G、BoNT/F5、TeNT、およびBoNT/Xについてのタンパク質配列アラインメントの系統樹を示す。各々のトキシンとBoNT/Xとの間の配列同一性のパーセンテージは、各々のトキシンの後に表す。BoNT/EとBoNT/Fとの間、およびBoNT/BとBoNT/Gとの間の配列同一性のパーセンテージもまた示した。図1Bの上のパネルは、BoNT/Xの3つのドメインの模式図を、示されたHにおけるLCおよびガングリオシド結合モチーフにおける保存されたプロテアーゼモチーフと共に示す。図1Bの下のパネルは、BoNT/Xが、全ての他の7つのBoNTおよびTeNTに対して、その配列に沿って均等に分配された低い類似性を有することを示すスライディング配列比較ウィンドウを示す。図1Cは、BoNT/X遺伝子(上のパネル)を含むorf遺伝子クラスターの模式図であり、これは、orfXクラスターの2つの既知のバリアントと比較して2つのユニークな特徴を有する(中央および下のパネル):(1)BoNT/X遺伝子の次に位置するさらなるorfX2タンパク質(orfX2bと称される)が存在する;(2)orfX遺伝子の読み枠は、BoNT/X遺伝子と同じ方向を有する。
図1D-E】図1Dは、BoNT/Xにおいて見出されたユニークな遺伝子方向性、およびさらなるOrfX2遺伝子を説明する模式図である。図1Eは、BoNT/X軽鎖の予備的構造を示す。暗色のドットは、活性部位の亜鉛を表す。構造は、1.9Åの解像度において示す。
【0048】
図2A-E】図2A~2Jは、BoNT/XのLC(X-LC)が、ユニークな部位においてVAMPを切断することを示す。図2Aは、ラット脳界面活性剤抽出物(BDE)と共にインキュベートした、EDTAで予め処置された、または処置されていないX-LCを示す。シンタキシン1、SNAP-25、およびVAMP2を検出するためにイムノブロット分析を行った。また、シナプトフィジン(Syp)を、ローディング対照として検出した。BoNT/AのLC(A-LC)およびBoNT/BのLC(B-LC)を、並行して分析した。B-LCによるVAMP2の切断は、イムノブロットシグナルの喪失をもたらすが、一方、A-LCによるSNAP-25の切断は、SNAP-25のより小さなフラグメントを生じ、これは、イムノブロットにおいてなお検出することができる(アスタリスクによりマークしたもの)。X-LCとのインキュベーションは、VAMP2のイムノブロットシグナルの喪失をもたらし、このことは、X-LCがVAMP2を切断することを示唆している。EDTAは、X-LC、A-LCおよびB-LCの活性を遮断した。図2Bは、His6タグ付き組み換えタンパク質として精製され、X-LCと共にインキュベートされたVAMP2(残基1-96)を示す。試料を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。X-LCは、VAMP2(1-96)を2つのより小さなフラグメントに変換し、このことは、X-LCがVAMP2を切断することを示している。図2C~2Eは、X-LCと共にインキュベートしたVAMP2(1-96)を示す。次いで、全タンパク質試料を、次いで、質量分析(LC-MS/MS)により分析して、切断されたフラグメントの正確な分子量を決定する。HPLCカラムから溶離したペプチドのピークを、図2Cにおいて、実行時間(RT、X軸)に対してプロットした。2つの切断生成物についての質量分析データを、それぞれ図2Dおよび2Eにおいて示し、各々のシグナルについての質量対電荷比(m/z)を記述した。分子量は、mにzを掛け、その後、zを減算することにより差し引いた。2つの切断生成物についてのタンパク質配列は、上から下へ配列番号61および62に対応し、図2Cにおいて示す。
図2F-J】図2Fは、VAMP1、2、3、4、5、7、8、Sec22bおよびYkt6の間の配列アラインメントを示し、BoNT/B、D、F、GおよびXのための切断部位に下線を付し、2つのSNAREモチーフを箱で囲んだ。配列は、上から下へ、配列番号63~71に対応する。図2Gは、HEK293細胞において一過性導入を介して発現したHAタグ付きVAMP1、3、7および8、ならびにmycタグ付きSec22bおよびYkt6を示す。細胞ライセートを、X-LCと共にインキュベートし、HAまたはMycタグを検出するイムノブロット分析に供した。アクチンは、ローディング対照として用いられた。X-LCは、VAMP1、3およびYkt6を切断したが、VAMP7、8およびSec22は切断しなかった。図2Hは、X-LC(100nM)と共に示された時間にわたりインキュベートされた、GSTタグ付きYkt6を示す。試料を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。X-LCは、Ykt6を切断した。図2Iは、X-LCと共に示された時間にわたりインキュベートされた、VAMP2(33-86)、VAMP4(1-115)、およびVAMP5(1-70)のGSTタグ付き細胞質ドメインを示す。試料を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。X-LCは、VAMP4およびVAMP5の両方を切断した。VAMP5の大部分を切断するために、より長いインキュベーション時間(360分間)が必要とされる。VAMP5タンパク質が、さらなるバンドを含むことに注意する。これは、分解生成物または細菌のタンパク質混入物のいずれかであり、これは、SDS-PAGにおいて、切断生成物の近くに流れる(が同一ではない)。図2Jは、VAMP4およびSec22bが検出されたことを除き、図2Aにおいて記載されるとおりに行われた実験を示す。ローディング対照として、シナプトタグミンI(SytI)を検出した。X-LCは、BDEにおいて、ネイティブのVAMP4を切断した。
【0049】
図3A-E】図3A~3Eは、LCとHとの間のリンカー領域のタンパク質分解による切断による、BoNT/Xの活性化を示す。図3Aは、7つのBoNTおよびBoNT/XのLCとHとの間のリンカー領域の配列アラインメントを示す。配列は、上から下へ、配列番号72~79に対応する。BoNT/Xは、全てのBoNTの中で最長のリンカー領域を有し、これは、LCにおける、およびHにおける、2つの保存されたシステインに加えて、1つの余分のシステインを含む。限定されたタンパク質分解下におけるLys-C切断部位を、質量分析アプローチにより同定した。図3Bは、示される濃度のX-LC-Hに12時間にわたり培地中で暴露された、培養ラット皮質神経細胞を示す。細胞ライセートを収集して、イムノブロット分析を行い、神経細胞におけるシンタキシン1、SNAP-25、およびVAMP2を試験した。アクチンを、ローディング対照として用いた。トリプシンにより活性化されたBoNT/AのLC-H(A-LC-H)およびBoNT/BのLC-H(B-LC-H)を、並行して対照として分析した。VAMP2イムノブロットシグナルの喪失により証明されるとおり、X-LC-Hは、神経細胞に侵入し、VAMP2を切断した。Lys-Cにより活性化されたX-LC-Hは、活性化されていないX-LC-Hよりも劇的に増大した効力を示した。X-LC-Hは、トリプシンにより活性化されたB-LC-HおよびA-LC-Hよりも強力であり、これらは、神経細胞において、同じアッセイ濃度下において、それらのSNARE基質のいかなる検出可能な切断も示さなかった。図3Cは、示されたシステインが変異しているX-LC-H変異体、ならびにWT X-LC-Hを、限定されたタンパク質分解により活性化して、DTTを用いてまたはこれを用いずに、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析したものを示す。C423S変異は、DTTを用いても用いなくとも、2つの50kDaのフラグメントを生じた。C461SまたはC467Sを含む変異体は、DTTの不在化において100kDaにおいて単一のバンドを示し、それは、DTTの存在下において2つの約50kDaのバンドに分離した。このことは、HにおけるC461およびC467はいずれも、LCにおけるC423と鎖間ジスルフィド結合を形成し得ることを示している。WT X-LC-Hの一部は、SDS-PAGEゲルの最上部において凝集塊を形成した。これらの凝集塊は、DTTの存在下において消失したので、分子間ジスルフィド結合の形成に起因する。3つのシステインのうちのいずれか1つを変異させることにより、凝集塊は消失し、このことは、分子間ジスルフィド結合の形成が、リンカー領域における1つの余分のシステインの存在に起因することを示している。活性化されたWT X-LC-Hの大部分もまた、DTTなしで、SDS-PAGEゲル上で2つの約50kDaのバンドに分離した。このことは、図3Dにおいて記載されるジスルフィド結合のシャッフル(shuffling)に起因する。図3Dは、WT X-LC-Hを限定されたタンパク質分解により活性化し、その後、示される濃度のNEMと共にプレインキュベーションして、ジスルフィド結合のシャッフルを遮断したものを示す。試料を、次いで、DTTの存在下または不在下において、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。WT X-LC-Hの大部分は、DTTなしで、NEM処置の後で、100kDaにおいて単一のバンドとして存在し、このことは、WT X-LC-Hが主に鎖間ジスルフィド結合を含むことを示している。図3Eは、神経細胞をWTまたは示されるX-LC-H変異体のいずれかに暴露したことを除き、図3Bにおいて記載されるとおりに行われた実験を示す。LC(C423)上のシステインを変異させることによりX-LC-Hの活性が消失する一方、H(C461またはC467)上の2つのシステインのうちの1つを変異させることは、神経細胞に対するX-LC-Hの活性に影響を及ぼさない。これらの結果により、鎖間ジスルフィド結合の形成が、X-LC-Hの活性にとって必須であることを確認した。
【0050】
図4A-F】図4A~4Fは、全長BoNT/Xが、培養神経細胞において、およびマウスにおいてin vivoで、活性であることを示す。配列は、以下のとおりである:LVPR-GS(配列番号80)、LPETGG-His6(配列番号81)、GG-His6(配列番号82)およびLPETGS(配列番号59)。図4Aは、ソルターゼライゲーション法を用いて全長BoNT/Xの合成を説明する模式図を示す。図4Bは、ソルターゼライゲーション反応混合物および示された対照成分を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析したことを示す。アスタリスクは、分子間ジスルフィド結合に起因する(これらの凝集塊はDTTの存在下において消失するので)タンパク質の凝集塊をマークする。分子量マーカーは、レーン1(左側から出発して)におけるものである。全長BoNT/X(X-FL)は、ソルターゼライゲーション混合物(レーン7およびレーン14)においてのみ現われる。図4Cは、同じ量(5μl)のソルターゼライゲーション混合物または示される対照成分に12時間にわたり培地中で暴露された神経細胞を示す。細胞ライセートを、イムノブロットにより分析した。X-LC-HNは、反応混合物中でその高い濃度に起因して、単独で一部のVAMP2を切断した。X-LC-HNおよびX-HCの両方を含むがソルターゼを含まない対照混合物は、X-LC-HN単独と比較して、VAMP2の切断をわずかに増強した。これは、X-HCが非共有結合的相互作用を介してX-LC-HNと会合することに起因する可能性が高い。X-LC-HNとX-HCをソルターゼによりライゲーションすることにより、ソルターゼを含まないX-LC-HNとX-HCとの混合物と比較して、VAMP2の切断が増強され、このことは、ライゲーションされたX-FLが、神経細胞において機能的であることを示している。図4Dは、パネルb(レーン7)において記載されるとおりに調製されたソルターゼ反応混合物が、マウスにおいてDASアッセイを用いて分析した場合にin vivoで活性であることを示す。注射された肢は、弛緩性麻痺を生じ、足指は12時間以内には広げることができなかった。左肢は、トキシンを注射されておらず、対照として用いた。図4Eは、BoNT/A~G、モザイクトキシンBoNT/DC、およびBoNT/Xを、4つのウマ抗血清(抗BoNT/A、抗Bおよび抗Eの三価抗血清、抗BoNT/C、抗BoNT/DCおよび抗BoNT/F)、ならびに2種のヤギ抗血清(抗BoNT/Gおよび抗BoNT/D)を用いたドットブロット分析(トキシン1種あたり0.2μgをニトロセルロース膜上にスポット)に供したことを示す。BoNT/Xは、1:1の比における精製X-LC-HNおよびX-HCからなる。これらの抗血清は、その対応する標的トキシンを認識したが、これらのいずれも、BoNT/Xを認識しなかった。図4Fは、BoNT/X(BoNT/XRY)の全長の不活性な形態を、E.coliにおいてHis6タグ付き組み換えタンパク質として精製し、DTTを用いて、またはこれを用いずに、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析したことを示す。
【0051】
図5図5は、クロストリジウム属のニューロトキシンの分布および関係を示す系統樹である。系統樹は、Jackhmmer検索からの様々なBoNTとTeNT配列との関係を表す。BoNT/Xを丸で囲む。
【0052】
図6図6は、未変化のVAMP2(1-96)の質量分析の分析を示す。His6タグ付きVAMP2(1-96)を、LC-MS/MS質量分析により分析した。HPLCプロフィールを、左パネルにおいてタンパク質配列と一緒に列記した。全長VAMP2(1-96)についての質量分析データを右パネルに示し、これは配列番号83に対応し、m/z値を各々のシグナルについてマークした。
【0053】
図7A-C】図7A~7Fは、GST-VAMP2(33-86)上のX-LCによる切断部位の同定を示す。図7Aは、X-LCと共に、またはこれを用いずにインキュベートした、GSTタグ付きVAMP2(33-86)を示す。試料を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。図7B~7Cは、LC-MS/MS質量分析により分析した、未変化のGSTタグ付きVAMP2(33-86)を示す。HPLCプロフィールを、図7Bにおいて示した。質量分析データを、図7Cにおいて示し、タンパク質配列(配列番号84)を、図7Cにおいて記述した。VAMP2(33-66)およびVAMP2(67-86)をマークした。
図7D-F】図7D~7Eは、X-LCと共にインキュベートした、GSTタグ付きVAMP2(33-86)を示す。試料を、次いで、LC-MS/MS質量分析により分析した。HPLCプロフィールを、図7Dにおいて示す。X-LCにより生じたC末端フラグメント(配列番号85)についての質量分析データを、図7Eにおいて示す。N末端フラグメント(配列番号86)についての質量分析データを、図7Fにおいて示した。C末端およびN末端のフラグメントのタンパク質配列を、図7E~7Fにおいて示し、これらは、それぞれ配列番号85および86に対応する。
【0054】
図8A-B】図8A~8Bは、XAキメラトキシンが、神経細胞において活性であることを示す。図8Aは、図4Aにおいて記載されるようなX-FLの生成と同様に、ソルターゼによりX-LC-HをA-Hとライゲーションすることにより生じたXAキメラトキシンを示す。ソルターゼライゲーション混合物および示される対照成分を、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。X-LC-Hの大部分がXAキメラトキシンへとライゲーションされたことから、ライゲーションは効率的である。図8Bは、XA混合物(5μl)にライゲーションされた、示された対照成分またはソルターゼに、12時間にわたり培地中で暴露された、ラット皮質神経細胞を示す。細胞ライセートを、イムノブロットにより分析した。X-LC-Hは、反応混合物中でのその高い濃度に起因して、単独で一部のVAMP2を切断した。ライゲーションされたXAは、神経細胞において、VAMP2を切断した。
【0055】
図9図9は、H中の余分のシステインおよびH中のシステインを変異させることが、BoNT/Xの活性に影響を及ぼさないことを示す。X-H(C1240S)を、ソルターゼライゲーションにより、WT X-LC-H、X-LC-H(C461S)、またはX-LC-H(C467S)とライゲーションした。神経細胞を、ソルターゼライゲーション混合物または対照成分(5μl)に、12時間にわたり培地中で暴露した。細胞ライセートを、イムノブロットにより分析した。C1240およびH上のシステインのうちの1つ(C461またはC467)を変異させることは、BoNT/Xの活性に影響を及ぼさなかった。なぜならば、ライゲーションされた変異体トキシンは、神経細胞に侵入することができ、VAMP2を切断したからである。
【0056】
図10図10は、BoNTの7つの血清型に対して産生された抗血清が、神経細胞におけるそれらの標的BoNTを中和することを示す。培養ラット皮質神経細胞を、示された抗血清とのプレインキュベーションを行うかまたはこれを行わずに、示されたBoNTに暴露した。12時間後に細胞ライセートを採取して、イムノブロット分析に供した。全ての抗血清は、異なる血清型のBoNTの活性に影響を及ぼすことなく、それらの標的BoNTを特異的に中和し、それによりこれらの抗血清の特異性および効力を実証した。BoNTについての濃度は、以下のとおりであった:BoNT/A(50pM)、BoNT/B(2nM)、BoNT/C(1.5nM)、BoNT/D(100pM)、BoNT/E(0.5nM)、BoNT/F(0.5nM)、BoNT/G(5nM)。BoNT/A/B/Eに対する抗血清を、ウェルあたり20μlで用いた。全ての他の抗血清を、ウェルあたり10μlで用いた。BoNTを、示された抗血清と共に30分間にわたり37℃でプレインキュベートし、その後、培養培地中に添加した。
【0057】
図11A-C】図11A~11Cは、BoNT/XRYが、神経細胞において活性でないことを示す。図11Aは、示された濃度におけるBoNT/XRYに暴露された培養ラット皮質神経細胞を示す。細胞ライセートを、イムノブロットにより分析した。VAMP2は切断されておらず、このことは、BoNT/XRYが神経細胞において活性でないことを示している。図11Bは、細胞ライセートおよび上清(S/N)のBoNT/XRYの発現のSDS-PAGE分析を示す(4~12%のビスTris、MOPSバッファー)。150kDaにおけるBoNT/Xに対応するバンドは、ライセートおよび可溶性画分の両方において明白である。図11Cは、高度に精製されたBoNT/XRYの最終試料のSDS-PAGE分析を示す(4~12%のビスTris、MOPSバッファー)。150kDaにおけるBoNT/Xに対応する単一のバンドが明白であり、約90%の純度を示す。
【0058】
図12A-F】図12A~12Fは、BoNT/Xが、4つ全ての脳ガングリオシドに結合することを示す。図12A~12Dは、それぞれGD1a(図12A)、GT1b(図12B)、GD1b(図12C)、およびGM1(図12D)に結合しているBoNT/X(四角)、およびA-Hc(丸)を示す。曲線は、3回のELISAアッセイの平均に対応し、Prism7(GraphPadソフトウェア)によりフィットさせた。図12Eは、4つ全てのガングリオシドへのBoNT/Xの結合の要旨を、図12FにおけるBoNT/Aの全体的な結合と比較して示す。
【0059】
図13A-D】図13A~13Dは、質量分析の分析によるYkt6上のX-LCの切断部位の同定を示す。図13A~13Dは、X-LCとのプレインキュベーションを行ったかまたはこれを行っていない、10μgのGSTタグ付きYkt6(1-192)が、SDS-PAGE上で分離したことを示す(図13A)。タンパク質バンドを示されるとおりに切り出し、キモトリプシンにより消化した。消化したペプチドを、脱塩して、ESI-MSと組み合わせたC18カラムを介する逆相HPLCにより分析した。X-LCによる前処理なしのGST-Ykt6のHPLCプロフィールを、図13Bにおいて示し、X-LCにより前処理された試料を、図13Cにおいて示した。1つのペプチドが、X-LCで前処理された試料において、X-LCに暴露されなかった試料におけるものよりも約100倍高い強度であることが同定された(アスタリスクで示す)。このペプチドを、37minのRTにおいて、m/z=611で溶離させた(図13D)。これは、Ykt6におけるペプチド配列ESLLERGEKLDDLVSK(配列番号87)にのみフィットさせることができ、このことは、これが、X-LCのための切断部位のN末端側に位置するペプチドであることを示している。したがって、切断部位は、Ykt6におけるK173-S174である。
【0060】
図14A図14A~14Eは、質量分析の分析による、VAMP4およびVAMP5上のX-LCの切断部位の同定を示す。図14A~14Eは、VAMP4(図14B、14C)およびVAMP5(図14D、14E)が分析されたことを除いて、図13において記載されるとおりに行われた実験を示す。
図14B図14Bは、VAMP4における切断部位のN末端部位をマークするペプチドである。ペプチドDELQDKの配列は、配列番号88に対応する。
図14C図14Cは、VAMP4における切断部位のC末端部位をマークするペプチドである。ペプチドSESLSDNATAFの配列は、配列番号89に対応する。
図14D図14Dは、VAMP5における切断部位のN末端部位をマークするペプチドである。ペプチドAELQQRの配列は、配列番号90に対応する。
図14E図14Eは、VAMP5における切断部位のC末端部位をマークするペプチドである。ペプチドSDQLLDMSSTFの配列は、配列番号91に対応する。したがって、切断部位は、VAMP4におけるK87-S88、およびVAMP5におけるR40-S41であると決定した。
【発明を実施するための形態】
【0061】
いくつかの態様の詳細な説明
Clostridium Botulinumニューロトキシン(BoNT)は、クロストリジウム菌により産生される細菌のトキシンのファミリーであり、7つのよく確立された血清型(BoNT/A~G)を含む1~3。それらは、最も危険な潜在的なバイオテロ剤のうちの1つであり、米国の疾病管理センター(CDC)により「カテゴリーA」として選択される剤として分類される。これらのトキシンは、単一のポリペプチドとして産生され、細菌または宿主のプロテアーゼにより、軽鎖(LC、約50kDa)および重鎖(H、約100kDa)に分離され得る。2つの鎖は、鎖間ジスルフィド結合を介して連結されたままである。Hは、2つのサブドメイン:エンドソーム膜を越えてのLCの転位置を媒介するN末端Hドメイン、および神経細胞上の受容体への結合を媒介するC末端Hドメインを含む。鎖間ジスルフィド結合は、LCが細胞質ゾル中に転位置すると還元される5、6。放出されたLCは、プロテアーゼとして作用し、神経細胞のタンパク質のセットを特異的に切断する:BoNT/A、CおよびEは、SNAP-25として知られるタンパク質上の別々の部位で切断する;BoNT/B、D、F、およびGは、小胞タンパク質VAMP上の異なる部位で切断する;およびBoNT/Cはまた、膜貫通タンパク質シンタキシン1を切断する1~3。これら3つのタンパク質は、SNARE複合体として知られる複合体を形成し、これは、神経伝達物質の放出のために必須である7、8。これら3つのSNAREタンパク質のいずれか1つの切断は、神経細胞からの神経伝達物質の放出を遮断し、それにより、筋肉を麻痺させる。
【0062】
BoNTは、最も強力な既知のトキシンであり、ボツリヌス症として知られるヒトおよび動物の疾患を引き起こす。ボツリヌス症の主な形態は、BoNTで汚染された食品を経口摂取することにより引き起こされる(食品ボツリヌス症)。乳児におけるトキシンを産生する細菌による腸でのコロニー形成に起因する乳児ボツリヌス症などの他の形態もまた存在する。BoNTは、常に、NTNHA(非毒性非ヘマグルチニンタンパク質)として知られる別の150kDaのタンパク質と一緒に産生され、これは、BoNTとpH依存的複合体を形成し、胃腸管においてBoNTをプロテアーゼから保護する。BoNTおよびNTNHAをコードする遺伝子は、2つの遺伝子クラスターの型において見出される:(1)3つの保存されたタンパク質HA17、HA33およびHA70の遺伝子を含むHAクラスター、これは、BoNT/NTNHAと複合体を形成し、腸の上皮バリアを越えてのトキシンの吸収を促進する10~12。(2)機能が知られていない保存されたOrfX1、OrfX2、OrfX3およびP47タンパク質をコードするOrfXクラスター13
【0063】
微量のトキシンの局所注射により、標的領域において神経活動を減弱化させることができるので、BoNTは、筋痙攣、慢性疼痛、過活動の膀胱の問題を含む増加しつつあるリストの医学的状態を処置するために14~16、ならびに美容用途のために用いられている。BoNTのための市場は、2011年において既に15億ドルを凌いでおり、2018年まで29億ドルに達することが計画されている。
【0064】
BoNTは、伝統的にはマウスにおける中和アッセイにより分類され、これは、既知のBoNTに対する抗血清と共にまたはこれを用いずに、クロストリジウム菌の培養上清をマウスに注射することによる。最初に区別された血清型であるBoNT/AおよびBoNT/Bは、1919年に、Georgina Burkeにより確立された18。7つの型のうちの最後のものであるBoNT/Gは、1969年にアルゼンチンにおける土壌試料から認識された19。1970年以来、BoNTの新たな血清型は認識されていない。この分類は、1990年代に各々のBoNTについてのタンパク質配列が決定された後でも、有効であった。7つのBoNTの中の任意の2つのペアの間の配列同一性は、32%~65.3%の範囲である。7つ全てのBoNTが、それらの医学的使用の時代以前に、同定され、特徴づけられた。したがって、これらのトキシンのいずれかに対する特許は存在しない。任意の企業が、これら7つのBoNTのうちのいずれか1つを自由に生成して市販することができる。7つの型のうち、BoNT/AおよびBoNT/Bは、現在FDAによりヒトにおける使用が承認されている2つのトキシンである。14~16。BoNT/Aは、医学および美容の両方の用途のために用いられるドミナントな型であり、Allergan Inc.からはBotoxとして、IPSEN Inc.からはDysportとして、Merz Inc.からはXeominとして市販されている。BoNT/Bは、USWorld MedによりMyoblocとして市販されている。2つの主な理由のために、治療用トキシンとしての他のBoNT型の開発に相当の関心が存在する。
【0065】
(1)治療における主な限定要因は、患者におけるBoNT/AまたはBoNT/Bに対する中和抗体の産生であり、これは、同じトキシンを用いた将来的な治療を無効にする20。この場合、患者は、異なる型のBoNTにより処置されることを必要とするであろう。これが、BoNT/Bがしばしば、処置の間にBoNT/Aに対する中和抗体を産生した患者を処置するために利用される理由であるが、BoNT/AおよびBoNT/Bの両方に対して抗体を産生した患者のために、代替的なトキシンの必要性が存在する。
【0066】
(2)全てのBoNTは、同じ構造および機能を共有するが、それらの間にはまた、相当の差異が存在する。例えば、BoNT/Aは、SNAP-25を切断し、その受容体としてタンパク質SV2を用いるが、一方、BoNT/Bは、VAMPを切断し、タンパク質シナプトタグミン(Syt)をその受容体として用いる21~27。これらの機能的差異は、別々の型の神経細胞をターゲティングする治療効力における潜在的な差異に変換され得る。加えて、安定性および治療期間もまた、7つの型のトキシンの間で異なる。したがって、異なるトキシン型は、BoNT/AおよびBoNT/Bに対して優位性を有する場合がある。
【0067】
近年におけるゲノムシークエンシングの迅速な進歩により、BoNTの著しい多様性が明らかとなってきた28、29。第1に、同じ抗血清により認識され得るが、タンパク質配列に対する有意なレベルの相違(2.6%~31.6%の相違)を含む、複数のサブタイプが存在する28、30。例えば、BoNT/Aは、BoNT/A1~A8と称される8つの既知のサブタイプを含む13。さらに、トキシン遺伝子の組み換えから誘導される可能性がある、複数のモザイクトキシンが存在する。例えば、「H型」が、2013年に報告されたが、それは後にキメラトキシンとして認識された。なぜならば、そのLCは、BoNT/FのサブタイプであるBoNT/F5のLCと約80%の同一性を共有し、そのHは、BoNT/A1のHと約84%の同一性を共有するからである31~34。このことと一致して、このトキシンは、BoNT/Aに対する利用可能な抗血清により、認識され中和され得る33
【0068】
BoNTをコードする遺伝子クラスターは、プラスミド、バクテリオファージまたは染色体上にあってよく、このことは、トキシン遺伝子は、可搬性であり、水平遺伝子導入に供されることを示している13。また、クロストリジウム菌株が、2つの、または3つもの異なるトキシン遺伝子を含む場合もある32、35、36。これらの場合において、一方のトキシンが、通常、他方のトキシン(小文字で表記する)よりも高いレベルで発現する(大文字で表記する)。例えば、高レベルのBoNT/Bおよび低レベルのBoNT/Fを発現する菌株は、BoNT/Bf株として知られる。また、一方のトキシンは発現されるが、他方のトキシンは発現されない場合もあり、これはサイレントトキシンとして知られる(通常()でマークされる)。例えば、カリフォルニアにおける乳児ボツリヌス症の症例の調査は、8%の菌株がBoNT/A(B)であったことを示し、これは、これらの菌株がBoNT/AおよびBoNT/Bの両方の遺伝子を含むが、検出可能なレベルではBoNT/Aのみを発現することを意味する37~39
【0069】
本開示の図面および例において説明されるとおり、公開されたクロストリジウム菌のゲノム配列データベースを検索し、Clostridium Botulinum菌株111の染色体上でコードされる新規のBoNT遺伝子(本明細書において以後「BoNT/X」と称される)を同定した。菌株111は、初めに、1996年に日本において乳児ボツリヌス症患者から単離された40。マウスにおける菌株111からの毒性は、BoNT/B抗血清により中和することができることが示されている40。この菌株は、プラスミド上でコードされるBoNT/BのサブタイプであるBoNT/B2を発現することが、後に確認された41、42。BoNT/Xの配列は、菌株111のゲノム配列の一部として、2015年の2月にPubMedデータベースに寄託された。BoNT/Xは、以前には特徴づけられていない。それが菌株111において発現されるか否か、およびそれが機能的なトキシンであるか否かは、未知のままである。
【0070】
また本明細書において提供されるのは、機能的レベルにおけるBoNT/Xの特徴づけである。そのLCは、VAMPを、全ての他のBoNTの既知の標的部位とは別の部位において切断することを見出した。非毒性のフラグメントをソルターゼを介して共有結合的に連結することにより生成された全長トキシンは、培養神経細胞に侵入して、神経細胞中のVAMPを切断し、マウスにおいて弛緩性麻痺を誘発することを見出した。最後に、当該トキシンは、7つ全ての既知のBoNTに対して産生された抗血清によっては認識されないことを見出し、このことにより、BoNT/Xを新規のBoNT血清型として確立した。その同定は、有効な対応策を開発するための緊急の課題を提案する。それはまた、新たな治療用トキシンへと展開される潜在能力を有し、潜在的に別々の薬理学的特性を有するキメラトキシンを作製するために用いることができる。
【0071】
本明細書において用いられる場合、用語「クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチド」とは、本明細書において記載されるボツリヌスニューロトキシンからの任意のポリペプチドまたはフラグメントを包含する。いくつかの態様において、用語BoNTとは、全長BoNTを指す。いくつかの態様において、用語BoNTとは、BoNTのフラグメントであって、BoNTが神経細胞に侵入して神経伝達物質の放出を阻害する細胞の仕組み全体を遂行することができるものを指す。いくつかの態様において、用語BoNTとは、フラグメントが任意の具体的な機能または活性を有することを必要とすることなく、単純にBoNTのフラグメントを指す。例えば、BoNTポリペプチドとは、BoNT、例えばBoNT/Xの、軽鎖(LC)を指す場合がある。本開示全体を通して用いられる場合がある「クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン」についての他の用語は、BoNT、ボツリヌストキシン、またはC. Botuliumトキシンであり得る。これらの用語は、互いに交換可能に用いられることが理解されるべきである。「BoNT/X」とは、本開示において記載され、特徴づけられる、新規のBoNT血清型を指す。BoNT/Xタンパク質の配列(GenBank番号BAQ12790.1;4つのシステインに下線をして太字にする)もまた、提供される:
【0072】
【化1】
【0073】
「改変クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)」とは、アミノ酸配列における任意の改変、例えば短縮、付加、アミノ酸置換、およびそれらの任意の組み合わせを含むBoNTを包含する。例えば、C461またはC467においてアミノ酸置換変異を含むBoNT/Xは、改変BoNTである。別の例において、全長BoNTのフラグメントまたはドメイン(例えば、プロテアーゼドメイン、またはLC)は、改変BoNTであるとみなされる。いくつかの態様において、BoNTのドメインもまた、アミノ酸置換変異を含んでもよく、例えばBoNT/Xの位置C461またはC467において置換変異を含むプロテアーゼドメインであってもよい。
【0074】
用語「細胞に侵入する」とは、本開示のBoNTの作用を説明するために用いられる場合、低または高アフィニティーの受容体複合体へのBoNTの結合、BoNTのガングリオシドへの結合、トキシンの内部移行、トキシン軽鎖の細胞質中への転位置およびBoNTの基質の酵素による改変を包含する。
【0075】
本明細書において用いられる場合、用語「クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)プロテアーゼドメイン」とは、「軽鎖(LC)」と同義である。BoNTプロテアーゼドメインは、BoNTの軽鎖に位置し、したがって、LCとも称される。当該用語は、中毒のプロセスの酵素による標的改変ステップを実行することができるBoNTのドメインを意味する。特定のBoNT血清型からのLCが参照される場合、用語「血清型-LC」が用いられる。例えば、「X-LC」とは、BoNT/XからのLCポリペプチドを意味する。BoNTのプロテアーゼドメインは、C. Botulinumトキシン基質を特異的にターゲティングし、C. Botulinumトキシン基質、例えば、SNAP-25基質、VAMP基質およびシンタキシン基質などのSNAREタンパク質などのタンパク質分解による切断を包含する。BoNT(例えば、BoNT/X、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/Cなど)において。プロテアーゼドメインまたはLCは、BoNT/Xのアミノ酸1~439付近に対応すると考えられる。ドメイン境界は、25アミノ酸ほど異なっている場合がある。例えば、プロテアーゼドメインは、BoNT/Xのアミノ酸1~414または1~464に対応してもよい。いくつかの態様において、プロテアーゼドメインは、BoNT/Xのアミノ酸1~438、1~437、1~436、1~435、1~434、1~433、1~432、1~431、1~430、1~429、1~439、1~440、1~441、1~442、1~443、1~444、1~445、1~446、1~447、1~448、または1~449に対応してもよい。
【0076】
本明細書において用いられる場合、用語「クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)転位置ドメイン」は、「Hドメイン」と同義であり、BoNT軽鎖の転位置を媒介する中毒プロセスの転位置ステップを実行することができるBoNTドメインを意味する。したがって、Hは、膜を越えて細胞の細胞質中へのBoNT軽鎖の移動を促進する。Hの非限定的な例として、BoNT/AのH、BoNT/BのH、BoNT/ClのH、BoNT/DのH、BoNT/EのH、BoNT/FのH、BoNT/GのH、およびBoNT/XのHが挙げられる。転位置ドメインは、重鎖(H)のN末端に位置し、したがって、Hとも称される。これらの用語は本明細書において交換可能に用いられることが理解されるべきである。
【0077】
本明細書において用いられる場合、用語「リンカー領域」とは、BoNTプロテアーゼドメインと転位置ドメインとの間のアミノ酸配列を指す。リンカーは、位置461および467において2つのシステインを含み、そのうちの一方は、プロテアーゼドメイン中のシステイン、C423と分子間ジスルフィド結合を形成する(C461-C423ジスルフィド結合、またはC467-C423ジスルフィド結合)。このジスルフィド結合の形成は、BoNT/Xの活性のために必須である。
【0078】
本明細書において用いられる場合、用語「LC-H」とは、プロテアーゼドメイン、リンカー領域、および転位置ドメインを包含するBoNTポリペプチドを指す。特定のBoNT血清型からのLC-Hが参照される場合、用語「血清型-LC-H」が用いられる。例えば、「X-LC-H」とは、BoNT/XからのLC-Hポリペプチドを意味する。LC-Hポリペプチドは、BoNT/Xのアミノ酸1~892付近に対応すると考えられる。ドメイン境界は、約25アミノ酸ほど異なっている場合がある。例えば、LC-Hポリペプチドは、BoNT/Xのアミノ酸1~917または1~867付近に対応してもよい。いくつかの態様において、LC-Hポリペプチドは、BoNT/Xのアミノ酸1~893、1~894、1~895、1~896、1~897、1~898、1~899、1~900、1~901、1~902、1~892、1~891、1~890、1~889、1~888、1~887、1~886、1~885、1~884、または1~883に対応してもよい。
【0079】
本明細書において用いられる場合、用語「クロストリジウム属ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)受容体結合ドメイン」とは、「Hcドメイン」と同義であり、任意の天然に存在するBoNT受容体結合ドメインであって、中毒プロセスのうちの細胞結合ステップ(例えば、BoNTの、標的細胞の細胞膜表面上に位置するBoNT特異的受容体系への結合を含む)を遂行することができるものを意味する。本開示のいくつかの側面は、血清型X(BoNT/X)からの改変BoNT受容体結合ドメインに関する。いくつかの態様において、「改変BoNT/X受容体結合ドメイン」は、BoNT/X(配列番号1)におけるC1240に対応する位置においてアミノ酸置換を含む。受容体結合ドメイン、またはHは、BoNT/Xのアミノ酸893~1306付近に対応すると考えられる。ドメイン境界は、約25アミノ酸ほど異なっている場合がある。例えば、受容体結合ドメインまたはHは、アミノ酸868~1306または918~1306に対応してもよい。いくつかの態様において、受容体結合ドメインまたはHは、BoNT/Xのアミノ酸893~1306、894~1306、895~1306、896~1306、897~1306、898~1306、899~1306、900~1306、901~1306、902~1306、892~1306、891~1306、890~1306、889~1306、888~1306、887~1306、886~1306、885~1306、884~1306、または883~1306に対応してもよい。
【0080】
「単離された」とは、ある材料が、そのネイティブの状態において見出される場合に通常それに付随する構成成分を、様々な程度で含まないことを意味する。「単離する」とは、オリジナルのソースまたは周囲のものからの、例えば、細胞から、または隣接するDNAから、または当該DNAの天然のソースからの、ある程度の分離を表す。用語「精製された」とは、調製物の他の構成成分(例えば他のポリペプチド)に関して「実質的に純粋」であるポリペプチドなどの物質を指すように用いられる。それは、他の構成成分に関して、少なくとも約50%、60%>、70%>、または75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%純粋なポリペプチドを指してもよい。ポリペプチドに関して、用語「実質的に純粋」または「本質的に精製された」とは、約20%未満、より好ましくは約15%、10%、8%、7%未満、最も好ましくは約5%、4%、3%、2%未満、1%または1%未満の、1つ以上の他の構成成分(例えば、他のポリペプチドまたは細胞構成成分)を含む調製物を指す。
【0081】
用語「置換変異」とは、特定のアミノ酸への言及を伴わない場合、その位置において通常見出される野生型の残基以外の任意のアミノ酸を含み得る。かかる置換は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびプロリンなどの非極性(疎水性)アミノ酸による置き換えであってよい。置換は、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンなどの極性(親水性)アミノ酸による置き換えであってよい。置換は、荷電したアミノ酸、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸などの負に荷電したアミノ酸、ならびにリジン、アルギニンおよびヒスチジンなどのなどの正に荷電したアミノ酸による置き換えであってよい。
【0082】
本明細書において記載される置換変異とは、典型的には、異なる天然に存在するアミノ酸残基による置き換えであるが、いくつかの場合においては、天然に存在しないアミノ酸残基もまた置換することができる。非天然のアミノ酸とは、当該用語が本明細書において用いられる場合、非タンパク質原性の(すなわち、タンパク質をコードしない)アミノ酸であって、天然に存在するか、化学合成されるものである。例として、これらに限定されないが、β-アミノ酸(β3およびβ2)、ホモアミノ酸、プロリンおよびピルビン酸誘導体、3-置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環置換フェニルアラニンおよびチロシン誘導体、直鎖状コアアミノ酸、ジアミノ酸、D-アミノ酸、ならびにN-メチルアミノ酸が挙げられる。いくつかの態様において、アミノ酸は、置換されていても非置換であってもよい。置換されたアミノ酸または置換基は、ハロゲン化された芳香族もしくは脂肪族アミノ酸、疎水性側鎖上のハロゲン化された脂肪族もしくは芳香族修飾、または脂肪族もしくは芳香族修飾であってよい。
【0083】
2つのアミノ酸配列の「パーセント同一性」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77, 1993のとおり改変されたKarlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68, 1990のアルゴリズムを用いて決定される。かかるアルゴリズムは、Altschul, et al. J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)中に組み込まれる。XBLASTプログラムを用いて、スコア=50、ワードレングス=3で、BLASTタンパク質検索を行って、目的のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列の間にギャップが存在する場合、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402, 1997において記載されるように、Gapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトのパラメーター(例えば、XBLASTおよびNBLAST)を用いることができる。
【0084】
したがって、本開示のいくつかの側面は、単離されたBoNTポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、全長BoNT/Xポリペプチドである。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNT/Xポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号1に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0085】
いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、X-LC-Hポリペプチドである。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列からなる。
【0086】
いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、X-LCポリペプチドである。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離されたBoNTポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列からなる。
【0087】
X-LCポリペプチドは、BoNT基質(例えば、SNAREタンパク質)の切断が研究または治療目的のために所望される細胞中に、当該分野における外来タンパク質の発現の任意の公知の技術、例えばレンチウイルスベクターを介して細胞中への直接的なLCコード配列の遺伝子導入により単独で導入しても、またはAAVベクターを介して、または細胞に浸透するペプチドを用いてX-LCを融合させることにより導入してもよい。
【0088】
いくつかの態様において、本開示のBoNTポリペプチドは、プロテアーゼドメイン(LC)、リンカー領域、転位置ドメイン(H)、および受容体結合ドメイン(H)を含む全長BoNT/Xであり、ここで、リンカー領域は、プロテアーゼドメインと転位置ドメインとの間に位置する。他のBoNTと同じく、BoNT/Xは、初めは単一のポリペプチドとして産生され、細菌または宿主のプロテアーゼによるLCとHとの間のリンカー領域の切断を介して活性化される。このプロセスは「活性化」として知られ、BoNT/Xの活性のために必須である。切断の後、LCとHとは鎖間ジスルフィド結合を介して連結されたままであり、その後、細胞の細胞質ゾル中にLCが転位置し、ここで、LCを細胞質ゾル中に放出するために、ジスルフィド結合が還元される。BoNT/Xは、他のBoNTと比較して保存された2つのシステイン、C423およびC467を含む。興味深いことに、BoNT/Xはまた、BoNT/Xにユニークな1つのさらなるシステイン(C461)を含む。鎖間ジスルフィド結合の形成(C423-C461またはC423-C467)は、BoNT/Xの活性のために必要とされる。
【0089】
リンカー領域中のシステインに加えて、BoNTの受容体結合ドメインは、別のシステインC1240を含み、これもまた、BoNT/X中の他のシステインと分子間ジスルフィド結合を形成する。これらの分子間ジスルフィド結合は、BoNT/Xを凝集させてタンパク質を不安定化させる(図4B)。BoNT/Xの活性のために必要とされないシステインを置き換えることにより、安定性が増大したBoNT/Xポリペプチドを生成することができる。
【0090】
したがって、本開示のいくつかの側面は、C461、C467、またはC1240において1つ以上の置換変異を含む、改変BoNT/Xポリペプチドを提供し、これは、野生型BoNT/Xよりも安定であり、匹敵する活性を有する。システインを、ジスルフィド結合の形成を消失させる任意のアミノ酸で置換してもよい。いくつかの態様において、システインを、セリン(S)またはアラニン(A)で置換する。本開示の改変BoNTにおいて存在してもよい置換変異の可能な組み合わせは、限定することなく、以下である:C461S、C461A、C467S、C467A、C1240S、C1240A、C461S/C1240S、C461A/C1240S、C461S/C1240A、C467A/C1240A、C467S/C1240S、C467A/C1240S、C467S/C1240A、およびC467A/C1240A。「/」は、二重変異を示す。いくつかの態様において、本開示の改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1のアミノ酸配列を有さない。例えば、改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、配列番号1のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号4~17のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0091】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、本明細書において記載される置換変異を含む、改変BoNT/X-LC-Hポリペプチドである。いくつかの態様において、改変BoNT/X-LC-Hは、配列番号2におけるC461またはC467に対応する位置において、1つの単置換変異を含む。いくつかの態様において、改変BoNT/X-LC-Hは、配列番号2におけるC461A、C461S、C467A、またはC467Sに対応する1つの単置換変異を含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNT/Xポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNT/X-LC-Hポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号2のアミノ酸配列を有さない。例えば、改変BoNT/X-LC-Hポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、配列番号2のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNT/X-LC-Hポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号2のアミノ酸配列を有さない。いくつかの態様において、改変BoNT/X-LC-Hポリペプチドは、配列番号18~21のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0092】
本明細書において記載される1つ以上の置換変異(例えば、C461、C467、またはC1240におけるもの)を含む改変BoNTポリペプチドは、タンパク質の凝集を引き起こす分子間ジスルフィド結合を形成せず、したがって、それらの対応する野生型タンパク質よりも安定である。BoNTポリペプチドの活性は、システインにおける置換変異により影響を受けない。したがって、改変BoNT/Xは、その増大した安定性に起因して、治療的使用のために野生型BoNT/Xよりも好適であり得る。
【0093】
本開示の他の側面は、本明細書において記載されるBoNT/X-LC-Hおよび異なるBoNTからの受容体結合ドメイン(H)を含むキメラBoNTを提供する。例えば、受容体結合ドメインは、本明細書において企図されるBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/E、BoNT/F、およびBoNT/Gのうちのいずれか1つからのものであってもよい。したがって、キメラBoNTは、BoNT/X-LC-H-A-H、BoNT/X-LC-H-B-H、BoNT/X-LC-H-C-H、BoNT/X-LC-H-D-H、BoNT/X-LC-H-E-H、BoNT/X-LC-H-F-H、およびBoNT/X-LC-H-G-Hを含む。7種の既知の血清型(例えば、A、B、C、D、E、FまたはG)のうちの任意のサブタイプのHドメインが、キメラトキシンのために好適であることが、理解されるべきである。BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、またはBoNT/Gに言及される場合、それは全てのサブタイプを包含する。例えば、BoNT/Aは、8種のサブタイプ、BoNT/A1、BoNT/A2、BoNT/A3、BoNT/A4、BoNT/A5、BoNT/A6、BoNT/A7、またはBoNT/A8を有し、これらのBoNT/Aのサブタイプのうちのいずれか1つのHは、本開示のキメラBoNTにおける使用のために好適である。同様に、BoNT/Bの8種のサブタイプ、すなわち、BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、またはBoNT/B8のうちのいずれか1つのHは、本開示のキメラBoNTにおける使用のために好適である。
【0094】
いくつかの態様において、BoNT/X-LC-H-A1-H(配列番号22)、BoNT/X-LC-H-B1-H(配列番号23)、およびBoNT/X-LC-H-C1-H(配列番号24)が提供される。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22~24のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0095】
いくつかの態様において、本開示のキメラBoNTは、リンカー領域において、例えば配列番号2のC461またはC467に対応する位置において、置換変異を含む、改変BoNT/X-LC-Hを含む。例えば、キメラBoNTにおけるBoNT/X-LC-Hは、配列番号2のC461A、C467A、C461S、またはC467Sに対応する置換変異を含んでもよい。例えば、本開示のキメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つに対して、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号25~30のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0096】
キメラトキシン、例えばBoNT/X-LC-H-A1-Hトキシンを作製するために、約1~892のアミノ酸を含むX-LC-Hフラグメント(配列番号2)を、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/E、BoNT/F、およびBoNT/Gのいずれか1つの受容体結合ドメインに融合させる。異なるBoNTの受容体結合ドメインは、BoNT/B1の約860~1291のアミノ酸に対応する。X-LC-Hフラグメントおよび/または受容体結合ドメインの境界は、1~25アミノ酸異なっていてもよいことが理解されるべきである。例えば、キメラトキシンのために用いることができるX-LC-Hフラグメントは、BoNT/Xのアミノ酸1~917または1~867を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラトキシンのために用いることができるX-LC-Hフラグメントは、BoNT/Xの1~893、1~894、1~895、1~896、1~897、1~898、1~899、1~900、1~901、1~902、1~892、1~891、1~890、1~889、1~888、1~887、1~886、1~885、1~884、または1~883のアミノ酸を含んでもよい。同様に、キメラトキシンのために用いてもよい受容体結合は、BoNT/Xの885~1291または835~1291に対応するアミノ酸を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラトキシンのために用いてもよい受容体結合は、BoNT/Bの860~1291、861~1291、862~1291、863~1291、864~1291、865~1291、866~1291、867~1291、868~1291、869~1291、870~1291、860~1291、859~1291、858~1291、857~1291、856~1291、855~1291、854~1291、853~1291、852~1291、または851~1291に対応するアミノ酸を含んでもよい。当業者は、タンパク質相同性におけるその知識に基づいて、配列アラインメントソフトウェアの補助により、またはこれを用いずに、本開示のキメラトキシンのために用いることができるドメインを同定することができる。フラグメントを融合させる方法は、当業者に周知の標準的な組み換え技術である。
【0097】
本明細書においてさらに企図されるのは、改変リンカー領域を含む改変BoNT/Xポリペプチドであって、ここで、リンカー領域は、特異的なプロテアーゼ切断部位を含む。「特異的なプロテアーゼ切断部位」とは、本明細書において用いられる場合、1つより多くの非特異的なプロテアーゼにより認識され切断される配列と対立するものとして、特異的なプロテアーゼのための認識および切断の部位を指す。かかる特異的プロテアーゼとして、限定することなく、以下が挙げられる:トロンビン、TEV、PreScission、第Xa因子、MMP-12、MMP-13、MMP-17、MMP-20、グランザイム-B、およびエンテロキナーゼ。特異的プロテアーゼの切断部位は、リンカー領域中の既存のアミノ酸への挿入またはこれの置き換えを介して(例えば、BoNT/Xポリペプチドのアミノ酸424~460を置き換える)、BoNT/Xポリペプチドのリンカー領域に加えることができる。特異的プロテアーゼの切断部位の配列もまた提供される:LVPR|GS(トロンビン、配列番号50)、ENLYFQ|G(TEV、配列番号51)、LEVLFQ|GP(PreScission、配列番号52)、IEGR|またはIDGR|(第Xa因子、配列番号53または54)、DDDDK|(エンテロキナーゼ、配列番号55)およびAHREQIGG|(SUMOプロテアーゼ、配列番号56)。「|」は、切断が起こる位置を示す。
【0098】
本開示の他の側面は、BoNT/Xポリペプチドの機能的特徴づけを提供する。本開示のBoNT/Xポリペプチド、改変BoNT/Xポリペプチド、およびキメラBoNTポリペプチドは、標的細胞、例えば神経細胞に結合してこれに侵入し、その基質タンパク質、例えばSNAREタンパク質を切断することができる。用語「SNAREタンパク質」とは、本明細書において用いられる場合、SNAP(Soluble NSF Attachment Protein)受容体を指し、これは、酵母および哺乳動物細胞における60を超えるメンバーからなる大きなタンパク質スーパーファミリーである。SNAREタンパク質の主な役割は、小胞融合、すなわち、小胞とそれらの標的膜結合コンパートメント(リソソームなど)との融合を媒介することである。最もよく研究されているSNAREタンパク質は、シナプス小胞と神経細胞におけるシナプス前膜とのドッキングを媒介するもの、例えばSNAP-25、VAMP1、VAMP2、VAMP3、VAMP4、VAMP5、VAMP7、VAMP8、シンタキシン1、およびYkt6である。これらのSNAREタンパク質のうちのいくつかは、BoNTの基質である。例えば、VAMP1、VAMP2、VAMP3、SNAP-25、およびシンタキシン1は、既知のBoNT、例えばBoNT/AおよびBoNT/Bにより切断されることが示されている。
【0099】
本明細書において提供されるのは、BoNT/Xが、既知のBoNTの基質であるSNAREタンパク質を切断することを示すデータである。本開示の1つの驚くべき知見は、BoNT/Xが、他のBoNTが切断することができないいくつかのSNAREタンパク質、例えばVAMP4、VAMP5、およびYkt6を切断することができるということである。VAMP4は、広く発現され、トランスゴルジネットワーク(TGN)とエンドソームとの間の小胞の融合、ならびにエンドソームのホモタイプ融合を媒介することが知られている。BoNTは、伝統的に、細胞膜に対する小胞のエキソサイトーシスを媒介するSNAREをターゲティングすることに限定されることが知られている。BoNT/Xは、予定として細胞膜ではない細胞内部の他の型の融合イベントを媒介するSNAREを切断することができる、最初のBoNTである。VAMP4はまた、神経細胞における非同期的なシナプス小胞エキソサイトーシス、エンラージオソーム(enlargeosome)エキソサイトーシス、および活性依存的バルクエンドサイトーシス(ADBE)にも寄与し得る。加えて、VAMP4は、免疫細胞における顆粒放出に関与していると考えられてきた。したがって、BoNT/Xは、全てのBoNTの中でも、免疫細胞における炎症性分泌を調節するユニークな潜在能力を有し得、これは、治療に活用することができる。VAMP5は、主に筋肉において発現し、その機能はまだ確立されていない。BoNT/Xは、VAMP4およびVAMP5の機能を検討するためのユニークなツールとなるであろう。Ykt6は、小胞体においてゴルジ輸送のために機能する。それはまた、初期/リサイクリングエンドソームからTGNへの輸送においても機能する。本明細書において記載されるBoNTポリペプチドの基質としてのYkt6の同定は、BoNTにより広範な細胞における分泌を遮断するための新たな治療的用途を開拓するので、重要である。
【0100】
本開示の別の驚くべき知見は、BoNT/Xは、SNAREタンパク質を、先には記載されていない新規の部位において切断するということである。本開示の例および図面において説明されるとおり、BoNT/Xは、VAMP1、VAMP2およびVAMP3におけるアミノ酸R66-S67の間を切断する。R66-A67は、全ての他のBoNTについて確立された標的部位とは異なる、新規の切断部位である(図2F)。それはまた、先にSNAREモチーフとして知られていた領域内に位置する唯一のBoNT切断部位である(図2F)。
【0101】
したがって、本開示のBoNTポリペプチドは、標的細胞および基質のプロフィールが拡大されている。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、細胞中のSNAREタンパク質を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、SNAP-25、VAMP1、VAMP2、VAMP3、VAMP4、VAMP5、Ykt6、およびシンタキシン1からなる群より選択されるSNAREタンパク質を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP1(配列番号39)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP1を、配列番号39のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間で切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP2(配列番号40)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP2を、配列番号40のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間で切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP3(配列番号31)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP3を、配列番号41のR66およびA67に対応するアミノ酸残基の間で切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP4(配列番号42)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP4を、配列番号42のK87およびS88に対応するアミノ酸残基の間で切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP5(配列番号43)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、VAMP5を、配列番号43のR40およびS41に対応するアミノ酸残基の間で切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、Ykt6(配列番号44)を切断する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、Ykt6を、配列番号44のK173およびS174に対応するアミノ酸残基の間で切断する。
【0102】
いくつかの態様において、本開示のBoNTポリペプチドは、標的細胞中のSNAREタンパク質を切断する。本明細書において用いられる場合、「標的細胞」とは、天然に存在する細胞であって、BoNTが侵入するかまたは中毒させることができる細胞を意味する。いくつかの態様において、標的細胞は、分泌細胞、例えば神経細胞または分泌型免疫細胞である。BoNTの標的細胞となり得る神経細胞の例として、限定することなく、運動神経細胞;感覚神経細胞;自律神経細胞、例えば交感神経細胞および副交感神経細胞など;非ペプチド作動性神経細胞、例えばコリン作動性神経細胞、アドレナリン作動性神経細胞、ノルアドレナリン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞など;ならびにペプチド作動性神経細胞、例えばサブスタンスP神経細胞、カルシトニン遺伝子関連ペプチド神経細胞、血管作用性腸管ペプチド神経細胞、ニューロペプチドY神経細胞、コレシストキニン神経細胞などが挙げられる。
【0103】
本開示のBoNTポリペプチド、例えばBoNT/Xまたは改変BoNT/Xポリペプチドは、VAMP4またはYkt6を切断するその能力に起因して、神経細胞以外の他の型の分泌細胞をターゲティングすることができる。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドによりターゲティングされる分泌細胞は、分泌型免疫細胞である。「分泌型免疫細胞」とは、本明細書において用いられる場合、サイトカイン、ケモカインまたは抗体を分泌する免疫細胞を指す。かかる分泌型免疫細胞は、限定することなく、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好酸球、好塩基球、マクロファージ、好中球および樹状細胞を含む、自然免疫細胞であってよい。抗体を分泌する分泌型免疫細胞(例えば白血球)もまた、本開示のBoNTポリペプチドによりターゲティングされ得る。抗体分泌細胞の非限定的な例として、限定することなく、プラズマB細胞、プラズマ細胞(plasmocyte)、プラズマ細胞(plasmacyte)、およびエフェクターB細胞が挙げられる。いくつかの態様において、標的細胞は、培養細胞、例えば培養神経細胞または培養分泌型免疫細胞である。いくつかの態様において、標的細胞は、in vivoのものである。いくつかの態様において、標的細胞は、哺乳動物からのものである。いくつかの態様において、哺乳動物は、ヒトである。態様において、哺乳動物は、げっ歯類、例えばマウスまたはラットである。
【0104】
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、神経活動を抑制する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、免疫応答を調節する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、弛緩性麻痺を誘導する。「弛緩性麻痺」とは、他の明らかな原因(例えば外傷)が存在しない脱力または麻痺、および低下した筋緊張により特徴づけられる臨床的徴候を指す。
【0105】
本開示の他の側面は、不活性なプロテアーゼドメインを含む改変BoNT/Xポリペプチドを提供する。かかるBoNT/Xポリペプチド(また本明細書において「不活性なBoNT/X」としても言及される)は、標的細胞に侵入することができるが、プロテアーゼドメインの不活化に起因して、基質タンパク質(例えばSNAREタンパク質)を切断できない。いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xは、a)不活性なプロテアーゼドメイン;b)リンカー領域;およびc)転位置ドメインを含む、X-LC-Hフラグメントである。いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xは、a)不活性なプロテアーゼドメイン;b)リンカー領域;c)転位置ドメイン;およびd)受容体結合ドメインを含む、全長BoNT/Xポリペプチドである。いくつかの態様において、不活性なプロテアーゼドメインは、配列番号1のR360、Y363、H227、E228、またはH231に対応する位置において、1つ以上の置換変異を含む。いくつかの態様において、1つ以上の置換変異は、配列番号1におけるR360A/Y363F、H227Y、E228Q、またはH231Yに対応する。不活性なBoNT/Xポリペプチドは、プロテアーゼドメインを不活化する任意の変異を含んでもよいことが、理解されるべきである。
【0106】
いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つに対して、少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、不活性なBoNT/Xポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つに対して、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、不活性なBoNT/Xポリペプチドは、配列番号31~38のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0107】
いくつかの態様において、不活性なBoNT/X(例えば、不活性なX-LC-Hまたは不活性な全長BoNT/X)は、リンカー領域において変異をさらに含む。いくつかの態様において、リンカー領域における改変は、配列番号1のC461またはC467に対応する位置において1つの単置換変異を含む。いくつかの態様において、単置換変異は、配列番号1におけるC461A、C461S、C467A、またはC467Sに対応する。いくつかの態様において、不活性なBoNT/X(例えば、不活性な全長BoNT/X)は、受容体結合ドメインにおいて改変をさらに含む。いくつかの態様において、受容体結合ドメインにおける改変は、配列番号1のC1240に対応する位置において置換変異を含む。
【0108】
本明細書において記載される不活性なプロテアーゼドメインを含む改変BoNT/Xポリペプチドは、ヒトにおける標的細胞(例えば、神経細胞)への送達ツールとして利用することができることもまた想起される。例えば、改変BoNT/Xを、他の治療剤と、共有結合によりまたは非共有結合的に連結して、治療剤をヒトにおける標的細胞に送達するためのターゲティングビヒクルとして作用させることができる。
【0109】
したがって、本開示の別の側面は、第2の部分に連結された、プロテアーゼドメインを不活化する1つ以上の置換変異を含む不活性なBoNT/Xである第1の部分を含むキメラポリペプチド分子に関する。分子の第2の部分は、治療剤(例えば、ポリペプチドまたは非ポリペプチド薬)などの生理活性分子であってよい。分子の第1の部分と第2の部分との連結は、共有結合によるもの(例えば融合タンパク質の形態におけるもの)であっても、非共有結合的なものであってもよい。かかる連結の方法は、当該分野において公知であり、当業者により容易に適用されることができる。キメラ分子の第2の部分がポリペプチドであって、キメラ分子がタンパク質の形態である場合、かかるキメラ分子をコードする核酸および核酸ベクターが提供される。
【0110】
また提供されるのは、核酸または核酸ベクターを含む細胞、およびかかるキメラ分子を発現する細胞である。融合タンパク質の形態にあるキメラ分子を、本明細書において開示される方法を用いて発現させてこれを単離してもよい。
本開示のポリペプチド(例えば、限定することなく、配列番号1~38のいずれか1つのアミノ酸配列を含むポリペプチド)である第2の部分を含む、改変BoNT/Xポリペプチド、キメラBoNTポリペプチド、またはキメラ分子は、適切な細胞(例えばE. coliまたは昆虫細胞)において組み換え核酸からの発現により生成され、単離されるであろう。当該分野において公知の任意の方法により、本明細書において記載されるポリペプチドをコードする核酸を得て、当該核酸のヌクレオチド配列を決定することができる。
【0111】
本明細書においてさらに提供されるのは、本明細書において開示されるBoNTポリペプチドのうちのいずれかをコードする、単離された、および/または組み換えられた核酸である。本開示の単離ポリペプチドフラグメントをコードする核酸は、DNAであってもRNAであっても、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。ある側面において、単離ポリペプチドフラグメントをコードする対象の核酸は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドのうちのいずれかのバリアントであるポリペプチドをコードする核酸を含むものと、さらに理解される。
【0112】
バリアントヌクレオチド配列は、対立遺伝子バリアントなどの、1つ以上のヌクレオチド置換、付加または欠失により異なる配列を含む。いくつかの態様において、本開示の単離された核酸分子は、配列番号1~38のいずれか1つに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、本開示の単離された核酸分子は、配列番号1~38のいずれか1つに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0113】
いくつかの態様において、核酸は、発現ベクターなどのベクター内に含まれる。いくつかの態様において、ベクターは、核酸に作動的に連結したプロモーターを含む。
本明細書において記載されるポリペプチドの発現のために多様なプロモーターを用いることができ、これは、これらに限定されないが、以下を含む:サイトメガロウイルス(CMV)中初期(intermediate early)プロモーター、ラウス肉腫ウイルスLTR、HIV-LTR、HTLV-1 LTRなどのウイルスLTR、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、E. coliのlac UV5プロモーター、および単純ヘルペスtkウイルスプロモーター。制御可能プロモーターもまた用いることができる。かかる制御可能プロモーターとして、lacオペレーターを有する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を制御するための転写調節因子としてE. coliからのlacリプレッサーを用いるもの、[Brown, M. et al., Cell, 49:603-612 (1987)]、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を用いるもの[Gossen, M., and Bujard, H., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551 (1992);Yao, F. et al., Human Gene Therapy, 9:1939-1950 (1998);Shockelt, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6522-6526 (1995)]が挙げられる。
【0114】
他の系として、FK506二量体、アストラジオール(astradiol)を用いるVP16またはp65、RU486、ジフェノールムリスレロン(diphenol murislerone)、またはラパマイシンが挙げられる。誘導可能な系は、Invitrogen、ClontechおよびAriadから入手可能である。オペロンによるリプレッサーを含む制御可能プロモーターを用いることができる。一態様において、Escherichia coliからのlacリプレッサーは、転写調節因子として機能して、lacオペレーターを有する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を制御することができる[M. Brown et al., Cell, 49:603-612 (1987)];Gossen and Bujard (1992)[M. Gossen et al., Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992)]は、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を、転写活性化因子(VP16)と組み合わせて、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)主要最初期プロモーターを由来とするtetOを有するミニマルプロモーターを有するtetR-哺乳動物細胞転写活性化因子融合タンパク質、tTa(tetR-VP16)を作出し、哺乳動物細胞における遺伝子発現を制御するためのtetR-tetオペレーター系を作出した。一態様において、テトラサイクリン誘導型のスイッチが用いられる(Yao et al., Human Gene Therapy; Gossen et al., Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992);Shockett et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6522-6526 (1995))。
【0115】
加えて、ベクターは、例えば以下のうちのいくつかまたは全てを含んでもよい:選択可能マーカー遺伝子、例えば哺乳動物細胞における安定型または一過型の形質移入体の選択のためのネオマイシン遺伝子;高レベルの転写のためのヒトCMVの最初期遺伝子からのエンハンサー/プロモーター配列;mRNA安定性のためのSV40からの転写終結およびRNAプロセッシングシグナル;適切なエピソーム複製のためのSV40ポリオーマ複製起点およびColE1;内部リボソーム結合部位(IRESes)、万能多重クローニング部位;ならびにセンスおよびアンチセンスRNAのin vitro 転写のためのT7およびSP6 RNAプロモーター。導入遺伝子を含有する好適なベクターおよびベクターを生成するための方法は、当該分野において周知であり、入手可能である。
【0116】
核酸を含む発現ベクターは、従来技術(例えば、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、およびリン酸カルシウム沈降法)により宿主細胞に導入することができ、遺伝子導入された細胞を、次いで、従来技術により培養して、本明細書において記載されるポリペプチドを産生させる。いくつかの態様において、本明細書において記載されるポリペプチドの発現は、構成的、誘導性または組織特異的プロモーターにより制御される。
【0117】
本明細書において記載される単離ポリペプチドを発現させるために用いられる宿主細胞は、Escherichia coliなどの細菌細胞、または好ましくは真核生物細胞のいずれかであってよい。特に、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳動物細胞は、ヒトサイトメガロウイルスからの主要中初期遺伝子プロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせて、免疫グロブリンのための効果的な発現系である(Foecking et al. (1986)「Powerful And Versatile Enhancer-Promoter Unit For Mammalian Expression Vectors」、Gene 45:101-106; Cockett et al. (1990)「High Level Expression Of Tissue Inhibitor Of Metalloproteinases In Chinese Hamster Ovary Cells Using Glutamine Synthetase Gene Amplification」、Biotechnology 8:662-667)。本明細書において記載される単離ポリペプチドを発現させるために、多様な宿主-発現ベクター系を利用することができる。かかる宿主-発現系は、本明細書において記載される単離ポリペプチドのコード配列を産生させてその後に精製することができるビヒクルを代表するが、また、適切なヌクレオチドコード配列により形質転換または遺伝子導入された場合には、本明細書において記載される単離ポリペプチドをin situで発現する細胞をも代表する。これらは、限定されないが、本明細書において記載される単離ポリペプチドについてのコード配列を含む組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えばE. coliおよびB. subtilis)などの微生物;本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換え酵母発現ベクターを遺伝子導入された酵母(例えばSaccharomyces pichia);本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)およびタバコモザイクウイルス(TMV)に感染した、または本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系;または、哺乳動物細胞のゲノムを由来とするプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルスを由来とするプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含有する組み換え発現コンストラクトを有する哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、293T、3T3細胞、リンパ系細胞(米国特許第5,807,715号を参照)、PerC.6細胞(Crucellにより開発されたヒト網膜細胞)を含む。
【0118】
細菌の系において、発現されているポリペプチドについての意図される用途に依存して、多数の発現ベクターを、有利に選択することができる。例えば、本明細書において記載されるポリペプチドの医薬組成物の生成のために大量のかかるタンパク質を産生させる場合、高レベルの融合タンパク質生成物の発現を指揮する、容易に精製されるベクターが、望ましい場合がある。かかるベクターとして、これらに限定されないが、コード配列を、融合タンパク質が産生されるようにlacZコード領域と共に、個々にベクター中にインフレームでライゲーションすることができるE. coli 発現ベクターpUR278(Ruether et al. (1983)「Easy Identification Of cDNA Clones」、EMBO J. 2:1791-1794);pINベクター(Inouye et al. (1985)「Up-Promoter Mutations In The lpp Gene Of Escherichia Coli」、Nucleic Acids Res. 13:3101-3110;Van Heeke et al. (1989)「Expression Of Human Asparagine Synthetase In Escherichia Coli」、J. Biol. Chem. 24:5503-5509)などが挙げられる。pGEXベクターはまた、外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させるために用いてもよい。一般的に、かかる融合タンパク質は、可溶性であり、溶解された細胞から、マトリックスグルタチオンアガロースビーズへの吸着および結合と、その後の遊離グルタチオンの存在下における溶離とにより、容易に精製することができる。
【0119】
pGEXベクターは、クローニングされた標的遺伝子の生成物をGST部分から放出させることができるように、トロンビンまたは第Xa因子のプロテアーゼ切断部位を含むように設計される。昆虫の系において、オートグラファカリフォルニア(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcNPV)を、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして用いる。ウイルスは、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)の細胞中で増殖する。コード配列は、ウイルスの非必須の領域(例えば、多核体タンパク質(polyhedrin)の遺伝子)中に個々にクローニングして、AcNPVプロモーター(例えば多核体タンパク質プロモーター)の制御下においてもよい。
【0120】
哺乳動物宿主細胞において、多数のウイルスベースの発現系を利用することができる。アデノウイルスを発現ベクターとして用いる場合、目的のコード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば、後期プロモーターおよび三要素(tripartite)リーダー配列にライゲーションしてもよい。このキメラ遺伝子を、次いで、in vitroまたはin vivoでの組み換えにより、アデノウイルスゲノム中に挿入することができる。ウイルスゲノムの非必須の領域(例えば、領域E1またはE3)における挿入は、感染した宿主中で生存可能であり、免疫グロブリン分子を発現することができる組み換えウイルスをもたらすであろう(例えば、Loganら(1984年)「Adenovirus Tripartite Leader Sequence Enhances Translation Of mRNAs Late After Infection」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659を参照)。特異的な開始シグナルもまた、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳のために必要とされる。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接する配列を含む。さらに、開始コドンは、インサート全体の翻訳を保証するために、所望されるコード配列のリーディングフレームと同相でなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の多様な起源のものであってよい。
【0121】
発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどの包含により増強することができる(Bitter et al. (1987)「Expression And Secretion Vectors For Yeast」、Methods in Enzymol. 153:516-544を参照)。加えて、宿主細胞株は、挿入された配列の発現を調節するか、遺伝子生成物を所望される特定の様式において修飾およびプロセッシングするものを選択してもよい。タンパク質生成物のかかる修飾(例えばグリコシル化)およびプロセッシング(例えば切断)は、タンパク質の機能のために重要である場合がある。例えば、ある態様において、本明細書において記載されるポリペプチドは、本明細書において記載される別々のポリペプチドを形成するために、ネイティブまたは組み換えの細胞機構によるタンパク質分解による切断を必要とする、単一遺伝子生成物(例えば、単一のポリペプチド鎖として、すなわち、ポリタンパク質前駆体として)発現されてもよい。
【0122】
本開示は、したがって、本明細書において記載されるポリペプチドを含むポリタンパク質前駆体分子をコードする核酸配列を操作することを包含し、これは、前記ポリタンパク質前駆体の翻訳後切断を指揮することができるコード配列を含む。ポリタンパク質前駆体の翻訳後切断は、本明細書において記載されるポリペプチドをもたらす。本明細書において記載されるポリペプチドを含む前駆体分子の翻訳後切断は、in vivoで起きても(すなわち、宿主細胞内で、ネイティブのまたは組み換えの細胞系/機構、例えば適切な部位におけるフューリン切断による)、in vitroで起きてもよい(例えば、既知の活性のプロテアーゼまたはペプチダーゼを含む組成物中で、および/または、所望されるタンパク質分解作用を促進することが知られている条件または試薬を含む組成物中での、前記ポリペプチド鎖のインキュベーション)。
【0123】
組み換えタンパク質の精製および修飾は、当該分野において周知であり、したがって、ポリタンパク質前駆体の設計は、当業者により容易に理解される多数の態様を含む。記載される前駆体分子の修飾のために、当該分野において公知の任意の既知のプロテアーゼまたはペプチダーゼ、例えば、トロンビンまたは第Xa因子(Nagaiら(1985年)「Oxygen Binding Properties Of Human Mutant Hemoglobins Synthesized In Escherichia Coli」、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82:7252-7255、およびJennyら(2003年)「A Critical Review Of The Methods For Cleavage Of Fusion Proteins With Thrombin And Factor Xa」、Protein Expr. Purif. 31:1-11において概説される;これらの各々は、本明細書においてその全体において参考として援用される))、エンテロキナーゼ(Collins-Racieら(1995年)「Production Of Recombinant Bovine Enterokinase Catalytic Subunit In Escherichia Coli Using The Novel Secretory Fusion Partner DsbA」、Biotechnology 13:982-987;本明細書によりその全体において参考として援用される))、フューリン、およびAcTEV(Parksら(1994年)「Release Of Proteins And Peptides From Fusion Proteins Using A Recombinant Plant Virus Proteinase」、Anal. Biochem. 216:413-417;本明細書によりその全体において参考として援用される))、ならびに口蹄疫ウイルスプロテアーゼC3を用いることができる。
【0124】
異なる宿主細胞は、翻訳後のタンパク質および遺伝子生成物のプロセッシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的な機序を有する。発現された外来タンパク質の正確な修飾およびプロセッシングを保証するために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。この目的のために、一次転写物の適切なプロセッシング、遺伝子生成物のグリコシル化およびリン酸化のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞を用いることができる。かかる哺乳動物宿主細胞として、これらに限定されないが、CHO、VERY、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、293T、3T3、WI38、BT483、Hs578T、HTB2、BT20およびT47D、CRL7030およびHs578Bstが挙げられる。
【0125】
長期の、高収率での組み換えタンパク質の産生のために、安定な発現が好ましい。例えば、本明細書において記載されるポリペプチドを安定して発現する細胞株を、設計することができる。ウイルス複製起点を含む発現ベクターを用いるよりも、むしろ、宿主細胞を、適切な発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)により制御されるDNA、および選択可能マーカーにより形質転換してもよい。外来DNAの導入の後で、設計された細胞を、1~2日間にわたり富栄養培地中で増殖させて、次いで、選択培地に切り替えてもよい。組み換えプラスミド中の選択可能マーカーは、選択に対する耐性を付与し、細胞がプラスミドをその染色体中に安定に組み込んで、コロニー(foci)を形成することを可能にし、これを次いでクローニングして、細胞株に増やすことができる。この方法は、本明細書において記載されるポリペプチドを発現する細胞株を操作するために、有利に用いることができ、このように設計された細胞株は、本明細書において記載されるポリペプチドと直接的にまたは間接的に相互作用するポリペプチドのスクリーニングおよび評価において、特に有用であり得る。
【0126】
多数の選択系を用いることができ、これは、限定されないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら(1977)「Transfer Of Purified Herpes Virus Thymidine Kinase Gene To Cultured Mouse Cells」、Cell 11: 223-232)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalskaら(1992)「Use Of The HPRT Gene And The HAT Selection Technique In DNA-Mediated Transformation Of Mammalian Cells First Steps Toward Developing Hybridoma Techniques And Gene Therapy」、Bioessays 14: 495-500)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowyら(1980)「Isolation Of Transforming DNA: Cloning The Hamster aprt Gene」、Cell 22: 817-823)を含み、遺伝子は、それぞれ、tk、hgprtまたはaprt細胞において使用することができる。また、代謝拮抗薬耐性も、以下の遺伝子についての選択の基礎として用いることができる:メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Wiglerら(1980)「Transformation Of Mammalian Cells With An Amplifiable Dominant-Acting Gene」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:3567-3570;O'Hareら(1981)「Transformation Of Mouse Fibroblasts To Methotrexate Resistance By A Recombinant Plasmid Expressing A Prokaryotic Dihydrofolate Reductase」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527-1531);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulliganら(1981)「Selection For Animal Cells That Express The Escherichia coli Gene Coding For Xanthine-Guanine Phosphoribosyltransferase」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072-2076);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Tolstoshev(1993)「Gene Therapy, Concepts, Current Trials And Future Directions」、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32:573-596;Mulligan(1993)「The Basic Science Of Gene Therapy」、Science 260:926-932;およびMorganら(1993)「Human Gene Therapy」、Ann. Rev. Biochem. 62:191-217)ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerreら(1984)「Expression Of Prokaryotic Genes For Hygromycin B And G418 Resistance As Dominant-Selection Markers In Mouse L Cells」、Gene 30:147-156)。組み換えDNA技術の分野において一般に公知の方法であって用いることができるものは、Ausubelら(編)、1993年、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons, NY);Kriegler、1990年、Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual(Stockton Press, NY)において;およびDracopoliら(編)、1994年、Current Protocols in Human Genetics(John Wiley & Sons, NY.)の第12章および13章;Colberre-Garapinら(1981)「A New Dominant Hybrid Selective Marker For Higher Eukaryotic Cells」、J. Mol. Biol. 150:1-14において記載される。
【0127】
本明細書において記載されるポリペプチドの発現レベルは、ベクターの増幅により増大させることができる(概説については、Bebbington and Hentschel、The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning、第3巻(Academic Press, New York, 1987年)を参照)。本明細書において記載されるポリペプチドを発現するベクター系中のマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養において存在するインヒビターのレベルの増大は、マーカー遺伝子のコピー数を増大させるであろう。増幅される領域は、本明細書において記載されるポリペプチドのヌクレオチド配列または本明細書において記載されるポリペプチドに関連するので、ポリペプチドの産生もまた増大するであろう(Crouseら(1983年)「Expression And Amplification Of Engineered Mouse Dihydrofolate Reductase Minigenes」、Mol. Cell. Biol. 3:257-266)。
【0128】
本明細書において記載されるポリペプチドは、組み換えにより発現された後、ポリペプチド、ポリタンパク質または抗体の精製の分野において公知の任意の方法(例えば、抗原選択性に基づく抗体精製スキームに類似のもの)により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特に特異的抗原に対するアフィニティーによるもの(任意に、ポリペプチドがFcドメイン(またはその部分)を含む場合にはタンパク質A選択の後で)により、およびサイジングカラム(sizing column)クロマトグラフィー)、遠心分離、較差溶解度(differential solubility)により、またはポリペプチドまたは抗体の精製のための任意の他の標準的技術により、精製することができる。本開示の他の側面は、本明細書において記載される核酸または本明細書において記載されるベクターを含む細胞に関する。
【0129】
細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物細胞である。例示的な細胞型は、本明細書において記載される。本開示の他の側面は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドを発現する細胞に関する。細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物細胞である。例示的な細胞型は、本明細書において記載される。細胞は、核酸の伝播のため、または核酸の発現のため、または両方のためのものであってよい。かかる細胞として、限定することなく、好気性、微好気性、二酸化炭素志向性(capnophilic)、通性、嫌気性、グラム陰性およびグラム陽性の細菌細胞の株、例えば、限定することなくEscherichia coli、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacteroides fragilis、Clostridia perfringens、Clostridia difficile、Caulobacter crescentus、Lactococcus lactis、Methylobacterium extorquens、Neisseria meningirulls、Neisseria meningitidis、Pseudomonas fluorescensおよびSalmonella typhimuriumに由来するものなど;ならびに、限定することなく、酵母株、例えばPichia pastoris、Pichia methanolica、Pichia angusta、Schizosaccharomyces pombe、Saccharomyces cerevisiaeおよびYarrowia lipolyticaに由来するものなどを含む真核生物細胞;昆虫細胞および昆虫に由来する細胞株、例えばSpodoptera frugiperda、Trichoplusia ni、Drosophila melanogasterおよびManduca sextaに由来するものなど;ならびに哺乳動物細胞および哺乳動物細胞に由来する細胞株、例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、霊長類およびヒトに由来するものなどを含む原核細胞が挙げられる。細胞株は、American Type Culture Collection、European Collection of Cell CulturesおよびGerman Collection of Microorganisms and Cell Culturesから得てもよい。適切な細胞株の選択、作製および使用のための具体的なプロトコルの非限定的例は、例えば、INSECT CELL CULTURE ENGINEERING(Mattheus F. A. Goosenら編、Marcel Dekker、1993年);INSECT CELL CULTURES: FUNDAMENTAL AND APPLIED ASPECTS(J. M. Vlakら編、Kluwer Academic Publishers、1996年);Maureen A. Harrison & Ian F. Rae、GENERAL TECHNIQUES OF CELL CULTURE(Cambridge University Press、1997年);CELL AND TISSUE CULTURE: LABORATORY PROCEDURES(Alan Doyleら編、John Wiley and Sons、1998年);R. Ian Freshney、CULTURE OF ANIMAL CELLS: A MANUAL OF BASIC TECHNIQUE(Wiley-Liss、第4版、2000年);ANIMAL CELL CULTURE: A PRACTICAL APPROACH(John R. W. Masters ed., Oxford University Press、第3版、2000);MOLECULAR CLONING A LABORATORY MANUAL、上記(2001年);BASIC CELL CULTURE: A PRACTICAL APPROACH(John M. Davis, Oxford Press、第2版、2002年);およびCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、上記(2004年)において記載される。
【0130】
これらのプロトコルは、当業者の範囲において、および本明細書における教示から、慣用的な手順である。本開示のさらに他の側面は、本明細書において記載されるポリペプチドを生成する方法に関し、該方法は、本明細書において記載される細胞を得ること、および前記細胞において本明細書において記載される核酸を発現することを含む。いくつかの態様において、方法は、本明細書において記載されるポリペプチドを単離および精製することをさらに含む。
【0131】
いくつかの態様において、ボツリヌスニューロトキシンは、発酵槽においてClostridium botulinumの培養を確立してこれを増殖させ、次いで発酵させた混合物を公知の手順に従って採取および精製することにより、得られることができる。全てのボツリヌストキシン血清型は、不活性な単鎖タンパク質として最初に合成され、これは、向神経活性となるために、プロテアーゼにより切断するかまたはニックを入れなければならない。
【0132】
ボツリヌストキシン血清型AおよびGを産生する細菌株は、内因性プロテアーゼを有し、したがって、血清型AおよびGは、細菌培養物から、主にそれらの活性な形態において回収することができる。対照的に、ボツリヌストキシン血清型C、DおよびEは、非タンパク質分解株により合成され、したがって、典型的には、培養物から回収された時点では不活性である。血清型BおよびFは、タンパク質分解株と非タンパク質分解株との両方により産生され、したがって、活性または不活性な形態のいずれかにおいて回収することができる。例えばボツリヌストキシン血清型B型を産生するタンパク質分解株は、産生されるトキシンの一部のみを切断する場合がある。これらの菌株を用いるBoNT/Xポリペプチドの産生は、本明細書において企図される。
【0133】
ニックを入れた分子のニックがない分子に対する正確な比率は、インキュベーションの長さおよび培養の温度に依存する。したがって、例えばボツリヌストキシンB型トキシンの調製物のうちの一定のパーセンテージは、不活性であってもよい。一態様において、本開示のニューロトキシンは、活性な状態にある。一態様において、ニューロトキシンは、不活性な状態にある。一態様において、活性および不活性なニューロトキシンの組み合わせが企図される。
【0134】
本開示の一側面は、BoNTの2つの非毒性のフラグメントをライゲーションするin vitroトランスペプチダーゼ反応を介してBoNTを生成する、新規の方法を提供する。かかる方法は、以下のステップを含む:(i)軽鎖(LC)および重鎖(H)のN末端ドメインを含む第1のBoNTフラグメントを得ること、ここで、第1のBoNTフラグメントは、C末端LPXTGG(配列番号60)モチーフを含む;(ii)重鎖(HC)のC末端ドメインを含む第2のBoNTフラグメントを得ること;ここで、第2のBoNTフラグメントは、そのN末端において、特異的なプロテアーゼ切断部位を含む;(iii)第2のBoNTフラグメントを、特異的プロテアーゼにより切断すること、ここで、切断は、N末端において遊離のグリシン残基をもたらす;ならびに(iv)第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとを、トランスペプチダーゼの存在下において接触させ、それにより、第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとをライゲーションして、ライゲーションされたBoNTを形成させること。
【0135】
いくつかの態様において、第1のBoNTフラグメントは、C末端LPXTGG(配列番号60)モチーフ(例えば、配列番号45)、またはその任意のバリアントに融合した、本明細書において記載されるX-LC-Hポリペプチドを含む。いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、本明細書において記載されるHポリペプチド、またはその任意のバリアント(例えば、配列番号46)を含む。本明細書において記載される方法を用いて、任意のBoNTフラグメントまたはドメインをライゲーションすることができることが、理解されるべきである。
【0136】
本明細書において記載される方法はまた、キメラBoNTを作製するために用いてもよい。例えば、第1のBoNTフラグメントは、BoNT血清型A、B、C、D、E、F、GまたはXからのものであってよい。同様に、第2のBoNTフラグメントは、BoNT血清型A、B、C、D、E、F、GまたはXからのものであってよい。当業者は、作製することができる組み合わせを識別することができるであろう。いくつかの態様において、本明細書において記載されるキメラBoNTポリペプチド(例えば、BoNT/X-LC-H-A1-H、BoNT/X-LC-H-B1-H、またはBoNT/X-LC-H-C1-H)は、この方法を用いて作製される。
【0137】
いくつかの態様において、トランスペプチダーゼは、ソルターゼである。いくつかの態様において、ソルターゼは、黄色ブドウ球菌からのものである(SrtA)。
当該分野において利用可能な他のペプチドライゲーション系もまた、2つの非毒性のBoNTフラグメントをライゲーションするために用いることができる。例えば、インテインにより媒介されるタンパク質ライゲーション反応は、N末端システイン残基を有する合成ペプチドまたはタンパク質の、細菌により発現されるタンパク質のC末端への、ネイティブのペプチド結合を通してのライゲーションを可能にする(Evans et al., (1998) Protein Sci.7, 2256-2264;Dawson et al.,(1994) Science266, 776-779;Tam et al., (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA92, 12485-12489;Muir et al.,(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA95,6705-6710;Severinov and Muir (1998) J. Biol. Chem.273, 16205-16209:これらの全内容は、本明細書において参考として援用される)。インテインにより媒介されるタンパク質ライゲーション反応のためのキットは、市販されている(例えばNew England Biolabsから)。
【0138】
いくつかの態様において、第1のBoNTフラグメントは、アフィニティータグをさらに含む。いくつかの態様において、アフィニティータグは、N末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、C末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。アフィニティータグが第1のBoNTフラグメントのC末端に融合している場合、トランスペプチダーゼは、LPXTGG(配列番号60)モチーフにおけるTとGとの間を切断し、第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとをライゲーションする前に、アフィニティータグを取り除く。
【0139】
いくつかの態様において、第2のBoNTフラグメントは、アフィニティータグをさらに含む。いくつかの態様において、アフィニティータグは、N末端において第1のBoNTフラグメントに融合している。いくつかの態様において、アフィニティータグは、C末端において第2のBoNTフラグメントに融合している。アフィニティータグが第1のBoNTフラグメントのN末端に融合している場合、特異的プロテアーゼは、特異的プロテアーゼにおける切断部位を切断し、トランスペプチダーゼにより、第1のBoNTフラグメントと第2のBoNTフラグメントとをライゲーションする前に、アフィニティータグを取り除く。
【0140】
「アフィニティータグ」とは、本明細書において用いられる場合、基質または部分に特異的に結合することができるポリペプチド配列を指す。例えば、6個のヒスチジンを含むタグは、Ni2+に特異的に結合する。アフィニティータグは、タンパク質の単離を容易にするために、タンパク質に付加してもよい。アフィニティータグは、典型的には、当業者に公知の組み換えDNA技術を介してタンパク質に融合させる。タンパク質の単離を容易にするためのアフィニティータグの使用もまた、当該分野において周知である。本開示に従って用いることができる好適なアフィニティータグとして、限定することなく、His6、GST、Avi、Strep、S、MBP、Sumo、FLAG、HA、Myc、SBP、E、カルモジュリン、Softag 1、Softag 3、TC、V5、VSV、Xpress、Halo、およびFcが挙げられる。
【0141】
第2のBoNTフラグメントは、N末端において特異的なプロテアーゼ切断を有する。特異的プロテアーゼによる部位の切断は、第2のBoNTフラグメントのN末端において遊離のグリシン残基を生じる。本開示に従って用いることができる好適な特異的プロテアーゼとして、限定することなく、トロンビン、TEV、PreScission、エンテロキナーゼ、およびSUMOプロテアーゼが挙げられる。いくつかの態様において、特異的プロテアーゼは、トロンビンであり、切断部位は、LVPR|GS(配列番号50)である。
【0142】
本明細書において記載されるBoNT/Xポリペプチドは、治療的使用のための潜在能力を提供する。例えば、BoNT/Xは、他のBoNT血清型と比較して、より強力であり得る。BoNT/Xは、他のBoNT血清型よりも多くの基質を切断するその能力に起因して、より多用途であり、広範な細胞においてより有効であり得る。
したがって、本開示はまた、本開示のBoNT/Xポリペプチドまたはキメラ分子を含む医薬組成物を企図する。本開示においてまたのちに明らかとなり得るとおり、本開示の医薬組成物は、かかる組成物が処置するように設計される特定の疾患のために好適な他の治療剤をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、本開示の医薬組成物は、薬学的に許容し得る担体をさらに含む。
【0143】
用語「薬学的に許容し得る担体」とは、本明細書において用いられる場合、ポリペプチドを身体の1つの部位(例えば送達部位)から別の部位(例えば、臓器、組織または身体の部分)へと運搬または輸送することに関与する、薬学的に許容し得る材料、組成物またはビヒクル、例えば液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造補助剤(例えば、潤滑剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくは亜鉛、またはステアリン酸)、あるいは溶媒封入材料を意味する。
【0144】
薬学的に許容し得る担体は、処方物の他の成分と適合性であって対象の組織に対して傷害性ではない(例えば、生理学的に適合性、無菌、生理学的pHなど)という意味において「許容し得る」である。薬学的に許容し得る担体として使用することができる材料のいくつかの例として、以下が挙げられる:(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;(2)デンプン、例えばコーンスターチおよび馬鈴薯デンプン;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロースおよび酢酸セルロース;(4)粉末状トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルク;(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび坐剤用ワックス;(9)油脂、例えばピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油。ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール(PEG);(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝化剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンガー溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝化溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;(22)嵩高剤、例えばポリペプチドおよびアミノ酸(23)血清構成成分、例えば血清アルブミン、HDLおよびLDL;(22)C2~C12アルコール、例えばエタノール;ならびに(23)医薬処方物において使用される他の非毒性の適合性の物質。湿潤化剤、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、保存剤および抗酸化剤もまた、処方物中に存在することができる。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容し得る担体」などの用語は、本明細書において交換可能に用いられる。いくつかの態様において、組成物中の本開示のBoNTポリペプチドは、注射により、カテーテルにより、坐剤により、または移植片により投与され、移植片は、多孔質、無孔質、またはゼラチン状の材料であり、これはシラスティック(Sialastic)メンブレンなどの膜または繊維を含む。
【0145】
典型的には、組成物を投与する場合、本開示のポリペプチドが吸収されない材料を用いる。他の態様において、本開示のBoNTポリペプチドは、徐放系において送達される。投与のためのかかる組成物および方法は、米国特許公開番号No. 2007/0020295において提供され、その内容は、本明細書において参考として援用される。一態様において、ポンプを用いてもよい(例えば、Langer, 1990, Science 249:1527-1533;Sefton, 1989, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201;Buchwald et al., 1980, Surgery 88:507;Saudek et al., 1989, N. Engl. J. Med. 321:574を参照)。別の態様において、ポリマー材料を用いることができる(例えば、Medical Applications of Controlled Release(LangerおよびWise編、CRC Press, Boca Raton, Fla., 1974年);Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance(SmolenおよびBall編、Wiley, New York, 1984年);Ranger and Peppas, 1983, Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61を参照。また、Levy et al., 1985, Science 228:190;During et al., 1989, Ann. Neurol. 25:351;Howard et al., 1989, J. Neurosurg. 71:105を参照)。他の徐放系は、例えば上記のLangerにおいて議論される。
【0146】
本開示のBoNTポリペプチドは、結合剤の治療有効量および1つ以上の薬剤的に適合性の材料を含む医薬組成物として、投与することができる。典型的な態様において、医薬組成物は、慣用的な手順に従って、対象、例えばヒトへの静脈内または皮下投与のために適応させた医薬組成物として、処方される。
【0147】
典型的には、注射による投与のための組成物は、無菌の等張水性バッファー中の溶液である。必要である場合は、医薬はまた、注射の部位における疼痛を緩和するために、可溶化剤およびリグノカインなどの局所麻酔剤を含むことができる。一般に、成分は、単位投与形態において、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェ(sachette)などの気密密封容器中の乾燥した凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々に、または一緒に混合して、供給される。医薬が注入により投与されるべき場合、それは、無菌の医薬グレードの水または食塩水を含有する注入ボトルにより分配される。医薬が注射により投与される場合、成分を投与の前に混合することができるように、注射用の無菌水または食塩水のアンプルを提供することができる。全身投与のための医薬組成物は、液体、例えば無菌の食塩水、乳酸リンガーまたはハンクス溶液であってよい。加えて、医薬組成物は、固体の形態であってもよく、使用の直前に再溶解または懸濁されてもよい。凍結乾燥形態もまた企図される。医薬組成物は、リポソームまたは微結晶などの脂質粒子または小胞中に含有されていてもよく、これもまた、非経口投与のために好適である。粒子は、組成物がその中に含有される限り、単層または複層などの任意の好適な構造のものであってよい。
【0148】
本開示のポリペプチドを、膜融合性脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、低レベル(5~10mol%)のカチオン性脂質を含有する「安定化されたプラスミド-脂質粒子」(SPLP)中に封入して、ポリエチレングリコール(PEG)コーティングにより安定化させることができる(Zhang Y. P. et al., Gene Ther. 1999, 6:1438-47)。N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチル-アンモニウムメチルスルフェートまたは「DOTAP」などの正に荷電した脂質が、かかる粒子および小胞のために特に好ましい。かかる脂質粒子の調製は、周知である。例えば、米国特許第4,880,635号;同第4,906,477号;同第4,911,928号;同第4,917,951号;同第4,920,016号;および同第4,921,757号を参照。本開示の医薬組成物は、例えば単位用量として投与または包装してもよい。
【0149】
用語「単位用量」とは、本開示の医薬組成物に関して用いられる場合、対象のための単位投与量として好適な物理的に別々の単位を指し、各単位が、所望される治療効果をもたらすために計算された予め決定された量の活性材料を、必要とされる希釈剤;すなわち担体またはビヒクルと組み合わせて含有する。いくつかの態様において、本明細書において記載されるBoNT/Xポリペプチドを、治療用部分、例えば抗生物質と抱合させてもよい。かかる治療用部分を例えばFcドメインを含むポリペプチドに抱合させるための技術は、周知である;例えば、Amonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy中、Reisfeldら(編)、1985年、pp. 243-56、Alan R. Liss, Inc.);Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery(第2版)中、Robinsonら(編)、1987年、pp. 623-53、Marcel Dekker, Inc.);Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications中、Pincheraら(編)、1985年、pp. 475-506);「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy中、Baldwinら(編)、1985年、pp. 303-16、Academic Press;およびThorpeら(1982)「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev., 62:119-158を参照。さらに、医薬組成物は、(a)本開示のポリペプチドを凍結乾燥形態において含有する容器、および(b)注射のための薬学的に許容し得る希釈剤(例えば無菌水)を含有する第2の容器、を含む医薬キットとして提供することができる。薬学的に許容し得る希釈剤は、本開示の凍結乾燥ポリペプチドの再構成または希釈のために用いることができる。任意にかかる容器に付随するのは、医薬または生物由来物質の製造、使用または販売を規制する政府の機関により処方される形式の通知であってもよく、この通知は、ヒト投与のための製造、使用または販売の機関による承認を反映する。別の側面において、上記の疾患の処置に役立つ材料を含有する製品が含まれる。いくつかの態様において、製品は、容器およびラベルを含む。
【0150】
好適な容器として、例えば、ボトル、バイアル、シリンジおよび試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの多様な材料から形成されていてよい。いくつかの態様において、容器は、本明細書において記載される疾患を処置するために有効である組成物を保持し、無菌のアクセスポートを有していてもよい。例えば、容器は、皮下注射針により穿通可能な静脈内溶液バッグまたはストッパーを有するバイアルであってもよい。組成物中の活性剤は、本開示の単離ポリペプチドである。いくつかの態様において、容器に付随するラベルは、組成物が、選択される疾患を処置するために用いられることを示す。製品は、リン酸緩衝化食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液などの薬学的に許容し得るバッファーを含む、第2の容器をさらに含んでもよい。それは、商業上のおよび使用者の視点から望ましい他の材料(他のバッファー、希釈剤、充填剤、針、シリンジおよび使用のための説明を含むパッケージ挿入物を含む)を、さらに含んでもよい。
【0151】
本開示のBoNTポリペプチド(例えば、BoNT/Xポリペプチド)、キメラ分子、および医薬組成物は、望ましくない神経細胞の活動に関連する状態の処置のために用いてもよい。したがって、本明細書においてさらに提供されるのは、望ましくない神経活動に関連する状態を処置する方法であって、該方法は、本明細書において記載されるBoNTポリペプチド、キメラ分子、または医薬組成物の治療有効量を、それにより状態を処置するために投与することを含む。いくつかの態様において、本開示のBoNTポリペプチド、キメラ分子、および医薬組成物は、望ましくない神経活動を示している1つ以上の神経細胞に接触する。
【0152】
典型的にニューロトキシンにより処置される状態(例えば、骨格筋の状態、平滑筋の状態、腺の状態、神経筋障害、自律神経系障害、疼痛または審美的/美容的状態)は、当業者により決定されるように、望ましくない神経活動に関連する。投与は、組成物の有効量を、望ましくない活動を示している神経細胞に接触させる経路により行われる。いくつかの態様において、状態は、過活動の神経細胞または腺に関連するものであってもよい。本明細書において議論される方法による処置について想起される具体的な状態として、限定することなく、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、ならびに他の分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛が挙げられる。加えて、本開示は、皮膚科学的または審美的/美容的状態を処置するために、例えば眉間のしわの軽減、皮膚の小じわの軽減のために用いることができる。
【0153】
本開示のBoNT/Xポリペプチドの1つのユニークな特性は、そのVAMP4、VAMP5、およびYkt6を切断する能力である。したがって、本明細書においてさらに企図されるのは、広範な細胞における望ましくない分泌活性に関連する状態における、BoNT/Xポリペプチドの治療的使用である。いくつかの態様において、望ましくない分泌は免疫分泌である。望ましくない免疫分泌と関連する状態として、限定することなく、炎症、乾癬、アレルギー、血球貪食性リンパ組織球症、およびアルコール性膵疾患が挙げられる。
【0154】
本開示はまた、スポーツ外傷の処置において用いることができる。Borodic、米国特許第5,053,005号は、ボツリヌスA型を用いる若年性脊柱弯曲症(spinal curvature)、すなわち、脊柱側弯症(scoliosis)を処置するための方法を開示する。Borodicの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。一態様において、Borodicにより開示されるものと実質的に類似の方法を用いて、BoNTポリペプチドを、脊柱弯曲症を処置するために、哺乳動物、好ましくはヒトに投与することができる。好適な態様において、ロイシンベースのモチーフと融合したボツリヌスE型を含むBoNTポリペプチドを投与する。さらにより好ましくは、その軽鎖のカルボキシ末端にロイシンベースのモチーフが融合したボツリヌスA~E型を含むBoNTポリペプチドを、脊柱弯曲症を処置するために、哺乳動物、好ましくはヒトに投与する。
【0155】
加えて、BoNTポリペプチドは、ボツリヌスA型により一般に行われる周知の技術を用いて、神経筋障害を処置するために、投与することができる。例えば、本開示は、疼痛、例えば、頭痛、筋痙攣からの疼痛、および多様な形態の炎症性疼痛を処置するために用いることができる。例えば、Aoki、米国特許第5,721,215号およびAoki、米国特許第6,113,915号は、疼痛を処置するためにボツリヌストキシンA型を用いる方法を開示する。これら2つの特許の開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0156】
自律神経系障害もまた、改変ニューロトキシンにより処置することができる。例えば、腺の機能不全は自律神経系障害である。腺の機能不全として、過剰発汗および過剰唾液分泌が挙げられる。呼吸器機能不全は、自律神経系障害の別の例である。呼吸器機能不全として、慢性閉塞性肺疾患および喘息が挙げられる。Sandersらは、自律神経系を処置する;例えば、過剰発汗、過剰唾液分泌、喘息などの自律神経系障害を、天然に存在するボツリヌストキシンを用いて処置するための方法を開示する。Sanderらの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0157】
一態様において、上記のものなどの自律神経系障害を処置するために、BoNTポリペプチドを用いて、Sandersらのものと実質的に類似の方法を使用することができる。例えば、BoNTポリペプチドは、鼻腔内の粘膜の分泌を制御する自律神経系のコリン作動性神経細胞を変性させるために十分な量で、哺乳動物の鼻腔に局所的に適用することができる。改変ニューロトキシンにより処置することができる疼痛として、筋張力、または攣縮により引き起こされる疼痛、または筋肉の攣縮と関連しない疼痛が挙げられる。例えば、Binderは、米国特許第5,714,468号において、血管障害、筋張力、神経痛およびニューロパシーにより引き起こされる頭痛を、天然に存在するボツリヌストキシン、例えばボツリヌスA型で処置することができることを開示する。Binderの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0158】
一態様において、頭痛、特に血管障害、筋張力、神経痛およびニューロパシーにより引き起こされるものを処置するために、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドを用いて、Binderのものと実質的に類似の方法を使用することができる。筋張力により引き起こされる疼痛もまた、本明細書において記載されるBoNTポリペプチドの投与により処置することができる。例えば、好ましくはボツリヌスE型軽鎖のカルボキシル末端においてロイシンベースのモチーフと融合したボツリヌスE型を、疼痛/攣縮の位置において、疼痛を軽減するために、筋肉内投与することができる。さらに、改変ニューロトキシンは、攣縮などの筋肉障害に関連しない疼痛を処置するために、哺乳動物に投与することができる。
【0159】
一つの広範な態様において、非攣縮関連疼痛を処置するための本開示の方法は、BoNTポリペプチドの中枢投与または末梢投与を含む。例えば、Fosterらは、米国特許第5,989,545号において、疼痛を緩和するために、ターゲティング部分に抱合したボツリヌストキシンを中枢に(くも膜下腔内に)投与することができることを開示する。Fosterらの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0160】
一態様において、疼痛を処置するために、本明細書において記載される組成物を用いて、Fosterらのものと実質的に類似の方法を使用することができる。処置されるべき疼痛は、急性疼痛であっても慢性疼痛であってもよい。筋攣縮に関連しない急性または慢性の疼痛はまた、哺乳動物における実際のまたは知覚される疼痛の位置への改変ニューロトキシンの局所的な末梢投与により軽減することができる。
【0161】
一態様において、BoNTポリペプチドは、疼痛の位置においてまたはその近傍において、例えば切り傷においてまたはその近傍において、皮下投与される。いくつかの態様において、改変ニューロトキシンは、疼痛の位置においてまたはその近傍において、例えば哺乳動物における挫傷の位置においてまたはその近傍において、筋肉内投与される。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、関節炎の状態により引き起こされる疼痛を処置または軽減するために、哺乳動物の関節中に直接注射される。また、頻繁に繰り返される改変ニューロトキシンの末梢の疼痛の位置への注射または注入は、本開示の範囲内である。かかる方法のための投与の経路は、当該分野において公知であり、当業者により、本明細書において記載される方法に容易に適用される(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998年)、Anthony Fauciら編、第14版、McGraw Hill発行を参照)。
【0162】
非限定的な例として、神経筋障害の処置は、有効量の分子を筋肉または筋群に局所投与するステップを含んでもよく、自律神経系障害の処置は、有効量の分子を腺に局所投与するステップを含んでもよく、および疼痛の処置は、有効量の分子を疼痛の部位に投与するステップを含んでもよい。加えて、疼痛の処置は、有効量の改変ニューロトキシンを脊髄に投与するステップを含んでもよい。
【0163】
「治療有効量」とは、本明細書において用いられる場合、本開示の各治療剤が、単独で、または1つ以上の他の治療剤と組み合わせて、対象に対して治療効果を与えるために必要とされる量を指す。有効量は、当業者により認識されるとおり、保健の実務家の知識および専門的意見の範囲内において、処置されている特定の状態、状態の重篤度、個々の対象のパラメーター(年齢、身体的状態、サイズ、性別および体重を含む)、処置の期間、併用治療の性質(ある場合は)、投与の具体的な経路などの要因に依存して変化する。これらの要因は、当業者には周知であり、慣用的な実験のみを用いて取り組むことができる。個々の構成成分またはその組み合わせの最大用量、健全な医学的判断に従った最大の安全な用量が用いられることが一般に好ましい。しかし、当業者は、対象が医学的理由、精神的理由、または実質的にあらゆる他の理由のために、より低い用量または耐容可能な用量を主張する場合があることを理解するであろう。半減期などの経験的配慮は、一般に、投与量の決定に寄与するであろう。例えば、ポリペプチドの半減期を延長するために、およびポリペプチドが宿主の免疫系により攻撃されることを防ぐために、ヒト化抗体または完全ヒト抗体からの領域を含むポリペプチドなどの、ヒト免疫系に適合可能な治療剤を用いてもよい。
【0164】
投与の頻度は、治療の過程にわたって決定および調整することができ、一般に、必ずしもではないが、疾患の処置および/または抑制および/または寛解および/または遅延に基づく。あるいは、ポリペプチドの持続的徐放処方物が適切である場合がある。持続的放出を達成するための多様な処方物およびデバイスは、当該分野において公知である。いくつかの態様において、投与は、毎日、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、または6日に1回である。いくつかの態様において、投与頻度は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、8週間に1回、9週間に1回、または10週間に1回;または1か月に1回、2か月に1回、または3か月に1回、またはそれより長い。この治療の進行は、従来の技術およびアッセイにより、容易にモニタリングされる。
【0165】
投与レジメン(用いられるポリペプチドを含む)は、経時的に変化してもよい。いくつかの態様において、正常な体重の成人の対象に対して、約0.01~1000mg/kgの範囲の用量を投与することができる。いくつかの態様において、用量は、1~200mgである。特定の投与レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、特定の対象およびその対象の病歴、ならびにポリペプチドの特性(ポリペプチドの半減期、および当該分野において周知の他の考慮事項など)に依存するであろう。
【0166】
本開示の目的のために、本明細書において記載されるような治療剤の適切な投与量は、使用される具体的な剤(またはその組成物)、処方および投与の経路、疾患の型および重篤度、ポリペプチドが予防または治療のいずれの目的のために投与されるのか、先行する治療、対象の臨床歴およびアンタゴニストに対する応答、ならびに主治医の裁量に依存するであろう。典型的には、臨床医は、投与が、所望される結果を達成するに至るまで、ポリペプチドを投与するであろう。
【0167】
1つ以上のポリペプチドの投与は、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療または予防のいずれであるのか、および当業者に公知の他の要因に依存して、連続的であっても断続的であってもよい。ポリペプチドの投与は、予め選択された期間にわたり本質的に連続的であっても、一連の間隔を空けた用量、例えば、疾患を発症する前、その間、またはその後であってもよい。本明細書において用いられる場合、用語「処置すること」とは、ポリペプチドまたは組成物の適用または投与を指し、それを必要とする対象へのポリペプチドを含む。
【0168】
「それを必要とする対象」とは、疾患、疾患の症状、または疾患に向かう素因を有する個人であって、当該疾患、疾患の症状、または疾患に向かう素因を、治癒(cure)、治癒(heal)、軽減、緩和、変更、加療、寛解、改善またはこれに影響を及ぼす目的を有するものを指す。いくつかの態様において、対象は、CDIを有する。いくつかの態様において、対象は癌を有する。いくつかの態様において、対象は哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は非ヒト霊長類である。いくつかの態様において、対象はヒトである。疾患を軽減することとは、疾患の発症または進行を遅延させること、または疾患の重篤度を低下させることを含む。疾患を軽減することとは、必ずしも治癒的な結果を必要としない。
【0169】
本明細書において用いられる場合、疾患の発症を「遅延させること(delaying)」とは、疾患の進行を延期すること、妨害すること、減速させる(slow)こと、遅らせる(retard)こと、安定化させること、および/または延期することを意味する。この遅延は、処置されている疾患および/または個人の病歴に依存して、異なる長さの時間であってよい。疾患の進行を「遅延させる」かまたはこれを軽減する、または疾患の発症を遅延させる方法とは、当該方法を用いない場合と比較して、所与の時間枠において、疾患の1つ以上の症状を発症する可能性を低下させるか、および/または、所与の時間枠において症状の程度を軽減する方法である。かかる比較は、典型的には、統計学的に有意な結果を得るために十分に多数の対象を用いる臨床研究に基づく。
【0170】
疾患の「発症」または「進行」とは、疾患の初期症状および/または後に続く進行を意味する。疾患の発症は、検出可能であり得、当該分野において周知のとおりの標準的な臨床技術を用いて評価することができる。しかし、発症はまた、検出不可能であり得る進行をも指す。本開示の目的のために、発症または進行とは、症状の生物学的経過を指す。「発症」は、発生(occurrence)、再発(recurrence)、開始(onset)を含む。
【0171】
本明細書において用いられる場合、疾患の「開始」または「発生」は、最初の開始および/または再発を含む。単離ポリペプチドまたは医薬組成物を対象に投与するために、処置されるべき疾患の型または疾患の部位に依存して、医学の分野における当業者に公知の従来の方法を用いることができる。この組成物はまた、他の従来の経路を介して投与することができ、例えば経口で、非経口で、吸入スプレーにより、局所で、直腸で、鼻で、頬側で、膣で、または移植されたリザーバを介して投与することができる。
【0172】
用語「非経口」とは、本明細書において用いられる場合、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、くも膜下腔内、病巣内、および頭蓋内注射または注入技術を含む。加えて、それは、注射可能なデポー型の投与の経路を介して、例えば1、3または6か月デポー型の注射可能または生分解性の材料および方法を用いて、対象に投与することができる。
【0173】
本明細書において用いられる場合、「対象」とは、ヒトまたは動物を指す。通常、動物は、霊長類、げっ歯類、家畜動物または狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類として、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカク、例えばアカゲザルが挙げられる。げっ歯類として、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギおよびハムスターが挙げられる。家畜および狩猟動物として、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、水牛、ネコの種、例えば飼いネコ、イヌの種、例えばイヌ、キツネ、オオカミ、トリの種、例えばニワトリ、エミュー、ダチョウ、ならびに魚類、例えばマス、ナマズおよびサケが挙げられる。患者または対象として、前述のものの任意のサブセット、例えば上のものの全てを含むが、1つ以上の群または種、例えばヒト、霊長類またはげっ歯類を除く。本明細書において記載される側面のある態様において、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。
【0174】
用語、「患者」および「対象」は、本明細書において交換可能に用いられる。対象は、雄性であっても雌性であってもよい。対象は、完全に発達した対象(例えば成体)であっても、発達のプロセスを経験している対象(例えば小児、乳児または胎児)であってもよい。好ましくは、対象は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであってよいが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、望ましくない神経活動に関連する障害の動物モデルを表す対象として、有利に用いることができる。加えて、本明細書において記載される方法および組成物は、家畜化された動物および/またはペットを処置するために用いることができる。
【0175】
以下の例は、特定の態様の説明を目的とするものであって、非限定的である。本願全体にわたり引用された参考文献(学術文献、発行された特許、公開された特許出願、および同時係属中の特許出願を含む)の全ての全内容は、本明細書により参考として明示的に援用される。
【0176】

表1 BoNTポリペプチドの配列
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【0177】
新規ボツリヌスニューロトキシンおよびその誘導体
ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)は、最も危険な潜在的なバイオテロ剤のうちのものであり、また、臨床的に、増大しつつあるリストの医学的状態を処置するために用いられている。今日までにBoNTの7つの血清型(BoNT/A~G)が知られており、過去45年間にわたり新たな型は認識されていない。Clostridium Botulinum菌株のゲノムデータベース検索により、新規のBoNTの型が明らかとなり、これをBoNT/Xと命名した。このトキシンは、他のBoNTと最も低い配列同一性を示し、既知のBoNT型に対して産生された抗血清によっては認識されない。それは、神経細胞において、BoNT/B/D/F/Gの標的でもある小胞関連膜タンパク質(VAMP)を切断するが、BoNT/Xは、このトキシンにユニークな部位(VAMP2におけるArg66-Ala67の間)を切断する。BoNT/Xの活性を検証するために、トランスペプチダーゼ(ソルターゼ)を用いてBoNT/Xの2つの非毒性のフラグメントを共有結合により連結することにより、限定された量の全長BoNT/Xを組み立てた。組み立てたBoNT/Xは、培養神経細胞に侵入してVAMP2を切断し、マウスにおいて指外転スコア(Digit Abduction Score)アッセイにより、弛緩性麻痺を引き起こした。まとめると、これらのデータは、BoNT/Xを新規のBoNT型として確立した。その発見は、有効な対応策を開発するための緊急の課題を提案し、また、潜在的な治療的適用のための新規のツールを提示する。
【0178】
ゲノムデータベースの検索により新規のBoNT遺伝子が明らかとなった
BoNTの進化的な状況を調べることを試みて、7つのBoNTの配列をプローブとして利用して、PubMed配列データベースの反復性隠れマルコフモデル検索を行った。検索により、主要なBoNT血清型、サブタイプおよびモザイクトキシン、ならびに関連する破傷風ニューロトキシン(TeNT)が首尾よく同定された(図5)。予想外のことに、それはまた、最近報告されたClostridium Botulinum菌株111のゲノム配列からの新規のBoNT遺伝子(GenBank番号BAQ12790.1)を明らかにした。このトキシン遺伝子は、本明細書においてBoNT/Xと称される。
【0179】
系統発生学的分析により、BoNT/Xが、全ての他のBoNTおよびTeNTとは明らかに区別し得ることが明らかとなった(図1A)。それは、BoNT/TeNTファミリー内のペアワイズ比較のうちで、あらゆる他のBoNTと最も低いタンパク質配列同一性(<31%)を有する(図1A)。例えば、BoNT/AとBoNT/Bとは、39%の配列同一性を共有し、BoNT/BとBoNT/Gとは、58%の配列同一性を有する。さらに、スライディング配列比較ウィンドウは、他の7つのBoNTおよびTeNTと比較して、BoNT/X配列に沿って低い類似性が均等に分布していることを示し(図1B)、このことは、それがモザイクトキシンではないことを示している。
【0180】
低い配列同一性にもかかわらず、全体的なドメインの配置およびBoNTのいくつかの重要な特徴は、BoNT/Xにおいて保存されると考えられ(図1B)、これらは、以下を含む:(1)保存された亜鉛依存的プロテアーゼモチーフHExxH(残基227~231、HELVH(配列番号92))は、推定LCに位置する;(2)推定LCとHCとの間の境界に位置する2つの保存されたシステインが存在し、これらは、必須の鎖間ジスルフィド結合を形成し得る;(3)保存された受容体結合モチーフSxWYは、推定H(残基1274~1277、SAWY(配列番号93))において存在し、これが脂質共受容体ガングリオシドを認識する43、44
【0181】
予想されたとおり、BoNT/X遺伝子は、推定NTNHA遺伝子により先行される(図1C)。それらは、OrfX遺伝子クラスター中に位置する。しかし、BoNT/XのOrfX遺伝子クラスターは、他の2つの既知のOrfXクラスターと比較して、2つのユニークな特徴を有する(図1C):(1)BoNT/X遺伝子の次に位置するさらなるOrfX2タンパク質(OrfX2bと称される)が存在し、これは、いかなる他のOrfXクラスターについても報告されていない;(2)OrfX遺伝子の読み枠は、BoNT/X遺伝子と同じ方向を有するが、それらは、他のOrfXクラスターにおいては、通常はBoNT遺伝子の方向とは逆である(図1C)。まとめると、これらの特徴は、BoNT/Xが、BoNTファミリーのユニークな進化的な支系を構成し得ることを示唆する。
【0182】
BoNT/XのLCは新規の部位においてVAMP2を切断する
BoNT/Xが機能的トキシンであるか否かを、次に検討した。第1に、BoNT/XのLC(X-LC)を調べた。LCの境界(残基1~439)を、他のBoNTとの配列アラインメントにより決定した。LCをコードするcDNAを合成して、LCを、E.coliにおいてHis6タグ付き組み換えタンパク質として産生させた。X-LCを、ラット脳界面活性剤抽出物(BDE)と共にインキュベートし、イムノブロット分析を用いて、脳における3つのドミナントなSNAREタンパク質であるSNAP-25、VAMP2、およびシンタキシン1が切断されたか否かを検討した。BoNT/AのLC(A-LC)およびBoNT/BのLC(B-LC)を、並行して、対照としてアッセイした。BoNT/AによるSNAP-25の切断は、より小さな、イムノブロットにおいてなお認識され得るフラグメントを生じるが、一方、BoNT/BによるVAMP2の切断は、VAMP2のイムノブロットシグナルを消失させる(図2A)。シナプス小胞タンパク質であるシナプトフィジン(Syp)もまた、内部ローディング対照として検出した。ラット脳DTEとのX-LCのインキュベーションは、シンタキシン1またはSNAP-25には影響を及ぼさなかったが、VAMP2シグナルを消失させた(図2A)。BoNTのLCは、亜鉛依存的プロテアーゼである25。予想されたとおり、EDTAは、X-LC、A-LCおよびB-LCによるSNAREタンパク質の切断を防止した(図2A)。X-LCがVAMP2を切断することをさらに確認するために、VAMP2の細胞質ドメイン(残基1~96)をHis6タグ付きタンパク質として精製した。X-LCとのVAMP2(1~96)のインキュベーションは、SDS-PAGEゲル上で、VAMP2のバンドを2つのより小さな分子量のバンドに変換し(図2B)、このことにより、X-LCがVAMP2を切断することを確認した。
【0183】
VAMP2における切断部位を同定するために、X-LCとのプレインキュベーションを行うかまたはこれを行わず、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS、図2C~2E、詳細については以下を参照)により、VAMP2(1~96)タンパク質を分析した。単一のドミナントなペプチドピークが、X-LCとのインキュベーションの後で現れた(図2C、2Eおよび6)。その分子量は、3081.7であることが決定され、これは、VAMP2の残基A67~L96の唯一のペプチド配列にフィットする(図2C、2E)。このことと一致して、His6タグの開始点からVAMP2の残基R66までの他方のフラグメントもまた検出された(図2D)。この結果をさらに確認するために、異なるVAMP2フラグメント:GSTタグ付き組み換えVAMP2(33~86)によりアッセイを繰り返した(図7)。X-LCとのインキュベーションは、2063.1の分子量を有する単一のドミナントなピークを生じ、これは、VAMP2の残基A67~R86の唯一のペプチド配列にフィットする(図7D~7E)。予想されたとおり、GSTタグの開始点からVAMP2の残基R66までの他方のフラグメントもまた検出された(図7F)。まとめると、これらの結果は、X-LCが、VAMP2上のR66とA67との間で単一の切断部位を有することを示す。
【0184】
R66~A67は、全ての他のBoNTのための確立された標的部位とは区別し得る新規の切断部位である(図2F)。それはまた、SNAREモチーフとして先に知られている領域内に位置する唯一のBoNT切断部位である(図2F、網掛け領域)45。VAMPファミリーのタンパク質として、VAMP1、2、3、4、5、7、8ならびに関連するSec22bおよびYkt6が挙げられる。R66~A67は、VAMP2に対して相同性が高いVAMP1およびVAMP3において保存されるが、VAMP7およびVAMP8などの他のVAMP相同体においては保存されない。X-LCの特異性を検証するために、HAタグ付き全長VAMP1、3、7、8およびmycタグ付きSec22bおよびYkt6を、HEK293細胞において、一過性遺伝子導入を介して発現させた。細胞ライセートを、X-LCと共にインキュベートした(図2G)。より低い分子量へのイムノブロットシグナルのシフトにより証明されるとおり、VAMP1および3の両方がX-LCにより切断されたが、一方、VAMP7、VAMP8およびSec22Bは、X-LCに対して耐性であった(図2G)。
【0185】
予想外のことに、Ykt6が、X-LCにより切断された(図2G)。この知見は、精製されたGSTタグ付きYkt6フラグメントを用いて確認され、これは、X-LCとのインキュベーションの後でより低い分子量のバンドにシフトした(図2H)。X-LCにより切断されたYkt6に対する未変化のYkt6の質量分析により、切断部位がK173-S174であることを決定した(図13A)。これは、VAMP2における切断部位に対する相同部位であり(図2F)、このことは、切断部位の位置が、異なるVAMPにまたがって保存されていることを示している。VAMPのメンバーのうち、VAMP4は、この部位において、Ykt6と同じ一対の残基(K87-S88)を含む。VAMP4のGSTタグ付き細胞質ドメインが、X-LCにより効率的に切断されたことを見出した(図2I)。このことと一致して、X-LCは、BDEにおいてネイティブのVAMP4を切断した(図4J)。対照として、Sec22bは、BDEにおいてX-LCにより切断されなかった。加えて、VAMP5のGSTタグ付き細胞質ドメインもまた、VAMP2およびVAMP4よりも低い速度ではあったが、切断された(図2I)。切断部位は、VAMP4においてはK87-S88、VAMP5においてはR40-S41であることを、質量分析により確認した(図14)。いずれも、VAMP2における切断部位に対する相同部位である(図2F)。X-LCがVAMP4、VAMP5およびYkt6を切断する能力は、それらの配列はVAMP1/2/3とは実質的に異なるので、非常に稀なものである。BoNT/Xは、古典的な標的であるVAMP1/2/3を越えるVAMPを切断することができる最初のBoNTである66。X-LCはまた、BDEにおいてVAMP4を切断し、その切断は、EDTAにより遮断された(図2J)。
【0186】
BoNT/Xの顕著な特徴は、VAMP4およびYkt6を切断するそのユニークな能力である。VAMP4は、広く発現され、トランスゴルジネットワーク(TGN)とエンドソームとの間の小胞融合、ならびにエンドソームのホモタイプ融合を媒介することが知られている59、60。Ykt6は、膜貫通ドメインを有さない非定型的なSNAREである67~70。それは、脂質付加を介して膜にアンカリングし、これにより、その膜との関連の動的制御が可能となる。Ykt6は、酵母において必須のタンパク質であり、ER-ゴルジ、ゴルジ内、エンドソーム-ゴルジ-液胞、およびオートファゴソーム(autophagesome)形成を含む複数の膜融合イベントに関連付けられている。哺乳動物細胞におけるその機能は、まだ確立されていない。BoNTは、古典的には、細胞膜に対する小胞のエキソサイトーシスを媒介するSNAREをターゲティングすることに限定されていると知られている。BoNT/Xは、多様な細胞内膜輸送イベントを媒介するSNAREを切断することができる、初めてのBoNTである。
【0187】
興味深いことに、VAMP4およびYkt6はいずれも、神経細胞において濃縮されている。最近の研究は、VAMP4はまた、神経細胞における非同期的なシナプス小胞エキソサイトーシス、エンラージオソームエキソサイトーシス、および活性依存的バルクエンドサイトーシス(ADBE)にも寄与し得ることを示唆した61~63。神経細胞におけるYkt6の役割は、まだ確立されていないが、それが、パーキンソン病モデルにおいてα-シヌクレインの毒性を抑制することが示されている71~72。BoNT/Xの別の基質であるVAMP5は、主に筋肉細胞において発現し、その機能はまだ確立されていない64。BoNT/Xは、VAMP4、Ykt6、およびVAMP5の機能および関連する膜輸送イベントを調べるための強力なツールとなるであろう。加えて、VAMP4は、免疫細胞における顆粒放出に関連付けられており65、したがって、BoNT/Xは、免疫細胞における炎症性分泌を調節するという、全てのBoNTのうちでもユニークな潜在能力を有し得る。
【0188】
BoNT/Xのタンパク質分解的活性化
BoNTは、初めは単一のポリペプチドとして産生される。LCとHとの間のリンカー領域は、「活性化」として知られるプロセスにおいて、細菌または宿主のプロテアーゼのいずれかにより切断されることを必要とし、これは、BoNTの活性のために必須である。BoNTのLCおよびHは、細胞の細胞質ゾル中へのLCの転位置の前には、鎖間ジスルフィド結合を介して連結されたままであり、転位置の際に、LCを細胞質ゾル中に放出するために、ジスルフィド結合が還元される。配列アラインメントは、BoNT/Xが、全ての他のBoNTと比較して、2つの保存されたシステインの間で最長のリンカー領域を含むことを明らかにした(C423~C467、図3A)。加えて、BoNT/Xのリンカー領域は、1つのさらなるシステイン(C461)を含み、これは、BoNT/Xにユニークである。
【0189】
BoNT/XのLCとHとの間のリンカー領域がタンパク質分解による切断に対して感受性であるか否かを検討するために、組み換えX-LC-Hフラグメント(残基1~891)を、E.coliにおいて産生させて、リジン残基のC末端側で切断するエンドプロテアーゼLys-Cによる限定されたタンパク質分解に供した。限定されたタンパク質分解条件下において感受性の切断部位を同定するために、Tandem Mass Tag(TMT)標識およびタンデム質量分析アプローチを用いて、X-LC-Hを分析した。TMTは、遊離のN末端(およびリジン)を標識する。Lys-Cによる限定されたタンパク質分解は、未変化のX-LC-H試料中には存在しないさらなる遊離のN末端を生じる(詳細については以下を参照)。簡単に述べると、未変化のX-LC-H試料を、軽い(light)TMTで標識し、等量のX-LC-H試料を、Lys-Cに暴露し、次いで、重い(heavy)TMTで標識した。両方の試料を、次いで、キモトリプシンで消化し、一緒に組み合わせて、定量的質量分析の分析に供した。同定されたペプチドのリストを、以下の表2において示す。軽いTMT:重いTMTの比は、通常、各々のペプチドについて互いの2倍以内であり、例外はN439で始まる5つのペプチドであって、これは軽いTMT標識についてシグナルを示さず、このことは、これがLys-Cの切断により生じる新たなN末端であることを示している(図3A、表2)。したがって、Lys-Cは、限定されたタンパク質分解条件下において、K438-N439を優先的に切断し、このことは、リンカー領域がプロテアーゼに対して感受性であることを示している(図3A)。
【0190】
このタンパク質分解による活性化がBoNT/Xの機能にとって重要であるか否かを、次に検討した。培養神経細胞とのBoNTの高濃度のLC-Hのインキュベーションが、おそらくは神経細胞中への非特異的取り込みを通して、LC-Hの神経細胞中への侵入をもたらしたことが、先に示されている46、47。このアプローチを用いて、培養ラット皮質神経細胞に対する、未変化のX-LC-Hの効力と活性化されたX-LC-Hの効力とを比較した。神経細胞を、培地中で12時間にわたりX-LC-Hに暴露した。細胞ライセートを収集して、SNAREタンパク質の切断を試験するために、イムノブロット分析を行った。図3Bにおいて示すとおり、X-LC-Hは、神経細胞に侵入し、濃度依存的様式においてVAMP2を切断した。Lys-Cにより活性化されたX-LC-Hは、未変化のX-LC-Hよりも劇的に高い効力を示した:10nMの活性化されたX-LC-Hは、150nMの未変化のX-LC-Hと同様のレベルのVAMP2を切断した(図3B)。未変化のX-LC-Hは、細胞表面プロテアーゼによるタンパク質分解による切断に対して感受性である可能性が高く、このことは、神経細胞に対して高濃度においてそれがなお活性である理由であることに注意する。興味深いことに、活性化されたX-LC-Hは、活性化されたBoNT/AのLC-H(A-LC-H)およびBoNT/BのLC-H(B-LC-H)よりも強力であると考えられ、これらは、神経細胞において、同じアッセイ条件下において、それらのSNARE基質の検出可能な切断を示さなかった(図3B)。
【0191】
表2.TMT標識および定量的質量分析により分析した、限定されたタンパク質分解下におけるX-LC-Hのペプチドフラグメント。
His6タグ付き組み換えX-LC-Hを軽いTMTで標識した。等量のX-LC-H試料をLys-Cに暴露し、次いで、重いTMTで標識した。両方の試料を、次いで、キモトリプシンで消化し、一緒に組み合わせ、定量的質量分析の分析に供した。同定されたペプチドのリストを示した。軽いTMT:重いTMTの比は、全てのペプチドについて互いの2倍以内であり、例外は、N439で始まる5つのペプチド(下線)である。これら5つのペプチドは、軽いTMT標識についてのシグナルを示さず、このことは、N439が、Lys-Cの切断により生じた新たなN末端であることを示している。表2におけるペプチド配列は、上から下へ、配列番号94~226に対応する。
【0192】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【0193】
BoNT/Xにおけるジスルフィド結合のユニークな特徴
BoNT/Xのリンカー領域は、BoNT/Xにユニークな1つのさらなるシステイン(C461)を含む。どのシステインがLCとHCとを連結するジスルフィド結合を形成するかを決定するために、3つのシステイン残基の各々を変異させた(C423S、C461S、およびC467S)3つのX-LC-H変異体を作製した。これらの3つのシステイン変異体、ならびに野生型(WT)のX-LC-Hを、限定されたタンパク質分解に供し、次いで、還元剤DTTを用いてまたはこれを用いずに、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色を介して分析した(図3C)。LCにおけるシステイン(C423S)を変異させることにより、DTTがあってもなくても2つの約50kDaのバンドに分離されるタンパク質がもたらされることを見出した。このことは、C423Sが鎖間ジスルフィド結合を消失させたことを示している。対照的に、C461SまたはC467Sのいずれかを含む変異体は、DTTの不在下において100kDaにおいて単一のバンドを示し、これは、DTTの存在下において2つの約50kDaのバンドに分離し、このことは、HにおけるC461とC467とはいずれも、LCにおけるC423と鎖間ジスルフィド結合を形成することができることを示唆している。また、X-LC-H(C423S)変異体は、Lys-Cに対して、C461SおよびC467S変異体のいずれよりも感受性であり、さらなるタンパク質の変性をもたらすと考えられる(図3C)。この結果は、鎖間ジスルフィド結合を失うことにより、LCおよびHの自由度を増大させることができ、それにより、より広い表面積を暴露することができることを示唆している。さらに、WT X-LC-Hの一部は、SDS-PAGEゲルの最上部において凝集塊を形成した(図3C)。これらの凝集塊は、DTTの存在下において消失するので(図3C、+DTT)、分子間ジスルフィド結合の形成に起因する。C423、C461およびC467は、X-LC-Hにおける唯3つのシステインである。3つのシステインのうちのいずれか1つを変異させることにより、X-LC-Hの凝集塊は消失し(図3C、-DTT)、このことは、分子間ジスルフィド結合の形成が、リンカー領域における1つの余分のシステインの存在に起因することを示している。
【0194】
活性化されたWT X-LC-Hの大部分はまた、SDS-PAGEゲル上で、DTTなしで、2つの約50kDaのバンドに分離した(図3C)。一方、WT X-LC-Hは、Lys-Cに対して、C461SおよびC467S変異体と同様に耐性であり、それは、C423S変異体が示したようには、さらなる変性を示さず(図3C、+DTT)、このことは、WT X-LC-HがC423S変異体とは異なることを示唆している。1つの可能な説明は、H上で互いの近傍にある2つのシステイン(C461およびC467)の存在に起因する、ジスルフィド結合のシャッフルであり、これは、変性条件下において、ジスルフィド結合を、鎖間C423-C467またはC423-C467から鎖内C461-C467に再配置することができる48、49。この仮説を試験するために、遊離システインのスルフヒドリルと反応し、任意の遊離システインを恒久的にブロッキングするアルキル化試薬である、N-エチルマレイミド(NEM)を用いた。図3Dにおいて示すように、NEMで前処理したWT X-LC-Hは、DTTの不在下において、100kDaにおいて単一のバンドとして観察され、DTTの存在下において2つの約50kDaのバンドに分離する。これらの結果により、ネイティブのWT X-LC-Hが主に鎖間ジスルフィド結合を含み、これは、リンカー領域における第3のシステインの存在に起因して、ジスルフィド結合のシャッフルに対して感受性であることを確認した。
【0195】
最後に、培養神経細胞に対する3つのX-LC-Hシステイン変異体の活性を試験した。図3Eにおいて示すとおり、LCにおけるシステイン(C423S)を変異させることにより、神経細胞におけるVAMP2の切断の欠如により証明されるとおり、X-LC-Hの活性が消失した。Hにおける2つのシステインのうちの1つ(C461またはC467)を変異させることは、X-LC-Hの効力に、野生型(WT)X-LC-Hと比較して、著しくは影響を及ぼさなかった(図3E)。これらの結果は、鎖間ジスルフィド結合がBoNT/Xの活性のために必須であることを確認し、C423-C461またはC423-C467のいずれかを介して、機能的な鎖間ジスルフィド結合が形成され得ることを示した。
【0196】
ソルターゼにより媒介されるライゲーションを介して全長BoNT/Xを作製する
BoNT/Xが機能的トキシンであるか否かを評価するためには、全長BoNT/Xを作製して試験する必要があった。しかし、BoNTは、最も危険な潜在的なバイオテロ剤の1つである。したがって、必要な予防措置を取り、全長の活性なトキシン遺伝子は作成しなかった。代わりに、BoNTの2つの非毒性のフラグメントの酵素によるライゲーションにより、制御された条件下において、試験管中で、限定された量の全長BoNTを作製するアプローチを開発した。この方法は、ソルターゼとして知られるトランスペプチダーゼを利用する。ソルターゼは、特異的なペプチドモチーフを認識して、ネイティブのペプチド結合を形成することにより2つのペプチドを一緒に共有結合により連結する(図4A)。このアプローチは、キメラトキシンおよび他の融合タンパク質を作製するために、先に利用されてきた50、51
【0197】
黄色ブドウ球菌からのSrtA*として知られる操作されたソルターゼAを作製した51。SrtA*は、ペプチドモチーフLPXTG(配列番号57)を認識し、T-Gの間を切断し、同時に、LPXTG(配列番号57)を含むタンパク質と、1つ以上のN末端グリシンを含む他のタンパク質/ペプチドとの間に、新たなペプチド結合を形成する(図4A)。BoNT/Xの2つの非毒性のフラグメント:(1)LPETGG(配列番号58)モチーフ、およびC末端に融合したHis6タグを有するLC-H;(2)GSTタグおよびそのN末端におけるトロンビン切断部位を有するBoNT/XのH(X-H)を生成した。トロンビンにより切断は、N末端に遊離のグリシンを有するX-Hを放出する。SrtA*とのこれらの2つのフラグメントのインキュベーションにより、LC-HとHとの間に短いリンカー(LPETGS、配列番号59)を含む、限定された量の約150kDの全長BoNT/Xを生じた(図4A~4B)。
【0198】
X-Hが、GSTタグから切断されると、未知の理由により、溶液中で凝集する強い傾向を示すことが観察された。これは、BoNT/Xについてのライゲーション効率が低い理由であり得る(図4B)。対照的に、同じアプローチを用いるX-LC-HのBoNT/AのH(A-H)とのライゲーションは、はるかにより高い効率を達成し、X-LC-Hの大部分が、ライゲーションされて全長XAキメラトキシンとなった(図8A)。
【0199】
BoNT/Xは、培養神経細胞において活性である
全長BoNT/Xの活性を分析するために、培養ラット皮質神経細胞をモデル系として用いた。神経細胞を、培地中で、ソルターゼライゲーション混合物、および多様な対照混合物に暴露した。12時間後に細胞ライセートを収集して、SNAREタンパク質の切断を試験するためにイムノブロット分析を行った。図4Cにおいて示すとおり、X-LC-Hは、反応混合物中でのその高濃度に起因して、単独でいくつかのVAMP2を切断した。X-LC-HおよびX-Hを含むがソルターゼを含まない対照混合物は、X-LC-H単独と比較して、VAMP2の切断をわずかに増大させた。この結果は、X-Hが、非共有結合的相互作用を介してX-LC-Hと関連し得ることを示唆する。この相互作用は、X-LC-HおよびA-Hを含む対照混合物が、X-LC-H単独と同じレベルのVAMP2切断を示したことから、特異的であるものと考えられる(図8B)。X-LC-HとX-Hをソルターゼによりライゲーションすることにより、ソルターゼを含まないX-LC-HとX-Hとの混合物に対して、VAMP2の切断が増強され(図4C)、このことは、ライゲーションされた全長BoNT/Xが、神経細胞に侵入してVAMP2を切断することができることを示している。同様に、ライゲーションされた全長XAキメラトキシンもまた、神経細胞に侵入してVAMP2を切断した(図8B)。
【0200】
X-HをX-LC-Hと混合することにより、X-LC-H単独と比較して、SDS-PAGEゲルの最上部における凝集塊の量が増大した。これらの凝集塊は、DTTの存在下において消失し、このことは、X-Hの一部が、X-LC-Hと分子間ジスルフィド結合を形成したことを示唆している。DTTの存在はまた、ライゲーションされた全長BoNT/Xの量を増加させ、このことは、BoNT/Xの一部が、分子間ジスルフィド結合を介して凝集したことを示唆している(図4B)。これらの凝集塊の形成は、溶液中の有効トキシンモノマー濃度を著しく低下させ得る。これは、BoNT/X配列の固有の弱点であり得る。X-Hは、単一のシステイン(C1240)を含み、このシステインを変異させることは、ライゲーションされたBoNT/Xの活性に影響を及ぼさなかった(図9)。さらに、C1240S変異体は、X-LC-HにおいてC461SまたはC467S変異と組み合わせて、遊離のシステインを有さない改変BoNT/Xを作製することができる(図9)。これらの変異体トキシンは、WT BoNT/Xと同じレベルの活性を維持するが、モノマーとして溶液中でWT BoNT/Xよりも安定である。
【0201】
マウスにおいてin vivoでBoNT/Xにより誘導される弛緩性麻痺
BoNT/Xがin vivoで活性であるか否かを、マウスにおいて、指外転スコア(DAS)として知られるよく確立された非致死性アッセイを用いて試験した。このアッセイは、マウスの後肢の筋肉中へのBoNTの注射の後の局所筋麻痺を測定する52、53。BoNTは、肢の筋肉の弛緩性麻痺を引き起こし、これは、驚愕応答の間に足指を広げることができないことにより検出することができる。活性化されたソルターゼ反応混合物(図4B、レーン7)を、マウスにおいて、右後肢の腓腹筋中に注射した。12時間以内に、右肢が典型的な弛緩性麻痺を生じ、足指を広げることができなかった(図4D)。これらの結果により、BoNT/Xが、他のBoNTと同様にin vivoで弛緩性麻痺を引き起こすことができることを確認した。
【0202】
BoNT/Xは、全ての既知のBoNTに対して産生された抗血清により認識されなかった
BoNT/Xが血清学的にユニークなBoNTであることをさらに確認するために、7つ全ての血清型ならびに1つのモザイクトキシン(BoNT/DC)を含む既知のBoNTに対して産生された抗血清を用いてドットブロットアッセイを行った。4つのウマ抗血清(三価抗BoNT/A、BおよびE、抗BoNT/C、抗BoNT/DC、ならびに抗BoNT/F)、ならびに2種のヤギ抗血清(抗BoNT/Gおよび抗BoNT/D)を利用した。これらの抗血清は、全てそれらの対応する標的BoNTを中和することができ、神経細胞においてSNAREタンパク質の切断を防止し(図10)、それにより、それらの特異性および効力を立証している。図4Eにおいて示すとおり、これらの抗血清は、それらの対応する標的トキシンを認識したが、これらのいずれも、BoNT/Xを認識しなかった。BoNT/DCおよびBoNT/Cに対して産生された抗血清は、それらのHにおいて高い程度の類似性を共有するので、互いに交差反応することに注意する。これらの結果は、BoNT/Xを新たな血清型のBoNTとして確立した。
【0203】
全長の不活性なBoNT/X
最後に、全長BoNT/Xを可溶性タンパク質として生成することができるか否かを検討した。バイオセイフティーの要件を保証するために、BoNT/XのLCにおいて、BoNT/Xの毒性を不活化する変異を導入した。BoNT/Aにおける2つの残基R362A/Y365Fにおける変異は、in vitroでLCのプロテアーゼ活性を不活化して、マウスにおいてin vivoで全長BoNT/Aの毒性を消失させることが示されている54~56。これらの2つの残基は、BoNT/Xを含む全てのBoNTにおいて保存されている。したがって、対応する変異を、これらの2つの部位において導入した(BoNT/XにおけるR360A/Y363F)。図4Fにおいて示すとおり、E.coliにおいて組み換えにより、このBoNT/Xの全長の不活化形態(BoNT/XRY)を産生させ、His6タグ付きタンパク質として精製した。神経細胞においてVAMP2は切断されなかったので、それは、神経細胞に対して任意の活性を有さなかった(図11)。
【0204】
BoNT/XRYのかなりの部分が、SDS-PAGEゲルの最上部において凝集塊を形成した(図4F)。これは、リンカー領域における余分のシステインおよびHにおけるシステインからの分子間ジスルフィド結合の形成に起因する可能性がある。なぜならば、DTTの添加は、凝集塊を単量体のBoNT/XRYに変換したからである(図4F)。これらのシステインを変異させることは、BoNT/Xの活性に影響を及ぼさず(図9)、分子間ジスルフィド結合の形成およびBoNT/Xの凝集を防止する利点を有する。
【0205】
BoNT/Xの不活性な形態は、治療剤を神経細胞中に送達するためのビヒクルとして利用することができる。不活化は、以下の残基のいずれか1つにおける変異またはそれらの組み合わせにより達成すことができる:R360、Y363、H227、E228、またはH231、ここで後者3つの残基は、保存されたプロテアーゼモチーフを形成する。
【0206】
工業的規模における全長の不活性なBoNT/Xの精製
全長BoNT/Xを高い程度の純度において良好な収率で精製することができるか否かは、BoNT/X(またはその誘導体)の治療用トキシンとしての工業的生産のために重要となるであろう。これを検討した。温度、誘導の時間およびIPTG濃度などの、細胞増殖および発現のいくつかのパラメーターを試験した。タンパク質発現のために選択した任意のパラメーターは、細胞が指数関数的増殖に達するまで細胞を37℃で培養し、この段階において温度を18℃まで下げ、培地への1mMのIPTGの添加により発現を誘導したことであった。細胞を、次いで、16~18時間にわたり培養し、その後収集した。SDS-PAGEによりBoNT/Xの存在を検証し、可溶性画分において高レベルの過剰発現を示した(図11B)。
【0207】
いくつかの小規模精製試験を行って、生成プロセスを最適化した。Emulsiflex-C3(Avestin、マンハイム、ドイツ)を用いる機械的細胞溶解は、細胞内タンパク質抽出のための好ましい方法であり、超音波処理よりも効率的であると考えられた。多様なバッファー条件もまた、最適なBoNT/Xの回収のための評価をしなければならなかった。精製プロセス全体にわたり還元剤を含め、望ましくない凝集に対する傾向を著しく軽減した。加えて、精製プロセスの初期段階においてグリセロールを添加剤として用い、タンパク質の安定性を改善した。
【0208】
BoNT/Xコンストラクトを、第1の精製ステップとしてのアフィニティークロマトグラフィーのために用いることができるHIS6タグと共に発現させた。小規模試験のために、5mlのHIsTrapFFカラム(GE Healthcare、ダンデリード、スウェーデン)を用いた。最初のクロマトグラフィーから最も高い純度を達成するために、多様な濃度のイミダゾールを試験した。BoNT/Xは、100mMのイミダゾールの濃度から溶離したが、大量の混入物がトキシンと共に容易に共精製された。この混入物は、BoNT/Xと非特異的に相互作用すると考えられ、質量分析によりE. coliの宿主タンパク質(二官能性ポリミキシン耐性タンパク質ArnA)として同定された。この混入物の存在は、高い塩濃度(500mMのNaCl)の導入により、および精製の間に100mMのイミダゾールでのさらなる洗浄ステップを行うことにより、劇的に軽減された。このことにより、250mMのイミダゾールでのより純度の高いBoNT/X画分の溶離が可能となった。この後の画分を、次いで、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0209】
適切に行えるようになったら、このプロトコルをスケールアップし、上記の条件を用いて、12Lまでの培地で発現させた。加えて、BoNT/Xの回収の収率を増加させるために、15mlのProtino(登録商標)Ni-NTAアガロース(Macherey-Nagel、デューレン、ドイツ)からなるより大きなアフィニティークロマトグラフィーマトリックスを準備した。Superdex200-16/60カラム(GE Healthcare、ダンデリード、スウェーデン)を用いるサイズ排除クロマトグラフィーにより、最終精製ステップを行った。この方法を用いて、85~90%の純度を得た(図11C)。タンパク質を濃縮し(Vivaspin濃縮器を100kDaのカットオフで用いて(GE Healthcare、ダンデリード、スウェーデン))、これは、10mg/mlまで安定であると考えられた。タンパク質生成プロセスの完全な詳細は、以下に記載する。得られたBoNT/Xの収率は、細胞培養1リットルあたり約3mgであった。まとめると、これらの結果は、BoNT/Xを、工業的規模において高純度まで精製することができることを示した。
【0210】
精製はLCとHCとの間のジスルフィド結合を還元する還元剤の存在下において行ったので、精製されたトキシンは活性とならなかったことに注意する。しかし、システイン部位において変異(C461またはC467における1つの変異を、C1240を変異させることと組み合わせたもの)を含む設計されたBoNT/Xの誘導体は、還元剤を用いずに、精製することができるであろう。BoNT/Xの不活性な形態(およびそのシステイン変異誘導体)は、治療剤を神経細胞中に送達するためのビヒクルとして利用することができることに注意する。不活化は、以下の残基のいずれか1つにおける変異またはそれらの組み合わせにより達成すことができる:R360、Y363、H227、E228、またはH231(ここで後者3つの残基は、保存されたプロテアーゼモチーフを形成する)。
【0211】
BoNT/Xの受容体としてのガングリオシドの同定
ガングリオシドは、全てのBoNTについてよく確立された脂質共受容体であり、ガングリオシド結合モチーフは、BoNT/Xにおいてよく保存されている(図1C)。高度に精製された全長の不活性なBoNT/Xを用いて、BoNT/Xがガングリオシドを介して神経細胞に結合するか否かを試験した。4つの主要な脳ガングリオシド:GD1a、GD1b、GT1bおよびGM1との相互作用について試験するために、in vitroでのELISAアッセイを開発した。非特異的結合を評価するための陰性対照として、A-LCを用いた。BoNT/Aの受容体結合ドメイン(A-HC)との直接比較もまた行った。抗His6タグ抗体を用いて、タンパク質の結合を検出した。BoNT/Xが、4つ全てのガングリオシドに対して、A-LCの非特異的結合レベルを超えて、用量依存的結合を示したことを見出し(図12)、このことは、BoNT/Xが、4つ全ての脳ガングリオシドを共受容体として利用することができることを示唆している。以前の報告と一致して、BoNT/Aは、GD1aおよびGT1b(図12F)、ならびにそれらの末端NAcGal-Gal-NAcNeu部分について、同等の優先度を示した(シグモイド用量応答モデルにフィットさせた場合に、それぞれ0.7および1.0μMの見かけのEC50値を有する)。対照的に、BoNT/Xは、GD1aおよびGT1bよりもGD1bおよびGM1についてより高いアフィニティーを示した(図12E)。このことは、BoNT/Xが、BoNT/BおよびTeNTにおいても観察される好ましいシアル酸認識パターンを有することを示唆するであろう。BoNT/Xは、他のトキシンのうちの1つと相同な位置において保存されたSxWYモチーフを有する。それが、低いアフィニティーによってではあるが、4つ全てのガングリオシドを認識することができるという事実は、複数の炭水化物結合部位の指標となり得る。
【0212】
考察
最後の主要なBoNT血清型が同定された後45年間以上かけて、BoNTの第8の血清型が同定された。BoNT/Xは、このトキシンのファミリーのうちで、全ての他のBoNTおよびTeNTに対して最も低いタンパク質配列同一性を有し、この低レベルの同一性は、トキシン配列に沿って均等に分布している。予想されたとおり、BoNT/Xは、既知のBoNTに対して産生されたいかなる抗血清によっても認識されなかった。それは、ユニークかつ区別し得るトキシンファミリーの進化的支系を明らかに代表する。
【0213】
BoNT/Xは、Clostridium Botulinum菌株のゲノム配列を検索することにより明らかとなり、それは、ゲノムシークエンシングおよびバイオインフォマティクスアプローチにより同定された最初の主要なトキシン型を代表する。BoNT/X遺伝子を含む菌株111は、初めに、1990年代に乳児ボツリヌス症患者から同定された。古典的な中和アッセイを用いる以前の特徴づけは、BoNT/B2を、この菌株の主要なトキシンとして確立した。BoNT/Xは、サイレントトキシン遺伝子であるか、または研究室における培養条件下においては検出可能な毒性レベルにおいては発現されなかった可能性がある。したがって、それは、菌株111をシークエンシングすることによってのみ同定することができる。このことは、微生物の病原性因子を理解するためのゲノムシークエンシングおよびバイオインフォマティクスアプローチの重要性を説明する。
【0214】
サイレントBoNT遺伝子は、先にも、多様なClostridium Botulinum菌株においてしばしば見出されてきた。これらの細菌がサイレントトキシン遺伝子を保有している理由は不明である。それは、進化の間に変性した遺伝子であり得る。サイレントトキシン遺伝子が、未熟な停止コード変異を含む場合には、明らかにそうである。しかし、サイレント遺伝子が全長BoNTをコードしている場合もある。これらのサイレントな全長BoNTが、特定の環境条件下において発現されて毒性を示すことができるか否かは、興味深い問題のままである。
【0215】
BoNTの一般的な3ドメイン構造および機能は、BoNT/Xにおいてよく保存されているが、それはまた、いくつかのユニークな特徴もまた有する:(1)それは、神経細胞におけるその標的として、BoNT/B、D、F、およびGとVAMPを共有するが、それは、VAMPを、このトキシンにユニークな新規の部位(VAMP2におけるR66-A67)において切断する。このことは、VAMPを異なる部位において切断するために用いることができるトキシンのレパートリーをさらに拡大する
。(2)LCとHとを連結する鎖間ジスルフィド結合は、BoNT/Xにおいて保存されているが、それはまた、リンカー領域においてユニークなさらなるシステインを含み、これは、ジスルフィド結合のシャッフルをもたらし得る。Hにおける余分のシステインは、LC-Hの活性のためには必須ではなく(図3D)、それを変異させることは、分子間ジスルフィド結合の形成を防止するという利点を有する(図3D、4B)。
【0216】
His6タグ付きX-LC-Hフラグメントは、組み換えタンパク質としてバッファー中で安定である。それは、神経細胞に対して、A-LC-HおよびB-LC-Hのいずれよりも高いレベルの活性を示し(図3B)、このことは、その膜での転位置および/またはプロテアーゼ活性が、BoNT/AおよびBoNT/Bにおける対応するフラグメントよりも効率的であり得ることを示唆している。X-LC-Hは、その侵入が神経細胞には限定されない場合があるので、広範な細胞型および組織においてVAMP1/2/3をターゲティングするために有用な試薬であり得る。例えば、それは、感覚神経細胞および炎症性シグナルを分泌する他の細胞の両方をターゲティングすることにより、局所領域における疼痛を軽減するために、潜在的に利用することができる。それはまた、XAなどのキメラトキシンを作製するために用いることもできる(図8)。
【0217】
X-Hは、その存在が神経細胞においてVAMP2の切断をLC-H単独よりも増強したので、機能的である(図4C)。しかし、X-Hは、さらに評価されるべきままとなっている、いくつかの好ましくない特徴を有し得る。例えば、十分なレベルの可溶性X-Hは、それが、タンパク質の折りたたみ/溶解度を促進することが知られているGSTに融合された場合にのみ生成されるが、His6タグを用いる場合はそうではない。GSTタグから放出された後、X-Hは、凝集しやすくなる。加えて、X-Hにおけるシステインもまた、分子間ジスルフィド結合を形成し得る(図4B)。全長の不活性なBoNT/Xは、可溶性タンパク質として精製されて存在することができ、このことは、X-Hについての溶解度の問題が、少なくとも部分的に、X-LC-Hからのこのドメインの分離に起因し得ることを示唆している。例えば、X-LC-Hは、X-Hと相互作用し得、全長の文脈においてその潜在的な疎水性セグメントをカバーし、これは、多ドメインタンパク質については珍しくない
【0218】
ガングリオシドは、ずっと以前に、全てのBoNTサブタイプについて神経細胞受容体として、確立されている。BoNT/Xが、4つ全ての最も豊富なガングリオシド:GD1a、GD1b、GT1bおよびGM1に結合することができることを示している。加えて、BoNT/Xが、BoNT/Aと比較した場合に、著しいアフィニティーおよび特異性の相違によりこれを行う。他のBoNTは、ガングリオシドのサブグループに対して多様な程度の優先度を有すると考えられるので、このことは固有の特性である。例えば、BoNT/A、E、FおよびGは、GD1aおよびGT1bを優先する。BoNT/Xは、他のBoNTと比較して、潜在的により広い範囲の神経細胞型を認識し得る。
【0219】
BoNT/Xがin vivoで低い毒性を有する可能性はあり、これは、菌株111についての元の研究においてBoNT/X活性が検出されなかった理由を説明し得る。そうである場合、低下した毒性は、そのHドメインに起因する可能性がある。なぜならば、X-LC-Hは、A-LC-HおよびB-LC-Hのいずれよりも活性が高いと考えられるからである。分子間ジスルフィド結合の形成はまた、有効トキシン濃度を減少させ得る。in vivoでのその効力を決定するためには、全長のネイティブのBoNT/Xを生成することが必要となるであろうが、全長トキシンを生成する前に、BoNT/Xの非毒性のフラグメントを用いて中和抗血清を作製することが重要となるであろう。
【0220】
全長の活性トキシン遺伝子を任意の発現系/生物中に導入することは、常に、重要なバイオセイフティーの懸念であり、生物学的トキシンの構造-機能研究の手強い障害となっている。これはBoNTにとって特に重要な配慮である。なぜならば、それらは6つのカテゴリーAの潜在的バイオテロ剤のうちの1つであるからである。ここで、2つの相補的かつ非毒性のフラグメントから限定された量の全長トキシンを生化学的に組み立てる方法を開発した。各々のフラグメントを、個別に発現させて精製し、次いで、ソルターゼを用いて試験管中で一緒にライゲーションする。2つのタンパク質フラグメントをタンパク質のトランススプライシングを通して融合させるスプリットインテイン(split intein)系などの他のタンパク質ライゲーション法もまた、利用することができる57。反応中の前駆体フラグメントの量を制御することにより、ライゲーションされた全長トキシンの量を、厳密に制御することができる。この「半合成」アプローチは、多ドメインの生物学的トキシンおよび他の毒性タンパク質を制御された条件下において生成するために用いることができる。それはまた、2つのBoNTのHを交換すること、BoNTのHを他のターゲティングタンパク質で置き換えること、またはさらなる積荷をトキシンに付加することなどの、融合およびキメラトキシンを作製するための多用途のプラットフォームを提供する。これまでに作製された全長トキシンcDNAは存在せず、細菌または任意の他の生物におけるトキシンの発現も存在しないので、このアプローチは、野生型および変異体トキシンの生成に関連するバイオセイフティーの懸念を著しく軽減し、生物学的トキシンおよび毒性タンパク質の構造-機能研究を著しく促進にするであろう。
【0221】
材料および方法
材料:シンタキシン1(HPC-1)、SNAP-25(C171.2)、およびVAMP2(C169.1)についてのマウスモノクローナル抗体は、E. Chapman(マディソン、WI)により寛大にも贈与されたものであり、Synaptic Systems(ゲッティンゲン、ドイツ)から入手可能である。アクチンについてのマウスモノクローナル抗体は、Sigmaから購入した(AC-15)。BoNT/A/B/E、BoNT/C、BoNT/DC、BoNT/Fに対するウマポリクローナル抗血清、およびBoNT/Gに対するヤギポリクローナル抗血清は、FDAから得た。BoNT/Dに対するヤギポリクローナル抗体は、Fisher Scientificから購入した(NB10062469)。BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/DC、BoNT/E、BoNT/F、およびBoNT/Gは、Metabiologicsから購入した(マディソン、WI)。BoNT/Dは、E. Johnson(マディソン、WI)により寛大にも贈与されたものである。
【0222】
cDNAおよびコンストラクト:X-LC(残基1~439)およびX-H(残基893-1306)をコードするcDNAを合成した。X-HをコードするcDNAは、研究室内で、ギブソン・アセンブリー法を用いて作成した。A-LC(残基1~425、M30196)およびB-LC(残基1~439、AB232927)をコードするcDNAは、GenScript(ニューブランズウィック、NJ)により合成された。これらのLCを、His6タグ付きタンパク質としての発現のために、pET28ベクター中にクローニングした。X-Hを、pGEX4T中にクローニングして、GSTタグ付きタンパク質として発現させた。X-LC-H、A-LC-H、およびB-LC-Hを、それらのC末端に融合したペプチド配列LPETGG(配列番号58)と共に、pET28ベクター中にサブクローニングし、His6タグ付きタンパク質として精製した。BoNT/Xの全長の不活性な形態は、研究室内で、変異させたX-LC(R360A/Y363F)、X-HおよびX-Hから構築した。それを、BoNT/XのC末端に融合したHis6タグと共に、pET28ベクター中にクローニングした、ラットVAMP2をコードするcDNAは、E. Chapman(マディソン、WI)により寛大にも贈与された。VAMP2(1~96)は、pET28ベクター中にクローニングして、His6タグ付きタンパク質として発現させた。VAMP2(33-86)は、pGEX4Tベクター中にクローニングして、GSTタグ付きタンパク質として発現させた。マウスVAMP1、VAMP3、ラットVAMP7およびVAMP8をコードするcDNAは、C. Hu(ルイビル、KY)により寛大にも贈与された。それらを、それらのC末端に融合したHAタグと共に、改変pcDNA3.1ベクター中にクローニングした。His6タグ付きソルターゼ(SrtA*)をコードするコンストラクトは、B. Pentelute(ボストン、MA)により寛大にも贈与されたものであり、先に記載されている51
【0223】
バイオインフォマティクス:Uniprotデータベースを、A型BoNTの配列(Uniprotアクセッション番号A5HZZ9)を用いて、HMMERウェブサーバーにおいてjackhmmerで収束まで検索した。返された配列を、Clustal OmegaおよびSplitsTree4で推定されたNeighborNet系統発生ネットワークとアラインメントした。
【0224】
タンパク質精製:タンパク質発現のために、E.coli BL21(DE3)を利用した。発現の誘導は、0.1mMのIPTGを用いて22℃で一晩行った。細菌のペレットを、溶解バッファー(50mMのTris(pH7.5)、150mMのNaCl)中で超音波処理により破壊し、20000gで30分間にわたる4℃での遠心分離の後で、上清を回収した。タンパク質精製は、AKTA Prime FPLC系(GE)を用いて行い、精製されたタンパク質を、PD-10カラム(GE、17-0851-01)でさらに脱塩した。特に、全長の不活性なBoNT/X(BoNT/XRY)を、pET22bベクター中にクローニングした。対応するプラスミドで、E. coli BL21(DE3)コンピテントセルを形質転換した。生じたコロニーを用いて、250mlの振盪フラスコ中で、100μg/mlのカルベニシリンを含む100mlのTB培地に播種し、一晩、37℃で増殖させた。発現のための培養物を、初めに、LEX Bioreactor(Epiphyte3、オンタリオ、カナダ)を用いて、37℃で、1.5LのTB培地中でOD600が0.8に達するまで増殖させた。次いで、1mMのIPTGを用いる発現の誘導のために、温度を18℃まで低下させ、16~17時間にわたり増殖させた。細胞を収集して、氷上で、50mMのHEPES(pH7.2)、500mMのNaCl、25mMのイミダゾール、5%のグリセロール、2mMのTCEP中で再懸濁し、Emulsiflex-C3(Avestin、マンハイム、ドイツ)で20,000psiにおいて細胞を溶解させた。ライセートを、200,000gで45分間にわたり4℃で超遠心した。上清を、15mlのProtino(登録商標)Ni-NTAアガロース(Macherey-Nagen、デューレン、ドイツ)カラム上にロードし、これを次いで、50mMのHEPES(pH7.2)、500mMのNaCl、100mMのイミダゾール、5%のグリセロール、1mMのTCEPで洗浄した。溶離は、50mMのHEPES(pH7.2)、500mMのNaCl、250mMのイミダゾール、5%のグリセロール、1mMのTCEPを用いて行った。溶離液を、50mMのHEPES(pH7.2)、500mMのNaCl、5%のグリセロール、0.5mMのTCEP中で、4℃で一晩透析した。透析液を、Vivaspin濃縮器(100kDaのカットオフ、GE Healthcare、ダンデリード、スェーデン)を用いて濃縮し、その後、透析のために使用したものと同じバッファーで事前に平衡化したSuperdex200-16/60カラム(GE Healthcare、ダンデリード、スウェーデン)上にロードした。BoNT/Xに対応する溶離ピークを回収し、最終試料が10mg/mlの濃度となるように濃縮した。試料を、等分して、液体窒素中にて-80℃で瞬間凍結した。
【0225】
ガングリオシド結合アッセイ:精製されたガングリオシドGD1a、GD1b、GT1bおよびGM1(Carbosynth、コンプトン、UK)を、DMSO中で溶解し、2.5μg/mlの最終濃度に達するまでメタノール中で希釈した;100μLを、96ウェルのPVCアッセイプレート(カタログ番号2595、Corning;Corning、NY)の各ウェルに適用した。21℃での溶媒蒸発の後で、ウェルを、200μLのPBS/0.1%(w/v)BSAで洗浄した。非特異的な結合部位を、2.5時間にわたる4℃での200μLのPBS/2%(w/v)BSA中でのインキュベーションによりブロッキングした。結合アッセイは、1ウェルあたり100μLのPBS/0.1%(w/v)BSA中で、1時間にわたり4℃で行い、これは、試料(三つ組み)を、6μM~0.05μM(連続2倍希釈において)の範囲の濃度で含んだ。インキュベーションの後で、ウェルをPBS/0.1%(w/v)BSAで3回洗浄し、HRP共役抗6xHisモノクローナル抗体(1:2000、ThermoFisher)と共に1時間にわたり4℃でインキュベートした。PBS/0.1%(w/v)BSAによる3回の洗浄ステップの後で、Ultra-TMB(100μL/ウェル、ThermoFisher)を基質として用いて、結合した試料を検出した。15分後、100μLの0.2MのHSOの添加により、反応を停止させ、Infinite M200PROプレートリーダー(Tecan、メンネドルフ、スイス)を用いて、450nmにおける吸光度を測定した。データを、Prism7(GraphPadソフトウェア)で分析した。
【0226】
ラット脳界面活性剤抽出物(BDE)におけるSNAREタンパク質の切断:先に記載されるとおり、新たに解剖された成体ラット脳から、ラットBDEを調製した58。簡単に述べると、ラット脳を、15mlの320mMのスクロースバッファー中でホモジェナイズし、その後、5000rpmで2分間にわたり4℃で遠心分離した。上清を回収し、11,000rpmで12分間遠心分離した。ペレットを回収して、15mlのTris緩衝化食塩水(TBS:20mMのTris、150mMのNaCl)に2%のTriton X-100およびプロテアーゼインヒビターのカクテル(Roche、CA)を添加したものの中で、30分間にわたり可溶化した。試料を、その後、17,000rpmで20分にわたり遠心分離して、不溶性の材料を取り除いた。BDEの最終タンパク質濃度は、約2mg/mlであった。BDE(60μl)を、それぞれ、1時間にわたり37℃でX-LC(0.5μM)、A-LC(1μM)、またはB-LC(1μM)と共にインキュベートし、次いで、増強した化学発光(ECL)法(Pierce)を用いるイムノブロットにより分析した。対照として、LCを、20mMのEDTAと共に20分間にわたり室温(RT)でプレインキュベートして、BDE中に添加する前にそれらの活性を脱活性(de-active)した。
【0227】
X-LCによる組み換えVAMPの切断:VAMP2(1-96)は、His6タグ付きタンパク質として発現させて精製し、VAMP2(33-86)は、GSTタグ付きタンパク質として発現させて精製した。これらのタンパク質(0.6mg/ml)を、0.1μMのX-LCと共に、TBSバッファー中で1時間にわたり37℃でインキュベートした。試料を、SDS-PAGEゲルおよびクマシーブルー染色、または質量分析の分析に供することのいずれかにより分析した。
【0228】
細胞ライセートにおけるVAMPの切断:全長のHAタグ付きVAMP1、3、7および8を、PolyJet遺伝子導入試薬(SignaGen、MD)を製造者の指示に従って用いて、HEK293細胞に遺伝子導入した。48時間後に、RIPAバッファー(50mMのTris、1%のNP40、150mMのNaCl、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、10cmディッシュ1枚あたり400μl)にプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma-Aldrich)を加えたものの中で、細胞ライセートを収集した。細胞ライセート(250μl)を、X-LC(0.5μM)と共に1時間にわたり37℃でインキュベートした。試料を、次いで、イムノブロットにより分析した。
【0229】
LC-MS/MSによる全タンパク質分析:Harvard Medical SchoolにおけるTaplin Biological Mass Spectrometry Core Facilityにおいて、試料を分析した。簡単に述べると、全タンパク質試料を、3cmのビーズをオフラインで圧力セルを用いて充填した100μmの内径のC18逆相HPLCカラム上にロードした。カラムを、Accela 600ポンプ(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、MA)に再取り付けした。漸加するアセトニトリルの迅速勾配を用いて、タンパク質/ペプチドをHPLCカラムから溶離させた。ペプチドは、溶離するにつれて、エレクトロスプレーイオン化に供され、次いで、LTQ Orbitrap Velos Proイオントラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、MA)中に入って、60000の解像度において高解像度FTMSスキャンを得、イオントラップにおいて低い解像度において第2のスキャンを得、最終スキャンを得てデータ依存的MS/MSを行う。電荷の状態のエンベロープに対して、デコンヴォルーションを手動で行い、可能な場合にはタンパク質についてのモノアイソトピック質量を得るか、平均質量を得た。ソフトウェアプログラム、Sequest(Thermo Fisher Scientific)により、タンパク質データベースを得られた断片化パターンとマッチングさせることにより、ペプチドおよびタンパク質のアイデンティティーを決定した。全データベースは、全ての配列の逆向きのバージョンを含み、データに、1~2%のペプチド偽発見率までフィルタをかけた。
【0230】
LCとHとの間のプロテアーゼ切断部位の同定:His6タグ付き組み換えX-LC-Hフラグメント(残基1~891)を、E.coliにおいて精製し、エンドプロテアーゼLys-Cによる限定されたタンパク質分解に供した(Sigma P2289、100:1(トキシン:Lys-C)のモル比、室温において25分間)。Tandem Mass Tag(TMT)標識およびタンデム質量分析アプローチにより切断部位を決定した。簡単に述べると、未変化のX-LC-H試料を、軽いTMTで標識して、等量のX-LC-H試料を、Lys-Cに暴露し、次いで、重いTMTで標識した。両方の試料を、次いで、キモトリプシンで消化して、一緒に組み合わせて、定量的質量分析の分析に供した。
【0231】
NEMによるシステインのアルキル化:Lys-Cにより活性化されたX-LC-Hフラグメントを、リン酸ナトリウムバッファー(10mM、pH6.5)中で、示された濃度(20、10および5mM)におけるNEMを用いてまたはこれを用いずに0.3mg/mlの最終濃度で希釈し、10分間RTでインキュベートした。NEMは、リン酸ナトリウムバッファー中で新たに調製した。試料を、3×の中性のローディング色素(200mMのTris(pH6.8)、30%のグリセロール、6%のドデシル硫酸リチウム、10mMのNEMおよび0.06%のBPB)と混合した。NEMを含まない試料については、NEMを含まない同じ3×のSDSローディング色素を用いた。試料を、ローディング色素と共にRTで10分間さらにインキュベートして、55℃で10分間加熱して、次いで、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色により分析した。
【0232】
神経細胞の培養およびイムノブロット分析:初代ラット皮質神経細胞を、E18~19胚から、先に記載されるようにパパイン解離キット(Worthington Biochemical、NJ)を用いて調製した58。実験は、DIV14~16において行った。神経細胞を、培地中で、BoNT/Xフラグメントまたはソルターゼライゲーション混合物に12時間にわたり暴露した。細胞を、次いで洗浄して、RIPAバッファー(50mMのTris、1%のNP40、150mMのNaCl、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS)にプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma-Aldrich)を加えたもので溶解した。ライセートを、10分間、微量遠心機を用いて最大速度で4℃にて遠心分離した。上清をSDS-PAGおよびイムノブロット分析に供した。
【0233】
ドットブロット:BoNT(1μl中0.2μg)をニトロセルロース膜上にスポットし、乾燥させた(10分間室温で)。膜を、TBST(TBSに0.05%のTween20を加えたもの)中5%のミルクで30分間ブロッキングして、次いで、示された抗血清(1:500希釈)と共に30分間インキュベートした。膜を、次いで、TBSTで3回洗浄し、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)共役二次抗体と共に30分間インキュベートし、TBSTでさらに3回洗浄して、ECL法(Pierce)で分析した。本発明者らは、BoNT/X試料が、1:1の比の精製されたX-LC-HおよびX-Hからなったことを注記する。
【0234】
ソルターゼにより媒介されるライゲーション:GST-X-Hを、トロンビンにより一晩4℃で切断し、その後、タンパク質の混合物中に添加した。ライゲーション反応は、X-LC-H(8μM)、トロンビンで切断したGST-X-H(25μM)、Ca2+(10mM)、およびソルターゼ(10μM)を添加した50μlのTBSバッファー中で、40分間RTでセットアップした。図4Cにおいて、神経細胞を、培地中の5μlの混合物に12時間にわたり暴露した。図4Dにおいて記載するDASアッセイにおいて、25μlの混合物を、マウスの後肢中に注射した。
【0235】
DASアッセイ:ソルターゼライゲーション混合物を、初めに、トリプシンを用いる限定されたタンパク質分解により活性化した(60:1のモル比(タンパク質の合計量:トリプシン)、30分間、RTで)。本発明者らは、トリプシンインヒビター(ダイズトリプシンインヒビター、1:10の比(トリプシン:トリプシンインヒビター)を添加することによりタンパク質分解を停止させることができるので、ここでLys-Cの代わりにトリプシンを選択した。マウス(CD-1系統、21~25g、n=6)をイソフルラン(3~4%)で麻酔し、滅菌Hamilton注射器に取り付けた30ゲージの針を用いて、ソルターゼライゲーション混合物を、右後肢の腓腹筋中に注射した。BoNTは、驚愕応答において、後足の麻痺をもたらす。筋麻痺は、先に記載されたとおり52、53、注射後12時間以内に観察された。
【0236】
参考文献
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【0237】
他の態様
本明細書において開示される特徴の全ては、任意の組み合わせにおいて組み合わせることができる。本明細書において開示される各々の特徴は、同じ、同等、または類似の目的に役立つ代替的特徴により置き換えることができる。したがって、別段に明示的に記述されない限り、開示される各々の特徴は、一連の一般的な同等または類似の特徴の単なる例である。
【0238】
上の記載から、当業者は、本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本開示を多様な用途および条件に適応させるために、本開示の多様な変更および改変を行うことができる。したがって、他の態様もまた、請求の範囲内である。
【0239】
均等物および範囲
本明細書において、いくつかの本発明の態様を記載および説明してきたが、一方、当業者は、機能を発揮するため、ならびに/または本明細書において記載される結果および/もしくは利点の1つ以上を得るために、多様な他の手段および/または構造を容易に想起するであろう。そして、かかるバリエーションおよび/または改変の各々は、本明細書において記載される本発明の態様の範囲内であるものとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書において記載される全てのパラメーター、寸法、材料、および配置は、例示的であることを意図され、実際のパラメーター、寸法、材料および/または配置は、本発明の教示が用いられる特定の用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者は、慣用的な実験のみを用いて、本明細書において記載される本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、またはこれを確認することができるであろう。したがって、前述の態様は、単に例として提示されるものであって、添付の請求の範囲およびそれに対する均等物の範囲内において、本発明の態様は、具体的に記載および請求されるものとは別段に実施することができることが、理解されるべきである。本開示の発明の態様は、本明細書において記載される各々の特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法に対して向けられる。加えて、2つ以上のかかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法の任意の組み合わせは、かかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに矛盾しなければ、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0240】
全ての定義は、本明細書において定義され用いられる場合、辞書による定義、参考として援用される文献における定義、および/または定義される用語の通常の意味に優先することが理解されるべきである。
本明細書において開示される全ての参考文献、特許および特許出願は、各々がそれについて引用される事項に関して参考として援用され、これは、一部の場合においては、文献の全体を包含する場合がある。
【0241】
不定冠詞「a」および「an」は、ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、明らかに逆であることが示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。
句「および/または」とは、ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、そのように結合された要素のうちの「いずれかまたは両方」、すなわち、一部の場合においては接続的に存在し、他の場合においては離接的に存在する要素を意味するものと理解されるべきである。「および/または」により列記される複数の要素は、同じ様式において、すなわち、そのように結合された要素のうちの「1つ以上」として解釈されるべきである。「および/または」節により特に同定される要素以外に、他の要素が任意に存在してもよく、これは、特に同定された要素と関係していてもこれと無関係であってもよい。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などのオープンエンド的語法で接続されて用いられる場合、一態様において、Aのみ(任意にB以外の要素を含む)を指し;別の態様においては、Bのみ(任意にA以外の要素を含む)を指し;さらに別の態様においては、AとBとの両方(任意に他の要素を含む)を指す、など。
【0242】
ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、「または」は、上で定義されるとおりの「および/または」と同じ意味を有するものと理解されるべきである。例えば、リストにおいて項目を分ける場合、「または」または「および/または」は、包括的であるもの、すなわち、多数の要素または要素のリスト、および任意にリストに入っていないさらなる項目のうちの、少なくとも1つの包含であるが、1つより多くをもまた含むものとして解釈されるべきである。「~のうちの1つのみ」または「~のうちの正確に1つ」などの、明らかに逆を示す用語のみ、または、請求の範囲において用いられる場合は、「~からなる」は、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの包含を指す。一般的に、用語「または」とは、本明細書において用いられる場合、「~のいずれか」、「~のうちの一方」、または「~のうちの正確に1つ」などの排他性の用語により先行される場合には、排他的な選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるべきである。「~から本質的になる」とは、請求の範囲において用いられる場合、特許法の分野において用いられるようなその通常の意味を有するべきである。
【0243】
ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、句「少なくとも1つ」とは、1つ以上の要素のリストに関して、要素のリスト中の要素のうちの任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味するものと理解されるべきであるが、これは、必ずしも、当該要素のリスト中に特に列記される各々および全ての要素のうちの少なくとも1つを含まず、要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを除外しない。この定義はまた、句「少なくとも1つ」が指す要素のリストにおいて特に同定される要素以外に、要素が任意に存在してもよいことを可能にし、これは、特に同定される要素と関係していてもこれと無関係であってもよい。したがって、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または、同等に、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一態様において、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのAを指し、ここでBは存在しない(および任意にB以外の要素を含む);別の態様においては、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのBを指し、ここでAは存在しない(および任意にA以外の要素を含む);さらに別の態様においては、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのA、および任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのBを指す(および任意に他の要素を含む)など。
【0244】
また、明らかに逆が示されない限り、本明細書において請求される任意の方法であって1つより多くのステップまたは動作を含むものにおいて、当該方法のステップまたは動作の順序は、必ずしも当該方法のステップまたは動作が列記される順序に限定されないことも、理解されるべきである。
【0245】
請求の範囲において、ならびに上の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運搬する(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」、「保有する(holding)」、「~からなる(composed of)」および類似のものなどの全ての移行句は、オープンエンドである、すなわち、それを含むがそれに限定されないことを意味するものと理解されるべきである。移行句「~からなる(consisting of)」および「~から本質的になる(essentially consisiting of)」のみが、それぞれクローズまたはセミクローズの移行句であるべきであり、このことは、米国特許庁特許審査便覧(Manual of Patent Examining Procedures)、セクション2111.03において記載されるとおりである。
図1A-C】
図1D-E】
図2A-E】
図2F-J】
図3A-E】
図4A-F】
図5
図6
図7A-C】
図7D-F】
図8A-B】
図9
図10
図11A-C】
図12A-F】
図13A-D】
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
【配列表】
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