(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20231214BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
(21)【出願番号】P 2022113128
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲びん▼汝
(72)【発明者】
【氏名】陳 敬文
(72)【発明者】
【氏名】蔡 坤曄
(72)【発明者】
【氏名】洪 家祺
(72)【発明者】
【氏名】謝 家竣
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 龍田
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213773(JP,A)
【文献】特開2017-019762(JP,A)
【文献】特開2012-072248(JP,A)
【文献】国際公開第2020/102735(WO,A1)
【文献】特開2002-161114(JP,A)
【文献】特開平11-200140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルを含む第1モノマー及び不飽和結合を有する第2モノマーを、ジメチルスルホキシドを含む第1溶媒に溶解し、且つ重合反応を行い、共重合高分子を得、前記第1溶媒100wt%に対して、前記ジメチルスルホキシドの含有量が99.9wt%~100wt%である工程と、
前記共重合高分子に対して紡糸を行う工程と、を含
み、
前記第1溶媒の酸価は、0.02KOHmg/g以下である炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶媒は、ジメチルスルホン及びジメチルスルフィドを更に含み、前記第1溶媒100wt%に対して、前記ジメチルスルホンの含有量は0.0004wt%以下であり、前記ジメチルスルフィドの含有量は0.0008wt%以下である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記第1溶媒の塩基価は、0.01HClO
4mg/g以下である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記重合反応の重合転化率は、90%~100%である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記共重合高分子の落球粘度は、前記共重合高分子を長さ30センチメートル、直径2センチメートルの試験管に入れ、45℃で15分放置した後、直径0.1センチメートルの鋼球を投入し、ストップウォッチで20センチメートルの範囲の鋼球落下時間を記録することで測定され、落球粘度は秒の単位で定義され、前記共重合高分子の落球粘度は、400秒~700秒である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
前記共重合高分子の重量平均分子量は、300000g/mole~500000g/moleである請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
前記共重合高分子の分散性指数は、1.5~3.0である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
前記共重合高分子を第2溶媒に溶解し、前記共重合高分子の前記第2溶媒における重量濃度%は、18%~25%である工程を更に含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
前記紡糸を行う工程は、
糸状の共重合高分子を形成するように、前記第2溶媒に溶解した共重合高分子に対して糸引き工程を行うことと、
一次炭素繊維を形成するように、前記ジメチルスルホキシドを含む凝縮液が収容される凝縮タンクによって前記糸状の共重合高分子に対して凝縮工程を行い、前記凝縮液100wt%に対して、前記ジメチルスルホキシドの含有量は20wt%~50wt%であることと、を含む請求項8に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項10】
前記第1モノマーと前記第2モノマーとの合計100wt%に対して、前記第1モノマーの含有量は95wt%~100wt%である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護意識の高まり及び省エネルギーで効率的な概念の形成に伴い、炭素繊維への需要が高まりつつある。炭素繊維は、耐疲労性に優れ、熱伝導率が高く、摩擦係数が小さく、潤滑性に優れ、熱膨張係数が小さく、耐食性に優れ、X線透過率が高く、及び比熱と導電性が非金属と金属との間にあること等のメリットを有するため、例えば、工業、運動、土木建築、交通輸送、エネルギー、航空宇宙及び軍事等の分野に広く応用されることが多い。しかしながら、炭素繊維の製造過程において、前駆体、プロセス及び炭素化条件によって、製造される炭素繊維の機械的強度及びその他の物性や化性も異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、一般的にポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)系前駆体繊維によって炭素繊維を製造するが、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の品質は、炭素繊維の品質(例えば、炭素繊維の機械的強度等の特性)に直接影響を与えることが多い。従って、良質なポリアクリロニトリル系前駆体繊維を如何に製造するかは、当業者が積極的に研究する重要な課題である。
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の製造方法は、アクリロニトリルを含む第1モノマー及び不飽和結合を有する第2モノマーを、ジメチルスルホキシドを含む第1溶媒に溶解し、且つ重合反応を行い、共重合高分子を得、第1溶媒100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量が99.9wt%~100wt%である工程と、共重合高分子に対して紡糸を行う工程と、を含む。第1溶媒の酸価は、0.02KOHmg/g以下である。
【0005】
本開示の幾つかの実施形態において、第1溶媒は、ジメチルスルホン及びジメチルスルフィドを更に含み、第1溶媒100wt%に対して、ジメチルスルホンの含有量は0.0004wt%以下であり、ジメチルスルフィドの含有量は0.0008wt%以下である。
【0006】
本開示の幾つかの実施形態において、第1溶媒の塩基価は、0.01HClO4mg/g以下である。
【0007】
本開示の幾つかの実施形態において、重合反応の重合転化率は、90%~100%である。
【0008】
本開示の幾つかの実施形態において、共重合高分子の落球粘度は、共重合高分子を長さ30センチメートル、直径2センチメートルの試験管に入れ、45℃で15分放置した後、直径0.1センチメートルの鋼球を投入し、ストップウォッチで20センチメートルの範囲の鋼球落下時間を記録することで測定され、落球粘度は秒の単位で定義され、共重合高分子の落球粘度は、400秒~700秒である。
【0009】
本開示の幾つかの実施形態において、共重合高分子の重量平均分子量は、300000g/mole~500000g/moleである。
【0010】
本開示の幾つかの実施形態において、共重合高分子の分散性指数(polymer dispersity index;PDI)は、1.5~3.0である。
【0011】
本開示の幾つかの実施形態において、共重合高分子を第2溶媒に溶解し、共重合高分子の第2溶媒における重量濃度%は、18%~25%である工程を更に含む。
【0012】
本開示の幾つかの実施形態において、紡糸を行う工程は、糸状の共重合高分子を形成するように、第2溶媒に溶解した共重合高分子に対して糸引き工程を行うことと、一次炭素繊維を形成するように、ジメチルスルホキシドを含む凝縮液が収容される凝縮タンクによって糸状の共重合高分子に対して凝縮工程を行い、凝縮液100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は20wt%~50wt%であることと、を含む。
【0013】
本開示の幾つかの実施形態において、第1モノマーと第2モノマーとの合計100wt%に対して、第1モノマーの含有量は95wt%~100wt%である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の実施形態によると、本開示の第1溶媒は高い含有量のジメチルスルホキシドを有するため、第1溶媒の純度が非常に高く、第1溶媒中に形成される共重合高分子は、純度、分子量、紡糸性、結晶性、重合転化率、機械的強度等の特性の点で優れた性能を有することができる。
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより明確に理解するために、添付図面についての説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の複数の実施形態による炭素繊維の製造方法を図面に基づき説明する。多くの実務上の細部を以下の説明において併せて説明する。これらの実務上の細部は、本発明を制限するために適用されないことを理解されたい。すなわち、本開示の一部の実施形態において、これらの実務上の細部は、必要ではないので、本開示を限定することに用いられるべきではない。
【0017】
本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである
図1を参照する。本開示による炭素繊維の製造方法は、工程S10~工程S60を含む。工程S10において、共重合高分子を形成するように、重合反応を行う。工程S20において、一次炭素繊維を形成するように、紡糸工程(紡糸工程は、糸引き工程と凝縮工程とを含む)を行う。工程S30において、水洗い工程を行う。工程S40において、給油工程を行う。工程S50において、乾燥緻密化工程を行う。工程S60において、炭素繊維を形成するように、焼成工程を行う。以下の説明において、上記の各工程を更に説明する。
【0018】
まず、工程S10において、第1モノマー及び第2モノマーを、第1溶媒に溶解し、且つ重合反応を行い、共重合高分子を得る。本開示に用いられる第1モノマーはアクリロニトリルを含み、第2モノマーは不飽和結合を有する。具体的には、第2モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、酢酸ビニル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、イタコン酸、クエン酸、マレイン酸、メサコン酸、クロトン酸、スチレン、ビニルトルエン、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニリデン、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、上記任意の化合物のアミン塩又はエステル系誘導体が挙げられる。幾つかの実施形態において、第2モノマーは、共重合高分子の溶媒への溶解性、繊維への緻密性及び安定化プロセスにおける酸化反応を促進する機能を考慮することから、イタコン酸であることが好ましい。
【0019】
幾つかの実施形態において、第1モノマーと第2モノマーとの合計100wt%に対して、第1モノマーの含有量は95wt%~100wt%であってもよく、即ち、第2モノマーの含有量は5wt%未満であってもよい。上記含有量の範囲では、第1モノマーは高い含有率を有するため、後の焼成工程の間における、後に形成される炭素繊維前駆体(後述)に欠陥が生じることを回避し、炭素繊維の機械的強度を向上させることができる。詳細には、第1モノマーの含有量が95wt%未満であると、焼成工程の間において炭素繊維前駆体は過剰な質量を失うおそれがあり、そして、欠陥が生じやすくなる。好適な実施形態において、第1モノマーと第2モノマーとの合計100wt%に対して、第1モノマーの含有量は99wt%~100wt%であってもよく、即ち、第2モノマーの含有量は1wt%未満であってもよく、これにより、上記効果を良く実現し、炭素繊維はより好適な機械的強度を有するようになる。
【0020】
本開示の第1溶媒はジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide;DMSO)を含み、第1溶媒100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は99.9wt%~100wt%である。具体的には、第1溶媒の純度(本開示ではジメチルスルホキシドの含有量である)及び品質は、重合反応により生成される共重合高分子の純度、分子量、紡糸性、結晶性、重合転化率、機械強度などの特性に対して非常に重要であり、かつ、第1溶媒中のジメチルスルホキシドが上記含有量の範囲にあると、第1溶媒が非常に高い純度を有することを意味し、そのため、第1溶媒に形成される共重合高分子も上記特性において優れた性能を有することができる。詳細には、ジメチルスルホキシドの含有量が99.9wt%未満であると、重合反応により生成される共重合高分子の純度が低すぎ、分子量が低すぎ、紡糸性や結晶性が悪く、及び重合転化率が低すぎ、最終的に形成される炭素繊維の機械的強度が低くなるおそれがある。
【0021】
幾つかの実施形態において、本開示の第1溶媒は、ジメチルスルホン(methylsulfonylmethane;MSM)及びジメチルスルフィド(dimethyl sulfide;DMS)を更に含み、第1溶媒100wt%に対して、ジメチルスルホンの含有量は0.0004wt%以下であってもよく、ジメチルスルフィドの含有量は0.0008wt%以下であってもよい。具体的には、ジメチルスルホキシドは、ジメチルスルフィドの酸化により製造されることができ、且つ製造過程において完全に反応していないジメチルスルフィド及びジメチルスルホキシドにより酸化されたジメチルスルホンが存在することが多いため、ジメチルスルフィド及びジメチルスルホンの含有量が多すぎると、第1溶媒の純度及び品質に影響を与え、重合反応により生成される共重合高分子の純度が低すぎ、分子量が低すぎ、紡糸性や結晶性が悪く、及び重合転化率が低すぎ、最終的に形成される炭素繊維の機械的強度が低くなることを招く。本開示は、ジメチルスルホン及びジメチルスルフィドの含有量を上記範囲に制御することにより、炭素繊維が高い機械的強度を有することを確保する。詳細には、ジメチルスルホンの含有量が0.0004wt%より多く、及び/又は、ジメチルスルフィドの含有量が0.0008wt%より多いと、後に形成される炭素繊維の機械的強度が低くなりすぎる。他の実施形態において、本開示の第1溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の有機溶媒又はこれらの組み合わせ、あるいは、二塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機塩類水溶液又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
幾つかの実施形態において、第1溶媒の酸価は、0.02KOHmg/g以下であってもよく、第1溶媒の塩基価は、0.01HClO4mg/g以下であってもよい。具体的には、プロセスにより循環回収して再利用されるジメチルスルホキシドは、メタンスルホン酸を生成しやすく、第1溶媒の酸性度が高すぎ、第1溶媒に形成される共重合高分子の分子量が低すぎ、更に紡糸性と結晶性が悪く、更に最終的に形成される炭素繊維の機械的強度が低いことを招く。本開示は、第1溶媒の酸価及び塩基価を上記範囲に制御することにより、炭素繊維が高い機械的強度を有することを確保する。より詳細には、第1溶媒の酸価が0.02KOHmg/gより大きく、及び/又は、第1溶媒の塩基価が0.01HClO4mg/gより大きいと、後に形成される炭素繊維の機械的強度が低くなりすぎる。
【0023】
工程S10を行う間、重合反応は、溶液重合法、懸濁重合法、又は乳化重合法を用いて行うことができ、溶液重合法を用いることが好ましい。具体的には、第1モノマー、第2モノマー及び第1溶媒を一度に撹拌槽式重合反応器に入れ、一定の反応条件で撹拌しながら重合反応を行い、共重合高分子を得ることができる。幾つかの実施形態において、重合転化率を向上させるように、重合反応の反応温度は、60℃~90℃であってもよい。幾つかの実施形態において、重合反応の重合転化率は、90%~100%であってもよく、形成される共重合高分子の分子量分布は一定の範囲内にあり、後に形成される炭素繊維に欠陥が生じる可能性を低下させ、且つ炭素繊維の機械的強度を向上させる。詳細には、重合転化率が90%未満であると、後に形成される紡糸原液に多すぎるオリゴマー及び/又はポリマー等の不純物が存在する可能性があり、ここで、オリゴマーは共重合高分子の規則性を破壊するだけでなく、後の予備酸化過程において大量の分解物とタール状物を生成し、炭素繊維の欠陥を招く一方、ポリマーは重合反応が進行する間にゲル構造を生成し、重合反応の進行に不利であり、高性能(例えば、高い機械的強度)の炭素繊維の製造要求を満たすこともできない。
【0024】
幾つかの実施形態において、共重合高分子の分散性指数(polymer dispersity index;PDI)は、1.5~3.0であってもよく、紡糸工程の加工性を向上させ、炭素繊維に欠陥が生じる可能性を低下させ、且つ炭素繊維の機械的強度を向上させる。詳細には、共重合高分子の分散性指数が3.0より大きいと、炭素繊維は、欠陥の生じにより高い機械的強度を有することができないおそれがある。共重合高分子の分散性指数が1.5未満であると、紡糸工程の加工制限が多すぎ、後の紡糸工程に不利であるおそれがある。幾つかの実施形態において、共重合高分子の重量平均分子量は、300000g/mole~500000g/moleであってもよく、後の紡糸工程の加工性を向上させ、且つ炭素繊維の機械的強度を向上させる。詳細には、共重合高分子の重量平均分子量が300000g/mole未満であると、紡糸原液は粘度が低すぎるため、紡糸工程により更に成形することが困難となり、高い機械的強度の炭素繊維を形成するのに不利になるおそれがある。共重合高分子の重量平均分子量が500000g/moleより大きいと、紡糸原液は粘度が高すぎるため、口金を閉塞し、且つ紡糸原液に対する糸引きが困難となり、機械的強度の高い炭素繊維の形成に不利になるおそれがある。
【0025】
幾つかの実施形態において、共重合高分子の落球粘度は、400秒~700秒であってもよく、共重合高分子は良好な延伸性及び溶解性を有して、後の糸引き、凝縮及び延伸等の工程を行うのに有利であり、炭素繊維の機械的強度を向上させる。詳細には、落球粘度が400秒未満であると、共重合高分子の強度が十分ではないことを意味し、高倍率延伸を行うことができず、最終的に形成される炭素繊維の機械的強度が十分ではないことを招きやすい。落球粘度が700秒より高いと、高分子の溶解性が悪いことを意味し、凝縮工程の際に糸切れを生じやすく紡糸できない。
【0026】
次に、工程20において、一次炭素繊維を形成するように、紡糸工程を行う。具体的には、紡糸工程は、糸引き工程及び凝縮工程を順次含んでもよい。まず、紡糸原液を形成するように、共重合高分子を適当な濃度で第2溶媒に溶解し、次いで紡糸原液に対して糸引き工程を行って糸状の共重合高分子を形成してもよい。幾つかの実施形態において、第2溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒、又はこれらの組み合わせが挙げられる。他の実施形態において、第2溶媒としては、例えば、二塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機塩類水溶液又はこれらの組み合わせが挙げられる。第2溶媒のタイプは、第1溶媒に相当するタイプを選択すべきと了解され、一例としては、第1溶媒がジメチルスルホキシドを含む場合、第2溶媒もジメチルスルホキシドを含むべきである。また、別の例としては、第1溶媒がジメチルホルムアミドを含む場合、第2溶媒もジメチルホルムアミドを含むべきである。幾つかの実施形態において、共重合高分子の第2溶媒における重量濃度%は、18%~25%であってもよく、糸引き工程により適切な緻密性を有する糸状の共重合高分子を形成することに有利である。詳細には、共重合高分子の第2溶媒における重量濃度%が18%未満であると、紡糸原液は高倍率の延伸を受けることができず、且つ糸引きにより得られた糸状の共重合高分子の構造が疎であり、炭素繊維の機械的強度が比較的低いことを招く。共重合高分子の第2溶媒における重量濃度%が25%より大きいと、第2溶媒の共重合高分子に対する溶解能力が不足であり、紡糸原液の均一性が悪く且つ粘度が高すぎることを招き、更に紡糸原液の流動性が低いことを招き、紡糸プロセスの安定性に不利である。
【0027】
次に、一次炭素繊維を形成するように、乾噴湿式紡糸又は湿噴湿式紡糸のプロセスによって糸状の共重合高分子に対して凝縮工程を行ってもよい。具体的には、凝縮タンクから一次炭素繊維を吐出するように、凝縮タンクによって糸状の共重合高分子に対して凝縮工程を行ってもよい。凝縮タンク中の凝縮液の濃度、凝縮工程の温度(凝縮液の温度)、凝縮タンク出口の牽引張力及び延伸倍率等の条件を調整することにより、一次炭素繊維の孔のサイズを制御することができる。幾つかの実施形態において、凝縮液は、ジメチルスルホキシドを溶解した水溶液を含んでもよく、凝縮液100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は20wt%~50wt%である。詳細には、ジメチルスルホキシドの含有量が20wt%未満であると、糸状の共重合高分子が凝縮液から析出することや凝固する速度が速すぎることを招き、一次炭素繊維の構造が疎で且つ表面の孔のサイズが比較的大きいことを招くおそれがある。ジメチルスルホキシドの含有量が50wt%より大きいと、糸状の共重合高分子の凝縮液における凝固速度が遅すぎることを招き、一次炭素繊維が完全に凝縮できず、一次炭素繊維が後の水洗、延伸等の工程の間に単繊維の粘着を生成するおそれがある。幾つかの実施形態において、凝縮工程の温度は、3℃~40℃であってもよく、一次炭素繊維の緻密性を向上させることに有利であり、且つ一次炭素繊維の孔のサイズを適切な範囲に制御させる。詳細には、凝縮温度が3℃未満であると、一次炭素繊維の孔のサイズが目標範囲より小さいことを招くおそれがある。凝縮温度が40℃より大きいと、一次炭素繊維の構造が疎すぎ、高い機械的強度の炭素繊維を形成することに不利である。
【0028】
続いて、工程S30において、水洗槽を用いて、一次炭素繊維に対して水洗工程を行うことができる。水洗槽中の水洗液の濃度、水洗工程の温度(水洗液の温度)などの条件を調整することにより、単繊維の粘着を回避することができ、且つ一次炭素繊維の孔のサイズを制御することができる。幾つかの実施形態において、水洗槽は、ジメチルスルホキシドを溶解した水溶液(水洗液ともいう)を含んでもよく、水洗液100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は1wt%~10wt%であってもよい。幾つかの実施形態において、水洗工程の温度は、70℃~90℃であってもよいが、複数段の水洗工程であると、最終段の水洗工程の温度は、更に、90℃~95℃に上昇することができる。好適な実施形態において、溶媒が残留して一次炭素繊維に不必要な孔を形成することを好ましく回避するために、水洗工程の温度は、100℃(即ち水洗液が沸騰状態にある)であることが好ましい。幾つかの実施形態において、水洗工程を行う前に、一次炭素繊維に対して延伸工程を行い、2倍~5倍の延伸倍率で一次炭素繊維を延伸してもよい。具体的には、延伸工程は、高温ホットローラ、高温ホットプレートを用いるか、又は高温高圧蒸気において延伸するなどの方式によって行うことができる。好適な実施形態において、複数段階の延伸工程及び複数段階の水洗工程を行うことができ、且つ延伸工程及び水洗工程は、例えば、交互に行われてもよい。
【0029】
次に、工程S40において、一次炭素繊維に対して給油工程を行い、工程S50において、給油後の一次炭素繊維に対してホットローラによって乾燥緻密化工程を行う。幾つかの実施形態において、乾燥緻密化工程の温度は、一次炭素繊維の含水率に応じて対応して調整することができ、且つ乾燥緻密化工程の温度は、100℃~200℃であってもよい。乾燥緻密化工程の後、一次炭素繊維に対して延伸工程を行い、2倍~5倍の延伸倍率で一次炭素繊維を延伸してもよい。具体的には、延伸工程は、高温ホットローラ、高温ホットプレートを用いるか、又は高温高圧蒸気において延伸するなどの方式によって行うことができる。工程S50を完了した後、炭素繊維前駆体が得られる。
【0030】
続いて、工程S60において、炭素繊維を形成するように、炭素繊維前駆体に対して焼成工程を行う。焼成工程は、業界で公知の方法で行うことができ、例えば、安定化、炭素化、表面処理及びサイジングの4段階の工程を順次含む。具体的には、安定化工程は、炭素繊維前駆体を適切な張力及び200℃~300℃の空気で反応させ、安定化工程を経た後の炭素繊維前駆体の繊維密度は、1.3g/cm3~1.4g/cm3であってもよい。炭素化工程は、炭素繊維前駆体を高温の不活性ガスにおいて高温炭素化を行うことであり、また、炭素繊維の機械的強度を向上させるために、炭素化温度は1000℃~2000℃であってもよく、必要であれば、更に炭素化温度を2000℃~3000℃の間にあるように上昇させ、黒鉛化を行う。表面処理工程は、炭素繊維と樹脂との結合能力を向上させることができ、化学グラフト、プラズマ、電解、オゾン処理等の方式を含み、プラズマ処理を用いることが好ましい。サイジング工程は、表面処理後の炭素繊維前駆体に対して水洗乾燥工程を行い、更に含浸の方式でスラリーを炭素繊維前駆体の表面に付着させ、炭素繊維は良好な耐摩耗性、集束性等の保護効果を有する。工程S60を完了した後、本開示の高い機械的強度を有する炭素繊維が得られる。
【0031】
以下、各実施例及び各比較例の炭素繊維を参照しながら、本開示の特徴及び効果をより具体的に説明する。本開示の範囲を逸脱しない限り、使用する材料、その使用量及び割合、処理細部、及び処理手順等を、適宜、変更することは了解される。従って、本開示は以下に説明した実施例によって限定的に解釈されるべきではない。各実施例及び各比較例についての詳細説明は以下の通りである。
【0032】
各実施例及び各比較例の炭素繊維の製造方法は、以下の工程を含む。98wt%のアクリロニトリルを第1モノマーとし、2wt%のイタコン酸を第2モノマーとし、第1溶媒に重合反応を行い、共重合高分子を形成した。共重合高分子を含む溶液(紡糸原液)を紡糸ノズルから空気に吐出した後、35wt%のジメチルスルホキシドの水溶液及び3℃の凝縮温度で凝縮タンクに一次炭素繊維を形成した。一次炭素繊維に対して水洗工程を行った後、沸騰水で2段階に分けて総延伸倍率が3.5倍の延伸工程を行う。1.5wt%の油剤及び30℃の温度で油剤槽において一次炭素繊維に対して給油工程を行う。温度が175℃のホットローラで給油後の一次炭素繊維に対して乾燥緻密化工程を行う。高圧蒸気において一次炭素繊維に対して延伸倍率が3.5倍の延伸工程を行い、これにより炭素繊維前駆体を形成した。炭素繊維前駆体を空気中で240℃から280℃まで段階的に昇温させ、前後の牽引ローラの速度比を1.0に制御して炭素繊維前駆体の張力を維持する条件で安定化工程を行い、且つ安定化した炭素繊維前駆体の繊維密度は1.35g/cm3である。安定化した炭素繊維前駆体を窒素ガス中で300℃から800℃まで段階的に昇温させ、かつ前後牽引ローラの速度比を0.9に制御する条件で低温炭素化を行い、更に温度を900℃から1800℃まで段階的に昇温し、かつ前後牽引ローラの速度比を0.95に制御する条件で高温炭素化を行う。炭素化した炭素繊維前駆体に対して電解表面処理を行う。表面処理した炭素繊維前駆体に対して水洗、乾燥及びサイジング工程を行い、炭素繊維を得た。重合反応に使用した第1溶媒についての詳細説明、共重合高分子の特性及び紡糸原液中の共重合高分子の含有量は表1に示す通りである。
【0033】
【0034】
<試験例1:共重合高分子の紡糸性試験>
本試験例では、各実施例及び各比較例の共重合高分子に対して連続的な紡引き時間をテストし、紡糸性試験を行った。テスト結果は表2に示す通りである。
【0035】
【0036】
テストの結果から分かるように、各比較例に比べて、各実施例の共重合高分子は明らかに長い連続的な紡引き時間を有し、本開示の方法で製造された共重合高分子は優れた紡糸性を有することを示す。
【0037】
<試験例2:一次炭素繊維の毛羽のテスト>
本試験例では、各実施例及び各比較例の一次炭素繊維を束ねて捲縮し、1000mの一次炭素繊維の毛羽数を算出して毛羽のテストを行った。テスト結果は表3に示す通りである。
【0038】
【0039】
テストの結果から分かるように、各比較例に比べて、各実施例の一次炭素繊維は、明らかに毛羽の本数が少なく、比較的に安定した構造特性を有することを示す。
【0040】
<試験例3:繊維の強度テスト>
本試験例では、各実施例及び各比較例について、標準的方法であるASTM D4018-99を用いて炭素繊維の強度テストを行った。テストの結果を表4に示す。
【0041】
【0042】
テストの結果から分かるように、各比較例に比べて、各実施例の炭素繊維は明らかに高い強度を有し、優れた繊維強度を有することを示す。
【0043】
本開示の上記実施形態によれば、本開示の第1溶媒は高い含有量のジメチルスルホキシドを有するため、第1溶媒の純度が非常に高く、第1溶媒中に形成される共重合高分子は、純度、分子量、紡糸性、結晶性、重合転化率、機械的強度等の特性の点で優れた性能を有する。また、第1溶媒の酸価と塩基価、重合反応の重合転化率、共重合高分子の落球粘度、分子量及び分散性指数を調整することにより、更に本開示の炭素繊維は優れた機械的強度などを有し、より広く適用されることができる。
【0044】
以上、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0045】
S10~S60 工程