(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ロボット支援溶接法中のコンタクトパイプの摩耗確認方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231214BHJP
B23K 9/26 20060101ALI20231214BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20231214BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K9/26 D
B23K9/12 C
B23K31/00 N
(21)【出願番号】P 2022518391
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2021063102
(87)【国際公開番号】W WO2021233891
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイア,ヨーゼフ
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06130407(US,A)
【文献】特開2003-053547(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0234816(US,A1)
【文献】特開2018-158382(JP,A)
【文献】登録実用新案第3206212(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、
10/00 - 10/02
B23K 31/00 - 31/02、
31/10 - 33/00、
37/00 - 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗品である溶接ワイヤ(6)を有する溶接トーチ(4)を用いてワークピース(W)をロボット支援溶接する方法中に、コンタクトチューブ(5)の磨耗を確認する方法で、
溶接電流(I)を測定し、測定された溶接電流(I)を介してコンタクトチューブ(5)の磨耗が決定され、測定された溶接電流(I)が、測定された溶接電圧(U)との比として表され、溶接電圧(U)に対する溶接電流(I)の比が、コンタクトチューブ(5)の摩耗を評価するために使用され、かつ少なくとも1つの定義された閾値(S
si)と比較される、方法であって、
測定された溶接電流(I)を測定された溶接電圧(U)で割ってコンダクタンス(G)を形成し、コンダクタンス(G)を少なくとも1つの定義されたコンダクタンス閾値(G
i)と比較し、または測定された溶接電圧(U)を測定された溶接電流(I)で割って抵抗(R)を形成し、抵抗(R)を少なくとも1つの定義された抵抗閾値(R
i)と比較して、少なくとも1つの定義されたコンダクタンス閾値(G
i)または少なくとも1つの定義された抵抗閾値(R
i)に達すると警報を発
し、
測定された溶接電流(I)と測定された溶接電圧(U)の比は、時間(t)にわたって平均化されることを特徴とする方法。
【請求項2】
溶接電流(I)および溶接電圧(U)は、溶接電流(I)が最大値(I
max)を有する時間、特にパルスプロセスの場合にはパルス相の終了時に、または短絡ベースのアーク溶接プロセスの場合にはアーク相中の短絡相の終了後に、測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの定義されたコンダクタンス閾値(G
i)または少なくとも1つの定義された抵抗閾値(R
i)が設定されることを特徴とする請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
警告は、音響的、光学的、および/または触覚的形態で発せられることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
警告が発せられた場合、溶接トーチ(4)またはコンタクトチューブ(5)の端部からワークピース(W)までの距離(Δd)が低減され、これによりコンタクトチューブ(5)の摩耗が補償されることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶接トーチ(4)またはコンタクトチューブ(5)の端部からワークピース(W)までの距離(Δd)が確認されることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
警告が発せられた場合に、基準金属板上で溶接が行われることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
溶接電流(I)および溶接電圧(U)は、10kHz~100kHzのサンプリング周波数(f
A)で測定されることを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
溶接電流(I)および溶接電圧(U)は、1ms~300msの時間間隔(Δ
tM)で平均化されることを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
コンダクタンス(G)または抵抗(R)は、溶接方法の時間(t)の関数として記録されることを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗品である溶接ワイヤを備えた溶接トーチ用いた、ワークピースのロボット支援溶接方法中に、溶接電流が測定され、測定された溶接電流を介してコンタクトチューブの摩耗が決定される、コンタクトチューブの摩耗を確認する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消耗品である溶接ワイヤを用いた溶接方法、特にMIG(メタルイナートガス)溶接やMAG(メタルアクティブガス)溶接では、溶接ワイヤを溶接シームに向けて移動させるのに使用され、アークを形成する溶接電流が流される、コンタクトチューブが経時的に摩耗する。溶接ワイヤとコンタクトチューブの摩擦により、溶接ワイヤに電流を流す接点が、コンタクトチューブから溶接ワイヤが出るコンタクトチューブ先の端部から、コンタクトチューブの溶接トーチへの取り付け方向に徐々に移動する。もし溶接電流を低減せず、またはワイヤ送給量を増加させると、溶接ワイヤが出るコンタクトチューブの端部と、ワークピースの表面との間の一定の距離でアークが長くなる。この結果、溶接ワイヤの電流通過部分の長さ、すなわち電流が溶接ワイヤに通過するコンタクトチューブ内の接点から溶接ワイヤが溶融するアークの開始点までの長さは、溶接ワイヤの材料、直径、送給速度、および溶接電流の大きさに依存する。このため、溶接ワイヤに一定の電流を流すためのアーク長、すなわち溶接ワイヤの先端からワークピースまでの距離も変化する。この距離を一定に保つために、溶接電流および/またはワイヤ送給量および/またはコンタクトチューブの端部までの距離を変更することができる。これにより、コンタクトチューブの摩耗、すなわちコンタクトチューブ内の接点の変位をある程度補うことができる。その後、溶接プロセスを継続するためには、摩耗したコンタクトチューブを交換する必要がある。
【0003】
溶着溶接(クラッディング)のようないくつかの溶接方法では、塗布する層の厚さが一定で、母材の溶融が一定であり、したがって溶接品質が一定であるために、一定の溶接パラメータが特に重要である。
【発明の概要】
【0004】
特許EP 1 283 088 A1には、溶接方法におけるコンタクトチューブの摩耗を確認する方法が記載されており、溶接電圧と溶接電流を測定し、測定値の平均値から交換指数を算出することが記載されている。この交換指数がある基準値に達した場合、コンタクトチューブの交換が必要であることが示される。
【0005】
文献EP 2 686 129 B1には、コンタクトチューブの摩耗をリアルタイムで監視する方法が記載されており、溶接接合部の数に対する溶接電流の平均値が監視され表示される。溶接工程の時間が長くなると、コンタクトチューブと溶接ワイヤの接触点が溶接トーチに向かって後方に移動する結果、溶接電流の平均値が減少する。溶接電流の平均値が所定値を下回ると、警告が発せられる。溶接電流が一定の値に調節される溶接方法においては、溶接電流をコンタクトチューブの摩耗を示すために使用することはできない。
【0006】
本発明の目的は、コンタクトチューブの摩耗を確認するための上述の方法を作製することにあり、この方法は、アーク長を一定に保つための調節された変数とは無関係に、コンタクトチューブの実際の摩耗に関してより信頼できる情報を提供し、コンタクトチューブを交換すべき時期をできるだけ正確に示している。この方法は、できるだけ簡単かつ費用対効果の高い方法で実施されるように設計されている。先行技術の欠点は、低減または防止されることである。
【0007】
この目的は、測定された溶接電流を測定された溶接電圧との比として表し、溶接電流と溶接電圧との比を、少なくとも1つの定義された閾値との比較によってコンタクトチューブの摩耗を評価するために使用し、少なくとも1つの定義された閾値に達したときに警告を発することにより達成される。溶接電流を溶接電圧の比で表すことは、アークのコンダクタンスまたは抵抗がコンタクトチューブの摩耗を評価するために使用することを意味する。これにより、コンタクトチューブの摩耗を評価するための、上述のアーク長を調整するための制御変数に依存しない、より信頼性の高いパラメータを見出すことができる。溶接工程における溶接電流と溶接電圧は、いずれにせよ記録されるので、この方法を実施するのに必要な労力は非常に少なく、溶接装置の制御装置に関連するプログラミングを必要とするだけである。溶接ワイヤの端部で測定することができないために、アーク上で直接電圧を測定することができないので、溶接ワイヤ端部通過電流中の電圧降下を含めて電圧を測定する。溶接電流は、溶接回路(溶接ワイヤ、アークなど)内ではどこでも同じである。従って、溶接電流と溶接電圧の比がそのままアークの抵抗やコンダクタンスに等しくなるわけではない。しかしながら、コンタクトチューブの摩耗の程度を確認するためには、抵抗やコンダクタンスの絶対値ではなく、溶接期間中のそれらの値の変化を評価するため、溶接電圧をどこで測定するかは関係ない。したがって、溶接電圧は、電流源の出力端子で測定することも、コンタクトチューブとワークピースのアース接続部との間で直接測定することも、溶接導体に沿って他の任意の場所で測定することも可能である。これにより、使用されるアーク制御の方法(溶接電流、ワイヤ送給速度、および/または距離)に関係なく、コンタクトチューブの磨耗を適時かつ確実な方法でユーザーに知らせ、コンタクトチューブを適時に交換することができ、その結果、高品質で溶接プロセスを継続できるようになる。
【0008】
溶接電流と溶接電圧の測定は、比、すなわち抵抗またはコンダクタンスをできるだけ正確に決定できるように、溶接電流が最大値を持つときに行うことが好ましい。パルスプロセスの場合、電流値が最大になるのは、通常、パルスの終点で電流値が上昇した後である。このとき、電流の変化率di/dt=0なので、溶接回路のインダクタンスにかかる電圧降下はゼロになる傾向がある。したがって、理想的な測定時間は、最大電流レベルが設定された時点である。この時点から、あらかじめ一定期間記録した複数の測定値の平均化を行うことができる(後述)。また、短絡系のアーク溶接プロセスなど、他の溶接プロセスにおいても、最大電流が発生する時点が最適となる。アーク相での最大溶接電流は、通常、短絡相の終了後に発生する。測定は、理想的な時間、すなわち短絡がトリガーされた後、所定の時間間隔で短絡によってトリガーすることができ、または所定の時間ウィンドウ内で短絡が検出されない場合、予め定められた時間間隔で周期的に繰り返される方法でトリガーすることができる。
【0009】
本発明の別の特徴によれば、測定された溶接電流と測定された溶接電圧の比は、時間的に平均化される。これにより、信号を適宜平滑化することができ、個々の異常値によるコンタクトチューブの摩耗の誤った評価を防止できる。
【0010】
好ましくは、測定された溶接電流を測定された溶接電圧で割ってコンダクタンスを形成し、少なくとも1つの定義されたコンダクタンス閾値とコンダクタンスを比較し、少なくとも1つの定義されたコンダクタンス閾値に達すると、警告を発するようにする。計算されたアークのコンダクタンスは、コンタクトチューブの摩耗の進行とともに減少し、これは、コンダクタンスが予め定義された閾値を下回ることによってコンタクトチューブの摩耗を信頼性高く示すことができることを意味する。もちろん、コンダクタンスに複数の閾値を設けるまたは定義することで、摩耗の変化を段階的に示すことも可能である。例えば、コンダクタンスに第1の上位閾値を定義することにより、コンタクトチューブの摩耗の最初の、初期のレベルを示し伝えることができ、コンダクタンスの第2の中位閾値は、コンタクトチューブの摩耗の進行レベルを示し、伝え、コンダクタンスの第3の下位閾値は、コンタクトチューブの許容できないレベルの摩耗とその必須の交換を示し伝えることができる。したがって、個別に定義された閾値は、コンタクトチューブの予め定義された摩耗レベルに達したときにメッセージを形成するために使用される。
【0011】
同様に、測定された溶接電圧を測定された溶接電流で割って抵抗を得ることもでき、抵抗を少なくとも1つの定義された抵抗閾値と比較することができ、少なくとも1つの定義された抵抗閾値に達すると、警告を発することができる。コンダクタンスの場合と同様に、ここでは、抵抗に関する少なくとも1つの定義された閾値を超えた場合に、コンタクトチューブの摩耗の存在が示される。
【0012】
有利なことに、コンダクタンスまたは抵抗の少なくとも1つの定義された閾値は、設定または入力することができる。これにより、経験に基づいて、またはそれぞれの溶接方法に応じて、コンタクトチューブの摩耗限界の仕様を最適に調整することができる。例えば、特に高い品質が要求されるワークピースを製造する場合には、低い品質が要求されるワークピースを製造する場合よりも、摩耗限界をより小さい値またはより低い値に設定または入力することができる。
【0013】
警告は、音響、視覚、触覚のいずれでも出すことができる。これにより、溶接作業中にコンタクトチューブの磨耗を溶接士または上位のコントロールセンターに適切に伝えることができる。複数の閾値が定義されている場合、それぞれの警告信号を変更することで、コンタクトチューブの摩耗を段階的に示すことができる。例えば、音響警告信号の音量または周波数、光学警告信号の色、触覚警告信号の強度によって、コンタクトチューブの摩耗の程度を知らせることができる。
【0014】
有利なことに、警告が発せられた場合、溶接トーチまたはコンタクトチューブの端部からワークピースまでの距離を短縮され、それによってコンタクトチューブの摩耗が補償される。このようにして、実質的に一定の溶接品質で一定時間溶接を継続することができ、コンタクトチューブの溶接時間および寿命を延ばすことができる。このように、コンダクタンスまたは抵抗は、定義された摩耗限界の閾値を使用して、溶接トーチまたはコンタクトチューブからワークピースまでの距離の実際の値を調整することにより、ロボットコントローラにおける距離調整に使用することが可能である。最後の摩耗限界としての閾値は、距離調節のための最小距離を定義し、同時にコンタクトチューブの交換の必要性を示す。
【0015】
また、溶接中に溶接トーチやコンタクトチューブの先端からワークピースまでの距離を確認すれば、溶接トーチがワークピースに近付きすぎていないかどうかを示すことができる。この距離は、光学的方法など、幅広い方法を用いて決定することができる。
【0016】
本発明の別の特徴によれば、警告が発せられた場合に、基準金属板上で溶接が行われると、溶接電流と溶接電圧との比を用いて、コンタクトチューブの摩耗の評価をさらに向上させ、非常に正確にチェックすることができる。基準溶接は、コンタクトチューブの摩耗によって実際のフリー溶接ワイヤの長さが変化したかどうかを確認するために使用することができる。これは、ワークピースの溶接シームの場合のように、基準溶接がコンタクトチューブの距離の公差に左右されない限りにおいて有利である。
【0017】
有利なことに、溶接電流と溶接電圧は、10kHz~100kHzのサンプリング周波数で測定される。このような値は、十分に高い測定精度と限られた処理労力を提供するのに適していることが証明されている。
【0018】
好ましくは、溶接電流および溶接電圧は、1ms~300msの期間にわたって平均化される。このような平均化間隔は、異常値による誤った測定結果を防止または低減することができる。
【0019】
溶接電流と溶接電圧の比を、溶接工程中の溶接経路の位置の関数として、および/または溶接方法の溶接期間の関数として、記録または記憶すれば、データを文書化のために提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明は、以下に示す添付図面を参照することにより、さらに詳細に説明される。
【0021】
【
図1】消耗品である溶接ワイヤを用いて溶接プロセスを行うための溶接装置のブロック図である。
【
図2A】新しいコンタクトチューブの模式的断面図である。
【
図2B】摩耗したコンタクトチューブの模式的断面図である。
【
図3】溶接電流、溶接電圧、および溶接電流と溶接電圧の比、即ちコンダクタンスの、模式的な時間波形の一例である。
【
図4】溶接電流、溶接電圧、および溶接電圧と溶接電流の比、即ち抵抗の、模式的な時間波形の一例である。
【
図5】時間または溶接期間の関数としての、溶接電流と溶接電圧の実際の比の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、消耗品である溶接ワイヤ6を用いて溶接処理を行うための溶接装置1のブロック図であり、溶接ロボット2が、処理すべき少なくとも1つのワークピースWの上に、予め定められた溶接経路Xに沿って溶接トーチ4を案内する。消耗品である溶接ワイヤ6は、溶接トーチ4内のコンタクトチューブ5を介してワークピースWに搬送される。コンタクトチューブ5内では、溶接電流源3から供給される溶接電流Iが溶接ワイヤ6に流され、溶接加工時にコンタクトチューブ5から突出したワイヤの端部でワークピースWに対するアークLが燃焼されるようになっている。
【0023】
図2Aは、新しいコンタクトチューブ5の模式的断面図である。消耗品の溶接ワイヤ6は、コンタクトチューブ5内の対応する孔7を通って搬送される。新しいコンタクトチューブ5の場合、孔7は本質的に円筒形であり、溶接ワイヤ6との接触は、溶接ワイヤ6がコンタクトチューブ5から出るコンタクトチューブ5の端部8の近くで行われる。従って、接触点Kは、コンタクトチューブ5の開口部または端部8に位置する。溶接ワイヤ6の電流通過部分の長さl
idは、ここでは、フリーワイヤ長さl
s、すなわちコンタクトチューブ5の端部8から溶接ワイヤ6の端部までの長さに相当する。その結果、溶接ワイヤ6の電流通過部分の長さl
id(接点Kからアークが始まる溶接ワイヤ6の端部まで)は、溶接ワイヤ6の材料、直径、送給速度、および溶接ワイヤ6を流れる溶接電流Iに依存する。通常、電流を流す溶接ワイヤ6の所望の長さl
idが得られるように、溶接ワイヤ6の送給速度および溶接電流Iを調整する。溶接トーチ4またはコンタクトチューブ5の端部8からワークピースWまでの距離Δdは、溶接ワイヤ6の端部からワークピースWまでの距離l
LがアークLを形成するのに適し、安定した溶接加工が行えるように選択される。距離l
Lを一定に保つために、溶接ワイヤ6の送給速度および/または溶接電流Iなどのパラメータ、ならびに溶接トーチ4からワークピースWまでの距離Δdを、変化させることができる。
【0024】
図2Bは、摩耗したコンタクトチューブ5の模式的な断面を示す。摩耗したコンタクトチューブ5では、コンタクトチューブ5の接点Kから溶接ワイヤ6への永久電流の伝達により、コンタクトチューブ5の材料が連続的に摩耗するため、孔7が拡がる。このように、溶接ワイヤ6への接触は、さらに奥で行われる。従って、ここでの接触点Kは、コンタクトチューブ5の端部8から距離l
Kだけ後方に位置する。溶接ワイヤ6の送給速度および/または溶接電流Iを変えない場合、電流通過型溶接ワイヤ6の長さl
idは
図2Aによる実施例と同じままで、フリーワイヤ長lsは
図2Aと比較してこのように短くなる。したがって、溶接ワイヤ6の溶融端部からワークピースWの表面までの距離l
Lは、
図2Aに比べて、接点Kからコンタクトチューブ5の端部8までの距離l
Kだけ長くなり、溶接ワイヤ6の端部とワークピースWとの間で燃焼するアークLが、コンタクトチューブ5の端部8からこの距離l
Kだけ長くなってしまう。このため、溶接特性が劣化するので、距離l
Lを再び
図2Aによる長さに短縮する必要がある。
【0025】
アークの長さLまたは距離lLは、通常、次の3つの規制方法(A、B、C)により短縮され、これらはコンタクトチューブ5の摩耗を補償するために個別にまたは組み合わせて使用でき、方法Aでは電流通過溶接ワイヤ6の長さLidは変化せず、方法BおよびCではそれが増加する。
【0026】
A.)溶接ロボット2を用いた溶接トーチ4の対応する移動により、溶接トーチ4またはコンタクトチューブ5の端部8からワークピースWまでの距離Δdを小さくする。この場合、電流通過型溶接ワイヤ6の長さlidと溶接電流I、および溶接ワイヤ6のは変化しないままである。この場合、溶接シームの断面および消費される母材の量は、基本的に一定に保たれるという利点がある。
【0027】
B.)溶接ワイヤ6の送給速度を増加させる。電流通過型溶接ワイヤ6の長さlidとフリーワイヤ長さlSは、接点Kからコンタクトチューブ5の端部8までの距離lKだけ増加する。なお、溶接トーチ4からワークピースWまでの距離Δdは変化しない。この方法では、溶接シームの断面がわずかに増加する。溶接ワイヤ6の送給速度は、電流源3によって制御または調節される。この方法の利点は、コンタクトチューブ5内の接触点Kが変化しても溶接ロボット2は動作する必要がなく、溶接電流Iが変化しないので、消費される母材の量が基本的に変わらないことである。
【0028】
C.)溶接電流Iを減少させる。方法B.)と同様に、これにより、電流通過型溶接ワイヤ6の長さlidおよびフリーワイヤの長さlSは、接点Kからコンタクトチューブ5の端部8までの距離lKだけ増加する。距離Δdは変化しない。溶接電流Iの減少により、消費される母材の量が減少する(溶け込み深さが低くなる)。利点は、コンタクトチューブ5内の接触点Kが変化しても溶接ロボット2が動作する必要がなく、溶接ワイヤ6の送給速度が変わらないので、溶接シームの断面が実質的に同じままであることである。
【0029】
コンタクトチューブ5の摩耗がさらに進行すると、接点Kはさらに後方へ移動する。上述した方法A.)、B.)、C.)の制御変数の限界に従って、コンタクトチューブ5の交換が必要となる。本発明によれば、方法A.)、B.)、C.)による制御変数の組み合わせに関係なく、溶接電流Iと溶接電圧Uの平均化された大きさから得られる抵抗RまたはコンダクタンスGを規定することにより、これが可能となる。
【0030】
図3は、消耗品である溶接ワイヤの溶接工プロセスにおける溶接電流I(t)、溶接電圧U(t)、および溶接電流I(t)と溶接電圧U(t)の比、すなわちコンダクタンスG(t)または逆抵抗1/R(t)の、模式的な時間波形の一例を示す。図は、例えば、コンタクトチューブ5内の接点Kが一定距離、例えば6mm変化することによって生じる、溶接電流I(t)および溶接電圧U(t)の実測値およびそれらから導かれるコンダクタンス値G(t)の大きさの変化を示している。簡略化のために、コンタクトチューブ5における接触点Kの摩耗に関連する変化は線形であると仮定した。実際には、このようなことは通常なく、コンタクトチューブ5の接触点Kは、通常、溶接プロセス中に、最初は速く、その後ゆっくりと変化し、その結果、非線形の関係となる。
【0031】
時間t=0では、コンタクトチューブ5は新しく、接点Kはコンタクトチューブ5の端部8に非常に近く(
図2A参照)、溶接プロセスは所定の溶接電圧Uと所定の溶接電流Iで実施される。アーク燃焼の持続時間が進行し、したがってコンタクトチューブ5の摩耗が進行すると、接触点Kの変位が生じ、下降特性を有する電圧調整が使用される場合(すなわち、溶接電圧Uは絶対に一定ではなく、抵抗Rの増加とともに上昇し、これは溶接電流Iが一定電圧調整を使用する場合のように低下しないことを意味する)、溶接電圧Uは上昇するが溶接電流Iは低下する。実際の波形は、特定の溶接プロセス、制御特性、溶接電力、ワイヤ材料、コンタクトチューブの品質などのような、多くの条件および要因に依存する。本発明によれば、測定された溶接電流Iは、測定された溶接電圧Uで割られ、コンダクタンスGが得られる。このコンダクタンスGは、アーク長の調節の形態(特性)(一定電圧、一定電流、立ち下がり...)にかかわらず、コンタクトチューブ5の摩耗が進むにつれて減少する。
【0032】
コンタクトチューブ5の摩耗の程度を示す閾値Ssiを定義するために、異なる距離Δdを有する基準溶接シームを用いて、新しいコンタクトチューブを用いて基準溶接が行われる。異なる距離Δdは、コンタクトチューブ5の摩耗の程度をシミュレートし、溶接電流Iおよび溶接電圧Uの測定値または平均値並びにそれらの比を記録するために使用される。異なる距離Δdを有する各基準溶接の終了時に、これらは閾値Ssiとして定義される。
【0033】
図3の例では、2つのコンダクタンス閾値G
siが定義され、現在決定されているコンダクタンス値G(t)がこれと比較される。第1のコンダクタンス閾値G
S1は、コンタクトチューブ5の摩耗の中程度のレベルに対応し、この場合、溶接プロセスはまだ継続することができる。つまり、コンダクタンスが第1のコンダクタンス閾値G
S1に達するか、またはそれを下回るとき、時間t
1において警告が発せられる。第2のコンダクタンス閾値G
S2は、コンタクトチューブ5の摩耗の深刻なレベルに対応し、この場合、溶接プロセスはもはや継続してはならない。従って、コンダクタンスが第2のコンダクタンス閾値G
S2に達するかまたはそれを下回るとき、より緊急の警告、または溶接プロセスの停止が、時間t
2において発生する。
【0034】
図4は、溶接電流I、溶接電圧U、および溶接電流Iに対する溶接電圧Uの比、すなわち抵抗Rの模式的な時間波形の一例を示す。
【0035】
時刻t=0ではコンタクトチューブ5は新しく、コンタクトチューブ5の接触点Kはコンタクトチューブ5の端部8に非常に近く(
図2A参照)、所定の溶接電圧Uと所定の溶接電流Iで溶接が行われる。アーク燃焼時間が進行し、したがってコンタクトチューブ5の摩耗が増加すると、接触点Kの変位が生じ、立ち下がり特性を有する電圧調節が使用される場合、溶接電圧Uが増加し、溶接電流Iが減少する。本発明によれば、測定された溶接電圧Uを測定された溶接電流Iで割ると、抵抗Rが得られる。この抵抗Rは、アーク長の調整の形態(特性)に関係なく、コンタクトチューブ5の摩耗が進むと増加する。
【0036】
図4に従って示された例では、2つの抵抗閾値R
siが定義され、これと現在決定された抵抗R(t)とが比較される。第1の抵抗しきい値R
S1は、コンタクトチューブ5の摩耗の中程度のレベルに対応し、この場合、溶接プロセスはまだ継続することができる。つまり、抵抗が第1の抵抗閾値R
S1以上になると、時刻t
1において警告が発せられる。第2の抵抗閾値R
S2は、コンタクトチューブ5の摩耗の深刻なレベルに対応し、この場合、溶接プロセスはもはや継続することができない。したがって、抵抗が第2の抵抗しきい値R
S2に達するか、またはそれを超えると、より緊急の警告が発せられ、あるいは時間t
2において溶接プロセスが停止する。
【0037】
図5は、溶接電流Iと溶接電圧Uの比、すなわちコンダクタンスGの実曲線を、時間tまたは溶接継続時間、または溶接回数の関数として示した例である。
図3および
図4による簡略化した図とは対照的に、ここでは、溶接電流Iおよび溶接電圧Uの測定値の変動に起因する計算信号の変動が明確に示されている。例えば、溶接電流Iおよび溶接電圧Uは、10kHz~100kHzのサンプリング周波数f
Aで測定される。測定値を、例えば1ms~300msの一定時間Δ
tMの間で平均化することにより、曲線の平滑化を図ることができる。上述のように、溶接電流Iおよび溶接電圧Uの測定は、溶接プロセスに応じて、溶接電流Iが最大値I
maxを有する時間に実施することが好ましい。これにより、比、すなわち抵抗RまたはコンダクタンスGをできるだけ正確に決定することができる。
【0038】
時間t1においてコンダクタンスGが第1の閾値GS1に達するか、それを下回ると、音響、光学、および/または触覚の警告が発せられる。時間t2においてコンダクタンスが第2のコンダクタンス閾値GS2に達するかまたはそれを下回るとき、第1のコンダクタンス閾値GS1を下回ったときに出される警告とは異なる警告が出力され、あるいは溶接プロセスがオフにされ、コンタクトチューブ5が交換される。
【0039】
本発明は、溶接プロセス中のコンタクトチューブの摩耗を確認するための信頼性の高い方法を説明するものである。