(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物およびシール材
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20231214BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20231214BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K5/14
C09K3/10 M
C09K3/10 C
(21)【出願番号】P 2022574071
(86)(22)【出願日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2022000222
(87)【国際公開番号】W WO2022149595
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021001654
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 拓人
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242108(JP,A)
【文献】特開2007-119522(JP,A)
【文献】特開2006-083297(JP,A)
【文献】特開2004-288848(JP,A)
【文献】特開2000-313999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08K 5/14
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを少なくとも2つ含有
するフッ素ゴム組成物であって、
前記フッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物のガラス転移温度(Tg)が-31℃~-39℃であることを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
示差走査熱量計によって測定された前記ガラス転移温度(Tg)のピーク形状が単一である、請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
前記パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー100重量部に対し、充填剤を10重量部以上100重量部以下、有機過酸化物架橋剤を0.2重量部以上5.0重量部以下、および共架橋剤を0.2重量部以上5.0重量部以下含有する、請求項1または2記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
前記フッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物を、燃料油(JIS K6258:2016の規格に準じた燃料油C):メタノールの体積比が80:20である混合油に70℃で168時間浸漬させた後の体積膨潤率が25%未満であり、メタノールに70℃で168時間浸漬させた後の体積膨潤率が15%未満である、請求項1から3までのいずれか1項記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載のフッ素ゴム組成物を加硫成形して得られたシール材。
【請求項6】
前記シール材がOリングである、請求項5記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物およびシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴム組成物は、耐油性および耐熱性に優れる材料として、自動車用のシール部材をはじめとして幅広く適用されている。一方、近年、インジェクターなどの燃料を直噴する方式などでは、環境面等を背景に高圧化が進んでおり、耐燃料油性の他、耐寒性(低温性)も求められている。
【0003】
一般に、フッ素ゴムの耐寒性として、ASTM規格の2元系または3元系フッ素ゴムにおける耐寒性は約-18℃である。また、耐寒性を改良した3元系フッ素ゴムとして、ヘキサフルオロプロピレンの代わりにパーフルオロビニルエーテルを共重合させた3元系フッ素ゴムが市販されている。しかしながら、パーフルオロビニルエーテルとしてパーフルオロメチルビニルエーテルを用いた場合、その耐寒性としては約-30℃が限界である。
【0004】
一方、燃料を直噴する方式に用いられる材料としては、-30℃よりも厳しい耐寒性が求められている。このような材料をフッ素ゴムにより実現させようとする場合、耐寒性を発現し得るパーフルオロビニルエーテル部分を、パーフルオロメチルビニルエーテルよりガラス転移温度の低いモノマー単位に置き換えて共重合させる必要がある。
【0005】
特許文献1には、ゴム成分として、ビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテルを主鎖に含有するフッ素ゴムを含有するフッ素系エラストマー組成物の使用により、-30℃以下の耐寒性を実現できることが開示されている。しかしながら、このようなフッ素系エラストマー組成物を用いても、近年の高い耐燃料油性を達成することができず、耐寒性と耐燃料油性を両立させることが困難である。
【0006】
また、Solvay社より、パーフルオロビニルエーテル部分にパーフルオロアルコキシビニルエーテルが導入されたグレードのフッ素ゴムが市販されており、このグレードのフッ素ゴムは-35℃以下の超耐寒性を示すことが知られている。しかしながら、このような超耐寒性を示すグレードのラインナップは極めて少なく、また、例えば、超耐寒性を得るため、単純にこのグレードのフッ素ゴムを使用しても、目標とする高い耐燃料油性を達成することが困難である。さらに、-35℃以下の超耐寒性を示すグレードのフッ素ゴムを合成する場合、より耐寒性に優れるパーフルオロビニルエーテルを用いるか、パーフルオロビニルエーテルの組成比を高める必要があるため、耐寒性の向上に伴い、フッ素ゴムの製造コストが大幅に増加することが懸念される。
【0007】
さらに、近年、自動車用燃料油としては、一般に使用されるガソリン等の炭化水素燃料の他に、燃焼効率や環境保護などの観点からエーテルやアルコールなどの含酸素燃料も使用されつつあり、フッ素ゴム組成物としては、高い耐燃料油性や耐アルコールも要求されている。そのため、高い耐寒性を示すと共に、耐燃料油性および耐アルコール性に優れた加硫物を与えるフッ素ゴム組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い耐寒性を示し、耐燃料油性および耐アルコール性に優れた加硫物を与えるフッ素ゴム組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施態様に係るフッ素ゴム組成物は、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを少なくとも2つ含有する。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記フッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物のガラス転移温度(Tg)が-31℃~-39℃である。
【0012】
本発明の一実施態様において、前記ガラス転移温度(Tg)のピーク形状が単一である。
【0013】
本発明の一実施態様において、前記パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー100重量部に対し、充填剤を10重量部以上100重量部以下、有機過酸化物架橋剤を0.2重量部以上5.0重量部以下、および共架橋剤を0.2重量部以上5.0重量部以下含有する。
【0014】
本発明の一実施態様において、前記フッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物を、燃料油(JIS K6258:2016の規格に準じた燃料油C):メタノールの体積比が80:20である混合油に70℃で168時間浸漬させた後の体積膨潤率が25%未満であり、メタノールに70℃で168時間浸漬させた後の体積膨潤率が15%未満である。
【0015】
本発明の実施態様に係るシール材は前記フッ素ゴム組成物を加硫成形して得られる。
【0016】
本発明の一実施態様において、前記シール材はOリングである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い耐寒性を示し、耐燃料油性および耐アルコール性に優れた加硫物を与えるフッ素ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを少なくとも2つ含有する。本実施形態に係るフッ素ゴム組成物において、このようなフッ素含有エラストマーを2以上ブレンドすることにより、既存の-35℃以下の超耐寒性を示すグレードのフッ素ゴムを単独で用いたフッ素ゴム組成物では達成できなかった優れた耐燃料油性を加硫物に付与することができ、さらには耐アルコール性を改善することができる。以下、本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0019】
<パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー>
本実施形態において、フッ素ゴム組成物は、加硫物成形のための主成分として、パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを少なくとも2つ含有し、各フッ素含有エラストマーは、パーフルオロアルコキシビニルエーテル(以下、「MOVE」ともいう)の構造単位を少なくとも1つ含んでいる。すなわち、フッ素ゴム組成物には、MOVEの構造単位を含むフッ素含有エラストマーが2種類以上ブレンドされている。パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーは、フッ素ゴムの成形材料を作製するための主原料であり、フッ素含有モノマーとしてのMOVEを単独で重合させて得たホモポリマーであってもよく、他のフッ素含有モノマーと共重合させて得たコポリマー(共重合体)であってもよい(以下、これらを総括して「フッ素ゴムポリマー」ともいう)。
【0020】
パーフルオロアルコキシビニルエーテルは、CFX=CXOCF2ORfの化学式で表される。式中、Xは、それそれ独立してFまたはHであり、好ましくはFである。Rfは、直鎖状または分岐状の、C1~C6のパーフルオロアルキル基;C5~C6の環状(パー)フルオロアルキル基;および、1~3個のカテナリー酸素原子を含む、直鎖状もしくは分岐状の、C2~C6のパーフルオロオキシアルキル基の中から選択されるいずれかの基である。Rfは、好ましくは、‐CF2CF3(MOVE1);‐CF2CF2OCF3(MOVE2);または‐CF3(MOVE3)である。
【0021】
フッ素含有エラストマーが共重合体である場合、他のフッ素含有モノマーとして、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニル、ビニリデンフルオライド等が挙げられる。共重合体の例として、ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体、ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体等が挙げられる。
【0022】
フッ素含有エラストマー中に含まれるMOVE成分の含有量は、1モル%以上99モル%以下であることが好ましく、2モル%以上98モル%以下であることがより好ましい。MOVE成分の含有量が1モル%以上99モル%以下の範囲であることにより、耐寒性および耐燃料油性に優れた物性を確保することができる。
【0023】
フッ素ゴムポリマーは、架橋点として分子中にヨウ素基および/または臭素基を含んでいてもよい。フッ素ゴムへのパーオキサイド架橋を可能とするヨウ素基および/または臭素基の導入は、ヨウ素基および/または臭素基含有飽和または不飽和化合物の存在下での共重合反応によって行うことができる。フッ素ゴムポリマーの側鎖にヨウ素基および/または臭素基を含有させる場合、例えばパーフルオロ(2-ブロモエチルビニルエーテル)、3,3,4,4-テトラフルオロ-4-ブロモ-1-ブテン、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、パーフルオロ(2-ヨードエチルビニルエーテル)、ヨードトリフルオロエチレン等の架橋点形成単量体が挙げられる。
【0024】
フッ素ゴムポリマーの末端にヨウ素基および/または臭素基を含有させる場合、Y1CnF2nY2の化学式で表される両末端ハロゲン化フルオロアルキレン化合物が用いられる。式中、Y1は、F、BrまたはIであり、Y2は、BrまたはIであり、nは、1~12の整数である。このような両末端ハロゲン化フルオロアルキレン化合物として、反応性、ハンドリングのバランスの点から、nが1~6の整数である化合物が好ましく、例えば、1-ブロモパーフルオロエタン、1-ブロモパーフルオロプロパン、1-ブロモパーフルオロブタン、1-ブロモパーフルオロペンタン、1-ブロモパーフルオロヘキサン、1-ヨードパーフルオロエタン、1-ヨードパーフルオロプロパン、1-ヨードパーフルオロブタン、1-ヨードパーフルオロペンタン、1-ヨードパーフルオロヘキサン等に由来するヨウ素基および/または臭素基を含むフッ素ゴムポリマーが用いられる。
【0025】
また、Y1およびY2が、Iおよび/またはBrであることにより、フッ素ゴムポリマーの末端に架橋点を導入することができる。このような化合物として、例えば、1-ブロモ-2-ヨードテトラフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、モノブロモモノヨードパーフルオロペンタン、モノブロモモノヨードパーフルオロ-n-ヘキサン、1,2-ジブロモパーフルオロエタン、1,3-ジブロモパーフルオロプロパン、1,4-ジブロモパーフルオロブタン、1,5-ジブロモパーフルオロペンタン、1,6-ジブロモパーフルオロヘキサン、1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨードパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン等が用いられる。これらの化合物は、連鎖移動剤としても用いることができる。
【0026】
MOVEの構造単位を含むフッ素含有エラストマーの市販品として、例えば、SOLVAY社製のテクノフロン(登録商標)のVPLシリーズ(VPL85540、VPL55540、VPL45535、VPL85730、VPL45730)等を用いることができる。
【0027】
<充填剤>
本実施形態において、フッ素ゴム組成物は、さらに充填剤が配合されていてもよい。フッ素ゴム組成物中に充填剤が含まれることにより、得られる加硫物の機械強度、圧縮永久歪性を向上させることができる。充填剤として、フッ素ゴム組成物に添加する補強材として一般的な、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレー、瀝青炭などが挙げられる。充填剤は、所望の物性特性が得られるように適宜添加することができ、特に、得られる加硫物の圧縮永久歪み特性を改善させる作用を示すカーボンブラックの使用が好ましい。
【0028】
カーボンブラックは、例えば、超耐摩耗性(SAF:Super Abrasion Furnace)カーボンブラック、準超耐摩耗性(ISAF:Intermediate Super Abrasion Furnace)カーボンブラック、高耐摩耗性(HAF:High Abrasion Furnace)カーボンブラックおよび良加工性チャンネル(EPC:Easy Processing Channel)カーボンブラック等のハードカーボン、並びに、導電性(XCF:eXtra Conductive Furnace)カーボンブラック、良押出性(FEF:Fast Extruding Furnace)カーボンブラック、汎用性(GPF:General Purpose Furnace)カーボンブラック、高応力(HMF:High Modulus Furnace)カーボンブラック、中補強性(SRF:Semi-Reinforcing Furnace)カーボンブラック、微粒熱分解(FT:Fine Thermal)カーボンブラック、および中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラック等のソフトカーボンが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックとしては、ソフトカーボンが好ましく、ソフトカーボンの中でも、比較的粒子径が大きい中粒熱分解カーボンブラックがより好ましい。カーボンブラックの市販品として、例えば、CANCARB社製の「THERMAX(登録商標)N990」等の中粒熱分解カーボンブラックを用いることができる。
【0029】
充填剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。フッ素ゴム組成物中に含まれる充填剤の含有量は、パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー100重量部に対し、10重量部以上100重量部以下であることが好ましく、20重量部以上80重量部以下であることがより好ましい。
当該含有量が10重量部以上であると、得られる加硫物において引張強度などの機械特性が良好である。また、当含有量が100重量部以下であると、得られる加硫物の切断時伸びが良好である。
【0030】
<有機過酸化物架橋剤>
有機過酸化物架橋剤は、フッ素含有エラストマーのパーオキサイド架橋を形成する架橋剤として使用される。有機過酸化物架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、m-トルイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシラウレート、ジ(tert-ブチルパーオキシ)アジペート、ジ(2-エトキシエチルパーオキシ)ジカルボナート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボナート等が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0031】
有機過酸化物架橋剤の市販品として、例えば、日油社製の「PERHEXA(登録商標)25B-40」等を用いることができる。有機過酸化物架橋剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
有機過酸化物架橋剤の含有量は、パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー100重量部に対し、0.2重量部以上5重量部以下が好ましく、0.5重量部以上3重量部以下がより好ましい。当該含有量が0.2重量部以上であると、フッ素含有エラストマーの架橋が十分であり、得られる加硫物の機械的物性が良好となる。また、当該含有量が5重量部以下にすることで、適度に加硫が進行し、加硫物の機械特性の他、良好な圧縮永久歪性を得ることができる。
【0033】
<共架橋剤>
有機過酸化物架橋剤によるパーオキサイド架橋に際して、フッ素含有エラストマーの架橋助剤として共架橋剤が併用されていてもよい。共架橋剤は、多官能性不飽和化合物共架橋剤であることが好ましい。共架橋剤としては、例えば、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジン、亜リン酸トリアリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3-ブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、トリ(メタ)アリルイソシアヌレートが好ましい。尚、(メタ)アリルとは、アリルまたはメタアリルを意味し、同様に、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0034】
共架橋剤の市販品として、例えば、日本化成社製の「TAIC(登録商標)WH-60」等を用いることができる。共架橋剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
共架橋剤の含有量は、パーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー100重量部に対し、0.2重量部以上5重量部以下が好ましく、0.3重量部以上3重量部以下がより好ましい。当該含有量が0.2重量部以上であると、フッ素含有エラストマーの架橋を十分に行うことができ、得られる加硫物の機械的物性、形状保持性を維持することができる。また、当該配合量が5重量部以下であると、機械的物性、耐熱性等の諸特性の向上が見込め、経済的である。
【0036】
(他の成分)
フッ素ゴム組成物には、上記各成分に加えて、必要に応じて、ゴム加工分野において通常使用される各種添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、例えば、架橋促進剤、光安定剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、老化防止剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、シランカップリング剤、架橋遅延剤等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0037】
(フッ素ゴム組成物の製造方法)
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記の各成分、必要に応じて、ゴムの配合剤として一般的に用いられている各種添加剤を所定の割合で適宜配合した後、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の密閉型混練装置またはオープンロール等の撹拌手段により各成分を混練または混合することにより製造することができる。また、混練または混合の前に、必要に応じて、予備混練または予備混合を施してもよい。
【0038】
(シール材)
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を、加硫成形材料として用いることにより、シール材を製造することができる。例えば、上記製造方法により得られたフッ素ゴム組成物をシート状にしたゴム生地を加硫プレスにより所定の形状に加硫成形することにより、所望とするシール材を製造することができる。その際、加硫成形は、一般に、約100~250℃で約1~120分間行われるプレス加硫および約150~250℃で約0~30時間行われるオーブン加硫(二次加硫)によって行われる。本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を用いて得られた加硫物は、高い耐寒性を示し、耐燃料油性および耐アルコール性に優れるため、自動車部品のシール材としての適用に有効である。自動車部品のシール材は、例えば、Oリング、ガスケット、パッキン、バルブ、オイルシール等が挙げられ、特にOリングとして好適に用いることができる。
【0039】
(ガラス転移温度)
本実施態様に係るフッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物は、-31℃~-39℃、好ましくは-34℃~-36℃のガラス転移温度(Tg)を有する。すなわち、加硫成形後のフッ素ゴム組成物が所定のガラス転移温度を示すように、各フッ素含有エラストマーがブレンドされている。このようなガラス転移温度を有するように各フッ素含有エラストマーを配合することにより、得られる加硫物に高い耐寒性が付与される。ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)により測定される。DSCによって測定されたガラス転移温度のピーク形状は単一であることが好ましい。ガラス転移温度のピーク形状が単一であることにより、ガラス転移温度のピーク形状が複数である場合と比べて安定した耐寒性を付与できる。また、DSCによって測定されたガラス転移温度が複数ある場合、得られるガラス転移温度のすべてが上記の温度範囲内にあることが好ましい。
【0040】
(耐寒性)
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物において、JIS K6261-4:2017に記載の低温弾性回復試験(TR試験)に準拠したTR-10における温度が、-31℃~-39℃であることが好ましく、-34℃~-36℃であることがより好ましい。TR-10における温度が-31℃より高いと、加硫物の耐寒性が不十分であり、TR-10における温度が-39℃未満であると、より耐寒性の高いフッ素ゴムポリマーの配合比率が高まり、製造コスト増加が懸念されるため好ましくない。
【0041】
(耐燃料油性)
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物において、加硫物を燃料油(JIS K6258:2016の規格に準じた燃料油C):メタノールの体積比が80:20である混合油に70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率が25%未満であることが好ましい。ここで、燃料油Cは、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン):トルエンの体積比が50:50である燃料油であり、主に酸素化合物を含まない石油系燃料油(自動車用ガソリン)の代用品として用いられる。尚、燃料油/メタノールを体積比80/20で混合してなる混合油は、耐燃料油性を評価する際の基準となる燃料油として選定したものであり、体積膨潤率はJIS K6258:2016の規格に準拠して測定される。
【0042】
(耐アルコール性)
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物を加硫成形して得られた加硫物において、加硫物をメタノールに70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率が15%未満であることが好ましい。尚、メタノールは、耐アルコール性を評価する際の基準となるアルコールとして選定したものであり、体積膨潤率はJIS K6258:2016の規格に準拠して測定される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
フッ素ゴムポリマーA(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体:商品名「テクノフロン(登録商標)VPL85540」、SOLVAY社製)90重量部、フッ素ゴムポリマーC(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体:商品名「テクノフロン(登録商標)VPL45730」、SOLVAY社製)10重量部、充填剤A(中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラック:商品名「THERMAX(登録商標)N990」、CANCARB社製)30重量部、充填剤B(瀝青炭:商品名「AUSTIN BLACK(登録商標)325」、Coal Fillters社製)12重量部、および共架橋剤(トリアリルイソシアヌレート:商品名「TAIC(登録商標)WH-60」、日本化成社製)1重量部を、ニーダにより混練した後、得られた生成物をオープンロールに移し、さらに有機過酸化物架橋剤(2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン:商品名「PERHEXA(登録商標)25B-40」、日油社製)2重量部を加えて混練し、フッ素ゴム組成物を作製した。次いで、得られたフッ素ゴム組成物の混練物を180℃で6分間プレス加硫し、さらに230℃で22時間オーブン加硫(二次加硫)を行い、シート状の加硫物を得た。得られた加硫物について、以下の特性を測定し、各種性能を評価した。
【0046】
<ガラス転移温度>
得られた加硫物について、JIS K6240:2011に準拠した示差走査熱量計(DSC装置)に基づくガラス転移温度(Tg)を測定し、さらにはガラス転移温度のピーク形状を観察した。測定結果を表1に示す。
【0047】
<耐寒性>
得られた加硫物について、JIS K6261-4:2017に準拠した低温弾性回復試験(TR試験)を行い、TR-10における温度を測定した。製造コストとの兼ね合いも考慮し、TR-10における温度が、-31℃~-39℃であれば「〇」、それ以外は「×」と評価した。測定および評価結果を表1に示す。
【0048】
<耐燃料油性>
得られた加硫物について、燃料油(燃料油C):メタノールの体積比が80:20である混合油に耐圧容器(オートクレーブ)中70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率をJIS K6258:2016の規格に準拠して測定した。体積膨潤率が、25%未満であれば「〇」、それ以外は「×」と評価した。測定および評価結果を表1に示す。尚、燃料油Cは、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン):トルエンの体積比が50:50である燃料油である。
【0049】
<耐アルコール性>
得られた加硫物について、メタノールに、耐圧容器(オートクレーブ)中70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率をJIS K6258:2016の規格に準拠して測定した。体積膨潤率が、15%未満であれば「〇」、それ以外は「×」と評価した。測定および評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
フッ素ゴムポリマーAの配合量を50重量部、フッ素ゴムポリマーCの配合量を50重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物及びその加硫物を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
フッ素ゴムポリマーAの配合量を10重量部、フッ素ゴムポリマーCの配合量を90重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物及びその加硫物を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
フッ素ゴムポリマーCを配合せず、フッ素ゴムポリマーAの配合量を100重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物及びその加硫物を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
フッ素ゴムポリマーAを配合せず、フッ素ゴムポリマーCの配合量を100重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物及びその加硫物を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
フッ素ゴムポリマーAおよびフッ素ゴムポリマーCに代えて、フッ素ゴムポリマーB(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体:商品名「テクノフロン(登録商標)VPL45535」、SOLVAY社製)100重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物及びその加硫物を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
フッ素ゴムポリマーCに代えて、フッ素ゴムポリマーD(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体:商品名「テクノフロン(登録商標)PL455」、SOLVAY社製)30重量部を配合し、さらに、フッ素ゴムポリマーAの配合量を70重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴム組成物およびその加硫物を作製して、上記の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
フッ素ゴムポリマーDに代えて、フッ素ゴムポリマーE(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体:商品名「ダイエル(登録商標)LT-304」、ダイキン社製)30重量部を配合したこと以外は、比較例4と同様にしてフッ素ゴム組成物およびその加硫物を作製して、上記の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例6)
フッ素ゴムポリマーDに代えて、フッ素ゴムポリマーF(ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体:商品名「バイトン(登録商標)GLT-200S」、デュポン社製)30重量部を配合したこと以外は、比較例4と同様にしてフッ素ゴム組成物およびその加硫物を作製して、上記の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
上記表1に示される各成分は、下記の通りである。
・フッ素ゴムポリマーA:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体(商品名「テクノフロン(登録商標)VPL85540」、SOLVAY社製)
・フッ素ゴムポリマーB:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体(商品名「テクノフロン(登録商標)VPL45535」、SOLVAY社製)
・フッ素ゴムポリマーC:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)/パーフルオロアルコキシビニルエーテル(MOVE)共重合体(商品名「テクノフロン(登録商標)VPL45730」、SOLVAY社製)
・フッ素ゴムポリマーD:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体(商品名「テクノフロン(登録商標)PL455」、SOLVAY社製)
・フッ素ゴムポリマーE:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体(商品名「ダイエル(登録商標)LT-304」、ダイキン社製)
・フッ素ゴムポリマーF:ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)共重合体(商品名「バイトン(登録商標)GLT-200S」、デュポン社製)
・充填剤A:中粒熱分解(MT:Medium Thermal)カーボンブラック(商品名「THERMAX(登録商標)N990」、CANCARB社製)
・充填剤B:瀝青炭(商品名「AUSTIN BLACK(登録商標)325」、Coal Fillters社製)
・有機過酸化物架橋剤:2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名「PERHEXA(登録商標)25B-40」、日油社製)
・共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート(商品名「TAIC(登録商標)WH-60」、日本化成社製)
また、上記表1中、上記各成分の値は「重量部」を表す。
【0060】
表1から分かるように、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを2種類含有するフッ素ゴム組成物を用いて加硫物を形成した実施例1~3では、TR-10における温度が-31℃~-39℃であり、高い耐寒性を示した。また、得られた加硫物を、所定の混合油に70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率が25%未満であり、さらにはメタノールに70℃で168時間浸漬した後の体積膨潤率が15%未満であるため、耐燃料油性および耐アルコール性にも優れていた。
【0061】
一方、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを単独で含有するフッ素ゴム組成物を用いて加硫物を形成した比較例1~3において、比較例1では、TR-10における温度が-40℃であり、所望とする耐寒性を示さず、また、燃料油における体積膨潤率が25%であり、耐燃料油性に劣っていた。比較例2では、TR-10における温度が-30℃であり、同様に所望とする耐寒性を示さなかった。比較例3では、TR-10における温度が-35℃であり、所望とする耐寒性を示したものの、燃料油における体積膨潤率が31%かつメタノールにおける体積膨潤率が20%であり、耐燃料油性および耐アルコール性に劣っていた。
【0062】
また、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー1つと、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含まないパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマー1つとを含有するフッ素ゴム組成物を用いて加硫物を形成した比較例4~6において、TR-10における温度が-35℃であり、所望とする耐寒性を示したものの、耐燃料油性および耐アルコール性に劣っていた。
【0063】
以上の結果から、パーフルオロアルコキシビニルエーテルの構造単位を含むパーオキサイド架橋可能なフッ素含有エラストマーを少なくとも2つ含有するフッ素ゴム組成物を用いて加硫成形することにより、得られる加硫物は、高い耐寒性を示し、耐燃料油性および耐アルコール性の双方に優れることがわかる。