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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231214BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M4/587
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023013736
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2021205017の分割
【原出願日】2017-07-05
(65)【公開番号】P2023041825
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2016133997
(32)【優先日】2016-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016133143
(32)【優先日】2016-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017002831
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017030693
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017084321
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017119272
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 彩恵
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-103566(JP,A)
【文献】国際公開第2012/101950(WO,A1)
【文献】特開2015-201432(JP,A)
【文献】特表2012-508444(JP,A)
【文献】特開2011-181527(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを含む正極活物質を有し、
前記負極は、炭素を含む負極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する部と岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部はコバルトと、リチウムと、を有し、
前記表層部はコバルトと、チタンと、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記表層部は、前記内部よりも、マグネシウムの濃度とフッ素の濃度が高く、
前記表層部における前記岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向と、前記内部の前記層状岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向とは、概略一致する領域を有し、
前記正極活物質は、EDX線状分析において、前記チタンの分布と、前記マグネシウムの分布とが重なる領域を有し、
前記正極と対極にリチウム金属を有するコイン型の試験用二次電池を、温度25℃で、CCCV充電により充電電圧4.6Vまで充電し、その後CC放電により放電電圧2.5Vまで放電させる充放電を繰り返した場合、30サイクル目のエネルギー密度維持率が89%以上98%以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを含む正極活物質を有し、
前記負極は、炭素を含む負極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する部と岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部はコバルトと、リチウムと、を有し、
前記表層部はコバルトと、チタンと、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記表層部は、前記内部よりも、マグネシウムの濃度とフッ素の濃度が高く、
前記表層部における前記岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向と、前記内部の前記層状岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向とは、概略一致する領域を有し、
前記正極活物質は、EDX線状分析において、前記チタンの分布と、前記マグネシウムの分布とが重なる領域を有し、
前記EDX線状分析において、前記マグネシウムの濃度のピークの1/5になる深さは、前記正極活物質の表面から2nm~5nmであり、
前記正極と対極にリチウム金属を有するコイン型の試験用二次電池を、温度25℃で、CCCV充電により充電電圧4.6Vまで充電し、その後CC放電により放電電圧2.5Vまで放電させる充放電を繰り返した場合、30サイクル目のエネルギー密度維持率が89%以上98%以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを含む正極活物質を有し、
前記負極は、炭素を含む負極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する部と岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部はコバルトと、リチウムと、を有し、
前記表層部はコバルトと、チタンと、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記表層部は、前記内部よりも、マグネシウムの濃度とフッ素の濃度が高く、
前記表層部における前記岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向と、前記内部の前記層状岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向とは、概略一致する領域を有し、
前記正極活物質は、EDX線状分析において、前記チタンの分布と、前記マグネシウムの分布とが重なる領域を有し、
前記正極と対極にリチウム金属を有するコイン型の試験用二次電池を、温度25℃で、CCCV充電により充電電圧4.6Vまで充電し、その後CC放電により放電電圧2.5Vまで放電させる充放電を繰り返した場合、1サイクル目の放電容量が200mAh/g以上であり、かつ、30サイクル目のエネルギー密度維持率が89%以上98%以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを含む正極活物質を有し、
前記負極は、炭素を含む負極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有する部と岩塩型の結晶構造を有する表層部と、を有し、
前記内部はコバルトと、リチウムと、を有し、
前記表層部はコバルトと、チタンと、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記表層部は、前記内部よりも、マグネシウムの濃度とフッ素の濃度が高く、
前記表層部における前記岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向と、前記内部の前記層状岩塩型の結晶構造を有する結晶の配向とは、概略一致する領域を有し、
前記正極活物質は、EDX線状分析において、前記チタンの分布と、前記マグネシウムの分布とが重なる領域を有し、
前記EDX線状分析において、前記マグネシウムの濃度のピークの1/5になる深さは、前記正極活物質の表面から2nm~5nmであり、
前記正極と対極にリチウム金属を有するコイン型の試験用二次電池を、温度25℃で、CCCV充電により充電電圧4.6Vまで充電し、その後CC放電により放電電圧2.5Vまで放電させる充放電を繰り返した場合、1サイクル目の放電容量が200mAh/g以上であり、かつ、30サイクル目のエネルギー密度維持率が89%以上98%以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記正極活物質は、EDX点分析において、マグネシウム/コバルトの原子数比が0.03を超えるクラック部を有し、
前記クラック部にマグネシウムが偏析している、リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記コイン型の試験用二次電池は電解液を有し、
前記電解液は1mol/Lの六フッ化リン酸リチウムとエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとに2wt%のビニレンカーボネートが混合されているものを用いる、リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記CCCV充電では、0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)で定電流充電する、リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記CCCV充電では、カットオフ電流が0.01C(ただし1C=137mA/gを満たす)である、リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記CC放電では、0.5C(ただし1C=137mA/gを満たす)で定電流放電する、リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記正極活物質の表面にはコバルトが存在している、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1又は請求項2において、
前記30サイクル目のエネルギー密度維持率は、1サイクル目のエネルギー密度を100%として求めたものである、リチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項3又は請求項4において、
前記30サイクル目のエネルギー密度維持率は、前記1サイクル目のエネルギー密度を100%として求めたものである、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、
マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。
本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機
器、またはそれらの製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質
、二次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すも
のである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウ
ムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を
有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装
置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二
次電池は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、もしくはノート型コンピュータ等の
携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(
HEV)、電気自動車(EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次
世代クリーンエネルギー自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し
、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高エネルギー密度化、
サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
そこでリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極活
物質の改良が検討されている。(特許文献1および特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-018914号公報
【文献】特開2015-201432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池およびそれに用いられる正極活物質には、充放電特性、サイクル
特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で改善の余地が残されている。
【0009】
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容
量の低下が抑制された正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一
態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は
、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態
様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、二次電池、又はそれらの作製方法
を提供することを課題の一とする。
【0011】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請
求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、正極活物質の表層部に、内部の領域と異
なる2種の領域を設ける。内側の領域は不定比化合物であり、外側の領域は定比化合物で
あることが好ましい。
【0013】
また内側の領域はチタンを含むことが好ましく、外側の領域はマグネシウムを含むことが
好ましい。さらに、これら2種の領域が重なっていてもよい。
【0014】
また内側の領域はゾルゲル法等の被覆工程を経て形成し、外側の領域は加熱に伴う偏析に
よって形成することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、第1の領域と、第2の領域と、
第3の領域と、を有し、第1の領域は正極活物質の内部に存在し、第2の領域および第3
の領域は正極活物質の表層部に存在し、第3の領域は、第2の領域よりも、正極活物質の
表面に近い領域に存在し、第1の領域はリチウムと第1の遷移金属の酸化物を有し、層状
岩塩型の結晶構造を有し、第2の領域は第2の遷移金属の酸化物を有する不定比化合物を
有し、不定比化合物は岩塩型の結晶構造を有し、第3の領域は典型元素の化合物を有し、
典型元素の化合物は岩塩型の結晶構造を有する正極活物質である。
【0016】
上記において、第1の遷移金属はコバルト、第2の遷移金属はチタン、典型元素の化合物
は酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0017】
上記において、第3の領域はフッ素を有していてもよい。また第2の領域および第3の領
域はコバルトを有していてもよい。
【0018】
上記において、第1の領域と、第2の領域の結晶の配向が一部で一致し、第2の領域と、
第3の領域の結晶の配向が一部で一致することが好ましい。
【0019】
上記において、第1の領域が有する層状岩塩型の結晶構造の(1-1-4)面、または(
1-1-4)面と直交する面と、第2の領域が有する岩塩型の結晶構造の{100}面の
不整合度が0.12以下であり、第2の領域が有する岩塩型の結晶構造の{100}面と
、第3の領域が有する岩塩型の結晶構造の{100}面の不整合度が0.12以下である
ことが好ましい。
【0020】
また、本発明の別の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、リチウムと、チタン
と、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有し、正極活物質の表層部に存
在し、X線光電子分光で測定されるコバルトの濃度を1としたとき、チタン濃度が0.0
5以上0.4以下であり、マグネシウム濃度が0.4以上1.5以下であり、フッ素濃度
が0.05以上1.5以下である、正極活物質である。
【0021】
また、本発明の別の一態様は、リチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源
を混合する工程と、リチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源の混合物を
、800℃以上1100℃以下で2時間以上20時間以下加熱し、リチウムと、コバルト
と、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有する粒子を得る工程と、チタンアルコキシ
ドをアルコールに溶解する工程と、チタンアルコキシドのアルコール溶液に、リチウムと
、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有する粒子を混合し、水蒸気を含
む雰囲気中で撹拌する工程と、混合液から沈殿物を回収する工程と、回収された沈殿物を
、酸素を有する雰囲気で500℃以上1200℃以下、保持時間50時間以下で加熱する
工程と、を有する、正極活物質の作製方法である。
【0022】
また上記の作製方法において、リチウム源が有するリチウムの原子数と、コバルト源が有
するコバルトの原子数の比が、1.00≦Li/Co<1.07であることが好ましい。
【0023】
また上記の作製方法において、フッ素源に含まれるフッ素の原子数と、マグネシウム源に
含まれるマグネシウムの原子数の比は、Mg:F=1:x(1.5≦x≦4)であること
が好ましい。
【0024】
また上記の作製方法においてマグネシウム源に含まれるマグネシウムの原子数は、コバル
ト源に含まれるコバルトの原子数の0.5原子%以上1.5原子%以下であることが好ま
しい。
【0025】
また上記の作製方法において、リチウム源には炭酸リチウムを用い、コバルト源には酸化
コバルトを用い、マグネシウム源には酸化マグネシウムを用い、フッ素源にはフッ化リチ
ウムを用いることができる。
【0026】
また、上記正極活物質の表面を被膜で覆い、上述した結晶構造を保護することで充放電サ
イクルにおける容量の低下の抑制を実現することができる。正極活物質の表面を覆う被膜
としては、炭素を有する被膜(グラフェン化合物を含む膜)、または、リチウム若しくは
電解液の分解生成物を有する被膜を用いる。
【0027】
特に、スプレードライ装置を用いて正極活物質の表面が酸化グラフェンで被覆された粉体
を得ることが好ましい。スプレードライ装置は、懸濁液に対して熱風を供給して分散媒を
除去するスプレードライ法を用いた製造装置である。
【0028】
充放電サイクルを繰り返し行うことにより、正極活物質の粒子にひびが生じる、或いは割
れるなどといった形状変化が発生する恐れがある。このような形状変化があると正極活物
質の新たな面が露出することになり、その面が電解液と接触して分解反応などが生じ、二
次電池のサイクル特性や、充放電特性が低下されると言われている。
【0029】
そのため、正極活物質の粒子にひびが生じる、或いは割れるなどといった形状変化を防止
できる被覆膜を設けることが好ましい。
【0030】
しかしながら、単位体積あたりの重量の重い正極活物質材料の表面に対して、比較的に重
量の軽い酸化グラフェンを被覆するために、懸濁液を作製し、自転公転ミキサーを用いた
ところ、被覆が不十分であった。
【0031】
そのため、酸化グラフェンを用いて正極活物質の粒子表面を被覆するためには、酸化グラ
フェンと極性溶媒(水など)を混合して超音波処理を行い、さらに正極活物質の粒子を混
合して懸濁液を用意した後、スプレードライ装置を用いて乾燥粉体を製造する方法が好ま
しい。このようにして製造された乾燥粉体を複合体と呼ぶ場合がある。
【0032】
スプレードライ装置のノズルから噴霧する噴霧液一滴のサイズは、ノズル径に依存する。
【0033】
ノズル径に比べて粒子径が小さいと、ノズルから噴霧される噴霧液一滴内に複数の粒子が
存在することとなる。ノズル径に比べて最大粒子径が小さい条件の、乾燥後の粒子表面を
確認すると、酸化グラフェンの被覆箇所が一部確認できるが、十分に被覆できているとは
言えなかった。
【0034】
スプレードライ装置のノズル径と活物質の最大粒子径とが同程度となるようにすると、活
物質の被覆性が良好となるため、好ましい。さらに、ノズル径と同程度になるように正極
活物質の製造において正極活物質の最大粒径のサイズを調節することが好ましい。
【0035】
酸化グラフェンは水によく分散するため、超音波を用いて攪拌することで、水と酸化グラ
フェンの懸濁液を作製することができる。該懸濁液に正極活物質を加え、その懸濁液を用
いてスプレードライ装置により噴霧させることで、正極活物質表面が酸化グラフェンで被
覆された粉体を得ることができる。
【0036】
なお、懸濁液は酸化グラフェンの量が多くなると酸性が強くなる。そのため、正極活物質
の表面の一部(たとえばMgやFを含むLiCoO)をエッチングする恐れがある。従
って、噴霧前の懸濁液について水素イオン指数(pH)調整を行い、約pH7に近づける
、即ち中性に近づける、或いはpH8以上、即ちアルカリ性にすることが好ましい。この
pH調整には、LiOH水溶液を用いることが好ましい。また、たとえば正極活物質とし
てLiCoOを用いる場合、懸濁液の分散媒として純水のみを用いると、正極活物質の
表面にダメージが入る場合がある。そのため、懸濁液の分散媒としてエタノールと水の混
合液を用いることにより、活物質表面へのダメージを低減してもよい。
【0037】
上記のように懸濁液の作製を行うことにより、効率よく、表面が酸化グラフェンで被覆さ
れた正極活物質を用意することができる。表面が酸化グラフェンで被覆されることで、正
極活物質の粒子にひびが生じる、或いは割れるなどといった形状変化を防止することがで
きる。また表面が酸化グラフェンで被覆された正極活物質は、製造後に大気等に触れても
変質や劣化などを抑えることができる。ここで製造後とは、たとえば正極活物質の製造終
了後から、該正極活物質を用いた二次電池を作製するまでの期間をいい、正極活物質の保
管および輸送等が含まれる。また、被膜を形成することによって正極活物質と電解液とが
直接接して反応することを防ぐことができるため、二次電池を作製した場合に、その二次
電池の信頼性が向上する。
【0038】
また、スプレードライ法には、公知の装置を利用することができ、例えば向流型加圧ノズ
ル式噴霧乾燥装置、並向流型ノズル式加圧噴霧乾燥装置などを利用することができる。
【0039】
なお、二次電池に用いる場合、活物質表面を覆う酸化グラフェンを還元させてもよい。こ
の還元させた酸化グラフェンを、「RGO(Reduced Graphene Oxi
de)」と呼ぶ場合がある。なお、RGOには、一部の酸素または酸素を含む原子団が炭
素に結合した状態で残存する場合がある。例えばRGOは、エポキシ基、カルボキシル基
などのカルボニル基、または水酸基等の官能基を有する場合がある。
【0040】
また、本発明の他の一態様は、上記正極活物質、または被膜で覆われた上記正極活物質を
有する正極と、負極と、を有する二次電池である。
【0041】
また、二次電池は、使用されるデバイスに合わせて形状は様々なものを用いることができ
、例えば、円筒形形状、角型形状、コイン型形状、ラミネート型(平板)形状などが挙げ
られる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおけ
る容量の低下が抑制された正極活物質を提供することができる。また、充放電特性の優れ
た二次電池を提供することができる。また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供する
ことができる。また、新規な物質、活物質粒子、二次電池、又はそれらの作製方法を提供
することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】正極活物質の一例を説明する図。
図2】正極活物質の結晶構造を説明する図。
図3】正極活物質の結晶構造を説明する図。
図4】ゾルゲル法を説明する図。
図5】正極活物質が有する元素の偏析モデルを説明する図。
図6】正極活物質が有する元素の偏析モデルを説明する図。
図7】導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
図8】二次電池の充電方法を説明する図。
図9】二次電池の充電方法を説明する図。
図10】二次電池の放電方法を説明する図。
図11】コイン型二次電池を説明する図。
図12】円筒型二次電池を説明する図。
図13】二次電池の例を説明する図。
図14】二次電池の例を説明する図。
図15】二次電池の例を説明する図。
図16】二次電池の例を説明する図。
図17】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図18】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図19】二次電池の外観を示す図。
図20】二次電池の外観を示す図。
図21】二次電池の作製方法を説明するための図。
図22】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図23】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図24】電子機器の一例を説明する図。
図25】電子機器の一例を説明する図。
図26】電子機器の一例を説明する図。
図27】電子機器の一例を説明する図。
図28】実施例1の正極活物質の透過型電子顕微鏡像。
図29】実施例1の正極活物質の透過型電子顕微鏡像のFFT像。
図30】実施例1の正極活物質の元素マッピング像。
図31】実施例1の比較例の正極活物質の元素マッピング像。
図32】実施例1の正極活物質のTEM-EDX線状分析結果のグラフ。
図33】実施例1の二次電池の充放電特性のグラフ。
図34】実施例1の比較例の二次電池の充放電特性のグラフ。
図35】実施例1の二次電池のサイクル特性のグラフ。
図36】実施例1の二次電池のサイクル特性のグラフ。
図37】実施例2の比較例のTEM-EDX面分析像。
図38】実施例2の正極活物質のTEM-EDX面分析像。
図39】実施例2の比較例のTEM-EDX面分析像。
図40】実施例2の正極活物質のTEM-EDX面分析像。
図41】実施例2のEDX点分析結果のグラフ。
図42】実施例2のEDX点分析結果のグラフ。
図43】実施例2の二次電池のレート特性のグラフ。
図44】実施例2の二次電池の温度特性のグラフ。
図45】実施例2の二次電池のサイクル特性のグラフ。
図46】実施例3の正極活物質のXPS分析結果のグラフ。
図47】実施例3の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図48】実施例3の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図49】実施例3の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図50】実施例3の正極活物質を用いた二次電池の充放電特性を示すグラフ。
図51】実施例4の正極活物質のSEM像。
図52】実施例4の正極活物質のSEM-EDX像。
図53】実施例5の工程フローを示す図である。
図54】実施例5のスプレードライ装置を説明する図。
図55】実施例5の本発明の一態様を示すTEM写真である。
図56】実施例5の本発明の一態様を示すSEM写真である。
図57】実施例5の比較例を示すSEM写真である。
図58】実施例5の導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈さ
れるものではない。
【0045】
なお、本明細書で説明する各図において、正極、負極、活物質層、セパレータ、外装体な
どの各構成要素の大きさや厚さ等は、個々に説明の明瞭化のために誇張されている場合が
ある。よって、必ずしも各構成要素はその大きさに限定されず、また各構成要素間での相
対的な大きさに限定されない。
【0046】
また、本明細書等で説明する本発明の構成において、同一部分又は同様の機能を有する部
分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また
、同様の機能を有する部分を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さ
ない場合がある。
【0047】
また、本明細書等において結晶面および方向の表記にはミラー指数を用いる。ミラー指数
の表記では、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等における結晶面および
方向の表記は、表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス
符号)を付して表現する。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向す
べてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する
集合面は{ }でそれぞれ表現する。なお、図面における結晶面および方向の表記は、結
晶学上の数字の上にバーを付した本来の表記で行う。また、1Å(オングストローム)は
10-10mである。
【0048】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体におい
て、ある元素(たとえばB)が不均一に分布する現象をいう。
【0049】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構
造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリ
チウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である
結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層
状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合が
ある。
【0050】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列して
いる構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0051】
層状岩塩型結晶および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)を
とる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充
填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであ
り、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(
最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結
晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶と岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型
結晶及び岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う
とき、結晶の配向が概略一致する、と言う事とする。
【0052】
二つの領域の結晶の配向が一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走
査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡
)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することができ
る。X線回折、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。TEM像
等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観察できる。層状岩
塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶間で、明線と暗線
の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察できる
。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場合が
あるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0053】
また本明細書等において、二次元界面の構造に類似性があることをエピタキシという。ま
た二次元界面の構造に類似性を有する結晶成長を、エピタキシャル成長という。また三次
元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同じ配向であることをトポタキシ
という。そのためトポタキシである場合、断面の一部を観察すると、二つの領域(たとえ
ば下地となった領域と成長して形成された領域)の結晶の配向が概略一致する。
【0054】
(実施の形態1)
[正極活物質の構造]
まず図1を用いて、本発明の一態様である正極活物質100について説明する。正極活物
質100は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵または放出可能な遷移金属を含む物質を
指し、図1(A)に示すように、正極活物質100は、内部に第1の領域101を有し、
表層部に第2の領域102および第3の領域103を有する。
【0055】
図1(B)に示すように、第2の領域102は、第1の領域101の全てを被覆していな
くてもよい。同様に、第3の領域103は、第2の領域102の全てを被覆していなくて
もよい。また第1の領域101に接して、第3の領域103が存在してもよい。
【0056】
さらに、第2の領域102および第3の領域103は、厚さが場所により異なっていても
よい。
【0057】
また、正極活物質100の内部に第3の領域103が存在してもよい。たとえば第1の領
域101が多結晶であるとき、粒界近傍に第3の領域103が存在していてもよい。また
、正極活物質100の結晶欠陥のある部分、クラック部、およびそれらの近傍に、第3の
領域103が存在していてもよい。図1(B)では粒界の一部を点線で示す。なお本明細
書等において、結晶欠陥とはTEM像等で観察可能な欠陥、つまり結晶中に他の元素の入
り込んだ構造、空洞等をいうこととする。また、クラック部とはたとえば図1(C)に示
すクラック部106のように、粒子に生じるひび割れ、亀裂をいうこととする。
【0058】
同様に、図1(B)に示すように、正極活物質100の内部に第2の領域102が存在し
てもよい。たとえば第1の領域101が多結晶であるとき、粒界近傍に第2の領域102
が存在していてもよい。また正極活物質100の結晶欠陥のある部分、クラック部および
それらの近傍に、第2の領域102が存在していてもよい。また正極活物質100の内部
の第3の領域103と第2の領域102が、重なっていてもよい。
【0059】
<第1の領域101>
第1の領域101は、リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物を有する。また第1の領域
101は、リチウムと、第1の遷移金属と、酸素と、を有するといってもよい。
【0060】
リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有することが好まし
い。
【0061】
第1の遷移金属としては、コバルトのみを用いてもよいし、第1の遷移金属としてコバル
トとマンガンの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いても
よい。
【0062】
つまり、第1の領域は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム
、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コ
バルト酸リチウム等を有することができる。また第1の領域101は遷移金属に加えて、
アルミニウムをはじめとする遷移金属以外の金属を有していてもよい。
【0063】
第1の領域101は、正極活物質100の中でも特に充放電反応に寄与する領域として機
能する。正極活物質100を二次電池に用いた際の容量を大きくするために、第1の領域
101は、第2の領域および第3の領域よりも体積が大きいことが好ましい。
【0064】
層状岩塩型の結晶構造を持つ材料は、放電容量が高い、リチウムが二次元的に拡散可能で
あるため抵抗が低い、などの特長があり、第1の領域101として好ましい。また、第1
の領域101が層状岩塩型の結晶構造を有する場合、意外にも後述するマグネシウム等の
典型元素の偏析が起こりやすい。
【0065】
なお、第1の領域101は単結晶でもよいし、多結晶でもよい。たとえば第1の領域10
1は、結晶子サイズの平均が280nm以上630nm以下の多結晶であってもよい。多
結晶である場合、TEM等で結晶粒界が観察できることがある。また結晶粒径の平均は、
XRDの半値幅から計算することができる。
【0066】
多結晶は明瞭な結晶構造を有するため、リチウムイオンの二次元的な拡散のパスは十分に
確保される。加えて単結晶よりも生産が容易であるため、第1の領域101として好まし
い。
【0067】
また第1の領域101のすべてが層状岩塩型の結晶構造でなくともよい。たとえば、第1
の領域101の一部は非晶質であってもよいし、その他の結晶構造を有していてもよい。
【0068】
<第2の領域102>
第2の領域102は、第2の遷移金属の酸化物を有する。第2の領域102は、第2の遷
移金属と、酸素と、を有するといってもよい。
【0069】
第2の遷移金属としては、不定比性のある金属を用いることが好ましい。第2の領域10
2は不定比化合物を有することが好ましいといってもよい。たとえば、第2の遷移金属と
してチタン、バナジウム、マンガン、鉄、クロム、ニオブ、コバルト、亜鉛、ジルコニウ
ム、ニッケルなどの少なくとも一を用いることができる。ただし、第2の遷移金属は、第
1の遷移金属と異なる元素であることが好ましい。
【0070】
本明細書等において、不定比性のある金属とは、複数の原子価を取りうる金属をいう。ま
た不定比化合物とは、複数の原子価を取りうる金属と他の元素との化合物をいう。
【0071】
また第2の領域102は、岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。
【0072】
第2の領域102は、第1の領域101と、後述する第3の領域103を繋ぐバッファ領
域として機能する。不定比化合物は、不定比化合物が有する金属の価数の変化によって、
原子間距離が変化しうる。また、不定比化合物はしばしば陽イオンまたは陰イオンの欠損
や、転位(いわゆるマグネリ相)を形成する。そのため、第2の領域102はバッファ領
域として、第1の領域101と第3の領域103の間に生じたひずみを吸収できる。
【0073】
また、第2の領域102は、第2の遷移金属と酸素に加えて、リチウムを有してもよい。
たとえば、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウムなどを有してもよい。さらに、第2の
領域102は、後述する第3の領域103が有する典型元素を有していてもよい。第2の
領域102が、リチウムをはじめとする第1の領域101が有する元素、および第3の領
域103が有する元素を含むことは、バッファ領域として好ましい。
【0074】
つまり第2の領域102は、チタン酸リチウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マン
ガン、酸化鉄、酸化銅、酸化クロム、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化亜鉛等を有するこ
とができる。
【0075】
また第2の領域102は、第1の遷移金属を有していてもよい。たとえば、第1の遷移金
属を有する複合酸化物の第1の遷移金属サイトの一部に、第2の遷移金属が存在してもよ
い。
【0076】
たとえば第2の遷移金属がチタンの場合、チタンは第2の領域102において、酸化チタ
ン(TiO)として存在してもよいし、チタン酸リチウム(LiTiO)として存在
してもよい。また第2の領域102において、リチウムと第1の遷移金属を有する複合酸
化物の一部の第1の遷移金属サイトが、チタンで置換されていてもよい。
【0077】
さらに第2の領域102は、フッ素を有していてもよい。
【0078】
また、第2の領域102は後述する第3の領域103と同じ型の結晶構造を有することが
好ましい。この場合、第2の領域102と第3の領域103の結晶の配向が一致しやすい
【0079】
なお、第2の領域102は岩塩型の結晶構造を有することが好ましいが、第2の領域10
2のすべてが岩塩型の結晶構造でなくともよい。たとえば第2の領域102はスピネル型
結晶構造、オリビン型結晶構造、コランダム型結晶構造、ルチル型結晶構造をはじめとす
るその他の結晶構造を有していてもよい。
【0080】
また、陽イオンに6個の酸素原子が隣接する構造が維持されていれば、結晶構造にひずみ
があってもよい。また、第2の領域102の一部には陽イオンの欠損があってもよい。
【0081】
また第2の領域102の一部は非晶質であってもよい。
【0082】
第2の領域102は、薄すぎるとバッファ領域としての機能が低下するが、厚くなりすぎ
ても容量の低下を招く恐れがある。そのため、第2の領域102は、正極活物質100の
表面から深さ方向に20nm、より好ましくは10nmまでに存在することが好ましい。
また第2の遷移金属は、濃度勾配を有していてもよい。
【0083】
<第3の領域103>
第3の領域103は、典型元素の化合物を有する。典型元素の化合物は定比性のある化合
物である。典型元素の化合物としては、電気化学的に安定な典型元素からなる化合物であ
ることが好ましく、たとえば酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ベリリウム、フッ
化リチウム、フッ化ナトリウムの少なくとも一を用いることができる。
【0084】
第3の領域103は、正極活物質100を二次電池に用いた際に、電解液と接触する領域
である。そのため、第3の領域103に用いる材料は、充放電の過程で電気化学的な変化
が少なく、電解液との接触で変質しにくい材料であることが好ましい。定比化合物である
ため電気化学的に安定な典型元素の化合物は、第3の領域103として好ましい。正極活
物質100は、表層部に第3の領域103を有することで、二次電池の充放電における安
定性を向上させることができる。ここで二次電池の安定性が高いとは、例えば第1の領域
101が有するリチウムと第1の遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造がより安定である
ことをいう。あるいは、充放電を繰り返しても二次電池の容量の変化が小さいことをいう
。あるいは、充放電を繰り返した後でも、正極活物質100が有する金属の価数変化が抑
制されることをいう。
【0085】
また、第3の領域103は、フッ素を有していてもよい。第3の領域103がフッ素を有
する場合、典型元素の化合物中の陰イオンの一部がフッ素で置換されていてもよい。
【0086】
典型元素の化合物中の陰イオンが部分的にフッ素により置換されることで、例えばリチウ
ムの拡散性を高めることができる。そのため第3の領域103が存在しても充放電を妨げ
にくくなる。また、正極活物質粒子の表層部にフッ素が存在することで、電解液が分解し
て生じたフッ酸に対する耐食性が向上する場合がある。
【0087】
さらに、第3の領域103は、リチウム、第1の遷移金属および第2の遷移金属を有して
いてもよい。
【0088】
また第3の領域103が有する典型元素の化合物は、岩塩型の結晶構造を有することが好
ましい。第3の領域103が岩塩型の結晶構造を有すると、第2の領域102と結晶の配
向が一致しやすい。第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103の結晶
の配向が概略一致すると、第2の領域102および第3の領域103はより安定した被覆
層として機能することができる。
【0089】
しかし、第3の領域103のすべてが岩塩型の結晶構造でなくてもよい。たとえば第3の
領域103はスピネル型結晶構造、オリビン型結晶構造、コランダム型結晶構造、ルチル
型結晶構造をはじめとするその他の結晶構造を有していてもよい。
【0090】
また、陽イオンに6個の酸素が隣接する構造が維持されていれば、結晶構造にひずみがあ
ってもよい。また、第3の領域103の一部には陽イオンの欠損があってもよい。
【0091】
また第3の領域103の一部は非晶質であってもよい。
【0092】
第3の領域103は、薄すぎると充放電における安定性を向上させる機能が低下するが、
厚くなりすぎても容量の低下を招く。そのため、第3の領域103の厚さは0.5nm以
上50nm以下が好ましく、0.5nm以上2nm以下がより好ましい。
【0093】
また第3の領域103がフッ素を有する場合、フッ素はフッ化マグネシウム(MgF
、フッ化リチウム(LiF)、フッ化コバルト(CoF)以外の結合状態で存在してい
ることが好ましい。具体的には、正極活物質100の表面近傍をXPS分析したとき、フ
ッ素の結合エネルギーのピーク位置は682eV以上685eV以下であることが好まし
く、684.3eV程度であることがより好ましい。これはMgF、LiF、CoF
のいずれとも一致しない結合エネルギーである。
【0094】
なお本明細書等において、XPS分析したときのある元素の結合エネルギーのピーク位置
とは、その元素の結合エネルギーに該当する範囲で、エネルギースペクトルの強度が極大
となる結合エネルギーの値をいうこととする。
【0095】
一般的に、正極活物質は、充放電を繰り返すにつれ、マンガン、コバルト、ニッケル等の
第1の遷移金属が電解液に溶出する、酸素が離脱する、結晶構造が不安定になる、といっ
た副反応が生じ、劣化が進んでゆく。しかし本発明の一態様である正極活物質100は、
バッファ領域として機能する第2の領域102と、電気化学的に安定な第3の領域103
の両方を有する。そのため、第1の遷移金属の溶出を効果的に抑制し、第1の領域101
が有するリチウムと遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造をより安定にすることが可能で
ある。そのため正極活物質100を有する二次電池のサイクル特性を大幅に向上させるこ
とができる。また4.3V(vs. Li/Li)を超えるような電圧、特に4.5V
(vs. Li/Li)以上の高電圧で充放電を行う場合に、本発明の一態様の構成は
顕著な効果を発揮する。
【0096】
<ヘテロエピタキシャル成長と、トポタキシ>
第2の領域102は、第1の領域101からヘテロエピタキシャル成長して形成されるこ
とが好ましい。また、第3の領域103は、第2の領域102からヘテロエピタキシャル
成長して形成されることが好ましい。ヘテロエピタキシャル成長により形成された領域は
、下地となった領域と結晶配向が三次元的に概略一致する、トポタキシとなる。そのため
、第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103をトポタキシとすること
ができる。
【0097】
第1の領域101から第3の領域103までの結晶の配向が概略一致すると、第2の領域
102および第3の領域103は、第1の領域101と安定した結合を有する被覆層とし
て機能する。そのため強固な被覆層を有する正極活物質100とすることができる。
【0098】
第2の領域102および第3の領域103が、第1の領域101と安定した結合を有する
ため、正極活物質100を二次電池に用いた際、充放電によって生じる第1の領域101
の結晶構造の変化を効果的に抑制できる。また、充電によって第1の領域101からリチ
ウムが抜けた状態となっても、安定した結合を有する被覆層によって第1の領域101か
らコバルトや酸素が離脱するのを抑制することができる。さらに、電解液と接触する領域
を、化学的に安定した材料とすることができる。そのため、サイクル特性の優れた二次電
池とすることができる。
【0099】
<領域間の不整合度>
ヘテロエピタキシャル成長させるためには、下地となる領域の結晶と、成長させたい結晶
の不整合度が重要である。
【0100】
本明細書等において、不整合度fは下記数式1で定義される。下地となる領域の結晶にお
ける酸素と陽イオンの最近接距離の平均をa、成長させたい結晶の自然な陰イオンと陽イ
オンの最近接距離の平均をbとする。
【0101】
【数1】
【0102】
ヘテロエピタキシャル成長するためには、下地となる領域の結晶と成長させたい結晶の不
整合度fが0.12以下である必要がある。層状のより安定したヘテロエピタキシャル成
長のためには、不整合度fは0.08以下が好ましく、0.04以下であればさらに好ま
しい。
【0103】
そのため、第1の領域101が有する層状岩塩型の結晶構造と、第2の領域102が有す
る岩塩型の結晶構造の不整合度fが0.12以下となるように、第1の領域101と第2
の領域102の材料を選定することが好ましい。
【0104】
また、第2の領域102が有する岩塩型の結晶構造と、第3の領域103が有する岩塩型
の結晶構造の不整合度fが0.12以下となるように、第2の領域102と第3の領域1
03の材料を選定することが好ましい。
【0105】
上述のような、第1の領域101が有する層状岩塩型の結晶構造と、第2の領域102が
有する岩塩型の結晶構造の不整合度fが0.12以下であり、かつ第2の領域102が有
する岩塩型の結晶構造と、第3の領域103が有する岩塩型の結晶構造の不整合度fが0
.12以下であるという条件を満たす、第1の領域101、第2の領域102、第3の領
域103の材料および結晶面を以下に例示する。
【0106】
≪例1:コバルト酸リチウム、チタン酸リチウム、および酸化マグネシウム≫
まず図2および図3を用いて、第1の遷移金属がコバルトであり、第1の領域101が層
状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムを有し、第2の遷移金属がチタンであり
、第2の領域102が岩塩型の結晶構造を有するチタン酸リチウムを有し、第3の領域1
03が有する典型元素の化合物が、岩塩型の結晶構造を有する酸化マグネシウムである例
について説明する。
【0107】
図2(A)に、コバルト酸リチウム(LiCoO)の層状岩塩型(空間群R-3mH)
の結晶構造のモデル、チタン酸リチウム(LiTiO)の岩塩型(空間群Fd-3mZ
)の結晶構造のモデル、および酸化マグネシウムの岩塩型(空間群Fd-3mZ)の結晶
構造のモデルを示す。図2(A)は全てb軸方向から見た場合のモデルである。
【0108】
図2(A)の図だけでは、層状岩塩型の結晶と岩塩型の結晶がトポタキシになるようには
見えない。しかしここで、層状岩塩型の結晶を異なる方位(たとえば図2(A)中の矢印
が含む方位)から見ることとする。図2(B)に層状岩塩型の結晶を<1-1-4>の面
方位から見たモデル、岩塩型の結晶を<100>の面方位から見たモデルを示す。
【0109】
図2(B)に示すように、層状岩塩型の結晶を<1-1-4>の面方位から見ると、岩塩
型の結晶を<100>の面方位から見た場合とよく似た原子配置となる。また、金属と酸
素の最近接距離も似たような値をとる。たとえば層状岩塩型のコバルト酸リチウムにおけ
るLi-O間は2.089Å、Co-O間は1.925Åである。また岩塩型のチタン酸
リチウムにおけるLi-O間は2.138Å、Ti-O間は2.051Åである。また岩
塩型の酸化マグネシウムにおけるMg-O間は2.106Åである。
【0110】
そこで図3を用いて、層状岩塩型の結晶の(1-1-4)の結晶面と、岩塩型結晶の{1
00}の結晶面が接する場合の、各領域間の不整合度について説明する。
【0111】
図3に示すように、第1の領域101の層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウ
ムの(1-1-4)の結晶面101p(1-1-4)の金属-酸素-金属間の距離は4.
01Åである。また第2の領域102の岩塩型の結晶構造を有するチタン酸リチウムの{
100}の結晶面102p{100}の金属-酸素-金属間の距離は4.19Åである。
そのため、結晶面101p(1-1-4)と結晶面102p{100}の不整合度fは0
.04である。
【0112】
また、第3の領域103の岩塩型の結晶構造を有する酸化マグネシウムの{100}の結
晶面103p{100}の金属-酸素-金属間の距離は4.21Åである。そのため結晶
面102p{100}と結晶面103p{100}の不整合度fは0.02である。
【0113】
このように、第1の領域101と第2の領域102間の不整合度、および第2の領域10
2と第3の領域103間の不整合度は十分に小さいため、第1の領域101から第3の領
域103までトポタキシとなりうる。
【0114】
一方、図3では接していないが、仮に第1の領域101の結晶面101p(1-1-4)
と第3の領域103の結晶面103p{100}が接した場合の不整合度fは0.05と
なる。すなわち、第2の領域102の存在により、不整合度を小さくすることができてい
る。さらに第2の領域102が不定比性を有する遷移金属酸化物であるため、第2の領域
102が存在することで、第1の領域101から第3の領域103までがより安定したト
ポタキシとなりうる。そのため第2の領域102および第3の領域103を、第1の領域
101と安定した結合を有する被覆層として機能させることができる。
【0115】
なお本実施の形態では、層状岩塩型の(1-1-4)面と岩塩型の{100}面が接する
例について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。トポタキシとなりうる結晶面
同士が接していればよい。
【0116】
≪例2:コバルト酸リチウム、酸化マンガンおよび酸化カルシウム≫
次に、第1の遷移金属がコバルトであり、第1の領域101が層状岩塩型の結晶構造を有
するコバルト酸リチウムを有し、第2の遷移金属がマンガンであり、第2の領域102が
岩塩型の結晶構造を有する酸化マンガンを有し、第3の領域103が有する典型元素の化
合物が、岩塩型の結晶構造を有する酸化カルシウムである例について説明する。
【0117】
この場合も、図2および図3と同様に、第1の領域101の層状岩塩型の結晶を<1-1
-4>の面方位から見ると、第2の領域102および第3の領域103の岩塩型の結晶を
<100>の面方位から見た場合とよく似た原子配置となる。
【0118】
層状岩塩型の結晶の(1-1-4)の結晶面と、岩塩型結晶の{100}の結晶面が接す
る場合の、各領域間の不整合度について説明する。第1の領域101の層状岩塩型の結晶
構造を有するコバルト酸リチウムの結晶面(1-1-4)の金属-酸素-金属間の距離は
4.01Åである。また第2の領域102の岩塩型の結晶構造を有する酸化マンガンの結
晶面{100}の金属-酸素-金属間の距離は4.45Åである。そのため、第1の領域
101の結晶面(1-1-4)と第2の領域102の結晶面{100}の不整合度fは0
.11である。
【0119】
また、第3の領域103の岩塩型の結晶構造を有する酸化カルシウムの結晶面{100}
の金属-酸素-金属間の距離は4.82である。そのため第2の領域102の結晶面{1
00}と第3の領域103の結晶面{100}の不整合度fは0.08である。
【0120】
このように、第1の領域101と第2の領域102間の不整合度、および第2の領域10
2と第3の領域103間の不整合度は十分に小さいため、第1の領域101から第3の領
域103までトポタキシとすることができる。
【0121】
一方、仮に第1の領域101の結晶面(1-1-4)と第3の領域103の結晶面{10
0}が接した場合、不整合度fは0.20となるため、ヘテロエピタキシャル成長は難し
い。つまり第2の領域102が存在することで、第1の領域から第3の領域までのヘテロ
エピタキシャル成長が可能となる。そのため第2の領域102および第3の領域103を
、第1の領域101と安定した結合を有する被覆層として機能させることができる。
【0122】
≪例3:ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム、酸化マンガン、酸化カルシウム≫
次に、第1の遷移金属がニッケル、マンガンおよびコバルトであり、第1の領域101が
層状岩塩型の結晶構造を有するニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム(LiNi0.
33Co0.33Mn0.33)を有し、第2の遷移金属がマンガンであり、第2の
領域102が岩塩型の結晶構造を有する酸化マンガンを有し、第3の領域103が有する
典型元素の化合物が、岩塩型の結晶構造を有する酸化カルシウムである例について説明す
る。
【0123】
この場合も、図2および図3に示したように、層状岩塩型の結晶を<1-1-4>の面方
位から見ると、岩塩型の結晶を<100>の面方位から見た場合とよく似た原子配置とな
る。層状岩塩型の結晶の(1-1-4)の結晶面と、岩塩型結晶の{100}の結晶面が
接する場合の、各領域間の不整合度について説明する。
【0124】
第1の領域101の層状岩塩型の結晶構造を有するニッケル-マンガン-コバルト酸リチ
ウムの結晶面(1-1-4)の金属-酸素-金属間の距離は4.07Åである。また第2
の領域102の岩塩型の結晶構造を有する酸化マンガンの結晶面{100}の金属-酸素
-金属間の距離は4.45Åである。そのため、第1の領域101の結晶面(1-1-4
)と第2の領域102の結晶面{100}の不整合度fは0.09である。
【0125】
また、第3の領域103の岩塩型の結晶構造を有する酸化カルシウムの結晶面{100}
の金属-酸素-金属間の距離は4.82である。そのため第2の領域102の結晶面{1
00}と第3の領域103の結晶面{100}の不整合度fは0.08である。
【0126】
このように、第1の領域101と第2の領域102間の不整合度、および第2の領域10
2と第3の領域103間の不整合度は十分に小さいため、第1の領域101から第3の領
域103までトポタキシとすることができる。
【0127】
一方、仮に第1の領域101の結晶面(1-1-4)と第3の領域103の結晶面{10
0}が接した場合、不整合度fは0.18となるため、ヘテロエピタキシャル成長は難し
い。つまり第2の領域102が存在することで、第1の領域から第3の領域までのヘテロ
エピタキシャル成長が可能となる。そのため第2の領域102および第3の領域103を
、第1の領域101と安定した結合を有する被覆層として機能させることができる。
【0128】
<各領域同士の境界>
これまで述べたように、第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103は
、異なる組成を有する領域である。しかしそれぞれの領域が有する元素は濃度勾配を有す
ることがある。たとえば第2の領域102が有する第2の遷移金属は濃度勾配を有するこ
とがある。また第3の領域103は、後述するが典型元素が偏析している領域であること
が好ましいため、典型元素の濃度勾配を有することがある。そのため、それぞれの領域の
境界は明瞭でない場合がある。
【0129】
第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103は、TEM像、STEM像
、FFT(高速フーリエ変換)解析、EDX(エネルギー分散型X線分析)、ToF-S
IMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による深さ方向の分析、XPS(X線光電子
分光)、オージェ電子分光法、TDS(昇温脱離ガス分析法)等によって異なる組成を有
することを確認できる。
【0130】
たとえばTEM像およびSTEM像では、構成元素の違いが像の明るさの違いとなって観
察されるため、第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103の構成元素
が異なることが観察できる。またEDXの面分析(たとえば元素マッピング)でも、第1
の領域101、第2の領域102および第3の領域103が異なる元素を有することが観
察できる。
【0131】
またEDXの線分析、およびToF-SIMSを用いた深さ方向の分析では、第1の領域
101、第2の領域102および第3の領域103が有する各元素の濃度のピークを検出
することができる。
【0132】
しかし必ずしも、各種分析によって第1の領域101、第2の領域102および第3の領
域103の明確な境界が観察できなくてもよい。
【0133】
本明細書等において、正極活物質100の表層部に存在する第3の領域103は、正極活
物質100の表面から、深さ方向分析で検出されるマグネシウム等の典型元素の濃度が、
ピークの1/5になるまでをいうこととする。深さ方向分析としては、上述のEDXの線
分析、およびToF-SIMSを用いた深さ方向の分析等を用いることができる。
【0134】
また典型元素の濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nm
までに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0
.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0135】
また典型元素の濃度がピークの1/5になる深さは、作製方法により異なるが、後述する
作製方法の場合は、おおむね正極活物質の表面から2nm~5nm程度である。
【0136】
粒界近傍や結晶欠陥近傍等の第1の領域101の内部に存在する第3の領域103につい
ても、深さ方向分析で検出される典型元素の濃度が、ピークの1/5以上である領域をい
うこととする。
【0137】
正極活物質100が有するフッ素の分布は、上記典型元素の分布と重なることが好ましい
。そのため、フッ素も濃度勾配を有し、フッ素の濃度のピークは、正極活物質100の表
面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在
することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0138】
また本明細書等において、正極活物質100の表層部に存在する第2の領域102は、深
さ方向分析で検出される第2の遷移金属の濃度が、ピークの1/2以上である領域をいう
こととする。粒界近傍や結晶欠陥近傍等の第1の領域101の内部に存在する第2の領域
102についても、深さ方向分析で検出される第2の遷移金属の濃度が、ピークの1/2
以上である領域をいうこととする。分析手法としては、上述のEDXの線分析、およびT
oF-SIMSを用いた深さ方向の分析等を用いることができる。
【0139】
そのため第3の領域103と、第2の領域102は重なる場合がある。ただし、第3の領
域103は、第2の領域102よりも正極活物質粒子の表面に近い領域に存在することが
好ましい。また典型元素の濃度のピークは、第2の遷移金属の濃度のピークよりも、正極
活物質粒子の表面に近い領域に存在することが好ましい。
【0140】
第2の遷移金属のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ0.2nm
以上10nm以下に存在することが好ましく、深さ0.5nm以上3nm以下に存在する
ことがより好ましい。
【0141】
なおXPSは正極活物質100の粒子の表面から5nm程度が測定範囲である。そのため
、表面から5nmほどに存在する元素濃度を定量的に分析可能である。そのため表面から
5nmほどに存在する第3の領域103および第2の領域102の元素濃度を定量的に分
析することができる。
【0142】
正極活物質100の表面をXPS分析したとき、第1の遷移金属の濃度を1としたときの
、第2の遷移金属の濃度の相対値は0.05以上0.4以下が好ましく、0.1以上0.
3以下がより好ましい。また典型元素の濃度の相対値は0.4以上1.5以下が好ましく
、0.45以上1.00以下がより好ましい。またフッ素濃度の相対値は0.05以上1
.5以下が好ましく、0.3以上1.00以下がより好ましい。
【0143】
なお上述のように第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103が有する
元素は濃度勾配を有することがあるため、第1の領域101は、フッ素などの第2の領域
102および第3の領域103が有する元素を有していてもよい。同様に、第3の領域1
03は、第1の領域101および第2の領域102が有する元素を有していてもよい。ま
た第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103は、炭素、硫黄、ケイ素
、ナトリウム、カルシウム、塩素、ジルコニウム等のその他の元素を有していてもよい。
【0144】
[粒径]
正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなり、小さすぎると後
述する結晶構造を維持することが難しくなる。そのため、D50(メディアン径ともいう
)が、5μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上70μm以下であることがよ
り好ましい。また、後の工程で正極活物質100の表面に被膜をスプレードライ装置で形
成する場合には、ノズル径と正極活物質100の最大粒径がほぼ同一であることが好まし
い。粒径が5μm未満であるとノズル径が20μmのスプレードライ装置を用いた場合、
二次粒子がまとまって被覆されることとなり、被覆性が低下する。
【0145】
また正極活物質層を高密度化するためには、大きな粒子(最も長い部分が20μm程度以
上40μm程度以下)と小さな粒子(最も長い部分が1μm程度)を混合し、大きな粒子
の間隙を小さな粒子で埋めることも有効である。そのため粒度分布のピークは2つ以上あ
ってもよい。
【0146】
なお正極活物質の粒径は、出発原料の粒径だけでなく、出発原料に含まれるリチウムと、
第1の遷移金属の比(以下、Liと第1の遷移金属の比と表す)の影響を受ける。
【0147】
出発原料の粒径が小さい場合、正極活物質の粒径を上記の好ましい範囲にするには、焼成
する際に粒成長させる必要がある。
【0148】
焼成の際の粒成長を促進するには、出発原料のLiと第1の遷移金属の比を1より大きく
する、つまりリチウムをやや過剰にすることが有効である。たとえばLiと第1の遷移金
属の比を1.06程度とするとD50が15μm以上の正極活物質を得られやすい。なお
、後述するが正極活物質を作製する工程中にリチウムが系外に失われることがあるため、
出来上がった正極活物質のリチウムと第1の遷移金属の比は、出発原料のリチウムと第1
の遷移金属の比と一致しないことがある。
【0149】
ところが、粒径を好ましい範囲にするためにリチウム量が過剰になりすぎると、二次電池
に用いた際の容量維持率が低下するおそれが生じる。
【0150】
しかしながら、本発明者らは、表層部に第2の遷移金属を有する第2の領域102を設け
ることで、Liと第1の遷移金属の比のコントロールにより粒径を好ましい範囲にしつつ
、高い容量維持率を有する正極活物質を作製できることを明らかにした。
【0151】
表層部に第2の遷移金属を有する領域を設ける本発明の一態様の正極活物質の場合、出発
原料のLiと第1の遷移金属の比は1.00以上1.07以下であることが好ましく、1
.03以上1.06以下であることがより好ましい。
【0152】
[第2の領域の形成]
第2の領域102は、リチウムと第1の遷移金属を有する複合酸化物の粒子に、第2の遷
移金属を有する材料を被覆することで形成することができる。
【0153】
第2の遷移金属を有する材料を被覆する方法としては、ゾルゲル法をはじめとする液相法
、固相法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレー
ザデポジション)法等の方法を適用することができる。本実施の形態では、均一な被覆が
期待でき、大気圧で処理が可能なゾルゲル法を適用する場合について説明する。
【0154】
<ゾルゲル法>
ゾルゲル法を適用して第2の遷移金属を有する材料を被覆する方法について、図4を用い
て説明する。
【0155】
まず、第2の遷移金属のアルコキシドをアルコールに溶解する。
【0156】
図4(A-1)に、第2の遷移金属のアルコキシドの一般式を示す。図4(A-1)の式
中のM2は第2の遷移金属のアルコキシドを示す。Rは、炭素数が1乃至18のアルキル
基、または置換もしくは無置換の炭素数が6~13のアリール基を示す。また、図4(A
-1)では第2の遷移金属が4価の場合の一般式を示したが、本発明の一態様はこれに限
らない。第2の遷移金属は、2価、3価、5価、6価または7価であってもよい。この場
合、第2の遷移金属のアルコキシドは第2の遷移金属の価数に応じたアルコキシ基を有す
る。
【0157】
図4(A-2)に、第2の遷移金属としてチタンを適用した場合に用いる、チタンアルコ
キシドの一般式を示す。図4(A-2)のRは炭素数が1乃至18のアルキル基、または
置換もしくは無置換の炭素数が6~13のアリール基を示す。
【0158】
たとえばチタンアルコキシドとして、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テ
トラ-n-プロポキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン(オルトチタン酸テトライ
ソプロピル、チタン(IV)イソプロポキシド、Titanium tetraisop
ropoxide(IV)、TTIP等と表記することもある)、テトラ-n-ブトキシ
チタン、テトラ-i-ブトキシチタン、テトラ-sec-ブトキシチタン、テトラ-t-
ブトキシチタン等を用いることができる。
【0159】
図4(A-3)に、後述する作製方法で述べるチタンアルコキシドの1種である、チタン
(IV)イソプロポキシド(TTIP)の化学式を示す。
【0160】
第2の遷移金属のアルコキシドを溶解させる溶媒としてはアルコール類が好ましく、例え
ばメタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノ
ール等を用いることができる。
【0161】
次に第2の遷移金属のアルコキシドのアルコール溶液に、リチウム、遷移金属、マグネシ
ウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子を混合し、水蒸気を含む雰囲気中で撹拌する
【0162】
Oを含む雰囲気中に置くことで、図4(B)のように水と第2の遷移金属のアルコキ
シドの加水分解が起こる。続いて図4(B)の生成物同士で図4(C)のように脱水縮合
が起こる。図4(B)に示す加水分解と図4(C)に示す縮合反応が繰り返し生じること
で、第2の遷移金属の酸化物のゾルが生成される。この反応が図4(D-1)および図4
(D-2)のように複合酸化物の粒子110上でも生じ、粒子110の表面に第2の遷移
金属を含む層が形成される。
【0163】
その後、粒子110を回収し、アルコールを気化させる。作製方法の詳細については後述
する。
【0164】
なお本実施の形態では、リチウム、第1の遷移金属、典型元素およびフッ素を有する複合
酸化物の粒子を正極集電体に塗工する前に、第2の遷移金属を有する材料を被覆する例に
ついて説明するが、本発明の一態様はこれに限らない。正極集電体上に、リチウム、第1
の遷移金属、典型元素およびフッ素を有する複合酸化物の粒子を含む正極活物質層を形成
してから、正極集電体と正極活物質層を共に第2の遷移金属のアルコキシド溶液に浸し、
第2の遷移金属を有する材料を被覆してもよい。
【0165】
[第3の領域の偏析]
第3の領域103は、スパッタリング法、固相法、ゾルゲル法をはじめとする液相法、等
の方法でも形成することができる。しかし本発明者らは、マグネシウム等の典型元素源と
フッ素源を第1の領域101の材料と混合した後、加熱すると、典型元素が正極活物質粒
子の表層部に偏析し、第3の領域103を形成することを明らかにした。またこのように
して形成された第3の領域103を有すると、サイクル特性の優れた正極活物質100と
なることを明らかにした。
【0166】
上記のように加熱を経て第3の領域103を形成する場合、加熱は、複合酸化物の粒子に
第2の遷移金属を含む材料を被覆した後に行うことが好ましい。意外にも第2の遷移金属
を含む材料を被覆した後でも、加熱を行うとマグネシウム等の典型元素が粒子の表面に偏
析するためである。
【0167】
図5および図6を用いて、この典型元素の偏析モデルについて説明する。マグネシウム等
の典型元素の偏析モデルは、出発原料に含まれるリチウムと第1の遷移金属の比によって
やや異なると推測されている。そこで出発原料のLiと第1の遷移金属の比が1.03未
満、つまりリチウムが少ない場合の偏析モデルを、図5を用いて説明する。そして出発原
料のLiと第1の遷移金属の比が1.03以上、つまりリチウムが多い場合の偏析モデル
を、図6を用いて説明する。またこれらの偏析モデル、および図5図6では第1の遷移
金属がコバルト、第2の遷移金属がチタン、典型元素がマグネシウムである場合を例にと
って説明する。
【0168】
図5(A)は、出発原料のLiとCo比が1.03未満で作製された、リチウム、コバル
ト、マグネシウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子110の表面近傍のモデル図で
ある。図中の領域111は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、フッ素と、を有
する領域であり、コバルト酸リチウム(LiCoO)が主成分である。コバルト酸リチ
ウムは、層状岩塩型の結晶構造を有する。
【0169】
一般的に、リチウム、コバルト、マグネシウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子を
合成する際、リチウムが一部系外(作製される粒子の外)へ出ることが知られている。こ
の原因としては、焼成の際にリチウムが揮発する、出発材料を混合する際にリチウムが溶
媒へ溶出する、等がある。そのため出発原料のLiとCo比に比べて、リチウム、コバル
ト、マグネシウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子110におけるLiとCo比が
小さくなる場合がある。
【0170】
出発原料のLiとCo比が1.03未満であると、粒子110の表面では、コバルト酸リ
チウムからリチウムが離脱して酸化コバルトとなりやすい。そのため図5(A)で示すよ
うに、複合酸化物の粒子110の表面が、酸化コバルト(CoO(X>0))層114
で覆われる場合がある。
【0171】
酸化コバルトは岩塩型の結晶構造を有する。そのため、図5(A)の粒子110では、層
状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムを有する領域111の上に、岩塩型の結
晶構造を有する酸化コバルト層114が接している場合がある。
【0172】
このような粒子110に、ゾルゲル法等によりチタンを有する材料を被覆する。図5(B
)は、粒子110にゾルゲル法によりチタンを有する層112を被覆した状態を示してい
る。図5(B)の段階では、チタンを有する層112はチタン酸化物のゲルであるため、
結晶性は低い。
【0173】
次に、チタンを有する層112を被覆した後の粒子110を加熱する。加熱条件の詳細に
ついては後述するが、たとえば酸素雰囲気において800℃で2時間加熱し、本発明の一
態様である正極活物質100を作製した状態を図5(C)に示す。加熱により、チタンを
有する層112中のチタンは、粒子110の内部に向かって拡散する。同時に、領域11
1に含まれたマグネシウムとフッ素は粒子110の表面に偏析する。
【0174】
上述のように粒子110の表面には岩塩型の酸化コバルトが存在する。また酸化マグネシ
ウムも同じく岩塩型の結晶構造を有する。そのため、マグネシウムは粒子110の内部よ
りも、粒子110の表面に酸化マグネシウムとして存在する方が安定であると推測される
。これが加熱した際にマグネシウムが粒子110の表面に偏析する理由であると考えられ
る。
【0175】
さらに出発材料に含まれるフッ素が、マグネシウムの偏析を助長すると考えられる。
【0176】
フッ素は酸素と比べて電気陰性度が高い。よって、酸化マグネシウムのような安定な化合
物においても、フッ素を加えることにより、電荷の偏りが生じ、マグネシウムと酸素との
結合を弱めると推測される。そのため、酸化マグネシウム中の酸素がフッ素と置換される
ことにより、置換したフッ素の周辺においてマグネシウムが移動しやすくなると推測され
る。
【0177】
また、混合物の融点が降下する現象からも説明できる。酸化マグネシウム(融点2852
℃)とフッ化リチウム(融点848℃)を同時に加えると、酸化マグネシウムの融点が下
がる。融点が下がることにより、加熱時にマグネシウムの移動がしやすくなり、マグネシ
ウムの偏析が起こりやすくなるとも考えられる。
【0178】
最終的に第3の領域103は、岩塩型の結晶構造を有する、酸化コバルトと酸化マグネシ
ウムの固溶体となる。また酸化コバルトと酸化マグネシウムが有する酸素の一部はフッ素
で置換されていると考えられる。
【0179】
拡散したチタンは、一部はコバルト酸リチウムのコバルトサイトに置換し、一部はチタン
酸リチウムとなる。加熱後の第2の領域102は、岩塩型の結晶構造を有するチタン酸リ
チウムを有する。
【0180】
加熱後の第1の領域101は、層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムを有す
る。
【0181】
次に、図6を用いて出発原料のLiとCo比が1.03以上の場合について説明する。図
6(A)は、出発原料のLiとCo比が1.03以上で作製された、リチウム、コバルト
、マグネシウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子120の表面近傍のモデル図であ
る。図中の領域121は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、フッ素と、を有す
る領域である。
【0182】
図6(A)の粒子120は十分にリチウムを有するため、リチウム、コバルト、マグネシ
ウムおよびフッ素を有する複合酸化物の粒子120を焼成する際等にリチウムが粒子12
0から離脱しても、リチウムが粒子120内部から表面に拡散して補われるため、表面に
酸化コバルト層が形成されにくい。
【0183】
図6(B)は、図6(A)の粒子120に、ゾルゲル法によりチタンを有する層122を
被覆した状態を示している。図6(B)の段階では、チタンを有する層122はチタン酸
化物のゲルであるため、結晶性は低い。
【0184】
図6(C)は、図6(B)のチタンを有する層122を被覆した後の粒子120を、加熱
しはじめた状態を示している。加熱により、チタンを有する層122中のチタンは粒子1
10の内部に向かって拡散する。拡散したチタンは、領域121に含まれるリチウムと結
合してチタン酸リチウムとなり、チタン酸リチウムを有する層125が形成される。
【0185】
リチウムが、チタンと結合してチタン酸リチウムとなるため、粒子120の表面ではリチ
ウムが相対的に不足する。そのため、図6(C)に示すように、粒子120の表面に酸化
コバルト層124が一時的に形成されると推測される。
【0186】
図6(D)は、図6(C)から加熱が十分に行われ、本発明の一態様である正極活物質1
00となった状態を示している。岩塩型の結晶構造を有する酸化コバルト層124が表面
に存在することで、マグネシウムは粒子120の内部よりも、粒子120の表面に酸化マ
グネシウムとして存在する方が安定だと考えられる。また図5の場合と同様に、フッ素の
存在によりマグネシウムの偏析が助長される。
【0187】
そのため、図6(D)に示すように、領域121に含まれたマグネシウムとフッ素は表面
に偏析し、酸化コバルトと共に第3の領域103となる。
【0188】
このようにして、酸化マグネシウムと酸化コバルトを有する第3の領域103、チタン酸
リチウムを有する第2の領域102、およびコバルト酸リチウムを有する第1の領域10
1を有する、正極活物質100が作製される。
【0189】
なお加熱により典型元素を偏析させる場合、第1の領域101が有するリチウムと第1の
遷移金属を含む複合酸化物が多結晶であるときや結晶欠陥が存在するとき、表層部だけで
なく、リチウムと第1の遷移金属を含む複合酸化物の粒界近傍や結晶欠陥近傍にも典型元
素が偏析しうる。粒界近傍や結晶欠陥近傍に偏析した典型元素は、第1の領域101が有
するリチウムと第1の遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造のさらなる安定化に寄与しう
る。
【0190】
また第1の領域101が有するリチウムと第1の遷移金属を含む複合酸化物がクラック部
を有するとき、加熱によりクラック部にも典型元素が偏析しうる。また典型元素だけでな
く、第2の遷移金属も偏析しうる。クラック部は、粒子表面と同様、電解液と接する領域
である。そのため、クラック部に典型元素および第2の遷移金属が偏析し、第3の領域1
03および第2の領域102が生じることで、電解液と接触する領域を、化学的に安定し
た材料とすることができる。そのため、サイクル特性の優れた二次電池とすることができ
る。
【0191】
出発原料の典型元素(T)とフッ素(F)の比がT:F=1:x(1.5≦x≦4)(原
子数比)の範囲であると、効果的に典型元素の偏析が起こるため好ましい。またT:F=
1:2(原子数比)程度であることがさらに好ましい。
【0192】
偏析により形成された第3の領域103は、エピタキシャル成長により形成されているた
め、第2の領域102と第3の領域103の結晶の配向は、一部で概略一致することがあ
る。つまり第2の領域102と第3の領域103がトポタキシとなることがある。第2の
領域102と第3の領域103の結晶の配向が概略一致していると、これらはより良好な
被覆層として機能しうる。
【0193】
ただし、出発原料として添加したマグネシウム等の典型元素のすべてが、第3の領域10
3に偏析していなくてもよい。たとえば第1の領域101がマグネシウム等の典型元素を
わずかに含んでいてもよい。
【0194】
<第4の領域104>
また、図1(C)に示すように、正極活物質100は第3の領域103上に第4の領域1
04を有していてもよい。さらに、正極活物質100がクラック部106等の欠陥を有す
るとき、クラック部106等の欠陥を埋めるように第4の領域104が存在していてもよ
い。
【0195】
第4の領域104は、第2の領域102および第3の領域103が有する元素の一部を有
する。たとえば、第4の領域104は第2の遷移金属と典型元素を有する。
【0196】
第4の領域104は、凸形状であってもよいし、帯状であってもよいし、層状であっても
よい。第4の領域104は、出発材料等に含まれる第2の遷移金属および典型元素のうち
、第2の領域102および第3の領域103に含まれなかった第2の遷移金属および典型
元素から形成される。つまり第4の領域104が存在することで、第2の領域102およ
び第3の領域103が有する第2の遷移金属および典型元素を適正な量に保ち、第2の領
域102および第3の領域103の結晶構造を安定化することができる場合がある。さら
に、第4の領域104の存在により、正極活物質100が有するクラック部106等の欠
陥を修復することができる場合がある。
【0197】
第4の領域104が存在すること、および第4の領域104の形状はSEM(走査型電子
顕微鏡)等で観察することができる。また、第4の領域104が有する元素は、SEM-
EDX等で分析することができる。
【0198】
[正極活物質の作製方法]
次に、本発明の一態様である正極活物質100の作製方法の一例について説明する。
【0199】
<ステップ11:出発原料の準備>
はじめに、出発原料を準備する。この工程で用意する原料から、最終的に第1の領域10
1および第3の領域103が形成される。
【0200】
第1の領域101が有するリチウムと第1の遷移金属の原料として、リチウム源と、第1
の遷移金属源を用意する。また第3の領域103が有する典型元素の化合物の原料として
、典型元素源を用意する。
【0201】
これらに加えて、フッ素源を用意することが好ましい。フッ素は、原料に加えることで、
後の工程で第3の領域103が有する典型元素が正極活物質100の表面に偏析すること
を助長する効果がある。
【0202】
リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウムを用いることができる。第1
の遷移金属源としては、例えば第1の遷移金属の酸化物を用いることができる。典型元素
源としては、例えば第3の領域が有する典型元素の酸化物、第3の領域が有する典型元素
のフッ化物等を用いることができる。
【0203】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、第3の領域が有する典型元素のフッ化物等を
用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用
いることができる。
【0204】
フッ素源に含まれるフッ素は、典型元素源に含まれる典型元素の、1.0倍以上4倍以下
(原子数比)であることが好ましく、1.5倍以上3倍以下(原子数比)であることがさ
らに好ましい。
【0205】
<ステップ12:出発材料の混合>
次に、リチウム源、第1の遷移金属源、典型元素源を混合する。さらにフッ素源を加える
ことが好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミルを用いることができる。
【0206】
<ステップ13:第1の加熱>
次に、ステップ12で混合した材料を加熱する。本ステップは、焼成、または第1の加熱
という場合がある。加熱は800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃
以上1000℃以下で行うことがより好ましい。加熱時間は、2時間以上20時間以下と
することが好ましい。焼成は、乾燥空気などの乾燥した雰囲気で行うことが好ましい。乾
燥した雰囲気は、たとえば露点が-50℃以下が好ましく、-100℃以下の雰囲気がさ
らに好ましい。本実施の形態では1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200
℃/h、露点が-109℃の乾燥空気を10L/minで流すこととする。その後加熱し
た材料を室温まで冷却する。
【0207】
ステップ13の加熱により、層状岩塩型の結晶構造を有する、リチウムと第1の遷移金属
の複合酸化物を合成することができる。この時点では、出発材料に含まれた典型元素とフ
ッ素は、複合酸化物中に固溶している。ただし、すでに典型元素の一部が、複合酸化物の
表面に偏在している場合もある。
【0208】
また、出発原料としてあらかじめ合成されたリチウム、コバルト、フッ素、マグネシウム
を含む複合酸化物の粒子を用いてもよい。この場合、ステップ12およびステップ13を
省略することができる。たとえば、日本化学工業株式会社製の、コバルト酸リチウム粒子
(商品名:C-20F)を出発原料の一として用いることができる。これは粒径が約20
μmであり、表面からXPSで分析可能な領域にフッ素、マグネシウム、カルシウム、ナ
トリウム、シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。
【0209】
<ステップ14:第2の遷移金属で被覆>
次に、リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物を室温まで冷却する。そしてリチウムと第
1の遷移金属の複合酸化物粒子の表面を、第2の遷移金属を有する材料で被覆する。本作
製方法例では、ゾルゲル法を適用することとする。
【0210】
まずアルコールに溶解させた第2の遷移金属のアルコキシドと、リチウムと第1の遷移金
属の複合酸化物粒子と、を混合する。
【0211】
たとえば第2の遷移金属としてチタンを用いる場合、第2の遷移金属のアルコキシドとし
てはたとえばTTIPを用いることができる。またアルコールとしては、たとえばイソプ
ロパノールを用いることができる。
【0212】
次に、上記混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。撹拌はたとえばマグネチックス
ターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水とTTIPが加水分解および重
縮合反応を起こすのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH
(Relative Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。
【0213】
上記のように、雰囲気中の水とTTIPを反応させることで、液体の水を加える場合より
もゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。また常温でチタンアルコキシドと水を
反応させることで、たとえば溶媒のアルコールの沸点を超える温度で加熱を行う場合より
もゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。ゆっくりとゾルゲル反応を進めること
で、厚さが均一で良質なチタンを含む被覆層を形成することができる。
【0214】
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する。回収方法としては、ろ過、遠心分離
、蒸発乾固等を適用することができる。本実施の形態ではろ過により回収することとする
。ろ過には紙フィルターを用い、残渣はチタンアルコキシドを溶解させた溶媒と同じアル
コールで洗浄することとする。
【0215】
次に、回収した残渣を乾燥する。本実施の形態では、70℃で1時間、真空乾燥すること
とする。
【0216】
<ステップ15:第2の加熱>
次に、ステップ14で作製した、第2の遷移金属を有する材料で被覆された、複合酸化物
粒子を加熱する。本ステップは、第2の加熱という場合がある。加熱時間は、規定温度の
範囲内での保持時間を50時間以下とすることが好ましく、2時間以上10時間以下とす
ることがより好ましく、1時間以上3時間以下で行うことがさらに好ましい。加熱時間が
短すぎると典型元素の偏析が起こらない恐れがあるが、長すぎると、第2の遷移金属の拡
散が進みすぎて良好な第2の領域102が形成できない恐れがある。
【0217】
規定温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、800℃以上1000℃以下
がより好ましい。規定温度が低すぎると典型元素および第2の遷移金属の偏析が起こらな
い恐れがある。しかし高すぎても複合酸化物粒子中の第1の遷移金属が還元され、複合酸
化物粒子が分解してしまう、複合酸化物粒子中のリチウムと第1の遷移金属の層状構造が
保てない、等のおそれがある。
【0218】
本実施の形態では、規定温度を800℃として2時間保持することとし、昇温は200℃
/h、乾燥空気の流量は10L/minとする。
【0219】
ステップ15の加熱によって、リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物と、その上に被覆
された第2の遷移金属の酸化物がトポタキシとなる。つまり第1の領域101と第2の領
域102がトポタキシとなる。
【0220】
またステップ15の加熱によって、リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物粒子の内部に
固溶していた典型元素が表面に偏在して固溶、つまり偏析し、典型元素の化合物となり、
第3の領域103を形成する。このとき典型元素の化合物は、第2の領域102からヘテ
ロエピタキシャル成長する。つまり第2の領域102と第3の領域103がトポタキシと
なる。
【0221】
第2の領域102および第3の領域103の結晶の配向が概略一致し、第1の領域101
と安定した結合を有するため、正極活物質100を二次電池に用いた際、充放電によって
生じる第1の領域101の結晶構造の変化を効果的に抑制できる。また、充電によって第
1の領域101からリチウムが抜けた状態となっても、安定した結合を有する表層部によ
って第1の領域101からコバルト等の第1の遷移金属や酸素が離脱するのを抑制するこ
とができる。さらに、電解液と接触する領域を、化学的に安定した材料とすることができ
る。そのため、サイクル特性の優れた二次電池とすることができる。
【0222】
なお、第1の領域101と第2の領域102は一部がトポタキシであればよく、第1の領
域101と第2の領域102のすべてがトポタキシである必要はない。また、第2の領域
102と第3の領域103は一部がトポタキシであればよく、第2の領域102と第3の
領域103のすべてがトポタキシである必要はない。
【0223】
また、第3の領域が有する典型元素の化合物が、酸素を有する場合は、酸素を含む雰囲気
でステップ15の加熱を行うことが好ましい。酸素を含む雰囲気で加熱することで、第3
の領域103の形成が促進される。
【0224】
また、出発原料に含まれたフッ素により、典型元素の偏析が促進される。
【0225】
このように、本発明の一態様である正極活物質の作製方法では、第2の領域102を形成
する元素を被覆した後、加熱を行うことで第3の領域103を形成し、正極活物質100
の表面に2種の領域を形成することが可能となる。つまり通常ならば、表層部に2種の領
域を設けるためには2回の被覆工程が必要であるところ、本発明の一態様である正極活物
質の作製方法は1回の被覆工程(ゾルゲル工程)のみでよいため、生産性のよい作製方法
である。
【0226】
<ステップ16:冷却>
次に、ステップ15で加熱した粒子を、室温まで冷却する。降温時間は長くとると、トポ
タキシとさせやすく好ましい。たとえば、保持温度から室温までの降温時間は、昇温と同
じかそれ以上の時間、具体的には10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0227】
<ステップ17:回収>
次に、冷却された粒子を回収する。さらに、粒子をふるいにかけることが好ましい。上記
の工程で、第1の領域101、第2の領域102および第3の領域103を有する正極活
物質100を作製することができる。
【0228】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0229】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池に用い
ることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液
が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0230】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0231】
<正極活物質層>
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を有する。また、正極活物質層は、正極活物質に
加えて、活物質表面の被膜、導電助剤またはバインダなどの他の物質を含んでもよい。
【0232】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる
。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に
優れた二次電池とすることができる。
【0233】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることが
できる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導
電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下
がより好ましい。
【0234】
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助
剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導
電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる
【0235】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊
維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維
、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カ
ーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノ
チューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例
えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子
、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニ
ッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を
用いることができる。
【0236】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0237】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高
い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン
化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とす
る。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導
電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いるこ
とにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。スプ
レードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化
合物を被膜として形成することが好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合がある
ため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェンまたはマルチグラフェ
ンまたはRGOを用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン
(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0238】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が
大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多く
なりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量
が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤として
グラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成する
ことができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0239】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合
の断面構成例を説明する。
【0240】
図7(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質
100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含
む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを
用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好まし
い。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数
のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0241】
活物質層200の縦断面においては、図7(B)に示すように、活物質層200の内部に
おいて概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。図7(B)においては
グラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多
層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物
質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に貼り着く
ように形成されているため、互いに面接触している。
【0242】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物
シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することが
できる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を
結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくするこ
とができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比
率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0243】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質
層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に
、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化
合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に
分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元
するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互
いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。
なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行
ってもよい。
【0244】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェ
ン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よ
りも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させ
ることができる。よって、粒状の正極活物質100の活物質層200における比率を増加
させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0245】
また、予め、スプレードライ装置を用いてグラフェン化合物で活物質の表面全体を覆って
もよい。その後正極活物質層を作製するときにさらにグラフェン化合物を加えて、活物質
同士間の導電パスをより良好にすることもできる。
【0246】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレ
ン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プ
ロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして
、フッ素ゴムを用いることができる。
【0247】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分
子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチ
ルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセ
ルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉など
を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用
いると、さらに好ましい。
【0248】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メ
チル(ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニ
ルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、
ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデ
ン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー
、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0249】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0250】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例
えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい
場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合すること
が好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよ
い。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカル
ボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導
体や、澱粉を用いることができる。
【0251】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチル
セルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、
粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリ
ーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書にお
いては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、そ
れらの塩も含むものとする。
【0252】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとし
て組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分
散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいこ
とが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、
例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために
高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0253】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜とし
ての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電
子の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不
動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することがで
きる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できる
とさらに望ましい。
【0254】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれ
らの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料
は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカ
ンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用
いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成して
もよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チ
タン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン
、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチング
メタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが
5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0255】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およ
びバインダを有していてもよい。
【0256】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0257】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可
能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲ
ルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少
なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大
きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシ
リコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例
えば、SiO、MgSi、MgGe、SnO、SnO、MgSn、SnS、V
Sn、FeSn、CoSn、NiSn、CuSn、AgSn、Ag
Sb、NiMnSb、CeSb、LaSn、LaCoSn、CoSb、I
nSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反
応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合があ
る。
【0258】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiO
と表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0
.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0259】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハー
ドカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい
【0260】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカ
ーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げら
れる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例え
ば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積
を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、
鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0261】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)に
リチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/L
)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さら
に、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である
、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0262】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(Li
12)、リチウム-黒鉛層間化合物(Li)、五酸化ニオブ(Nb
、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物を用いることが
できる。
【0263】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつ
Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6
Co0.4は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示
し好ましい。
【0264】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、
正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせ
ることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも
、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質とし
てリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0265】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば
、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウム
との合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が
生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr
の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、Ge
等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF等の
フッ化物でも起こる。
【0266】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有
することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0267】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リ
チウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0268】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ま
しく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチ
レンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラ
クトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート
(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチ
ル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1
,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホ
キシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テト
ラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の
組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0269】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一
つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇して
も、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオン
からなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級
アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等
の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の
芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系ア
ニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキル
スルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレート
アニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェ
ートアニオン等が挙げられる。
【0270】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF、LiClO、Li
AsF、LiBF、LiAlCl、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO
、Li10Cl10、Li12Cl12、LiCFSO、LiCSO
、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiN(CFSO
、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(CSO等のリチ
ウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いること
ができる。
【0271】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不
純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具
体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好
ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0272】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベ
ンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、LiBOB、またスクシ
ノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加
する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい
【0273】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0274】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池
の薄型化および軽量化が可能である。
【0275】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、
ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーの
ゲル等を用いることができる。
【0276】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシ
ド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを
含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(H
FP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリ
マーは、多孔質形状を有してもよい。
【0277】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0278】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙
、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリ
ビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを
用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状
に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0279】
セパレータは多層構造であってもよい。たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機
材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを
混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、たとえば酸化ア
ルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、た
とえばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材
料としては、たとえばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用い
ることができる。
【0280】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレー
タの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコ
ートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。
ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安
全性を向上させることができる。
【0281】
たとえばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコ
ートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウ
ムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい
【0282】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を
保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0283】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用い
ることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、
例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等
の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金
属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステ
ル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0284】
[充放電方法]
二次電池の充放電は、たとえば下記のように行うことができる。
【0285】
≪CC充電≫
まず、充電方法の1つとしてCC充電について説明する。CC充電は、充電期間のすべて
で一定の電流を二次電池に流し、所定の電圧になったときに充電を停止する充電方法であ
る。二次電池を、図8(A)に示すように内部抵抗Rと二次電池容量Cの等価回路と仮定
する。この場合、二次電池電圧Vは、内部抵抗Rにかかる電圧Vと二次電池容量Cに
かかる電圧Vの和である。
【0286】
CC充電を行っている間は、図8(A)に示すように、スイッチがオンになり、一定の電
流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V=R×Iのオームの法
則により、内部抵抗Rにかかる電圧Vも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電
圧Vは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧Vは、時間の経過と
ともに上昇する。
【0287】
そして二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、充電を停止する
。CC充電を停止すると、図8(B)に示すように、スイッチがオフになり、電流I=0
となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧Vが0Vとなる。そのため、内部抵抗Rで
の電圧降下がなくなった分、二次電池電圧Vが下降する。
【0288】
CC充電を行っている間と、CC充電を停止してからの、二次電池電圧Vと充電電流の
例を図8(C)に示す。CC充電を行っている間は上昇していた二次電池電圧Vが、C
C充電を停止してから若干低下する様子が示されている。
【0289】
≪CCCV充電≫
次に、上記と異なる充電方法であるCCCV充電について説明する。CCCV充電は、ま
ずCC充電にて所定の電圧まで充電を行い、その後CV(定電圧)充電にて流れる電流が
少なくなるまで、具体的には終止電流値になるまで充電を行う充電方法である。
【0290】
CC充電を行っている間は、図9(A)に示すように、定電流電源のスイッチがオン、定
電圧電源のスイッチがオフになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが
一定であるため、V=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧Vも一
定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。そ
のため、二次電池電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。
【0291】
そして二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、CC充電からC
V充電に切り替える。CV充電を行っている間は、図9(B)に示すように、定電圧電源
のスイッチがオン、定電流電源のスイッチがオフになり、二次電池電圧Vが一定となる
。一方、二次電池容量Cにかかる電圧Vは、時間の経過とともに上昇する。V=V
+Vであるため、内部抵抗Rにかかる電圧Vは、時間の経過とともに小さくなる。内
部抵抗Rにかかる電圧Vが小さくなるに従い、V=R×Iのオームの法則により、二
次電池に流れる電流Iも小さくなる。
【0292】
そして二次電池に流れる電流Iが所定の電流、例えば0.01C相当の電流となったとき
、充電を停止する。CCCV充電を停止すると、図9(C)に示すように、全てのスイッ
チがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧Vが0Vとな
る。しかし、CV充電により内部抵抗Rにかかる電圧Vが十分に小さくなっているため
、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなっても、二次電池電圧Vはほとんど降下しない。
【0293】
CCCV充電を行っている間と、CCCV充電を停止してからの、二次電池電圧Vと充
電電流の例を図9(D)に示す。CCCV充電を停止しても、二次電池電圧Vがほとん
ど降下しない様子が示されている。
【0294】
≪CC放電≫
次に、放電方法の1つであるCC放電について説明する。CC放電は、放電期間のすべて
で一定の電流を二次電池から流し、二次電池電圧Vが所定の電圧、例えば2.5Vにな
ったときに放電を停止する放電方法である。
【0295】
CC放電を行っている間の二次電池電圧Vと放電電流の例を図10に示す。放電が進む
に従い、二次電池電圧Vが降下していく様子が示されている。
【0296】
次に、放電レート及び充電レートについて説明する。放電レートとは、電池容量に対する
放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池にお
いて、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2C
で放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたと
いう。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充
電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという
【0297】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状
の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形
態の記載を参酌することができる。
【0298】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。図11(A)はコイン型(単層偏平型
)の二次電池の外観図であり、図11(B)は、その断面図である。
【0299】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶
302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。
正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306
により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設け
られた負極活物質層309により形成される。
【0300】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物
質層は片面のみに形成すればよい。
【0301】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム
、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼
等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウ
ム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極30
7とそれぞれ電気的に接続する。
【0302】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、図11(B
)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、
負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介
して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0303】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0304】
ここで図11(C)を用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用い
た二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向き
になる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソー
ド(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位
が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書にお
いては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充
電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極
は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連
したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは
、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソー
ド(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極
)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(
プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0305】
図11(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二
次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0306】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について図12を参照して説明する。円筒型の二次電池600
は、図12(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面およ
び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)
602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0307】
図12(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池
缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで
捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に
捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602に
は、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれ
らの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる
。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ま
しい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子
は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けら
れた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、
コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0308】
円筒型の二次電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成
することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負
極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負
極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子6
03は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接され
る。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature C
oefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。
安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601
と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が
上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して
異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO)系
半導体セラミックス等を用いることができる。
【0309】
また、図12(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614
の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続さ
れていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続
されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、
大きな電力を取り出すことができる。
【0310】
図12(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を
点線で示した。図12(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を
電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板613を重畳し
て設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有してい
てもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次
電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そ
のためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0311】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0312】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、図13乃至図17を用いて説明する。
【0313】
図13(A)及び図13(B)は、二次電池の外観図を示す図である。二次電池は、回路
基板900と、二次電池913と、を有する。二次電池913には、ラベル910が貼ら
れている。さらに、図13(B)に示すように、二次電池は、端子951と、端子952
と、アンテナ914と、アンテナ915と、を有する。
【0314】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951
、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、
端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子
などとしてもよい。
【0315】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及
びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、
平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体
アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は
、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能する
ことができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アン
テナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけ
でなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0316】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これによ
り、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0317】
二次電池は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916を
有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を
有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0318】
なお、二次電池の構造は、図13に限定されない。
【0319】
例えば、図14(A-1)及び図14(A-2)に示すように、図13(A)及び図13
(B)に示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けても
よい。図14(A-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図14
A-2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池と同じ部分については、図13(A)及び図13(B)に示
す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0320】
図14(A-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでア
ンテナ914が設けられ、図14(A-2)に示すように、二次電池913の一対の面の
他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池91
3による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体
を用いることができる。
【0321】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きく
することができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことがで
きる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のアン
テナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方式
としては、NFCなど、二次電池と他の機器との間で用いることができる応答方式などを
適用することができる。
【0322】
又は、図14(B-1)に示すように、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池9
13に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続さ
れる。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお
図13(A)及び図13(B)に示す二次電池と同じ部分については、図13(A)及
図13(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0323】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表
示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクト
ロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペー
パーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0324】
又は、図14(B-2)に示すように、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池9
13にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に
電気的に接続される。なお、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池と同じ部分に
ついては、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0325】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光
、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流
量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい
。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデータ
(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0326】
さらに、二次電池913の構造例について図15及び図16を用いて説明する。
【0327】
図15(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設
けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸され
る。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐
体930に接していない。なお、図15(A)では、便宜のため、筐体930を分離して
図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子95
2が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウ
ムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0328】
なお、図15(B)に示すように、図15(A)に示す筐体930を複数の材料によって
形成してもよい。例えば、図15(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体9
30bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体9
50が設けられている。
【0329】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナ
が形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の
遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの
内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bと
しては、例えば金属材料を用いることができる。
【0330】
さらに、捲回体950の構造について図16に示す。捲回体950は、負極931と、正
極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟ん
で負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体
である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複
数重ねてもよい。
【0331】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図13に示す端子911に接続
される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図13に示す端子91
1に接続される。
【0332】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0333】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、図17乃至図23を参照して説明する。ラ
ミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくと
も一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることも
できる。
【0334】
図17を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次
電池980は、図17(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994
と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、図16で説明した
捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり
合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0335】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な
容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリー
ド電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電
極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0336】
図17(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム98
2とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納する
ことで、図17(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体99
3は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有す
るフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0337】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料
や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の
材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を
有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する二次電池を作製すること
ができる。
【0338】
また、図17(B)および図17(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、
1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体99
3を収納してもよい。
【0339】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0340】
また図17では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池9
80の例について説明したが、たとえば図18のように、外装体となるフィルムにより形
成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としても
よい。
【0341】
図18(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物
質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する
負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装
体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されて
いる。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実
施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0342】
図18(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負
極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極
集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように
配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から
外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極
集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0343】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、ア
ルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金
属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹
脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0344】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を図18(B)に示す。図18
A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層
で構成する。
【0345】
図18(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16とし
ても二次電池500は、可撓性を有する。図18(B)では負極集電体504が8層と、
正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図18(B)は負極の
取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論
、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合
には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場
合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0346】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を図19及び図20に示す。図1
9及び図20は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リー
ド電極510及び負極リード電極511を有する。
【0347】
図21(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体50
1を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極
503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極
506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成
されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領
域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図21(A)に示す例に限
られない。
【0348】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、図19に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、図21
(B)、(C)を用いて説明する。
【0349】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図21(B)に積層さ
れた負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を
4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ
領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いれば
よい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リ
ード電極511の接合を行う。
【0350】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0351】
次に、図21(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その
後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時
、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に
接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0352】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入
する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好
ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池で
ある二次電池500を作製することができる。
【0353】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0354】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について図22および図23を参照して説明する
【0355】
図22(A)に、曲げることのできる二次電池50の上面概略図を示す。図22(B1)
、(B2)、(C)にはそれぞれ、図22(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-C
4、切断線A1-A2における断面概略図である。電池50は、外装体51と、外装体5
1の内部に収容された正極11aおよび負極11bを有する。正極11aと電気的に接続
されたリード12a、および負極11bと電気的に接続されたリード12bは、外装体5
1の外側に延在している。また外装体51で囲まれた領域には、正極11aおよび負極1
1bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0356】
電池50が有する正極11aおよび負極11bについて、図23を用いて説明する。図2
3(A)は、正極11a、負極11bおよびセパレータ14の積層順を説明する斜視図で
ある。図23(B)は正極11aおよび負極11bに加えて、リード12aおよびリード
12bを示す斜視図である。
【0357】
図23(A)に示すように、電池50は、複数の短冊状の正極11a、複数の短冊状の負
極11bおよび複数のセパレータ14を有する。正極11aおよび負極11bはそれぞれ
突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極11aの一方の面のタブ以外の部分
に正極活物質層が形成され、負極11bの一方の面のタブ以外の部分に負極活物質層が形
成される。
【0358】
正極11aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極11bの負極活物質層
の形成されていない面同士が接するように、正極11aおよび負極11bは積層される。
【0359】
また、正極11aの正極活物質が形成された面と、負極11bの負極活物質が形成された
面の間にはセパレータ14が設けられる。図23(A)では見やすくするためセパレータ
14を点線で示す。
【0360】
また図23(B)に示すように、複数の正極11aとリード12aは、接合部15aにお
いて電気的に接続される。また複数の負極11bとリード12bは、接合部15bにおい
て電気的に接続される。
【0361】
次に、外装体51について図22(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明する
【0362】
外装体51は、フィルム状の形状を有し、正極11aおよび負極11bを挟むように2つ
に折り曲げられている。外装体51は、折り曲げ部61と、一対のシール部62と、シー
ル部63と、を有する。一対のシール部62は、正極11aおよび負極11bを挟んで設
けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部63は、リード12a及び
リード12bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶことができる。
【0363】
外装体51は、正極11aおよび負極11bと重なる部分に、稜線71と谷線72が交互
に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体51のシール部62及びシール部
63は、平坦であることが好ましい。
【0364】
図22(B1)は、稜線71と重なる部分で切断した断面であり、図22(B2)は、谷
線72と重なる部分で切断した断面である。図22(B1)、(B2)は共に、電池50
及び正極11aおよび負極11bの幅方向の断面に対応する。
【0365】
ここで、負極11bの幅方向の端部と、シール部62との間の距離を距離Laとする。電
池50に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極11aおよび負極11bが
長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体51と
正極11aおよび負極11bとが強く擦れ、外装体51が破損してしまう場合がある。特
に外装体51の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により腐食されて
しまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好ましい。一
方で、距離Laを大きくしすぎると、電池50の体積が増大してしまう。
【0366】
また、積層された正極11aおよび負極11bの合計の厚さが厚いほど、負極11bの端
部とシール部62との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0367】
より具体的には、積層された正極11aおよび負極11bおよび図示しないがセパレータ
214の合計の厚さを厚さtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍以
下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下で
あることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対す
る信頼性の高い電池を実現できる。
【0368】
また、一対のシール部62の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを負極11bの幅
Wbよりも十分大きくすることが好ましい。これにより、電池50に繰り返し曲げるなど
の変形を加えたときに、正極11aおよび負極11bと外装体51とが接触しても、正極
11aおよび負極11bの一部が幅方向にずれることができるため、正極11aおよび負
極11bと外装体51とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0369】
例えば、一対のシール部62の間の距離Lbと、負極11bの幅Wbとの差が、正極11
aおよび負極11bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍以上5.
0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい。
【0370】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式2の関係を満たすことが好ま
しい。
【0371】
【数2】
【0372】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましく
は1.0以上2.0以下を満たす。
【0373】
また、図22(C)はリード12aを含む断面であり、電池50、正極11aおよび負極
11bの長さ方向の断面に対応する。図22(C)に示すように、折り曲げ部61におい
て、正極11aおよび負極11bの長さ方向の端部と、外装体51との間に空間73を有
することが好ましい。
【0374】
図22(D)に、電池50を曲げたときの断面概略図を示している。図22(D)は、図
22(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0375】
電池50を曲げると、曲げの外側に位置する外装体51の一部は伸び、内側に位置する他
の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体51の外側に位置する部分は、波
の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体51の内側に
位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する。このよ
うに、外装体51が変形することにより、曲げに伴って外装体51にかかる応力が緩和さ
れるため、外装体51を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結果、外装体51
は破損することなく、小さな力で電池50を曲げることができる。
【0376】
また、図22(D)に示すように、電池50を曲げると、正極11aおよび負極11bと
がそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極11aおよび負極11bは
、シール部63側の一端が固定部材17で固定されているため、折り曲げ部61に近いほ
どずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極11aおよび負極11
bにかかる応力が緩和され、正極11aおよび負極11b自体が伸縮する必要がない。そ
の結果、正極11aおよび負極11bが破損することなく電池50を曲げることができる
【0377】
また、正極11aおよび負極11bの端部と、外装体51との間に空間73を有している
ことにより、曲げた時に、内側に位置する正極11aおよび負極11bの端部が、外装体
51に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0378】
図22および図23で例示した電池50は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の破
損、正極11aおよび負極11bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにくい電池
である。電池50が有する正極11aに、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いる
ことで、さらにサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0379】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明
する。
【0380】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する
例を図24(A)乃至図24(G)に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子
機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、
コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォト
フレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報
端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0381】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車
の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0382】
図24(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401
に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、ス
ピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次
電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用い
ることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0383】
図24(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機740
0を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池
7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を図24(C
)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態
で固定されている。なお、二次電池7407は集電体7409と電気的に接続されたリー
ド電極7408を有している。例えば、集電体7409は銅箔であり、一部ガリウムと合
金化させて、集電体7409と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が
曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0384】
図24(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、
筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。
また、図24(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲
げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または
全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の
値で表したものを曲率半径であり、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径
が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部ま
たは全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150
mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の
一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0385】
図24(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は
、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン72
05、入出力端子7206などを備える。
【0386】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インタ
ーネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができ
る。
【0387】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うこ
とができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に
触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン72
07に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0388】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ
動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持
たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシ
ステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0389】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能で
ある。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで
通話することもできる。
【0390】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを
介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電
を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行
ってもよい。
【0391】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。
本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。
例えば、図24(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態
で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0392】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋セン
サ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度セン
サ、等が搭載されることが好ましい。
【0393】
図24(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7
304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表
示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させる
こともできる。
【0394】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことが
できる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状
況を変更することができる。
【0395】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接デ
ータのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。
なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0396】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽
量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0397】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を図
24(H)、図25および図26を用いて説明する。
【0398】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命
な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電
動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考
え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0399】
図24(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。図
24(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アト
マイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカート
リッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過
放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。図24(H)に示し
た二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7
504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いこ
とが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、
長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提
供できる。
【0400】
次に、図25(A)および図25(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示
す。図25(A)および図25(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630
a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示
部9631aと表示部9631bを有する表示部9631、表示モード切り替えスイッチ
9626、電源スイッチ9627、省電力モード切り替えスイッチ9625、留め具96
29、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを
用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。図25(A
)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、図25(B)は、タブレット型端
末9600を閉じた状態を示している。
【0401】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電
体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体
9630bに渡って設けられている。
【0402】
表示部9631aは、一部をタッチパネルの領域9632aとすることができ、表示され
た操作キー9638にふれることでデータ入力をすることができる。なお、表示部963
1aにおいては、一例として半分の領域が表示のみの機能を有する構成、もう半分の領域
がタッチパネルの機能を有する構成を示しているが該構成に限定されない。表示部963
1aの全ての領域がタッチパネルの機能を有する構成としても良い。例えば、表示部96
31aの全面をキーボードボタン表示させてタッチパネルとし、表示部9631bを表示
画面として用いることができる。
【0403】
また、表示部9631bにおいても表示部9631aと同様に、表示部9631bの一部
をタッチパネルの領域9632bとすることができる。また、タッチパネルのキーボード
表示切り替えボタン9639が表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで
表示部9631bにキーボードボタン表示することができる。
【0404】
また、タッチパネルの領域9632aとタッチパネルの領域9632bに対して同時にタ
ッチ入力することもできる。
【0405】
また、表示モード切り替えスイッチ9626は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切
り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイ
ッチ9625は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時
の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は
光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出
装置を内蔵させてもよい。
【0406】
また、図25(A)では表示部9631bと表示部9631aの表示面積が同じ例を示し
ているが特に限定されず、一方のサイズともう一方のサイズが異なっていてもよく、表示
の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネル
としてもよい。
【0407】
図25(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池96
33、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634有する。また、蓄電体
9635として、本発明の一態様に係る蓄電体を用いる。
【0408】
なお、タブレット型端末9600は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630aおよ
び筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、
表示部9631a、表示部9631bを保護できるため、タブレット型端末9600の耐
久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は
高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレ
ット型端末9600を提供できる。
【0409】
また、この他にも図25(A)および図25(B)に示したタブレット型端末は、様々な
情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻な
どを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ
入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有する
ことができる。
【0410】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、
表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐
体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構
成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を用いると、
小型化を図れる等の利点がある。
【0411】
また、図25(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について図25
C)にブロック図を示し説明する。図25(C)には、太陽電池9633、蓄電体963
5、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表
示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コン
バータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図25(B)に示す充放電制御回路96
34に対応する箇所となる。
【0412】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。
太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコ
ンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池
9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637
で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631
での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充
電を行う構成とすればよい。
【0413】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧
電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電
体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信し
て充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成とし
てもよい。
【0414】
図26に、他の電子機器の例を示す。図26において、表示装置8000は、本発明の一
態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置800
0は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部
8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐
体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受
けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって
、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る
二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能とな
る。
【0415】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光
装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devi
ce)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0416】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0417】
図26において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池81
03を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光
源8102、二次電池8103等を有する。図26では、二次電池8103が、筐体81
01及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示
しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装
置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄
積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が
受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いる
ことで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0418】
なお、図26では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示してい
るが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8
106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上
型の照明装置などに用いることもできる。
【0419】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができ
る。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光
素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0420】
図26において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、
本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内
機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図26
は、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次
電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外
機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナー
は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電
力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池82
03が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時で
も、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコン
ディショナーの利用が可能となる。
【0421】
なお、図26では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを
例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコン
ディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0422】
図26において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を
用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷
蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図26では、二
次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、
商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を
用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷
凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0423】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電子
機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助
するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器の
使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0424】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量の
うち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次
電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑える
ことができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉830
2、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄
える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行わ
れる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率
を低く抑えることができる。
【0425】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させること
ができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって
、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することが
できる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に
搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本実施の形態
は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0426】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0427】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプ
ラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる
【0428】
図27において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図27(A)
に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車で
ある。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いる
ことが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長
い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は
、車内の床部分に対して、図12(C)および図12(D)に示した二次電池のモジュー
ルを並べて使用すればよい。また、図17に示す二次電池を複数組み合わせた電池パック
を車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだ
けでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供
給することができる。
【0429】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示
装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲ
ーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0430】
図27(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方
式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができ
る。図27(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二
次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際し
ては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の
方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションで
もよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの
電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。
充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行う
ことができる。
【0431】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給
して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組
み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電
の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に
太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触で
の電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0432】
また、図27(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図27
(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示
灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することが
できる。
【0433】
また、図27(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池860
2を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても
、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能とな
っており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納
すればよい。
【0434】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大き
くすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自
体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることがで
きる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる
。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる
。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二
酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次
電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らす
ことができる。
【0435】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0436】
本実施例では、本発明の一態様である正極活物質を作製し、該正極活物質についてSTE
Mで観察した結果、TEM像を高速フーリエ変換した結果、およびエネルギー分散型X線
解析(EDX)した結果について説明する。また、該正極活物質を用いた二次電池の特性
を評価した結果について説明する。
【0437】
[正極活物質の作製]
≪サンプル01≫本実施例では、サンプル01の正極活物質として、第1の領域が有する
リチウムと第1の遷移金属の複合酸化物として、コバルト酸リチウムを有し、第2の領域
が有する、第2の遷移金属の酸化物として、チタン酸リチウムを有し、第3の領域が有す
る、典型元素の酸化物として、酸化マグネシウムを有するものを作製した。
【0438】
本実施例では、出発原料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、商品
名:C-20F)を用いた。そのため本実施例では、実施の形態1で説明したステップ1
2およびステップ13を省略した。なお上記コバルト酸リチウム粒子は、粒径が約20μ
mであり、XPSで分析可能な領域にフッ素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、
シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。
【0439】
次に、ステップ14としてマグネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウム粒子にゾルゲ
ル法によりチタンを含む材料を被覆した。具体的には、イソプロパノールにTTIPを溶
解し、TTIPのイソプロパノール溶液を作製した。そして該溶液に、コバルト酸リチウ
ム粒子を混合した。TTIPがマグネシウムとフッ素を含むコバルト酸リチウムに対して
0.01ml/gとなるように混合した。
【0440】
上記混合液を、マグネチックスターラーで4時間、25℃、湿度90%RHの条件下で撹
拌した。この処理により、雰囲気中の水とTTIPで加水分解および重縮合反応を起こさ
せ、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、チタンを含む層を
形成させた。
【0441】
上記の処理を終えた混合液をろ過し、残渣を回収した。ろ過のフィルターには、桐山ろ紙
(No.4)を用いた。
【0442】
回収した残渣を、70℃で1時間、真空乾燥した。
【0443】
次に、チタンを有する材料で被覆されたコバルト酸リチウム粒子を加熱した。マッフル炉
を用いて、乾燥空気の流量は10L/minとし、800℃(昇温200℃/時間)、保
持時間2時間で加熱した。乾燥空気は、露点-109℃以下のものを用いた。
【0444】
次に、加熱された粒子を室温まで冷却した。保持温度から室温までの降温時間は10~1
5時間とした。その後、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることにより行い
、ふるいは目開きが53μmのものを用いた。
【0445】
最後に冷却された粒子を回収し、サンプル01の正極活物質を得た。
【0446】
≪サンプル02≫サンプル02は比較例として、チタンを含む材料を被覆せずに、マグネ
シウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子を加熱して作製した。
【0447】
マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C
-20F)を用いた。
【0448】
このマグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子を加熱した。加熱は、800
℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間、酸素の流量を10L/minとして行った
【0449】
加熱した粉末をサンプル01と同様に冷却し、ふるいにかけたものを、サンプル02の正
極活物質とした。
【0450】
サンプル02は、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部にマグネシウムを含む領域を
有する正極活物質であることが推測された。
【0451】
≪サンプル03≫サンプル03は、比較例として、マグネシウムを有さないコバルト酸リ
チウム粒子に、ゾルゲル法でチタンを含む領域を形成した後、加熱を行って作製した。
【0452】
コバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C-10N)を用いた。これはX
PSでマグネシウムが検出されず、フッ素が1原子%程度検出されるコバルト酸リチウム
粒子である。
【0453】
このコバルト酸リチウム粒子に対して、サンプル01と同様にゾルゲル法によりチタンを
含む領域を形成し、乾燥し、加熱し、冷却してふるいにかけた。これをサンプル03の正
極活物質とした。
【0454】
サンプル03は、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部にチタンを含む領域を有する
正極活物質であることが推測された。
【0455】
≪サンプル04≫サンプル04は、比較例として、コバルト酸リチウム粒子を加熱せずに
そのまま用いた。
【0456】
コバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C-10N)を用いた。
【0457】
サンプル04は、被覆層をもたない正極活物質である。
【0458】
≪サンプル05≫サンプル05は、比較例として、マグネシウムとフッ素を有するコバル
ト酸リチウム粒子を加熱せずにそのまま用いた。
【0459】
マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子は、日本化学工業製(製品名;C
-20F)を用いた。つまり、サンプル05はサンプル01で出発原料として用いたもの
である。
【0460】
サンプル01からサンプル05までの条件を表1に示す。
【0461】
【表1】
【0462】
[STEM]
得られたサンプル01の正極活物質を、電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM-ARM
200F、加速電圧200kV)で観察した。得られた電子顕微鏡像を図28に示す。図
28に示すように、正極活物質は3つの異なる領域、第1の領域101と、第2の領域1
02と、第3の領域103を有していると考えられた。第3の領域103は、第1の領域
101と第2の領域102よりも明るい領域として観察された。また第1の領域101と
第2の領域102の結晶の配向が一部で一致し、第2の領域102と第3の領域103の
結晶の配向が一部で一致した。
【0463】
[STEM-FFT]
図28に示すSTEM像中の103FFTで示す領域の、FFT(高速フーリエ変換)像
図29(A1)に示した。図29(A2)は、図29(A1)の中心点Oを十字で示し
、輝点A、B、Cを丸で囲って示した図である。同様に、102FFTで示す領域のFF
T像を図29(B1)に示した。図29(B2)は、図29(B1)の中心点Oを十字で
示し、輝点A、B、Cを丸で囲って示した図である。また101FFTで示す領域のFF
T像を図29(C1)に示した。図29(C2)は、図29(C1)の中心点Oを十字で
示し、輝点A、B、Cを丸で囲って示した図である。
【0464】
図29(A2)に示した輝点Aと中心点O間の距離は、d=0.256nmであった。輝
点Bと中心点O間の距離は、d=0.241nmであった。輝点Cと中心点O間の距離は
、d=0.209nmであった。また、∠COA=121°、∠COB=52°、∠AO
B=69°であった。これらの結果から、103FFTで示す領域は酸化マグネシウム(
MgO、立方晶)を含むことが推察された。
【0465】
同様に、図29(B2)に示した輝点Aと中心点O間の距離は、d= 0.238nmで
あった。輝点Bと中心点O間の距離は、d=0.225nmであった。輝点Cと中心点O
間の距離は、d=0.198nmであった。また、∠COA=123°、∠COB=52
°、∠AOB=71°であった。これらの結果から、102FFTで示す領域はチタン酸
リチウム(LiTiO、立方晶)を含むことが推察された。
【0466】
図29(C2)に示した輝点Aと中心点O間の距離は、d=0.240nmであった。輝
点Bと中心点O間の距離は、d=0.235nmであった。輝点Cと中心点O間の距離は
、d=0.196nmであった。また、∠COA=126°、∠COB=52°、∠AO
B=74°であった。これらの結果から、101FFTで示す領域はコバルト酸リチウム
(LiCoO、Rhombohedral)を含むことが推察された。
【0467】
[EDX]
またサンプル01の正極活物質の、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF-
STEM)像およびEDXを用いた元素マッピング像を図30に示す。図30(A1)は
HAADF-STEM像、図30(A2)は酸素原子マッピング像、図30(B1)はコ
バルト原子マッピング像、図30(B2)はフッ素原子マッピング像、図30(C1)は
チタン原子マッピング像、図30(C2)はマグネシウム原子マッピング像である。なお
図30(A2)乃至図30(C2)および図31(A2)乃至図31(C2)のEDX
元素マッピング像では、検出下限以下の場合は白で示し、カウントが増えるほど黒に近づ
くように示している。
【0468】
図30(A2)および図30(B1)に示すように、酸素原子およびコバルト原子は正極
活物質粒子全体に分布していることが明らかとなった。一方、図30(B2)、図30
C1)および図30(C2)に示すようにフッ素原子、チタン原子およびマグネシウム原
子は、正極活物質の表面に近い領域に偏在していることが明らかとなった。
【0469】
次にサンプル05の比較例の正極活物質の、HAADF-STEM像およびEDXを用い
た元素マッピング像を図31に示す。図31(A1)はHAADF-STEM像、図31
(A2)は酸素原子マッピング像、図31(B1)はコバルト原子マッピング像、図31
(B2)はフッ素原子マッピング像、図31(C1)はチタン原子マッピング像、図31
(C2)はマグネシウム原子マッピング像である。
【0470】
図31(B2)および図31(C2)に示すように、加熱を行っていないサンプル05で
も、マグネシウムおよびフッ素がある程度表面近傍に偏在していることが明らかとなった
【0471】
[EDX線状分析]
また、サンプル01の正極活物質の表面近傍の断面について、TEM-EDXで線状分析
を行った結果を図32に示す。図32はサンプル01の正極活物質の外と正極活物質の内
部を結ぶ線上で検出されたデータをグラフにしたもので、距離0nmは正極活物質の外、
距離14nmは粒子の内部である。EDXは分析領域が広がりがちなため、電子線照射の
中心だけでなくその周囲の元素も検出される場合がある。
【0472】
図32に示すように、サンプル01の正極活物質の表面近傍にはマグネシウムとチタンの
ピークが存在し、マグネシウムの分布の方が、チタンの分布よりも表面に近いことが明ら
かとなった。またマグネシウムのピークの方が、チタンのピークよりも表面に近いことが
明らかとなった。また、コバルトと酸素は正極活物質粒子の最表面から存在していること
が推測された。
【0473】
なお図32ではフッ素はほとんど検出されなかったが、これはEDXでは軽元素であるフ
ッ素が検出されにくいためと考えられた。
【0474】
上記のSTEM像、FFT像およびEDXを用いた元素マッピング像、EDX線状分析か
ら、サンプル01は、本発明の一態様である、第1の領域としてコバルト酸リチウムを有
し、第2の領域としてリチウムと、チタンと、コバルトと、酸素と、を有し、第3の領域
としてマグネシウムと、酸素と、を有する正極活物質であることが確認された。また、サ
ンプル01では第2の領域の一部と第3の領域の一部が重なっていることが明らかとなっ
た。
【0475】
また図32のグラフでは、酸素の検出量は距離4nm以上で安定している。そこで本実施
例では、この安定した領域の酸素の検出量の平均値Oaveを求め、平均値Oaveの5
0%の値、0.5Oaveに最も近い測定値を示した測定点の距離xを、正極活物質の粒
子の表面であると推定することとした。
【0476】
本実施例において、距離4nm以上14nm以下の範囲の酸素の検出量の平均Oave
674.2であった。674.2の50%である337.1に最も近い測定値を示した測
定点のx軸は、距離1.71nmであった。そこで、本実施例では図32のグラフにおけ
る距離1.71nmが、正極活物質の粒子の表面であると推定することとした。
【0477】
正極活物質粒子の表面が図32中では距離1.71nmであるとすると、マグネシウムの
ピークは正極活物質粒子の表面から0.72nm、チタンのピークは表面から1.00n
mであった。
【0478】
また、マグネシウム濃度がピークの1/5以上であるのは距離4.42nm、つまり正極
活物質粒子の表面から2.71nmまでであった。距離4.57nm以上、つまり正極活
物質粒子の表面から2.86nm以上の深さでは、マグネシウムの測定値はピークの1/
5未満であった。そのため、サンプル01は、表面から深さ方向に2.71nmまでは第
3の領域であることが明らかとなった。
【0479】
また、チタン濃度がピークの1/2以上であるのは距離2.14nmから距離3.42n
mまでであった。つまり正極活物質粒子の表面から0.43nm以上1.71nm以下の
範囲が第2の領域であることが明らかとなった。
【0480】
次に、上記で作製したサンプル01~サンプル05の正極活物質を用いた二次電池を作製
し、該二次電池の充放電特性について評価した結果について説明する。
【0481】
[二次電池の作製]
上記で作製したサンプル01~サンプル05の正極活物質を用いた、CR2032タイプ
(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0482】
正極には、正極活物質(LCO)と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリ
デン(PVDF)をLCO:AB:PVDF=95:2.5:2.5(重量比)で混合し
たスラリーを集電体に塗工したものを用いた。
【0483】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0484】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2重量%で混合された
ものを用いた。
【0485】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0486】
[充放電特性の評価]
次に、上記で作製したサンプル01およびサンプル05の二次電池の充放電特性の評価を
行った。測定温度は25℃とした。充電は4.6V(CCCV,0.5C、カットオフ電
流0.01C)、放電は2.5V(CC,0.5C)で、それぞれ20サイクル充放電を
行った。なお、ここでの1Cは、正極活物質重量あたりの電流値で137mA/gとした
【0487】
図33に、サンプル01の正極活物質を用いた二次電池の充放電特性のグラフを示す。図
33に示すように、広いプラトーを有する良好な充放電特性を示した。また20サイクル
の充放電のグラフはほぼ重なり、サイクル特性は良好であった。
【0488】
図34に、比較例のサンプル05の二次電池の充放電特性のグラフを示す。初期のサイク
ルでは良好な充放電特性を示したが、図中の矢印で示すように、サイクルを経るにつれて
充放電容量が減少した。
【0489】
[サイクル特性の評価]
≪充電4.4V≫
サンプル01およびサンプル05の二次電池について、4.4V充電の場合のサイクル特
性を評価した。サイクル特性測定温度は25℃とした。充電は4.4V(CCCV,0.
5C、カットオフ電流0.01C)、放電は2.5V(CC,0.5C)で行った。
【0490】
図35に、充電4.4Vの場合のサイクル特性のグラフを示す。図中の実線はサンプル0
1、点線はサンプル05の正極活物質を有する二次電池のグラフである。図35に示すよ
うに、サンプル01を有する二次電池は、50サイクルを経てもエネルギー密度の維持率
は99.5%であり、極めて良好なサイクル特性を示した。一方、サンプル05を有する
二次電池は、50サイクルを経た時点のエネルギー密度の維持率は94.3%であった。
【0491】
≪充電4.6V≫
サンプル01~サンプル04の二次電池について、充電4.6Vの場合のサイクル特性を
評価した。測定温度は25℃とした。充電は4.6V(CCCV,0.5C、カットオフ
電流0.01C)、放電は2.5V(CC,0.5C)で行った。
【0492】
図36に、充電4.6Vの場合のサイクル特性のグラフを示す。図36に示すように、本
発明の一態様の正極活物質であるサンプル01を有する二次電池は、4.6Vという高い
電圧の充放電で50サイクルを経てもエネルギー密度の維持率は94.1%であり、極め
て良好なサイクル特性を示した。一方、比較例のサンプル02~サンプル04の正極活物
質を有する二次電池はサンプル01より劣り、たとえばサンプル04の場合、50サイク
ルを経た時点のエネルギー密度の維持率は33.2%であった。
【0493】
このように、本発明の一態様の正極活物質の構成は、4.4Vを超えるような高電圧で充
放電を行った場合に顕著な効果を発揮することが明らかとなった。
【実施例2】
【0494】
本実施例では、本発明の一態様である正極活物質を作製し、実施例1と異なる分析を行っ
た結果について説明する。また該正極活物質を用いた二次電池の特性を、実施例1と異な
る条件で評価した結果について説明する。
【0495】
本実施例では正極活物質として、第1の領域が有するリチウムと第1の遷移金属の複合酸
化物として、コバルト酸リチウムを有し、第2の領域が有する第2の遷移金属の酸化物と
して、チタン酸リチウムを有し、第3の領域が有する典型元素の酸化物として、酸化マグ
ネシウムを有するものを作製した。
【0496】
[正極活物質の作製、二次電池の作製]
≪サンプル06、サンプル07≫
本実施例では、出発原料としてコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製、商品
名:C-20F)を用いた。
【0497】
次に、ステップ14としてコバルト酸リチウム粒子にゾルゲル法によりチタン酸化物を被
覆し、乾燥した。TTIPをコバルト酸リチウムに対して0.004ml/gとなるよう
に混合したこと以外は実施例1と同様に行った。この、チタン酸化物で被覆した後、加熱
する前のコバルト酸リチウム粒子を、サンプル06ということとする。
【0498】
次に、サンプル06のチタン酸化物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子を加熱した。マ
ッフル炉を用いて、酸素雰囲気、800℃、保持時間2時間で加熱し、酸素の流量は10
L/minとした。
【0499】
その後実施例1と同様に冷却および回収して正極活物質を得た。加熱後の該正極活物質を
、サンプル07ということとする。
【0500】
[TEM-EDX]
サンプル06およびサンプル07について、特に粒子に生じたクラックおよびその周辺に
ついて、TEM-EDXを用いて分析を行った。
【0501】
まずチタンについてのTEM-EDX面分析の結果を、図37および図38に示す。
【0502】
図37は、加熱前のサンプル06のTEM-EDX分析結果である。図37(A)は、粒
子表面とクラック部を含む断面TEM像である。図37(A)中の1と付した丸で示す、
粒子表面を含む領域の、HAADF-STEM像を図37(B1)に、Tiマッピング像
図37(B2)に示す。同様に、図37(A)中の2と付した丸で示す、クラック部の
うち表面からの深さが約20nmの領域の、HAADF-STEM像を図37(C1)に
、Tiマッピング像を図37(C2)に示す。図37(A)中の3と付した丸で示す、ク
ラック部のうち表面からの深さが約500nmの領域の、HAADF-STEM像を図3
7(D1)に、Tiマッピング像を図37(D2)に示す。図37(A)中の4と付した
丸で示す、クラック部のうち表面からの深さが約1000nmの領域の、HAADF-S
TEM像を図37(E1)に、Tiマッピング像を図37(E2)に示す。なお、図37
乃至図40のEDX元素マッピング像では、検出下限以下の場合は黒で示し、カウントが
増えるほど白に近づくように示している。
【0503】
図38は、加熱後のサンプル07のTEM-EDX分析結果である。図38(A)は、粒
子表面とクラック部を含む断面TEM像である。図38(A)中の1と付した丸で示す、
粒子表面を含む領域の、HAADF-STEM像を図38(B1)に、Tiマッピング像
図38(B2)に示す。同様に、図38(A)中の2と付した丸で示す、クラック部の
うち表面からの深さが約20nmの領域の、HAADF-STEM像を図38(C1)に
、Tiマッピング像を図38(C2)に示す。図38(A)中の3と付した丸で示す、ク
ラック部のうち表面からの深さが約500nmの領域の、HAADF-STEM像を図3
8(D1)に、Tiマッピング像を図38(D2)に示す。図38(A)中の4と付した
丸で示す、クラック部のうち表面からの深さが約1000nmの領域の、HAADF-S
TEM像を図38(E1)に、Tiマッピング像を図38(E2)に示す。
【0504】
図37図38に示すように、チタンは、加熱前のサンプル06では粒子表面に偏析して
いる様子が観察されたものの、クラック部では偏析は確認されなかった。一方、加熱後の
サンプル07では、チタンは粒子表面とクラック部の両方において、偏析が観察された。
つまり加熱により、チタンがクラック部の界面に偏析することが明らかとなった。
【0505】
次にマグネシウムについてのTEM-EDX面分析の結果を、図39および図40に示す
【0506】
図39(A)は、図37(A)と同じサンプル06の断面TEM像である。図39(B1
)、図39(C1)、図39(D1)および図39(E1)は、図37(B1)、図37
(C1)、図37(D1)および図37(E1)と同じHAADF-STEM像である。
図39(B1)と同じ領域のMgマッピング像を図39(B2)に示す。図39(C1)
と同じ領域のMgマッピング像を図39(C2)に示す。図39(D1)と同じ領域のM
gマッピング像を図39(D2)に示す。図39(E1)と同じ領域のMgマッピング像
図39(E2)に示す。
【0507】
図40(A)は、図38(A)と同じサンプル07の断面TEM像である。図40(B1
)、図40(C1)、図40(D1)および図40(E1)は、図38(B1)、図38
(C1)、図38(D1)および図38(E1)と同じHAADF-STEM像である。
図40(B1)と同じ領域のMgマッピング像を図40(B2)に示す。図40(C1)
と同じ領域のMgマッピング像を図40(C2)に示す。図40(D1)と同じ領域のM
gマッピング像を図40(D2)に示す。図40(E1)と同じ領域のMgマッピング像
図40(E2)に示す。
【0508】
図39図40に示すように、マグネシウムは、加熱前のサンプル06では粒子表面、ク
ラック部ともに偏析は確認されなかった。一方、加熱後のサンプル07では、マグネシウ
ムは粒子表面とクラック部の両方において、偏析が観察された。
【0509】
次に、チタンとマグネシウムを定量するため、図37(A)中で1~6を付した丸で示す
領域、および図38(A)中で1~6を付した丸で示す領域について、EDX点分析を行
った。それぞれの領域の範囲内で、2箇所測定を行った。
【0510】
図41に、EDX点分析の結果を、チタンとコバルトの原子数比で示す。図41(A)は
加熱前のサンプル06の結果である。図41(A)における1~6の検出箇所は、それぞ
図37(A)中で1~6を付した丸で示す領域内である。図41(B)は、加熱後のサ
ンプル07の結果である。図41(B)における1~6の検出箇所は、それぞれ図38
A)中で1~6を付した丸で示す領域内である。
【0511】
図41に示すように、サンプル06のクラック部はいずれの測定箇所でもTi/Coが0
.01以下であった。一方、サンプル07のクラック部ではチタンが増加した箇所が多く
、Ti/Coが0.05以上の測定箇所もあった。また、サンプル07の粒子表面におけ
るTi/Coは0.10~0.18の間であった。
【0512】
次に、図42にEDX点分析の結果を、マグネシウムとコバルトの原子数比で示す。検出
箇所は図41と同じである。
【0513】
図42に示すように、サンプル06では、粒子表面、クラック部いずれにおいてもMg/
Coが0.03以下であった。一方サンプル07では粒子表面、クラック部ともにマグネ
シウムが増加した箇所が多かった。粒子表面におけるMg/Coは0.15~0.50の
間であり、クラック部では0~0.22の範囲であった。
【0514】
次に、加熱後のサンプル07の正極活物質を用いてCR2032タイプのコイン型の二次
電池を作製した。正極には、サンプル02の正極活物質(LCO)と、ABと、ポリフッ
化ビニリデン(PVDF)をLCO:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合し
たスラリーを正極集電体に塗工したものを用いた。正極集電体には厚さ20μmのアルミ
ニウム箔を用いた。正極活物質と、ABと、PVDFを含む正極活物質層の担持量は7.
6mg/cmとした。
【0515】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0516】
電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:
DEC=3:7(体積比)で混合されたものに、1mol/LのLiPFを溶解し、ビ
ニレンカーボネート(VC)が2wt%で添加されたものを用いた。
【0517】
[初期特性、レート特性]
上記で作製したサンプル07の正極活物質を用いた二次電池について、初期特性およびレ
ート特性を測定した。
【0518】
初期特性の測定は、充電をCCCV、0.2C、4.6V、カットオフ電流0.05Cで
行った。放電をCC、0.2C、カットオフ電圧3.0Vで行った。なおここでの1Cは
正極活物質重量あたりの電流値で160mA/gとした。測定温度は25℃とした。初期
特性を測定した結果を表2に示す。
【0519】
【表2】
【0520】
初期特性測定後にレート特性を測定した。放電レートを変化させ、放電レート以外は初期
特性測定と同じ条件で、0.2C充電/0.2C放電、0.2C充電/0.5C放電、0
.2C充電/1.0C放電、0.2C充電/2.0C放電、0.2C充電/3.0C放電
、0.2C充電/4.0C放電、0.2C充電/5.0C放電の順で測定した。測定温度
は25℃とした。
【0521】
初期特性およびレート特性を測定した結果を表3に示す。また各レートの放電カーブを図
43に示す。
【0522】
【表3】
【0523】
[温度特性]
次に、正極活物質層の担持量を8.2mg/cmとした他はレートを評価したセルと同
様の条件のセルを作製し、温度特性を評価した。充電は全て25℃で、CCCV、0.2
C、4.6V、カットオフ電流0.05Cで行った。放電は25℃、0℃、-10℃、-
20℃、45℃の順で行い、CC、0.2C、カットオフ電圧3.0Vで行った。温度特
性の測定結果を図44に示す。
【0524】
[サイクル特性]
次に、温度特性を測定したセルと同様の条件のセルを作製し、サイクル特性を測定した。
サイクル特性では、充電をCCCV、1.0C、4.55V、カットオフ電流0.05C
、放電をCC、1.0C、カットオフ電圧3.0Vで行った。サイクル特性の測定温度は
45℃とし、100サイクル測定した。100サイクル後の放電容量維持率は86%であ
った。測定したサイクル特性について放電容量維持率でグラフにしたものを図45に示す
【0525】
また、サンプル07の正極活物質の比表面積を測定した結果は、0.13m/gであっ
た。
【0526】
また、サンプル07の正極活物質の粒度分布を測定した結果、平均粒径は21.5μm,
10%Dは13.1μm、50%Dは22.0μm、90%Dは34.4μmであった。
【0527】
また、サンプル07の正極活物質のタップ密度は2.21g/cmであった。タップ密
度の測定には、MULTI TESTER MT-1000(セイシン企業製)を用いた
【0528】
以上のように、本発明の一態様であるサンプル07の正極活物質は良好な初期特性、レー
ト特性、サイクル特性および温度特性を示すことが明らかになった。特に初回充放電効率
が98%以上と高く、副反応が抑制されていることが推測された。また、2Cという高い
放電レートにおいても、0.2Cを基準として96.1%という良好な容量を示した。
【実施例3】
【0529】
本実施例では、表層部にチタンとマグネシウムを含む領域を有する正極活物質について、
出発原料のLi/第1の遷移金属の比を変化させて作製し、特性を評価した結果を示す。
【0530】
[正極活物質の作製]
本実施例では、第1の遷移金属としてコバルトを用いた、サンプル11~サンプル17、
サンプル21~サンプル28、サンプル31~サンプル40の正極活物質を用意した。各
サンプルの作製方法および条件は以下の通りとした。
【0531】
≪サンプル11~17≫
まず、出発原料となるリチウム源、コバルト源、マグネシウム源およびフッ素源をそれぞ
れ秤量した。本実施例ではリチウム源として炭酸リチウム、コバルト源として酸化コバル
ト、マグネシウム源として酸化マグネシウム、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リ
チウムを用いた。
【0532】
このとき、
サンプル11は、出発原料のLi/Co比が1.00となるように秤量した。
サンプル12は、出発原料のLi/Co比が1.03となるように秤量した。
サンプル13は、出発原料のLi/Co比が1.05となるように秤量した。
サンプル14は、出発原料のLi/Co比が1.06となるように秤量した。
サンプル15は、出発原料のLi/Co比が1.07となるように秤量した。
サンプル16は、出発原料のLi/Co比が1.08となるように秤量した。
サンプル17は、出発原料のLi/Co比が1.13となるように秤量した。
【0533】
また、サンプル11~サンプル17に共通して、出発原料に含まれるコバルトの原子数を
1としたときに、マグネシウムの原子数が0.01、フッ素の原子数が0.02となるよ
うに秤量した。
【0534】
次に、秤量した出発原料を、サンプルごとにボールミルを用いて混合した。
【0535】
次に、混合した出発材料を焼成した。焼成は1000℃で10時間、昇温は200℃/h
、乾燥空気の流量は10L/minとした。
【0536】
上記の工程で、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを含む複合酸化物の粒子を合
成した。
【0537】
次に、2‐プロパノールに、正極活物質重量当たりのTTIPが0.01ml/gとなる
ようTTIPを加えて混合し、テトラ‐i‐プロポキシチタンの2‐プロパノール溶液を
作製した。
【0538】
このTTIPの2‐プロパノール溶液に、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを
含む複合酸化物の粒子を加え、混合した。
【0539】
上記の混合液を、マグネチックスターラーで4時間、25℃、湿度90%RHの条件下で
撹拌した。この処理により、雰囲気中の水とTTIPで加水分解および重縮合反応を起こ
させ、マグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、チタンを含む層
を形成させた。
【0540】
上記の処理を終えた混合液をろ過し、残渣を回収した。ろ過のフィルターには、桐山ろ紙
(No.4)を用いた。
【0541】
回収した残渣を、70℃で1時間、真空乾燥した。
【0542】
乾燥させた粉末を加熱した。加熱は、800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間
、酸素雰囲気下で行った。
【0543】
加熱した粉末を冷却し、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることにより行い
、ふるいは目開きが53μmのものを用いた。
【0544】
解砕処理を終えた粒子を、サンプル11~サンプル17の正極活物質とした。
【0545】
≪サンプル21~27≫
サンプル21~サンプル27は、出発原料はサンプル11~サンプル16と同じものを用
いた。このとき、
サンプル21は、出発原料のLi/Co比が1.00となるように秤量した。
サンプル22は、出発原料のLi/Co比が1.03となるように秤量した。
サンプル23は、出発原料のLi/Co比が1.05となるように秤量した。
サンプル24は、出発原料のLi/Co比が1.06となるように秤量した。
サンプル25は、出発原料のLi/Co比が1.07となるように秤量した。
サンプル26は、出発原料のLi/Co比が1.08となるように秤量した。
サンプル27は、出発原料のLi/Co比が1.13となるように秤量した。
【0546】
サンプル21~サンプル27は、TTIPの2‐プロパノール溶液の濃度を正極活物質重
量当たりのTTIPが0.02ml/gとなるようにした他は、サンプル11~サンプル
17と同様に作製した。
【0547】
≪サンプル28≫
サンプル28は、出発原料のLi/Co比およびTTIP量をサンプル23と同じとした
。つまりサンプル28は、出発原料のLi/Co比が1.05となるように秤量し、正極
活物質重量当たりのTTIPが0.02ml/gとなるようにした。
【0548】
ただしサンプル28では、出発材料を混合した後、焼成を950℃で行った。
【0549】
焼成温度の他は、サンプル23と同様に作製した。
【0550】
サンプル11~17、サンプル21~28は、内部にコバルト酸リチウムを有し、表層部
にチタンとマグネシウムを含む領域を有する正極活物質であることが推測された。
【0551】
≪サンプル31~40≫
サンプル31~サンプル40は、比較例として、チタン含む領域を形成せずに作製した。
【0552】
サンプル31は、出発原料のLi/Co比が1.00となるように秤量した。サンプル3
2は、出発原料のLi/Co比が1.01となるように秤量した。サンプル33は、出発
原料のLi/Co比が1.02となるように秤量した。サンプル34は、出発原料のLi
/Co比が1.03となるように秤量した。サンプル35は、出発原料のLi/Co比が
1.035となるように秤量した。サンプル36は、出発原料のLi/Co比が1.04
となるように秤量した。サンプル37は、出発原料のLi/Co比が1.051となるよ
うに秤量した。サンプル38は、出発原料のLi/Co比が1.061となるように秤量
した。サンプル39は、出発原料のLi/Co比が1.081となるように秤量した。サ
ンプル40は、出発原料のLi/Co比が1.130となるように秤量した。
【0553】
また、サンプル31~サンプル40に共通して、出発原料に含まれるコバルトの原子数を
1としたときに、マグネシウムの原子数が0.01、フッ素の原子数が0.02となるよ
うに秤量した。
【0554】
次に、秤量した出発原料を、サンプルごとにボールミルを用いて混合した。
【0555】
次に、混合した出発材料を焼成した。焼成は1000℃で10時間、昇温は200℃/h
、乾燥空気の流量は10L/minとした。
【0556】
上記の工程で、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを含む複合酸化物の粒子を合
成した。
【0557】
合成した粒子を冷却してから、加熱した。加熱は、800℃(昇温200℃/時間)、保
持時間2時間、酸素雰囲気下で行った。
【0558】
加熱した粉末を冷却し、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることにより行い
、ふるいは目開きが53μmのものを用いた。
【0559】
解砕処理を終えた粒子を、サンプル31~サンプル40の正極活物質とした。
【0560】
サンプル11~サンプル17、サンプル21~サンプル28、サンプル31~サンプル4
0の作製条件を表4に示す。
【0561】
【表4】
【0562】
[XPS]
サンプル11~サンプル17、サンプル21~サンプル28、サンプル31~サンプル4
0の正極活物質について、XPS分析を行った。サンプル11~サンプル17のXPS分
析の結果を表5、サンプル21~サンプル28のXPS分析の結果を表6、サンプル31
~サンプル40のXPS分析の結果を表7に示す。なお、表5~表7では各元素の濃度の
コバルトを1としたときの相対値を示した。
【0563】
【表5】
【0564】
【表6】
【0565】
【表7】
【0566】
また表5~表7の分析結果から、マグネシウム相対値とチタン相対値について抽出したグ
ラフを図46に示す。図46(A)はLi/Co比とマグネシウム相対値のグラフ、図4
6(B)はLi/Co比とチタン相対値のグラフである。
【0567】
まず図46(A)のサンプル31~サンプル40から、チタンを含む被覆層をもたない場
合、Li/Co比が1.00以上1.05以下のサンプルでマグネシウム濃度が高くなっ
ていることが明らかとなった。これは、加熱により、出発原料に含まれたマグネシウムが
XPSで元素濃度が検出可能な範囲に偏析したためと考えられる。一方、Li/Co比が
1.06以上ではマグネシウムの濃度が低くなり、リチウムが過剰となりすぎるとマグネ
シウムの偏析が起こりにくくなることが推測された。
【0568】
また図46(A)のサンプル11~サンプル16およびサンプル21~サンプル26から
、表層部にチタンを含む領域を有すると、有さない場合よりもXPSで元素濃度が検出可
能な範囲のマグネシウム濃度が高くなることが明らかとなった。
【0569】
さらに、Li/Co比が1.06の場合、チタンを含む領域を有さない場合はXPSで元
素濃度が検出可能な範囲のマグネシウム濃度が低くなっているのに対して、チタンを含む
領域を有するサンプルではXPSで元素濃度が検出可能な範囲のマグネシウム濃度が高か
った。つまり、表層部にチタンを含む領域を形成することで、Li/Co比が高い場合で
も、マグネシウムの偏析が十分に起こることが明らかとなった。
【0570】
なおチタンを含む領域を有しても、Li/Co比が1.07の場合は、1.06の場合よ
りもマグネシウム濃度が低下した。またLi/Co比が1.08以上の場合は、チタンを
含む領域を有しても、マグネシウムの偏析が起こりにくくなることが推測された。
【0571】
[サイクル特性の評価]
≪エネルギー密度維持率≫
次に、サンプル11~サンプル14、サンプル16およびサンプル21~サンプル24、
サンプル26の正極活物質を用いて、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。
【0572】
二次電池の形状、正極における正極活物質、導電助剤、バインダの材料および混合比、対
極、電解液、外装体、サイクル特性試験の条件等は実施例1と同じとした。
【0573】
図47(A)に、正極活物質重量あたりのTTIPが0.01ml/gとなるように作製
したサンプル11~サンプル14、サンプル16の正極活物質を用いた二次電池の、4.
6V充電時のエネルギー密度維持率と充放電サイクル数のグラフを示す。図47(B)に
正極活物質重量あたりのTTIPが0.02ml/gとなるように作製したサンプル21
~サンプル24、サンプル26の正極活物質を用いた二次電池の、4.6V充電時のエネ
ルギー密度維持率と充放電サイクル数のグラフを示す。
【0574】
図47(A)から明らかなように、TTIPが0.01ml/gの場合、サンプル11~
サンプル14、つまりLi/Co比が1.00以上1.06以下の正極活物質は良好なサ
イクル特性を示した。特に、サンプル11およびサンプル12、つまりLi/Co比が1
.00以上1.03以下の正極活物質は極めて良好なサイクル特性を示した。一方、Li
/Co比が1.08のサンプル16では比較的早い段階でエネルギー密度維持率が悪化し
ていた。
【0575】
また図47(B)から明らかなように、TTIPが0.02ml/gの場合、サンプル2
1~サンプル24、つまりLi/Co比が1.00以上1.06以下の正極活物質は良好
なサイクル特性を示した。特に、サンプル23およびサンプル24、つまりLi/Co比
が1.05以上1.06以下の正極活物質は極めて良好なサイクル特性を示した。
【0576】
図48に、サンプル11~サンプル15の中で最も良好なサイクル特性を示したサンプル
11と、サンプル21~サンプル25の中で最も良好なサイクル特性を示したサンプル2
3を比較したグラフを示す。
【0577】
図48から明らかなように、両者とも極めて良好なサイクル特性を示したが、TTIPが
0.02ml/gのサンプル23の方がより良好なサイクル特性であった。
【0578】
≪放電容量維持率≫
次に、サンプル21~サンプル26およびサンプル28について、放電容量維持率でサイ
クル特性を評価した結果を図49に示す。
【0579】
サンプル21~サンプル26の二次電池の形状、正極における正極活物質、導電助剤、バ
インダの材料および混合比、対極、電解液、外装体、サイクル特性試験の条件等は実施例
1と同じとした。
【0580】
サンプル28を用いた二次電池は、バインダとしてPVDFを用い、正極活物質(LCO
)と、ABと、PVDFをLCO:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合した
他は、サンプル21~サンプル26を用いた二次電池と同様に作製し評価した。
【0581】
図49から明らかなように、サンプル21~サンプル24、およびサンプル28は良好な
サイクル特性を示した。中でも、サンプル28は極めて良好なサイクル特性を示した。サ
ンプル28では、50サイクル後の放電容量維持率は85%以上であった。
【0582】
一方、Li/Co比が1.07および1.08であるサンプル25およびサンプル26は
、比較的早い段階から放電容量維持率が悪化していた。
【0583】
以上の結果から、正極活物質重量あたりのTTIPが0.02ml/gの場合、好ましい
Li/Co比の範囲は1.00以上1.07未満であることが明らかとなった。さらに、
Li/Co比の範囲が1.05以上1.06以下であると極めて良好なサイクル特性を示
すことが明らかとなった。
【0584】
図49で極めて良好なサイクル特性を示したサンプル28、サンプル24、および比較的
早い段階で悪化がみられたサンプル25を用いた二次電池の、充放電カーブを図50に示
す。
【0585】
図50(A)はサンプル28、図50(B)はサンプル24、図50(C)はサンプル2
5を用いた二次電池の充放電カーブである。それぞれ50回充放電を繰り返した結果を重
ねて示した。図中の矢印のように、1サイクル目から50サイクル目に向かって充放電容
量が減少している。
【0586】
図50(A)および図50(B)に示すように、本発明の一態様の正極活物質であるサン
プル28およびサンプル24は、高い充放電容量および良好な充放電特性を示した。また
図50(C)のサンプル25と比較して、図50(A)および図50(B)のサンプル2
8およびサンプル24は充放電容量の減少が大幅に抑制されたことが明らかとなった。
【実施例4】
【0587】
本実施例では、実施例2で作製したサンプル24の正極活物質についてSEM観察および
SEM-EDX分析を行った結果について説明する。
【0588】
サンプル24は、Li/Co=1.06、正極活物質重量当たりのTTIPが0.02m
l/gとなるよう作製したサンプルである。サンプル24のSEM像を図51(A)に示
す。図51(A)の一部を拡大した像を図51(B)および図51(C)に示す。
【0589】
図51から明らかなように、正極活物質の表層部には凸状の領域が多数存在した。
【0590】
次に、サンプル24の正極活物質についてSEM-EDXを用いて分析した結果を図52
に示す。図52(A-1)は正極活物質表層部のSEM像、図52(A-2)はチタンの
マッピング、図52(B-1)はマグネシウムのマッピング、図52(B-2)は酸素の
マッピング、図52(C-1)はアルミニウムのマッピング、図52(C-2)はコバル
トのマッピングである。なお、図52のEDX元素マッピング像では、検出下限以下の場
合は黒で示し、カウントが増えるほど白に近づくように示している。
【0591】
図52(A-1)、図52(A-2)、図52(B-1)の図中の同じ領域を点線で囲っ
た。点線で囲った領域を比較すると明らかなように、正極活物質表層部の凸状の領域には
、チタンおよびマグネシウムが分布していた。
【0592】
そのため、サンプル24は、第3の領域103上に、チタンおよびマグネシウムを有する
凸状の第4の領域104を有する正極活物質であることが確認された。
【0593】
実施例2で示したように、サンプル24は極めて良好なサイクル特性を示したサンプルの
一つである。そのため表層部に第4の領域が存在しても、または第4の領域が存在するこ
とで、良好なサイクル特性を示す正極活物質を得られることが明らかとなった。
【0594】
以上の実施例1乃至実施例3の結果から、表層部にチタンを含む領域を形成することで、
良好なサイクル特性を示す正極活物質が得られることが明らかとなった。また、正極活物
質の粒径を大きくするためにLi/Co比を大きくすると、サイクル特性が悪化する懸念
があるが、表層部にチタンを含む領域を形成することで、良好なサイクル特性を得られる
Li/Co比の範囲を広くできることが明らかとなった。また、正極活物質の表層部にチ
タンおよびマグネシウムを有する第4の領域が存在しても、良好なサイクル特性を示すこ
とが明らかとなった。
【実施例5】
【0595】
本実施例では、酸化グラフェンで被覆された正極活物質の製造方法の一例を示し、その方
法で作製された正極活物質を電子顕微鏡で観察した結果について説明する。
【0596】
図53の工程フロー図に示すように、正極活物質への被膜形成工程は、(S11)酸化グ
ラフェンの秤量と、(S12)酸化グラフェンと純水との混合及び攪拌、(S13)pH
の制御、(S14)活物質の投入、(S15)懸濁液の完成、(S16)スプレードライ
装置を用いた懸濁液の噴霧処理、(S17)容器への粉末の回収、を包含する。
【0597】
なお、(S12)において純水を分散媒として用いているが特に限定されずエタノールな
どを用いてもよい。また、(S14)において活物質は、正極活物質とする。
【0598】
スプレードライ装置280の模式図を図54に示す。スプレードライ装置280はチャン
バー281と、ノズル282を有する。ノズル282には、チューブ283を介して懸濁
液284が供給される。懸濁液284はノズル282からチャンバー281内へ噴霧状に
供給され、チャンバー281内で乾燥される。ノズル282は、ヒーター285により加
熱されてもよい。ここで、ヒーター285により、チャンバー281のうちノズル282
に近い領域、例えば図54に示す二点鎖線で囲む領域も加熱される。
【0599】
ここで懸濁液284として正極活物質と酸化グラフェンを含む懸濁液を用いた場合、酸化
グラフェンで覆われた正極活物質の粉末がチャンバー281を介して回収容器286へ回
収される。
【0600】
ここで矢印288に示す経路により、チャンバー281内の雰囲気がアスピレーター等に
より吸引されてもよい。
【0601】
以下に、被膜形成条件の一例を示す。
【0602】
まず、酸化グラフェンを溶媒に分散させて懸濁液を作製した。
【0603】
純水は、酸化グラフェンの分散媒として高い分散性を有しているが、後に投入する活物質
によっては正極活物質と反応し、Liが溶出する、または、正極活物質の表面構造を変化
させるようなダメージを与える恐れがある。よってエタノールと純水の割合を4:6とし
て酸化グラフェンを液中に分散させた。
【0604】
液中に分散させるための攪拌としては、スターラーおよび超音波発生器を用い、回転数は
750rpmとし、超音波を2分照射した。
【0605】
次いで、LiOH水溶液を滴下して、pH7(25℃)にpHを調整した。
【0606】
正極活物質(本実施例では日本化学工業株式会社製の、コバルト酸リチウム粒子(商品名
:C-20F))を投入し、攪拌として、スターラーおよび超音波発生器を用い、回転数
750rpm、超音波1分照射した。以上の工程によって懸濁液を用意した。上記の日本
化学工業株式会社製コバルト酸リチウム粒子(商品名:C-20F)は、少なくともフッ
素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リ
チウム粒子であり、粒径が約20μmである。
【0607】
次いで、スプレードライ装置を用いて、懸濁液をスプレーノズル(ノズル径20μm)で
均一に噴霧して粉末を得た。スプレードライ装置の温風温度においては、入口の温度16
0℃、出口の温度40℃、Nガス流量10L/minとした。
【0608】
結果として得られた粉体の断面TEM写真を図55に示す。また、SEM写真を図56
示す。また、比較例として、スプレードライしたものと同じ正極活物質(日本化学工業株
式会社製C-20F)を原料に用い、自転公転ミキサーを用いて酸化グラフェンと混合し
たところ、被覆が不十分であった。その比較例のSEM写真を図57に示す。
【0609】
図57と比較して図56のほうが、粉体の表面に対して被膜が均一になされていることが
わかる。
【0610】
スプレードライ装置を用いて酸化グラフェンを被覆させた後、酸化グラフェンで覆われた
活物質層200に、さらに導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を
図58に説明する。
【0611】
図58(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、酸化グラフェン
で覆われた粒状の正極活物質100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バ
インダ(図示せず)と、を含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェ
ンまたはマルチグラフェンを用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状
の形状を有することが好ましい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフ
ェン、または(および)複数のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい
【0612】
活物質層200の縦断面においては、図58(B)に示すように、酸化グラフェンからな
る被膜105で覆われた正極活物質100とグラフェン化合物201が接触している様子
を表している。複数のグラフェン化合物201は、被膜105で覆われた正極活物質10
0と一部接し、さらに隣り合う正極活物質100の被膜105に貼り着くように形成され
て、それぞれと接触している。
【0613】
グラフェン化合物201と被膜105は同じ炭素系の材料であるため、優れた導電パスを
形成することができる。
【0614】
被膜105は、電解液が触れないように正極活物質100の結晶構造を保護する効果と、
優れた導電パスを形成する効果を有している。
【符号の説明】
【0615】
11a 正極
11b 負極
12a リード
12b リード
14 セパレータ
15a 接合部
15b 接合部
17 固定部材
50 二次電池
51 外装体
61 折り曲げ部
62 シール部
63 シール部
71 稜線
72 谷線
73 空間
100 正極活物質
101 領域
101p 結晶面
102 領域
102p 結晶面
103 領域
103p 結晶面
104 領域
105 被膜
106 クラック部
110 粒子
111 領域
112 層
114 酸化コバルト層
120 粒子
121 領域
122 層
124 酸化コバルト層
125 層
200 活物質層
201 グラフェン化合物
214 セパレータ
280 スプレードライ装置
281 チャンバー
282 ノズル
283 チューブ
284 懸濁液
285 ヒーター
286 回収容器
288 矢印
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 外装体
510 正極リード電極
511 負極リード電極
600 二次電池
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
612 安全弁機構
613 導電板
614 導電板
615 モジュール
616 導線
617 温度制御装置
900 回路基板
910 ラベル
911 端子
912 回路
913 二次電池
914 アンテナ
915 アンテナ
916 層
917 層
918 アンテナ
920 表示装置
921 センサ
922 端子
930 筐体
930a 筐体
930b 筐体
931 負極
932 正極
933 セパレータ
950 捲回体
951 端子
952 端子
980 二次電池
981 フィルム
982 フィルム
993 捲回体
994 負極
995 正極
996 セパレータ
997 リード電極
998 リード電極
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 二次電池
7200 携帯情報端末
7201 筐体
7202 表示部
7203 バンド
7204 バックル
7205 操作ボタン
7206 入出力端子
7207 アイコン
7300 表示装置
7304 表示部
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7407 二次電池
7408 リード電極
7409 集電体
7500 電子タバコ
7501 アトマイザ
7502 カートリッジ
7504 二次電池
8000 表示装置
8001 筐体
8002 表示部
8003 スピーカ部
8004 二次電池
8021 充電装置
8022 ケーブル
8024 二次電池
8100 照明装置
8101 筐体
8102 光源
8103 二次電池
8104 天井
8105 側壁
8106 床
8107 窓
8200 室内機
8201 筐体
8202 送風口
8203 二次電池
8204 室外機
8300 電気冷凍冷蔵庫
8301 筐体
8302 冷蔵室用扉
8303 冷凍室用扉
8304 二次電池
8400 自動車
8401 ヘッドライト
8406 電気モーター
8500 自動車
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 二次電池
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
9600 タブレット型端末
9625 スイッチ
9626 スイッチ
9627 電源スイッチ
9628 操作スイッチ
9629 留め具
9630 筐体
9630a 筐体
9630b 筐体
9631 表示部
9631a 表示部
9631b 表示部
9632a 領域
9632b 領域
9633 太陽電池
9634 充放電制御回路
9635 蓄電体
9636 DCDCコンバータ
9637 コンバータ
9638 操作キー
9639 ボタン
9640 可動部
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