(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】動的補償風計測ライダシステムおよびその風計測方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G01W1/00 A
(21)【出願番号】P 2023518363
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 CN2021115237
(87)【国際公開番号】W WO2022078084
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】202011093266.7
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519242230
【氏名又は名称】ナンジン・ムーブレーザー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanjing Movelaser Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Bldg B,Hongfeng Science and Technology Park,Kechuang Rd,Qixia DIST,Nanjing,Jiangsu,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ジャンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チュー、ハイロン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ゼンリー
(72)【発明者】
【氏名】リー、チィー
(72)【発明者】
【氏名】デン、チェン
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-066548(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111965667(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107807367(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107271725(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103605136(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチビームレーザから生成された光信号が、固定の周波数でマルチビーム
におけるビーム同士を周期的に切り替えるステップS1と、
光信号が大気エアロゾルによって散乱された後、光アンテナに受信されて種光信号
と干渉してビート
信号を得るステップS2と、
ビート信号に対してバランス検出およびA/D変換を実行し、信号処理装置に送信して、信号のパワースペクトルを取得すると同時に、動きセンサが、レーダの動きおよび姿勢データを出力し、
単一ビーム周期で放射される光パルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されたリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加し、複数の周期のパルス信号のパワースペクトル密度を積算することにより、S/N比を向上させ、
レーダの姿勢および高度の変化に基づいて、A/Dコンバータのサンプリング間隔時間である
【数1】
をリアルタイムに調整するステップS3であって、t’は、変化後のサンプリング間隔時間であり、
【数2】
は、変化後のビームの慣性座標軸におけるベクトルであり、cは、真空中の光速であり、L’は、変化後のビームから高度層までの片道距離であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離あり、ΔHは、レーダの高さの変化であるステップS3と、
信号のパワースペクトル、レーダのリアルタイムの動きおよび姿勢データをパッケージ化し、データ処理装置に送信して、ビーム径方向風速を取得するステップS4と、
前の1周期のビーム径方向風速の逆算と組み合わせて、レーダ上方の風速および風向を得るステップS5と、
を有することを特徴とする動的補償風計測ライダの風計測方法。
【請求項2】
ステップS3において、A/Dサンプリング信号を演算することにより、パルス信号のパワースペクトルを得ることを特徴とする請求項1に記載の動的補償風計測ライダの風計測方法。
【請求項3】
ステップS3において、レーダの単一ビーム周期のパルスは、nつの段に分割され、
【数3】
ただし、tは、単一ビームの滞留時間であり、レーザの繰り返し周波数は、FkHzであり、Mは、パルス積算回数であることを特徴とする請求項1に記載の動的補償風計測ライダの風計測方法。
【請求項4】
マルチビーム光信号を放射するレーザと、
大気エアロゾルによって散乱された光信号を受信して、種光信号と
干渉させてビート
信号を得る光アンテナと、
ビート信号のサンプリング、バランス検出、A/D変換を行って、信号処理装置に送信するA/Dコンバータと、
パワースペクトル計算モジュールと、動きセンサと、パルス積算モジュールと、高度補償システムとを備える信号処理装置と、
信号のパワースペクトルと、レーダの動きおよび姿勢データとに基づいて、データ処理を実行し、ビーム径方向風速を取得し、前の周期のビーム径方向風速と組み合わせて、レーダ上方の風速および風向を得るデータ処理装置と、を備え、
パワースペクトル計算モジュールは、信号のパワースペクトルを取得し、
動きセンサは、レーダの動きと姿勢データをリアルタイムで出力し、
パルス積算モジュールは、単一ビーム周期で放射される光パルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されるリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加し、複数の周期のパルス信号のパワースペクトル密度を積算することにより、S/N比を向上させ、
高度補償システムは、レーダの姿勢および高度の変化に基づいて、A/Dコンバータのサンプリング間隔時間である
【数1】
をリアルタイムに調整し、
ただし、t’は、変化後のサンプリング間隔時間であり、
【数2】
は、変化後のビームの慣性座標軸中のベクトルであり、cは、真空中の光速であり、L’は、変化後のビームから高度層までの片道距離であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離であり、ΔHは、レーダの高さの変化であり、前記レーダの姿勢および高さの変化は、動きセンサから取得するものであることを特徴とする動的補償風計測ライダシステム。
【請求項5】
パワースペクトル計算モジュールは、A/Dサンプリング信号を演算することにより、パルス信号のパワースペクトルを得るすることを特徴とする請求項4に記載の動的補償風計測ライダの風計測システム。
【請求項6】
レーダの単一ビーム周期のパルスは、nつの段に分割され、
【数3】
ただし、tは単一ビームの滞留時間であり、レーザの繰り返し周波数は、FkHzであり、Mは、パルス積算回数であることを特徴とする請求項4に記載の動的補償風計測ライダの風計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライダ分野に関し、具体的には、動的補償風計測ライダシステムおよびその風計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市販の風計測ライダシステムは、動的環境で風を計測する場合、通常、サンプリング毎にレーダの姿勢補償を行う。レーダのサンプリング周波数は通常1Hzであるので、レーダの姿勢補償の周波数も1Hzになる。浮標、車両搭載、航空機搭載などの複雑な動的環境では、レーダの姿勢変化周波数が1Hzを超える場合が多く、1Hzの姿勢補償周波数は、明らかに風計測の要求を満たすことができない。
【0003】
レーダは、複数の高度層の風場(wind field)情報を同時に計測する必要がある。現在、市販のパルスレーダは、主に一定時間の戻り光信号を収集し、レーダの姿勢に応じてリアルタイムに計測距離を調整することができない。レーダの姿勢が変化する場合、計測する高度層も変化する。従来の方法は、設定された高度層の風速場情報を後期において指数関数で補間する方法であるが、この方法は、目標高度層を直接計測するほど正確ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、背景技術に説明した課題に鑑みて、動的補償風計測ライダシステムおよびその風計測方法を提出する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る動的補償風計測ライダシステムの風計測方法は、
マルチビームレーザから生成された光信号が、固定の周波数でマルチビームの間で周期的に切り替えるステップS1と、
光信号が大気エアロゾルによって散乱された後、光アンテナに受信されて種光信号とビート周波数を行うステップS2と、
ビート周波数信号に対してバランス検出およびA/D変換を実行し、信号処理装置に送信して、信号のパワースペクトルを取得すると同時に、動きセンサが、レーダの動きおよび姿勢データをリアルタイムに出力し、
単一ビーム周期で放射される光パルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されたリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加し、複数の周期のパルス信号のパワースペクトル密度を積算することにより、S/N比を向上させるステップS3と、
信号のパワースペクトルと、レーダのリアルタイムの動きおよび姿勢データとをパッケージ化し、データ処理装置に送信して、ビーム径方向風速を取得するステップS4と、
前の1周期のビーム径方向風速の逆算と組み合わせて、レーダ上方の風速および風向を得るステップS5と、
を有する。
【0006】
好ましくは、ステップS3において、A/Dサンプリング信号を演算することにより、パルス信号のパワースペクトルを得る。
【0007】
好ましくは、ステップS3において、レーダの姿勢および高度の変化に基づいて、A/Dコンバータのサンプリング間隔時間である
【数1】
をリアルタイムに調整する。
ただし、t’は、変化後のサンプリング間隔時間であり、
【数2】
は、変化後のビームの慣性座標軸中のベクトルであり、cは、真空中の光速であり、L’は、変化後のビームから高度層までの片道距離であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離であり、ΔHは、レーダの高さの変化である。
【0008】
好ましくは、ステップS3において、レーダの単一ビーム周期のパルスは、nつの段に分割される。
【数3】
ただし、tは、単一ビームの滞留時間であり、レーザの繰り返し周波数は、FkHzであり、Mは、パルス積算回数である。
【0009】
本発明に係る動的補償風計測ライダシステムは、
マルチビーム光信号を放射するレーザと、
大気エアロゾルによって散乱された光信号を受信し、種光信号とビート周波数を行う光アンテナと、
ビート周波数信号のサンプリング、バランス検出、A/D変換を行って、信号処理装置に送信するA/Dコンバータと、
信号のパワースペクトルを取得するパワースペクトル計算モジュールと、レーダの動きと姿勢データをリアルタイムに出力する動きセンサと、単一ビーム周期に放射される光パルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されたリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加し、複数の周期のパルス信号のパワースペクトル密度を積算することにより、S/N比を向上させるパルス積算モジュールを備える信号処理装置と、
信号のパワースペクトルと、レーダの動きおよび姿勢データとに基づいて、データ処理を実行し、ビーム径方向風速を取得し、前の1周期のビーム径方向風速の逆算と組み合わせて、レーダ上方の風速および風向を得るデータ処理装置と、
を備える。
【0010】
好ましくは、パワースペクトル計算モジュールは、A/Dサンプリング信号を演算することにより、パルス信号のパワースペクトルを得る。
【0011】
好ましくは、信号処理装置は、レーダの姿勢および高度の変化に基づいて、A/Dコンバータのサンプリング間隔時間である
【数1】
をリアルタイムに調整する高度補償システムをさらに備える。
ただし、t’は、変化後のサンプリング間隔時間であり、
【数2】
は、変化後のビームの慣性座標軸中のベクトルであり、cは、真空中の光速であり、L’は、変化後のビームから高度層までの片道距離であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離であり、ΔHは、レーダの高さの変化であり、前記レーダの姿勢および高さの変化は、動きセンサから取得するものである。
【0012】
好ましくは、レーダの単一ビーム周期のパルスは、nつの段に分割される。
【数3】
ただし、tは、単一ビームの滞留時間であり、レーザの繰り返し周波数は、FkHzであり、Mは、パルス積算回数である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、単一ビームの滞留時間内の光パルスを分割し、姿勢を積算して重ねる方法を使用して、姿勢補償周波数を大幅に増加し、調整可能な姿勢補償周波数を実現することができる。背景技術に説明した「浮標と、車両搭載や航空機搭載などの複雑な動的環境では、レーダの姿勢変化周波数が1Hzを超える場合が多く、1Hzの姿勢補償周波数は、明らかに風計測の要求を満たすことができない」という課題を解決する。
【0014】
本発明は、収集された姿勢情報に基づいて、ADリアルタイム調整収集時間を、リアルタイムに計算し、フィードバックにして、レーダが常に目標高度層の風速場情報を計測することを保証する。背景技術に説明した「レーダの姿勢が変化する場合、計測する高度層も変化する」という課題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るレーダシステムの概略図である。
【
図2】本発明に係る分段姿勢および動き補償のシーケンス図である。
【
図3】本発明に係る高度補償システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明するが、本発明の保護範囲はこれに限定されない。
【0017】
図1を参照すると、本発明に係る動的補償風計測ライダシステムは、
マルチビーム光信号を放射するレーザと、
大気エアロゾルによって散乱された光信号を受信して、種光信号とビート周波数を行う光アンテナと、
ビート周波数信号のサンプリング、バランス検出、A/D変換を行って、信号処理装置に送信するA/Dコンバータと、
信号のパワースペクトルを取得するパワースペクトル計算モジュールと、x軸、y軸、z軸の角度、g値、角速度などを含むレーダの動きおよび姿勢データをリアルタイムに出力する動きセンサと、単一ビーム周期で放射される光パルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されたリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加し、複数の周期のパルス信号のパワースペクトル密度を積算することにより、S/N比を向上させるパルス積算モジュールを備える信号処理装置と、
信号のパワースペクトルと、レーダの動きおよび姿勢データとに基づいて、データ処理を実行し、ビーム径方向風速を取得し、前の1周期のビーム径方向風速の逆算と組み合わせて、レーダ上方の風速および風向を得るデータ処理装置と、
を備える。
【0018】
本願における「信号のパワースペクトルと、レーダの動きおよび姿勢データとに基づいて、データ処理を実行し、ビーム径方向風速を取得し」こと、および「ビーム径方向風速、レーダ上方の風速および風向を得る」ことは、いずれも現有技術であり、具体的には、竹孝鵬の論文『コヒーレントドップラー風計測ライダの要素技術に関する研究』を参照されたい。本願の創新的な点は、パルス積算モジュールは、単一ビームパルスを分割して積算し、姿勢補償周波数を高めることである。
【0019】
レーダは、繰り返し周波数の高いレーザを使用しているため、繰り返し周波数は、数十kHzに達することができる。レーザの繰り返し周波数がFkHzであり、ビーム1とビーム2の単一ビームの滞留時間がt秒であると仮定すると、単一ビーム周期で放出される光パルスの数は1000*F*tである。
【0020】
図2に示すように、この1000Ftのパルスをnつの段に分割して積算し、各段の積算に、動きセンサによって収集されたリアルタイムの動きおよび姿勢データを追加することができる。風の計測要求を満たすために、S/N比CNR>Tdbのことを確保する必要があるので、1つの最小パルス積算回数Mを確認することができる。これにより、レーダの単一ビーム周期のパルスは、最大
【数3】
に分割されることができる。
ただし、tは、単一ビームの滞留時間であり、レーザの繰り返し周波数は、FkHzであり、Mは、パルス積算回数である。
【0021】
以上により、レーダの最大姿勢補償周波数は、
【数4】
に達することができる。
【0022】
実際の状況に応じて、M以上のパルス積算回数を任意に選択して、姿勢補償周波数を合理的に調整することができる。同時に、レーザの繰り返し周波数を増加することにより、最大姿勢補償補償周波数をさらに増加することができる。
【0023】
また、背景技術で説明した「レーダの姿勢が変化する場合、計測する高度層も変化する」という課題を解決するために、本願の信号処理装置は、レーダの姿勢および高度の変化により、A/Dのサンプリング間隔時間をリアルタイムに調整する高度補償システムをさらに備える。
【0024】
図3に示すように、レーダが初期姿勢にあるとき、慣性座標軸(X、Y、Z)におけるビームの単位ベクトルは、
【数5】
である。
【0025】
以上により、A/Dのサンプリング間隔時間は、
【数6】
である。
ただし、cは、真空中の光速であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離であり、
【数2】
は、慣性座標軸におけるビームのベクトルである。
【0026】
レーダが姿勢をリアルタイムに変化する場合、レーダ座標軸(X’、Y’、Z’)および慣性座標軸各自の3つの夾角は、それぞれΔα、Δβ、Δγになる(回転角度について、回転軸に沿った負の方向から観察する場合、時計回りが正の方向であり、反時計回りが負の方向である)。これにより、慣性座標軸中のベクトルは、
【数7】
になる。
ただし、
【数8】
【数9】
【数10】
である。
【0027】
以上により、A/Dのサンプリング間隔時間は、
【数1】
になる。
ただし、t’は、変化後のサンプリング間隔時間であり、
【数2】
は、変化後のビームの慣性座標軸におけるベクトルであり、cは、真空中の光速であり、L’は、変化後のビームから高度層までの片道距離であり、Hは、変化前のレーダから高度層までの垂直距離であり、ΔHは、レーダの高さの変化である。前記レーダの姿勢および高さの変化は、動きセンサから取得されるものである。
【0028】
この方案は、収集間隔時間をリアルタイムに調整することにより、レーダが計測するものは、設定された高度層での風速および風向のデータであることを保証し、風の計測精度が高度誤差の影響を受けないようにする。
【0029】
本明細書に記載の具体的な実施例は、本発明の主旨を例示するものにすぎない。当業者が、記載された具体的な実施例に対して様々な修正または補足または類似の方法での替わりを行うことができるが、これらは本発明の主旨から逸脱したり、添付の特許請求の範囲に定義された範囲を超えたりすることはない。