(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】薄片化グラファイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/225 20170101AFI20231215BHJP
C25B 1/135 20210101ALI20231215BHJP
C25B 11/043 20210101ALI20231215BHJP
【FI】
C01B32/225
C25B1/135
C25B11/043
(21)【出願番号】P 2021529214
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020027173
(87)【国際公開番号】W WO2021002482
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019132289
(32)【優先日】2019-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020011217
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】716002448
【氏名又は名称】株式会社仁科マテリアル
(72)【発明者】
【氏名】赤田 充生
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536141(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109081333(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109621989(CN,A)
【文献】特表2019-510721(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088845(WO,A1)
【文献】ZHOU, Feng et al.,Electrochemically Scalable Production of Fluorine-Modified Graphene for Flexible and High-Energy Ion,J. Am. Chem. Soc.,2018年,Vol.140,pp.8198-8205
【文献】COOPER, A. J. et al.,Single stage electrochemical exfoliation method for the production of few-layer graphene via interca,CARBON,2014年,Vol.66,pp.340-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/20-32/23
C25B 1/135
C25B 11/043
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトの薄板状構造物を得る工程、および前記薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程を含む薄片化グラファイトの製造方法において、
前記グラファイトの薄板状構造物を得る工程では、電解質溶液に浸漬させたグラファイトを陽極として直流電流を通電することで前記グラファイトの層間を拡大させてグラファイトの薄板状構造物と
し、
前記電解質溶液
は、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩の溶解液
とし、
前記直流電流が通電される前記グラファイト
は、縮重合系高分子化合物を熱処理することでグラファイト化した長尺グラファイトシート
とし、
この長尺グラファイトシートを前記電解質溶液に浸漬させて通電してシートの形状を保たせながら搬出
させるものとし、
前記薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程では、前記薄板状構造物を水に分散させて超音波照射装置またはせん断力を印加できる装置で処理するものとし
ている薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項2】
前記テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩が、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩である、請求項1に記載の
薄片化グラファイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化グラファイトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書の説明において、「グラフェン」とは、sp2結合炭素原子によって構成された、一原子分の厚みを有するシート形状の物質をいう。「グラファイトの薄板状構造物」とは、層構造を有する原料黒鉛の層間に層間物質(電解質)が挿入され、かつ炭素原子上の一部に酸素原子が導入されて、黒鉛の層間(グラフェン同士の距離)が拡大したものをいう。また、「薄片化グラファイト」とは、グラフェンの積層体であって、前記グラファイトの薄板状構造物に剥離操作を加えて、原料の黒鉛よりもグラフェンの積層数を少なくした黒鉛をいう。
【0003】
グラフェンは、高いキャリア移動度、高い熱伝導度、透明性などの物性を一つの材料に兼ね備えた特異な物質である。これに加えて、その構造が究極のナノシート状であるために、デバイスの大面積化が容易である上に、熱的にも化学的にも安定性に富むためにエレクトロニクス分野を始めとする先端工業材料への応用が期待されているナノ炭素材料である。
【0004】
黒鉛は多数のグラフェンが積み重なって構成される積層体であり、地上に豊富に存在するとともに、石油資源や高分子を熱処理することにより、人工的に作り出すことも可能である。従って、黒鉛はグラフェン製造における格好の原料と考えられるため、この積層体の層間を剥離させることで、グラフェンや、黒鉛よりもグラフェンの積層数が遥かに少ない薄片化グラファイトを製造する様々な試みが提案されてきた。
【0005】
そのような試みの一つとして、黒鉛を酸性電解質水溶液中に浸漬させて、この黒鉛を作用極として対照極との間に自然電位以外に0.6V~0.8Vの範囲の直流電圧を印加することで膨張化黒鉛を製造する方法が提案されており(例えば、特許文献1参照)、この膨張化黒鉛からグラフェンまたは薄片化黒鉛を製造することが検討されている。
【0006】
この方法は、直流電圧の印加時間が比較的長時間であることから、製造効率を向上させることが困難であった。そこで、本発明者らは、さらなる検討を行って、グラファイト箔を作用極として、テトラフルオロ硼酸を電解質とする電解質液に浸漬させ、陰極との間で直流通電を行ってグラファイトの薄板状構造物を短時間で生成することができた(非特許文献1)。このものに剥離操作を加えることで薄片化グラファイトを得た。しかしながら、生産効率を一層高める目的で、テトラフルオロ硼酸を電解質とする条件でさらなる電解時間の短縮もしくは供給電気量の削減を試みると、得られる薄片化グラファイトの平均厚さは十分薄いものとはならず、得られた薄片化グラファイトの平均厚みは4nm程度以上あり、グラフェンが4~5層程度以上積層された状態となっていたこと、および生成グラファイトシートの厚み方向の深部に未反応のグラファイト層が(芯)が残留しやすいことが明らかとなった。このことは、テトラフルオロ硼酸はグラファイト箔へのインターカレーションが未だ十分満足できる速さで進むものではないことを示しており、薄片化グラファイトの品質に加えて、これを生成する際の電流効率あるいは電力コスト等の観点で未だ満足できる方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Carbon,158(2020)356-363.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、テトラフルオロ硼酸水溶液を用いることでグラファイトの薄板状構造物が比較的効率よく得られ、このものに剥離操作を加えることで薄片化グラファイトを製造する方法は見出された。しかしながら、電解反応条件のさらなる短縮もしくは供給電気量の削減を試みた場合には、生成グラファイトシートの深部に未反応のグラファイト層が(芯)が残留しやすいこと、および得られた薄片化グラファイトの平均厚みは4nm程度以上の厚さを有し、グラフェンが未だ4~5層程度以上積層された状態にあった。 即ち、グラフェンの特徴的な物性が現れるようにするためには、薄片化グラファイトはさらに薄くする必要があり、なおかつ、これを低電力コストで達成できる製造技術を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の薄片化グラファイトの製造方法では、グラファイトの薄板状構造物を得る工程、および前記薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程を含み、前記グラファイトの薄板状構造物を得る工程では、電解質溶液に浸漬させたグラファイトを陽極として直流電流を通電することで前記グラファイトの層間を拡大させてグラファイトの薄板状構造物とし、前記電解質溶液は、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩の溶解液とし、前記直流電流が通電されるグラファイトは、縮重合系高分子化合物を熱処理することでグラファイト化した長尺グラファイトシートとし、この長尺グラファイトシートを前記電解質溶液に浸漬させて通電してシートの形状を保たせながら搬出させるものとし、前記薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程では、前記薄板状構造物を水に分散させて超音波照射装置またはせん断力を印加できる装置で処理するものとした。
【0011】
さらに、本発明の薄片化グラファイトの製造方法では、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩が、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であることにも特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄片化グラファイトの製造方法では、電解質溶液を、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩の溶解液とすることで、より薄い薄片化グラファイトを、かつ短時間で電流効率よく作成可能とすることができる。加えて、薄片化グラファイトが中性に近い温和な反応条件で実施できる利点を併せ持つので、大規模生産にはとりわけ相応しい薄片化グラファイトの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施例1で得た薄片化グラファイトの粒子の厚み分布と頻度を示すAFM分析データ
【
図5】比較例1で得た薄片化グラファイトの粒子の厚み分布と頻度を示すAFM分析データ
【
図6】実施例および比較例における電解質溶液種類と生成した薄片化グラファイトの粒子の平均厚みを示した比較図
【
図9】実施例9で得られた薄片化グラファイトのSEM像
【
図10】比較例3で回収されたグラファイト層(芯)の断片の外観
【
図11】実施例および比較例における電解質溶液種類と電解成績を比較した比較図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の具体的な各種実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、特定の電解質を使用した電気化学反応によって、陽極として使用するグラファイトをグラファイトの薄板状構造物に変換するものである。
【0017】
本発明において、陽極は、層状のグラファイトを含み、当該グラファイトが、本発明による電解質と層間化合物を形成(インターカレート)するものであれば特に限定されることはなく、広範囲な材料から選択できる。例えば、天然グラファイト、合成グラファイトの他、縮重合系高分子化合物を熱処理して得たグラファイト、高配向熱分解黒鉛(HOPG)等が挙げられる。
【0018】
前記縮重合系高分子化合物としては特に限定されないが、例えば、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリパラフェニレンビニレン等が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイミドが好ましい。
【0019】
当該グラファイトの好適な具体例として、芳香族ポリイミドを熱処理して得たグラファイトが挙げられる。このようなグラファイトは、面状のグラファイト結晶が層状に積層された構造を有しており、グラファイトの層間へ電解質としてのテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩のインターカレートが進行しやすく、また、インターカレートしたときに、陽極グラファイトから小片の剥離や電解液中へ脱落などが生じにくく、陽極としての全体的な形態を維持しやすい。そのため、より簡単な操作で効率良く、より高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することが可能となる。
【0020】
また、前記陽極は、天然グラファイトを濃硫酸や硝酸等の強酸に浸したのち膨張炉で加熱処理工程を経て得た膨張黒鉛を、高圧プレスによって成型したものであってもよい。これを陽極として使用することによっても、効率良く、高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することができる。
【0021】
前記グラファイトを含む陽極の形状は、シート状、板状、棒状、塊状、粒子状、粉末状、箔状、ロール状などの選択肢の中から適切な形状を必要に応じて広く選択することができる。
【0022】
なかでも、シート状、板状、棒状、箔状、ロール状などの形状を有するグラファイトを陽極とする場合は、本発明の成果を一層効果的に得ることができる。
【0023】
図1にその実施形態の概略を示す。即ち、シート状、板状、棒状、箔状、ロール状などの一般形状を有するグラファイトでなる陽極1を、電解槽4内に仕込まれた電解質溶液3に、該陽極の一方の端を含む被電解部位を浸し、もう一方の端は電解質溶液の外部に設置して電源5の陽極側端子と連結する。併せて陰極2を配置し、両電極の間に直流電流を通電することで該グラファイトでなる陽極1がグラファイトの薄板状構造物に変換される。
【0024】
前記グラファイトが十分な可撓性を有する長尺シートもしくは箔形状を有する場合には、さらにもう一つのより好ましい実施形態が提案できる(
図7)。即ち、長尺のグラファイトシート6の一端は、電源5の陽極端子と接続され、かつ、該シートと接触下の一定速度でこれを電解質溶液3の中に送り出す機能を有する導電性ロール7に導かれ、ガイドロール8と9を経由して電解生成物シート11を前記電解質溶液から引き揚げる機能を有する搬出ロール10に導かれる。陰極端子は陰極2と接続されて、本発明のさらにもう一つの実施形態が整う。
【0025】
前記十分な可撓性を有する長尺シートもしくは箔形状を有するグラファイトシートの厚みは、本電気化学反応系に連続的に供給可能な柔軟性と強度を与えるものであれば特に限定されないが、例えば、5~200μmであってよく、好ましくは10~50μmである。また、前記グラファイトシートの長手方向における好ましい長さは、本電気化学反応の規模に応じて変わり得るが、例えば、0.5~300mであってよく、好ましくは10~100mである。
【0026】
本発明は、電解質としてテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を含む電解質溶液を用いる。ここで、電解質としてのテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩は、テトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンと塩を形成し得る陽イオンとの塩化合物の中から広く選択できが、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩もしくはテトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアンモニウム塩であることが特に好ましい。
【0027】
これらの電解質は、グラファイトの層間へのインターカレートが極めて速やかに進行するため、従来技術と比べて平均厚みがさらに薄い薄片化グラファイトが、極めて高水準の電流効率および時間当たりの生産効率で製造される。
【0028】
本発明の製造方法で用いる陰極は、前記作用極と一対を形成する電極であるが、陽極反応の結果生じたカチオン種に電子を与える機能を持ち、かつ、電気化学的に安定な系を構築できるものであれば特に限定されることはなく、広範囲の材料から適宜選択することができる。例えば、白金、グラファイト、チタン、ステンレススチール、銅、亜鉛、鉛などの金属または炭素質材料から選択することができる。また、その形状としては、ワイヤー状、板状、またはメッシュ(網目)状のものなどを適宜選択できる。
【0029】
前記陰極の面積は、陰極反応の効率を損ねないこと又は電解系の電気抵抗を無用に増加させないことなどのために可能な範囲で大きくしてもよい。
【0030】
前記陰極の配置方法は、陽極に対向(対面)して設置することが望ましいが、
陽極がシート形状のグラファイトの場合には、該シートの前面のみならず背面にも同時に配置して用いても良い。
【0031】
本発明の製造方法では、陽極および/または陰極で望ましくない反応が起きるのを防ぐため、あるいは陽陰両極の短絡を防ぐために、両極の間にイオン交換膜またはスペーサーなどを設置してもよい。
【0032】
本発明の製造方法における電極系は、前述した陽極と陰極のみからなる最も簡素な構成で目的を果たすことができるが、必要に応じて、より精密な電位制御するなどのために参照電極を配置しても良い。
【0033】
電解質溶液は、上記電解質が溶媒に溶解したものである。使用可能な溶媒としては、テトラフルオロ硼酸の塩、ヘキサフルオロ燐酸の塩と混和可能な溶媒であって、かつ、グラファイトの薄板状構造物を製造する際に電気化学的に安定な溶媒のなかから適宜選択することができる。
【0034】
好ましい溶媒は、水やメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等のプロトン性極性溶媒や、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の非プロトン性極性溶媒である。これらのうち1種を使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
なかでも、溶媒としては、水を含むことが特に好ましい。通常は水を単一溶媒として用いれば良いが、必要に応じて水および水と混和するプロトン性極性溶媒もしくは非プロトン性極性溶媒を含む混合溶媒系としても良い。
【0036】
電解質溶液における電解質の濃度は、電気化学反応系の電気抵抗が大きくなり過ぎず、かつ、溶質の電解質が速やかに陽極のグラファイトに供給されてグラファイトの薄板状構造物が得られる濃度であればよい。
【0037】
本発明は、電解質としてテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を用いる。両者を併用してもよい。これら電解質は、純粋な形態で入手することができるので、必要に応じて適宜、前記した適切な溶媒を加え希釈して用いればよい。本電気化学反応系に供する電解質溶液における電解質の濃度は、好ましくは、3.0~70質量%であり、さらに好ましくは、5.0~50質量%である。
【0038】
本発明では、上述した陽極、陰極、及び電解質溶液から構成される電気化学反応系に対して、直流電流を通電する。このとき発生する電圧は、少なくとも、陽極のグラファイトの層間に、電解質がインターカレートするために必要な電位を確保できればよいが、速やかにグラファイトの薄板状構造物を得るために過電圧を印加してもよい。実用的な印加電圧は、電解質濃度、電解質溶液の溶媒組成、陽陰両極間の距離、電解温度などの因子が支配する電解系の電気抵抗要素に打ち勝つように設定すればよい。好ましい印加電圧の範囲は、1.5~50Vであり、より好ましい範囲は2.0~25Vである。
【0039】
陽極に供給する電流の密度は、印加電圧と電極の表面積によってコントロールされる。本発明によりテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を電解質として使用すると、それらの電解質がグラファイトの層間に極めて速やかに、かつとりわけ薄くかつ均一にインターカレートすることが可能になるので、電流密度は微小な域から高度な域まで広く設定することができる。例えば、シート状、板状等の比較的平滑な形状の陽極における電流密度は、好ましくは、10~2,000mA/cm2であり、より好ましくは、50~1,000mA/cm2である。
【0040】
本発明では、陽極に供給する電流を一定の値に設定することも好ましい。この場合、好ましい設定電流値は、前述した好ましい電流密度の範囲になるよう設定される。
【0041】
電気化学反応系に供給する電気量(F/モル、F:ファラデー定数)は、電解反応に供するグラファイトの炭素原子のモル数に対して、好ましくは0.1F/モル~6.0F/モル、より好ましくは0.3~3.0F/モル、さらに好ましくは0.5~2.0F/モルである。この電気量を供給すれば、グラファイトの薄板状構造物、および薄片化グラファイトが効果的に得られる。
【0042】
前記電気化学反応系に電流を通電する際の電解質溶液の温度は、電解質を溶解する溶媒の種類や電解質溶液の濃度によって変わり得るが、実効的には、下限は電解質溶液が凍結しない温度で、上限は電解質溶液の沸点である。好ましくは、0~100℃の範囲で実施することができる。より好ましくは、0~80℃の範囲で実施することができる。
【0043】
本発明においてグラファイトの薄板状構造物の製造に使用した後の電解質溶液は繰り返し再利用することができる。このとき、電解質溶液から取り出したグラファイトの薄板状構造物に付着するなどして減少した電解質は、減量分を必要に応じて反応系に補充してもよい。
【0044】
また、本発明による反応直後のグラファイトの薄板状構造物に随伴した電解質溶液成分は回収することができる。具体的な回収方法としては、例えば、電解質溶液を含むグラファイトの薄板状構造物を遠心分離濾過機にかける方法、加圧プレス濾過に供する方法、またはベルトプレス上で連続的に電解質溶液を分取する方法などの固液分離技術が挙げられる。
【0045】
前記の電解質溶液の回収工程において、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を含む電解質溶液の回収は、例えば、遊離の酸であるテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を電解質に用いる場合と比較して、電解質溶液の回収工程において強度に耐酸性の設備や操作環境を必要としない。従って、温和な環境でかつ汎用の装置を広く選択できるので、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を含む電解質溶液の回収はグラファイトの薄板状構造物を大規模に製造する場面になればなるほど有利となる。
【0046】
電解質溶液から取り出したグラファイトの薄板状構造物は、前記回収プロセスの実施の有無に関わらず、過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄することで、当該構造物から電解質溶液成分を取り除くことができる。
【0047】
以上の工程により得たグラファイトの薄板状構造物は、湿潤状態で、後続の薄片化グラファイトへの剥離操作に供することができ、また、必要に応じて乾燥工程に付してから薄片化グラファイトへの剥離操作に供してもよい。具体的な乾燥方法としては特に限定されないが、例えば、80℃以下の温度で、恒温乾燥器または真空乾燥器で乾燥すればよい。
【0048】
本発明では以上のようにして、グラファイトを含む陽極を用いると共に、電解質としてテトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を含む電解質溶液を用いた電気化学反応系に対し電流を通電することにより、電解質の陰イオンが素早く、しかも偏りなく均一にグラファイトの層間にインターカレートする。その結果、グラファイトを構成する各グラフェン間の層間距離が均一に拡大したグラファイトの薄板状構造物を得ることができる。
【0049】
本発明により得られたグラファイトの薄板状構造物に対して剥離操作を加えることにより、好適には厚みが100nm以下である薄片化グラファイトを得ることができる。
【0050】
前記剥離操作としては特に限定されず汎用の操作が広く適用できる。例えば、超音波照射による剥離操作、機械的剥離力を付加することによる剥離操作、加熱することによる剥離操作等が挙げられる。より具体的には、グラファイトの薄板状構造物を適量の脱イオン水に分散し、これを超音波照射装置にかける方法や、ミキサー、または、せん断力を印加できる装置で処理する方法などを例示できる。剥離操作を行った後の処理物は、凍結乾燥あるいはスプレードライヤーに供するか、あるいは、遠心分離機に供して得られたケーキを、前述したグラファイトの薄板状構造物に対する乾燥処理と同様の乾燥処理に供すればよい。
【0051】
以上により、厚みが100nm以下の薄片化グラファイトを有利に得ることができる。薄片化グラファイトの平均厚みは、50nm以下がより好ましく、3nm以下がさらに好ましい。厚みが1nm以下の薄片化グラファイトが特に好ましい。得られた薄片化グラファイトは、好ましくは酸化グラフェン(酸素を含むグラフェン)より構成されるものであり、より好ましくはフッ化酸化グラフェン(フッ素と酸素を含むグラフェン)より構成されるものである。
【0052】
本発明によって好適に製造される、フッ素を含む薄片化グラファイトは、本発明の製造方法の特徴が反映されて、平均粒子の厚みが小さく、高純度で、不純物の含有率が小さいことが特徴となる。とりわけマンガンを始めとする重金属成分の含有率が小さいことも特徴である。
【0053】
さらに、前記フッ素を含む薄片化グラファイトは、フッ素含有量が0.5質量%以上40質量%以下であり、炭素含有量が40質量%以上80質量%以下であり、酸素含有量が1.0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、フッ素含有量が1.0質量%以上15質量%以下であり、炭素含有量が45質量%以上75質量%以下であり、酸素含有量が15質量%以上45質量%以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
<薄片化グラファイト粒子の観察方法>
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られた薄片化グラファイトを観察した。具体的な方法は、薄片化グラファイトの希薄溶液をシリコン基板に塗布し、日立製作所製S-5200を用いて30kVの加速電圧で確認した。
【0056】
<薄片化グラファイトの酸素に対する炭素の質量比(C/O)の測定方法>
エネルギー分散型X線分析(EDX、Energy dispersive X-ray spectrometry)の原理を用いて、薄片化グラファイトの酸素に対する炭素の質量比(C/O)を測定した。具体的な測定方法は、所定の処理をして得た薄片化グラファイトの乾燥粉末をカーボンテープに満遍なく貼り付け、日本電子製JSM IT-100にて測定した。
【0057】
<薄片化グラファイトの厚みの測定方法>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、薄片化グラファイトの厚みを測定した。具体的な測定方法は、薄片化グラファイトの希薄分散液をマイカ基板に塗布し、島津製作所製SPM-9700HTを用いてタッピングモードで測定した。
【0058】
(実施例1)
ガラス製反応器(
図1の4)に電解質溶液としてテトラフルオロ硼酸ナトリウムの50%水溶液を100ml加えた。これに、陽極としてグラファイト箔(
図1の1)(縮重合系高分子化合物である芳香族ポリイミドを熱処理してグラファイト化した箔)を、その面積のうち15cm
2(黒鉛として62mg)が電解質溶液(
図1の3)中に浸漬するよう固定し、陰極(
図1の2)としてステンレススチール板をセットした。実施形態の概略を
図1に示した。これを直流電源(
図1の5)に接続し、室温下で0.7Aの定電流で5分間電解した。この過程で、作用極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みのスムーズな増大と、表面の褐色化が観測された。反応直後の作用極の写真を
図2に示した。反応終了後の作用極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っていたが、電解液に浸漬した部分の厚みは反応前に比べて明らかに増大していた。厚みが増した生成シートは樹脂製スパーテル(細身の薬匙)が容易に貫通したことから、極めて短時間の電解処理においても生成シートの厚み方向の最深部まで電解質が偏りなく均一に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が形成されたものと見なせた。
【0059】
反応後の粗生成物シートを電解液から引き揚げて取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄して黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに少量の脱イオン水を加えた後、15分間超音波照射して、引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを84mg得た。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.8の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を2質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。AFM分析の結果から平均厚みは約2.8nmであった(
図3)。また、最小厚みは1.0nmであった。反応後の電解液はpH4程度の弱い酸性を示した。また、陰極は、反応の前後で外観に変化は認められず、本電解条件下で安定であることを確認した。
【0060】
(実施例2)
電解液としてテトラフルオロ硼酸アンモニウムの20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応を行なった。反応後に得られた厚みが増したシートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間の電解処理においてもグラファイト箔の内層最深部まで電解質が偏りなく均一に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が形成されたものと見なした。このものは実施例1と同様に後処理を実施しての薄片化グラファイトを94mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.4の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。このものは、AFM分析の結果から平均厚みは約2.7nmであり、最小厚みは1.0nmであった。反応後の電解液はpH7程度の中性を示した。また、陰極は、反応の前後で外観に変化は認められず、本電解条件下で安定であることを確認した。
【0061】
(実施例3)
電解液としてテトラフルオロ硼酸リチウムの20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することによりグラファイトの薄片化グラファイトを90mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.5の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。AFM分析の結果から平均厚みは約2.9nmであり、最小厚みは1.0nmであった。
【0062】
(実施例4)
電解液としてテトラフルオロ硼酸カリウムの20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを91mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.4の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。AFM分析の結果から平均厚みは約2.7nmであり、最小厚みは0.8nmであった。
【0063】
(実施例5)
電解液としてヘキサフルオロ燐酸ナトリウムの20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを68mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.1の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。このものは、AFM分析の結果から平均厚みは約3.2nmであり、最小厚みは1.0nmであった。
【0064】
(実施例6)
ガラス製反応器にテトラフルオロ硼酸テトラn-ブチルアンモニウムを8%含む50%含水アセトニトリル溶液を100ml用意した。このものを電解液として用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを85mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.1の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。このものは、AFM分析の結果から平均厚みは約2.6nmであり、最小厚みは1.0nmであった。
【0065】
(実施例7)
電解液としてテトラフルオロ硼酸ナトリウムの20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを87mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.1の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。このものは、AFM分析の結果から平均厚みは約2.9nmであり、最小厚みは1.0nmであった。
【0066】
(実施例8)
ガラス製反応器に電解液としてテトラフルオロ硼酸ナトリウムの50%水溶液を60ml加えた。これに、陽極として膨張黒鉛を高圧プレスした市販のグラファイトシート(東洋炭素(株)製PF-HP)の一部(浸漬部分の面積1cm2、黒鉛として150mg)が電解液中に浸漬するよう固定し、陰極としてステンレススチール電極をセットした。これを直流電源に接続し、室温下で0.7Aの定電流で8分間電解した。反応終了後の陽極は、シートの形状を概ね保っていたが、一部に電解液中への脱落が認められた。電解液に浸漬した部分の厚みは反応前に比べて明らかに増大していた。この陽極について、実施例1と同じ条件で後処理を実施することにより薄片化グラファイトを90mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.5の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。また、このものは、AFM分析の結果から平均厚みは約3.3nmであり、最小厚みは1.0nmであった。
【0067】
(比較例1)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の20%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応させた。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みのスムーズな増大と、表面の微褐色化が観測された(
図4)。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っており、原料シートの表面に近い層は電解質の十分なインターカレートが起きたことが推定された。一方で、厚みが増した生成シートは樹脂製スパーテルを貫通させるには抵抗があり、生成シートの厚み方向の深部には電解質が未だ十分にインターカレートしていないグラファイト層の残留が認められた。得られたグラファイトの薄板状構造物は実施例1と同様に後処理を実施することにより薄片化グラファイトを78mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.1の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。AFM分析の結果から粒子の平均厚さは約4.4nmであり(
図5)、最小厚みは1.0nmであった。反応後の電解液はpH1以下の強い酸性を示した。
【0068】
(比較例2)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を100ml用いたほかは実施例1と同じ条件で電解反応させた。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みのスムーズな増大と、表面の微褐色化が観測された。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っており、原料シートの表面に近い層は電解質の十分なインターカレーションが起きたことが推定された。一方で、厚みが増した生成シートは樹脂製スパーテルを貫通させるには抵抗があり、生成シートの厚み方向の深部には電解質が未だ十分にインターカレートしていないグラファイト層の残留が認められた。得られたグラファイトの薄板状構造物は実施例1と同様に後処理を実施することにより薄片化グラファイトを88mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.9の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。AFM分析の結果から粒子の平均厚さは約4.0nmであり、最小厚みは1.0nmであった。反応後の電解液はpH1以下の強い酸性を示した。また、反応の後の陰極は外観に濃灰色化が生じ、変質の兆しが認められた。
【0069】
以上の結果から、電気化学反応を利用してグラファイトの薄片化グラファイトを製造するに際し、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を電解質として用いる本発明によれば、遊離酸としてのテトラフルオロ硼酸を電解質とする場合よりも、グラファイト層間への電解質イオンのインターカレーションが一層素早く、かつ偏りなく均一に進行する。その結果、高品質のグラファイトの薄板状構造物と、それから導かれるナノ粒子の特徴である平均厚さがより薄い薄片化グラファイトを得る手段が提供される。
【0070】
(実施例9)
図7に例示する電気化学反応装置に電解質液としてテトラフルオロ硼酸ナトリウムの22%水溶液を約1.5L仕込んだ。別途、厚さ約30μm、幅30mmおよび長さ約1mのグラファイト箔(縮重合系高分子化合物の芳香族ポリイミドを熱処理してグラファイト化した箔)の長尺シート(
図7の6)を準備した。これの片端を、直流電源(
図7の5)の陽極側と接続し、かつ、長尺グラファイトシートの定速送り出し機能を併せ持つステンレス製の回転ロール(
図7の7)に通し、さらに、ガイドロール(
図7の8および9)を経由して、先の送り出し速度と同期して反応シートを電解液から搬出する機能を持つ樹脂製の回転体(
図7の10)に設置した。次に、陰極(
図7の2)としてステンレススチール製メッシュを、上記のグラファイトシートに向き合うようにセットし、これを直流電源の陰極(
図7の5)に接続して電解系とした。この系において、グラファイト箔が陰極に対面する流路(実効的電気化学反応ゾーン)の長さは6cmであった。
次に、グラファイトシートの送り速度を6mm/minに設定し、2.0Aの定電流条件下の室温で連続的に電解した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は10分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は1.1A・min/cm
2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.77gであった。この過程で、陽極においては、電解液中の電気化学反応ゾーンでグラファイト箔の厚みの連続的かつスムーズな増大と、表面の微褐色化が観測された。また、電解生成物シート(
図7の10)は反応系に滞留することなく外部の生成物受け槽に排出された。反応直後の電解生成物シートの写真を
図2に示した。反応の過程で、陽極は電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、シートの形状を保っていたが、厚みは反応前に比べて明らかに増大していた(
図8)。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、短時間(滞留時間10分)の電解処理においてもグラ生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸ナトリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
【0071】
反応で得た粗生成物はろ紙上で、これを過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄して未乾燥で黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに少量の脱イオン水を加えた後、15分間超音波照射して、引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを1.00g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は130%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.9の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており(
図9)、AFM分析の結果から、得られた粒子の平均厚みは2.8nmで、最小厚みは1.0nmであった。
【0072】
(実施例10)
電解質液としてテトラフルオロ硼酸ナトリウムの40%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例9と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.74gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、短時間(滞留時間10分)の電解処理においても生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸ナトリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを1.02g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は138%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.6の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0073】
(実施例11)
グラファイトシートの送り速度を12mm/minに変え、供給する電流値を3.0Aの定電流条件としたほかは実施例10と同様の条件で電解反応を実施した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は5分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は0.8A・min/cm2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.80gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理においても生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸ナトリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを1.03g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は129%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.7の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0074】
(実施例12)
供給する電流値を3.5Aの定電流条件としたほかは実施例11と同様の条件で電解反応を実施した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は5分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は1.0A・min/cm2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.55gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理においてもグラファイト箔の内層最深部までテトラフルオロ硼酸ナトリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.80g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は145%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.4の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0075】
(実施例13)
電解質液としてテトラフルオロ燐酸ナトリウムの15%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.81gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理でも生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ燐酸ナトリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.97g得た。投入原料に対する重量収率は120%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.8の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0076】
(実施例14)
電解質液としてテトラフルオロ硼酸リチウムの15%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.71gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理でも生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸リチウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.84g得た。投入原料に対する重量収率は118%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.0の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、AFM分析の結果から、得られた粒子の平均厚みは2.6nmで、最小厚みは1.0nmであった。
【0077】
(実施例15)
電解質液としてテトラフルオロ硼酸カリウムの15%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.78gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理でも生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸カリウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを1.02g得た。投入原料に対する重量収率は131%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.8の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されておりAFM分析の結果から、得られた粒子の平均厚みは2.9nmで、最小厚みは1.0nmであった。
【0078】
(実施例16)
電解質液としてテトラフルオロ硼酸アンモニウムの15%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.72gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理でも生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸アンモニウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.97g得た。投入原料に対する重量収率は135%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.0の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0079】
(実施例17)
電解質液としてテトラフルオロ硼酸テトラn-ブチルアンモニウムの8%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.75gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、極めて短時間(滞留時間5分)の電解処理においても生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸テトラn-ブチルアンモニウムが偏りなく十分に、素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.83g得た。投入原料に対する重量収率は111%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が2.1の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。このものは十分な薄片化が達成されており、加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0080】
(比較例3)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例9と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.96gであった。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みの増大と、表面の微褐色化が観測された。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っており、原料シートの表面に近い層は電解質の十分なインターカレートが起きたことが推定された。一方で、厚みが増したシートは樹脂製スパーテルを貫通させるには抵抗があり、生成シートの厚み方向の深部には電解質が未だ十分にインターカレートしていないグラファイト層(芯)の残留が認められた。
反応で得た粗生成物はろ紙上で、これを過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄して未乾燥で黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに脱イオン水を加えて、15分間超音波照射した。このとき得られた分散液を、一旦、150メッシュのフィルターでろ過すると0.45gの黒色片が回収された(
図10)。このものは、EDX分析で酸素原子を事実上含まなかったことから、未反応のグラファイトが回収されたものと判断できた。ろ過液は引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを0.40g得た。このものの投入原料に対する重量収率は42%であった。
【0081】
これらの結果から、本電解反応を完結させて所望のグラファイトの薄板状構造物および薄片化グラファイトを得るには単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量が1.1A・min/cm2では不十分であった。
【0082】
得られた薄片化グラファイトは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.3の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0083】
(比較例4)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を約1.5L用い、グラファイトシートの送り速度を3mm/minに変えたほかは実施例9と同様の条件で電解反応を実施した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は20分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は2.2A・min/cm2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.74gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸が偏りなく十分にインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
【0084】
しかしながら、実施例9と比べて、グラファイトシートの送り速度が半減した結果、グラファイトの薄板状構造物を満足に得るための電解処理が2倍に長時間化し、消費する電気量を2倍必要とした。
【0085】
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを0.97g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は131%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.2の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0086】
(比較例5)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を約1.5L用いたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき反応に供したグラファイトシートの総量は0.90gであった。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みの増大と、表面の微褐色化が観測された。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っており、原料シートの表面に近い層は電解質のインターカレートが起きたことが推定された。一方で、厚みが増したシートは樹脂製スパーテルを貫通させるには抵抗があり、生成シートの厚み方向の深部には電解質が未だ十分にインターカレートしていないグラファイト層(芯)の残留が認められた。
反応で得た粗生成物はろ紙上で、これを過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄して未乾燥で黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに脱イオン水を加えて、15分間超音波照射した。このとき得られた分散液を、一旦、150メッシュのフィルターでろ過すると0.25gの黒色片が回収された。このものは、EDX分析で酸素原子を事実上含まなかったことから、未反応のグラファイトが回収されたものと判断できた。ろ過液は引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを0.68g得た。投入原料に対する重量収率は76%であった。
【0087】
これらの結果から、本電解反応を完結させて所望のグラファイトの薄板状構造物および薄片化グラファイトを得るには、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量が1.0A・min/cm2では不十分であった。
【0088】
得られた薄片化グラファイトは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.4の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0089】
(比較例6)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を約1.5L用い、グラファイトシートの送り速度を7mm/minに変えたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は8.6分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は1.7A・min/cm2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.81gであった。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みの増大と、表面の微褐色化が観測された。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離や脱落することはほとんどなく、完全なシートの形状を保っており、原料シートの表面に近い層は電解質のインターカレートが起きたことが推定された。一方で、厚みが増したシートは樹脂製スパーテルを貫通させるには未だ抵抗があり、生成シートの厚み方向の深部には電解質が十分にインターカレートしていないグラファイト層(芯)の残留が認められた。
反応で得た粗生成物はろ紙上で、これを過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄して未乾燥で黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに脱イオン水を加えて、15分間超音波照射した。このとき得られた分散液を、一旦、150メッシュのフィルターでろ過すると0.09gの黒色片が回収された。このものは、EDX分析で酸素原子を事実上含まなかったことから、未反応のグラファイトが回収されたものと判断できた。ろ過液は引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを0.95g得た。投入原料に対する重量収率は117%であった。
【0090】
これらの結果から、本電解反応を完結させて所望のグラファイトの薄板状構造物および薄片化グラファイトを得るには、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量が1.7A・min/cm2では未だ不十分であった。
【0091】
得られた薄片化グラファイトは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.5の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0092】
(比較例7)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の42%水溶液を約1.5L用い、グラファイトシートの送り速度を6mm/minに変えたほかは実施例12と同様の条件で電解反応を実施した。このとき、グラファイトシートの電気化学反応ゾーンにおける滞留時間は10分であり、単位面積当たりにグラファイトシートに与えた電気量は2.0A・min/cm2であった。また、反応に供したグラファイトシートの総量は0.83gであった。厚みが増した前記電解生成物シートは樹脂製スパーテルが容易に貫通したことから、生成シートの厚み方向の最深部までテトラフルオロ硼酸が偏りなくインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が確実に形成されたものと見なせた。
【0093】
しかしながら、実施例12と比べて、グラファイトシートの送り速度が半減した結果、グラファイトの薄板状構造物を満足に得るためには電解処理が2倍に長時間化し、消費する電気量を2倍必要とした。
【0094】
反応の後処理は実施例9と同様に実施して薄片化グラファイトを1.15g得た。投入原料に対する生成物の重量収率は138%であった。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.3の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を4質量%含む薄片化グラファイトから構成されていた。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった。
【0095】
以上の結果から、電気化学反応を利用してグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造するに際し、テトラフルオロ硼酸の塩またはヘキサフルオロ燐酸の塩を電解質として用いる本発明は、遊離酸としてのテトラフルオロ硼酸を電解質とする場合と比較して、所要電気量が半減できること、即ち、電流効率が約200%も高効率であることが明らかとなった。本発明によれば、電力コストが少なくとも半減できること、あるいは、同じ印加電流値であれば時間当たりの生産量が2倍増となる水準に生産効率を高め得る技術であることが見出され、同時に、グラファイト層間への電解質イオンのインターカレーションが素早く、偏ることなく深部まで均一に進行して高品質のグラファイトの薄板状構造物を与えることができる。本発明で、より薄片化されることで製品の特長と品質が一層向上したグラファイトの薄板状構造物と薄片化グラファイトが、時間当たりの生産量と電流効率の飛躍的な向上もしくは電力コストの大幅な低減など、とりわけ電気化学プロセスで大規模製造を実現するための強力な利点を有する製造方法が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、エネルギー分野を始めとする次世代先端工業材料への応用が期待される薄片化グラファイトが、黒鉛から高品質かつ高度に効率的に製造される。
【符号の説明】
【0097】
1 陽極
2 陰極
3 電解質溶液
4 電解槽
5 直流電源
6 長尺のグラファイトシート
7 導電性ロール
8 ガイドロール
9 ガイドロール
10 搬出ロール
11 電解生成物シート