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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】振動切削装置および接触検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20231215BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20231215BHJP
   B23B 25/06 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
B23Q17/22 C
B23B1/00 B
B23B25/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021086282
(22)【出願日】2021-05-21
(62)【分割の表示】P 2019539588の分割
【原出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2021126766
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2017164699
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000203531
【氏名又は名称】多賀電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】鄭 弘鎭
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】浜田 晴司
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-221427(JP,A)
【文献】特開平02-152756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00;
B23Q 17/00-17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具の刃先を楕円振動させて振動切削加工を行う振動切削装置であって、
切削工具が取り付けられ、切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を発生するアクチュエータを含んで、切削工具の刃先を楕円軌道で振動させる振動装置と、
前記振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する移動制御部と、
前記振動装置のアクチュエータの切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を制御する振動制御部と、を備え、
前記移動制御部が、前記振動装置を対象物に対して切込み方向に動かしているときに、前記振動制御部は、切削工具の刃先部および逃げ面が対象物表面を対象物表面に平行に擦る方向である切削方向の振動に要する消費電力を、電圧と電流の積を振動の一周期以上に亘って積分して平均処理することで取得し、消費電力の変化にもとづいて、切削工具と対象物との接触位置を特定する、
ことを特徴とする振動切削装置。
【請求項2】
切削工具の刃先を楕円振動させて振動切削加工を行う振動切削装置であって、
切削工具が取り付けられ、切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を発生するアクチュエータを含んで、切削工具の刃先を楕円軌道で振動させる振動装置と、
前記振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する移動制御部と、
前記振動装置のアクチュエータの切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を制御する振動制御部と、を備え、
前記移動制御部が、前記振動装置を対象物に対して切込み方向に動かしているときに、前記振動制御部は、切削工具の刃先部および逃げ面が対象物表面を対象物表面に平行に擦る方向である切削方向の振動に要する消費電力を、振動の一周期以上に亘って電流と電圧の乗算とその結果の平均化を行うアナログ電気回路を用いることで取得し、消費電力の変化にもとづいて、切削工具と対象物との接触位置を特定する、
ことを特徴とする振動切削装置。
【請求項3】
前記振動切削装置は、超音波楕円振動切削装置である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の振動切削装置。
【請求項4】
コンピュータに、
切削工具が取り付けられ、切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を発生するアクチュエータを含んで、切削工具の刃先を楕円軌道で振動させる振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する第1制御機能と、
前記振動装置のアクチュエータの切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を制御する第2制御機能と、を実現させるためのプログラムであって、
前記第1制御機能が、前記振動装置を対象物に対して切込み方向に動かしているときに、前記第2制御機能が、切削工具の刃先部および逃げ面が対象物表面を対象物表面に平行に擦る方向である切削方向の振動に要する消費電力を、電圧と電流の積を振動の一周期以上に亘って積分して平均処理することで取得し、消費電力の変化にもとづいて、切削工具と対象物との接触位置を特定する、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項5】
コンピュータに、
切削工具が取り付けられ、切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を発生するアクチュエータを含んで、切削工具の刃先を楕円軌道で振動させる振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する第1制御機能と、
前記振動装置のアクチュエータの切削方向の超音波振動と切込み方向の超音波振動を制御する第2制御機能と、を実現させるためのプログラムであって、
前記第1制御機能が、前記振動装置を対象物に対して切込み方向に動かしているときに、前記第2制御機能が、切削工具の刃先部および逃げ面が対象物表面を対象物表面に平行に擦る方向である切削方向の振動に要する消費電力を、振動の一周期以上に亘って電流と電圧の乗算とその結果の平均化を行うアナログ電気回路を用いることで取得し、消費電力の変化にもとづいて、切削工具と対象物との接触位置を特定する、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具を振動させながら被削材(ワーク)を切削する振動切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な被削材に精密な切削加工を施すことが求められている。特許文献1は、切削工具の刃先を被削材に対して楕円振動させる振動装置を備えた切削装置を開示し、この切削装置は、鉄系材料や脆性材料に対して精密微細加工を施すことを可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-221427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交換等により切削工具を新たに切削装置に取り付けたとき、高い加工精度を維持するために、切削工具の刃先位置を正確に測定する必要がある。そのため従来では、切削装置に測定器を付加して切削工具の刃先位置を測定しているが、コスト高となり、また切削装置の座標原点と測定器の座標原点の相対位置関係が熱変形等により変化すると、刃先位置の正確な測定が困難となる問題がある。
【0005】
また別の手法として、切削工具で一度被削材を加工し、加工後の被削材の形状測定の結果にもとづいて刃先位置を補正する手法も利用されている。この場合も、被削材の形状測定のために測定器が必要であり、コスト高となることは否定できない。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの1つは、測定器を付加することなく、工具刃先と被削材などの対象物との相対的な位置関係を特定する技術、または両者の相対的位置関係を特定するために必要となる技術、または設計上の切削環境との誤差を特定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する移動制御部と、振動装置のアクチュエータの振動を制御する振動制御部とを備える。振動制御部は、振動の制御状況を示す状況値を取得し、状況値の変化にもとづいて切削工具と対象物との接触を検出する。対象物は、被削材、被削材を取り付ける部品、または既知形状をもつ物体であってよい。
【0008】
本発明の別の態様もまた、振動切削装置である。この装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材または部品に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材または部品に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、旋削加工後の被削材または被削材の回転中心との相対的な位置関係が既知である基準面に対し、旋削加工の際の切削工具の回転角度位置とは異なる少なくとも2つの位置で、切削工具が接触したときの座標値をもとに、切削工具と被削材の回転中心との相対的な位置関係を定める。
【0009】
本発明のさらに別の態様もまた、振動切削装置である。この装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材または部品に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材または部品に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、被削材の取付面、被削材の送り運動方向、被削材の回転中心の少なくともいずれかとの相対的な位置関係が既知である基準面における接触位置の座標値をもとに、切削工具と、被削材の取付面、被削材の送り運動方向、被削材の回転中心の少なくともいずれかとの相対的な位置関係を定める。
【0010】
本発明のさらに別の態様もまた、振動切削装置である。この装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を、既知形状をもつ物体に対して相対移動させて、切削工具の刃先が物体の既知形状部分に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、切削工具の刃先が物体の既知形状部分の少なくとも3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具の刃先に関する情報を特定する。
【0011】
本発明のさらに別の態様もまた、振動切削装置である。この装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、切削加工後の被削材に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構による送り機能を利用して振動装置を相対移動させて、切削工具が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具の取付誤差、工具刃先の形状誤差、被削材に対する切削工具の相対移動方向のずれの少なくとも1つを特定する。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、工具刃先と対象物との相対的な位置関係を特定する技術、また両者の相対的位置関係を特定するために必要となる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の振動切削装置の概略構成を示す図である。
図2】振動切削装置の機能構成を示す図である。
図3】楕円振動される切削工具が被削材を切削する様子を示す図である。
図4】被削材を切削するプロセスを説明するための図である。
図5】楕円振動される切削工具と被削材の間に作用する力を模式的に示す図である。
図6】ワークに対する切削実験の概要を説明するための図である。
図7】非接触時に対するたわみ振動方向の消費電力変化量の時間変化を示す図である。
図8】切削痕の最大切り込み深さと、ワークの横方向位置の測定結果を示す図である。
図9】たわみ振動方向の消費電力変化量と、切削痕の最大切り込み深さの関係を示す図である。
図10】回帰直線およびその信頼区間を表現する直線を示す図である。
図11】切削工具と被削材回転中心との相対的な位置関係を定める手法を説明するための図である。
図12】A点座標の導出手法を示す図である。
図13】基準面を説明するための図である。
図14】振動装置をC軸回転可能に取り付けた振動切削装置の一例を示す図である。
図15】刃先と基準ブロックの既知形状部分とが接触した様子を示す図である。
図16】刃先と基準ブロックの位置関係を示す図である。
図17】基準ブロックの上面に接触させたときの切削工具の傾いた状態を模式的に示す図である。
図18】接触位置の高さ変化を示す図である。
図19】振動装置をC軸回転可能に取り付けた振動切削装置の別の例を示す図である。
図20】刃先と基準ブロックの既知形状部分とが接触した様子を示す図である。
図21】刃先と基準ブロックの位置関係を示す図である。
図22】基準ブロックの既知形状の部分を刃先に接触させた状態を示す図である。
図23】被削材を加工する様子を示す図である。
図24】工具中心の取付誤差を導出する手法を説明するための図である。
図25】工具刃先の形状誤差を特定する手法を説明するための図である。
図26】被削材回転軸と工具直進軸の平行度を特定する手法を説明するための図である。
図27】被削材回転軸と工具直進軸の直交度を特定する手法を説明するための図である。
図28】工具中心の取付誤差を推定する手法を説明するための図である。
図29】工具中心の取付誤差を推定する手法を説明するための図である。
図30】工具中心の取付誤差を推定する手法を説明するための図である。
図31】B軸回転中心を導出する手法を説明するための図である。
図32】走査線加工における切削送り方向とピック送り方向とを概念的に示す図である。
図33】工具中心の取付誤差を推定する手法を説明するための図である。
図34】工具中心の取付誤差を推定する手法を説明するための図である。
図35】刃先形状誤差を測定する手法を示す図である。
図36】直線切れ刃による加工の様子を示す図である。
図37】同定手法を説明するための図である。
図38】座標変換を説明するための図である。
図39】加工面に刃先を接触させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態の振動切削装置は、切削負荷の変化や振動による発熱などが生じても振動装置の振動を略一定に維持するような振動制御を実行しつつ、振動の制御状況を示す状況値を監視する機能をもつ。監視する振動制御状況値は、振動に要する消費エネルギ量や、追尾する共振周波数であり、振動切削装置は、振動制御状況値を監視することで、振動装置にかかる負荷等を推測できる。実施形態の振動切削装置は、振動制御状況値の監視機能を利用して、工具刃先と被削材(もしくは被削材を取り付ける部品)との接触を検出し、接触位置を特定することで、切削工具の取付位置を測定する技術を提案する。
【0016】
図1は、実施形態の振動切削装置1の概略構成を示す。振動切削装置1は、被削材6に対して切削工具11の刃先を楕円振動させて旋削タイプの加工を行う切削装置である。実施形態の振動切削装置1は、円筒状の被削材6を旋削して圧延用ロールを加工するロール旋盤であるが、旋削タイプ以外の他のタイプの切削装置であってもよい。後述するが本発明者は、制御状況値の監視機能を用いた刃先位置測定手法の実証実験を平削り盤を用いて行っており、実施形態の振動切削装置1は、工具刃先を楕円振動させて振動切削加工を行う切削装置であればよい。
【0017】
振動切削装置1は、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具11が取り付けられた振動装置10を支持する刃物台4とを、ベッド5上に備える。また振動切削装置1は、少なくとも心押し台3を主軸台2に対して移動させる送り機構(図示せず)と、刃物台4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させる送り機構7とを備える。図1においてX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の軸方向に直交する切込み方向、Y軸方向は鉛直方向である切削方向、Z軸方向は、被削材6の軸方向に平行な送り方向である。なお図1において、X軸、Y軸、Z軸の正負は切削工具11側から見た方向を示しているが、切削工具11と被削材6との間で正負の方向は相対的なものであるため、本明細書では特に各軸の正負方向を厳密には定義せず、正負方向に言及する場合には各図に示した方向に従う。切削加工中、被削材6は、主軸台2に設けられた主軸2aにより回転させられる。
【0018】
振動装置10は、切削工具11が取り付けられて、切削工具11の刃先を楕円振動させる振動子を備える。振動子は振動を発生するアクチュエータを備え、アクチュエータは圧電素子であってよい。実施形態においてアクチュエータは、X軸方向の振動とY軸方向の振動を発生させることで、切削工具11の刃先を楕円軌道で振動させる。X軸方向およびY軸方向の振動の周波数は特に限定されないが、好ましくは10kHz以上であり、さらに好ましくは超音波領域以上であってよい。超音波領域の周波数は、概ね人間の可聴域を超えた周波数を意味し、たとえば16kHz以上の周波数であってよい。振動切削装置1は超音波周波数帯域を利用することで、静音性の優れた加工を実現する。制御部20は、振動装置10のアクチュエータの振動、送り機構7による振動装置10の移動、主軸2aの回転を、それぞれ制御する。
【0019】
なお図1には、送り機構7が切削工具11を被削材6に対して移動させているが、送り機構7は、被削材6を切削工具11に対して移動させるものであってもよい。つまり送り機構7は切削工具11を、被削材6などの対象物に対して相対移動させる機能を有していればよく、実施形態において、切削工具11を移動させるか、または被削材6などの対象物を移動させるかは、振動切削装置1の種類によって定められてよい。
【0020】
また送り機構7は、X軸、Y軸、Z軸の並進方向の送り機能に限らず、A軸、B軸、C軸の回転方向の送り機能を有してよい。実施形態の送り機構7は、切削加工の際に必要な移動方向の送り機能だけでなく、切削加工の際に利用されない移動方向の送り機能を有することが好ましい。つまり送り機構7は、切削加工の際に利用する方向の送り機能に加えて、切削加工には必要とされない(いわば冗長な)移動方向の送り機能を有して構成される。冗長な方向の送り機能は、後述する前加工面に対して切削工具11を相対移動させる際に利用されてよい。
【0021】
図2は、振動切削装置1の機能構成を示す。振動装置10は、振動を発生する圧電素子12l、12bを備え、下部先端に切削工具11が取り付けられる。圧電素子12lは、振動装置10をX軸方向(切込み方向)に振動させる。以下、X軸方向の振動を「縦振動」と呼ぶこともある。本明細書において、縦振動に関する部材の符号または記号には、「longitudinal」の頭文字である「l」を付加している。
【0022】
圧電素子12bは、振動装置10をY軸方向に往復するようにたわませて、切削工具11をY軸方向(切削方向)に振動させる。以下、Y軸方向の振動(横振動)を「たわみ振動」と呼ぶこともある。本明細書において、たわみ振動に関する部材の符号または記号には、「bending」の頭文字である「b」を付加している。
【0023】
制御部20は、振動装置10を被削材6に対して相対移動させる送り機構7を制御する移動制御部30と、振動装置10の圧電素子12l、12bの振動を制御する振動制御部21とを備える。移動制御部30は、振動切削装置1における3次元座標の原点を有し、振動装置10の移動を、切削工具11の刃先位置の座標で制御してよい。なお制御部20は、主軸台2における主軸2aの回転を制御する制御部(図示せず)もさらに備えて構成される。以下、振動制御部21が振動装置10の振動を制御する手法について説明する。
【0024】
振動制御部21は、圧電素子12l、12bに印加する周期的な電圧を発生する電圧発振部25を備える。電圧発振部25は、駆動制御部22により制御され、縦振動の共振周波数fと、駆動制御部22の指令による位相θに従う電圧を発生する。共振周波数fは、振動装置10の形状や重量分布により定まり、切削負荷や振動装置10の温度変化等によって変化しうる。
【0025】
電圧発振部25が発生した電圧は、第1の増幅器23lにより増幅されて、圧電素子12lに、共振周波数f,位相θに従う電圧V(f,θ)として印加される。圧電素子12lは、電圧V(f,θ)を印加されて駆動され、振動装置10の縦振動を発生する。
【0026】
また電圧発振部25が発生した電圧は、位相シフト部24を介して第2の増幅器23bにより増幅されて、圧電素子12bに、共振周波数f,位相θ+φに従う電圧V(f,θ+φ)として印加される。圧電素子12bは、電圧V(f,θ+φ)を印加されて駆動され、振動装置10のたわみ振動を発生する。増幅器23l,23bは、例えばスイッチングアンプであってよい。
【0027】
位相シフト部24は、電圧発振部25が発生した電圧位相を、θからθ+φにずらす。位相シフト部24を設けない場合には、電圧V,Vの位相差がなくなり、縦振動とたわみ振動の位相差がなくなって切削工具11は直線的な振動軌道をとるが、位相シフト部24が電圧位相をφだけずらすことで、切削工具11は縦振動とたわみ振動による楕円状の振動軌道で動くことになる。なお位相差φを可変とすれば、振動軌道を可変に生成できる。なお通常は、電圧に対する振動の位相遅れが縦振動とたわみ振動で若干異なるため、位相シフト部24は、縦振動の位相遅れとたわみ振動の位相遅れの差の調整を行う役割も担っている。
【0028】
振動装置10は、切削工具11に近づくにつれて細くなるテーパ形状を有するように形成される。テーパ形状の種類としては、コニカルホーン形状や、エクスポネンシャルホーン形状、ステップホーン形状などがある。振動装置10は、縦振動とたわみ振動における節(最も振動が小さくなる部分)の位置が1箇所以上、好ましくは2箇所以上において一致するように形成され、一致する節の位置で支持される。
【0029】
縦振動は、振動装置10における山(振幅の大きい部分)の出現数に応じて次数が定められる。たとえば縦振動の山が工具側端部と中央部と反対側端部の3箇所にあれば、2次の縦振動である。たわみ振動においても、概ね同様に次数が定められ、例えばたわみ振動の山が3箇所にあれば1次のたわみ振動である。振動装置10は、2つの振動の共振周波数が概ね一致するように設計されるが、切削加工中は負荷等によって一致しなくなる。そこで振動制御部21は、加工精度の向上に相対的に重要な縦振動の共振周波数fを追尾し、縦振動の共振周波数fに基づいた振動制御を実施する。なお振動制御に際しては、たわみ振動の共振周波数が用いられてもよいし、双方の共振周波数の平均値が追尾されるようにしてもよい。
【0030】
振動制御部21は、圧電素子12lに接続された位相検出部26を備える。位相検出部26は、圧電素子12lに流れる電流Iの位相θ’を検出する。圧電素子12lの電流I(f,θ’)は、周波数fと、圧電素子12lにおける実際の位相θ’により表現される。位相検出部26は位相θ’を、増幅器23lの電圧V(f,θ)の位相θと比較し、それらの差Δθ(=θ’-θ)を算出する。共振周波数(電気的には反共振周波数)の近傍では、電圧Vと電流Iの位相差がゼロになる特性があり、実施形態では、この特性を利用し、位相差Δθをゼロに近づけるように周波数fを制御するフィードバック制御によって、共振周波数の追尾が行われる。
【0031】
実際の共振周波数は、様々な要因(例えば切削の負荷や振動の継続による振動装置10の発熱等)により変化するため、電圧の位相θと電流の位相θ’の位相差Δθも変化する。そこで位相検出部26では、測定された位相差Δθと、指令データDで示される目標とする位相差(ここではゼロ)を比較し、その差(誤差)を駆動制御部22に伝達する。駆動制御部22は、位相差Δθが0°となるように、電圧発振部25の発振周波数を変更し、共振周波数を追尾する。実施形態の振動制御部21は振動振幅を一定に保つ制御を行う。この振幅制御では、負荷が増加すると、消費電力(消費エネルギ)が増加することになる。振動制御部21は、位相固定ループ(Phase Lock Loop;PLL)を有して、縦振動の共振周波数f(たわみ振動の共振周波数もその近くにある)を追尾する。
【0032】
制御部20は、振動の制御状況を示す状況値を監視するための監視部27を備える。監視部27には、追尾している共振周波数fに対応する電圧が入力され、さらに電圧V(f,θ)と電流I(f,θ’)も入力される。監視部27は、積(V×I)から縦振動で消費される消費エネルギに対応する電力Pを算出する。なお電圧Vと電流Iは周期的に変化しているから、これらの積の(少なくとも一周期に亘る)積分を積分時間で除した平均値(離散的には積算を積算数で除した平均値)が、縦振動で消費した電力となる。
【0033】
次の(式1)は、時間tにおける瞬間電圧V(t)と瞬間電流I(t)を用いて電力(消費エネルギ)Pを算出する式を示す。連続時間で電力Pは(式1)で表される。ここで、Tは振動の周期であって周波数fの逆数であり、mは1以上の整数であり、t=0を積分開始時間としている。
【数1】
【0034】
デジタル計測の場合に、(式1)を離散化すると、次の(式2)となる。ここで、nは積算回数、Δtはサンプリング間隔であり、nΔtが正確に整数周期になるようにnが選ばれることが好ましい。
【数2】
【0035】
同様に、監視部27には、電圧V(f,θ)と電流I(f,θ”)が入力される。ここでθ”は、圧電素子12bにおける実際の位相である。監視部27は、時間tにおける瞬間電圧V(t)と瞬間電流I(t)の積(V×I)からたわみ振動で消費される電力Pを算出する。
【0036】
電力Pを算出する式は、(式1)、(式2)と同様に、次の(式3)、(式4)によって表される。なお、これらの電力は、デジタル計測結果を用いて数値演算によって算出されてもよいし、近似的に、瞬間電流と瞬間電圧の乗算とその結果の平均化を行うアナログ電気回路を用いることで算出されてもよい。これらの消費エネルギ(消費電力)は、所定時間内において消費されるエネルギ(電力)であるから、消費エネルギ率(消費電力率)と捉えてもよい。
【数3】
【数4】
【0037】
位置関係導出部28は、振動の制御状況を示す状況値である電力P,P、共振周波数fを、切削工具11によって被削材6が接触されていない非接触時(無負荷時)に監視部27から予め取得しておく。位置関係導出部28は、監視部27が非接触時に取得した電力P,P、共振周波数fと、切削工具11が被削材6に接触している接触時(負荷印加時)に取得した電力P,P、共振周波数fとを比較して、各状況値の変化量を算出してよい。なお実施形態の振動制御部21は、電圧発振部25のPLL制御で、電流Iや位相θ”を用いないが、これらのうちの少なくともいずれかを用いるようにしてもよい。
【0038】
図3図4は、振動装置10によって楕円振動される切削工具11が被削材6を切削する様子(振動一周期程度の極短時間に亘る微視的なもの)を示し、図5は、切削工具11と被削材6の間に作用する力を模式的に示す。図4においてVtoolは切削工具11の速度を、Vchipは切屑Hの速度を表現している。
【0039】
たわみ振動により被削材6の切削方向と同方向側(Y軸正方向側)に退いた切削工具11(図3(a))は、縦振動により被削材6に近づき(X軸正方向)、被削材6(ワーク)に接触して切削を開始する(図3(b))。切削工具11の刃先は、微視的には先端に丸味部分を有しており、また先端に対して被削材6から逃げるような逃げ面Lを有している(図4)。
【0040】
切削工具11は、移動方向が比較的にY軸負方向に近い状態で被削材6に対してX軸正方向に相対的に近づく(図3(a)~図3(b))と、刃先の丸味部分において被削材6を押しならし、逃げ面Lで加工したばかりの面(加工面U)を擦る(図4(a))。この加工プロセスは、バニシングプロセスあるいはプラウイングプロセスと呼ばれる。
【0041】
次いで、切削工具11は、移動方向が比較的にX軸負方向に近い状態で被削材6に対してY軸負方向に相対的に近づく(図3(c)~図3(d))。このとき、切削工具11は被削材6を擦り上げ、切屑Hを適宜引き上げる(図4(b))。この加工プロセスは、材料除去プロセスと呼ばれる。その後、切削工具11が被削材6から離れると、一周期における材料除去プロセスは終了し、図3(a)の状態(但し一周期分進んだ位置)に戻る。
【0042】
バニシングプロセス(図4(a))において、切削工具11は、被削材6を切込み方向(X軸正方向)に押して、被削材6から切込み方向(X軸負方向)に押される反作用の力Flpを受ける。力Flpは、縦振動における下死点を中心に縦振動を押し戻すように働く。よって、力Flpは、縦振動に対する付加的なバネΔKとして働く。
【0043】
また切削工具11は、被削材6を擦る際に、被削材6から切削方向(Y軸正方向)の力Fbpを受ける。力Fbpは、たわみ振動における速度の最も速い中立点を中心に、たわみ振動を妨げるように働く。よって、力Fbpは、たわみ振動に対する付加的な減衰(ダンパー)ΔCとして働く。
【0044】
材料除去プロセス(図4(b))において、切削工具11は、被削材6の切屑Hを引き上げ、切屑Hから切込み方向に引き下げられる(X軸正方向)反作用の力Flcを受ける。力Flcは、縦振動における速度の最も速い中立点を中心に、縦振動を妨げるように働く。よって、力Flcは、縦振動に対する付加的な減衰(ダンパー)ΔCとして働く。
【0045】
また切削工具11は、切屑Hを切削方向で相対的に押し(Y軸負方向)、切屑Hから力Fbc(Y軸正方向)を受ける。力Fbcは、たわみ振動における左の死点を中心にたわみ振動を押し戻すように働く。よって、力Fbcは、たわみ振動に対する付加的なバネΔKとして働く。
【0046】
加工プロセスにおけるバネΔK,ΔKや減衰ΔC,ΔCの存在により、加工中、振動切削装置1の振動制御状況を示す状況値、具体的には共振周波数fや電力P,Pの値が変動する。なお実際の振動は加工条件や振動条件によって様々に変わり得るが、バネΔK,ΔKや減衰ΔC,ΔCを考慮することで、状況値の変化の傾向を把握できる。
【0047】
たとえば縦振動の共振周波数fに関し、バニシングプロセスにおいて、切込み方向の力Flpが大きいほど、バネΔKの弾性作用をより強く受けるため、共振周波数fは高くなる。また材料除去プロセスにおいて、左の死点を過ぎてもなお切屑Hを引き上げる力Flcが長く継続すればするほど、共振周波数fは高くなる。他方、左の死点を経過する前に切屑Hを引き上げる力Flcがより長く継続すれば、縦方向の中立点に向けて復元しようとする切削工具11に対して復元力(バネ力)を弱める力となるため、共振周波数fは低くなる。
【0048】
また電力Pに関し、減衰ΔCの存在は、これがない場合に比べて、縦振動に必要なエネルギを増加させる。縦振動に必要なエネルギは電力Pによって賄われているから、電力Pが増加するということは、減衰ΔCが増加していることと相関がある。減衰ΔCの増加は、材料除去プロセスにおける力Flcの増加を意味するため、したがって監視部27により電力Pの増加が確認されると、切削工具11が切屑Hを引き上げる力が増加していることが分かる。
【0049】
同様に、電力Pに関し、減衰ΔCの存在は、これがない場合に比べて、たわみ振動に必要なエネルギを増加させる。たわみ振動に必要なエネルギは電力Pによって賄われているから、電力Pが増加するということは、減衰ΔCが増加していることと相関がある。減衰ΔCの増加は、バニシングプロセスにおける力Fbpの増加を意味するため、したがって監視部27により電力Pの増加が確認されると、切削工具11が被削材6から受けるY軸方向の力が増加していることが分かる。
【0050】
このように実施形態の監視部27は、被削材6の切削中に、振動の制御状況を示す状況値を監視する機能を有する。たとえば切削工具11の摩耗が進むと、バニシングプロセスにおける力Fbpが大きくなる傾向がある。そこで監視部27は、加工中の電力Pを監視して、増加量が所定値を超えた場合に、切削工具11の摩耗が進んでいることを検出できる。
【0051】
以上の監視部27による監視機能は、加工中の振動の制御状況を示す状況値を監視するものであるが、実施形態の振動切削装置1では、この監視機能を、無負荷時、具体的には切削工具11の取付位置の測定時に利用する。
工具交換時など、切削工具11が新たに振動装置10に取り付けられたとき、移動制御部30が高い移動精度(加工精度)を出すためには、刃先位置の正確な座標値が特定されている必要がある。振動の制御状況を示す状況値である電力P,P、共振周波数fのうち、特にたわみ振動の消費電力Pは、Y軸方向(切削方向)の力の増加に応答するため、切削工具11と被削材6との接触に対して高い感度で増加する。そこで以下の例では消費電力Pの変化(上昇)を利用して接触検出を行うことを示すが、他の状況値、たとえば共振周波数fの変化を利用して接触検出を行うことも可能である。
【0052】
本発明者は、制御状況値の監視機能を用いた刃先位置測定手法の実証実験を行った。この実験では、振動装置10を平削り盤に装着し、監視部27が、送り運動されるワークを平削りしたときの振動制御状況値を取得した。なお、この実験では、工具刃先とワークとの接触を検出して、接触位置を特定することを目的としており、さらに実験条件にもとづいた接触位置の誤差に関する考察も行っている。
【0053】
図6は、ワークWに対する切削実験の概要を説明するための図である。図6(a)は、ワークWに対して上方から斜め方向に切削を行うことを示し、図6(b)は、ワークWの上面に観測される切削痕の状態を示す。切削痕は、切削方向において、次第に深く、且つ幅広となる形状となる。
【0054】
この実験は、
切削工具:単結晶ダイヤモンド(ノーズ半径0.8mm)
ワークW:焼き入れ綱 53HRC
振動条件:17kHz 10μm(p-p)
のもとで実施された。
振動制御部21が振動装置10を楕円振動させ、移動制御部30が切り込み量を漸増するように振動装置10を切り込み方向に動かして、監視部27が、たわみ振動の消費電力Pを計測した。実験では、ラインLaでワークWの切削を行っておき、続いてラインLaよりも工具刃先を1.5μm下げたラインLbでワークWを切削して、監視部27が、このときの制御状況値を記録した。なお、この実験では、切削工具11の保護の観点からワークWを切削方向に送り運動させて切削したが、ワークWを送り運動させなくても、接触検知を行うことは可能である。
【0055】
図7は、たわみ振動方向の消費電力Pの時間変化を示す。なお縦軸は、測定される消費電力から無負荷時の電力を引いたΔPを示している。
図7では、時間t1からΔPが上昇し、時間t2でΔPの上昇が終了している測定結果が得られている。このことは時間t1の近傍で工具刃先がワークWに接触して切削を開始し、時間t2の近傍でワークWの右端までの切削が終了して、工具刃先が負荷から解放されたことを意味している。位置関係導出部28は、時間t1近傍における消費電力変化を直線(曲線)近似して、近似した回帰直線(曲線)がゼロクロスする位置(t1’)を求める。位置関係導出部28は、求めた時間t1’を移動制御部30に提供すると、移動制御部30は、時間t1’における振動装置10の制御位置座標を、位置関係導出部28に返す。この制御位置座標は、切削工具11とワークWとの接触位置を示すものであり、したがって位置関係導出部28は、接触位置を特定できる。
【0056】
なおΔPの検出値にはノイズが重畳されている。本実験による位置検知精度を求めるために、接触前と考えられる区間における消費電力Pのノイズの標準偏差σを算出すると、以下の実験値が求められた。
平均値M: -0.00096872[W]
標準偏差σ: 0.0033
信頼区間95%: ±2σ=±0.0066
と求められた。
【0057】
図8は、切削痕の最大切り込み深さと、ワークWの横方向位置の測定結果を示す。本実験では、ワークWに対して上方から斜め方向に切削することで、図8に示す測定結果が得られる。
【0058】
図9は、たわみ振動方向の消費電力Pの変化と、切削痕の最大切り込み深さの関係を示す。切り込み深さが深くなるほど切削幅が増加して、切削負荷は大きくなるため、切り込み深さに応じてΔPが上昇する関係となる。本実験では、図9に示す関係から、接触時の消費電力変化を直線(曲線)近似し、近似した回帰直線(曲線)がゼロクロスする位置を求めて、接触位置の検知精度を計算した。
【0059】
図10は、ゼロ点近傍のサンプリング点を用いて導出した回帰直線およびその信頼区間を表現する直線を示す。ここで回帰直線は、最小2乗法を用いて、
y=14.975x-0.0025
として求められている。なお、この例では回帰直線を求めているが、多次関数である回帰曲線を求めてもよい。本実験において、接触位置の検知誤差eは、図示されるように、0.6μmであることが導出された。なお、位置検知誤差を小さくするためには、サンプリング周期を短くしてサンプリング数を増やし、移動平均を行えばよい。
【0060】
このように実験では、監視部27が、たわみ振動方向の消費電力Pの変化(増分)を取得して記録し、位置関係導出部28が、変化が生じた瞬間(時間t’)、すなわち工具刃先がワークWに接触した瞬間の工具位置を特定する。この特定手法は様々あるが、一例として最小2乗法を利用することで、工具位置を高精度に特定できる。なお工具位置の特定精度を高めるためには、サンプリング周期を短くしてサンプリング数を増やし、移動平均の点数を増やすことで精度を高めればよい。
【0061】
このように振動切削装置1は、無負荷時において、振動の制御状況を示す状況値を取得し、状況値の変化にもとづいて切削工具と被削材(ワーク)との接触を検出して、接触位置を定める。上記実験では、たわみ振動に要する消費エネルギ、具体的にはたわみ振動に要する消費電力を利用したが、縦振動の共振周波数fの変動値を解析することでも、切削工具と被削材との接触を検出することが可能である。
【0062】
このように制御部20は、送り機構7を制御して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が被削材6などの接触対象物に接触したときの座標値を取得する機能を有する。以下、この機能を有することを前提に、旋削タイプの加工を行う振動切削装置1において、切削工具11と対象物との相対的な位置関係を定める手法を説明する。なお実施例1において被削材6の回転中心は、主軸2aの回転中心と同義である。
【0063】
<実施例1>
図11は、切削工具と被削材回転中心との相対的な位置関係を定める手法を説明するための図である。以下では、被削材6の回転軸中心A(x,y)を算出する手法を説明する。この例で被削材6は、一度旋削加工された状態にある。なお被削材6は、鋭利な工具切れ刃の欠損防止の観点から主軸2aにより回転されていることが好ましいが、回転されていなくてもよい。
【0064】
まず移動制御部30は、工具刃先を下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P点で旋削加工済の被削材6に接触させる。なおP点のX軸方向の座標xは事前設定されており、Y軸方向の座標が変数となる。接触検知は、振動制御部21により、上述した手法によって行われてよい。なお上記した接触検知手法によれば、位置関係導出部28は、接触後の消費電力変化から回帰直線を生成して、事後的に接触位置を特定する。そのため移動制御部30が、工具刃先をP点で接触させた瞬間には、まだ位置関係導出部28は、接触位置を特定できておらず、移動制御部30は、P点で実際には接触しているが、P点よりも僅かばかり上方に工具刃先を動かす必要がある(その分の切削は行われる)。なお位置関係導出部28は、ΔPの上昇量が所定値を超えると切削工具11と被削材6との接触を検知し、たとえばノイズ振幅以上のΔPの上昇を検出することで、切削工具11と被削材6との接触を検知してよい。
【0065】
位置関係導出部28が回帰直線を用いて接触したタイミングを導出すると、移動制御部30は、接触したタイミングの座標、つまりP点座標(x,y)を位置関係導出部28に提供する。位置関係導出部28は、接触したタイミングを導出すると、移動制御部30に対して振動装置10の移動を停止させてよい。なお移動制御部30は、厳密には切削工具11の刃先の座標を管理しているのではなく、振動装置10の座標を管理しているのであるが、刃先座標と振動装置座標とは一対一の関係にあるため、以下、刃先座標をもとに説明を行う。
【0066】
なお上記したように、被削材6は、既に旋削加工済のものが用いられる。これは、被削材6の回転軸、つまり主軸2aの回転軸を中心とする同径の円の周上で、P点と、後述するP点座標、P点座標とを検出するためである。そのため位置関係導出部28は、旋削加工された被削材6に、工具刃先をP点で接触させているが、前加工として行った旋削加工時のX軸およびY軸の座標値を、P点とすることも可能である。
【0067】
続いて移動制御部30は、工具刃先を、下方(図11におけるY軸負方向)に十分な距離だけ下げ、X軸正方向に既知の距離dだけ進める。その後、移動制御部30は、工具刃先を上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P点で被削材6に接触させる。位置関係導出部28が接触を検知して、接触タイミングを導出すると、移動制御部30は、接触したタイミングの座標、つまりP点座標(x,y)を位置関係導出部28に提供する。
【0068】
続いて移動制御部30は、工具刃先を、下方(Y軸負方向)に十分な距離だけ下げ、X軸正方向に既知の距離dだけ進める。なお進める距離は、既知の距離であればよく、P点座標とP点座標の間のX軸方向距離(d)と異なっていても構わない。その後、移動制御部30は、工具刃先を上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P点で被削材6に接触させる。位置関係導出部28が接触を検知して、接触タイミングを導出すると、移動制御部30は、接触したタイミングの座標、つまりP点座標(x,y)を位置関係導出部28に提供する。なお主軸2aを回転させながら接触検知を行う場合には、接触時に僅かに切削が行われて半径が減少するため、P点、P点およびP点のそれぞれの接触検知は、異なるZ軸方向位置で行われることが望ましい。
【0069】
位置関係導出部28は、旋削加工の際の切削工具11の回転角度位置とは異なる少なくとも2つの位置で切削工具11が接触したときの座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。たとえば前加工として行った旋削加工時のX軸およびY軸の座標値をP点としているとき、位置関係導出部28は、P点とそれぞれ異なる回転角度位置となるP点、P点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。なお実施例1において位置関係導出部28は、3つのそれぞれ回転角度位置の異なる接触点、つまりP点、P点、P点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。位置関係導出部28は、3つの点を通る円が一つに定まることを利用して、被削材6の回転中心であるA点の座標(x,y)と半径Rを算出する。
【0070】
図12(a)、(b)は、A点座標の導出手法を示す。図12(a)に示されるように、ラインL1とラインL2の交点を算出することで、座標Aを求めることができる。ラインL1、L2は、以下の(式5)、(式6)により、それぞれ表現される。
【数5】
【数6】
【0071】
(式5)、(式6)から、(式7)が導出される。
【数7】
ここで、
-x=-d
-x=-d
であり、
点座標(x,y)を(0,0)と定義すると、
【数8】
と、A点のx座標が導出される。
【0072】
また図12(b)に示すラインL3は、以下の(式9)により表現される。
【数9】
(式9)に、(式8)で求めたxを代入すると、
【数10】
と、A点のy座標が導出される。
なお、被削材6の回転半径は、以下のように求められる。
【数11】
【0073】
位置関係導出部28は、このようにして、P点座標(x,y)を(0,0)としたときのA点座標を導出する。これにより位置関係導出部28は、3つの接触位置の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。
【0074】
以下、A点座標および半径Rの算出精度を考察する。実施例1では、図10において、接触検知における接触位置検出誤差eを算出したが、以下では、この検出誤差eが、A点座標および半径Rの精度に及ぼす影響について検証する。
【0075】
x座標の誤差をe、y座標の誤差をe、半径Rの誤差をeとする。
つまり、
【数12】
として誤差を考える。
【0076】
このように誤差を考えた場合、(式8)で表現されたA点のx座標値、(式10)で表現されたA点のy座標値、(式11)で表現された半径Rは、以下のように表現される。
【数13】
【0077】
誤差eを求めると、
【数14】
ここで、
【数15】
と近似できることから、誤差eは、
【数16】
と導出される。
【0078】
同様に、誤差eを求めると、
【数17】
ここで、
【数18】
と近似できることから、誤差eは、
【数19】
と導出される。
【0079】
誤差eは、
【数20】
で表現される。
【0080】
このようにx座標の誤差e、y座標の誤差e、半径Rの誤差eは、いずれも接触位置検出誤差eで表現でき、接触位置検出誤差eを小さくすることで、加工精度を高められることが確認された。
【0081】
実施例1で説明したように、切削工具11と被削材6の回転中心(主軸中心)との相対位置を特定できると、円筒面の加工に際して正確な直径に仕上げることが可能となり、端面の加工に際しては工具刃先の芯高が狂わないためにいわゆるへそが残ることがなく、球面や非球面加工に対しても高い加工精度を実現できる。
【0082】
<実施例2>
実施例1で位置関係導出部28は、切削工具11と、旋削加工後の被削材6との接触を検知して、その接触位置を特定した。実施例2で位置関係導出部28は、切削工具11と被削材6を取り付ける部品に設けられた基準面との接触を検知して、部品基準面に対する切削工具11の相対的な位置を特定してもよい。部品の例としては、たとえば被削材6を支持する主軸2aであってよく、切削工具11を主軸2aの端面や周面に設けられた基準面に接触させることで、位置関係導出部28は、切削工具11と主軸2aとの接触位置を特定し、これによって切削工具11と、被削材6の取付面や回転中心などとの相対的な位置関係を導出してもよい。
【0083】
図13は、基準面を説明するための図である。基準面には、ワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係が既知である面が設定される。この例では、ワークWを中心軸線回りに回転させて旋削加工を行う切削装置において、ワークWを固定する主軸2bの端面を基準面1とし、主軸2bの周面を基準面2と設定する。つまり基準面1は主軸回転軸に垂直な平面、基準面2は主軸回転中心を中心とする円筒面である。位置関係導出部28は、ワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係が既知である基準面における接触位置の座標値をもとに、切削工具とワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係を定める。
【0084】
上記したように位置関係導出部28は、切削工具11と、部品である主軸2bとの接触を検知して、その接触位置を特定できる。
ここで位置関係導出部28は、基準面1に対して工具刃先の接触検知を行うことで、ワークWの長さ方向(図の左右方向)の工具刃先原点(ワークWの取付面すなわちワークWの左端の面に対する工具刃先の相対位置)を正確に知ることができる。これによりワークWの端面(図の右端の面)を加工する際に、ワークWの長さ(左右方向の長さ)を正確に仕上げることができる。
また位置関係導出部28は、基準面2に対して、実施例1と同様にY軸位置が異なる3点(直径が既知であれば2点でよい)で工具刃先の接触検知を行うことで、ワークWの半径方向の工具刃先原点(ワークWの回転中心に対する工具刃先の相対位置)を正確に知ることができる。これによりワークWの円筒面を加工する際に、ワークWの直径を正確に仕上げることができる。
【0085】
基準面は、ワークWの一部に設定されてもよい。たとえば図13において、基準面1がワークWの一部である場合、その面からワークWの右端面までの長さを正確に仕上げることができる。なお図13では旋削加工の例を示しているが、平削り加工であれば、基準面(正確な平面)上の3点で接触検知すればその平面を特定できるため、基準面に平行な面を、正確な高さで仕上げることができる。また、基準面が正確にZ軸に垂直な平面であれば、1点で接触検知するだけで底面(基準面と接触しているワークWの面)と平行な面を正確な高さで仕上げることができる。
【0086】
以下の実施例3~13では、主として実施例1で説明した3点接触検知を応用した技術について説明する。これから説明に使用する図面において、A軸はX軸を中心とした回転軸、B軸はY軸を中心とした回転軸、C軸はZ軸を中心とした回転軸を意味する。また本明細書および図面では、キャレット(ハット)付き記号に関し、たとえば記号が“y”である場合に、表記の都合上、
【数21】
であることに留意されたい。
つまり、記号yの上にキャレット(ハット)を付したものと、同じ記号yの横にキャレットを付したものとは、同一の変数を示す。実施例でキャレット付きの記号は、求めるべき変数であることを意味する。なおキャレットを上に付した記号は数式中で使用され、キャレットを横に付した記号は文章中で使用される。また異なる実施例の図面で重複して用いられている記号は、それぞれの実施例の理解のために利用されることに留意されたい。
【0087】
<実施例3>
実施例1で、制御部20は、旋削加工後の、換言すると前加工された被削材6上の3点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を特定している。実施例3では、制御部20は、刃先の原点設定用に高精度に加工された既知形状をもつ物体を利用して、切削工具11と既知形状をもつ物体との相対的な位置関係を定めて、切削工具11の刃先に関する情報を特定する。以下、切削工具11の刃先に関する情報を特定するために用いる物体を「基準ブロック」と呼ぶ。制御部20は、基準ブロックに切削工具11の刃先を接触させることで刃先位置を同定するため、その前提として、少なくとも接触しにいく基準ブロックの形状を把握している。
【0088】
図14は、振動装置10をC軸回転可能に取り付けた振動切削装置1の一例を示す。図14(a)はX軸方向から見た振動切削装置1の様子を、図14(b)はZ軸方向から見た振動切削装置1の様子を示す。振動装置10の先端には切削工具11が取り付けられ、振動装置10は、支持装置42により支持される。支持装置42は、C軸回転可能となるように取付軸41に固定される。
【0089】
B軸テーブル43に、既知形状をもつ物体である基準ブロック40が配置される。実施例3では、切削工具11を振動装置10に取り付けた後、切削工具11の刃先位置を特定するために、制御部20が、刃先を基準ブロック40に少なくとも3回接触させ、その接触点の位置座標を用いて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。実施例3では、送り機構7がB軸テーブル43を移動させる機能を有し、移動制御部30はB軸テーブル43を移動させて、切削工具11の刃先11aと、基準ブロック40の既知形状部分とを複数点で接触させる。基準ブロック40は、刃先11aの接触により傷つきにくいように、高硬度な材料で形成される。実施例3では、刃先11aのノーズ半径、刃先丸みの中心座標、刃先形状の誤差が未知であり、これらの情報を特定する手法を説明する。以下、刃先11aの先端が一定の曲率(ノーズ半径)を有するものとし、刃先丸みの中心を「工具中心」と呼ぶこともある。
【0090】
図14(a)に示すYZ平面において、ノーズ半径R^およびYZ平面における工具中心(z^,y^)を求める。
図15は、刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とが1点で接触した様子を示す。上記したように刃先11aは一定の曲率を有し、ノーズ半径R^の円弧面をもつ。なおノーズ半径R^は未知である。一方で基準ブロック40は、形状が既知である部分で刃先11aと接触する。実施例3で形状が既知であるとは、位置関係導出部28が、刃先11aが接触する可能性のある箇所の形状を認識していることを意味する。
【0091】
基準ブロック40は、少なくとも刃先11aと接触する箇所で既知の形状を有していればよく、刃先11aと接触する可能性のない箇所の形状を位置関係導出部28が認識している必要はない。図15に示す例で基準ブロック40は、「+」で示す位置を中心とした半径Rwを有する円弧面を有しており、位置関係導出部28は、刃先11aの原点設定を行う際に、刃先11aが当該円弧面と接触することを認識している。別の言い方をすれば、原点設定時、移動制御部30が、刃先11aを基準ブロック40の既知形状である円弧面に接触させるように、送り機構7を制御してB軸テーブル43を移動させる。当該円弧面の形状データは、図示しないメモリに記録されていてよい。
【0092】
移動制御部30は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かす。図15では、○で示す接触点で、刃先11aと基準ブロック40とが接触している。位置関係導出部28は、このときの基準ブロック40における円弧の回転中心位置「+」の座標を(0,0)と定義する。接触検知は、振動制御部21により、上述した手法によって行われてよい。
【0093】
その後、移動制御部30は、基準ブロック40を、最初の接触位置を基準として、Z軸方向に+ΔZ、-ΔZだけ動かした位置で、刃先11aに接触させる。このいずれの場合でも、刃先11aが接触する基準ブロック40の位置は、半径Rwの円弧面上である。具体的に移動制御部30は、図15に示す状態から、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、ΔZだけZ軸負方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、△で示される。続いて移動制御部30は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、2ΔZだけZ軸正方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、□で示される。なお2回目の移動に際しては、Y軸負方向の移動を省略してもよい。
【0094】
このように移動制御部30は、切削工具11の刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とを、少なくとも3点で接触させ、接触位置の座標値を位置関係導出部28に提供する。位置関係導出部28は、それぞれの接触位置での座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
【0095】
図16は、刃先11aと基準ブロック40の位置関係を示す。図15において、□で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(ΔZ,h)となる。hは、移動制御部30による検出値である。また図15において△で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(-ΔZ,-h)となる。hも、移動制御部30による検出値である。
【0096】
図16に示すように、1回目に接触したときの基準ブロック40における円弧面の半径中心を(0,0)とし、工具中心を(z^,y^)としたとき、
【数22】
連立すると、
【数23】
【0097】
上記式より得られたz^、y^を用いて、R^を求める。
【数24】
【0098】
以上のように、位置関係導出部28は、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。具体的に位置関係導出部28は、取付位置に関する情報として、刃先のノーズ半径Rおよび工具中心座標(z,y)を求める。
【0099】
なお、既知の円弧形状を有する基準ブロック40に対して、上記の3つの接触位置以外の円弧上の点に少なくとも1点以上で接触すれば、上記によって求められたノーズ半径Rおよび工具中心座標(z,y)を用いて予測される接触位置からのずれが、工具刃先の上記ノーズ半径Rの円弧からのずれ(誤差)として求められる。
【0100】
次に位置関係導出部28は、図14(b)に示すXY平面において、C軸回転中心から刃先11a先端までの距離l^と、最初の取付角度θ^を求める計算を行う。たとえば複雑な自由曲面形状を加工する場合に、XYC軸を同時制御して行う切削送りと、Z軸方向のピックフィードとを繰り返すことがある。このようにC軸が切削送り運動に含まれる場合には、C軸回転中心から刃先11a先端までの距離l^と、最初の取付角度θ^に誤差があると加工精度が低下してしまう。そこで位置関係導出部28は、刃先11aをXY平面で動かしたときの、基準ブロック40の既知形状部分との少なくとも3点の接触座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
【0101】
図17は、反時計回りに切削工具11を回転させて、基準ブロック40の上面(y基準面)に刃先11aを接触させたときの切削工具11の傾いた状態を模式的に示す。移動制御部30は送り機構7を制御して、切削工具11をC軸回りに回転させる。基準ブロック40の上面はY軸の垂直面に平行であり、図14(b)に示すように、基準ブロック40の上面位置は既知である。
【0102】
移動制御部30は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かし、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。その後、移動制御部30は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、切削工具11を反時計回り方向にΔC回転させ、それから基準ブロック40をY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。続いて移動制御部30は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、切削工具11を反時計回り方向にさらにΔC回転させ、それから基準ブロック40をY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。これにより位置関係導出部28は、3点の接触位置におけるY軸方向の高さ(y位置)を取得する。
【0103】
図18は、最初の接触位置(初期y位置)からΔC回転させたときの接触位置の高さ変化Δyを示す。最初の接触位置を基準として、さらにΔC回転させたときの接触位置の高さ変化Δyとする。このときΔy、Δyに関して、以下の式が成立する。
【0104】
【数25】
両式からl^を消去させるよう連立させると、
【数26】
得られたθ^を用いてl^を求めると、
【数27】
【0105】
以上のように、位置関係導出部28は、C軸回転に関して、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の初期の取付位置に関する情報を取得する。具体的に位置関係導出部28は、取付位置に関する情報として、C軸回転中心から刃先11aまでの距離lと、初期の取付角度θを導出している。このように実施例3では、基準ブロック40を用いることで、位置関係導出部28が取付位置に関する情報を高精度に特定することができる。
【0106】
<実施例4>
実施例4でも、制御部20は、刃先の原点設定用に高精度に加工された既知形状をもつ物体(基準ブロック40)を利用して、切削工具11と基準ブロック40との相対的な位置関係を定めて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
【0107】
図19は、振動装置10をC軸回転可能に取り付けた振動切削装置1の別の例を示す。図19(a)はX軸方向から見た振動切削装置1の様子を、図19(b)はZ軸方向から見た振動切削装置1の様子を示す。振動装置10の先端には切削工具11が取り付けられ、振動装置10は、支持装置42により支持される。支持装置42は、C軸回転可能となるように取付軸41に固定される。
【0108】
B軸テーブル43に、既知形状をもつ物体である基準ブロック40が配置される。実施例4においても、切削工具11を振動装置10に取り付けた後、切削工具11の刃先位置を特定するために、制御部20が、刃先を基準ブロック40に少なくとも3回接触させ、その接触点の位置座標を用いて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。実施例4も、実施例3と同じく、移動制御部30がB軸テーブル43を移動させて、切削工具11の刃先11aと、基準ブロック40の既知形状部分とを複数点で接触させる。
【0109】
最初にノーズ半径R^およびXY平面における工具中心(x^,y^)を求める手法を説明する。
図20は、刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とが1点で接触した様子を示す。刃先11aは一定の曲率を有し、ノーズ半径R^の円弧面をもつ。ノーズ半径R^は未知である。基準ブロック40は、形状が既知である部分で刃先11aと接触する。なお形状が既知であるとは、位置関係導出部28が、刃先11aが接触する可能性のある箇所の形状を認識していることを意味する。
【0110】
図20に示す例で基準ブロック40は、「+」で示す位置を中心とした半径Rwを有する円弧面を有しており、位置関係導出部28は、刃先11aの原点設定を行う際に、刃先11aが当該円弧面と接触することを認識している。別の言い方をすれば、原点設定時、移動制御部30が、刃先11aを基準ブロック40の既知形状である円弧面に接触させるように、送り機構7を制御してB軸テーブル43を移動させる。当該円弧面の形状データは、図示しないメモリに記録されていてよい。
【0111】
移動制御部30は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かす。図20では、○で示す接触点で、刃先11aと基準ブロック40とが接触している。位置関係導出部28は、このときの基準ブロック40における円弧の回転中心位置「+」の座標を(0,0)と定義する。
【0112】
その後、移動制御部30は、基準ブロック40を、最初の接触位置を基準として、X軸方向に+ΔX、-ΔXだけ動かした位置で、刃先11aに接触させる。このいずれの場合でも、刃先11aが接触する基準ブロック40の位置は、半径Rwの円弧面上である。具体的に移動制御部30は、図20に示す状態から、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、ΔXだけX軸負方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、△で示される。続いて移動制御部30は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、2ΔXだけX軸正方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、□で示される。なお2回目の移動に際しては、Y軸負方向の移動を省略してもよい。
【0113】
このように移動制御部30は、切削工具11の刃先11aが基準ブロック40の既知形状部分とを、少なくとも3点で接触させ、接触位置の座標値を位置関係導出部28に提供する。位置関係導出部28は、それぞれの接触位置での座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
【0114】
図21は、刃先11aと基準ブロック40の位置関係を示す。図20において、□で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(ΔX,h)となる。hは、移動制御部30による検出値である。また図20において△で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(-ΔX,-h)となる。hも、移動制御部30による検出値である。
【0115】
図21に示すように、1回目に接触したときの基準ブロック40における円弧面の半径中心を(0,0)とし、工具中心を(x^,y^)としたとき、
【数28】
連立すると、
【数29】
【0116】
上記式より得られたx^、y^を用いて、R^を求める。
【数30】
【0117】
以上のように、位置関係導出部28は、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。具体的に位置関係導出部28は、取付位置に関する情報として、刃先のノーズ半径Rおよび工具中心座標(x,y)を求める。
【0118】
次に位置関係導出部28は、刃先11aのz座標を求める。
図22は、基準ブロック40の既知形状の部分を、切削工具11の刃先11aに接触させた状態を示す。位置関係導出部28は、このときのz座標値を取得することで、刃先の先端点を特定する。
【0119】
なお移動制御部30は、基準ブロック40における既知の円弧面と刃先11aとが接触するように、基準ブロック40を動かす必要がある。たとえば基準ブロック40を動かしたときに、基準ブロック40の円弧面が刃先11aと接触する前に、切削工具11のすくい面と接触することがある。図示の例では、初期取付状態における、すくい面の角度が、Z軸に対して90度未満となる場合、基準ブロック40のZ軸方向の位置によっては、基準ブロック40の円弧面と切削工具11のすくい面とが接触して、基準ブロック40の円弧面が刃先11aと接触できないことがある。このとき移動制御部30は、刃先11aが既知円弧面の上部側で接触するように、基準ブロック40をY軸負方向にずらすことが好ましい。
【0120】
このように実施例4では、基準ブロック40を用いることで、位置関係導出部28が取付位置に関する情報を高精度に特定することができる。
【0121】
<実施例5>
切削工具11に取付誤差がある場合、切削加工後の被削材6は、本来予定していた形状と異なる形状をもつことになる。そのため実施例5では、実際に旋削加工した被削材6の加工面と、理想的に旋削加工された場合の被削材6の加工面(つまり設計上の加工面)との差分を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定する。工具中心の取付誤差を特定できれば、特定した取付誤差を補正した切削工具11の送り経路を算出できる。実施例5において移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
【0122】
以下では、誤差を導出するために旋削加工した被削材6の加工面を「前加工面」ないしは「既加工面」と呼ぶこともある。なお前加工面を、最終的な仕上げ面よりも肉厚に形成しておくことで、最終仕上げ面を加工する際に、補正した送り経路で仕上げ加工を行うことが可能となる。すなわち、最終的な仕上げ加工の前の中仕上げ加工後に、その加工面を利用して取付誤差を特定しておけばよい。
【0123】
制御部20は、被削材6の前加工面における少なくとも3点の座標値をもとに、切削工具11の取付誤差を求める。前加工面の切削加工時に取得した1点の座標値を利用する場合、制御部20は、切削工具11を、旋削加工の際の切削工具11の回転角度位置とは異なる位置で前加工面に接触させた少なくとも2点の座標値を取得して、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。つまり制御部20は、切削工具11を異なるy位置で前加工面に接触させた少なくとも2点の座標値を取得して、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。
【0124】
なお前加工時に取得される座標値と、前加工面に接触させることで取得される座標値との精度が若干異なる可能性に配慮すると、制御部20は、前加工時に取得した座標値は用いずに、切削工具11を異なるy位置で前加工面に接触させた少なくとも3点の座標値を用いて、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。
【0125】
なお実施例1でも説明したように、接触点座標値を取得する際に、刃先11aの欠損防止の観点から、被削材6を回転させることがある。この場合、僅かながら接触点に溝入れが行われることになるため、次の接触点座標値を取得する際には、z位置を実質的に同一とみなせる範囲内で少しだけずらすことが好ましい。以下では、制御部20が、3点の座標値を用いて取付誤差を求める例を示すが、取付誤差の検出精度を高めるために、4点以上の座標値を用いてもよい。
【0126】
図23(a)は、円筒面および半球面をもつ形状となるように被削材6を加工する様子を示す。被削材6は取付軸41に回転可能に支持されている。実施例5において、切削工具11は、取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)をもって振動装置10に取り付けられている。
図23(b)は、ZX平面における取付誤差(Δx^,Δz^)を示す。C2は、理想的な工具中心位置を、C1は、誤差を含んだ工具中心位置を示す。図23(c)は、XY平面における取付誤差(Δx^,Δy^)を示す。
【0127】
図23(a)において、矢印で示す送り経路は、理想中心C2が通過する経路である。NC工作機械では、工具中心がC2にあることを前提として、送り経路が計算される。移動制御部30は、送り機構7によるZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。図23(a)において、点線は、工具中心がC2にあるときの理想的な加工面を示す。この旋削加工では、半径Rwの円筒面を加工することが設計値として定められている。
【0128】
しかしながら、実際の工具中心が取付誤差を含んでC1にある場合、移動制御部30が、計算された送り経路にしたがって切削工具11を移動させると、実線で示す加工面が形成されることになる。
【0129】
図24(a)(b)は、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^)を導出する手法を説明するための図である。XY平面における取付誤差(Δx^,Δy^)により、円筒面の半径はRwではなく、rw’となっている。移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値を取得する。実施例5で、移動制御部30は、送り機構7によるX軸並進方向およびY軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。
【0130】
前加工の際と同じ移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を前加工面と接触させても、理論上は加工時と同じ座標位置で接触することになる。そこで実施例5では、前加工面と切削工具11の接触によって工具中心の取付誤差を導出するために、前加工の際に利用した移動方向の送り機構7による送り機能とは異なる移動方向の送り機能を利用して、切削工具11を前加工面に接触させる。つまり前加工時に必要な移動方向の送り機能以外の送り機能を利用して、切削工具11の接触位置を導出する。上記したように移動制御部30は、前加工時にはZC軸の送り機能を利用しているが、取付誤差の推定処理に際しては、XY軸の送り機能を利用して、接触点座標を取得する。
【0131】
実施例1で説明したように、位置関係導出部28は、円筒面上の3点の座標値を取得する。
図中、□は円筒面上の点を表現しており、
点1:(Rw+Δx^,Δy^)
点2:(Rw+Δx^-Δx,-ΔY+Δy^)
点3:(Rw+Δx^-Δx,-2ΔY+Δy^)
となる。Δx、Δxは、移動制御部30により検出される値である。
【0132】
なお、この例で点1として示す座標値は、前加工時に取得した座標を利用しているが、移動制御部30は、3点で刃先11aを円筒面に接触させて、3点の座標値を取得してもよい。このとき刃先11aの欠損防止の観点から、被削材6を回転させる場合には、移動制御部30は、円筒面上の異なるz位置で刃先11aを接触させて、3点の接触座標値を取得することが好ましい。
【0133】
位置関係導出部28は、以下の計算を行う。
【数31】
以上のように、位置関係導出部28は(Δx^,Δy^)を導出できる。
【0134】
Z軸方向の取付誤差Δz^は、実施例2で説明したように、たとえば取付軸41の基準面を利用して位置関係導出部28により導出されてよい。以上により、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)が特定される。このように実施例5では、前加工面と、目標とする設計加工面との差分を利用することで、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定し、移動制御部30は、取付誤差を補正した送り経路を再計算できるようになる。
【0135】
<実施例6>
実施例6では、刃先11aの形状崩れを測定する手法を説明する。
実施例3でも説明したように、刃先11aには、凹凸が存在していることがある。そこで以下では、刃先の形状が転写される前加工面の凸凹を測定して、加工面の凸凹から、工具刃先の形状誤差を特定する手法を示す。実施例6では、刃先の形状くずれ以外の形状誤差要因による形状誤差を推定し得る場合に、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り運動が正確であるものとして前加工面の形状を1つの刃先点を利用して測定するため、推定した前加工面上の各点の位置と、検出される位置との差分によって、工具刃先の形状誤差が特定される。 実施例6において移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
【0136】
図25(a)は、半球面を加工する様子を示す。移動制御部30は、送り機構7によるX軸およびZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。図25(a)には、工具中心の取付誤差がなく、理想的な送り経路で加工が行われている様子が示されている。なお工具中心の取付誤差が存在している場合は、工具刃先の形状誤差を推定する前に、実施例5で説明したように取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を測定しておくことが望ましい。以下では位置関係導出部28が、半球面の理想的な前加工面の形状とのずれから、刃先の形状誤差を推定する。
【0137】
図25(a)に示すように、この球面加工では、切削工具11をB軸回転させない旋削加工を行っている。図25(a)と(c)を参照して、刃先11aのA点の形状は、被削材6におけるa点の形状に転写され、刃先11aのB点の形状は、被削材6におけるb点の形状に転写され、刃先11aのC点の形状は、被削材6におけるc点の形状に転写される。このように被削材6におけるaからcに至る前加工面には、刃先11aにおけるAからCに至る形状が転写される。
【0138】
このときAからCに至る形状が理想的な円弧形状を有していれば、加工される球面の断面は、理想的な円弧をもつ。しかしながら、図25(c)に示すように、刃先11aに凹凸が存在する場合、その凹凸は被削材6の加工面に転写される。
【0139】
図25(b)は、被削材6の球面形状を測定する様子を示す。移動制御部30は、送り機構7によるY軸およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。移動制御部30は、工具中心をC軸回転中心に合わせた後、x位置を変化させず(x=0)にθnをずらしながら、刃先11aを半球面原点方向に向けて動かし、複数点で接触させる。θnのずらし量を小さくすることで、接触点を多くとることができる。位置関係導出部28は、複数の接触点の座標を取得することで、x=0における球面上の円弧の形状を特定する。位置関係導出部28は、被削材6の実際の球面形状を取得することで、推定された球面形状からのずれ量を取得でき、したがって刃先11aの崩れ形状を導出できる。図25(d)は、θnにおける球面のずれ量の検出値がΔrw,nであることを示しているが、このとき刃先11aにおける半径方向崩れはΔRn^(=-Δrw,n)(図25(c)参照)となる。このように位置関係導出部28は、刃先形状を測定できる。
【0140】
実施例6によると、移動制御部30が、切削後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかったY軸並進方向の送り機能を利用することで、位置関係導出部28が、理想形状であれば接触するはずの位置とのずれ量から、刃先形状のプロファイルを特定できる。位置関係導出部28が、刃先形状のプロファイルを特定することで、移動制御部30が、刃先形状のプロファイルを加味した送り経路を計算できるようになる。あるいは、他の加工誤差要因が小さいと推定される場合には、直接、実施例6で測定された形状誤差の分だけ工具移動経路を補正して最終仕上げ加工を行ってもよい。
【0141】
<実施例7>
実施例5では、切削工具11に取付誤差がある場合に、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を導出する手法を説明した。実施例7では、切削工具11に取付誤差があるだけでなく、工具の送り方向にも誤差がある場合に、これら誤差を導出する手法を説明する。
【0142】
実施例7においても移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
【0143】
図26(a)は、切削工具11をZ軸方向に動かして前加工したときの様子を示す。移動制御部30は、送り機構7によるZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。この旋削加工では、Z軸に平行なラインL1に沿って切削工具11を送ったところ、実施例5で説明した工具中心の取付誤差が存在していたことと、Z軸とC軸回転中心とが平行でなかったことを理由として、目標とする円筒面に加工誤差が生じている。ラインL1について付言すると、NC工作機械では、ラインL1がZ軸に沿っており、したがってC軸回転中心と平行であることを前提として、切削工具11の送り経路を計算していたところ、Z軸とC軸回転中心とが実際には平行でなかったために、移動制御部30は、実線矢印で送り経路として示す経路で、刃先11aを移動させている。したがって、目標とは異なる形状の前加工面が作成されている。
【0144】
なお、この平行度の誤差要因については、工作機械の製造時の組立誤差以外に、設置時や送り機構移動時、被削材取付時の重量分布変化による変形、加工力による変形、気温・加工熱による熱変形などが考えられる。この中で、加工力による変形を考慮する場合には、前加工時と最終仕上げ加工時で、加工力が同程度になるような加工条件を設定することが望ましい。
【0145】
誤差導出処理において、移動制御部30は、送り機構7によるX軸並進方向、Y軸並進方向およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。移動制御部30は、z位置であるZ1、Z2のそれぞれにおいてy位置を変化させて3回ずつx方向に移動したときの刃先11aの接触座標値を導出する。3点の接触座標値を導出することで、実施例5で説明したように、理想とする工具中心位置からの位置ずれ量(Δx^,Δy^)、(Δx^,Δy^)が導出される。
【0146】
位置関係導出部28は、(Δx^,Δy^,Z1)、(Δx^,Δy^,Z2)を導出することで、送り経路の軌道を算出できる。ここで任意のzにおいて、C軸回転中心に対して相対的にもつと予想される位置誤差を(Δx^,Δy^)とすると、
【数32】
したがって、
【数33】
となる。なお、ここでは2つのZ位置での位置ずれを線形補間したが、3つ以上のZ位置での位置ずれを測定して補間の次数を上げても良い。
【0147】
このように実施例7によると、移動制御部30が、切削後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかったX軸およびY軸並進方向の送り機能を利用することで、位置関係導出部28が、理想形状であれば接触するはずの位置とのずれ量から、C軸に対する切削工具11の送り方向の平行度を推定できる。実施例7では、C軸に対する切削工具11の送り方向の平行度を推定することで、位置関係導出部28は、被削材6に対する切削工具11の相対移動方向のずれを特定できる。上式で示したように任意のzにおける位置誤差が求まることで、移動制御部30は、この位置誤差を補正した送り経路を算出できるようになる。
【0148】
<実施例8>
図27は、切削工具11をX軸方向およびZ軸方向に動かして球面を前加工したときの様子を示す。この旋削加工では、C軸に対してX軸が直交するべきところ、直交性が崩れていることで、球面に加工誤差が生じている。NC工作機械では、X軸を基準として、球面を加工するためのラインL2となる送り経路を計算していたところ、工具制御用のX軸と被削材6の回転軸となるC軸との直交性が崩れているために、移動制御部30は、実線矢印で送り経路として示す経路で、刃先11aを移動させている。
【0149】
誤差導出処理において、移動制御部30は、刃先11aを、ある加工点P1と、C軸に対して対称となる点P2で接触させる。このときのX方向の移動距離(2ΔX)とY方向検出値(Δz)の差分から、C軸とX軸間の直交度を示すθ^が、以下の式で求められる。
【数34】
このように直交度を示すθ^が求まれば、移動制御部30は、このθ^を0とする工具の送り経路を算出して補正する。
なお、この手法は、球面以外の面(平面や非球面を含む)に対しても適用可能である。
【0150】
実施例8においても移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
このように実施例8では、C軸に対するX軸の直交度を推定することで、位置関係導出部28は、被削材6に対する切削工具11の相対移動方向のずれ量を特定できる。
【0151】
<実施例9>
実施例5では、円筒面に刃先11aを接触させたときの座標値を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を推定した。実施例9では、前加工された球面に刃先11aを接触させたときの座標値を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を推定する手法を説明する。前加工された球面は、たとえば図23に示す被削材6から円筒面を除外したものであってよい。移動制御部30は、送り機構7によるX軸並進方向の送り機能、Z軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を前加工する。
【0152】
実施例9で示す手法では、同じZ位置にある3点に刃先11aを接触させるように刃先11aを移動制御する。誤差導出処理において、移動制御部30は、送り機構7によるX軸並進方向、Y軸並進方向およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。
【0153】
図28(a)は、刃先11aがP1を加工している様子を示す。NC工作機械上の工具中心座標は既知であり、(X,0,Z)である。またXY平面に対する工作物中心OとP1を結ぶ線分の角度はθである。刃先11aのノーズ半径をRとすると、加工点でもあるP1の座標は、
P1:(X-Rcosθ,0,Z-Rsinθ
となる。
【0154】
P1の座標が定まると、P1と同じZ位置(Z-Rsinθ)にあり(図28(b)参照)、Y軸負方向にP1からΔY、2ΔY変位した位置に(図28(c)参照)、接触するべきP2、P3を設定する。また、XY面内でC軸回転中心とP1を結ぶ線分とC軸回転中心とP2を結ぶ線分間の角度をαとし、C軸回転中心とP1を結ぶ線分とC軸回転中心とP3を結ぶ線分間の角度をβとする(図28(b)参照)。
図29は、XY平面に対する工作物中心Oと接触点を結ぶ線分の角度を示す。ここでP2との線分の角度をθ、P3との線分の角度をθとする。
したがって、P2に接触するための工具中心座標(C2)、P3に接触するための工具中心座標(C3)は、以下のように計算される。
C2:(X+Rcosθ,-ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
C3:(X+Rcosθ,-2ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
【0155】
位置関係導出部28は、以下の幾何学的関係式により、X、X、α、β、θ、θ,θを計算する。
【数35】
各座標値の原点はOcであり、OcはC軸回転中心線上にあって、加工点の軌跡(円弧であって、XZ面に平行な平面上にある)の中心(工具取付誤差がある場合、その分、C軸回転中心線からずれている)と同じz座標値を持つ点である。
【0156】
移動制御部30は、P2、P3に刃先11aを接触させる。このとき移動制御部30は、刃先11aの中心座標の(y,z)をそれぞれC2,C3の上記座標値に合わせてから、X方向に移動して刃先11aを球面に接触させる。このとき、計算値と同じx座標値で接触すれば、中心座標の取付誤差がないことが判定される。一方で、計算値と異なるNC工作機械上の工具中心のx位置で接触すると、X方向の移動量が誤差として検出される。
【0157】
検出C2:(X+Δx+Rcosθ,-ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
検出C3:(X+Δx+Rcosθ,-2ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
Δx、Δxは、検出値である。
【0158】
検出値から、P2、P3は、以下のように近似的に導出できる。
検出P2:(X+Δx,-ΔY,Z-Rsinθ
検出P3:(X+Δx,-2ΔY,Z-Rsinθ
なおz位置の誤差に関して言えば、工具ノーズ半径が加工面半径に対して一般に小さいこと、仮に取付誤差があっても加工点の軌跡形状(XZ面に平行な平面上にある)は取付誤差分平行移動しているだけでY方向に見た曲率は正しい(XY断面をZ方向に見た曲率が誤差を持つ)ことから、x位置に比べてz位置のずれは小さい。したがってz位置のずれは無視できる。
【0159】
図30(a)は、P1、P2、P3により形成される初期円と、初期円から導出された誤差(Δx、Δx)を用いて形成される仮想円との関係を示す。仮想円は、P1、検出P2、検出P3を通る。(Δx’,Δy’)は、仮想円の中心である。
図30(b)は、仮想円の中心座標を原点に戻した座標系を示す。このとき工具取付誤差(Δx^,Δy^)が、下式によって推定される。
(Δx^,Δy^)=(-Δx’,-Δy’)
【0160】
位置関係導出部28は、推定された工具取付誤差(Δx^,Δy^)を用いて、以下の幾何学的関係式により、X、X、α、β、θ(1つ目の接触点については、加工時と同じままであり、最初の接触時と変化しない。従ってX1、Z1と同様にθ1も変化はなく、必ずしも再計算しなくてよい)、θ,θをあらためて計算する。
【数36】
【0161】
これにより
C2:(X-Δx^+Rcosθ,-ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
C3:(X-Δx^+Rcosθ,-2ΔY,Z-Rsinθ+Rsinθ
が導き出される。
【0162】
移動制御部30は、導出したC2、C3を利用して、新たなP2、P3に刃先11aを接触させる。移動制御部30は、刃先11aの中心座標の(y,z)をそれぞれC2,C3の上記座標値に合わせてから、X方向に動して刃先11aを球面に接触させる。このとき、計算値と同じ中心座標で接触すれば、中心座標の取付誤差の推定値に推定誤差がないことが判定される。この処理を繰り返し行うことで、計算値と同じとみなすことのできる中心座標で刃先11aが被削材6の球面に接触することになり、すなわち推定誤差が十分に小さくなり、正確な取付誤差を求められる。
【0163】
実施例9においても移動制御部30は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して振動装置10を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
このように実施例9では、前加工された球面と、目標とする設計加工面との差分を繰り返し計算により収束させることで、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定する。
【0164】
<実施例10>
実施例5~9では、切削工具11をB軸回転させない旋削加工について説明したが、実施例10では、切削工具11をB軸回転させて、刃先11aの一点のみを使用する加工について説明する。
図31(a)は、加工時に刃先11aの一点が切削に利用される様子を示す。このような加工では、B軸中心Oに対する相対的な工具中心Cの取付位置に誤差があると加工誤差を生じる。
図31(b)は、B軸中心Oと工具中心Cとの間の距離L^と、初期の取付角度θ^を求めるための説明図である。図示されるように移動制御部30は、所定のy座標、z座標で、取付角度を+ΔB、-ΔBだけ変更して、刃先11aの接触点におけるx座標の増分Δx、Δxを検出し、これらを用いて次式のように計算を行う。
【0165】
【数37】
以上により、B軸回転中心に対する相対的な工具中心Cの取付位置である、距離L^と角度θ^が求められる。
【0166】
<実施例11>
実施例11では、走査線加工による前加工面を利用して、まずC軸回転中心の誤差を同定する。実施例11においても、前加工面に対して刃先11aを複数点で接触させて、理想プロファイルとの差分を導出することで、工具中心から見た相対的なC軸回転中心位置の誤差を同定する。
【0167】
図32は、走査線加工におけるXZ面内の切削送り方向とYZ面内のピック送り方向とを概念的に示す。C軸回転中心の誤差を同定するために、YZ平面内工作物形状と、XZ平面内工作物形状とを利用できる。
【0168】
<YZ平面内工作物形状の利用>
図33(a)は、加工時の刃先11aの様子を示す。図33(a)で、点線は加工時の工具中心のピック送りプロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的な工具中心のピック送りプロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図33(b)は、C軸(ここでは工具側にC軸が取り付けられている)を加工時の姿勢から90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先11aを接触させている様子を示す。図33(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
【0169】
位置関係導出部28は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のY方向誤差(C軸回転後、回転前のX方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部28は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
【0170】
<XZ平面内工作物形状の利用>
図34(a)は、加工時の刃先11aの様子を示す。図34(a)で、点線は加工時の工具中心の切削運動プロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的な工具中心の切削運動プロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図34(b)は、C軸を加工時の姿勢から90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先11aを接触させている様子を示す。図34(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
【0171】
位置関係導出部28は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のX方向誤差(C軸回転後、回転前のY方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部28は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
【0172】
図33(b)または図34(b)に示したように、工具中心から見た相対的なC軸回転中心位置が同定される。C軸回転中心位置が同定されると、それを利用して、刃先11aの形状誤差を測定できる。
図35は、刃先形状誤差を測定する手法を示す。移動制御部30が、C軸を加工時の姿勢から90度回転させて、前加工面上で刃先11aを、同じ刃先位置が接触するように曲線に沿って複数点で接触させる。図35は、破線が示す尾根に沿って刃先のZ方向最下点で前加工面に接触する様子を表現している。位置関係導出部28は、各接触点における計算上の接触位置と検出された接触位置のずれ量から、実施例6と同様にして、刃先形状の崩れを測定する。
【0173】
<実施例12>
実施例12では、等高線加工による前加工面を利用して、C軸回転中心の誤差を同定する。この場合、位置関係導出部28は、実施例9で説明したようにC軸とZ軸の位置を変えずに、XY位置を変えて接触した2点以上の座標値を利用することで、C軸回転中心と刃先11aのxy相対位置を同定できる。
【0174】
また前加工時とC軸回転位置が90度異なる姿勢で、同じ刃先位置が接触する曲線上で多点接触させることで、工具刃先の形状誤差を測定できる。また実施例7で説明したように、Z位置を変えて、前加工時とC軸回転位置が90度異なる姿勢で2点以上の接触を行わせることで、C軸回転中心とZ軸の平行度(傾き)を同定できる。
【0175】
<実施例13>
実施例13では、直線切れ刃を転写した加工面を利用して、工具の取付角度とB軸回転中心位置を同定する手法を説明する。
図36は、直線切れ刃である刃先11aが加工している様子を示す。以下、工具の取付角度によって決まる既加工面の微細溝の主な傾斜面の傾きφ^、B軸回転中心と刃先先端との距離であるL^、Z軸に対する傾きとなるβ^を同定する手法を説明する。傾きφ^は、-X軸から反時計回りを正とした角度であり、傾きβ^は、-Z軸からの角度とする。
図37は、同定手法を説明するための図である。移動制御部30は、任意の角度θで、刃先11aを前加工面とP1で接触させ、P1のz位置であるzを検出する。移動制御部30は、同じ姿勢のまま、刃先11aを前加工面とDXずらしたP2で接触させ、P2のz位置であるzを検出する。
これにより、dz=z-zとすると、
φ^=atan(dz/|DX|)
と算出される。この傾き角度が目的形状の傾き角度とずれている場合には、その差分をB軸で補正することでより正確な傾斜面を持つ微細溝加工を最終仕上げで行うことができる。
【0176】
図38は、座標変換を説明するための図である。
刃先先端点とB軸回転中心の相対関係は、以下のように表現される。
【数38】
【0177】
切削位置でのz座標を0とするべく、φを用いて座標系を変換すると、
【数39】
となる。
【0178】
図39(a)(b)は、それぞれ刃先11aの姿勢を変化させて、前加工面に接触させた状態を示す。
図39(a)は、B軸をθ回転させた状態で、傾きφに垂直な方向(Z’軸に平行)に刃先11aを動かして前加工面に接触させた状態を示す。図39(b)は、B軸をθ回転させた状態で、傾きφに垂直な方向(Z’軸に平行)に刃先11aを動かして前加工面に接触させた状態を示す。θ、θは、反時計回りの角度を正とする。このとき、z値として、それぞれz’とz’とが検出される。
【0179】
そこで、以下の関係性が成立する。
【数40】
なおx’1+、x’2+は、適当なずらし量であり、ずらさなくてもよい。
【0180】
上記した2つの接触点におけるz’座標は、以下のように求められる。
【数41】
連立して解くと、
【数42】
【0181】
したがって、
【数43】
【0182】
したがって、
【数44】
と算出される。
【0183】
このように実施例13によれば、直線切れ刃を転写した加工面において、刃先11aを複数点で接触させることで、B軸回転中心を導出できる。このように正確なB軸回転中心を知ることにより、例えば自由曲面上に微細溝が形成される複雑形状のように、微細溝の傾斜面の角度が変化するためにB軸を回転させて加工を行う必要がある場合に、工具刃先のxy位置がずれて加工精度が劣化する(工具刃先位置に対する相対的なB軸回転中心位置に誤差があると、B軸回転に起因して工具刃先のxy位置に誤差を生じる)ことを防ぐことができる。
【0184】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0185】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を対象物(たとえば被削材、被削材を取り付ける部品または既知形状をもつ物体)に対して相対移動させる送り機構を制御する移動制御部と、振動装置のアクチュエータの振動を制御する振動制御部とを備える。振動制御部は、振動の制御状況を示す状況値を取得し、状況値の変化にもとづいて切削工具と対象物との接触を検出する機能を有する。この態様によると、振動制御部が、振動制御状況値の変化にもとづいて切削工具と被削材との接触を検出するため、接触を検出するためのセンサ等を別途搭載する必要がない。
【0186】
振動制御部は、状況値として、振動に要する消費エネルギおよび共振周波数の少なくとも1つを取得してよい。振動制御部は、状況値として、たわみ振動に要する消費電力を取得してよい。また振動制御部は、接触位置を特定することが好ましい。
【0187】
本開示の別の態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材または部品に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部とを備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材または部品に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、旋削加工後の被削材または被削材の回転中心との相対的な位置関係が既知である基準面に対し、旋削加工の際の切削工具の回転角度位置とは異なる少なくとも2つの位置で、切削工具が接触したときの座標値をもとに、切削工具と被削材の回転中心との相対的な位置関係を定める。制御部が、2つ以上の接触位置の座標値をもとに切削工具と被削材の回転中心との相対的な位置関係を定めることで、位置関係を測定するための測定器等を別途搭載する必要がない。
【0188】
本開示のさらに別の態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材または部品に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部とを備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材または部品に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、被削材の取付面、被削材の送り運動方向、被削材の回転中心の少なくともいずれかとの相対的な位置関係が既知である基準面における接触位置の座標値をもとに、切削工具と、被削材の取付面、被削材の送り運動方向、被削材の回転中心の少なくともいずれかとの相対的な位置関係を定める。なお被削材の直線送り運動およびその周りの回転運動は、空間内にそれぞれ3方向あるが、振動切削装置において被削材の運動は切削工具との間の相対的なものであって、被削材の位置が固定されて、切削工具側が動いてもよい。相対的な位置関係が既知である基準面を利用することで、工具刃先を基準面に接触させることで、相対的な位置関係を定めることができる。
【0189】
本開示のさらに別の態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を対象物に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を、既知形状をもつ物体に対して相対移動させて、切削工具の刃先が物体の既知形状部分に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、切削工具の刃先が物体の既知形状部分の少なくとも3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具の刃先に関する情報を特定する。制御部が、物体の既知形状部分との3つ以上の接触位置の座標値を利用することで、切削工具の取付位置に関する情報を特定することができる。制御部は、取付位置に関する情報として、工具刃先のノーズ半径、工具刃先の中心座標、工具刃先の形状誤差の少なくとも1つを求めてよい。
【0190】
本開示のさらに別の態様の振動切削装置は、切削工具が取り付けられ、振動を発生するアクチュエータを含む振動装置と、振動装置を被削材に対して相対移動させる送り機構を制御する制御部と、を備える。制御部は送り機構を制御して振動装置を相対移動させて、切削工具が被削材に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、切削加工後の被削材に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構による送り機能を利用して振動装置を相対移動させて、切削工具が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具の取付誤差、工具刃先の形状誤差、被削材に対する切削工具の相対移動方向のずれの少なくとも1つを特定してよい。制御部は、切削加工後の被削材の形状と、理想的に切削加工された被削材の形状との差分を特定することで、切削工具の取付誤差、工具刃先の形状誤差、被削材に対する切削工具の相対移動方向のずれの少なくとも1つを特定できる。
【0191】
制御部は、振動装置のアクチュエータの振動を制御する。制御部は、振動の制御状況を示す状況値を取得し、状況値の変化にもとづいて切削工具と被削材または基準面との接触を検出してよい。
【符号の説明】
【0192】
1・・・振動切削装置、6・・・被削材、7・・・送り機構、10・・・振動装置、11・・・切削工具、12l,12b・・・圧電素子、20・・・制御部、21・・・振動制御部、22・・・駆動制御部、23l,23b・・・増幅器、24・・・位相シフト部、25・・・電圧発振部、26・・・位相検出部、27・・・監視部、28・・・位置関係導出部、30・・・移動制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
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図26
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図28
図29
図30
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図32
図33
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図39