(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】穿刺器具
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
A61M5/32 530
(21)【出願番号】P 2019214756
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】榎原 行範
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
(72)【発明者】
【氏名】馬場 利明
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-531922(JP,A)
【文献】特表2011-509097(JP,A)
【文献】国際公開第2018/152073(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0040252(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00 - 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺針と、
該穿刺針に穿刺側への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材と、
前記穿刺針に抜去側への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材と、
前記穿刺針に対して前記穿刺側付勢部材による付勢力と前記抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構と
を、備え
ており、且つ、
前記穿刺針の穿刺側と抜去側との両方向の付勢力を生ずる共用付勢部材を備えており、該共用付勢部材が前記穿刺側付勢部材と前記抜去側付勢部材とに共用されると共に、
該共用付勢部材として、圧縮ばねを有しており、
該圧縮ばねの一方の伸長側に穿刺側移動部材が取り付けられていると共に、
該圧縮ばねの他方の伸長側に抜去側移動部材が取り付けられており、
該圧縮ばねが該穿刺側移動部材と該抜去側移動部材とを相互に離隔する方向に付勢していると共に、
該圧縮ばねの付勢力による該穿刺側移動部材の穿刺側への移動を解除可能に阻止する第1のロック機構と、該圧縮ばねの付勢力による該抜去側移動部材の抜去側への移動を穿刺作動後に解除可能に阻止する第2のロック機構とを備えており、且つ、
前記付勢力切換機構が、該第2のロック機構の解除に伴う該抜去側移動部材の抜去側への移動によって、初期状態において該穿刺側移動部材に連結されている該穿刺針の針ハブを該抜去側移動部材に連結し直して穿刺側と抜去側との付勢力を該穿刺針へ順次に及ぼすものである穿刺器具。
【請求項2】
前記針ハブと前記穿刺側移動部材とを相互に係止させて連結する第1の係止連結部が設けられていると共に、
前記針ハブと前記抜去側移動部材とを相互に係止させて連結する第2の係止連結部が設けられており、更に、
前記穿刺針の穿刺作動に伴って該第1の係止連結部における該針ハブと該穿刺側移動部材との係止を解除させる第1の係止連結部解除機構と、
該穿刺針の穿刺作動に伴って該第2の係止連結部における該針ハブと該抜去側移動部材とを係止させる第2の係止連結部作動機構と
が、設けられている請求項
1に記載の穿刺器具。
【請求項3】
前記第1の係止連結部解除機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブ及び前記穿刺側移動部材に対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、
該穿刺針の穿刺作動に伴う該抜去側移動部材による前記第1の係止連結部への当接作用で該第1の係止連結部による連結が解除されるようなっている請求項
2に記載の穿刺器具。
【請求項4】
前記第2の係止連結部作動機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブに対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、
前記第2の係止連結部を構成する該針ハブと該抜去側移動部材との各係止部が、穿刺方向で相互に離隔せしめられた穿刺前状態から穿刺作動で相互に接近せしめられて係止されるようになっている請求項
2又は
3に記載の穿刺器具。
【請求項5】
前記針ハブが、前記穿刺側移動部材に設けられた係止孔へ係止されて前記第1の係止連結部を構成する可撓性の穿刺側係止片と、外周側に突出して設けられて前記抜去側移動部材への係止により前記第2の係止連結部を構成する抜去側係止突部とを、有しており、
該抜去側移動部材が、穿刺前状態で該針ハブの該穿刺側係止片よりも穿刺側前方に位置する部分を、有しており、
該抜去側移動部材の抜去側への移動に伴う該針ハブの該穿刺側係止片への当接力で該穿刺側係止片が弾性変形して該第1の係止連結部の連結状態が解除されると共に、
穿刺作動に伴って該抜去側移動部材が該針ハブの該抜去側係止突部に接近して係止されることによって該第2の係止連結部の係止状態が実現されるようになっている請求項
2~
4の何れか1項に記載の穿刺器具。
【請求項6】
前記針ハブには、基端側に向かって径方向に広がる複数の前記穿刺側係止片が設けられていると共に、
該穿刺側係止片の突出先端部分には前記抜去側係止突部が外周側に突出して一体的に設けられている請求項
5に記載の穿刺器具。
【請求項7】
前記穿刺側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第1の付勢力回避機構と、
前記抜去側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第2の付勢力回避機構と、
該第2の付勢力回避機構によって該抜去側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、該穿刺針を前記穿刺側付勢部材から及ぼされる付勢力に抗して穿刺前位置へ解除可能に保持する穿刺前作動機構と、
該穿刺前作動機構による保持が解除されて該穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられた該穿刺針に対して、該第1の付勢力回避機構によって該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、前記抜去側付勢部材による付勢力を作用せしめて、該穿刺針を抜去側へ移動せしめる穿刺後作動機構と
を、備えている請求項1~
6の何れか1項に記載の穿刺器具。
【請求項8】
前記穿刺針の穿刺側への移動端を規定するストッパ部が設けられていると共に、
前記穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられる該穿刺針が該ストッパ部による移動端に達するまでに、該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が解除される請求項1~
7の何れか1項に記載の穿刺器具。
【請求項9】
使用者が把持可能なハウジングを備えていると共に、
該ハウジングから穿刺側に向かって突出する押当部材が抜去側へ押込作動可能に設けられており、
該押当部材を患者の皮膚へ押し当てて押込作動させることで、前記穿刺側付勢部材による付勢力で前記穿刺針が穿刺側へ移動を開始する穿刺作動開始機構を備える請求項1~
8の何れか1項に記載の穿刺器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において穿刺針の穿刺作動と抜去作動を連続的に実行するものであり、例えば穿刺針に担持させたセンサ等を体内に埋設等する際にも用いることのできる穿刺器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の如き穿刺器具は、例えば人体に埋設して用いられるデバイスの埋設操作などに際しても用いられる。かかるデバイスとしては、例えば人体の状態を検出するセンサや情報チップなどがある。より具体的に例示すると、人体の状態を検出するセンサとしては、例えば血中の血糖濃度や酸素濃度、各種のホルモン量や薬物濃度、或いは心拍数や温度等を測定可能なセンサが知られている。
【0003】
また、このようなセンサを体内に埋め込むのに用いられる穿刺器具としては、例えば特表2010-525869号公報(特許文献1)に記載のものがある。この特許文献1に記載の穿刺器具は、センサを穿刺針に装着し、穿刺針の穿刺によって体内に送り込んだセンサを、穿刺針だけを抜去することで、体内に留置して埋め込むようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記センサは、操作者が操作する押込力によって穿刺針を穿刺させるものであることから、例えば使用者が操作するような場合には穿刺を躊躇することも影響して、人体への穿刺深さ(穿刺量)が安定せず、穿刺深さが不十分となるおそれがあった。
【0006】
本発明の解決課題は、新規な構造の穿刺器具を提供することにあり、好適には特許文献1に記載の如き操作者が操作する押込力によって穿刺針を穿刺させる従来構造の穿刺器具に比して穿刺針の穿刺深さの安定化を図ることのできる穿刺器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得る。また、各態様中に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第1の態様は、穿刺針と、該穿刺針に穿刺側への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材と、前記穿刺針に抜去側への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材と、前記穿刺針に対して前記穿刺側付勢部材による付勢力と前記抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構とを、備えており、且つ、前記穿刺針の穿刺側と抜去側との両方向の付勢力を生ずる共用付勢部材を備えており、該共用付勢部材が前記穿刺側付勢部材と前記抜去側付勢部材とに共用されると共に、該共用付勢部材として、圧縮ばねを有しており、該圧縮ばねの一方の伸長側に穿刺側移動部材が取り付けられていると共に、該圧縮ばねの他方の伸長側に抜去側移動部材が取り付けられており、該圧縮ばねが該穿刺側移動部材と該抜去側移動部材とを相互に離隔する方向に付勢していると共に、該圧縮ばねの付勢力による該穿刺側移動部材の穿刺側への移動を解除可能に阻止する第1のロック機構と、該圧縮ばねの付勢力による該抜去側移動部材の抜去側への移動を穿刺作動後に解除可能に阻止する第2のロック機構とを備えており、且つ、前記付勢力切換機構が、該第2のロック機構の解除に伴う該抜去側移動部材の抜去側への移動によって、初期状態において該穿刺側移動部材に連結されている該穿刺針の針ハブを該抜去側移動部材に連結し直して穿刺側と抜去側との付勢力を該穿刺針へ順次に及ぼすものである穿刺器具である。
【0009】
本態様の穿刺器具によれば、穿刺針の人体への穿刺に際して、付勢力切換機構によって穿刺針へ穿刺側付勢部材による付勢力が及ぼされることで、操作者の押込力によって大きな影響を受けることなく、穿刺針による穿刺力が略安定して及ぼされる。それ故、例えばセンサを人体へ埋設する場合にも、穿刺針やセンサの大きさ等を考慮して適切な穿刺力や穿刺深さをもって穿刺作動を行うことが可能になる。
【0010】
また、付勢力切換機構により、穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とが穿刺針に対して順次に及ぼされることから、操作者の手動による穿刺と抜去の切換操作などが不要となる。それ故、穿刺針の穿刺から抜去に至る一連の作動を速やかに且つ確実に実行することが可能になり、操作者の熟練度の影響が軽減されると共に、操作者の労力の軽減や、患者の負担の緩和なども図られ得る。
【0012】
さらに、本態様の穿刺器具では、共用付勢部材を採用することによって器具のコンパクト化や構造の簡略化などを図ることも可能になる。尤も、本態様の穿刺器具では、共用付勢部材を採用しつつ、穿刺側と抜去側の何れか一方だけに作用する付勢部材を追加しても良い。また、共用付勢部材は単一である必要がなく、例えばばね部材や磁石部材などの複数を組み合わせて共用付勢部材を構成することも可能である。
【0014】
加えて、本態様の穿刺器具によれば、穿刺側移動部材と抜去側移動部材を採用して、針ハブをこれら両部材へ順次に連結させることで、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を、効率的に構成することが可能になる。なお、本態様の圧縮ばねも単一である必要はないし、前述のとおり、他のばね部材(引張ばねを含む)や磁石などを併せて設けることも可能である。
【0015】
第2の態様は、前記第1の態様に係る穿刺器具であって、前記針ハブと前記穿刺側移動部材とを相互に係止させて連結する第1の係止連結部が設けられていると共に、前記針ハブと前記抜去側移動部材とを相互に係止させて連結する第2の係止連結部が設けられており、更に、前記穿刺針の穿刺作動に伴って該第1の係止連結部における該針ハブと該穿刺側移動部材との係止を解除させる第1の係止連結部解除機構と、該穿刺針の穿刺作動に伴って該第2の係止連結部における該針ハブと該抜去側移動部材とを係止させる第2の係止連結部作動機構とが、設けられているものである。
【0016】
本態様の穿刺器具によれば、第1の係止連結部解除機構と第2の係止連結部作動機構とによって、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を、より効率的に構成することが可能になる。
【0017】
第3の態様は、前記第2の態様に係る穿刺器具であって、前記第1の係止連結部解除機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブ及び前記穿刺側移動部材に対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、該穿刺針の穿刺作動に伴う該抜去側移動部材による前記第1の係止連結部への当接作用で該第1の係止連結部による連結が解除されるようなっているものである。
【0018】
本態様の穿刺器具によれば、穿刺作動に伴って針ハブ及び穿刺側移動部材に対して相対移動せしめられる抜去側移動部材の動きを巧く利用して、第1の係止連結部解除機構を構成することが可能になる。なお、本態様における第1の係止連結部による連結の解除は、例えば相互に係止された針ハブと穿刺側移動部材との少なくとも一方の側における係止部分を、穿刺作動に伴って相対移動せしめられる抜去側移動部材の当接によって弾性変形や移動させて係止を解除させることによって実現され得る。
【0019】
第4の態様は、前記第2又は第3の態様に係る穿刺器具であって、前記第2の係止連結部作動機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブに対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、前記第2の係止連結部を構成する該針ハブと該抜去側移動部材との各係止部が、穿刺方向で相互に離隔せしめられた穿刺前状態から穿刺作動で相互に接近せしめられて係止されるようになっているものである。
【0020】
本態様の穿刺器具によれば、穿刺作動に伴って相対移動せしめられる針ハブと抜去側移動部材との動きを巧く利用して、第2の係止連結部作動機構を構成することが可能になる。なお、本態様における第2の係止連結部における係止機構は、例えば針ハブと抜去側移動部材との間に設けられた突部同士の係止や凸部と凹部との係止、係止突起と係止穴との係止など、抜去方向への相対移動を阻止する各種の機構によって構成され得るものであり、穿刺方向への相対移動の規制作用の有無は問わない。
【0021】
第5の態様は、前記第2~第4の何れかの態様に係る穿刺器具であって、前記針ハブが、前記穿刺側移動部材に設けられた係止孔へ係止されて前記第1の係止連結部を構成する可撓性の穿刺側係止片と、外周側に突出して設けられて前記抜去側移動部材への係止により前記第2の係止連結部を構成する抜去側係止突部とを、有しており、該抜去側移動部材が、穿刺前状態で該針ハブの該穿刺側係止片よりも穿刺側前方に位置する部分を、有しており、該抜去側移動部材の抜去側への移動に伴う該針ハブの該穿刺側係止片への当接力で該穿刺側係止片が弾性変形して該第1の係止連結部の連結状態が解除されると共に、穿刺作動に伴って該抜去側移動部材が該針ハブの該抜去側係止突部に接近して係止されることによって該第2の係止連結部の係止状態が実現されるようになっているものである。
【0022】
本態様の穿刺器具によれば、特定の第1の係止連結部および第2の係止連結部と特定の抜去側移動部材とを組み合わせて採用したことにより、第1の係止連結部解除機構および第2の係止連結部作動機構が、効率的に実現され得る。なお、本態様に拘わらず、他の態様では、第1の係止連結部を構成する係止孔を針ハブに設ける一方、可撓性の穿刺側係止片を穿刺側移動部材に設けることも可能である。
【0023】
第6の態様は、前記第5の態様に係る穿刺器具であって、前記針ハブには、基端側に向かって径方向に広がる複数の前記穿刺側係止片が設けられていると共に、該穿刺側係止片の突出先端部分には前記抜去側係止突部が外周側に突出して一体的に設けられているものである。
【0024】
本態様の穿刺器具によれば、特定の穿刺側係止片を採用したことにより、針ハブと穿刺側移動部材との連結状態の抜去側移動部材による解除作動と、該抜去側移動部材の針ハブに対する係止による連結作動とを、簡易を機構をもって効率的に実現することが可能になる。
【0025】
なお、本態様において、後述する実施形態では、全体として略V字状に基端側に向かって拡開して突出する一対の穿刺側係止片が開示されているが、かかる穿刺側係止片は、単一であっても良いし、周方向に3つ以上あっても良い。また、抜去側係止突部は、少なくとも一つの穿刺側係止片において少なくとも一つ設けられていれば良い。尤も、針ハブに及ぼされる抜去側への付勢力の作用に起因する、抜去に際しての穿刺針の傾きを抑えるには、周方向で略等間隔に複数の穿刺側係止片を設けるのが好ましい。また、周方向で略等間隔に略同一の穿刺側係止片を設けることで、針ハブに及ぼされる抜去側移動部材の当接力によって穿刺針が傾くことを抑えることも可能になる。それ故、周方向で略等間隔に配された略同一の穿刺側係止片を採用することで、穿刺針の傾きを抑えるためのスリーブ状のガイド内面などを設けることなく、抜去作動される穿刺針の傾きを防止することも可能になる。
【0028】
第7の態様は、前記第1~第6の何れかの態様に係る穿刺器具であって、前記穿刺側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第1の付勢力回避機構と、前記抜去側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第2の付勢力回避機構と、該第2の付勢力回避機構によって該抜去側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、該穿刺針を前記穿刺側付勢部材から及ぼされる付勢力に抗して穿刺前位置へ解除可能に保持する穿刺前作動機構と、該穿刺前作動機構による保持が解除されて該穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられた該穿刺針に対して、該第1の付勢力回避機構によって該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、前記抜去側付勢部材による付勢力を作用せしめて、該穿刺針を抜去側へ移動せしめる穿刺後作動機構とを、備えているものである。
【0029】
本態様の穿刺器具によれば、各特定の第1の付勢力回避機構と第2の付勢力回避機構と穿刺前作動機構と穿刺後作動機構とを互いに組み合わせて採用したことにより、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を効率的に構成することが可能になる。因みに、本態様における第1の付勢力回避機構は、好適には、例えば前記第4の態様において第1の係止連結部による係止が解除可能に構成されていることをもって、実現され得る。また、本態様における第2の付勢力回避機構は、好適には、例えば前記第4の態様において第2の係止連結部による係止が解除可能に構成されていることをもって、実現され得る。また、本態様における穿刺前作動機構は、好適には、例えば前記第9の態様において第1のロック機構によるロック状態を保持する機構によって構成され得る。また、本態様における穿刺後作動機構は、好適には、例えば前記第4の態様において第1の係止連結部解除機構と第2の係止連結部作動機構との組み合わせによって構成され得る。
【0030】
第8の態様は、前記第1~第7の何れかの態様に係る穿刺器具であって、前記穿刺針の穿刺側への移動端を規定するストッパ部が設けられていると共に、前記穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられる該穿刺針が該ストッパ部による移動端に達するまでに、該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が解除されるものである。
【0031】
本態様に穿刺器具によれば、穿刺針の突出端がストッパ部で規定されることにより安全性の向上が図られると共に、穿刺針に対する穿刺側への付勢力の解除をより確実に行うことが可能になる。なお、本態様のストッパ部は、好適には、例えば穿刺側に移動する針ハブが打ち当たることで穿刺針の穿刺側移動端を規定する面をもって構成され得る。また、実際の穿刺針の穿刺側への移動は、ストッパ部による規制端(移動端)にまで達する必要はない。
【0032】
第9の態様は、前記第1~第8の何れかの態様に係る穿刺器具であって、使用者が把持可能なハウジングを備えていると共に、該ハウジングから穿刺側に向かって突出する押当部材が抜去側へ押込作動可能に設けられており、該押当部材を患者の皮膚へ押し当てて押込作動させることで、前記穿刺側付勢部材による付勢力で前記穿刺針が穿刺側へ移動を開始する穿刺作動開始機構を備えるものである。
【0033】
本態様の穿刺器具によれば、操作者がハウジングをもって当接部材を患者の皮膚へ押し当てるだけで、穿刺作動が実行され得る。それ故、例えば患者の皮膚へ押し当てられる部材とは別に、穿刺針を発射させるボタンを有するものに比して、構造の簡略化や操作の簡略化などが図られ得るだけでなく、特に患者自身が穿刺操作を実行する場合に、痛みを予測すること等で患者に生ずる発射ボタンを押し込む躊躇や緊張、更には主観的な痛みを和らげる効果も期待できる。
【0034】
なお、本態様における穿刺作動開始機構は、好適には、例えば前記第4の態様に記載の第1の係止連結部による係止連結状態下で押込作動される押当部材が前記第9の態様に記載の第1のロック機構を解除する機構や、例えば押込作動される押当部材によって前記第10の態様に記載の穿刺前作動機構を解除する機構などによって実現され得る。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、新規な構造の穿刺器具が提供されることとなり、例えば特許文献1に記載の如き操作者が操作する押込力によって穿刺針を穿刺させる従来構造の穿刺器具に比して、穿刺針に対する穿刺力の安定化が図られて、穿刺針の穿刺深さの安定化も達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の1実施形態としての穿刺器具を初期状態で示す斜視図
【
図3】(a)は
図2におけるIII(a)-III(a)断面図、(b)は
図2におけるIII(b)-III(b)断面図
【
図4】
図1に示された穿刺器具を構成する固定部材を拡大して示す斜視図
【
図5】
図1に示された穿刺器具を構成する固定部材を別方向から拡大して示す斜視図
【
図6】
図1に示された穿刺器具を構成する穿刺針を針ハブとの固定状態で拡大して示す斜視図
【
図7】
図1に示された穿刺器具を構成する第1の移動部材を拡大して示す斜視図
【
図10】
図1に示された穿刺器具を構成する第2の移動部材を拡大して示す斜視図
【
図12】
図1に示された穿刺器具を構成する押当部材を拡大して示す斜視図
【
図13】
図1に示された穿刺器具に採用され得るパッチの具体的な一例を示す斜視図
【
図14】
図1に示された穿刺器具において第1のロック機構を解除した直後(穿刺直前)の状態を示す縦断面図であって、
図3に対応する図
【
図15】
図1に示された穿刺器具において穿刺針による穿刺の瞬間の状態を示す縦断面図であって、
図3に対応する図
【
図16】
図1に示された穿刺器具において第2のロック機構が解除された直後の状態を示す縦断面図であって、
図3に対応する図
【
図17】
図1に示された穿刺器具において穿刺針が抜去側に移動する途中の状態を示す縦断面図であって、
図3に対応する図
【
図18】
図1に示された穿刺器具において穿刺針の抜去側への移動が終了した状態を示す縦断面図であって、
図3に対応する図
【
図19】本発明の別の態様としての穿刺器具をモデル的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0040】
先ず、
図1~3には、本発明の1実施形態としての穿刺器具10が示されている。この穿刺器具10は、例えば、使用者自身が、又は医療従事者が、患者の皮膚に穿刺針12を穿刺して、体内にセンサ等(図示せず)を埋め込んだり、皮膚に外部流路と接続するためのチューブ等(図示せず)を留置する目的で使用される。なお、
図1~3に示される穿刺器具10は、例えば後述する押当部材132の外側に設けられるカバー等が取り外された状態で示されており、穿刺器具10を患者の皮膚に押し付けることで穿刺針12の穿刺が可能とされている。また、以下の説明において、上下方向とは穿刺針12の針軸方向となる
図3中の上下方向、左右方向とは
図2中の左右方向、前後方向とは
図2中の上下方向をいうが、使用される際の穿刺器具10の向きは限定されるものではない。さらに、穿刺側とは、穿刺針12が穿刺される
図3中の下側をいうと共に、抜去側とは、穿刺された穿刺針12が引き抜かれる
図3中の上側をいう。
【0041】
より詳細には、穿刺器具10は、全体として下方に開口する逆向きの略有底筒形状とされたハウジング14を備えている。本実施形態のハウジング14は、左右方向寸法に対して前後方向寸法が大きくされた略長円形状の上底壁部16を有していると共に、当該上底壁部16の外周縁部から略筒状の周壁部18が下方に延び出している。また、周壁部18の外周側には、上下方向に延びる略筒状の外周壁部20が設けられており、周壁部18の下端と外周壁部20の上下方向中間部分とが、略環状の連結壁部22によって連結されている。本実施形態では、外周壁部20が、前後方向寸法に対して左右方向寸法が大きくされた略長円形状とされている。
【0042】
なお、本実施形態では、周壁部18における左右方向両側において、外方に突出する段差状部24が設けられており、当該段差状部24の形成位置においてハウジング14の内法寸法が大きくされている。そして、かかる内法寸法が大きくされた部分により、後述する第2の係合突部44の変形許容空間26が形成されている。
【0043】
ハウジング14には、
図4,5に示される固定部材28が、固定的に組み付けられている。固定部材28は、全体として略筒状とされており、上側部分が、ハウジング14の周壁部18と略対応する形状とされた長円筒部分30とされている。即ち、固定部材28の中央部分には、略長円形状の内孔31が上下方向で貫通して形成されている。また、長円筒部分30の下端には、外周側に突出する略環状のフランジ状部32が設けられている。
【0044】
そして、長円筒部分30において、ハウジング14の周壁部18における左右方向両側には、長円筒部分30の周壁34の上下方向全長に亘って延びると共に、ある程度の幅寸法を有する切欠き36,36が設けられている。かかる切欠き36,36が設けられることにより、長円筒部分30の周壁34は、前後方向で二分されており、相互に対向する一対の分割壁部38,38が形成されている。さらに、分割壁部38の上下方向中間部分には、内周側に突出する支持壁部40が形成されており、本実施形態では、支持壁部40が、分割壁部38の内周面の周方向略全長に亘って形成されている。
【0045】
更にまた、長円筒部分30において、前後方向で相互に対向する分割壁部38の周方向端部間には、左右方向で対向する一対の可撓壁部42,42が設けられている。この可撓壁部42,42は、フランジ状部32の内周縁部から上方に向かって突出しており、分割壁部38までは至らない上下方向寸法をもって形成されている。かかる可撓壁部42は、ある程度の幅寸法を有する略板状とされており、周方向で隣り合う分割壁部38,38に対して離隔して設けられている。これにより、可撓壁部42は、片持ち梁状に形成されており、板厚方向で弾性変形可能とされている。
【0046】
また、可撓壁部42の上端部分には、内周側に突出して、後述する第2の移動部材60と係合する第2の係合突部44が形成されている。本実施形態では、第2の係合突部44が、内周側に突出する略平板状とされた部分44aと、その幅方向中央部分において上下方向両側に設けられて略三角形状とされた部分44bとから構成されており、
図3(b)に示される縦断面では、全体として内周側に突出する略三角形状とされている。なお、可撓壁部42の外周側の下端部分には補強部が設けられており、可撓壁部42の上下方向中間部分が比較的薄肉とされることから、可撓壁部42は、特に上下方向中間部分で板厚方向に弾性変形可能とされている。
【0047】
さらに、フランジ状部32の下面には、下方に突出する円弧状壁部46が設けられている。本実施形態では、円弧状壁部46が、フランジ状部32の径方向中間部分において、半周に満たない周方向寸法をもって設けられており、左右方向で対向して一対設けられている。
【0048】
更にまた、円弧状壁部46の周方向中央部分における上端には、厚さ方向で貫通する貫通窓48が形成されている。この貫通窓48は、円弧状壁部46の厚さ方向と共にフランジ状部32の厚さ方向でも貫通して形成されており、フランジ状部32の上面にも開口している。本実施形態では、貫通窓48が、固定部材28の周方向において可撓壁部42と対応する周方向位置(左右方向両側)に形成されており、貫通窓48における上方の開口部が、可撓壁部42の外周側に形成されている。
【0049】
また、円弧状壁部46において貫通窓48の下方には、円弧状壁部46の下端からある程度の上下方向寸法をもって形成された切欠部50が形成されている。この切欠部50は、貫通窓48には至らない上下方向寸法をもって形成されており、これら貫通窓48と切欠部50との上下方向間には、円弧状壁部46の一部からなって周方向に延びる接続部52が位置している。
【0050】
そして、かかる接続部52の外周面には、外周側に突出して、後述する第1の移動部材58と係合する第1の係合突部54が設けられている。本実施形態では、接続部52の周方向中央部分において第1の係合突部54が設けられている。また、接続部52の下端面と第1の係合突部54の下端面とが、何れも下方になるにつれて内周側に傾斜しており、相互に連続するテーパ面56とされている。
【0051】
かかる構造とされた固定部材28は、ハウジング14に対して略同軸的に内挿されている。即ち、ハウジング14の周壁部18に対して固定部材28の長円筒部分30が差し入れられると共に、フランジ状部32が連結壁部22に重ね合わされて、円弧状壁部46,46が、外周壁部20の内周側に径方向で離隔して位置している。なお、ハウジング14と固定部材28との固定方法は限定されるものではないが、例えば外周壁部20の内周面に内周側に突出する突部を設けて、ハウジング14の下方から挿入された固定部材28のフランジ状部32が当該突部を乗り越えることで、ハウジング14と固定部材28とが固定的に組み付けられ得る。
【0052】
そして、これらハウジング14及び固定部材28には、穿刺針12と、穿刺側移動部材としての第1の移動部材58と、抜去側移動部材としての第2の移動部材60とが、上下方向で移動可能に組み付けられている。
【0053】
穿刺針12は、
図6に示されるように、先端に鋭利な針先62を備えており、ステンレス鋼等の金属や硬質の合成樹脂等により好適に形成される。本実施形態の穿刺針12は中空針とされており、周壁における周方向の一部には、穿刺針12の長さ方向に延びるスリット64が、針先62からある程度の長さ寸法をもって形成されている。また、穿刺針12の長さ方向中間部分には、スリット64の形成方向と同方向に開口する凹部66が、周壁の厚さ方向で貫通して形成されている。
【0054】
さらに、穿刺針12の基端には針ハブ68が固定されている。針ハブ68は、円筒状部分70を備えており、当該円筒状部分70に穿刺針12の基端が圧入されたり、挿入されて、必要に応じて接着等されることで、穿刺針12が針ハブ68に固定されている。この結果、
図6に示されるように、穿刺針12の基端に針ハブ68が固定的に取り付けられた穿刺部材71が構成されている。また、円筒状部分70の基端から、基端側(針軸方向外側)に複数(本実施形態では一対)の基端側突出部72が突出しており、径方向(本実施形態では前後方向)で相互に対向している。これにより、基端側突出部72が、相互の対向方向で弾性変形可能とされている。
【0055】
特に、本実施形態では、基端側突出部72が、基端側に向かって次第に相互の対向距離が大きくされており、
図3(a)に示される縦断面において、針ハブ68の基端部分が略V字状とされている。また、基端側突出部72の基端には、相互に対向する方向の外方に突出する平板状の鍔部74が形成されている。
【0056】
また、第1の移動部材58は、
図7~9に示されているように、全体として略筒状とされており、本実施形態では、それぞれ略筒状とされた内筒部76と外筒部78とを備える二重筒形状とされている。これら内筒部76と外筒部78とは、略同軸的にそれぞれ上下方向に延びている。
【0057】
また、内筒部76の内周側には、穿刺針12が挿通される挿通孔80を中心に備える環状部82が設けられていると共に、当該環状部82が、左右方向に延びる一対の接続部83,83により内筒部76の下端に接続されている。更に、内筒部76において前後方向で対向する部分には、周方向の他の部分よりも上下方向寸法が大きくされた内側矩形板部84,84が設けられていると共に、当該内側矩形板部84には内筒部76の周壁を厚さ方向で貫通する略矩形の係止孔としての第1内側窓部85が形成されている。即ち、内側矩形板部84の上端には、第1内側窓部85の上端を閉塞する第1閉塞部86が、左右方向に延びて設けられている。なお、第1閉塞部86の上端面は、内周側になるにつれて下方に傾斜する傾斜面とされており、第1の移動部材58に対して上方から穿刺部材71を挿入して組み付ける際に、基端側突出部72が弾性変形し易くなっている。
【0058】
更にまた、内筒部76の下端には、当該内筒部76よりも外径寸法が大きくされた大径筒部88が一体形成されており、この大径筒部88の上端面が、環状の段差状面90とされている。そして、かかる大径筒部88と外筒部78とが、それぞれの下端において、略環状の底壁部92によって連結されている。
【0059】
外筒部78は、底壁部92から、内筒部76と略同じ高さまで上方に突出していると共に、外筒部78において左右方向で対向する部分には、周方向の他の部分よりも上下方向寸法が大きくされた外側矩形板部93,93が設けられており、当該外側矩形板部93には外筒部78の周壁を厚さ方向で貫通する略矩形の外側窓部94が形成されている。即ち、外側矩形板部93の上端には、外側窓部94の上端を閉塞する外側閉塞部96が、前後方向に延びて設けられている。なお、外側閉塞部96の上端面は、外周側になるにつれて下方に傾斜する傾斜面とされており、固定部材28に対して下方から第1の移動部材58を挿入して組み付ける際に、可撓壁部42が弾性変形し易くなっている。
【0060】
さらに、底壁部92は、前後方向両側において外筒部78よりも外方に延び出していると共に、それぞれの延出部分からは、周方向の一方に円弧状部98が突出している。これら円弧状部98は、外側矩形板部93の外周側まで突出しており、外筒部78に対して径方向で離隔している。これにより、円弧状部98が、径方向で弾性変形可能とされている。そして、かかる円弧状部98の突出先端の外周面には、外周側に突出する外周突部100が形成されている。本実施形態では、外周突部100の下面が、外周側になるにつれて次第に上方に傾斜する傾斜面101とされている。
【0061】
なお、
図9にも示されているように、底壁部92の下面には、径方向に延びる凹部102が形成されており、本実施形態では、第1内側窓部95の下端から、大径筒部88の前後方向両側において部分的に内径寸法が大きくされた部分88aを介して、前後方向外方に延びる一対の凹部102,102が形成されている。これにより、後述する穿刺針12の穿刺時において、第1の移動部材58内部の空気が凹部102から外部空間へ排出されて、空気ばねの作用により穿刺針12の穿刺量(穿刺深さ)が制限されるおそれが低減され得る。
【0062】
また、第2の移動部材60は、全体として略筒形状とされており、中央部分には、上下方向に延びる略角筒状の内側筒部104が設けられている。この内側筒部104の周壁において前後方向両側部分105には、内側筒部104の厚さ方向で貫通する略矩形状の第2内側窓部106が形成されている。即ち、内側筒部104における前後方向両側の下端には、第2内側窓部106の下端を閉塞する第2閉塞部108が、左右方向に延びて設けられている。
【0063】
さらに、内側筒部104の周壁における左右方向両側部分の下端には、下方に開口して内側筒部104の厚さ方向で貫通する切欠き110が形成されている。
【0064】
更にまた、かかる内側筒部104の外周側には、略円筒形状の外側筒部112が内側筒部104と略同軸的に設けられている。これら内側筒部104と外側筒部112とは、上端において上底壁部114により連結されている。外側筒部112の上下方向寸法は、内側筒部104よりも小さくされており、外側筒部112の内周側において、内側筒部104が、外側筒部112よりも下方に突出している。
【0065】
かかる上底壁部114は略平板形状とされており、且つ、固定部材28における長円筒部分30と略対応する略長円形状とされている。上底壁部114の中央には、穿刺部材71が挿通される挿通孔116が形成されていると共に、当該挿通孔116における前後方向両側には、略矩形の貫通孔118が形成されて相互に連通している。なお、第2内側窓部106は上方に開口しており、挿通孔116及び貫通孔118と連通している。
【0066】
また、上底壁部114において、左右方向両側には、外周側に開口して、上下方向で貫通する切欠き120,120が形成されている。なお、上底壁部114の外周縁部には略全周に亘って上方に立ち上がる縦壁部122が形成されているが、上底壁部114における左右方向両側部分には、切欠き120の形成領域を含んで縦壁部122が形成されていない領域が設けられている。かかる領域により、後述するように固定部材28の第2の係合突部44と嵌合する嵌合部124が形成されている。
【0067】
そして、固定部材28に対して、これら穿刺部材71、第1の移動部材58、第2の移動部材60が組み付けられている。即ち、第2の移動部材60に対して上方から穿刺部材71が差し入れられており、具体的には、挿通孔116に対して穿刺針12及び針ハブ68の円筒状部分70が挿通されて、穿刺針12が内側筒部104から下方に突出していると共に、基端側突出部72が、貫通孔118を通じて第2内側窓部106内に差し入れられている。なお、基端側突出部72の基端の鍔部74は、第2内側窓部106を通じて内側筒部104の前後方向外方に突出している。
【0068】
さらに、穿刺部材71が組み付けられた第2の移動部材60が、固定部材28の長円筒部分30に対して上方から差し入れられている。これにより、上底壁部114が長円筒部分30に差し入れられていると共に、固定部材28の内孔31に対して内側筒部104及び外側筒部112が挿通されている。そして、上底壁部114が、長円筒部分30の内周側に突出する支持壁部40,40に載置されて支持されている。
【0069】
また、上底壁部114の上方から第2の係合突部44が嵌合部124に嵌め入れられている。即ち、第2の係合突部44において下方の三角形状とされた部分44bが、上底壁部114の切欠き120に嵌め入れられていると共に、切欠き120の周囲の部分に対して第2の係合突部44において平板形状とされた部分44aが重ね合わされている。これにより、第2の移動部材60が、固定部材28により上下方向から支持されて、初期状態では、第2の移動部材60が固定部材28に対して上下方向で移動不能とされている。
【0070】
さらに、かかる固定部材28に対して下方から第1の移動部材58が組み付けられている。即ち、固定部材28の内孔31に対して下方から第1の移動部材58が挿入されており、長円筒部分30に設けられた切欠き36に外側矩形板部93が差し入れられていると共に、第2の係合突部44が外側閉塞部96を乗り越えて外側窓部94内に嵌まり込んでいる。
【0071】
更にまた、固定部材28から下方に突出する外側筒部112に対して径方向で離隔して内筒部76が内挿されると共に、内側筒部104に対しては略重ね合わされる状態で内筒部76が外挿されている。ここで、内側筒部104から前後方向に突出する穿刺部材71の鍔部74が第1閉塞部86を乗り越えることで、針ハブ68の基端側突出部72における特に鍔部74が、第1内側窓部85に差し入れられている。即ち、内筒部76に対して内側筒部104の方が小さく形成されており、一対の第1閉塞部86,86の対向距離(前後方向の離隔距離)に比して、内側筒部104の前後方向寸法の方が小さくされている。そして、穿刺針12が、内筒部76の下端に設けられた環状部82の挿通孔80を通じて、第1の移動部材58から下方に突出している。なお、かかる穿刺部材71と第1の移動部材58との組付状態では、針ハブ68の下端面と環状部82とが上下方向で当接しているか僅かに離隔している。即ち、鍔部74と第1閉塞部86との当接により第1の移動部材58に対する穿刺部材71の上方への移動が制限されると共に、針ハブ68と環状部82との当接により第1の移動部材58に対する穿刺部材71の下方への移動が制限されており、穿刺部材71は、第1の移動部材58に対して上下方向で略位置決めされた状態で組み付けられている。
【0072】
さらに、第1の移動部材58の外筒部78が、第2の移動部材60の外側筒部112よりも外周側に位置していると共に、外筒部78よりも外周側に位置する円弧状部98が、固定部材28の円弧状壁部46に対して内周側から略重ね合わされて、円弧状部98から外周側に突出する外周突部100が円弧状壁部46の貫通窓48に入り込んで係合している。これにより、初期状態では、第1の移動部材58が、固定部材28に対して上下方向で移動不能に組み付けられている。
【0073】
ここにおいて、第1の移動部材58と第2の移動部材60との上下方向間には、付勢部材としてのコイルスプリング126が配されている。このコイルスプリング126は、金属や合成樹脂により形成された圧縮ばねとされており、第1の移動部材58の内筒部76に外挿されていると共に、第2の移動部材60の外側筒部112に内挿されている。そして、コイルスプリング126の上端が上底壁部114の下面に固着されていると共に、コイルスプリング126の下端が段差状面90に固着されている。
【0074】
図3等に示される初期状態では、コイルスプリング126が圧縮状態とされており、第1の移動部材58と第2の移動部材60とを相互に離隔する方向に付勢している。換言すれば、コイルスプリング126により第1の移動部材58が固定部材28から下方に離隔する方向に付勢されていると共に、コイルスプリング126により第2の移動部材60が固定部材28から上方に離隔する方向に付勢されている。
【0075】
そして、かかる付勢力による第1の移動部材58の下方への移動が、第1の移動部材58と固定部材28との係合、即ち外周突部100と貫通窓48との係合により阻止されている。これにより、コイルスプリング126の付勢力に伴う第1の移動部材58の下方への移動を制限する第1のロック機構128が、第1の移動部材58と固定部材28とを含んで構成されている。換言すれば、コイルスプリング126の穿刺側への付勢力の第1の移動部材58(及び穿刺針12)への作用を回避する第1の付勢力回避機構が、第1のロック機構128、即ち第1の移動部材58と固定部材28とを含んで構成されていてもよいし、後述するように第1の移動部材58と針ハブ68との係合を解除すること(即ち第2の移動部材60と針ハブ68とを係合すること)で構成されてもよく、更に針ハブ68や第2の移動部材60を含んで構成されてもよい。
【0076】
また、コイルスプリング126の付勢力による第2の移動部材60の上方への移動が、第2の移動部材60と固定部材28との係合、即ち上底壁部114と第2の係合突部44との係合により阻止されている。これにより、コイルスプリング126の付勢力に伴う第2の移動部材60の上方への移動を制限する第2のロック機構130が、第2の移動部材60と固定部材28とを含んで構成されている。換言すれば、コイルスプリング126の付勢力の第2の移動部材60(及び穿刺針12)への作用を回避する第2の付勢力回避機構が、第2のロック機構130、即ち第2の移動部材60と固定部材28とを含んで構成されてもよいし、後述するように第2の移動部材60と針ハブ68とが係合しないこと(即ち第1の移動部材58と針ハブ68との係合が維持されること)で構成されてもよく、更に針ハブ68や第1の移動部材58を含んで構成されてもよい。
【0077】
ここにおいて、穿刺器具10には、ハウジング14に対して下方から接近可能な押当部材132が、ハウジング14の下方に向かって突出して組み付けられている。押当部材132は、
図12に示されるように、ハウジング14の外周壁部20と略対応する形状とされた略長円形の筒状とされており、周壁134の左右方向両側における上端において内周側に突出する係合爪136,136を備えている。本実施形態では、周壁134の左右方向両側における上端部分以外の内径寸法を大きくすることで、相対的に上端部分における内径寸法を小さくしており、これにより内周側に突出する係合爪136を形成している。なお、係合爪136における上面は、内周側に向かって下方に傾斜するテーパ面138とされており、後述する固定部材28への組付時に係合爪136が第1の係合突部54を乗り越え易くなっている。
【0078】
かかる構造とされた押当部材132が、固定部材28に対して、円弧状壁部46への外挿状態で組み付けられている。即ち、固定部材28の円弧状壁部46に対して押当部材132の周壁134を外挿した状態で下方から押し込むことで、押当部材132の係合爪136が固定部材28の第1の係合突部54を乗り越えて、係合爪136と第1の係合突部54とが係合するようになっている。これにより、固定部材28からの押当部材132の下方への抜け落ちが防止されている。
【0079】
かかる組付状態では、押当部材132がハウジング14の外周壁部20の内周側に位置している。また、固定部材28の貫通窓48から外方に突出する外周突部100と第1の係合突部54に係合する係合爪136とが近接した位置にあり、本実施形態では、外周突部100の下面である傾斜面101と、係合爪136の上面であるテーパ面138とが、上下方向で相互に対向して僅かに離隔している。
【0080】
なお、かかる押当部材132の外方にはカバーを設けることが可能であり、使用前に意図せず押当部材132に接触することを防止することができる。このようなカバーは、ハウジング14の外周壁部20の下方開口部に対して、例えば圧入する等して固定され得る。
【0081】
また、本実施形態では、第1の移動部材58の底壁部92の下面にパッチ140が、離脱可能に固定されている。このパッチ140は、
図13に示されるように、全体として略円板形状とされており、例えばゴム弾性体や軟質の合成樹脂等、比較的柔軟な材質により形成されている。そして、パッチ140の上面の中央部分には、上方に突出する略矩形ブロック状の上方凸部142が設けられていると共に、下面の中央部分には、下方に開口する略矩形の下方凹部144が形成されている。なお、本実施形態では、上方凸部142及び下方凹部144が、何れも左右方向寸法よりも前後方向寸法が大きくされた長方形断面を有している。特に、本実施形態では、上方凸部142の前後方向両端部分において、上下方向で貫通する連通孔146が形成されており、パッチ140の上方の空間と下方凹部144の内部の空間が連通孔146により相互に連通されている。
【0082】
さらに、上方凸部142の中央部分には、上下方向に貫通する貫通孔148が形成されている。この貫通孔148の内径寸法は、穿刺針12の外径寸法と略等しいか、僅かに小さくされており、穿刺針12が貫通孔148に挿通された状態では、穿刺針12がパッチ140に対して上下方向で意図せず変位しないようにされている。なお、本実施形態では、貫通孔148の上方開口部が、上方に向かって内径寸法が次第に大きくなるようにされている。
【0083】
そして、本実施形態では、上方凸部142の前後方向寸法が、第1の移動部材58における大径筒部88の内径寸法と略等しいか、僅かに大きくされており、上方凸部142が大径筒部88に圧入されることでパッチ140が第1の移動部材58に固定されている。かかる状態では、パッチ140の貫通孔148に穿刺針12が挿通されており、パッチ140により穿刺針12の上下方向位置が規定されるようになっている。特に、本実施形態では、初期状態において、穿刺針12が、穿刺部材71の基端(鍔部74)が第1内側窓部85の上端に位置するように位置決めされており、鍔部74と第1閉塞部86とが相互に当接している。尤も、かかるパッチ140による穿刺針12の位置決めに代えて、又は加えて、針ハブ68に対して第1の移動部材58における第1閉塞部86及び/又は環状部82が当接することによって穿刺針12の上下方向位置が規定されるようになっていてもよい。
【0084】
なお、パッチ140の下面には接着剤が塗布されており、後述するように穿刺針12が患者の皮膚に穿刺されて、パッチ140が患者の皮膚に貼付されることで、パッチ140の上方凸部142が大径筒部88から抜け出すようにされている。これにより、パッチ140が第1の移動部材58に対して離脱可能に固定されている。尤も、例えばパッチは、第1の移動部材の下面に対して、パッチの下面の接着力よりも弱い接着力をもって接着されてもよく、パッチが患者の皮膚に貼付されることで第1の移動部材の下面から剥がれるようになっていてもよい。即ち、パッチにおいて上方凸部は必須なものではなく、また、本発明においてはパッチ自体も必須なものではない。
【0085】
また、本実施形態では、大径筒部88において内径寸法が大きくされた部分88aと、底壁部92の下面に設けられた凹部102と、パッチ140に設けられた連通孔146とが相互に位置合わせされており、穿刺針12の穿刺時の空気の抜け効率が向上されている。
【0086】
かかる構造とされた穿刺器具10を使用して、患者の体内にセンサ等を埋め込む方法を、以下、
図14~18を示して説明する。
【0087】
なお、体内に埋め込まれるセンサは限定されるものではなく、例えば血中の血糖量(血糖濃度)や酸素量(酸素濃度)、各種ホルモン量や薬物濃度、心拍数や温度等をリアルタイムで、又は経時的に測定可能である。また、測定されたデータは、有線又は無線により、患者に装着された、又は外部に設けられた測定装置に送信され得る。さらに、かかるセンサは適切な方法によって(例えば穿刺針12に設けられたスリット64や凹部66を通じて)穿刺針12に装着され得て、穿刺針12の皮膚への穿刺と同時に、患者の体内にセンサが埋め込まれて、好適にはセンサの全体が患者の体内に埋め込まれる。
【0088】
先ず、
図3に示されるように押当部材132の外方を覆うカバーを取り外した穿刺器具10を患者の皮膚に押し付けて、ハウジング14を患者の皮膚側(
図3中の下側)に押し込む。これにより、ハウジング14に対して押当部材132が接近方向(上方)に変位する。そして、上下方向で対向していた押当部材132における係合爪136のテーパ面138と第1の移動部材58における外周突部100の傾斜面101とが当接して、更に押当部材132を上方に押し込むことで、上方への押込力が外周突部100への内周側への押圧力として作用する。
【0089】
この結果、
図14に示されるように、外周突部100を備える円弧状部98が内周側へ弾性変形して、外周突部100と貫通窓48との係合(第1のロック機構128)が解除される。なお、外周突部100が内周側へ移動することで、押当部材132は、固定部材28のフランジ状部32と当接するまで上昇することができる。なお、
図14に示される第1のロック機構128の解除に伴って、
図15に示される穿刺針12の穿刺が連続して生じることから、
図14に示される状態は瞬間的なものであるが、穿刺作動の理解を容易とするために図示している。
【0090】
そして、第1のロック機構128が解除されることにより、
図15に示されるように、コイルスプリング126の付勢力に従って第1の移動部材58が下方へと変位する。ここにおいて、穿刺部材71における鍔部74が第1の移動部材58の第1内側窓部85に入り込んでおり、特に本実施形態では、初期状態で鍔部74と第1内側窓部85の上端の第1閉塞部86とが当接していることから、第1の移動部材58の下方への変位により穿刺部材71も一体的に下方へと変位する。
【0091】
すなわち、鍔部74と第1閉塞部86とが係合することで、穿刺針12と第1の移動部材58とが一体的に下方へと変位するようになっており、針ハブ68と第1の移動部材58とを係止して連結する第1の係止連結部が、鍔部74を備える基端側突出部72と第1閉塞部86とを含んで構成されている。換言すれば、第1の移動部材58の係止孔(第1内側窓部85)へ係止される可撓性の穿刺側係止片が、鍔部74を備える基端側突出部72を含んで構成されている。そして、鍔部74と第1閉塞部86とが当接して係止状態が維持されている間は、コイルスプリング126の穿刺側への付勢力が穿刺針12に及ぼされる付勢力の伝達状態とされると共に、後述するように鍔部74と第1閉塞部86とが離隔して係止状態が解除されることで、コイルスプリング126の穿刺側への付勢力が穿刺針12に及ぼされない付勢力の遮断状態とされるようになっている。
【0092】
また、第2の付勢力回避機構(第2のロック機構130や、第1の係止連結部における係止)の作動下において、穿刺針12及び第1の移動部材58を穿刺前位置へ保持する穿刺前作動機構が、第1のロック機構128、即ち第1の移動部材58と固定部材28とを含んで構成されている。更に、押当部材132を押し込むことで第1のロック機構128が解除されて穿刺作動が開始されることから、穿刺作動開始機構が第1のロック機構の解除により構成される。即ち、穿刺作動開始機構が、第1の移動部材58と固定部材28とを含んで構成されている。
【0093】
なお、第1の移動部材58が下方へと変位することで、第1の移動部材58に設けられた外周突部100は、固定部材28の下端に設けられた切欠部50に入り込むようになっている。また、第2の移動部材60に対しても第1の移動部材58が下方へ変位して、第1の移動部材58に設けられた接続部83が、第2の移動部材60の下端に設けられた切欠き110に入り込むようになっている。
【0094】
これにより、
図15に示されるように、穿刺針12が患者の皮膚へと穿刺されて、穿刺針12に担持されるセンサが患者の体内に埋め込まれる。なお、センサが穿刺針12から体内へと移行する方法は限定されるものではなく、例えば穿刺の衝撃により移行してもよいし、センサに返しが設けられて体内に引っ掛かるようになっていてもよい。ここで、
図15に示される第1の移動部材58の下方変位に伴って、後述する
図16に示される第2のロック機構130の解除及び
図17に示される第2の移動部材60の上昇変位が連続して生じることから、
図15に示される状態は瞬間的なものであるが、穿刺針12の穿刺作動の理解を容易とするために図示している。
【0095】
さらに、穿刺針12の穿刺側への移動端は、穿刺部材71の鍔部74を含む基端側突出部72が第2閉塞部108に当接することで規定されることから、穿刺針12の穿刺側への移動端を規定するストッパ部が、基端側突出部72により構成される。尤も、基端側突出部72と第2閉塞部108とが当接する前に第1の移動部材58の底壁部92がパッチ140を介して皮膚に当接することで穿刺針12の穿刺側への移動が制限されるようになっている。
【0096】
また、本実施形態では、コイルスプリング126が圧縮ばねであることから、圧縮されたコイルスプリング126の弾性的な復元変形、要するに伸長変形に伴って第1の移動部材58が下方へと変位するようになっている。ここにおいて、第1の移動部材58が最も下方へ移動した
図16の状態において、コイルスプリング126は自然長までは伸びないようになっている。即ち、本実施形態では、穿刺針12の穿刺に伴って、コイルスプリング126が、一部分が復元変形して、残りの部分は圧縮状態が残存するようになっている。要するに、本実施形態では、穿刺針12と一体的に移動する第1の移動部材58に下方(穿刺側)への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材がコイルスプリング126により構成されている。
【0097】
さらに、固定部材28に対して第1の移動部材58が下方へ変位することで、外側窓部94に嵌め入れられた第2の係合突部44が、外側閉塞部96に対して接近方向に相対変位する。即ち、第1の移動部材58への下方への変位に伴って、外側閉塞部96と第2の係合突部44の、特に上方の三角形状とされた部分44bとが当接する。この結果、外側閉塞部96による下方への押圧力が、第2の係合突部44に対して外周側への押圧力として作用する。これにより、
図16(b)に示されるように、可撓壁部42は、ハウジング14に設けられた変形許容空間26により、外周側への弾性変形が許容される。
【0098】
そして、かかる可撓壁部42の外周側への弾性変形に伴って、第2の係合突部44と第2の移動部材60の上底壁部114との係合(第2のロック機構130)が解除される。この結果、
図17に示されるように、コイルスプリング126に残存する圧縮状態からの弾性的な復元変形に伴って、コイルスプリング126の付勢力により第2の移動部材60が、上方へと変位する。即ち、本実施形態では、穿刺針12と一体的に移動する第2の移動部材60に上方(抜去側)への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材がコイルスプリング126により構成されている。
【0099】
したがって、本実施形態では、穿刺針12の穿刺側と抜去側との両方向の付勢力を生ずる共用付勢部材が、コイルスプリング126により構成されている。
【0100】
ここにおいて、穿刺部材71における基端側突出部72が第2の移動部材60の第2内側窓部106に入り込んでおり、第2の移動部材60の上方への変位により、第2内側窓部106の下端である第2閉塞部108と基端側突出部72とが相互に当接するようになっている。換言すれば、穿刺針12の穿刺前の状態では、第2閉塞部108が、基端側突出部72の穿刺側前方に位置している。
【0101】
更に第2の移動部材60が上方へ変位することで、一対の基端側突出部72,72は、第2閉塞部108への当接力により相互に接近する方向に弾性変形せしめられて、鍔部74が第1内側窓部85から内周側に引き抜かれる。これにより、鍔部74(基端側突出部72)と第1閉塞部86との第1の係止連結部における係止が解除される。即ち、本実施形態では、第1の係止連結部における係止を解除する第1の係止連結部解除機構が、第2閉塞部108を備える第2の移動部材60を含んで構成されている。
【0102】
そして、穿刺針12の穿刺作動に対して連続的に生じる第2の移動部材60の上方変位に伴って、第2閉塞部108と鍔部74とが係合すると共に、第2の移動部材60と共に穿刺部材71が一体的に上方へ移動するようになっている。即ち、針ハブ68において第2の移動部材60へ係止される抜去側係止突部が、鍔部74により構成されている。
【0103】
ここで、内側筒部104の前後方向寸法が、一対の第1閉塞部86,86の対向距離(前後方向の離隔距離)より小さくされていることから、弾性変形後の鍔部74の外周面間の距離も一対の第1閉塞部86,86の対向距離よりも小さくされて、鍔部74が第1閉塞部86に引っ掛かることなく、第2の移動部材60が上方へ移動することができる。
【0104】
すなわち、穿刺前には穿刺方向(上下方向)で相互に離隔していた鍔部74と第2閉塞部108とが穿刺作動によって相互に接近して係合することで、穿刺針12と第2の移動部材60とが一体的に上方へと変位するようになっている。これにより、針ハブ68と第2の移動部材60との各係止部が、それぞれ鍔部74と第2閉塞部108により構成されていると共に、針ハブ68と第2の移動部材60とを相互に係止させて連結する第2の係止連結部が、これら鍔部74と第2閉塞部108とを含んで構成されている。そして、当該第2の係止連結部により係止が、穿刺針12の穿刺作動に対して連続して生じる第2の移動部材60の上方変位により作動することから、第2の係止連結部作動機構が、第2の移動部材60を含んで構成されている。そして、鍔部74と第2閉塞部108とが離隔して係止状態にない間は、コイルスプリング126の抜去側への付勢力が穿刺針12に及ぼされない付勢力の遮断状態とされると共に、鍔部74と第2閉塞部108とが当接して係止状態となることで、コイルスプリング126の抜去側への付勢力が穿刺針12に及ぼされる付勢力の伝達状態とされるようになっている。
【0105】
また、第1の付勢力回避機構(第1のロック機構128や、第2の係止連結部における係止)の解除下において、コイルスプリング126の付勢力を作用させて穿刺針12を抜去側へ移動させる穿刺後作動機構が、第2のロック機構130を解除して、第2の係止連結部における係止を作動すると共に第1の係止連結部における係止を解除することにより構成されることから、穿刺後作動機構が、外側閉塞部96を備える第1の移動部材58と第2の係合突部44を備える固定部材28と、更には針ハブ68や第2の移動部材60を含んで構成されてもよい。
【0106】
穿刺部材71と一体的に上方へ移動する第2の移動部材60は、
図18に示されるように、第2の移動部材60の縦壁部122がハウジング14の上底壁部16に当接するまで移動するようになっている。本実施形態では、
図18に示される第2の移動部材60の上方への移動が終了した状態において、穿刺針12の針先62が第1の移動部材58の内部に位置しており、使用後の針先62が保護されるようになっている。これにより、使用後の穿刺針12の誤穿刺が防止され得る。
【0107】
すなわち、本実施形態において、穿刺前にあっては、第1の係止連結部(鍔部74及び第1閉塞部86)における係止が作動し、且つ第2の係止連結部(鍔部74及び第2閉塞部108)における係止が作動していないことから、穿刺針12に対してコイルスプリング126の穿刺側への付勢力が及ぼされて、且つ抜去側への付勢力が及ぼされていない。一方、穿刺後にあっては、第1の係止連結部における係止が解除され、且つ第2の係止連結部における係止が作動することから、穿刺針12に対してコイルスプリング126の穿刺側への付勢力が及ぼされず、且つ抜去側への付勢力が及ぼされる。したがって、コイルスプリング126の穿刺側への付勢力と抜去側への付勢力とを切り換える付勢力切換機構が、第1の係止連結部の係止/解除機構と第2の係止連結部の係止/解除機構とそれらの選択機構(具体的には、第2の係止連結部の係止を作動させると共に第1の係止連結部の係止を解除する機構)とを含んで構成されている。本実施形態では、鍔部74(基端側突出部72)を備える針ハブ68と、第1閉塞部86を備える第1の移動部材58と、第2閉塞部108を備える第2の移動部材60と、第1のロック機構128(外周突部100と貫通窓48)及び第2のロック機構130(第2の係合突部44と上底壁部114)を構成する固定部材28と、更には穿刺側及び抜去側への付勢力を及ぼすコイルスプリング126とを含んで構成されている。
【0108】
以上の如き構造とされた本実施形態の穿刺器具10では、コイルスプリング126の付勢力によって第1の移動部材58と共に穿刺針12が下方に移動せしめられて、患者の皮膚に穿刺される。即ち、使用者が穿刺器具10を皮膚へ押し込む押込力に拘らず、略一定の力で穿刺針12が穿刺されることから、穿刺針12の穿刺深さ(穿刺量)を安定して得ることができる。また、本実施形態では、第1の移動部材58の下方への移動(即ち、穿刺針12の穿刺)と第2の移動部材60の上方への移動(即ち、穿刺針12の抜去)とが連続してなされることから、例えば穿刺針12が穿刺された状態のまま抜去操作を行うことがなく、患者が痛みを感じるおそれが低減され得る。
【0109】
また、本実施形態では、押当部材132を皮膚に押し当ててハウジング14側に押し込む(ハウジング14を皮膚側に押し込む)ことで、第1のロック機構128が解除されて穿刺針12(穿刺部材71)と共に第1の移動部材58が一体的に下方に移動し、穿刺針12が患者に穿刺される。更に、かかる第1の移動部材58の下方への移動に伴って第2のロック機構130が解除されて、穿刺針12(穿刺部材71)と共に第2の移動部材60が一体的に上方へ移動し、穿刺針12が患者から引き抜かれる。即ち、押当部材132の押込みから穿刺針12の穿刺及び引抜きまでが一連の流れとして行われることから、センサ等の埋込操作がスムーズに行われて、患者が痛みを感じるおそれも低減され得る。
【0110】
さらに、本実施形態では、穿刺部材71の基端部分に鍔部74を備える基端側突出部72が設けられており、穿刺時には第1の移動部材58における第1の係止連結部(第1閉塞部86)と鍔部74とが係合して穿刺部材71と第1の移動部材58が一体的に下方に移動する。一方、引抜時には第2の移動部材60における第2の係止連結部(第2閉塞部108)と基端側突出部72とが係合すると共に、第1の係止連結部と鍔部74との係合が解除されて、穿刺部材71と第2の移動部材60とが一体的に上方に移動する。これにより、相互に反対方向に移動する第1の移動部材58から第2の移動部材60へ穿刺部材71を受け渡すことが可能となり、穿刺針12の穿刺と引抜きを共用付勢部材であるコイルスプリング126を用いて実現することができる。
【0111】
更にまた、本実施形態では、穿刺針12の穿刺時には、穿刺部材71の基端側突出部72及び鍔部74が第1内側窓部85及び第2内側窓部106に入り込んでいることから、穿刺部材71と第1及び第2の移動部材58,60との相対回転が防止され得る。これにより、穿刺針12が針軸方向で略ストレートに移動することから、穿刺針12の穿刺時に患者が痛みを感じるおそれが低減され得る。同様に、穿刺針12の引抜時には、鍔部74が第2内側窓部106に入り込んでいることから、穿刺部材71と第2の移動部材60との相対回転が防止されて、穿刺針12が針軸方向で略ストレートに引き抜かれる。これにより、穿刺針12の抜去時においても患者が痛みを感じるおそれが低減され得る。
【0112】
また、本実施形態では、引抜後の穿刺針12の針先62が、穿刺器具10の内部に位置しており、特に本実施形態では、穿刺針12の針先62が、ハウジング14の下端よりも上方に位置している。これにより、使用後の穿刺針12の誤穿刺が防止され得る。更にまた、本実施形態では、押当部材132の押込みに続く穿刺針12の穿刺から引抜きまでが一連の作動として行われて、穿刺針12の引抜時には穿刺器具10は患者の皮膚から離隔していないことから、換言すれば、患者の皮膚から穿刺器具10を取り外す際には穿刺針12は穿刺器具10で覆われることから、使用後の穿刺針12の誤穿刺が一層確実に防止され得る。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0114】
例えば、前記実施形態では、穿刺針12と一体的に移動する第1の移動部材58に下方(穿刺側)への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材と、穿刺針12と一体的に移動する第2の移動部材60に上方(抜去側)への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材とが、共用付勢部材であるコイルスプリング126により構成されていたが、以下の
図19にモデル的に示すように、第1の付勢部材と第2の付勢部材とは別部材として形成されてもよい。なお、
図19は、前記実施形態とは異なる態様における穿刺針の穿刺機構を説明するためのモデル図であって、穿刺機構に関連のない部分は、前記実施形態と同様の構造が採用され得ることから説明を省略する。
【0115】
すなわち、
図19に示される態様では、図示しないハウジングに固定的に設けられる固定部材200と、皮膚に押し当てられることでハウジングに対して接近する方向に押し込まれる押当部材202が設けられている。押当部材202の内周側には、
図19中の左右方向で撓み変形する可撓部204が設けられていると共に、固定部材200における可撓部204と対向する位置には、押込部206が設けられている。初期状態では、可撓部204の先端に針ハブ208が支持されていると共に、当該針ハブ208には下方(穿刺側)に突出する穿刺針210が固定されている。
【0116】
また、針ハブ208の下方には、穿刺方向で移動可能な移動部材212が設けられており、これら針ハブ208と移動部材212とが引張ばねからなるコイルスプリング214で相互に連結されている。更に、固定部材200と移動部材212とが引張ばねからなるコイルスプリング216で相互に連結されている。初期状態では、これらコイルスプリング214,216が引張状態とされており、針ハブ208と移動部材212、及び固定部材200と移動部材212には、相互に接近する方向の付勢力が及ぼされている。そして、可撓部204の先端が針ハブ208の外周縁部に係止されることで針ハブ208の下方(穿刺側)への移動が阻止されていると共に、固定部材の内周縁部に設けられた係止爪218が移動部材212に設けられた係止孔220に係止されることで、移動部材212の上方(抜去側)への移動が阻止されている。なお、針ハブ208における係止爪218と対向する位置には、係止解除部222が下方に突出して設けられている。
【0117】
以上の如き構造とされた穿刺器具では、押当部材202をハウジング側(上方)へ押し込むことで、押込部206と可撓部204とが相互に当接して、可撓部204が外方(
図19中の左右方向)に撓み変形させられる。これにより、可撓部204と針ハブ208との係止が解除されて、コイルスプリング214の付勢力に従って、針ハブ208及び穿刺針210が下方(穿刺側)へと移動して、穿刺針210が穿刺される。
【0118】
また、かかる針ハブ208の下方への変位に伴って、係止爪218と係止解除部222とが当接して、係止爪218が外方に撓み変形させられる。これにより、係止爪218と係止孔220との係止が解除されて、コイルスプリング216の付勢力に従って、移動部材212が固定部材200に対して上方(抜去側)へ変位させられる。その際、移動部材212と針ハブ208とが当接して、移動部材212と共に針ハブ208及び穿刺針210が上方に移動することで、穿刺針210が患者の皮膚から引き抜かれる。
【0119】
すなわち、本態様では、穿刺針210に穿刺側への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材がコイルスプリング214により構成されていると共に、穿刺側に付勢されて移動する穿刺側移動部材が針ハブ208により構成されている。また、穿刺針210に抜去側への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材がコイルスプリング216により構成されていると共に、抜去側に付勢されて移動する抜去側移動部材が、移動部材212により構成されている。そして、穿刺針210に対して及ぼされる付勢力を切り換える付勢力切換機構が、固定部材200と針ハブ208と移動部材212とコイルスプリング214,216とを含んで構成されている。
【0120】
本態様の穿刺器具においても前記実施形態と同様の効果が発揮され得る。なお、針ハブ208は、穿刺針210を支持する機能と穿刺作動に対して穿刺側に移動する機能とを有しているが、これらの機能は別個に設けられてもよく、穿刺針を支持する針ハブと穿刺側移動部材とが固定的に組み付けられてもよい。また、本態様からも明らかなように、穿刺側付勢部材と抜去側付勢部材は別個に設けられてもよく、更にこれらの付勢部材は前記実施形態に記載の圧縮ばねに限定されるものではなく、本態様の如き引張ばねの他、ブロック状又は中空のゴム弾性体や、磁石等、付勢力を及ぼす従来公知の部材が採用され得る。
【0121】
更にまた、前記実施形態では、押当部材132が押し込まれることで第1のロック機構128が解除されて、当該第1のロック機構128の解除に伴って第2のロック機構も解除されるようになっていたが、例えば第1及び第2のロック機構のそれぞれを解除するボタン等のロック解除機構が別途設けられてもよく、押当部材は必須なものではない。また、第1のロック機構の解除(即ち、穿刺針の穿刺)と第2のロック機構の解除(即ち、穿刺針の引抜き)とは連続して作動する必要はなく、例えば上記ボタン等により順次作動するようになっていてもよい。
【0122】
更にまた、前記実施形態では、穿刺針12の引抜時において、穿刺針12の針先62が穿刺器具10内に収納されるようになっていたが、かかる態様に限定されるものではなく、穿刺器具の外部に突出していてもよい。即ち、使用後に穿刺針が僅かでも引抜方向に移動すれば、誤穿刺のおそれが低減され得る。
【0123】
また、前記実施形態では、穿刺針12(穿刺部材71)に第1の移動部材58の第1内側窓部85及び第2の移動部材60の第2内側窓部106と係合する基端側突出部72及び鍔部74が設けられていたが、例えば穿刺針側に窓部を設けると共に、第1及び第2の移動部材に当該窓部に入り込む爪部を設けてもよい。そして、例えば穿刺針の穿刺時には、窓部と第1の移動部材の爪部とが係合して穿刺針と第1の移動部材とが一体的に下方に移動すると共に、穿刺針の引抜時には、窓部と第1の移動部材の爪部との係合が解除されると共に窓部と第2の移動部材の爪部とが係合することで穿刺針と第2の移動部材とが一体的に上方に移動するようになっていてもよい。
【0124】
さらに、前記実施形態では、穿刺器具10がセンサ等の体内への埋込みに用いられていたが、このような用途に限定されるものではなく、例えばインスリン等の薬剤を投与するための中空糸を身体に留置することにも用いることができる。或いは、本発明に係る穿刺器具は、例えば外部流路等に接続されるチューブ等の留置に用いられてもよい。即ち、穿刺針を内針として外針としてのチューブ等を外挿して、内外針を一体的に穿刺すると共に、内針のみを引き抜くことで患者の皮膚への外針(チューブ等)の留置が達成され得る。
【0125】
なお、本発明に係る付勢力切換機構は、穿刺針に対して穿刺側付勢部材の付勢力を伝達せしめて穿刺針を穿刺側へ移動させる段階と、穿刺針に対して抜去側付勢部材の付勢力を伝達せしめて穿刺針を抜去側へ移動させる段階とを、連続的に実現し得るものであれば良い。具体的には、前記実施形態に例示したように、好適には付勢力切換機構は、複数の係止機構と解除機構及びそれらの選択機構を含んで構成されることとなり、より具体的には、例えば穿刺側付勢部材の穿刺針への付勢力伝達経路上に設けられて付勢力の伝達状態と遮断状態とを切り換える付勢力側の伝達/遮断切換機構と、抜去側付勢部材の穿刺針への付勢力伝達経路上に設けられて付勢力の伝達状態と遮断状態とを切り換える抜去側の伝達/遮断切換機構と、穿刺側と抜去側との両伝達/遮断切換機構を連動的に切り換えることにより、抜去側の付勢力遮断状態下で穿刺側の付勢力伝達状態とすると共に、穿刺側の付勢力遮断状態下で抜去側の付勢力伝達状態とすることで、穿刺針に対して穿刺側と抜去側との付勢力を択一的に伝達状態とする連動的切換機構によって好適に構成され得る。
また、本発明は、もともと以下(i)~(xiii)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 穿刺針と該穿刺針に穿刺側への付勢力を及ぼす穿刺側付勢部材と、前記穿刺針に抜去側への付勢力を及ぼす抜去側付勢部材と、前記穿刺針に対して前記穿刺側付勢部材による付勢力と前記抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構とを、備える穿刺器具、
(ii) 前記穿刺針の穿刺側と抜去側との両方向の付勢力を生ずる共用付勢部材を備えており、該共用付勢部材が前記穿刺側付勢部材と前記抜去側付勢部材とに共用される(i)に記載の穿刺器具、
(iii) 前記共用付勢部材として、圧縮ばねを有しており、該圧縮ばねの一方の伸長側に穿刺側移動部材が取り付けられていると共に、該圧縮ばねの他方の伸長側に抜去側移動部材が取り付けられており、前記付勢力切換機構が、前記穿刺針の針ハブを該穿刺側移動部材と該抜去側移動部材とに順次に連結せしめて穿刺側と抜去側との付勢力を該穿刺針へ順次に及ぼす(ii)に記載の穿刺器具、
(iv) 前記針ハブと前記穿刺側移動部材とを相互に係止させて連結する第1の係止連結部が設けられていると共に、前記針ハブと前記抜去側移動部材とを相互に係止させて連結する第2の係止連結部が設けられており、更に、前記穿刺針の穿刺作動に伴って該第1の係止連結部における該針ハブと該穿刺側移動部材との係止を解除させる第1の係止連結部解除機構と、該穿刺針の穿刺作動に伴って該第2の係止連結部における該針ハブと該抜去側移動部材とを係止させる第2の係止連結部作動機構とが、設けられている(iii)に記載の穿刺器具、
(v) 前記第1の係止連結部解除機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブ及び前記穿刺側移動部材に対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、該穿刺針の穿刺作動に伴う該抜去側移動部材による前記第1の係止連結部への当接作用で該第1の係止連結部による連結が解除されるようなっている(iv)に記載の穿刺器具、
(vi) 前記第2の係止連結部作動機構が、前記穿刺針の穿刺作動に伴って前記針ハブに対して抜去側へ相対移動せしめられる前記抜去側移動部材を利用して構成されており、前記第2の係止連結部を構成する該針ハブと該抜去側移動部材との各係止部が、穿刺方向で相互に離隔せしめられた穿刺前状態から穿刺作動で相互に接近せしめられて係止されるようになっている(iv)又は(v)に記載の穿刺器具、
(vii) 前記針ハブが、前記穿刺側移動部材に設けられた係止孔へ係止されて前記第1の係止連結部を構成する可撓性の穿刺側係止片と、外周側に突出して設けられて前記抜去側移動部材への係止により前記第2の係止連結部を構成する抜去側係止突部とを、有しており、該抜去側移動部材が、穿刺前状態で該針ハブの該穿刺側係止片よりも穿刺側前方に位置する部分を、有しており、該抜去側移動部材の抜去側への移動に伴う該針ハブの該穿刺側係止片への当接力で該穿刺側係止片が弾性変形して該第1の係止連結部の連結状態が解除されると共に、穿刺作動に伴って該抜去側移動部材が該針ハブの該抜去側係止突部に接近して係止されることによって該第2の係止連結部の係止状態が実現されるようになっている(iv)~(vi)の何れか1項に記載の穿刺器具、
(viii) 前記針ハブには、基端側に向かって径方向に広がる複数の前記穿刺側係止片が設けられていると共に、該穿刺側係止片の突出先端部分には前記抜去側係止突部が外周側に突出して一体的に設けられている(vii)に記載の穿刺器具、
(ix) 前記圧縮ばねの付勢力による前記穿刺側移動部材の前記一方の伸長側への移動を解除可能に阻止する第1のロック機構と、該圧縮ばねの付勢力による前記抜去側移動部材の前記他方の伸長側への移動を解除可能に阻止する第2のロック機構とを、備えている(iii)~(viii)の何れか1項に記載の穿刺器具、
(x) 前記穿刺側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第1の付勢力回避機構と、前記抜去側付勢部材による付勢力の前記穿刺針への作用を回避せしめる第2の付勢力回避機構と、該第2の付勢力回避機構によって該抜去側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、該穿刺針を前記穿刺側付勢部材から及ぼされる付勢力に抗して穿刺前位置へ解除可能に保持する穿刺前作動機構と、該穿刺前作動機構による保持が解除されて該穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられた該穿刺針に対して、該第1の付勢力回避機構によって該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が回避された状態下において、前記抜去側付勢部材による付勢力を作用せしめて、該穿刺針を抜去側へ移動せしめる穿刺後作動機構とを、備えている(i)~(ix)の何れか1項に記載の穿刺器具、
(xi) 前記穿刺針の穿刺側への移動端を規定するストッパ部が設けられていると共に、前記穿刺側付勢部材による付勢力で穿刺側へ移動せしめられる該穿刺針が該ストッパ部による移動端に達するまでに、該穿刺側付勢部材による付勢力の該穿刺針への作用が解除される(i)~(x)の何れか1項に記載の穿刺器具、
(xii) 使用者が把持可能なハウジングを備えていると共に、該ハウジングから穿刺側に向かって突出する押当部材が抜去側へ押込作動可能に設けられており、該押当部材を患者の皮膚へ押し当てて押込作動させることで、前記穿刺側付勢部材による付勢力で前記穿刺針が穿刺側へ移動を開始する穿刺作動開始機構を備える(i)~(xi)の何れか1項に記載の穿刺器具、
(xiii) 針ハブを有する穿刺針と、穿刺側に向けて付勢されて移動する穿刺側移動部材と、抜去側に向けて付勢されて移動する抜去側移動部材と、前記穿刺針を前記穿刺側移動部材と前記抜去側移動部材とに順次に連結させることで穿刺作動と抜去作動を連続的に行わせる付勢力切換機構とを、備える穿刺器具、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、穿刺針の人体への穿刺に際して、付勢力切換機構によって穿刺針へ穿刺側付勢部材による付勢力が及ぼされることで、操作者の押込力によって大きな影響を受けることなく、穿刺針による穿刺力が略安定して及ぼされる。それ故、例えばセンサを人体へ埋設する場合にも、穿刺針やセンサの大きさ等を考慮して適切な穿刺力や穿刺深さをもって穿刺作動を行うことが可能になる。また、付勢力切換機構により、穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とが穿刺針に対して順次に及ぼされることから、操作者の手動による穿刺と抜去の切換操作などが不要となる。それ故、穿刺針の穿刺から抜去に至る一連の作動を速やかに且つ確実に実行することが可能になり、操作者の熟練度の影響が軽減されると共に、操作者の労力の軽減や、患者の負担の緩和なども図られ得る。
上記(ii)に記載の発明では、共用付勢部材を採用することによって器具のコンパクト化や構造の簡略化などを図ることも可能になる。尤も、本態様の穿刺器具では、共用付勢部材を採用しつつ、穿刺側と抜去側の何れか一方だけに作用する付勢部材を追加しても良い。また、共用付勢部材は単一である必要がなく、例えばばね部材や磁石部材などの複数を組み合わせて共用付勢部材を構成することも可能である。
上記(iii)に記載の発明では、穿刺側移動部材と抜去側移動部材を採用して、針ハブをこれら両部材へ順次に連結させることで、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を、効率的に構成することが可能になる。なお、本態様の圧縮ばねも単一である必要はないし、前述のとおり、他のばね部材(引張ばねを含む)や磁石などを併せて設けることも可能である。
上記(iv)に記載の発明では、第1の係止連結部解除機構と第2の係止連結部作動機構とによって、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を、より効率的に構成することが可能になる。
上記(v)に記載の発明では、穿刺作動に伴って針ハブ及び穿刺側移動部材に対して相対移動せしめられる抜去側移動部材の動きを巧く利用して、第1の係止連結部解除機構を構成することが可能になる。なお、本態様における第1の係止連結部による連結の解除は、例えば相互に係止された針ハブと穿刺側移動部材との少なくとも一方の側における係止部分を、穿刺作動に伴って相対移動せしめられる抜去側移動部材の当接によって弾性変形や移動させて係止を解除させることによって実現され得る。
上記(vi)に記載の発明では、穿刺作動に伴って相対移動せしめられる針ハブと抜去側移動部材との動きを巧く利用して、第2の係止連結部作動機構を構成することが可能になる。なお、本態様における第2の係止連結部における係止機構は、例えば針ハブと抜去側移動部材との間に設けられた突部同士の係止や凸部と凹部との係止、係止突起と係止穴との係止など、抜去方向への相対移動を阻止する各種の機構によって構成され得るものであり、穿刺方向への相対移動の規制作用の有無は問わない。
上記(vii)に記載の発明では、特定の第1の係止連結部および第2の係止連結部と特定の抜去側移動部材とを組み合わせて採用したことにより、第1の係止連結部解除機構および第2の係止連結部作動機構が、効率的に実現され得る。なお、本態様に拘わらず、他の態様では、第1の係止連結部を構成する係止孔を針ハブに設ける一方、可撓性の穿刺側係止片を穿刺側移動部材に設けることも可能である。
上記(viii)に記載の発明では、特定の穿刺側係止片を採用したことにより、針ハブと穿刺側移動部材との連結状態の抜去側移動部材による解除作動と、該抜去側移動部材の針ハブに対する係止による連結作動とを、簡易を機構をもって効率的に実現することが可能になる。なお、本態様において、後述する実施形態では、全体として略V字状に基端側に向かって拡開して突出する一対の穿刺側係止片が開示されているが、かかる穿刺側係止片は、単一であっても良いし、周方向に3つ以上あっても良い。また、抜去側係止突部は、少なくとも一つの穿刺側係止片において少なくとも一つ設けられていれば良い。尤も、針ハブに及ぼされる抜去側への付勢力の作用に起因する、抜去に際しての穿刺針の傾きを抑えるには、周方向で略等間隔に複数の穿刺側係止片を設けるのが好ましい。また、周方向で略等間隔に略同一の穿刺側係止片を設けることで、針ハブに及ぼされる抜去側移動部材の当接力によって穿刺針が傾くことを抑えることも可能になる。それ故、周方向で略等間隔に配された略同一の穿刺側係止片を採用することで、穿刺針の傾きを抑えるためのスリーブ状のガイド内面などを設けることなく、抜去作動される穿刺針の傾きを防止することも可能になる。
上記(ix)に記載の発明では、第1のロック機構によって、例えば患者の皮膚への重ね合わせ面から所定距離だけ針先が控えた位置へ穿刺針を固定的に支持せしめた穿刺作動前の状態へ安定して保持する機構が、効率的に実現可能になる。また、第2のロック機構によって、例えば圧縮ばねが不用意に他方へ伸長することによって目的とする穿刺作動が実現困難になる等の不具合を、効率的に防止することも可能となる。
上記(x)に記載の発明では、各特定の第1の付勢力回避機構と第2の付勢力回避機構と穿刺前作動機構と穿刺後作動機構とを互いに組み合わせて採用したことにより、穿刺針に対して穿刺側付勢部材による付勢力と抜去側付勢部材による付勢力とを順次に及ぼす付勢力切換機構を効率的に構成することが可能になる。因みに、本態様における第1の付勢力回避機構は、好適には、例えば前記(iv)の態様において第1の係止連結部による係止が解除可能に構成されていることをもって、実現され得る。また、本態様における第2の付勢力回避機構は、好適には、例えば前記(iv)の態様において第2の係止連結部による係止が解除可能に構成されていることをもって、実現され得る。また、本態様における穿刺前作動機構は、好適には、例えば前記(ix)の態様において第1のロック機構によるロック状態を保持する機構によって構成され得る。また、本態様における穿刺後作動機構は、好適には、例えば前記(iv)の態様において第1の係止連結部解除機構と第2の係止連結部作動機構との組み合わせによって構成され得る。
上記(xi)に記載の発明では、穿刺針の突出端がストッパ部で規定されることにより安全性の向上が図られると共に、穿刺針に対する穿刺側への付勢力の解除をより確実に行うことが可能になる。なお、本態様のストッパ部は、好適には、例えば穿刺側に移動する針ハブが打ち当たることで穿刺針の穿刺側移動端を規定する面をもって構成され得る。また、実際の穿刺針の穿刺側への移動は、ストッパ部による規制端(移動端)にまで達する必要はない。
上記(xii)に記載の発明では、操作者がハウジングをもって当接部材を患者の皮膚へ押し当てるだけで、穿刺作動が実行され得る。それ故、例えば患者の皮膚へ押し当てられる部材とは別に、穿刺針を発射させるボタンを有するものに比して、構造の簡略化や操作の簡略化などが図られ得るだけでなく、特に患者自身が穿刺操作を実行する場合に、痛みを予測すること等で患者に生ずる発射ボタンを押し込む躊躇や緊張、更には主観的な痛みを和らげる効果も期待できる。なお、本態様における穿刺作動開始機構は、好適には、例えば前記(iv)の態様に記載の第1の係止連結部による係止連結状態下で押込作動される押当部材が前記(ix)の態様に記載の第1のロック機構を解除する機構や、例えば押込作動される押当部材によって前記(x)の態様に記載の穿刺前作動機構を解除する機構などによって実現され得る。
上記(xiii)に記載の発明では、穿刺針に対して、穿刺側移動部材による穿刺側への付勢移動と、抜去側移動部材による抜去側への付勢移動、ひいては穿刺から抜去に至るまでの一連の作動が、操作者の操作力等によって大きな影響を受けることなく、略安定して且つ速やかに実現され得る。
【符号の説明】
【0126】
10 穿刺器具
12 穿刺針
14 ハウジング
16 上底壁部
18 周壁部
20 外周壁部
22 連結壁部
24 段差状部
26 変形許容空間
28 固定部材(付勢力切換機構、第1の付勢力回避機構、第2の付勢力回避機構、穿刺前作動機構、穿刺後作動機構、穿刺作動開始機構)
30 長円筒部分
31 内孔
32 フランジ状部
34 周壁
36 切欠き
38 分割壁部
40 支持壁部
42 可撓壁部
44 第2の係合突部
44a 平板状とされた部分
44b 三角形状とされた部分
46 円弧状壁部
48 貫通窓
50 切欠部
52 接続部
54 第1の係合突部
56 テーパ面
58 第1の移動部材(付勢力切換機構、穿刺側移動部材、第1の付勢力回避機構、第2の付勢力回避機構、穿刺前作動機構、穿刺後作動機構、穿刺作動開始機構)
60 第2の移動部材(付勢力切換機構、抜去側移動部材、第1の係止連結部解除機構、第2の係止連結部作動機構、第1の付勢力回避機構、第2の付勢力回避機構、穿刺後作動機構)
62 針先
64 スリット
66 凹部
68 針ハブ(付勢力切換機構、第1の付勢力回避機構、第2の付勢力回避機構、穿刺後作動機構)
70 円筒状部分
71 穿刺部材
72 基端側突出部(第1の係止連結部、穿刺側係止片、ストッパ部)
74 鍔部(第2の係止連結部、係止部、抜去側係止突部)
76 内筒部
78 外筒部
80 挿通孔
82 環状部
83 接続部
84 内側矩形板部
85 第1内側窓部(係止孔)
86 第1閉塞部(第1の係止連結部)
88 大径筒部
88a 内径寸法が大きくされた部分
90 段差状面
92 底壁部
93 外側矩形板部
94 外側窓部
96 外側閉塞部
98 円弧状部
100 外周突部
101 傾斜面
102 凹部
104 内側筒部
105 前後方向両側部分
106 第2内側窓部
108 第2閉塞部(第2の係止連結部、係止部)
110 切欠き
112 外側筒部
114 上底壁部
116 挿通孔
118 貫通孔
120 切欠き
122 縦壁部
124 嵌合部
126 コイルスプリング(穿刺側付勢部材、抜去側付勢部材、付勢力切換機構、共用付勢部材)
128 第1のロック機構
130 第2のロック機構
132 押当部材
134 周壁
136 係合爪
138 テーパ面
140 パッチ
142 上方凸部
144 下方凹部
146 連通孔
148 貫通孔
200 固定部材(付勢力切換機構)
202 押当部材
204 可撓部
206 押込部
208 針ハブ(穿刺側移動部材、付勢力切換機構)
210 穿刺針
212 移動部材(抜去側移動部材、付勢力切換機構)
214 コイルスプリング(穿刺側付勢部材、付勢力切換機構)
216 コイルスプリング(抜去側付勢部材、付勢力切換機構)
218 係止爪
220 係止孔
222 係止解除部