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特許7403061金属箔付き樹脂シート、プリント配線板及び金属箔付き樹脂シートの製造方法
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  • 特許-金属箔付き樹脂シート、プリント配線板及び金属箔付き樹脂シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】金属箔付き樹脂シート、プリント配線板及び金属箔付き樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20231215BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B32B15/08 A
B32B15/08 J
H05K3/46 B
H05K3/46 S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019164822
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021041605
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 義則
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 広明
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-150133(JP,A)
【文献】特開2010-232514(JP,A)
【文献】特開2010-208322(JP,A)
【文献】特開平09-254308(JP,A)
【文献】特開2017-128061(JP,A)
【文献】特開2015-217645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、
前記金属層の上に重なる絶縁樹脂層と、
前記絶縁樹脂層の上に重なり、熱可塑性又は熱硬化性を有する接着層とを備え、
前記接着層の厚みが3μm以上30μm以下であり、
前記金属層と前記絶縁樹脂層と前記接着層とを合わせた厚みの、平均値を基準にした厚みばらつきが±5μm以内であり、
前記絶縁樹脂層は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、
金属箔付き樹脂シート。
【請求項2】
金属層と、
前記金属層の上に重なる絶縁樹脂層と、
前記絶縁樹脂層の上に重な接着層とを備え、
前記接着層の厚みが3μm以上30μm以下であり、
前記金属層と前記絶縁樹脂層と前記接着層とを合わせた厚みの、平均値を基準にした厚みばらつきが±5μm以内であり、
前記絶縁樹脂層は、熱可塑性を有し、
前記接着層は、熱可塑性を有し、かつ前記接着層の軟化点は前記絶縁樹脂層の軟化点よりも低い、
金属箔付き樹脂シート。
【請求項3】
前記金属層の厚みは2μm以上20μm以下である、
請求項1又は2に記載の金属箔付き樹脂シート。
【請求項4】
前記絶縁樹脂層の厚みは2μm以上10μm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の金属箔付き樹脂シート。
【請求項5】
前記接着層の最低溶融粘度は10 5 Pa・s未満である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の金属箔付き樹脂シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の金属箔付き樹脂シートにおける前記絶縁樹脂層と前記接着層とから作製された絶縁層と、
前記絶縁層に埋め込まれている導体配線とを備える、
プリント配線板。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の金属箔付き樹脂シートを製造する方法であり、
前記金属層上に絶縁樹脂組成物から前記絶縁樹脂層を作製し、
前記絶縁樹脂層上に接着樹脂組成物から前記接着層を作製し、
前記絶縁樹脂組成物と前記接着樹脂組成物とのうち少なくとも一方における揮発性成分含有率は30質量%以上である、
金属箔付き樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔付き樹脂シート、プリント配線板及び金属箔付き樹脂シートの製造方法に関し、詳しくは金属層と、絶縁樹脂層と、接着層とを積層した金属箔付き樹脂シート、前記金属箔付き樹脂シートを用いて作製されるプリント配線板、及び前記金属箔付き樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の多層化のために、金属層と、絶縁樹脂層と、接着層とを積層した金属箔付き樹脂シートが使用されることがある。例えば特許文献1には、基材の表面に形成された導体回路に、金属箔、ポリイミドフィルム、及びエポキシ樹脂層がこの順に積層した金属箔付き樹脂シートにおけるエポキシ樹脂層を、導体回路がエポキシ樹脂層に埋め込まれるように重ねてから、エポキシ樹脂層を硬化させることで、プリント配線板を多層化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-129610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているエポキシ樹脂層のような接着層に導体配線を埋め込む場合、導体配線のライン幅に対して導体配線の厚みが大きい場合などでは、導体配線が金属層に到達してしまって短絡してしまう危険性がある。特に導体配線をコイル状に形成してインダクタ素子を作製する場合には、短絡の危険性が高くなる。また導体配線にチップ部品を搭載し、チップ部品を接着層に埋め込む場合にも、チップ部品が金属層と接触してしまう危険性がある。プリント配線板の薄型化に伴い、短絡の危険性は益々高くなる。
【0005】
本発明の課題は、接着層に導体配線又はチップ部品を埋め込む場合に短絡が生じにくい金属箔付き樹脂シート、前記金属箔付き樹脂シートを用いて作製されるプリント配線板、及び前記金属箔付き樹脂シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る金属箔付き樹脂シートは、金属層と、前記金属層の上に重なる絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の上に重なり、熱可塑性又は熱硬化性を有する接着層とを備える。前記接着層の厚みが3μm以上30μm以下である。前記金属層と前記絶縁樹脂層と前記接着層とを合わせた厚みの、平均値を基準にした厚みばらつきが±5μm以内である。
【0007】
本発明の一態様に係るプリント配線板は、前記金属箔付き樹脂シートにおける前記絶縁樹脂層と前記接着層とから作製された絶縁層と、前記絶縁層に埋め込まれている導体配線とを備える。
【0008】
本発明の一態様に係る金属箔付き樹脂シートの製造方法では、金属層上に絶縁樹脂組成物から絶縁樹脂層を作製し、前記絶縁樹脂層上に接着樹脂組成物から接着層を作製する。前記絶縁樹脂組成物と前記接着樹脂組成物とのうち少なくとも一方における揮発性成分含有率は30質量%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によると、接着層に導体配線又は電子部品を埋め込む場合に短絡が生じにくい金属箔付き樹脂シート、この金属箔付き樹脂シートを用いて作製されるプリント配線板、及びこの金属箔付き樹脂シートの製造方法を、提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る金属箔付き樹脂シートの模式的な断面図である。
図2図2A及び図2Bは、本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造工程を表す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係る金属箔付き樹脂シート1は、図1に示すように、金属層2と、金属層2の上に重なる絶縁樹脂層3と、絶縁樹脂層3の上に重なり、熱可塑性又は熱硬化性を有する接着層4とを備える。接着層4の厚みは3μm以上30μm以下である。金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みの、平均値に対するばらつきは、±5μm以内である。
【0013】
このため、本実施形態によると、金属箔付き樹脂シート1を利用してプリント配線板11を多層化する場合に、接着層4に導体配線7を埋め込みやすい。また、接着層4に電子部品8も埋め込みやすい。電子部品8とは、例えば導体配線7に実装されたチップ部品、又は導体配線7の一部で構成されるインダクタ素子のような部品などである。本実施形態では、インダクタ素子の一部も電子部品8に含まれうる。また、絶縁樹脂層3は、接着層4に埋め込まれた導体配線7又は電子部品8を金属層2に到達しにくくできる。さらに、金属箔付き樹脂シート1の厚み精度が高いことから、金属箔付き樹脂シート1の厚みが部分的に薄くなるようなことが起こりにくく、このため接着層4に埋め込まれた導体配線7又は電子部品8を金属層2に更に到達しにくくできる。
【0014】
本実施形態について更に詳しく説明する。
【0015】
金属層2は、例えば銅箔などの金属箔から作製される。金属層2の厚みは2μm以上20μm以下であることが好ましい。この場合、金属層2から導体配線を作製するに当たって、サブトラクティブ法やセミアディティブ法(SAP)など様々な回路形成方法を適用しやすい。
【0016】
絶縁樹脂層3は、例えば熱可塑性を有し、又は熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。絶縁樹脂層3が熱可塑性を有する場合は、絶縁樹脂層3と金属層2との接着力が向上する。また絶縁樹脂層3が熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む場合は、絶縁樹脂層3と接着層4との接着力が向上する。
【0017】
絶縁樹脂層3は、例えば樹脂組成物(以下、絶縁樹脂組成物ともいう)から作製される。
【0018】
絶縁樹脂層3が熱可塑性を有する場合、絶縁樹脂組成物は、例えば熱可塑性樹脂組成物である。熱可塑性樹脂組成物は、例えば液晶ポリマー樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂及びポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む。熱可塑性樹脂組成物は、特にポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂とのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、絶縁樹脂層3の絶縁性と耐屈曲性とを高い水準で両立させやすい。
【0019】
ポリイミド樹脂は、例えば次のようにしてポリイミド樹脂を含有する樹脂液を調製することにより得られる。まず、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分との重縮合によりポリアミド酸を生成させる。テトラカルボン酸二無水物は、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を含有することが好ましい。ジアミン成分は、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。続いて、ポリアミド酸を溶剤中で加熱する。溶剤は、例えばN-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、トルエン、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、及びメトキシプロパノールからなる成分から選択される少なくとも一種の成分を含有する。加熱温度は、例えば60~250℃の範囲内、好ましくは100~200℃の範囲内であり、加熱時間は、例えば0.5~50時間の範囲内である。これにより、ポリアミド酸が環化反応によりイミド化し、ポリイミド樹脂が生成する。これにより、ポリイミド樹脂を含有する樹脂液が得られる。
【0020】
ポリイミド樹脂から絶縁樹脂層3を作製する場合、例えば金属箔等の上にポリイミド樹脂を含有する樹脂液を塗布してから、加熱して乾燥させることで、絶縁樹脂層3を作製できる。
【0021】
ポリアミドイミド樹脂は、例えば次のようにしてポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂液を調整することにより得られる。まず、無水トリメリット酸、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニル、2,4-ジイソシアン酸トリレン、ジアザビシクロウンデセン、及びN,N-ジメチルアセトアミドを混合して混合物を調製する。この混合物を加熱して反応させることで、ポリアミドイミドを含有する混合液を得る。続いて、混合液を冷却する。さらに、この混合液にビスマレイミドを配合する。これにより、ポリアミドイミドを含有する樹脂液が得られる。
【0022】
ポリアミドイミド樹脂から絶縁樹脂層3を作製する場合、例えばポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂液を金属箔等の上に塗布してから、加熱して乾燥させることで、絶縁樹脂層3を作製できる。
【0023】
絶縁樹脂層3が熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む場合、絶縁樹脂組成物は、勿論、熱硬化性樹脂組成物である。熱硬化性樹脂組成物は、例えばエポキシ樹脂組成物である。この場合、絶縁樹脂層3が高い絶縁性を有しやすく、かつ絶縁樹脂層3と接着層4との高い接着力を得ることかできる。エポキシ樹脂組成物は、更にカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有してもよい。この場合、絶縁樹脂層3は耐屈曲性を有しやすい。
【0024】
エポキシ樹脂は、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、酸化型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビフェニルノボラックエポキシ樹脂、及びリン変性エポキシ樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0025】
エポキシ樹脂組成物は、更に硬化剤を含有してもよい。硬化剤は、例えば、ポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ヒドラジン誘導体、及びポリフェノール等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。硬化剤の含有量は、例えばエポキシ樹脂、硬化剤及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの合計量に対して10質量%以上45質量%以下である。
【0026】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを、溶媒の存在下又は不存在下で、50~250℃の反応温度で反応させて得られる。
【0027】
可溶性とは、有機溶媒への溶解性を有することを意味する。可溶性ポリアミドは、アルコール及び芳香族系及び/又はケトン系等の有機溶媒の混合物100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上が完全に溶解可能である。この場合のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を挙げることができ、芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等を挙げることができ、ケトン系溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、2-ブタノン、シクロペンタノン等を挙げることができる。これらのアルコール、芳香族系溶媒及びケトン系溶媒の各々の沸点は130℃以下であることが好ましい。
【0028】
可溶性ポリアミドは、例えばポリアミドを可溶化することによって得られる。可溶化の方法として、例えば、各種ポリアミドのアミド結合の水素原子をメトキシメチル基で一部置換する方法を挙げることができる。ポリアミドにメトキシ基を導入するとアミド基が有する水素結合能力が失われ、ポリアミドの結晶性が阻害されるため、溶媒への溶解性が増大する。また、上記可溶化の方法としては、例えば、可溶化前のポリアミドの分子中にポリエーテルやポリエステルを導入して共重合体とする方法も挙げることができる。可溶化前のポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等を挙げることができる。
【0029】
可溶性ポリアミドの具体例としては、「Zytel 61」(デュポン株式会社製)、「Versalon」(ゼネラルミルズ社製)、「アミランCM4000」(東レ株式会社製)、「アミランCM8000」(東レ株式会社製)、「PA-100」(富士化成工業株式会社製)、「トレジン」(ナガセケムテックス株式会社製)等を挙げることができる。
【0030】
カルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する。カルボジイミド化合物は、例えば分子中に1つのみのカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物、分子中に2以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。カルボジイミド化合物は、例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネートを約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応させることで合成することができる。
【0031】
モノカルボジイミド化合物は、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、及びジ-β-ナフチルカルボジイミド等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0032】
ポリカルボジイミド化合物は、種々の方法で製造されうる。ポリカルボジイミド化合物は、例えば従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、J.Org.Chem.28,2069-2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81No.4、p619-621 参照)により、製造されうる。
【0033】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、上記可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを溶媒の存在下又は不存在下で反応させ、可溶性ポリアミドが有するカルボキシル基やアミノ基等の反応性官能基と、これらと反応可能なカルボジイミド化合物のカルボジイミド基やイソシアネート基とが反応することにより得られる。
【0034】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを反応させる方法は、特に限定されるものではないが、溶媒の存在下又は不存在下で行うことができる。
【0035】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物を反応させることで、可溶性ポリアミドが変性され、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドとなる。この反応が進行するのに伴い、カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基が減少するため、赤外線測定によって反応物と生成物を比較すると、反応物で観測されるカルボジイミド基のピークが生成物では減少している。また、反応物と生成物に対して示差熱熱重量測定を行うと、反応物の吸熱ピークはアミド樹脂起因・カルボジイミド樹脂起因など複数観測されるが、生成物の吸熱ピークは1つに集約される。以上により、可溶性ポリアミドが変性されたことを確認することができる。
【0036】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有量は、エポキシ樹脂、硬化剤及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの合計量に対して20~70質量%であることが好ましい。この場合、絶縁樹脂層3の屈曲性及び耐薬品性を高めることができる。
【0037】
エポキシ樹脂組成物は、フェノキシ樹脂、リン系難燃剤などを更に含有してもよい。
【0038】
絶縁樹脂組成物は、揮発性成分を含有してもよい。なお、絶縁樹脂組成物から絶縁樹脂層3を作製する際に絶縁樹脂層3を構成せずに揮発する成分が、揮発性成分である。揮発性成分は例えば溶剤を含む。溶剤の例はメチルエチルケトンを含む。この場合、絶縁樹脂組成物を膜状に成形しやすく、そのため、絶縁樹脂組成物から絶縁樹脂層3を厚み精度良く作製しやすい。特に揮発性成分の含有率は絶縁樹脂組成物全体に対して30質量%以上であることが好ましい。この場合、絶縁樹脂層3を特に厚み精度良く作製しやすい。揮発性成分の含有率の上限に特に制限はないが、絶縁樹脂層3の作製に当たって揮発成分を効率良く揮発させるためには絶縁樹脂組成物全体に対して50質量%以下であることが好ましい。
【0039】
絶縁樹脂層3の厚みは2μm以上10μm以下であることが好ましい。この厚みが2μm以上であることで、絶縁樹脂層3が導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。またこの厚みが10μm以下であることで、絶縁樹脂層3を備える金属箔付き樹脂シート1、金属箔付き樹脂シート1から作製されるプリント配線板等の厚みを薄くしやすい。
【0040】
絶縁樹脂層3が熱可塑性を有する場合、絶縁樹脂層3の軟化点は、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際の接着層4の加熱温度よりも高いことが好ましい。この場合、接着層4が加熱されている際に絶縁樹脂層3が軟化してないため、絶縁樹脂層3は導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。絶縁樹脂層3の軟化点の具体的な値は、前記の加熱温度に応じて設定されるが、加熱温度よりも100℃以上高いことが好ましい。絶縁樹脂層3の軟化点は、例えば300℃以上330℃以下である。なお、絶縁樹脂層3の軟化点を測定するに当たっては、例えばレオメーターを用いて、昇温速度3℃/分、温度範囲20~325℃、周波数5Hzの条件で、絶縁樹脂層3の粘度-温度関係曲線を得る。この関係曲線における最低粘度の温度を軟化点とする。
【0041】
接着層4は、熱可塑性又は熱硬化性を有する。接着層4は、例えば樹脂組成物(以下、接着樹脂組成物ともいう)から作製される。
【0042】
接着層4が熱可塑性を有する場合、接着樹脂組成物は、例えば熱可塑性樹脂組成物である。熱可塑性樹脂組成物は、例えば液晶ポリマー樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂及びポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む。熱可塑性樹脂組成物は、特にポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂とのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、接着層4に接着される対象物の表面粗さが接着層4と対象物との接着性に影響を与えにくく、すなわち対象物の表面粗さの程度を問わず接着層4と対象物との接着性が良好になりやすい。なお、ポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂としては、上述の絶縁樹脂組成物の説明におけるポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂とを使用することができる。
【0043】
接着層4が熱硬化性を有する場合、接着樹脂組成物は、例えば熱硬化性樹脂組成物である。この場合、接着層4は、例えば熱硬化性樹脂組成物の乾燥物又は硬化物を含有する。熱硬化性樹脂組成物は、例えばエポキシ樹脂を含有する。熱硬化性樹脂組成物は、更にカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有してもよい。この場合、接着層4は熱硬化性を有するものでありながら、接着層4の硬化物は耐屈曲性を有しやすい。
【0044】
熱硬化性樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有する場合、熱硬化性樹脂組成物の組成として、上述の絶縁樹脂組成物がエポキシ樹脂組成物である場合の、エポキシ樹脂組成物の組成を採用できる。
【0045】
接着樹脂組成物は、揮発性成分を含有してもよい。なお、接着樹脂組成物から接着層4を作製する際に接着層4を構成せずに揮発する成分が、揮発性成分である。揮発性成分は、例えば溶剤を含む。溶剤の例はメチルエチルケトンを含む。この場合、接着樹脂組成物を膜状に成形しやすく、そのため、接着樹脂組成物から接着層4を厚み精度良く作製しやすい。特に揮発性成分の含有率は接着樹脂組成物全体に対して30質量%以上であることが好ましい。この場合、接着層4を特に厚み精度良く作製しやすい。揮発性成分の含有率の上限に特に制限はないが、揮発成分を効率良く揮発させるためには50質量%以下であることが好ましい。
【0046】
接着層4の厚みは、上述のとおり3μm以上30μm以下である。この厚みが3μm以上であることで、接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込みやすい。また、この厚みが30μm以下であることで、接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込みやすくしながら、接着層4を備える金属箔付き樹脂シート1、金属箔付き樹脂シート1から作製されるプリント配線板等の厚みを過度に大きくなりにくくできる。接着層4の厚みは3μm以上15μm以下であれば、より好ましい。
【0047】
絶縁樹脂層3が熱可塑性を有する場合と絶縁樹脂層3が熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む場合とのいずれにおいても、接着層4は、熱可塑性と熱硬化性とのうちいずれを有してもよい。
【0048】
絶縁樹脂層3が熱可塑性を有し、かつ接着層4が熱可塑性を有する場合は、接着層4の軟化点は絶縁樹脂層3の軟化点よりも低いことが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際の接着層4の加熱温度を、絶縁樹脂層3の軟化点よりも低くしても、接着層4を軟化させて接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込みやすい。この場合、絶縁樹脂層3は軟化していないので、上述のとおり、絶縁樹脂層3が導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。接着層4の軟化点と絶縁樹脂層3の軟化点との差は、100℃以上であることが好ましい。この差が200℃以下であることも好ましい。この差が100℃以上150℃以下であればより好ましい。
【0049】
絶縁樹脂層3が熱可塑性を有し、かつ接着層4が熱硬化性を有する場合は、接着層4の硬化開始温度は、絶縁樹脂層3の軟化点よりも低いことが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際の接着層4の加熱温度を、絶縁樹脂層3の軟化点よりも低くしても、接着層4を軟化させて接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込んでから接着層4を硬化させやすい。この場合、絶縁樹脂層3は軟化していないので、上述のとおり、絶縁樹脂層3が導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。接着層4の硬化開始温度は、熱機械分析法(TMA法)によって測定される。具体的には、接着層4をTMA法で、温度範囲20~180℃、昇温速度1.5℃/minの条件で測定し、得られたTMA曲線に認められるピークトップに対応する温度を硬化開始温度とする。接着層4の硬化開始温度と絶縁樹脂層3の軟化点との差は、100℃以上であることが好ましい。この差が200℃以下であることも好ましい。この差が100℃以上150℃以下であればより好ましい。
【0050】
絶縁樹脂層3が熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含有し、かつ接着層4が熱可塑性を有する場合は、接着層4の軟化点は絶縁樹脂層3のガラス転移温度及び分解開始温度のいずれよりも低いことが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際の接着層4の加熱温度を、絶縁樹脂層3のガラス転移温度及び分解開始温度よりも低くしても、接着層4を軟化させて接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込みやすい。この場合、絶縁樹脂層3は絶縁樹脂層3はガラス転移温度には達せず、かつ分解しないので、絶縁樹脂層3が導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。接着層4の軟化点と絶縁樹脂層3のガラス転移点との差は、100℃以上であることが好ましい。この差が200℃以下であることも好ましい。この差が100℃以上150℃以下であればより好ましい。接着層4の軟化点と絶縁樹脂層3の分解開始温度との差は、200℃以上であることが好ましい。この差が300℃以下であることも好ましい。この差が200℃以上250℃以下であればより好ましい。なお、絶縁樹脂層3をTMA法で、温度範囲20~180℃、昇温速度1.5℃/minの条件で測定し、得られたTMA曲線に急激な変化が生じ始める温度をガラス転移点とする。また、絶縁樹脂層3をレーザーラマン分光法により測定して、温度変化に応じたラマンスペクトルの変化を調査し、ラマンスペクトルの波形ピークが変化する温度を分解開始温度とする。
【0051】
絶縁樹脂層3が熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含有し、かつ接着層4が熱硬化性を有する場合は、接着層4の硬化開始温度は、絶縁樹脂層3のガラス転移温度及び分解開始温度のいずれよりも低いことが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際の接着層4の加熱温度を、絶縁樹脂層3のガラス転移温度及び分解開始温度のいずれよりも低くしても、接着層4を軟化させて接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込んでから接着層4を硬化させやすい。この場合、絶縁樹脂層3はガラス転移温度には達せず、かつ分解しないので、絶縁樹脂層3が導体配線7又は電子部品8を金属層2に特に到達しにくくできる。接着層4の硬化開始温度と絶縁樹脂層3のガラス転移点との差は、100℃以上であることが好ましい。この差が200℃以下であることも好ましい。この差が100℃以上150℃以下であればより好ましい。接着層4の硬化開始温度と絶縁樹脂層3の分解開始温度との差は、200℃以上であることが好ましい。この差が300℃以下であることも好ましい。この差が200℃以上250℃以下であればより好ましい。
【0052】
接着層4が熱可塑性と熱硬化性とのいずれを有する場合でも、接着層4の最低溶融粘度は105Pa・s未満であることが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1を用いてプリント配線板11を製造する際に接着層4を加熱することで、接着層4に良好な流動性を付与でき、接着層4に導体配線7又は電子部品8を特に埋め込みやすくできる。この最低溶融粘度は1.0×104Pa・s以上1.0×105Pa・s未満であればより好ましい。なお、最低溶融粘度を測定するに当たっては、例えばレオメーターを用いて、昇温速度1.5℃/分、温度範囲20~180℃、周波数5Hzの条件で、接着層4の粘度-温度関係曲線を得る。この関係曲線における最小の粘度を最低溶融粘度とする。
【0053】
上述のとおり、金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みの平均値を基準にした厚みばらつきは、±5μm以内である。すなわち、金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みの最大値は、この厚みの平均値より5μm大きい値以下であり、かつ金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みの最小値は、この厚みの平均値より5μm小さい値以上である。このばらつきは、次の方法で確認される。金属箔付き樹脂シート1に、一方向に並ぶ5つの測定位置を設定し、各測定位置において金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みを、デジタルマイクロメーターを用いて測定する。これにより得られた5つの測定値の平均値を算出する。厚みの測定値の最大値が平均値+5μm以下であり、かつ厚みの測定値の最小値が平均値-5μm以上である場合、厚みの平均値に対するばらつきが±5μm以内である。このように厚みの平均値に対するばらつきが±5μm以内であると、金属箔付き樹脂シート1に、厚みが部分的に小さくなった箇所及び厚みが部分的に大きくなった箇所が生じにくい。このため、導体配線7又は電子部品8の厚みと、金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みとをあらかじめ調整しておけば、接着層4に導体配線7又は電子部品8を埋め込みやすくでき、かつ導体配線7又は電子部品8を金属層2に到達しにくくできる。この厚みの平均値を基準にしたばらつきは、±4以内であればより好ましく、±3以内であれば更に好ましい。このばらつきは理想的には0であることが好ましい。
【0054】
金属箔付き樹脂シート1の製造方法の一具体例について説明する。
【0055】
本方法では、まず金属層2上に絶縁樹脂組成物から絶縁樹脂層3を作製する。この絶縁樹脂層3上に接着樹脂組成物から接着層4を作製する。
【0056】
本方法において、絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とのうち少なくとも一方における揮発性成分含有率は30質量%以上であることが好ましい。この場合、金属箔付き樹脂シート1の厚み精度が特に高くなりやすく、金属層2と絶縁樹脂層3と接着層4とを合わせた厚みの、平均値を基準にした厚みばらつきが±5μm以内であることを、実現しやすい。
【0057】
本方法について、より具体的に説明する。
【0058】
まず、金属層2の材料である銅箔などの金属箔、絶縁層5の材料である絶縁樹脂組成物、及び接着層4の材料である接着樹脂組成物を、用意する。
【0059】
金属箔の表面上に、絶縁樹脂組成物を塗布する。絶縁樹脂組成物をコンマコータで塗布することが好ましい。この場合、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの寸法を調整することで、金属箔上の絶縁樹脂組成物の厚みを精密に制御しやすい。
【0060】
続いて、金属箔上の絶縁樹脂組成物を加熱する。これにより、絶縁樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合には、熱可塑性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を揮発させることで熱可塑性の絶縁樹脂層3を作製する。また、絶縁樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物である場合には、熱硬化性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を揮発させ、更に熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させることで、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む絶縁樹脂層3を作製する。絶縁樹脂組成物を加熱する条件は、絶縁樹脂組成物の組成などに応じて適宜設定される。
【0061】
このように絶縁樹脂層3を作製するに当たり、絶縁樹脂組成物の揮発性成分の含有率が30質量%以上であれば、金属箔上に絶縁樹脂組成物を塗布する際に金属箔上の絶縁樹脂組成物の厚みを更に制御しやすい。また、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの寸法にばらつきが生じていても、揮発性成分の含有率が30質量%以上であれば、絶縁樹脂組成物から作製される絶縁層5の厚みにばらつきが生じにくい。そのため、金属箔付き樹脂シート1の厚み精度を特に高めやすい。
【0062】
続いて、絶縁樹脂層3の上に接着樹脂組成物を塗布する。接着樹脂組成物をコンマコータで塗布することが好ましい。この場合、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの寸法を調整することで、絶縁樹脂層3上の接着樹脂組成物の厚みを精密に制御しやすい。
【0063】
続いて、金属箔上の接着樹脂組成物を加熱する。これにより、接着樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合には、熱可塑性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を揮発させることで熱可塑性の接着層4を作製する。また、接着樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物である場合には、熱硬化性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を揮発させ、或いは更に熱硬化性樹脂組成物を半硬化させることで、熱硬化性樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含む接着層4を作製する。接着樹脂組成物を加熱する条件は、接着樹脂組成物の組成などに応じて適宜設定される。
【0064】
このように接着層4を作製するに当たり、接着樹脂組成物の揮発性成分の含有率が30質量%以上であれば、絶縁樹脂層3上に接着樹脂組成物を塗布する際に絶縁樹脂層3上の接着樹脂組成物の厚みを更に制御しやすい。また、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの寸法にばらつきが生じていても、揮発性成分の含有率が30質量%以上であれば、接着樹脂組成物から作製される接着層4の厚みにばらつきが生じにくい。そのため、金属箔付き樹脂シート1の厚み精度を特に高めやすい。
【0065】
なお、上記において、金属箔上の絶縁樹脂組成物を加熱して絶縁樹脂層3を作製した時点では、絶縁樹脂層3は完全には硬化させずに例えば半硬化の状態としてもよい。この場合、絶縁樹脂層3上の接着樹脂組成物を加熱する際に絶縁樹脂層3も加熱して絶縁樹脂層3の硬化反応を更に進行させてもよい。
【0066】
金属箔付き樹脂シート1の製造方法は上記のみには限られない。例えば絶縁樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物であり、かつ接着樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物である場合に、金属箔付き樹脂シート1を次のように製造することもできる。
【0067】
まず、金属箔の表面上に、絶縁樹脂組成物を塗布する。その方法は、上述の説明と同じでよい。
【0068】
続いて、金属箔上の絶縁樹脂組成物を加熱することなく、絶縁樹脂組成物上に接着樹脂組成物を塗布する。その方法は、上述の説明と同じでよい。
【0069】
続いて、金属箔上の絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とを同時に加熱する。これにより、絶縁樹脂組成物を熱硬化させ、かつ接着樹脂組成物を乾燥させ又は更に半硬化させる。これにより、絶縁樹脂組成物の硬化物を含む絶縁樹脂層3と、接着樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含む接着層4とを作製し、金属箔付き樹脂シート1を得る。
【0070】
このようにして金属箔付き樹脂シート1を製造する場合は、絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とを同じ条件で加熱した場合、絶縁樹脂組成物の硬化反応の方が、接着樹脂組成物の硬化反応よりも進行しやすいことが好ましい。例えば絶縁樹脂組成物の180℃におけるゲルタイムと、接着樹脂組成物の180℃におけるゲルタイムとを比較すると、絶縁樹脂組成物のゲルタイムのほうが30秒以上短いことが好ましい。例えば絶縁樹脂組成物のゲルタイムが60秒であり、接着樹脂組成物のゲルタイムが180秒であることが好ましい。この場合、絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とを同時に加熱することで、絶縁樹脂組成物の硬化物を含む絶縁樹脂層3と、接着樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含む接着層4とを、特に作製しやすい。なおゲルタイムは、各組成物を180℃に維持しながら、ゲルタイム試験機で粘度を測定する試験を行った場合に、試験開始から粘度が500000mPa・sに達するまでに要する時間である。この場合、金属箔上の絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とを同時に加熱しても、絶縁樹脂組成物の硬化物を含む絶縁樹脂層3と、接着樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含有する接着層4とが、作製されうる。
【0071】
絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物との各々の硬化反応の進行のしやすさは、例えば絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物との各々において、硬化剤と硬化促進剤とのうち少なくとも一方の種類を変更すること、熱硬化性樹脂に対する硬化剤と硬化促進剤とのうち少なくとも一方の量を調整すること等によって、制御されうる。例えば絶縁樹脂組成物が含む成分の種類と接着樹脂組成物が含む成分の種類とが同じであり、かつ絶縁樹脂組成物における熱硬化性樹脂に対する硬化剤及び硬化促進剤のうち少なくとも一方の量が、接着樹脂組成物における熱硬化性樹脂に対する硬化剤及び硬化促進剤のうち少なくとも一方の量よりも多ければ、絶縁樹脂組成物の硬化反応の方が、接着樹脂組成物の硬化反応よりも進行しやすくなりうる。
【0072】
金属箔付き樹脂シート1を用いて製造されたプリント配線板11について説明する。
【0073】
プリント配線板11は、図2Bに示すように、例えば金属箔付き樹脂シート1における絶縁樹脂層3と接着層4とから作製された絶縁層5と、絶縁層5に埋め込まれている導体配線7とを備える。プリント配線板11は、絶縁層5に埋め込まれている電子部品8を更に備えてもよい。
【0074】
このようなプリント配線板11を製造する方法について、具体的に説明する。
【0075】
まず、金属箔付き樹脂シート1と、コア材9とを用意する。
【0076】
コア材9は、電気絶縁性を有する基材6と、基材6上にある導体配線7とを備える。図2Aに示す例では、導体配線7は、電子部品8として、インダクタ素子の一部を構成する螺旋状の配線(以下、螺旋部71という)を含む。図2Aに示す例では、螺旋部71におけるライン幅が、螺旋部71の厚みよりも大きい。
【0077】
このコア材9と金属箔付き樹脂シート1とを、コア材9における導体配線7と金属箔付き樹脂シート1における接着層4とが対向するように重ねて積層物を構成し、この積層物を熱プレスする。
【0078】
接着層4が熱可塑性を有する場合には、上記のように積層物を熱プレスすると、接着層4が軟化して流動することで、図2Aに示すように接着層4に導体配線7が埋め込まれ、それにより電子部品8である螺旋部71も接着層4に埋め込まれる。続いて、接着層4が固化する。これにより、絶縁樹脂層3と接着層4の固化物とからなる絶縁層5が作製され、この絶縁層5に導体配線7及び螺旋部71が埋め込まれる。
【0079】
また、接着層4が熱硬化性を有する場合は、上記のように積層物を熱プレスすると、まず接着層4が軟化して流動することで、接着層4に導体配線7が埋め込まれ、それにより電子部品8である螺旋部71も接着層4に埋め込まれる。続いて、接着層4が熱硬化する。これにより、絶縁樹脂層3と接着層4の硬化物とからなる絶縁層5が作製され、この絶縁層5に導体配線7及び螺旋部71が埋め込まれる。
【0080】
このように接着層4に導体配線7及び螺旋部71が埋め込まれる際、既に説明した理由により、導体配線7及び螺旋部71は接着層4に埋め込まれやすく、かつ導体配線7及び螺旋部71は金属層2に到達しにくい。このため、導体配線7及び螺旋部71の各々と金属層2との間の短絡が生じにくい。
【0081】
続いて、必要により、図2Bに示すように、フォトリソグラフィ法などにより、金属箔付き樹脂シート1に由来する金属層2から導体配線10(以下、第二導体配線10といい、コア材9に由来する導体配線7を第一導体配線7という)を作製する。第二導体配線10は、電子部品8として、インダクタ素子の一部を構成する螺旋状の配線(以下、螺旋部101という)を含んでもよい。すなわち、第一導体配線7における螺旋部71と、第二導体配線10における螺旋部101との各々が、同じインダクタ素子の一部を構成してもよい。この場合、第一導体配線7における螺旋部71と第二導体配線10における螺旋部101とは、ビアなどで電気的接続される。
【0082】
このようにして、電子部品8として螺旋部71、101、並びに螺旋部71、101で構成されるインダクタ素子を備えるプリント配線板11が得られる。
【0083】
また、金属箔付き樹脂シート1を用いて作製されたプリント配線板11をコア材9とし、このコア材9に、上記の方法で金属箔付き樹脂シート1を用いて絶縁層5及び導体配線7を積み重ねることで、更に多層のプリント配線板11を得ることができる。また、コア材9上に金属箔付き樹脂シート1を用いて絶縁層5と導体配線7とを繰り返し積み重ねることで、更に多層のプリント配線板11を得ることもできる。
【0084】
なお、上記の説明ではコア材9は導体配線7の一部で構成される電子部品8を備えるが、コア材9は、導体配線7に実装された半導体装置、チップ抵抗などの電子部品8を備えてもよい。この場合も、本実施形態では、プリント配線板11の製造時に電子部品8が接着層4に埋め込まれやすく、かつ電子部品8は金属層2に到達しにくい。
【実施例
【0085】
1.金属箔付き樹脂シートの作製
金属層2として、表1に示す厚みの銅箔を用意した。なお、実施例1~5及び比較例1~2における銅箔は古川電工社製の品番F2WSであり、実施例6における銅箔は福田金属社製の品番SVであり、実施例7における銅箔は三井金属社製の品番MT18Exである。
【0086】
また、表1に示す絶縁樹脂層3の原料組成の欄に示す成分を混合して、絶縁樹脂組成物を調製し、表1における接着層4の原料組成の欄に示す成分を混合して、接着樹脂組成物を調製した。
【0087】
なお、表1に示される成分の詳細は次のとおりである。
・ポリアミド樹脂:カルボジイミド変性可溶性ポリアミド、日清紡ケミカル社製、品番AC-07-M14。
・エポキシ樹脂:日本化薬社製、品番NC-3000H。
・ポリアミドイミド:東洋紡社製、品番HR-46NN。
・MEK:都興産社製、メチルエチルケトン。
・2E4MZ:四国化成社製、2-エチル-4-メチルイミダゾール。
【0088】
金属層2の表面に絶縁樹脂組成物をコンマコータで塗布してから、絶縁樹脂組成物を加熱することで絶縁樹脂層3を作製した。表1の絶縁樹脂層3の作製条件の欄に、絶縁樹脂層3の作製条件を示す。この欄における塗工ギャップは、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップであり、加熱温度と加熱時間は絶縁樹脂組成物を加熱する条件である。なお、実施例2の場合は絶縁樹脂組成物を加熱しなかった。これにより、金属層2と絶縁樹脂層3とを備える半製品を得た。
【0089】
続いて、絶縁樹脂層3の上(実施例2の場合は絶縁樹脂組成物の上)に、接着樹脂組成物をコンマコータで塗布してから、接着樹脂組成物を加熱することで接着層4を作製した。表1の接着樹脂層の作製条件の欄に、接着樹脂層の作製条件を示す。この欄における塗工ギャップは、コンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップであり、加熱温度と加熱時間は接着樹脂組成物を加熱する条件である。また、実施例2の場合は絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とを同時に加熱することで、絶縁樹脂層3と接着樹脂層とを作製した。これにより、金属層2、絶縁樹脂層3及び接着層4を備える製品である金属箔付き樹脂シート1を作製した。
【0090】
2.厚み測定結果
絶縁樹脂層3の厚み、接着層4の厚み、半製品の厚み及び製品(金属箔付き樹脂シート1)の厚みを、測定した。
【0091】
絶縁樹脂層3の厚みは、後述の方法で測定した半製品の平均厚さから、金属層の厚みを差し引いた値である。
【0092】
接着層4の厚みは、後述の方法で測定した製品の平均厚さから、後述の方法で測定した半製品の厚みを差し引いた値である。
【0093】
半製品の厚み測定にあたっては、半製品に一方向に並ぶ5つの厚み測定位置を設定し、各測定位置において半製品の厚みをデジタルマイクロメーターで測定した。これにより得られた5つの測定値の平均値を、平均厚さとして表1に示す。また、平均厚さに対する測定値のばらつきを厚さばらつきとして表1に示す。
【0094】
製品の厚み測定にあたっては、製品に一方向に並ぶ5つの厚み測定位置を設定し、各測定位置において製品の厚みをデジタルマイクロメーターで測定した。これにより得られた5つの測定値の平均値を、平均厚さとして表1に示す。また、平均厚さに対する測定値のばらつきを厚さばらつきとして表1に示す。
【0095】
下記表1に示す結果によると、絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とのうち少なくとも一方の揮発性成分の含有率が30質量%以上である実施例1~7では製品の厚さばらつき±5μm以内を達成できた。特に、絶縁樹脂組成物と接着樹脂組成物とのいずれの揮発性成分の含有率も30質量%以上である実施例1及び2では厚さばらつきが特に小さくなることが確認できた。
【0096】
3.物性測定結果
絶縁樹脂層については、軟化点、ガラス転移温度、分解開始温度、及び絶縁樹脂組成物のゲルタイムを、既に説明した方法で測定した。
【0097】
接着層については、軟化点、最低溶融粘度、接着樹脂組成物のゲルタイム、及び硬化開始温度を、既に説明した方法で測定した。
【0098】
【表1】
【0099】
4.揮発性成分含有率についての詳細評価
特に揮発性成分含有率と厚み精度との関係について調査するために、下記の試験を行った。
【0100】
実施例2において、絶縁樹脂組成物中の溶剤の含有量を変更して、揮発性成分含有率が25質量%である組成物A1、揮発性成分含有率が30質量%である組成物A2及び揮発性成分含有率が35質量%である組成物A3を、調製した。
【0101】
また、実施例2において、接着樹脂組成物中の溶剤の含有量を変更して、揮発性成分含有率が25質量%である組成物B1、揮発性成分含有率が30質量%である組成物B2及び揮発性成分含有率が35質量%である組成物B3を、調製した。
【0102】
金属層2の表面に組成物A1、組成物A2及び組成物A3の各々をコンマコータで塗布した。このときのコンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの中央部の寸法及び中央部の寸法に対するばらつきは、表2のギャップ寸法の欄に示すとおりである。続いて、各組成物を300℃、1分間の条件で加熱することで、絶縁樹脂層3を作製した。この絶縁樹脂層3に一方向に並ぶ5つの厚み測定位置を設定し、各測定位置において金属層2と絶縁樹脂層3とを合わせた厚みをデジタルマイクロメーターで測定した。これにより得られた5つの各測定値から金属層2の厚みを差し引くことで、絶縁樹脂層3の厚みの5つの測定値を得た。この絶縁樹脂層3の厚みの測定値の平均値、及び平均値に対する測定値のばらつきを、表2に示す。
【0103】
また、金属層2の表面に組成物B1、組成物B2及び組成物B3の各々をコンマコータで塗布した。このときのコンマコータにおけるアプリケータロールとバックアップロールとの間のギャップの中央部の寸法及び中央部の寸法に対するばらつきは、表2のギャップ寸法の欄に示すとおりである。続いて、各組成物を180℃、1分間の条件で加熱することで、接着層4を作製した。この接着層4に一方向に並ぶ5つの厚み測定位置を設定し、各測定位置において金属層2と接着層4とを合わせた厚みをデジタルマイクロメーターで測定した。これにより得られた5つの各測定値から金属層2の厚みを差し引くことで、接着層4の厚みの5つの測定値を得た。この接着層4の厚みの測定値の平均値、及び平均値に対する測定値のばらつきを、表2に示す。
【0104】
この結果に示すように、揮発性成分含有率が30質量%よりも多い組成物A1及び組成物B1の場合は、作製された層の厚みのばらつきはギャップ寸法のばらつきと同程度であった。これに対して、揮発性成分含有率が30質量%である組成物A2及び組成物B2の場合は作製された層の厚みのばらつきがギャップ寸法のばらつきよりも小さくなり、揮発性成分含有率が35質量%である組成物A3及び組成物B3の場合は作製された層の厚みのばらつきが更に小さくなった。
【0105】
【表2】
【0106】
5.導体配線の埋め込みについて
実施例1-7では、上記のとおり、製品厚み(金属層、絶縁樹脂層及び接着層をあわせた厚み)のばらつきが±5μm以下であることを達成できた。金属層と絶縁樹脂層とをあわせた厚みのばらつきを考慮すると、実施例1-7では、接着層の厚みのばらつきは±1.5μm以内から±2.5μm以内程度であると判断できる。このように接着層の厚みのばらつきが小さいと、接着層に導体配線又は電子部品を埋め込む場合に、接着層の厚みが部分的に小さくなることを見越して接着層の全体的な厚み(平均厚み)を大きくする必要が無い。このため、金属箔付き樹脂シートから作製されるプリント配線板などの厚みを小さくできる。すなわち、金属箔付き樹脂シートの絶縁樹脂層及び接着層から作製される絶縁層への導体配線又は電子部品の埋め込みを実現しながら、絶縁層の全体的な厚みを小さくしうる。
図1
図2