(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】インパクト回転工具、トルク算出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20231215BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B25B23/14 620C
B25B23/14 610B
B25B23/14 620J
B25B23/14 620F
B25B21/02 M
(21)【出願番号】P 2020153312
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 政憲
(72)【発明者】
【氏名】村上 弘明
(72)【発明者】
【氏名】本田 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】小沢 公孝
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122392(JP,A)
【文献】特開平7-246529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
B25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させるインパクト力発生部と、
前記インパクト力を先端工具に伝達する出力軸と、
前記出力軸に加わるトルクを測定するトルク測定部と、
前記トルク測定部によって測定される前記トルクに基づいて締付トルクを算出するトルク算出部と、
を備え、
前記トルク算出部は、1回のインパクト中に前記トルク測定部によって測定される前記トルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に前記締付トルクを算出する、
インパクト回転工具。
【請求項2】
前記トルク算出部は、
前記トルク波形に対して、前記最大のピーク値を含む山の周波数よりも高い周波数成分をカットする処理を行い、
前記処理後の前記トルク波形に含まれる前記最大のピーク値を基に前記締付トルクを算出する、
請求項1に記載のインパクト回転工具。
【請求項3】
前記トルク算出部は、
前記トルク波形に含まれる前記最大のピーク値を選択し、
前記山の幅に基づいてカットオフ周波数を導出し、
前記カットオフ周波数を用いた前記処理を前記トルク波形に対して行い、
前記処理後の前記トルク波形に含まれる前記最大のピーク値を基に前記締付トルクを算出する、
請求項2に記載のインパクト回転工具。
【請求項4】
前記トルク算出部は、前記トルク波形に含まれるピーク値が1つである場合、前記ピーク値を基に前記締付トルクを算出する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のインパクト回転工具。
【請求項5】
前記トルク算出部によって算出される前記締付トルクが目標トルクに達したとき、前記駆動源を停止させる駆動制御部、を更に備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインパクト回転工具。
【請求項6】
前記トルク算出部によって算出される前記締付トルクに関する情報を通知させる通知制御部を、更に備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載のインパクト回転工具。
【請求項7】
前記通知制御部は、前記締付トルクに関する情報を表示部に表示させる、
請求項6に記載のインパクト回転工具。
【請求項8】
前記トルク算出部によって算出される前記締付トルクに関する情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記情報を作業対象の締付に関する設定に反映させる反映部と、
を更に備える、
請求項1から7のいずれか1項に記載のインパクト回転工具。
【請求項9】
駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させ前記インパクト力を出力軸から先端工具に伝達するインパクト回転工具における前記出力軸に加わるトルクを測定する測定ステップと、
1回のインパクト中に前記測定ステップによって測定される前記トルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する算出ステップと、
を有するトルク算出方法。
【請求項10】
請求項9に記載のトルク算出方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にインパクト回転工具、トルク算出方法及びプログラムに関し、より詳細には、駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させるインパクト回転工具、インパクト回転工具の締付トルクを算出するトルク算出方法、及び、トルク算出方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インパクト機構が出力軸に加える衝撃(インパクト)の数をカウントすることにして、カウントした衝撃数がシャットオフ衝撃数になるとモータ(駆動源)の回転を停止させるインパクト回転工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インパクト回転工具がネジ等の締結部品を締め付ける際の締付トルクを精度よく算出することが望まれている。
【0005】
本開示は上記事由に鑑みてなされており、締結部品を締め付ける際の締付トルクを精度よく算出することができるインパクト回転工具、トルク算出方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るインパクト回転工具は、駆動源と、インパクト力発生部と、出力軸と、トルク測定部と、トルク算出部とを備えている。前記インパクト力発生部は、前記駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させる。前記出力軸は、インパクト力を先端工具に伝達する。前記トルク測定部は、前記出力軸に加わるトルクを測定する。前記トルク算出部は、前記トルク測定部によって測定される前記トルクに基づいて締付トルクを算出する。前記トルク算出部は、1回のインパクト中に前記トルク測定部によって測定される前記トルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に前記締付トルクを算出する。
【0007】
本開示の一態様に係るトルク算出方法は、測定ステップと、算出ステップとを有する。前記測定ステップでは、インパクト回転工具における出力軸に加わるトルクを測定する。前記インパクト回転工具は、駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させ前記インパクト力を前記出力軸から先端工具に伝達する。前記算出ステップでは、1回のインパクト中に前記測定ステップによって測定される前記トルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に前記締付トルクを算出する。
【0008】
本開示の一態様に係るプログラムは、上記トルク算出方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、締結部品を締め付ける際の締付トルクを精度よく算出することができるインパクト回転工具、トルク算出方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るインパクト回転工具の概略図である。
【
図2】
図2は、同上のインパクト回転工具のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上のインパクト回転工具におけるトルク波形と出力軸の回転角度の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、同上のインパクト回転工具が行うトルク算出処理のフローチャートである。
【
図5】
図5は、同上のインパクト回転工具が行う選択処理のフローチャートである。
【
図6】
図6は、同上のインパクト回転工具が行うカットオフ周波数決定処理のフローチャートである。
【
図7】
図7は、同上のインパクト回転工具におけるトルク波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に関する好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態において互いに共通する要素には同一符号を付しており、共通する要素についての重複する説明は省略する。以下の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。本開示において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さのそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0012】
(1)概要
まず、本実施形態に係るインパクト回転工具1の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。以下の説明では、出力軸8に沿う方向を前後方向と規定し、ドライバビット9側を前、モータ2(駆動源)側を後とする。
【0013】
図1に示すように、インパクト回転工具1は、例えば電池パック10等の動力源からの動力(電力等)によって動作する。具体的には、電池パック10から電力が供給されたモータ2が回転し、出力軸8に回転駆動力が伝達される。この出力軸8に例えばドライバビット9等の先端工具が取り付けられている場合、インパクト回転工具1は、作業対象となるワーク(加工対象物)に対して、締結部品(例えば、ネジ等)を取り付けることができる。
【0014】
また、本実施形態のインパクト回転工具1は、パルス状のインパクト力を発生させるインパクト機構3(インパクト力発生部)を有している。インパクト機構3は、出力軸8の負荷トルクが所定レベルを超えると、出力軸8に回転方向のインパクト力を加える。インパクト力が加えられた出力軸8は、インパクト力を締結部品に伝達する。これにより、インパクト回転工具1は、締結部品に対して、より大きな締付トルクを与えることが可能である。このようなインパクト回転工具1としては、インパクトドライバやインパクトレンチ等の様々な種類の工具がある。本実施形態のインパクト回転工具1は、ドライバビット9を出力軸8に装着可能なインパクトドライバである。
【0015】
図2に示すように、本実施形態のインパクト回転工具1は、トルク測定部11と、トルク算出部141とを備えている。トルク測定部11は、出力軸8に加わるトルクを測定する。トルク算出部141は、トルク測定部11によって測定されるトルクに基づいて締付トルクを算出する。
【0016】
また、本実施形態のトルク測定部11は、出力軸8に加えられる各インパクト中に出力軸8に加えられるトルクのトルク波形を測定する。また、本実施形態のトルク算出部141は、トルク測定部11によって測定されるトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0017】
本実施形態のインパクト回転工具1は、トルク波形において、先端工具にトルクが伝わっていない可能性が高い最初のピーク値ではなく、2番目以降のピーク値を基に締付トルクを算出することで、締付トルク算出の精度を向上させることができる。
【0018】
(2)インパクト回転工具の構成
以下、本実施形態に係るインパクト回転工具1の詳細な構成について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、インパクト回転工具1には、充電式の電池パック10が着脱可能に取り付けられる。本実施形態のインパクト回転工具1は、電池パック10を電源として動作する。すなわち、電池パック10は、モータ2を駆動する電流を供給する電源である。電池パック10は、インパクト回転工具1の構成要素ではない。ただし、インパクト回転工具1は、電池パック10を備えていてもよい。電池パック10は、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容したケースと、を備えている。
【0020】
図1に示すように、インパクト回転工具1は、モータ2と、インパクト機構3と、出力軸8と、トルク測定部11と、回転測定部12と、トリガボリューム13とを備えている。
【0021】
トリガボリューム13は、モータ2の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガボリューム13を引く操作により、モータ2のオンオフを切替可能である。また、トリガボリューム13を引く操作の引込み量で、モータ2の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、モータ2の回転速度が速くなる。
【0022】
モータ2は、例えばブラシレスモータである。モータ2は、回転軸21を備えており、電池パック10から供給される電力を回転軸21の回転駆動力に変換する。
【0023】
インパクト機構3は、モータ2の動力からパルス状のインパクト力を発生させる。インパクト機構3は、駆動軸31と、減速機4と、ハンマ5と、アンビル6と、バネ7とを備えている。駆動軸31は、モータ2と出力軸8との間に配置されている。
【0024】
減速機4は、モータ2の回転軸21の回転駆動力を所定の減速比で減速して駆動軸31に伝達する。
【0025】
ハンマ5は、アンビル6に対して移動し、モータ2から動力を得てアンビル6に回転打撃(インパクト)を加える。ハンマ5は、駆動軸31に対して、駆動軸31の軸方向(前後方向)に移動可能であり、かつ、駆動軸31に対して回転可能である。ハンマ5が駆動軸31の軸方向に沿ってアンビル6に近づく向き又はアンビル6から遠ざかる向きに移動するのに伴って、ハンマ5が駆動軸31に対して回転する。また、ハンマ5は、バネ7に対して回転可能である。
【0026】
アンビル6は、出力軸8と一体に形成されている。アンビル6は、駆動軸31の軸方向においてハンマ5と対向している。インパクト機構3が打撃動作を行っていない場合には、駆動軸31と、ハンマ5と、アンビル6とが一体に回転する。
【0027】
バネ7は、減速機4とハンマ5との間に挟まれている。本実施形態のバネ7は、例えば円錐バネである。バネ7は、駆動軸31の軸方向に沿った方向において、出力軸8に向かう向き(前向き)の力を、ハンマ5に加えている。
【0028】
以下では、駆動軸31の軸方向においてハンマ5がアンビル6に近づく向きに移動することを、「ハンマ5が前進する」と称する。また、以下では、駆動軸31の軸方向においてハンマ5がアンビル6から遠ざかる向きに移動することを、「ハンマ5が後退する」と称す。
【0029】
インパクト機構3では、負荷トルクが所定値以上となると、打撃動作が開始される。すなわち、負荷トルクが大きくなってくると、ハンマ5とアンビル6との間で発生する力のうち、ハンマ5を後退させる向きの分力も大きくなってくる。負荷トルクが所定値以上となると、ハンマ5は、バネ7を圧縮させながら後退する。そして、ハンマ5は、後退しつつ回転する。その後、ハンマ5がバネ7からの復帰力を受けて前進する。そして、駆動軸31が略半回転するごとハンマ5がアンビル6に回転打撃を加える。
【0030】
このように、インパクト機構3では、ハンマ5がアンビル6に繰り返しインパクトを与える。このインパクトによるトルクにより、インパクトが無い場合と比較して、ネジ、ボルト又はナット等の締結部材を強力に締め付けることができる。
【0031】
出力軸8は、先端工具としてのドライバビット9が装着される。出力軸8は、駆動軸31から伝達される回転駆動力を、ドライバビット9に伝達する。これにより、ドライバビット9が回転する。ドライバビット9が締結部材に当てられた状態でドライバビット9が回転することにより、締結部材を締め付ける又は緩めるといった作業が可能となる。また、出力軸8は、インパクト機構3から伝達される回転打撃力(インパクト力)を、ドライバビット9に伝達する。
【0032】
なお、ドライバビット9は、出力軸8に着脱可能である。本実施形態では、ドライバビット9等の先端工具は、インパクト回転工具1の構成に含まれていない。ただし、先端工具は、インパクト回転工具1の構成に含まれていてもよい。
【0033】
トルク測定部11は、例えばねじり歪みの検出が可能な磁歪式歪センサであり、出力軸8にトルクが加わることにより発生する軸の歪みに応じた透磁率の変化を非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を、後述する制御部14に出力する。
【0034】
回転測定部12は、例えばロータリーエンコーダであり、出力軸8の回転角度をデジタル信号として、制御部14に出力する。
【0035】
図2に示すように、本実施形態のインパクト回転工具1は、制御部14と、記憶部15と、通信部16とを更に備える。
【0036】
記憶部15は、例えば、半導体メモリで構成されている。記憶部15は、トルク情報151と、設定情報152とを記憶している。トルク情報151は、インパクト回転工具1が締結部品を締め付けたときの締付トルクに関する情報等を含む。設定情報152は、例えば、1又は複数の作業手順の情報や、作業手順等に関連付けられた目標トルク等の情報を含む。本開示でいう「目標トルク」とは、締結部品を取り付ける際の締付トルクの目標である。
【0037】
通信部16は、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)又は免許を必要としない小電力無線(特定小電力無線)等の規格に準拠した無線通信方式を採用する。通信部16は、後述する設定端末100との間で無線通信を行うが、設定端末100との間で有線通信方式により通信を行ってもよい。
【0038】
制御部14は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部14の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0039】
図2に示すように、制御部14は、トルク算出部141と、駆動制御部142と、通知制御部143と、反映部144とを有している。
【0040】
トルク算出部141は、トルク測定部11によって測定されるトルクに基づいて締付トルクを算出する締付トルク算出処理を行う。具体的には、本実施形態のトルク算出部141は、インパクト機構3(
図1参照)が出力軸8(
図1参照)に与えるインパクト毎の締付トルクを算出する。
【0041】
図3は、1回のインパクト中に、トルク測定部11(
図2参照)によって測定されるトルク波形G1と、回転測定部12(
図2参照)によって測定される出力軸8(
図1参照)の回転角度G2の関係を示すグラフである。
図3に示すように、各インパクト中のトルク波形G1に複数(
図3の例では2つ)のピーク値が存在する場合がある。
図3の例では、ピーク値P1及びピーク値P2の2つのピーク値がトルク波形に存在する。本開示でいう「ピーク値」とは、トルク波形における極大値であって、所定以上の大きさの値のことをいう。本実施形態のトルク算出部141は、1回のインパクト中に測定されるトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値(
図3の例ではピーク値P2)のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。トルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、1番目のピーク値(
図3の例ではピーク値P1)のタイミングは、出力軸8、先端工具及び締結部品間のクリアランス(回転ガタ)が埋まるタイミングであり、締結部品までトルクが伝達されていない可能性が高いタイミングである。このため、トルク算出部141は、1番目のピーク値を基にして締付トルクを算出しない。
【0042】
また、出力軸8が締付方向から逆方向に切り替わる点で、出力軸8にトルクが加わっている状態から出力軸8にトルクが加わっていない状態になる。
図3の例では、タイミングT10において、出力軸8にトルクが加わっている状態から、出力軸8にトルクが加わっていない状態になっている。そして、タイミングT10の時点で出力軸8に加わっていたトルクが実際の締付トルクであると考えられる。ここで、タイミングT10は、トルク波形G1における2番目以降(
図3の例では2番目)の山M2のピーク値P2のタイミングT2付近である。すなわち、
図3は、2番目以降の山M2のピーク値P2を基に締付トルクを算出することが適切であることを示している。
【0043】
一方で、1番目の山M1におけるピーク値P1のタイミングT1では、回転角度G2が大きくなっている最中である。すなわち、
図3は、1番目の山M1のピーク値P1を基に締付トルクを算出することが不適切であることを示している。
【0044】
以上のように、本実施形態のインパクト回転工具1は、1回のインパクト中に測定されるトルク波形において、先端工具にトルクが伝わっていない可能性が高い1番目のピーク値を基にして締付トルクを算出しない。そのため、本実施形態のインパクト回転工具1は、締付トルク算出の精度を向上させることができる。
【0045】
締付トルク算出処理の詳細については、「(4)締付トルク算出処理」の欄で説明する。トルク算出部141は、締付トルク算出処理において算出した締付トルクに関する情報を、駆動制御部142に出力する。
【0046】
駆動制御部142は、モータ2の動作を制御する。本実施形態の駆動制御部142は、トルク算出部141によって算出される締付トルクが目標トルクに達したとき、モータ2を停止させる。本実施形態の駆動制御部142は、記憶部15に記憶される設定情報152に含まれる目標トルクに基づいて、トルク算出部141によって算出される締付トルクが目標トルクに達したか否かを判定する。
【0047】
通知制御部143は、トルク算出部141によって算出される締付トルクに関する情報を通知させる。本実施形態の通知制御部143は、通信部16を介して、締付トルクに関する情報を設定端末100の表示部101(通知部)に表示させる。なお、通知制御部143は、締付トルクに関する情報を、スピーカ(通知部)から音声として出力させてもよい。また、インパクト回転工具1が、通知部として表示部やスピーカを備えている場合、通知制御部143は、インパクト回転工具1が備える表示部やスピーカを用いて、締付トルクに関する情報を通知させてもよい。また、通知制御部143は、作業手順に関する通知や、作業手順に対応する目標トルク値等の通知を行ってもよい。
【0048】
反映部144は、記憶部15に記憶されているトルク情報151を、インパクト回転工具1の締結部品の締付に関する設定に反映させる。言い換えると、反映部144は、過去の作業データを、締結部品の締付に関する設定に反映させる。例えば、トルク情報151に、締結部品の種類と、目標トルクと、締付トルクが目標トルクに達したときのインパクト(打撃)数とが関連付けられている場合、インパクト回転工具1は、締結部品の種類及び目標トルクに応じて、インパクト数を管理することでも、トルク管理を行うことが可能である。すなわち、締結部品に応じて、モータ2の出力調整等をより適切に行うことができる。また、過去の作業データが締結部品の締付に関する設定に反映されるため、作業者が締付部品の締付に関する設定を行う手間を低減することができる。
【0049】
(3)設定端末の構成
以下、本実施形態に係る設定端末100の詳細な構成について、
図2を参照して説明する。
【0050】
設定端末100は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォン、タブレット端末等の情報端末である。
図2に示すように、設定端末100は、表示部101と、操作部102と、通信部103と、制御部104とを備えている。
【0051】
通信部103は、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)又は免許を必要としない小電力無線(特定小電力無線)等の規格に準拠した、無線通信方式を採用する。通信部103は、インパクト回転工具1との間で無線通信を行うが、インパクト回転工具1との間で有線通信方式により通信を行ってもよい。
【0052】
表示部101及び操作部102は、例えば、一体に構成されたタッチパネルディスプレイである。本実施形態の表示部101は、インパクト回転工具1の通知制御部143の指示に応じて、締付トルクに関する情報を表示する。
【0053】
制御部104は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部104の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。制御部104は、表示部101、操作部102及び通信部103を制御するように構成されている。
【0054】
(4)締付トルク算出処理
以下、締付トルク算出処理(トルク算出方法)の詳細について、
図4~
図7を参照して説明する。
【0055】
図4は、締付トルク算出処理の手順を示すフローチャートである。まず、トルク算出部141は、トルク測定部11が測定したトルクのトルク波形に対して第1フィルタリングを行う(S1)。トルク算出部141は、第1フィルタリングにおいて、所定のカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いて高周波成分のノイズをカットする。ここで、所定のカットオフ周波数は、後述する第2フィルタリングで使用するローパスフィルタのカットオフ周波数よりも高い周波数である。
【0056】
次に、トルク算出部141は、第1選択処理を行う(S2)。第1選択処理は、第2フィルタリングで使用されるローパスフィルタのカットオフ周波数を決定するためにトルク波形に含まれるピーク値を選択する処理である。
図5は、第1選択処理(S2)及び第2選択処理(S5)のフローチャートである。トルク算出部141は、トルク波形全体の始点及び終点を探索する(S11)。具体的には、トルク算出部141は、トルク波形全体の始点として、トルク波形全体のうちの最初の立ち上がりから変曲点を探索し、トルク波形全体の終点として、トルク波形全体のうちの最後の立ち下がりから変曲点を探索する。次に、トルク算出部141は、トルク波形全体の中で最大となるピーク値を探索し、上記ピーク値を仮選択する(S12)。言い換えると、トルク算出部141は、トルク波形全体の中で最大の極大値を探索する。次に、トルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山の始点及び終点を探索する(S13)。本開示でいう「山」とは、トルク波形の中で山形(凸形)となる部分であり、ピーク値を頂点として、立ち上がりの点である始点及び立ち下がりの点である終点を有する部分である。本実施形態のトルク算出部141は、仮選択したピーク値と隣り合う変曲点を探索することにより、山の始点及び終点を探索する。具体的には、ピーク波形において、仮選択したピーク値と隣り合う2つの変曲点のうち、仮選択したピーク値よりも先に存在する変曲点が山の始点であり、仮選択したピーク値よりも後に存在する変曲点が山の終点である。
【0057】
トルク算出部141は、山の始点及び終点を探索した後、トルク波形全体の始点と、山の始点とを比較して時間差を確認する(S14)。トルク波形全体の始点及び山の始点の時間差が閾値Th1(
図7参照)以上である場合(S15でYes)、トルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山が2番目以降の山であると判定する(S16)。「2番目以降の山」とは、1番目の山ではないということである。トルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山が2番目以降の山であると判定すると、仮選択したピーク値を最大のピーク値として決定する(S17)。トルク算出部141は、最大のピーク値を決定すると、第1選択処理(S2)を終了する。
【0058】
一方、ステップS15の処理において、トルク波形全体の始点及び山の始点の時間差が閾値Th1未満である場合(S15でNo)、トルク算出部141は、トルク波形全体の終点と、山の終点とを比較して時間差を確認する(S18)。トルク波形全体の終点及び山の終点の時間差が閾値Th2(
図7参照)未満である場合(S19でYes)、トルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山のみが、トルク波形の中に存在すると判定する(S20)。言い換えると、トルク算出部は、トルク波形全体が1つの山であると判定する。本実施形態のトルク算出部141は、トルク波形において、ピーク値が1つしかない場合は、その1つのピーク値を基に締付トルクを算出する。トルク算出部141は、トルク波形全体が1つの山であると判定すると、仮選択したピーク値を最大のピーク値として決定する(S17)。トルク算出部141は、最大のピーク値を決定すると、第1選択処理(S2)を終了する。
【0059】
また、ステップS19の処理において、トルク波形全体の終点及び山の終点の時間差が閾値Th2以上である場合、すなわち、時間差が閾値Th2未満ではない場合(S19でNo)、トルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山が1番目の山であると判定する(S21)。仮選択されたピーク値を含む山が1番目の山である場合、仮選択されたピーク値を基にして締付トルクを算出することは不適切である可能性が高い。そこで、トルク算出部141は、仮選択したピーク値を探索候補から除外し(S22)、再び最大のピーク値を探索する(S12)。そして、トルク算出部141は、最大のピーク値を決定する(S17)まで、第1選択処理(S2)を行う。なお、第1選択処理において、トルク算出部141が最大のピーク値を決定することを、「最大のピーク値の仮決定」としてもよい。
【0060】
トルク算出部141は、第1選択処理を行うと(S2)、カットオフ周波数決定処理を行う(S3)。
図6は、カットオフ周波数決定処理(S3)の手順を示すフローチャートである。トルク算出部141は、最大のピーク値を含む山の始点及び終点から、山の幅を算出する(S31)。本開示でいう「山の幅」とは、山の立ち上がりから立ち下がりまでの時間である。言い換えると、山の始点から山の終点までの時間である。また、「山の幅」は、山の半周期と概ね一致する。トルク算出部141は、山の幅を算出すると、山の幅に基づいてカットオフ周波数を決定する(S32)。具体的には、本実施形態のトルク算出部141は、山の幅の逆数をカットオフ周波数に決定する。このカットオフ周波数は、山の周波数よりも高い周波数である。トルク算出部141は、カットオフ周波数を決定すると(S32)、カットオフ周波数決定処理(S3)を終了する。
【0061】
トルク算出部141は、カットオフ周波数決定処理を行うと(S3)、トルク波形に対して第2フィルタリングを行う(S4)。なお、第2フィルタリングは、第1フィルタリングが行われた後のトルク波形に対して行われてもよいし、第1フィルタリングが行われていないトルク波形に対して行われてもよい。トルク算出部141は、第2フィルタリングにおいて、カットオフ周波数決定処理(S3)において決定したカットオフ周波数で、高周波成分のノイズをカットする。ここで、カットオフ周波数決定処理(S3)において決定されたカットオフ周波数は、第1フィルタリングで使用されるローパスフィルタのカットオフ周波数よりも低い周波数である。
【0062】
トルク算出部141は、第2フィルタリングを行うと(S4)、第2選択処理(S5)を行う。第2選択処理は、第2フィルタリング後のトルク波形から、締付トルクを算出する基となるピーク値を選択する処理である。第2選択処理(S5)は、上述した第1選択処理(S2)と同じ処理であるため、説明を省略する。トルク算出部141は、第2選択処理(S5)において最大のピーク値を決定すると、このピーク値を基に締付トルクを算出する(S6)。トルク算出部141は、締付トルクを算出すると(S6)、締付トルク算出処理を終了する。
【0063】
次に、
図7を参照しつつ、第1選択処理及びカットオフ周波数決定処理を説明する。
図7は、1回のインパクト中にトルク測定部11によって測定されるトルクのトルク波形を示すグラフである。トルク算出部141は、第1選択処理(
図4のS2)を開始すると、トルク波形全体の始点P3及び終点P10を探索する(
図5のS11)。次に、トルク算出部141は、トルク波形全体の中で最大となるピーク値P6を探索し、ピーク値P6を仮選択する(
図5のS12)。なお、極大値P4は、トルク波形における極大値ではあるが、所定値未満の大きさの値であるため、本開示でいう「ピーク値」に含まれない。次に、トルク算出部141は、仮選択したピーク値P6を含む山M3の始点P5及び終点P7を探索する(
図5のS13)。トルク算出部141は、山M3の始点P5及び終点P7を探索した後、トルク波形全体の始点P3と、山M3の始点P5とを比較して時間差(T4-T3)を確認する(
図5のS14)。
図7の例では、トルク波形全体の始点P3及び山M3の始点P5の時間差(T4-T3)は、閾値Th1未満である(
図5のS15でNo)。次に、トルク算出部141は、トルク波形全体の終点P10と、山M3の終点P7とを比較して時間差(T9-T6)を確認する(
図5のS18)。
図7の例では、トルク波形全体の終点P10及び山M3の終点P7の時間差(T9-T6)は、閾値Th2以上である(
図5のS19でNo)。そして、トルク算出部141は、ピーク値P6を含む山M3を1番目の山であると判定し(
図5のS21)、ピーク値P6を除外する(
図5のS22)。
【0064】
次に、トルク算出部141は、ピーク値P6を除いてトルク波形全体の中で最大となるピーク値P9を探索し、ピーク値P9を仮選択する(
図5のS12)。次に、トルク算出部141は、ピーク値P9を含む山M2の始点P8及び終点P10を探索する(
図5のS13)。トルク算出部141は、山M4の始点P8及び終点P10を探索した後、トルク波形全体の始点P3と、山M4の始点P8とを比較して時間差(T7-T3)を確認する(
図5のS14)。
図7の例では、トルク波形全体の始点P3及び山M4の始点P8の時間差(T7-T3)は、閾値Th1以上であるため(
図5のS15でYes)、トルク算出部141は、ピーク値P9を含む山M4を2番目以降の山であると判定する(
図5のS16)。そして、トルク算出部141は、仮選択したピーク値P9を最大ピーク値として決定し(
図5のS17)、第1選択処理(
図4のS2)を終了する。
【0065】
次に、トルク算出部141は、カットオフ周波数決定処理(
図4のS3)を開始する。トルク算出部141は、最大のピーク値P9を含む山M4の始点P8及び終点P10から、山M4の幅W1を算出する(
図6のS31)。そして、トルク算出部141は、山M4の幅W1の逆数をカットオフ周波数に決定し(
図6のS32)、カットオフ周波数決定処理(
図4のS3)を終了する。
【0066】
(5)作用効果
上述のように、本実施形態のインパクト回転工具1は、インパクト機構3と、出力軸8と、トルク測定部11と、トルク算出部141とを備えている。トルク算出部141は、1回のインパクト中にトルク測定部11によって測定されるトルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。これにより、本実施形態のインパクト回転工具1は、先端工具にトルクが伝わっていない可能性が高い1番目のピーク値を基にした締付トルクを算出しないことで、締付トルク算出の精度を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態のトルク算出部141は、トルク波形に対して、最大のピーク値を含む山の周波数よりも高い周波数成分をカットする処理(第2フィルタリング)を行った後に、締付トルクを算出する。トルク波形に重畳している高周波のノイズ成分を除去することで、締付トルク算出の精度をより向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態のトルク算出部141は、トルク波形に含まれる最大のピーク値を仮選択する(第1選択処理)。また、本実施形態のトルク算出部141は、仮選択したピーク値を含む山の始点及び終点間の幅に基づいてカットオフ周波数を導出し(カットオフ周波数決定処理)、第2フィルタリングを行う。トルク算出部(141)は、処理後のトルク波形に含まれる最大のピーク値を選択し(第2選択処理)、選択したピーク値を基に締付トルクを算出する。一度最大のピーク値を仮選択し、そのピーク値を含む山の幅に基づいた第2フィルタリングを行った後で、第2フィルタリング後のトルク波形から選択した最大のピーク値を基に締付トルクを算出するため、締付トルク算出の精度をより向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態のトルク算出部141は、トルク波形に含まれるピーク値が1つである場合、そのピーク値を基に締付トルクを算出する。トルク波形において、ピーク値が1つしかない場合は、1つのピーク値を基に締付トルクを算出することで、締付トルク算出の精度を向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態のインパクト回転工具1は、駆動制御部142を更に備えている。駆動制御部142は、トルク算出部141によって算出される締付トルクが目標トルクに達したときモータ2を停止させる。そのため、本実施形態のインパクト回転工具1は、適切な締付動作を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態のインパクト回転工具1は、通知制御部143を更に備えている。トルク算出部141によって算出される締付トルクに関する情報を通知制御部143が通知させることで、インパクト回転工具1を利用する作業者等が締付トルクを確認することができる。
【0072】
また、本実施形態の通知制御部143は、締付トルクに関する情報を、設定端末100の表示部101に表示させる。作業者等は、例えば騒音の中であっても、表示部101を視認することで締付トルクに関する情報を確認することができる。
【0073】
また、本実施形態のインパクト回転工具1は、記憶部15と反映部144とを更に備える。反映部144が、記憶部15に記憶されている締付トルクに関する情報を作業対象の締付に関する設定に反映させることで、モータ2の出力調整等をより適切に行うことができる。
【0074】
(6)変形例
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の説明する変形例は、実施形態と適宜組み合わせて適用可能である。
【0075】
また、上記実施形態に係るインパクト回転工具1と同等の機能は、トルク算出方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係るトルク算出方法は、測定ステップと、算出ステップとを有する。測定ステップでは、インパクト回転工具1における出力軸8に加わるトルクを測定する。インパクト回転工具1は、モータ2の動力からパルス状のインパクト力を発生させ上記インパクト力を出力軸8から先端工具(ドライバビット9)に伝達する。算出ステップでは、1回のインパクト中に測定ステップによって測定されるトルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。一態様に係るプログラムは、上記のトルク算出方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0076】
インパクト回転工具1が、1つの筐体内に集約されていることは必須の構成ではない。インパクト回転工具1の構成要素は、複数の筐体に分散されて設けられていてもよい。例えば、トルク算出部141が、モータ2やインパクト機構3等が設けられている筐体とは別の筐体に設けられていてもよい。
【0077】
上記実施形態では、インパクト回転工具1は、一例としてインパクトドライバである。しかし、インパクト回転工具1は、インパクトドライバに限らず、例えばインパクトレンチでもよい。
【0078】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係るインパクト回転工具(1)は、駆動源(モータ2)と、インパクト力発生部(インパクト機構3)と、出力軸(8)と、トルク測定部(11)と、トルク算出部(141)とを備えている。インパクト力発生部は、駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させる。出力軸(8)は、インパクト力を先端工具(ドライバビット9)に伝達する。トルク測定部(11)は、出力軸(8)に加わるトルクを測定する。トルク算出部(141)は、トルク測定部(11)によって測定されるトルクに基づいて締付トルクを算出する。トルク算出部(141)は、1回のインパクト中にトルク測定部(11)によって測定されるトルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0079】
この態様によれば、1回のインパクト中に測定されるトルク波形において、先端工具(ドライバビット9)にトルクが伝わっていない可能性が高い最初のピーク値を基にして締付トルク値を算出しないことで、締付トルクを精度よく算出することができる。
【0080】
第2の態様に係るインパクト回転工具(1)では、第1の態様において、トルク算出部(141)は、トルク波形に対して、最大のピーク値を含む山の周波数よりも高い周波数成分をカットする処理を行い、上記処理後のトルク波形に含まれる最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0081】
この態様によれば、トルク波形に重畳している高周波のノイズ成分を除去することで、締付トルク算出の精度をより向上させることができる。
【0082】
第3の態様に係るインパクト回転工具(1)では、第2の態様において、トルク算出部(141)は、トルク波形に含まれる最大のピーク値を選択する。トルク算出部(141)は、山の幅に基づいてカットオフ周波数を導出し、カットオフ周波数を用いた上記処理をトルク波形に対して行う。トルク算出部(141)は、上記処理後のトルク波形に含まれる最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0083】
この態様によれば、一度最大のピーク値を仮選択し、そのピーク値を含む山の幅に基づいた上記処理をトルク波形に対して行った後で、処理を行ったトルク波形から選択した最大のピーク値を基に締付トルクを算出するため、締付トルク算出の精度をより向上させることができる。
【0084】
第4の態様に係るインパクト回転工具(1)では、第1から第3のいずれかの態様において、トルク算出部(141)は、トルク波形に含まれるピーク値が1つである場合、ピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0085】
この態様によれば、1回のインパクト中に測定されるトルク波形において、ピーク値が1つしかない場合は、1つのピーク値を基に締付トルクを算出することで、締付トルク算出の精度を向上させることができる。
【0086】
第5の態様に係るインパクト回転工具(1)は、第1から第4のいずれかの態様において、駆動制御部(142)を更に備える。駆動制御部(142)は、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクが目標トルクに達したとき、駆動源(モータ2)を停止させる。
【0087】
この態様によれば、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクが目標トルクに達したとき駆動源(モータ2)を停止することで、適切な締付動作を行うことができる。
【0088】
第6の態様に係るインパクト回転工具(1)は、第1から第5のいずれかの態様において、通知制御部(143)を更に備える。通知制御部(143)は、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクに関する情報を通知させる。
【0089】
この態様によれば、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクに関する情報を通知することで、インパクト回転工具(1)を利用する作業者等が締付トルクを確認することができる。
【0090】
第7の態様に係るインパクト回転工具(1)では、第6の態様において、通知制御部(143)は、締付トルクに関する情報を表示部(101)に表示させる。
【0091】
この態様によれば、締付トルクに関する情報を表示部(101)に表示させることで、騒音の中であっても作業者等が締付トルクを確認することができる。
【0092】
第8の態様に係るインパクト回転工具(1)は、第1から第7のいずれかの態様において、記憶部(15)と、反映部(144)と、を更に備える。記憶部(15)は、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクに関する情報を記憶する。反映部(144)は、記憶部(15)に記憶されている情報を作業対象の締付に関する設定に反映させる。
【0093】
この態様によれば、トルク算出部(141)によって算出される締付トルクに関する情報を作業対象の締付に関する設定に反映させることで、駆動源(モータ2)の出力調整などをより適切に行うことができる。
【0094】
第1の態様以外の構成については、インパクト回転工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0095】
第9の態様に係るトルク算出方法は、測定ステップと、算出ステップとを有する。測定ステップでは、インパクト回転工具(1)における出力軸(8)に加わるトルクを測定する。インパクト回転工具(1)は、駆動源の動力からパルス状のインパクト力を発生させ上記インパクト力を出力軸(8)から先端工具(ドライバビット9)に伝達する。算出ステップでは、1回のインパクト中に測定ステップによって測定されるトルクのトルク波形に複数のピーク値が含まれる場合、2番目以降の1以上のピーク値のうちの最大のピーク値を基に締付トルクを算出する。
【0096】
この態様によれば、1回のインパクト中に測定されるトルク波形において、先端工具(ドライバビット9)にトルクが伝わっていない可能性が高い最初のピーク値を基にして締付トルク値を算出しないことで、締付トルクを精度よく算出することができる。
【0097】
第10の態様に係るプログラムは、第9の態様に係るトルク算出方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0098】
1 インパクト回転工具
2 モータ2(駆動源)
3 インパクト機構(インパクト力発生部)
8 出力軸
9 ドライバビット(先端工具)
11 トルク測定部
141 トルク算出部
142 駆動制御部
143 通知制御部
144 反映部
15 記憶部
101 表示部