(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電池、及び電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231215BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231215BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231215BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231215BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20231215BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231215BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M10/0567
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2021520039
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051324
(87)【国際公開番号】W WO2020235126
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019096320
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】澤田 光一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 正久
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光宏
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213260(JP,A)
【文献】特開2014-096528(JP,A)
【文献】特表2008-543002(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0084771(KR,A)
【文献】米国特許第9070932(US,B2)
【文献】特開2009-043597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置する電解質と、を備え、
前記正極は、酸化グラフェンを含む正極層を備え、
前記電解質は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む、
電池。
【請求項2】
前記酸化グラフェンにおける炭素に対する酸素の重量比が、0.1以上かつ0.3以下である、
請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記ルイス酸は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである、
請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記電解質における前記ルイス酸の濃度が6重量%以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記電解質における前記ルイス酸の濃度が16重量%以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
前記負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極層を備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記負極層は、リチウム元素を含有する活物質を含む、
請求項6に記載の電池。
【請求項8】
前記負極層は、金属リチウムを活物質として含む、
請求項6に記載の電池。
【請求項9】
前記電解質は、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含む電解液である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の電池。
【請求項10】
前記非水溶媒が、炭酸エステルである、
請求項9に記載の電池。
【請求項11】
前記リチウム塩が、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)である、
請求項9又は10に記載の電池。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の電池の製造方法であって、
ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む電解質に酸素を溶解させる第1工程と、
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置するとともに酸素を溶解させた前記電解質と、を備える前駆電池を充電する第2工程と、を含み、
前記前駆電池の前記正極は、炭素材料と前記電解質とを含む前駆層を備える、
電池の製造方法。
【請求項13】
前記第2工程において、Li/Li
+基準電極に対する前記正極の電位を4.3V以上とした前記前駆電池の充電が実施される、
請求項12に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池、及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有する。しかし、比重の大きな遷移金属化合物が活物質として、通常、含まれることから、重量あたりの容量(以下、「容量」と記載)には限界がある。次世代モビリティへの使用には、より高容量の電池が必要である。
【0003】
特許文献1には、酸化グラフェン及び酸化カーボンナノチューブ等のナノ構造カーボン材料を正極活物質に用いた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、高容量化が可能な新規の電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電池は、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置する電解質と、を備え、
前記正極は、酸化グラフェンを含む正極層を備え、
前記電解質は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高容量化が可能な新規の電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電池の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電池の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例で作製した二次電池の放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の基礎となった知見>
特許文献1の二次電池では、炭素材料が正極材料に使用されており、軽量化及びこれによる高容量化が期待される。しかし、本発明者らの検討によれば、当該二次電池で達成される高容量化は未だ不十分である。本発明者らは、酸化グラフェンを含む正極層を備える正極と、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む電解質と、を備える電池により、さらなる高容量化が達成されることを見出した。
【0010】
<本開示に係る一態様の概要>
本開示の一態様に係る電池は、酸化グラフェンを含む正極層を備える正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置するとともに、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む電解質と、を備える。酸化グラフェンは、リチウムイオン及びナトリウムイオンをはじめとするキャリアイオンの活物質として機能しうる。当該機能には、グラフェン上の酸素が寄与すると推定される。ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸は、充放電反応に関与する酸素を酸化グラフェンに与える作用を有しうる。また、当該ルイス酸を含む電解質は、酸素を多く溶解しうる。そのため、この電池では、さらなる高容量化を達成できる。
【0011】
第2の態様において、例えば、前記酸化グラフェンにおける炭素に対する酸素の重量比(以下、「O/C比」と記載)が、0.1以上かつ0.3以下であってもよい。この範囲のO/C比を酸化グラフェンが有する場合に、さらなる高容量化の達成がより確実となる。
【0012】
第3の態様において、例えば、前記ルイス酸は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートであってもよい。テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートは、酸化グラフェンに酸素を与える強い作用を有しうる。
【0013】
第4の態様において、例えば、前記電解質における前記ルイス酸の濃度が6重量%以上であってもよい。
【0014】
第5の態様において、例えば、前記電解質における前記ルイス酸の濃度が16重量%以上であってもよい。電解質におけるルイス酸の濃度が上記各範囲にあると、電解質に溶解した酸素の濃度を向上できる。
【0015】
第6の態様において、例えば、前記負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極層を備えていてもよい。この態様では、リチウムイオン二次電池の構築が可能となる。
【0016】
第7の態様において、例えば、前記負極層は、リチウム元素を含有する活物質を含んでいてもよい。
【0017】
第8の態様において、例えば、前記負極層は、金属リチウムを活物質として含んでいてもよい。
【0018】
第9の態様において、例えば、前記電解質は、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含む電解液であってもよい。
【0019】
第10の態様において、例えば、前記非水溶媒が、炭酸エステルであってもよい。炭酸エステルは、電解液の溶媒として高い耐電圧特性を備えうる。
【0020】
第11の態様において、例えば、前記リチウム塩が、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)であってもよい。LiBF4を含む電解液は、高いリチウムイオン伝導性を有しうる。
【0021】
第12の態様において、例えば、上記各態様の電池は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む電解質に酸素を溶解させる第1工程と、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置するとともに酸素を溶解させた前記電解質と、を備える前駆電池を充電する第2工程と、を含み、前記前駆電池の前記正極は、炭素材料と前記電解質とを含む前駆層を備える、電池の製造方法によって製造されてもよい。この方法では、第2工程の充電によって炭素材料が酸化され、酸化グラフェンが形成される。これにより、前駆層は、酸化グラフェンを含む正極層となる。
【0022】
第13の態様では、例えば、前記第2工程において、Li/Li+基準電極に対する前記正極の電位を4.3V以上とした前記前駆電池の充電が実施されてもよい。
【0023】
<実施形態>
以下、本開示の電池の実施形態を説明する。ただし、以下の説明は、いずれも、包括的又は具体的な例を示すものである。以下に示される数値、組成、形状、膜厚、電気特性、電池の構造、電極材料などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0024】
以下の説明のうち、物質の名称で表されている材料は、特に断りのない限り、化学量論組成には限定されず、非化学量論組成も包含する。
【0025】
[1.電池]
[1-1.全体構成]
図1は、本開示の電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0026】
電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。セパレータ14は、正極21と負極22との間に配置されている。正極21、負極22、及びセパレータ14には、電解質が含浸されており、これらがケース11の中に収められている。ケース11は、ガスケット18及び封口板15によって閉じられている。
【0027】
電池10の構造は、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、ラミネート型、又は扁平型であってもよい。
【0028】
電池10は、例えば、リチウムイオン二次電池である。このとき、負極22は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極層を備える。また、電解質は、リチウムイオン伝導性を有する。
【0029】
リチウムイオン二次電池における電池反応の例は、以下のとおりである。ただし、式中のxは、酸化グラフェン中の酸素1原子に対する炭素原子数である。
I.放電反応(電池使用時)
負極:Li → Li++e- (1)
正極:Li++e-+CxO → LiCxO (2)
II.充電反応(電池充電時)
負極:Li++e- → Li (3)
正極:LiCxO → Li++e-+CxO (4)
【0030】
放電時には、式(1)及び(2)に示すように、電子及びリチウムイオンが負極から放出される。また、正極では、電子が取り込まれるとともに、酸化グラフェンに結合している酸素にリチウムイオンが結合する。充電時には、式(3)及び(4)に示すように、電子及びリチウムイオンが負極に取り込まれる。また、正極では、電子、及び、酸素との結合が切断されて遊離したリチウムイオンが放出される。
【0031】
[1-2.正極]
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極層13と、を備える。正極層13は、酸化グラフェンを含む。酸化グラフェンは、活物質として機能しうる。
【0032】
酸化グラフェンは、グラフェンの酸化により形成しうる材料である。酸化グラフェンは、通常、酸素を含む官能基を有する。酸素を含む官能基の例は、ヒドロキシ基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、及びエポキシ基である。なお、上記式(2)及び(4)から理解されるように、電池10の放電に伴って、酸化グラフェンに対するリチウムイオン等のキャリアイオンの結合が進行する。本明細書では、キャリアイオンが結合した状態についても、結合前の状態と同様に、酸化グラフェンとみなす。
【0033】
酸化グラフェンのO/C比は、0.1以上かつ0.3以下であってもよい。
【0034】
正極層13は、酸化グラフェン以外の正極活物質を含んでいてもよい。例えば、リチウムイオン二次電池の正極層13は、リチウムイオン二次電池に使用される公知の正極活物質と、酸化グラフェンとを含みうる。
【0035】
本開示の製造方法により形成した電池10の正極層13は、未酸化の炭素材料を含みうる。なお、酸化グラフェン及び未酸化の炭素材料は、導電剤として機能しうる。
【0036】
正極層13は、酸化グラフェンを含む多孔体層であってもよい。正極層13は、炭素材料層であってもよい。
【0037】
正極層13は、必要に応じて、結着剤をさらに含んでいてもよい。
【0038】
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、及びカルボキシメチルセルロースである。結着剤は、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、及びヘキサジエンからなる群より選択される複数種の共重合体であってもよい。
【0039】
正極層13が結着剤を含む場合、その含有率は、例えば、1重量%以上40重量%以下である。
【0040】
正極層13は、例えば、次のように形成できる。まず、正極活物質と結着剤とを練合する。練合には、ボールミル等の混合装置を使用できる。これにより、正極合剤が得られる。次に、正極合剤を圧延機で板状に圧延して、正極層13を形成する。あるいは、得られた混合物に溶剤を加えて正極合剤ペーストを形成し、これを正極集電体12の表面に塗布してもよい。正極合剤ペーストが乾燥することにより、正極層13が形成される。なお、正極層13は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0041】
正極層13及び正極21は、以下のように形成してもよい。炭素材料を含む前駆層を備える正極と、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含み、かつ酸素を溶解させた電解質と、を用いて前駆電池を組む。前駆層に電解質が含浸した状態で前駆電池を充電して炭素材料を酸化させ、酸化グラフェンを含む正極層13、及び当該正極層13を備える正極21を形成する。炭素材料は、通常、グラフェン構造を含む。炭素材料の例は、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックである。カーボンブラックの例は、アセチレンブラック、及びオイルファーネスブラックである。炭素材料は、酸化グラフェンを含んでいてもよく、酸化により、酸化グラフェンのO/C比が向上する。
【0042】
正極層13の膜厚は、特に限定はされないが、2μm以上500μm以下であってもよく、さらに、5μm以上300μm以下であってもよい。
【0043】
正極集電体12の材料は、例えば、金属、合金、又は炭素である。より具体的には、正極集電体12の材料は、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属又は合金であってもよい。ただし、正極集電体12の材料は、上記例に限定されない。
【0044】
正極集電体12は板状又は箔状であってもよく、多孔質、メッシュ、又は無孔であってもよい。正極集電体12は、積層膜であってもよい。
【0045】
正極集電体12の厚さは、10μm以上1000μm以下であってもよく、さらに、20μm以上400μm以下であってもよい。
【0046】
ケース11が正極集電体を兼ねている場合は、正極集電体12は省略されてもよい。
【0047】
[1-3.負極]
負極22は、例えば、負極活物質を含有する負極層17と、負極集電体16とを備える。
【0048】
負極層17は、キャリアイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む。リチウムイオン二次電池では、キャリアイオンはリチウムイオンである。以下、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質の例を説明する。ただし、負極活物質は、以下に示す例に限定されない。
【0049】
負極活物質は、例えば、リチウム元素を含有する物質である。負極活物質の具体例は、金属リチウム、並びにリチウム元素を含有する合金、酸化物及び窒化物である。合金の例は、リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、及びリチウムケイ素合金である。酸化物の例は、リチウムチタン酸化物である。窒化物の例は、リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、及びリチウムマンガン窒化物である。
【0050】
負極層17は、1種類のみの活物質を含んでいても、2種類以上の活物質を含んでもよい。
【0051】
負極層17は、必要に応じて、結着剤をさらに含んでいてもよい。結着剤には、例えば、[1-2.正極]で説明されたものを利用できる。なお、負極層17が箔状である場合、負極活物質のみを含む負極層17とすることができる。
【0052】
負極層17が結着剤を含む場合、その含有率は、例えば、1重量%以上40重量%以下である。
【0053】
負極集電体16の材料は、例えば、金属、合金、又は炭素である。より具体的には、負極集電体16の材料は、銅、ステンレス、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属又は合金であってもよい。ただし、負極集電体16の材料は、上記例に限定されない。
【0054】
負極集電体16は板状又は箔状であってもよく、多孔質、メッシュ、又は無孔であってもよい。負極集電体16は、積層膜であってもよい。
【0055】
ケース11が負極集電体を兼ねている場合は、負極集電体16は省略されてもよい。
【0056】
負極22は、公知の手法により形成できる。
【0057】
[1-4.セパレータ]
セパレータ14の例は、多孔膜、織布、及び不織布である。不織布の例は、樹脂不織布、ガラス繊維不織布、及び紙製不織布である。セパレータ14の材料の例は、ポリプロピレン及びポリエチレン等のポリオレフィンである。セパレータ14の厚さは、例えば、10μm以上300μm以下である。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であっても、2種以上の材料で構成された複合膜又は多層膜であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30%以上90%以下の範囲にあり、35%以上60%以下の範囲にあってもよい。
【0058】
[1-5.電解質]
電解質は、キャリアイオン伝導性を有する材料であればよい。リチウムイオン二次電池の電解質は、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよい。以下、リチウムイオン二次電池の電解質について説明する。
【0059】
電解質は、例えば、電解液である。電解液は、例えば、溶媒と、溶媒に溶解したリチウム塩と、を含む。溶媒は、通常、非水溶媒である。
【0060】
非水溶媒の例は、アルコール、エーテル、炭酸エステル、及びカルボン酸エステルである。エーテル、炭酸エステル及びカルボン酸エステルは、それぞれ、環状であっても鎖状であってもよい。
【0061】
アルコールの例は、エタノール、エチレングリコール、及びプロピレングリコールである。
【0062】
環状エーテルの例は、4-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びクラウンエーテルである。鎖状エーテルの例は、1,2-ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテルである。環状炭酸エステルの例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートである。鎖状炭酸エステルの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートである。環状カルボン酸エステルの例は、γ-ブチロラクトンである。鎖状カルボン酸エステルの例は、エチルアセテート、プロピルアセテート、及びブチルアセテートである。
【0063】
電解質は、1種類のみの溶媒を含有しても、2種類以上の溶媒を含有してもよい。
【0064】
リチウム塩の例は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメタンスルホニルアミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)である。リチウム塩は、LiBF4であってもよい。ただし、リチウム塩は上記例に限定されない。
【0065】
電解質は、1種類のみのリチウム塩を含有しても、2種類以上のリチウム塩を含有してもよい。
【0066】
電解液におけるリチウム塩の溶解量は、例えば、0.5モル/L以上2.5モル/L以下である。
【0067】
電解質は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む。当該ルイス酸の例は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸は、強い酸化力を有するとともに、通常、酸化グラフェンのO/C比を0.1以上にできるだけの酸素を溶解する。
【0068】
電解質における上記ルイス酸の濃度は、6重量%以上であってもよく、さらに、16重量%以上であってもよい。濃度の上限は、例えば50重量%以下である。
【0069】
[1-6.その他]
ケース11には、気体の供給管及び/又は排出管が設けられていてもよい。気体の例は、酸素を含むガス、及び不活性ガスである。酸素を含むガスの例は、酸素ガスである。不活性ガスの例は、アルゴンガスである。酸素を含むガスは、例えば、電解質に酸素を溶解させるために使用される。不活性ガスは、例えば、電解質に酸素を溶解させた後、酸素を含む余剰なガスがケース11内に残留している場合に、当該ガスをケース11外にパージするために使用される。気体は、乾燥気体であってもよい。
【0070】
[1-7.変形例]
図2は、電池20の構成例を模式的に示す断面図である。
【0071】
電池20は、正極21と、負極22と、固体電解質23と、を備える。正極21と、固体電解質23と、負極22とがこの順に積層され、積層体を成している。
【0072】
正極21は、例えば、上記[1-2.正極]で説明されたものと同様である。負極22は、例えば、上記[1-3.負極]で説明されたものと同様である。固体電解質23は、キャリアイオン伝導性を有するとともに、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む。
【0073】
[2.電池の製造方法]
本開示の製造方法は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含む電解質に酸素を溶解させる第1工程を含む。第1工程は、例えば、酸素を含むガスを電解質に通気させて実施できる。このとき、電解質は電解液であってもよい。酸素を含むガスの例は、上記[1-6.その他]で説明したとおりである。ただし、電解質に酸素を溶解させる方法は、上記例に限定されない。
【0074】
本開示の製造方法は、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するとともに酸素を溶解させた電解質と、を備える前駆電池を充電する第2工程を含む。第2工程は、第1工程の後に実施される。前駆電池の正極は、炭素材料と上記電解質とを含む前駆層を備える。前駆層において、炭素材料と電解質とは互いに接触した状態にある。炭素材料から構成される多孔質体に電解質が含浸した状態にあってもよい。電解質は、ペンタフルオロフェニル基を有するルイス酸を含んでいる。充電により炭素材料が酸化されて、前駆層は正極層13に変化する。また、前駆電池は、本開示の電池に変化する。
【0075】
前駆層が含む炭素材料は、通常、グラフェン構造を含む。炭素材料の例は、上記[1-2.正極]で説明したとおりである。炭素材料は、酸化グラフェンを含んでいてもよく、充電により、酸化グラフェンのO/C比が向上する。
【0076】
第2工程では、Li/Li+基準電極に対する正極の電位を4.3V以上とした充電が実施されてもよい。この場合、充電の開始から終了までの全区間で当該充電が実施される必要はなく、少なくとも一部の区間において当該充電が実施されてもよい。
【0077】
本開示の製造方法は、必要に応じて、第2工程で形成された電池の内部に残留する酸素を含むガスを外部にパージする第3工程を含んでいてもよい。パージは、例えば、電池の内部への不活性ガスの導入により実施できる。電解質に不活性ガスを通気してもよい。このとき、電解質は電解液であってもよい。第3工程の実施により、例えば、製造された電池の安定性を向上できる。不可性ガスの例は、上記[1-6.その他]で説明したとおりである。
【0078】
(実施例)
以下、実施例により、本開示をさらに詳細に説明する。以下の実施例は一例であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0079】
(サンプル1:比較例)
正極活物質として、酸化グラフェンの粉末(日本触媒株式会社製、酸化グラフェン)を準備した。結着剤として、ポリテトラフルオロエチレンのモールディングパウダー(ダイキン株式会社製、ポリフロンF-104)を準備した。酸化グラフェン及び結着剤を、酸化グラフェン及び結着剤の重量比が7:3となるように、混合して練合した。得られた混合物をプレス機により圧延して、正極層を得た。正極集電体として、多孔質のアルミシート(住友電工株式会社製、アルミセルメット)を準備した。正極層を正極集電体に乗せ、プレス機にセットした。プレスにより正極層及び正極集電体を圧着して、酸化グラフェンを含む正極層を備える正極を作製した。負極として、厚さ300μmのリチウムシートを準備した。非水電解液として、LiBF
4(キシダ化学株式会社製)のプロピレンカーボネート(キシダ化学株式会社製、以下、「PC」と記載)溶液を準備した。非水電解液のLiBF
4濃度は、1mol/Lとした。非水電解液は、-50℃以下の露点を有するドライエア雰囲気下にて、PCにLiBF
4を混合し、一晩撹拌することで、PCにLiBF
4を溶解させて得た。セパレータとして、ガラス繊維製セパレータを準備した。これら正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を用いて、
図1に示す二次電池を作製した。二次電池の作製にあたり、以下の処理(1)から(3)を実施した。
【0080】
(1)正極、セパレータ及び負極の積層体を組み立てた後、非水電解液をこれらに含浸させて前駆電池を得た。非水電解液に酸素ガスを通気して酸素を溶解させた後、正極と負極との間の開回路電圧を測定した。通気した酸素ガスの酸素濃度は99.999体積%とし、通気時間は30分とした。
(2)前駆電池を充電した。充電電圧は、測定した開回路電圧からスタートして一定速度で上昇させ、4.3Vに達した後は一定とした。前駆電池の負極はリチウムにより構成されるため、充電電圧を一定とした時点以降は、Li/Li+基準電極に対する正極の電位が+4.3Vの充電が実施された。前駆電池の充電完了は、開回路状態において、負極に対する正極の電位が+4.3Vに達した時点とした。
(3)非水電解液にアルゴンガスを通気して、電池の内部に残留している酸素ガスを除去した。電池を密閉して、サンプル1の二次電池を得た。
【0081】
サンプル1について、正極層が含む酸化グラフェンのO/C比を評価したところ、0.2であった。
【0082】
サンプル1について、放電試験を実施した。放電試験は、負極に対する正極の電位が+2.0Vに達するまで、0.1mA/cm
2の定電流で二次電池を放電することにより実施した。放電試験の結果を、
図3及び表1に示す。なお、表1の電圧V1は、正極活物質の単位重量あたりの放電量が30mAh/gに達したときの電池の電圧である。
【0083】
(サンプル2)
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(東京化成工業株式会社製、以下、「TPFPB」と記載)を濃度6重量%でさらに溶解させた非水電解液を使用した以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2の二次電池を得た。サンプル2の放電試験の結果を、
図3及び表1に示す。なお、サンプル2の正極層が含む酸化グラフェンのO/C比は、0.2であった。
【0084】
(サンプル3)
TPFPBを濃度16重量%でさらに溶解させた非水電解液を使用した以外は、サンプル1と同様にして、サンプル3の二次電池を得た。サンプル3の放電試験の結果を、
図3及び表1に示す。なお、サンプル3の正極層が含む酸化グラフェンのO/C比は、0.2であった。
【0085】
【0086】
図3及び表1に示すように、サンプル2,3では、サンプル1に比べて容量が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示に係る電池は、例えば、リチウムイオン二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0088】
10、20 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
23 固体電解質