(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】判定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20231215BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20231215BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20231215BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20231215BHJP
G16H 20/00 20180101ALI20231215BHJP
【FI】
A61B5/00 102C
A61B5/02 C
A61B5/0245 Z
A61B5/16 200
A61B5/00 102A
A61B5/00 102B
G16H20/00
(21)【出願番号】P 2019227876
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】519039412
【氏名又は名称】マージシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 耕太
(72)【発明者】
【氏名】橋口 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】北原 成郎
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 安弘
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-185386(JP,A)
【文献】特表2014-520335(JP,A)
【文献】特表2016-538898(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276127(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/03
5/06- 5/22
G06Q 50/22
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
労働者の心拍数を含む生体情報を取得する生体情報取得部と、
労働負荷による健康リスクを前記生体情報に基づいて判別するためのモデル式が記憶されたモデル式記憶部と、
前記労働者の前記生体情報及び前記モデル式に基づいて前記労働者の前記健康リスクを判定する判定部と、
前記労働者の身に装着されて前記労働者の前記生体情報を測定するウェアラブルデバイスと、を備え、
前記ウェアラブルデバイスは、前記労働者の動作に合わせて追従できるように伸縮性を有し、前記労働者の体に密着して着用するウェアと、
前記労働者の心臓が挟まれるように胸部の左右の位置の体表に当接して前記ウェアの裏側に取り付けられ、伸縮性を有する2つの電極と、
前記電極から配線により接続され、前記ウェアに取り付けられた測定装置と、を有し、
前記測定装置は、前記労働者の身体活動量を測定する生体情報測定部と、
前記ウェアラブルデバイスの識別を可能にする識別符号部と、を有し、
前記生体情報取得部は、前記ウェアラブルデバイスから前記生体情報を取得し、
前記モデル式は、既知の標本データのロジスティック回帰によって算出されたものであることを特徴とする判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、労働者の労働負荷による健康リスクを判定する判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設業、鉱業、農林水産業、製造業等の労働現場の中には、激しい肉体労働を伴ったり、高温等の過酷な環境中での労働を伴うような現場も存在する。そのような労働者の身体への負担が大きい過酷な労働現場では、新人が入ってこなかったり定着しなかったり、労働者の高齢化や熟練の労働者の減少等、人手不足に悩んでいることも多く、労働者の生産性と安全性の向上が喫緊の課題となっている。過酷な環境中での長時間の労働によって労働者に過度な労働負荷が掛かると、労働者の健康リスクが増大して傷病や重大事故等に繋がることにもなるため、労働者の生産性や安全性の向上を図るためには、労働者に掛かる労働負荷を適切に把握・判断し、それに基づいて適切な人員配置や労働時間となるように労務管理を行うことが重要であると考えられる。
【0003】
しかし、人によって身体能力は異なるので、同じ作業を行ったとしても、その作業によって掛かる負荷は人によって異なる。そのため、作業内容に基づいて一律に労働負荷を判断することは難しく、労働者各個人ごとに労働負荷を判断する必要がある。
【0004】
ここで、予備心拍数(% of Heart Rate Reserve、%HRR)(以下、%HRRとする)という運動強度に用いられる指標がある。%HRRは、以下の式で表される。
%HRR=(心拍数-安静時心拍数)÷(最大心拍数-安静時心拍数)×100
上記式において、安静時心拍数は、運動を行う本人が運動を行わずに安静にしている時の心拍数で、最大心拍数は、運動を行う本人が出せる最大の心拍数であり、これらは各個人によって決まる定数となっている。何らかの運動を行うと、その運動の強度に比例して心拍数は上昇し、安静時心拍数から最大心拍数までの値を取ることになる。%HRRは、運動時の心拍数から、その運動がその人の限界に対してどの程度の割合の負荷となっているのかを0~100%で示す相対的な指標となっている。
【0005】
この%HRRについて、%HRRと健康リスクとの関係を明らかにしようとする研究がこれまでに行われている。例えば、非特許文献1では、%HRRをその値に応じて5つのカテゴリーに分類しており、それぞれのカテゴリーごとにどの程度の負荷の運動をどのくらいの時間行うことが可能かという基準が示されている。非特許文献1によると、20%HRR未満は、座っているか横になっているかしている状態からほとんど動きが無くエネルギー消費の少ない運動強度のカテゴリー、20%以上40%HRR未満は、呼吸速度に目立った変化を起こさない程度の有酸素運動で、少なくとも60分以上継続可能な運動強度のカテゴリー、40%以上60%HRR未満は、会話を続けることができるような有酸素運動で、30~60分継続できるような運動強度のカテゴリー、60%以上85%HRR未満は、会話を続けることが困難な有酸素運動で、30分継続することが限度の運動強度のカテゴリー、85%HRR以上は、10分も続けることが出来ないような運動強度のカテゴリーとして分類している。また、非特許文献2には、RHR(Relative Heart Rate、相対心拍数)と、労働時間の限界との関係が示されている。非特許文献2ではRHRとなっているが、RHRは%HRRと同等である。非特許文献2によると、RHRが39%の時に許容される労働時間が4時間、RHRが24.5%の時に許容される労働時間が8時間となっている。また、非特許文献3には、30-60分間持続できる40%HRRを許容限界として建設現場の作業員で労働負荷を確認するような研究について記載されている。
【0006】
また一方で、近年、様々な分野において、ウェアラブルデバイスの研究・開発が盛んに行われている。ウェアラブルデバイスは、腕時計型、眼鏡型、衣服型等、様々な形態のものが存在し、利用者の身に着けられるようなコンピュータデバイスである。ウェアラブルデバイスは、その常時利用者の身に着けられるという特徴から、ヘルスモニタリング分野での応用が期待されている。従来、心電図等の生体情報を測定する場合、ディスポーザブル電極をゲルや粘着テープ等によって被測定者の皮膚に貼付して測定することが一般的であるが、長時間の連続測定や運動動作中の測定を行う場合には、電極の貼付部に発汗による不快感やかぶれを生じたり、ゲルや粘着テープが剥がれたりと、生体情報を測定することは困難であった。このような従来の生体情報の測定に対して、例えば、特許文献1には、衣服の内側に電極を有し、ゲルや粘着テープ等の接着部材を用いずに、着用者がその衣服を着用した時に皮膚に電極が接触して、歩行動作時やランニング等の運動動作時においても心電図を計測可能な衣服型のウェアラブルデバイスが開示されている。特許文献1に記載のようなウェアラブルデバイスを用いることによって、心拍数等の生体情報の長時間の測定や運動時の測定を簡便に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】K. Norton et al., “Position statement on physical activity and exercise intensity terminology”, Journal of Science and Medicine in Sport 13 (2010) p.496-502
【文献】Hsin-Chieh Wu et al., “Relationship between maximum acceptable work time and physical workload”, Ergonomics 45 (2002) p.280-289
【文献】Sungjoo Hwang et al., “Wristband-type wearable health devices to measure construction workers' physical demands”, Automation in construction 83 (2017) p.330-340
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、%HRRを用いることによって、作業内容による一律な労働負荷ではなく、労働者個人に合わせた労働負荷を見積もることができて、非特許文献1-3に記載のような%HRRと健康リスクとの基準を適用して、例えば、%HRRが40%を超えると健康リスク有りと判定するというように、労働者に合わせた労働負荷による健康リスクの判定を行うことができると考えられる。また、特許文献1に記載のようなウェアラブルデバイスを利用することで、労働者が作業を中断することなく労働中でも心拍数等の生体情報を測定することができ、%HRRは心拍数から算出されるので、リアルタイムな労働負荷の判断を行うことができると考えられる。
【0010】
しかしながら、%HRRで用いられる安静時心拍数や最大心拍数の値は、労働者個人によって異なるので、%HRRを求めるためには、各労働者の安静時心拍数や最大心拍数のデータが必要となる。そのため、例えば、大規模な建設現場等で、大人数の労働者の労働負荷による健康リスクを判定するような場合に、労働者全員の安静時心拍数や最大心拍数のデータを事前に測定しておくには、相当な時間や労力を伴うことになり、また、データ数も膨大になり、事前に用意しておいた各労働者の安静時心拍数や最大心拍数のデータと、労働中に測定した各労働者の心拍数のデータとを対応させるためのデータの管理や生体情報の測定機器等の管理も大変である。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、労働者の心拍数を含む生体情報を測定するだけで、その測定した生体情報から労働者の労働負荷による健康リスクを判定することができる判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る判定装置は、労働者の心拍数を含む生体情報を取得する生体情報取得部と、労働負荷による健康リスクを前記生体情報に基づいて判別するためのモデル式が記憶されたモデル式記憶部と、前記労働者の前記生体情報及び前記モデル式に基づいて前記労働者の前記健康リスクを判定する判定部と、前記労働者の身に装着されて前記労働者の前記生体情報を測定するウェアラブルデバイスと、を備え、前記ウェアラブルデバイスは、前記労働者の動作に合わせて追従できるように伸縮性を有し、前記労働者の体に密着して着用するウェアと、前記労働者の心臓が挟まれるように胸部の左右の位置の体表に当接して前記ウェアの裏側に取り付けられ、伸縮性を有する2つの電極と、前記電極から配線により接続され、前記ウェアに取り付けられた測定装置と、を有し、前記測定装置は、前記労働者の身体活動量を測定する生体情報測定部と、前記ウェアラブルデバイスの識別を可能にする識別符号部と、を有し、前記生体情報取得部は、前記ウェアラブルデバイスから前記生体情報を取得し、前記モデル式は、既知の標本データのロジスティック回帰によって算出されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る判定装置は、労働者の心拍数を含む生体情報を取得する生体情報取得部と、労働負荷による健康リスクを前記生体情報に基づいて判別するためのモデル式が記憶されたモデル式記憶部と、前記労働者の前記生体情報及び前記モデル式に基づいて前記労働者の前記健康リスクを判定する判定部と、を備えることを特徴とするので、本発明に係る判定装置によると、生体情報取得部によって取得された労働者の心拍数を含む生体情報から、判定部がモデル式記憶部に記憶されたモデル式に基づいて、その労働者の労働負荷による健康リスクを判定するため、労働者の生体情報を測定するだけで、その労働者についての事前のそれ以外の測定等をせずに、その労働者の労働負荷による健康リスクを判定することができる。
【0017】
好ましくは、本発明に係る判定装置は、前記モデル式が、既知の標本データのロジスティック回帰によって算出されたものであることを特徴とするので、単回帰分析や重回帰分析によって労働負荷を直接見積もるようなモデル式を用いる場合には、モデル式による解が負になるような場合があるが、ロジスティック回帰によって算出されるモデル式による解は必ず0から1の間に収まるため、労働者の労働負荷による健康リスクの判定の確度を向上させることができる。
【0018】
好ましくは、本発明に係る判定装置は、前記生体情報が、さらに前記労働者の身体活動量を含むことを特徴とするので、労働者の労働負荷による健康リスクの判定の確度を向上させることができる。
【0019】
好ましくは、本発明に係る判定装置は、前記労働者の身に装着されて前記労働者の前記生体情報を測定するウェアラブルデバイスを備え、前記生体情報取得部は、前記ウェアラブルデバイスから前記生体情報を取得することを特徴とするので、労働者が生体情報の測定のために作業を中断することなく、ウェアラブルデバイスによって労働者の作業中の生体情報の測定を行うことができ、リアルタイムで健康リスクを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る判定装置の機能ブロック図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る判定装置のウェアラブルデバイスの概略構成図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る判定装置のウェアラブルデバイスの機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る判定装置の一実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。ただし、以下はあくまで本発明の一実施形態を例示的に示すものであり、本発明の範囲は以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0022】
本発明の一実施形態に係る判定装置1は、
図1に示すように、制御部2と、生体情報取得部3と、モデル式記憶部4と、判定部5と、通信部6とを備え、それぞれがバス7を介して相互に各種データを通信可能に構成されている。また、労働者W1から労働者Wnまでの各労働者Wi(1≦i≦n)には、それぞれウェアラブルデバイス8が装着されており、判定装置1と各ウェアラブルデバイス8とはそれぞれ通信可能に接続されている。
【0023】
制御部2は、判定装置1の制御を行う。判定装置1が備える生体情報取得部3、モデル式記憶部4、判定部5及び通信部6の各構成要素の機能は、制御部2の制御の下で実行される。判定装置1は、例えば、CPU、メモリ及び入出力部を備え、該入出力部にHDD等の記憶装置やキーボードやディスプレイ等の入出力装置等の各種機器を接続可能で、メモリに格納された各種プログラムをCPUが演算処理することで、プログラムに応じた各種機能や制御を行うような一般的な汎用のコンピュータを用いて構成できる。その場合、CPU及びメモリを制御部2として構成し、CPUが演算処理することで判定装置1の各構成要素の機能が実行されるようなプログラムをメモリに格納して、入出力部に判定装置1の各構成要素の機能の実行に必要な記憶装置等の各種機器を接続することで、判定装置1の各構成要素の機能が実行されるように構成すればよい。
【0024】
生体情報取得部3は、各労働者Wiの生体情報を取得する。生体情報取得部3によって取得する生体情報は、少なくとも心拍数を含む。本実施形態では、生体情報取得部3は、各労働者Wiの心拍数に加えて、各労働者Wiの身体活動量も生体情報として取得する。
【0025】
モデル式記憶部4は、労働負荷による健康リスクを生体情報に基づいて判別するためのモデル式を記憶している。モデル式記憶部4は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の各種データを読み書き可能な一般的な記憶装置を用いて構成することができる。
【0026】
判定部5は、生体情報取得部3で取得された各労働者Wiの生体情報と、モデル式記憶部4に記憶されているモデル式とに基づいて、各労働者Wiの健康リスクを判定する。
【0027】
通信部6は、外部機器との間で各種データを無線で通信する。通信部6は、例えば、無線LANや携帯電話回線等の一般的な無線通信規格に準拠した無線通信装置を用いて構成できる。本実施形態では、
図1に示すように、各労働者Wiにはそれぞれウェアラブルデバイス8が装着されており、判定装置1と各ウェアラブルデバイス8とが通信可能に接続されているが、この判定装置1と各ウェアラブルデバイス8との接続は、通信部6を介した無線による接続となっている。
【0028】
ウェアラブルデバイス8は、
図2に示すように、労働者Wiの上半身に着用されるウェア81と、2つの電極82及び配線83と、測定装置9とを備える。電極82、配線83及び測定装置9はウェア81に取り付けられる。
【0029】
ウェア81は、労働者Wiが着用した時に、労働者Wiの上半身の体幹部を覆い、労働者Wiの体に直接触れて、労働者Wiの体に密着するような衣服であり、労働者Wiの動作に合わせて追従できるように伸縮性に富む素材により形成されている。
【0030】
2つの電極82は、労働者Wiがウェア81を着用した時に、労働者Wiの胸部の左右の位置の体表に当接するようにウェア81の裏側に取り付けられている。2つの電極82の間に労働者Wiの心臓が挟まれるような位置関係となっており、これによって2つの電極82によって取得される電気信号から、労働者Wiの心臓の電気的な活動の様子が観測できる。電極82は、乾式の電極であり、ゲルや粘着テープ等の接着部材を用いて労働者Wiの体表に貼り付けられるのではなく、ウェア81が労働者Wiの体に密着することによって、ウェア81に固定された電極82も労働者Wiの体に接触するようになっている。そのため、長時間着用していても、皮膚のかぶれや不快感が生じにくくなっている。電極82は、ウェア81が労働者Wiの体に密着することによって、労働者Wiの体に接触するようになっているので、電極82は、労働者Wiの体動等によるウェア81の伸縮に応じて、追従して伸縮できるように伸縮性を有し、伸長時でも電気信号を取得できるように導電性を有する素材により形成されていることが好ましい。
【0031】
配線83は、ウェア81に固定され、電極82と測定装置9とを接続している。電極82によって取得された電気信号は、配線83を介して測定装置9に送られる。配線83も、電極82と同様に、ウェア81に固定されるため、ウェア81の伸縮に応じて伸縮性及び導電性を有する素材により形成されていることが好ましい。
【0032】
電極82及び配線83は、例えば、東洋紡社のCOCOMI(登録商標)を用いて構成することができる。COCOMI(登録商標)は、高い伸縮性及び導電性を有する薄膜状の機能性素材であり、導電シートの両面が絶縁シートにより覆われた3層構造となっており、熱圧着によって生地に簡単に貼り付けることができる。ウェア81の裏側にCOCOMI(登録商標)を貼り付けて、電極82として用いる部分の絶縁シートを剥がして導電シートを露出させることで、導電シートが露出した導電部分を電極82、絶縁シートに覆われた絶縁部分を配線83として、電極82及び配線83を一体として形成することができる。このように、電極82及び配線83を一体として形成すると、電極82と配線83との接続部に段差等が生じないので、接続部によって着心地を損ねたり、作業中に接続部に気を取られたりすることを軽減できる。
【0033】
測定装置9は、
図3に示すように、制御部91と、生体情報測定部92と、入出力部93と、識別符号部94と、通信部95とを備え、それぞれがバス96を介して相互に各種データを通信可能に構成されている。
【0034】
制御部91は、測定装置9を制御する。測定装置9が備える生体情報測定部92、入出力部93、識別符号部94及び通信部95の各構成要素の機能は、制御部91の制御の下で実行される。制御部91は、例えば、CPU及びメモリを備える構成とし、メモリに格納された各種プログラムをCPUが演算処理することにより、プログラムに応じた測定装置9の各機能が実行されるように構成してよい。
【0035】
生体情報測定部92は、心拍センサ921と、加速度センサ922とを備える。生体情報測定部92は、心拍センサ921によって労働者Wiの心拍数を測定し、加速度センサ922によって労働者Wiの身体活動量を測定する。
【0036】
心拍センサ921は、2つの電極82から測定装置9に入力される電気信号に基づいて、労働者Wiの心拍数を測定する。心臓は、右心房付近に存在する洞房結節に生じた活動電位の電気信号が刺激伝導系によって心臓全体に順次伝えられ、その電気信号によって心筋の収縮が起こることで拍動する。そのため、心臓の拍動に関する情報は、その電気信号の伝導に伴って生じる心臓の電位の変動を観測することによって測定できる。2つの電極82は労働者Wiの胸部の左右に心臓を挟むようにして当接するようになっているので、2つの電極82の間の電位差から、心臓の電位の変動を観測することができる。心臓の電位の変動の波形は、通常、心臓の拍動に伴って規則正しく繰り返された波形となるので、その波形から一定時間当たりの心臓の拍動の回数である心拍数を測定できる。
【0037】
加速度センサ922は、測定装置9に加えられた加速度を測定する。測定装置9は、
図2に示すように、労働者Wiがウェア81を着用した時に、労働者Wiの胸の中心付近に位置するようになっている。そのため、ウェアラブルデバイス8を装着した労働者Wiが身体を動かすことによって測定装置9も動くため、加速度センサ922によって労働者Wiの身体の動きに伴う加速度を測定できる。本実施形態では、加速度センサ922によって測定した加速度を一定時間積算したものを労働者Wiの身体活動量として用いている。
【0038】
入出力部93は、2つの配線83が接続される。配線83は、それぞれ電極82と逆側の端部に入出力部93に接続可能なコネクタを備え、測定装置9がウェア81に取り付けられると、配線83が入出力部93に接続されるようになっている。2つの電極82によって取得された電気信号は、2つの配線83及び入出力部93を介して測定装置9に入力されて、心拍センサ921で心拍数の測定に用いられる。
【0039】
識別符号部94は、各ウェアラブルデバイス8を識別可能な識別符号を保持する。本実施形態では、労働者Wiにそれぞれウェアラブルデバイス8が装着されて、各ウェアラブルデバイス8と判定装置1とが通信可能に接続されており、判定装置1には、各ウェアラブルデバイス8で測定された各労働者Wiの生体情報が入力されることになるので、判定装置1に入力される生体情報が、どのウェアラブルデバイス8から入力されたものなのかを識別できるように、各ウェアラブルデバイス8の識別符号部94には、自身と他のウェアラブルデバイス8とを識別可能な識別符号が保持されている。識別符号部94で用いる識別符号は、数字でも文字でも記号でも各ウェアラブルデバイス8を識別できるようになっていれば何でもよい。例えば、10個のウェアラブルデバイス8を用いる場合に、1から10までの通し番号をそれぞれに割り振って識別符号として用いるようにしてもよい。
【0040】
通信部95は、外部機器との間で各種データを無線で通信する。測定装置9は、通信部94を介して、判定装置1との間で各種データを無線で通信可能となっている。通信部95は、例えば、無線LANや携帯電話回線等の一般的な無線通信規格に準拠した無線通信装置を用いて構成できる。測定装置9と判定装置1とは、測定装置9の通信部95と、判定装置1の通信部6との無線通信規格を合わせて、通信部95と通信部6との間で直接無線接続するようにしてもよいし、ルーター等を用いてインターネット等のネットワークを介して接続するようにしてもよい。
【0041】
測定装置9は、例えば、ユニオンツール社の心拍センサWHS-2(WHS:登録商標)を用いて構成してもよい。WHS-2は、心拍数を含む心拍情報や3軸加速度を測定する機能や、無線通信機能が備えられているので、WHS-2を用いれば簡単に測定装置9を構成できる。
【0042】
本実施形態では、ウェアラブルデバイス8は、労働者Wiの上半身に着用される衣服型のウェアラブルデバイスの例を示したが、それに限らず労働者Wiの身に装着されて、労働者Wiの作業中の心拍数を含む生体情報を取得できるようになっていればよい。例えば、ウェアラブルデバイス8として労働者Wiの手首に装着するリストバンド型のものを用いて、手首の脈拍から心拍数を測定するような光学式の心拍センサによって心拍数を測定するようにしてもよい。また、1つのウェアラブルデバイス8で必要な生体情報を全て測定するようになっていなくてもよく、例えば、生体情報として心拍数と身体活動量とを測定したい場合に、心拍数を測定するためのウェアラブルデバイスと、身体活動量を測定するための別のウェアラブルデバイスとを2つ装着するようにしてもよい。
【0043】
以上のように構成される本実施形態に係る判定装置1によると、各労働者Wiにはそれぞれウェアラブルデバイス8が装着されており、ウェアラブルデバイス8は、測定装置9を備え、測定装置9の生体情報測定部92が心拍センサ921及び加速度センサ922によって、労働者Wiの心拍数及び身体活動量を生体情報として測定する。各ウェアラブルデバイス8は、自身と他のウェアラブルデバイス8とを識別可能な識別符号を保持する識別符号部4と、通信部95とを備え、通信部95を介して判定装置1と無線で通信可能に接続されている。各ウェアラブルデバイス8は、生体情報測定部92によって測定した生体情報を、識別符号部4に保持された識別符号と紐づけて、一定時間ごとに判定装置1に送信する。判定装置1は、通信部6を備え、通信部6を介して各ウェアラブルデバイス8と無線通信可能に接続されており、各ウェアラブルデバイス8から送信されてきた識別符号に紐づけられた生体情報は、通信部6で受信した後、生体情報取得部3に送られる。生体情報取得部3は、送られてきた各ウェアラブルデバイス8の生体情報を取得し、紐づけられた識別符号によって各ウェアラブルデバイス8の生体情報を管理して保持する。生体情報取得部3は、いずれかのウェアラブルデバイス8の生体情報を新たに取得すると、その新たに取得した生体情報のウェアラブルデバイス8の識別符号を判定部5に送信する。判定部5は、生体情報取得部3から識別符号が送られてくると、生体情報取得部3で管理されている各ウェアラブルデバイス8の生体情報から、その送られてきた識別符号に対応したウェアラブルデバイス8の最新の生体情報を参照し、その生体情報に対応した労働負荷による健康リスクを判別するためのモデル式を、モデル式記憶部4から呼び出して、その生体情報と呼び出したモデル式とに基づいて、健康リスクを判定し、判定結果を識別符号に紐づけて保存する。例えば、各ウェアラブルデバイス8に警告ランプ等の警告手段を設けておいて、判定部5による判定結果が悪かった場合には、半手結果に紐づけられた識別符号から、その識別符号のウェアラブルデバイス8の警告手段に警告を発するような命令を送信するように構成してもよい。このように、判定装置1によると、ウェアラブルデバイス8によって各労働者Wiの生体情報を測定するだけで、それぞれの健康リスクを判定することができる。
【0044】
ここで、モデル式記憶部4に記憶されているモデル式について説明する。モデル式記憶部4に記憶されるモデル式は、労働者Wiの労働負荷による健康リスクを、生体情報取得部3で取得する労働者Wiの生体情報に基づいて判別するためのモデル式である。本実施形態では、生体情報取得部3で取得する労働者Wiの生体情報は、労働者Wiに装着されるウェアラブルデバイス8によって測定される心拍数及び身体活動量である。労働者Wiの労働負荷は、同じ作業内容であっても、各労働者Wiの身体能力は異なるため、労働者Wiによって異なる。そのため、労働者Wiの生体情報である心拍数に基づいて、労働者Wiに掛かる労働負荷を見積もることができる予備心拍数(% of Heart Rate Reserve、%HRR)(以下、%HRRとする)を、モデル式として用いることができると考えられる。ここで、ウェアラブルデバイス8で測定される労働者Wiの心拍数をx1iとすると、労働者Wiに対する%HRRは、次の式(1)で表される。
【0045】
【0046】
式(1)において、RHiは労働者Wiの安静時心拍数、MHiは労働者Wiの最大心拍数である。しかし、この式(1)をモデル式記憶部4に記憶されるモデル式として用いようとすると、ウェアラブルデバイス8によって測定される労働者Wiの心拍数x1iだけでは%HRRを算出することができず、労働者Wiの事前の安静時心拍数RHi及び最大心拍数MHiの測定を必要とし、労働者Wiごとにモデル式を用意することになるため、データの管理も煩雑である。
【0047】
そこで、次の式(2)をモデル式記憶部4に記憶されるモデル式として用いることができる。
【0048】
【0049】
式(2)において、ARHは既知の標本データから算出した労働者の安静時心拍数、AMHは既知の標本データから算出した労働者の最大心拍数である。そのため、式(2)をモデル式として用いると、ウェアラブルデバイス8によって労働者Wiの心拍数x1iを測定することで、労働者Wiの%HRRを算出することができる。この場合に、判定部5は、式(2)によって労働者Wiの%HRRを算出し、%HRRが一定の基準値以上になれば健康リスク有りと判定し、その基準値未満であれば健康リスク無しと判定するというようにして、労働者Wiの労働負荷による健康リスクを判定することができる。この判定の根拠となる%HRRの基準値には、非特許文献1-3等を参照して、40%を用いることができる。%HRR<40%であれば健康リスク無し、%HRR≧40%の場合は、健康リスク有りと判定部5によって判定するようにすればよい。また、このように健康リスクの有り・無しの2択で判定するのではなく、例えば、%HRR<40%を健康リスク小、40%≦%HRR<60%を健康リスク中、60%≦%HRRを健康リスク大の3択に判定する等、判定部5で3択以上に判定するようにしてもよい。
【0050】
式(2)のARH及びAMHの算出に用いる既知の標本データとしては、労働者Wiが含まれる労働者の集団の母数から抽出した労働者についての、事前に測定された安静時心拍数及び最大心拍数を用いることが好ましい。その抽出する標本の要素数は、適宜決めればよいが、10人以上が好ましい。ARHはこの既知の標本データの安静時心拍数の平均値、AMHはこの既知の標本データの最大心拍数の平均値をそれぞれ用いるようにすればよい。最大心拍数は最大の限界値的な心拍数であるため測定することが難しいこともあるので、一般的に知られた年齢から最大心拍数を算出するための統計的な式を用いてもよい。このような年齢から最大心拍数を算出するための式はいくつか知られているが、例えば、以下の式(3)を用いることができる。
最大心拍数=208-年齢×0.7 ・・・(3)
従って、既知の標本データとして抽出した労働者の年齢のデータを作成しておいて、そこから式(3)によって算出した最大心拍数から、AMHを算出するようにしてもよい。
【0051】
上記のように、式(2)をモデル式記憶部4に記憶されるモデル式として用いることができるものの、労働者Wiの各個人で身体能力が異なるので、労働者Wiの安静時心拍数RHi及び最大心拍数MHiと、標本データによる安静時心拍数ARH及び最大心拍数AMHとの誤差が大きい場合等に、式(2)によって算出された%HRRが適切な値とならない場合がある。そのような場合に、既知の標本データから、目的変数を%HRR、説明変数を心拍数x1とした単回帰分析によって、%HRRの値を予測することも考えられるが、単回帰分析の場合、予測された%HRRの値が負となるような場合がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、ロジスティック回帰を用いている。ロジスティック回帰は、確率pで1を、確率q=1-pで0をとるような離散確率分布であるベルヌーイ分布に従う統計的回帰モデルの一種である。ロジスティック回帰では、1をとる確率pを目的変数として、x1からxjまでのj個の説明変数によって、次の式(4)によって目的変数である確率pを予測する。
【0053】
【0054】
式(4)において、b0は定数、bjは偏回帰係数でパラメタである。既知の標本データとして、いくつかの標本について、それぞれ事前に測定したx1からxjまでのj個の説明変数の測定値と、それぞれの標本がある基準に基づいて1と0のどちらに分類されるかというデータを作成しておき、その既知の標本データを用いることで、b0及びb1からbjのパラメタは、最尤法等によって推定できる。その既知の標本データから推定したb0及びb1からbjを式(4)に当てはめた式をモデル式として用いる。それによって、未知の対象について、x1からxjを測定し、そのモデル式にその測定値を代入することで、1となる確率pを予測できる。ロジスティック回帰による予測結果は確率であり、必ず0から1の間の値となるため、%HRRの単回帰分析による予測結果のように負の値がでて予測不可能になることが無い。
【0055】
ここでは、判定部5によって労働者Wiの労働負荷による健康リスクを判定するためのモデル式を求めたいので、健康リスク有りの場合を1、健康リスク無しの場合を0として、健康リスク有りの1となる確率pを目的変数として予測するようなモデル式となるようにする。健康リスク有りの1と、健康リスク無しの0との基準には、例えば、%HRRを用いてよく、ここでは%HRR<40%であれば1、%HRR≧40%であれば0と判別する。説明変数xjには、ウェアラブルデバイス8によって測定する生体情報を用いる。本実施形態では、ウェアラブルデバイス8によって心拍数及び身体活動量を測定しているので、心拍数をx1、身体活動量をx2として2つの説明変数を用いる。そして、既知の標本データから推定したb0、b1及びb2のパラメタを式(4)に代入したものを、モデル式記憶部4に記憶されるモデル式として用いることができる。ここでのb0、b1及びb2のパラメタの推定に用いる既知の標本データは、各標本についての、説明変数として用いている心拍数及び身体活動量の測定データと、健康リスクの1または0の基準として用いている%HRRを求めるための安静時心拍数及び最大心拍数が必要である。
【0056】
上記のようにして、ロジスティック回帰によって求められたウェアラブルデバイス8によって測定される生体情報から健康リスク有りとなる確率pを予測するモデル式をモデル式記憶部4に記憶しておくことで、判定部5は、ウェアラブルデバイス8によって測定されて生体情報取得部3によって取得される労働者Wiの生体情報と、モデル式記憶部4に記憶されたそのモデル式とに基づいて、健康リスク有りとなる確率pを算出し、p≧0.5となれば健康リスク有りと判定し、p<0.5となれば健康リスク無しと判定する、というように労働者Wiの健康リスクを判定することができる。
【0057】
上記のロジスティック回帰によって算出したモデル式は、労働者Wiの心拍数と身体活動量との2つの生体情報を説明変数として用いるようになっていたが、労働者Wiの心拍数のみの1つの生体情報を説明変数とするモデル式としてもよいし、労働者Wiの心拍数及び身体活動量だけでなく、その他の例えば血圧等を生体情報取得部3が取得するような場合には、3つ以上の生体情報を説明変数とするようなモデル式としてもよい。
【0058】
また、モデル式記憶部4に記憶されるモデル式として、上記のようなロジスティック回帰によって算出したモデル式のみを用いて、判定部5がその1つのモデル式から健康リスクを判定するようにしてもよいし、例えば、ロジスティック回帰のモデル式と、式(2)のような%HRRのモデル式との2つをモデル式記憶部4に記憶させておいて、判定部5が労働者Wiの生体情報から、その2つのモデル式のそれぞれによって健康リスクを判定して、どちらか一方でも健康リスク有りと判定されると、労働者Wiの健康リスク有りと判定するというようにして健康リスク有りの判定漏れを少なくするように構成してもよいし、さらに3つ以上のモデル式を用いて判定するようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、%HRR=40%を基準として、健康リスク無しを0、健康リスク有りを1とする2値のロジスティック回帰によるモデル式を用いたが、多項ロジスティック回帰を用いることによって、例えば、%HRR<40%なら健康リスク小として0、40%≦%HRR<60%なら健康リスク中として1、60%<%HRRなら健康リスク大として2の3つのランクに判別するというように、3つ以上に判別するようなモデル式を算出して用いるようにしてもよい。
【0060】
以下には、実際にロジスティック回帰によるモデル式を求めた実施例について示す。建設現場で働く8人の鳶と4人の補助者との12人を標本として用いて、12人にそれぞれウェアラブルデバイス8を装着して、建設現場における作業中の心拍数及び身体活動量を測定して、モデル式を求めるための既知の標本データとして用いた。心拍数及び身体活動量の測定は、15分間隔で行い294データセットを取得した。その結果を以下の表1に示す。表1の心拍数の単位はbpmで1分間の心臓の拍動数、身体活動量の単位はmGで標準重力である1Gを基準とした加速度の単位となっている。表1において、推定最大心拍数は12人の標本のそれぞれの年齢から式(3)を用いて求めた値であり、推定安静時心拍数は、休息時間に測定した休息時心拍数を安静時心拍数として推定した値で、推定最大心拍数と推定安静時心拍数を用いて、式(1)によってデータセットごとに%HRRを算出した。そして、%HRR<40%となるデータを健康リスク無しの0、%HRR≧40%となるデータを健康リスク有りの1として分類した。その結果を以下の表2に示す。表2に示されるように、今回の標本データにおける%HRR≧40%となって健康リスク有りで1に分類されるデータ数は全体の36.1%であった。
【0061】
【0062】
【0063】
この標本データから、健康リスクを目的変数とする1か0かの2値のロジスティック回帰を行った結果を、表3及び表4に示す。ここでは、心拍数x1の1つの説明変数だけを用いたモデル1と、心拍数x1と身体活動量x2との2つの説明変数を用いたモデル2と、心拍数x1及び身体活動量x2に加えてBMIをx3として3つの説明変数を用いたモデル3との3つのモデルについて、ロジスティック回帰を行い、算出されたモデル式についての健康リスクの正判別の割合や、モデルや係数の有意性の検定を行った。なお、BMIは、体格指数(Body Mass Index)のことで、肥満度の目安として一般的に用いられており、以下の式(5)によって算出される数値である。
BMI=体重÷(身長)2 [kg/m2] ・・・(5)
【0064】
【0065】
【0066】
表3に示される結果から分かるように、モデル2は、モデル1よりも正判別の割合が上昇しており、また、モデル、係数の有意性の検定結果も全て有意性ありとなっている。心拍数のみを説明変数とするモデル1でも、正判別の割合は93.5%と高い値となっており、モデル式記憶部4で記憶するモデル式として十分用いることができると考えられるが、モデル2のように、心拍数に加えてさらに身体活動量を説明変数として用いて算出したモデル式をモデル式記憶部4で用いることで、より確度の高い健康リスクの判定を行うことができると考えられる。また、表4からも心拍数と身体活動量との多重共線性の可能性が低いことが分かり、心拍数及び身体活動量によるモデル式を有効に用いることができることが分かった。しかし、モデル3のように、さらにBMIを説明変数として加えると、モデル2よりも正判別の割合が減少し、係数の有意性なしという結果になった。従って、モデル3によって算出されたモデル式は、モデル式記憶部4で用いるモデル式としては不適当という結果になった。モデル式記憶部4によって記憶するモデル式に、心拍数及び身体活動量以外の他の生体情報を説明変数とするようなモデル式を用いるようにしてもよいが、その場合は、なるべく正判別の割合が高くなって、モデル、係数の有意性ありとなるように説明変数を選択するようにする。
【0067】
今回のモデル2によって算出されたモデル式を以下の式(6)に示す。b0=-71.60、b1=0.624、b2=-0.018と推定された。
【0068】
【0069】
式(6)において、x1iは生体情報取得部3で取得した労働者Wiの心拍数、x2iは生体情報取得部3で取得した労働者Wiの身体活動量となっている。従って、式(6)をモデル式記憶部4に記憶させるモデル式として用いることによって、ウェアラブルデバイス8で労働者Wiの心拍数及び身体活動量を測定すれば、他の事前の生体情報の測定等を行うことなく、判定部5が、その測定された労働者Wiの心拍数及び身体活動量から式(6)によって、健康リスク有りの1と判別される確率pを算出し、その結果からp≧0.5の場合は健康リスク有りと判定し、p<0.5の場合は健康リスク無しと判定する、というようにして労働者Wiの健康リスクを判定することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 判定装置
3 生体情報取得部
4 モデル式記憶部
5 判定部
8 ウェアラブルデバイス
Wi 労働者