(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】イオン感応物質およびそれを用いたイオン感応膜、ならびにそのイオン感応物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/414 20060101AFI20231215BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20231215BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
G01N27/414 301G
C07F7/18 W
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020090602
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慶
(72)【発明者】
【氏名】塚原 法人
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-243615(JP,A)
【文献】特開昭61-170645(JP,A)
【文献】特開2000-121602(JP,A)
【文献】特開2004-239626(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208723(WO,A1)
【文献】特開昭54-119483(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154039(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
C07F 7/18
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a):
-CR
1R
2-CR
3X-O- ・・・(a)
(式中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R
1、R
2およびR
3は、水素または炭化水素基であり、R
1またはR
2とXとは結合していてもよい)
で表される繰り返し単位からなるクラウンエーテル構造を含み、
前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基の一部または全てが加水分解されてシラノール基を構成していてもよい、イオン感応物質。
【請求項2】
前記クラウンエーテル構造が、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物に由来する部分を含む重合体であり、前記重合体は、前記エポキシ基がアルカリ金属塩または第2族元素の塩により開環して環状に重合したものである、請求項1に記載のイオン感応物質。
【請求項3】
前記式(a)において、R
1、R
2およびR
3が水素であり、且つXが下記式(b):
-CH
2O-Y ・・・(b)
(式中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表される、請求項1または2に記載のイオン感応物質。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩または第2族元素の塩の陽イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのいずれかである請求項2に記載のイオン感応物質。
【請求項5】
前記式(a)の繰り返し数が、4以上6以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン感応物質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン感応物質において、前記アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を構成している、イオン感応膜。
【請求項7】
前記シロキサン結合は、前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基に由来する部分と、下記式(c):
R
4-Z ・・・(c)
(式中、R
4は、一価の炭化水素基であり、Zは末端にアルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表される化合物のアルコキシシリル基に由来する部分とで構成されている、請求項6に記載のイオン感応膜。
【請求項8】
前記式(a)中のXに由来する部分のモル数および前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の比が0.9以下である請求項7に記載のイオン感応膜。
【請求項9】
前記式(a)中のXに由来する部分のモル数と前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、前記X中のアルコキシ基に由来する部分のモル数ならびに前記Z中のアルコキシ基に由来する部分のモル数の和の比が、2.00以上2.90以下である請求項7または8に記載のイオン感応膜。
【請求項10】
エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩または第2族元素の塩を溶解させた溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を静置または加熱する工程と、
前記静置または加熱する工程後に水に浸漬し、前記水を除去した後乾燥させる工程と、を含むイオン感応物質の製造方法。
【請求項11】
前記液体は、炭化水素基および末端にアルコキシシリル基を有する第2化合物をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン感応物質およびそれを用いたイオン感応膜、ならびにそのイオン感応物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の健康状態および生体情報を常時モニタリングし、その情報に基づいた新たな医療システムが構築されようとしている。すなわち、健康状態に問題の生じる兆候を日々の生活の中でより早く検知し、それを例えば情報端末などに表示させることにより、疾病を未然に防ぐ、あるいは早期発見につなげる医療システムである。医療システムへの利用以外でも、五感に関する人の生体情報や快不快をモニタリングすることは、その人がより快適に過ごすために有用な情報提供を可能にすることができるため、人々の生活や社会全体にとって有益である。
【0003】
このような健康状態を始めとする生体情報のモニタリング対象として、人体液中のイオンが挙げられる。体内には様々なイオンが含有されるが、健康状態によりイオン濃度が変化することが知られている。汗中のイオンを常時モニタリングするためには、常に人の肌に接触させることが可能なイオン選択性電極が必要である。イオン選択性電極の性能を決定する重要な構成部材として、イオン感応膜があり、これは特定のイオンのみを通過させる機能を有する。従来のイオン感応膜としてはイオノフォアともよばれるイオン感応性物質を可塑剤と共に膜支持体に混合させ製膜したものが一般に使用されている。
【0004】
特許文献1では、クラウンエーテル誘導体構造を含むイオン感応物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしこのようなイオン感応物質を含むイオン感応膜では、イオン選択性電極として繰り返し使用した際の耐久性が不十分であることがわかった。
【0007】
本発明の目的の1つは、十分な耐久性を示すイオン感応物質およびそれを用いたイオン感応膜、ならびにそのイオン感応物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
下記式(a):
-CR1R2-CR3X-O- ・・・(a)
(式中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、水素または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは結合していてもよい)
で表される繰り返し単位からなるクラウンエーテル構造を含み、
前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基の一部または全てが加水分解されてシラノール基を構成していてもよい、イオン感応物質である。
【0009】
本発明の態様2は、前記クラウンエーテル構造が、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物に由来する部分を含む重合体であり、前記重合体は、前記エポキシ基がアルカリ金属塩または第2族元素の塩により開環して環状に重合したものである、態様1に記載のイオン感応物質である。
【0010】
本発明の態様3は、
前記式(a)において、R1、R2およびR3が水素であり、且つXが下記式(b):
-CH2O-Y ・・・(b)
(式中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表される、態様1または2に記載のイオン感応物質である。
【0011】
本発明の態様4は、
前記アルカリ金属塩または第2族元素の塩の陽イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのいずれかである態様2に記載のイオン感応物質である。
【0012】
本発明の態様5は、
前記式(a)の繰り返し数が、4以上6以下である態様1~4のいずれか1つに記載のイオン感応物質である。
【0013】
本発明の態様6は、
態様1~5のいずれか1つに記載のイオン感応物質において、前記アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を構成している、イオン感応膜である。
【0014】
本発明の態様7は、
前記シロキサン結合は、前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基に由来する部分と、下記式(c):
R4-Z ・・・(c)
(式中、R4は一価の炭化水素基であり、Zは末端にアルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表される化合物のアルコキシシリル基に由来する部分とで構成されている、態様6に記載のイオン感応膜である。
【0015】
本発明の態様8は、
前記式(a)中のXに由来する部分のモル数および前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の比が0.9以下である態様7に記載のイオン感応膜である。
【0016】
本発明の態様9は、
前記式(a)中のXに由来する部分のモル数と前記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、前記X中のアルコキシ基に由来する部分のモル数ならびに前記Z中のアルコキシ基に由来する部分のモル数の和の比が、2.00以上2.90以下である態様7または8に記載のイオン感応膜である。
【0017】
本発明の態様10は、
エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩または第2族元素の塩を溶解させた溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を静置または加熱する工程と、
前記静置または加熱する工程後に水に浸漬し、前記水を除去した後乾燥させる工程と、を含むイオン感応物質の製造方法である。
【0018】
本発明の態様11は、
前記液体は、炭化水素基および末端にアルコキシシリル基を有する第2化合物をさらに含む、態様10に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、十分な耐久性を示すイオン感応物質およびそれを用いたイオン感応膜、ならびにそのイオン感応物質の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】
図1Aは、実施例1の溶解液の全反射FTIRスペクトルである。
【
図1B】
図1Bは、実施例1のイオン感応膜の全反射FTIRスペクトルである。
【
図2】
図2は、実施例1の反応途中の溶解液のGPC測定結果である。
【
図3】
図3は、実施例で用いた電位応答測定装置の概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1~10の結果をまとめた表である。
【
図5】
図5は、実施例11~19および比較例1の結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態に係るイオン感応物質について詳細に説明する。
【0022】
<イオン感応物質>
本発明の実施形態に係るイオン感応物質は、下記式(a):
-CR1R2-CR3X-O- ・・・(a)
(式中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、水素または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは結合していてもよい)
で表される繰り返し単位をからなるクラウンエーテル構造を含む。前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基の一部または全てが加水分解されてシラノール基を構成していてもよい。
【0023】
このようなイオン感応物質は、中央の、2つの炭素原子と1つの酸素原子とがこの順で繰り返し環状に結合している部分(以下、単に「環状構造」ともいう)と、それに担持されたアルカリ金属イオンまたは第2族元素イオンとにより、イオン選択性を示すため、イオン選択性電極に使用できる。
さらに、中央の環状構造から延在する側鎖として、末端にアルコキシシリル基(またはシラノール基)を有する有機基が複数存在し、当該アルコキシシリル基(またはシラノール基)が電極の支持体と強く結合することができるため、イオン選択性電極として繰り返し使用しても、中央の環状構造が脱落することなくイオン選択性を維持できる。
【0024】
R1、R2およびR3は、水素または炭素数1以上3以下のアルキル基であってもよい。あるいは、R1またはR2とXとは結合していてもよく、例えば、R2およびR3が水素であり、上記式(a)中の2つのCと、R1およびXとが共にシクロヘキサン環を形成していてもよい。
【0025】
好ましい実施形態としては、上記クラウンエーテル構造が、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物に由来する部分を含む重合体であり、その重合体は、エポキシ基がアルカリ金属塩または第2族元素の塩により開環して環状に重合したものである。これにより、エポキシ基の開環に用いたアルカリ金属塩または第2族元素の塩の陽イオンの検出に適したイオン感応物質が得られる。好ましくは、アルカリ金属塩または第2族元素の塩の陽イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのいずれかであることである。これにより、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのいずれかの検出に適したイオン感応物質が得られる。
【0026】
好ましい実施形態としては、上記式(a)において、R1、R2およびR3が水素であり、且つXが下記式(b):
-CH2O-Y ・・・(b)
(式中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表されるものが挙げられる。このような構造にすることにより、環状構造が安定に形成されやすい。
【0027】
Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基であり、下記式(d):
CnH2n-2m-4fSiR5
3-g(OR6)g ・・・(d)
でさらに具体化される。
【0028】
R5およびR6は、各出現において独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、イソブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基のいずれかであり得、R5とR6が同一であっても異なっていてもよい。中でも、ゾルゲル反応し易く、シロキサン結合を形成してイオン感応膜を製造しやすい点で、メチル基およびエチル基を好適に使用できる。
【0029】
nは、0以上8以下の整数であり得る。nを8以下にしておくことで、後述する製造方法によりイオン感応物質を製造しやすくなるため好ましい。また、エポキシ基同士の開環重合の際、Si(シリコン)原子との距離を確保することにより、Si原子に結合しているアルコキシ基(OR3)による立体障害を抑制できるという観点で、nは3以上であることが好ましい。CnH2n-2m-4fで表される炭化水素において、mは、当該炭化水素中の、2重結合の数と環構造の数の合計であり、fは、当該炭化水素中の3重結合の数である。
【0030】
gは、1以上3以下の整数である。gが小さい程、後述するイオン感応膜製造の際に、アルコキシ基同士の結合の割合が少なくなり、シロキサン結合形成時の体積収縮を抑制でき、その体積収縮に起因した、イオン感応膜中の内部クラックの発生を抑制できる。一方、gが大きい程、シロキサン結合を形成してイオン感応膜を製造する際に、イオン感応膜の弾性率を高くすることができる。クラック抑制および弾性率を両立できるという観点から、gは2であることが好ましい。
【0031】
上記式(a)の繰り返しの数としては、4以上とすることが好ましい。これにより、末端のアルコキシ基を多く(少なくとも4つ以上)確保することができ、環状構造の脱落をより抑制することができる。一方で、繰り返しの数は10以下とすることが好ましい。これにより、クラウンエーテル構造のサイズを、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンなどの、生体中において主要なイオンを検出するのに好適なサイズとすることができる。さらに6以下の場合は、特にカリウムイオン、ナトリウムイオンなどの重要なイオンの検出に適しており、より好ましい。
【0032】
このようなイオン感応物質の一例としては、下記化学式1または2の化合物が挙げられる。
【0033】
【0034】
【0035】
上記化学式1および2の化合物の違いは、化学式2の化合物において、末端の8個のメトキシシリル基(SiOCH3)のうち3個が加水分解されてシラノール基(SiOH)を構成していることである。
【0036】
<イオン感応膜>
上記イオン感応物質を、例えば、無機材料または高分子の支持体と結合させることにより、イオン感応膜を形成し、イオン選択性電極として使用することができる。また、上記イオン感応物質のアルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を構成することにより、支持体を形成することもできる。すなわち、イオン感応物質のアルコキシシリル基の少なくとも一部を加水分解して脱水縮合反応させることにより、シロキサン結合からなる支持体と、それに結合した環状構造を有するイオン感応膜を形成することができる。
【0037】
上記シロキサン結合は、前記クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基に由来する部分と、下記式(c):
R4-Z ・・・(c)
(式中、R4は一価の炭化水素基であり、Zは末端にアルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表される化合物のアルコキシシリル基に由来する部分とで構成されていることが好ましい。クラウンエーテル構造中のアルコキシシリル基単独でシロキサン結合を形成するよりも、上記式(c)の化合物と混合してシロキサン結合を形成することにより、イオン感応膜中の環状構造の密度を制御することができ、所望の電位応答に制御することが可能となる。また、上記式(c)の化合物のアルコキシ基数および/または炭化水素基を調整することにより、イオン感応膜の機械的特性を調整することも可能となる。
【0038】
上記式(c)は、より具体的には、下記式(e):
R41
pR42
qR43
rSi(OR7)a(OR8)b(OR9)c ・・・(e)
で表すこともできる。
【0039】
R41、R42およびR43は、特に限定されないが、例えば一般式CsH2s+1-2t-4uで表される炭素水素基とすることができる。sは1以上20以下とすることができる。sを20以下とすることにより、過度に立体障害が大きくなることを防ぎ、シロキサン結合の形成を比較的容易にできる。tは炭化水素基中の2重結合と環構造の数の合計であり、uは3重結合の数である。R41、R42およびR43は、全て同一でも異なっていてもよい。
【0040】
R41、R42およびR43の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、アリル基などが挙げられる。
【0041】
シロキサン結合を形成するにあたり、好ましい比率としては、上記式(a)中のXに由来する部分のモル数および上記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、上記式(c)中のZに由来する部分のモル数の比(以下「R1」と称する)が0.9以下である。R1を0.9以下とすることにより、イオン感応膜中の環状構造の密度を高く保つことができ、電位応答を高くすることができる。より好ましくは、0.5以下である。一方でR1を大きくすることにより、安定的に環状構造を形成できる。R1は0以上であり、好ましくは0超であり、より好ましくは0.2以上である。
【0042】
さらに、上記式(a)中のXおよび上記式(c)中のZは、それぞれ、末端にアルコキシ基を1~3個有し得る。このとき、好ましいアルコキシ基の比率として、上記式(a)中のXに由来する部分のモル数と上記式(c)中のZに由来する部分のモル数の和に対する、X中のアルコキシ基に由来する部分のモル数およびZ中のアルコキシ基に由来する部分のモル数の和の比(以下「R2」と称する)が2.00以上2.90以下である。R2を2.00以上とすることにより、シロキサン結合密度を高くすることができ、その結果イオン感応膜の弾性率を高くすることができ、膜の形状を維持しやすくなる。好ましくは2.10以上である。一方でR2を2.90以下にすることにより、シロキサン結合の密度が過度に高くなることを抑制でき、その結果イオン感応膜中のクラック発生を抑制でき、柔軟性を付与できる。より好ましくは、2.50以下である。
【0043】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係るイオン感応物質およびイオン感応膜には他の成分が含まれていてもよい。
【0044】
<イオン感応物質の製造方法>
本発明の実施形態に係るイオン感応物質の製造方法は、
(A)エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩または第2族元素の塩を溶解させた溶解液を用意する工程と、
(B)前記溶解液を静置または加熱する工程と、
(C)前記静置または加熱する工程後に水に浸漬し、前記水を除去した後乾燥させる工程と、を含む。
この製造方法により、エポキシ基が開環して環状に重合することで、下記式(a):
-CR1R2-CR3X-O- ・・・(a)
(式中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、水素または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは結合していてもよい)
で表される繰り返し単位からなるクラウンエーテル構造を含むイオン感応物質が製造される。また、場合により、この製造方法により、イオン感応物質中のアルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を構成しているイオン感応膜も製造され得る。
以下各工程について説明する。
【0045】
[(A)溶解液を用意する工程]
エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩または第2族元素の塩を溶解させた溶解液を用意する。
【0046】
第1化合物は、下記式(f):
G-Y ・・・(f)
で表される。
ここで、Gはエポキシ基を有する官能基であり得、エポキシ基を有する官能基の例としては、グリシドキシ基、エポキシシクロヘキシル基などが挙げられるが、開環重合した際に環状構造を得やすいという観点から、グリシドキシ基が好適に使用される。
Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基であり、下記式(d):
CnH2n-2m-4fSiR5
3-g(OR6)g ・・・(d)
でさらに具体化される。
【0047】
R5およびR6は、各出現において独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、イソブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基のいずれかであり得、R5とR6が同一であっても異なっていてもよい。中でも、ゾルゲル反応し易く、シロキサン結合を形成してイオン感応膜を製造しやすい点で、メチル基およびエチル基を好適に使用できる。
【0048】
nは、0以上8以下の整数であり得る。nを8以下にしておくことで、第1化合物の疎水性が過度に高まることを抑制し、第1化合物の液体への、アルカリ金属塩または第2族元素の塩の溶解性を確保でき好ましい。また、エポキシ基同士の開環重合の際、Si(シリコン)原子との距離を確保することにより、Si原子に結合しているアルコキシ基(OR3)による立体障害を抑制できるという観点で、nは3以上であることが好ましい。CnH2n-2m-4fで表される炭化水素において、mは、当該炭化水素中の、2重結合の数と環構造の数の合計であり、fは、当該炭化水素中の3重結合の数である。
【0049】
gは、1以上3以下の整数である。gが小さい程、イオン感応膜製造の際に、アルコキシ基同士の結合の割合が少なくなり、シロキサン結合形成時の体積収縮を抑制でき、その体積収縮に起因した、イオン感応膜中の内部クラックの発生を抑制できる。一方、gが大きい程、シロキサン結合を形成してイオン感応膜を製造する際に、イオン感応膜の弾性率を高くすることができる。クラック抑制および弾性率を両立できるという観点から、gは2であることが好ましい。
【0050】
上記のような第1化合物として、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0051】
第1化合物は、上記のような化合物を少なくとも1種以上含むことができ、2種以上の混合物であってもよい。
【0052】
工程(A)におけるアルカリ金属塩または第2族元素の塩は、特に限定されないが、アルカリ金属または第2族元素の陽イオンと、陰イオンとの組み合わせからなる。上記陽イオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびストロンチウムイオンなどが挙げられる。陰イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF6
-)およびヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)などが挙げられる。中でも、電子吸引性が高く、エポキシ基の開環重合を誘起し易いという観点から、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、さらにアルコキシシランへの溶解性高いという観点から、過塩素酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、よう化カリウムが好ましい。
【0053】
工程(A)におけるアルカリ金属塩または第2族元素の塩の添加量については、第1化合物のモル量に対する、アルカリ金属塩または第2族元素の塩のモル量の比R3を0.165以上且つ、第1化合物のモル量と第2化合物のモル量の和に対する、アルカリ金属塩または第2族元素の塩の添加量の和の比R4を0.25以下とすることが好ましい。R3が0.165以上とすることにより、第1化合物中のエポキシ基の開環を十分促進することができる。またR4が0.25以下とすることにより、アルカリ金属塩または第2族元素の塩が、第1化合物と第2化合物の混合液体に沈殿することなどを抑制し、均一な溶解液を得ることができる。
【0054】
工程(A)において、上記液体に炭化水素基および末端にアルコキシシリル基を有する第2化合物を添加することが好ましい。これにより、第1化合物のエポキシ基が開環して重合する際、環状構造を形成しやすく、例えば直線状に重合するのを抑制することができる。
【0055】
第2化合物は、下記式(c):
R4-Z ・・・(c)
(式中、R4は、一価の炭化水素基であり、Zは末端にアルコキシシリル基を有する一価の有機基である)
で表すことができ、より具体的には、下記式(e):
R41
pR42
qR43
rSi(OR7)a(OR8)b(OR9)c ・・・(e)
で表すこともできる。
【0056】
R41、R42およびR43は、特に限定されないが、例えば一般式CsH2s+1-2t-4uで表される炭素水素基とすることができる。sは1以上20以下とすることができる。sを20以下とすることにより、過度に立体障害が大きくなることを防ぎ、シロキサン結合の形成を比較的容易にできる。tは炭化水素基中の2重結合と環構造の数の合計であり、uは3重結合の数である。R41、R42およびR43は、全て同一でも異なっていてもよい。
【0057】
R41、R42およびR43の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、アリル基などが挙げられる。
【0058】
R7、R8およびR9は炭化水素基であり得、炭素数1以上5以下のアルキル基であることが好ましい。
【0059】
p、q、r、a、bおよびcは、1≦p+q+r≦3、1≦a+b+c≦3およびp+q+r+a+b+c=4を満たすような0以上の整数である。
【0060】
第2化合物の添加量としては、第1化合物のモル数と第2化合物のモル数の和に対する、第2化合物のモル数の比(すなわちR1)を0.9以下にすることが好ましい。0.9以下とすることで、イオン感応膜中の環状構造の密度を高く保つことができ、電位応答を高くすることができる。より好ましくは0.5以下である。一方で、R1を大きくすることにより、エポキシ基が開環して重合する際に、直線状に重合するのを抑制することができる。R1は0以上であり、好ましくは0超であり、より好ましくは0.2以上である。
【0061】
さらに、第1化合物および第2化合物は、それぞれ、末端にアルコキシ基を1~3個有し得る。このとき、好ましいアルコキシ基の比率として、第1化合物および第2化合物のモル数の和に対する、第1化合物中のアルコキシ基のモル数および第2化合物中のアルコキシ基のモル数の和の比(すなわちR2)が2.00以上2.90以下である。R2を2.00以上とすることにより、シロキサン結合密度を高くすることができ、その結果イオン感応膜の弾性率を高くすることができ、膜の形状を維持しやすくなる。好ましくは2.10以上である。一方でR2を2.90以下にすることにより、シロキサン結合の密度が過度に高くなることを抑制でき、その結果イオン感応膜中のクラック発生を抑制でき、柔軟性を付与できる。より好ましくは、2.50以下である。
【0062】
第2化合物は、上記式(c)または(e)で表される化合物を少なくとも1種以上含むことができ、2種以上の混合物であってもよい。
【0063】
工程(A)において、溶解液にアニオン排除剤を添加してもよい。アニオン排除剤としては、Tetraphenylborate,sodium salt((株)同仁化学研究所 Kalibor(登録商標)(Na-TPB))やTetrakis[3,5―bis(trifluoromethyl)phenyl]borate,sodium salt((株)同仁化学研究所 T037 TFPB)などの公知のものを使用できる。
【0064】
[(B)静置または加熱する工程]
この工程では、アルカリ金属塩または第2族元素の塩の金属陽イオンにより、エポキシ基が開環して環状に重合し、クラウンエーテル構造が形成される。また、クラウンエーテル構造中の酸素原子からの配位結合により、アルカリ金属イオンまたは第2族元素イオンが担持され得る。さらに、エポキシ基の開環重合反応に続き、末端のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応が進み、シロキサン結合が形成され得る。
【0065】
工程(B)の静置または加熱する時間としては、20分以上とするのが好ましい。より好ましくは30分以上、1時間以上、24時間以上、100時間以上、500時間以上、および720時間以上である。これにより、エポキシ基の開環重合反応が進むため、イオン感応物質をより多く得ることができる。さらに、イオン感応膜を形成するように、エポキシ基の開環重合反応に続く、末端のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応を十分に促進することができる。
【0066】
工程(B)の静置または加熱する温度は、20℃以上とするのが好ましい。また、高温とすることでエポキシ基の開環重合反応、ならびにそれに続く末端のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応をより短時間で進めることができ、より好ましくは23℃以上、40℃以上、60℃以上である。工程(B)の湿度は特に限定されず、加水分解を進行させるために、大気雰囲気中など水分がある環境下(すなわち0%RH超)であることが好ましい。
【0067】
工程(B)の静置または加熱する際、例えば溶解液を、液体のまま一定の厚みと面積を有する鋳型に流し込んで、任意の形状を形成してもよい。鋳型の基材としては、公知の金属または高分子材料からなるものを使用でき、特に、工程(B)後に形成される固形物との離形性がよいという観点からポリテトラフルオロエチレンを好適に使用できる。
【0068】
[(C)水に浸漬し、水を除去した後乾燥させる工程]
工程(B)後に形成される固形物は、エポキシ基の開環に用いたアルカリ金属塩または第2族元素の塩由来のイオン成分が残留し得る。上記固形物を、例えば水などの極性溶媒に浸漬した後、その水などの極性溶媒を除去し、その後例えば風乾などにより乾燥させる。これにより、エポキシ基の開環に用いたアルカリ金属塩または第2族元素の塩由来のイオン成分が、水などの極性溶媒中に溶出し除去され、本発明の実施形態に係るイオン感応物質が得られる。浸漬時間としては24時間以上がイオン成分を十分に溶出させることができ好ましい。
【0069】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係るイオン感応物質の製造方法には他の工程が含まれていてもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0071】
エポキシ基および末端にアルコキシシリル基を有する第1化合物の液体として3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業製、KBM402、アルコキシ基の数:2)22.03質量部を用意した。アルカリ金属塩として過塩素酸リチウム(関東化学製、鹿1級)2.66質量部を、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに添加し、溶解させることで溶解液を用意した。
【0072】
上記溶解液を、直径40mm、深さ0.5mmのポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に流し込み、23℃60%RHの環境において720時間で静置させた。その後得られた固形物を、水に24時間浸漬した後、その水を除去し、風乾させてイオン感応膜を得た。
【0073】
実施例1の溶解液およびイオン感応膜の構造を解析するために、全反射FTIRスペクトルを測定した(島津製作所、IRPrestige-21)。
【0074】
図1Aは実施例1の溶解液の全反射FTIRスペクトルであり、
図1Bは実施例1のイオン感応膜のFTIRスペクトルである。
図1Aでは、グリシドキシ基に特徴的な908.5cm-1のピークおよびメトキシ基に特徴的な2835.4cm-1のピークが観察されるのに対し、
図1Bではそれらのピークが確認されない。このことから、23℃60%RH720時間保持した後のイオン感応膜では、グリシドキシ基の開環反応と、それに続くメトキシ基の少なくとも加水分解が完了しており、脱水縮合反応が進んでいることがわかる。
【0075】
実施例1の溶解液について、23℃60%RHの環境において、途中の120時間静置した際の(すなわち、グリシドキシ基の開環反応ならびに、それに続くメトキシ基の加水分解および脱水縮合反応が進行中の)構造を解析するために、GPC測定を行った。なお、GPC測定においては、溶解液100mgに溶媒として0.02%のモノエタノールアミン添加THF5ml を加え、約90℃で2時間攪拌した。0.45μmフィルターを用いて濾過を行い、金属イオンを除去した後にゲル浸透クロマトグラフ-多角度光散乱光度計により、GPC測定を行っている。
図2に実施例1の反応途中の溶解液のGPC測定結果を示す。
図2において、840付近に分子量ピークが確認された。これは下記化学式1に示す環状構造を含む重合物が形成されていると考えられる。
【0076】
【0077】
上記化学式1の化合物は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が開環して環状に4個重合したものである。
なお、実際には、GPC測定用試料とは異なり、下記化学式3で示す、リチウムイオンが配位された構造を示すと考えられるが、GPC測定の前処理においてリチウムイオンが脱落した結果、GPC測定用試料においては上記化学式1の化合物が検出されたと考えられる。
【0078】
【0079】
また、より詳細には、上記化学式3の化合物の分子量は880であり、GPC測定結果(840)よりも大きい。よって、より正確にはGPC測定で検出された化合物は、下記化学式2のような構造であると考えられる。
【0080】
【0081】
上記化学式1と2の違いは、化学式2の化合物において、8個のメトキシ基のうち3個が加水分解されて水酸基となっていることである。すなわち、
図2の反応途中の溶解液の状態では、末端のアルコキシシリル基の一部が加水分解されており、且つシロキサン結合する前であるイオン感応物質を含んでいることがわかる。
【0082】
実施例1から製造条件を変更して実施例2~19および比較例1のイオン感応膜を作製した。なお、実施例2~19において、第1化合物としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに加え、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製、KBM-403、アルコキシ基の数:3)および3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(アルコキシ基の数:2)を用いた。第2化合物としては、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業製、KBM-13、アルコキシ基の数:3)、ジメチルジメトキシシラン(信越化学工業製、KBM22、アルコキシ基の数:2)およびシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(アルコキシ基の数:2)を用いた。アルカリ金属塩としては、過塩素酸リチウムに加え、トリフルオロ酢酸ナトリウム(関東化学製)およびヨウ化カリウム(関東化学製)等を用いた。第2化合物を含むものについては、第1化合物に第2化合物をあらかじめ添加して溶解させ、それにアルカリ金属塩を溶解させた。比較例1については、ジベンジル-14-クラウン-4からなるイオン感応物質と支持体PVCとを結合させたイオン感応膜を用いた。比較例1の作製方法としては、平均重合度1100のPVC1重量部を、26.6重量部のテトラヒドロフラン(関東化学製)に溶解させ、さらに可塑剤として2-ニトロフェニルオクチルエーテル(富士フイルム和光純薬製)を2重量部添加して、ジベンジル-14-クラウン-4(富士フイルム和光純薬製)0.1重量部とともに溶解させた。この溶解液を実施例1でも用いたポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に流し込み、約12時間大気中において乾燥させ、得られた膜を比較例1のイオン感応膜とした。
【0083】
実施例2~19の溶解液において、実施例1と同様に(すなわち途中の120時間静置した後に)GPC測定した。アルカリ金属塩として、過塩素酸リチウムを用いたもの(実施例8)については、実施例1と同様に、エポキシ基が4つ開環して環状に重合したイオン感応物質が確認された。アルカリ金属塩として、トリフルオロ酢酸ナトリウムを用いたもの(実施例9)については、エポキシ基が5つ開環して環状に重合したイオン感応物質が確認された。アルカリ金属塩として、ヨウ化カリウムを用いたもの(実施例2~7、1~19)については、エポキシ基が6つ開環して環状に重合したイオン感応物質が確認された。
【0084】
各実施例および各比較例により得られたイオン感応膜の電位応答、繰り返し使用に対する耐久性(以下、「維持率」と称する)および弾性率を評価した。
【0085】
(電位応答および維持率)
図3に電位応答測定に使用した装置の概略図を示す。
図3に示すように、作用電極1中、ガラス製電極ボディ2にイオン感応膜5を設置し、さらに内部に内部電解液4、塩化銀電極3を設けた。さらに参照電極7と共に、イオン計測を行おうとする試料溶液8に浸し、作用電極1と参照電極7の間の電位差を電位差計6によって測定した。尚、参照電極7は、プラスチックボディ内に銀/塩化銀電極、内部電解質水溶液が設けられ、液絡部に多孔質セラミックを使用した公知のものを使用した。測定対象となるイオンに応じて、内部電解質水溶液および内部電解液4を変更した。すなわち、実施例2から実施例7、および実施例10から実施例19では、飽和塩化カリウム水溶液、実施例1および8ならびに比較例1では飽和塩化リチウム水溶液、実施例9では飽和塩化ナトリウム水溶液とした。測定対象イオンの濃度既知の標準溶液数種類で、電位差を電位差計6で測定し、電位応答を測定した。さらに、実施例ごとに電位応答測定を30回、繰り返し行い、初期の電位応答に対する30回目の電位応答の割合(百分率)を維持率(%)とした。
【0086】
維持率の判定基準として、維持率が優れた範囲として90%以上のものを「◎」、維持率が通常である範囲として80%以上のものを「〇」、維持率が不十分である範囲として80%より小さいものを「×」とした。
【0087】
電位応答は高い方が好ましい。判定基準として、電位応答に特に優れている範囲として50mV/decade以上のものを「◎」とし、電位応答に優れている範囲として、40mV/decade以上のものを「〇」とし、電位応答が許容範囲として35mV/decade以上のものを「△」とした。
【0088】
(弾性率)
それぞれの実施例、比較例において、作製したイオン感応膜から5mm×30mmの短冊形状のものを切り出し、公知の引張強度計を使用し、弾性率を測定した。
【0089】
弾性率は所定の範囲にすることでイオン感応膜のクラック発生を抑制しつつ、強度を確保できる。弾性率の好ましい範囲として95MPa以上500MPa以下のものを〇とし、特に好ましい範囲として110MPa以上350MPa以下のものを◎とした。許容できる範囲として、70MPa以上95MPa未満、または500MPa超800MPa以下を「△」とした。
【0090】
図4および
図5に結果を示す。
図4および
図5の結果より、次のように考察できる。実施例1~19は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件の全てを満足する例であり、維持率が優れていた。
【0091】
実施例1~17は、実施例18および19とは異なり、R1が好ましい範囲(0.9以下)にあったため、維持率に加え、電位応答が優れていた。さらに、実施例10~15は、実施例1~9、16および17とは異なり、R1がより好ましい範囲(0.2≦R1≦0.5)にあったため、電位応答が特に優れていた。
【0092】
実施例1~15および19は、実施例16~18とは異なり、R2が好ましい範囲(2.00以上2.90以下)にあったため、維持率に加え、弾性率が好ましい範囲となった。さらに、実施例2、4、8~11および15は、実施例1、3、5~7、12~14および19とは異なり、R2がより好ましい範囲(2.10以上2.50以下)にあったため、弾性率が特に好ましい範囲となった。
一方、比較例1は、本発明の実施形態で規定する要件を満たしていない例であり、維持率が不十分であった。
【0093】
比較例1は、イオン感応物質が環状構造を含むものの、末端にアルコキシシリル基(またはその加水分解後のシラノール基)を有していなかったため、維持率が不十分であった。おそらく繰り返し測定中にイオン感応物質が脱落してしまい、維持率が低下したものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のイオン感応物質および、それを使用したイオン感応膜は、例えば液中に溶存するイオン活量測定用のイオン選択性電極などに利用でき、繰り返し測定に対して十分な耐久性を示し、さらに高い電位応答および好ましい弾性率を有するため、産業上の利用価値は高い。
【符号の説明】
【0095】
1 作用電極
2 ガラス製電極ボディ
3 塩化銀電極
4 内部電解液
5 イオン感応膜
6 電位差計
7 参照電極
8 試料溶液