(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】地山補強工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20231215BHJP
E21D 5/01 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D5/01
(21)【出願番号】P 2019144762
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】391023518
【氏名又は名称】一般社団法人日本建設機械施工協会
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森 正彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 篤
(72)【発明者】
【氏名】足立 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】浅井 勉
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】寺戸 秀和
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-040057(JP,A)
【文献】特開2019-019447(JP,A)
【文献】特開平03-197795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
E21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽近傍に位置するトンネル側壁部から側方の地山に
水平方向且つ斜め前方に向かって削孔を施し、前記削孔内に地山補強用芯材を挿入した状態で当該削孔内に固結材を注入、又は、前記削孔内に固結材を充填した後に当該削孔内に地山補強用芯材を挿入することで地山内に地山補強部を形成する地山補強工法であって、
前記地山補強部は、
前記トンネル側壁部から側方の地山内へと水平方向に延設され、且つ、前記側方の地山に対する削孔方向とトンネル掘進方向とのなす、トンネル平面視における地山削孔角度が鋭角に設定され、前記地山補強部の少なくとも一部が切羽前方地山に延在するように形成される、
地山補強工法。
【請求項2】
前記地山補強部は、トンネルの支保構造に含まれる鋼製支保工の脚部近傍に対応する高さに形成される、
請求項1に記載の地山補強工法。
【請求項3】
前記地山補強部は、トンネル掘進方向に切羽前方地山を一定区間掘削する掘進サイクル区間毎に形成される、
請求項1又は2に記載の地山補強工法。
【請求項4】
掘進サイクル区間毎に、トンネルの左右の地山に一組の前記地山補強部が形成される、
請求項3に記載の地山補強工法。
【請求項5】
各掘進サイクル区間における前記地山補強部は、トンネルの横断面視において同一の位置に形成されている、
請求項3又は4に記載の地山補強工法。
【請求項6】
各掘進サイクル区間における前記地山補強部の各々は前記地山削孔角度が互いに等しい、
請求項3から5の何れか一項に記載の地山補強工法。
【請求項7】
前記地山補強部は、前記削孔の周辺地山に注入された前記固結材が硬化することで形成された地山改良領域を含む、
請求項1から6の何れか一項に記載の地山補強工法。
【請求項8】
前記地山補強部における前記地山改良領域が繋がるように地山内に複数の地山補強部を連設する、
請求項7に記載の地山補強工法。
【請求項9】
前記地山補強部は、トンネル掘進方向に切羽前方地山を一定区間掘削する掘進サイクル区間毎に形成され、
互いに隣接する前記地山補強部の地山改良領域同士が繋がるように各掘進サイクル区間における前記地山補強部を形成する、
請求項8に記載の地山補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを構築する工法として、NATM工法(New Austrian Tunneling Method)と称
される山岳工法が知られている。NATM工法は、地山が有する支保能力、強度を有効に利用してトンネルの安定を保つという考え方のもとに、吹付けコンクリート、ロックボルト、H型鋼等からなるアーチ状の鋼製支保工を適宜に用いて、地山と一体化したトンネル構造物を構築する工法である。
【0003】
NATM工法においては、切羽の安定性、トンネルの変形等を抑制することを目的として、種々の地山補強工法(補助工法)と組み合わせて施工される場合がある。例えば、トンネル天端部の肌落ち防止、地山の剥 落防止等を目的として、切羽の天端部に沿って長
尺の注入管を掘進方向に対し斜め前方の地山に打設し、注入管から注入材を注入すると共に硬化させ、地山を固結改良する長尺鋼管先受け工法(AGF工法)が知られている(例えば、特許文献1~3等を参照)。
【0004】
また、トンネルの地盤支持力が小さく、トンネル全体の沈下が懸念される場合には、ロックボルトよりも引張強度やせん断強度の大きい鋼管をトンネル側壁部から側方に向かって地山に打設し、鋼管内から定着材を注入することで地山と鋼管を一体化するサイドパイル工法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3919731号公報
【文献】特許第4640674号公報
【文献】特許第5965778号公報
【文献】特許第6430358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のサイドパイル工法においては、トンネル縦断方向(トンネル軸方向)に対して直交するトンネル横断方向に沿って鋼管を打設する方式であるため、地山掘削に伴う前方地山の変位抑制には効果があまり期待できず、トンネル地盤の沈下を十分に抑えることができない虞があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、トンネルの掘進方向における前方地山の掘削に先立ってトンネルの沈下を抑制することの可能な地山補強工法に関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、トンネルの切羽近傍に位置するトンネル側壁部から側方の地山に削孔を施し、前記削孔内に地山補強用芯材を挿入した状態で当該削孔内に固結材を注入、又は、前記削孔内に固結材を充填した後に当該削孔内に地山補強用芯材を挿入することで地山内に地山補強部を形成する地山補強工法であって、前記地山補強部は、前記側方の地山に対する削孔方向とトンネル掘進方向とのなす地山削孔角度が鋭角に設定され、少なくとも一部が切羽前方地山に延在するように形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、前記地山補強部は、トンネルの支保構造に含まれる鋼製支保工の脚部近傍に対応する高さに形成されても良い。
【0010】
また、本発明において、前記地山補強部は、トンネル掘進方向に切羽前方地山を一定区間掘削する掘進サイクル区間毎に形成されても良い。
【0011】
また、本発明において、掘進サイクル区間毎に、トンネルの左右の地山に一組の前記地山補強部が形成されても良い。
【0012】
また、本発明において、各掘進サイクル区間における前記地山補強部は、トンネルの横断面視において同一の位置に形成されていても良い。
【0013】
また、本発明において、各掘進サイクル区間における前記地山補強部の各々は前記地山削孔角度が互いに等しくても良い。
【0014】
また、本発明において、前記地山補強部は、前記削孔の周辺地山に注入された前記固結材が硬化することで形成された地山改良領域を含んでいても良い。この場合、前記地山補強部における前記地山改良領域が繋がるように地山内に複数の前記地山補強部を連設しても良い。更には、前記地山補強部は、トンネル掘進方向に切羽前方地山を一定区間掘削する掘進サイクル区間毎に形成され、互いに隣接する前記地山補強部の前記地山改良領域同士が繋がるように各掘進サイクル区間における前記地山補強部を形成しても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トンネルの掘進方向における前方地山の掘削に先立ってトンネルの沈下を抑制することの可能な地山補強工法に関する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る地山補強工法が適用されるトンネルの縦断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る地山補強構造の概略構造図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る地山補強構造の概略構造図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る地山補強用芯材の詳細構造を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る注入ユニットの詳細構造を説明する図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る注入機の構成図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係るミキサーの構成図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る第1インナーチューブ及び第2インナーチューブにミキサーが組み込まれた状態を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る地山補強構造の施工手順を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態1に係るトンネルの新設区間において、側壁部における目標打設位置から地山補強用芯材を側方地山に打設する状況を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態1に係るトンネルの新設区間において左右一組の地山補強用芯材の打設が完了した状況を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係る注入ユニットを地山補強用芯材に装着した状態を示す図である。
【
図13】
図13は、地山内に形成された地山補強部を説明する図である。
【
図14】
図14は、実施形態1に係る地山補強部の補強部中心軸ピッチを説明する図である。
【
図15】
図15は、実施形態1の変形例に係る地山補強工法を説明する図である。
【
図16】
図16は、実施形態2に係る地山補強構造の概略構造図である。
【
図17】
図17は、実施形態2に係る地山補強構造の概略構造図である。
【
図18】
図18は、実施形態2に係る地山補強部を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る地山補強工法が適用されるトンネルTの縦断面を模式的に示す図である。トンネルTは、例えば山岳工法(NATM工法)によって構築されるトンネルである。山岳工法における一般的な手順を説明すると、トンネルTのトンネル軸に沿ったトンネル掘進方向DTに、一定区間(以下、「掘進サイクル区間」という)に亘って地山1を掘削後、切羽2の安定を確保しつつ変形を抑制するために、吹付けコンクリート、鋼製支保工、ロックボルト等といった支保構造を設置する。掘進サイクル区間の長さは特に限定されないが、以下では掘進サイクル区間を1m程度とする場合を例に説明する。
【0019】
図1において、符号3は1次吹付けコンクリート層、符号4はH形鋼によって形成されるアーチ状の鋼製支保工、符号5は1次吹付けコンクリート層3及び鋼製支保工4を一体に固定する2次吹付けコンクリート層である。また、符号8は、ロックボルトである。鋼製支保工4は、トンネル掘進方向DTに例えば1m毎など所定間隔毎に建て込まれている。但し、トンネル掘進方向DTへの鋼製支保工4の建て込み間隔は特に限定されない。また、
図1において、符号6はトンネルTの側壁部であり、符号7は上半盤である。山岳工法は、上記のように地山1の掘削及び支保構造の設置を1掘進サイクル区間毎に繰り返すことで、トンネルTを順次伸長させてゆく。なお、地山1は、トンネル周辺の土砂及び岩盤等である。また、切羽2は、地山1の掘削作業を行っている最前部の掘削面である。
【0020】
本実施形態においては、トンネルTの沈下抑制及び前方地山の拘束等を目的として地山1を補強するための地山補強構造10を構築する地山補強工法(補助工法)を採用する。以下、本実施形態における地山補強構造10について詳しく説明する。
【0021】
図2及び
図3は、実施形態1の地山補強工法に係る地山補強構造10の概略構造を示す図である。
図2に、トンネルTの横断面方向における地山補強構造10の概略構造を示し、
図3に、地山補強構造10の平面構造を示す。トンネルTの横断面は、トンネル軸方向(トンネル掘進方向DT)と直交する断面である。
図3は、
図2におけるA-A矢視断面を示している。
図3に示す符号CL1は、トンネルTのトンネル軸である。本明細書において、トンネル軸CL1は、トンネル掘進方向DTと平行に伸びている。また、
図3に示す破線は、1掘進サイクル区間毎の領域を示したものである。また、
図3に示す符号1bは、切羽2よりも前方に位置する切羽前方地山である。
【0022】
本実施形態における地山補強工法は、トンネルTの側壁部6からトンネルTの側方に位置する左右の側方地山1aに削孔を施し、削孔内に地山補強用芯材14を挿入した状態で削孔内に固結材(定着材)を注入(充填)することで側方地山1a内に地山補強部12を形成することを特徴とする。
【0023】
図3に示すように、側方地山1a内に形成される地山補強部12は、トンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1方向)に沿って所定間隔(以下、「補強部形成ピッチRP」という)毎に連設されている。本実施形態では、補強部形成ピッチRPが、例えば1掘進サイクル区間の長さ(例えば、1m程度)に対応しており、1掘進サイクル区間毎に左右一組の地山補強部12が側方地山1aに形成されるようになっている。
【0024】
図3に示す符号11Lは、トンネル掘進方向DTを基準としてトンネルTの左側に位置
する側方地山1a内に、所定の補強部形成ピッチRPで連設された複数の地山補強部12の集合体であり、以下では地山補強構造体11Lと呼ぶ。また、符号11Rは、トンネル掘進方向DTを基準としてトンネルTの右側に位置する側方地山1a内に、所定の補強部形成ピッチRPで連設された複数の地山補強部12の集合体であり、以下では地山補強構造体11Rと呼ぶ。なお、補強部形成ピッチRPは、トンネル掘進方向DTに沿った方向における地山補強部12同士の間隔である。
【0025】
地山補強構造体11L及び地山補強構造体11Rに含まれる各地山補強部12は同一構造となっている。地山補強構造体11L及び地山補強構造体11Rを区別しない場合には、単に「地山補強構造体11」と表記する場合がある。本実施形態においては、地山補強構造体11L及び地山補強構造体11Rを含んで地山補強構造10が構成されている。
【0026】
また、
図2に示すように、地山補強部12は、トンネルTにおける側壁部6(具体的には、側壁部6を構成する2次吹付けコンクリート層5)から側方地山1a内へと水平方向に向けて延設されている。ここで、掘進サイクル区間毎に連設された地山補強部12は、トンネルTの横断面視において同一の位置に形成されている。また、地山1の荷重は、鋼製支保工4の脚部近傍に集中する。そのため、側方地山1aに構築する地山補強部12の高さは、鋼製支保工4の脚部近傍に対応させることが好ましい。また、
図3に示すように、地山補強構造体11における各地山補強部12は、トンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1方向)に対して傾斜した姿勢で側方地山1a内に延伸するように配置されており、且つ、各地山補強部12が平面視において互いに平行に配置されている。
【0027】
次に、地山補強部12の詳細構造について説明する。地山補強部12は、トンネルTにおける左右の側方地山1aに削孔(穿設)された削孔(挿入孔)13内に挿入された地山補強用芯材14と、削孔13内に地山補強用芯材14を挿入した状態で削孔13内に固結材(定着材)15を注入することで側方地山1a内に形成された固結補強部16を含んで構成されている。固結補強部16の詳細については後述する。
【0028】
図4は、実施形態1に係る地山補強用芯材14の詳細構造を示す図である。地山補強用芯材14は自穿孔型注入式の鋼製ロックボルトであり、第1ロックボルト本体141、第2ロックボルト本体142、接続スリーブ143、削孔ビット144、シャンクスリーブ145等を有する。第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142は、全ネジ中空ボルトである。第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142には、ボルト軸方向に沿って第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142を貫通する中空部140が形成されている。
【0029】
また、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142の外面には、ボルト軸方向に沿ってネジ部141b,142bが形成されている。また、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142の先端側には、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142を板厚方向に貫通する吐出口141c,142cが開口している。第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142における各吐出口141c,142cは、中空部140内に注入された固結材(定着材)15を第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142の外方に吐出するための開口部である。例えば、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142における各吐出口141c,142cは、ボルト周方向に沿った複数個所に略等間隔で開口している。但し、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142における各吐出口141c,142cの数、位置等は適宜変更することができる。
【0030】
接続スリーブ143は、第1ロックボルト本体141の後端と第2ロックボルト本体142の先端を接続する鋼製の管状部材である。接続スリーブ143の内周側には、第1ロ
ックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142のネジ部141b,142bと螺着可能なネジ部(図示せず)が形成されている。第1ロックボルト本体141の後端と第2ロックボルト本体142の先端を突き合わせた状態で、接続スリーブ143を介して第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142が一体に連結されている。
【0031】
シャンクスリーブ145は、地山補強用芯材14(第2ロックボルト本体142)の後端側を油圧ドリフター(削岩機)のアタッチメントに対して着脱自在に装着するためのアダプター部材である。シャンクスリーブ145の先端側には第1ジョイント部145aが設けられ、後端側に第2ジョイント部145bが設けられている。シャンクスリーブ145の第1ジョイント部145aは、第2ロックボルト本体142の後端側を受け入れることで第2ロックボルト本体142が着脱自在に接続される筒状部材であり、第2ロックボルト本体142のネジ部142bに螺着可能なネジ部(図示せず)が形成された内周面を有している。また、シャンクスリーブ145の第2ジョイント部145bは、油圧ドリフターのアタッチメントに対して着脱自在に装着可能な筒状部材である。
【0032】
削孔ビット144は、地山1を削孔するためのビット部材であり、第1ロックボルト本体141の先端に取り付けられている。削孔ビット144は、削孔水を吐出する吐出孔144aを有し、吐出孔144aから削孔水を噴射しながら地山を削孔することができる。
【0033】
上記のように構成される地山補強用芯材14は、側方地山1a内に打設された後、注入ユニット17によって、第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142を貫通する中空部140内に固結材(定着材)15が注入される。以下、注入ユニット17の詳細について説明する。なお、
図4に示す地山補強用芯材14は、接続スリーブ143を介して第1ロックボルト本体141及び第2ロックボルト本体142を連結しているが、このように複数のボルトを接続する態様ではなく、単一のボルトの先端側に削孔ビット144を取り付け、後端側にシャンクスリーブ145を取り付けた態様であっても良い。
【0034】
図5は、実施形態1に係る注入ユニット17の詳細構造を説明する図である。注入ユニット17は、第1インナーチューブ171、第2インナーチューブ172、取付アダプター173等を含む。第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172は、中空状の耐圧ホース又は耐圧チューブ部材等によって形成されており、固結材15を流通させる流通路P1がチューブ軸方向に沿って形成されている。第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172は、適宜の固定部材174によって相互に束ねられた状態で一体に固定されている。
【0035】
第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端には、流通路P1を閉塞する閉塞部材175がそれぞれ設けられており、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172における閉塞部材175の後段には、ミキサー18が流通路P1内に設けられている。ミキサー18については後述する。
図5に示すように、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172は、第1インナーチューブ171の先端が第2インナーチューブ172の先端より前方に位置するように固定部材174によって一体に固定されている。第1インナーチューブ171の先端と第2インナーチューブ172の先端の、チューブ軸方向における位置ずれ量は、第1ロックボルト本体141の吐出口141cと第2ロックボルト本体142の吐出口142cのボルト軸方向における位置ずれ量と概ね一致している。また、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の後端には、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の各流通路P1に固結材15を注入するための注入アダプター177が取り付けられている。
【0036】
また、取付アダプター173は、注入ユニット17を、地山補強用芯材14(第2ロッ
クボルト本体142)の後端に対して着脱自在に装着するための筒状のアダプター部材である。取付アダプター173は、第2ロックボルト本体142のネジ部142bに螺着可能なネジ部173aが形成された内周面を有している。また、取付アダプター173の内側には、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の流通路P1に注入された固結材15が逆流することを抑制するための逆止弁178が設けられている。
【0037】
図6は、実施形態1に係る第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172に固結材15を圧送するための注入機19の構成図である。注入機19は、第1インナーチューブ171に固結材15を圧送する第1圧送ユニット191と、第2インナーチューブ172に固結材15を圧送する第2圧送ユニット192を有する。第1圧送ユニット191及び第2圧送ユニット192は、実質的に同一の構成となっている。
【0038】
第1圧送ユニット191及び第2圧送ユニット192は、固結材15のA液を貯留する第1タンク193と、固結材15のB液を貯留する第2タンク194を有する。符号195は、固結材15のA液及びB液を混合するミキシングユニットである。符号196Aは第1圧送ポンプ、符号196Bは第2圧送ポンプである。符号197Aは第1デリバリーホース、符号197Bは第2デリバリーホースである。第1デリバリーホース197Aは、第1タンク193とミキシングユニット195を接続する耐圧ホースである。第2デリバリーホース197Bは、第2タンク194とミキシングユニット195を接続する耐圧ホースである。第1圧送ポンプ196Aが作動することによって、第1タンク193に貯留されている固結材15のA液が第1デリバリーホース197Aを通じてミキシングユニット195に送られる。また、第2圧送ポンプ196Bが作動することによって、第2タンク194に貯留されている固結材15のB液が第2デリバリーホース197Bを通じてミキシングユニット195に送られる。
【0039】
ミキシングユニット195において合流した固結材15のA液及びB液は当該ミキシングユニット195によって混合される。第1圧送ユニット191のミキシングユニット195は、第3デリバリーホース197Cを通じて第1インナーチューブ171の注入アダプター177に接続されており、2液が混合された状態の固結材15が第3デリバリーホース197Cによって第1インナーチューブ171に圧送される。同様に、第2圧送ユニット192のミキシングユニット195は、第3デリバリーホース197Cを通じて第2インナーチューブ172の注入アダプター177と接続されており、2液が混合された状態の固結材15が第3デリバリーホース197Cによって第2インナーチューブ172に圧送される。また、第1圧送ユニット191及び第2圧送ユニット192における第1デリバリーホース197Aには圧力計198が設けられている。
【0040】
図7は、実施形態1に係る第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端部に設けられたミキサー18の構成図である。
図8は、実施形態1に係る第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172にミキサー18が組み込まれた状態を示す図である。ミキサー18は、一直線状に伸びる軸部181、軸部181の周囲に螺旋状に形成された攪拌羽根部182、ミキサー18の後端側に設けられた座金板183等を含んで構成されている。ミキサー18の座金板183は、円盤形状を有している。また、座金板183における平面中央部には、連通孔183aが座金板183を貫通して設けられている。
図7に示すD1は、ミキサー18における座金板183の外径を示す。座金板183の外径D1は、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の内径に等しい。
【0041】
図8は、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端側からミキサー18を挿入し、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の内周面171a,172aに座金板183の側面を嵌合固定した後、第1インナーチューブ
171及び第2インナーチューブ172の先端を閉塞部材175によって閉塞した状態を示している。第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の内周面171a,172aに対する座金板183の嵌め合いによって、軸部181の中心軸は第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の中心軸と同軸に配置された状態となる。
【0042】
また、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端側、具体的には、ミキサー18の先端側に対応する位置には、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172を部材厚さ方向に貫通する連通孔171b,172bが設けられている。第1インナーチューブ171における注入アダプター177から流通路P1に流入した固結材15は、ミキサー18に向けて圧送される。そして、ミキサー18の座金板183に形成された連通孔183a、攪拌羽根部182を順次通過した固結材15は、第1インナーチューブ171の連通孔171bから外部、すなわち第1ロックボルト本体141の中空部140に流出する。同様に、第2インナーチューブ172における注入アダプター177から流通路P1に流入した固結材15は、ミキサー18に向けて圧送される。そして、ミキサー18の座金板183に形成された連通孔183a、攪拌羽根部182を順次通過した固結材15は、第2インナーチューブ172の連通孔172bから外部、すなわち第2ロックボルト本体142の中空部140に流出する。また、本実施形態における第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172は、流通路P1の先端領域にミキサー18が設けられているため、固結材15が攪拌羽根部182を通過する際に、固結材15を好適に攪拌することができる。
【0043】
次に、地山補強工法に係る地山補強構造10の施工手順を説明する。
図9は、実施形態1に係る地山補強構造10の施工手順を示す図である。地山補強構造10の構築にあたり、まずステップS101において準備工が行われる。そして、ステップS101の準備工が終了すると、ステップS102において打設工が行われる。また、ステップS102の打設工が終了すると、ステップS103において注入工を行う。また、ステップS103の注入工が終了すると、ステップS104において後端部吹付け処理を行う。以下、各ステップの具体的内容について説明する。
【0044】
準備工(ステップS101)は、トンネルTの新設区間において2次吹付けコンクリートの吹付けを行い、2次吹付けコンクリート層5を形成する(
図1を参照)。また、準備工(ステップS101)においては、トンネルTの新設区間に新たに打設すべき一組の地山補強用芯材14の打設位置(以下、「目標打設位置PT」という)の測量を行い、トンネルTにおける側壁部6(側壁部6を構成する2次吹付けコンクリート層5の表面)に地山補強用芯材14の目標打設位置PTをマーキングする(
図1を参照)。目標打設位置PTの高さは、鋼製支保工4の脚部近傍に対応する高さに設定されており、例えば、鋼製支保工4におけるベースプレート位置からの所定寸法だけ高い位置に設定しても良い。
【0045】
また、新設区間における目標打設位置PTは、1つ前の掘進サイクル区間に打設した地山補強用芯材14の目標打設位置PTからトンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1方向)に補強部形成ピッチRPだけ前方の位置に設定される。また、準備工においてトンネルTの新設区間に2次吹付けコンクリート層5を形成する際、目標打設位置PTを含む一定範囲(以下、「芯材打設周辺領域」という)Rにおける2次吹付けコンクリート層5の厚さを規定厚さよりも薄くしておく。
【0046】
次に、トンネルTにおける側壁部6(側壁部6を構成する2次吹付けコンクリート層5の表面)にマーキングした目標打設位置PTから側方地山1a内へと地山補強用芯材14を打設する。なお、新設区間の後方側に位置する既設区間においては、地山補強構造体11L,11Rにおける複数の地山補強部12が補強部形成ピッチRPで既に形成されてい
る。
【0047】
図10は、実施形態1に係るトンネルTの新設区間において、側壁部6における目標打設位置PTから地山補強用芯材14を側方地山1aに打設する状況を示す図である。地山補強用芯材14の打設は、
図4で説明した地山補強用芯材14のシャンクスリーブ145を、例えばドリルジャンボ等の重機に搭載されたドリフターのアタッチメントによって把持した状態で行われる。ドリフターを用いた地山補強用芯材14の打設は、地山補強用芯材14を回転させつつシャンクスリーブ145を打撃しながら行われても良い。
【0048】
ここで、地山補強用芯材14は、トンネルTの側壁部6における目標打設位置PTから、
図10に示す「地山削孔方向Db」に向かって直線状に打設される。地山削孔方向Dbは、当該地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1)とがなす角度(以下、「地山削孔角度」という)θ1が鋭角になるように設定されている。
図10は、地山削孔角度θ1が45°に設定されている場合を例示している。また、地山補強用芯材14は、トンネルTの側壁部6における目標打設位置PTから側方地山1a内に水平に打設される。なお、側方地山1aの内側には、1次吹付けコンクリート層3及び2次吹付けコンクリート層5が形成されているため、地山補強用芯材14は各コンクリート層を貫通した上で側方地山1aへと打設される。
【0049】
図11は、実施形態1に係るトンネルTの新設区間において左右一組の地山補強用芯材14の打設が完了した状況を示す図である。なお、
図10においては、トンネルTにおける右側の側方地山1aに地山補強用芯材14を打設する状況を図示したが、左側の側方地山1aに対しても同様に、地山削孔角度θ1が鋭角となるように予め設定された角度(ここでは、45°)となるように地山補強用芯材14の打設が行われる。
【0050】
ここで、地山補強用芯材14は、自穿孔型注入式の鋼製ロックボルトによって形成されているため、トンネルTにおける側壁部6から側方地山1a内に地山補強用芯材14を打設することで、側方地山1aに対する削孔13の形成と、削孔13への地山補強用芯材14の挿入が同時に行われる。本実施形態においては、地山補強用芯材14の地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1)とがなす地山削孔角度θ1を鋭角に設定することで、地山補強用芯材14(削孔13)がトンネルTの側壁部6から切羽前方地山1bに向かって斜め前方に向かって延伸配置される。これにより、地山補強用芯材14(削孔13)の先端側を含む少なくとも一部を切羽前方地山1bに到達させ、切羽前方地山1bに延在させることができる。
【0051】
トンネルTの新設区間において左右一組の地山補強用芯材14の打設が完了した後、続くステップS103において注入工を行う。ここでは、地山補強用芯材14の後端からシャンクスリーブ145を取り外し、
図5で説明した注入ユニット17を地山補強用芯材14に装着する。具体的には、注入ユニット17における第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172を、地山補強用芯材14における第2ロックボルト本体142の後端から中空部140内に挿入し、地山補強用芯材14(第2ロックボルト本体142)の後端に取付アダプター173を取り付ける。
【0052】
図12は、実施形態1に係る注入ユニット17を地山補強用芯材14に装着した状態を示す図である。本実施形態においては、地山補強用芯材14(第2ロックボルト本体142)の後端に取付アダプター173を取り付けることで、地山補強用芯材14の中空部140内に挿入された第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172が自動的に位置決めされるようになっている。これにより、第1インナーチューブ171の連通孔171b(
図8を参照)と第1ロックボルト本体141の吐出口141c(
図4を参照)の位置を、第1ロックボルト本体141のボルト軸方向に沿って概ね合致させることが
できる。同様に、第2インナーチューブ172の連通孔172b(
図8を参照)と第2ロックボルト本体142の吐出口142c(
図4を参照)の位置を、第2ロックボルト本体142のボルト軸方向に沿って概ね合致させることができる。
【0053】
上記のように注入ユニット17を地山補強用芯材14に装着した後は、注入機19における第1圧送ユニット191及び第2圧送ユニット192の各第3デリバリーホース197を、それぞれ第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の注入アダプター177に接続する。これにより、注入機19及び注入ユニット17を用いて地山補強用芯材14の中空部140に固結材15を圧送するための準備が完了する。
【0054】
その後、注入機19における第1圧送ポンプ196A及び第2圧送ポンプ196Bを作動させると、第1圧送ユニット191及び第2圧送ユニット192から圧送された固結材15が、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の各注入アダプター177から流通路P1へと流入する。各流通路P1内に供給された固結材15は、各流通路P1の先端側に配置されたミキサー18の攪拌羽根部182を通過する際に十分に攪拌される。このようにミキサー18において十分された固結材15は、第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端に形成された連通孔171b,172bから地山補強用芯材14の中空部140へと流出する。
【0055】
第1インナーチューブ171の連通孔171bから第1ロックボルト本体141の中空部140に流出した固結材15は、第1ロックボルト本体141における中空部140の空間を埋めるように充填されると共に、第1ロックボルト本体141の吐出口141cから第1ロックボルト本体141の外部へと吐出される。また、第2インナーチューブ172の連通孔172bから流出した固結材15は、第2ロックボルト本体142における中空部140の空間を埋めるように充填されると共に、第2ロックボルト本体142の吐出口142cから円滑に第2ロックボルト本体142の外部へと吐出される。
【0056】
ここで、第1インナーチューブ171の連通孔171bと第1ロックボルト本体141の吐出口141cの相互位置は概ね合致しているため、第1インナーチューブ171の連通孔171bから流出した固結材15を第1ロックボルト本体141の吐出口141cから円滑に外部へと吐出させることができる。同様に、第2インナーチューブ172の連通孔172bと第2ロックボルト本体142の吐出口142cの相互位置は概ね合致しているため、第2インナーチューブ172の連通孔172bから流出した固結材15を第2ロックボルト本体142の吐出口142cから円滑に外部へと吐出させることができる。
【0057】
なお、第1ロックボルト本体141の吐出口141cは、第1ロックボルト本体141の先端以外の部位に設けられていても良く、第1ロックボルト本体141のボルト軸方向に沿って一定間隔毎に配列されていても良い。同様に、第2ロックボルト本体142の吐出口142cは、第2ロックボルト本体142の先端以外の部位に設けられていても良く、第2ロックボルト本体142のボルト軸方向に沿って一定間隔毎に配列されていても良い。また、第1ロックボルト本体141の削孔ビット144は吐出孔144aを有しているため、当該吐出孔144aから固結材15を削孔13内に吐出することもできる。
【0058】
以上のように、地山補強用芯材14(第1ロックボルト本体141、第2ロックボルト本体142)における各吐出口141c,142cから所定の圧力で吐出された固結材15は、削孔13と地山補強用芯材14の間に形成された隙間に充填されると共に、地山補強用芯材14の周辺(周囲)に存在する周辺地山に注入、浸透する。その結果、
図13に示すように、削孔13と地山補強用芯材14との隙間に充填された固結材15が硬化することで定着領域16aが形成され、周辺地山に注入された固結材15が硬化することで地山改良領域16bが形成される。ここで、定着領域16aは、地山補強用芯材14と周辺
地山とを一体に定着する領域である。また、地山改良領域16bは、周辺地山が固結改良された領域である。本実施形態の地山補強構造10において、地山補強部12の固結補強部16は、定着領域16a及び地山改良領域16bを含んで構成されている。
【0059】
注入工においては、予め設定しておいた量の固結材15が注入されたことを確認した時点で、第1圧送ポンプ196A及び第2圧送ポンプ196Bの作動を停止し、固結材15の注入作業を終了する。注入機19による固結材15の注入速度については特に限定されないが、例えば5kg/分程度の注入速度とする態様が例示できる。なお、注入工においては、地山補強用芯材14の後端側に膨張式のラバーパッカー等を設置しても良く、固結材15の注入と同時にラバーパッカーを膨張させることで、固結材15が地山補強用芯材14の後端側から漏洩することを抑制しても良い。なお、注入工において注入機19から供給する固結材15の注入量は、地山補強用芯材14の中空部容積、削孔13と地山補強用芯材14との間に形成される定着領域16aの容積、地山を固結改良する地山改良領域16bの容積等に基づいて設定することができる。また、本実施形態における第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172の先端側にはミキサー18が設けられ、当該ミキサー18の攪拌羽根部182において固結材15を十分に混合、攪拌することができる。このように、地山への注入直前の位置で固結材15の混合、攪拌を行うことで、固結材15が地山補強用芯材14の中空部140が閉塞することを好適に抑制できる。
【0060】
固結材15の注入作業が終了すると、ステップS104において後端部吹付け処理を行う。後端部吹付け処理は、トンネルTの側壁部6における芯材打設周辺領域Rに吹付けコンクリートを吹付ける。なお、芯材打設周辺領域Rに対する吹付けコンクリートの吹き付けに先立ち、取付アダプター173の後端位置で第1インナーチューブ171及び第2インナーチューブ172を切断しても良い。その後、トンネルTの側壁部6における芯材打設周辺領域Rに露出する地山補強用芯材14の取付アダプター173が埋没するように、芯材打設周辺領域Rに対して吹付けコンクリートを規定厚さまで吹付ける。そして、上記の後端部吹付け処理が終了することで、
図2及び
図3に示すように、トンネルTの新設区間に対して左右一対の地山補強部12が構築される。このようにして、新設区間に左右一対の地山補強部12を新たに構築した後は、次の掘進サイクル区間の地山掘削を行う。本実施形態においては、掘進サイクル区間毎に、新設区間に対する支保構造と地山補強構造10の施工を交互に繰り返すことで、側方地山1aの沈下を抑制しつつ切羽前方地山1bに対しては掘削前に補強を施すことができる。
【0061】
以上のように、本実施形態における地山補強工法においては、トンネルTの側壁部6から側方地山1aに地山補強用芯材14を打設する際、地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DTとのなす地山削孔角度θ1を鋭角に設定し、新設区間において構築される地山補強部12をトンネルTの側壁部6から切羽2より前方に位置する切羽前方地山1bに向かって斜め前方に向かって延伸配置するようにした。これによれば、地山補強部12の少なくとも一部(本実施形態では、
図3に示すように大部分)を切羽前方地山1bに延在させることができる。これにより、次の掘進サイクル区間において切羽前方地山1bの掘削を行う前に、地山補強部12の地山補強用芯材14の剛性と、固結補強部16の強度によって切羽前方地山1bを事前に補強することができる。その結果、トンネルTにおける切羽前方地山1bの拘束力が高められ、切羽前方地山1bを掘削する際にトンネルTが沈下することを好適に抑制できる。
【0062】
また、本実施形態における地山補強工法によれば、掘進サイクル区間毎にトンネルTの左右の側方地山1aに一組の地山補強部12が形成されるため、トンネルTにおける左右の側方地山1aを好適に補強することができる。
【0063】
また、本実施形態における地山補強工法は、トンネルTの側壁部6から側方地山1a内
へと水平方向に向けて地山補強部12を形成するようにしたので、トンネルの沈下を好適に抑制できる。更に、本実施形態においては、
図3に示すように、側方地山1aのすべり線を横断するように地山補強部12を形成するようにしたので、側方地山1aの緩みが生じることを好適に抑制できる。また、本実施形態に係る地山補強工法においては、地山1内に形成する地山補強部12の高さを、鋼製支保工4の脚部近傍に対応させるようにした。このように地山1の荷重が集中する鋼製支保工4の脚部近傍の高さに地山補強部12を構築することで、トンネルの沈下をより一層好適に抑制できる。但し、本実施形態の地山補強工法において、トンネルTの側壁部6から地山1内に地山補強部12を形成すれば良く、地山1内に構築される地山補強部12が必ずしも鋼製支保工4の脚部近傍に対応している必要は無い。
【0064】
また、本実施形態における地山補強工法においては、トンネル掘進方向DTに切羽前方地山1bを一定区間掘削する掘進サイクル区間毎に地山補強部12が形成される。これによれば、トンネルTの側方地山1aに、トンネル掘進方向DTに沿って補強部形成ピッチRP毎に連設することができる。これによれば、トンネル掘進方向DTに連設される地山補強部12の集合体である地山補強構造体11が強固なものとなり、より大きな地山荷重を地山補強構造体11によって支持することができ、トンネルTの沈下をより好適に抑制することができる。
【0065】
特に、本実施形態においては、地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DTとのなす地山削孔角度θ1が鋭角に設定されるため、地山削孔方向Dbをトンネル掘進方向DTと直交方向に設定する場合(すなわち、トンネル掘進方向DTと直交する方向に地山補強用芯材14を打設する場合)に比べて、側方地山1a内において隣接する地山補強部12の中心軸同士の間隔(以下、「補強部中心軸ピッチ」という)W1を小さくすることができる。
【0066】
ここで、
図14は、実施形態1に係る地山補強部12の補強部中心軸ピッチW1を説明する図である。
図14における符号CL2は、地山補強部12の中心軸である。ここで、地山補強部12の中心軸CL2は、地山補強用芯材14の中心軸ということもできる。また、地山補強部12の中心軸CL2は、地山削孔方向Dbと平行である。また、補強部中心軸ピッチW1は、地山補強部12の中心軸CL2と直交方向における地山補強部12の中心軸CL2同士の間隔を指す。また、
図14においても、地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DTとのなす地山削孔角度θ1を45°に設定した例を図示している。また、
図14において削孔13の図示を省略している。
【0067】
本実施形態においては、地山削孔角度θ1が鋭角であるため、
図14に示すように補強部中心軸ピッチW1が補強部形成ピッチRPよりも小さくなる。
図14に示す例では、地山削孔角度θ1が45°であるため、補強部中心軸ピッチW1は、補強部形成ピッチRPの1/√2倍(約0.7倍)となる。これに対して、地山削孔角度θ1を直角に設定した場合(トンネル掘進方向DTと直交する方向に地山補強用芯材14を打設する場合)、地山補強部12の中心軸CL2はトンネル掘進方向DTと直交することになるため、地山補強部12の補強部中心軸ピッチW1は補強部形成ピッチRPと等しくなる。
【0068】
従って、本実施形態のように、地山削孔角度θ1を鋭角にすることで、地山補強部12の補強部中心軸ピッチW1(地山補強用芯材14の中心軸間隔)を補強部形成ピッチRPよりも狭めることができる。その結果、上述した注入工における固結材15の注入量が同じ条件であれば、地山1内で隣接する地山補強部12同士の離間寸法W2も、地山削孔角度θ1を直角に設定した場合(トンネル掘進方向DTと直交する方向に地山補強用芯材14を打設する場合)に比べて小さくすることができる。つまり、地山補強部12同士の間に位置する地山の未補強領域の幅を狭めることができる。これにより、密に配置された地山補強部12によって面状の地山補強構造体11を地山1内に構築することができ、地山
1の補強効果が非常に優れたものとなる。従って、本実施形態における地山補強構造体11によれば、より大きな地山荷重を支持することができ、トンネルTの沈下を好適に抑制できる。
【0069】
なお、実施形態1に係る地山補強工法において、地山補強構造体11において互いに隣接する地山補強部12の固結補強部16(地山改良領域16b)同士が繋がるように地山補強部12を形成しても良い。このようにすることで、地山補強構造体11に含まれる各地山補強部12が一体化された面状の地山補強構造体11を地山内に構築することができ、地山の補強効果が極めて優れたものとなる。なお、上記のように互いに隣接する地山補強部12における地山改良領域16b同士を連続させるには、地山削孔角度θ1、補強部形成ピッチRP、注入工における固結材15の注入量等を調整することで実現することができる。
【0070】
更に、本実施形態における地山補強工法においては、各掘進サイクル区間における地山補強部12が、トンネルTの横断面視において同一の位置に形成されている。これによれば、各掘進サイクル区間における地山補強部12をより一層密に配置することができる。その結果、地山1の補強効果をより一層高めることができる。なお、本実施形態においては、各掘進サイクル区間における地山補強部12を水平方向に延伸配置しているがこれには限られない。例えば、各掘進サイクル区間における地山補強部12同士の仰角又は俯角が相互に等しくなるように、各地山補強部12を構築しても良い。
【0071】
また、本実施形態における地山補強工法によれば、各掘進サイクル区間における地山補強部12の各々は、地山削孔角度θ1が互いに等しい。これによれば、新設区間において地山補強用芯材14を側方地山1aに打設する際、当該地山補強用芯材14が既設の地山補強部12と干渉したり、既設の地山補強部12を損傷することを抑制できる。
【0072】
なお、本実施形態において、側方地山1aに地山補強用芯材14を打設する際の地山削孔角度θ1は鋭角であれば良く、特定の角度に限定されないが、30°~60°の範囲に設定されることが好ましい。ここで、地山補強用芯材14の全長が等しい場合、地山削孔角度θ1が小さいほど、地山補強用芯材14におけるトンネル掘進方向DTへの打設長である掘進方向打設長さL2を大きく確保できる反面、地山補強用芯材14におけるトンネル横断方向への打設長である横断方向打設長さL3は小さくなる。逆に、地山削孔角度θ1が大きいほど、地山補強用芯材14におけるトンネル掘進方向DTへの打設長である掘進方向打設長さL2が小さくなる反面、地山補強用芯材14におけるトンネル横断方向への打設長である横断方向打設長さL3を大きく確保することができる。そして、掘進方向打設長さL2が大きいほど、新設区間において地山補強部12を構築する際、切羽前方地山1bを補強可能な範囲を拡大することができる。そこで、地山補強部12に側方地山1aのすべり線を横断させることができるような横断方向打設長さL3を設定し、そのような範囲内でできるだけ地山削孔角度θ1を小さな角度に設定しても良い。これにより、側方地山1aの沈下を抑制しつつ、切羽前方地山1bの補強量及び補強範囲を最大限確保することができる。なお、本実施形態において、地山補強構造体11Lにおける各地山補強部12の地山削孔角度θ1と、地山補強構造体11Rにおける各地山補強部12の補強部延伸角度θ1を異なる角度に設定しても良い。
【0073】
また、本実施形態における地山補強用芯材14の母材としては、降伏耐力が400kN/本以上、破断耐力が600kN/本以上、せん断耐力が200kN/本以上であることが好ましい。このような高剛性・高強度の地山補強用芯材14を使用することで、サイドパイルとして一般に用いられる鋼管と同等以上の剛性、強度を確保しつつ、鋼管を用いる場合と比較して地山への打設時間を大幅に短縮することができる。その結果、施工性を向上させることができ、工費の低減を図ることができる。また、本実施形態における地山補
強用芯材14によれば、地山への打設時間を短縮することができるため、地山に削孔水や振動の影響が及ぶことを低減できる。例えば、機械構造用炭素鋼鋼材S45Cによって形成されたKAT-R51(カテックス社製)を地山補強用芯材14として好適に用いることができる。なお、KAT-R51は外径が約50mm、肉厚が約8mm、重量が約8.5kg/mであり、サイドパイルとして一般に用いられる鋼管に比べて非常に軽量であり、施工時間の低減や施工性の向上を図ることができる。
【0074】
また、固結材15の種類は特に限定されず、例えば地山の状態や湧水の状態によってセメント系固結材、ウレタン系固結材を適宜選択しても良い。なお、セメント系固結材に比べて強度が高い、硬化が速く且つ硬化からの強度発現が速い、地山の空隙に浸透しやすい等の性能に優れたウレタン系固結材を用いると好適である。
【0075】
<変形例>
本実施形態における地山補強工法は、種々の変更を加えることができる。例えば、
図15に示すように、側方地山1aの高さ方向に地山補強部12を複数段に配置しても良い。このようにすることで、地山補強効果をより一層高めることができる。なお、
図15に示す例では、トンネルの同一横断面において地山補強部12を2段配置しているが、3段以上配置しても良い。また、上記実施形態1においては地山補強用芯材14に自穿孔方式の中空ロックボルトを使用する場合を例に説明したが、挿入方式の中空ロックボルトを使用しても良い。この場合、側方地山1aに削孔した後、削孔13に中空ロックボルトを挿入する。そして、削孔13に中空ロックボルトを挿入した状態で上述した注入ユニット17及び注入機19を用いて固結材15を削孔13内に注入することで、地山補強部12を形成することができる。
【0076】
また、本発明に適用される地山補強用芯材14は、注入式の中空ロックボルトに限定されない。例えば、地山補強用芯材として中実型ロックボルトを使用しても良い。この場合、トンネルTの切羽2近傍に位置する新設区間における側壁部6から側方地山1aに削孔を形成し、その削孔内に固結材を定着材として充填した後に当該削孔内に中実型ロックボルトを挿入することで地山内に地山補強部を形成しても良い。以下、実施形態2について説明する。
【0077】
<実施形態2>
図16及び
図17は、実施形態2に係る地山補強工法によって構築された地山補強構造10Aの概略構造図である。
図16に、トンネルTの横断面方向における地山補強構造10Aの概略構造を示し、
図17に、地山補強構造10Aの平面構造を示す。実施形態1と共通する部材、構造、用語等については同一符号を用いることで詳しい説明を省略する。
【0078】
地山補強構造10Aは、トンネルTの左側の側方地山1aに構築された地山補強構造体11L及び右側の側方地山1aに構築された地山補強構造体11Rを含んで構成されている。地山補強構造体11L,11Rは、掘進サイクル区間毎に連接された地山補強部12Aの集合体である。本実施形態における地山補強構造10Aは、地山補強部12Aの構造が実施形態1に係る地山補強部12と相違する点を除いて実施形態1と同様である。
【0079】
図18は、実施形態2に係る地山補強部12Aを説明する概略図である。地山補強部12Aは、側方地山1aに形成された削孔13と、削孔13内に挿入された地山補強用芯材14Aと、削孔13に充填された固結材15が硬化することによって形成された固結補強部16Aを含む。地山補強部12Aは、例えば、実施形態1の地山補強部12と同様、トンネルTの新設区間における支保構造を構築した後、
図9で説明した準備工を行い、トンネルTの側壁部6における目標打設位置PTから側方地山1aに削孔する。側方地山1aへの削孔は、油圧ドリフター等を用いて行うことができ、実施形態1と同様に地山削孔方
向Dbに沿って削孔13を形成する。本実施形態においても、地山削孔方向Dbとトンネル掘進方向DT(トンネル軸CL1)とがなす地山削孔角度θ1は鋭角に設定されている。従って、トンネルTの側壁部6から切羽前方地山1bに向かって斜め前方に向かって延伸する削孔13の少なくとも一部は、切羽前方地山1bに到達すると共に切羽前方地山1b内に延在することとなる。
【0080】
次に、削孔13内に所定量の固結材(定着材)15を充填した後、地山補強用芯材14Aを削孔13内に挿入する。本実施形態において、地山補強用芯材14Aは中実型の全ネジ式ロックボルトを使用しているが、使用するロックボルトは特に限定されない。また、地山補強用芯材14Aは複数のボルトを連結して形成されても良い。また、固結材(定着材)15は特に限定されないが、セメント系の固結材(定着材)であっても良い。固結材15の養生後、地山補強用芯材14Aの後端側に座金147、ベルワッシャー(図示せず)等を設置し、トルクレンチ等によってナット148を定着させることで、地山補強部12Aの構築が完了する。削孔13内に充填された固結材15が硬化することで固結補強部16Aが形成され、固結補強部16Aによって削孔13(地山補強用芯材14A)の周辺地山と地山補強用芯材14Aが定着される。
【0081】
これにより、
図17に示すように、少なくとも一部を切羽前方地山1bに延在するように地山内に形成された地山補強部12AをトンネルTの新設区間に新設することができる。これにより、次の掘進サイクル区間において切羽前方地山1bの掘削を行う前に、地山補強部12Aの地山補強用芯材14Aの剛性と、固結補強部16Aの強度によって切羽前方地山1bを事前に補強することができる。その結果、トンネルTにおける切羽前方地山1bの拘束力が高められ、切羽前方地山1bを掘削する際にトンネルTが沈下することを好適に抑制できる。
【0082】
以上、本発明による地山補強工法の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態及び変形例においては、トンネル上半の施工に適用する例を説明したが、本発明に係る地山補強工法はトンネル下半の施工に適用しても良い。
【符号の説明】
【0083】
T・・・トンネル
1・・・地山
2・・・切羽
3・・・一次吹付けコンクリート層
4・・・鋼製支保工
5・・・二次吹付けコンクリート層
6・・・側壁部
10・・・地山補強構造
11・・・地山補強構造体
12・・・地山補強部
13・・・削孔
14・・・地山補強用芯材
15・・・固結材
16・・・固結補強部