(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】吊上クランプ
(51)【国際特許分類】
B66C 1/44 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
B66C1/44 F
(21)【出願番号】P 2021093368
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020097675
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504082025
【氏名又は名称】株式会社イング
(73)【特許権者】
【識別番号】591083772
【氏名又は名称】株式会社永木精機
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】潮見 真生
(72)【発明者】
【氏名】高田 潤祐
(72)【発明者】
【氏名】土屋 明子
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-198841(JP,A)
【文献】特開昭60-263686(JP,A)
【文献】特公平06-031154(JP,B2)
【文献】特開2018-154461(JP,A)
【文献】中国実用新案第208218209(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象を挟持して吊り上げる吊上クランプであって、
前記搬送対象の挟持箇所を収容可能な挟持空間を形成するように対向配置された一対の対向片を有する本体と、
挟持方向を軸として回転できるように少なくとも一方の前記対向片に取り付けられ、前記本体の外側で吊上用のハンドルを支持する支軸と、
前記挟持空間側で前記支軸に支持され、挟持状態において前記搬送対象に当接する当接部と、
前記支軸の周りに設けられ、当該支軸の回転力を前記搬送対象に対する前記当接部の押圧力に変換する変換部とを備え、
前記変換部は、
前記支軸を取り巻くように形成されて前記対向片に固定された端面カムと、
前記支軸と一体的に回転可能であり、前記端面カムに対して摺動して前記挟持方向に向かう運動を生じる従動節と
から構成されていることを特徴とす
る吊上クランプ。
【請求項2】
搬送対象を挟持して吊り上げる吊上クランプであって、
前記搬送対象の挟持箇所を収容可能な挟持空間を形成するように対向配置された一対の対向片を有する本体と、
挟持方向を軸として回転できるように少なくとも一方の前記対向片に取り付けられ、前記本体の外側で吊上用のハンドルを支持する支軸と、
前記挟持空間側で前記支軸に支持され、挟持状態において前記搬送対象に当接する当接部と、
前記支軸の周りに設けられ、当該支軸の回転力を前記搬送対象に対する前記当接部の押圧力に変換する変換部とを備え、
前記変換部は、
前記支軸を取り巻くように形成されて前記対向片に固定された円筒カムと、
前記支軸と一体的に回転可能であり、前記円筒カムに対して摺動して前記挟持方向に向かう運動を生じる従動節と
から構成されていることを特徴とす
る吊上クランプ。
【請求項3】
少なくとも一方の前記対向片には、前記当接部との距離を調節する調節部が設けられていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の吊上クランプ。
【請求項4】
前記ハンドルには、旋回の半径方向外側に向けて少なくとも1箇所に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から
3の何れか1項に記載の吊上クランプ。
【請求項5】
内輪が前記支軸と一体動可能に取り付けられると共に外輪が前記本体側に対して固定及び解除を選択可能に取り付けられ、前記押圧力が増大する方向にのみ前記支軸の回転を許容するワンウェイクラッチを備えたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の吊上クランプ。
【請求項6】
前記外輪と前記本体との間に設けられ、前記本体に対して前記外輪の固定及び解除が可能な外輪固定部を備えたことを特徴とする請求項
5に記載の吊上クランプ。
【請求項7】
前記支軸は前記内輪に対して中間ばめで嵌合されていることを特徴とする請求項
6に記載の吊上クランプ。
【請求項8】
前記ハンドルの旋回範囲を所定の範囲内に規制するハンドル規制部を備えたことを特徴とする請求項
7に記載の吊上クランプ。
【請求項9】
前記ハンドル規制部は、前記押圧力が減少する向きにのみ収容可能であることを特徴とする請求項
8に記載の吊上クランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場などにおいて、吊り上げて搬送する板状の資材等の搬送対象を挟持するための吊上クランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築現場などにおいて大型のパネル材を搬送する際、クレーンが用いられる。クレーンで吊り上げて搬送するためには、搬送対象にロープ等を掛ける必要がある。これに対して、従来から搬送対象を把持し、ロープを掛けることができる構造を有したクランプが用いられている。
【0003】
図16は従来のパネルクランプ200を示す図である。パネルクランプ200の本体201の上部には、ロープ等を掛けることができる吊部202が設けられている。本体201の下部には、受アーム203と締付アーム204とが対向して設けられている。締付アーム204にはパネルを締め付けるための可逆ラチェット機構を有するラチェットレンチ205が取り付けられている。このような構成により、ラチェットレンチ205の操作によって締付アーム204及び受アーム203の間でパネルの上端縁を締め付けて、パネルを吊り上げることができる。このようなパネルクランプ200は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、搬送対象ごとに締付作業が必要であり、作業が煩雑になる。また、締め付けのための可逆ラチェット機構などの複雑な機構を備えているので、重量が増大する上、コストが嵩む。不具合が生じていても、複雑なので故障の原因を特定するのが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、簡易な構成でありながら、吊り上げと同時に自動的に締め付けを行うことができる吊上クランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の吊上クランプは、搬送対象を挟持して吊り上げる吊上クランプであって、前記搬送対象の挟持箇所を収容可能な挟持空間を形成するように対向配置された一対の対向片を有する本体と、挟持方向を軸として回転できるように少なくとも一方の前記対向片に取り付けられ、前記本体の外側で吊上用のハンドルを支持する支軸と、前記挟持空間側で前記支軸に支持され、挟持状態において前記搬送対象に当接する当接部と、前記支軸の周りに設けられ、当該支軸の回転力を前記搬送対象に対する前記当接部の押圧力に変換する変換部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記変換部が、前記支軸を取り巻くように形成されて前記対向片に固定された端面カムと、前記支軸と一体的に回転可能であり、前記端面カムに対して摺動して前記挟持方向に向かう運動を生じる従動節とから構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記変換部が、前記支軸を取り巻
くように形成されて前記対向片に固定された円筒カムと、前記支軸と一体的に回転可能であり、前記円筒カムに対して摺動して前記挟持方向に向かう運動を生じる従動節とから構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、少なくとも一方の前記対向片には、前記当接部との距離を調節する調節部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記ハンドルには、旋回の半径方向外側に向けて少なくとも1箇所に凹部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、内輪が前記支軸と一体動可能に取り付けられると共に外輪が前記本体側に対して固定及び解除を選択可能に取り付けられ、前記押圧力が増大する方向にのみ前記支軸の回転を許容するワンウェイクラッチを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記外輪と前記本体との間に設けられ、前記本体に対して前記外輪の固定及び解除が可能な外輪固定部を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記支軸は前記内輪に対して中間ばめで嵌合されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記ハンドルの旋回範囲を所定の範囲内に規制するハンドル規制部を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の吊上クランプは、上記構成において、前記ハンドル規制部は、前記押圧力が減少する向きにのみ収容可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、支軸の周りにハンドルを旋回運動させると、この旋回運動が変換されて、当接部を挟持空間の内側へ向けた押圧運動が生じる。このように構成されているので、吊上状態のハンドル位置において搬送対象の挟持箇所を挟持するのに十分な押圧力が得られるようにハンドルの取付角度を設定しておくと、吊り上げ動作と同時に搬送対象に対する挟持圧力が発生する。したがって、搬送対象に対する挟持固定操作を別途行うことなく、吊上げ動作のみで安定して搬送対象を吊り上げることが可能である。
【0018】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、本体の対向片側に端面カムを設け、比較的軽量に設計できる従動節をハンドル及び支軸と一体的に設けている。このように構成されているので、ハンドル操作を軽くすることができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、本体の対向片側に円筒カムを設け、比較的軽量に設計できる従動節側をハンドル及び支軸と一体的に設けている。このように構成されているので、ハンドル操作を軽くすることができる。
【0020】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、少なくとも一方の対向片に設けられた調節部により当接部との距離が調節されるので、現場で搬送対象に合わせて挟持幅を変更することができる。これにより汎用性及び作業効率が向上する。
【0021】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ハンドルの旋回半径方向の外側に向けて凹部が少なくとも1箇所形成されているので、この凹部にロープ等を係合させることにより
吊上状態を安定させるとともに、挟持圧力を一定に保つことが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、支軸と本体との間に、押圧力が増大する方向にのみ回転を許容するワンウェイクラッチを備えているので、押圧力を増大させながら、無段階でロックする位置を選択することが可能となる。これにより、最適な押圧力を生じる位置まで支軸を回転させるだけで、安定した挟持状態を形成することができる。
【0023】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、外輪固定部によってワンウェイクラッチの外輪を本体に対してロックすることができるので、搬送対象を締め付ける際には、ワンウェイクラッチの内輪に対する外輪の一方向ロック作用を利用し、解除する際には外輪固定部を利用するというように、ロックと解除とを異なる構成で使い分けることが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ワンウェイクラッチの内輪に対して支軸が中間ばめで嵌合されているので、特定の大きさを超える力を加えると、内輪に対して支軸を摺動させることができる。これにより、ワンウェイクラッチの回転許容方向への抵抗が小さいことを利用すると、軸方向にスライドさせる機能と回転方向に固定する機能とを同一構造で実現することが可能となる。
【0025】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ハンドル規制部にハンドルを収容すると所定の範囲内に旋回範囲が規制されるので、2つの当接部の間隔を一定の状態に維持することができる。これにより可動部が少ない収容状態に変形すると、搬送対象を挟持していない状態における取り扱いが容易になる。さらに、搬送対象への位置合わせが容易になる。
【0026】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ハンドル規制部への収容は、押圧力が減少する向きにのみ可能となる。これにより、搬送後に吊上クランプを撤去する際、ハンドルを押圧力が減少する向きに旋回させて挟持を解除すると同時に、所定の範囲内(挟持解除を維持できる範囲)にハンドルを固定することができる。固定後は、そのまま吊り上げてもハンドルが戻らないので、搬送対象を押さえなくてもハンドルを吊り上げるだけで吊上クランプを撤去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る吊上クランプの全体斜視図である。
【
図2】
図1の吊上クランプのカム部及び当接部を分解した状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1の吊上クランプのカム機構の動作説明図である。
【
図4】
図1の吊上クランプの使用状態を示す図である。
【
図5】
図1の吊上クランプの使用状態を示す側面図である。
【
図6】カム部とは反対の調節機構を備えた側の当接部周辺を示す図である。
【
図7】
図1の吊上クランプのカム部の第1変形例を示す図である。
【
図8】
図1の吊上クランプのカム部の第2変形例を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る吊上クランプの全体斜視図である。
【
図10】
図9の吊上クランプのハンドル規制部の動作を示す図である。
【
図12】
図9の吊上クランプのワンウェイクラッチの作用を示す図である。
【
図13】
図9の吊上クランプのワンウェイクラッチの作用を示し、支軸に平行に切断した断面図である。
【
図14】
図9の吊上クランプを使用した作業手順を示す図である。
【
図15】
図9の吊上クランプの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る吊上クランプについて図を用いて説明する。
【0029】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る吊上クランプ1の全体斜視図である。吊上クランプ1の本体2は、搬送対象を挟持する挟持空間Sを形成するように対向して配置される一対の対向片2a、2bを有している。一対の対向片2a、2bのそれぞれに対して挟持空間S側に2つの当接部4、5が対向して設けられている。
【0030】
これら2つの当接部4、5は、挟持状態において搬送対象に当接する。一方の当接部4の非当接側と対向片2aとの間には、カム部10が設けられている。このカム部10は後述するように、当接部4を挟持空間S側へ押し出して押圧力を生じさせる機構である。
【0031】
他方の当接部5の非当接側にはカム部10に相当する機構は備えられていない。挟持状態において当接部5は所定位置に固定されている。
【0032】
本体2の外側にはハンドル8が取り付けられている。このハンドル8は、本体2に設けられた支軸16(後に
図2を用いて説明する。)及び支軸17を中心として旋回可能に取り付けられている。これら支軸16、17は、
図1中に一点鎖線で示した挟持方向に沿って延びるように設けられている。
図1では固定側の当接部5に繋がる側の支軸17のみが表れている。
【0033】
図2は
図1の吊上クランプ1のカム部10及び当接部4を分解した斜視図を示している。
【0034】
カム部10を構成する端面カム12は、本体2の対向片2aに固定されている。この端面カム12の中心を通るように支軸16が配置される。支軸16の外側(対向片2a側)の端はハンドル8と接続される。これにより、支軸16はハンドル8の旋回と共に軸回転する。
【0035】
一方、端面カム12上を摺動する従動節14は、円筒状に形成されている。支軸16は、ハンドル8と接続される側とは反対の挟持空間S側の端が、従動節14を貫通するように配置される。そして、従動節14に貫通配置された支軸16は、従動節14と共に、挟持方向に直交する方向から貫通して配置される固定ピン15によって一体的に固定される。これにより、ハンドル8と共に支軸16が回転する際、従動節14も一体となって回転する。
【0036】
従動節14の挟持空間S側には、ビス4cによって当接部4が連結される。当接部4と従動節14との間は、回動自在に連結される。したがって、ハンドル8、支軸16及び従動節14が一体となって回転した際、当接部4だけは回転せず、搬送対象との相対的な位置関係を保持することができる。この当接部4は、
図2に示すように、搬送対象と接触する接触部材4aと基台4bとから構成されている。ここでは、接触部材4aは板状に図示されているが、搬送対象との摩擦係数を高くできるような表面加工が施されていてもよい。また、挟持状態において搬送対象を損傷しないように、緩衝部材を用いても構わない。さらに、支軸16に対して相対回転自在な構成であれば、単一部材で形成されていても構わない。
【0037】
このように、当接部4と対向片2aとの間には、ハンドル8の旋回により生じる回転力を挟持空間Sの内側へ向けた押圧力に変換する変換部としてカム部10が備えられている
。
【0038】
カム機構を備えない側の当接部5も当接部4と構成は同じである。この当接部5は、外側に突出した支軸17に対して回転自在に取り付けられている。
【0039】
図3を用いて吊上クランプ1のカム機構の動作について説明する。
【0040】
図3(a)は挟持間隔を最大に広げた状態を示し、(b)は挟持間隔を最小に縮めた状態を示している。なお、ここで挟持間隔とは、他方の固定側の当接部5(
図1参照)の位置を一定の状態に保った場合の、カム機構側の変位によって得られる間隔をいうものとする。
【0041】
本実施の形態に係る構成では、ハンドル8を
図3(a)の状態から
図3(b)のように180°旋回させると、従動節14の一部が端面カム12に沿って滑ることにより当接部4が挟持側に押し出され、挟持間隔が最小になる。
【0042】
ところで、当接部4は、本体2の内側と接する程度の大きさに形成されているので、従動節14がハンドル8と共に回転しても、当接部4だけは本体2の内側と干渉して供回りを防止できる。しかし、ここに示した形態に限らず、当接部4が本体2の内側と干渉しない形状に形成されていても構わない。この場合、搬送対象に当接部4の接触部材4aが接触することにより摩擦力が得られるので、供回りを防止できる。
【0043】
なお、図示していないが、従動節14を対向片2a側に戻すような付勢を生じさせる構成を備えていれば、搬送対象に吊上クランプ1を設置する作業が容易になる。
【0044】
【0045】
図4には、説明の便宜のために、板状の搬送対象80の一部のみを図示している。また、吊上クランプ1のカム部10のカム機構の動きが分かるように、本体2の一部を破断させて表している。搬送対象80は、矢印で示した吊上クランプ1の設置方向に延びるように配置されているものとする。
【0046】
図4(a)は
図3(a)の状態に相当し、
図4(b)は
図3(b)の状態に至るまでの中間段階を示している。すなわち、吊上クランプ1は、搬送対象80に対して、2つの当接部4、5(
図1参照)で形成される挟持間隔が最小になる手前の段階の旋回位置で十分な挟圧力が生じるように設定されている。
【0047】
図5は吊上クランプ1の使用状態を示す側面図である。
図5(a)は、搬送対象であるパネル材80aの吊上状態を示している。
図4(b)に示した設置方向のA側が、
図5(a)のように配置された状態において吊上クランプ1の互いの他方側に相当するものとする。
【0048】
このように、パネル材80aの中央側に向けてハンドル8を締め込むと、挟圧により旋回途中で規制され、一点鎖線で示した旋回位置でハンドル8が止まる。したがって、一点鎖線の方向に2つの吊上クランプ1同士を繋ぐようにロープを張り、クレーンのフックなどで吊り上げると、パネル材80aの自重に基づく作用により、吊上クランプ1の本体2側が下方へ引っ張られる。これにより、本体2側に対するハンドル8の相対的な回転位置が、締込み方向へ加圧されるようにして固定されるので、挟圧状態を安定して保持できる。
【0049】
本実施の形態に係る構成では、上述のように、ハンドル8の中央において旋回の半径方向の外側へ凹むように凹部8aが形成されている。このように構成されているので、ロープをハンドル8に引っ掛けて使用する際、ロープを凹部8aに収めるように配置すると、吊上クランプ1の中心位置を安定的に保つことができる。これにより、ハンドル8からカム部10を介して搬送対象80に加わる挟持圧力を一定に保つことができるので、搬送作業が安定する。
【0050】
また、本実施の形態では、ハンドル8の凹部8aの両側の形状が挟持方向に平行となる直線状に形成されている構成を例として示した。しかし、この部分を、凹部8aに近づくに連れて挟持方向の幅が狭くなるように、凹部8a部分を頂点とする山形に傾斜させて構成しておくと、吊り上げ動作と同時にロープが自動的に凹部8a内に導かれる。これにより、確実にロープで挟持領域の中央を支えることが可能となる。
【0051】
図5(b)は、パネル材80bの側方に吊上クランプ1を配置した状態を示している。
図5(a)の縦吊りだけでなく、本実施の形態に係る構成によれば、
図5(b)のように横吊りの用途にも利用することができる。
【0052】
建築現場などで扱われる大型のパネル材には、作業者が持ち上げることができる重量でありながら、手を回すことができないなどの理由により持ち上げ難いものがある。このような場合であっても、吊上クランプ1をパネル材80bの側方で上向きに締め込むことができるように配置して挟持状態にすると、ハンドル8の旋回が上向きに規制されるので、吊上クランプ1のハンドル8を掴んで手持ちによる搬送が可能となる。
【0053】
具体的には、
図3(a)、
図4(a)のように挟持間隔を最大に広げた状態で、ハンドル8が下方に配置される向きでパネル材80bの側方に吊上クランプ1を取り付ける。そして、ハンドル8を持ち上げるように上方へ旋回させると、
図3(b)の状態に至る前の
図4(b)の位置で挟圧状態となり、ハンドル8の旋回が規制される。
【0054】
このように設置すると、ハンドル8を上に持ち上げている限り、パネル材80bの挟圧状態が安定して保持され、安全に搬送することが可能となる。そして、搬送先でパネル材80bを地面などに置き、ハンドル8を下げるだけで挟圧状態が解除されるので、特別な取り外し作業を行うことなく、簡単に吊上クランプ1を取り外すことができる。このように、取り付け及び取り外しに対して煩雑な締め付けや解除作業を伴わないので、作業効率が著しく向上する。
【0055】
図6は、カム部10が設けられている当接部4側(
図3参照)とは反対の調節機構を備えた側の当接部5周辺を示している。
図6(a)は挟持間隔を広げた状態を示し、
図6(b)は挟持間隔を狭めた状態を示している。
【0056】
本実施の形態に係る構成では、支軸17は本体2の対向片2bを貫通して配置されており、挟持方向へスライド可能な構造となっている。
【0057】
対向片2bの外側には、プランジャー19(調節部18(
図1参照))が設けられている。支軸17に形成された複数の位置決め穴17aの何れかに対してプランジャー19を選択的に嵌合させることにより、所定の間隔に当接部5を固定することができる。
図6に示した構成では、支軸17の位置決め穴17aは2箇所に形成された例が示されているが、扱われる搬送対象の種類に応じて3箇所以上に位置決め穴17aを形成しても構わない。
【0058】
本実施の形態に係る構成では、プランジャー19の操作によって素早く当接部5の位置
を変更することができるので、サイズの異なる搬送対象が混在していても対応が容易である。
【0059】
<変形例>
以下に、カム部の第1及び第2変形例を示す。なお、ここでは、上で述べた吊上クランプ1と同一の構成に対して同一の符号を付して説明する。
【0060】
図7は、
図1の吊上クランプ1の第1変形例としてカム部20に端面カム22を用いた構成を示している。ただし、
図2及び
図3に示したように、端面カム12が本体2の対向片2a側に固定された構成とは異なる。
【0061】
図7では、従動節24が対向片2a側に配置されている。すなわち、ハンドル8に繋がる支軸26に対して、対向片2a側の従動節24が固定ピン25によって一体的に固定されている。一方、端面カム22は当接部4と一体に構成されている。
【0062】
このように構成されているので、ハンドル8を旋回させて従動節24を支軸26と共に回転させると、従動節24の一部は端面カム22に沿って摺動する。これにより、端面カム22は従動節24に対して相対的に挟持方向へ押し出され、搬送対象を挟持できる。
【0063】
端面カム22が支軸26に対して挟持方向へスライド可能であり、かつ、回転可能に連結されていると、
図7のような形態で構成することが可能である。
【0064】
また、
図8は、
図1の吊上クランプの第2変形例としてカム部30に円筒カム32を用いた構成を示している。
【0065】
円筒カム32には、180°の回転域に対して螺旋状に挟持方向へ延びるガイド長孔32aが形成されている。このようなガイド長孔32aが円筒の側面において互いに対向するように形成されている。ただし、特定の回転方向に対して挟持方向へ進む螺旋の向きは同じであり、鏡面対称ではない。
【0066】
これら対向して形成されているガイド長孔32aを共に貫通するように従動節である従動ピン34が配置されている。この従動ピン34は支軸36を貫通するように一体に設けられている。ハンドル8の旋回によって支軸36が軸回転する際、従動ピン34は支軸36と共に回転し、ガイド長孔32aに沿って螺旋軌道を描きながら挟持方向へ移動する。なお、支軸36はハンドル8に対して挟持方向へスライド可能に構成されている。
【0067】
図8に示した変形例では、円筒カム32のガイド構造としてガイド長孔32aが形成されている構成を例として示した。しかし、ガイド長孔32aに代わって螺旋状の溝形状のガイドを採用しても構わない。
【0068】
このようにガイドとして溝形状の構成を採用する場合、円筒カムの内側で従動節が摺動する構成と、外側で摺動する構成の何れを用いても構わない。
【0069】
このように構成されているので、ハンドル8を旋回させると、支軸36と共に当接部4が挟持側へ押し出される。
図7及び
図8のような変形例の構成であっても、
図1の吊上クランプ1と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態に係る吊上クランプについて説明する。第1の実施の形態に係る吊上クランプ1とは異なる構成を中心に説明を行い、同一の構成については説明を省略す
る。
【0071】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る吊上クランプの全体斜視図であり、(a)は表側を表し、(b)は裏側を表している。なお、以降は便宜的にハンドル規制部(後述)が取り付けられている側を表側として説明を行う。
【0072】
当接部104及び105、カム部110(変換部)並びに調節部118については
図1の吊上クランプ1と同様の構成である。
【0073】
ハンドル108は、
図1の吊上クランプ1のハンドル8と外形は殆ど同じであるが、ロープを引っ掛けるために設けられていた凹部8aの代わりに、吊り穴部108aが設けられている。これにより、吊上クランプ101に対するロープの相対位置が一定になり搬送動作が安定する。
【0074】
調節部118が備えられている側の当接部105とは異なる当接部104側には、本体102に対する支軸116の動きを規制する2つの機構が備わっている。これらのうち一方は、本体102に対して不特定の回転位置で支軸116を規制する構成である。具体的には、当接部105側の本体102の対向片102aの外側に設けられた外輪固定部122が相当する。この外輪固定部122の詳細な構造や動作については後に詳しく説明する。
【0075】
そしてもう一方の機構は、本体102に対して支軸116を特定の回転位置に規制する機構である。具体的には、外輪固定部122に取り付けられたハンドル規制部124が相当する。これについては、
図10を併せて参照しながら説明する。
【0076】
図10は、ハンドル規制部124の動作を示す図である。ハンドル規制部124は、掛金124aと規制ピン124cとから構成されている。掛金124aは外輪固定部122のハウジング122aの外面に回転可能に取り付けられている。この掛金124aの回動軸周りにはバネ124bが設けられている。このバネ124bは、ハンドル108の旋回軌道を内側から外側へ交差する向きに掛金124aを付勢している。掛金124aの嘴状に曲がった先端は、外力が加わらない状態において、バネ124bの付勢によりハンドル108の旋回軌道と交差可能な位置まで突出している。ハンドル108が掛金124aを越えて旋回する際には、バネ124bの付勢に抗して掛金124aを退避させることができる。このようにハンドル108の旋回軌道から退避した状態の掛金124aは、
図10において点線で表されている。
【0077】
本実施の形態に係る構成では、掛金124aの先端のうち、ハンドル108が搬送対象への押圧力を低減させる向きへ旋回する際に接触する部分が、退避を促す角度で傾斜形成されている。逆に、搬送対象への押圧力が増大する向きへ旋回するハンドル108と接触する側は、退避を阻止する形状に形成されている。これにより、挟持状態を解除する方向への旋回については、ハンドル108を掛金124aの傾斜部分124aa上に滑らせることによって、掛金124aを自動的に退避させることができる。
【0078】
ハンドル規制部124の構成のうち、掛金124aと共にハンドル108の旋回を規制する規制ピン124cは、掛金124aと同様に、ハンドル108の旋回軌道と交差する位置に突出している。この規制ピン124cは、掛金124aとは異なる位置でハンドル108と接触する。本実施の形態に係る構成では、掛金124aよりも規制ピン124cの方が、当接部104から搬送対象へ加わる押圧力が小さくなる位置でハンドル108と接触するように設けられている。なお、規制ピン124cは、掛金124aのように退避できないので、ハンドル108は規制ピン124cを越えて旋回することができない。
【0079】
このように構成されているので、ハンドル108は、ハンドル規制部124の外側では自由に旋回できる。また、掛金124aを越える位置まで旋回させれば、掛金124aと規制ピン124cとの間(ハンドル規制部124の内側)に固定することも可能となる。よって、吊上クランプ101を搬送対象に取り付ける初期設定では、ハンドル規制部124によってハンドル108の旋回位置を固定しておくと、吊り穴部108aでハンドル108を吊り上げても姿勢が安定する。加えて、2つの当接部104、105の間隔が固定されるので、搬送対象に取り付ける際の位置合わせが容易になる。次に、外輪固定部122の内部構造について、
図12を用いて説明する。
【0080】
図11は、吊上クランプ101の外輪固定部122を分解した図である。
【0081】
当接部104の取り付けられる側の対向片102aの外側に外輪固定部122のハウジング122aが固定されている。
【0082】
このハウジング122aの内側には、外径側に凹凸の歯が形成されたリング状の回転ストッパー122bが収容される。さらにこの回転ストッパー122bの内側には、ワンウェイクラッチ120が収容される。ここでは、説明の便宜のため、ワンウェイクラッチ120を模式的に筒状体として図示しているが、外輪120aと内輪120bとを有し、これら外輪120a及び内輪120bの相対回転が一方向のみ許容される構造を有しているものとする。このワンウェイクラッチ120の外輪120a側が回転ストッパー122bに対して固定される。
【0083】
ワンウェイクラッチ120の内輪120b側には、支軸116が摺動可能に収容される。この支軸116の端部のうち挟持空間側はカム部110の端面カム112側に固定され、軸回転を挟持方向へ作用する力に変換する変換部を構成することは、第1の実施の形態に述べた吊上クランプ1と同様である。
【0084】
これら回転ストッパー122b、ワンウェイクラッチ120及び支軸116は同心配置でハウジング122a内に収容され、蓋板122fで塞がれる。
【0085】
ハウジング122aのうち支軸116と直交する方向からは、回転ストッパーピン122cが挿設される。この回転ストッパーピン122cは、回転ストッパー122bの外側の凹状部分に先端が嵌合できるように配置される。そして、回転ストッパーピン122cの外側の端部には、操作を容易にするためにアイナット122eが取り付けられる。次に、この外輪固定部122の動作について説明する。
【0086】
図12は、外輪固定部122を軸方向から見た図である。
図12(a)はハンドル108をハンドル規制部124によって固定した初期状態、(b)は搬送対象を固定する状態、(c)は搬送対象の固定を解除する状態を示している。ここでは、説明の便宜のため、内部構造が分かるように、蓋板122fを透視して表している。また、パーツ同士の境界が明確になるように、ワンウェイクラッチ120には斜線を施して表している。
【0087】
図12(a)の初期状態では、回転ストッパーピン122cの先端が回転ストッパー122bの凹状部分に嵌合し、ハウジング122aに対して回転ストッパー122bが固定されているのが見て取れる。この回転ストッパー122bの内側にワンウェイクラッチ120の外輪120a(
図11参照)が一体となるように固定されていることについては上述した通りである。本実施の形態に係る構成では、ワンウェイクラッチ120は、搬送対象を挟持する際のハンドル108の操作において、押圧力が増大する方向にのみ回転を許容するように配置されている。よって、
図12(a)では、ハンドル108が反時計周り
に旋回するときの支軸116の回転のみを許容するように設定されている。
【0088】
図12(b)は、搬送対象を固定するために、押圧力が増大する方向(反時計回りの方向)にハンドル108を回転させた状態を示している。上述のように、ワンウェイクラッチ120は、押圧力が増大する方向への相対回転を許容するので、ワンウェイクラッチ120の内輪120b(
図11参照)は反時計回りに支軸116と供回りする。このとき、回転ストッパー122bは、回転ストッパーピン122cが嵌合していることによりハウジング122aに固定されているので、ワンウェイクラッチ120の外輪120aも停止したままである。この
図12(b)の状態で、挟持された搬送対象を吊り上げ、移動させることが可能となる。第1の実施の形態において
図6を用いて説明した調節部18と同様に、吊上クランプ101の調節部118(
図9参照)によって予め、90度以内のハンドル108操作によって搬送対象を固定できるように調節しておくと、
図12(b)のように、ハンドル108が上方へ持ち上がったときに搬送対象を安定して挟持できる。
【0089】
図12(c)は、搬送対象の固定を解除するために、ハンドル108を初期位置のハンドル規制部124まで戻した状態を示している。搬送対象を目的の場所まで搬送した後、
図12(c)のようにハンドル108を戻すことによって、搬送対象の固定を解除しなければならない。しかし上述のように、ワンウェイクラッチ120は、搬送対象に対する押圧力が増大する方向にのみ外輪120aと内輪120bの相対回転を許容するので、解除のために押圧力を減少させる時計回りに対しては、支軸116、ワンウェイクラッチ120及び回転ストッパー122bは相対回転を行わず一体となる。すなわち、回転ストッパー122bが回転ストッパーピン122cで固定されているので、ハンドル108の旋回が規制される。そこで、回転ストッパーピン122cを下方へ下ろして回転ストッパー122bの凹状部分から抜き取ると、ハウジング122aに対する回転ストッパー122bの固定が解除される。これにより、支軸116、ワンウェイクラッチ120及び回転ストッパー122bが一体となってハンドル108と共に時計回りに回転できるようになる。このようにして、搬送対象から押圧力が解放される。次に、カム部110と支軸116との関係について説明する。
【0090】
図13は、支軸116の延びる方向に沿って切断した断面図である。
図13(a)は、挟持空間が最大に開いた状態(上述の初期状態)を示している。そして
図13(b)は、当接部104から搬送対象への押圧力が増大する方向へハンドル108を90度回転させた状態を示している。
【0091】
図13(a)、(b)を見比べて分かるように、ハンドル108を挟持方向へ回転させることにより、カム部110の従動節114は端面カム112に対して接触点を螺旋状に移動させながら離れる。これにより、従動節114と一体に固定されている支軸116も、軸方向へスライドする。
【0092】
ワンウェイクラッチ120の内輪120bと支軸116とは摺動可能に配置されていることは上述した。よって、カム部110の変形に応じて、支軸116はワンウェイクラッチ120の内側を摺動することができる。支軸116と対向片102a(本体102)との間にはバネ116aが設けられているので、ハンドル108を戻すと支軸116も元の位置に戻り、従動節114も初期配置となる。
【0093】
ところで、
図13(b)の状態は、
図12(b)の状態に相当する。すなわち、支軸116は、軸方向には、ワンウェイクラッチ120に対して相対的に摺動しながら、回転方向には、ワンウェイクラッチ120と一体となって回転している。本実施の形態に係る構成では、支軸116はワンウェイクラッチ120の内輪120bに対して、中間ばめによって嵌合されている。具体的には、支軸116は、嵌合公差h6でワンウェイクラッチ1
20との嵌め合い公差が設定されている。
【0094】
このように構成されているので、軸方向への動きについては、支軸116は内輪120bに対して滑ることができる。また、回転方向のうち、
図12(b)のように押圧力が増大する方向に対しては、ワンウェイクラッチ120の外輪120aと内輪120bとの間の転がり抵抗は、内輪120bと支軸116との間の面同士の摺接抵抗よりも小さくなる。よって、支軸116の回転に対して内輪120bが一体となって回転することができる。
【0095】
このような動きを実現するためには、内輪120bと支軸116との間にキーとキー溝との関係の構造を設けることも可能である。しかし、本実施の形態に係る構成のように、嵌合公差により調節すれば、加工が容易で且つコストを低減することが可能となる。
【0096】
図14は搬送作業の手順を説明する図である。
図14(a)は初期状態、(b)は挟持工程、(c)は吊り上げ搬送工程、(d)は挟持解除工程、(e)は撤去工程を示している。以下の作業手順の説明では、内部構造については
図12、13を適宜参照する。
【0097】
図14(a)に示すように、ハンドル108をハンドル規制部124によって固定した配置を初期状態とする。このようにハンドル108を固定すると、不要な可動部分がなくなるので、吊り穴部108aで吊上クランプ101を吊り上げた際に安定する。また、対向する当接部104、105の間隔を一定に保つことができるので、搬送対象との位置合わせが容易になる。
【0098】
図14(b)では、搬送対象80の挟持箇所が本体102の挟持空間S内に収容されている。この状態で外輪固定部122の回転ストッパーピン122cが押し込まれ、回転ストッパー122bがハウジング122aに固定される。そして、ハンドル規制部124の掛金124bを退避させながらハンドル108を旋回させて、搬送対象80を挟持する。このとき、ワンウェイクラッチ120の作用により(
図12参照)押圧力が増大する方向への回転は許容されるが、緩む方向へは回転が規制される。よって、適度な押圧力で挟持すると、手を離しても安定する。ワンウェイクラッチ120は無段階でロック位置を変更できるので、過不足のない最適な挟持圧力によって搬送対象80を保持できる。
【0099】
図14(c)では、適度な挟持圧力で保持された搬送対象80が吊り上げられる。ワンウェイクラッチ120でロックされているので、ハンドル108は何れの回転方向に対しても安定して固定されている。なお、搬送対象80を含む全体の重心と、支軸116(又は117)と、吊り穴部108aとが一直線上に並ばないように、締め代を残すように挟持させると、吊り上げた際に、ハンドル108から押圧力を増大させる方向へ力が作用し続けるので、途中で緩みを生じることなく、搬送作業を安定させることが可能である。
【0100】
図14(d)では、目的場所に搬送対象80が移動した後、挟持状態を解除する様子が示されている。回転ストッパーピン122cをハウジング122aに対して引くと、内部で回転ストッパー122bに対する嵌合が外れる。これにより、ハンドル108は自由回転可能となる。ハンドル規制部124の掛金124aを乗り越えるようにハンドル108を回転させると、搬送対象80に対する挟持力は失われるので、吊上クランプ101を取り外すことが可能な状態となる。
【0101】
図14(e)では、
図14(a)のように初期状態の姿勢に戻された吊上クランプ101をそのまま吊り上げている様子が示されている。このように持ち上げると、ハンドル108がハンドル規制部124に固定されているため、搬送対象80から容易に分離することができる。
【0102】
以上のような手順で搬送作業を行うことができるので、ハンドル108と回転ストッパーピン122cに対して遠隔操作が可能なロープや棒材を接続しておけば、単独で離れた場所への搬送も行える。例えば、階下から上階へ資材等を搬送する場合、
図14(a)、(b)の作業を手元で行い、
図14(c)の工程で吊り上げる。目的となる上階へ到着した後、搬送対象を床などに下ろし、階下からの遠隔操作で回転ストッパーピン122c及びハンドル108を引き寄せると、自動的に挟持状態が解除され、ハンドル108をハンドル規制部124にロックすることができる。そして、
図14(e)のように吊上クランプ101を吊り上げると、搬送対象80だけを上階に残して、吊上クランプ101だけを回収できる。
【0103】
<変形例>
図15は、
図9の吊上クランプ101の変形例である。本体102の対向片102b側の調節部118とハンドル108との間に渡すようにバネ126が設けられている。このバネ126は、ハンドル108をハンドル規制部124に向けて旋回させる方向へ付勢している。このようなバネ126を設けることにより、初期状態がさらに安定する。特に、
図14(d)に示した工程では、挟持状態を解除する際にハンドル108をハンドル規制部124側へ引き寄せる際の動作を補助できる。
【0104】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、さらに以下のような変形例も含まれる。
【0105】
(1)上記の第1の実施の形態では、カム部10において円筒形の従動節14が採用されている構成を例として示した。しかし、端面カム12上を安定して摺動可能な構成であれば、円筒形でなくても構わない。さらに、コロにより摺動させる構成でも良い。
【0106】
(2)上記の第1の実施の形態では、端面カム12は支軸16の全周を囲うように形成されている構成を例として示した。しかし、支軸16周りの部分的な領域に形成されていても構わない。搬送対象を収容するために必要な挟持空間Sの大きさが定まっていれば、必要最小限の移動長を生じるように、所定角度のハンドル旋回角に応じた摺動域となるように設定することも可能である。
【0107】
(3)上記の第1の実施の形態では、端面カム12の傾斜は一定である構成を例として示した。しかし、回動域によって傾斜が変化する構成であっても構わない。このような構成では、ハンドル8の回動域に対する実効的なモーメントの変化を補正することができる。
【0108】
(4)上記の第1の実施の形態では、カム部10は本体2の対向片2a側にのみ設けられている構成を例として示した。しかし、対向片2a、2bの両側に設けられていても構わない。
【0109】
(5)上記の第1の実施の形態では、ハンドル8による360度の旋回域のうち、最大の挟圧力が得られるポイントが1箇所に設定されている構成を例として示した。しかし、360度のうち、挟圧力のピークが複数箇所で得られるように端面カム12を設定しても構わない。
【0110】
(6)上記の第1の実施の形態では、調節部18は、プランジャー19を用いて2段階で調節できる構成を例として示した。しかし、ネジ機構などを用いて無段階に調節できる構成であっても構わない。
【0111】
(7)上記の第1の実施の形態では、ハンドル8に凹部8aが1箇所形成されている構成を例として示した。しかし、凹部は複数設けられていてもよく、また、1箇所も設けられていなくても構わない。
【0112】
(8)上記の第1の実施の形態では、ハンドル8の回転力を挟持方向に沿った押圧力に変換する変換部として端面カム機構によるカム部10の構成を例として示した。しかし、カム機構に限らず、ネジ機構を用いることも可能である。例えば、本体2の対向片2aに対して挟持方向へ進退可能にネジ軸を螺合により配置し、このネジ軸と一体にハンドルを設ける構成を採用することができる。このような構成では、ハンドルを回転させることによりネジ軸を締め付け方向へ回転させるように用いることができるので、回転を伴ってハンドルを持ち上げることにより搬送対象に挟圧力を加える操作と吊上動作とを同時に行うことが可能である。また、ネジのピッチを上記の実施の形態に示したカム部10の端面カム12の傾斜と同程度に設定すると、少ないハンドルの回転に対して挟持方向へのネジ軸のストロークを比較的大きくすることができる。これにより、端面カム12と同様の操作性を得ることが可能となる。
【0113】
(9)上記の第2の実施の形態では、変換部の例として、
図1の吊上クランプ1に用いられた端面カム及び従動節からなる構成を例として示した。しかし、
図9の吊上クランプ101に対しても、
図7、8の変換部を採用しても構わない。
【0114】
(10)上記の第2の実施の形態では、ハンドルの旋回位置を固定するためのハンドル規制部が外輪固定部122に取り付けられている構成を例として示した。しかし、このような例に限らず、2つの当接部の間を開いた初期状態を維持できるハンドル位置を固定できる構成であれば、外輪固定部122以外の位置に設けられていても構わない。
【0115】
(11)上記の第2の実施の形態では、外輪固定部122内の回転ストッパー122bの回転を固定及び解除できる回転ストッパーピン122cが吊り上げ状態における下方側に設けられている構成を例として示した。このように下方に設けられていれば、下方側から作業を行う場合に遠隔操作が可能となるので有利である。しかし、ハンドル操作を妨げることのない位置であれば、下方以外の位置に設けても構わない。
【0116】
(12)上記の第2の実施の形態では、ハンドル規制部124が、掛金124aと規制ピン124cを共に備えた構成を例として示した。しかし、少なくとも、搬送対象への押圧力を増大する方向への回動を規制する掛金124aに相当する構成を備えていれば、2つの当接部の間隔を一定の状態に保持することができるので、規制ピン124cに相当する構成は必須ではない。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の吊上クランプは、ハンドルを一方に旋回させた状態を保持している間は挟持力を維持できるので、吊上用途だけでなく、掴み代が設けられていない資材に把持部を設ける手持ち作業の分野にも有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 吊上クランプ
2 本体
2a、2b 対向片
4、5 当接部
4a 接触部材
4b 基台
4c ビス
8 ハンドル
8a 凹部
10 カム部(変換部)
12 端面カム
14 従動節
15 固定ピン
16、17 支軸
17a 位置決め穴
18 調節部
19 プランジャー
20 カム部
22 端面カム
24 従動節
25 固定ピン
26 支軸
30 カム部
32 円筒カム
32a ガイド長孔
34 従動ピン(従動節)
36 支軸
80 搬送対象
80a、80b パネル材
101 吊上クランプ
102 本体
102a、102b 対向片
104、105 当接部
104a 接触部材
104b 基台
104c ビス
108 ハンドル
108a 吊り穴部
110 カム部(変換部)
112 端面カム
114 従動節
115 固定ピン
116、117 支軸
116a バネ
117a 位置決め穴
118 調節部
119 プランジャー
120 ワンウェイクラッチ
120a 外輪
120b 内輪
122 外輪固定部
122a ハウジング
122b 回転ストッパー
122c 回転ストッパーピン
122d バネ
122e アイナット
122f 蓋板
124 ハンドル規制部
124a 掛金
124aa 傾斜部分
124b バネ
124c 規制ピン
126 バネ
200 パネルクランプ
201 本体
202 吊部
203 受アーム
204 締付アーム
205 ラチェットレンチ
S 挟持空間