(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】モルタルの製造方法およびフレッシュコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/04 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
B28C7/04
(21)【出願番号】P 2023097465
(22)【出願日】2023-06-14
【審査請求日】2023-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年6月15日 コンクリート工学年次論文集,Vol.44,No.1,2022,第850~855頁,日本コンクリート工学協会 令和4年8月1日 ウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/subject/V-114/detail?lang=ja) 令和4年9月15日 令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会 令和4年10月1日 月刊コンクリートテクノ,第41巻,第10号,第36~42頁,株式会社セメント新聞社 令和5年4月3日 ウェブサイト(https://www.nikko-net.co.jp/product/technical-report.html) 令和5年4月3日 NIKKO TECHNICAL REPORT 2023,第33~38頁,日工株式会社
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226482
【氏名又は名称】日工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 恭裕
(72)【発明者】
【氏名】川崎 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】福山 智子
(72)【発明者】
【氏名】小林 皆也
(72)【発明者】
【氏名】金 侖美
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-199910(JP,A)
【文献】特開平11-198129(JP,A)
【文献】特開平09-109137(JP,A)
【文献】特開昭62-039206(JP,A)
【文献】特開昭62-173216(JP,A)
【文献】特開昭62-199407(JP,A)
【文献】特開昭58-201608(JP,A)
【文献】磯屋孝代ほか,高強度コンクリートの特性に及ぼす練り混ぜ因子の影響,コンクリート工学年次論文報告集,1991年,Vol.13, No.1,PP.219-224
【文献】森田和宏ほか,モルタルの流動特性におよぼす細骨材表面水の影響,コンクリート工学年次論文集,2001年,Vol.23, No.2,PP.937-942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 1/00-9/04
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタルの製造方法であって、
水を含む細骨材とセメントとの練混ぜを行う第1混練工程と、
前記第1混練工程の後に、練混ぜ水および混和剤を添加してさらに練混ぜを行う第2混練工程と、
を有
し、
JIS A 1111:2015に規定された表面水率試験方法において、前記細骨材の表面水率は、2%以上かつ5%以下であり、
前記第1混練工程により、前記セメントの粒子がフロックを形成する製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記混和剤のうちの一部の混和剤が、前記セメントの粒子に吸着せずに、余剰の混和剤として残った状態にて、前記第2混練工程を行う製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法であって、
前記第1混練工程における練混ぜ時間は、30秒以上である製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の製造方法であって、
前記第2混練工程において、前記練混ぜ水の全配合量および前記混和剤の全配合量を一括で添加する製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の製造方法であって、
前記細骨材の表面水率に応じて、前記第1混練工程における練混ぜ時間を調整する製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法であって、
前記第1混練工程における練混ぜ時間が長くなるほど、前記第2混練工程における練混ぜ時間が短くなるように、前記第1混練工程および前記第2混練工程の練混ぜ時間を調整する製造方法。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の製造方法を含むフレッシュコンクリートの製造方法であって、
前記第1混練工程および前記第2混練工程と、
前記第2混練工程の後に、粗骨材を添加してさらに練混ぜを行う第3混練工程と、
を有する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルの製造方法およびフレッシュコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料であるコンクリートは、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)、セメント、練混ぜ水を主要な原料とし、これらをミキサ等で混練して製造される。製造直後のフレッシュコンクリート(生コンクリート)は流動性を有するが、時間経過に伴って水和反応が進行し、やがて硬化する。
【0003】
コンクリートの配合は用途により異なるが、セメントと練混ぜ水の比率は硬化後の強度に影響する。近年では、超高層ビルの柱部や、土木構造物等に使用される高強度コンクリートの需要が増えている。高強度コンクリートは、セメント量に比して練混ぜ水の量が比較的少ない高粉体配合となる。
【0004】
かかる高粉体配合の場合、フレッシュコンクリートの流動性が低くなる傾向がある。しかしながら、フレッシュコンクリートの使用にあたっては、ポンプ圧送等、ハンドリング面での要求があるため、少なくとも施工時に要求される程度の流動性を確保する必要がある。
【0005】
そこで、高強度コンクリートの製造時には、混和剤と呼ばれる薬剤(界面活性剤の一種)を所定量添加することにより、フレッシュコンクリートの流動性を確保している。混和剤を用いて高強度コンクリートを製造する従来の技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
混和剤を用いてフレッシュコンクリートを製造する場合、従来の方法では、細骨材、セメント、練混ぜ水、および混和剤を、一度にミキサへ投入する。そして、ミキサにおいて、細骨材、セメント、練混ぜ水、および混和剤の練混ぜを行うことにより、モルタルを製造する。その後、ミキサ内に粗骨材を添加して、さらに練混ぜを行うことにより、フレッシュコンクリートを製造する。
【0008】
しかしながら、混和剤の添加のみに頼って流動性を確保する従来方法では、混練条件次第で所定の流動性が得られない場合、混和剤の添加量を増やして対処せざるを得ない。その場合、混和剤の追加コストが嵩んで、高強度コンクリートの価格が上昇するという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑み成されたものであり、混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルまたはフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、モルタルの製造方法であって、水を含む細骨材とセメントとの練混ぜを行う第1混練工程と、前記第1混練工程の後に、練混ぜ水および混和剤を添加してさらに練混ぜを行う第2混練工程と、を有する。
【0011】
本願の第2発明は、第1発明の製造方法であって、前記第1混練工程により、前記セメントの粒子がフロックを形成する。
【0012】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の製造方法であって、前記第1混練工程における練混ぜ時間は、30秒以上である。
【0013】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の製造方法であって、JIS A 1111:2015に規定された表面水率試験方法において、前記細骨材の表面水率は、2%以上かつ5%以下である。
【0014】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の製造方法であって、前記細骨材の表面水率に応じて、前記第1混練工程における練混ぜ時間を調整する。
【0015】
本願の第6発明は、第5発明の製造方法であって、前記第1混練工程における練混ぜ時間が長くなるほど、前記第2混練工程における練混ぜ時間が短くなるように、前記第1混練工程および前記第2混練工程の練混ぜ時間を調整する。
【0016】
本願の第7発明は、第1発明または第2発明の製造方法を含むフレッシュコンクリートの製造方法であって、前記第1混練工程および前記第2混練工程と、前記第2混練工程の後に、粗骨材を添加してさらに練混ぜを行う第3混練工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明から第7発明によれば、第1混練工程において、細骨材に含まれる水により、セメントの粒子がフロックを形成する。これにより、セメントの比表面積が小さくなるので、第2混練工程において、セメントの粒子に吸着せずに残る余剰の混和剤が生じる。この余剰の混和剤が、モルタルの流動性の向上に寄与する。したがって、混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルの流動性を向上させることができる。
【0018】
特に、本願の第3発明によれば、第1混練工程において、フロックの形成がより進行する。これにより、モルタルの流動性をより向上させることができる。
【0019】
特に、本願の第4発明によれば、細骨材の表面水率を2%以上とすることにより、セメントの粒子が良好に(例えば、適度なサイズにて)フロックを形成する。また、細骨材の表面水率を5%以下とすることにより、第1混練工程においてフロックが過度に肥大化することを抑制できる。その結果、第2混練工程の練混ぜ時間を短く抑えることができる。
【0020】
特に、本願の第5発明によれば、細骨材の表面水率に応じて、セメントの粒子が良好にフロックを形成するように、第1混練工程における練混ぜ時間を適正化できる。
【0021】
特に、本願の第6発明によれば、第1混練工程における練混ぜ時間が長い場合でも、全工程の合計時間が延びることを抑制できる。
【0022】
特に、本願の第7発明によれば、第2混練工程において生じた余剰の混和剤が、フレッシュコンクリートの流動性の向上に寄与する。したがって、混和剤の使用量を抑制しつつ、フレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】フレッシュコンクリートを製造するための製造装置の概要図である。
【
図2】フレッシュコンクリートの製造手順を示したフローチャートである。
【
図3】第1混練工程におけるセメントの粒子の様子を、模式的に示した図である。
【
図4】第2混練工程の様子を模式的に示した図である。
【
図5】高強度コンクリートの配合を示した図である。
【
図10】第4の試験の結果(色吸光度の測定結果)を示したグラフである。
【
図11】第4の試験の結果(水吸光度の測定結果)を示したグラフである。
【
図16】走査電子顕微鏡による材料の撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<1.ミキサの構成>
図1は、フレッシュコンクリート(生コンクリート)を製造するための製造装置1の概要図である。
図1に示すように、この製造装置1は、ミキサ本体10、羽根20、モータ30、材料供給装置40、および制御部50を備えている。
【0026】
ミキサ本体10は、フレッシュコンクリートの材料を収容可能な容器である。羽根20は、ミキサ本体10内に配置されている。羽根20の端部は、モータ30に接続されている。モータ30を動作させると、モータ30から出力される動力により、羽根20が回転する。これにより、ミキサ本体10内に収容された材料の練混ぜを行うことができる。
【0027】
なお、
図1の例では、ミキサ本体10内に、水平な軸21を中心として回転する羽根20が、2つ配置されている。しかしながら、羽根20の数や軸21の向きは、
図1の例に限定されるものではない。
【0028】
材料供給装置40は、フレッシュコンクリートの材料を、ミキサ本体10内へ供給する装置である。材料供給装置40は、計量器やホッパ等により構成される。材料供給装置40は、制御部50から入力される制御信号に従い、後述する細骨材、セメント、練混ぜ水、混和剤、粗骨材を、それぞれ、指定されたタイミングで、指定された量だけ、ミキサ本体10へ供給することができる。
【0029】
制御部50は、モータ30および材料供給装置40の動作を制御するユニットである。制御部50は、例えば、CPU等のプロセッサ、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。制御部50は、コンピュータプログラムおよび各種の設定値に従って、モータ30および材料供給装置40へ制御信号を出力する。これにより、材料供給装置40からミキサ本体10へ材料が供給されるとともに、ミキサ本体10内において羽根20が回転して、材料の練混ぜが行われる。
【0030】
<2.製造方法>
続いて、上記の製造装置1において、高強度コンクリート(日本建築学会により定義される設計基準強度が36N/mm
2以上のコンクリート)用のフレッシュコンクリートを製造する方法について、説明する。
図2は、フレッシュコンクリートの製造手順を示したフローチャートである。
図2の製造手順は、上述した制御部50が、モータ30および材料供給装置40の動作を制御することにより、実現される。
【0031】
フレッシュコンクリートを製造するときには、まず、材料供給装置40からミキサ本体10へ、細骨材およびセメントを供給する。細骨材は、後述する粗骨材よりも粒径の小さい骨材である。細骨材としては、例えば、天然砂(海砂、山砂)、砕砂、石灰砕砂などが使用される。なお、砕砂としては、JIS A 5005:2009に適合するものが好適に用いられ、天然砂としては、JIS A 5308:2019に適合するものが好適に用いられる。細骨材は、再生骨材(再生細骨材)、スラグ系細骨材、その他の代替骨材(代替細骨材)であってもよい。細骨材は、絶乾状態ではなく、表面に水(表面水)を含んだものを使用する。セメントには、例えば、普通セメント、早強セメント、中庸熱セメント、低熱セメントなどが使用される。
【0032】
続いて、モータ30により羽根20を回転させることにより、ミキサ本体10内において、細骨材とセメントの練混ぜを行う(第1混練工程S1)。この第1混練工程S1は、練混ぜ水および混和剤を添加することなく、細骨材およびセメントのみで練混ぜ(空練り)を行う工程である。第1混練工程S1における練混ぜ時間は、例えば、30~90秒とすることが望ましい。
【0033】
図3は、第1混練工程S1におけるセメントの粒子の様子を、模式的に示した図である。第1混練工程S1において細骨材とセメントの練混ぜを行うと、細骨材の表面水が、セメントの粒子に接触する。そして、細骨材の表面からセメントの粒子へ移動する水の作用により、
図3のように、セメントの粒子同士が互いに凝集して、フロックFを形成する。フロックFは、10~数10μm程度の凝集物であり、セメント粒子の平均粒子径(10μm程度)以上の平均粒子径を有する。このように、セメントの粒子がフロックFを形成すると、フロックFが形成されていない状態と比べて、セメントの比表面積が小さくなる。なお、フロックFが形成されるメカニズムとしては、例えば、セメントは加水されると水和反応によってセメント粒子の表面に正の電荷が発生して不安定となり、粒子同士がくっつくことによると考えられる。
【0034】
第1混練工程S1における練混ぜ(空練り)の時間は、セメント粒子がフロックFを形成し、空練りを行わない場合と比べてセメント粒子の比表面積を抑制し得る程度の、所定時間以上とするとよい。例えば、第1混練工程S1における練混ぜ(空練り)を30秒以上継続することで、空練りを行わない場合と比べて、セメント粒子のフロックFの成長を促し、比表面積を十分に小さくする(有意な比表面積差をつける)ことができる。これにより、後述のように、空練りを行わない場合と比べて、セメント粒子に吸着することなく液相中に残存する混和剤量を十分に多くする(有意な吸着量差をつける)ことができる。
【0035】
所定時間の第1混練工程S1が終了すると、次に、材料供給装置40は、ミキサ本体10へ、練混ぜ水(水)および混和剤を添加する。そして、モータ30による羽根20の回転を継続することにより、さらに練混ぜを行う(第2混練工程S2)。これにより、細骨材、セメント、水、および混和剤からなるモルタルが生成される。
【0036】
混和剤としては、界面活性剤の一種である減水剤、高性能減水剤、またはこれらを組み合わせたものが使用される。混和剤は、例えば、立体障害作用を有するポリカルボン酸系減水剤や、静電反発作用を有するナフタレン系減水剤またはメラミン系減水剤などを主成分とする。混和剤の基剤としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、またはメラミンスルホン酸塩が使用される。
【0037】
図4は、第2混練工程S2の様子を模式的に示した図である。混和剤は、セメントの粒子に吸着して、セメントの粒子同士を互いに反発させる作用を有する。ただし、本実施形態の製造方法では、上記の第1混練工程S1において、セメントの粒子がフロックFを形成しているため、セメントの比表面積が小さくなっている。したがって、フロックFが形成されていない場合よりも、セメントの粒子に対する混和剤の吸着量が少なくなる。その結果、この第2混練工程S2では、添加された混和剤のうちの一部の混和剤が、セメントの粒子に吸着せずに、余剰の混和剤として残る。この余剰の混和剤は、モルタルの流動性の向上に寄与する。
【0038】
所定時間の第2混練工程S2が終了すると、次に、材料供給装置40は、ミキサ本体10へ、粗骨材(砂利)を添加する。粗骨材は、上述した細骨材よりも粒径の大きい骨材である。粗骨材には、例えば、砕石または天然砂利(川砂利など)が使用される。そして、モータ30による羽根20の回転を継続することにより、さらに練混ぜを行う(第3混練工程S3)。その結果、細骨材、セメント、水、混和剤、および粗骨材からなるフレッシュコンクリートが生成される。
【0039】
上述の通り、第2混練工程S2において添加した混和剤のうち、一部の混和剤は、セメントの粒子に吸着することなく、余剰の混和剤として残る。この余剰の混和剤が、第2混練工程S2において生成されるモルタルおよび第3混練工程S3において生成されるフレッシュコンクリートの流動性を向上させる。
【0040】
すなわち、本実施形態の製造方法によれば、第1混練工程S1を行うことにより、セメントの粒子がフロックFを形成し、セメントの比表面積が低下する。これにより、第2混練工程S2における混和剤の吸着量が少なくなる。このため、多量の混和剤を使用しなくても、第2混練工程S2の初期段階において、セメントの粒子に吸着しない余剰の混和剤を生じさせることができる。そして、その余剰の混和剤が、第2混練工程S2において生成されるモルタルおよび第3混練工程S3において最終的に生成されるフレッシュコンクリートの流動性を向上させる。したがって、混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルおよびフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる。
【0041】
なお、第2混練工程S2において生成されたフロックFのうちの少なくとも一部は、第3混練工程S3において、複数のセメントの粒子に分解され得る。しかしながら、分解されたセメントの粒子も、上述した余剰の混和剤が吸着することで、良好に分散すると考えられる。もしくは、第2混練工程S2、第3混練工程S3においては、練混ぜ水とセメント粒子とが接触して水和生成物を順次生じていく。これら水和生成物に、既にセメント粒子(あるいは水和生成物)に吸着している混和剤が取り込まれると、混和剤の分散効果は弱められる。しかしながら、上述した余剰の混和剤は、新たに生じた水和生成物の表面に順次吸着することで、これら水和生成物同士を分散状態に保持できると考えられる。これらの結果、余剰の混和剤が無い場合よりも、フレッシュコンクリートの流動性を向上させることができると考えられる。
【0042】
第1混練工程S1において投入される細骨材の表面水率は、JIS A 1111:2015に規定される表面水率試験方法において、2%以上かつ5%以下であることが望ましい。細骨材の表面水率を2%以上とすることにより、第1混練工程S1において、セメントの粒子が良好に(10~数10μm程度の適度なサイズにて)フロックFを形成する。また、過度に肥大化したフロックFはフレッシュコンクリートの流動性を却って損なう(流動性発現の阻害要因となるほど肥大化したフロックFを、以下「ダマ」という)が、細骨材の表面水率を5%以下とすることにより、第1混練工程S1において、このようなダマの発生を抑制できる。その結果、第2混練工程S2または第3混練工程S3において、ダマを解砕するために必要な練混ぜ時間を短く抑えることができる。
【0043】
細骨材の表面水率に応じて、第1混練工程S1における練混ぜ時間を調整してもよい。例えば、制御部50に、細骨材の表面水率を入力可能とし、制御部50が、入力された表面水率に基づいて、練混ぜ時間を設定するようにしてもよい。具体的には、細骨材の表面水率が所定値よりも高い場合は、第1混練工程S1における練混ぜ時間を長く設定するとよい。上述の通り、細骨材の表面水率が所定値よりも高い場合、空練りに伴ってセメントの粒子のダマが生成されやすく、このようなダマがその後の混練工程において残存すると、フレッシュコンクリートの流動性を却って損なう要因となる。このとき、第1混練工程S1における練混ぜ時間を長く設定することにより、生成されたダマを解砕することができる。これにより、フロックFが良好に(10~数10μm程度の適正なサイズにて)生成されるように、第1混練工程S1の練混ぜ時間を適正化できる。例えば、細骨材の表面水率が4%以上の場合、第1混練工程S1の練混ぜ時間を60秒以上とするとよい。
【0044】
なお、製造装置1内に、細骨材の表面水率を測定するセンサを設け、当該センサから制御部50へ、表面水率の測定値を入力するようにしてもよい。
【0045】
また、上記のように、第1混練工程S1の練混ぜ時間を調整する場合、第1混練工程S1の練混ぜ時間が長くなるほど、第2混練工程S2の練混ぜ時間が短くなるように、第1混練工程S1および第2混練工程S2の練混ぜ時間を調整してもよい。また、第1混練工程S1における練混ぜ時間と、第2混練工程S2における練混ぜ時間との合計を、一定に維持してもよい。このようにすれば、第1混練工程S1における練混ぜ時間が長い場合でも、全工程の合計時間が延びることを抑制できる。
【0046】
<3.試験>
<3-1.第1の試験~第7の試験の共通条件>
上記の製造方法による効果を実証するために、まず、モルタルに関して、第1の試験~第7の試験を行った。これらの試験では、設計基準強度が80N/mm
2の高強度コンクリートの材料を用いた。当該高強度コンクリートの配合は、
図5の通りである。セメント量に対する混和剤の添加量は、0.6%とした。材料の練混ぜは、ホバートミキサ(5リットル)により行った。各試験は、温度が20±2℃かつ湿度が50%以上の一定環境の室内において行った。
【0047】
<3-2.第1の試験>
第1混練工程S1の有無がモルタルの流動性に与える影響を調べるために、第1の試験を行った。
【0048】
図6は、第1の試験の条件を示した図である。
図6中の実施例では、表面水率が3%の細骨材とセメントとの練混ぜを行い、その後に、練混ぜ水および混和剤を添加してさらに練混ぜを行った。
図6中の第1比較例では、絶乾状態の細骨材とセメントとの練混ぜを行い、その後に、練混ぜ水および混和剤を添加してさらに練混ぜを行った。
図6中の第2比較例では、細骨材とセメントのみの練混ぜを予め行うことなく、細骨材、セメント、練混ぜ水、および混和剤の練混ぜを行った。
【0049】
実施例および第1比較例では、細骨材とセメントの練混ぜ時間を30秒とした。そして、実施例、第1比較例、および第2比較例のそれぞれにおいて、合計の練混ぜ時間を3、4、7、10、15、20分としてモルタルを生成し、得られた各々のモルタルの流動性を示すフロー値を、JIS R 5201:2015に記載の試験方法を用いて測定した。
【0050】
図7は、第1の試験の結果を示すグラフである。
図7の横軸は、合計の練混ぜ時間を示している。
図7の縦軸は、生成されたモルタルのフロー値を示している。練混ぜが完了したと考えられる7分以降において、実施例のフロー値は、第1比較例および第2比較例のフロー値よりも、高くなっている。練混ぜ時間を7分よりさらに増加させた場合でも、第1変形例および第2変形例のフロー値は、実施例のフロー値に達することはない。実施例のフロー値と、第1変形例および第2変形例のフロー値との間には、略一定(約8cm)の差が保たれている。この結果から、実施例のように、水を含む細骨材とセメントとで、第1混練工程S1を行うことにより、モルタルのフロー値が向上することが分かる。
【0051】
また、
図7の結果によると、絶乾状態の細骨材を用いて第1混練工程S1と同様の空練りを行った第1比較例と、空練りを行わなかった第2比較例とで、フロー値がほぼ同程度となっている。実施例と第1比較例との違いは、細骨材が水を含むか否かという点のみである。このことから、第1混練工程S1において、細骨材に含まれる水がセメントの粒子と接することが、フロー値の向上に寄与していることが分かる。
【0052】
<3-3.第2の試験>
混和剤の有無によるフロー値の差異を調べるために、第2の試験を行った。
【0053】
図8は、第2の試験の結果を示すグラフである。
図8中の実施例および第2比較例は、上記の第1の試験における実施例および第2比較例と同じ条件で、練混ぜを行った場合を示す。
図8中の第3比較例は、混和剤の添加を省略し、他は実施例と同じ条件で練混ぜを行った場合を示す。
図8中の第4比較例は、混和剤の添加を省略し、他は第2比較例と同じ条件で練混ぜを行った場合を示す。第2の試験では、合計の練混ぜ時間は7分とした。
図8の縦軸は、生成されたモルタルのフロー値を示している。
【0054】
第1の試験と同様に、第2の試験においても、実施例のフロー値は、第2比較例のフロー値よりも、約8cm高い。一方、第3比較例のフロー値と、第4比較例のフロー値とは、略同等であった。すなわち、混和剤を添加した場合、第1混練工程S1の有無でフロー値に差が出るが、混和剤を添加しない場合、第1混練工程S1の有無でフロー値に差は出なかった。
【0055】
このことから、第1混練工程S1において細骨材に含まれる水とセメントの粒子が接して初期水和を起こした状態で、第2混練工程S2において混和剤を添加することが、フロー値の向上に寄与していることが分かる。
【0056】
<3-4.第3の試験>
第1混練工程S1における練混ぜ時間(以下「空練り時間」と称する)が、モルタルの流動性に与える影響を調べるために、第3の試験を行った。
【0057】
第3の試験では、上記の実施例と同じ条件で、第1混練工程S1および第2混練工程S2を行った。ただし、第1混練工程S1における空練り時間は、0、30、60、90秒の4パターンとした。また、第1混練工程S1と第2混練工程S2の合計の練混ぜ時間は7分に固定した。そして、第1混練工程S1および第2混練工程S2により生成されたモルタルのフロー値を、JIS R 5201:2015に規定された試験方法で測定した。
【0058】
図9は、第3の試験の結果を示すグラフである。
図9の横軸は、空練り時間を示している。
図9の縦軸は、生成されたモルタルのフロー値を示している。
図9の結果によると、空練り時間が長いほど、生成されたモルタルのフロー値が増加している。この結果から、混和剤を添加する前に、細骨材の表面水とセメントの接触時間が増加することで、モルタルのフロー値が向上することが分かる。
【0059】
<3-5.第4の試験>
空練り時間と、細骨材からセメントの粒子への水の移動量との関係を調べるために、第4の試験を行った。
【0060】
第4の試験では、セメントの代用として、密度2.71g/cm3の炭酸カルシウムを用いた。炭酸カルシウムを用いたのは、水との反応を抑えて、細骨材から粉体への純粋な水の移動量を評価するためである。炭酸カルシウムの粒子径は、細骨材の粒子径よりも十分に小さいため、セメントと炭酸カルシウムの物性値差は、水の移動量を評価するにあたっては無視できると考えられる。また、第4の試験では、水の移動量を精度よく評価するために、絶乾状態の細骨材に、食紅で着色した水を付着させたものを使用した。細骨材の表面水率は3%とした。
【0061】
上記の細骨材と炭酸カルシウムの練混ぜ(空練り)を行った後、材料の表面の色波長の吸光度(色吸光度)と、水波長の吸光度(水吸光度)とを、赤外線多成分計により複数回測定した。空練り時間は、30、60、90秒の3パターンとした。
【0062】
図10は、色吸光度の測定結果を示したグラフである。
図11は、水吸光度の測定結果を示したグラフである。
図10および
図11の横軸は、空練り時間を示している。
図10および
図11の縦軸は、吸光度を示している。吸光度の値が大きいほど、その波長を呈す面積が広い、すなわち、細骨材から炭酸カルシウムへの水の移動量が多いことを示す。
【0063】
図10および
図11のいずれの結果においても、空練り時間が多いほど、吸光度が増加している。したがって、
図10および
図11のいずれの結果においても、細骨材と炭酸カルシウムの空練り時間が長いほど、細骨材から炭酸カルシウムへの水の移動量が増加することが分かる。したがって、細骨材とセメントで練混ぜを行う場合も、同様に、空練り時間が長いほど、細骨材からセメントの粒子への水の移動量が増加すると考えられる。
【0064】
<3-6.第5の試験>
空練り時間と、フロックFの形成量との関係を調べるために、第5の試験を行った。
【0065】
第5の試験では、表面水率が3%の細骨材とセメントとの練混ぜを行った。練混ぜの時間は、30秒と90秒の2パターンとした。そして、練混ぜ後の材料をふるいにかけて、ふるいを通過した材料の重量と、ふるいに留まった材料の重量とを、それぞれ測定した。ふるいは、網目の開口径が0.15mmのものを用いた。
【0066】
図12は、第5の試験の結果を示した図である。
図12の結果によると、空練り時間が長い方が、ふるいを通過する材料の重量が少なくなり、ふるいに留まった材料の重量が多くなる。細骨材とセメントとの練混ぜにより、細骨材の表面水にセメントが接触すると、水和反応により生じる電荷によって、セメントの粒子同士が凝集して、フロックFを形成する。そして、空練り時間が長くなるほど、フロックFの形成量は多くなる。
【0067】
図12の結果は、このようなフロックFの形成と相関があると考えられる。なお、後述する第8の試験において、フロックFの画像の取得に成功した。
【0068】
<3-7.第6の試験>
第2混練工程S2におけるセメントの粒子への混和剤の吸着量を調べるために、第6の試験を行った。
【0069】
第6の試験では、上記の実施例と同じ条件で、第1混練工程S1および第2混練工程S2を行った。ただし、第1混練工程S1における空練り時間は、0、30、90秒の3パターンとした。また、第1混練工程S1と第2混練工程S2の合計の練混ぜ時間は7分に固定した。そして、第1混練工程S1および第2混練工程S2により生成されたモルタルを、遠心分離機を用いて液相と固相に分離し、得られた液相を熱分析することで、液相中の混和剤の量を測定した。
【0070】
図13は、第6の試験の結果を示したグラフである。
図13の横軸は、測定回数を示している。
図13の縦軸は、液相中の混和剤の濃度を示している。
図13の結果によると、空練り時間が0秒の場合は、液相に残る混和剤の量が少なく、空練り時間が長くなるにつれて、液相に残る混和剤の量が増加している。このことから、空練り時間が短い場合は、固相(すなわち、セメントの粒子)への混和剤の吸着量が大きく、空練り時間が長くなるにつれて、固相への混和剤の吸着量が小さくなることが分かる。
【0071】
<3-8.第7の試験>
空練り時間と、セメントと練混ぜ水の水和反応量との関係を調べるために、第7の試験を行った。
【0072】
第7の試験では、上記の実施例と同じ条件で、第1混練工程S1および第2混練工程S2を行った。ただし、第1混練工程S1における空練り時間は、0、30、90秒の3パターンとした。また、第1混練工程S1と第2混練工程S2の合計の練混ぜ時間は7分に固定した。そして、第1混練工程S1および第2混練工程S2により生成されたモルタルを、遠心分離機を用いて液相と固相に分離し、得られた固相をX線回折装置で解析することにより、セメントの水和反応時に生成されるエトリンガイトの量を測定した。
【0073】
図14は、第7の試験の結果を示したグラフである。
図14の横軸は、X線の回折角度を示している。
図14の縦軸は、X線の強度を示している。エトリンガイトの回折角度のピーク値は、8.7~9.4°であるため、
図14のグラフにおいて、8.7~9.4°の範囲における強度の積分値(積分強度)を算出して比較した。
図14の結果によると、空練り時間が0秒の場合は、積分強度が大きく、空練り時間が長くなるにつれて、積分強度が小さくなっている。すなわち、空練り時間が0秒の場合は、エトリンガイトの生成量が多く、空練り時間が長くなるにつれて、エトリンガイトの生成量が少なくなっている。
【0074】
この結果は、空練り時間が短い場合には、フロックFの形成量が少ないため、セメントと練混ぜ水との水和反応量が多くなるが、空練り時間が長くなるにつれて、フロックFの形成量が多くなるので、セメントと練混ぜ水との水和反応量が少なくなるためと考えられる。
【0075】
<3-9.小括>
以上の第1の試験~第7の試験の結果から、次のことが分かる。すなわち、第1混練工程S1を行うことにより、細骨材の表面の水がセメントの粒子へ移動し、セメントの粒子がフロックFを形成する。そして、上記のフロックFにより、セメントの比表面積が小さくなるため、第2混練工程S2において、セメントに対する混和剤の吸着量が低下する。そうすると、セメントに吸着せずに残存する余剰の混和剤の量が多くなる。そして、その余剰の混和剤の影響により、生成されたモルタルのフロー値が大きくなる。したがって、第1混練工程S1を行うことにより、多量の混和剤を使用することなく、モルタルの流動性を向上させることができる。
【0076】
また、第1混練工程S1を行うことにより、第2混練工程S2だけではなく、第2混練工程S2に続いて行われる第3混練工程S3においても、余剰の混和剤が存在する状態が続く。このため、第3混練工程S3において生成されるフレッシュコンクリートの流動性も向上させることができると考えられる。したがって、第1混練工程S1を行うことにより、多量の混和剤を使用することなく、フレッシュコンクリートの流動性も向上させることができると考えられる。
【0077】
なお、上記の第1の試験~第7の試験では、特定の配合の材料を使用したが、他の配合の材料を使用する場合でも、第1混練工程S1を行うことにより、同様にセメントのフロックFが形成され、セメントの比表面積が低下すると考えられる。したがって、他の配合の材料を使用する場合でも、第2混練工程S2において、余剰の混和剤が生じ、それにより、モルタルおよびフレッシュコンクリートの流動性を向上させる効果を得ることができると考えられる。
【0078】
<3-10.第8の試験>
次いで、モルタルの製造後、粗骨材を追加投入・混練してなるフレッシュコンクリートに関して、第8の試験を行った。この試験でも、先の試験同様、設計基準強度が80N/mm
2の高強度コンクリートの材料を用いた。当該高強度コンクリートの配合は、
図5の通りである。セメント量に対する混和剤の添加量は、0.6%とした。ただし、この第8の試験では、材料の練混ぜを、よりプラントの実機条件に近い、2軸強制練りテストミキサ(60リットル)により行った。試験は、温度が20±2℃かつ湿度が50%以上の一定環境の室内において行った。
【0079】
第8の試験では、第1混練工程S1における空練り時間は、30秒と90秒の2パターンとした。また、第1混練工程S1と第2混練工程S2の合計の練混ぜ時間は7分に固定した。そして、第1混練工程S1および第2混練工程S2により生成されたモルタルのフロー値を、JIS R 5201:2015に規定された試験方法で測定した。また、第8の試験では、生成されたモルタルに、さらに粗骨材を投入して第3混練工程S3を行うことにより、フレッシュコンクリートを生成した。第3混練工程S3の練混ぜ時間は3分とした。そして、第3混練工程S3により生成されたフレッシュコンクリートのフロー値を、JIS A 1150:2007に規定された試験方法で測定した。
【0080】
図15は、第8の試験の結果を示した図である。
図15に示すように、第8の試験では、空練り時間を90秒とした場合のモルタルのフロー値は、空練り時間を30秒とした場合のモルタルのフロー値よりも向上した。ただし、このフロー値の差は3cm程度となり、ホバートミキサを使用した第3の試験の結果よりも、モルタル自体のフロー値の向上は小さいものとなった。他方で、モルタルに砂利を投入して第3混練工程S3を行うことにより得られるフレッシュコンクリートについては、空練り時間を90秒とした場合のフロー値が、空練り時間を30秒とした場合のフロー値よりも、20cm以上向上した。つまり、フレッシュコンクリートのフロー値は、空練りにより顕著に向上した。また、液相中の混和剤量についても、上記の第6の試験と同様の試験を行ったところ、空練り時間を90秒とした場合において、より多くの混和剤が残存していることが確認できた。
【0081】
図16は、2軸強制練りテストミキサを用いて、第2混練工程による練混ぜ後の材料を走査電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像である。
図16の例では、250倍の画像において、マッピングにより特定されたセメントの領域を、500倍の画像に拡大して示している。500倍の画像において、空練り時間が30秒の場合と90秒の場合を比較すると、90秒の場合の方が、全体的に粒子の径が大きい。これにより、空練り時間が長くなるほど、フロックFの形成が進んでいることが分かる。したがって、空練り時間を延長することで、フロックFの形成・成長により液相中に混和剤がより多く残存し、フレッシュコンクリートの最終的なフロー値の向上に寄与したと考察できる。
【0082】
<3-11.小括>
以上の第8の試験の結果から、実機に近い条件(2軸強制練りテストミキサ)においても、空練り時間を延長することによって、モルタル自体のフロー値は若干向上し、粗骨材投入後のフレッシュコンクリートの最終的なフロー値は顕著に向上することが分かった。このとき、空練り時間の延長によるモルタル自体のフロー値の向上効果は一見小さいものの、モルタル中のフロックFの成長が促され、空練り時間が短いモルタル(あるいは、空練りを行わないモルタル)と比較した際に、フロー値にはあらわれない性状差が生じる。したがって、空練り時間を延長することによって、最終的なフレッシュコンクリートのフロー値発現に有利な性状を有したモルタルを製造できると結論できる。また、ホバートミキサにおいて空練りを行った場合も、おおよそ同様にフロックFが形成されているものと考えられる(上述の通り、0.15mmふるいの通過量、液相中の混和剤の残存量等からもフロックFが形成されていることが推察される)。
【0083】
なお、2軸強制練りテストミキサによる第8の試験において、ホバートミキサにおける実験結果に比べて、空練り時間の延長に伴う、モルタル自体のフロー値の向上度合いが小さかったが、その理由としては、機械的な差、あるいは練混ぜ容量の差に起因するものと推測される。上述の通り、フロー値にはあらわれないモルタルの性状差として、発明者らはフロックFの電子顕微鏡写真を得ている。そして、空練り時間の延長に伴い、モルタル中のフロックFが成長することで、液相中により多くの混和剤が残存する。2軸強制練りテストミキサにおいては、残存した混和剤の流動性改善効果は、粗骨材を投入した後に一層顕著にあらわれ、フレッシュコンクリートにおいて、最終的に高いフロー値を発現可能とすることができた。
【0084】
ここで、日本国内のフレッシュコンクリート製造用のプラントにおいては、2軸強制練りミキサが多く採用されている(練混ぜ容量は、0.5m3~6.0m3、あるいはそれ以上)ので、第8の試験の結果に基づいて、大型の2軸強制練りミキサといった実機上の条件下においても、粗骨材を添加してさらに練混ぜを行う第3混練工程S3の完了時点においては、フレッシュコンクリートの最終的なフロー値(流動性)が十分に発現するものと考えられる。
【0085】
<4.その他>
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記の実施形態に登場した要素の一部を削除したり、組み合わせたりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、モルタルまたはコンクリートの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 製造装置
10 ミキサ本体
20 羽根
21 軸
30 モータ
40 材料供給装置
50 制御部
F フロック
S1 第1混練工程
S2 第2混練工程
S3 第3混練工程
【要約】
【課題】混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルまたはフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる方法を提供する。
【解決手段】まず、水を含む細骨材とセメントとの練混ぜを行う(第1混練工程S1)。次に、練混ぜ水および混和剤を添加して、さらに練混ぜを行う(第2混練工程S2)。その後、粗骨材を添加してさらに練混ぜを行う(第3混練工程S3)。第1混練工程S1では、細骨材に含まれる水により、セメントの粒子がフロックを形成する。これにより、セメントの比表面積が小さくなるため、第2混練工程において、セメントの粒子に吸着せずに残る余剰の混和剤が生じる。この余剰の混和剤が、第2混練工程S2により生成されるモルタルおよび第3混練工程S3により製造されるフレッシュコンクリートの流動性を向上させる。したがって、混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルまたはフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる。
【選択図】
図2