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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】湿気硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/08 20060101AFI20231215BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C08L71/08
C08L29/04 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019101091
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020193297
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河田 円
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-052168(JP,A)
【文献】特開2013-166952(JP,A)
【文献】特開2011-089045(JP,A)
【文献】特開2003-062943(JP,A)
【文献】特開2006-342338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C08L 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部と、粒子状であり且つ粒子径が500μm以下である水溶性ポリマー0.5~30質量部とを含有していることを特徴とする湿気硬化性組成物(但し、エポキシ樹脂及びその潜在性硬化剤となるケチミン化合物を含む湿気硬化性組成物を除く)。
【請求項2】
水溶性ポリマーがポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の湿気硬化性組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコールのケン化度が80モル%以上であることを特徴とする請求項2に記載の湿気硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含む変性シリコーン系の硬化性組成物は、架橋性シリル基が必要に応じて大気中の水分で加水分解しながら縮合重合によって架橋構造を形成し、硬化時に毒物を発生しない安全性や、硬化後の弾性及び耐久性を備えていることから、シーリング材や接着剤、塗料などに多く用いられている。
【0003】
大気中の湿気で硬化する変性シリコーン組成物は外気温により、その硬化反応速度の影響を大きく受け、特に低温環境下での硬化速度の低下が問題となる。
【0004】
そこで、架橋性シリル基にトリアルコキシシリル基を用いる方法(特許文献1)や、Si-F結合を有するケイ素化合物を用いる方法(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6290785号公報
【文献】特開2015-38196公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法を用いることによって低温における硬化速度は改善できるものの、常温及び高温環境下では硬化速度が速くなりすぎることから、可使時間が短く、作業性に劣るという別の問題を生じる。そのため、上記方法では、湿気硬化性組成物の使用環境の外気温に合わせた組成変更が必要となるという問題も生じる。
【0007】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、外気温の影響が少なく、低温及び高温環境下の何れにおいても、優れた硬化性及び貯蔵安定性を有していると共に、十分な可使時間を有しており作業性に優れる湿気硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の湿気硬化性組成物は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部と、水溶性ポリマー0.5~30質量部とを含有していることを特徴とする。
【0009】
[架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体]
湿気硬化性組成物は、末端に架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(以下、単に「ポリオキシアルキレン系重合体」ということがある)を含有している。ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖は、一般式(1)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(R1-O)n- (1)
(式中、R1は炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)
【0010】
ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖は、一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0011】
ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられ、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0012】
架橋性シリル基としては、例えば、ケイ素原子と結合した加水分解性基を有するケイ素含有基又はシラノール基のように、湿気又は架橋剤の存在下、必要に応じて触媒などを使用することによって縮合反応を生じる基をいう。なお、シラノール基とは、ケイ素原子に直接結合しているヒドロキシ基(≡Si-OH)を意味する。
【0013】
架橋性シリル基としては、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基、ジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基、トリクロロシリル基などのハロゲンが結合したハロゲン化シリル基が挙げられ、ジアルコキシシリル基が好ましく、ジメトキシシリル基が好ましい。
【0014】
ポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量は、8000~50000が好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量が8000以上であると、湿気硬化性組成物の粘度が安定し、貯蔵安定性も向上するポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量が50000以下であると、湿気硬化性組成物の塗工性に優れている。
【0015】
ポリオキシアルキレン系重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。分子量分布が上記範囲内であると、湿気硬化性組成物の粘度が低くなり、湿気硬化性組成物は、低温及び高温環境下の何れにおいても優れた硬化性を有する。
【0016】
なお、本発明において、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体6~7mgを採取し、採取したポリオキシアルキレン系重合体を試験管に供給した上で、試験管に0.05質量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含むo-DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてポリオキシアルキレン系重合体の濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0017】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうして、BHTを含むo-DCB溶液にポリオキシアルキレン系重合体を溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量を測定することができる。
【0018】
架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体における数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0019】
架橋性シリル基を含有するポリオキシアルキレン系重合体は、市販されているものを用いることができる。架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体としては、架橋性シリル基を含有するポリオキシアルキレン系重合体であれば、特に限定なく用いることができる。硬化前は液状物質であり、硬化後に良好なゴム弾性を形成することから、主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に架橋性シリル基としてジメトキシシリル基を有し且つウレタン結合を有していないポリオキシプロピレン系重合体を用いることが好ましい。主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に架橋性シリル基としてジメトキシシリル基を有し且つウレタン結合を有していないポリオキシプロピレン系重合体としては、カネカ社製 商品名「サイリル EST280」、 AGC社製 商品名「エクセスター6250」及び「エクセスター4530」などが挙げられる。
【0020】
[水溶性ポリマー]
湿気硬化性組成物は水溶性ポリマーを含有している。水溶性ポリマーとは、水に可溶なポリマーをいう。具体的には、水溶性ポリマーとは、ERT470.2-02で規定されるExt(水可溶分)が50質量%以上であるポリマーをいう。
【0021】
ERTとはEDANA Recommended Test Methodsの略称であり、吸水性ポリマーの測定方法を規定した欧州標準であり、世界基準として用いられることが多い。そのうち、470.2-02ではExt(Extractables:水可溶分)を規定しており、Extが0~50質量%以下であれば水不溶性であるとしている。即ち、Extが50質量%より大きければ水溶性となる。
【0022】
Extの評価方法は、ポリマー1.0gを0.9質量%の塩化ナトリウム水溶液200mlに添加し、500rpmで16時間攪拌した後、pH滴定で測定し、それより得られた値から溶解したポリマー量(質量%)を算出する。
【0023】
水溶性ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、でんぷん、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース及びその塩類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。なお、水溶性ポリマー、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。水溶性ポリマーは、低温及び高温環境下の何れにおいても硬化性に優れているので、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及びその塩類が好ましく、ポリビニルアルコールがより好ましく、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールが特に好ましい。ケン化度が80モル%以上であると、低温及び高温環境下の何れにおいても硬化性に優れているので好ましい。
【0024】
水溶性ポリマーの形態としては、特に限定されないが、粒子状が好ましい。水溶性ポリマーの粒子径は、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。水溶性ポリマーの粒子径は、JIS K0069にて規定される化学製品のふるい分け試験方法に準拠して測定された値をいう。
【0025】
水溶性ポリマーは市販されているものを用いることができる。水溶性ポリマーの市販品としては、日本触媒社製 商品名「エポミン」(ポリエチレンイミン)及び商品名「アクアリック」(ポリアクリル酸ナトリウム類)、住友精化社製 商品名「PEO」(ポリエチレンオキシド)、日本酢ビ・ポバール社製 商品名「JF-17S」(ポリビニルアルコール)、第一工業製薬社製 商品名「セロゲン」(カルボキシメチルセルロース塩)及び商品名「ピッツコール」(ポリビニルピロリドン)などが挙げられ、これらを好適に用いることができる。
【0026】
湿気硬化性組成物中の水溶性ポリマーの含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して0.5~30質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。水溶性ポリマーの含有量が0.5質量部以上であると、湿気硬化性組成物は、低温環境下でも優れた硬化性を有する。水溶性ポリマーの含有量が30質量部以下であると、湿気硬化性組成物の貯蔵安定性が向上すると共に、湿気硬化性組成物の硬化性を損なうことなく十分な可使時間を確保することができる。
【0027】
[無機充填材]
湿気硬化性組成物は、無機充填材を含有していてもよい。湿気硬化性組成物に無機充填材を含有させることによって、湿気硬化性組成物の硬化物の強度が向上する。
【0028】
無機充填材と、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体とを併用することによって、湿気硬化性組成物の硬化物が柔軟になりすぎないようにし、硬化物に適度な機械的強度及びゴム弾性を付与することができ、湿気硬化性組成物に優れた接着性及び剥離性を付与することができる。
【0029】
無機充填材としては、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、含水ケイ酸、無水ケイ酸、微粉末シリカ、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、タルク、カーボンブラック、及びガラスバルーンなどが挙げられ、炭酸カルシウムが好ましく、重質炭酸カルシウムがより好ましい。なお、無機充填材は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0030】
湿気硬化性組成物中における無機充填材の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して 50~400質量部が好ましく、80~350質量部がより好ましく、100~300質量部が特に好ましい。無機充填材の含有量が50質量部以上であると、湿気硬化性組成物の硬化物の強度が向上する。無機充填材の含有量が400質量部以下であると、湿気硬化性組成物の粘度が低くなり、湿気硬化性組成物の塗工性が向上する。
【0031】
[シランカップリング剤]
湿気硬化性組成物は、シランカップリング剤を更に含有していてもよい。シランカップリング剤を含有することにより、湿気硬化性組成物に優れた接着性を付与することができる。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えば、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、イソシアネートシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、カルボキシシランカップリング剤、ハロゲンシランカップリング剤、カルバメートシランカップリング剤、アルコキシシランカップリング剤、及び酸無水物シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。シランカップリング剤は、湿気硬化性組成物の接着性及び耐水性が向上するので、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。
【0033】
アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0034】
アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-プロピルトリエトキシシランが好ましく、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0035】
エポキシシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、エポキシ基を含有する官能基とを含む化合物を意味する。エポキシシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、及び2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0036】
湿気硬化性組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~18質量部がより好ましく、1.5~15質量部が特に好ましい。
【0037】
[シラノール縮合触媒]
湿気硬化性組成物は、シラノール縮合触媒を含有していてもよい。シラノール縮合触媒とは、ポリオキシアルキレン系重合体が有する架橋性シリル基同士の縮合反応を促進させるための触媒である。
【0038】
シラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジオクチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジオクチル錫ジラウレート、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、及びジブチル錫オキシビスエトキシシリケートなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物;1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカー5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカー5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナー5-エンなどのシクロアミジン系化合物;ジブチルアミン-2-エチルヘキソエートなどが挙げられる。また、他の酸性触媒や塩基性触媒もシラノール縮合触媒として用いることができる。これらのシラノール縮合触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0039】
なかでも、シラノール縮合触媒としては、湿気硬化性組成物を均一に硬化させることができるので、有機錫系化合物が好ましく、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)がより好ましい。
【0040】
湿気硬化性組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.5~6質量部が特に好ましい。シラノール縮合触媒の含有量が0.1質量部以上であると、湿気硬化性組成物の硬化性が向上する。シラノール縮合触媒の含有量が10質量部以下であると、湿気硬化性組成物の貯蔵安定性が向上する。
【0041】
[脱水剤]
湿気硬化性組成物は、脱水剤を含有していることが好ましい。脱水剤によれば、湿気硬化性組成物を保存している際に、空気中などに含まれている水分によって湿気硬化性組成物が硬化することを抑制することができる。
【0042】
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物;並びにオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、及びオルト酢酸エチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。脱水剤としては、ビニルトリメトキシシランが好ましい。なお、脱水剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0043】
湿気硬化性組成物中における脱水剤の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましく、1~7質量部が特に好ましい。脱水剤の含有量が0.5質量部以上であると、湿気硬化性組成物の貯蔵安定性が向上する。脱水剤の含有量が20質量部以下であると、湿気硬化性組成物の貯蔵安定性及び取扱性が向上する。
【0044】
[他の添加剤]
湿気硬化性組成物は、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、顔料、染料、沈降防止剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、可塑剤と酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0045】
可塑剤としては、特に限定されず、例えば、ジブチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどのフタル酸エステル類;ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート、コハク酸イソデシルなどの非芳香族二塩基酸エステル類;オレイン酸ブチル、アセチルリシリノール酸メチルなどの脂肪族エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステルなどのポリアルキレングリコールのエステル類;トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェートなどのリン酸エステル類;トリメリット酸エステル類;ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ブタジエン-アクリロニトリル、ポリクロロプレン;塩素化パラフィン類;アルキルジフェニル、部分水添ターフェニルなどの炭化水素系油;プロセスオイル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、ポリエーテルポリオールの水酸基をエステル基、エーテル基などに変換した誘導体などのポリエーテル類;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ベンジルなどのエポキシ系可塑剤類;セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸などの2塩基酸とエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの2価アルコールから得られるポリエステル系可塑剤類;アクリル系可塑剤をはじめとするビニル系モノマーを種々の方法で重合して得られるビニル系重合体類などが挙げられる。なお、可塑剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0046】
湿気硬化性組成物中における可塑剤の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して20~100質量部が好ましく、25~50質量部がより好ましい。可塑剤の含有量が20質量部以上であると、湿気硬化性組成物の塗工性が向上する。可塑剤の含有量が100質量部以下であると、湿気硬化性組成物の硬化物の機械的強度が向上する。
【0047】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。湿気硬化性組成物中における酸化防止剤の含有量は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0048】
湿気硬化性組成物は、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体、水溶性ポリマー、並びに、必要に応じて添加剤を混合する方法により製造することができる。混合は減圧下で行うことが好ましく、湿気硬化性組成物は、外気中の水分との反応を防止するため、密封された容器に保管することが好ましい。
【0049】
湿気硬化性組成物は、例えば、床構造の構築に用いられる。湿気硬化性組成物を用いて床構造を構築するにあたって、湿気硬化性組成物は、低温及び高温環境下の何れにおいても十分な可使時間を確保することができ、作業性に優れている。更に、湿気硬化性組成物は、低温及び高温環境下の何れにおいても優れた硬化性を有しているので、被着体同士を湿気硬化性組成物を介して重ね合わせた後、空気中の水分又は/及び被着体中の水分によって速やかに硬化して被着体同士を強固に接着一体化させることができる。
【0050】
床構造は、床基盤上に敷設された床下地材上に、湿気硬化性組成物からなる硬化物を介して床仕上げ材が接着一体化されることによって構築される。床構造は、床基盤と、上記床基盤上に敷設されている床下地材と、上記床下地材上に形成されており且つ上記床下地材と接着一体化している湿気硬化性組成物の硬化物と、上記硬化物上に敷設されており且つ上記硬化物と接着一体化している床仕上げ材とを含んでいる。
【0051】
床仕上げ材を構成する部材としては、例えば、合板及びミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF:Medium Density Fiberboard)などの木質系材料、タイル、塩化ビニルシート、及び石材などが挙げられ、中でも、塩化ビニルシートのように薄く、柔らかい素材の使用が好ましい。
【0052】
床下地材を構成する部材としては、例えば、合板、パーチクルボード、木根太、石膏ボード、スレート板、及びコンクリート板などが挙げられる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の湿気硬化性組成物は、冬季の低温及び夏季の高温の何れの雰囲気下においても適切な可使時間を保持することができ、外気温にかかわらず空気中の湿気や被着体などに含まれている湿気によって良好な硬化性を発揮することができる。
【0054】
本発明の湿気硬化性組成物は、冬季の低温及び夏季の高温の何れの雰囲気下においても優れた硬化性を有しており、湿気硬化することによって、被着体同士を速やかに接着一体化させる。
【0055】
本発明の湿気硬化性組成物は湿気硬化後は強固な硬化物となり、接着剤として使用した場合、強靭な接着性と耐久性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例
【0057】
実施例及び比較例の湿気硬化性組成物の製造において下記の原料を使用した。
【0058】
[架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体]
・主鎖骨格(ポリオキシプロピレン)の末端にジメトキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(数平均分子量:10000、分子量分布:1.49、ウレタン結合を有しない、カネカ社製 製品名「サイリルEST280」)
【0059】
[水溶性ポリマー]
・ポリビニルアルコール(ケン化度:98モル%、日本酢ビ・ポバール社製 製品名「JF-17S」、粒子状、粒子径:150μm以下(#100メッシュフルパス))
・カルボキシメチルセルロースナトリウム (第一工業製薬社製 製品名「セロゲンBS」、粒子状、粒子径:180μm以下(#70メッシュフルパス))
【0060】
[無機充填材]
・重質炭酸カルシウム(白石カルシウム社製 製品名「ホワイトンSB」)
【0061】
[脱水剤]
・ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 製品名「KBM-1003」
【0062】
[シラノール縮合触媒]
・ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)(日東化成社製 製品名「ネオスタンS-303」)
【0063】
(実施例1~4、比較例1~2)
架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体、水溶性ポリマー、無機充填材、脱水剤、及びシラノール縮合触媒をそれぞれ、表1に示す配合量となるようにして、密封した攪拌機中で減圧しながら均一になるまで混合することにより湿気硬化性組成物を作製した。
【0064】
なお、表1において、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、単に「ポリオキシアルキレン系重合体」と表記した。
【0065】
得られた湿気硬化性組成物について、硬化性、貯蔵安定性及び可使時間について評価し、その結果を表1に示した。
【0066】
[硬化性]
湿気硬化性組成物を、厚さ約3mmの型枠にスパチュラを用いて充填し、湿気硬化性組成物の表面を平滑面に整えた。湿気硬化性組成物の表面を平滑面に整え終わった時点を測定開始点とした。表面をスパチュラで触り、スパチュラに湿気硬化性組成物が付着しなくなった時点を測定終了点とした。測定開始点から測定終了点までの時間を算出して表面皮張り時間とした。
【0067】
表面皮張り時間を5℃及び23℃の雰囲気温度にて測定した。表面皮張り時間が短いほど硬化性に優れている。5℃の表面皮張り時間と23℃の表面皮張り時間の差が小さい程、湿気硬化性組成物は、硬化時の雰囲気温度の影響を受けにくいと判断できる。
【0068】
[貯蔵安定性]
湿気硬化性組成物の23℃雰囲気下における粘度をJIS K6833に準拠してB型粘度計を用いて回転数10rpmの条件にて測定し、得られた湿気硬化性組成物の粘度を「初期粘度」とした。
【0069】
湿気硬化性組成物をカートリッジに充填した後、カートリッジ内の空気を抜いて、密封状態となるように封止した。密封状態のカートリッジを50℃にて4週間に亘って放置した後、カートリッジを開封した。
【0070】
カートリッジ内の湿気硬化性組成物の23℃雰囲気下における粘度をJIS K6833に準拠してB型粘度計を用いて回転数10rpmの条件にて測定し、得られた湿気硬化性組成物の粘度を「貯蔵後粘度」とした。粘度変化を下記式に基づいて算出した。
粘度変化=貯蔵後粘度/初期粘度
【0071】
粘度変化が1.5以下であれば、貯蔵安定性として問題なく、1.5を超えると貯蔵安定性に劣り、長期保管が困難になる虞れがある。
【0072】
[可使時間]
湿気硬化性組成物を第1合板下地上に櫛目ごてを用いて塗工した。湿気硬化性組成物の塗工面上に別の第2合板を積層し、第1合板上に1kgの重錘を載置して合板同士が接近する方向に押圧して試験体を作製した。上述の要領で試験体を40個作製した。
【0073】
次に、試験体を作製直後から5分ごとに、試験体を一つずつ選択し、試験体の第2合板を第1合板から剥離し、第2合板に湿気硬化性組成物が転写されているか否かを目視観察した。第2合板に湿気硬化性組成物が転写されなくなった時間を可使時間とした。なお、上述の測定環境は、23℃、相対湿度50%であった。
【0074】
【表1】