(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するための方法およびコンピュータシステム
(51)【国際特許分類】
G16H 80/00 20180101AFI20231215BHJP
【FI】
G16H80/00
(21)【出願番号】P 2019111021
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018122199
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593088201
【氏名又は名称】大信貿易株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 勲
【審査官】原 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501099(JP,A)
【文献】特開2004-118466(JP,A)
【文献】特開2001-290890(JP,A)
【文献】特開2002-007401(JP,A)
【文献】特表2017-532175(JP,A)
【文献】F-APP 知識交流システム,はいたっく ,日本,株式会社日立製作所,2004年03月01日,通巻442号,p. 29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント周囲疾患を治療するための事例を共有するサービスを実現するための方法であって、該方法は、
複数の会員をコンピュータシステムに登録することと、
複数の事例データが記憶されている事例共有データベース部を構築することと
を含み、
該複数の事例データのそれぞれは、共通の機械および/または材料を使用してインプラント周囲疾患を治療した事例を表し、
該コンピュータシステムは、該複数の会員に対してのみ該複数の事例データを少なくとも部分的に公開するように構成されている、方法。
【請求項2】
前記複数の会員は、該複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者を含み、
前記複数の事例データは、該指導者によって該指導者の権限で分類されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の事例データは、前記インプラント周囲疾患をどのように治療するのか、および/または、該インプラント周囲疾患の治療のためにどのように機械を用いるのかについて、前記指導者によって該指導者の権限で分類されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の事例データのうちの少なくとも1つは、前記指導者による事例に関するコメントを含む、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の事例データは、複数のレベルに分類されており、
前記コンピュータシステムは、該複数のレベルのうちの所与のレベルに応じて前記事例共有データベース部を検索することが可能であるように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
複数の供給データが記憶されている供給データベース部を構築することをさらに含み、複数の供給データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスの供給に関する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記供給データは、前記インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、
インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するためのコンピュータシステムであって、
該コンピュータシステムには、複数の会員が登録されており、
該コンピュータシステムには、データベース部が接続されており、
該データベース部は、事例共有データベース部を含み、該事例共有データベース部には、複数の事例データが記憶されており、該複数の事例データのそれぞれは、共通の機械および/または材料を使用してインプラント周囲疾患を治療した事例を表し、
該コンピュータシステムは、該複数の会員に対してのみ該複数の事例データを少なくとも部分的に公開するように構成されている、コンピュータシステム。
【請求項9】
前記複数の会員は、該複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者を含み、
前記複数の事例データは、該指導者によって該指導者の権限で分類されている、請求項8に記載のコンピュータシステム。
【請求項10】
前記複数の事例データは、前記インプラント周囲疾患をどのように治療するのか、および/または、該インプラント周囲疾患の治療のためにどのように機械を用いるのかについて、前記指導者によって該指導者の権限で分類されている、請求項9に記載のコンピュータシステム。
【請求項11】
前記複数の事例データのうちの少なくとも1つは、前記指導者による事例に関するコメントを含む、請求項9または請求項10に記載のコンピュータシステム。
【請求項12】
前記コンピュータシステムは、ネットワークを介して、端末装置に接続されるように構成されており、
該コンピュータシステムは、プロセッサ部を含み、
該端末装置は、検索条件を入力するための入力手段と、情報を表示するための表示手段とを含み、
該プロセッサ部は、該端末装置から入力された検索条件に応じて前記事例共有データベース部を検索することにより、該検索条件に関連付けられた事例が該端末装置の該表示手段に表示されることを可能にするように構成されている、請求項8~11のいずれか一項に記載のコンピュータシステム。
【請求項13】
前記複数の事例データは、複数のレベルに分類されており、
前記プロセッサ部は、該複数のレベルのうちの所与のレベルに応じて前記事例共有データベース部を検索することが可能であるように構成されている、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項14】
前記データベース部は、供給データベース部をさらに含み、該供給データベース部には、複数の供給データが記憶されており、複数の供給データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスの供給に関する、請求項8~13のいずれか一項に記載のコンピュータシステム。
【請求項15】
前記供給データは、前記インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、
インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載のコンピュータシステム。
【請求項16】
前記材料は、プラーク除去促進剤、骨移植材、メンブレン、組織再生促進剤、および充填剤のうちの1または複数を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
(i)前記プラーク除去促進剤は次亜塩素酸ナトリウムを含み、
(ii)前記骨移植材は骨マトリックスを含み、
(iii)前記メンブレンはコラーゲンを含み、
(iv)前記組織再生促進剤はヒアルロン酸を含み、および/または
(v)前記充填剤はコラーゲンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記材料は、プラーク除去促進剤、骨移植材、メンブレン、組織再生促進剤、および充填剤のうちの1または複数を含む、請求項15に記載のコンピュータシステム。
【請求項19】
(i)前記プラーク除去促進剤は次亜塩素酸ナトリウムを含み、
(ii)前記骨移植材は骨マトリックスを含み、
(iii)前記メンブレンはコラーゲンを含み、
(iv)前記組織再生促進剤はヒアルロン酸を含み、および/または
(v)前記充填剤はコラーゲンを含む、請求項18に記載のコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するための方法およびコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者にインプラントを埋入してから10年経つと、欧州では約60%のインプラントがインプラント周囲疾患にかかり、日本では約50%のインプラントがインプラント周囲疾患にかかるといわれている。このようなインプラント周囲疾患の代表格が、インプラント周囲炎である(非特許文献1を参照)。日本では約500万本のインプラントが既に出荷されているため、近い将来、約250万本のインプラントがインプラント周囲疾患にかかり治療が必要になると予想されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】竹内康雄著、「インプラント周囲炎に関連する全身的リスクファクター」、日本口腔インプラント学会誌、公益社団法人 日本口腔インプラント学会、2016年12月、第29巻、第4号、p.219~225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、近い将来、約250万本のインプラントがインプラント周囲疾患にかかり治療が必要になるという予想に鑑みて、インプラント周囲疾患の治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していくための方策を採ることが急務であると考えた。
【0005】
本発明は、インプラント周囲疾患の治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していくために役立つ方法およびコンピュータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの局面において、本発明の方法は、インプラント周囲疾患を治療するための事例を共有するサービスを実現するための方法であり、該方法は、複数の会員をコンピュータシステムに登録することと、複数の事例データが記憶されている事例共有データベース部を構築することとを含み、該複数の事例データのそれぞれは、インプラント周囲疾患を治療するための事例を表し、該コンピュータシステムは、該複数の会員に対してのみ該複数の事例データを少なくとも部分的に公開するように構成されている。
【0007】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の会員は、該複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者を含み、前記複数の事例データは、該指導者によって該指導者の権限で分類されていてもよい。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の事例データのうちの少なくとも1つは、前記指導者による事例に関するコメントを含んでいてもよい。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の事例データは、複数のレベルに分類されており、前記コンピュータシステムは、該複数のレベルのうちの所与のレベルに応じて前記事例共有データベース部を検索することが可能であるように構成されていてもよい。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、前記方法は、複数の供給データが記憶されている供給データベース部を構築することをさらに含み、複数の供給データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスの供給に関していてもよい。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記供給データは、前記インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、該インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0012】
本発明の1つの局面において、本発明のコンピュータシステムは、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するためのコンピュータシステムであり、該コンピュータシステムには、複数の会員が登録されており、該コンピュータシステムには、データベース部が接続されており、該データベース部は、事例共有データベース部を含み、該事例共有データベース部には、複数の事例データが記憶されており、該複数の事例データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療のための事例を表し、該コンピュータシステムは、該複数の会員に対してのみ該複数の事例データを少なくとも部分的に公開するように構成されている。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、前記コンピュータシステムは、ネットワークを介して、端末装置に接続されるように構成されており、該コンピュータシステムは、プロセッサ部を含み、該端末装置は、検索条件を入力するための入力手段と、情報を表示するための表示手段とを含み、該プロセッサ部は、該端末装置から入力された検索条件に応じて前記事例共有データベース部を検索することにより、該検索条件に関連付けられた事例が該端末装置の該表示手段に表示されることを可能にするように構成されていてもよい。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の会員は、該複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者を含み、前記複数の事例データは、該指導者によって該指導者の権限で分類されていてもよい。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の事例データのうちの少なくとも1つは、前記指導者による事例に関するコメントを含んでいてもよい。
【0016】
本発明の1つの実施形態では、前記複数の事例データは、複数のレベルに分類されており、前記プロセッサ部は、該複数のレベルのうちの所与のレベルに応じて前記事例共有データベース部を検索することが可能であるように構成されていてもよい。
【0017】
本発明の1つの実施形態では、前記データベース部は、供給データベース部をさらに含み、該供給データベース部には、複数の供給データが記憶されており、複数の供給データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスの供給に関していてもよい。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、前記供給データは、前記インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、該インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、該インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、前記材料は、プラーク除去促進剤、骨移植材、メンブレン、組織再生促進剤、および充填剤のうちの1または複数を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、
(i)前記プラーク除去促進剤は次亜塩素酸ナトリウムを含み、
(ii)前記骨移植材は骨マトリックスを含み、
(iii)前記メンブレンはコラーゲンを含み、
(iv)前記組織再生促進剤はヒアルロン酸を含み、および/または
(v)前記充填剤はコラーゲンを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するための方法およびコンピュータシステムを提供することが可能である。この方法およびコンピュータシステムは、インプラント周囲疾患の治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していくために役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するという新しいサービスのフローを示す図
【
図2A】新しいサービスを実現するためのコンピュータシステム10の構成の一例を示す図
【
図2B】端末装置30
i(1≦i≦N)の構成の一例を示す図
【
図3A】会員データベース部71に格納されている情報の構成の一例を示す図
【
図3B】事例共有データベース部72に格納されている情報の構成の一例を示す図
【
図3C】供給データベース部73に格納されている情報の構成の一例を示す図
【
図4】コンピュータシステム10によって実行される処理の手順の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
1.インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するという新しいサービス
図1は、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するという新しいサービスのフローを示す。
【0025】
ステップS1:会員制のコンソーシアムを設立する。このことは、例えば、コンソーシアムの運営企業が、自身が運営するウェブサイトにおいて会員を募集し、会員になることを希望する者がそのウェブサイトに自身の個人情報を提供することによって達成される。
【0026】
図1に示される例では、会員A、会員B、会員C、会員D、会員Eが、コンソーシアムの会員として登録されている。このような会員の登録は、例えば、その会員をコンピュータシステム(
図1には示されていない、
図2Aを参照)に登録すること(より具体的には、その会員の個人情報をコンピュータシステムに接続されている会員データベース部)に記憶すること)によって達成される。
【0027】
この会員制のコンソーシアムは、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有することを目的とするものである。インプラント周囲疾患の一例は、インプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎であるが、本発明はこれらに限定されない。本発明は、インプラントの周囲に発生する任意の疾患に対して適用することが可能である。あるいは、この会員制のコンソーシアムは、特定の機械を用いたインプラント周囲疾患の治療のための事例を共有することを目的とするものであってもよい。特定の機械の一例は、後述するSutter Medizintechnik GmbH社の「CURIS」という機械であるが、これに限定されない。
【0028】
ステップS2:会員Aは、インプラント周囲疾患を治療することによって得られた事例を表す事例データAをウェブサイトに提供する。これにより、事例データAは、コンピュータシステムに登録される(より具体的には、コンピュータシステムに接続されている事例共有データベース部に格納される)。
【0029】
ステップS3:会員Bは、会員Aと同様に、インプラント周囲疾患を治療することによって得られた事例を表す事例データBをウェブサイトに提供する。これにより、事例データBは、コンピュータシステムに登録される(より具体的には、コンピュータシステムに接続されている事例共有データベース部に格納される)。
【0030】
ステップS4:会員Cは、会員A、Bと同様に、インプラント周囲疾患を治療することによって得られた事例を表す事例データCをウェブサイトに提供する。これにより、事例データCは、コンピュータシステムに登録される(より具体的には、コンピュータシステムに接続されている事例共有データベース部に格納される)。
【0031】
このようにして、事例共有データベース部には、複数の会員から提供された複数の事例データが蓄積される。これにより、複数の事例データが格納された事例共有データベース部が構築される。ここで、複数の事例データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療のための事例を表すものであるが、特に、特定の機械を用いたインプラント周囲疾患の治療のための事例を表すものであってもよい。特定の機械の一例は、後述するSutter Medizintechnik GmbH社の「CURIS」という機械であるが、これに限定されない。
【0032】
ステップS5:会員A、会員B、会員C、会員D、会員Eのそれぞれは、コンソーシアムの運営会社に会費を支払う。この会費の支払いの態様は任意である。例えば、この会費は、前払いの一括方式で支払われてもよいし、毎月払いの分割方式で支払われてもよい。会費を支払うことにより、会員は、一定の期間の間、会員の資格を保証される。その一定の期間が経過した後、会員が、さらに一定の期間の間、会員の資格の継続を希望する場合には、更新料の支払いを条件に会員の資格の継続を認めるようにしてもよい。会員の資格の更新のタイミングを、インプラント周囲疾患の治療に用いられる特定の機械のグレードアップのタイミングやその特定の機械のバージョンアップのタイミングに同期させるようにしてもよい。会費の支払いは、例えば、電子マネーを用いて行われてもよいし、コンソーシアムの運営企業の銀行口座への振り込みによって行われてもよい。なお、すべての会員が会費を支払うことが原則であるが、会費は無料であってもよい。あるいは、すべての会員が会費を支払う義務がある有料会員である必要はなく、会員の一部が会費を支払う義務のない無料会員(例えば、特別会員)であってもよい。
【0033】
ステップS6:コンソーシアムの運営企業は、会員A、会員B、会員C、会員D、会員Eに対して様々なサービスを提供する。様々なサービスの一例は、事例共有データベース部に蓄積された複数の事例データを会員にのみに公開することであり、様々なサービスの他の一例は、インプラント周囲疾患の治療のために必要な物またはサービスを供給することであるが、これらに限定されない。
【0034】
このように、複数の事例データが格納されている事例共有データベース部を構築することによって、コンソーシアムに属する会員の間で複数の事例データを共有することが可能である。事例データの共有および検討を通して、インプラント周囲疾患の治療法の改善、さらに、その治療に用いる機械、器具、材料などの改善につなげていくことが可能になる。このことは、インプラント周囲疾患の治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していく上で極めて重要である。
【0035】
一例として、約7年前から、ドイツ人の歯科医が、従来、脳外科の分野で使用されていた機械を用いて、インプラントの歯周病の治療を行い、画期的な成果を収めている。この機械は、Sutter Medizintechnik GmbH社の「CURIS」という機械であり、コアブレーションおよび切開という機能を用いて、出血しない痛くないという画期的な治療を可能にする機械である。それにもかかわらず、日本では、この機械を用いたインプラント周囲疾患の治療はまったく普及していない。その理由は、歯科の機械としては非常に高価であること、この機械の操作の修得が一般の歯科医には困難であること、この機械を用いた治療の事例が日本には存在しないことなどが挙げられる。
【0036】
そこで、発明者は、臨床経験豊かなドイツ人の歯科医を教師役として日本に招聘し、そのドイツ人の歯科医から直接的な教育を受けることを希望する会員を募ってコンソーシアムを設立し、このコンソーシアムに属する会員の間でこの機械を用いることによって得られる複数の事例データを共有することが有用であると考えた。さらに、発明者は、このコンソーシアムにおいて、この機械を用いた治療法の修得を目的とした継続的な教育プログラムを提供することにより、ドイツ人の歯科医から直接的な教育を受けた会員がさらに別の会員の教育を受け持つこと、および/または、この治療法に必要な物またはサービスを一括して提供することもまた有用であると考えた。このようなコンソーシアムにおける活動を通して、インプラント周囲疾患の治療法の改善、さらに、この機械、器具、材料などの改善につなげていくことが可能であるからである。このことは、上述した画期的な治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していく上で極めて重要である。
【0037】
なお、
図1に示される例では、5人の会員A、B、C、D、Eのうちの3人の会員A、B、Cが事例データを提供する例を説明したが、会員登録される会員の数が5人に限定されるわけではなく、事例データを提供する会員の数が3人に限定されるわけでもないことは当然である。会員登録される会員の数は、1以上の任意の整数であり得る。事例データを提供する会員の数は、1以上の任意の数であり得る。
【0038】
また、コンソーシアムに属するすべての会員に対して平等に事例共有データベース部に蓄積されているすべての事例データが公開される必要はない。例えば、少なくとも一部の会員に対する事例データの公開を少なくとも部分的に制限するようにしてもよい。例えば、複数の事例データが複数の区分に分類されている場合において、一部の会員(例えば、上級会員)には、すべての区分の事例データが公開されるが、他の一部の会員(例えば、初級会員)には、特定の区分(例えば、初級レベル)のみの事例データが公開されるようにし、他の一部の会員(例えば、中級会員)には、特定の区分(例えば、中級レベル)のみの事例データが公開されるようにしてもよい。
【0039】
2.新しいサービスを実現するためのコンピュータシステムの構成
図2Aは、新しいサービスを実現するためのコンピュータシステム10の構成の一例を示す。
【0040】
コンピュータシステム10は、インターネット20を介して、端末装置301~30Nに接続することが可能なように構成されている。ここで、Nは、1以上の任意の整数である。端末装置30i(1≦i≦N)は、例えば、会員(例えば、歯科医または口腔外科医)や、インプラント周囲疾患をどのように治療するのか、その治療をするために機械をどのように使うのかを会員を指導する指導者(例えば、指導医)によって操作されることが可能である。
【0041】
コンピュータシステム10は、コンソーシアムの運営会社が運営・管理する情報処理装置である。コンピュータシステム10は、サーバとしての一般的なハードウェア構成を有し得る。
図2Aに示される例では、コンピュータシステム10は、インターフェース部40とメモリ部50とプロセッサ部60とを含む。インターフェース部40とメモリ部50とプロセッサ部60とは、例えば、バスを介して相互に結合されている。
【0042】
インターフェース部40は、端末装置301~30Nとの通信を制御する。
【0043】
メモリ部50には、処理を実行するために必要とされるプログラムやそのプログラムを実行するために必要とされるデータ等が格納されている。メモリ部50には、例えば、
図4に示される処理を実行するためのプログラムが格納されている。ここで、プログラムをどのようにしてメモリ部50に格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリ部60にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、インターネット20などのネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリ部50にインストールされるようにしてもよいし、光ディスクやUSBなどの記憶媒体を介してメモリ部50にインストールされるようにしてもよい。
【0044】
プロセッサ部60は、コンピュータシステム10の全体の動作を制御する。プロセッサ部60は、メモリ部50に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、コンピュータシステム10を所望のステップを実行する装置として機能させることが可能である。
【0045】
コンピュータシステム10には、データベース部70が接続されている。
図2に示される例では、データベース部70は、個々の会員の個人情報を管理するための会員データベース部71と、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するための事例共有データベース部72と、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスを供給するための供給データベース部73とを含む。
【0046】
端末装置301~30Nのそれぞれは、インターネット20を介して、少なくともコンピュータシステム10と通信することが可能なように構成されている。例えば、端末装置301~30Nのそれぞれは、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、スマートグラス、スマートウォッチ端末等の携帯無線端末であってもよいし、デスクトップPC、ラップトップPC、ノートPC等のパーソナルコンピュータであってもよい。
【0047】
なお、
図2Aに示されるインターフェース部40、メモリ部50、プロセッサ部60、データベース部70のそれぞれの構成要素は、単一のハードウェア部品で構成されてもよいし、複数のハードウェア部品で構成されてもよい。コンピュータシステム10の構成は、特定のハードウェア構成には限定されない。
【0048】
また、
図2Aに示される実施形態では、コンピュータシステム10と端末装置30
1~30
Nとは、インターネット20を介して接続されることが可能であるとしたが、本発明はこれに限定されない。インターネット20の代わりに任意のタイプのネットワークを用いることも可能である。
【0049】
また、
図2Aに示される実施形態では、データベース部70は、コンピュータシステム10の外部に設けられているが、その態様は問わない。例えば、データベース部70は、コンピュータシステム10の単一の外付けハードディスク装置として構成されてもよいし、ネットワークを介して接続されるクラウド上のストレージとして構成されてもよい。あるいは、データベース部70は、コンピュータシステム10の内部に設けられることも可能である。
【0050】
図2Bは、端末装置30
i(1≦i≦N)の構成の一例を示す。端末装置30
i(1≦i≦N)は、検索条件を入力するための入力手段31と、情報を表示するための表示手段32とを含む。入力手段31の一例は、キーボード、マウス、タッチパネルなどであるが、これに限定されない。表示手段32の一例は、液晶ディスプレイ装置であるが、これに限定されない。
【0051】
図3Aは、会員データベース部71に格納されている情報の構成の一例を示す。
【0052】
会員データベース部71には、会員の個人情報が格納されている。会員の個人情報は、会員を識別するための情報(例えば、会員ID)によって識別されることが可能である。会員の個人情報は、例えば、会員の氏名、性別、生年月日、住所、電話番号、Eメールアドレス、会員の種別などを含むが、これに限定されない。
【0053】
図3Bは、事例共有データベース部72に格納されている情報の構成の一例を示す。
【0054】
事例共有データベース部72には、複数の事例データが格納されている。複数の事例データのそれぞれは、事例を識別するための情報(例えば、事例ID)によって識別されることが可能である。複数の事例データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療のための事例を表すものであるが、特に、特定の機械を用いたインプラント周囲疾患の治療のための事例を表すものであってもよい。特定の機械の一例は、上述したSutter Medizintechnik GmbH社の「CURIS」という機械であるが、これに限定されない。
【0055】
複数の事例データのそれぞれは、インプラントの製品に関する情報と、インプラント周囲疾患に関する情報と、インプラント周囲疾患の治療に関する情報とを含む。インプラントの製品に関する情報は、例えば、患者に埋入されたインプラント製品のメーカー名、タイプ、型番、製造番号、製造年月日、価格などを示す情報を含むが、これらに限定されない。インプラント周囲疾患に関する情報は、例えば、患者に関する情報、インプラント周囲疾患の種類、程度などを示す情報を含むが、これらに限定されない。インプラント周囲疾患の治療に関する情報は、例えば、主治医に関する説明、現在の治療の説明(現在の治療に用いている機械の説明を含む)、これまでにどのような治療を受けてきたのかの説明(これまでにどのような機械を用いて治療を受けてきたのかの説明を含む)、患者のカルテ、歯のレントゲン写真、歯のCT写真などを含むが、これらに限定されない。
【0056】
複数の事例データのそれぞれは、分類フラグ領域をさらに含んでいてもよい。この分類フラグ領域には、その事例がどのレベルに分類されるかを示す分類フラグが格納される。例えば、その事例が「重要レベル」または「非重要レベル」に分類されている場合には、その分類フラグ領域には「重要レベル」または「非重要レベル」を示す分類フラグが格納される。あるいは、その事例が「上級会員」向けまたは「中級会員」向けまたは「初級会員」向けに分類されている場合には、その分類フラグ領域には「上級会員」向けまたは「中級会員」向けまたは「初級会員」向けを示す分類フラグが格納される。分類フラグの構成は任意であるが、例えば、分類フラグは、32ビットのバイナリデータであり得る。例えば、32ビットのうちの1ビット目が「1」であれば「重要レベル」、「0」であれば「非重要レベル」であるとすることが可能である。同様に、32ビットのうちの2ビット目が「1」であれば、「上級会員」向けであり、「0」であれば、「上級会員」向けでないとすることが可能である。「中級会員」向け、「初級会員」向けについても同様である。事例データの分類フラグ領域にどのような分類フラグを格納するか(言い換えると、どの事例をどのレベルに分類するか)は、例えば、インプラント周囲疾患をどのように治療するのか、および/または、その治療のためにどのように機械を用いるのかについて、複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者(例えば、指導医)によってその指導者(例えば、指導医)の権限で行われる。
【0057】
複数の事例データのそれぞれは、コメント領域をさらに含んでいてもよい。このコメント領域には、インプラント周囲疾患をどのように治療するのか、および/または、その治療のためにどのように機械を用いるのかについて、複数の会員のうちの少なくとも一人を指導する指導者(例えば、指導医)による事例に関するコメントが記載される。複数の事例データのうちの少なくとも1つは、指導者による事例に関するコメントを含んでいてもよい。
【0058】
複数の事例データのそれぞれは、料金領域をさらに含んでいてもよい。この料金領域には、インプラント周囲疾患を治療するのに実際にかかった料金が記載される。
【0059】
図3Cは、供給データベース部73に格納されている情報の構成の一例を示す。
【0060】
供給データベース部73には、複数の供給データが格納されている。複数の供給データのそれぞれは、供給を識別するための情報(例えば、供給ID)によって識別されることが可能である。複数の供給データのそれぞれは、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスの供給に関する。
【0061】
供給データは、インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちの少なくとも1つを含む。
【0062】
インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータは、機械のメーカー名、タイプ、型番、製造番号、製造年月日、価格、グレードアップやバージョンアップの予定、機械を購入するための手順の説明などを含むが、これらに限定されない。内視鏡の供給に関するデータは、例えば、内視鏡のメーカー名、タイプ、型番、製造番号、製造年月日、価格、内視鏡を購入するための手順の説明などを含むが、これらに限定されない。なお、内視鏡は、例えば、インプラント周囲疾患の状況などを患者に見せて説明するために用いられる。インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータは、例えば、材料(例えば、コラーゲン)のメーカー名、タイプ、型番、材料を購入するための手順の説明などを含むが、これらに限定されない。インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータは、例えば、教育プログラムの内容、教育プログラムのスケジュール、講師の先生のプロフィールなどを含むが、これらに限定されない。インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータは、例えば、補綴冠のメーカー名、タイプ、型番、補綴冠を購入するための手順の説明などを含むが、これらに限定されない。
【0063】
あるいは、供給データは、インプラント周囲疾患を治療するための機械の供給に関するデータと、内視鏡の供給に関するデータと、インプラント周囲疾患の治療のための材料の供給に関するデータと、インプラント周囲疾患の治療のための教育プログラムの供給に関するデータと、インプラントにかぶせる補綴冠の供給に関するデータのうちのすべてを含んでもよい。
【0064】
コンソーシアムの運営会社は、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスを供給するためのポータルサイトを運用するようにしてもよい。このポータルサイトは、会員用のウェブサイトの一部であってもよいし別物であってもよい。このようなポータルサイトを利用することにより、会員は、インプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスを個別に注文する必要がない。なぜなら、会員は、ポータルサイトを介してインプラント周囲疾患の治療に必要な物またはサービスを一括して注文することが可能であるからである。これにより、会員の利便性を向上させることが可能である。
【0065】
3.コンピュータシステムの処理
図4は、コンピュータシステム10によって実行される処理の手順の一例を示す。この処理は、例えば、プログラムの形式でメモリ部50に格納されている。プロセッサ部60は、メモリ部50に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行することにより、
図4に示される処理を実行することが可能である。
【0066】
【0067】
ステップS410:プロセッサ部60は、端末装置30i(1≦i≦N)から入力された検索条件を受信する。
【0068】
ステップS420:プロセッサ部60は、端末装置30i(1≦i≦N)から入力された検索条件に応じて事例共有データベース部72を検索することによって、少なくとも1つの事例データを検索結果として取得する。例えば、「重要レベル」に分類されている事例データを会員が検索を希望する場合には、その会員は、「重要レベル」の事例を検索対象とすることを検索条件として指定する。その結果、プロセッサ部60は、端末装置30i(1≦i≦N)から入力された検索条件に応じて、事例共有データベース部72に格納されている複数の事例データのうち、「重要レベル」の分類フラグが設定されている事例データを検索結果として取得する。これにより、その会員には、「重要レベル」に分類されているすべての事例データが公開される。あるいは、会員の種別に応じてその会員に公開される事例データを制限するようにしてもよい。例えば、「重要レベル」に分類されている事例データを「初級会員」である会員が検索を希望する場合には、「重要レベル」に分類されている事例データのうち、「初級会員」向けに分類されている事例データのみをその会員に公開するようにしてもよい。このことは、例えば、プロセッサ部60が会員データベース71に格納されている会員の種別(この例では、「初級会員」)を参照して、事例共有データベース部72に格納されている複数の事例データのうち、「重要レベル」の分類フラグが設定されており、かつ、「初級会員」向けの分類フラグが設定されている事例データを検索結果として取得することによって達成される。
【0069】
ステップS430:プロセッサ部60は、検索条件が入力された端末装置30i(1≦i≦N)の表示手段32に検索結果を表示させる。
【0070】
このように、端末装置30i(1≦i≦N)は、検索条件を入力するための入力手段31と、情報を表示するための表示手段32とを含み、プロセッサ部60は、端末装置30i(1≦i≦N)から入力された検索条件に応じて事例共有データベース部72を検索することにより、検索条件に関連付けられた事例が端末装置30i(1≦i≦N)の表示手段32に表示されることを可能にするように構成されている。
【0071】
4.事例共有のための材料の共通化
一般的に、ある歯科疾患に対する治療のための方法や機械、材料は多数存在し、歯科医が自身の好みによって各々が独立して選択している現状である。しかしながら、本発明の事例共有システムにおいて共有される事例は、共通の機械および/または材料を使用して治療した結果であることが好ましい。機械や材料を事例によって概ね共通させておくことによって、事例ごとの治療効果の差異の原因が特定しやすく、本発明の最終的な目的である治療技術の向上のためにより効果的だからである。当業者には理解され得るように、使用する機械や材料が変動すると、結果の差異を生じさせた原因について多くの可能性が存在し、結局原因の特定に至らないことがあり得る。
【0072】
歯周病は、ポルフィロモナス・ジンジバリス等の歯周病菌により引き起こされる歯周組織の疾患である。歯周病菌はプラークを形成し、その後カルシウムやリン酸が沈着して石灰化して硬くなり、歯石と言われる物質に変化する。これは歯の表面に強固に付着し、通常ブラッシングだけでは取り除くことができない。この歯石の中や周りにさらに歯周病菌が蓄積し、歯周病を進行させる毒素を出して歯周組織に炎症を引き起こす。やがては歯を支えている骨が溶解し、最終的には歯の喪失が引き起こされる。
【0073】
歯周病の治療のためには、プラークを完全に取り除いて歯周病菌を除去することと、損傷した歯肉および骨を再生して健常な状態に戻すこととが必要である。本発明の事例共有のための事例は、以下の治療によって得られた結果であることが好ましい。
【0074】
(1)プラークの除去
プラーク(およびそれが硬くなった歯石)は、歯周病菌の集合体であり、バイオフィルムであると考えられている。プラークの除去のためには非外科的かつ機械的に除去するスケーリングおよびルートプレーニング(SRP))が標準治療であるが、それに抗菌薬を組み合わせることが多い。この抗菌薬としては、クロルヘキシジン、アジスロマイシン、メトロニダゾール、ドキシサイクリン、ミノサイクリンおよびテトラサイクリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特にクロルヘキシジンが現在では代表的である。
【0075】
本発明の事例においては、プラーク除去促進剤が使用され得る。プラーク除去促進剤は、プラーク除去を促進する任意の薬剤を指し、例えばプラーク内の歯周病菌の増殖阻害や殺菌作用を有する薬剤や、バイオフィルムに作用してプラークの強度を下げる薬剤などを包含する。好ましい実施形態においては、本発明において共有される事例においては、プラーク除去促進剤として次亜塩素酸ナトリウムを使用し得る。次亜塩素酸ナトリウムは特にグラム陰性菌の増殖阻害に有効であることが知られており、そしてバイオフィルムのマトリックスに作用することが示唆されている(K.Jurszyk et al.,Clinical Oral Investigations 20(8),January 2016:In-vitro activity of sodium-hypochlorite gel on bacteria associated with periodontitis)。次亜塩素酸ナトリウムによってプラークおよび歯石を構成しているバイオフィルムのマトリックスを変化させて柔らかくし、電気メスでプラークや歯石を破壊することによって、プラークの除去が達成され得る。ここで使用される電気メスとしては、上述のSutter Medizintechnik GmbH社のCURIS(登録商標)が挙げられるが、これに限定されない。
【0076】
本発明の事例におけるプラーク除去のためには、次亜塩素酸ナトリウムと活性化剤とを組み合わせたものを使用してもよい。この活性化剤は、アミノ酸を含むものであり得、このアミノ酸は、グルタミン酸、ロイシン、リジンを含み得るがこれらに限定されない。次亜塩素酸ナトリウムと活性化剤との組み合わせはゲル状で提供されることもあり、例えばスイスのRegedent AG社は、商品名Perisolvとして、次亜塩素酸ナトリウム、グルタミン酸、ロイシン、リジン、カルボキシメチルセルロースを含む次亜塩素酸ナトリウムゲルを提供している。
【0077】
(2)歯肉および骨の再生
骨再生誘導のために、骨移植材が使用され得る。好ましい1つの実施形態においては、本発明の事例における骨の再生のためには、骨マトリックス(例えばブタ由来、ウシ由来、ヒト由来など)が使用されてもよい。ブタ骨マトリックスは気孔率が高く、優れた骨再生能を有する。このような骨移植材としては、例えばスイスのRegedent AG社が提供している商品名「THE Graft」が挙げられるが、これに限定されない。THE Graftは、石灰化した天然の骨増生素材であり、タンパク質を除去した豚の網状骨から作られている。豚由来であるため、構造的に人の組織と似ており、自然な相互接続性とともに優れた多孔性を有する。THE Graftは、免疫反応を引き起こす恐れのある有機成分は高効率で除去されながらも、生来の素材構造を維持している素材である。
【0078】
上記のような骨誘導材の適用後に、骨の誘導まで患部を保護するためにメンブレンが使用され得る。本発明の事例において使用されるメンブレンとしては、コラーゲン製や樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)製のメンブレンであり得、このコラーゲンとしては天然のものであっても人工のものであってもよい。コラーゲン製メンブレンとしては、例えばブタ由来の架橋コラーゲン製メンブレンが挙げられる。架橋コラーゲンメンブレンは、天然のメンブレンに比べてコラゲナーゼ耐性が高く、長期間メンブレンによるバリアを維持することができる。このような架橋コラーゲン製メンブレンとしてはRegedent AG社が提供している商品名「OSSIX PLUS」が挙げられるが、これに限定されない。「OSSIX PLUS」は、糖で架橋されたコラーゲンメンブレンであり、約3か月から最長6か月ほど、バリアを維持することができる。また、創傷治癒促進および保護のためにもメンブレンが使用されてもよい。このような創傷治癒促進および保護のためのメンブレンとしては、Regedent AG社が提供している商品名「SMARTBRANE」が挙げられるが、これに限定されない。「SMARTBRANE」はブタ心膜から作製した吸収性コラーゲンメンブレンであり、高い割合で天然コラーゲンマトリックスを保持している。天然コラーゲンマトリックスは、血液凝固に重要な役割を果たし、細胞付着を促進する。膜の再吸収期間は約8~12週間であり得る。
【0079】
本発明の事例においては、歯肉および骨の再生促進のために、上記のような材料と組み合わせて組織再生促進剤も使用され得る。組織再生促進剤としては、ヒアルロン酸も使用され得る。ヒアルロン酸はヒトに天然に存在する細胞外基質の主成分であり、再生による治癒プロセスにおいてはヒアルロン酸が長く存在することによって治癒が促進されることが示されている。分解遅延のために、ヒアルロン酸は、架橋ヒアルロン酸ゲルとして提供され得る。このようなヒアルロン酸としては、Regedent AG社が提供している「HYADENT BG」が挙げられるが、これに限定されない。「HYADENT BG」は架橋ヒアルロン酸ゲルであり、骨再生材と混合されて使用され得る。
【0080】
上記のような材料に加えて、本発明の事例においては、プラーク除去によって生じた骨と歯肉との間の空間を埋めるための充填剤を使用してもよい。この充填剤としてはコラーゲンが使用され得る。このような充填剤としては、例えば、Regedent AG社が提供している商品名「OSSIX VOLUMAX」が挙げられるが、これに限定されない。「OSSIX VOLUMAX」は、組織再生のためのコラーゲンスキャホールドである。
【0081】
(3)本発明において提供される「治療のための材料」
上記の通り、本発明のシステムにおいては、治療のための材料の情報が格納され得る。この材料の情報は、プラーク除去促進剤、骨再生誘導材、患部を保護するためのメンブレン、組織再生促進剤、および充填剤の1または複数についての情報を含み得る。1つの実施形態において、この材料の情報は、骨再生誘導材、および患部を保護するためのメンブレンの情報を含み得る。好ましい実施形態において、この材料の情報は、プラーク除去促進剤、骨再生誘導材、および患部を保護するためのメンブレンの情報を含み得る。さらに好ましい実施形態において、この材料の情報は、プラーク除去において使用される薬剤、骨再生誘導材、患部を保護するためのメンブレン、および組織再生促進剤の情報を含み得る。さらにより好ましい実施形態において、この材料の情報は、プラーク除去において使用される薬剤、骨再生誘導材、患部を保護するためのメンブレン、組織再生促進剤、および充填剤の情報を含み得る。
【0082】
代表的な実施形態において、それぞれ独立して、プラーク除去促進剤は次亜塩素酸ナトリウムであり得、骨再生誘導材はブタ骨マトリックスであり得、メンブレンはコラーゲンメンブレンであり得、組織再生促進剤はヒアルロン酸であり得、そして充填剤はコラーゲンであり得る。これらの治療のための材料の使用を前提として事例を共有することによって、事例ごとの差異から治療技術の向上につなげやすくなる。なお、これらの治療のための材料の使用を前提として事例を共有する場合、データベースにはその材料の情報が格納され、使用者がそれを参照できる。
【0083】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、インプラント周囲疾患の治療のための事例を共有するサービスを実現するための方法およびコンピュータシステム等を提供するものとして有用である。この方法およびコンピュータシステムは、インプラント周囲疾患の治療法を普及させ、その治療法をさらに改善していくために役立つものである。
【符号の説明】
【0085】
10 コンピュータシステム
20 インターネット
301~30N 端末装置
40 インターフェース部
50 メモリ部
60 プロセッサ部
70 データベース部
71 会員データベース部
72 事例共有データベース部
73 供給データベース部