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  • 特許-ガラス製ワーク表面処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ガラス製ワーク表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/00 20060101AFI20231215BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20231215BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20231215BHJP
   B24C 3/12 20060101ALI20231215BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B24C1/00 C
B24C3/32 Z
B24C11/00 G
B24C11/00 Z
B24C11/00 D
B24C3/12
C03C19/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019215351
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021084184
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】小方 雅淑
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-262432(JP,A)
【文献】特開2005-044920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00
B24C 3/32
B24C 11/00
B24C 3/12
C03C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製ワークの表面に、液体と平均粒子径が0.3~1.0μmで多角形状の砥粒との混合物であるスラリを0.1~0.2Mpaの圧縮空気により噴射して前記ガラス製ワークの表面に対して微小な厚さの表面剥離処理することを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記砥粒は、アルミナ,炭化ケイ素,シリカ及びダイヤモンドパウダーのいずれか一つ若しくは複数を混合したものであることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記スラリは、前記ガラス製ワークに対設され該ガラス製ワークの面方向に該ガラス製ワークに対して相対移動するスラリ噴射部から噴射される構成であり、前記ガラス製ワークに対する前記スラリ噴射部の相対移動速度は50~100mm/sに設定されていることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記液体は水であることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製ワーク表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークの表面に形成された薄膜の除去方法としては、薬品を使用して溶解除去する方法が一般的であるが、この薬品を使用しての溶解処理は、薄膜の材質に応じた薬品を使い分けなければならず且つ薬品が高価なため、非常に処理速度が遅くコスト高であり(中には毒性の極めて高い危険な薬品を使用しなければならない場合がある。)、その他にも、使用済みの薬品の処理が厄介であるなどの種々の問題点が生じている。
【0003】
そこで、本出願人は、この薬品を使用しての溶解処理を有する問題点を解消すべく、特開2005-103716号に開示されるウエットブラスト処理装置を利用したワーク表面処理方法(以下、従来法という。)を提案している。
【0004】
この従来法は、ワークの表面に液体と水との混合物であるスラリを噴射することによりワークの表面に形成された薄膜を除去する方法であり、この従来法であれば、薬品を使用せずとも薄膜を除去することができ、前述した薬品を使用しての溶解処理に比して有効な処理方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-103716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、表面処理を行うワークがガラス製のワークであった場合、ガラス表面に形成された薄膜は除去し得るものの、ガラス表面も処理されることにより透明度が低下する所謂曇りが生じる場合があることを確認した。
【0007】
本出願人は、上述した問題点に着目し、種々の実験・研究を重ねた結果、従来にない非常に実用的なガラス製ワーク表面処理方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
ガラス製ワーク1の表面に、液体2と平均粒子径が0.3~1.0μmで多角形状の砥粒3との混合物であるスラリ4を0.1~0.2Mpaの圧縮空気により噴射して前記ガラス製ワーク1の表面に対して微小な厚さの表面剥離処理することを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法に係るものである。
【0010】
また、請求項1記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記砥粒3は、アルミナ,炭化ケイ素,シリカ及びダイヤモンドパウダーのいずれか一つ若しくは複数を混合したものであることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法に係るものである。
【0011】
また、請求項1,2いずれか1項に記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記スラリ4は、前記ガラス製ワーク1に対設され該ガラス製ワーク1の面方向に該ガラス製ワーク1に対して相対移動するスラリ噴射部10から噴射される構成であり、前記ガラス製ワーク1に対する前記スラリ噴射部10の相対移動速度は50~100mm/sに設定されていることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法に係るものである。
【0012】
また、請求項1~3いずれか1項に記載のガラス製ワーク表面処理方法において、前記液体は水であることを特徴とするガラス製ワーク表面処理方法に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述のように構成したから、良好なガラス製ワークの表面処理が行えることになるなど、従来にない非常に実用的なガラス製ワーク表面処理方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施例に係るワーク表面処理装置の概略説明図である。
図2】本実施例に係るワーク表面処理装置の概略動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0016】
本発明は、ガラス製ワーク1の表面に、液体2と平均粒子径が0.3~1.0μmで多角形状の砥粒3との混合物であるスラリ4を0.1~0.2Mpaの圧縮空気により噴射して当該ガラス製ワーク1の表面を処理する。
【0017】
また、砥粒3が液体2により運ばれる為、周囲の空気による抵抗を受けにくく(減速しにくく)、平均粒子径が0.3~1.0μmという微粒子であってもガラス製ワーク1の表面に形成された薄膜に勢い良く衝突して十分該薄膜を除去することができ、しかも、ガラス製ワーク1表面の微小な厚さの表面剥離処理をすることができる為、ガラス製ワーク1の表面処理後、透明度が低下する所謂曇りが生じることがない。
【実施例
【0018】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施例は、ガラス製ワーク1の表面に、液体2と砥粒3との混合物であるスラリ4を噴射して該ガラス製ワーク1の表面を処理する方法であり、後述するワーク表面処理装置を使用して行われる。尚、液体2は水を採用するが、水以外でも環境問題が生じない液体であれば水でなくても良い。
【0020】
具体的には、このワーク表面処理装置は、図1に図示したようにワーク搬送機能を具備した処理本体6の下方位置に配設されるスラリ貯溜部7と、このスラリ貯溜部7からポンプ装置8を介して処理本体6内へスラリ4を搬送するスラリ搬送部9と、処理本体6内に配設され、スラリ搬送部9で搬送されたスラリ4を噴射するスラリ噴射部10とで構成されており、このスラリ噴射部10から噴射されたスラリ4が処理本体6の下方開口部6aからスラリ貯溜部7へ排出されて再利用される構成である。
【0021】
スラリ貯溜部7は、所定量のスラリ4を貯溜することができ、この内部に貯留されるスラリ4を常時撹拌するスラリ撹拌機能が設けられている。
【0022】
スラリ噴射部10は、ガラス製ワーク1に対設され該ガラス製ワーク1の面方向に該ガラス製ワーク1に対して相対移動する構成であり、具体的には、図2に図示したようにガラス製ワーク1の進行方向(図2中矢印a方向)に対して直交する方向(図1,2中矢印b方向)に移動自在に設けられるスラリ噴射本体10Aと、このスラリ噴射本体10Aから下方へ向けて突設されるノズル体10Bとで構成されている。
【0023】
スラリ噴射本体10Aは、その側面部に前述したスラリ搬送部9が接続されるとともに、上面部に別回路で設けられる圧縮空気搬送部11が接続されており、スラリ搬送部9から供給されるスラリ4を圧縮空気搬送部11から供給される圧縮空気により加速して、ノズル体10Bから噴射させるように構成されている。
【0024】
本実施例では、ガラス製ワーク1に対するスラリ噴射部10の相対移動速度は50~100mm/sに設定されている。
【0025】
ノズル体10Bは、ノズル開口部が方形状となる巾広ガンタイプに構成されており、このノズル開口部は、ガラス製ワーク1の巾と同一若しくはそれ以上の巾となるように設定されており、よって、スラリ4はガラス製ワーク1の巾と同一若しくはそれ以上の巾でガラス製ワーク1に噴射されることになる。
【0026】
また、本実施例で使用するスラリ4は、液体2と微粒子砥粒3との混合物である。
【0027】
具体的には、液体2としては水が採用されており、この液体2には砥粒3の塊化を阻止する適宜な部材を混合すると良い。
【0028】
具体的には、例えば液体2と混合する砥粒3として径の小さな砥粒3を採用した場合(砥粒3が微細になればなる程)、砥粒3同士が付着して塊化することで安定した砥粒3の噴射が達成されないなど不具合が生じる可能性が懸念されるが、この点、塊化を阻止する適宜な部材が混合されていることで砥粒3同士は可及的に塊化しない為、この径の小さな砥粒3を均一に安定して噴射させることができることになり、よって、径の小さな砥粒3を採用し得ることになったことに加え、この径の小さな砥粒3を使用することによるメリットを最大限に発揮させることが可能となり、極めて良好なガラス製ワーク1の表面処理が行われることになる。
【0029】
また、砥粒3としては、平均粒子径が1.0~0.3μmで多角形状のアルミナ,炭化ケイ素,シリカ及びダイヤモンドパウダーのいずれか一つ若しくは複数混合したものが採用される。
【0030】
尚、本明細書で言う砥粒3の平均粒子径は、モード径(分布中最も出現頻度の高い粒子径)で定義され、粒子にレーザー光を照射して計測する計測法を用いてその数値を得ている。
【0031】
以上の構成からなるワーク表面処理装置を使用して以下の試験を行った。
【0032】
50mm正方形のガラス板の表面に、イオンプレーティング法によりクロムの層(クロム薄膜0.1μm)を形成し、その上に金の層(金薄膜0.1μm)を形成し、金薄膜の上面の2/3の領域にマスキングテープを貼った試験片を用意し、この試験片に対して以下のような砥粒3の大きさが異なる2つの加工条件1,2でウエットブラスト処理を行った。
【0033】
<加工条件1>
砥粒・・・アルミナ♯30000(平均粒子径0.3μm)
ノズル巾・・・90mm
エアー圧力・・・0.2MPa
ノズル移動速度・・・50mm/s
噴射距離・・・100mm
【0034】
スラリ4を噴射しながらスラリ噴射部10(ノズル体10B)を試験片の一端部から他端部まで通過させ、これを1回の処理とし、複数回処理を行うと、徐々にマスキングされていない領域P1の金薄膜が除去されてクロム薄膜が露出し、50回程度処理したところで金薄膜が完全に除去された。
【0035】
次に、マスキングテープの領域を1/3に減らし、同じ条件(加工条件1)で処理を続けると、徐々にこのマスキングテープを減らした領域P2の金薄膜が除去されてクロム薄膜が露出すると共に、徐々に領域P1のクロム薄膜が除去されてガラス表面が露出し、50回程度処理したところで領域P2の金薄膜及び領域P1のクロム薄膜が完全に除去された。
【0036】
<加工条件2>
砥粒・・・アルミナ♯10000(平均粒子径1.0μm)
ノズル巾・・・90mm
エアー圧力・・・0.2MPa
ノズル移動速度・・・50mm/s
噴射距離・・・100mm
【0037】
スラリ4を噴射しながらスラリ噴射部10(ノズル体10B)を試験片の一端部から他端部まで通過させ、これを1回の処理とし、複数回処理を行うと、徐々にマスキングされていない領域P1の金薄膜が除去されてクロム薄膜が露出し、20回程度処理したところで金薄膜が完全に除去された。
【0038】
次に、マスキングテープの領域を1/3に減らし、同じ条件(加工条件1)で処理を続けると、徐々にこのマスキングテープを減らした領域P2の金薄膜が除去されてクロム薄膜が露出すると共に、徐々に領域P1のクロム薄膜が除去されてガラス表面が露出し、20回程度処理したところで領域P2の金薄膜及び領域P1のクロム薄膜が完全に除去された。
【0039】
以上の試験における加工条件1及び加工条件2のいずれもガラスの表面は曇りを生じていなかった。
【0040】
脆性材料であるガラスは、処理時の削り量が小さくなると、ある削り量を境界に脆性破壊ではなく金属のような延性破壊となるが、この延性破壊を生じる削り量はほぼ0.1μm程度と言われ(これを、延性-脆性遷移点(dc値)と言う)、今回試験に用いた砥粒3の最大粒子径を1μmとして、その削り量を粒子径の1/50としても0.02μmとなり、この値(0.1μm)を十分下回っている。
【0041】
つまり、上記の加工条件1.2において0.1μm(100nm)という微小な厚さの表面剥離処理が可能であることが分かった(同様な処理を機械加工で実現するには高剛性・高精度な超精密加工機が必要となる)。
【0042】
ただし、加工条件2(平均粒子径1.0μmの砥粒3)だと、試験片の裏側から光を当てた場合に、領域P2のクロム薄膜に光が通過している部分が見て取れ、若干の処理ムラが生じていることが分かった。
【0043】
このことから、砥粒3の大きさは平均粒子径0.3μmが良好な処理が行われるベストな数値と考えられる(砥粒3の大きさが平均粒子径0.3μmよりも小さいと削り量が少なくなり、処理能力を考慮すると現実的でない。)。
【0044】
また、圧縮空気の噴射圧力0.1~0.2Mpaについては、0.1Mpaよりも弱いと加工回数が多くなってしまい、一方、0.2Mpaよりも強いと削り力が強くなってしまい処理制御が行い難くなる。また、この処理制御については、スラリ噴射部10におけるガラス製ワーク1に対する相対移動速度を50~100mm/sに設定する要因にもなる。
【0045】
以上から、ガラス製ワーク1の表面処理において、液体2と平均粒子径が1.0~0.3μmで多角形状の砥粒3との混合物であるスラリ4を噴射圧力0.1~0.2Mpaの圧縮空気により噴射し、このスラリ4を噴射するスラリ噴射部10におけるガラス製ワーク1に対する相対移動速度は50~100mm/sに設定される。
【0046】
本実施例は上述のように構成したから、良好なガラス製ワーク1の表面処理が行えることになる(ガラス製ワーク1表面の微小な厚さの表面剥離処理をすることができる)。
【0047】
また、本実施例では、スラリ4はガラス製ワーク1の巾と同一若しくはそれ以上の巾でガラス製ワーク1に噴射されるから、均一な処理面が得られる。
【0048】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0049】
1 ガラス製ワーク
2 液体
3 砥粒
4 スラリ
10 スラリ噴射部
図1
図2