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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】磁性壁材シート
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/30 20060101AFI20231215BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20231215BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20231215BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20231215BHJP
【FI】
E04F13/30
E04F13/07 C
E04F13/07 E
E04F13/08 A
E04F13/08 G
B32B7/025
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020095341
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021188386
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】長澤 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
【審査官】小林 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083328(JP,A)
【文献】特開2014-168926(JP,A)
【文献】特開2011-198813(JP,A)
【文献】特開2018-036606(JP,A)
【文献】特開2016-190466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00 - 13/30
B32B 7/025
C09D 7/42
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
力性を有する磁性シートと、磁性シートの表側面に設けられた第1表装層と、磁性シートの裏側面に設けられた第2表装層とを備え、壁面となる第1表装層及び第2表装層の表面がそれぞれ4H以上の鉛筆硬度であり、磁性ボードに対し磁力により着脱自在とされた磁性壁材シートであって、
第1表装層は、片面に第1インキ層を有する第1壁材フィルムと、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な第1コートフィルム第1壁材フィルムの第1インキ層を第1コートフィルムに対面させて、この順で磁性シートの表側面にそれぞれ接着剤を介して積層させた積層体からなり、
第2表装層は、片面に第2インキ層を有する第2壁材フィルムと、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な第2コートフィルム第2壁材フィルムの第2インキ層を第2コートフィルムに対面させて、この順で磁性シートの裏側面にそれぞれ接着剤を介して積層させた積層体からなり、
第1コートフィルム単体及び第2コートフィルム単体における磁性シートと非対向面側になる表面の鉛筆硬度がそれぞれ上記積層体での第1コートフィルム及び第2コートフィルムの表面の鉛筆硬度未満とされ、
第1コートフィルム単体及び第2コートフィルム単体における磁性シートと非対向面側になる表面の鉛筆硬度が、それぞれ壁面となる第1コートフィルム及び第2コートフィルムの表面の鉛筆硬度未満でありながら、第1コートフィルム及び第2コートフィルムをそれぞれ磁性シートの表裏各面に積層させることにより、弾力性を有する磁性シートが第1コートフィルム及び第2コートフィルムのクッションになることで、壁面となる第1コートフィルム及び第2コートフィルムの表面の鉛筆硬度がそれぞれ4H以上になることを特徴とする磁性壁材シート。
【請求項2】
第1コートフィルム及び第2コートフィルムは、それぞれ透光性を有したベースフィルムと、透光性を有したハードマット層との積層体とされ、ハードマット層は、透明樹脂材に光散乱用の多数の微粒子を含有させた構成とされる請求項1に記載の磁性壁材シート。
【請求項3】
磁性壁材シートにおける磁性シートとその表側の第1壁材フィルム及び裏側の第2壁材フィルムとの間にそれぞれ不燃性の金属箔を介在させた構成とされる請求項1または請求項2に記載の磁性壁材シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性壁材シートに関する。より詳しくは、建造物の室内壁面に好適な磁性壁材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品を磁力によって壁面上に吸着保持できる室内磁性壁が人気をよんでいる。このような磁性壁は、例えば、マグネットシートに表装材を積層した磁性壁面材(磁性壁材シート)を、壁下地である鋼板に貼着させることで実現できる。下記特許文献1の図2,6には、表装材を積層した磁性壁面材が開示されている。
【0003】
【文献】特開2005-290707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、室内用の磁性壁の壁面には、いくつかの条件が求められる。例えば傷のつきにくい耐擦傷性、汚れを容易に消去できる消去性、部屋に開放感や落ち着きを与える低光沢性などであるが、これらの要件を同時に満たすことは難しかった。
【0005】
例えば、耐擦傷性を良くするために表面硬度を高めると、反射率が増大して低光沢性が損なわれる。すなわち、光の照り返しによる不快感や、ぎらつき等による意匠性低下が生じる。そこで光の反射を抑制するために、壁表面にエンボス加工を施すことが考えられるが、エンボス加工を施した場合、表面の微細凹部に汚れが残存しやすく、消去性に劣るといった問題がでてくる。
【0006】
また、長期間にわたり同じ表装模様が続くと飽きがきてしまう。磁性壁材シートは一般にDIY感覚で張り替えができるため、異なる装飾パターンの磁性壁材シートを購入してくれば容易に変更できるが、これまで使用していた磁性壁材シートの保管や廃棄などの手間や、購入コストがかかり不利である。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、耐擦傷性、消去性、低光沢性に優れるとともに、異なる装飾模様への変更を、少ない手間と低コストで実現できる磁性壁材シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。
なお、本欄(「課題を解決するための手段」の欄)において各構成手段に付した括弧書きの符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すための参考用のものであり、本発明の構成手段をこれに限定するものではない。
【0009】
本発明の一の態様は、磁性ボード(70)に対し磁力により着脱自在とされた磁性壁シート(1,2,3,4)であって、磁性シート(20)と、磁性シート(20)の表側面に設けられた第1表装層と、磁性シート(20)の裏側面に設けられた第2表装層とを備え、第1表装層は、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な第1表面コート層(40)と、磁性シート(20)と第1表面コート層(40)との間に設けられた第1装飾層(32a)とを備え、第2表装層は、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な第2表面コート層(40)と、磁性シート(20)と第2表面コート層(40)との間に設けられた第2装飾層(32b)とを備え、壁面(11,11)となる第1表面コート層(40)及び第2表面コート層(40)の表面がそれぞれ4H以上の鉛筆硬度とされたことを特徴とする。
ここで、第1表装層と第2表装層は、磁性シート(20)の表側と裏側とにそれぞれ対象的に設けられており、構成要素自体に違いがないものについては同一符号としている。
【0010】
本態様によると、第1及び第2表面コート層(40,40)は硬質化機能を備え、壁面(11,11)となる第1及び第2表面コート層(40,40)の表面がそれぞれ4H以上の鉛筆硬度とされるため、耐擦傷性および消去性を向上できる。さらに第1及び第2表面コート層(40,40)は、透明であり且つマット化機能を備えるため、その透明な層を通して見える装飾層(32a,32b)の低光沢性が確保され、艶消し調の落ち着きのある壁面とすることができる。
また、両面で互いに異なる絵柄や模様の第1装飾層(32a)と第2装飾層(32b)とした場合に、2種類の装飾模様を選択可能になり、磁性壁シート(1,2,3,4)を磁性ボード(70)上で裏返すことにより、希望の装飾層を室内空間側に面するようにして使用することができる。磁性壁材シートとしては1枚ものなので、異なる装飾模様への変更を、少ない手間と低コストで実現できる。
【0011】
本発明の他の態様では、片面に第1装飾層(32a)を有する第1壁材層(30a)と、片面に第2装飾層(32b)を有する第2壁材層(30b)とを備え、第1壁材層(30a)は磁性シート(20)と第1表面コート層(40)との間に、第1装飾層(32a)を第1表面コート層(40a)に対面させて設けられ、第2壁材層(30b)は磁性シート(20)と第2表面コート層(40)との間に、第2装飾層(32b)を第2表面コート層(40)に対面させて設けられる。
【0012】
本態様によると、片面に第1装飾層(32a)または第2装飾層(32b)を有する既存の第1壁材層(30a)または第2壁材層(30b)を採用することができるため、製作コストが抑えられる。
【0013】
本発明の他の態様では、第1表面コート層(40)及び第2表面コート層(40)は、それぞれ透光性を有したベースフィルム(41,41)と、透光性を有したハードマット層(42,42)との積層体とされ、ハードマット層(42,42)は、透明樹脂材(421,421)に光散乱用の多数の微粒子(422,422)を含有させた構成とされる。
【0014】
本態様によると、光散乱用の多数の微粒子(422)がその表面で乱反射を起こし、艶消し機能(マット化機能)を生じさせるものであるため、壁面(11)における平坦度を高めることができ、消去性能を向上できる。
【0015】
本発明の他の態様では、第1表面コート層(40)及び第2表面コート層(40)の単体における磁性シート(20)と非対向面側になる表面の鉛筆硬度が4H未満とされる。
【0016】
本態様によると、単体での鉛筆硬度の低い表面コート層(40,40)であっても、磁性シート(20)に積層することで、最上層である壁面(11,11)となる面の硬度を高めることができ、壁面(11,11)の耐擦傷性が確保される。
【0017】
本発明の他の態様では、磁性壁材シート(2)における磁性シート(20)とその表側の第1壁材層(30a)及び裏側の第2壁材層(30b)との間にそれぞれ不燃性の金属箔(60)を介在させた構成とされる。
【0018】
本態様によると、磁性シート(20)が不燃性の金属箔(60)により被覆される形となるので、火災時に熱気と火炎が、磁性シート(20)の側に達するのを遮断し、磁性壁材シートの全体としての防耐燃性の効果を高めることができる。磁性シート(20)の両面に装飾層がある磁性壁材シートでは、必然的に総厚が増し、防耐燃性の観点から不利になるが、本態様はそれを改善できることから極めて有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、耐擦傷性、消去性、低光沢性に優れるとともに、異なる装飾模様への変更を、少ない手間と低コストで実現できる磁性壁材シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る磁性壁材シートの断面図である。
図2】本発明に係る磁性壁材シートの一部分解断面図である。
図3】コートフィルムをより詳しく示す断面図である。
図4】本発明に係る磁性壁材シートを備えた磁性壁の斜視図である。
図5】磁性壁の一部分解斜視図である。
図6】本発明に係る第2実施形態の磁性壁材シートの断面図である。
図7】本発明に係る第2実施形態の磁性壁パネルの一部分解断面図である。
図8】本発明に係る第3実施形態の磁性壁材シートの断面図である。
図9】本発明に係る第3実施形態の磁性壁パネルの断面図である。
図10】本発明に係る第4実施形態の磁性壁材シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
図1は本発明に係る磁性壁材シート1の断面図、図2は本発明に係る磁性壁材シート1の一部分解断面図、図3はコートフィルム40をより詳しく示す断面図である。図1,2および後述の各図において、磁性壁材シート1の各構成要素は、図示の便宜上のため横方向に短い形で示されているが、実際は長尺のものである。
【0022】
磁性壁材シート1は、スチール箔等の軟磁性層を備えた軟磁性ボード70(後述の図4,5参照)に対して、磁力により着脱自在とされた壁面シートであり、図1,2に示すように、マグネットシート20と、マグネットシート20の表裏各面に設けられた壁材フィルム30a,30bとコートフィルム40とを備える。
【0023】
マグネットシート20は、可撓性シート状の磁石体であり、その表裏各面は、N極とS極とが交互に縞状に着磁され、一定ピッチの着磁ラインを有する両面多極着磁型となっている。両面多極着磁型としたのは、表裏両面とも相応な磁気吸着力を要するからである。すなわちマグネットシート20の一方の面は、室内空間側に面して、強磁性体(磁石としての性質を有するものと有さないもののいずれでもよい)を装着した表示片或いは棚等の物品などを磁力によって吸着保持するための磁着面として機能し、他方の面は、後述の軟磁性ボード70における軟磁性層72への磁着面として機能し、いずれの面も両機能を兼ね備えるからである。
【0024】
このような可撓性シート状の磁石体は、硬磁性材料(例えばバリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁石材料又はサマリウム・コバルト系磁石、ネオジウム・鉄・ホウ素系磁石等、希土類磁石材料)の微粉末と、粘結材となる少量の有機高分子エラストマー(例えば塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニール共重合体、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム)との混合体を、圧延または押出しなどの成形方式によりシート状に成形し、両面に着磁を施して製作される。なお、マグネットシート20の着磁ピッチは1.0mm以上7.0mm以下であることが好ましい。
【0025】
壁材フィルム30a,30bは、マグネットシート20の表側と裏側の各面にそれぞれ接着剤Gを介して直接に貼着されたフィルム状の装飾壁面材であり、それぞれベースフィルム31の上面に絵柄や模様が印刷されたインキ層32a,32bを備える。壁材フィルム30aと壁材フィルム30bとでは表面の装飾模様は異なっている。すなわちインキ層32a,32bは、互いに異なるものである。
ベースフィルム31としては、表面にインキ受理層を形成したポリ塩化ビニール系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、または薄いコート紙などを使用することができる。このインキ受理層に用途に応じた印刷によりインクを定着させる。印刷方式には、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを挙げることができる。磁性壁材シート1における壁材フィルム30a,30bは、マグネットシート20の表側と裏側とでインキ受理層に定着した模様が異なることを除いて、基本的構成は同じであり、両者を区別する必要のない説明では壁材フィルム30と単に記す。このような構成の壁材フィルム30は既に生産もされている。
【0026】
コートフィルム40は、被積層対象となる壁材フィルム30の表面に硬質化機能とマット化機能を同時に付与するものであり、マグネットシート20の表側と裏側の各面にそれぞれ貼着された壁材フィルム30の表側面(マグネットシート20とは反対側の面)に接着剤Gを介して直接に貼着されたフィルム状のハードマットコート材である。その構成は、透光性を有したベースフィルム41の上に、同じく透光性を有したハードマット層42を積層したものとされる。
ベースフィルム41としては、表面に易接着処理を施したポリエチレン系樹脂等の透明な熱可塑性樹脂を主材料とすることができる。
ハードマット層42は、図3に示すように、アクリル系樹脂材421と、そこに内包された多数のアクリル系の微粒子422とからなる。
【0027】
コートフィルム40は、マグネットシート20の表側と裏側とで同じ構成であり、単体ではそれぞれハードマット層42の表面硬度が鉛筆硬度にして2Hとなっている。
【0028】
ここでいう鉛筆硬度とは、例えばJIS K5600-5-4:1999で規定される鉛筆硬度試験(引っ掻き試験)で測定したときの硬度のことである。この試験は、鉛筆に一定荷重を加えるとともに、その芯の移動速度を1mm/秒とした状態で行うものとする。鉛筆硬度は、鉛筆硬度試験において被試験体の表面に傷が付かなかった最も高い硬度とする。なお、鉛筆硬度の測定の際には、硬度が異なる鉛筆を複数本用いて行うが、鉛筆1本につき5回試験を行い、5回のうち4回以上被試験体の表面にスクラッチなどの外見異常が目視されない場合に、その試験時に使用した鉛筆の硬度を鉛筆硬度とする。例えば、3Hの鉛筆を使用して5回の試験操作を行い、4回以上外見異常が生じなかった場合、当該被試験体の鉛筆硬度は少なくとも3Hである。
【0029】
磁性壁材シート1は、以上の各シート状物を接着剤Gにより接合した積層体であり、例えば、複数台の巻出機、接着剤塗布用のグラビアコータ、乾燥炉、加熱ニップロール、冷却ロールおよび巻取機などを備えたロールトゥーロール方式のドライラミネータを使用して製作される。
【0030】
以上のような磁性壁材シート1は、表側と裏側の両面に壁面を備えた、室内用の磁性壁の壁材シートとして使用され、その具体例を、図4,5を参照して説明する。
図4は本発明に係る磁性壁材シート1を備えた磁性壁100の斜視図、図5は磁性壁100の一部分解斜視図である。
図4,5に示すように、磁性壁100は、壁下地80と軟磁性ボード70と磁性壁材シート1を備える。
【0031】
軟磁性ボード70は、石膏ボード71と、石膏ボード71の片面に積層された軟磁性層72とを備える。なお、上記した軟磁性層付きの石膏ボード71に代えて、鋼板、あるいは鋼板に表装シートや機能性シートをラミネートしたボードを用いてもよい。軟磁性ボード70は、その軟磁性層72を表側、すなわち室内空間に向けた状態で、合板、コンクリート、または軽金属などを基材とした壁下地80に対し、釘、ビス、接着剤、ステープルなどで留付け固定される。このような軟磁性ボード70の具体例として、吉野石膏株式会社製のタイガーFeボード(登録商標)を挙げることができる。
【0032】
磁性壁材シート1は、壁面積に応じた適当なサイズに複数枚切断される。そして、磁性壁材シート1における裏側の壁面11を、軟磁性ボード70の軟磁性層72の表面に磁気吸着させることで固定する。これによって、磁性壁材シート1の表側の壁面11は、磁気吸着できる磁性壁として機能する。すなわち、表面に意匠が施されるとともに、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品などを磁力により吸着保持できる。
【0033】
次に、この磁性壁100における磁性壁材シート1の備える優利点について説明する。
磁性壁材シート1は、表側と裏側の両方についてのトップ層として、アクリル系樹脂材421にアクリル系の微粒子422を内包したコートフィルム40を設けたことにより、入射光がアクリル系の微粒子422の表面で乱反射拡散を起こすようにしている。これにより、すぐ下層に存在する壁材フィルム30における絵柄や模様の下地、つまりインキ層32が艶消し状態となって見えるようになり、表側と裏側の両方について壁面11では、光の照り返しによる不快感や、ぎらつき等による意匠性の低下が防止される。また、壁面11をプロジェクタの映写面として使用した場合、映写光が局所的に明るくなるホットスポットの発生を抑制することができ、視線角度によらない見やすい像を映し出すことができるようになる。
【0034】
上述した微粒子422の表面で乱反射拡散を起こさせるという本方式は、壁面にエンボス加工を施すものとは異なり、壁面11における平坦度を高めることができ消去性にも優れる。
【0035】
ところで、このハードマット層42は単体では鉛筆硬度が2Hであるが、下層にマグネットシート20が配置される積層構造とすることで、6Hという、出願人の予想を遙かに超えた大幅な鉛筆硬度の向上を達成した。その物理的理由については現段階では明確になっていないが、下層に配置された弾力性のあるマグネットシート20がクッションになることにより、壁面11での鉛筆の滑りが悪くなり、硬さが増すのではないかということが考えられる。この硬度により、壁面11の耐擦傷性および消去性がより一層確保される。なお、鉛筆硬度が4H以上であれば、耐擦傷性および消去性の観点からかなり有効である。
【0036】
消去性が良いことから、壁面11には、ホワイトボード用マーカー等の筆記具での書込み消去が自在となる。このため、プロジェクタの映写面として使用した場合、映像とともに書込み可能な壁面とすることができる。また、子供部屋に設置した場合に効を奏する。例えば、磁性壁100の壁面11上に落書き用のホワイトボードを磁着させたときに、子供の習性としてボード面からはみ出して壁面にまで描いてしまうことが多いが、このようにボード面からはみ出して描いてしまった場合でも、壁面11上のインクを容易に消去することができる。
【0037】
このように、磁性壁材シート1は、壁面11に傷のつきにくい耐擦傷性、汚れを容易に消去できる消去性、および、低光沢性の要件を同時に兼ね備えている。また、磁性壁材シート1は、軟磁性ボード70に接着剤なしで磁力により着脱自在に一体化できることから、壁材シートの張り替えにあたり、熟練した技術や特別な専用工具を要さない。つまり、DIY感覚で誰でも容易かつ短時間で壁材シートのリフォーム作業ができる。また、両面で互いに異なる絵柄や模様のインキ層32a,32bが形成されているので、2種類の装飾模様を選択可能になる。すなわち、軟磁性ボード70上で磁性壁材シート1を裏返すことにより、希望の装飾層を室内空間側に面するようにして使用することができる。つまり1枚ものの磁性壁材シートで、異なる装飾模様への変更が、少ない手間と低コストで実現できる。
【0038】
また、磁性壁100では、マグネットシート20の背面に軟磁性ボード70を配置することでバックヨーク効果を生じさせて磁力を高める構成とした。
【0039】
また、着磁ラインが水平方向に平行となるようにマグネットシート20を軟磁性ボード70に磁着させ、壁面11に磁着させる物品として、マグネットシート20と同じ着磁ピッチのマグネットシートを装着したものを用意した場合、物品と壁面11とは、それぞれのマグネットシートにおける縞状の磁極の異極同士が水平状態で磁着しあうようにできる。このとき物品は、着磁ラインに平行な水平方向には、容易にスライドさせることができるが、着磁ラインに直交する鉛直方向には、容易にスライドさせることができない。それ故、物品を水平に固定することが容易に可能になる。
【0040】
また、マグネットシートは勿論、極めて薄い鋼板、具体的には出願人製のスチールペーパー(登録商標)等に印刷した表示物やディスプレイ物を磁力で保持するための壁面として有効である。
【0041】
〔第2実施形態〕
図6は本発明に係る第2実施形態の磁性壁材シート2の断面図、図7は本発明に係る第2実施形態の磁性壁パネル2の一部分解断面図である。
図6,7に示すように、第2実施形態の磁性壁材シート2は、第1実施形態の磁性壁材シート1におけるマグネットシート20とその表側及び裏側の壁材フィルム30との間にそれぞれアルミニウム箔60を介在させた構成とされる。その他の構成については、第1実施形態の磁性壁材シート1と同一であり、同一構成要素については、同一の符号を付しそれらの説明を省略する。
【0042】
第2実施形態の磁性壁材シート2では、第1実施形態の磁性壁材シート1の作用効果に加えて、次の作用効果を奏する。すなわち、マグネットシート20がアルミニウム箔60により被覆される形となるので、火災時に熱気と火炎がマグネットシート20の側に達するのを遮断し、磁性壁材シートの全体としての防耐燃性の効果を高めることができる。なお、アルミニウム箔60に限らず、スチール箔やステンレス箔等の不燃性金属箔を用いてもよい。
【0043】
〔第3実施形態〕
図8は本発明に係る第3実施形態の磁性壁材シート3の断面図、図9は本発明に係る第3実施形態の磁性壁シート3の一部分解断面図である。
図8,9に示すように、第3実施形態の磁性壁材シート3は、第1実施形態の磁性壁材シート1に対してマグネットシート20の表側及び裏側の各壁材フィルム30が除去されている。そしてコートフィルム40におけるベースフィルム41の裏側、すなわちハードマット層42の非積層側の面にインキ層32c,32dを直接形成し、このコートフィルム40をマグネットシート20に接着剤Gを介して直接貼着させてある。
【0044】
第3実施形態の磁性壁材シート3では、第1実施形態の磁性壁材シート1の作用効果に加えて、次の作用効果を奏する。すなわち、磁性壁材シート3では、壁材フィルム30を有さずに選択的にインキ層32c,32dの装飾模様を表示できるため、総厚が薄くなるとともに壁材フィルム30の接着剤層が不要となり、磁性壁材シートの全体としての防耐燃性の効果を高めることができる。また、軽量化や製造コストの低減を図ることができる。
【0045】
〔第4実施形態〕
図10は本発明に係る第4実施形態の磁性壁材シート4の断面図である。
図10に示すように、第4実施形態の磁性壁材シート4は、第1実施形態の磁性壁材シート1におけるマグネットシート20に代えて、本出願人製のアイアンシート(登録商標)50を備えた構成とされる。その他の構成については、第1実施形態の磁性壁材シート1と同一であり、同一構成要素については、同一の符号を付しそれらの説明を省略する。
【0046】
アイアンシート50は、軟磁性材料の微粉末と、粘結材となる少量の有機高分子エラストマーとの混合体を、圧延または押出しなどの成形方式によりシート状に成形したものである。
【0047】
磁性壁材シート4は、上述した磁性壁材シート1と同様に室内用の磁性壁の壁材シートとして使用される。その場合、磁性壁材シート4を備えた磁性壁は、図4に示した磁性壁100に対し、その軟磁性ボード70に代えて硬磁性ボード(不図示)が設けられる。硬磁性ボードは、例えば、石膏ボード71と、石膏ボード71の片面に積層された硬磁性層とを備える。硬磁性層は例えばマグネットシートで構成される。磁性壁材シート4を硬磁性ボードに磁着させることで磁性壁を形成する。
磁性壁材シート4を用いた磁性壁は、磁性壁材シート1を用いた磁性壁と同様に、強磁性体を磁気吸着できる磁性壁として機能するが、壁面11に吸着することができるのは、基本的には永久磁石の性質を有するものに限られる。磁性壁材シート4はマグネットシートを含まないため、物品を容易に水平に固定する機能は有さないが、耐擦傷性、消去性、および、低光沢性、異なる装飾模様への変更が、少ない手間と低コストで実現できることなどの効果は、磁性壁材シート1を用いた磁性壁と同様である。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上に開示した実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【0049】
例えば、図4,5では室内の側壁を示したが、天井壁に適用してもよい。
また、第2,3実施形態の磁性壁材シート2,3についてもそれぞれマグネットシート20に代えてアイアンシート50を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
建造物の室内壁への適用に好適な磁性壁材シートとして幅広く活用できる。
【符号の説明】
【0051】
1,2,3,4 磁性壁材シート
11 壁面
20 マグネットシート(磁性シート)
30a 壁材フィルム(第1壁材層)
30b 壁材フィルム(第2壁材層)
32a インキ層(第1装飾層)
32b インキ層(第2装飾層)
40 コートフィルム(第1表面コート層、第2表面コート層)
41 ベースフィルム
42 ハードマット層
70 軟磁性ボード(磁性ボード)
421 アクリル系樹脂材(透明樹脂材)
422 微粒子

図1
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