(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】虚血性再灌流障害を治療するための酸化特異的エピトープの阻害
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231215BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231215BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20231215BHJP
C07K 16/44 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P9/10
A61P39/06
C07K16/44
(21)【出願番号】P 2020522288
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 US2018057793
(87)【国際公開番号】W WO2019084460
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-19
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツィミカス、ソティリオス
(72)【発明者】
【氏名】ウィツタム、ジョセフ、エル.
(72)【発明者】
【氏名】チュエ、シュチュ
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0376268(US,A1)
【文献】国際公開第2009/019260(WO,A1)
【文献】米国特許第06271199(US,B1)
【文献】Nature Reviews, Immunology, 2016, Vol.16, pp.485-497
【文献】Drug Delivery System, 2015, Vol.30, No.4, pp.276-285
【文献】日本内科学会雑誌, 2011, Vol.100, No.8, pp.2295-2301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性事象後の被験者における再灌流依存性OxPL生成に関連する心筋細胞死の予防に使用するための組成物であって、該組成物は、酸化リン脂質(OxPL)のホスホコリン頭部に特異的に結合する抗体または抗体フラグメントを含み、該抗体または抗体フラグメントは、配列番号:6、7、および
8を含む相補性決定領域(CDR)を含む可変重鎖ドメイン(VH);ならびに配列番号:9または12、10、および1
1を含むCDRを含む可変軽鎖ドメイン(VL)を含み、また該抗体または抗体フラグメントは、前記虚血性事象後72時間以内に投与される、組成物。
【請求項2】
前記虚血性事象が、心血管虚血、心筋梗塞に関連する心筋虚血、およびうっ血性心不全(CHF)に関連する心筋虚血からなる群から選択される状態に関連し、
任意選択で、該虚血性事象は、誘発された損傷の結果であり、
任意選択で、該誘発された損傷は、手術、移植、偶発的な外傷、および機械的支持装置から選択され、
任意選択で、該手術は、心臓手術である、
請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記抗体または抗体フラグメントが、
(a)補体活性化または炎症細胞動員活性を欠き、または
(b)E06抗体と同じまたは実質的に同じ結合親和性を有する、
請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
(a) 投与結果は、虚血性再灌流障害または虚血性事象による炎症の減少をもたらし、または
(b)前記抗体または抗体フラグメントは、虚血を治療するのに有用な1つまたは複数の追加の薬剤とともに投与するためのものであり、任意選択で、該1つまたは複数の追加の薬剤が、再灌流剤、フリーラジカルスカベンジャー剤、スピントラップ剤、神経保護剤、抗凝固剤、抗血小板剤、ニモジピンおよびナロキソンからなる群から選択される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記抗体または抗体フラグメントが血管内投与用である、請求項1から4のいずれか1 項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記抗体フラグメントは、単鎖可変フラグ メント("scFv")を含み、任意選択で、該scFvは、生理的条件下で可溶である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記VLは、配列番号:2で示されるVLアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記VHは、配列番号:2で示されるVHアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記VLは、配列番号:2で示されるVLアミノ酸配列を含み、また前記VHは、配列番号:2で示されるVHアミノ酸配列を含む、請求項
7または
8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記VLは、配列番号:4で示されるVLアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記VHは、配列番号:4で示されるVHアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記VLは、配列番号:4で示されるVLアミノ酸配列を含み、また前記VHは、配列番号:4で示されるVHアミノ酸配列を含む、請求項
10または
11に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記抗体または抗体フラグメントは、配列番号:2または配列番号:4で示される配列と少なくとも95%同一である配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記抗体または抗体フラグメントは、配列番号:2または配列番号:4で示される配列を含む、請求項
13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法第35条119項に基づき、2017年10月26日に出願された仮出願番号62/577,543の優先権を主張する。その開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【連邦政府による資金提供を受けた研究に関する声明】
【0002】
本発明は、国立衛生研究所により授与された認可番号HL086559、HL088093およびHL119828に基づく政府支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本開示は、血栓症、心筋梗塞および/または虚血および再灌流傷害を治療するための方法および組成物を提供する。本法は、抗体または抗体フラグメント、例えば、酸化リン脂質に結合する単鎖可変領域(scFv)、を投与することを含む。
【配列表の参照による組み込み】
【0004】
「Sequence_ST25.txt」と題する配列表が本願に付随している。それは、2018年10月26日に作成され、34,214バイトのデータを持ち、IBM-PC、MS-Windowsオペレーティングシステムでマシンフォーマットされたものである。該配列表は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0005】
冠状動脈疾患は、依然として世界で罹患率および死亡率の主な原因となっている。
【0006】
過去20年間にわたって、急性冠症候群および心筋梗塞(MI)の治療は大きく進歩している。特に、血栓溶解または経皮的介入アプローチを使用し、虚血中に心筋への血流を迅速に回復する能力は、結果の改善をもたらした。しかし、タイムリーな血行再建と現代の医療法にもかかわらず、前部ST上昇MI(STEMI)を呈する患者の4分の1は、死亡するまたは心不全になる可能性がある。責任血管への血流の回復は、逆説的に、再灌流障害と呼ばれる現象である心筋細胞死を誘発する可能性があり、これは最終的な梗塞サイズの最大50%を占め、悪い結果に寄与する可能性がある。徹底的な調査にもかかわらず、虚血再灌流(IR)損傷を減らすための薬理学的試みにはいくつかの失敗があった。現在、効果的な薬理学的治療法はなく、このプロセスをさらに理解することが急務である。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、虚血再灌流(I/R)損傷のエピソード中の臓器機能を改善する可能性を記載している。再灌流のプロセスは、増強された酸化ストレスおよび酸化特異的エピトープ(OSE)の生成を生み出す。これらは、脂質過酸化反応の産物であり、酸化脂質および/または反応性基を介してタンパク質に共有結合した酸化脂質である可能性がある。そのようなOSEの主な例には、酸化リン脂質を含有するホスホコリン(OxPL)および/またはマロンジアルデヒド(MDA)が含まれる。OxPLおよびMDAのタンパク質付加物と同様に、OxPLとMDAの両方が炎症誘発性遺伝子シグナル伝達を直接に開始させることが知られている。OxPLはまた、アポトーシスと細胞死を強力に誘導する。本開示は、OSEおよびOxPLに結合する抗体および抗体フラグメントを用いてI/Rを阻害できることを実証している。本開示において有用な例示的な抗体および抗体フラグメントには、E06およびE06-scFvと呼ばれるE06抗体の抗体フラグメント(scFv)が含まれる。該E06-scFvはOxPLに結合し、これらの炎症促進効果を阻害する。
【0008】
本開示は、虚血性再灌流障害を有するかまたはそのリスクを有する被験者を治療する方法を提供する。該方法は、虚血性事象に罹患するリスクがあるかまたは罹患した被験者に、酸化特異的エピトープ(OSE)に特異的に結合する抗体または抗体フラグメントの治療的有効量を投与することを含む。一実施形態では、OSEは、酸化リン脂質(OxPL)上に存在する。別の実施形態では、該虚血性事象は、脳虚血;腸虚血;脊髄虚血;心血管虚血;心筋梗塞に関連する心筋虚血;CHFに関連する心筋虚血、加齢性黄斑変性症(AME)に関連する虚血;肝虚血;腎臓/腎虚血;皮膚虚血;血管収縮誘発組織虚血;持続勃起症および勃起不全の結果としての陰茎虚血;血栓塞栓症に関連する虚血;微小血管疾患に関連する虚血;血栓症に関連する虚血;糖尿病性潰瘍、壊疽状態、外傷後症候群、心停止蘇生法、低体温症、末梢神経損傷および神経障害に関連する虚血からなる群から選択される状態に関連する。さらに別の実施形態では、該虚血性事象は、誘発された損傷の結果である。さらなる実施形態では、該誘発された損傷は、手術、移植、偶発的外傷および機械的支持装置から選択される。さらに別の実施形態では、該手術は、心臓手術、腎臓手術、脳手術、肝臓手術、およびバイパス手術からなる群から選択される。さらに別の実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、補体活性化または炎症性細胞動員活性を欠く。別の実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、E06抗体と同じまたは実質的に同じ結合親和性を有する。さらに別の実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、酸化リン脂質のホスホコリン頭部に結合する。さらに別の実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、虚血性損傷および/または組織損傷を低減するのに有効な量の可変重鎖(VH)ドメインおよび/または可変軽鎖(VL)ドメインを含み、ここで、(a)該VHドメインは、配列番号:6、および配列番号:6と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列;配列番号:7、および配列番号:7と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列;そして配列番号:8、および配列番号:8と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列からなる群から選択される1つ、2つまたは3つの相補性決定領域(CDR)を包含するアミノ酸配列を含み;また(b)該VLドメインは、配列番号:9または12、および配列番号:9または12と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列;配列番号:10、および配列番号:10と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列;そして配列番号:11、および配列番号:11と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列からなる群から選択される1つ、2つまたは3つの相補性決定領域(CDR)を包含するアミノ酸配列を含む。さらに別のまたはさらなる実施形態では、該血栓症に関連する疾患は、鎌状赤血球症、深部静脈血栓症、肺塞栓症、心臓塞栓症、凝固亢進状態、血栓症、第V因子ライデン、アンチトロンビンIII欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、プロトロンビン遺伝子である突然変異(G20210A)、高ホモシステイン血症、抗リン脂質抗体症候群(APS)、抗カルジオリピン抗体(ACLA)血栓症症候群、またはループス抗凝固(LA)症候群である。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、虚血性事象後72時間以内に投与される。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、虚血性事象の後に継続的に投与される。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該投与は、虚血性事象による虚血再灌流傷害または炎症の低減をもたらす。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該方法は、虚血を治療するのに有用な1つまたは複数の追加薬剤を投与することをさらに含む。さらなる実施形態では、該1つまたは複数の追加薬剤は、再灌流剤、フリーラジカルスカベンジャー剤、およびスピントラップ剤、神経保護剤、抗凝固剤、抗血小板剤、ニモジピンおよびナロキソンからなる群から選択される。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該方法は、血栓性障害を治療するのに有用な1つまたは複数の薬剤を投与することをさらに含む。さらなる実施形態では、該血栓性障害を治療するのに有用な1つまたは複数の薬剤は、抗凝固剤、ヘパリン、ビタミンK拮抗薬、4-ヒドロキシクマリン誘導体、ワルファリン、アセノクマロール、ジクマロール、ビスクマ酢酸エチル、フェンプロクモン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、アルテプラーゼ(組換えtPA)、レテプラーゼおよびテネクテプラーゼからなる群から選択される。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該投与は、虚血性事象による炎症の低減をもたらす。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは血管内に投与される。前述のいずれかのさらに別の実施形態またはさらなる実施形態では、該VHドメインは、配列番号:6、7および8からなるCDRを含むアミノ酸配列を含有し、および/またはVLドメインは、配列番号:9、10および11、または配列番号:10、11および12からなるCDRを含むアミノ酸配列を含有する。別の実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、(a)配列番号6、7、8、9、10および11の相補性決定領域を含む重鎖および軽鎖ドメインを有する抗体またはscFv;および(b)配列番号:6、7、8、10、11および12の相補性決定領域を含む重鎖および軽鎖ドメインを有する抗体またはscFvからなる群から選択される。さらに別の実施形態では、該抗体フラグメントは、酸化リン脂質のホスホコリン頭部を認識する単鎖可変フラグメント(「scFv」)を含む。さらなる実施形態では、該scFvは生理的条件下で可溶性である。さらに別の実施形態では、該scFvは、配列番号:2のアミノ酸34~約アミノ酸146に示される配列と少なくとも95%同一である配列を有する軽鎖可変領域を含む。さらに別の実施形態では、該scFvは、配列番号:2の約アミノ酸162~約アミノ酸284に示される配列と少なくとも95%同一である配列を有する重鎖可変領域を含む。なおさらなる実施形態では、該scFvは、配列番号:4のアミノ酸24~約アミノ酸135に示される配列と少なくとも95%同一である配列を有する軽鎖可変領域を含む。さらなる実施形態では、該scFvは、配列番号:4の約アミノ酸151~約アミノ酸273に示される配列と少なくとも95%同一である配列を有する重鎖可変領域を含む。別のまたはさらなる実施形態では、該scFvは、配列番号:2に示される配列と少なくとも95%同一である配列を含む。さらに別のまたはさらなる実施形態では、該scFvは、配列番号:4のアミノ酸1~約アミノ酸273に示される配列と少なくとも95%同一である配列を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本開示の単鎖可変フラグメント(「scFv」)を生成するために使用されるプロセスの図(示されるように、部位特異的変異誘発を使用して、二重鎖免疫グロブリン抗体の重鎖(「V
H」)の可変ドメインを変異させ、scFvの溶解度を増加させた。scFvのリンカー、リーダー、エフェクター領域も表示される(右)。
【
図1B】scFv E06抗体フラグメントをコードする遺伝子成分のレイアウトを示す一般化されたマップ(上)、および形質転換マウスを生成するために使用された他のベクター要素に関連し、E06-scFv抗体フラグメントのコード配列を示す一般化されたベクターマップ(下)を提供する。
【
図2】本開示のscFvのヌクレオチド(配列番号:1)およびアミノ酸(配列番号:2)配列および注釈を示す。
【
図3A】IR中のNNCMにおけるフラグメント化されたOxPL分子の識別を示す。IR中にNNCMで識別されたフラグメント化OxPLの単一MRMイオンクロマトグラム。方法の項で記載のIR条件下で細胞を培養した。
【
図3B】IR中のNNCMにおけるフラグメント化されたOxPL分子の識別を示す。IR中にNNCMで識別されたフラグメント化OxPLの単一MRMイオンクロマトグラム。方法の項で記載のIR条件下で細胞を培養した。
【
図3C】IR中のNNCMにおけるフラグメント化されたOxPL分子の識別を示す。IR中にNNCMで識別されたフラグメント化OxPLの単一MRMイオンクロマトグラム。方法の項で記載のIR条件下で細胞を培養した。
【
図3D】IR中のNNCMにおけるフラグメント化されたOxPL分子の識別を示す。IR中にNNCMで識別されたフラグメント化OxPLの単一MRMイオンクロマトグラム。方法の項で記載のIR条件下で細胞を培養した。
【
図3E】IR中のNNCMにおけるフラグメント化されたOxPL分子の識別を示す。IR中にNNCMで識別されたフラグメント化OxPLの単一MRMイオンクロマトグラム。方法の項で記載のIR条件下で細胞を培養した。
【
図3F】対照と比較したIR後の培養NNCMにおける最も豊富なOxPLの存在。最も豊富な化合物はPONPCであり、IRへの暴露後に大幅に増加した。N=4の分別培養、それぞれ3重に行われる(
*p<0.05)。
【
図4A】ラット冠状結紮IR損傷中のOxPLレベルの変化を示す。対照および24時間の再灌流を伴う1時間の虚血後のラット心筋の断面のTTC染色。
【
図4B】ラット冠状結紮IR損傷中のOxPLレベルの変化を示す。IR損傷の24時間後のラット心筋におけるOxPLレベルの有意な増加。n=3(
* p<0.05)それぞれ5匹の動物を用いたN=3の分別実験。
【
図5A】非酸化対照PSPCでの処理後の細胞生存率と比較して、増加する濃度のアルデヒドおよびカルボン酸ベースのOxPLに曝露されたNNCMの細胞生存率を示す。ラットを指定濃度のコントロールリン脂質PSPC、およびOxPL POVPC、PAzPCおよびPONPCに37℃で4時間曝露し、その生体色素、カルセイン-AMおよびエチジウムホモダイマー-1で染色したNNCMの画像。
【
図5B】非酸化対照PSPCでの処理後の細胞生存率と比較して、増加する濃度のアルデヒドおよびカルボン酸ベースのOxPLに曝露されたNNCMの細胞生存率を示す。コントロールPSPCおよび示したOxPL(n=4)との培養後に細胞死百分率として測定された細胞生存率(
* p<0.05、# p<0.01、vs同濃度のPSPC)。
【
図6A】E06によるOxPL媒介細胞死の減弱を示す。E06の存在下でPOVPCおよびPONPCで処理されたNNCMの代表的な画像。NNCMは、生体色素であるカルセインAMとエチジウムホモダイマー1で染色し、5μMのPOVPCとPONPCと10μg/mLのOxLDL固有EO6抗体と共に37℃で2時間処理した。
【
図6B】E06によるOxPL媒介細胞死の減弱を示す。5μMの濃度でOxPL誘発細胞死の有意な阻害があった(n=4分別培養、それぞれ3重に行われる)(
*PSPCと比較した場合にはp<0.05、# POVPCおよびPONPCと比較した場合にはp<0.05)。
【
図7A】scFv-E06を発現するマウスが心筋IR後に梗塞サイズを減少させたことを示す。虚血60分後7日にLDLR
-/-(n=15)およびscFvE06/LDLR
-/-(n=14)群の代表的な心筋TTC染色。白色は梗塞を;赤色は生きている心筋を;青色以外はAARをそれぞれ示す。
【
図7B】scFv-E06を発現するマウスが心筋IR後に梗塞サイズを減少させたことを示す。虚血の結紮から遠位のLV質量(AAR/LV)によって正常化されたAARに有意差はなかった。コントロールと比較し、E06-scFv/Ldlr
-/-マウスは、65.9%小さいIA/AAR(p = 0.0023)を有した。
【
図7C】scFv-E06を発現するマウスが心筋IR後に梗塞サイズを減少させたことを示す。コントロールと比較し、E06-scFv/Ldlr
-/-マウスは、58.5%小さいIA/LV(p = 0.0025)を有した。
【
図7D】scFv-E06を発現するマウスが心筋IR後に梗塞サイズを減少させたことを示す。TTC、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド;AAR、リスクのある領域;LV、左心室;IA、梗塞領域。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「一つの」および「該」は、文脈から明らかにそうでないと示されない限り、複数の参照対象を含む。したがって、例えば、「一つの単鎖可変フラグメント」または「一つのscFv」への言及は、複数の単鎖可変フラグメントを包含し、「該酸化リン脂質」への言及は、1つまたは複数の酸化リン脂質およびその同等物への言及を包含する。その他も同様である。
【0011】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および試薬を、開示される方法および組成物の実施において使用することができるが、ここでは例示的な方法および材料が記載される。
【0012】
本明細書で言及されるすべての出版物は、本明細書の記載に関連して使用され得る出版物に記載される方法論を記載および開示する目的で、参照により完全に本明細書に組み込まれる。上記および本文全体で論じられている出版物は、本願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供されている。本明細書中のいかなるものも、本発明者らが以前の開示のためにそのような開示に先行する権利を与えられないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、本開示で明確に定義されている用語と類似または同一である1つまたは複数の刊行物に提示されている任意の用語に関して、本開示で明示的に提供される用語の定義は、すべての点で通用する。
【0013】
また、「および」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。同様に、「含む」および「包含する」は交換可能であり、限定することを意図していない。
【0014】
さらに理解されるべきこととして、様々な実施形態の記載において「含む」という表現を用いる場合、当業者は、いくつかの特定の例では、一実施形態では、「本質的・・・からなる」または「からなる」という表現を用いて代替的に記載することができる。
【0015】
虚血および再灌流障害は生理学的に異なる事象であり、必ずしも同時に起こるとは限らない。虚血は一般に、典型的には血栓または塞栓による身体の部分または組織への血液の欠乏を指す。再灌流障害は、閉塞または狭窄が取り除かれたときに起こり、酸化的損傷と炎症反応によって引き起こされる。
【0016】
血液および酸素を奪われた組織は、虚血性壊死または梗塞を患い、しばしば永久的な組織損傷をもたらす。心虚血はしばしば「狭心症」、「心臓病」または「心臓発作」と呼ばれ、脳虚血はしばしば「脳卒中」と呼ばれる。心臓と脳の両方の虚血は、血流と酸素の流れの低下に起因し、しばしばある程度の脳損傷、心臓組織の損傷、またはその両方がそれに続く。血流と酸素化の減少は、動脈の閉塞、血管の破裂、発達奇形、粘度の変化やその他の血液の質、または肉体的外傷の結果である可能性がある。糖尿病は虚血の危険因子である。
【0017】
特定の血管領域への血流の喪失は、限局性虚血として知られ、脳全体への血流の損失、全体的な虚血として知られている。血液、つまり酸素とグルコースが奪われると、脳組織は虚血性壊死または梗塞を起こす可能性がある。このような細胞の変性と死の根底と考えられている代謝事象には、ATP枯渇によるエネルギー障害;細胞性アシドーシス;グルタミン酸放出;カルシウムイオン流入; 膜リン脂質分解の刺激とそれに続く遊離脂肪酸の蓄積;そしてフリーラジカルの生成が含まれる。
【0018】
心筋虚血は、心筋が十分な血液供給を受けず、したがって必要なレベルの酸素および栄養素が奪われたときに発生する。心筋虚血の一般的な原因はアテローム性動脈硬化症である。これは心筋に血流を提供する血管(冠状動脈)の閉塞を引き起こす。うっ血性心不全(CHF)は、心筋梗塞とそれに続く心臓リモデリングからも生じる。
【0019】
再灌流の後に、脂質を含む細胞内分子を改変することにより、細胞機能障害、炎症、および最終的には心筋細胞死をもたらす活性酸素種(ROS)の激しい群発が続く。ROSの1つの標的は、哺乳類細胞内の細胞二重層を構成する豊富なホスファチジルコリン含有リン脂質分子である。ホスホコリン含有リン脂質の酸化は、OxPLの形成をもたらす(本明細書で用いられ、以下で定義される「OxPL」は、OxPLを含有する酸化されたホスホコリンを指す)。この結果、sn-2位置で多価不飽和脂肪酸がフラグメント化し、ホスホコリン頭部の立体構造が変化し、マクロファージスカベンジャー受容体CD-36、SR-B1およびTLRなどの先天性パターン認識受容体(PRR)、CRPなどの可溶性タンパク質、E06などの天然抗体(NAb)によって認識されるようにする。OxPLは酸化ストレスを増強し、炎症を引き起こし、アテローム性動脈硬化症、肺損傷および加齢性黄斑変性症などの多くの炎症性疾患に広く関与している。
【0020】
OxPLの生物活性の具体例として、ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)またはマウスマクロファージをOxPLに短時間曝露すると、炎症、凝固促進作用、レドックス反応、ステロール代謝、細胞周期、変性タンパク質応答および血管新生に関与する1,000以上の遺伝子の転写が変化する。さらに、OxPLを認識して結合するが、非酸化PLを結合しないマウスIgM自然抗体E06は、OxPLの炎症促進効果を中和する。培養では、E06はマクロファージによる酸化LDL(OxLDL)の取り込みを防止し、内皮細胞および単球に対するOxPLの炎症効果を弱めたが、E06の免疫誘発力価の増加は、アテローム性動脈硬化症のマウスモデルにおける弱化したアテローム性動脈硬化症と関連していた。
【0021】
特定の理論に束縛されることなく、酸化リン脂質(OxPL)(ホスホコリン(PC)頭部を有するリン脂質)は、高度に炎症性およびプロアテローム発生性であり、酸化的損傷および炎症により誘導され、伝播する。それらは、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、糖尿病性腎症、多発性硬化症を含むCNS疾患、および急性と慢性肺疾患のスペクトルを含む広範囲の炎症性疾患に存在する。例えば、OxPLは、様々なウイルスや細菌の病原体に感染したマウスとヒトの両方の肺に存在する。OxPLは、これらの感染症のマウスの気管支肺胞洗浄液(BAL)、酸設置後の急性呼吸窮迫症候群、または喫煙に続発するCOPDマウスのBALに豊富に含まれる。OxPLは、例えばIL-6を誘導することにより、マクロファージの炎症誘発性媒体であるか、あるいはマクロファージがバクテリアを貪食する能力を阻害する。OxPLはNASH患者とマウスの肝臓に蔓延しており、NASHのマウスモデルの病因に関与していることが示されている。OxPLはまた、アテローム性動脈硬化病変、およびヒト冠状動脈の脆弱性プラークにも広く存在している。それらはまた、PCIやステント留置術などの介入処置中に循環に放出され、下流の炎症誘発性および血管作用性効果を媒介する可能性が高い。
【0022】
先天性天然抗体(NAb)は、内因性ネオエピトープ(OxLDLおよびアポトーシス細胞)および病原体の外因性エピトープ上の共通の酸化特異的エピトープ(OSE)に対する宿主防御の第一線を提供し、宿主の恒常性を維持する。OSEは遍在的であり、アテローム性動脈硬化病変を含む多くの炎症組織に形成され、IgM NAbの主要な標的である。原型のIgM NAb E06は、酸化リン脂質(OxPL)のホスホコリン(PC)頭部に結合し、マクロファージによるOxLDLの取り込みを遮断する。OxPLのホスホリルコリン(「PC」)頭部に結合するが、天然の非酸化リン脂質(「PL」)には結合しない、OxPLに対するマウスIgM天然抗体がクローニングされ、特徴付けられている。ただし、IgM Nab E06のような抗体は溶解度が限られており、簡単に合成できない。
【0023】
E06は、Apoe-/-マウスの脾臓から最初にクローン化されたIgM抗体である。E06は、肺炎球菌の細胞壁多糖のホスホコリン成分を特異的に認識する能力が最初に確認されたIgAと同じT15イディオタイプである。該IgAは、肺炎連鎖球菌による致死感染に対して最適な保護を提供することが示された。これは、両方の抗体のポジティブセレクションを強化する可能性が高い機能である。細胞のPRRとは対照的に、E06はOxPLの炎症促進効果を中和し、CD36によるOxLDLの細胞結合を妨げ、マクロファージによるOxLDLの取り込みを阻害し、OxPLを含むアポトーシス細胞が内皮細胞を活性化して単球に結合するのを妨げた。さらに、直接注入または連鎖球菌抽出による免疫化によって達成されたT15/E06のレベルが増大すると、マウスモデルのアテローム性動脈硬化症(脂質および炎症性疾患)が減少した。
【0024】
疫学的研究はまた、ホスホコリン含有OSEを認識するIgM自己抗体が心保護的であり、力価が、偶発的なCVD、血管造影CAD、脳卒中、および頸動脈の内膜厚さに逆に関連することも示唆している。OSEに対するIgM自己抗体は年齢とともに低下し、これらの防御抗体の喪失は、高齢化に伴う心血管疾患のリスク増加の原因を反映している可能性がある。関連性のあるものとして、スウェーデンの急性冠症候群の予後とリスク(PRACSIS)研究では、ACSを呈している1185人の被験者のコホート(STEMIで42%)の血清抗ホスホコリンIgMの予後値を評価した。18か月のフォローアップで、抗ホスホコリンIgM力価がコホート中央値よりも低いヒトでは、MI、脳卒中、急性血行再建術のリスクおよび心血管死(MACE)が、力価が中央値を超えるヒトと比較して1.79倍に増加した(95%信頼区間[CI]:1.31~2.44; p=0.0002)。抗ホスホコリンIgM力価は、ACSの3,356人の被験者(STEMIで53%)を登録し、6か月間追跡した、より現代的なATLAS ACS-TIMI 46試験ではMACEに関連していなかった。PRACSISとALTAS-TIMIのいくつかの違いは、患者の母集団や背景医学療法の構成など、これら2つの試験の結果の不一致の一因となっている可能性がある。さらに重要なことに、OSE IgMはMI後の最初の120日間で大幅な増減し、ATLAS-TIMI 46でのサンプル収集の遅延(プレゼンテーションから7日以内)は、PRACSIS(プレゼンテーションの24時間以内に収集されたサンプル)と比較して、定常状態のIgMレベルを代表しない。ACS患者のSTEMIサブセットの治療で例示されているどちらの試験もIRを直接評価していないことを考慮することも重要である。最後に、OSEに向けられた抗体の治療的使用は、内因性のOSE自己抗体の力価によって表される可能性があるよりも大幅に多い用量を必要とする可能性がある。
【0025】
OSE IgMの二重性は、OxPLなどの炎症誘発性OSEを中和することができるが、古典経路を介して補体を効果的に活性化することもでき、変動する臨床転帰に寄与することもある。補体系の遮断は、動物モデルのIRに対して保護的であり、IR損傷との関連性を示している。BおよびT細胞を欠くため抗体を産生しない免疫不全Rag-/-マウスは、IR損傷から保護されている。しかし、筋肉以外のミオシン重鎖タイプII(NMHCII)を認識するモノクローナルIgMであるCM22の注入は、局在したIgMおよび負傷した組織に結合した補体に関連するIR損傷を再構成する。さらに、CM22結合で競合するNMHCIIに由来する合成ペプチドとNMHCIIに結合するがFcドメインがなく、補体を固定できないF(ab’)2の両方で、マウスの心筋IR損傷が減少するだけでなく、負傷した心筋で検出された補体C3も減少する。これらの発見は、特定のIgMがどのようにして補体を活性化し、炎症反応を増強することによりIR損傷を悪化させるかについての規範を提供する。
【0026】
親E06抗体は、クローン化され、特徴付けられたマウスIgM抗体であり、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,225,070号の主題である。米国特許公開第20150376268A1号は、OxPLに結合する完全に機能的な単鎖抗体およびヒト化抗体を記載している。これは、親抗体フレームワーク領域のDNA配列、重鎖および軽鎖、および実験の繰り返しにより決定されたリンカー配列の多数の独特の分子変化を記載し、完全に機能するE06-scFvの開発をもたらした。この配列が適切なベクターに挿入された場合、得られたscFvは可溶型で発現され、識別された標的抗原に対する親のすべての免疫学的結合特性を有する。例えば、エピトープが親抗体の重鎖と軽鎖の両方からなる独特の抗イディオタイプ抗体AB1-2に結合できる。その出願の開示はまた、酸化されたリン脂質に選択的に結合する単鎖可変抗体フラグメント(「scFv」)、VH、VLおよび相補性決定領域を提供する。本開示のscFvは可溶性であり、容易に合成することができる。米国特許公開第20150376268A1号は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本明細書に記載され、in vivo実験で使用される形質転換マウスに存在するE06-scFvの利点は、それがOxPLに結合および中和できるが、Fcドメインを欠いており、したがって活性補体に結合できないことである。E06-scFvは、利用可能な前臨床および臨床エビデンスの全体を考慮すると、IR損傷を軽減するための治療法を提供する。
【0028】
心筋虚血-再灌流は、非酵素的ミトコンドリア機能障害を介したラジカル酸素種(ROS)の生成、ならびにキサンチンオキシダーゼ(近隣の内皮細胞から)およびNADPH(浸潤好中球および単球から)による酵素産生をもたらし、脂質過酸化を仲介する。細胞膜リン脂質の最も豊富なクラスであるPCを含むリン脂質は、ROSからだけでなく、アポトーシス中にも酸化的損傷を受けやすく、OxPLが形成される。本研究で示された心筋細胞に対する直接の致死効果に加えて、OxPLは、自然免疫系によって危険関連分子パターン(DAMP)として認識され、無菌炎症を促進する酸化特異的エピトープ(OSE)のサブセットを表す。本明細書の他の箇所で記載されているように、OxPLは単球、マクロファージ、内皮細胞に強力な炎症誘発作用を及ぼし、ケモカイン(MCP-1、フィブロネクチン、およびCXCL8)とサイトカイン(IL-1、IL-6、およびIL-8)を放出し、そしてその特定のOxPL種(POVPCやPGPCなど)は細胞に直接的なアポトーシス促進効果をもたらし、そのすべてが虚血性再灌流(IR)損傷の一因となり得る。
【0029】
本開示は、再灌流傷害を阻害および治療するために有用な組成物および方法を提供する。本開示は、酸化特異的エピトープ(OSE)に結合する抗体および抗体フラグメントが、単独でまたは他の薬剤と組み合わせて、再灌流傷害を治療するのに有用であり、治療的利益を有することを実証する。本開示は、血栓症および/または心筋梗塞に関連する再灌流傷害および/または組織損傷を阻害するために有用な方法および組成物を提供する。該方法は、例えば、虚血性事象の際に、または、虚血性事象の後で再灌流が発生する前に、または、虚血後および再灌流時に、OSEに結合し、OSEによって誘発される炎症反応を軽減する抗体または抗体フラグメントを投与することを含む。
【0030】
本開示は、心筋虚血再灌流が、in vitroでの初代心筋細胞培養ならびにin vivoでの心筋組織におけるOxPLの産生の有意な増加をもたらすことを示す。細胞培養では、外因的に追加されたOxPL、特にPONPCとPOVPCへの曝露により、虚血再灌流がない状態で心筋細胞の細胞死が起こった。E06は、PONPCやPOVPCなどのフラグメント化されたOxPLを特異的に認識するが、リン脂質を含む非酸化PCは認識せず、in vitroでOxPLを介した細胞死を抑制し、in vivoでの虚血再灌流梗塞サイズを弱める。
【0031】
したがって、本開示は、E06がin vitroでOxPL媒介性細胞死を防止し、in vivoでIR梗塞サイズを減弱したことを示している。したがって、一般的に、特にE06の結合特異性を有する抗体でOxPLを標的化することは、IR損傷を軽減するための効果的な薬理学的治療となる。
【0032】
本開示は、E06-scFvの構成的発現がIR損傷に対する耐久性のある保護をもたらし、IR後1週間で梗塞サイズが減少し(例えば、限定的な有害心臓リモデリング)、強い臨床的翻訳を実証したことを示す。該E06-scFvは、MIまたは脳卒中後、またはその疑いがある急性医療環境で患者または被験者に投与できる。他の実施形態では、E06-scFvは、血栓溶解療法後に静脈内に、または経皮的冠動脈介入(PCI)中に冠動脈内経路によって投与することができる。
【0033】
現在、虚血性事象の間およびその後の酸化的損傷および再灌流傷害を防止または低減するための医学的治療の必要性がある。本開示は、OSEに結合する抗体および抗体フラグメント(scFvを含む)の投与が、虚血性事象中の損傷を低減することを実証している。一実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、補体活性化活性が低下しているか、または活性がない。
【0034】
本開示は、OxPLに結合し、場合によってはE06抗体と同じまたは同様の結合特異性を有する抗体、抗体フラグメントおよびヒト化抗体の使用を提供する。抗体フラグメントは、酵素消化などの従来の手段によって、または組換え技術によって生成することができる。特定の状況では、抗体全体ではなく、抗体フラグメントを使用する利点がある。フラグメントのサイズが小さいと、迅速なクリアランスが可能になり、組織へのアクセスが改善される可能性がある。急性の状況では、抗体フラグメントの半減期は重要ではない。特定の抗体フラグメントに関する総説については、Hudsonら,(2003) Nat. Med. 9:129-134を参照されたい。一実施形態では、本開示は、虚血および再灌流障害を治療するための抗OxPL抗体およびフラグメント(例えば、scFv-E06)の使用を提供する。本開示は、虚血性事象に関与する被験者または組織を抗OxPL抗体またはフラグメントで治療することにより、炎症および/または酸化的損傷による組織損傷が減少することを実証している。別の実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、炎症細胞の補体または動員を誘導する領域(例えば、Fc領域)を欠く。
【0035】
本開示は、生物学的活性を有する特定の抗体配列および抗体配列フラグメントを提供するが、これらの配列を使用して改善された変異体を生成できることをさらに開示する。したがって、いくつかの例では、抗体または抗体フラグメントは、本開示の配列に対してパーセント同一性を有し得る。他の実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、OSE(例えば、OxPL)に対して特異性を有するが、補体を誘導する、または炎症性細胞を動員する能力を欠く。
【0036】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される抗体のアミノ酸配列修飾が熟慮される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入することにより、またはペプチド合成により調製することができる。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/または挿入および/または置換を含む。最終構築物が所望の特性を有することを条件として、削除、挿入、および置換の任意の組み合わせを行って、最終構築物に到達することができる。アミノ酸改変は、配列がその時に、被験者の抗体アミノ酸配列に導入され得る。
【0037】
本開示は、OxPLまたはホスホリルコリンおよび/またはホスホリルコリン複合物に結合できる抗体または抗体フラグメントを提供し、ここで、該抗体または抗体フラグメントは、可変重鎖(VH)ドメインおよび/または可変軽鎖(VL)ドメインを含み、また、ここで
(a)該VHドメインは、以下からなる群から選択される1つ、2つ、または3つの相補性決定領域(CDR)を包含するアミノ酸配列を含む:
(i)配列番号:6および配列番号:6と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する;
(ii)配列番号:7および配列番号:7と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する;および
(iii)配列番号:8および配列番号:8と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントははOSEまたはOxPLに結合する;
(b)該VLドメインは、それは、以下からなる群から選択される1つ、2つ、または3つの相補性決定領域(CDR)を包含するアミノ酸配列を含む:
(i)配列番号:9または12、および配列番号:9または12と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する;
(ii) 配列番号:10および配列番号:10と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する;および
(iii)配列番号:11および配列番号:11と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一である配列、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する。
【0038】
一実施形態では、該抗体または抗体フラグメントは、配列番号:6、7および8を含むCDRを包含するアミノ酸配列を含むVHドメイン、および/または、配列番号:9、10および11、または配列番号:10、11および12を含むCDRを包含するアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、ここで、そのような配列を含む抗体またはそのフラグメントはOSEまたはOxPLに結合する。
【0039】
一実施形態では、本開示は、(a) 配列番号:6、7、8、9、10および11の相補性決定領域を含む重鎖および軽鎖ドメインを有する抗体またはscFv;および(b) 配列番号:6、7、8、10、11および12の相補性決定領域を含む重鎖および軽鎖ドメインを有する抗体またはscFvからなる群から選択される抗体またはscFvを提供する。一実施形態では、(a)または(b)のいずれかがFc領域に連結される。一実施形態では、該Fcドメインは、補体または炎症性細胞動員を誘導せず、および/または補体誘導または炎症性動員を排除するように修飾される。
【0040】
一実施形態では、本開示は、配列番号:2のアミノ酸1~約146に示されるような軽鎖可変領域を含む抗体を提供する。別の実施形態では、本開示は、配列番号:4のアミノ酸1~約135の配列を含むヒト化軽鎖可変領域を有する抗体を提供する。別の実施形態では、本開示は、配列番号:2の約162~約269の配列を含む重鎖可変領域を含む抗体を提供する。別の実施形態では、本開示は、配列番号:4の約152~約258の配列を含むヒト化重鎖可変領域を含む抗体を提供する
【0041】
別の実施形態では、本開示は、例えば、マウスVHおよび/またはVLならびにヒトFc領域を含むキメラ抗体を提供する。例えば、配列番号:14は、本開示のキメラ抗体の配列を提供する。配列番号:14において、アミノ酸1~33は抗体分泌のためのIgカッパ鎖リーダー配列を含み、アミノ酸34~146はE06軽鎖可変領域を含み、アミノ酸147~161は柔軟なリンカー配列を提供し、アミノ酸162~284は野生型尿E06抗体に対し、P201A、S224A、およびA225Dの三重変異を伴うE06重鎖可変領域を提供し、アミノ酸285~517はFc領域を含む。配列番号:14において、該Fc領域は、ADCC活性を高めるためにC290SおよびH294Yが修飾されたヒトIgG1-Fcである。当業者にとって任意であるが、配列番号:14はまた、さらなるリンカーおよびHisタグ配列を提供する(例えば、配列番号:14のアミノ酸518~528)。本開示はまた、配列番号:13を含む配列番号:14のコード配列を熟慮し、提供する。当業者は、上で同定された様々なドメインに対応する核酸配列を容易に同定することができる。本開示はまた、異なる免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM、または任意のサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)のFc領域にリンクされる配列番号:14のアミノ酸1~284と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%または99.9%同一であるキメラ抗体配列を包含する。
【0042】
一実施形態では、本開示は、軽鎖可変領域と重鎖可変領域との間にリンカーを含むscFvを提供する。該リンカーは、任意の数の一般的に使用されるペプチドリンカーであり得る。一実施形態では、該リンカーは、GGGSの反復単位(配列番号:5)を含む。GGGSの繰り返し(配列番号:5)は、2回、3回、4回またはそれ以上である。
【0043】
別の実施形態では、本開示は、ペプチドリンカーによって配列番号:2のアミノ酸162~269の重鎖可変領域に連結された配列番号:2のアミノ酸1~146の軽鎖可変領域を含むscFvを含む。特定の実施形態では、該scFvは、 配列番号:2のアミノ酸1~269の配列を含む。別の実施形態では、本開示は、配列番号:2のアミノ酸1~約269または1~約303のポリペプチド配列を有するscFvを提供する。さらなる実施形態では、本開示は、配列番号:2のアミノ酸1~約303と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性があり、酸化リン脂質に選択的に結合するscFvを提供する。
【0044】
さらなる実施形態では、配列番号:2のアミノ酸1~約269または1~約303を含む第1ドメインまたはその変異体を含む融合構築物は、(i)検出可能な標識、または(ii)目的のポリペプチドを含む第2のドメインに機能的に連結される。当業者は、そのような融合構築物が、配列番号:1の配列を含むコード配列またはその変異体を、例えば、目的のポリペプチドのコード配列と連結する化学または分子生物学技術を用いて生成できることを認識するであろう。該コード配列およびドメインは、リンカーによって分離されるか、または直接連結され得る。
【0045】
さらに別の実施形態では、本開示は、ペプチドリンカーによって配列番号:4のアミノ酸152~約258の重鎖可変領域に連結された配列番号:4のアミノ酸1~135の軽鎖可変領域を含むscFvを含む。特定の実施形態では、該scFvは、配列番号:4のアミノ酸1~258の配列を含む。別の実施形態では、本開示は、配列番号:4のアミノ酸1~約258または1~約263のポリペプチド配列を有するscFvを提供する。さらなる実施形態では、本開示は、配列番号:4のアミノ酸1~約258と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有し、酸化されたリン脂質に選択的に結合する、ポリペプチド配列を有するscFvを提供する
【0046】
さらなる実施形態では、配列番号:4のアミノ酸1~約258または1~約264を含む第1ドメインまたはその変異体を含む融合構築物は、(i)検出可能な標識または(ii)目的のポリペプチドを含む第2のドメインに機能的に連結される。当業者は、そのような融合構築物が、配列番号:3の配列またはその変異体を含むコード配列を、例えば、目的のポリペプチドのコード配列と連結する化学または分子生物学技術を用いて生成できることを認識するであろう。該コード配列およびドメインは、リンカーによって分離されるか、または直接連結され得る。
【0047】
抗体、抗体フラグメントおよび抗体の変異体のアミノ酸配列をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の様々な方法によって調製される。変異体を調製するための方法としては、これらに限定されないが、天然源からの単離(天然アミノ酸配列変異体の場合)またはオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)変異誘発による調製、PCR変異誘発、そして、以前に調製された抗体の変種または非変種バージョンのカセット突然変異誘発がある。
【0048】
特定の実施形態では、本開示は、配列番号:1のポリヌクレオチド配列によってコードされるマウスscFvを提供する。さらなる実施形態では、本開示は、配列番号:1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列によってコードされ、OSEまたはOxPLに選択的に結合するポリペプチドを生成するマウスscFvを提供する。
【0049】
本開示はまた、ヒト化抗体を包含する。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が当技術分野で知られている。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からそれに導入された1つ以上のアミノ酸残基を有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「インポート」残基と呼ばれることが多く、通常、「インポート」可変ドメインから取得される。ヒト化は本質的にWinterらの方法にしたがって、ヒト抗体の対応する配列を超可変領域配列に置き換えることによって実行できる(Jonesら,(1986)Nature 321:522-525; Riechmann ら,(1988)Nature 332:323-327; Verhoeyenら,((1988) Science 239:1534-1536)。したがって、そのような「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、無傷のヒト可変ドメインよりも実質的に少ないものが非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかの超可変領域残基およびおそらくいくつかのFR残基が齧歯類抗体の類似の部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0050】
ヒト化抗体を作製する際に使用されるヒト可変ドメイン(軽鎖および重鎖の両方)の選択は、抗原性を低下させるために重要であり得る。いわゆる「ベストフィット」法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列は、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングされる。齧歯類の配列に最も近いヒト配列は、ヒト化抗体のヒトフレームワークとして認められる。例えば、Simsら,(1993)J. Immunol. 151:2296; Chothiaら,(1987)J. Mol. Biol. 196:901を参照されたい。別の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークが使用される。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用することができる。例えば、Carterら,(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. 米国、89:4285; Prestaら,(1993)J. Immunol., 151:2623を参照されたい。
【0051】
抗体は、抗原に対する高い親和性および他の好ましい生物学的特性を保持してヒト化されることがさらに一般的に望ましい。この目標を達成するために、ある方法によれば、ヒト化抗体は、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および様々な概念的ヒト化製品の分析のプロセスによって調製される。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の可能な三次元立体構造を例示および表示するコンピュータープログラムが利用可能である。これらの表示の検査により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を与える残基の分析が可能になる。このようにして、FR残基を選択し、レシピエントおよびインポート配列から組み合わせて、標的抗原に対する親和性の増加などの所望の抗体特性が達成されるようにすることができる。一般に、超可変領域残基は、抗原結合への影響に直接かつ最も実質的に関与している。
【0052】
特定の実施形態では、本開示は、配列番号:3のポリヌクレオチド配列によってコードされるヒト化scFvを提供する。さらなる実施形態では、本開示は、配列番号:3と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列によってコードされ、OSEまたはOxPLに選択的に結合するポリペプチドを生成するヒト化scFvを提供する。
【0053】
本開示は、抗体のフラグメント結晶化可能領域(「Fc」)を場合により含む、本明細書に開示されるscFvをさらに提供する。特定の実施形態では、該Fc領域は、ヒトまたはヒト化抗体に由来する。該Fc領域は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体および補体系のいくつかのタンパク質と相互作用する抗体の尾部領域である。この特性により、抗体は免疫系を活性化できる。IgG、IgA、IgD抗体アイソタイプでは、該Fc領域は、抗体の2つの重鎖の2番目と3番目の定常ドメインに由来する2つの同一のタンパク質フラグメントで構成される。IgMおよびIgE Fc領域は、各ポリペプチド鎖に3つの重鎖定常ドメイン(CHドメイン2~4)を含みる。IgGのFc領域には、高度に保存されたNグリコシル化部位がある。該Fcフラグメントのグリコシル化は、Fc受容体を介した活性に不可欠である。このサイトに接続されているN型糖鎖は、主に複合型のコアフコシル化二分岐構造である。さらに、少量のこれらのN-グリカンは、2分割GlcNAcおよびα-2,6結合シアル酸残基も持っている。Fab領域と呼ばれる抗体の他の部分には、抗体が結合できる特定の標的を定義する可変セクションが含まれている。本開示のscFvは、Fab領域からの要素で構成される。対照的に、クラス内のすべての抗体のFc領域は、各種で同じである。変数ではなく定数である。したがって、Fc領域は「フラグメント定常領域」と呼ばれることもある。このため、無数の種のFc領域をコードするポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列は既に決定されており、当業者に知られているであろう。特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるscFvポリヌクレオチド配列(すなわち、配列番号:1)を提供し、これは、IgG抗体(例えば、ヒトIgG抗体)からのFc領域をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む。さらなる実施形態では、本開示は、IgG抗体からのFc領域のポリペプチド配列をさらに含む、本明細書で開示されるscFvポリペプチド配列(すなわち、配列番号:2のアミノ酸1~約303)を提供する。なおさらなる実施形態では、該Fc領域は、炎症性細胞動員および/または補体活性化から選択される生物活性を除去するように改変される。
【0054】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるscFvポリヌクレオチド配列(すなわち、配列番号:3の1~約789)を提供する。さらなる実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるscFvポリペプチド配列(すなわち、配列番号:4のアミノ酸1~約258または約1~263)を提供する。配列番号:4はさらに、IgG抗体からのFc領域のポリペプチド配列(例えば、配列番号:4の約アミノ酸264~約506)を提供する。該配列は、存在しないか、部分的または完全に存在し得る。
【0055】
さらなる実施形態では、本開示は、配列番号:1および3、または配列番号:1または配列番号:3と少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%または少なくとも70%の同一性を有する配列を参照して上記に示されるようなscFvをコードするポリヌクレオチド配列を含み、また、OSEまたは酸化リン脂質(OxPL)に特異的に結合するポリペプチドをコードするベクターを提供する。
【0056】
本開示はまた、E06抗体の結合特異性を有するヒト化抗体を提供する。該ヒト化抗体は、(i)配列番号:4のアミノ酸1~アミノ酸約506に示される配列、または(ii)OSEまたは酸化リン脂質(OxPL)に特異的に結合するポリペプチドをコードする、配列番号:4のアミノ酸1~約506と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%またはそれ以上同一である配列を含む。
【0057】
本開示はまた、本開示のヒト化抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。該ポリヌクレオチドは、(i)配列番号:4をコードするポリヌクレオチド、(ii)ストリンジェントな条件下で配列番号:3からなるポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、E06抗体と実質的に同様の特異性でOSEおよび/またはOxPLに結合するヒト化抗体をコードするポリヌクレオチド、(iii)E06抗体と実質的に同様の特異性でOSEおよび/またはOxPLに結合する抗体をコードする、配列番号:3と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%またはそれ以上同一であるポリヌクレオチド、(iv)配列番号:3に示されるポリヌクレオチド、および(v)ポリヌクレオチドがRNAを含む(i)~(iv)のいずれかのポリヌクレオチドからなる群から選択される配列を含む。
【0058】
本開示の抗体または抗体フラグメントのポリペプチド成分をコードするポリヌクレオチド配列は、標準的な組換え技術を用いて得ることができる。所望のポリヌクレオチド配列は、ハイブリドーマ細胞などの抗体産生細胞から単離および配列決定することができる。あるいは、ヌクレオチドシンセサイザーまたはPCR技術を使用してポリヌクレオチドを合成することができる。一旦得られると、ポリペプチドをコードする配列は、原核生物宿主において異種ポリヌクレオチドを複製および発現することができる組換えベクターに挿入される。当技術分野で利用可能であり、知られている多くのベクターを、本発明の目的のために使用することができる。適切なベクターの選択は、主にベクターに挿入される核酸のサイズ、およびベクターで形質転換される特定の宿主細胞に依存する。各ベクターは、その機能(異種ポリヌクレオチドの増幅または発現、あるいはその両方)と、それが存在する特定の宿主細胞との適合性に応じて、様々な成分を含んでいる。ベクター成分には一般に、複製起点、選択マーカー遺伝子、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、シグナル配列、異種核酸インサートおよび転写終結配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
一般に、宿主細胞と適合性のある種に由来するレプリコンおよび制御配列を含むプラスミドベクターは、これらの宿主に関連して使用される。該ベクターは通常、複製部位、ならびに形質転換細胞において表現型選択を提供することができるマーキング配列を保有する。例えば、大腸菌は通常、大腸菌種に由来するプラスミドであるpBR322を使用して形質転換される。pBR322には、アンピシリン(Amp)およびテトラサイクリン(Tet)耐性をコードする遺伝子が含まれているため、形質転換された細胞を簡単に特定できる。pBR322、その誘導体、または他の微生物プラスミドまたはバクテリオファージはまた、内因性タンパク質の発現のために微生物によって使用され得るプロモーターを含み得るか、または含むように改変され得る。特定の抗体の発現に使用されるpBR322誘導体の例は、Carterらの米国特許第5,648,237号に詳細に記載されている。
【0060】
さらに、宿主微生物と適合性のあるレプリコンおよび制御配列を含むファージベクターは、これらの宿主と関連して形質転換ベクターとして使用され得る。例えば、バクテリオファージベクターは、大腸菌LE392などの感受性宿主細胞を形質転換するために使用できる組換えベクターを作製する際に利用することができる。
【0061】
本開示の発現ベクターは、ポリペプチド成分のそれぞれをコードする2つ以上のプロモーター-シストロン対を含み得る。プロモーターは、その発現を調節するシストロンの上流(5')にある非翻訳調節配列である。原核生物のプロモーターは通常、誘導型と構成型の2つのクラスに分類される。誘導性プロモーターは、培養条件の変化(例えば、栄養素の有無または温度の変化)に応じてその制御下でシストロンの転写レベルの増加を開始するプロモーターである。
【0062】
様々な潜在的な宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。選択されたプロモーターは、制限酵素消化によりソースDNAからプロモーターを除去し、単離されたプロモーター配列を本発明のベクターに挿入することにより、軽鎖または重鎖をコードするシストロンDNAに機能的に連結され得る。天然プロモーター配列および多くの異種プロモーターの両方を用いて、標的遺伝子の増幅および/または発現を指示することができる。いくつかの実施形態では、異種プロモーターは、天然の標的ポリペプチドプロモーターと比較して、それらが一般に、より大きな転写および発現された標的遺伝子のより高い収量を可能にするため、利用される。
【0063】
原核生物宿主での使用に適したプロモーターには、PhoAプロモーター、(3-ガラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系およびtacまたはtrcプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが含まれる。しかしながら、細菌で機能する他のプロモーター(他の既知の細菌またはファージプロモーターなど)も同様に適している。それらのヌクレオチド配列は公開されており、それにより、熟練労働者がリンカーまたはアダプターを用いて標的軽鎖および重鎖をコードするシストロンに操作可能にそれらを連結して、必要な制限部位を供給することができる(Siebenlistら,(1980)Cell 20:269)。
【0064】
別の実施形態では、本開示による抗体/抗体フラグメントの産生は、宿主細胞の細胞質で起こり得る。したがって、各シストロン内の分泌シグナル配列の存在を必要としない。その点で、抗体の軽鎖と重鎖は発現され、折り畳まれ、組み立てられて、細胞質内で機能的な免疫グロブリンを形成する。特定の宿主株(例えば、E. Coli trxB株)は、ジスルフィド結合形成に好ましい細胞質条件を提供し、それによって、発現されたタンパク質サブユニットの適切なフォールディングとアセンブリを可能にする。ProbaおよびPluckthun Gene、159:203(1995)。
【0065】
本開示の抗体を発現するのに適した原核宿主細胞には、グラム陰性またはグラム陽性生物などの古細菌および真正細菌が含まれる。有用な細菌の例には、エシェリヒア菌(例えば、大腸菌)、バチルス菌(例えば、枯草菌)、腸内細菌、シュードモナス種(例えば、緑膿菌)、ネズミチフス菌、セラチア・マルセスキャン、クレブシエラ、プロテウス、シゲラ、リゾビア、ビトレオシラ、またはパラコッカスが含まれる。一実施形態では、グラム陰性細胞が使用される。一実施形態では、大腸菌細胞は、本開示の宿主として使用される。大腸菌株の例には、W3110株(Bachmann、細胞および分子生物学、第2巻(ワシントン、D.C .:アメリカ微生物学協会、1987)、pp.1190~1219、ATCC寄託番号27,325)および33D3株を含むその誘導体(米国特許第5,639,635号)が含まれる。大腸菌294(ATCC 31,446)、大腸菌B,E.ColiX 1776(ATCC 31,537)および大腸菌RV308などの他の菌株およびその誘導体も適している。これらの例は、制限ではなく例示である。定義された遺伝子型を有する上記の細菌のいずれかの誘導体を構築する方法は、当技術分野で知られており、例えば、Bassら、Proteins、8:309-314(1990)に記載されている。細菌の細胞におけるレプリコンの複製可能性を考慮して適切な細菌を選択することが一般的に必要である。例えば、pBR322、pBR325、pACYC177、またはpKN410などのよく知られたプラスミドを使用してレプリコンを供給する場合、大腸菌、セラチア、またはサルモネラ種を宿主として適切に使用することができる。典型的には、宿主細胞は最小量のタンパク質分解酵素を分泌するはずであり、追加のプロテアーゼ阻害剤を細胞培養物に組み込むことが望ましい場合がある。
【0066】
宿主細胞は、上記の発現ベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適切に改変された従来の栄養培地で培養される。
【0067】
形質転換とは、原核生物の宿主にDNAを導入することを意味し、その結果、DNAは、染色体外要素として、または染色体組込み体によって複製可能である。使用される宿主細胞に応じて、形質転換はそのような細胞に適した標準的な技術を使用して行われる。塩化カルシウムを使用するカルシウム処理は、実質的な細胞壁障壁を含む細菌細胞に一般的に使用される。形質転換のための別の方法は、ポリエチレングリコール/DMSOを使用する。用いられるさらに別の技術は、電気穿孔である。
【0068】
本開示のポリペプチドを産生するために使用される原核細胞は、当技術分野で公知であり、選択された宿主細胞の培養に適した培地で増殖される。適切な培地の例には、ルリアブロス(LB)と必要な栄養素サプリメントが含まれる。いくつかの実施形態では、該培地はまた、発現ベクターを含む原核細胞の増殖を選択的に可能にするために、発現ベクターの構築に基づいて選択された選択剤を含む。例えば、アンピシリンは、アンピシリン耐性遺伝子を発現する細胞の増殖のための培地に添加される。
【0069】
炭素、窒素、および無機リン酸塩源以外の必要な補足物も、単独で、または複雑な窒素源などの別の補足物または媒体との混合物として導入される適切な濃度で含まれ得る。必要に応じて、培養培地は、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、ジチオエリスリトールおよびジチオスレイトールからなる群から選択される1つ以上の還元剤を含み得る。原核宿主細胞は適切な温度で培養される。
【0070】
一実施形態では、発現されたポリペプチド(例えば、抗体またはそのフラグメント)は、宿主細胞の周辺質に分泌され、そこから回収される。タンパク質の回収には通常、一般に浸透圧ショック、超音波処理または溶解などの手段によって微生物を破壊することが含まれる。細胞が破壊されると、細胞破片または細胞全体が遠心分離またはろ過によって除去される。タンパク質は、例えば、アフィニティー樹脂クロマトグラフィーによりさらに精製することができる。あるいは、タンパク質を培養培地に輸送し、その中で単離することができる。生産されたタンパク質をさらに精製するために、培養物から細胞を除去し、培養上清を濾過および濃縮してもよい。発現したポリペプチドは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)やウエスタンブロットアッセイなどの一般的に知られている方法を使用して、さらに分離および同定できる。
【0071】
大規模または小規模発酵を使用することができ、当技術分野で周知のスキルを使用して最適化することができる。
【0072】
当技術分野で公知の標準的なタンパク質精製法を使用することができる。以下の手順は、適切な精製手順の例である。イムノアフィニティまたはイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカまたはDEAEなどのカチオン交換樹脂でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、およびゲルろ過。
【0073】
本開示は、適切な宿主生物に移入され、本明細書に開示されるscFvまたはヒト化抗体をコードする発現ベクターをさらに提供する。適切な宿主生物は、微生物、酵母または哺乳動物細胞系である。典型的には、該哺乳動物細胞系は、単球由来(マクロファージ、単球、好中球など)、リンパ球由来(例えば、骨髄腫、ハイブリドーマ、および正常な不死化B細胞)、実質細胞(例えば、肝細胞)と非実質細胞(例えば、星状細胞)である。
【0074】
本開示は、本開示のscFv(ヒト化もしくは非ヒト化)、または本開示のヒトもしくはヒト化抗体、または血栓事象、心筋梗塞および/もしくは虚血性事象を示す他の小分子で患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、該方法は、本開示の抗体(またはそのフラグメント)(例えば、scFv-E06)を1分から数分(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、または55分間)から1時間または数時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10時間)で投与することを含む。典型的には、該抗体は、心筋梗塞、血栓性事象または虚血性損傷の後で、できるだけ早くそして急性的に投与されるであろう。該抗体は、典型的には、罹患した組織または循環に投与される(例えば、IV)。該抗体は、虚血性損傷、梗塞または血栓症により影響を受ける組織に対するOSEおよび/または酸化リン脂質の影響を阻害する。
【0075】
上記および下記のように、本明細書に開示されるscFvは、OSEおよび/またはOxPLに結合し、それらの炎症促進効果を遮断する。本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体のin vivoでの使用は、多くの異なる状況でOSEおよび/またはOxPLの生物学的効果を遮断するために使用され得る。例えば、OxPLは、これらの動脈がステントを移植および/または拡張するための外科的処置を受けているときに、アテローム硬化性冠状動脈から放出されることが示されている。これらの放出されたOxPLは、患者の全身に有害な血管作用をもたらす可能性がある。したがって、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体の急性および/または慢性注射/注入は、これらの副作用を遮断し、および/または急性冠症候群や急性脳卒中などの類似の虚血性事象を遮断または減衰することができる。同様に、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体もまた、被験者に注入し、化学物質に続発する呼吸困難、ウイルスまたは細菌感染、またはOxPLが細菌感染のマクロファージクリアランスを損なうことが示されている慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)の急性増悪などの様々な病的状態から生じるOxPLによって媒介される炎症誘発効果を遮断することができる。したがって、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体は、関節リウマチなどの他の全身性炎症状況において、またはNASHおよびNAFLDに関連する炎症事象を阻害することにより、有効な抗炎症剤である。したがって、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体は、抗炎症剤および/または抗アテローム性動脈硬化剤を時間的および/または慢性的に投与する必要がある多くの臨床用途または設定で使用できる。さらに、E06-scFvがマクロファージから発現したという事実により、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)またはヒトにおける本開示のヒト化抗体の持続的な全身性発現レベルを提供する戦略における本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体の使用が提供される。
【0076】
したがって、本開示の抗体、抗体フラグメントおよびポリペプチドは、炎症性疾患および障害、心血管疾患、および酸化リン脂質に関連する疾患を治療するために使用することができる。より具体的には、本開示の抗体、抗体フラグメントおよびポリペプチドは、疾患または身体的外傷(例えば、外科的、偶発的な損傷など)に起因する虚血性再灌流損傷を治療するために使用することができる。心血管疾患という用語は、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、急性心筋梗塞、心筋梗塞(心臓発作)、安定および不安定狭心症、動脈瘤、冠動脈疾患(CAD)、虚血性心疾患、虚血性心筋、心臓および突然の心臓死、心筋症、うっ血性心不全 、心不全、狭窄、末梢動脈疾患(PAD)、間欠性跛行、重症下肢虚血、脳卒中を含むことを意図しているが、これに限定されない。
【0077】
他の実施形態では、本開示は、被験者における急性腎障害(AKI)を治療、予防、または改善する方法を提供する。該方法は、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体および抗体フラグメントを被験者に投与し、それにより急性腎障害を治療、予防、または改善することを含む。特定の実施形態では、該被験者の腎臓は低酸素症である。特定の実施形態では、該急性腎障害は、腎虚血によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、心臓媒介性低灌流によって引き起こされる。特定の実施形態では、該心臓媒介低灌流は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせなどの心臓手術によって引き起こされる。急性腎不全は、心臓手術を受ける患者の最大30%で発生し、罹患率と死亡率に関連していると推定されている。さらに、すべての心臓手術患者の約1%で透析が必要であり、そのほとんどは長期にわたって透析に依存している。Rosnerら、Clin J Am Soc Nephrol. 2006 1月; l(l):19-32を参照されたい。
【0078】
別の実施形態では、本開示は、腎機能障害を有する被験者または患者に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与することを提供し、かかる投与は腎機能を改善する。特定の実施形態では、急性腎障害のリスクがある被験者または患者に、被験者の尿細管上皮細胞損傷を防ぐMAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与する。特定の実施形態では、急性腎障害のリスクがある被験者または患者に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与すると、糸球体濾過率(GFR)が改善または低下するのを防ぐ。特定の実施形態では、急性腎障害のリスクがある被験者または患者に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与すると、腎機能障害とともに増加する腎機能のマーカーである血中尿素窒素(BUN)および/またはクレアチニンのレベルの増加が低下または防止される。他の実施形態では、本開示は、急性腎障害のリスクがある被験者または患者に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与すること、そのレベルがAKIと正の相関がある尿中バイオマーカーである好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)および/または腎障害分子1(KIM-1)の増加を防止することを提供する。
【0079】
他の実施形態では、本開示は、急性腎障害(AKI)に罹患している、または罹患するリスクのある被験者において、MAAまたはOxPLを含むOSEの血漿レベルを低下させる方法を提供する。該方法は、急性腎障害のリスクがある被験者または患者に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを投与し、それにより被験者におけるOSEの血漿レベルを低下させることを含む。特定の実施形態では、該被験者の腎臓は低酸素症である。特定の実施形態では、該急性腎障害は、腎虚血によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、心臓媒介性低灌流によって引き起こされる。特定の実施形態では、該心臓媒介低灌流は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせなどの心臓手術によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、胃バイパス手術、同所性肝移植、腹部大動脈瘤修復、造影剤誘発低酸素症、または薬物誘発低酸素症によって引き起こされる。
【0080】
本開示はまた、急性腎障害を有するか、またはそのリスクがある被験者の腎臓における尿細管上皮細胞損傷を低減または阻害する方法を提供する。該方法は、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与し、それにより被験者の腎臓の尿細管上皮細胞損傷を低減または阻害することを含む。特定の実施形態では、該被験者の腎臓は低酸素症である。特定の実施形態では、該急性腎障害は、腎虚血によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、心臓媒介性低灌流によって引き起こされる。特定の実施形態では、該心臓媒介低灌流は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせなどの心臓手術によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、胃バイパス手術、直交異方性肝移植、腹部大動脈瘤修復、造影剤誘発低酸素症、または薬物誘発低酸素症によって引き起こされる。
【0081】
本開示は、急性腎障害から被験者を予防または保護する方法を提供する。該方法は、被験者が心臓手術を受ける前、最中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、被験者を急性腎障害から予防または保護する方法は、被験者に心臓手術を受ける前、その間またはその後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、急性腎障害から被験者を予防または保護する方法は、心臓手術を必要とする被験者を特定し、被験者に心臓手術を受ける前、その間、またはその後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、該心臓手術は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせである。
【0082】
本開示はまた、急性腎障害の予防、急性腎障害の予防、急性腎の最小化のために被験者が心臓手術を受ける前、最中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与し、心臓手術後の被験者の傷害、または急性腎傷害を軽減する方法を提供する。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントは、被験者が心臓手術を受ける前、最中または後に複数回投与される。
【0083】
本開示はまた、急性腎障害から被験者を予防または保護する方法を提供する。該方法は、被験者が腎虚血を引き起こす手術または手術を受ける前、最中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、被験者を急性腎障害から予防または保護する方法は、手術または手術を必要とする被験者を特定し、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを、被験者が手術または手術を受ける前、最中または後に被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、該外科手術または手術は、胃バイパス手術、同所性肝移植、または腹部大動脈瘤の修復である。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを、被験者が手術または手術を受ける前、最中または後に被験者に投与することは、急性腎障害の予防、急性腎障害からの保護、急性腎障害の最小化、または手術または手術後の被験者の急性腎障害の軽減に十分である。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントは、被験者が手術または手術を受ける前、最中または後に複数回投与される。
【0084】
本開示は、急性腎障害から被験者を予防または保護する方法を提供する。該方法は、虚血を誘発する薬物を投与する前、間または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、被験者を急性腎障害から予防または保護する方法は、虚血を誘発することが知られている薬物を必要とする被験者を特定し、虚血を誘発することが知られている薬物を投与する前、中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、虚血を誘発することが知られている薬物の投与前、投与中または投与後にMAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することは、虚血を誘発することが知られている薬物の投与後、急性腎障害の予防、急性腎障害からの保護、急性腎障害の最小化、または被験者の急性腎障害の軽減に十分である。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントは、虚血を誘発することが知られている薬物を投与する前に複数回投与される。虚血を誘発するいくつかのタイプの薬物が当技術分野で知られている。その非限定的な例には、シクロスポリンAおよびその構造類似体;ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、およびトランドラプリルなどのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えば、アスピリン(アセチルサリチル酸)、ジフルニサル、サルサレート、イブプロフェン、デキシブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デキケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタムなど トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラック、ジクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、およびセレコキシブが含まれる。特定の実施形態は、急性腎障害を治療、予防、または改善するためのPHD1特異的阻害剤を提供する。特定の実施形態では、該急性腎障害は低酸素症によって引き起こされる。特定の実施形態では、該急性腎障害は、腎虚血によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、心臓媒介性低灌流によって引き起こされる。特定の実施形態では、該心臓媒介低灌流は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせなどの心臓手術によって引き起こされる。
【0085】
本開示は、急性腎障害を治療するための医薬の調製のための、MAAおよび/またはOxPLを含む、OSEに結合する抗体または抗体フラグメントの使用を提供する。特定の実施形態では、該急性腎障害は低酸素症によって引き起こされる。特定の実施形態では、該急性腎障害は、腎虚血によって引き起こされる。特定の実施形態では、該腎虚血は、心臓媒介性低灌流によって引き起こされる。特定の実施形態では、該心臓媒介低灌流は、バイパス手術、冠動脈バイパス術、弁手術、または冠動脈バイパス術と弁手術の組み合わせなどの心臓手術によって引き起こされる。
【0086】
本開示はまた、被験者を虚血性再灌流障害から予防または保護する方法を提供する。該方法は、被験者が虚血性損傷を引き起こすリスクのある手術または手術を受ける前、最中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、該方法は、被験者が手術または手術を受ける前、最中または後に、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを被験者に投与することを含む。特定の実施形態では、該外科手術または手術は、胃バイパス手術、同所性肝移植、心臓バイパス手術、心臓手術、脳手術、ステント留置または除去、または腹部大動脈瘤の修復である。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントは、被験者が手術または手術を受ける前、最中または後に複数回投与される。
【0087】
本開示はまた、心臓発作、脳卒中、または他の虚血性事象を患った被験者における虚血性再灌流障害から被験者を予防または保護する方法を提供する。該方法は、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントを、被験者が心臓発作、脳卒中または虚血性事象を起こす前(例えば、持つリスクがある)、その間または後に投与することを含む。特定の実施形態では、MAAおよび/またはOxPLを含むOSEに結合する抗体または抗体フラグメントは、虚血性事象の前、間または後に複数回投与される。
【0088】
本明細書に記載されるように、心臓組織損傷は、誘発され得るか、または加齢に関連するかもしくは疾患の結果であり得る。心臓組織に関連して本明細書で使用される「誘発された損傷」は、心臓手術に起因する損傷などの損傷した心筋を指す。これは、冠状動脈バイパス手術、心臓移植、および左心室補助装置(LVAD)などの機械的支持装置の適用を含むが、これらに限定されない。
【0089】
本開示の抗体またはそのフラグメントを含む治療製剤および組成物は、所望の純度を有する抗体またはフラグメントを、任意の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington:薬学の科学と実践、第20版(2000))、と水溶液、凍結乾燥または他の乾燥製剤の形態で混合することにより調製される。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される用量および濃度でレシピエントに無害である。それには、リン酸、クエン酸、ヒスチジンおよびその他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなど;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、デキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩を形成する対イオン;金属錯体(例:Zn-タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤またはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。
【0090】
本明細書の製剤はまた、治療される特定の適応症に必要な場合に複数の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含んでもよい。そのような分子は、意図する目的に有効な量で組み合わせて適切に存在する。
【0091】
活性成分はまた、マイクロカプセルに封入されていてもよい。該マイクロカプセルが、例えば、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルションにおいて、コアセルベーション技術または、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルの界面重合によって調製される。このような技術は、Remington:薬学の科学と実践、第20版(2000)に開示されている。
【0092】
in vivo投与に使用される製剤は、無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜による濾過によって容易に達成される。
【0093】
徐放性調製物を調製することができる。徐放性調製物の適切な例には、本発明の免疫グロブリンを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、該マトリックスは、成形品、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタミン酸のコポリマー、非分解性エチレン -酢酸ビニル、LUPRON DEPOTなどの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドで構成される注射用ミクロスフェア)、およびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸などのポリマーは100日以上にわたって分子の放出を可能にするが、特定のヒドロゲルはより短い時間でタンパク質を放出する。カプセル化された免疫グロブリンが体内に長期間留まると、37℃の湿気にさらされた結果、変性または凝集して、生物活性が失われ、免疫原性が変化する可能性がある。関与するメカニズムに応じて、安定化のための合理的な戦略を考案できる。例えば、凝集メカニズムがチオジスルフィド交換による分子間S-S結合形成であることが判明した場合、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、含水量を制御し、適切な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することによって、安定化が達成できる。
【0094】
出願全体にわたって様々な用語が使用されている。以下の簡単な記述は、特定の用語の理解を助けるために提供されているが、特に明記されていない限り、限定を意味するものではない。
【0095】
本明細書で使用される「有害な心臓リモデリング」という語句は、左および右心室および/または右および左心房の損傷後の心臓のサイズ、形状、および関連機能の変化を指す。該損傷は通常、急性心筋梗塞(例えば、経壁性またはSTセグメント上昇梗塞など)または誘発された損傷(例えば、心臓手術など)が原因であるが、心臓の圧力または容量の過負荷(緊張の形)の増加をもたらすいくつかの原因が起因する可能性がある。心臓リモデリングには、肥大、心筋の薄化、心筋の瘢痕形成、心筋の萎縮、心不全の進行およびそれらの組み合わせが含まれる。慢性高血圧、川崎病、心臓内シャントを伴う先天性心疾患、および心臓弁膜症がリモデリングにつながる可能性がある。さらに、リモデリングは、冠状動脈バイパス手術、心臓移植、および左心室補助装置(LVAD)などの機械的支持装置の適用に起因する場合がある。
【0096】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、最も広い意味で互換的に使用され、モノクローナル抗体(例えば、全長または無傷のモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多特異性抗体(例えば、所望の生物学的活性を示す限り、二重特異性抗体)を含み、また、特定の抗体フラグメントを含み得る。抗体はヒト、ヒト化および/または親和性成熟したものであり得る。特定の実施形態では、本開示の抗体は、E06抗体と同じまたは実質的に同様の結合特異性でOSEおよび/またはOxPLに結合する。特定の実施形態では、本開示の抗体は、E06抗体のCDRを含む結合ドメインを含む。
【0097】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM、そしてこれらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2に分類できる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と三次元配置はよく知られている。
【0098】
「抗体フラグメント」は、無傷の抗体の一部のみを含み、その部分は、無傷の抗体に存在する場合、その部分に通常関連する機能の少なくとも1つ、より一般的にはほとんどまたはすべてを典型的に保持する。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント;二重特異性抗体;線形抗体;単鎖抗体分子(例:scFv);および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれる。一実施形態では、抗体フラグメントは、無傷の抗体の抗原結合部位を含み、したがって、抗原に結合する能力を保持する。別の実施形態では、抗体フラグメント、例えばFc領域を含むものは、抗体半減期調節などの無傷の抗体に存在する場合、Fc領域に通常関連する少なくとも1つの生物学的機能を保持する。一実施形態では、抗体フラグメントは、無傷の抗体と実質的に同様のin vivo半減期を有する一価抗体である。例えば、そのような抗体フラグメントは、フラグメントにin vivo安定性を与えることができるFc配列に連結された抗原結合アームを含み得る。しかし、それは認識されるべきこととして、特定の適応症(例:急性虚血/再灌流治療)では、抗体の長い半減期は必要ない。本開示の特定の実施形態では、抗体フラグメントの特定の例は、OSEおよび/またはOxPLに結合する。さらなる実施形態では、抗体フラグメントは、scFv-E06フラグメントを含む。
【0099】
「抗原」は、抗体が選択的に結合することができる所定の抗原である。標的抗原は、ポリペプチド、炭水化物、核酸、脂質、ハプテン、または他の天然または合成の化合物であり得る。本開示の一実施形態では、抗原はOSEを含む。別の実施形態では、抗原はOxPLである。
【0100】
「抗OSE抗体」という用語は、抗体がOSEで分子を標的化する際の診断および/または治療剤として有用であるように、十分な親和性で分子上のOSEに結合することができる抗体を指す。本開示のいくつかの実施形態では、抗OSE抗体は、E06抗体と同じまたは同様の結合特異性およびKdを有する。
【0101】
「抗OxPL抗体」または「OxPLに結合する抗体」という用語は、十分な親和性でOxPLに結合することができる抗体を指す。これにより、抗体がOxPLを標的とする診断および/または治療剤として有用である。本開示のいくつかの実施形態では、抗OxPL抗体は、E06抗体と同じまたは同様の結合特異性およびKdを有する。さらに別の実施形態では、抗OxPL抗体は、OxPLのPC頭部に結合する。
【0102】
「遮断」抗体または「拮抗」抗体は、それが結合する抗原の生物活性を阻害または低減するものである。特定の遮断抗体またはアンタゴニスト抗体は、抗原の生物活性を実質的または完全に阻害する。例えば、本開示の抗OSE抗体または抗OxPL抗体は、炎症を誘発する際の酸化特異的エピトープの生物活性を遮断する。
【0103】
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強さを指す。特に明記しない限り、本明細書で使用される「結合親和性」は、結合ペアのメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(Kd)で表すことができる。親和性は、本明細書に記載されているものを含む、当技術分野で既知の一般的な方法によって測定することができる。一般に、低親和性抗体は抗原との結合が遅く、解離しやすい傾向があるが、高親和性抗体は一般に抗原との結合が速く、結合が長く維持される傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野で知られており、それらのいずれも開示の目的で使用することができる。
【0104】
「生体試料」は、個体から得られた様々なサンプルタイプを包含し、診断またはモニタリングアッセイで使用することができる。この定義は、生物学的起源の血液および他の液体サンプル、生検標本または組織培養物またはそれらに由来する細胞などの固形組織サンプル、およびそれらの子孫を包含する。該定義には、試薬による処理、可溶化、またはタンパク質やポリヌクレオチドなどの特定の成分の濃縮、またはセクション化の目的で半固体または固体マトリックスに埋め込むなど、調達後に何らかの方法で操作されたサンプルも含まれる。「生体試料」という用語は、臨床サンプルを包含し、培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生物学的液体、および組織サンプルも含む。生体試料の供給源は、新鮮、凍結および/または保存された臓器または組織からの固形組織;サンプルまたは生検または吸引;血液または血液成分;脳脊髄液、羊水、腹水、間質液などの体液;妊娠中または被験者の発達中の任意の時点の細胞であり得る。いくつかの実施形態では、生体試料は、原発性または転移性腫瘍から得られる。生体試料は、防腐剤、抗凝固剤、緩衝液、固定剤、栄養素、抗生物質などのような、自然界で組織と自然には混合されない化合物を含んでもよい。生体試料は、治療前、治療中、および治療後のOSEのレベルを測定するために、虚血性または虚血性再灌流事象を有するまたは有すると疑われる被験者から収集され得る。
【0105】
「二重特異性抗体」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指す。そのフラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH)の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH-VL)を含む。同じ鎖の2つのドメイン間でペアリングするには短すぎるリンカーを使用することにより、ドメインは別の鎖の相補的ドメインとペアになり、2つの抗原結合部位が作成される。二重特異性抗体は、例えば、EP 404,097; WO 93/11161;およびHollingerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に完全に記載されている。三重特異性抗体および四重特異性抗体は、Hudsonら, Nat. Med. 9:129-134 (2003)にも記載されている。例えば、本開示の二重特異性抗体は、E06抗体に由来する第1結合ドメインおよび第1ドメインとは異なる配列を含み、OSEに対して親和性を有する第2結合ドメインまたはOSEとは異なる別個の標的に結合する第2結合ドメインを含み得る。
【0106】
「障害」または「疾患」は、本開示の物質/分子または方法を用いた治療から利益を受けるであろう任意の状態である。これには、急性虚血性事象および関連する病的状態が含まれる。
【0107】
「有効量」とは、虚血性再灌流傷害、酸化的損傷、アポトーシスおよび/または組織損傷の低減などの所望の治療または予防結果を達成するために必要な用量および期間で有効な量を指す。
【0108】
「Fv」は、完全な抗原認識および結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。2鎖Fv種では、この領域は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの2量体で構成され、密な非共有結合になっている。単鎖Fv種では、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインを柔軟なペプチドリンカーで共有結合して、軽鎖と重鎖を2鎖Fv種の構造に類似した「二量体」構造に関連付けることができる。この構成では、各可変ドメインの3つのHVRが相互作用して、VH-VLダイマーの表面に抗原結合部位を定義する。当技術分野で知られているように、6つのHVRは抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識して結合する能力を持っている。
【0109】
Fabフラグメントはまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含む。Fab'フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端にいくつかの残基が追加されている点でFabフラグメントとは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab'の本明細書における呼称である。F(ab')2抗体フラグメントは元々、間にヒンジシステインを持つFab'フラグメントのペアとして生成された。抗体フラグメントの他の化学的カップリングも知られている。
【0110】
抗体のパパイン消化は、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメント、およびその名前が容易に結晶化する能力を反映する残りの「Fc」フラグメントを生成する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を持ち、抗原を架橋することができるF(ab')2フラグメントが生成される。
【0111】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0112】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含むキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントのHVRからの残基が非ヒト種(所望の特異性、親和性、および/または能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類など)のHVRからの残基(ドナー抗体)に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練するためになされてもよい。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、ここで、超可変ループのすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のものである。該ヒト化抗体は、場合により、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含む。詳細については、例えば、Jonesら, Nature 321:522-525 (1986); Riechmannら, Nature 332:323-329 (1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。また、例えば、Vaswani および Hamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995); Hurle および Gross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);および米国特許第6,982,321号および第7,087,409号を参照されたい。
【0113】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものであり、および/または本明細書に開示されるヒト抗体を作製するための技術のいずれかを使用して作製されている。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外している。
【0114】
抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含む当技術分野で知られている様々な技術を用いて生成することができる。HoogenboomおよびWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991); Marksら, J. Mol. Biol., 222:581(1991) を参照されたい。また、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できるのは、Coleら, モノクローナル抗体と癌治療, Alan R. Liss, p. 77 (1985); Boernerら, J. Immunol., 147(1):86-95 (1991) に記載された方法である。また、van Dijkおよびvan de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001) も参照されたい。ヒト抗体は、抗原負荷に応答してそのような抗体を産生するように改変されているが、その内因性遺伝子座が無効になっている形質転換動物、例えば免疫化異種生物に抗原を投与することにより調製できる(例えば、米国特許第6,075,181号および第6,150,584号を参照されたい)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体に関しては、例えば、Liら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) を参照されたい。留意が重要なこととして、「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される天然に存在する抗体を包含せず、ヒト被験者が「外来」と認識しないエピトープまたは抗原性フラグメントを含まない抗体を指している。
【0115】
用語「超可変領域」、「HVR」、または「HV」(これらは、「可変性決定領域」または「CDR」と呼ばれる場合があることに注意)は、本明細書で使用される場合、配列が超可変であるか、構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体には6つのHVRが含まれ、VHドメインに3つ(H1、H2、H3)、VLドメインに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3とL3は6つのHVRの中で最も多様性を示し、特にH3は抗体に優れた特異性を付与する上で独特の役割を果たすと考えられている。例えば、Xuら, Immunity 13:37-45 (2000);JohnsonおよびWu, in Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, N.J., 2003)を参照されたい。実際、重鎖のみからなる天然に存在するラクダ科抗体は、軽鎖がない場合でも機能的で安定している。例えば、Hamers-Castermanら, Nature 363:446-448 (1993); Sheriffら, Nature Struct. Biol. 3:733-736(1996)を参照されたい。
【0116】
「個体」、「被験者」、または「患者」は脊椎動物である。特定の実施形態では、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳類には、家畜(牛など)、スポーツ用動物、ペット(猫、犬、馬など)、霊長類、マウス、ラットが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0117】
本明細書で使用される場合、「虚血/再灌流事象」には、心筋虚血、心筋再灌流、くも膜下出血、虚血性脳卒中(脳血栓症、脳塞栓症、および心房細動に起因する脳卒中を含む)、出血性脳卒中(動脈瘤および動静脈奇形に起因する脳卒中を含む)、および一過性虚血性心臓発作冠動脈バイパスなどの肺の機械が使用され、移植のための臓器の保存が含まれるが、これらに限定されない。
【0118】
本明細書で使用される場合、「虚血/再灌流傷害」は、虚血期間の後、血液供給が組織に戻る際に引き起こされる組織の損傷を指す。血液からの酸素と栄養素の欠如は、正常な機能の回復ではなく、循環の回復が酸化ストレスの誘導を通じて炎症と酸化的損傷をもたらす状態を作り出す。
【0119】
「単離された」核酸分子は、抗体核酸の天然の供給源において通常関連している少なくとも1つの汚染核酸分子から同定および分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、それが自然に見られる形態または環境以外のものである。したがって、単離された核酸分子は、天然の細胞に存在するので、核酸分子と区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が天然細胞のそれとは異なる染色体位置にある場合に、通常は抗体を発現する細胞に含まれる核酸分子を含む。
【0120】
本明細書で使用される場合の「標識」という用語は、核酸プローブまたは抗体などの試薬に直接的または間接的に結合または融合され、それが結合または融合される試薬の検出を容易にする化合物または組成物を指す。標識は、それ自体が検出可能(例えば、放射性同位元素標識または蛍光標識)であってもよく、または酵素標識の場合、検出可能な基質化合物または組成物の化学変化を触媒してもよい。
【0121】
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(K)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプの1つに割り当てることができる。
【0122】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、起こり得る突然変異、例えば、少量で天然に存在する突然変異を除いて同一であり得る。したがって、修飾語「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。特定の実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含む。ここで、標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの単一の標的結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られた。例えば、選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、または組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンからの独特のクローンの選択であり得る。理解しておくべきこととして、選択された標的結合配列をさらに変更して、例えば、標的への親和性を改善し、標的結合配列をヒト化し、細胞培養での生産を改善し、in vivoでの免疫原性を低下させ、多重特異性抗体を作成できる。そして、改変された標的結合配列を含む抗体もまた、本開示の目的のためのモノクローナル抗体である。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、それらが典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点で有利である。
【0123】
修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本開示にしたがって使用されるモノクローナル抗体は、様々な技術によって作製され得る。該技術について、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、KohlerおよびMilstein、Nature、256:495-97(1975); Hongoら、Hybridoma、14(3):253-260(1995)、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、(Cold Spring Harbour Laboratory Press、第2版1988); Hammerlingら、in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier、NY、1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい。)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clacksonら、Nature、352:624-628(1991); Marksら、J. Mol. Biol.222:581-597(1992); Sidhuら、J. Mol. Biol.338(2):299-310(2004); Leeら、J. Mol. Biol. 340(5):1073-1093(2004); Fellouse、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472(2004);およびLeeら、J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132(2004)を参照されたい。)、ヒト免疫グロブリン遺伝子座またはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の一部または全部を有する動物においてヒトまたはヒト様抗体を産生するための技術(例えば、WO 1998/24893; WO 1996/34096; WO 1996/33735; WO 1991/10741; Jakobovitsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551(1993);Jakobovitsら、Nature 362:255-258(1993); Bruggemannら、Year in Immunol.7:33(1993);米国特許第5,545,807;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;および第5,661,016号;Marksら、Bio/Technology 10:779-783(1992); Lonbergら、Nature 368:856-859 (1994); Morrison、Nature 368:812-813(1994); Fishwild ら、Nature Biotechnol.14:845-851(1996); Neuberger、Nature Biotechnol.14:826(1996); LonbergおよびHuszar、Intern. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)を参照されたい。)が含まれる。
【0124】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、特に、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体を含む。他の種に由来する、または別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体、およびそのような抗体のフラグメントが、所望の生物学的活性を示す限り、残りの鎖は対応する配列と同一または相同である(例えば、米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984)を参照されたい)。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が、例えば、被験者の抗原でマカクザルを免疫することによって産生される抗体に由来する抗体が含まれる。
【0125】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」は、必ずしもではないが一般に約200ヌクレオチド長未満である短い、典型的には単鎖ポリヌクレオチドを指す。「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という用語は、相互に排他的ではない。ポリヌクレオチドの記載は、オリゴヌクレオチドにも等しく完全に適用できる。
【0126】
「酸化リン脂質(OxPL)」は、ホスホコリン(PC)頭部を有するリン脂質を指す。OxPLは炎症誘発性が高く、アテローム発生促進性がある。特定のリン脂質の極性頭部であるホスホリルコリンは、心血管疾患に広く関与している。冠状動脈の炎症の間に生成される活性酸素種は、低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を引き起こし、酸化LDL(oxLDL)を生成する。実際、アテローム性動脈硬化症、不安定狭心症、急性冠症候群などの心血管疾患(CVD)は、oxLDLの血漿濃度の上昇と関連していることが示されている(板部・上田、2007)。LDLは循環するリポタンパク質粒子で、PC極頭部とapoB100タンパク質であるタンパク質を有する脂質が含まれている。
【0127】
LDLの酸化中に、未修飾LDL上に存在しないネオエピトープを含むPCが生成される。oxLDLで新しく露出されたPCは、CD36などのマクロファージのスカベンジャー受容体によって認識され、結果として生じるマクロファージに包まれたoxLDLは、血管壁の炎症性泡沫細胞の形成に進む。酸化されたLDLは、内皮細胞表面の受容体によっても認識され、内皮機能障害、アポトーシス、アンフォールドタンパク質応答など様々な応答を刺激すると報告されている(Goraら,2010)。PCネオエピトープはまた、ホスホリパーゼA2または糖反応性タンパク質の酸化から生成されるアルデヒドなどのアミン反応性疾患代謝産物による修飾に続いて、LDLに暴露される。これらの交互に修飾されたLDL粒子は、CVDの炎症誘発性因子でもある。
【0128】
ホスホリルコリン(PC)に対する抗体は、酸化または他の方法で修飾されたLDLに結合し、生体内モデルまたは生体外研究においてoxLDLの炎症促進活性を遮断することが示されている(Shawら,2000; Shawら,2001)。
【0129】
「酸化特異的エピトープ(OSE)」は、炎症誘発性であり、酸化的、自然免疫および適応免疫応答に一体的に関与する「危険関連分子パターン(DAMP)」を指す。OSEには、OxPLおよびMDAエピトープが含まれるが、これらに限定されない。OSEは、宿主に有害であり、自然免疫システムが保護応答を提供するDAMPを表す。そのようなDAMPは、アポトーシス細胞、肺炎球菌などの感染性病原体および酸化脂質に存在する。そのようなDAMPに応答して、進化過程は、それらの前炎症効果を結合して中和するために自然免疫エフェクタータンパク質を保存および増幅した。最初の進化の圧力は、毎日何兆ものアポトーシス細胞を一掃する必要性から生じたかもしれないが、これは、類似のエピトープまたは分子模倣物を共有する一般的な感染性病原体、ならびに食事から誘導された酸化脂質および酸化ストレス後に生体内で生成されたものに繰り返しさらされることにより、その後増幅された可能性がある。
【0130】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAが含まれる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドまたは塩基、および/またはDNAまたはRNAポリメラーゼによって、または合成反応によってポリマーに組み込むことができるそれらの類似体であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリマーの組み立ての前または後に与えられてもよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断されている可能性がある。ポリヌクレオチドは、標識とのコンジュゲーションなどにより、合成後にさらに修飾することができる。他のタイプの修飾には、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドの類似体によるヌクレオチド間修飾が含まれる。例えば、非荷電結合を含むもの(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)と荷電結合を含むもの(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)などのペンダント部分を含むもの、インターカレーターを備えたもの(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤を含むもの(金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)、アルキル化剤を含むもの、結合が修飾されているもの(例えば、アルファアノマー核酸など)、およびポリヌクレオチドの修飾されていない形態。さらに、糖に通常存在するヒドロキシル基のいずれかを置き換えることができ、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって、標準保護基によって保護されるか、または活性化されて、さらなるヌクレオチドへのさらなる結合を調製するか、または固体もしくは半固体支持体に結合され得る。5'および3'末端OHはリン酸化するか、アミンまたは炭素数1~20の有機キャッピング基部分で置換できる。他のヒドロキシルも標準的な保護基に誘導体化することができる。ポリヌクレオチドは、当技術分野で一般に知られている類似の形態のリボース糖またはデオキシリボース糖も含むことができ、例えば、2'-O-メチル-、2'-O-アリル、2'-フルオロ-または2'-アジド-リボース、炭素環式糖類似体、α-アノマー糖、アラビノース、キシロースなどのエピマー糖、または リキソース、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環状類似体、およびメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシド類似体。1つ以上のホスホジエステル結合は、代替の結合基によって置き換えられてもよい。これらの代替の連結基には、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、「(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、COまたはCH2(「ホルムアセタール」)。ここで、各RまたはR'は独立してHまたは任意にエーテル(-O-)結合、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルジルを含む置換または非置換アルキル(1-20 C)で置き換えられている実施形態が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドのすべての結合が同一である必要はない。前述の記載は、RNAおよびDNAを含む、ここで参照されるすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0131】
「精製された」抗体または抗体フラグメント(例えば、scFv)は、その自然環境の成分から同定および分離および/または回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、診断または抗体の治療的使用、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が含まれる場合がある。いくつかの実施形態では、抗体は、(1)ローリー法によって測定されるように、抗体の95重量%超、典型的には99重量%超まで精製され、(2)スピニングカップシーケンサーを使用することにより、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで精製され、または(3)Coomassieブルーまたは銀染色を使用する還元または非還元条件下でのSDS-PAGEによって均質になるまで精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内のin situ抗体が含まれる。しかしながら、通常、精製された抗体は、少なくとも1つの精製工程により調製されるであろう。
【0132】
本明細書で使用される場合、「減少した心筋梗塞サイズ」は、治療を受けていない対照被験者の心筋梗塞のサイズと比較して、抗体または抗体フラグメントで治療された被験者の心筋梗塞のサイズの減少を指す。開示された方法において、「減少させる」は、心筋梗塞サイズの約5~80%(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%のいずれか、または前述のいずれかの間の百分率値)の減少を指し得る。当業者に周知されているように、心筋の変化、特に心筋梗塞のサイズの測定は、心エコー検査、心臓MRI、心臓CT、および心臓核スキャンなどの画像技術を使用して測定することができる。さらに、トロポニン、CK-MB(クレアチンキナーゼmb)、およびCPK(クレアチンホスホキナーゼ)を含む1つ以上のバイオマーカーの上昇は、心筋が死んだか、それとも瀕死しているかを示すことが知られている。バイオマーカーBNP(Bタイプナチュレチックペプチド)が心臓リモデリングのマーカーとして使用できるというエビデンスもある。
【0133】
心臓ストレスまたは損傷後の好ましい心臓リモデリングを促進または影響する治療法が望まれる。本明細書で使用する場合、「好ましい心臓リモデリング」は、心室のサイズ、形状、機能の維持、および心臓の損傷後に起こる心室壁の薄化および瘢痕の防止を指す。
【0134】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のV
HおよびV
Lドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にするV
HドメインとV
Lドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含む。
図1は、抗体とscFvの構造を示している。scFvに関する総説については、Pluckthun, モノクローナル抗体の薬理学、vol. 113, Rosenburg およびMoore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0135】
本明細書で使用される「実質的に類似」または「実質的に同じ」という用語は、2つの数値間の十分に高い程度の類似性を示す(例えば、1つは本開示の抗体に関連し、もう1つは参照/比較抗体に関連する)。当業者が、2つの値の間の差が、値(例えば、Kd値)によって測定される生物学的特徴の文脈内で生物学的および/または統計的有意性がほとんどないか、または全くないと考える。前記2つの値の間の差は、参照/比較値の関数として、例えば、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、約2%未満、または約1%未満である。
【0136】
本明細書で使用される「実質的に低減された」または「実質的に異なる」という語句は、2つの数値の間の、それぞれ十分に高い程度の低減または差を表し(通常、1つは分子に関連付けられ、もう1つは参照/比較分子に関連付けられる)、当業者が、2つの値の間の差が、前記値(例えば、Kd値)によって測定された生物学的特性の文脈内で統計的に有意であると見なす。前記2つの値の間の差は、参照/比較分子の値の関数として、例えば、約10%超、約20%超、約30%超、約40%超、および/または約50%超である。
【0137】
本開示の抗体または抗体フラグメントの「治療的有効量」は、個体の病状、年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望の応答を誘発する抗体または抗体フラグメントの能力などの要因によって異なり得る。治療上有効な量はまた、抗体または抗体フラグメントの毒性または有害な影響が、治療上有益な効果によって補われる量でもある。「予防的有効量」とは、所望の予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。典型的ではあるが必ずしもそうではないが、予防用量は疾患の前または初期段階で被験者に使用されるので、予防的有効量は治療的有効量より少ないであろう。
【0138】
「組織虚血」または「組織虚血性」または「組織虚血性状態」は、起源が病理学的である医学的事象、または組織の領域への循環である、被験者に課される外科的介入を指す。血管れん縮または脳虚血の一過性虚血発作(TIA)のように一時的に、または脳または心虚血の血栓性閉塞のように永続的に、減少、妨害、または遮断される。影響を受けた領域は、虚血性事象の結果として、酸素と栄養素が剥奪される。該剥奪は影響を受けた領域の梗塞の負傷につながる。虚血は、例えば、脳卒中、心停止、外傷または内出血による重度の失血、および正常な血流を妨害する他の同様の状態の間に脳で発生する。虚血は、例えば、アテローム性動脈硬化症およびCHFの結果として心筋組織に発生する。浮腫によって引き起こされた圧力が組織内の動脈と静脈を圧迫して平らにし、それによって組織を介して血液を運ぶ能力が低下するため、組織への外傷後にも発生する可能性がある。脳虚血はまた、心肺バイパス手術の後に起こり得るような、マクロ塞栓または微小塞栓の結果として起こり得る。本明細書で使用される場合、「非心血管」虚血状態は、心肺系または循環系の虚血状態を特に除外する。本明細書で使用される場合、「非脳」虚血状態は、特に脳の虚血状態を除外する。
【0139】
組織虚血状態は、脳虚血;腸虚血;脊髄虚血;心血管虚血;心筋梗塞に関連する心筋虚血; CHFに関連する心筋虚血、加齢性黄斑変性症(AME)に関連する虚血;肝虚血;腎臓/腎虚血;皮膚虚血;血管収縮誘発組織虚血;持続勃起症および勃起不全の結果としての陰茎虚血;血栓塞栓症に関連する虚血;微小血管疾患に関連する虚血;糖尿病性潰瘍、壊疽状態、外傷後症候群、心停止蘇生法、低体温症、末梢神経損傷または神経障害に関連する虚血からなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、該組織虚血状態は、脳虚血または心虚血である。
【0140】
本明細書で使用される場合、「治療」は、治療される個体または細胞の自然な経過を変化させる試みにおける臨床的介入を指し、予防のために、または臨床病理の経過中に行うことができる。治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の防止、症状の緩和、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の減少、疾患の進行率の低下、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後の改善が含まれる。いくつかの実施形態では、本開示のscFv(ヒト化または非ヒト化)または本開示のヒト化抗体は、疾患または障害の発症を遅延させるために使用される。
【0141】
抗体結合ドメインとの関連で、「可変」という用語は、可変ドメインの特定の部分が抗体間で配列が大きく異なるという事実を指し、特定の抗原に対する各特定の抗体の結合および特異性に使用される。ただし、可変性は抗体の可変ドメイン全体に均一に分布していない。それは、軽鎖および重鎖可変ドメインの両方において、相補性決定領域または超可変領域(CDRまたはHVR、本明細書では互換的に使用される)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。ネイティブ重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFR領域で構成され、主に(3シート構成、3つのHVRで接続されたループを形成し、場合によっては(3シート構造の一部を形成する)ループを形成する。各鎖のHVRは、FR領域によって近接してまとめられ、他の鎖のHVRと一緒に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、National Institute of Health、Bethesda、MD(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関与していないが、抗体依存性細胞毒性への抗体の関与など、様々なエフェクター機能を発揮する。
【0142】
「変異Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾、典型的には1つまたは複数のアミノ酸置換により、天然配列Fc領域のものとは異なるアミノ酸配列を含む。典型的には、変異Fc領域は、天然配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、例えば、約1から約10のアミノ酸置換、典型的には、親ポリペプチドの天然配列Fc領域またはFc領域における約1~約5アミノ酸置換を有する。本開示のバリアントFc領域は、天然配列Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、それと少なくとも約90%の相同性、および典型的にはそれと少なくとも約95%の相同性を有する。
【0143】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図されている。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントが連結され得る環状の二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターは、ファージベクターである。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムに連結することができる。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自律複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主ゲノムとともに複製することができる。さらに、特定のベクターは、それらが機能的に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形である。
【実施例】
【0144】
以下の実施例は、例示を意図するものであり、本開示を限定するものではない。それらは使用され得るものの典型であるが、当業者に知られている他の手順が代わりに使用されてもよい。
【0145】
材料:合成標準品1,2-ジノナノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DNPC)、1-パルミトイル-2-(5-オキソバレロイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POVPC)、1-パルミトイル-2-グルタロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PGPC)、1-パルミトイル-2-アゼラオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PAzPC)、1-パルミトイル-2-(9-オキソ)ノナノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PONPC)、およびLPSを含まないIgMマウス天然抗体E06は、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)から入手した。1-(パルミトイル)-2-(5-ケト-6-オクテン-ジオイル)-3-ホスホコリン(KOdiAPC)および1-パルミトイル-2-(4-ケト-ドデシ-3-エン-ジオイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(KDdiAPC)はCayman Chemicals(Ann Arbor、MI)から購入した。すべての溶媒はHPLC級であった。
【0146】
ラット心筋細胞の細胞培養:実施されたすべての動物実験は、動物実験に関するNIHガイドラインに準拠している。新生ラット心筋細胞(NNCM)は、1~2日齢のSprague-Dawleyラットの子から分離された。頸部脱臼後、正中胸骨切開によりラットの子から心臓全体を切除した。心臓を洗浄して細かく刻み、肉眼で見える構造を適切に分解した後、10g/Lのグルコースを含む冷たいフィルター滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再洗浄し、赤血球と破片を除去した。コラゲナーゼ(740U)、トリプシン(370U)、およびDNase(2880U)(Worthington Biochemical)を用いて、10分間および7分間の消化を3回繰り返し、心臓フラグメントの酵素消化を繰り返した。消化した上澄み液を遠心分離して細胞ペレットにし、1.05、1.06、および1.082g/mLのPercoll(登録商標)(GE Healthcare)グラジエントを用いて細胞タイプを分離し、筋細胞が豊富な層を分離した。線維芽細胞を除去するために、細胞をコーティングされていない150mm培養プレートに45分間予めプレーティングした。精製したNNCM(サルコメア染色で95%の純度)を、細胞密度1.75 x 106/35-mmプレートで無菌組織培養プレートに移した。24ウェルの組織培養プレートのコラーゲンコーティングされたガラス製カバースリップを顕微鏡分析に使用し、NNCMを3.2 x 105/ウェルでプレーティングした。細胞は、2mMグルタミン、3mM NaHCO3、15mM HEPES、および50mg/mLゲンタマイシン(DMEM/F12)と10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコの改変イーグル培地/ハムの栄養素混合物F-12(1:1)で一晩培養した。翌日、10%FBSを含むDMEM/F12を無血清DMEM/F12(DFSF)に変更した。コントロール溶液は、140mM NaCl、6mM KCl、1.25mM CaCl2、6mM HEPES、およびpH7.4に緩衝された10mM D-グルコースで構成され、虚血溶液はpH 6.0に緩衝され、8mM KClが添加され、D-グルコースが追加された。虚血緩衝液は、細胞に適用される前に、95%N2および5%CO2ガスを培地に1時間バブリングすることによって酸素をパージした。37℃のウォータージャケット付き組織培養インキュベーターでの保管用に設計された低酸素チャンバーを使用して、95%N2および5%CO2ガスの雰囲気を18時間一晩維持した。再灌流は、通常の培養インキュベーターで4時間、細胞にコントロール緩衝液を適用することで達成された。処理後、細胞を少量のPBSにかき落とした。心筋細胞溶解物をウエスタンブロット分析にかけた。
【0147】
E06-scFv形質転換マウスの生成および特徴付け:E06-scFv-Tgと呼ばれる一本鎖可変抗体フラグメントとしてのT15/E06イディオタイプを発現する形質転換C57BL / 6マウスの製作。簡単に言えば、重鎖と軽鎖のE06可変領域をコードするcDNAをオーバーラップPCRによって15アミノ酸ペプチドとリンクし、分泌用のマウスIgκ鎖リーダー配列およびエピトープタグとしてのc-mycおよびpolyHisを含む発現ベクターpSecTag2A(Invitrogen)にクローニングした。HEK293細胞を遺伝子導入し、培養上清に分泌されたE06-scFvの結合特性は、無傷のE06の結合特性を模倣することが示された。次に、同じ構築物を肝臓特異的発現ベクターpLiv7にクローン化し、apoEプロモーターによって駆動されるE06-scFv導入遺伝子を発現するC57BL/6バックグラウンドで形質転換(Tg)マウスを生成するために使用した。子孫は、血漿E06-scFv力価と、尾DNAのPCR増幅による導入遺伝子の組み込みの両方についてスクリーニングされた。形質転換E06-scFvファンダーラインを互いに繁殖させて「ホモ接合」形質転換マウスを生成し、次に、これらをC57BL/6バックグラウンドでLdl-/-マウスに交配した。すべての動物をそれぞれE06-scFvおよびLdlr-/-について遺伝子型分類し、免疫アッセイによってE06-scFvの発現を確認するために血漿アッセイを行った。E06-scFv mRNAは、肝臓、腹腔マクロファージ、脾臓で強く発現し、心臓ではそれほど発現しなかった。これらの研究では、E06-scFvの血漿レベルは平均で20~30 μg/mlであった。
【0148】
ラットおよびマウスにおける虚血再灌流手術:雄のSprague-Dawleyラット(200グラム)に冠動脈結紮術を行った。該手順は、マスク上で2L/minの3%イソフルランと酸素を使用して麻酔下で行った。心筋虚血は、左前下行枝の閉塞によって生じた。1~1.5 cmの側方開胸切開を胸骨の左側に、胸骨と平行に行った。左冠状動脈を6-0モノフィラメント縫合糸で結んだ。対照動物では、縫合糸を動脈の周りに置いたが、結ばなかった。虚血の60分後、縫合糸を取り除き、心臓を再灌流させた。該胸を重ねて閉じ、脱気し、動物を回復させた。術後鎮痛は、手術後1時間で、合計3回の注射で8時間ごとに、皮下ブプレノルフィン0.03~0.05 mg/kgで提供された。24時間後、動物を3%イソフルランで鎮静させ、2D心エコー検査を繰り返し、その後、心臓を摘出し、1mmの断面をリピドミクス分析およびトリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色用に作成した。各群でN = 10。ラットの研究では、心筋虚血のECGと2Dの両方の心エコーのエビデンスを示した心臓のみがIR群に選択された。エクスビボでの脂質過酸化を最小限に抑えるために、体から取り出した直後に、心筋組織を液体窒素に瞬間凍結した。心臓組織全体を液体窒素で粉砕し、得られた組織を、DNPC(10ng/100μl)を内部標準として、0.01%BHTを抗酸化剤の存在下でFolch抽出した。
【0149】
成体(18~20週齢)E06-scFv-Tg/Ldlr-/-マウスまたは体重16~40グラムのLdlr-/-マウスを、ケタミン(50mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の混合物および1.0%イソフルランで麻酔した。マウスに圧換気装置(Kent Scientific、PhysioSuite)で挿管した。最大吸気圧は約13 cm H2Oで、吸気速度は100~110であった。胸部中央の皮膚を剃毛し、ベタジンまたはクロルヘキシジン溶液で洗浄した。皮膚の切開は、胸骨中央の線は左脇の下に向かって開き、胸部は胸骨の左側に沿って横方向に1 cm切り取って開き、3番目と4番目の肋骨の間を切って心臓の左心室を露出させた。上行大動脈と主肺動脈が確認され、左前下行(LAD)冠状動脈は、心臓の前壁を横切るときに、左心室と右心室の間にあった。LAD冠状動脈閉塞は、8-0プロレン縫合結紮糸を2-0シルク縫合糸に結ぶことにより行われた。動脈の閉塞は、LAD冠状動脈の灌流領域のブランチングと、四肢誘導心電図リードの急性STセグメント上昇によって評価された。60分の虚血期間の後、縫合糸をLAD冠状動脈の周りから取り除いた。再灌流は、心外膜冠状動脈の血流の戻りを観察することにより確認された。
【0150】
梗塞サイズの組織学的評価:手術の1週間後、50単位のヘパリンの腹腔内投与後、マウスを最終麻酔で安楽死させた。心臓を直ちに採取し、氷冷緩和溶液A(120 mmol/L NaCl、20 mmol/L NaHCO3、11 mmol/Lグルコース、5.4 mmol/L KCl、1.2 mmol/L MgCl2、10 mmol/L 2,3-ブタンジオン2-モノオキシム)に浸した。上行大動脈にカニューレを挿入し、80mmHgの圧力でランゲンドルフ灌流装置に接続された21ゲージの鈍針を介して心臓を逆行的に灌流した。虚血再灌流手術後、LAD冠状動脈の周囲に残った縫合糸を再結紮し、溶液Aの1%(w/v)エバンスブルー(EB)色素を注入し、リスク領域(AAR)を定義した。冠状動脈の再閉塞の失敗により、最終分析から動物が除外された。次に、心臓スライサー(Zivic Instruments)を使用して心臓を1mmスライスに切断し、PBS中の1.5%(w/v)トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)で培養した。TTCにより、生存可能な心筋は赤レンガ色に染まり、梗塞は淡い白に見える。AARおよび梗塞領域(IA)のサイズは、ImageJを使用してコンピューター化された面積測定法によって定量化された。動物のIDは、染色手順と面積測定を行った実験者にとって匿名のままであった。
【0151】
OxPL質量分析:PCを含むリン脂質はNNCMから抽出された。細胞培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。各ウェルを、0.01%BHTを含む1 mLのメタノール/酢酸(3%v/v)溶液にかき取り、10 mLのガラス製コニカルチューブに移し、N2(g)中で蓋をした。10ナノグラムのDNPCが、定量目的で各サンプルに内部標準として追加された。BHTを含む2ミリリットルのヘキサンをチューブに加え、N2(g)中で蓋をし、5秒間ボルテックスした後、4℃、3500 rpmで5分間遠心分離した。次に、ガラスのパスツールピペットを使用して上層のヘキサン層を吸い上げ、廃棄した。ヘキサン/BHT洗浄を3回繰り返し、N2(g)中で蓋をし、5秒間ボルテックスし、各洗浄後に遠心分離した。最後のヘキサン/BHT洗浄後、BHTを含む2 mLのクロロホルムと750μLのPBSをチューブに加え、上記のようにボルテックスし、遠心分離した。ガラスのパスツールピペットを使用して下の有機層を除去し、清潔な15 mLガラスコニカルチューブに移し、窒素エバポレーターを用いて溶液を吸引し、その後、-80℃で保存するために、300 μLのクロロホルム/メタノール(2:1 v/v)に再溶解した。
【0152】
OxPLの分離は、逆相(RP)クロマトグラフィーを使用して行われた。抽出した心臓を、注入直前に、60:40のアセトニトリル:水、10 mMギ酸アンモニウムおよび0.1%ギ酸からなるRP溶離液で再構成した。30マイクロリットルのサンプルをAscentis Express C18 HPLCカラム(15 cm×2.1 mm、2.7 μm; Supelco Analytical、Bellefonte、Pennsylvania, USA)に注入し、Shimadzu Corporation(Canby、Oregon, USA)のProminence UFLCシステムで分離した。溶出は、溶媒A(アセトニトリル/水、60:40、v/v)と溶媒B(イソプロパノール/アセトニトリル、90:10、v/v)の線形勾配(両方の溶媒に10 mMギ酸アンモニウムと0.1%ギ酸を含有)で行った。使用した移動相の組成は以下の通りである:イニシャル32%B、4.00分まで;45%Bに切り替え;5.00分:52%B; 8.00分:58%B;11.00分:66%B;14.00分:70%B; 18.00分:75%B;21.00分:97%B;25.00分:97%B; 25.10分:32%B。分析には260 μl/minの流量を使用し、サンプルトレイとカラムオーブンはそれぞれ4℃と45℃に保持した。
【0153】
OxPLの検出は、正極性モードでの質量分析によって行われた。MRMスキャンは、切断されたホスホコリン部分に対応する184.3 m/zのプロダクトイオンを使用して、6つの遷移で実行された。6つの市販標準品PONPC、POVPC、PGPC、PAzPC、KOdiAPC、およびKDdiAPCが注入され、正確なピークの割り当ては、保持時間と質量遷移に基づいた。質量分析の設定は次のとおりである:カーテンガス、26 psi; 衝突ガス、中;イオンスプレー電圧、5500 V;温度、500.0℃;イオン源ガス1, 40.0 psi;イオン源ガス2, 30.0 psi;非クラスター化電位、125 V、入口電位、10 V;衝突エネルギー、53 V; コリジョンセル出口電位、9 V; 滞留時間は50ミリ秒。外部質量校正は定期的に実行された。定量のために、6つの市販のOxPL標準品のそれぞれについて複数の反応モニタリング(MRM)検量線を作成し、相対応答に基づいてピークを正規化した。抽出中にすべてのサンプルに10ナノグラムの内部標準が追加された。AB Sciex(Framingham, Massachusetts, USA)のTurbo Vエレクトロスプレーイオン源を備えた4000QTRAP(登録商標)トリプル四重極質量分析計システムを液体クロマトグラフィーシステムに接続した。
【0154】
in vitro OxPC処理および細胞生存率の評価:新鮮なDFSFをガラスカバースリップ上のNNCMに適用し、PBSに超音波処理してミセルを形成する1、2、5、および10μMの濃度のOxPL脂質を補充した。4つのOxPL種、POVPC、PONPC、PGPC、およびPAzPCをNNCMプレートに4時間適用し、非酸化PC標準PSPCと比較した。次に、プレートをPBSで洗浄した後、NNCMが生体色素、カルセイン-アセトキシメチルエステル(AM)およびエチジウムホモダイマー-1(Invitrogen)を使用して細胞生存率を分析した。OxPL分子への暴露後のミトコンドリア透過性は、ガラス製カバーガラス上で培養された心筋細胞に適用された塩化コバルト(CoCl2)を含むカルセイン-AM蛍光色素の溶液を用いて、蛍光顕微鏡で監視した。
【0155】
細胞生存率に対する中和OxPLの効果を評価するために、IgM EO6抗体を細胞培養物内で10μg/mLの濃度で使用した。抗体は、細胞培養に直接適用するのに適した100μlのPBSに懸濁した100μgとして購入した。OxPLとの共処理は、各OxPL分子とPSPCの5μMで2時間であった。細胞生存率を上記のように評価した。顕微鏡検査はすべて、Olympus AX70顕微鏡で行い、CoolSnap(登録商標)カメラとImage Pro-Plus 5.1.2ソフトウェアを用いて写真を撮影した。画像は、Adobe Photoshop CS5.1ソフトウェアを用いて評価した。
【0156】
統計分析:Student's t検定を実行し、two-tailed分析によって各処理群をコントロールと比較した(P <0.05は有意性を表している)。すべてのデータは平均±標準偏差として表される。
【0157】
OxPLは、IR後にラット心筋細胞で生成される。コントロールおよびIR条件に曝された新生ラット心筋細胞(NNCM)を、6つの市販のフラグメント化されたOxPL種についてMRMを備えたLC/MS/MSで分析した。5つのOxPL分子POVPC(m/z 594)、PGPC(m/z 610)、PONPC(m/z 650)、PAzPC(m/z 666)およびKOdiA-PC(m/z 664)は、コントロールとシミュレートされたIR条件の両方の細胞抽出物で同定された(
図3A~3E)。シミュレートされたIRにさらされたNNCMで、識別された4つのOxPLの生成が大幅に増加した(
図3F)。PONPC(32.7±3.2~53.0±9.1ng/mgタンパク質、p <0.001)、POVPC(15.6±1.5~23.1±1.7 ng/mgタンパク質、p<0.05)PGPC(2.5±1.2~6.1±2.1 ng/mgタンパク質、p<0.05)、およびPAzPC(5.0±1.5~9.9±3.8ng/mgタンパク質、p<0.01)の質量に大幅な増加が認められた。
【0158】
冠状動脈IR中にラット心筋で発生したOxPLの変化を調査した。1時間の虚血とその後の24時間の再灌流(
図4A)の後、測定されたOxPL種の5つでラット心筋内の有意な増加があり、PONPCが最も豊富な分子である(
図4B)。IR条件にさらされた培養液中の心筋細胞と比較して、IR条件にさらされたラットの心筋で識別されたOxPL種の間で比較的大きいPAzPCの濃縮があった。
【0159】
OxPLは、in vitroでラット心筋細胞の細胞死を引き起こす。実験を行って、IRを受けた心筋層の抽出物で特定された特定のOxPL種が細胞生存率に影響を与えるかどうかを判断した。したがって、同定されたOxPLは培養下でNNCMと一緒にインキュベートされ、非酸化リン脂質と比較して、その効果が細胞生存率について評価された(
図5A)。OxPLの投与量を増やすと、カルセインAM染色された生細胞の数が徐々に減少し、それに対応してエチジウムホモダイマー1染色された死んだ細胞も増加した。各OxPL種は、濃度依存的なパターンで有意な細胞死をもたらした(
図5B)。PONPCは、コントロールと比較した場合、心筋細胞死の最も強力な誘導因子であり、1、2、5、および10μMでそれぞれ28.3±8.9%、42.0±6.2%、70.0±18.6%、および81.2.6±15.1%となった(p<0.001)。POVPCは、細胞死の強力な誘導因子でもあり、10 μmで68.6±14.8%であった(
図5)。非酸化コントロールPSPC処理NNCMは、1、2、5、および10μMで、それぞれ7.6±5.1%、9.1±10.5%、10.5±1.6%および5.5±1.6%で細胞死の有意でない増加を示した(vs. 7.0±1.1%対照、p>0.05)。
【0160】
E06によるOxPLの中和は、in vitroでの細胞死を減弱させる。OxPLの不活性化が細胞死を防ぐかどうかを調査するために、心筋細胞をE06の非存在下または存在下で5μMのPONPCおよびPOVPCに曝露した。E06の存在下では、OxPLを介した心筋細胞の細胞死は、PSPCコントロールの処理レベル近くまで緩和された(
図6A)。10μg/ mLのE06はPOVPC誘発細胞死を74.6%(22.6±4.14%vs 8.0±1.6%、p<0.05)、PONPC誘発細胞死を74.7%(25.3±3.4%vs 6.4±1.0%、p<0.05)抑制した(
図6B)。PSPC処理で観察された細胞死の量は、E06同時処理の影響を受けなかった(E06を使用しない場合は6.2±1.6%、E06を使用した場合は6.3±1.1%)。
【0161】
OxPLの中和は、in vivoでのIR梗塞サイズを減少させる。次に、IR条件下での細胞死の媒介におけるin vivoでのOxPLの役割を評価するために、OxPLのin vivo中和がin vivoでIR梗塞サイズを減衰させるかどうかを評価する実験を行った。これを達成するために、E06(E06-scFv)の単鎖可変フラグメントを構成的に発現する形質転換マウスを利用した。E06-scFvはapoEプロモーターの制御下にあり、肝細胞とマクロファージから発現され、マウスの血漿中に20~30 ug/mLのレベルで存在する。E06-scFv-TgマウスをLdlr
-/-バックグラウンドで飼育した。14匹のE06-scFv-Tg/Ldlr
-/-マウスおよび15匹のLdlr
-/-動物を、縫合結紮、次いで再灌流により60分間の左前下行動脈(LAD)虚血に供した。IRの7日後、心筋梗塞のサイズを組織学的に評価した(
図7A)。2つの群の間でリスク領域(AAR)に有意差はなく、外科的虚血性損傷が群の間で同等であることを示している(
図7B)。次に、虚血領域(IA)を、梗塞サイズの指標として、AAR(IA/ARR)の百分率または左心室LV(IA/LV)の百分率として比較した。Ldlr
-/-マウスと比較して、該E06-scFv-Tg/Ldlr
-/-マウスは、65.9%小さいIA/AAR(47.7±17.6%対72.4±21.9%、p=0.023)(
図7C)、および58.8%小さいIA/LV比(16.3±7.5%対27.7±10.7%、p=0.025)(
図7D)を有した。
【0162】
質量分析光度法を使用して、IRに続いて生成されたOxPL種を識別するために、標的アプローチが使用された。このアプローチは、既知の標準品を使用して特定のOxPLを識別する際の精度を提供するが、POVPC、PGPC、PAzPC、PONPC、KOdiAPC、およびKDdiAPC以外のOxPL種またはIR損傷に対する非PCベースの酸化リン脂質の寄与を除外しない。ただし、E06がIR損傷を減衰させるという事実は、OxPL、特に本研究で調べたE06に拘束されるものは、臨床的に関連のある酸化リン脂質であることを示している。
【0163】
これらの研究は、心筋IR中の細胞死の媒体としてのOxPLの重要な役割、およびE06-scFvがIR梗塞サイズを減衰させることができることを特定している。E06-scFvは、IR損傷の有害な影響を防止し、急性心筋梗塞時の心臓の転帰を改善するための新しい潜在的な治療手段を表している。
【0164】
本明細書では、いくつかの実施形態について記載したが、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な修正を行うことができることが理解されよう。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
【配列表】