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特許7403166睡眠時無呼吸症候群判定装置、睡眠時無呼吸症候群判定装置の動作方法、及び、睡眠時無呼吸症候群判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】睡眠時無呼吸症候群判定装置、睡眠時無呼吸症候群判定装置の動作方法、及び、睡眠時無呼吸症候群判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20231215BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20231215BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/352 100
A61B5/0245 100D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020572122
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000529
(87)【国際公開番号】W WO2020166239
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2019023217
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】仲山 千佳夫
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 絢子
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221750(WO,A1)
【文献】特開2016-214491(JP,A)
【文献】仲山千佳夫, 藤原幸一, 松尾雅博, 加納学, 角谷寛,睡眠時無呼吸症候群スクリーニングを目的とした睡眠時心拍データへのサポートベクターマシンの適用,第59回システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集,日本,2015年05月20日,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08-5/097
A61B 5/352
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の睡眠期間における心拍間隔(R-R Interval: RRI)を示すRRIデータを用いて前記被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理部を備え、
前記処理部は、
前記睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成し、
再帰型ニューラルネットワークに、前記特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、前記睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出し、
前記指標に基づいて、前記被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する、よう動作する
睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項2】
前記再帰型ニューラルネットワークは、特徴ベクトルが入力されたことに応答して前記識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習されている
請求項1に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項3】
前記再帰型ニューラルネットワークはLSTM(Long Short-Term Memory)である
請求項1又は2に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項4】
前記識別対象期間は固定の期間長を有し、
前記特徴ベクトルは、前記識別対象期間の前記複数の心拍間隔それぞれを示すRRIデータ群の時系列からなる可変長ベクトルである
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記再帰型ニューラルネットワークに前記特徴ベクトルを入力する際に、心拍間隔の異常値を示す閾値より大きい心拍間隔を含む前記複数の心拍間隔から生成された前記特徴ベクトルを入力しない
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項6】
前記特徴ベクトルを生成することは、前記複数の心拍間隔それぞれの値を標準化することを含む
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項7】
前記指標は、前記睡眠期間に対する前記無呼吸状態の期間の比率であり、
前記判定することは、前記比率が睡眠時無呼吸症候群であることを示す閾値より大きい場合に、前記被験者を睡眠時無呼吸症候群であると判定することを含む
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の睡眠時無呼吸症候群判定装置の動作方法であって、
前記処理部によって、
前記睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、
再帰型ニューラルネットワークに、前記特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、前記睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、
前記指標に基づいて、前記被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を実行することを備える
睡眠時無呼吸症候群判定装置の動作方法
【請求項9】
コンピュータに、被験者の睡眠期間における心拍間隔を示すRRIデータを用いて前記被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理を実行させるプログラムであって、
前記睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、
再帰型ニューラルネットワークに、前記特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、前記睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、
前記指標に基づいて、前記被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を実行させる
睡眠時無呼吸症候群判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、睡眠時無呼吸症候群判定装置、睡眠時無呼吸症候群判定方法、及び、睡眠時無呼吸症候群判定プログラムに関する。本出願は、2019年2月13日出願の日本出願第2019-023217号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)とは、睡眠時に呼吸停止又は呼吸量が減少する(以下、この状態を無呼吸とも言う)疾患である。具体的には、無呼吸が7時間の睡眠中に30回以上、又は、1時間あたり5回以上生じる症状である。無呼吸は、睡眠中に生じる10秒以上の気流停止状態を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-214491号公報
【発明の概要】
【0004】
特許文献1は、心拍計測器で得られる被験者の心拍データから心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)指標を算出し、心拍変動指標に基づいて、睡眠中における所定期間ごとに被験者が無呼吸又は低呼吸であるか正常呼吸であるかを識別するものである。これにより、被験者の呼吸状態の時間的な変動を知ることができる。
【0005】
SASは、日中の過度な眠気及び集中力の低下をもたらすため、交通事故のリスク要因になる。また、SASは、様々な生活習慣病及びその重症化の原因となり、循環器障害、糖代謝異常、脂肪代謝異常などを引き起こすことが知られている。そのため、SASであるか否かの判定が高精度で行われることが望まれる。
【0006】
そこで、本願発明者らは、特許文献1のような睡眠期間中における所定期間ごとの呼吸状態を判定する手法を応用して、さらに、被験者がSASであるか否かを高精度で判定できる手法を提案する。
【0007】
ある実施の形態に従うと、睡眠時無呼吸症候群判定装置は、被験者の睡眠期間における心拍間隔(R-R Interval: RRI)を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理部を備え、処理部は、睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成し、再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出し、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する、よう動作する。
【0008】
他の実施の形態に従うと、睡眠時無呼吸症候群判定方法は、被験者の睡眠期間における心拍間隔を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する方法であって、睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を備える。
【0009】
他の実施の形態に従うと、睡眠時無呼吸症候群判定プログラムは、コンピュータに、被験者の睡眠期間における心拍間隔を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理を実行させるプログラムであって、睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る睡眠時無呼吸判定装置(以下、判定装置)を備えるシステムの構成の概略を示す図である。
図2図2(a)は心電信号の一例を示す図であり、図2(b)はR波データを示す図である。
図3図3は、特徴ベクトルを説明するための図である。
図4図4は、判定装置での判定処理の流れを表したフローチャートである。
図5図5は、発明者らによる評価試験で評価された各手法の判定条件を表した図である。
図6図6は、評価試験における被験者の属性を示した図である。
図7図7は、評価試験における第1手法での判定結果を示した図である。
図8図8は、評価試験における第2手法での判定結果を示した図である。
図9図9は、評価試験における第3手法での判定結果を示した図である。
図10図10は、評価試験における第4手法での判定結果を示した図である。
図11図11は、評価試験における第5手法での判定結果を示した図である。
図12図12は、評価試験における各手法での判定結果の評価値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1.睡眠時無呼吸症候群判定装置、睡眠時無呼吸症候群判定方法、及び、睡眠時無呼吸症候群判定プログラムの概要]
【0012】
(1)本実施の形態に含まれる睡眠時無呼吸症候群判定装置は、被験者の睡眠期間における心拍間隔(R-R Interval: RRI)を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理部を備え、処理部は、睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成し、再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力することによって出力される、入力された特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出し、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する、よう動作する。
【0013】
本願発明者らによる評価試験の結果、識別モデルとして再帰型ニューラルネットワークを採用することが、再帰型ニューラルネットワーク以外の識別モデルに対して心拍間隔から算出された指標値を入力するより格段に判定精度が向上することが検証された。従って、この睡眠時無呼吸症候群判定装置は、高精度でSAS患者を判定することができる。
【0014】
(2)好ましくは、再帰型ニューラルネットワークは、特徴ベクトルが入力されたことに応答して識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習されている。本願発明者らによる評価試験の結果、識別対象期間の複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを入力値とし、特徴ベクトルが入力されたことに応答して識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習されている再帰型ニューラルネットワーク採用することが、再帰型ニューラルネットワーク以外の識別モデルに対して心拍間隔から算出された指標値を入力するより格段に判定精度が向上することが検証された。従って、この睡眠時無呼吸症候群判定装置は、高精度でSAS患者を判定することができる。
【0015】
(3)好ましくは、再帰型ニューラルネットワークはLSTMで(Long Short-Term Memory)ある。本願発明者らが再帰型ニューラルネットワークの中で高い性能を誇ることが知られているLSTMを用いて評価試験を行った結果、再帰型ニューラルネットワークとしてLSTMを用いることによって、より判定精度が向上することが検証された。
【0016】
(4)好ましくは、識別対象期間は固定の期間長を有し、特徴ベクトルは、識別対象期間の複数の心拍間隔それぞれを示すRRIデータ群の時系列からなる可変長ベクトルである。本願発明者らによる評価試験の結果、特徴ベクトルを可変長とする方が固定長とするよりも、より判定精度が向上することが検証された。
【0017】
(5)好ましくは、処理部は、再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力する際に、心拍間隔の異常値を示す閾値より大きい心拍間隔を含む複数の心拍間隔から生成された特徴ベクトルを再帰型ニューラルネットワークに入力しない。これにより、入力値が正常値であるか否かの判定(正常値判定)を行った結果、正常値と判定された心拍間隔のみから生成された特徴ベクトルのみ再帰型ニューラルネットワークに入力される。本願発明者らによる評価試験の結果、正常値判定を行うことによってより判定精度が向上することが検証された。
【0018】
(6)好ましくは、特徴ベクトルを生成することは、複数の心拍間隔それぞれの値を標準化することを含む。これにより、被検者の個人差が排除され、判定精度を向上させることができる。
【0019】
(7)好ましくは、指標は、睡眠期間に対する無呼吸状態の期間の比率であり、判定するステップでは、比率が睡眠時無呼吸症候群であることを示す閾値より大きい場合に、被験者を睡眠時無呼吸症候群であると判定する。これにより、被験者がSASであるか否かが容易に判定される。
【0020】
(8)本実施の形態に含まれる睡眠時無呼吸症候群判定方法は、被験者の睡眠期間における心拍間隔を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する方法であって、睡眠期間における識別対象期間の複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、特徴ベクトルが入力されたことに応答して当該特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習された再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力するステップと、入力に応答して再帰型ニューラルネットワークの出力する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を備える。この方法は、(1)~(7)の睡眠時無呼吸症候群判定装置における判定方法である。そのため、この方法は(1)~(7)の睡眠時無呼吸症候群判定装置と同じ効果を奏する。
【0021】
(9)本実施の形態に含まれる睡眠時無呼吸症候群判定プログラムは、コンピュータに、被験者の睡眠期間における心拍間隔を示すRRIデータを用いて被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理を実行させるプログラムであって、睡眠期間における連続する複数の心拍間隔を含む特徴ベクトルを生成するステップと、特徴ベクトルが入力されたことに応答して当該特徴ベクトルに含まれる複数の心拍間隔に対応する識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習された再帰型ニューラルネットワークに特徴ベクトルを入力するステップと、入力に応答して再帰型ニューラルネットワークの出力する識別対象期間ごとの値から、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出するステップと、指標に基づいて、被験者が睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定するステップと、を実行させる。このプログラムによりコンピュータを(1)~(7)の睡眠時無呼吸症候群判定装置として機能させることができる。そのため、このプログラムは(1)~(7)の睡眠時無呼吸症候群判定装置と同じ効果を奏する。
【0022】
[2.睡眠時無呼吸症候群判定装置、睡眠時無呼吸症候群判定方法、及び、睡眠時無呼吸症候群判定プログラムの例]
【0023】
図1に示された、本実施の形態に係る睡眠時無呼吸判定装置1を備えるシステム100は、睡眠時無呼吸判定装置(以下、「判定装置」という)1と心拍計測器2とを含む。判定装置1と心拍計測器2とは互いに通信可能である。通信は、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。
【0024】
心拍計測器2は、被験者Pの身体に取り付けられ、被験者Pの心拍を計測するための小型軽量なウェアラブル端末である。心拍計測器2には、被験者Pの体表に取り付けられる複数(図1では3つ)の電極21Aが接続されている。3つの電極21Aは、たとえばプラス電極、マイナス電極、及び、接地電極である。なお、心拍計測器2として機能するウェアラブル端末としては、例えば、心拍計測機能を有するスマートウォッチがあげられる。なお、ウェアラブル端末自体が、判定装置1及び心拍計測器2として機能してもよい。
【0025】
図2(a)の縦軸は電位、横軸は時間を示している。電極21Aを用いて心拍を計測すると、図2(a)に示されたように、心電信号には、P~T波からなる電位変化が周期的に現れる。単位周期の電位変化の中で最も電位の高いピークをR波といい、R波のタイミングで心室筋が収縮する。心拍計測器2は、心拍データを判定装置1に送信する。心拍データは、一例としてRRIデータである。RRIデータはRRI(R-R Interval)を示す。
【0026】
RRIは、R波から得られる特徴値である。図2(a)の心電信号に対応するRRIデータは、図2(b)に示されたように、心電信号におけるR波に対応する期間(信号強度Iが所定の強度閾値Ithを超える期間)が「1」に設定され、それ以外の期間が「0」に設定された矩形パルス列における、R波の各間隔であるRRIを示す。
【0027】
判定装置1は、心拍計測器2から送信された被験者Pの睡眠期間におけるRRIデータを受信し、RRIデータを用いて判定処理を実行することで、被験者Pが睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する。
【0028】
なお、他の例として、心拍計測器2から送信される心拍データは、心電波形を表す数値群、又は、心電波形そのものを示すデータであってもよい。この場合、判定装置1は、心拍計測器2から受信したデータからRRIを算出し、後述の判定処理に用いる。
【0029】
図1に示されたように、判定装置1は、処理部10及び記憶装置20を備えるコンピュータによって構成される。記憶装置20は、処理部10に接続されている。処理部10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。判定装置1は、心拍計測器2との間で通信するための通信部30をも備える。通信部30は、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信のための通信機構であってもよいし、無線LAN(Local Area Network)のための通信機構であってもよい。通信部30は、処理部10に接続されている。通信部30は、心拍計測器2からの心拍データを入力する入力部として機能する。
【0030】
判定装置1を構成するコンピュータは、例えば、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末であるのが好ましい。この場合、被験者Pが保有するモバイル端末を判定装置1として活用できて、好ましい。なお、モバイル端末は、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスであってもよい。判定装置1を構成するコンピュータは、複数であってもよい。例えば、判定装置1は、複数台のモバイル端末の連携によって構成されてもよい。複数台のモバイル端末は、例えば、スマートフォン及びスマートウォッチである。
【0031】
また、判定装置1を構成するコンピュータは、インターネット等のネットワーク上のサーバコンピュータであってもよい。この場合、被験者Pの心拍計測器2から送信されたRRIデータは、インターネット等のネットワークを介して、サーバコンピュータに送信される。サーバコンピュータが睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する場合には、ネットワークを介して、被験者Pの端末(モバイル端末等)へ報知すればよい。
【0032】
判定装置1の記憶装置20には、判定処理を処理部10に実行させるためのコンピュータプログラム21が記憶されている。処理部10が、コンピュータプログラム21を実行することで、コンピュータは、判定装置1として機能する。
【0033】
判定処理は、被験者Pの睡眠期間におけるRRIデータを用いて被験者Pが睡眠時無呼吸症候群であるか否かを判定する処理であって、生成処理と、識別処理と、算出処理と、を含む。
【0034】
生成処理は、睡眠期間における所定期間のRRIデータ群から特徴ベクトルを生成する処理である。特徴ベクトルは、後述する識別処理に入力値として用いられるものであって、上記所定期間における被験者の睡眠状態を示す複数の特徴を1つにまとめたものである。処理部10は、生成処理を実行する生成部11として機能する。すなわち、後述する識別処理の対象となる期間である識別対象期間として、予め規定された期間が設定され、その識別対象期間内に測定された心電波形からRRIを時系列に並べて特徴ベクトルとする。
【0035】
固定された期間である識別対象期間に測定されるRRIの数は、一定数ではない。そのため、特徴ベクトルの要素数は可変である。つまり、生成される特徴ベクトルは可変長ベクトルとなる。心拍計測器2で、期間T1,T2について図3に示された心電波形が測定され、RRIデータが得られた場合、生成部11は、下に示された期間T1,T2における特徴ベクトルFV1,FV2を生成する。
FV1={925,905,…,885}
FV2={935,…,915}
【0036】
好ましくは、生成処理は、RRIが正常値であるか否かを判定する正常値判定処理を含む。生成部11は、正常値判定処理を実行する正常値判定部12を含む。正常値判定部12は、RRIの閾値(例えば、2000msec)を予め記憶しておき、RRIと比較して異常、正常を判定する。RRIの異常値は、例えばアーチファクトなどの要因で発生する。生成部11は、睡眠期間における各識別対象期間のうち、含まれるすべてのRRIが正常と判定された識別対象期間のみ特徴ベクトルを生成し、1つでも異常なRRIが含まれた識別対象期間については特徴ベクトルを生成しない。又は、生成された特徴ベクトルのうち、1つでもRRIが異常と判定された識別対象期間についての特徴ベクトルについては、判定処理に用いる特徴ベクトルとしない。正常値判定が行われることによって、生成された特徴ベクトルは異常値を含まなくなる。つまり、正常な値のRRIからなる特徴ベクトルのみ判定処理に用いられる。その結果、判定精度を向上させることができる。
【0037】
なお、特徴ベクトルの生成方法としては、固定数の連続するRRIを用いて生成する方法であってもよい。この場合、特徴ベクトルの要素数は一定となって特徴ベクトルは固定長となる。逆に、識別対象期間は可変長となる。
【0038】
この場合、固定数の連続するRRIの中に期外収縮による異常値が含まれると、期外収縮自体が一拍分とカウントされるため、その固定数のRRIに対応する識別対象期間は、期外収縮が生じなかった場合の識別対象期間より短くなる。
【0039】
係る点を考慮すると、判定装置1では、固定数のRRIを用いるより、固定長の期間である識別対象期間に含まれる連続する複数のRRIから可変長の特徴ベクトルを生成して判定処理に用いることが好ましい。なお、特徴ベクトルが可変長である場合、識別モデルとしては可変長ベクトルが入力可能である再帰型ニューラルネットワーク(以下、RNNとも表す)が用いられる。
【0040】
好ましくは、生成処理は、識別対象期間のRRI群を標準化する標準化処理を含む。生成部11は、標準化処理を実行する標準化処理部13を含む。標準化処理は、例えば、正規化処理であって、例えば、識別対象期間のRRI群を、下の式を用いて、所定期間におけるRRIの平均が0、分散が1のデータに変換する処理である。これにより、被検者の個人差が排除され、判定精度を向上させることができる。
zi=(xi-μ)/σ
(xiは各RRI、μは平均値、σは標準偏差を表す。)
【0041】
なお、特徴ベクトルの他の例として、複数のHRV指標からなるベクトルとすることも考えられる。HRV指標は、例えば、以下の(1)~(11)のうちの2以上の指標とすることができる。HRV指標を用いた睡眠状態の識別は、一例として、被験者が無呼吸であるか正常呼吸であるかを睡眠中の各時間について識別し、被験者が無呼吸であるか正常呼吸であるかの時間的変動を取得する判定手法において行われる。この判定手法では、識別モデルの一例として、HRV指標が与えられると無呼吸の状態と正常呼吸の状態とを識別するサポートベクタマシンが用いられる。
(1)meanNN:RRIの平均。
(2)SDNN:RRIの標準偏差。
(3)Total Power:RRIの全パワースペクトル。
(4)RMSSD:n番目のRRIとn+1番目のRRIの差の2乗の平均値の平方根。RRIの変動が多いと値は大きくなり、自律神経系の活動の指標となる。
(5)NN50:n番目とn+1番目のRRIの差異が50ミリ秒を超えた数。普通のRRIの変動は50ミリ秒以下であり、NN50は激しい変動の指標となる。
(6)pNN50:NN50の値の全R波の数に対する割合。NN50は回数なので、一般に窓幅が長ければ大きな値となってしまう。pNN50を考えることで、大きな変動が起こる割合を把握できる。
(7)LF:LF帯(0.04Hz~0.15Hz)の周波数帯のパワースペクトル。LFは主に交感神経系の活動の指標とされる。
(8)HF:HF帯(0.15Hz~0.4Hz)の周波数帯のパワースペクトル。HFは主に副交感神経系の活動の指標とされる。
(9)LF/HF:LF/HFで定義されるLFとHFとの比で、交感神経系と副交感神経系との活動状況の比と考えられる。LF/HFは、交感神経優位で値が大きくなり、副交感神経優位で値が小さくなる。
(10)LFnu:LF/(LF+HF)で定義される補正LF。交感神経活動の変化を強調する。
(11)HFnu:HF/(LF+HF)で定義される補正HF。副交感神経活動の変化を強調する。
【0042】
ここで、RRIは被験者の心電波形から直接求められる値であり、連続するRRIは被験者の睡眠期間中の心電波形の特徴を直接的に表している値群であると言える。発明者らは、HRV指標がRRI又はRRIに関連した値から算出される指標であるため、RRIほど直接的に表してはいないと分析した。そこで、発明者らはこの分析に立ち、RRIそのものから特徴ベクトルを生成して後述の識別処理に用いることにした。これにより、HRV指標から生成された特徴ベクトルを用いるよりも、より直接的な心電波形の特徴を後述の識別処理に用いることになる。その結果、判定精度を向上させることができる。
【0043】
識別処理は、識別対象期間ごとに睡眠状態が無呼吸状態であるか正常状態であるかを識別する処理である。処理部10は、識別処理を実行する識別部14として機能する。識別部14は識別モデル15を含む。識別モデル15は、特徴ベクトルが入力されたことに応答して当該特徴ベクトルに対応する識別対象期間の睡眠状態を示す値を出力するよう予め機械学習により学習されている。
【0044】
識別モデル15は、例えば、図3に示された特徴ベクトルFV1,FV2を学習用の特徴ベクトルとすると、特徴ベクトルFV1,FV2の入力に対して、それぞれ、例えば、無呼吸状態を示す「1」、及び、正常呼吸状態を示す「0」を出力するように学習されている。無呼吸状態は、無呼吸又は低呼吸の状態を指す。無呼吸の状態は、10秒以上換気が停止する状態と定義されている。低呼吸の状態は、呼吸気流が50%以上低下した状態が10秒以上継続する状態と定義されている。これにより、識別対象期間ごとに、呼吸状態を示す値の出力が得られる。
【0045】
判定装置1においては、識別モデル15として再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を利用する。RNNは、例えば、Simple RNN(単純再帰型ニューラルネットワーク)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GRU(Gated Recurrent Unit)、Bi-directional RNN、Attention RNN、QRNN(Quasi-Recurrent Neural Network)などである。
【0046】
なお、RNNとは異なる識別モデルの他の例として、SVM(Support Vector Machine)が挙げられる。SVMは、上記の特許文献1において用いられている。従って、識別モデル15としてSVMのようなRNNではないモデルを用いることも考えられる。
【0047】
ここで、RNNは、ニューラルネットワークのうち、入力値から出力値に至る中間層のうちのある層の出力が、次の入力値から出力値に至る中間層の入力に利用されるモデルである。言い換えると、ニューラルネットワークの出力を別のネットワークの入力として利用するような再帰的構造を持ったニューラルネットワークである。RNNでは中間層同士が時系列に沿って直線的に結合されている。そのため、RNNでは、ある時点の入力値が、その時点以降の入力値に対する出力値に影響を及ぼす。つまり、RNNは過去のデータを基に予測する、言い換えると、時系列データに基づいた学習を行うモデルである。この点がSVMのようなRNNではないモデルとは異なる。
【0048】
この点、判定装置1は、識別モデル15に識別対象期間のRRIを時系列に並べて構成される特徴ベクトルを入力する。そのため、識別モデル15への入力値は時間的な連続を有する。連続するRRIは被験者の睡眠状態を連続して表している値であるため、連続するRRIは時系列的な関連を有している。そこで、発明者らは、このような特徴ベクトルを用いる場合には、時系列データに基づいた学習を行うRNNの方が、そうでないSVMのようなモデルよりも、連続した生体反応に対応した値をより高精度に出力するとの結論に達した。そこで、識別モデル15としてRNNを利用することとした。
【0049】
識別部14は、識別モデル15に睡眠期間における所定期間ごとの特徴ベクトルを入力し、識別モデル15から識別対象期間ごとの値の出力を得る。識別対象期間ごとの値は、例えば、上記の、無呼吸状態を示す「1」、及び、正常呼吸状態を示す「0」である。
【0050】
算出処理は、睡眠期間における無呼吸状態の期間と正常呼吸状態の期間との比率に基づく指標を算出する。処理部10は、算出処理を実行する算出部16として機能する。指標は、例えば、下の式で表される、睡眠期間tに対する無呼吸状態の期間taの比であるAS(Apnea/Sleep)比Aである。無呼吸状態の期間taは、無呼吸状態と識別された識別対象期間の合計である。なお、指標はAS比に限定されず、他の例として、正常呼吸状態の期間に対する無呼吸状態の期間の比率であってもよい。
A=ta/t×100[%]
【0051】
判定処理においては、算出された指標の指標値(AS比)Aと、SASと判定し得る閾値THとの比較に基づいて被験者PがSASであるか否かを判定する。処理部10は、この判定を行う判定部17として機能する。判定部17は、AS比Aが閾値TH以上の場合(A≧TH)に、被験者PをSASと判定する。そうでない場合(A<TH)には、被験者PをSASではないと判定する。AS比Aを用いることにより、被験者PがSASであるか否かが容易に判定される。
【0052】
システム100のユーザ(被験者P)は、心拍計測器2を身体に取り付け、判定装置1を枕元等の心拍計測器2と通信可能な位置に配置して就寝する。そして、判定装置1では、図4のフローチャートに示される方法で被験者PがSASであるか否かが判定される。
【0053】
図4を参照して、心拍計測器2によって測定された被験者PのRRIデータが判定装置1に入力される(ステップS101)。心拍計測器2による心拍の計測は被験者Pが起床するまで行われ、ステップS101では被験者Pが起床するまでのRRIデータが入力される。
【0054】
判定装置1の処理部10は、識別対象期間ごとのRRIデータを時系列に並べて特徴ベクトルを生成する(ステップS103)。その際、処理部10は、RRIデータの示す値(RRI)それぞれについて予め記憶している閾値と比較して正常値であるか否かを判定する(ステップS1031)。そして、すべて正常値である識別対象期間について特徴ベクトルを生成する。また、処理部10は、識別対象期間内のRRIを正規化し(ステップS1033)、正規化したRRIで特徴ベクトルを生成する。
【0055】
処理部10は、各識別対象期間について生成された特徴ベクトルを再帰型ニューラルネットワークである識別モデル15に入力する(ステップS105)。これにより、再帰型ニューラルネットワークからの出力値として、識別対象期間ごとに睡眠状態が無呼吸状態であるか正常呼吸状態であるかを示す値を得ることができる。
【0056】
処理部は、睡眠期間全体tについて無呼吸状態の期間taを参照して、睡眠期間全体tに対する割合であるAS比Aを算出する(ステップS107)。AS比Aが予め記憶している閾値TH以上(A≧TH)である場合(ステップS109でYES)、処理部10は、被験者PがSASである(SAS患者)とする判定結果を出力する(ステップS111)。そうでない場合(A<TH)(ステップS109でNO)、処理部10は、被験者Pが正常である(非SAS患者)とする判定結果を出力する(ステップS113)。
【0057】
判定装置1が表示装置などの出力装置に接続されている場合、ステップS111又はステップS113の判定結果は、出力装置に送信されてもよい。これにより、表示などの出力装置での出力によって被験者PがSASであるか否かの判定結果を知ることができる。又は、判定結果は、通信部30から他の装置に送信されてもよい。他の装置としては、例えば、被験者Pのウェアラブル端末、医療機関の所有するサーバ装置、などである。これにより、他の装置を用いて被験者PがSASであるか否かの判定結果を知ることができる。
【0058】
[3.評価試験]
【0059】
発明者らは、上記の実施の形態に係る睡眠時無呼吸症候群の判定方法(以下、「提案手法」という)の性能を評価するために、臨床データを用いた評価試験を実施した。評価試験では、図5に示された判定条件での第1手法~第5手法でSASか否かの判定を行った。第1手法~第3手法は提案手法であり、第4手法及び第5手法は評価の基準として用いる比較例としての判定方法である。
【0060】
図5において、「入力値」は識別モデルへの入力に用いた値を示し、「識別モデル」は、所定期間の睡眠状態を識別するために用いた識別モデルを示している。また、「入力方法」は、特徴ベクトルの生成に用いるRRIの測定の仕方を示している。
【0061】
第1手法~第3手法では、「入力値」としてRRIデータから特徴ベクトルを生成して再帰型ニューラルネットワーク(RNN)である識別モデルに入力した。第1手法及び第3手法の識別モデルはRNNのうちのLSTMである。第2手法の識別モデルでは、RNNの他の例としてSimple RNNを用いた。なお、第1手法及び第2手法における特徴ベクトルは、固定の識別対象期間から得られた連続するRRIを用いた可変長ベクトルとした。識別対象期間の長さは60秒とした。
【0062】
第3手法における特徴ベクトルは、固定数の連続するRRIを用いた、固定長ベクトルとした。固定数は、計算時直前の60個とした。なお、第1手法~第3手法では、特徴ベクトルの際に、RRIに対して正常値判定を行い、正常値であるRRIのみからなる識別対象期間のRRIから得られた特徴ベクトルを識別モデルに入力した。
【0063】
第4手法は、上記の特許文献1で採用されている、HRV指標が与えられると無呼吸の状態と正常呼吸の状態とを識別するサポートベクタマシン(SVM)を用いた判定手法である。第5手法は、第4手法で用いた識別モデルを、SVMから提案手法で用いたRNNに変更した手法である。また、第5手法は、第1手法の識別モデルへの入力値をRRIからHRV指標に変更した手法でもある。
【0064】
第4手法及び第5手法では、RRIとは異なるHRV指標を識別モデルに入力した。識別モデルに入力したHRV指標は、上記の(1)~(11)のすべてとした。
【0065】
第4手法の識別モデルは、特許文献1に示された通り、RNNとは異なるSVMとした。第4手法では、特許文献1に示された通り、3分間の心拍を測定し、各計算時に算出される複数のHRV指標からなる特徴ベクトルをSVMに入力した。このとき、第4手法では、測定した心拍の正常値判定は行っていない。
【0066】
第5手法では、第1手法の特徴ベクトルの生成と同様に、第1の固定期間(ここでは180秒)に測定された連続したRRIから連続したHRV指標を算出して特徴ベクトルとし、第2の固定期間(ここでは60秒)ごとにLSTMに入力した。第5手法でも、測定されたRRIに対して正常値判定を行い、正常値であるRRIのみからなる固定期間のRRIから得られたHRV指標を識別モデルに入力した。
【0067】
第1手法~第5手法によって、それぞれ、図7図11に示された結果が得られた。各図の左側は識別モデル学習時の各被験者のAS比を表し、右側は学習済の識別モデルを用いた判定結果として各被験者のAS比を表している。識別モデルの学習時にSAS患者と非SAS患者とのAS比の閾値を設定した。判定処理では、その閾値を用いた。
【0068】
図6に属性が示された被験者群の心電の測定結果を用いて識別モデルの学習及び判定を行った。各判定方法での識別モデルの学習に用いたRRIデータを測定した被験者は、SAS患者13人、及び、非SAS患者18人である。また、判定処理に用いたRRIデータを測定した被験者は、SAS患者11人、及び、非SAS患者17人である。なお、図6における「AHI(Apnea Hypopnea Index)」は、SASの重症度の指標であって、1時間あたりの10秒以上の無呼吸状態の発生回数と定義されており、AHI≧15でSASと診断されている。
【0069】
図7図11の右側に示された判定結果から、図12に示されたように、各試験の評価値を算出した。図12に示された評価値は、下の式(1)~(4)で示された感度SE、特異度SP、陽性反応的中度PO、及び、陰性反応的中度NE、である。なお、式(1)~(4)において、aはSAS患者かつ「陽性」の被験者数、bは非SAS患者かつ「陽性」の被験者数、cはSAS患者かつ「陰性」の被験者数、及び、dは非SAS患者かつ「陰性」の被験者数を示す。ここで、「陽性」はAS比が閾値より大きい(例えばAS≧閾値TH、又は、AS>閾値TH)被験者、「陰性」は閾値より小さい(例えばAS<閾値TH、又は、AS≦閾値TH)被験者とする。
SE[%]=a/(a+c)×100 …式(1)
SP[%]=d/(b+d)×100 …式(2)
PO[%]=a/(a+b)×100 …式(3)
NE[%]=d/(c+d)×100 …式(4)
【0070】
図12を参照し、第1手法~第3手法と、第4手法とを比較すると、第1手法~第3手法は、いずれの評価値も第4手法より高い。第4手法は上記の特許文献1における、HRV指標が与えられると無呼吸の状態と正常呼吸の状態とを識別するサポートベクタマシンを用いた判定手法であるため、これら第1手法~第3手法は従来の判定手法より判定精度が高い。つまり、時系列に連続するRRIからなる特徴ベクトルをRNNに入力して得られた識別結果を用いて判定処理を行う判定方法(第1手法~第3手法)は、HRV指標をSVMに入力して得られた識別結果を用いた従来の判定方法より効果的であることが検証された。
【0071】
特に、第1手法及び第2手法は、いずれの評価値も90%を超える値であり、非常に精度が高い。さらに、第1手法は、すべての評価値が100%を示し、極めて高精度である。すなわち、識別モデルとしてRNNのうちの特にLSTMを用いることで、判定精度を極めて向上させることができる。従って、第1手法及び第2手法は従来の判定方法と比較して格段に効果的であることが検証された。
【0072】
なお、第3手法は第1手法における特徴ベクトルの生成方法を、可変長ベクトルから固定長ベクトルに変更したものである。これら手法の各評価値を比較すると第1手法が第3手法より格段に高いため、特徴ベクトルを可変長ベクトルとした方が固定長ベクトルとするより判定精度が高い。従って、特徴ベクトルを可変長ベクトルとした方が固定長ベクトルとするよりも効果的であることが検証された。
【0073】
なお、第1手法~第3手法のうち第1手法及び第2手法の各評価値は、第5手法より格段に高く、第5手法より判定精度が高い。そのため、仮に、第4手法において、識別モデルをSVMからRNNに変更した場合であっても、提案手法の第1手法及び第2手法は格段に効果的であることが検証された。
【0074】
また、第1手法と第5手法とは、識別モデルであるLSTMへの入力がRRIである点とHRV指標である点とのみが異なる。第1手法のすべての評価値は第5手法より格段に高く、第5手法より判定精度が高い。そのため、LSTMへの入力は、HRV指標よりRRIの方が効果的であることが検証された。さらに、第2手法は、識別モデルが同じRNNであって第1手法とは異なるSimple RNNであるために、判定精度が第1手法からやや劣るものの、すべての評価値が第5手法より高い。そのため、LSTMに限定されず、RNNへの入力もHRV指標よりRRIの方が効果的であることが検証された。
【0075】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 :睡眠時無呼吸判定装置(判定装置)
2 :心拍計測器
10 :処理部
11 :生成部
12 :正常値判定部
13 :標準化処理部
14 :識別部
15 :識別モデル
16 :算出部
17 :判定部
20 :記憶装置
21 :コンピュータプログラム
21A :電極
30 :通信部
100 :システム
A :AS比
FV1 :特徴ベクトル
FV2 :特徴ベクトル
I :信号強度
P :被験者
T1 :期間
T2 :期間
TH :閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12