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特許7403174研磨装置用の定盤及び研磨装置並びに研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】研磨装置用の定盤及び研磨装置並びに研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/12 20120101AFI20231215BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B24B37/12 D
H01L21/304 622F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021507152
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008613
(87)【国際公開番号】W WO2020189233
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2019052081
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503267238
【氏名又は名称】丸石産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢島 利康
(72)【発明者】
【氏名】飯田 松夫
(72)【発明者】
【氏名】二宮 大輔
(72)【発明者】
【氏名】龍野 慎平
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000671(JP,A)
【文献】特開2008-162240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/12
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤又は接着剤若しくは吸着材を備える研磨パッドを定盤本体に貼付け、前記研磨パッドによりワークを研磨する研磨方法において、
前記研磨パッドを貼付ける前の前記定盤本体に前記研磨パッドを貼り付ける面の表面の剥離力が0.08N/50mm以上5.0N/50mm以下の離型フィルム又は離型紙を粘着剤又は接着剤により固定して離型層を形成し、
その後、前記離型層に研磨パッドを貼付けてワークを研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
離型フィルム又は離型紙の表面は、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂からなるものである請求項1記載の研磨方法。
【請求項3】
研磨パッドは、研磨層に粘着剤又は接着剤を塗布することで構成されたものである請求項1又は請求項2記載の研磨方法。
【請求項4】
研磨パッドは、研磨層に吸着材を積層することで構成されたものであり、
前記吸着材は、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、及び末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、から選ばれる少なくとも1種のシリコーンを架橋させてなるシリコーン組成物からなるものである、請求項1又は請求項2記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体部品、電子部品等で使用される半導体ウエハ等の研磨工程で使用される研磨装置用の定盤(プラテン)に関する。詳しくは、研磨工程の際に研磨パッドを貼り付けるための定盤であって、研磨パッドの交換を効率的に行うことができる定盤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、ディスプレイ用ガラス基板、ハードディスク用基板といった半導体部品、電子部品の製造プロセスにおいて、基板表面の平坦化・鏡面化のための研磨工程を組み込むことが一般的となっている。図1は、一般的な研磨装置(片面研磨装置)及びそれによる研磨工程の概要を説明する図である。研磨工程においては、研磨パッドを研磨装置に固定した後、ウエハ等のワーク(被研磨部材)を研磨パッドに押圧し研磨スラリーを供給しながら、両者を相対的に摺動させて研磨を行っている。
【0003】
研磨パッドの固定に際しては、予め粘着テープ等の粘着剤を研磨パッドに接合し、粘着剤を介して研磨装置の定盤に貼り付けている(図1)。尚、定盤の研磨パッドを貼り付ける部位について、定盤本体又はプラテンと称されることがある。
【0004】
粘着剤による研磨パッドの固定方法については、研磨パッドの交換作業で手間がかかり、研磨工程の作業効率を大きく低下させる要因となっていた。即ち、研磨パッドの交換では、古い研磨パッドを定盤から剥がす必要があるが、そのときに定盤に粘着剤が残る場合がある。そして、新しい研磨パッドの固定前に、定盤に残った粘着剤を溶剤等で除去し清掃する工程が必要となり、交換作業を手間取らせるものであった。
【0005】
本願出願人は、上記従来の粘着剤による研磨パッドの固定方法に対し、所定の吸着材を利用した研磨パッド及びこれによる固定方法を提案している(特許文献1)。この研磨パッドは、定盤への貼り付け面に所定構成のシリコーン組成物からなる吸着材を設けたものである。この吸着材は、文字通りその吸着作用により研磨パッドを定盤に固定させるものであり、定盤から剥がした後でも残留物が生じない。また、この研磨パッドは、定盤から剥がした後でも再貼り付けが可能であり、再固定もスムーズに行うことができるため、研磨パッドの交換作業を効率的に行うことができる。これにより、研磨作業の効率化を図ることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3166396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の吸着材が付属された研磨パッドの有用性は確かなものであり、その普及が待たれるところである。しかし、現実には、従来の粘着剤を備える研磨パッドの使用例の方が未だ多いのが実情である。そのため、本出願人としては、上記の吸着材付の研磨パッドの利用拡大を図りつつ、従来の粘着剤付の研磨パッドに取扱い性向上への対応も考慮すべきと考えた。
【0008】
本発明は、以上のような背景のもとなされたものであり、粘着剤を備える研磨パッドを利用する研磨工程に際して、研磨パッドの固定作業及び交換作業を従来工程よりも容易にすることができる研磨装置の構成を明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
粘着剤を備える研磨パッドにおいて、作業効率状の問題の要因があるとしても、研磨パッドの構成を改良することは必ずしも優先すべきことではない。粘着剤を備える研磨パッドの改良によって課題解決可能となったとしても、それを広範な普及させることは容易ではない。これは、上記した本出願人による吸着材を備えた研磨パッドの例からも予測できる。
【0010】
また、本発明の課題が研磨パッドの固定及び交換を容易とすることにあるとしても、それのみを重視することも好ましくない。交換作業等における取扱い性が向上しても、研磨装置の本来の目的である研磨作業に支障をきたすような改良は避けるべきだからである。
【0011】
本発明者等は、上記の事情を踏まえた検討の結果、研磨装置の定盤の構成に着目した。そして、比較的簡易な構成を付与した定盤について、研磨作業における品質を維持しつつも、研磨パッドの交換作業の効率化が可能であることを見出し、本発明に想到した。
【0012】
即ち、本発明は、研磨装置に用いられ、研磨パッドが貼付けられる定盤において、定盤本体と、前記定盤本体の前記研磨パッドが貼付けられる面に形成された離型フィルム又は離型紙からなる離型層と、を含み、前記離型層は、表面の剥離力が0.08N/50mm以上5.0N/50mm以下であることを特徴とする研磨装置用の定盤である。
【0013】
上記の通り、本発明は定盤本体の表面に、離型フィルム又は離型紙により形成される離型層を付与した研磨装置用の定盤である。本発明では、離型層を介して定盤に研磨パッドを固定して研磨作業を行う。以下、本発明に係る定盤及びこれを適用する研磨装置、並びに研磨方法について説明する。
【0014】
(I)本発明に係る離型層を備える定盤
本発明に係る定盤において、離型層を形成する離型フィルム又は離型紙とは、樹脂フィルム基材又は紙基材を離型処理し、その表面において剥離作用を発現させたフィルム又は紙の総称である。ここでの剥離作用とは、各種粘着剤や塗料塗膜等に対して固着することなく剥離可能な状態で固定する作用である。かかる離型フィルム又は離型紙は、市販の粘着・接着テープ、シール、絆創膏、皮膚貼付用湿布剤等の粘着剤層上に積層されている。
【0015】
本発明においては、定盤の表面について所定範囲の剥離力を有する離型フィルム又は離型紙からなる離型層を形成する。離型層の剥離力を規定するのは、研磨パッド交換の効率化と研磨作業における作業性及び研磨品質との双方における最適化を図るためである。即ち、5.0N/50mmを超える剥離力の離型層は、研磨パッドの粘着剤による粘着力が強くなり過ぎて研磨パッドの交換効率が低下する。一方、以上0.08N/50mm未満となると、定盤に対する研磨パッドの固定が弱くなり、研磨作業中に研磨パッドのズレ、剥離が生じるおそれがある。また、研磨パッドに明確なズレが生じなくても、研磨パッドの研磨面の挙動が不安定になり、ワーク表面に傷やうねり・歪み等が生じるおそれがある。以上のような理由から、剥離力が規定された離型フィルム又は離型紙が適用される。
【0016】
剥離力とは、離型フィルム又は離型紙に貼付けた粘着剤を剥離するのに要する力である。本発明における具体的な指標としては、所定の粘着テープ(日東電工製「No.31B」(50mm幅))をフィルム等の離型層の表面に貼り付け、室温で2時間放置後に、フィルム等との剥離角度180°、剥離速度:300mm/分で粘着テープを剥離したときに引張試験機で測定された値である。
【0017】
上記のとおり、離型フィルム又は離型紙は、樹脂フィルム基材又は紙基材に離型剤を塗布して形成される素材である。離型剤としては、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、研磨パッドの粘着剤に対して上記した適切な剥離力を示すことができると共に、粘着剤の残留も少ない。本発明の定盤の離型層の表面は、これらの樹脂からなるものが好ましい。離型剤の具体的な組成としては、シリコーン系樹脂としては、オルガノポリシロキサン化合物の単独重合体、及び、オルガノポリシロキサン化合物とラジカル重合性モノマーとをラジカル重合している共有重合体等がある。また、長鎖アルキル系樹脂としては、長鎖アルキルペンダント型ポリマー(例えば、ピーロイル1010(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))が挙げられる。
【0018】
離型フィルムを構成する樹脂フィルム基材及び離型紙を構成する紙基材の構成については、特に制限はない。樹脂フィルム基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の樹脂製フィルムが用いられる。好ましくは、ポリエステル系樹脂であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)であり、特に好ましいのはPETである。紙基材としては、一般的な紙素材が適用できる。
【0019】
本発明の定盤では、上記した離型フィルム又は離型紙を定盤本体に固定して離型層を形成する。離型フィルム又は離型紙の厚さについては、特に限定されないが、50μm以上500μm以下とするのが好ましい。そして、離型フィルム又は離型紙は、粘着剤や接着剤によって定盤本体へ強固に固定されることが好ましい。そのための粘着剤及び接着剤としては、アクリル系、ゴム系の粘着剤やシリコーン系、エポキシ系の粘着材及び接着剤が挙げられる。
【0020】
以上説明した離型フィルム又は離型紙からなる離型層に対し、定盤は、基本的には従来と同様のものが適用される。定盤を特異な構成にすることは、本発明の利用にとって支障となるからである。研磨装置における定盤は、研磨パッドを保持すると共に、回転駆動してワークを研磨する部材である。また、定盤は、単一構造のものとは限らない。研磨パッドが固定される部材と、定盤を回転駆動させるため研磨装置の機械的手段に接続された部材等で複数部材に分割される定盤も知られている。本発明においては、研磨パッドが固定される部材をその形状や大小に依らず、定盤本体とする。
【0021】
研磨パッドが固定される定盤本体は、硬質で耐食性に優れた材料からなるものが好ましく、具体的には、ステンレス、鋳鉄、SiC等のセラミックスからなるものが好ましい。
【0022】
また、定盤本体の離型層(離型フィルム又は離型紙)が固定される面の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.01μm以上2.0μm以下であるものが好ましい。定盤本体の表面粗さが2.0μmを超えると、離型層となる離型フィルム又は離型紙の固定状態がわずかに不安定となり、研磨パッドのズレが生じて研磨精度が低下するおそれがある。定盤本体の表面粗さはできるだけ低減することが好ましいが、現実的な観点から0.01μmを下限値とする。尚、この表面粗さは定盤面内の平均値を採用することが好ましく、定盤の中心部、端部(外周部)等の2点以上の部位の表面粗さについての測定値の平均を定盤の表面粗さとすることが好ましい。
【0023】
(II)本発明に係る定盤を備える研磨装置
以上説明した本発明に係る定盤は、従来の研磨装置に接続することで研磨作業に供することができる。この本発明に係る定盤を備える研磨装置は、研磨パッドの脱着を伴う交換作業の効率が良好な研磨装置となる。
【0024】
研磨装置には、一基の定盤に貼付けられた研磨パッドよってワークの片面を研磨する片面研磨機(図1で例示)と、二基(一対)の定盤(上定盤、下定盤)のそれぞれに貼付けられた研磨パッドよってワークの両面を研磨する両面研磨機(図3で例示)がある。本発明の定盤は、片面研磨機及び両面研磨機の双方に適用できる。両面研磨機に本発明を適用する場合、いずれか一方の定盤に本発明を適用できるが、双方の定盤に本発明を適用することが好ましい。両面研磨機の双方の定盤に本発明を適用するとき、双方の定盤の離型層の剥離力を同じとすることができる。また、両面研磨機の下定盤は上定盤の荷重を受けていることを考慮し、下定盤及び上定盤の離型層に異なる剥離力を設定することもできる。
【0025】
(III)本発明に係る研磨方法
本発明の定盤の離型層となる離型フィルム又は離型紙は、単独の部材として入手可能である。よって、離型層を有しない従来の定盤の定盤本体に離型フィルム又は離型紙を固定して、それから研磨パッドを貼付けることで好適な研磨方法を実施できる。
【0026】
即ち、本発明の研磨方法は、定盤本体に研磨パッドを貼付け、前記研磨パッドによりワークを研磨する研磨方法において、前記研磨パッドの貼付け前に、表面の剥離力が0.08N/50mm以上5.0N/50mm以下の離型フィルム又は離型紙を前記定盤本体に固定して離型層を形成し、その後、前記離型層に研磨パッドを貼付けてワークを研磨することを特徴とする方法である。
【0027】
上記の本発明に係る研磨方法において、定盤本体に固定する離型フィルム又は離型紙は、上述したものと同様である。離型フィルム又は離型紙の表面は、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂からなるものが好ましい。離型フィルム又は離型紙は、これらの樹脂層を樹脂フィルム基材又は紙基材で支持させて構成される。樹脂フィルム基材又は紙基材は、上記と同様とする。
【0028】
定盤本体に離型フィルム又は離型紙を固定する際の固定方法は、粘着剤や接着剤によって定盤本体へ強固に固定されることが好ましい。粘着剤及び接着剤としては、アクリル系、ゴム系の粘着剤やシリコーン系、エポキシ系の粘着材及び接着剤が適用される。
【0029】
離型フィルム又は離型紙を定盤本体に固定した後、研磨パッドを定盤に貼付けて研磨作業を開始する。研磨パッドに関しては、従来の研磨パッドが使用される。研磨パッドは、ワークを研磨するための研磨層(研磨布)に、粘着剤又は接着剤を塗布して構成される。研磨層は、例えば、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等で形成された不織布、発泡成形体等からなる。研磨層に塗布される粘着剤又は接着剤としては、アクリル系、ゴム系の粘着剤やシリコーン系、エポキシ系の接着剤が挙げられる。
【0030】
本発明の研磨方法は、定盤の表面に離型層を形成することで、研磨パッドの交換作業の効率を向上させることを目的とする。その対象は、基本的に、粘着剤又は接着剤を備える研磨パッドである。但し、研磨パッドとして、所定構成のシリコーン組成物からなる吸着材を備えた研磨パッド(特許文献1)も使用可能である。シリコーン組成物からなる吸着材には、適度に強力な吸着力がある。本発明で定盤本体上に形成した離型層は、この吸着材を引き剥がすための力も軽減することができる。よって、本発明では、シリコーン組成物からなる吸着材を備える研磨パッドも有効に使用できる。
【0031】
シリコーン組成物からなる吸着材とは、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーン、及び末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンから選ばれる少なくとも1種のシリコーンを架橋させてなる組成物を積層して形成している。
【0032】
上記のシリコーンの具体例としては、直鎖状ポリオルガノシロキサンの例として化1の化合物が挙げられる。また、分枝状ポリオルガノシロキサンの例として化2の化合物が挙げられる
【0033】
【化1】
(式中Rは下記有機基、nは整数を表す)
【0034】
【化2】
(式中Rは下記有機基、m、nは整数を表す)
【0035】
化1、化2において置換基(R)の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換した同種又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基が挙げられる。好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものである。置換基は異種でも同種でもよい。また、このポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0036】
また、吸着材を構成するシリコーンは、数平均分子量が30000~100000のものが好適な吸着作用を有する。シリコーンの数平均分子量は、30000~60000のものが好ましい。
【0037】
離型層を介して定盤本体に研磨パッドを固定した後は、通常の方法でワークの研磨を行う。本発明は、片面研磨及び両面研磨の双方に適用できるので、両面研磨においては、上記した離型フィルム又は離型紙の固定及び研磨パッドの固定を各定盤について行う。そして、研磨作業に進行に伴い、必要に応じて研磨パッドの交換を行う。この際、定盤の離型層によって研磨パッドの効果作業をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明した本発明に係る研磨装置用定盤及び研磨方法によれば、従来から広く用いられている粘着剤を適用した研磨パッドによる研磨工程において、パッドの交換作業を容易とすることができる。本発明に係る定盤は、基本的な構成を従来の定盤と同じとしつつ、研磨品質を低下させることなく前記効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】研磨装置及び研磨パッドによる研磨工程の概要を説明する図。
図2】第1実施形態の研磨装置(片面研磨装置)における定盤の構成の一例を説明する図。
図3】第2実施形態の研磨装置(両面研磨装置)の構成の概略を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
第1実施形態:以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本実施形態では、離型フィルムを接着した定盤を作製し、ここに市販の粘着剤付の研磨パッドを片面研磨装置の定盤に固定して研磨作業を行い、交換時の作業性を検討すると共に研磨品質を評価した。
【0041】
本実施形態で使用した研磨パッドは、汎用のスエードタイプの研磨布(型番7355-000F、ナップ長450μm、厚さ1.37mm)を備える市販の円形の研磨パッドである。この研磨パッドは、裏面に粘着テープが貼付けられている。
【0042】
そして、図1で示した装置と同様の片面研磨装置において、図2のように定盤の本体部分に離型フィルムを接着して本実施形態に係る定盤を作製した。本実施形態では、市販の剥離力が異なるシリコーン系の離型フィルム(株式会社フジコー製:商品名PET-75×1(厚さ75μm))を複数種用意し、複数の定盤を作製して離型層の特性を評価した。本実施形態では、剥離力が0.05N/50mm、0.08N/50mm、0.2N/50mm、0.95N/50mm、5.0N/50mm、7.0N/50mmの離型フィルムを用意した。そして、離型フィルムを定盤の寸法(φ800mm)と同じ寸法に裁断し、これをアクリル系接着剤で接着接合した。
【0043】
以上のようにして用意した、研磨装置及び研磨パッドを用いて、シリコンウエハ(φ8インチ)をワーク(被研磨部材)とする研磨試験を行った。この研磨試験では、上記離型フィルムを粘着剤で定盤に粘着固定した後、離型フィルム上に研磨パッドを粘着固定してシリコンウエハを研磨した。この研磨試験では、研磨スラリーを研磨パッドに滴下しつつ、研磨パッド(定盤)及びシリコンウエハ(ヘッド)を回転させてシリコンウエハを研磨した。このとき研磨条件は、下記の通りとした。
・研磨スラリー:Glanzox(株式会社フジミインコーポレーテッド製)を純水で30倍に希釈したスラリー
・研磨スラリー滴下速度:150ml/min
・研磨圧力:0.163kgf/cm2
・研磨パッドの回転速度:45rpm
・ヘッドの回転速度:47rpm
・ヘッドの揺動速度:250mm/min
・研磨時間:3min(1枚あたり)
【0044】
本実施形態の研磨試験では、上記条件で25枚のシリコンウエハを連続して研磨した後、研磨パッドを定盤(離型フィルム)から引き剥がし、新しい研磨パッドを粘着固定し、同様に25枚のシリコンウエハを連続研磨した。本実施形態では、合計で200枚のシリコンウエハを研磨することとし、上記の研磨パッドの交換作業(引き剥がし作業)を7回行った。尚、研磨作業後のシリコンウエハについては、純水で洗浄し乾燥させて、その重量をマイクロ電子天秤で測定し、研磨前後の重量差から研磨レートを評価した。
【0045】
研磨試験における評価方法としては、各離型フィルムによる全ての研磨作業において、研磨パッドと定盤との固定状態(粘着状態)を目視と触感により確認し、研磨パッドのズレや剥離の有無を検討した。そして、研磨パッドのズレ等が確認された段階で、当該離型フィルムは不合格であるとして試験中止した。
【0046】
また、上記7回研磨パッドの交換作業における作業効率も評価した。本実施形態では、交換作業時にばね量りを使用して研磨パッドの端部を90度上方向に引張り、研磨パッドの剥がれが生じたときの荷重を測定した。そして、荷重値が500g以下である場合を作業効率が良「○」であると判定し、荷重値が500gを超えた場合を作業効率が不良「×」であると判定した。尚、荷重値の評価には、7回の交換作業時の測定値の平均値を採用した。
【0047】
以上の研磨試験・評価は、用意した剥離力が異なる7種の離型フィルムを固定した定盤について行った。また、本実施形態では、アクリル系及びゴム系の2種の粘着剤を用意し、それぞれの粘着剤で離型フィルムの定盤に固定して研磨試験を行った。更に、本実施形態では、研磨パッドを定盤に直接粘着固定した研磨試験を、従来例として行った。以上説明した研磨試験における評価結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、定盤の離型層(離型フィルム)の剥離力を0.08N/50mm以上とした場合、及び5.00N/50mm以下とした場合は、研磨作業中の研磨パッドのズレ・剥がれも無く良好の研磨状態であった。そして、これらの定盤については、研磨パッド交換の際の剥がれ荷重は500g以下を示し、交換効率にも優れることが確認された。尚、これらの定盤では、従来例と同等の研磨レートでの研磨作業が可能であることも確認された。
【0050】
一方、定盤の離型層の剥離力が5.0N/50mmを超える場合(7.0N/50mm)、研磨パッドの交換時の剥がれ荷重が500gを超えており交換効率に劣ることが確認された。この比較例では、研磨パッドのズレ等は発生せず、研磨レートは良好であり、従来例である研磨パッドを直接定盤に固定する場合と同じであるといえる。
【0051】
また、定盤の離型層の剥離力を0.08N/50mm未満とした場合(0.05N/50mm)、研磨作業中に研磨パッドのズレが発生した。この不具合は、最初の25枚のシリコンウエハの研磨中に発生しており、1回目の交換作業を行うことなく試験中断となった。また、この定盤においては、研磨レートが従来例に対して0.05μm/min低くなっていた。この研磨レートの不良は、研磨パッドが好ましくない固定状態にあったためと考察される。定盤表面の剥離力を低くすることは、研磨品質にも影響を与えることが分かる。
【0052】
第2実施形態:本実施形態では、両面研磨装置の上定盤及び下定盤の双方に離型層を形成して研磨作業を行い、研磨パッド固定の安定性を評価した。
【0053】
図2は、本実施形態で使用した両面研磨装置の構成の概略を示す図である。図2の両面研磨装置は、上定盤、下定盤及び各定盤を回転駆動する回転軸を備える。両面研磨装置による研磨作業では、各定盤の研磨パッドを貼り付け固定し、両定盤の間にキャリアで固定されたワーク(被研磨部材)を挿入して研磨を行う。キャリア及び回転軸にはその外周にギアが形成されており、回転軸の駆動によってキャリアも回転駆動するようになっている。
【0054】
本実施形態では、上定盤及び下定盤の本体部分に離型層となる離型フィルムを接着して本実施形態に係る定盤を作製した。離型フィルムは、シリコーン系の離型フィルム(株式会社フジコー製:商品名PET-75×1(厚さ75μm))であり、その剥離力は0.2/50mmである。そして、離型層の表面に研磨パッドを固定した。本実施形態で使用した研磨パッドは、汎用のウレタンタイプ(CeO)の円形(ドーナツ形状)の研磨パッドであり、裏面にアクリル系粘着テープが貼り付けられたものである。尚、定盤の寸法は、上下共に定盤固定面にφ680mmであり、研磨パッドの外径も同寸法である。
【0055】
そして、上記の研磨装置及び研磨パッドを用いて、ガラスウエハ(φ8インチ)をワークとして研磨試験を行った。この研磨試験では、上記離型フィルムが粘着固定された定盤に研磨パッドを粘着固定してシリコンウエハを研磨した。研磨工程では、研磨スラリーを上定盤に設けられた多数の供給孔(図示せず)から供給しつつ、上下の研磨パッド及びシリコンウエハを回転させてシリコンウエハを研磨した。このとき研磨条件は、下記の通りとした。
・研磨スラリー:SHOREX FL-2(昭和電工株式会社製)
・研磨スラリー供給量:5l/min
・研磨圧力:0.48Kgf/cm2
・定盤の回転速度:上下40rpm
【0056】
本実施形態の研磨試験では、上記条件で80時間の研磨を行うこととし、5時間、10時間、20時間、40時間の研磨毎に研磨作業を停止して、研磨パッドの上下定盤に対する剥離力を測定した。本実施形態では、研磨パッドの端部にフック付の引張用ロードセルを引掛けて90度上方に引張り、研磨パッドの剥がれが生じたときの荷重を剥離力とした。尚、この測定のため、研磨パッドの外縁一部にフック引掛け用のループが取付られている。剥離力測定後は、研磨パッドを定盤に再度貼り付けて研磨作業を続行した。このように剥離力測定と研磨作業を繰り返し、80時間まで研磨を行った。この評価試験における測定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、本実施形態の剥離層を備える定盤においては、各時間経過後の研磨パッドの剥離力は安定していることが確認できる。本実施形態の定盤によれば、80時間の研磨作業において研磨パッドの剥がれやズレを生じさせることなくワークの研磨を行うことができるといえる。この研磨試験では、研磨時間の増大と共に研磨パッドの剥離力が大きくなったのは、加圧時間の積算によるものと考えられる。但し、研磨試験後に研磨パッドを定盤から剥がす際には、特段に労することなく研磨パッドを脱着することができ、定盤表面への接着剤の残存もなかった。
【0059】
以上のとおり、定盤の剥離層の剥離力を適切にしたことで、研磨作業中は安定した研磨が可能となり、作業後も研磨パッドも容易に脱着することができることが確認された。研磨試験後のワーク表面を観察したところ、研磨傷やうねり・歪みのない良好な研磨面であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明に係る研磨装置用の定盤は、離型フィルム等からなる離型層を備えたことにより、粘着剤により固定される研磨パッドの固定・交換の作業性を向上させている。本発明は、半導体ウエハ、ディスプレイ用ガラス基板、ハードディスク用基板等の研磨工程において有用である。
図1
図2
図3