(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粉末の梱包体、化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 81/26 20060101AFI20231215BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20231215BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231215BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B65D81/26 H
C01B21/064 Z
A61K8/19
A61Q1/02
(21)【出願番号】P 2019066168
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆貴
(72)【発明者】
【氏名】栗山 北斗
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158862(JP,A)
【文献】特開平10-045161(JP,A)
【文献】国際公開第2000/063092(WO,A1)
【文献】特開平08-230894(JP,A)
【文献】特開昭59-084765(JP,A)
【文献】特開平10-324509(JP,A)
【文献】特開2018-108970(JP,A)
【文献】特開2009-249013(JP,A)
【文献】実開平02-045981(JP,U)
【文献】特開平10-305209(JP,A)
【文献】特開2009-234878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/26
C01B 21/064
A61K 8/19
A61Q 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜を有する外装体と、
該外装体の内部に封入され、10g/(m
2・24h)を超える水蒸気透過度を有し、窒化ホウ素粉末が収容された内装体と、
前記外装体と前記内装体との間に配置される吸湿材と、を備え、
前記外装体の水蒸気透過度が0.3g/(m
2・24h)未満であり、
前記吸湿材は繊維の成形体に固定され、当該成形体は前記内装体とともに前記外装体に収容されており、
40℃、75%RHの条件下、前記外装体を封止した状態で1年間保管したときに、
医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される前記窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素を10質量ppm以下に維持するように構成される、窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項2】
前記外装体の開口部を封止するシール部を有する、請求項1に記載の窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項3】
前記吸湿材はシリカゲルを含み、前記窒化ホウ素粉末1kgに対する前記シリカゲルの質量が1g以上である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項4】
前記外装体の金属膜の厚みは5μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項5】
40℃、75%RHの条件下、前記外装体を封止した状態で1年間保管したときに、前記外装体の内部の湿度を40%RH以下に維持するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項6】
前記窒化ホウ素粉末の比表面積は1~10m
2/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末の梱包体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項の窒化ホウ素粉末の梱包体から前記窒化ホウ素粉末を取り出して、前記窒化ホウ素粉末と、前記窒化ホウ素粉末とは異なる化粧料の原料と、を配合する工程を有する、化粧料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項の窒化ホウ素粉末の梱包体から取り出された前記窒化ホウ素粉末を含む化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粉末の梱包体、化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑剤、離型剤、樹脂及びゴムの充填材、固体潤滑剤、化粧料(化粧品ともいう)の原料、並びに耐熱性を有する絶縁性焼結体等、幅広い用途に利用されている。このうち、化粧料の原料については、安全性、衛生性の観点から医薬部外品原料規格2006にその規格が定められている。
【0003】
特許文献1では、この医薬部外品原料規格2006を満足するため、包装容器内を真空状態にすること、又は露点を0℃以下とした希ガス、窒素、空気から選ばれる1種以上のガスで満たすことが提案されている。この技術によれば、大気中の水分による六方晶窒化ホウ素粉末の加水分解を抑制し、長期間保管の際の溶出ホウ素の増加を緩やかにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ホウ素は、加水分解によって溶出ホウ素源となるB2O3が生成する。B2O3の生成抑制には、窒化ホウ素粉末を収容する際に、包装容器内の空気をガス置換して包装容器内の水分を低減することは有効である。一方で、窒化ホウ素粉末を一度に消費せずに、再封止をする場合、その都度、真空引きしたりガス置換したりすることが必要となると作業が煩雑となることが懸念される。また、窒化ホウ素の加水分解は、空気中に含まれる水分のみならず、窒化ホウ素粉末の粒子表面に付着する水分、及び、包装容器の内表面に付着する水分等によっても進行する可能性がある。このため、これらの影響も低減し、高温高湿条件下で保管しても十分に高い品質を維持できる簡便な梱包技術を確立することが求められている。
【0006】
そこで、本開示は、化粧料等の品質安定性が求められる用途に好適に用いられる窒化ホウ素粉末の梱包体を提供する。また、本開示は、品質安定性に優れる化粧料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る窒化ホウ素粉末の梱包体は、金属膜を有する外装体と、該外装体の内部に封入され、10g/(m2・24h)を超える水蒸気透過度を有し、窒化ホウ素粉末が収容された内装体と、外装体と内装体との間に配置される吸湿材と、を備え、40℃、75%RHの条件下、外装体を封止した状態で1年間保管したときに、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素を20質量ppm以下に維持するように構成される。
【0008】
上記梱包体は、金属膜を有する外装体を備えることから、外装体の内部に外気から水分が侵入することを抑制できる。また、10g/(m2・24h)を超える水蒸気透過度を有する内装体と外装体の間に吸湿材を備えることから、吸湿材が内装体に収容された窒化ホウ素粉末に付着している水分を効率よく脱離させることができる。また、外装体を一旦開封した後に流入してくる水分の影響、並びに、外装体の内面、及び内装体に付着する水分の影響も低減することができる。これらの要因によって、窒化ホウ素粉末を高温高湿条件下で長期間保管したり、小量の使用のために開封と再封止を繰り返したりしても、加水分解の進行が抑制され、溶出ホウ素が所定値以下に維持される。したがって、外装体の内部を真空にしたりガス置換したりしなくても、窒化ホウ素粉末の品質を高く維持することが可能となり、化粧料等の品質安定性が求められる用途に好適に用いることができる。
【0009】
上記梱包体は、外装体の開口部を封止するシール部を有していてよい。これによって、梱包が簡便であるうえに、開封と再封止を繰り返しても、加水分解の進行を十分に抑制し、窒化ホウ素粉末の品質安定性を一層向上することができる。
【0010】
上記吸湿材はシリカゲルを含み、窒化ホウ素粉末1kgに対するシリカゲルの質量が1g以上であることが好ましい。このような割合でシリカゲルを有することによって、窒化ホウ素粉末の加水分解の進行を一層抑制することができる。
【0011】
上記外装体の金属膜の厚みは5μm以上であり、当該外装体の水蒸気透過度が1g/(m2・24h)未満であることが好ましい。上述の構成に加えてこのような外装体を備えることによって、外装体内への外気の浸透が一層抑制されることとなる。したがって、窒化ホウ素粉末の加水分解の進行を一層抑制することができる。
【0012】
上記梱包体は、外装体を封止した状態で1年間保管したときに、外装体の内部の湿度を40%RH以下に維持するように構成されることが好ましい。これによって、窒化ホウ素粉末の加水分解の進行が一層抑制され、窒化ホウ素粉末の品質安定性をさらに向上することができる。
【0013】
本開示の一側面に係る化粧料の製造方法は、上述のいずれかの窒化ホウ素粉末の梱包体から窒化ホウ素粉末を取り出して、窒化ホウ素粉末と、窒化ホウ素粉末とは異なる化粧料の原料と、を配合する工程を有する。
【0014】
上記製造方法は、加水分解の進行を十分に抑制できる梱包体から取り出された窒化ホウ素粉末を用いていることから、品質安定性に優れる化粧料を提供することができる。
【0015】
本開示の一側面に係る化粧料は、上述のいずれかの窒化ホウ素粉末の梱包体から取り出された窒化ホウ素粉末を含む。このような化粧料は、窒化ホウ素の加水分解の進行を十分に抑制できる梱包体から取り出された窒化ホウ素粉末を含むことから、品質安定性に優れる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、化粧料等の品質安定性が求められる用途に好適に用いられる窒化ホウ素粉末の梱包体を提供することができる。また、品質安定性に優れる化粧料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る窒化ホウ素粉末の梱包体を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施例において、25℃、25RH%の条件下で保管したときの溶出ホウ素の推移を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例において、40℃、75RH%の条件下で保管したときの溶出ホウ素の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
図1は、一実施形態に係る窒化ホウ素粉末の梱包体を模式的に示す図である。梱包体100は、金属膜を有する外装体10と、外装体10の内部に封入される、窒化ホウ素粉末40が収容された内装体20と、外装体10と内装体20との間に配置される吸湿材30とを備える。
【0020】
外装体10及び内装体20は、袋状であってもよいし、変形し難い容器であってもよい。外装体10は、金属箔又は金属蒸着膜等の金属膜を備える。金属膜は例えばアルミニウム膜であってよい。外装体10は、金属膜を有することによって、袋状又は容器状の外装体10の内部に外気から水分が侵入することを抑制できる。外装体10の水蒸気透過度は好ましくは1g/(m2・24h)未満であり、より好ましくは0.5g/(m2・24h)未満であり、さらに好ましくは0.3g/(m2・24h)未満である。
【0021】
本開示における水蒸気透過度は、JIS K 7129-5:2016に準拠して、温度20℃、90RH%の試験条件において測定される値である。
【0022】
外装体10は、金属膜と樹脂層とが積層された多層フィルムで構成されていてもよい。例えば、樹脂層は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン6、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、及び塩化ビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも一つの層で構成されていてもよい。外装体10は、内側にシーラント層を備え、ヒートシールによって外装体10内に内装体20及び吸湿材30が密封されていてもよい。外装体10における金属膜の厚みは、外気の浸透を十分に抑制するとともに、耐久性を向上する観点から、5μm以上であってよく、6μm以上であってもよい。
【0023】
内装体20は、例えば樹脂層で構成される。内装体20を構成する樹脂層は、ポリエチレン、ポリエステル(PET)、ポリオレフィン、ナイロン6、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、及び塩化ビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも一種で構成されていてもよい。互いに異なる材質で構成される複数の樹脂層が積層された多層フィルムであってもよい。
【0024】
内装体20は金属膜を有していなくてもよく、外装体10よりも高い水蒸気透過度を有する。内装体20の水蒸気透過度は、10g/(m2・24h)を超えており、好ましくは20g/(m2・24h)以上であり、より好ましくは40g/(m2・24h)以上である。このように高い水蒸気透過度を有することによって、内装体20に収容された窒化ホウ素粉末の吸湿材30による脱湿を十分円滑に行うことができる。したがって、例えば、梱包体100が密閉される前に窒化ホウ素粉末の粒子に水分が付着していても、吸湿材30によって円滑に当該水分を低減することができる。
【0025】
吸湿材30は、例えば、シリカゲル、塩化カルシウム、生石灰、及び五酸化二リンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでいてよい。吸湿材30は、ハンドリング性向上の観点から、内装体20と同等以上の水蒸気透過度を有する、繊維等の包装体で包装されていてもよいし、繊維等の成形体に固定されていてもよい。このような吸湿材30は、一つであってよいし、複数配置されていてもよい。
【0026】
吸湿材30がシリカゲルを含む場合、窒化ホウ素粉末1kgに対するシリカゲルの質量は好ましくは1g以上であり、より好ましくは1.5g以上である。この割合を高くすることによって、外装体10の内部の湿度を一層低く維持することができる。
【0027】
40℃、75%RHの条件下、外装体10を封止した状態で梱包体100を1年間保管したときに、外装体10の内部の湿度は40%RH以下に維持されることが好ましく、30%RH以下に維持されることがより好ましく、20%RH以下に維持されることがさらに好ましく、15%RH以下に維持されることが特に好ましい。このように外装体10の内部の湿度を長期間に亘って低く維持することによって、内装体20に収容される窒化ホウ素粉末40の加水分解の進行を一層抑制することができる。これによって、窒化ホウ素粉末40を梱包する梱包体100の信頼性をさらに向上することができる。なお、本開示における「%RH」とは相対湿度である。
【0028】
梱包体100は、外装体10の上端部に形成されたシール部14を備える。シール部14は、開封線12に沿ってヒートシール等で密封されていた梱包体100が一旦開封された後に、開口部を封止するシール機能を有する。シール部14を備えることによって、窒化ホウ素粉末40の一部を取り出した後、窒化ホウ素粉末40の残部を外装体10の内部に再び密封保管することができる。梱包体100は、外装体10よりも高い水蒸気透過度を有する内装体20と吸湿材30を備えることから、再封止した後も、窒化ホウ素粉末40の加水分解の進行を十分に抑制することができる。その結果、一旦開封した後も、継続して高い品質を維持することができる。
【0029】
窒化ホウ素は、加水分解すると、以下の反応式に示すとおりB2O3が生成する。このB2O3が溶出ホウ素源となる。したがって、加水分解を抑制すれば、溶出ホウ素を低減することができる。
2BN+3H2O → B2O3+2NH3
【0030】
梱包体100は、40℃、75%RHの条件下、外装体10を封止した状態で1年間保管したときに、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素を20質量ppm以下、好ましくは15質量ppm以下、さらに好ましくは10質量ppm以下に維持する。溶出ホウ素を低減することによって、肌への刺激性が低減され、化粧料の原料として好適に用いることができる。本開示における溶出ホウ素は、医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される。
【0031】
本実施形態の梱包体100は、高温高湿条件下で長期間保管したり、小量の使用のために開封と再封止を繰り返したりしても、窒化ホウ素粉末の加水分解を抑制することができる。梱包体100は、外装体10の内部を真空にしたり、ガス置換したりする必要がないことから、窒化ホウ素粉末を簡便に梱包できるという利点がある。このため、品質安定性が求められる用途、及び少量ずつ使用されることが多い用途に好適に用いることができる。このような梱包体100から取り出された窒化ホウ素粉末を、化粧料の原料に用いることによって、品質安定性に優れる化粧料を得ることができる。
【0032】
窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素粉末であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料として有用である。六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、アスペクト比(長径/短径)が10を超え、平均粒子径が3~20μm、比表面積が1~10m2/g、黒鉛化指数が2.0以下であってよい。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料として特に好適である。
【0033】
本実施形態における六方晶窒化ホウ素粉末のアスペクト比は、以下の手順で測定される。窒化ホウ素粉末をプレス成型し、樹脂包埋後に断面ミリング加工を行って、窒化ホウ素粒子の断面を得る。プレス成型により窒化ホウ素粒子が一方向に配向した状態が得られ、粒子の傾きによる測定誤差を抑えられる。この断面を走査型電子顕微鏡、例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製)にて撮影し、得られた粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「Mac-View」(マウンテック社製)に取り込む。
【0034】
次いで、得られた写真から粒子の長径と短径を測定して、比(長径/短径)を算出する。測定は、任意に選択される粒子100個に対して行う。算出した比の累積分布を作成し、累積相対度数の95%に相当する比をアスペクト比とする。なお、長径は、プレス方向とは直交方向における、粒子の外縁上の最も離れた2点間の長さであり、短径は、プレス方向における、粒子の外縁上の最も離れた2点間の長さである。
【0035】
六方晶窒化ホウ素粉末のアスペクト比は、化粧料用途として一層好適なものとする観点から、20以上であってもよい。アスペクト比が小さくなり過ぎると、化粧料を製造したときに隠ぺい力が不十分となる傾向、及び、塗り伸び性が不十分となる傾向にある。
【0036】
六方晶窒化ホウ素の平均粒子径は、5~15μmであってよく、6~12μmであってもよい。平均粒子径が小さくなり過ぎると、化粧料を製造したときに塗り伸び性及び隠ぺい力が不十分となる傾向にある。平均粒子径が大きくなり過ぎると、化粧料を製造したときに外観上のぎらつきが強くなる傾向にある。
【0037】
本実施形態における六方晶窒化ホウ素の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で粒度分布を測定したときの、累積粒度分布(体積基準)の累積値50%の粒子径である。測定には、六方晶窒化ホウ素粉末60mgを、15gの0.2質量%ヘキサメタリン酸水溶液に加え、ホモジナイザーにより300Wの出力で180秒間分散処理させた分散液が用いられる。この分散液と市販の粒度分布測定機を用いて上述の粒度分布が測定される。
【0038】
本実施形態における六方晶窒化ホウ素の比表面積は、1~5m2
/gであってよく、2~3m2/gであってもよい。比表面積が小さくなり過ぎると、化粧料用途としたときに外観上のぎらつきが強くなる傾向にある。比表面積が大きくなり過ぎると、化粧料用途としたときに塗り伸び性及び隠ぺい力が不十分となる傾向にある。また、溶出ホウ素が高くなる傾向にある。比表面積は、一般に市販されているガス吸着現象を利用した測定装置を用いて、BET1点法により算出される。
【0039】
六方晶窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数は、粉末X線回折測定を利用し、黒鉛と同様の方法で算出することができる。即ち、黒鉛化指数は、X線回折スペクトルの(100)面に由来するピークの面積S1、(101)面に由来するピークの面積S2、及び(102)面に由来するピークの面積S3の各値を、以下の式に代入することによって算出できる。
【0040】
黒鉛化指数=(S1+S2)/S3
【0041】
面積S1は、具体的には2θ=40度以上42.5度以下のピークの面積である。同様にS2は、具体的には2θ=43度以上45度以下のピークの面積である。S3は、具体的には2θ=48度以上52度以下のピークの面積である。なお、各ピークの面積を求めるにあたり、2θ=38度及び54度における各値を直線で結んでベースラインを作成し、ベースラインを基準として各ピーク面積が算出される。
【0042】
黒鉛化指数は六方晶窒化ホウ素の結晶性の指標となり、化粧料を製造したときの塗り伸び性に影響する。本実施形態の六方晶窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数は、1.5以下であってよく、1.3以下であってもよい。黒鉛化指数が大きくなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶化が不十分となり、化粧料を製造したときに塗り伸び性が不十分となる傾向にある。
【0043】
六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、例えば、以下の方法が挙げられる。ホウ素を含む化合物の粉末、窒素を含む化合物の粉末、及び、焼結助剤を含む混合粉末を、窒素、ヘリウム、アルゴン、アンモニア等の不活性雰囲気下で焼成して焼成物を得る。この焼成物を、洗浄液で洗浄して不純物を除去した後、乾燥して、六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。ホウ素を含む化合物の粉末、及び窒素を含む化合物の粉末の合計100質量部に対して、焼結助剤は、例えば、0.9~20質量部配合してよい。
【0044】
ホウ素を含む化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、及びホウ砂等が挙げられる。窒素を含む化合物としては、シアンジアミド、メラミン、及び尿素等が挙げられる。焼結助剤としては、炭酸リチウム、及び炭酸ナトリウム等の炭酸塩が挙げられる。混合粉末は、炭素などの還元性物質を含んでもよい。
【0045】
混合粉末を焼成するときの最高温度は、1600~2200℃であってよい。焼成温度が低くなり過ぎると六方晶窒化ホウ素への変換が進み難くなって黒鉛化指数が大きくなる傾向にある。また、化粧料の原料として用いたときに、塗り伸び性が不十分となる傾向にある。焼成温度が高くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶成長が進みすぎるため微粉砕が困難になる傾向にある。
【0046】
焼成時間は、例えば、2時間以上であってよく、4時間以上であってもよい。混合粉末を焼成する装置類については特に制限はない。例えば、混合粉末を収容した六方晶窒化ホウ素製の容器を、電気ヒータを用いた焼成炉に入れて焼成を行ってよい。
【0047】
焼成物を粉砕して得られる粉末には、六方晶窒化ホウ素以外の不純物(水溶性ホウ素化合物等)が含まれている可能性がある。このため、洗浄液を用いた洗浄により不純物等を除去してから固液分離して乾燥し、六方晶窒化ホウ素粉末を得てもよい。洗浄液としては、水、酸性物質を含む水溶液、有機溶媒、及び有機溶媒と水との混合液等が挙げられる。
【0048】
洗浄終了後、固液分離してから乾燥する場合、固液分離の方法に特に制限はない。例えば、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機、又はこれらの中から選ばれる少なくとも2つを組み合わせた装置を用いることができる。なお、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一例を説明したが、これに限定されない。
【0049】
一実施形態に係る化粧料は、梱包体100から取り出された窒化ホウ素粉末40を含む。窒化ホウ素粉末40は溶出ホウ素が十分に低く維持されており、本実施形態の化粧料は品質安定性に優れる。
【0050】
化粧料としては、例えば、ファンデーション(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション)、フェイスパウダー、ポイントメイク、アイシャドー、アイライナー、マニュキュア、口紅、頬紅、及びマスカラ等が挙げられる。これらのうち、ファンデーション及びアイシャドーには、六方晶窒化ホウ素粉末が特に良く適合する。化粧料における六方晶窒化ホウ素粉末の含有量は、例えば0.1~70質量%である。
【0051】
梱包体100から取り出された窒化ホウ素粉末40の一部を取り出した後、当該一部は、他の化粧料の原料と配合して化粧料が製造される(配合工程)。一方、窒化ホウ素粉末40の残部は、シール部14で再封止して保管することができる。この際、吸湿材30は交換してもよい。このようにして、品質安定性に優れる化粧料が製造されるとともに、簡便な保管方法で窒化ホウ素粉末の品質も維持されることとなる。
【0052】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、外装体は、ヒートシールで密封されるものではなく、チャック(ジッパー)等のシール部で密封するものであってもよい。このチャックは、再封止の機能も有していてよい。外装体及び内装体は、二方袋、三方袋、又は合掌袋であってもよく、その形状及び大きさは特に限定されない。また、上記実施形態では、封止の際に、外装体の内部を減圧したり、ガス置換したりすることは必要ではないものの、本開示はこのような作業を行う態様を排除するものではない。
【実施例】
【0053】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
<梱包体の作製>
市販の六方晶窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、グレード:C-7N)20gを、
図1に示すような形態に梱包した。外装体(外袋)としては、厚さ7μmのアルミニウム蒸着膜を有するチャックタイプの袋(エーディーワイ株式会社製、商品名:MBY-6565ZIPS)を用いた。この外装体の厚さは89μmであり、外側から、PET/SPE/Al/SPE/PEが積層された層構造を有していた。また、水蒸気透過度は、0.1g/(m
2・24h)以下であった。この水蒸気透過度は、JIS K 7129-5:2016に準拠して、温度20℃、90RH%の試験条件において測定された値である。
【0055】
内装体(内袋)としては、ポリエチレン製の袋(生産日本社製、ユニパック(登録商標))、厚さ:40μm)の袋を用いた。吸湿材としては、シリカゲル(1g)を通気性繊維の成形体に固定したプレート形状タイプのものを用いた。この内装体の水蒸気透過度は、15g/(m2・24h)であった。この水蒸気透過度は、JIS K 7129-5:2016に準拠して、温度20℃、90RH%の試験条件において測定された値である。内袋の開口部を紐で縛って閉止し、内袋と吸湿材を一つずつ外袋に入れ、外袋に設けられているチャック(シール部)で封止した。このようにして六方晶窒化ホウ素粉末の梱包体を作製した。
【0056】
<梱包体の保管>
25℃、25%RHに設定した恒温恒湿器(A)と、40℃、75%RHに設定した恒温恒湿器(B)を準備した。上述の梱包体を複数作製し、恒温恒湿器(A)及び(B)内のそれぞれにおいて保管した。1ヶ月経過毎に、恒温恒湿器(A)及び(B)から梱包体を一つずつ取り出し、外袋及び内袋を開放して六方晶窒化ホウ素粉末を採取し、溶出ホウ素を測定した。
【0057】
<溶出ホウ素の測定>
製造直後及び保管後の各六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素を、医薬部外品原料規格2006に基づく方法で抽出し、ICP発光分光分析装置で測定した。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末2.5gをフッ素系樹脂製ビーカーに採取し、エタノール10mLを加えてよくかき混ぜ、さらに水40mLを加えてよくかき混ぜた。その後、ビーカーの上端部にフッ素系樹脂製時計皿をのせ、50℃で1時間加温した。冷却後、該ビーカーの内容物をろ過して得られたろ液と、少量の水による残留物の洗液とを合わせて回収液とした。
【0058】
この回収液を、孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過して「石英」製ビーカーにろ液を入れ、この中に硫酸(47.5質量%)2mLを加えた。ホットプレート上で10分間煮沸し、冷却後、この液をポリエチレン製のメスフラスコに入れ、更にビーカーを少量の水で洗い、この水洗液も上記メスフラスコに移した。このメスフラスコに水を追加して100mLとし、これを試料溶液とした。試料溶液に含まれるホウ素量をICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、商品名:ICPE-9000)で測定した。恒温恒湿器(A)で保管した場合の結果は
図2、及び恒温恒湿器(B)で保管した場合の結果は
図3に示すとおりであった。
【0059】
(比較例1)
外装体(外袋)として、市販のポリエチレン製の袋を用いたこと、及び、吸湿材を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末の梱包体を作製した。そして、実施例1と同様にして梱包体を保管するとともに、溶出ホウ素の測定を行った。恒温恒湿器(A)で保管した場合の結果は
図2、及び恒温恒湿器(B)で保管した場合の結果は
図3に示すとおりであった。
【0060】
図2に示すとおり、25℃、25%RHの条件では、実施例1と比較例1の溶出ホウ素に大きな差異はなかった。一方、
図3に示すとおり、40℃、75%RHという夏場を想定した高温高湿条件下では、比較例1の溶出ホウ素は保管期間が長くなるにつれて急激に増加した。これは、外装体の内部の温度及び湿度が外気と同等になっていたものと推察される。一方、実施例1の溶出ホウ素は、12ヶ月間経過後も10質量ppmであった。このように、実施例1の梱包体は、真空引き又はガス置換等の作業を行わなくても加水分解を十分に抑制できることが確認された。
【0061】
図2,3の結果から、窒化ホウ素粉末の加水分解は、外装体の内部に侵入する水分の影響を大きく受けることが確認された。したがって、外装体の内部の湿度を低く維持することが加水分解の抑制に有効であるといえる。
【0062】
なお、吸湿材を用いないこと以外は実施例1と同様にした比較例2、及び、外装体(外袋)として、市販のポリエチレン製の袋を用いたこと以外は実施例1と同様にした比較例3についても、実施例1よりも窒化ホウ素粉末の加水分解が進行し溶出ホウ素が増加する結果となった。
【符号の説明】
【0063】
10…外装体、12…開封線、14…シール部、20…内装体、30…吸湿材、40…窒化ホウ素粉末、100…梱包体。