(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20231215BHJP
H02K 5/24 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
F04B39/00 102P
F04B39/00 106Z
F04B39/00 101Z
H02K5/24 A
(21)【出願番号】P 2019069622
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】佐保 日出夫
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-215236(JP,A)
【文献】実開昭57-142146(JP,U)
【文献】特開昭55-075552(JP,A)
【文献】特開2018-076783(JP,A)
【文献】実開昭54-152845(JP,U)
【文献】実開昭53-107735(JP,U)
【文献】特開昭48-072534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
H02K 5/24
F16F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、前記圧縮機を駆動する電動モータおよび前記電動モータの動作を制御する制
御基盤と、を収容し、前記制御基盤と対向する位置に開口を有するハウジングと、
前記開口を塞ぐカバーと、
前記ハウジングに支持される弾性支持体と、
前記弾性支持体を前記ハウジングに押し付け、かつ、その内側に鍔を有する押え板と、
前記押え板を前記ハウジングに締結する締結具と、
を備え、
前記カバーは、その周縁の表裏の両面が、前記弾性支持体で挟持され、かつ、
前記カバーは、その周縁面が前記弾性支持体に接しており、さらに、
前記カバーは
、
本体部と、
前記本体部の周縁から垂れ下がる垂下部と、
前記垂下部の下端から外側に向けて突き出すとともに前記垂下部の周縁に連なっている支持部と、により形成される、
車載用の電動圧縮機。
【請求項2】
前記弾性支持体は、
前記カバーのおもて面から前記カバーを支持する第1支持体と、
前記カバーのうら面から前記カバーを支持する第2支持体と、を備える、
請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記第1支持体と前記第2支持体は、
前記カバーと別体をなすか、または、前記カバーと一体をなす、
請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記押え板は、
前記弾性支持体の平面方向の全域にわたって、前記弾性支持体を前記ハウジングに押し付ける、
請求項1に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用の空気調和装置を構成する電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用空気調和装置には、車両のエンジンルーム内に各機器を収容するため、省スペース性が要求されている。このため、圧縮機と、圧縮機を駆動するための電動モータと、電動モータを駆動するため直流電流を交流電流に変換するインバータ制御基盤とが一体化された電動圧縮機が提供されている。
この電動圧縮機において、圧縮機の回転に伴う振動や騒音を低減することが求められている。例えば、特許文献1には、アルミニウムや鉄系材料等の導電性材料からなる導電材層と、樹脂やゴム系材料等の絶縁性材料からなる絶縁材層とが積層された構成を有する、ハウジングの開口を覆うカバーが開示されている。つまり、特許文献1は、絶縁材層を積層することにより、振動、騒音の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関としてのエンジンを搭載しない電気自動車は、エンジン音がなくなったことにより、モータ音だけが駆動源からの音となる。これにより、今まで気にならなかった、空気調和装置、特に電動圧縮機ユニットで発生する騒音が車室内に伝わり、乗員の耳に到達するようになった。
以上より、本発明は、発生する騒音をより低減できる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
空気調和装置を構成する機器のなかで、電動圧縮機から発生する騒音は、流体系騒音、電磁系騒音、固体どうしの接触による固体系騒音、共振音等がある。本発明が注目するのは、インバータカバー(以下、単にカバーということがある)から放射される共振音である。
圧縮機の作動時に圧縮機内部の振動が、圧縮機における部材どうしの接触面、ボルトなどの締結部を介してカバーに伝播し、固有値であるカバーの共振特性の励起によりカバーが振動し、カバーから騒音が発生する。したがって、カバーからの騒音を抑制するには、カバーの振動を抑制する必要である。
また、電動圧縮機には、電動モータを駆動するための電子部品である制御基板を収容する収容部があり、カバーおよび密閉材により収容部を密閉し、外部からのごみや水の侵入を防ぐ必要がある。
以上に基づいてなされた本発明の電動圧縮機は、カバーの振動の抑制と電子部品の収容部の密閉性とを両立する簡易な構造を実現する。
【0006】
本発明に係る車載用の電動圧縮機は、圧縮機と、圧縮機を駆動する電動モータおよび電動モータの動作を制御する制御基盤と、を収容し、制御基盤と対向する位置に開口を備えるハウジングと、開口を塞ぐカバーと、を備える。
本発明におけるカバーは、その周縁の表裏の両面が、ハウジングに支持される弾性支持体で挟持される。
【0007】
本発明における弾性支持体は、好ましくはカバーのおもて面からカバーを支持する第1支持体と、カバーのうら面からカバーを支持する第2支持体と、を備える。
本発明における第1支持体と第2支持体は、カバーと別体をなすか、または、カバーと一体をなすことができる。
【0008】
本発明における電動圧縮機は、好ましくは弾性支持体をハウジングに押し付ける押え板と、押え板をハウジングに締結する締結具と、を備える。
この押え板は、好ましくは、弾性支持体の平面方向の全域にわたって、弾性支持体をハウジングに押し付ける。
【0009】
本発明におけるカバーは、好ましくは、周縁部が、周縁部で取り囲まれる本体部と段差を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電動圧縮機によれば、圧縮機からカバーへの振動伝達が弾性体支持体の減衰作用により低減することで、カバーの振動を低減し、圧縮機の騒音を低減できる。特に、本発明の電動圧縮機によれば、カバーの周縁の表裏の両面が弾性支持体で挟持されるので、弾性体支持体の減衰作用による振動伝達の低減効果が大きい。また、カバーの表裏両面が弾性支持体で挟持されることで、カバーとハウジングとの間の密閉性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動圧縮機を示す分解斜視図である。
【
図2】本実施形態に係るカバーの支持構造を示す断面図であり、(a)は支持構造を分解して示す図であり、(b)は支持構造がハウジングに組み付けられた図である。
【
図3】本実施形態に係るカバーをハウジングに組み付ける手順を示す図である。
【
図4】本実施形態に係るカバーの支持構造の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る電動圧縮機10は、ハウジング11の開口を塞ぐカバー20が弾性支持体21でその表裏の両面が挟持される。これにより、カバー20を要因とする騒音の発生を低減する。また、カバー20の表裏の両面が弾性支持体21で挟持されることで、カバー20とハウジング11との間の密閉性を確保できる。
【0013】
[電動圧縮機10の構成]
図1に示すように、車載用の電動圧縮機10は、ハウジング11の下部収容室11Aに図示を省略する電動モータおよびスクロール式のコンプレッサが収容される。また、上方に開口したハウジング11の上部収容室11Bに、電動モータの動作を制御するインバータ制御基盤12が収容される。
インバータ制御基盤12は、モータへの高圧交流電圧の印加を制御するためのコントロール回路基盤15と、高圧直流電流を高圧交流電流に変換してモータに印加し、モータを回転駆動させるパワー基盤16と、から構成される。また、インバータ制御基盤12は、インバータ制御基盤12に入力される直流電圧の平滑化を図るためのコンデンサ13およびリアクタ14を備える。
【0014】
そして、上部収容室11Bの上方を向く開口は、カバー20によって覆われる。上部収容室11Bは、その上端であってその内側に開口する支持凹部11Cが形成されている。支持凹部11Cには、弾性支持体21が保持され、この弾性支持体21によりカバー20が挟持されることで支持される。
【0015】
[カバー20の構成]
カバー20は、
図1および
図2に示すように、上部収容室11Bの開口の形状に応じた平面形状を有しており、例えばアルミニウムのダイカスト鋳造品から構成される。また、カバー20は、本体部20Aと、本体部20Aの周縁から垂れ下がる垂下部20Bと、垂下部20Bの下端から外側に向けて突き出す支持部20Cと、からなる。本体部20Aは、平面視してカバー20の中央の大部分を占有する平坦な構造をなしている。このように、カバー20は、その周縁部が、周縁部で取り囲まれる本体部20Aと段差を有している。支持部20Cは、本体部20Aと平行をなし、垂下部20Bの周縁に連なって形成されている。カバー20は、弾性支持体21を介してハウジング11に支持される。カバー20は、ボルトB等の締結具によってハウジング11に固定される。このようにカバー20が周縁部に段差を有するのは、弾性支持体21(21A,21B)の形状を保持するため、および、弾性支持体21(21A,21B)がカバー20から脱落するのを防止するためである。
【0016】
[弾性支持体21の構成]
弾性支持体21は、
図1および
図2に示すように、支持凹部11Cに保持された状態で、カバー20を支持する。弾性支持体21は、好ましくは、ポリマー(polymer)から構成される。ポリマーとは、複数のモノマー(単量体)が重合することによってできた化合物のことであり、一般的には高分子の有機化合物である。ポリマーを例示すると、発泡ゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムが掲げられる。また、これら材料と同等の弾性を有し、振動を減衰する効果を有する材料を弾性支持体に適用できる。
【0017】
発泡ゴム(foam rubber)とは、見かけ密度が0.3g/cm3以下の軟質泡入りゴムであり、多孔質ゴム(cellular rubber)とも称される。発泡ゴムの中では、液状ゴムの発泡成形によって作製される軟質ウレタンフォーム、または、独立した気泡で吸水性のないスポンジゴムはが騒音防止にとって好ましい。発泡ゴムを用いると、弾性支持体21の劣化を防止して長寿命化を図ることができる。
フッ素ゴム(fluoro rubber)は、フッ素を含む高分子からなる特殊合成ゴムの総称である。六フッ化プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(FFKM)などがあり、これらの中でFKMはその特性を含めてフッ素ゴムの代表例とされる。
シリコンゴム(silicone rubber)とは、ゴム状の弾性を備えるシリコーン樹脂である。温度変化に対する安定性がよく、-60℃~150℃の範囲で弾性を有する。
【0018】
弾性支持体21は、平面視して矩形でかつ環状をなしている。弾性支持体21は、
図2に示すように、第1支持体21Aと第2支持体21Aを備え、第1支持体21Aと第2支持体21Aの間にカバー20の支持部20Cを表裏から挟持して、カバー20の表裏両面を支持する。第1支持体21Aと第2支持体21Aは、L字状の横断面を有しており、凹んだ部分が対向するように第1支持体21Aと第2支持体21Aは配置され、両者を合わせるとコの字状の横断面をなす。
【0019】
弾性支持体21は、カバー20の周縁の全域にわたって設けられており、これは高い密閉性を確保する上では好ましい形態であるが、本発明は部分的に弾性支持体21が設けられていない部分を有していてもよい。そのような部分にはシーラントを充填することにより、密閉性を確保できる。
【0020】
[押え板23の構成]
図1および
図2に示すように、カバー20をハウジング11に固定するのに、押え板23が用いられる。押え板23は、ハウジング11の上端に固定されることにより、弾性支持体21をその平面方向の全域にわたってハウジング11に押し付ける。
押え板23は、例えばステンレス鋼で構成され、平面視して矩形でかつ環状をなしている。押え板23の4つの角部には、押え板23をハウジング11に固定するためのボルトBが貫通されるボルト孔23Hが形成される。
ここでは、平面方向の全域にわたってハウジング11に押し付ける好ましい形態を説明したが、密閉性を確保できるのであれば、部分的な押し付けであってもよい。
【0021】
[カバー20の組み付け手順]
次に、カバー20をハウジング11に組み付ける手順の一例を
図3に基づいて説明する。
はじめに、
図3(a)に示すように、第2支持体21Aをハウジング11の支持凹部11Cに配置する。
次いで、
図3(b)に示すように、カバー20の支持部20Cを第2支持体21Aの凹んだ部分に載せる。
次いで、
図3(c)に示すように、第1支持体21Aを支持部20Cおよび第2支持体21Aに載せる。これで、カバー20の支持部20Cは、第1支持体21Aと第2支持体21Aに挟まれ、その表裏の両面が弾性支持体で支持されることになる。
【0022】
次に、
図3(d)に示すように、押え板23を第1支持体21Aおよびハウジング11の上端11Uに載せる。押え板23には、正確な位置に載せられるように、その内周側に鍔23Aが設けられている。次に、押え板23のボルト孔23Hを貫通して、ボルトBをハウジング11のねじ穴11Hにねじ込むことで、押え板23をハウジング11に締結する。これにより、第1支持体21Aと第2支持体21Aは圧縮されるので、カバー20の支持部20Cは第1支持体21Aと第2支持体21Aの間で圧縮荷重を受けて支持される。また、第1支持体21Aと押え板23の間にも圧縮荷重が生じる。さらに、第1支持体21Aおよび第2支持体21Aとハウジング11の圧縮荷重が生じる。こうして、ハウジング11、カバー20および弾性支持体21の間の密閉性が確保される。
【0023】
[カバー20の支持構造]
図2に示すように、カバー20の支持部20Cは、そのおもて面が第1支持体21Aに支持され、そのうら面が第2支持体21Aに接している。さらに、カバー20の支持部20Cの周縁面20Dが第1支持体21Aと第2支持体21Aに接した状態で支持される。このように、本実施形態におけるカバー20は、支持部20Cの表裏面および周縁面20Dがポリマーからなる弾性支持体21だけで支持され、金属材料との接触部分がない。
【0024】
[電動圧縮機10が奏する効果]
電動圧縮機10は、圧縮機本体からカバー20への振動伝達がポリマーからなる弾性支持体21の減衰作用により低減するので、カバー20の振動が低減し、圧縮機の騒音を低減できる。特に、電動圧縮機10によれば、カバー20の周縁の表裏の両面が弾性支持体21で挟持されるので、弾性体支持体21の減衰作用による振動伝達の低減効果が大きい。ここで、用いるポリマーの種類、硬度、厚さ等の仕様を設定することにより、振動低減度(減衰作用度)を調節可能である。
また、カバー20の表裏両面が弾性支持体21で挟持されることで、カバー20とハウジング11との間の密閉性を確保できる。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、弾性支持体21がカバー20と別体をなしているが、インサート成形を適用してカバー20と弾性支持体21を一体的に成形してもよい。そうすれば、カバー20をハウジング11に組み付ける際の工数を減らすことができる。
【0026】
上述した実施形態では、カバー20の支持部20Cの周縁面20Dが弾性支持体21に支持される例を示したが、本発明はこれ限定されない。つまり、
図4(a)に示すように、カバー20の周縁面20Dが弾性支持体21から離れていてもよい。この支持部20Cの表裏面だけが弾性支持体21に支持される形態であっても、上述した効果を奏する。
【0027】
また、上述した実施形態では、カバー20は本体部20Aと支持部20Cに段差が設けられた構造を有しているが、本発明はこれに限定されない。つまり、
図4(b)に示すように、全体が偏平なカバー20であってもよく、このカバー20であっても周縁の表裏が弾性支持体21により支持される構造を有している限り、本発明の効果を奏することができる。
【0028】
また、上述した実施形態では、弾性支持体21を押え板23で押さえ付ける例を示したが、本発明はこれに限定されない。つまり、
図4(c)に示すように、ボルトBで弾性支持体21を直に押え付けてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 電動圧縮機
11 ハウジング
11A 下部収容室
11B 上部収容室
11C 支持凹部
11H ねじ穴
11U 上端
12 インバータ制御基盤
13 コンデンサ
14 リアクタ
15 コントロール回路基盤
16 パワー基盤
20 カバー
20A 本体部
20B 垂下部
20C 支持部
20D 周縁面
21 弾性支持体
21A 上部支持体
21B 下部支持体
23 押え板
23A 鍔
23H ボルト孔
B ボルト