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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】低欠陥化炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20231215BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20231215BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/194
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019123528
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008382
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】樫村 京一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 健史
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158955(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料に、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波を照射して該炭素材料を焼成する工程を含むことを特徴とする低欠陥化炭素材料の製造方法(ただし、炭素繊維の製造方法を除く。)
【請求項2】
前記焼成工程は、800℃以上の焼成温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の低欠陥化炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素材料は、アモルファスカーボンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の低欠陥化炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低欠陥化炭素材料の製造方法に関する。より詳しくは、触媒や電極材料等として好適に用いることができる可能性がある低欠陥化炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、機械的強度、電気伝導性、熱伝導性等の点で非常に魅力的な材料であり、触媒や電極材料等の種々の用途への利用が期待されているが、高コストであったり大量合成が難しい等の問題がある。
還元型酸化グラフェン(rGO)は、グラフェンライク材料として大量に合成できる可能性があるが、欠陥が多くグラフェンとは言えない。アモルファスカーボンも大量に合成し得るものであるが、これを用いてグラフェン構造を形成することが困難であった。
このような状況下、安価な原料からグラフェンを大量に合成するための方法の開発が望まれており、数多くの研究開発が行われている。
【0003】
例えば、液パルスインジェクション(LPI)法で得られるカーボンナノファイバーや、かさ高い還元型酸化グラフェンにマイクロ波を照射すると効率的に放電が起き、これによって高結晶化や欠陥密度の低下が進行することが報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。この他にも、還元型酸化グラフェンにマイクロ波を照射する方法が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-145435号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ogino, I. et al., J. Energy. Chem. 27 (2018) 1468-1474
【文献】D. Voiry et al., Science 10.1126/science.aah3398 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炭素材料をより低欠陥化(グラフェン化)し、グラフェンの性能を充分に発揮できるものとすることが望まれるところであった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、欠陥が非常に少ない炭素材料を好適に得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、欠陥が非常に少ない炭素材料を好適に得る方法について種々検討し、炭素材料に、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波を照射して該炭素材料を焼成すると、該炭素材料の低欠陥化が顕著なものとなり、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、炭素材料に、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波を照射して該炭素材料を焼成する工程を含むことを特徴とする低欠陥化炭素材料の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法により、欠陥が非常に少ない低欠陥化炭素材料を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図2】実施例2の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図3】比較例1の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図4】比較例2の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図5】フロログルシノール由来の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図6】実施例3の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図7】実施例4の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図8】比較例3の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図9】フェノール樹脂由来の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図10】実施例5の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図11】実施例6の低欠陥化炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図12】比較例4の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図13】比較例5の炭素材料のラマンスペクトルを示すグラフである。
図14】還元型酸化グラフェンのラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0013】
<低欠陥化炭素材料の製造方法>
本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法は、炭素材料に、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波を照射して該炭素材料を焼成する工程を含む。
なお、本明細書中、低欠陥化とは、ラマンスペクトルにおけるG’バンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(I/IG’)が減少することを言う。欠陥が少ない方が、電子がよく流れるようになり、電気伝導性、触媒性能等がより優れるものとなる。本発明の製造方法により炭素材料の低欠陥化が進む原理は不明であるが、炭素材料の欠陥部分は磁界成分をより吸収しやすく、その結果より高エネルギー化し、欠陥修復が進んでいる可能性がある。
【0014】
ラマンスペクトルにおけるG’バンドのピークは、炭素原子で構成される連続した6員環構造に由来し、グラフェン化が進むと顕著になるピークであり、ラマンシフト2600~2800cm-1のピークである。
またDバンドのピークは、構造の乱れと欠陥に由来する、ラマンシフト1270~1450cm-1のピークである。
【0015】
本明細書中、所定のラマンシフトの範囲のピークとは、ベースラインに対して当該ラマンシフトの範囲内にピークトップが明確に観測されるものであればよい。例えば、Dバンドであれば1270~1450cm-1の範囲内に明確なピークトップが存在するということである。なお、ピークトップは1270~1450cm-1の範囲内に無いがピークのショルダーがその範囲内にかかっているというだけでは、ラマンシフト1270~1450cm-1のピークとは言わない。
なお、本明細書中、ラマンスペクトルは、実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0016】
本明細書中、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波(以下、磁界マイクロ波とも言う。)とは、波長が100μm~1mの範囲内の電磁波(マイクロ波)が、共鳴等によりその磁界成分が強められたものであって、全電磁界成分(電界成分及び磁界成分の合計)に対して磁界成分が60%以上である。
上記磁界成分は、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
上記磁界成分は、その上限値は特に限定されず、100%であってもよい。
上記磁界マイクロ波の周波数は、例えば300MHz~300GHzの範囲内であることが好ましく、500MHz~50GHzの範囲内であることがより好ましく、900MHz~25GHzの範囲内であることが更に好ましい。
【0017】
本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法における上記焼成工程は、800℃以上の焼成温度で行われることが好ましい。
上記焼成温度は、850℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることが更に好ましく、低欠陥化を進めてグラフェンの性能をより充分に発揮できるようにする観点からは、1000℃以上であることが一層好ましく、1200℃以上であることが特に好ましい。また、焼成温度は、1800℃以下であることが好ましく、1600℃以下であることがより好ましく、1400℃以下であることが更に好ましい。
【0018】
上記焼成工程における焼成時間(磁界マイクロ波を照射しながら炭素材料を焼成する時間)は、例えば1秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、1分以上であることが更に好ましく、2分以上であることが特に好ましい。また、該焼成時間は、120分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、40分以下であることが更に好ましく、20分以下であることが特に好ましい。
【0019】
上記焼成工程は、その雰囲気は特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なお、上記焼成工程は、磁界マイクロ波照射装置内に石英セル、アルミナセル等のセルを配置し、セルに原料である炭素材料を収容し、当該炭素材料に磁界マイクロ波を照射することで行うことができる。中でも、炭素材料と結合して除去が困難なケイ素による汚染を防ぐ観点からは、炭素材料を、実質的に二酸化ケイ素からなる石英セル以外のセルに収容することが好ましく、例えばアルミナセルに収容することがより好ましい。本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法は、炭素材料に磁界マイクロ波を照射するが、この場合、アルミナセルに起因するアルミニウムによる汚染も充分に防ぐことができる。
【0020】
本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法において、上記炭素材料(磁界マイクロ波が照射される炭素材料)は、アモルファスカーボンであることが好ましい。
アモルファスカーボンとしては、例えば、フロログルシノール等の多価フェノール類が脱水縮合して得られる炭素材料(多価フェノール類由来の炭素材料)や、フェノール樹脂を加熱して更に炭素化を進めたもの(フェノール樹脂由来の炭素材料)等の、フェノール類由来の炭素材料(多価フェノール類の脱水縮合物やフェノール樹脂の炭素化物)、黒鉛を酸化し層構造を壊した酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン等が好ましいものとして挙げられる。なお、このようなフェノール類由来の炭素材料、還元型酸化グラフェンを用いた場合には、通常、磁界マイクロ波が照射される炭素材料のみならず、得られる低欠陥化炭素材料も炭素原子、水素原子以外の原子を含むものとなる。すなわち、本発明における磁界マイクロ波が照射される炭素材料、低欠陥化炭素材料には、炭素のみから構成されるものだけでなく、水素、酸素等のその他の原子を含むものも含まれる。
【0021】
なお、フロログルシノールは、構造の対称性が高く、H基とOH基が3つずつ存在し、フロログルシノールが脱水縮合して得られる炭素材料(フロログルシノール由来の炭素材料)は、下記式に示すものが考えられる。
フロログルシノールは、理想的に炭素化が進めば脱水のみが起こり、残ったベンゼン環が結合することでグラフェンになりやすいと考えられる。
【0022】
【化1】
【0023】
酸化グラフェン及び還元型酸化グラフェンは、その積層数は特に限定されないが、例えば炭素原子1層のみからなるシートであるか、又は、2層~100層積層した構造を有するものが好ましい。中でも、積層数が20層以下であることがより好ましい。
還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェン(酸化黒鉛)が還元剤等により還元されて得られるものである。
なお、酸化黒鉛は、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程を含む方法等により適宜得ることができる。
【0024】
上述したように、本発明の低欠陥化炭素材料の製造方法において、上記炭素材料(磁界マイクロ波が照射される炭素材料)は、通常、該炭素材料の原料である多価フェノール類やフェノール樹脂由来のエーテル基、水酸基等の酸素含有基を有する。酸化グラフェン、還元型酸化グラフェンも同様に酸素含有基を有する。
【0025】
上記炭素材料は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、酸素の元素量が3原子%以上であることが好ましく、5原子%以上であることがより好ましく、8原子%以上であることが更に好ましい。該酸素の元素量は、40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましく、20原子%以下であることが更に好ましい。
また上記炭素材料は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、炭素の元素量は、97原子%以下であることが好ましく、95原子%以下であることがより好ましく、92原子%以下であることが更に好ましい。該炭素の元素量が70原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。
【0026】
上記炭素材料は、更に、窒素含有基、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、炭素、水素、及び、酸素以外の元素量が3原子%以下であることが好ましく、1原子%以下であることがより好ましく、該炭素材料が炭素、水素、及び、酸素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
上記酸素量、炭素、水素、及び、酸素以外の元素量、全元素の総和は、実施例に記載のXPS測定により測定することができる。
【0027】
上記炭素材料は、平均粒径が10μm以上、10mm以下であることが好ましい。より好ましくは、平均粒径が100μm以上、1mm以下であることである。
本明細書中、上記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の平均粒径である。
【0028】
上記炭素材料は、磁界マイクロ波を照射される際に、その他の成分との混合物であってもよいが、混合物中、炭素材料の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、実質的に炭素材料からなるものであることが特に好ましい。
【0029】
なお、焼成工程後は、得られた低欠陥化炭素材料の酸洗や水洗、乾燥等を適宜行うことができる。
【0030】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるG’バンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(I/IG’)が4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましく、1.0以下であることが一層好ましく、0.8以下であることがより一層好ましく、0.65以下であることが更に一層好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。該ピーク強度の比(I/IG’)の絶対値は、その下限値は特に限定されず、0であってもよい。
また本発明の製造方法により、低欠陥化炭素材料の上記ピーク強度の比(I/IG’)が原料の炭素材料のI/IG’と比べて2以上減少することが好ましく、4以上減少することがより好ましく、6以上減少することが更に好ましい。I/IG’の減少量は、その上限値は特に限定されないが、通常20以下である。
上記ピーク強度の比(I/IG’)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0031】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化炭素材料は、エーテル基、水酸基等の酸素含有基を有していても良い。
上記低欠陥化炭素材料は、グラフェンの性能をより充分に発揮できるようにする観点からは、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、炭素の元素量が88原子%以上であることが好ましく、90原子%以上であることがより好ましく、95原子%以上であることが更に好ましく、96原子%以上であることが一層好ましく、97原子%以上であることが特に好ましい。該炭素の元素量は、その上限値は特に限定されず、実質的に100原子%であってもよいが、通常は99原子%以下である。
【0032】
また上記低欠陥化炭素材料は、グラフェンの性能をより充分に発揮できるようにする観点からは、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、酸素の元素量は、10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、4原子%以下であることが更に好ましく、3原子%以下であることが特に好ましい。該酸素の元素量は、その下限値は特に限定されず、0原子%以上であってもよいが、通常は1原子%以上である。
【0033】
上記低欠陥化炭素材料は、更に、窒素含有基、ケイ素含有基、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、ケイ素量が0.5原子%以下であることが好ましく、0.3原子%以下であることがより好ましく、実質的にケイ素を含まないことが更に好ましい。
また上記低欠陥化炭素材料は、炭素、水素、及び、酸素以外の元素量が3原子%以下であることが好ましく、1原子%以下であることがより好ましく、中でも、上記低欠陥化炭素材料が炭素、水素、及び、酸素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
上記酸素量、炭素、水素、及び、酸素以外の元素量、全元素の総和は、実施例に記載のXPS測定により測定することができる。
【0034】
本発明の製造方法により得られた低欠陥化炭素材料は、非常に欠陥が少ないため、触媒、電極材料等として有用である。
【実施例
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0036】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<低欠陥化の進行度合いの評価>
試料の低欠陥化の進行度合いをラマン分光測定により評価した。ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光社製NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算32回(分解能=4cm-1
【0037】
<元素分析の分析方法>
XPS測定は、光電子分光装置(JPS-9000MX,日本電子株式会社製)を用いて炭素、酸素、ケイ素、硫黄、アルミニウムの質量濃度を測定した。
【0038】
<マイクロ波焼成>
空洞共振器を用いて、2.45GHzマイクロ波を装置内で共鳴させ、サンプル位置(言い換えれば装置の共鳴部長)を調整することで、サンプルに吸収されるマイクロ波の成分を調整した。
【0039】
(実施例1)
フロログルシノール(東京化成工業社製)を、環状炉を用い、窒素雰囲気中700℃で2時間焼成した。得られた炭素材料をフロログルシノール由来の炭素材料として用いた。アルミナセルに収容したフロログルシノール由来の炭素材料に、アルゴン雰囲気下で、全電磁界成分に対して磁界成分が100%であるマイクロ波を照射して該炭素材料を1200℃で120秒間焼成した。
(実施例2)
用いたセルをアルミナセルから石英セルに変えた以外は実施例1と同様に焼成した。
【0040】
(比較例1)
マイクロ波照射条件を磁界成分100%から電界成分100%に変えた以外は実施例1と同様に焼成した。
(比較例2)
用いたセルをアルミナセルから石英セルに変えた以外は比較例1と同様に焼成した。
【0041】
表1は実施例1-2、比較例1-2および原料であるフロログルシノール由来の炭素材料の各マイクロ波条件、XPSにより分析された結果を表す。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例3)
用いた炭素材料をフェノール樹脂由来の炭素材料(DIC株式会社製TD2131を窒素雰囲気中700℃で2時間焼成したもの)に変えた以外は実施例1と同様に焼成した。
(実施例4)
用いたセルをアルミナセルから石英セルに変えた以外は実施例3と同様に焼成した。
【0044】
(比較例3)
マイクロ波照射条件を磁界成分100%から電界成分100%に変えた以外は実施例3と同様に焼成した。
【0045】
表2は実施例3-4、比較例3および原料であるフェノール樹脂由来の炭素材料の各マイクロ波条件、XPSにより分析された結果を表す。
【0046】
【表2】
【0047】
(調製例1)
還元型酸化グラフェンであればその製法、濃度等に限定されず本発明の効果が発揮されるが、実施例で用いた還元型酸化グラフェンは以下の手順で作製した。
濃硫酸(試薬特級、和光純薬工業製)50質量部と天然黒鉛(鱗片状黒鉛、平均粒径:25μm、製品名:Z-25、伊藤黒鉛工業社製)1.00質量部とを耐食性反応器に加えて混合液を得た。混合液を撹拌しながら過マンガン酸カリウム(試薬特級、和光純薬工業社製)3質量部を混合液の中へ徐々に加えた。過マンガン酸カリウムを加えた後、混合液を35℃まで昇温させ、混合液の温度を35℃に保って2時間熟成を行い、生成物のスラリー(酸化黒鉛含有スラリー)を得た。次に、80質量部のイオン交換水が入った別の容器にイオン交換水を撹拌しながら20質量部のスラリーを加え30%過酸化水素水(試薬特級、和光純薬工業社製)1.0質量部をさらに加えた。その容器の内容物を30分間撹拌し、撹拌を停止した。撹拌を停止した後、容器の内容物を一晩静置して沈殿層と上澄みとに分離させた。その後、容器の内容物の上澄みを取り出した。その後、沈殿層を洗浄するために取り出した上澄みと同じ容積のイオン交換水を容器に加え、容器の内容物を30分間撹拌し、容器の内容物の撹拌を停止した後5時間以上静置して、再度上澄みを取り出した。このような、イオン交換水の追加、内容物の撹拌、及び、上澄みの取り出しからなる作業を、上澄みのpHが3以上になるまで繰り返した。その後、得られた沈殿層にイオン交換水を適量加えた後、ホモジナイザーを用いて沈殿層に含まれる酸化グラフェンを分散させた。次に、イオン交換水をさらに加えて内容物を希釈し、酸化グラフェン水分散体を得た。得られた酸化グラフェン水分散体における酸化グラフェンの濃度は1.0質量%であった。この酸化グラフェン水分散体100質量部を反応容器に取り、そこへL-アスコルビン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を5.0質量部添加し50℃で1時間反応させた。得られた反応液はろ過水洗した後、アセトンで洗浄ろ過、さらに水洗ろ過した。得られたウェットケーキを真空乾燥することで、還元型酸化グラフェンが得られた。
【0048】
(実施例5)
用いた炭素材料を調製例1で得た還元型酸化グラフェンに変えた以外は実施例1と同様に焼成した。
(実施例6)
焼成温度を800℃とした以外は実施例5と同様に焼成した。
【0049】
(比較例4、5)
マイクロ波照射条件を磁界成分100%から電界成分100%に変えた以外は実施例5、6と同様に焼成した。
【0050】
表3は実施例5-6、比較例4-5および原料である還元型酸化グラフェンの各マイクロ波条件、XPSにより分析された結果を表す。
【0051】
【表3】
【0052】
各実施例及び比較例から、各炭素材料に、磁界成分が強められた磁界マイクロ波を照射することで、電界成分が強められた電界マイクロ波を照射する場合と比べて、より炭素量が増え、酸素量を低減できることが分かった。また、より炭素材料を低欠陥化できることが分かった。ただし実施例6及び比較例5においては酸素量の低減効果は低かったが磁界成分による低欠陥化の効果は確認できる。更に、実施例1、2等の結果から、磁界成分が強められた磁界マイクロ波を照射するとともに、アルミナセルを用いると、アルミニウムやケイ素が不純物として入ることを抑制できることが分かった。
【0053】
以上の結果から、炭素材料に、磁界マイクロ波を照射して該炭素材料を焼成することで、炭素材料を好適に低欠陥化できることが確認された。なお、上述した実施例では磁界マイクロ波として、全電磁界成分に対して磁界成分が100%であるマイクロ波を用いたが、各実施例及び比較例の結果から、磁界成分が低欠陥化により効果があると評価できるため、全電磁界成分に対して磁界成分が60%以上であるマイクロ波であれば、実施例の顕著な効果又はこれに準じた効果が本発明の効果として発揮されることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14