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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】還元剤供給制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20231215BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
F01N3/08 B
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019189827
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021063489
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大野 成弘
(72)【発明者】
【氏名】真野 佑輝
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-14387(JP,A)
【文献】特開2017-110515(JP,A)
【文献】特開2013-113194(JP,A)
【文献】特開2015-105579(JP,A)
【文献】特開2015-78643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(5)の排気通路(11)に設けられた第1の還元触媒(17)の上流側に還元剤を供給する第1の噴射弁(31)と、前記第1の還元触媒(17)の下流側に設けられた第2の還元触媒(13)の上流側に前記還元剤を供給する第2の噴射弁(33)と、貯蔵タンク(50)内の前記還元剤を前記第1の噴射弁(31)及び前記第2の噴射弁(33)に供給するポンプ(41)と、前記第1の噴射弁(31)、前記第2の噴射弁(33)及び前記ポンプ(41)を制御する制御装置(60)と、を備えた、還元剤供給制御装置(30)において、
前記制御装置(60)は、
前記内燃機関(5)の停止時に前記還元剤を前記貯蔵タンク(50)へと回収する回収制御部(61)と、
前記内燃機関(5)の始動時に、前記第1の噴射弁(31)又は前記第2の噴射弁(33)を開放しながら前記第1の噴射弁(31)に通じる第1の還元剤供給通路(45)又は前記第2の噴射弁(33)に通じる第2の還元剤供給通路(47)に前記還元剤を供給して前記第1の還元剤供給通路(45)及び前記第2の還元剤供給通路(47)内の空気を排出するエア抜き制御部(63)と、を備え、
前記エア抜き制御部(63)は、
前記第1の還元触媒(17)の温度が第1の温度に到達する第1条件が成立したときに前記第1の噴射弁(31)に通じる前記第1の還元剤供給通路(45)に前記還元剤を供給して空気を排出し前記第1の還元剤供給通路(45)へ前記還元剤を充填し前記第1の還元剤供給通路(45)への前記還元剤の充填が終了すると前記第1の噴射弁(31)による前記還元剤の噴射制御を開始させる第1のエア抜き制御と、
前記第2の還元触媒(13)の温度が第2の温度に到達する第2条件が成立したときに前記第2の噴射弁(33)に通じる前記第2の還元剤供給通路(47)に前記還元剤を供給して空気を排出し前記第2の還元剤供給通路(47)へ前記還元剤を充填し前記第2の還元剤供給通路(47)への前記還元剤の充填が終了すると前記第2の噴射弁(33)による前記還元剤の噴射制御を開始させる第2のエア抜き制御と、を実行可能に構成され、
前記第1のエア抜き制御又は前記第2のエア抜き制御のうち、先に前記第1条件又は前記第2条件が成立して実行される一方のエア抜き制御が完了した後に、他方のエア抜き制御を実行可能とする、ことを特徴とする還元剤供給制御装置。
【請求項2】
前記制御装置(60)は、
目標噴射量に基づいて前記第1の噴射弁(31)を制御する第1の噴射弁制御部(67)と、
目標噴射量に基づいて前記第2の噴射弁(33)を制御する第2の噴射弁制御部(69)と、をさらに備え、
前記エア抜き制御部(63)は、前記他方のエア抜き制御を実行する間、先に完了した前記一方のエア抜き制御に対応する噴射弁による前記還元剤の噴射制御を停止させ、
前記第1の噴射弁制御部(67)又は前記第2の噴射弁制御部(69)は、当該停止期間中に算出された目標噴射量の積算値を、噴射制御の再開後の目標噴射量に加算する、ことを特徴とする請求項1に記載の還元剤供給制御装置。
【請求項3】
前記第2の噴射弁(33)に通じる前記第2の還元剤供給通路(47)は、前記第1の噴射弁(31)に通じる前記第1の還元剤供給通路(45)から分岐しており、
当該分岐部分に開閉弁を備える、請求項1又は2に記載の還元剤供給制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路への還元剤の供給を制御する還元剤供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排ガス中にNOX(窒素酸化物)が含まれる場合がある。排ガス中に含まれるNOXを還元反応により窒素や水に分解して排ガスを浄化する装置として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムが実用化されている。尿素SCRシステムでは、尿素水溶液を還元剤として用いて、尿素水溶液から生成されるアンモニアが排ガス中のNOXと反応することによってNOXが分解される。
【0003】
尿素SCRシステムは、排気通路に設けられた還元触媒と、還元触媒よりも上流側の排気通路に尿素水溶液を供給するための還元剤供給制御装置とを備える。還元触媒は、アンモニアを吸着し、流入する排ガス中のNOXとアンモニアとの還元反応を促進する機能を有する。還元剤供給制御装置は、尿素水溶液を圧送するポンプと、ポンプにより圧送される尿素水溶液を噴射する噴射弁と、ポンプ及び噴射弁の駆動制御を行う制御装置とを備える。
【0004】
還元触媒におけるアンモニアの吸着可能量や還元効率は、排気温度や触媒温度、尿素水溶液の供給量によって変わり得る。尿素水溶液の供給量が不足する場合、浄化されなかったNOXが還元触媒の下流側に流出するおそれがある。一方、尿素水溶液の供給量が過剰である場合、還元触媒におけるアンモニアの吸着可能量を超えるアンモニアが還元触媒に供給されて、余剰分のアンモニアが還元触媒の下流側に流出するおそれがある。このため、還元剤供給制御装置による尿素水溶液の供給量は、少なくとも内燃機関の排ガス中のNOX量に基づいて、過不足のないように制御される。
【0005】
また、尿素水溶液の凍結温度は、例えば32.5%濃度の尿素水溶液の場合、マイナス11℃程度である。還元剤供給制御装置の停止中に尿素水溶液が凍結して体積が膨張すると、ポンプや噴射弁、さらに尿素水溶液が流通する配管等が破損するおそれがある。このため、内燃機関の停止時には、ポンプや噴射弁等に残留する尿素水溶液を貯蔵タンクに回収する制御が行われる。一方、内燃機関の始動時においては、噴射弁に通じる還元剤供給通路内に尿素水溶液を充填し、尿素水溶液の圧力を目標圧とするために、還元剤供給通路内に存在する空気を排出する必要がある。例えば、特許文献1には、噴射弁を開放して空気を排出しながら尿素水溶液を充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-78643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、近年、排気通路に2つ以上の還元触媒を備えた尿素SCRシステムが検討されている。例えば、内燃機関の近傍に設けられて内燃機関の始動後に速やかに昇温可能な第1の還元触媒としての機能を有するパティキュレートフィルタと、第1の還元触媒よりも下流側に設けられた第2の還元触媒とを備えた尿素SCRシステムが考えられる。
【0008】
このように2つ以上の還元触媒を備えた尿素SCRシステムにおいて、内燃機関の始動時に、それぞれの還元触媒の上流側に設けられた複数の噴射弁を同時に開放して空気あるいは排ガスを抜きながら還元剤供給通路に還元剤を供給した場合、複数の噴射弁に通じる還元剤供給通路をともに還元剤で満たそうとすると、いずれかの噴射弁から排気通路内に還元剤が漏れ出るおそれがある。例えば、それぞれの噴射弁に通じる還元剤供給通路の長さや容量の違い、還元剤回収時の残量の差、還元剤充填時の噴射弁の噴射孔の詰まり度合い等が異なっていたり、制御上の設計値からずれていたりすると、複数の噴射弁の還元剤供給通路の充填を同時に完了させることは困難である。
【0009】
噴射弁の周辺や排気通路内の低温時において、噴射弁からの還元剤の漏出は、尿素水溶液の結晶化による配管の腐食や、配管及び噴射弁の詰まり、排気通路内での結晶の堆積を生じさせるおそれがある。また、噴射弁の周辺や排気通路内の低温時以外にも、噴射弁からの還元剤の漏出は、計算外のアンモニアの発生による還元触媒での吸蔵量の計算のずれや、還元触媒に吸蔵しきれないアンモニアの流出を生じさせるおそれがある。
【0010】
一方、還元剤の充填時において、いずれかの噴射弁に通じる還元剤供給通路に空気あるいは排ガスが残留した場合、還元剤の噴射制御の開始後に、残留していた空気等が噴射弁に到達することで、還元剤供給通路内の圧力が低下するおそれがある。還元剤供給通路内の圧力低下は、尿素水溶液の噴射量のずれを生じさせ、還元触媒でのアンモニアの吸蔵量の計算のずれを生じさせるおそれがある。また、還元剤供給通路内の圧力低下は、還元剤の供給通路から尿素水溶液が漏出しているとの誤判定を引き起こすおそれもある。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、複数の還元触媒の上流側に備えられた複数の噴射弁にそれぞれ通じる還元剤供給通路に還元剤を充填する際に、還元剤供給通路内の空気あるいは排ガスの残留や排気通路内への還元剤の漏出を抑制可能な還元剤供給制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある観点によれば、内燃機関の排気通路に設けられた第1の還元触媒の上流側に還元剤を供給する第1の噴射弁と、第1の還元触媒の下流側に設けられた第2の還元触媒の上流側に還元剤を供給する第2の噴射弁と、貯蔵タンク内の還元剤を第1の噴射弁及び第2の噴射弁に供給するポンプと、第1の噴射弁、第2の噴射弁及びポンプを制御する制御装置と、を備えた、還元剤供給制御装置において、制御装置は、内燃機関の停止時に還元剤を貯蔵タンクへと回収する回収制御部と、内燃機関の始動時に、第1の噴射弁及び第2の噴射弁を開放しながら第1の噴射弁及び第2の噴射弁に通じる還元剤供給通路に還元剤を供給して還元剤供給通路内の空気を排出するエア抜き制御部と、を備え、エア抜き制御部は、第1の還元触媒の温度が第1の温度に到達する第1条件が成立したときに第1の噴射弁に通じる還元剤供給通路に還元剤を供給して空気を排出し、第1の噴射弁による還元剤の噴射制御を開始させる第1のエア抜き制御と、第2の還元触媒の温度が第2の温度に到達する第2条件が成立したときに第2の噴射弁に通じる還元剤供給通路に還元剤を供給して空気を排出し、第2の噴射弁による還元剤の噴射制御を開始させる第2のエア抜き制御と、を実行可能に構成され、第1のエア抜き制御又は第2のエア抜き制御のうち、先に第1条件又は第2条件が成立して実行される一方のエア抜き制御が完了した後に、他方のエア抜き制御を実行可能とする還元剤供給制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、2つの還元触媒の上流側に備えられた2つの噴射弁にそれぞれ通じる還元剤供給通路に還元剤を充填する際に、還元剤供給通路内の空気あるいは排ガスの残留や排気通路内への還元剤の漏出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る還元剤供給制御装置の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る還元剤供給制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】同実施形態に係る還元剤供給制御装置によるエア抜き制御の一例を示すフローチャートである。
図4】同実施形態に係る還元剤供給制御装置によるエア抜き制御の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<1.尿素SCRシステムの全体構成>
まず、本実施形態に係る還元剤供給制御装置を適用可能な尿素SCRシステムの全体構成の一例を説明する。図1は、本実施形態に係る尿素SCRシステム10の構成例を示す模式図である。
【0017】
尿素SCRシステムは、ディーゼルエンジンに代表される内燃機関5の排気通路11の途中に設けられた第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13と、第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13それぞれの上流側で排気通路11内に尿素水溶液を供給するための還元剤供給制御装置30とを備える。尿素SCRシステム10は、車両や建設機械、農機、産業機械等の内燃機関5の排気系に設けられ、還元剤としての尿素水溶液を用いて、内燃機関5の排ガス中のNOXを還元し、排ガスを浄化する。
【0018】
尿素水溶液としては、例えば凍結温度が最も低い、約32.5%濃度の尿素水溶液が用いられる。この場合の凍結温度は、約マイナス11℃である。かかる尿素水溶液は、濃度が変化することにより凍結温度が上昇する特性を有しており、溶媒としての水分が蒸発したり、水分が混入したりすることによって凍結しやすくなる。
【0019】
第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13は、それぞれ内燃機関5の排ガス中に含まれるNOXを選択的に還元する。具体的に、第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13は、還元剤供給制御装置30により供給される尿素水溶液が分解して生成されるアンモニアを吸着し、流入する排ガス中のNOXをアンモニアと反応させることにより還元する。第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13は、触媒温度が高いほどアンモニアの最大吸着量が減少する特性を有する。また、排気温度あるいは触媒温度が低い場合、排気中での尿素水溶液の熱分解や触媒表面での尿素水溶液の加水分解が生じず、アンモニアが生成されないこととなる。したがって、第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13の触媒温度が高すぎたり低すぎたりすると、NOXの還元効率が低下する。
【0020】
本実施形態において、第1の還元触媒17は、排ガス中の煤等の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するパティキュレートフィルタに触媒成分を担持させて構成され、還元触媒及びパティキュレートフィルタの機能を併せ持つ。例えば、第1の還元触媒17は、内燃機関5に近接する位置において排気通路11内に設けられる。第2の還元触媒13は、第1の還元触媒17よりも下流側の排気通路11内に設けられる。尿素SCRシステム10が乗用車に搭載されるシステムである場合、例えば、第1の還元触媒17はエンジンルーム内に位置し、第2の還元触媒13は車室のフロア下に位置する。第2の還元触媒13は、熱源となる内燃機関5から離れた位置に配置されるため、熱による劣化を抑制することができる。第2の還元触媒13の触媒容量は、第1の還元触媒17の触媒容量よりも大きくてもよい。
【0021】
第1の還元触媒17は、内燃機関5に近接する位置に設けられていることから、内燃機関5の始動時において第1の還元触媒17の周囲の温度が、第2の還元触媒13の周囲の温度よりも速く上昇することがある。この場合、第1の還元触媒17は、内燃機関5の始動後、第2の還元触媒13よりも早く温度上昇してNOXの浄化を開始できる一方で、過度に高温状態になった場合には、アンモニアの最大吸着量が減ってアンモニアがスリップしやすくなる。第2の還元触媒13は、内燃機関5の始動後、第1の還元触媒17よりも緩やかに温度上昇するため、第1の還元触媒17からスリップしたアンモニアを吸着することができる。また、第2の還元触媒13は温度上昇が抑制されることから、内燃機関5の運転状態により過熱状態となって第2の還元触媒13でのNOXの浄化効率が著しく低下する期間を短くすることができる。
【0022】
第1の還元触媒17の上流側の排気通路11に、酸化触媒19が設けられている。酸化触媒19は、排ガス中の未燃燃料(HC)を酸化してその酸化熱により排気温度を上昇させ、パティキュレートフィルタとしての機能を有する第1の還元触媒17に捕集されたPMを燃焼させる機能を有する。また、酸化触媒19は、排ガス中の一酸化窒素(NO)の一部を酸化して二酸化窒素(NO2)へ変化させる機能を有する。酸化触媒19の代わりに、あるいは酸化触媒19に加えて、NOX吸蔵触媒が設けられていてもよい。
【0023】
なお、第1の還元触媒17は、パティキュレートフィルタに触媒成分を担持させたものに限定されない。また、酸化触媒19は、尿素SCRシステム10に必須の構成要素ではない。
【0024】
還元剤供給制御装置30は、第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13それぞれの上流側の排気通路11内に尿素水溶液を供給する。第1の還元触媒17に対する尿素水溶液の供給量は、第1の還元触媒17に流入する排ガス中のNOX濃度や第1の還元触媒17の温度(第1の触媒温度)、第1の還元触媒17におけるアンモニアの吸着量等に基づいて、第1の還元触媒17の下流側にNOXあるいはアンモニアが流出しないように設定される。また、第2の還元触媒13に対する尿素水溶液の供給量は、第2の還元触媒13に流入する排ガス中のNOX濃度や第2の還元触媒13の温度(第2の触媒温度)、第2の還元触媒13におけるアンモニアの吸着量等に基づいて、第2の還元触媒13の下流側にNOXあるいはアンモニアが流出しないように設定される。
【0025】
還元剤供給制御装置30は、第1の還元触媒17の上流側の排気通路11に取り付けられた第1の噴射弁31と、第2の還元触媒13の上流側の排気通路11に取り付けられた第2の噴射弁33と、尿素水溶液を圧送するポンプ41とを備える。これらの第1の噴射弁31、第2の噴射弁33及びポンプ41の駆動は、制御装置60によって制御される。ポンプ41から第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33に供給される尿素水溶液の圧力は、圧力センサ43により検出される。圧力センサ43を用いる代わりに、ポンプ41の駆動電流波形に基づいて尿素水溶液の圧力を推定するようにしてもよい。
【0026】
ポンプ41は、例えば、電動式のダイヤフラムポンプや電動式のギヤポンプであってもよい。ポンプ41の出力は、制御装置60により制御される。本実施形態に係る尿素SCRシステム10において、制御装置60は、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33への尿素水溶液の供給圧が所定の目標圧となるように、圧力センサ43により検出される圧力と目標圧との差分に基づいてポンプ41の出力をフィードバック制御する。ただし、尿素水溶液の噴射量分を補充するようにポンプ41の出力が制御されてもよい。
【0027】
第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33は、例えば、通電制御により開弁及び閉弁が切り替えられる電磁式開閉弁であってもよい。かかる噴射弁は電磁コイルを備え、電磁コイルへの通電により発生する磁力によって弁体が移動して開弁する構造を有している。第1の噴射弁31は、第1の供給通路45を介してポンプ41に接続されている。また、第2の噴射弁33は、第1の供給通路45から分岐した第2の供給通路47を介してポンプ41に接続されている。
【0028】
上記のとおり、本実施形態においては、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33への尿素水溶液の供給圧は所定の目標圧で維持されており、制御装置60は、尿素水溶液の目標噴射量に応じて第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33それぞれの開弁時間を調節する。例えば、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33は、噴孔が排気通路11内に臨むようにして排気管に取り付けられ、尿素水溶液を排気通路11内に直接噴射する。
【0029】
第1の還元触媒17の下流側、かつ、第2の還元触媒13の上流側の排気通路11には、排気温度を検出する排気温度センサ21が設けられている。排気温度センサ21のセンサ信号は制御装置60に送信される。排気温度センサ21により検出される排気温度は、第2の還元触媒13の温度の推定にも用いられる。また、第2の還元触媒13よりも下流側の排気通路11には、NOX濃度を検出するNOXセンサ23が設けられている。NOXセンサ23のセンサ信号は制御装置60に送信される。NOXセンサ23は、アンモニアにも反応し、NOXセンサ23によって第2の還元触媒13の下流側に流出したNOX及びアンモニアが検知される。なお、各種センサの配置位置は、上記の例に限られない。
【0030】
<2.制御装置の構成例>
次に、本実施形態に係る還元剤供給制御装置30の制御装置60の構成例を説明する。図2は、制御装置60の構成例を示すブロック図である。なお、制御装置60は、一つの制御装置で構成されてもよく、互いに通信可能な複数の制御装置で構成されていてもよい。
【0031】
制御装置60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサや電気回路、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子を備えて構成される。制御装置60の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0032】
制御装置60は、第1の触媒温度推定部71、第2の触媒温度推定部73、ポンプ制御部65、第1の噴射弁制御部67、第2の噴射弁制御部69、回収制御部61及びエア抜き制御部63を備える。これらの各部の一部又は全部は、プロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能であってもよい。制御装置60は、イグニッションスイッチ3の制御信号、並びに、圧力センサ43、排気温度センサ21及びNOXセンサ23のセンサ信号を取得可能に構成されている。
【0033】
第1の触媒温度推定部71は、第1の還元触媒17の温度(第1の触媒温度)を推定する。第1の触媒温度推定部71による第1の触媒温度の推定方法は、特に限定されない。例えば、第1の触媒温度推定部71は、内燃機関5の運転条件から推定される排気温度に基づいて第1の触媒温度を推定する。第1の触媒温度推定部71は、さらに外気温度又は排気温度センサ21により検出される排気温度のうちの少なくとも一つを用いて第1の触媒温度を推定してもよい。
【0034】
第2の触媒温度推定部73は、第2の還元触媒13の温度(第2の触媒温度)を推定する。第2の触媒温度推定部73による第2の触媒温度の推定方法は、特に限定されない。例えば、第2の触媒温度推定部73は、排気温度センサ21により検出される排気温度に基づいて第2の触媒温度を推定する。第2の触媒温度推定部73は、さらに外気温度を用いて第1の触媒温度を推定してもよい。
【0035】
ポンプ制御部65は、ポンプ41の駆動を制御する。本実施形態において、排気通路11への尿素水溶液の噴射制御の実行中において、ポンプ制御部65は、圧力センサ43により検出される尿素水溶液の供給圧があらかじめ設定された目標圧となるようにポンプ41の出力をフィードバック制御する。また、内燃機関5の停止時において、ポンプ制御部65は、回収制御部61の指令にしたがってポンプ41を駆動し、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内の尿素水溶液を貯蔵タンク50へと戻す。また、内燃機関5の始動時において、ポンプ制御部65は、エア抜き制御部63の指令にしたがってポンプ41を駆動し、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内へ尿素水溶液を充填する。
【0036】
第1の噴射弁制御部67は、第1の噴射弁31の駆動を制御する。排気通路11への尿素水溶液の噴射制御の実行中において、第1の噴射弁制御部67は、内燃機関5から排出される排ガス中のNOX濃度、第1の触媒温度及び第1の還元触媒17におけるアンモニア吸着可能量の情報に基づいて、第1の噴射弁31による尿素水溶液の目標噴射量を算出する。内燃機関5から排出される排ガス中のNOX濃度は、内燃機関5の運転条件から推定されてもよく、図示しないNOXセンサを用いて検出されてもよい。第1の還元触媒17におけるアンモニア吸着可能量は、第1の触媒温度に応じた最大吸着量と、第1の還元触媒17におけるアンモニアの消費量及び第1の還元触媒17へのアンモニアの供給量の積算量との差として求めることができる。また、第1の噴射弁制御部67は、算出した目標噴射量にしたがって第1の噴射弁31への電力供給を制御する。例えば、第1の噴射弁制御部67は、目標噴射量にしたがって、一サイクル中の第1の噴射弁31への通電時間である駆動デューティ比を制御する。
【0037】
また、内燃機関5の停止時において、第1の噴射弁制御部67は、回収制御部61の指令にしたがって第1の噴射弁31を開弁し、尿素水溶液の回収に合わせて第1の供給通路45内に空気あるいは排ガスが導入されるようにする。また、内燃機関5の始動時において、第1の噴射弁制御部67は、エア抜き制御部63の指令にしたがって第1の噴射弁31を開弁し、尿素水溶液の充填時に第1の供給通路45内から空気あるいは排ガスが排出されるようにする。
【0038】
第2の噴射弁制御部69は、第2の噴射弁33の駆動を制御する。排気通路11への尿素水溶液の噴射制御の実行中において、第2の噴射弁制御部69は、第1の還元触媒17の下流側の排ガス中のNOX濃度、第2の触媒温度及び第2の還元触媒13におけるアンモニア吸着可能量の情報に基づいて、第2の噴射弁33による尿素水溶液の目標噴射量を算出する。第1の還元触媒17の下流側の排ガス中のNOX濃度は、内燃機関5の運転条件及び第1の還元触媒17によるNOXの浄化率から推定されてもよく、図示しないNOXセンサを用いて検出されてもよい。第2の還元触媒13におけるアンモニア吸着可能量は、第2の触媒温度に応じた最大吸着量と、第2の還元触媒13におけるアンモニアの消費量及び第2の還元触媒13へのアンモニアの供給量の積算量との差として求めることができる。また、第2の噴射弁制御部69は、算出した目標噴射量にしたがって第2の噴射弁33への電力供給を制御する。例えば、第2の噴射弁制御部69は、目標噴射量にしたがって、一サイクル中の第2の噴射弁33への通電時間である駆動デューティ比を制御する。
【0039】
また、内燃機関5の停止時において、第2の噴射弁制御部69は、回収制御部61の指令にしたがって第2の噴射弁33を開弁し、尿素水溶液の回収に合わせて第2の供給通路47内に空気あるいは排ガスが導入されるようにする。また、内燃機関5の始動時において、第2の噴射弁制御部69は、エア抜き制御部63の指令にしたがって第2の噴射弁33を開弁し、尿素水溶液の充填時に第2の供給通路47内から空気あるいは排ガスが排出されるようにする。
【0040】
回収制御部61は、内燃機関5の停止時において、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内の全部又は一部の尿素水溶液を貯蔵タンク50内に回収する制御を行う。例えば、回収制御部61は、イグニッションスイッチ3の制御信号に基づいて内燃機関5の停止を検知した場合、ポンプ41を逆回転させたり、ポンプ41による尿素水溶液の供給通路を切り替えてポンプ41を駆動させたりすることにより、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内の尿素水溶液を貯蔵タンク50側に吸い戻す。その際に、回収制御部61は、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内の圧力が負圧になった後に第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33を開弁させ、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内に空気あるいは排ガスが導入されるようにする。これにより、尿素水溶液が排気通路11内へ漏洩することが抑制される。
【0041】
回収制御部61は、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33を同時に開弁してもよく、異なるタイミングで開弁してもよい。また、尿素水溶液を貯蔵タンク50側に吸い戻す方法は上記の例に限定されるものではなく、ポンプ41とは別に設けられた、回収用のポンプが用いられてもよい。
【0042】
エア抜き制御部63は、内燃機関5の始動時において、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内の空気あるいは排ガスを排気通路11へ排出しながら、第1の供給通路45及び第2の供給通路47内に尿素水溶液を充填するエア抜き制御を行う。エア抜き制御部63は、第1の供給通路45内に尿素水溶液を充填する際、第1の噴射弁31を開弁して第1の供給通路45から空気あるいは排ガスを排気通路11へ排出する。また、エア抜き制御部63は、第2の供給通路47内に尿素水溶液を充填する際、第2の噴射弁33を開弁して第2の供給通路47から空気あるいは排ガスを排気通路11へ排出する。
【0043】
本実施形態に係る還元剤供給制御装置30において、エア抜き制御部63は、第1の触媒温度が第1の温度に到達する第1条件が成立したときに第1の噴射弁31に通じる第1の供給通路45に尿素水溶液を供給して空気あるいは排ガスを排出し、第1の噴射弁制御部67による尿素水溶液の噴射制御を開始させる第1のエア抜き制御を実行する。また、エア抜き制御部63は、第2の還元触媒13の温度が第2の温度に到達する第2条件が成立したときに第2の噴射弁33に通じる第2の供給通路47に尿素水溶液を供給して空気あるいは排ガスを排出し、第2の噴射弁33による還元剤の噴射制御を開始させる第2のエア抜き制御を実行する。その際、エア抜き制御部63は、第1のエア抜き制御又は第2のエア抜き制御のうち、先に第1条件又は第2条件が成立して実行される一方のエア抜き制御が完了した後に、他方のエア抜き制御を実行可能とする。
【0044】
第1の噴射弁31の開弁を伴う第1の供給通路45への尿素水溶液の充填と、第2の噴射弁33の開弁を伴う第2の供給通路47への尿素水溶液の充填とを時間をずらして行うことにより、第1の供給通路45及び第2の供給通路47それぞれからの空気あるいは排ガスの排出終了時期の予測が容易になり、排気通路11内への尿素水溶液の漏洩を抑制することができる。これにより、第1の還元触媒17又は第2の還元触媒13のアンモニアの吸着量の計算のずれや、アンモニアスリップを抑制することができる。
【0045】
例えば、内燃機関5の始動時において、内燃機関5の熱の影響を受けて第1の触媒温度の周囲の温度が第2の還元触媒13の周囲の温度よりも速く上昇すると、第1の還元触媒17は第2の還元触媒13よりも早い時期にNOXの浄化を開始することが可能になる。この場合、第1の触媒温度が第1の温度(例えば150℃)に到達したときに、エア抜き制御部63は、第1のエア抜き制御を実行する。第1のエア抜き制御が完了した後、第2の触媒温度が第2の温度(例えば150℃)に到達したときに、エア抜き制御部63は、第2のエア抜き制御を実行する。
【0046】
第1の触媒温度又は第2の触媒温度がそれぞれ所定温度以上になった状態では、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33の取り付け位置の周囲も高温状態となっているため、尿素水溶液の充填時に、第1の噴射弁31又は第2の噴射弁33のいずれかから尿素水溶液が排気通路11内に漏洩した場合であっても、尿素水溶液の結晶化を抑制することができる。また、第1の還元触媒17又は第2の還元触媒13それぞれにおけるNOXの浄化効率が高くなってから第1の噴射弁31又は第2の噴射弁33が開弁されるため、第1の噴射弁31又は第2の噴射弁33のいずれかから尿素水溶液が排気通路11内に漏洩した場合であっても、漏洩した尿素水溶液が加水分解してアンモニアが生成され、第1の還元触媒17又は第2の還元触媒13に吸着され、排ガス中のNOXの還元反応により消費される。
【0047】
また、第1の供給通路45及び第2の供給通路47それぞれからの空気あるいは排ガスの排出終了時期の予測が容易になると、尿素水溶液の充填時に第1の供給通路45及び第2の供給通路47内に空気あるいは排ガスが残留することを抑制することができる。このため、尿素水溶液の噴射制御開始後に第1の供給通路45あるいは第2の供給通路47内の圧力が低下して、尿素水溶液の噴射量の計算にずれが生じることを抑制することができる。
【0048】
このとき、エア抜き制御部63は、第1のエア抜き制御が完了した後、第2の供給通路47への尿素水溶液の充填を行う間、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を停止させてもよい。これにより、第1の供給通路45内の圧力が不安定な状態で第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御が行われることが避けられ、噴射量のずれによる第1の還元触媒17のアンモニアの吸着量の計算のずれやアンモニアスリップを抑制することができる。
【0049】
ただし、第2の供給通路47のエア抜き制御が完了するまでの期間、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を停止させる場合、第1の噴射弁制御部67は、当該停止期間中に算出された尿素水溶液の目標噴射量を積算し、噴射制御の再開後の目標噴射量に当該積算値を加算することが好ましい。これにより、第1の還元触媒17におけるアンモニアの吸着量のずれが抑制され、第1の還元触媒17の還元効率の低下を抑制することができる。
【0050】
<3.動作例>
次に、本実施形態に係る還元剤供給制御装置30の動作の一例を説明する。図3は、内燃機関5の始動時における還元剤供給制御装置30の動作例を示すフローチャートである。
【0051】
まず、制御装置60のエア抜き制御部63は、内燃機関5のイグニッションスイッチ3の制御信号に基づいてイグニッションスイッチ3がオンになったことを検知する(ステップS11)。イグニッションスイッチ3がオンになり、内燃機関5が始動すると、内燃機関5の回転数(Ne)及びポンプ41の出力d_pが上昇し、尿素水溶液の供給圧P_uが上昇する。内燃機関5の始動に伴って、第1の触媒温度T_c1及び第2の触媒温度T_c2が上昇し始める。
【0052】
次いで、エア抜き制御部63は、第1の触媒温度T_c1が、あらかじめ設定された第1の温度T_c1_thに到達したか否かを判別する(ステップS13)。第1の温度T_c1_thは、例えば、第1の還元触媒17におけるNOXの浄化効率が所定以上となる適切な温度に設定される。第1の触媒温度T_c1が第1の温度T_c1_th未満と判定される場合(S13/No)、エア抜き制御部63は、第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_thに到達したか否かを判別する(ステップS27)。第2の温度T_c2_thは、例えば、第2の還元触媒13におけるNOXの浄化効率が所定以上となる適切な温度に設定される。
【0053】
第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_th未満と判定される場合(S27/No)、エア抜き制御部63は、ステップS13に戻って第1の触媒温度T_c1の判定を繰り返す。第1の触媒温度T_c1及び第2の触媒温度T_c2がいずれも設定温度に到達しない間、ポンプ制御部65は、尿素水溶液の供給圧が所定の目標値となるようにポンプ41の出力を制御する。なお、イグニッションスイッチ3がオンになったときにポンプ41の駆動を開始する代わりに、第1の触媒温度T_c1が第1の温度T_c1_thに近づいたときにポンプ41の駆動を開始してもよい。
【0054】
一方、ステップS13において、第1の触媒温度T_c1が第1の温度T_c1_thに到達したと判定される場合(S13/Yes)、エア抜き制御部63は、第1のエア抜き制御を実行し、第1の供給通路45への尿素水溶液の充填を行う(ステップS15)。具体的に、エア抜き制御部63は、ポンプ41の出力のフィードバック制御を維持したまま第1の噴射弁31を開弁させて第1の供給通路45内の空気あるいは排ガスを排気通路11内に排出させる。このとき、第1の噴射弁31の開弁時間は、あらかじめシミュレーション等により求められて設定される。例えば、第1の噴射弁31の開弁時間は、尿素水溶液の供給圧が目標圧となった場合における、内燃機関5の停止時の尿素水溶液の回収制御後に第1の供給通路45及び第2の供給通路47内に存在する空気あるいは排ガスの体積に基づいて設定されていてもよい。なお、第1の供給通路45内の空気あるいは排ガスを排出する間、ポンプ41の出力のフィードバック制御を維持する代わりに、ポンプ41の駆動を停止してもよい。
【0055】
次いで、第1の供給通路45への尿素水溶液の充填が終了すると、エア抜き制御部63は、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を許可する(ステップS17)。これにより、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御が開始され、温度が上昇した第1の還元触媒17を用いて、排ガス中のNOXが浄化される。
【0056】
次いで、エア抜き制御部63は、第2の触媒温度T_c2が、あらかじめ設定された第2の温度T_c2_thに到達したか否かを判別する(ステップS19)。第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_th未満と判定される場合(S19/No)、エア抜き制御部63は、第2の触媒温度T_c2の判定を繰り返す。
【0057】
一方、第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_thに到達したと判定される場合(S19/Yes)、エア抜き制御部63は、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を停止する(ステップS21)。次いで、エア抜き制御部63は、第2のエア抜き制御を実行し、第2の供給通路47への尿素水溶液の充填を行う(ステップS23)。具体的に、エア抜き制御部63は、ポンプ41の出力のフィードバック制御を維持したまま第2の噴射弁33を開弁させて第2の供給通路47内の空気あるいは排ガスを排気通路11内に排出させる。このとき、第2の噴射弁33の開弁時間は、あらかじめシミュレーション等により求められて設定される。例えば、第2の噴射弁33の開弁時間は、第1の供給通路45への尿素水溶液の充填後に第2の供給通路47内に存在する空気あるいは排ガスの体積に基づいて設定されていてもよい。なお、第1の供給通路45内の空気あるいは排ガスを排出する間、ポンプ41の出力のフィードバック制御を維持する代わりに、ポンプ41の駆動を停止してもよい。
【0058】
第2の供給通路47への尿素水溶液の充填が終了すると、エア抜き制御部63は、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御を許可する(ステップS25)。これにより、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御が開始され、温度が上昇した第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13を用いて、排ガス中のNOXが浄化される。以降、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33からともに尿素水溶液を供給し、第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13をともに活用してNOXを浄化してもよく、第2の噴射弁33から尿素水溶液を供給し第2の還元触媒13のみを活用してNOXを浄化してもよい。
【0059】
第1の触媒温度T_c1が第1の温度T_c1_thに到達するよりも先に第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_thに到達した場合(S13/NoかつS27/Yes)、第2のエア抜き制御と第1のエア抜き制御との順序を入れ替える以外はステップS15~ステップS27と同様の手順で第2のエア抜き制御及び第1のエア抜き制御を実行し(ステップS27~S37)、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御を開始する(ステップS25)。
【0060】
図4は、内燃機関5の始動時における還元剤供給制御装置30の動作例を示すタイミングチャートである。図4は、内燃機関5の始動後における第1の触媒温度の上昇速度が、第2の還元触媒13の温度の上昇速度よりも速い場合の動作例を示している。
【0061】
図4に示した例では、時刻t1において、エア抜き制御部63は、内燃機関5のイグニッションスイッチ3の制御信号に基づいてイグニッションスイッチ3がオンになったことを検知する。イグニッションスイッチ3がオンになり、内燃機関5が始動すると、内燃機関5の回転数(Ne)及びポンプ41の出力d_pが上昇し、尿素水溶液の供給圧P_uが上昇する。内燃機関5の始動に伴って、第1の触媒温度T_c1及び第2の触媒温度T_c2が上昇し始める。この例では、第1の触媒温度T_c1の上昇速度は第2の触媒温度T_c2よりも速くなっている。
【0062】
次いで、時刻t2において、エア抜き制御部63は、第1の触媒温度T_c1が第1の温度T_c1_thに到達したと判定し、第1のエア抜き制御を実行して第1の供給通路45への尿素水溶液の充填を行う。次いで、時刻t3において、第1の供給通路45への尿素水溶液の充填が終了すると、エア抜き制御部63は、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を許可する。これにより、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御が開始され、温度が上昇した第1の還元触媒17を用いて、排ガス中のNOXが浄化される。
【0063】
次いで、時刻t4において、エア抜き制御部63は、第2の触媒温度T_c2が第2の温度T_c2_thに到達したと判定し、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を停止するとともに、第2のエア抜き制御を実行して第2の供給通路47への尿素水溶液の充填を行う。次いで、時刻t5において、第2の供給通路47への尿素水溶液の充填が終了すると、エア抜き制御部63は、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御を許可する。これにより、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御が開始され、温度が上昇した第1の還元触媒17及び第2の還元触媒13を用いて、排ガス中のNOXが浄化される。
【0064】
なお、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33による尿素水溶液の噴射制御が許可された場合であっても、内燃機関5の運転状態や第1の触媒温度によっては第1の還元触媒17の触媒効率が低下する場合には、第1の噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御が中断されてもよい。
【0065】
以上説明したように、本実施形態に係る還元剤供給制御装置30によれば、第1の噴射弁31の開弁を伴う第1の供給通路45及び第2の噴射弁33の開弁を伴う第2の供給通路47への尿素水溶液の充填が時間をずらして行われる。このため、第1の供給通路45及び第2の供給通路47からのエア抜きを精度よく行うことができ、空気あるいは排ガスの残留、並びに、第1の噴射弁31及び第2の噴射弁33からの尿素水溶液の漏洩を抑制することができる。
【0066】
また、例えば、NOX吸蔵触媒及びNOX選択還元触媒を併用する排気浄化システムにおいては還元触媒の容量が小さくなる傾向にあり、アンモニアスリップを抑制する重要性が高くなる。本実施形態に係る還元剤供給制御装置30は、このような排気浄化システムに適用されることにより、尿素水溶液の漏洩によるアンモニアの供給量の過多を抑制し、アンモニアスリップのおそれを低減することができる。また、本実施形態に係る還元剤供給制御装置30は、このような排気浄化システムに例示されるような尿素水溶液の噴射量のずれに対する許容範囲が小さいシステムにおいても、第1の還元触媒17を先に使い始めることができるため、システム全体として尿素水溶液の噴射時期を早めることができる。
【0067】
また、本実施形態に係る還元剤供給制御装置30によれば、先のエア抜き制御が完了して尿素水溶液の噴射制御が開始された後、次のエア抜き制御が実行される間、尿素水溶液の噴射制御が停止されてもよい。これにより、尿素水溶液の供給圧が不安定な状態で尿素水溶液の充填が行われることが避けられ、後のエア抜き制御のエア抜きを精度よく行うことができる。また、エア抜き制御の実行中に尿素水溶液の噴射制御を継続することによる噴射量のずれを防ぐことができる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
例えば、上記実施形態に係る還元剤供給制御装置30における第1の供給通路45と第2の供給通路47との分岐部分に、第1の噴射弁31側又は第2の噴射弁33側への通路の少なくとも一方の開閉を行う制御弁を備えていてもよい。この場合、第1の供給通路45へ尿素水溶液を充填する際には第2の噴射弁33側を閉じ、第1の供給通路45へ尿素水溶液を充填する際には第1の噴射弁31側を閉じることにより、それぞれの供給通路への尿素水溶液の充填を効率よく行うことができるとともに、排出すべき空気あるいは排ガスの容量をあらかじめ計算しやすくなって、空気あるいは排ガスの残留及び尿素水溶液の漏洩を抑制することができる。
【符号の説明】
【0070】
5 内燃機関、11 排気通路、13 第2の還元触媒、17 第1の還元触媒、31 第1の噴射弁、33 第2の噴射弁、41 ポンプ、45 第1の供給通路45 第2の供給通路、50 貯蔵タンク、60 制御装置、61 回収制御部、63 エア抜き制御部、67 第1の噴射弁制御部、69 第2の噴射弁制御部
図1
図2
図3
図4