(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231215BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231215BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231215BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20231215BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20231215BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/36 E
C01G53/00 A
C01B25/45 T
C01G51/00 A
C01G45/00
(21)【出願番号】P 2019214534
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 麻由
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060767(JP,A)
【文献】特開2018-156941(JP,A)
【文献】特開2019-050104(JP,A)
【文献】特開2003-017056(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109390553(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109004201(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107039634(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108054378(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
C01G 53/00
C01B 25/45
C01G 51/00
C01G 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、又は式(2):
LiNi
aCo
bMn
cM
1
wO
2・・・(1)
(式(1)中、M
1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M
1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
LiNi
dCo
eAl
fM
2
xO
2 ・・・(2)
(式(2)中、M
2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、xは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦x≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M
2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物粒子からなるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面において、下記式(3)、式(4)、式(5)、又は式(6):
LiM
3
gCo
hO
2 ・・・(3)
(式(3)中、M
3はNi、Mn、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(3)中、g及びhは、0≦g≦0.1、0<h≦1、及び(M
3の価数)×g+3h=3を満たす数を示す。)
LiM
4
iMn
jO
4 ・・・(4)
(式(4)中、M
4はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(4)中、i及びjは、0≦i≦0.1、0<j≦2、及び(M
4の価数)×i+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
LiNi
kMn
1―
kO
4 ・・・(5)
(式(5)中、kは0.3≦k≦0.7を満たす数を示す。)
Li
2MnO
3-LiM
6O
2 ・・・(6)
(式(6)中、M
6はNi、Mn、Co、Al、Fe、Cr、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、及びCeから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)が担持してなるとともに、リチウム正極活物質粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる
リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体であって、
リチウム複合酸化物二次粒子(A)の含有量と、リチウム正極活物質粒子(B)及びリチウム系固体電解質(C)の合計含有量との質量比((A):(B)+(C))が、95:5~50:50であるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体。
【請求項2】
リチウム正極活物質粒子(B)の含有量とリチウム系固体電解質(C)の含有量との質量比((B):(C))が、99.5:0.5~85:15である請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体。
【請求項3】
リチウム系固体電解質(C)が、Li
3PO
4-Li
4SiO
4及びLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3のいずれか1種以上である請求項1
又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体。
【請求項4】
平均粒径が、2μm~30μmである請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体。
【請求項5】
次の工程(I)~工程(III):
(I)リチウム正極活物質粒子(B)、及びリチウム系固体電解質(C)の原料化合物を含む、固形分濃度が20質量%~65質量%のスラリー(a-1)を調製した後、熱風の供給量G(L/分)とスラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)が500~10000の条件で噴霧乾燥して造粒物(a)を得る工程、
(II)得られた造粒物(a)を、500℃~800℃で10分間~3時間焼成して、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)からなる、空隙率が45体積%~80体積%の予備造粒物(b)を得る工程、並びに
(III)得られた予備造粒物(b)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを圧縮力及びせん断力を付加しながら混合して、予備造粒物(b)を解砕させながら、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを複合化する工程
を備える請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体の製造方法。
【請求項6】
工程(I)で得られる造粒物(a)の粒径が、5μm~25μmである請求項
5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電容量及びレート特性に優れるリチウムイオン二次電池を得るための、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体及びその製造方法に関するに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム複合酸化物は、高出力及び高容量のリチウムイオン二次電池を構成できる正極活物質として使用されているが、かかるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、通常、充放電サイクルを重ねるにつれて容量低下が生じ、特に長期間使用すると、電池の容量低下が著しくなるおそれがある。この原因は、充電時に遷移金属成分が電解液へ溶出することにより、リチウム複合酸化物の結晶構造の破壊が生じやすくなることにあると考えられている。また、リチウム複合酸化物の結晶構造の破壊が生じると、リチウム複合酸化物の遷移金属成分が周囲の電解液へ溶出し、熱的安定性が低下して安全性が損なわれるおそれもある。
【0003】
こうしたなか、より優れた電池特性を有するリチウムイオン二次電池を実現すべく、種々の正極活物質が開発されている。例えば、特許文献1には、Li(1+a)(Ni1-b-cMbCoc)O2(Mは所定の金属)で表されるリチウム遷移金属酸化物粒子の表面に、Li1+xM’xM’’2-x(PO4)3(M’及びM’’は所定の金属)で表されるリチウム金属フォスフェートナノ粒子が配置されてなる二次電池用正極活物質が開示されており、二次電池における高容量、熱安全性及び高温寿命特性の向上を図っている。また、特許文献2には、ニッケルを主成分とするリチウム複合酸化物を含有する活物質粒子の表面に、Li、La、Al及びZr等を含む固体電解質を含有する被覆層を備えた正極活物質が開示されており、非水二次電池の放電容量を維持しつつ、サイクル特性の向上を試みている。
このように、いずれの文献においても、いわゆるリチウム複合酸化物粒子の表面をリチウムイオン固体電解質粒子で被覆した正極活物質により、種々の電池特性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-517243号公報
【文献】特開2019-3786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討により、上記特許文献に記載の正極活物質であっても、リチウムイオン二次電池を形成した際における放電容量やレート特性を充分に高めるには、さらなる改善の余地のあることが判明した。
【0006】
したがって、本発明の課題は、リチウム複合酸化物粒子を用いつつ、良好な放電容量及びレート特性を有するリチウムイオン二次電池を実現することのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に特定のリチウム正極活物質粒子(B)が担持してなるとともに、かかるリチウム正極活物質粒子(B)の表面にはリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体であれば、得られるリチウムイオン二次電池の放電容量及びレート特性の向上を有効に図ることが可能になることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、下記式(1)、又は式(2):
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(1)
(式(1)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
LiNidCoeAlfM2
xO2 ・・・(2)
(式(2)中、M2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、xは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦x≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物粒子からなるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面において、下記式(3)、式(4)、式(5)、又は式(6):
LiM3
gCohO2 ・・・(3)
(式(3)中、M3はNi、Mn、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(3)中、g及びhは、0≦g≦0.1、0<h≦1、及び(M3の価数)×g+3h=3を満たす数を示す。)
LiM4
iMnjO4 ・・・(4)
(式(4)中、M4はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(4)中、i及びjは、0≦i≦0.1、0<j≦2、及び(M4の価数)×i+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
LiNikMn1-kO4 ・・・(5)
(式(5)中、kは0.3≦k≦0.7を満たす数を示す。)
Li2MnO3-LiM6O2 ・・・(6)
(式(6)中、M6はNi、Mn、Co、Al、Fe、Cr、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、及びCeから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)が担持してなるとともに、リチウム正極活物質粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、次の工程(I)~工程(III):
(I)リチウム正極活物質粒子(B)、及びリチウム系固体電解質(C)の原料化合物を含む、固形分濃度が20質量%~65質量%のスラリー(a-1)を調製した後、熱風の供給量G(L/分)とスラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)が500~10000の条件で噴霧乾燥して造粒物(a)を得る工程、
(II)得られた造粒物(a)を、500℃~800℃で10分間~3時間焼成して、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)からなる、空隙率が45体積%~80体積%の予備造粒物(b)を得る工程、並びに
(III)得られた予備造粒物(b)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを圧縮力及びせん断力を付加しながら混合して、予備造粒物(b)を解砕させながら、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを複合化する工程
を備える上記リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体によれば、リチウム複合酸化物二次粒子表面に、リチウム系固体電解質を担持したリチウム正極活物質粒子が有効に担持されてなることにより、良好な放電容量及びレート特性をも有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)は、下記式(1)、又は式(2):
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(1)
(式(1)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
LiNidCoeAlfM2
xO2 ・・・(2)
(式(2)中、M2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、xは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦x≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物粒子からなるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面において、下記式(3)、式(4)、式(5)、又は式(6):
LiM3
gCohO2 ・・・(3)
(式(3)中、M3はNi、Mn、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(3)中、g及びhは、0≦g≦0.1、0<h≦1、及び(M3の価数)×g+3h=3を満たす数を示す。)
LiM4
iMnjO4 ・・・(4)
(式(4)中、M4はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(4)中、i及びjは、0≦i≦0.1、0<j≦2、及び(M4の価数)×i+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
LiNikMn1-kO4 ・・・(5)
(式(5)中、kは0.3≦k≦0.7を満たす数を示す。)
Li2MnO3-LiM6O2 ・・・(6)
(式(6)中、M6はNi、Mn、Co、Al、Fe、Cr、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、及びCeから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)が担持してなるとともに、リチウム正極活物質粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)を構成するリチウム複合酸化物二次粒子(A)は、下記式(1)、又は式(2):
LiNiaCobMncM1
wO2・・・(1)
(式(1)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数を示す。)
LiNidCoeAlfM2
xO2 ・・・(2)
(式(2)中、M2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、xは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦x≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物粒子からなる二次粒子であり、層状型岩塩構造を有する粒子である。
【0013】
上記式(1)で表されるリチウム複合酸化物粒子(いわゆるLi-Ni-Co-Mn酸化物であり、以後「NCM系複合酸化物」と称する。)及び上記式(2)で表されるリチウム複合酸化物粒子(いわゆるLi-Ni-Co-Al酸化物であり、以後「NCA系複合酸化物」と称する。)も層状型岩塩構造を有する粒子であり、凝集することによって、リチウム複合酸化物二次粒子(A)を形成する。したがって、二次粒子についても、同様に「NCM系複合酸化物二次粒子(A)」、「NCA系複合酸化物二次粒子(A)」等と称する。
【0014】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)を形成する。式(1)中のM1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。
また、上記式(1)中のa、b、c、wは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦w≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×w=3を満たす数である。
【0015】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子において、Ni、Co及びMnは、電子伝導性に優れ、電池容量及び出力特性に寄与することが知られている。また、サイクル特性の観点からは、かかる遷移元素の一部が他の金属元素M1により置換されていることが好ましい。これら金属元素M1により置換されることにより、式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子の結晶構造が安定化されるため、充放電を繰り返しても結晶構造の破壊が抑制でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子としては、具体的には、例えばLiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.2Co0.4Mn0.4O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2、又はLiNi0.33Co0.31Mn0.33Zn0.03O2等が挙げられる。なかでも、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2からなる粒子が好ましい。
【0016】
さらに、互いに組成が異なる2種以上の上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子は、コア部(内部)とシェル部(表層部)とを有するコア-シェル構造のリチウム複合酸化物二次粒子(A)(NCM系複合酸化物二次粒子(A))を形成していてもよい。
【0017】
このコア-シェル構造を形成してなるNCM系複合酸化物二次粒子(A)とすることによって、電解液に溶出しやすいNi濃度の高いNCM系複合酸化物粒子をコア部に配置し、電解液に接するシェル部にはNi濃度の低いNCM系複合酸化物粒子を配置することができるので、サイクル特性の低下の抑制と安全性の確保をより向上させることができる。このとき、コア部は1相であってもよいし、組成の異なる2相以上で構成していてもよい。コア部を2相以上で構成する態様として、同心円状に複数の相が層状となって積層された構造でもよいし、コア部の表面から中心部に向けて遷移的に組成が変化する構造でもよい。
さらに、シェル部は、コア部の外側に形成されてなるものであればよく、コア部同様に1相であってもよいし、組成の異なる2相以上で構成していてもよい。
【0018】
このような組成が異なる2種以上のNCM系複合酸化物粒子によってコア-シェル構造を形成してなるNCM系複合酸化物二次粒子(A)として、具体的には(コア部)-(シェル部)が、例えば(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.2Co0.4Mn0.4O2)、(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2)、又は(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)-(LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.03O2)等からなる粒子が挙げられる。
【0019】
さらに、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子は、金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩で被覆されていてもよい。これら金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩でNCM系複合酸化物粒子を被覆することによって、電解液へのNCM系複合酸化物粒子からの金属成分(Ni、Mn、Co、M1)の溶出を抑制することができる。かかる被覆物としては、CeO2、SiO2、MgO、Al2O3、ZrO2、TiO2、ZnO、RuO2、SnO2、CoO、Nb2O5、CuO、V2O5、MoO3、La2O3、WO3、AlF3、NiF2、MgF2、Li3PO4、Li4P2O7、LiPO3、Li2PO3F、及びLiPO2F2から選択される1種又は2種以上、或いはこれらの複合化物を用いることができる。
【0020】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子の一次粒子としての平均粒径は、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは300nm以下である。このように、NCM系複合酸化物粒子の一次粒子としての平均粒径を少なくとも500nm以下にすることで、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う上記一次粒子の膨張収縮量を抑制することができ、粒子割れを有効に防止することができる。なお、上記一次粒子の平均粒径の下限値は特に限定されないが、ハンドリングの観点から、50nm以上が好ましい。
ここで、平均粒径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡観察において、数十個の粒子の粒径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味し、以後の説明においても同義である。
【0021】
また、上記一次粒子が凝集して形成するNCM系複合酸化物二次粒子(A)の平均粒径は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。かかる二次粒子の平均粒径が25μm以下であると、サイクル特性に優れた電池を得ることができる。なお、上記二次粒子の平均粒径の下限値は特に限定されないが、ハンドリングの観点から1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。
なお、本明細書において、NCM系複合酸化物二次粒子(A)は、二次粒子を形成してなる一次粒子のみを含み、リチウム正極活物質粒子(B)やリチウム系固体電解質(C)を含まない。
【0022】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子が、NCM系複合酸化物二次粒子(A)においてコア-シェル構造を形成してなる場合、コア部を形成する一次粒子としての平均粒径は、好ましくは50nm~500nmであり、より好ましくは50nm~300nmである。そして、上記一次粒子が凝集して形成するコア部の平均粒径は、好ましくは1μm~25μmであり、より好ましくは1μm~20μmである。
また、かかるコア部の表面を被覆するシェル部を構成するNCM系複合酸化物粒子の一次粒子としての平均粒径は、好ましくは50nm~500nmであり、より好ましくは50nm~300nmであって、かかる一次粒子が凝集して形成するシェル部の層厚は、好ましくは0.1μm~5μmであり、より好ましくは0.1μm~2.5μmである。
【0023】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子からなるNCM系複合酸化物二次粒子(A)の内部空隙率は、リチウムイオンの挿入に伴うNCM系複合酸化物の膨張を二次粒子の内部空隙内で許容させる観点から、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の100体積%中、4体積%~12体積%が好ましく、5体積%~10体積%がより好ましい。
かかる平均粒径及び内部空隙率を有することで、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子からなるNCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面では、NCM系複合酸化物粒子とリチウム正極活物質粒子(B)とが複合化して、リチウム正極活物質粒子(B)が、かかるNCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面を被覆するように担持されて存在しているため、NCM系複合酸化物粒子に含まれる金属成分(Ni、Co、Mn、M1)の溶出を効果的に抑制しつつ、得られるリチウムイオン二次電池における放電容量やレート特性を充分に高めることができる。
【0024】
上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子は、上記NCM系複合酸化物粒子と同様、リチウム複合酸化物二次粒子(A)を形成する。式(2)中のM2は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。
また、上記式(2)中のd、e、f、xは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦x≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×x=3を満たす数である。
【0025】
上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子は、式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子よりも、さらに電池容量及び出力特性に優れている。加えて、Alの含有により、雰囲気中の湿分による変質も生じ難く、安全性にも優れている。
上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子としては、具体的には、例えばLiNi0.33Co0.33Al0.34O2、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.03Mg0.03O2、LiNi0.8Co0.15Al0.03Zn0.03O2等からなる粒子が挙げられる。なかでもLiNi0.8Co0.15Al0.03Mg0.03O2からなる粒子が好ましい。
【0026】
さらに、上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子は、金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩で被覆されていてもよい。これら金属酸化物、金属フッ化物又は金属リン酸塩でNCA系複合酸化物粒子を被覆することによって、電解液へのNCA系複合酸化物粒子からの金属成分(Ni、Al、Co、M2)の溶出を抑制することができる。かかる被覆物としては、CeO2、SiO2、MgO、Al2O3、ZrO2、TiO2、ZnO、RuO2、SnO2、CoO、Nb2O5、CuO、V2O5、MoO3、La2O3、WO3、AlF3、NiF2、MgF2、Li3PO4、Li4P2O7、LiPO3、Li2PO3F、及びLiPO2F2から選択される1種又は2種以上、或いはこれらの複合化物を用いることができる。
【0027】
上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物の一次粒子としての平均粒径、及び上記一次粒子が凝集して形成される複合酸化物二次粒子(A)の平均粒径、並びにかかる二次粒子の内部空隙率は、上記のNCM系複合酸化物粒子(A)と同様である。すなわち、上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子の一次粒子としての平均粒径は、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは300nm以下であり、上記一次粒子からなるNCA系複合酸化物二次粒子(A)の平均粒径は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。また、上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子からなるNCA系複合酸化物二次粒子(A)の内部空隙率は、かかる二次粒子の体積100%中、4体積%~12体積%が好ましく、5体積%~10体積%がより好ましい。
かかる平均粒径及び内部空隙率を有することで、上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子からなるNCA系複合酸化物二次粒子(A)の表面では、NCA系複合酸化物粒子とリチウム正極活物質粒子(B)とが複合化して、リチウム正極活物質粒子(B)が、かかる二次粒子の表面を被覆するように担持されて存在しているため、NCA系複合酸化物粒子に含まれる金属成分(Ni、Co、Al、M2)の溶出を効果的に抑制しつつ、得られるリチウムイオン二次電池における放電容量やレート特性を充分に高めることができる。
【0028】
本発明のリチウム複合酸化物二次粒子(A)は、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子が混在していてもよい。その混在状態は、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子である一次粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子である一次粒子が共存してなる二次粒子を形成してもよく、また上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子のみからなる二次粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子のみからなる二次粒子とが混在してもよく、さらには上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子である一次粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子である一次粒子が共存してなる二次粒子、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子のみからなる二次粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子のみからなる二次粒子とが混在するものであってもよい。
【0029】
上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子と上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子が混在する場合の、NCM系複合酸化物粒子とNCA系複合酸化物粒子の割合(質量%)は、求める電池特性によって適宜調整すればよい。例えば、レート特性を重視する場合には、上記式(1)で表されるNCM系複合酸化物粒子が占める割合を高くするのが好ましく、具体的には、NCM系複合酸化物粒子とNCA系複合酸化物粒子の質量比(NCM系複合酸化物:NCA系複合酸化物)は、99.9:0.1~60:40であるのが好ましい。また、例えば、電池容量を重視する場合には、上記式(2)で表されるNCA系複合酸化物粒子が占める割合を高くするのが好ましく、具体的には、例えばNCM系複合酸化物粒子とNCA系複合酸化物粒子の質量比(NCM系複合酸化物:NCA系複合酸化物)は、40:60~0.1:99.9であるのが好ましい。
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)を構成するリチウム正極活物質粒子(B)は、下記式(3)、式(4)、式(5)、又は式(6):
LiM3
gCohO2 ・・・(3)
(式(3)中、M3はNi、Mn、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(3)中、g及びhは、0≦g≦0.1、0<h≦1、及び(M3の価数)×g+3h=3を満たす数を示す。)
LiM4
iMnjO4 ・・・(4)
(式(4)中、M4はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(4)中、i及びjは、0≦i≦0.1、0<j≦2、及び(M4の価数)×i+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
LiNikMn1-kO4 ・・・(5)
(式(5)中、kは0.3≦k≦0.7を満たす数を示す。)
Li2MnO3-LiM6O2 ・・・(6)
(式(6)中、M6はNi、Mn、Co、Al、Fe、Cr、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、及びCeから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。)
で表され、かかるリチウム正極活物質粒子(B)は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面を被覆するように、リチウム複合酸化物粒子と複合化しつつ担持されてなる。
【0031】
上記式(3):
LiM3
gCohO2 ・・・(3)
(式(3)中、M3はNi、Mn、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(3)中、g及びhは、0≦g≦0.1、0<h≦1、及び(M3の価数)×g+3h=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)は、層状岩塩型構造の結晶構造を有するリチウム正極活物質からなる粒子である。
【0032】
上記式(3)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)としては、良好なサイクル特性を発現させる観点からは、M3としてNi及びMnから選択されるいずれか1種以上の元素であるものが好ましく、より好ましくはM3の50モル%以上がNiである。
具体的には、LiCoO2、LiMn0.05Co0.95O2、LiAl0.05Co0.95O2、LiMg0.03Co0.98O2、LiSi0.03Co0.96O2を用いることができる。なかでも、LiCoO2が好ましい。
【0033】
上記式(3)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の平均粒径は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面のみにおいて、リチウム複合酸化物粒子と密に複合化する観点から、好ましくは100nm~500nmであり、より好ましくは100nm~400nmであり、さらに好ましくは100nm~300nmである。
【0034】
リチウム複合酸化物二次粒子(A)への複合化によって担持される、上記式(3)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持量は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の活物質としての性能を最大限に使用する観点から、複合化して得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の全量100質量%中に、好ましくは5質量%~50質量%であり、より好ましくは7質量%~45質量%であり、さらに好ましくは9質量%~40質量%である。
【0035】
この際の、式(3)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持によりリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に形成されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持層の厚さは、好ましくは100nm~3μmであり、より好ましくは300nm~3μmであり、さらに好ましくは500nm~3μmである。
【0036】
上記式(4):
LiM4
iMnjO4 ・・・(4)
(式(4)中、M4はNi、Co、Al、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Ga、Cu、及びSiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。また、式(4)中、i及びjは、0≦i≦0.1、0<j≦2、及び(M4の価数)×i+(Mnの価数)×j=7を満たす数を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)は、層状岩塩型構造の結晶構造を有するリチウム正極活物質からなる粒子である。
【0037】
上記式(4)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)としては、具体的には、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoMnO4、LiCrMnO4、LiFeMnO4、LiAlMnO4、LiCu0.5Mn1.5O4を用いることができる。なかでも、LiMn2O4が好ましい。
【0038】
上記式(4)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の平均粒径は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面のみにおいて、リチウム複合酸化物粒子と密に複合化する観点から、好ましくは100nm~500nmであり、より好ましくは100nm~400nmであり、さらに好ましくは100nm~300nmである。
【0039】
リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)における式(4)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持量及び担持により形成されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持層の厚さは、上記式(3)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)と同じであって、担持量は、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の全量100質量%中に、好ましくは5質量%~50質量%であり、より好ましくは7質量%~45質量%であり、さらに好ましくは9質量%~40質量%であり、担持層の厚さは、好ましくは100nm~3μmであり、より好ましくは300nm~3μmであり、さらに好ましくは500nm~3μmである。
【0040】
上記式(5):
LiNikMn1-kO4 ・・・(5)
(式(5)中、kは0.3≦k≦0.7を満たす数を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)は、スピネル構造を有するリチウム正極活物質からなる粒子である。
【0041】
上記式(5)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)としては、具体的には、LiNi0.4Mn0.6O4、LiNi0.5Mn0.5O4、LiNi0.6Mn0.4O4を用いることができる。なかでも、LiNi0.5Mn0.5O4が好ましい。
【0042】
上記式(5)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の平均粒径は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面のみにおいて、リチウム複合酸化物粒子と密に複合化する観点から、好ましくは100nm~500nmであり、より好ましくは100nm~400nmであり、さらに好ましくは100nm~300nmである。
【0043】
リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)における式(5)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持量及び担持より形成されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持層の厚さは、上記式(3)及び式(4)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)と同じであって、担持量は、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の全量100質量%中に、好ましくは5質量%~50質量%であり、より好ましくは7質量%~45質量%であり、さらに好ましくは9質量%~40質量%であり、担持層の厚さは、好ましくは100nm~3μmであり、より好ましくは300nm~3μmであり、さらに好ましくは500nm~3μmである。
【0044】
上記式(6):
Li2MnO3-LiM6O2 ・・・(6)
(式(6)中、M6はNi、Mn、Co、Al、Fe、Cr、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、及びCeから選ばれる1種または2種以上の元素を示す。)
で表されるリチウム正極活物質粒子(B)は、層状岩塩型構造の結晶構造を有する固溶体を形成するリチウム正極活物質からなる粒子である。
【0045】
上記式(6)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)としては、良好なサイクル特性を発現させる観点からは、M6としてCo、Ni及びMnから選択される1種または2種以上の元素であるものが好ましい。
具体的には、Li2MnO3-LiNiO2、Li2MnO3-LiCoO2、Li2MnO3-LiMn2O4、Li2MnO3-LiNixMn1-xO2(0<x<1)、Li2MnO3-LiNixCo1-xO2(0<x<1)、Li2MnO3-LiCoxMn1-xO2(0<x<1)、Li2MnO3-LiNi1-x-yCoxMnyO2(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)を用いることができる。なかでも、Li2MnO3-LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2が好ましい。
【0046】
上記式(6)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の平均粒径は、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面のみにおいて、リチウム複合酸化物粒子と密に複合化する観点から、好ましくは50nm~200nmであり、より好ましくは50nm~150nmであり、さらに好ましくは50nm~100nmである。
【0047】
リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)における式(6)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)の担持量は、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の全量100質量%中に、好ましくは5質量%~50質量%であり、より好ましくは7質量%~45質量%であり、さらに好ましくは9質量%~40質量%であり、担持層の厚さは、好ましくは100nm~3μmであり、より好ましくは300nm~3μmであり、さらに好ましくは500nm~3μmである。
【0048】
上記式(3)、式(4)、式(5)、又は式(6)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)は、その表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されてなる。
リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)におけるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の含有量と、リチウム正極活物質粒子(B)及びリチウム系固体電解質(C)の合計含有量との質量比((A):(B)+(C))は、好ましくは95:5~50:50であり、より好ましくは93:7~55:45であり、さらに好ましくは91:9~57:43である。
【0049】
上記リチウム正極活物質粒子(B)の表面の全体を被覆することとなるリチウム系固体電解質(C)の担持層の厚さは、好ましくは1nm~20nmであり、より好ましくは5nm~20nmであり、さらに好ましくは10nm~20nmである。
ここで、リチウム系固体電解質の担持層の厚さとは、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)の断面(クロスセクション)に関するTEM観察において、十個のリチウム正極活物質粒子(B)表面におけるリチウム系固体電解質(C)の担持層の厚さの測定値の平均値を意味し、以後の説明においても同義である。
【0050】
リチウム正極活物質粒子(B)の表面に担持される、リチウム系固体電解質(C)とは、少なくとも良好なリチウムイオン伝導性を有するものであり、後述する製造方法において、焼成工程において形成することができるリチウム系固体電解質である。具体的には、例えば、Li3PO4-Li4SiO4及びLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3のいずれか1種以上が挙げられ、なかでもLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が好ましい。
【0051】
上記リチウム系固体電解質(C)の平均粒径は、好ましくは1nm~10nmであり、より好ましくは1nm~8nmであり、さらに好ましくは1nm~5nmである。
ここで、リチウム系固体電解質(C)の平均粒径は、リチウム正極活物質粒子(B)の断面(クロスセクション)に関するTEM観察において、リチウム正極活物質粒子(B)表面部における回折コントラストで識別される、数十個のリチウム系固体電解質粒子の粒径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味し、以後の説明においても同義である。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の平均粒径は、好ましくは2μm~30μmであり、より好ましくは3μm~20μmであり、特に好ましくは5μm~15μmである。かかるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)の平均粒径が2μmよりも小さい場合、タップ密度が低下して作成した電極に十分な剥離強度が付与できず、電池のサイクル特性が低下するおそれがある。また、平均粒径が30μmよりも大きい場合、電極を均一に塗工することが困難になって均一な電極が得られず、電池の放電容量が低下するおそれがある。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm3~3.5g/cm3であり、より好ましくは1.5g/cm3~3.5g/cm3である。かかるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)のタップ密度が0.5g/cm3よりも小さい場合、上述のとおり電池のサイクル特性が低下するおそれがある。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)は、次の工程(I)~工程(III):
(I)リチウム正極活物質粒子(B)、及びリチウム系固体電解質(C)の原料化合物を含む、固形分濃度が20質量%~65質量%のスラリー(a-1)を調製した後、熱風の供給量G(L/分)とスラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)が500~10000の条件で噴霧乾燥して造粒物(a)を得る工程、
(II)得られた造粒物(a)を、500℃~800℃で10分間~3時間焼成して、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)からなる、空隙率が45体積%~80体積%の予備造粒物(b)を得る工程、並びに
(III)得られた予備造粒物(b)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを圧縮力及びせん断力を付加しながら混合して、予備造粒物(b)を解砕させながら、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを複合化する工程
により得ることができる。このように、リチウム正極活物質粒子(B)からなる空隙率の高い予備造粒物(b)を得る工程(II)を経ることにより、続く工程(III)において過度な負荷を与えることなく容易に予備造粒物(b)を解砕させ、細粒化することができる。このように、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)は、細粒化されながら、かかるリチウム正極活物質粒子(B)を分離、供給することとなり、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面において、リチウム複合酸化物粒子にかかるリチウム正極活物質粒子(B)を効率的かつ良好に複合化させつつ担持させることが可能となる。
【0054】
本発明の製造方法が備える工程(I)は、リチウム正極活物質粒子(B)、及びリチウム系固体電解質(C)の原料化合物を含むスラリー(a-1)を調製した後、熱風の供給量G(L/分)とスラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)が500~10000の条件で噴霧乾燥して造粒物(a)を得る工程である。
【0055】
工程(I)で用いるリチウム正極活物質粒子(B)は、次工程(II)において表面にリチウム系固体電解質(C)が担持された後、続く工程(III)においてリチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に複合化される上記式(3)~式(6)で表されるリチウム正極活物質の粒子であり、その平均粒径は上記式(3)~式(5)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)を用いる場合は100nm~500nmであり、式(6)で表されるリチウム正極活物質粒子(B)を用いる場合は50nm~200nmである。
【0056】
スラリー(a-1)における、リチウム正極活物質粒子(B)の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは30質量部~185質量部であり、より好ましくは50質量部~150質量部である。
【0057】
造粒物(a)を構成するリチウム系固体電解質(C)の原料化合物は、次工程(III)において焼成されることにより、リチウム系固体電解質(C)を生成するものである。用いる原料化合物としては、スラリー(a-1)に溶解するものが好ましく、リチウム系固体電解質(C)を構成する各元素、具体的には、チタン、リチウム、アルミニウム、ケイ素、ホウ素、リンの水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
リチウム正極活物質粒子(B)の表面に、次工程(III)において焼成することにより上記原料化合物から生成するリチウム系固体電解質(C)を担持させるにあたり、スラリー(a-1)における、上記リチウム系固体電解質(C)の原料化合物の合計含有量は、次工程(III)にて得られるリチウム正極活物質粒子(B)及びかかる粒子表面に担持されるリチウム系固体電解質(C)の合計量100質量%中に、0.1質量%~15質量%となるような量であるのが望ましい。具体的には、例えばスラリー(a-1)における水100質量部に対し、好ましくは0.03質量部~35質量部であり、より好ましくは0.05質量部~20質量部である。
そして、スラリー(a-1)100質量%中における固形分濃度は、20質量%~65質量%であって、好ましくは30質量%~60質量%であり、より好ましくは40質量%~55質量%である。
【0059】
スラリー(a-1)を調製するにあたり、リチウム正極活物質粒子(B)と溶解したリチウム系固体電解質(C)の原料を均一に分散させる観点から、分散機(ホモジナイザー)を用いた処理を行うことが好ましい。かかる分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。なかでも、分散効率の観点から、超音波攪拌機が好ましい。スラリー(a-1)の分散均一性の程度は、例えば、UV・可視光分光装置を使用した光線透過率や、E型粘度計を使用した粘度で定量的に評価することもでき、また目視によって白濁度が均一であることを確認することで、簡便に評価することもできる。分散機で処理する時間は、好ましくは1分間~30分間であり、より好ましくは2分間~15分間である。
【0060】
次いで、得られたスラリー(a-1)を、熱風の供給量G(L/分)とスラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)が500~10000の条件で噴霧乾燥して、造粒物(a)を得る。かかる造粒物(a)は、次工程(II)を経ることによって、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)により形成されてなる予備造粒物(b)となる。本発明の製造方法では、リチウム正極活物質粒子(B)を堅固に凝集させてなる堅牢な二次粒子を用いることを回避して、過度な負荷を与えることなく容易に解砕させることのできる予備造粒物(b)を用いるため、かかる予備造粒物(b)を構成してなるリチウム正極活物質粒子(B)を、過大なせん断力等を必要とすることなく、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に担持させることを可能とする。
【0061】
かかる熱風の供給量G(L/分)と、スラリー(a-1)の供給量S(L/分)との比(G/S)は、500~10000であって、1000~9000が好ましい。噴霧乾燥の際の熱風温度は、110℃~160℃が好ましく、120℃~140℃がより好ましい。
【0062】
工程(I)で得られる造粒物(a)の粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5μm~25μmであり、より好ましくは5μm~15μmである。
ここで、粒度分布測定におけるD50値とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。
【0063】
本発明の製造方法が備える工程(II)は、工程(I)で得られた造粒物(a)を、500℃~800℃で10分間~3時間焼成して、空隙率が45体積%~80体積%の予備造粒物(b)を得る工程である。かかる工程(II)を経ることにより、予備造粒物(b)を構成するリチウム正極活物質粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質(C)を堅固に担持させつつ、空隙率を45体積%~80体積%に調整された、適度な解砕性を有する予備造粒物(b)を形成させることができる。
【0064】
焼成温度は、リチウム系固体電解質(C)を有効に生成させる観点、及び予備造粒物(b)の空隙率を45体積%~80体積%に調整して適度な解砕性を付与する観点から、500℃~800℃であって、好ましくは600℃~770℃であり、より好ましくは650℃~750℃である。また、焼成時間は、10分間~3時間であって、好ましくは30分間~1.5時間とするのがよい。
【0065】
表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)の空隙率は、水銀圧入法に基づく空隙率で、45体積%~80体積%であって、好ましくは50体積%~80体積%である。
【0066】
また、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)のタップ密度は、好ましくは3.5g/cm3以下であり、より好ましくは1.5g/cm3~3.5g/cm3である。
【0067】
さらに、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)の平均粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5μm~25μmであり、より好ましくは5μm~15μmである。
【0068】
表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)の解砕強度は、好ましくは1.8KN/mm以下であり、より好ましくは1.75KN/mm以下である。かかる解砕強度とは、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)の圧縮による解砕のし易さを示し、下記式(7)により求められる値を意味する。
予備造粒物(b)の解砕強度(KN/mm)=10/(t0-t10) ・・・(7) 式(7)中のt0は、直径20mmの円筒容器内に表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)からなる予備造粒物(b)を3g投入し、高さ1cmからの落下によるタッピングを10回繰返した後の密充填状態における予備造粒物(b)の層厚(mm)を示し、t10は、かかる密充填状態の予備造粒物(b)に、上部から10KNの荷重を掛けた際の予備造粒物(b)の層厚(mm)を示す。
【0069】
本発明の製造方法が備える工程(III)は、工程(II)で得られた予備造粒物(b)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを圧縮力及びせん断力を付加しながら混合して、予備造粒物(b)を解砕させながら、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)とリチウム複合酸化物二次粒子(A)とを複合化する工程である。かかる工程を経ることにより、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に、予備造粒物(b)が解砕してなり、かつその表面にリチウム系固体電解質(C)が担持された微細なリチウム正極活物質粒子(B)を、緻密かつ広範囲に被覆するように担持させてなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)を得ることができる。
【0070】
工程(III)では、圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する前に、リチウム複合酸化物二次粒子(A)と上記予備造粒物(b)の混合物を、充分に乾式混合するのが好ましい。乾式混合の方法としては、ボールミルやVブレンダー等の、通常の乾式混合機による混合であるのが好ましく、自公転可能な遊星ボールミルによる混合がより好ましい。
【0071】
圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する(以下、「複合化する」ともいう)処理は、インペラやローター工具等を備える密閉容器で行うのがよい。かかる密閉容器を備える装置として、高速せん断ミル、ブレード型混練機、高速混合機等が挙げられ、具体的には、例えば、粒子設計装置 COMPOSI、メカノハイブリット、高性能流動式混合機FMミキサー(日本コークス工業社製)微粒子複合化装置 メカノフュージョン、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、表面改質装置ミラーロ、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、アイリッヒインテンシブミキサー(日本アイリッヒ社製)を好適に用いることができる。上記複合化する処理条件としては、温度が、好ましくは5℃~80℃、より好ましくは10℃~50℃である。また、雰囲気としては、特に限定されないが、不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気であるのが好ましい。
【0072】
より具体的には、例えば、複合化を行う装置として、インペラを備えた乾式粒子複合化装置であるノビルタ(ホソカワミクロン社製)を用いる場合、かかるインペラの回転数は、上記予備造粒物(b)を効率的に解砕させつつ、リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面に、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)が良好に被覆するよう担持した複合酸化物を得る観点から、好ましくは2000rpm~6000rpmであり、より好ましくは2000rpm~4000rpmである。また、複合化する時間は、好ましくは1分間~10分間であり、より好ましくは1分間~7分間である。
また、かかる複合化を行う装置として、ローター工具を備えた高速攪拌混合機であるアイリッヒインテンシブミキサー(日本アイリッヒ社製)を用いた場合、かかるローター工具の回転数は、好ましくは2000rpm~8000rpmであり、より好ましくは2000rpm~6000rpmである。また、複合化する時間は、好ましくは1分間~10分間であり、より好ましくは1分間~7分間である。
【0073】
工程(III)における、上記複合化する時間及び/又はインペラ等の回転数は、密閉容器に投入するリチウム複合酸化物二次粒子(A)と予備造粒物(b)の混合物の量に応じて適宜調整する必要がある。そして、密閉容器を稼動させることにより、インペラ等と密閉容器内壁との間でこれら混合物に圧縮力及びせん断力が付加されつつ、予備造粒物(b)を良好に解砕させながら、リチウム複合酸化物二次粒子(A)と、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)とを複合化する処理を行うことが可能となり、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持してなるリチウム正極活物質粒子(B)が、上記リチウム複合酸化物二次粒子(A)の表面において良好に複合化されて被覆するよう担持してなる、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)を得ることができる。
例えば、上記複合化を、回転数2000rpm~5000rpmで回転するインペラを備える密閉容器内で1分間~8分間行う場合、密閉容器に投入する上記混合物の量は、有効容器(インペラを備える密閉容器のうち、上記混合物を収容可能な部位に相当する容器)1cm3当たり、好ましくは0.1g~0.7gであり、より好ましくは0.15g~0.4gである。
【0074】
工程(III)において複合化させるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の配合量と、表面にリチウム系固体電解質(C)が担持されたリチウム正極活物質粒子(B)の配合量との質量比(粒子(A):粒子(B)+粒子(C))は、リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D)におけるリチウム複合酸化物二次粒子(A)の含有量と、リチウム正極活物質粒子(B)及びリチウム系固体電解質(C)の合計含有量との質量比((A):(B)+(C))と同じであり、かかる量となるよう、上記混合物中における予備造粒物(b)の量を調整すればよい。
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体を正極材料として適用し、これを含むリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0076】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0077】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、一般的にリチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0078】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0079】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0080】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
[製造例1:リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)の製造]
Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1となるように、硫酸ニッケル六水和物263g、硫酸コバルト七水和物281g、硫酸マンガン五水和物241g、及び水3Lを混合した後、かかる混合溶液に25%アンモニア水を、滴下速度300ml/分で滴下して、pHが11の金属複合水酸化物を含むスラリーA1を得た。
次いで、スラリーA1をろ過、乾燥して、金属複合水酸化物の混合物A2を得た後、かかる混合物A2に炭酸リチウム37gをボールミルで混合して粉末混合物A3を得た。
得られた粉末混合物A3を、大気雰囲気下で800℃×5時間仮焼成して解砕した後に造粒し、次いで本焼成として大気雰囲気下で800℃×10時間焼成し、リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2、平均粒径10μm)を得た。
【0083】
[製造例2:リチウム複合酸化物二次粒子(A-2)の製造]
Li:Ni:Co:Alのモル比が1:0.8:0.15:0.05となるように、炭酸リチウム370g、炭酸ニッケル950g、炭酸コバルト150g、炭酸アルミニウム58g、及び水3Lを混合した後、ボールミルで混合して粉末混合物A4を得た。得られた粉末混合物A4を、大気雰囲気下で800℃×5時間仮焼成して解砕した後、本焼成として大気雰囲気下で800℃×24時間焼成し、リチウム複合酸化物二次粒子(A-2)(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、平均粒径10μm)を得た。
【0084】
[製造例3:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-1)の製造]
Li:Coのモル比が1:1となるように、炭酸リチウム222g及び酸化コバルト482gの粉末をボールミルで混合し、粉末混合物B1を作製した。粉末混合物B1を成型圧500kg/cm3で圧密成型し、大気雰囲気下700℃×5時間で仮焼成を行った。その後、この成型体を再度粉砕、混合し、成型圧1000kg/cm3で圧密成型して、大気雰囲気下900℃×10時間の焼成を行うことにより、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を得た。得られたコバルト酸リチウムを複合化に適した粒径にするために粉砕して、コバルト酸リチウム粒子B2(LiCoO2、平均粒径200nm)を得た。
得られたコバルト酸リチウム粒子B2を500g分取し、LiNO3 1.8g、Al(NO3)3・9H2O 2.25g、TiCl4 6.46g、85%H3PO4 5.88gと、水500mLを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水21.86gを添加して、スラリーB3(固形分濃度51%)を得た。得られたスラリーB3を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物B4を得た。
得られた予備造粒物B4を、大気雰囲気下、700℃×1時間焼成して、リチウム正極活物質粒子の表面にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持された粒子(BC-1)(LiCoO2、平均粒径:200nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:5nm)を得た。
【0085】
[製造例4:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-2)の製造]
製造例3において、得られたコバルト酸リチウム粒子B2を500g分取し、LiNO3 18g、Al(NO3)3・9H2O 22.5g、TiCl4 64.6g、85%H3PO458.8gと、水1Lを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水218.6gを添加してスラリーB5(固形分濃度42%)を得た以外は、製造例3と同様にして、リチウム正極活物質粒子の表面にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持された粒子(BC-2)(LiCoO2、平均粒径:200nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:20nm)を得た。
【0086】
[製造例5:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-3)の製造]
Mn:Liのモル比が2:1となるように、酸化マンガン348gと炭酸リチウム739gを混合、粉砕した後に、大気雰囲気下において800℃×12時間で焼成を行うことによりマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を得た後、得られたマンガン酸リチウムを粉砕して、マンガン酸リチウム粒子B6(LiMn2O4、平均粒径200nm)を得た。
得られたマンガン酸リチウム粒子B6を500g分取し、LiNO3 1.8g、Al(NO3)3・9H2O 2.25g、TiCl4 6.46g、85%H3PO4 5.88gと、水500mLを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水21.86gを添加して、スラリーB7(固形分濃度51%)を得た。得られたスラリーB7を超音波攪拌機(同上)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(同上)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物B8を得た。
得られた予備造粒物B8を、大気雰囲気下、700℃×1時間焼成して、リチウム正極活物質粒子の表面にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持された粒子(BC-3)(LiMn2O4、平均粒径:200nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:5nm)を得た。
【0087】
[製造例6:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-4)の製造]
Li:Ni:Mnのモル比が2:1:3となるように、炭酸リチウム147.8g、酸化ニッケル149.4g、及び炭酸マンガン690gをボールミルで混合した後に、大気雰囲気下において900℃×24時間焼成してLiNi0.5Mn1.5O4を得た後、粉砕して、LiNi0.5Mn1.5O4粒子B9(平均粒径200nm)を得た。
得られたLiNi0.5Mn1.5O4粒子B9を500g分取し、LiNO3 1.8g、Al(NO3)3・9H2O 2.25g、TiCl46.46g、85%H3PO4 5.88gと、水500mLを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水21.86gを添加して、スラリーB10(固形分濃度51%)を得た。得られたスラリーB10を超音波攪拌機(同上)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(同上)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物B11を得た。
得られた予備造粒物B11を、大気雰囲気下、700℃×1時間焼成して、リチウム正極活物質粒子の表面にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持された粒子(BC-4)(LiNi0.5Mn1.5O4、平均粒径:200nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:5nm)を得た。
【0088】
[製造例7:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-5)の製造]
酢酸マンガン4水和物1324g、酢酸ニッケル4水和物323.5g、酢酸コバルト4水和物323.8gと、炭酸ナトリウム848gと、水3Lを添加し、溶液を60℃に保ちつつ撹拌しながら混合し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水を、滴下速度300ml/分でpHが7.5になるまで添加し、スラリーB12を得た。得られたスラリーB12を水洗し乾燥させ、これに炭酸リチウム487.7gを混合し、500℃で5時間の仮焼成を行った後、粉砕、混合し、900℃×20時間焼成を行い、0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子B13(平均粒径:100nm)を得た。
得られた0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子B13を500g分取し、LiNO3 1.8g、Al(NO3)3・9H2O 2.25g、TiCl4 6.46g、85%H3PO4 5.88gと、水500mLを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水21.86gを添加して、スラリーB14(固形分濃度51%)を得た。得られたスラリーB14を超音波攪拌機(同上)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(同上)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物B15を得た。
得られた予備造粒物B15を、大気雰囲気下、700℃×1時間焼成して、リチウム正極活物質粒子の表面にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持された粒子(BC-5)(0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2、平均粒径:100nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:3nm)を得た。
【0089】
[製造例8:リチウム正極活物質粒子(B)にリチウム系固体電解質(C)が担持してなる粒子(BC-6)の製造]
製造例3の工程途中で得られたコバルト酸リチウム粒子B2(LiCoO2、平均粒径200nm)500gと、水500mL、水酸化リチウム一水和物6.22g、及びテトラエトキシシラン4.42gを混合して、スラリーB16を得た。次いで、得られたスラリーB16を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで10分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続しているスラリーに、85%リン酸2.44gを滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌してスラリーB17(固形分濃度50%)を得た。得られたスラリーB17を超音波攪拌機(同上)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(同上)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物B18を得た。
得られた予備造粒物B18を、大気雰囲気下において700℃×4時間焼成してリチウム正極活物質粒子の表面にLi3.5Si0.5P0.5O4が担持された粒子(BC-6)(LiCoO2、平均粒径:200nm、リチウム系固体電解質の担持層の厚さ:5nm)を得た。
【0090】
[製造例9:固体電解質粒子(S-1)の製造]
硝酸リチウム71.8g、硝酸アルミニウム9水和物90g、塩化チタン516.8g、リン酸235.2g、及びpH調整剤として28%アンモニア水874.2gを添加して、遊星ボールミルを用いて200rpmで2時間粉砕混合した後、乾燥させ、混合物B19を得た。得られた混合物B19をペレットに成形した後、空気雰囲気下において900℃×12時間焼成した後、乳鉢で解砕して、固体電解質粒子(S-1)(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、平均粒径:500nm)を得た。
【0091】
[実施例1:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-1)の製造]
製造例1で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gと、製造例3で得られた粒子(BC-1)200gを、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製、AMS-Lab)を用いて、2600rpm(20m/秒)で10分間の複合化処理を行い、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-1)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0092】
[実施例2:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-2)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例4で得られた粒子(BC-2)200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-2)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.6g/cm3)を得た。
【0093】
[実施例3:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-3)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例5で得られた粒子(BC-3)200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にマンガン酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつマンガン酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-3)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるマンガン酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.2g/cm3)を得た。
【0094】
[実施例4:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-4)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例6で得られた粒子(BC-4)200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にLiNi0.5Mn1.5O4粒子(B)が担持してなり、かつLiNi0.5Mn1.5O4粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-4)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるLiNi0.5Mn1.5O4粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.1g/cm3)を得た。
【0095】
[実施例5:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-5)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例7で得られた粒子(BC-5)200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面に0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子(B)が担持してなり、かつかかる粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-5)(平均粒径13μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなる0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子(B)の担持層の厚さ:1.5μm、タップ密度1.9g/cm3)を得た。
【0096】
[実施例6:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-6)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを450gに、粒子(BC-1)200gを50gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-6)(平均粒径12μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:1μm、タップ密度2.6g/cm3)を得た。
【0097】
[実施例7:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-7)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを450gに、粒子(BC-1)200gを、製造例5で得られた粒子(BC-3)50gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にマンガン酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつマンガン酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-7)(平均粒径12μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるマンガン酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:1μm、タップ密度2.5g/cm3)を得た。
【0098】
[実施例8:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-8)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを450gに、粒子(BC-1)200gを、製造例6で得られた粒子(BC-4)50gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にLiNi0.5Mn1.5O4粒子(B)が担持してなり、かつかかる粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-8)(平均粒径12μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるLiNi0.5Mn1.5O4粒子(B)の担持層の厚さ:1μm、タップ密度2.6g/cm3)を得た。
【0099】
[実施例9:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-9)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを450gに、粒子(BC-1)200gを、製造例7で得られた粒子(BC-5)50gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面に0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子(B)が担持してなり、かつかかる粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-9)(平均粒径11.5μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなる0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子(B)の担持層の厚さ:750nm、タップ密度2.4g/cm3)を得た。
【0100】
[実施例10:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-10)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを、製造例2で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(A-2)300gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCA系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-10)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0101】
[実施例11:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-11)の製造]
粒子(BC-1)200gを、製造例8で得られた粒子(BC-6)200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li3.5Si0.5P0.5O4が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(D-11)(平均粒径14μm、表面にリチウム系固体電解質Li3.5Si0.5P0.5O4を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0102】
[比較例1:リチウム複合粒子(E-1)の製造]
製造例1で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(A-1)500gに、硝酸リチウム0.9g、硝酸アルミニウム9水和物1.13g、塩化チタン3.23g、リン酸2.94gと水500mLを添加し、さらにpH調整剤として28%アンモニア水10.93gを添加してスラリーC1を得た。得られたスラリーC1を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いて噴霧乾燥に付して予備造粒物C2を得た。
得られた予備造粒物C2を、大気雰囲気下、700℃×1時間焼成して、リチウム複合酸化物二次粒子(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウム複合粒子(E-1)(平均粒径:10μm、固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の担持層の厚さ:5nm、タップ密度2.6g/cm3)を得た。
【0103】
[比較例2:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-2)の製造]
製造例1で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gと、製造例9で得られた固体電解質粒子(S-1)200gを、メカノフュージョン(同上)を用いて、2600rpm(20m/秒)で10分間の複合化処理を行い、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にリチウム系固体電解質粒子Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-2)(平均粒径12μm、リチウム系固体電解質粒子の担持層の厚さ:1μm、タップ密度2.0g/cm3)を得た。
【0104】
[比較例3:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-3)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例3の中間生成物であるコバルト酸リチウム粒子B2を200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-3)(平均粒径14μm、コバルト酸リチウム粒子の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0105】
[比較例4:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-4)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例5の中間生成物であるマンガン酸リチウム粒子B5を200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にマンガン酸リチウム粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-4)(平均粒径14μm、マンガン酸リチウム粒子の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.2g/cm3)を得た。
【0106】
[比較例5:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-5)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例6の中間生成物であるLiNi0.5Mn1.5O4粒子B8を200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にLiNi0.5Mn1.5O4粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-5)(平均粒径14μm、LiNi0.5Mn1.5O4粒子の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.1g/cm3)を得た。
【0107】
[比較例6:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-6)の製造]
リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例7の中間生成物である0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子B12を200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面に0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-6)(平均粒径13μm、0.5Li2MnO3-0.5LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2粒子の担持層の厚さ:1.5μm、タップ密度1.9g/cm3)を得た。
【0108】
[比較例7:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-7)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを、製造例2で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(A-2)300gに、リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを、製造例3の中間生成物であるコバルト酸リチウム粒子B2を200gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCA系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-7)(平均粒径14μm、コバルト酸リチウム粒子の担持層の厚さ:2μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0109】
[比較例8:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-8)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを490gに、リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを10gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-8)(平均粒径10.5μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:200nm、タップ密度2.6g/cm3)を得た。
【0110】
[比較例9:リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-9)の製造]
リチウム複合酸化物二次粒子(A-1)300gを200gに、リチウム正極活物質粒子(B-1)200gを300gに変更した以外、実施例1と同様にして、NCM系複合酸化物二次粒子(A)の表面にコバルト酸リチウム粒子(B)が担持してなり、かつコバルト酸リチウム粒子(B)の表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体(E-9)(平均粒径18μm、表面にリチウム系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を担持してなるコバルト酸リチウム粒子(B)の担持層の厚さ:4μm、タップ密度2.8g/cm3)を得た。
【0111】
《放電容量及びレート特性の評価》
実施例1~11及び比較例1~9で得られた全てのリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた各リチウムイオン二次電池用正極活物質複合体、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
得られた二次電池を用い、充放電試験を行った。具体的には、電流34mA/g、電圧4.25Vの定電流充電後に、電流34mA/g、終止電圧3.0Vの定電流放電とし、電流密度34mA/g(0.2C)における放電容量を求めた。さらに、同条件で定電流充電を行い、電流密度510mA/g、終止電圧3.0Vの定電流放電とし、電流密度510mA/g(3C)における放電容量を求めた。なお、充放電試験は全て30℃で行った。結果を表1に示す。
また、得られた放電容量から、下記式(8)により放電容量比(%)を求めた。結果を表1に示す。
放電容量比(%)=(3Cにおける放電容量)/
(0.2Cにおける放電容量)×100 ・・・(8)
【0112】
《吸着水分量の測定》
実施例1~11及び比較例1~9で得られた全てのリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体について、温度20℃、相対湿度50%の環境に1日間静置して平衡に達するまで水分を吸着させ、温度150℃まで昇温して20分間保持した後、さらに温度250℃まで昇温して20分間保持したときの、250℃に昇温し終わった時を始点とし、250℃での恒温状態を終えたときを終点とした間に揮発した水分量をカールフィッシャー水分計(MKC-610、京都電子工業(株)製)で測定した。測定結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
表1の結果より、全ての実施例で、良好な放電容量及びレート特性(放電容量比)を有し、かつ正極活物質複合体の水分吸着量が有効に低減されていることがわかる。
一方、比較例では、放電容量及びレート特性の少なくともいずれかが実施例よりも劣ることがわかる。また、正極活物質複合体の水分吸着量は、実施例よりも劣るものがほとんどである。
以上より、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体は、放電容量及びレート特性に優れていることがわかる。さらに、水分吸着量も低減されていることから、サイクル特性等の耐久性に係る特性についても、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質複合体は、良好な性能を有していることがわかる。