IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図1
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図2A
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図2B
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図2C
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図3
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図4
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図5
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図6
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図7
  • 特許-タイヤ加硫成形用金型 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】タイヤ加硫成形用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20231215BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20231215BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019225158
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094700
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 崇宏
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-161939(JP,A)
【文献】特開2013-244732(JP,A)
【文献】特開2015-193176(JP,A)
【文献】特開2017-209958(JP,A)
【文献】特開2014-065151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのビード部又はサイドウォール部を成形する成形面を有する環状のモールドと、
前記モールドに形成され、前記モールドの内部と外部を連通させる複数のベントホールと
を備え、
前記成形面は、外向きに窪む円弧状の凹部を含み、
前記複数のベントホールは、前記凹部の法線からなる第1基準線を基準として形成された第1ベントホールと、前記凹部の法線からなり前記第1基準線とは異なる第2基準線を基準として形成された第2ベントホールを含み、
前記第1ベントホールの前記第1基準線は、前記第1ベントホールの前記成形面側の端部を含む第1子午線断面上において、前記モールドの軸線に対して傾斜し、
前記第2ベントホールの前記第2基準線は、前記第2ベントホールの前記成形面側の端部を含む第2子午線断面上において、前記軸線に対して前記第1ベントホールの前記第1基準線と同じ角度で傾斜し
前記第1基準線に対する前記第1ベントホールの傾斜角度と、前記第2基準線に対する前記第2ベントホールの傾斜角度とは、いずれも±10°の角度範囲内で異なるように設定されている、タイヤ加硫成形用金型。
【請求項2】
前記複数のベントホールのうちの少なくとも一部には、前記成形面側の端部にスプリングベントが配置されている、請求項1に記載のタイヤ加硫成形用金型。
【請求項3】
前記複数のベントホールは、前記モールドの周方向に間隔をあけて設けられており、
前記第1ベントホールと前記第2ベントホールが周方向に隣接して配置されている、請求項1又は2に記載のタイヤ加硫成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タイヤのビード部を成形するビードリングを備えたタイヤ加硫成形用金型が開示されている。ビードリングには、キャビティを構成する成形面とビードリングの外部とを連通させるベントホールが形成されている。加硫時、タイヤ加硫成形用金型は負圧空間内に配置され、ベントホールを通してグリーンタイヤと成型面の間の空気を排出することで、残留空気によるゴム欠損であるベアの発生の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-209958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャビティ内においてゴムが流れる向きは、個々のグリーンタイヤによって異なる。特許文献1のタイヤ加硫成形用金型では、全てのベントホールの向きが同じであるため、ゴムが流れる向きによっては全てのベントホールにゴムが詰まり、ベアが発生する虞がある。
【0005】
本発明は、全てのベントホールにゴムが詰まることを防止でき、それによってベアの発生を抑制できるタイヤ加硫成形用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、タイヤのビード部又はサイドウォール部を成形する成形面を有する環状のモールドと、前記モールドに形成され、前記モールドの内部と外部を連通させる複数のベントホールとを備え、前記成形面は、外向きに窪む円弧状の凹部を含み、前記複数のベントホールは、前記凹部の法線からなる第1基準線を基準として形成された第1ベントホールと、前記凹部の法線からなり前記第1基準線とは異なる第2基準線を基準として形成された第2ベントホールを含み、前記第1ベントホールの前記第1基準線は、前記第1ベントホールの前記成形面側の端部を含む第1子午線断面上において、前記モールドの軸線に対して傾斜し、前記第2ベントホールの前記第2基準線は、前記第2ベントホールの前記成形面側の端部を含む第2子午線断面上において、前記軸線に対して前記第1ベントホールの前記第1基準線と同じ角度で傾斜し、前記第1基準線に対する前記第1ベントホールの傾斜角度と、前記第2基準線に対する前記第2ベントホールの傾斜角度とは、いずれも±10°の角度範囲内で異なるように設定されている、タイヤ加硫成形用金型を提供する。
【0007】
本態様では、基準線に対する第1ベントホールと第2ベントホールの傾斜角度が異なるため、これらのうちの一方の傾斜角度がゴムの流れの向きと一致したとしても、他方の傾斜角度はゴムの流れの向きとは一致しない。よって、第1ベントホール及び第2ベントホールのうち、一方がゴムによって詰まっても、他方はゴムによって詰まることはない。そのため、全てのベントホールが詰まるという不具合の発生を防止でき、金型内の排気性を確保できる。その結果、グリーンタイヤと成型面の間の残留空気によるベアの発生の抑制できる。しかも、第1基準線に対する第1ベントホールの傾斜角度と第2基準線に対する第2ベントホールの傾斜角度とは、いずれも±10°の角度範囲内に設定されているため、全てのベントホールがゴムによって詰まることを確実に防止できる。
【0009】
前記複数のベントホールのうちの少なくとも一部には、前記成形面側の端部にスプリングベントが配置されている。
【0010】
本態様では、空気入りタイヤをリムに組み付ける際に妨げになる突出した髭状のスピューが形成されないため、ビード部を成形する成形面にベントホールを形成する場合に有効である。
【0013】
前記複数のベントホールは、前記モールドの周方向に間隔をあけて設けられており、前記第1ベントホールと前記第2ベントホールが周方向に隣接して配置されている。この場合、傾斜角度が異なる2以上のベントホールを1組のベントホール群とし、このベントホール群をモールドの周方向に間隔をあけて設けることが好ましい。
【0014】
本態様では、意図せずに発生するゴム詰まりがモールドの一部に集中することなく分散されるため、排気性を均等に確保できる。よって、ベアの発生を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイヤ加硫成形用金型では、全てのベントホールにゴムが詰まることを防止でき、それによってベアの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るタイヤ加硫成形用金型の断面図。
図2A】第1ベントホールに沿って切断した第1子午線断面である図5のA-A線断面図。
図2B】第2ベントホールに沿って切断した第2子午線断面である図5のB-B線断面図。
図2C】第3ベントホールに沿って切断した図5のC-C線断面図。
図3図2AのX矢視によるビード成形面の部分拡大図。
図4図3のA-A線断面図。
図5図2AのY矢視によるビード成形面の部分拡大図。
図6】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
図7】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
図8】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るタイヤ加硫成形用金型(以下、単に「金型」と言う。)10を示す。図1には、金型10の径方向の一部のみが、加硫成形された空気入りタイヤ1と一緒に図示されている。
【0019】
空気入りタイヤ1は、トレッド部2、一対のサイドウォール部3、及び一対のビード部4を備える。サイドウォール部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向(図1において上下方向)の両側にそれぞれ連なっている。ビード部4は、サイドウォール部3のタイヤ径方向(図1において左右方向)の内端にそれぞれ設けられている。
【0020】
金型10は、トレッド部2を成形する円筒状のセクタモールド11と、セクタモールド11の内側上下に配置された環状で一対のサイドモールド12とを備える。セクタモールド11とサイドモールド12は、図1において上下方向に延びる同軸の軸線Aを有する。セクタモールド11及びサイドモールド12によって画定された空間は、加硫前の空気入りタイヤ1であるグリーンタイヤがセットされるキャビティ13を構成する。本実施形態のサイドモールド12はそれぞれ、サイドウォール部3を成形する円環状のサイドプレート16と、ビード部4を成形する円環状のビードリング18とを備える。
【0021】
セクタモールド11は、軸線Aを中心とした円筒体であり、複数のセクタ14からなる。個々のセクタ14は、軸線Aを中心として径方向(図1にRDで示す)に移動可能であり、内径側(図1において右側)への移動によって円筒状に連なる。連なった複数のセクタ14の内側面はそれぞれ、トレッド部2の外表面を成形するトレッド成形面15を構成する。
【0022】
サイドプレート16は、セクタモールド11の内径側に配置された円環状の部材である。下側に位置するサイドプレート16は、移動不可能に固定されている。上側に位置するサイドプレート16は、軸線方向(図1にADで示す)に移動可能である。互いに対向するサイドプレート16,16の内側面はそれぞれ、サイドウォール部3の外表面を成形するサイドウォール成形面17を構成する。
【0023】
ビードリング18は、サイドプレート16の内径側に配置された円環状の部材である。下側に位置するビードリング18は、サイドプレート16に一体化され、移動不可能に固定されている。上側に位置するビードリング18は、サイドプレート16に一体化され、サイドプレート16と一緒に移動する。互いに対向するビードリング18,18の内側面の一部はそれぞれ、ビード部4の外表面を成形するビード成形面19を構成する。
【0024】
図2Aに示すように、ビード成形面19は、第1湾曲部19a、第2湾曲部19b、第3湾曲部19c、平坦部19d、及びテーパ部19eを備え、この順で軸線方向ADの外部側(図2Aにおいて上側)から内部側(図2Aにおいて下側)に連なっている。第1湾曲部19aは、所定の曲率半径R1でキャビティ13内へ膨出する円弧状の凸部である。第2湾曲部19bは、第1湾曲部19aに連続し、所定の曲率半径R2でキャビティ13内から外側へ窪む円弧状の凹部である。第3湾曲部19cは、第2湾曲部19bに連続し、所定の曲率半径R3でキャビティ13内へ膨出する円弧状の凸部である。平坦部19dは、第3湾曲部19cに連続し、軸線方向ADの外側から内側に向かうに従って、ビードリング18の軸線Aに近づく向きに傾斜している。
【0025】
加硫時にグリーンタイヤとビード成形面19の間の排気性を確保するために、ビードリング18には、複数のソーカット21,22と、複数のベントホール24とが設けられている。ビードリング18と同様に、サイドプレート16にも必要に応じてベントホールとソーカットが設けられる。
【0026】
図3に示すように、ソーカット21,22は、ビード成形面19に外側へ窪むように設けられた凹溝からなる。ソーカット21はビードリング18の周方向CRに延びている。ソーカット22はビードリング18の径方向RDに延びている。周方向に延びるソーカット21は、第2湾曲部19bのうち、最も窪んだ位置である最深部19fに設けられている。
【0027】
ベントホール24は、ビードリング18の内部(キャビティ13)と外部を連通させるように、一端がビード成形面19で開口し、他端がビードリング18の外面18aで開口している。個々のベントホール24のうち、ビード成形面19側に位置する内端部24aは、最深部19f(ソーカット21)上に位置し、ビードリング18の軸線Aを中心として周方向に等間隔で複数(例えば18箇所)設けられている。複数のベントホール24のうち、一部のベントホール24は、周方向に延びるソーカット21と径方向RDに延びるソーカット22との交点に位置している。
【0028】
ベントホール24には、ビード成形面19側の内端部24aにスプリングベント25が配置されている。スプリングベント25は、全てのベントホール24に配置してもよいし、必要に応じて一部のベントホール24だけに配置してもよい。加硫時、ベントホール24にはグリーンタイヤを構成するゴムが流れ込み、目詰まりを生じさせることがある。この様な不都合を避けたい部分にスプリングベント25を配置することが好ましい。
【0029】
図4に示すように、スプリングベント25は、円筒状のハウジング26と、ハウジング26内に配置されたステム27と、ステム27をキャビティ13内に向けて付勢するコイルスプリング28とを備える。
【0030】
ハウジング26は、ベントホール24に圧入することで、ビードリング18への取付状態が保持されている。ハウジング26の内部空間は排気通路26aを構成し、その軸線はベントホール24の軸線と一致している。排気通路26aは、外面18a側(図4において上側)からビード成形面19側(図4において下側)に向けて、開口部26b、連通部26c、収容部26d、及びテーパ部26eの順で区分されている。開口部26bの内径寸法は連通部26cの内径寸法よりも大きく、これらの間には段部26fが形成されている。収容部26dの内径寸法は連通部26cの内径寸法よりも大きく、これらの間には段部26gが形成されている。テーパ部26eは、収容部26dからビード成形面19に近づくに従って内径寸法を次第に大きくした円錐形状である。
【0031】
ステム27は、軸部27aと、軸部27aの外面18a側に設けられたストッパ27bと、軸部27aのビード成形面19側に設けられた弁体27cとを備える。軸部27aには、弁体27c側に位置する端に、外径寸法を大きくした大径部27dが設けられている。ストッパ27bは、ビード成形面19に近づくに従って外径寸法を次第に大きくした概ね円錐状であり、最大部分の外径は連通部26cの内径よりも大きい。弁体27cは、ビード成形面19に近づくに従って外径寸法を次第に大きくした円錐台状である。弁体27cの外周面は、テーパ部26eの内周面に対して平行に延び、両者は面接触可能である。
【0032】
コイルスプリング28は、軸部27aの周囲に配置され、ハウジング26の収容部26dに圧縮状態で収容されている。コイルスプリング28の一端は段部26gに当接し、コイルスプリング28の他端は大径部27dに当接している。これにより、ステム27は、キャビティ13内へ突出するように付勢され、ストッパ27bと段部26fとの当接によって抜け止めされている。本実施形態のストッパ27bの外周には軸方向に延びる通気溝27eが設けられ、この通気溝27eを通してガスが流動可能となっている。
【0033】
このように構成された金型10では、グリーンタイヤを加硫成形する際、グリーンタイヤのビード部とビードリング18のビード成形面19との間のガスは、スプリングベント25及びベントホール24を通して金型10の外部へ排出される。詳しくは、スプリングベント25では、コイルスプリング28の付勢力によってステム27がキャビティ13内へ突出し、弁体27cとテーパ部26eとの間に隙間が確保されている。これにより、金型10内のガスは、この隙間から収容部26d内に侵入し、連通部26cと軸部27aの隙間からストッパ27bと段部26fの隙間(通気溝27e)を通り、ベントホール24を経て外部へと排出される。
【0034】
スプリングベント25は、ビード成形面19のうち、最も窪んだ第2湾曲部19bの最深部19fに形成されている。ソーカット21,22を含む最深部19fは、行き場を失ったガスが最も集まりやすい場所である。この場所にスプリングベント25を設けることで、残留ガスによって焼けやボイドが発生することを防止できる。
【0035】
グリーンタイヤの加硫によって、ビード成形面19にゴムが流動してくると、このゴムの押圧によって、コイルスプリング28による付勢力に抗してステム27がハウジング26内へ後退する。これにより、弁体27cの外周面とテーパ部26eの内周面とが互いに面接触し、ハウジング26を通した内外の連通が遮断される。
【0036】
ベントホール24にスプリングベント25を採用した場合、基本的にはハウジング26内にゴムが入り込むことは無い。但し、ゴムが流動する向きによっては、弁体27cとテーパ部26eの間にゴムが入り込んで詰まる虞がある。また、ベントホール24にスプリングベント25を採用しない場合、ベントホール24にゴムが入り込んで詰まる虞がある。これらの場合、目詰まりした部分での排気が以後の加硫時に不可能になる。
【0037】
スプリングベント25を含む全てのベントホール24にゴムが詰まることを防止するために、ビードリング18には、延び方向が異なる複数種(本実施形態では3種)のベントホール24が設けられている。以下の説明では、必要に応じて種類(傾斜角度)毎にベントホール24A~24Cと言うことがある。
【0038】
ベントホール24A~24Cは、基準線SL1~SL3に対する傾斜角度α,βが異なるようにそれぞれ設けられている。ここで、ベントホール24A~24Cの傾斜角度α,βとは、ベントホール24A~24Cの軸線AL1~AL3と基準線SL1~SL3とがなす角として定義される。また、ベントホール24の傾斜角度α,βには、軸線AL1~AL3と基準線SL1~SL3とが一致する姿勢が含まれる。
【0039】
図2Aから図2Cを参照すると、基準線SL1~SL3は、最深部19fを通り、第2湾曲部19bを線対称に2分割する第2湾曲部19bの法線からなる。基準線SL1~SL3は、それぞれベントホール24A~24Cの内端部24aの図心を通る。また、基準線SL1~SL3は、ベントホール24A~24Cの内端部24aを含むように切断した子午線断面上において、ビードリング18の軸線Aに対して同じ角度θ0で傾斜している。ビードリング18の軸線Aが延びる方向から見た図5を参照すると、基準線SL1~SL3はビードリング18の径方向RDに延びている。より具体的には、基準線SL1~SL3は、ビードリング18の径方向RDの外側(図2Aにおいて左側)から内側(図2Aにおいて右側)へ向かうに従って、外面18aに近づく向きに傾斜している。最深部19fを通ってビードリング18の軸線方向ADに延びる直線ADLと基準線SL1~SL3とがなす角度θ0は、20°以上65°以下(20°≦θ0≦65°)に設定されている。
【0040】
図2A及び図5に示すように、ベントホール24A~24Cの傾斜角度α,βは、基準線SL1~SL3に対して±10°の角度範囲、好ましくは±5°の角度範囲に設定されている。より具体的には、個々のベントホール24A~24Cは、基準線SL1~SL3に対する軸方向の傾斜角度α、及び基準線SL1~SL3に対する周方向の傾斜角度βのうち、少なくとも一方が異なっている。以下、個々のベントホール24A~24Cの一例について具体的に説明する。
【0041】
図2Aは、図5においてベントホール24Aのビード成形面19側の端部を含むようにビードリング18を切断した第1子午線断面図である。図2A及び図5に示すように、ベントホール(第1ベントホール)24Aは、基準線SL1に沿って延びている。つまり、ベントホール24Aの軸線AL1は、基準線SL1と一致している。
【0042】
図2Bは、図5においてベントホール24Bのビード成形面19側の端部を含むようにビードリング18を切断した第2子午線断面図である。図2B及び図5に示すように、ベントホール(第2ベントホール)24Bは、基準線SL2に対して軸方向に傾斜し、周方向には傾斜していない。詳しくは、図2Bを参照すると、ベントホール24Bの軸線AL2は、基準線SL2に対して軸方向に傾斜角度α1(例えば-5°)で傾斜している。また、ベントホール24Bの軸線AL2は、軸線方向ADに延びる直線ADL(軸線A)とのなす角度θ1が、基準線SL2と直線ADLとのなす角度θ0よりも小さくなるように傾斜している。軸方向から見た図5を参照すると、ベントホール24Bの軸線AL2は、基準線SL2と一致している。
【0043】
図2Cは、図5においてベントホール24Cに沿って切断した断面図であり、ベントホール24Cのビード成形面19側の端部を含むように切断した第3子午線断面とは若干異なる。図2C及び図5に示すように、ベントホール(第3ベントホール)24Cは、基準線SL3に対して軸方向及び周方向に傾斜している。詳しくは、図2Cを参照すると、ベントホール24Cの軸線AL3は、基準線SL3に対して軸方向に傾斜角度α2(例えば+5°)で傾斜している。また、ベントホール24Cの軸線AL3は、軸線方向ADに延びる直線ADLとのなす角度θ2が、基準線SL3と直線ADLとがなす角度θ0よりも大きくなるように傾斜している。軸方向から見た図5を参照すると、ベントホール24Cの軸線AL3は、基準線SL3に対して周方向に傾斜角度β(例えば+5°)で傾斜している。
【0044】
本実施形態では、基準線SL1~SL3に対して傾斜角度α,βが異なる3種のベントホール24A~24Cを1組のベントホール群とし、このベントホール群が周方向に間隔をあけて複数設けられている。これにより、周方向に隣接したベントホール24A~24Cにおいて、基準線SL1~SL3に対する傾斜角度α,βは全て異なっている。
【0045】
具体的には、図5に示す例では、個々のベントホール群においては、ベントホール24B、ベントホール24A、及びベントホール24Cが、この順で左側から右側へ設けられ、隣接したベントホール24A~24Cの傾斜角度α,βが全て異なっている。隣接したベントホール群においては、右側に位置する第1ベントホール群の左端にベントホール24Bが位置し、左側に位置する第2ベントホール群の右端にベントホール24Cが位置し、隣接したこれらの傾斜角度α,βが異なっている。
【0046】
このように構成した金型10は、以下の特徴を有する。
【0047】
基準線SL1~SL3に対する傾斜角度α,βが異なるベントホール24A~24Cを備えている。これにより、ベントホール24A~24Cのうち、いずれか1つ(1種)の傾斜角度α,βがゴムの流れの向きと一致したとしても、残りの2つ(2種)の傾斜角度α,βはゴムの流れの向きと一致しない。よって、ベントホール24A~24Cのうちのいずれかがゴムで詰まっても、残りは詰まることはない。そのため、全てのベントホール24A~24Cが詰まるという不具合の発生を防止でき、金型10内の排気性を確保できる。その結果、グリーンタイヤとビード成形面19の間の残留ガスによるベアの発生の抑制できる。
【0048】
ベントホール24A~24Cの少なくとも一部には、ビード成形面19側の端部にスプリングベント25が配置されている。よって、スプリングベント25が配置されたベントホール24A~24Cにおいては、空気入りタイヤ1をリムに組み付ける際に妨げになる突出した髭状のスピューが形成されることはない。そのため、ビード部4を成形するビード成形面19にベントホール24を形成する場合に有効である。
【0049】
ベントホール24A~24Cの傾斜角度α,βはそれぞれ、基準線SL1~SL3に対して±10°の角度範囲内に設定されている。よって、全てのベントホール24A~24Cがゴムによって詰まることを確実に防止できる。また、図2Bのベントホール24Bのように軸線AL2が軸線方向AD(軸線A)に近づくように傾斜させれば、ベントホール24Bの全長を短くすることができるため、排気性を向上できる。
【0050】
周方向に隣接したベントホール24A~24Cにおいて、基準線SL1~SL3に対する傾斜角度α,βはそれぞれ異なっている。よって、意図せずに発生するゴム詰まりがビードリング18の一部に集中することなく分散されるため、排気性を均等に確保できる。よって、ベアの発生を効果的に防止できる。
【0051】
ビード成形面19におけるベントホール24の開口位置は、ビード成形面19を構成する第2湾曲部(凹部)19bの最深部19fである。この部分は行き場を失ったガスが最も集まりやすい場所であるため、効率的にガスを排出できる。また、ビードリング18の周方向の部位によって排気性能にバラツキが発生することを防止し、所望の排出効果を得ることができる。
【0052】
なお、本発明のタイヤ加硫成形用金型10は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、基準線SL1~SL3に対するベントホール24A~24Cの周方向の傾斜角度βは、図6から図8のようにしてもよい。
【0054】
図6の例では、ベントホール24Aの周方向の傾斜角度は基準線SL1と一致させ、ベントホール24Bは基準線SL2に対して周方向に傾斜角度β1(例えば-5°)で傾斜させ、ベントホール24Cは基準線SL3に対して周方向に傾斜角度β2(例えば+5°)で傾斜させている。この場合、基準線SL1~SL3に対するベントホール24A~24Cの軸方向の傾斜角度αは、全て同じにしてもよい。
【0055】
図7の例では、全てのベントホール24A~24Cを、基準線SL1~SL3に対して周方向に傾斜角度β(例えば+5°)で傾斜させている。図8の例では、全てのベントホール24A~24Cの周方向の傾斜角度を基準線SL1~SL3と一致させている。これらの場合、図2Aに示す前記実施形態と同様に、基準線SL1~SL3に対するベントホール24A~24Cの軸方向の傾斜角度αは、異なるように設定することが好ましい。
【0056】
前記実施形態では、ビード成形面19の最深部19fにソーカット21とベントホール24とを設けたが、周方向に延びるソーカット21上にベントホール24を設ければ、これらの形成位置は最深部19fでなくでもよい。
【0057】
傾斜角度α,βが異なるベントホール24の種類数は3種に限られず、2種を交互に設けてもよいし、4種以上であってもよい。但し、ベントホール24の種類数は、ベントホール24の総数の約数とすることが好ましい。また、複数のベントホール24のうち、一部のみを傾斜角度α,βが異なるようにしてもよい。
【0058】
ビードリング18にベントホール24を形成する例を挙げて説明したが、サイドプレート16にベントホール24を形成してもよい。この場合でも子午線断面上において傾斜した基準線に対する傾斜角度α,βが異なるように複数種のベントホール24を設けることで、前記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0059】
前記実施形態では、金型10としてセグメンテッドモールドについて説明したが、上下半割の2ピースモールドであっても、ビード部4又はサイドウォール部3を成形する部分に、基準線SLに対して傾斜角度α,βが異なるベントホール24を採用することで、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
10 金型
11 セクタモールド
12 サイドモールド
13 キャビティ
14 セクタ
15 トレッド成形面
16 サイドプレート
17 サイドウォール成形面
18 ビードリング
18a 外面
19 ビード成形面
19a 第1湾曲部
19b 第2湾曲部(凹部)
19c 第3湾曲部
19d 平坦部
19e テーパ部
19f 最深部
21 ソーカット
22 ソーカット
24,24A~24C ベントホール
24a 内端部
25 スプリングベント
26 ハウジング
26a 排気通路
26b 開口部
26c 連通部
26d 収容部
26e テーパ部
26f 段部
26g 段部
27 ステム
27a 軸部
27b ストッパ
27c 弁体
27d 大径部
27e 通気溝
28 コイルスプリング
A サイドモールドの軸線
AD サイドモールドの軸線方向
RD サイドモールドの径方向(径方向に延びる直線)
SL1 基準線(第1基準線)
SL2 基準線(第2基準線)
SL3 基準線(第3基準線)
AL1~AL3 ベントホールの軸線
θ0 軸線と基準線とがなす角度
α 基準線に対する軸方向の傾斜角度
β 基準線に対する周方向の傾斜角度
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8