(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電池用粘着シートおよびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/536 20210101AFI20231215BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231215BHJP
【FI】
H01M50/536
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2019235493
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】安齋 剛史
(72)【発明者】
【氏名】倉田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】西野 肇
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 朝樹
(72)【発明者】
【氏名】吉井 一洋
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152372(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021143(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106684289(CN,A)
【文献】国際公開第2014/148577(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038010(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/165633(WO,A1)
【文献】特開2011-168048(JP,A)
【文献】特開2015-151445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-598
H01M 10/04-39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面側に設けられた粘着剤層とを備える電池用粘着シートであって、
前記粘着剤層が、単体における含水率が0.4%以下である無機微粒子を含
み、
前記無機微粒子が、硫酸塩微粒子である
ことを特徴とする電池用粘着シート。
【請求項2】
前記硫酸塩微粒子が、硫酸バリウム微粒子であることを特徴とする請求項
1に記載の電池用粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤層中における前記無機微粒子の含有量が、前記粘着剤層に含まれる粘着成分100質量部に対して、5質量部以上、500質量部以下であることを特徴とする請求項1
または2に記載の電池用粘着シート。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均粒径が、0.01μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の電池用粘着シート。
【請求項5】
電池の内部にて、請求項1~
4のいずれか一項に記載の電池用粘着シートを用いて、2つ以上の導電体同士が接触した状態で固定されていることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用粘着シートおよび当該電池用粘着シートを用いて製造されたリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一部の電池では、正極と、負極と、それらの間に位置するセパレータとが積層されてなる帯状の積層体が巻き取られた状態で内部に収容されている。正極および負極には、導電体からなる電極取り出しタブがそれぞれ接続されており、これらの電極取り出しタブを介して、正極および負極は、それぞれ電池の正極端子および負極端子に電気的に接続されている。
【0003】
上記積層体の巻き留めや、電極への電極取り出しタブの固定には、粘着シートが使用されることがある。このような粘着シートとしては、通常、基材と、当該基材の一方の面に設けられた粘着剤層とからなるものが用いられる。また、絶縁性といった所望の性能を向上する観点から、上記基材における上記粘着剤層とは反対側の面や、上記基材と上記粘着剤層との間に、絶縁性材料等を含有する絶縁層を設けてなる粘着シートが用いられることもある。
【0004】
しかしながら、上述したような絶縁層を粘着剤層とは別に設けることは、製造コストの増大を招く。そのため、粘着剤層に絶縁性材料等を含有させることによって、上述したような絶縁層を設けることなく粘着シートの絶縁性を向上させることも試みられている。例えば、特許文献1には、粘着剤層にアルミナを含有させた粘着シートが開示されている。また、特許文献2には、粘着剤層に、水酸化マグネシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、窒化ホウ素、酸化チタンまたは炭酸マグネシウムを含有させた粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/038010号
【文献】特開2017-152372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、電池の安全性を高めるとともに、電池がその性能を良好に維持できるようにする観点から、電池が高温環境下に置かれた場合であっても、粘着シートの性状や性質が維持されることも求められている。特に、電池が高温環境下に置かれた場合であっても、粘着シートからのガスの放出が生じず、これにより、当該ガスの放出に起因した電池の膨張を抑制できることが求められている。そのため、このような要求に対して、より高いレベルで応えることができる電池用粘着シートの開発が期待されている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、高温環境下に置かれた場合であってもガスが発生し難い電池用粘着シート、およびかかる電池用粘着シートを使用したリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の一方の面側に設けられた粘着剤層とを備える電池用粘着シートであって、前記粘着剤層が、単体における含水率が0.4%以下である無機微粒子を含むことを特徴とする電池用粘着シートを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る電池用粘着シートは、粘着剤層が、上述した含水率を有する無機微粒子を含むことにより、高温環境下に置かれた場合であってもガスが発生し難い。そのため、当該電池用粘着シートを使用することで、優れた性能を発揮する電池を製造することができる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記無機微粒子が、硫酸塩微粒子であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明2)において、前記硫酸塩微粒子が、硫酸バリウム微粒子であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)において、前記粘着剤層中における前記無機微粒子の含有量が、前記粘着剤層に含まれる粘着成分100質量部に対して、5質量部以上、500質量部以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~3)において、前記無機微粒子の平均粒径が、0.01μm以上、10μm以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
第2に本発明は、電池の内部にて、前記電池用粘着シート(発明1~5)を用いて、2つ以上の導電体同士が接触した状態で固定されていることを特徴とするリチウムイオン電池を提供する(発明6)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電池用粘着シートは、高温環境下に置かれた場合であってもガスが発生し難い。そのため、当該電池用粘着シートを用いて製造されたリチウムイオン電池は、優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電池用粘着シートの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池の部分断面分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池の電極体の展開斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔電池用粘着シート〕
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電池用粘着シート1は、基材11と、基材11の一方の面側に設けられた粘着剤層12と、粘着剤層12における基材11とは反対の面側に設けられた剥離シート13とから構成される。また、本実施形態に係る電池用粘着シート1では、粘着剤層12が無機微粒子121を含む。
【0018】
ここで、本明細書における「電池用粘着シート」は、電池の製造において電解液に接触する可能性のある箇所で使用される粘着シートであり、好ましくは電池の内部にて使用される粘着シートであり、電池内装用粘着シートであってもよい。電池としては、非水系電池であることが好ましい。したがって、当該電池に使用する電解液は非水系電解液であることが好ましい。本明細書における電池用粘着シートは、非水系電池内部の電解液に浸漬する可能性のある部位または電解液に接触する可能性のある部位に貼付される粘着シートであることが好ましい。非水系電池としては、リチウムイオン電池が特に好ましい。
【0019】
1.各構成要素
1-1.基材
本実施形態に係る電池用粘着シート1では基材11は、絶縁破壊を生じる最小の電圧が高いことが好ましく、例えば、当該電圧が、1kV以上であることが好ましく、特に2kV以上であることが好ましく、さらには5kV以上であることが好ましい。当該電圧が1kV以上であることにより、基材11の絶縁破壊が生じ難く、電池用粘着シート1の信頼性がより高いものとなる。
【0020】
さらに、基材11は、UL94規格の難燃レベルV-0を満たす難燃性を有することが好ましい。基材11がこのような難燃性を有することにより、通常の電池の使用により発熱した場合であっても、基材11の変性や変形が抑制される。また、電池に不具合が発生し、過度に発熱した場合であっても、基材11の発火や燃焼が抑制され、重大な事故が防止される。
【0021】
基材11の材料は、絶縁性、難燃性、耐熱性、電解液との反応性、電解液の透過性等の観点から適宜選択できる。特に、基材11としては、樹脂フィルムを使用することが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等の主鎖に窒素を含む重合体からなるフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリウレタン樹脂フィルム、ノルボルネン系重合体フィルム、環状オレフィン系重合体フィルム、環状共役ジエン系重合体フィルム、ビニル脂環式炭化水素重合体フィルム等の樹脂フィルムまたはそれらの積層フィルムが挙げられる。特に、絶縁性および難燃性の観点から、主鎖に窒素を含む重合体のフィルム(当該重合体以外の成分を含有してもよい。本明細書にて同様。)が好ましく、特に主鎖に窒素含有環構造を有する重合体のフィルムが好ましく、さらには、主鎖に窒素含有環構造および芳香環構造を有する重合体のフィルムが好ましい。具体的には、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルムまたはポリエーテルエーテルケトンフィルムが好ましく、これらの中でも絶縁性および難燃性に特に優れるポリイミドフィルムが好ましい。
【0022】
基材11の厚さは、下限値として、5μm以上であることが好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには15μm以上であることが好ましい。基材11の厚さの下限値が上記であることにより、例えば電池用粘着シート1によって電極取り出しタブが固定されてなる電極体が巻き取られ、電池用粘着シート1に巻き圧が印加された場合であっても、基材11の破断を効果的に抑制することができる。また、基材11の厚さは、上限値として、200μm以下であることが好ましく、特に100μm以下であることが好ましく、さらには40μm以下であることが好ましい。基材11の厚さの上限値が上記であることにより、電池用粘着シート1が適度な柔軟性を有し、電極と電極取り出しタブとを固定する場合のように、段差が存在する面に電池用粘着シート1を貼付する場合であっても、当該段差に対して良好に追従することができる。
【0023】
1-2.粘着剤層
(1)無機微粒子
粘着剤層12は、粘着成分を含むとともに、無機微粒子121を含む。粘着剤層12が無機微粒子121を含むことにより、当該粘着剤層12が絶縁層として機能する。このため、本実施形態に係る電池用粘着シート1は、絶縁性に優れたものとなる。
【0024】
さらに、本実施形態における無機微粒子121は、単体における含水率が0.4%以下である。当該含水率が0.4%以下であることにより、電池用粘着シート1が加熱された場合における、粘着剤層12からのガスの発生を良好に抑制することができる。このため、本実施形態に係る電池用粘着シート1を使用して、上記ガスの発生に起因した膨張が生じ難い電池を製造することが可能となる。このような観点から、上記含水率は、0.3%以下であることが好ましく、特に0.2%以下であることが好ましい。
【0025】
上記含水率の下限値については特に限定されず、例えば、0%以上であってもよく、特に0.01%以上であってもよく、さらには0.05%以上であってもよい。
【0026】
なお、本明細書における無機微粒子121の含水率は、単体の無機微粒子121について測定される含水率をいい、粘着剤層12中における無機微粒子121の含水率でもなく、後述する粘着性組成物P中における無機微粒子121の含水率でもないものとする。また、本明細書における無機微粒子121の含水率は、カールフィッシャー法によって測定される含水率をいい、ここで測定される水分は、無機微粒子121に対して共有結合以外の態様で無機微粒子121に付着しているものである。無機微粒子121の含水率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0027】
本実施形態における無機微粒子121としては、上述した含水率を有するものである限り特に限定されず、硫酸バリウム、チタニア、水酸化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、マグネシア(酸化マグネシウム)、アルミナ、炭酸カルシウム、シリカ、ベーマイト、タルク、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネウム、窒化アルミニウム等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等を使用することができる。これらは、単独で使用してもよく、または2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、上述した含水率を達成し易いという観点から、硫酸バリウム、チタニアおよび水酸化アルミニウムの少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0028】
また、より優れた絶縁性を実現するという観点からは、無機微粒子121として、硫酸塩微粒子を使用することが好ましい。硫酸塩微粒子を使用することにより、本実施形態に係る電池用粘着シート1が使用される電池において、電池内への異物の混入等を原因とした内部短絡が生じた場合であっても、当該内部短絡に起因した発熱を抑制し易いものとなる。これにより、本実施形態に係る電池用粘着シート1が、より優れた絶縁性を発揮し易いものとなる。このような硫酸塩微粒子の例としては、硫酸バリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。中でも、化学的安定性が高いとともに、粘着成分との分散性が良好であるという観点から、硫酸バリウム微粒子を使用することが好ましい。
【0029】
無機微粒子121の平均粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、特に0.1μm以上であることが好ましく、さらには0.2μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることが最も好ましい。また、無機微粒子121の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、特に5μm以下であることが好ましく、さらには0.9μm以下であることが好ましい。無機微粒子121の平均粒径が0.01μm以上であることで、上述した含水率を達成しやすくなり、本実施形態に係る電池用粘着シート1が高い絶縁性を発揮し易いものとなる。さらに、無機微粒子121の平均粒径が10μm以下であることで、無機微粒子121の分散性がより優れたものとなり、粘着剤層12における基材11とは反対側の面の凹凸の発生を効果的に防止することができ、優れた粘着力を達成し易くなる。なお、無機微粒子121の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定したものとする。
【0030】
粘着剤層12中における無機微粒子121の含有量は、粘着剤層12に含まれる粘着成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、特に10質量部以上であることが好ましく、さらには30質量部以上であることが好ましい。また、粘着剤層12中における無機微粒子121の含有量は、粘着剤層12に含まれる粘着成分100質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、特に250質量部以下であることが好ましく、さらには100質量部以下であることが好ましい。上記含有量が5質量部以上であることで、本実施形態に係る電池用粘着シート1が高い絶縁性を発揮し易いものとなる。また、上記含有量が500質量部以下であることで、電池用粘着シート1が加熱された場合における粘着剤層12からのガスの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0031】
(2)粘着成分
粘着剤層12に含まれる粘着成分に特に制限はなく、電解液への溶出性、難燃性、耐熱性、絶縁性等の観点から適宜選択することができる。特に、当該粘着成分としては、アクリル系粘着成分、シリコーン系粘着成分、ゴム系粘着成分およびウレタン系粘着成分の少なくとも1種を使用することが好ましい。また、粘着剤層12に含まれる粘着成分は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。上記の中でも、粘着力の微妙な調整の容易さ等の観点から、アクリル系粘着成分が好ましく、特に架橋タイプのアクリル系粘着成分が好ましく、さらには溶剤型の架橋タイプのアクリル系粘着成分が好ましい。
【0032】
上述したアクリル系粘着成分は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および架橋剤(B)からなるものであることが好ましい。この場合、粘着剤層12は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および架橋剤(B)からなるアクリル系粘着成分と、無機微粒子121とを含むものとなる。このような粘着剤層12は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、架橋剤(B)および無機微粒子121を含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)から形成されるものであることが好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0034】
(2-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、粘着剤層12が被着体に対して高い密着性を有し易いものとする観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が3~9のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にアルキル基の炭素数が5~8のアクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有することが好ましく、特に60質量%以上含有することが好ましく、さらには70質量%以上含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有することで、被着体に対する密着性がより向上する。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99質量%以下含有することが好ましく、特に95質量%以下含有することが好ましく、さらには88質量%以下含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99質量%以下とすることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0036】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、粘着剤層12が優れた耐電解液性を有し易いものとする観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が11~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が12~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が11~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを0.5質量%以上含有することが好ましく、4質量%以上含有することがより好ましく、9質量%以上含有することが特に好ましい。0.5質量%以上含有することにより、得られる粘着剤層12がより高い疎水性を有するものとなり、それにより優れた耐電解液性を達成し易いものとなる。一方、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が11~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを40質量%以下含有することが好ましく、30質量%以下含有することがより好ましく、20質量%以下含有することが特に好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを40質量%以下含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入し易いものとなる。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、上記以外のモノマーを含有してもよい。該モノマーとしては、反応性を有する官能基を含むモノマーであってもよいし、反応性を有する官能基を含まないモノマーであってもよい。
【0039】
反応性を有する官能基を含むモノマー(反応性官能基含有モノマー)としては、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーまたはカルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましく、特にカルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましい。カルボキシ基含有モノマーを含むことで、形成される粘着剤層12の極性が増大し、電解液への耐溶出性がより優れたものとなる。
【0040】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸が好ましい。アクリル酸によれば、上記の効果がより優れたものとなる。上記カルボキシ基含有モノマーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、0.5質量%以上含有することが好ましく、特に1質量%以上含有することが好ましく、さらには3質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、30質量%以下含有することが好ましく、特に20質量%以下含有することが好ましく、さらには9質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、架橋剤(B)との反応により架橋構造が良好に形成されて、形成される粘着剤層12の凝集力が適度に高くなり、それによって、電解液への耐溶出性がより優れたものとなる。
【0044】
一方、反応性を有する官能基を含まないモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリロイルモルホリン等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、溶液重合したものであってもよいし、無溶剤で重合したものであってもよいし、エマルション重合したものであってもよい。中でも、溶液重合法によって得られた溶液重合物であることが好ましい。溶液重合物であることにより、直鎖状の高分子量のポリマーが得やすく、粘着剤層12の耐電解液性をより優れたものにし易くなる。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、下限値として5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましく、特に20万以上であることが好ましく、さらには50万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記であると、形成される粘着剤層12の電解液への耐溶出性がより優れたものとなる。
【0048】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、上限値として250万以下であることが好ましく、200万以下であることがより好ましく、特に120万以下であることが好ましく、さらには95万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記であると、被着体に対する密着性がより優れたものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0049】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(2-2)架橋剤(B)
架橋剤(B)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。架橋剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
上記の中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性官能基、特にカルボキシ基含有モノマー由来のカルボキシ基との反応性、および反応後の耐電解液性、絶縁性能等の観点から、イソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。
【0052】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートおよびトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0053】
粘着性組成物P中における架橋剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上限値として、20質量部以下であることが好ましく、特に15質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)の含有量が上記の範囲にあると、架橋構造が良好に形成されて、形成される粘着剤層12の凝集力が適度に高くなり、それによって、電解液への耐溶出性がより優れたものとなる。
【0054】
(2-3)各種添加剤
粘着性組成物Pは、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば粘着付与剤、酸化防止剤、軟化剤、充填剤などを含有することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0055】
(3)粘着性組成物Pの製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に、無機微粒子121、および、所望により架橋剤(B)、添加剤等を加えることで製造することができる。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、無溶剤にて重合してもよい。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0058】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0059】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、無機微粒子121、および、所望により架橋剤(B)、添加剤等を添加し、十分に混合することにより、粘着性組成物Pを得る。
【0061】
なお、粘着性組成物Pは、塗工に適切な粘度に調整したり、粘着剤層12を所望の膜厚に調整するため、適宜、前述の重合溶媒に加え、希釈溶媒等で希釈して、後述する塗布液としてもよい。希釈溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
(4)粘着性組成物Pの架橋
粘着性組成物Pが架橋剤(B)を含有する場合、粘着性組成物Pを架橋することで、粘着剤層12を形成することができる。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0063】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒~10分であることが好ましく、特に50秒~5分であることが好ましい。
【0064】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤層12が形成される。
【0065】
(5)粘着剤層の厚さ
粘着剤層12の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、下限値として、1μm以上であることが好ましく、特に3μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。粘着剤層12の厚さの下限値が上記であることにより、電池用粘着シート1は高い絶縁性を発揮し易いものとなる。また、粘着剤層12の厚さは、上限値として、50μm以下であることが好ましく、特に13μm以下であることが好ましく、さらには9μm以下であることが好ましい。粘着剤層12の厚さの上限値が上記であることにより、粘着剤層12の端部から浸入する電解液の量を効果的に低減することができる。
【0066】
また、粘着剤層12の厚さは、無機微粒子121の平均粒径の1.1倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることが特に好ましく、15倍以上であることがさらに好ましい。粘着剤層12の厚さが無機微粒子121の平均粒径の1.1倍以上であることにより、粘着剤層12の表面の平滑性がより優れたものとなり、高い粘着力を効果的に得ることができる。なお、無機微粒子121の平均粒径を基準とする粘着剤層12の厚さの倍率の上限は特に制限されないが、100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがより好ましく、30倍以下であることが特に好ましい。
【0067】
1-3.剥離シート
剥離シート13は、電池用粘着シート1の使用時まで粘着剤層12を保護するものであり、電池用粘着シート1を使用するときに剥離される。本実施形態に係る電池用粘着シート1において、剥離シート13は必ずしも必要なものではない。
【0068】
剥離シート13としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0069】
剥離シート13の剥離面(粘着剤層12と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
【0070】
剥離シート13の厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0071】
2.電池用粘着シートの物性等
(1)ガス発生量
本実施形態に係る電池用粘着シート1では、加熱により発生する、無機微粒子1g当たりのガスの量(ガス発生量)が、30ml/g以下であることが好ましく、特に10ml/g以下であることが好ましく、さらには3ml/g以下であることが好ましい。ガス発生量が30ml/g以下であることで、電池用粘着シート1を使用して製造された電池が加熱された場合であっても、当該電池の膨張を効果的に抑制することができる。本実施形態に係る電池用粘着シート1では、粘着剤層12中に含まれる微粒子として、前述した含水率を有する無機微粒子121を使用することにより、加熱によるガス発生量を上述した範囲に抑制することが可能となる。なお、上記ガス発生量の下限値については、ガスの発生がない(0ml/g)ことが好ましいものの、ガスが発生する場合には、例えば0.1ml/g以上であってもよく、特に1ml/g以上であってもよい。なお、上記ガス発生量の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0072】
(2)粘着力
本実施形態に係る電池用粘着シート1のアルミニウム板に対する粘着力は、下限値として0.5N/25mm以上であることが好ましく、0.8N/25mm以上であることがより好ましく、特に1.5N/25mm以上であることが好ましい。電池用粘着シート1の粘着力の下限値が上記であることにより、電池用粘着シート1が被着体(特に金属部材)から剥離する不具合が発生し難い。上記粘着力の上限値は特に限定されないが、通常は50N/25mm以下であることが好ましく、特に30N/25mm以下であることが好ましく、さらには9N/25mm以下であることが好ましい。なお、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する試験例にて示す通りである。
【0073】
(3)絶縁性(強制内部短絡試験による上昇温度)
電池用粘着シート1(剥離シート13は除く)について、JIS C8714:2007に準拠して電池の強制内部短絡試験を行ったときの電池側面の上昇温度は、標準サイズ(高さ0.2mm,幅0.1mm,一辺1mmのL字形,角度90°)のニッケル小片を用いた場合、30℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、特に5℃以下であることが好ましく、さらには1℃未満であることが好ましい。また、標準サイズより大きいサイズ(高さ0.5,幅0.2mm,一辺3mmのL字形,角度90°)のニッケル小片を用いた場合、100℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、特に10℃以下であることが好ましく、さらには4℃以下であることが好ましい。この強制内部短絡試験の詳細は、後述する試験例に示す通りである。
【0074】
強制内部短絡試験による上昇温度が上記であることにより、電池用粘着シート1はより高い絶縁性を有するということができ、当該電池用粘着シート1を使用した電池は安全性のより高いものとなる。本実施形態に係る電池用粘着シート1では、特に無機微粒子121として前述した硫酸塩微粒子を使用することにより、強制内部短絡試験による上昇温度を上記のように低く抑えることが容易となる。
【0075】
(4)電池用粘着シートの厚さ
電池用粘着シート1の厚さ(剥離シート13の厚さを除く)は、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、電池用粘着シート1の厚さは、250μm以下であることが好ましく、特に110μm以下であることが好ましく、さらには45μm以下であることが好ましい。電池用粘着シート1の厚さが上記の範囲にあることにより、優れた粘着力および高い絶縁性を両立し易いものとなる。
【0076】
3.電池用粘着シートの製造方法
本実施形態に係る電池用粘着シート1の製造方法としては、基材11の片側に対し、粘着剤層12を形成することができれば特に限定されない。例えば、前述した粘着性組成物Pおよび所望により溶剤を含有する塗布液を、剥離シート13の剥離面に塗布し、加熱処理を行って、塗膜を形成する。形成された塗膜は、養生期間が不要な場合は、そのまま粘着剤層12となり、養生期間が必要な場合は、養生期間経過後に粘着剤層12となる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。続いて、形成された塗膜または粘着剤層12における剥離シート13とは反対側の面に、基材11の片方の面を貼合し、必要に応じて、養生期間を設けた後に、電池用粘着シート1を得ることができる。
【0077】
上記加熱処理は、塗布液の希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。加熱処理を行う場合、加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。
【0078】
また、本実施形態に係る電池用粘着シート1の別の製造方法として、基材11上に粘着性組成物Pを塗布した後、基材11上にて粘着剤層12を形成することで電池用粘着シート1を得てもよい。この場合における粘着性組成物Pの塗布、加熱処理および養生は、前述した方法と同様に行うことができる。
【0079】
〔リチウムイオン電池〕
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、電池の内部にて、前述した電池用粘着シートを用いて、2つ以上の導電体同士が接触した状態で固定されているものである。2つ以上の導電体の少なくとも1つはシート状であり、少なくとも1つは線状またはテープ状であることが好ましい。以下、好ましい実施形態に係るリチウムイオン電池について説明する。
【0080】
図2に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、底部が負極端子23を構成する有底円筒状の外装体21と、外装体21の開口部に設けられた正極端子22と、外装体21の内部に設けられた電極体24とを備えている。また、当該リチウムイオン電池2の内部には、電解液が封入されている。
【0081】
電極体24は、それぞれシート状(帯状)の、正極活物質層241aが積層された正極集電体241と、負極活物質層242a層が積層された負極集電体242と、それらの間に介在するセパレータ243とを備えている。なお、正極集電体241および正極活物質層241aの積層体を正極という場合があり、負極集電体242および負極活物質層242aの積層体を負極という場合があり、それら正極および負極を包括して電極という場合がある。正極、負極およびセパレータ243は、それぞれ巻回されて、外装体21の内部に挿入される。
【0082】
また、
図3に示すように、正極集電体241には、線状またはテープ状の電極取り出しタブ244が、前述した電池用粘着シート1によって貼り付けられており、それによって電極取り出しタブ244は正極集電体241に電気的に接続している。この電極取り出しタブ244は、上記正極端子22にも電気的に接続している。なお、負極集電体242は、図示しない電極取り出しタブを介して負極端子23に電気的に接続している。
【0083】
一般的に、正極集電体241および負極集電体242は、アルミニウムといった金属を材料とし、電極取り出しタブ244は、アルミニウムまたは銅といった金属を材料とする。
【0084】
リチウムイオン電池2で使用される電解液は、通常、非水系電解液である。この非水系電解液としては、例えば、電解質としてのリチウム塩が、環状炭酸エステルと低級鎖状炭酸エステルとの混合溶媒に溶解したものが好ましく挙げられる。リチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)といったフッ素系錯塩や、LiN(SO2Rf)2・LiC(SO2Rf)3(ただしRf=CF3,C2F5)等が使用される。また、環状炭酸エステルとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等が使用され、低級鎖状炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等が好ましく挙げられる。
【0085】
本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、電極取り出しタブ244の固定に前述した電池用粘着シート1を使用する以外、通常の方法によって製造することができる。
【0086】
本実施形態に係るリチウムイオン電池2では、電極取り出しタブ244の正極241への貼付を電池用粘着シート1により行っている。この電池用粘着シート1は、当該粘着剤層12が無機微粒子121を含むことにより、高い絶縁性を達成することができる。さらに、当該無機微粒子121が前述した含水率を有するものであることにより、リチウムイオン電池2が加熱された場合であっても電池内部でのガスの発生が抑制され、リチウムイオン電池2が膨らむといった不具合の発生を抑制することができる。以上より、本実施形態に係るリチウムイオン電池2は、優れた性能を発揮することができる。
【0087】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0088】
例えば、電池用粘着シート1において、剥離シート13は省略されてもよい。また、電池用粘着シート1において、基材11と粘着剤層12との間には、他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0090】
〔実施例1〕
1.粘着性組成物の塗布液の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル80質量部、メタクリル酸ラウリル15質量およびアクリル酸5質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。この重合体の分子量を後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は75万であった。
【0091】
次に、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、イソシアネート系架橋剤としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(トーヨーケム社製,商品名「BHS8515」)3.72質量部とを混合し、酢酸エチルで希釈することにより、固形分濃度が30%である希釈液とした。当該希釈液は、粘着成分として、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体および上記イソシアネート系架橋剤を含むものである。
【0092】
得られた希釈液に対し、上記粘着成分100質量部に対して、無機微粒子として、硫酸バリウム微粒子(堺化学工業社製,製品名「B-55」,平均粒径:0.6μm)50質量部を添加し、混合することで、粘着性組成物の塗布液を得た。
【0093】
2.粘着剤層の形成
上記工程1において得られた粘着性組成物の塗布液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,商品名「SP-PET251130」)の剥離処理面にナイフコーターで塗布し、得られた塗膜を120℃で1分間乾燥させ、厚さ9μmの粘着剤層を形成した。これにより、剥離シートと粘着剤層とからなる積層体を得た。
【0094】
3.電池用粘着シートの作製
上記工程2において得られた積層体における粘着剤層側の面と、基材としてのポリイミドフィルム(東レデュポン社製,商品名「カプトン100H」,厚さ25μm,UL94規格の難燃レベルV-0)の一方の面とを貼合し、その後、23℃、50%RHで7日間養生することで、基材と、粘着剤層と、剥離シートとがこの順に積層されてなる電池用粘着シートを得た。
【0095】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0096】
〔実施例2~7,比較例1~4〕
無機微粒子の種類および添加量を表1に示すように変更した以外、実施例1と同様にして電池用粘着シートを製造した。なお、比較例6における「-」という表示は、微粒子を使用しなかったことを意味する。
【0097】
〔試験例1〕(含水率の測定)
実施例および比較例において使用した無機微粒子の含水率(%)を、電量滴定式カールフィッシャー水分計(京都電子産業社製,製品名「MKC-510N」)を用いて測定した。当該測定においては、設定加熱温度は150℃とし、発生液として、三菱ケミカル製「アクアミクロン AX」を使用し、対極液として、三菱ケミカル製「アクアミクロン CXU」を使用した。
【0098】
〔試験例2〕(粘着力の測定)
本試験例による電池用粘着シートの粘着力は、以下に示す操作以外、JIS Z0237:2009に準じて測定した。
【0099】
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートを幅25mm、長さ250mmに裁断した後、剥離シートを剥離することで試験片を得た。この試験片の露出した粘着剤層を、23℃、50%RHの環境下で、被着体としてのアルミニウム板に2kgゴムローラーを用いて貼付した。その直後、万能型引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロンUTM-4-100」)を用いて、剥離角度180°、剥離速度300mm/minで試験片を上記アルミニウム板から剥離することにより、粘着力(N/25mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
〔試験例3〕(ガス発生量の評価)
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面をアルミ箔に貼合した後、幅10mm、長さ30mmに裁断することで試験片とした。この試験片を、電解液としての、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した混合液にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させた調製液とともに、不活性ガス雰囲気中でアルミラミネート袋に封入した後、当該袋の開口部をヒートシールにより封止した。
【0101】
封止後、上記アルミラミネート袋を不活性ガス雰囲気から取り出し、その体積(ml)を電子比重計(アルファミラージュ社製,製品名「MD-200S」)を用いて測定した。これにより測定された体積を、初期体積とした。
【0102】
続いて、封止後の上記アルミラミネート袋を、85℃の環境下で72時間加熱した後、再び上記と同様に体積(ml)を測定した。これにより測定された体積を、加熱後体積とした。
【0103】
以上のようにして得られた初期体積および加熱後体積、ならびに上記試験片の粘着剤層中に含まれる微粒子の質量を算出して得られた値(g)を、下記式(1)
ガス発生量(ml/g)={加熱後体積(ml)-初期体積(ml)}/{微粒子の質量(g)} …(1)
に代入し、ガス発生量(ml/g)を算出した。その結果を表1に示す。
【0104】
〔試験例4〕(電池絶縁性の評価)
(1)正極の作製
正極活物質である100質量部のLiNi0.82Co0.15Al0.03O2と、1.0質量部のアセチレンブラックと、0.9質量部のポリフッ化ビニリデン(結着剤)と、適量のNMPを混合して、正極ペーストを調製した。得られた正極ペーストを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥後、圧延して、幅58mmの帯状の正極を作製した。ただし、正極の長手方向における最外周端の両面に、正極集電体の幅方向の一端部から他端部までが露出するアルミニウム箔の露出部を設けた。このとき、露出部の幅Wは、60mmとした。
【0105】
次に、正極集電体の露出部の最外周端より3mmの位置に、幅3.5mm、長さ68mmのストリップ状のアルミニウム製の正極リードを重ね、引き出し部の長さが15mm、重複部の長さが53mmとなるように位置合わせして、重複部を露出部に溶接した。
【0106】
その後、正極に、露出部の全面および重複部の全面が覆われるように、実施例および比較例で得られた電池用粘着シートを貼付した。その際、露出部が確実に電池用粘着シートで覆われるように、電池用粘着シートを正極の幅方向の両端部から、それぞれ2mmずつはみ出させた。また、露出部の幅方向における端部からも、電池用粘着シートを正極活物質層上に2mmはみ出させた。
【0107】
(2)負極の作製
負極活物質である平均粒子径が約20μmの鱗片状の人造黒鉛100質量部と、1質量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)(結着剤)と、1質量部のカルボキシメチルセルロース(増粘剤)と、水とを混合して、負極ペーストを調製した。得られた負極ペーストを、負極集電体となる厚さ8μmの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥後、圧延して、幅59mmの帯状の負極を作製した。ただし、負極の巻き終わり側の端部の両面に、負極集電体の幅方向の一端部から他端部までが露出する露出部を設けた。
【0108】
次に、負極集電体の露出部に、幅3mm、長さ40mmのストリップ状のニッケル製の負極リードを重ね、正極と同様、位置合わせして、重複部を露出部に溶接した。
【0109】
(3)電極群の作製
上記で得られた正極および負極を、セパレータを介して積層し、捲回して電極群を形成した。このとき、電極群の一方の端面から正極リードの引き出し部を、他方の端面から負極リードの引き出し部を突出させた。
【0110】
(4)非水電解質の調製
エチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートと、ジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1:8)に、LiPF6を1.4mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解質を調製した。
【0111】
(5)電池の作製
内面にニッケルメッキを施した鉄製の電池ケース(直径18mm,高さ65mm)に、下部絶縁リングと上部絶縁リングで挟まれた電極群を収納した。このとき、負極リードを下部絶縁リングと電池ケースの底部との間に介在させた。また、正極リードに、上部絶縁リングの中心の貫通孔を通過させた。次に、電極群の中心の中空部と下部絶縁リングの中心の貫通孔に電極棒を通して、負極リードの一端部を電池ケースの内底面に溶接した。また、上部絶縁リングの貫通孔から引き出された正極リードの一端部を、周縁部にガスケットを具備する封口板の内面に溶接した。その後、電池ケースの開口付近に溝入れを行い、電池ケースに非水電解質を注液し、電極群に含浸させた。次に、封口板で電池ケースの開口を塞ぎ、電池ケースの開口端部を、ガスケットを介して封口板の周縁部に加締め、円筒型の非水電解質二次電池(エネルギー密度600Wh/L)を完成させた。
【0112】
(6)強制内部短絡試験の実施
上記で得られた非水電解質二次電池を使用し、JIS C8714:2007に準拠して電池の強制内部短絡試験を行った。ニッケル小片としては、標準サイズ(高さ0.2mm,幅0.1mm,一辺1mmのL字形,角度90°)のものと、標準サイズより大きいサイズ(高さ0.5,幅0.2mm,一辺3mmのL字形,角度90°)のものとを用意した。それらニッケル小片を、当該ニッケル小片が電池用粘着シートを貫通するように、電池用粘着シートとセパレータとの間に配置した。具体的には、平面視において、正極集電体の幅方向の中央部、かつ正極活物質層の端部より5mmの位置にある電池用粘着シート上にニッケル小片を配置した。そして強制内部短絡試験を行い、電池側面の上昇温度(℃)を熱電対で測定した。結果を表1に示す。
【0113】
〔試験例5〕(耐電解液性の評価)
実施例および比較例で得られた電池用粘着シートを幅11mm、長さ30mmに裁断した後、剥離シートを剥離した。次いで、露出した粘着剤層を、23℃、50%RHの環境下で、被着体としてのアルミニウム板に2kgゴムローラーを用いて貼付し、これを試験片とした。この試験片を、電解液としての、炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルを1:1の体積比で混合した混合液にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させた調製液とともにアルミラミネート袋に封入し、80℃の環境下で3日間加熱した。その後、試験片を取り出して、電池用粘着シートをアルミニウム板からピンセットで剥離し、そのときの剥がれ易さを確認した。そして、以下の判断基準に基づいて耐電解液性を評価した。結果を表1に示す。
3…粘着剤層と被着体との界面で剥離した。
2…粘着剤層が膨潤し、凝集破壊または転着した。
1…アルミラミネート袋中で剥離した。
【0114】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[微粒子]
硫酸バリウム1:硫酸バリウム微粒子(堺化学工業社製,製品名「B-55」,平均粒径:0.6μm)
硫酸バリウム2:硫酸バリウム微粒子(堺化学工業社製,製品名「BB-02」,平均粒径:0.3μm)
チタニア1:チタニア微粒子(堺化学工業社製,製品名「R-310」,平均粒径:0.2μm)
水酸化アルミニウム:水酸化アルミニウム微粒子(日本軽金属社製,製品名「BF013」,平均粒径:1.2μm)
アルミナ:アルミナ微粒子(デンカ社製,製品名「ASFP-20」,平均粒径:0.26μm)
炭酸マグネシウム:炭酸マグネシウム微粒子(神島化学工業社製,製品名「MSS」,平均粒径:1.2μm)
チタニア2:チタニア微粒子(堺化学工業社製,製品名「STR-100N」,平均粒径:0.015μm)
チタニア3:チタニア微粒子(石原産業社製,製品名「R630」,平均粒径:0.24μm)
マグネシア:マグネシア微粒子(神島化学工業社製,製品名「PSF-150」,平均粒径:0.60μm)
【0115】
【0116】
表1から明らかなように、実施例の電池用粘着シートは、高温環境下に置かれた場合であってもガスが発生し難かった。また、一部の実施例の電池用粘着シートは、強制内部短絡試験による温度上昇を小さく抑えることができ、高い絶縁性を有するものであった。さらに、実施例の電池用粘着シートは、良好な耐電解液性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る粘着性組成物および電池用粘着シートは、リチウムイオン電池の内部にて使用するのに好適であり、特に、電極取り出しタブを電極に貼り付けるのに好適である。
【符号の説明】
【0118】
1…電池用粘着シート
11…基材
12…粘着剤層
121…無機微粒子
13…剥離シート
2…リチウムイオン電池
21…外装体
22…正極端子
23…負極端子
24…電極体
241…正極集電体
241a…正極活物質層
242…負極集電体
242a…負極活物質層
243…セパレータ
244…電極取り出しタブ