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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】架構
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/00 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
F02F1/00 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020002907
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021110298
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯間 智史
(72)【発明者】
【氏名】浅田 直彦
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-003479(JP,A)
【文献】特表平08-503283(JP,A)
【文献】特許第5511302(JP,B2)
【文献】特許第4490902(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00-1/42
7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶用ディーゼルエンジンの高さ方向の下側に位置する台板と上側に位置するシリンダとの間に設けられる架構において、
前記シリンダを支持するシリンダジャケットに接続される天板と前記台板に接続される底板との間に延在し、前記シリンダ内のピストンの往復動に連動して往復動するクロスヘッドを前記ピストンの往復動と同じ方向へ摺動自在に案内する摺動板と、
前記クロスヘッドが摺動する一対の前記摺動板を連結するように設けられ、前記クロスヘッドが往復動する空間を仕切る仕切り板と、
前記摺動板に対して前記仕切り板とは反対側に延在するように設けられる隔壁と、
を備え、
前記隔壁には、前記摺動板に向かって凸の弧形状部を含み、前記仕切り板の下端部よりも前記高さ方向の下側の位置に重心を有する貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする架構。
【請求項2】
前記貫通孔の前記摺動板側の端部は、前記摺動板から前記弧形状部の曲率半径以上離間している、
ことを特徴とする請求項1に記載の架構。
【請求項3】
前記貫通孔の前記底板側の端部は、前記底板から前記弧形状部の曲率半径以上離間している、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の架構。
【請求項4】
前記貫通孔の前記摺動板側の端部は、前記隔壁のうち前記貫通孔が形成されている孔形成部における幅方向の中心位置よりも前記摺動板に近
前記幅方向は、前記隔壁の高さ方向および厚さ方向に対して垂直な方向である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド式内燃機関に設けられる架構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジン等のクロスヘッド式内燃機関の分野では、シリンダ内のピストンの往復動をクランクシャフトのクランクに伝えるためのクロスヘッドおよびロッド等の部品を動作可能に収容する架構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。一般に、舶用ディーゼルエンジンにおいて、架構は、クランクケースを構成する台板の上部に設けられている。また、この架構の上部には、複数のシリンダを支持するシリンダジャケットが設けられている。
【0003】
このような架構は、クロスヘッド等の部品の収容空間を区画する複数の壁ユニットと、上記複数の壁ユニットの上端部に配置されてシリンダジャケットと接続される天板と、上記複数の壁ユニットの下端部に配置されて台板と接続される底板と、上記複数の壁ユニットの側部に連結される側板とを備えている。また、上記複数の壁ユニットの各々は、特許文献1に例示されるように、上記シリンダ内のピストンの往復動に連動するクロスヘッドを当該往復動と同じ方向へ摺動自在に案内する一対の摺動板と、当該一対の摺動板同士の間に配置される中央板と、当該一対の摺動板と架構の側板との間に配置される中間板とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5511302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した架構は、舶用ディーゼルエンジンの高さ方向(上下方向)に延在するタイボルトにより、下側の台板および上側のシリンダジャケットと一体に締結される。この結果、架構は、下側の台板と上側のシリンダジャケットとの間に挟まれた態様で、これらと強固に連結された状態となっている。しかしながら、このように架構が台板およびシリンダジャケットと連結された場合、上記タイボルトによる締結力が、架構を上下方向の両側(台板側およびシリンダジャケット側)から押圧する押圧力として作用し、当該押圧力によって架構が変形する恐れがある。特に、注目すべき架構の変形としては、クロスヘッドの往復動を摺動自在に案内する一対の摺動板が、当該押圧力を上下方向の両側から受けて、互いに離間する方向に変形(例えば八の字状に湾曲変形)することが例示される。このように架構の摺動板が変形してしまうと、舶用ディーゼルエンジンにおいて、以下に示すような問題が生じる恐れがある。
【0006】
例えば、舶用ディーゼルエンジンの組立または部品交換の際、ピストンは、シリンダの内部に往復動自在に設けられる。この際、所定のクランク角度におけるピストンとシリンダ内壁(シリンダライナ)との隙間が計測され、この隙間の計測値に基づいて、ピストンの中心軸とシリンダの中心軸とが合うようにシリンダ内部におけるピストンの位置が調整される。このようなピストンの位置調整には、ロッド等を介してピストンと連結されるクロスヘッドの架構内部における配置状態、すなわち、一対の摺動板間の中心位置に対するクロスヘッドの相対位置が大きく影響する。具体的には、一対の摺動板が上述のように変形した場合、これら一対の摺動板とクロスヘッド(例えば下死点近傍に位置するクロスヘッド)との隙間が過度に広がってしまい、この結果、一対の摺動板に対するクロスヘッドの相対的な位置ずれが増大する。これに伴い、シリンダの中心軸に対するピストンの相対的な位置ずれが起こり易くなることから、上記シリンダ内部におけるピストンの位置調整に掛かる作業時間が大幅に増加してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、クロスヘッドの往復動を摺動自在に案内する一対の摺動板の変形を抑制して、シリンダ内部におけるピストンの位置調整に掛かる作業時間の短縮に寄与することができる架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る架構は、舶用ディーゼルエンジンの高さ方向の下側に位置する台板と上側に位置するシリンダとの間に設けられる架構において、前記シリンダを支持するシリンダジャケットに接続される天板と前記台板に接続される底板との間に延在し、前記シリンダ内のピストンの往復動に連動して往復動するクロスヘッドを前記ピストンの往復動と同じ方向へ摺動自在に案内する摺動板と、前記クロスヘッドが摺動する一対の前記摺動板を連結するように設けられ、前記クロスヘッドが往復動する空間を仕切る仕切り板と、前記摺動板に対して前記仕切り板とは反対側に延在するように設けられる隔壁と、を備え、前記隔壁には、前記摺動板に向かって凸の弧形状部を含み、前記仕切り板の下端部よりも前記高さ方向の下側の位置に重心を有する貫通孔が形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る架構は、上記の発明において、前記貫通孔の前記摺動板側の端部は、前記摺動板から前記弧形状部の曲率半径以上離間している、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る架構は、上記の発明において、前記貫通孔の前記底板側の端部は、前記底板から前記弧形状部の曲率半径以上離間している、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る架構は、上記の発明において、前記貫通孔の前記摺動板側の端部は、前記隔壁の高さ方向および厚さ方向に対して垂直な幅方向の中心位置よりも前記摺動板に近い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る架構によれば、クロスヘッドの往復動を摺動自在に案内する一対の摺動板の変形を抑制して、シリンダ内部におけるピストンの位置調整に掛かる作業時間の短縮に寄与することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係る架構が適用された舶用ディーゼルエンジンの一構成例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る架構の全体構成の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る架構の一構成例を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る架構において対象とする摺動板の変形を例示する模式図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る架構において対象とする摺動板の変形矯正を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る架構の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0015】
(クロスヘッド式内燃機関の構成)
まず、本発明の実施形態に係る架構が適用されたクロスヘッド式内燃機関の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る架構が適用された舶用ディーゼルエンジンの一構成例を示す模式図である。この舶用ディーゼルエンジン10は、クロスヘッド式内燃機関の一例であり、プロペラ軸を介して船舶の推進用プロペラ(いずれも図示せず)を回転駆動させる推進用の機関(主機関)である。例えば、舶用ディーゼルエンジン10は、ユニフロー掃排気式のクロスヘッド式ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンである。
【0016】
本実施形態において、図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン10は、高さ方向D1の下側に位置する台板1と、台板1上に設けられる架構5と、架構5上に設けられるシリンダジャケット11とを備える。これらの台板1と架構5とシリンダジャケット11とは、舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1(すなわち上下方向)に延在する複数のタイボルト25およびナット26等の連結部材により、一体に締結されて固定されている。また、舶用ディーゼルエンジン10は、シリンダジャケット11に設けられるシリンダ12と、シリンダ12内に設けられるピストン15と、ピストン15の往復動に連動して回転するクランクシャフト2とを備える。
【0017】
台板1は、舶用ディーゼルエンジン10のクランクケースを構成するものである。図1に示すように、台板1内には、クランク4を有するクランクシャフト2と軸受3とが設けられる。クランクシャフト2は、船舶の推進力を出力する出力軸の一例であり、軸受3によって回転自在に支持されている。このクランクシャフト2には、クランク4を介して連接棒6の下端部が回動自在に連結されている。
【0018】
架構5には、図1に示すように、連接棒6と、摺動板7と、クロスヘッド8とが設けられる。本実施形態において、架構5は、ピストン軸方向に沿って設けられる摺動板7が舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2に間隔を空けて一対をなすように配置されている。連接棒6は、その下端部がクランクシャフト2に連接された態様で、一対の摺動板7の間に配置されている。クロスヘッド8には、ピストン棒16の下端部に接続されるクロスヘッドピン9と、連接棒6の上端部に接続されるクロスヘッド軸受(図示せず)とが、クロスヘッドピン9の下半部においてそれぞれ回動自在に連結される。このクロスヘッド8は、図1に示すように一対の摺動板7の間に配置され、この一対の摺動板7に沿って往復動自在に支持されている。
【0019】
シリンダジャケット11は、図1に示すように、架構5の上部に設けられ、シリンダ12を支持する。本実施形態において、シリンダ12は、シリンダライナ13とシリンダカバー14とによって構成される筒状の構造体(気筒)であり、燃料を燃焼させるための燃焼室17を有する。シリンダライナ13は、例えば円筒形状の構造体であり、シリンダジャケット11内に配置される。シリンダライナ13の上部にはシリンダカバー14が固定され、これにより、シリンダライナ13内の空間部(燃焼室17等)が区画される。このシリンダライナ13の空間部内には、ピストン15がピストン軸方向(図1では高さ方向D1)に往復動自在に設けられる。このピストン15の下端部には、図1に示すように、ピストン棒16の上端部が連結されている。
【0020】
また、シリンダカバー14には、図1に示すように、排気弁18と動弁装置19とが設けられている。排気弁18は、シリンダ12内の燃焼室17に通じる排気管21の排気口(排気ポート)を開閉可能に閉止する弁である。動弁装置19は、排気弁18を開閉駆動させる装置である。燃焼室17は、このような排気弁18と、上述したシリンダライナ13、シリンダカバー14およびピストン15とによって囲まれた空間である。また、舶用ディーゼルエンジン10は、シリンダ12の近傍に、排気マニホールド20を備える。排気マニホールド20は、シリンダ12の燃焼室17から排気管21を通じて排ガスを受け入れ、受け入れた排ガスを一時貯留して、この排ガスの動圧を静圧に変える。
【0021】
また、舶用ディーゼルエンジン10は、空気等の燃焼用気体を過給する過給機22と、圧縮後の燃焼用気体を冷却する冷却器23と、冷却後の燃焼用気体(圧縮ガス)を一時貯留する掃気トランク24とを備える。過給機22は、排ガスの圧力を利用してタービンとともに圧縮機(いずれも図示せず)を回転させ、これにより、燃焼用気体を圧縮する。冷却器23は、過給機22によって圧縮された燃焼用気体を冷却する。掃気トランク24は、過給機22によって圧縮され且つ冷却器23によって冷却された燃焼用気体を一時貯留する。この燃焼用気体は、掃気トランク24から掃気ポート等(図示せず)を通じてシリンダライナ13の内部空間(例えばシリンダ12内の燃焼室17)に送給される。
【0022】
特に図示しないが、舶用ディーゼルエンジン10は、燃料噴射弁および燃料噴射ポンプを備える。舶用ディーゼルエンジン10において、燃料噴射ポンプは、配管等を通じて燃料噴射弁に燃料を圧送する。また、舶用ディーゼルエンジン10は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減する設備として、排ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)システムや選択式触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システムを備えていてもよい。
【0023】
上述したような構成を有する舶用ディーゼルエンジン10において、シリンダ12内の燃焼室17には、燃料噴射弁から燃料が供給され、且つ、掃気トランク24から掃気ポート等を通じて燃焼用気体が供給される。これにより、燃焼室17内においては、供給された燃料が燃焼用気体によって燃焼する。そして、燃焼室17での燃料の燃焼によって発生したエネルギーにより、ピストン15は、シリンダライナ13内をピストン軸方向に往復動する。このとき、動弁装置19によって排気弁18が作動してシリンダ12の排気ポートが開放されると、燃料の燃焼後にシリンダライナ13内に残留する残留ガスが排ガスとして排気管21に排出される。これとともに、シリンダライナ13の内部空間には、掃気トランク24から掃気ポート等を通じて新たに燃焼用気体が導入される。
【0024】
また、ピストン15が上述したようにピストン軸方向に往復動すると、ピストン15とともにピストン棒16がピストン軸方向に往復動する。これに連動して、クロスヘッド8は、摺動板7に沿ってピストン軸方向に往復動する。これにより、クロスヘッド8のクロスヘッドピン9は、クロスヘッド軸受を介して連接棒6に回転駆動力を加える。この回転駆動力により、連接棒6の下端部に接続されるクランク4がクランク運動し、この結果、クランクシャフト2が回転する。クランクシャフト2は、このようにピストン15の往復動を回転動に変換してプロペラ軸とともに船舶の推進用プロペラを回転させ、これにより、船舶の推進力を出力する。
【0025】
なお、本実施形態において、舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1は、上下方向であり、例えば、ピストン15の往復動の方向に対して平行である。舶用ディーゼルエンジン10の幅方向D2は、高さ方向D1および軸方向D3に対して垂直な方向である。舶用ディーゼルエンジン10の軸方向D3は、図1に示すクランクシャフト2の長手方向(すなわち出力軸方向)に対して平行である。すなわち、これらの高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、互いに垂直な方向である。なお、高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、舶用ディーゼルエンジン10については勿論、舶用ディーゼルエンジン10を構成する各構成部(例えば台板1、架構5およびシリンダ12等)についても同様である。また、単に「排ガス」といえば、舶用ディーゼルエンジン10のシリンダ12から排出された排ガスを意味する。
【0026】
(架構の構成)
つぎに、本発明の実施形態に係る架構の構成について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る架構の全体構成の一例を模式的に示す斜視図である。本実施形態に係る架構5は、図1に示した舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1の下側に位置する台板1と上側に位置するシリンダ12との間に設けられる構造体であり、図2に示すように、天板31と、底板32と、側板33と、壁ユニット34と、上述した摺動板7とを備える。
【0027】
天板31は、架構5における高さ方向D1の頂部を構成する板材である。図2に示すように、天板31には、タイボルト25(図1参照)を挿通する挿通孔31aが複数形成されている。天板31は、これら複数の挿通孔31aに挿通したタイボルト25等により、上部のシリンダジャケット11(図1参照)に接続される。なお、シリンダジャケット11は、上述したように、舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1の上側に位置するシリンダ12を支持する構造体である。
【0028】
底板32は、架構5における高さ方向D1の底部を構成する板材である。特に図示しないが、底板32には、上述した天板31と同様に、タイボルト25を挿通する挿通孔が複数形成されている。底板32は、これら複数の挿通孔に挿通したタイボルト25等により、下部(高さ方向D1の下側)の台板1(図1参照)に接続される。
【0029】
側板33は、架構5における幅方向D2の両側の外壁を構成する板材である。例えば図2に示すように、側板33は、矩形状をなす平面板である。側板33の上端部は天板31に接続され、側板33の下端部は底板32に接続される。また、側板33の内壁面は、壁ユニット34における幅方向D2の両側端部に接続される。これら側板33の各部と天板31、底板32および壁ユニット34とは、例えば、溶接等によって接合されている。
【0030】
壁ユニット34は、架構5の天板31と底板32との間の空間(すなわち架構5の内部空間)をクロスヘッド8毎に区画する壁を構成するユニットである。図2に示すように、壁ユニット34は、舶用ディーゼルエンジン10の軸方向D3に間隔を空けて(例えば等間隔で)並ぶように複数配置され、上述したように天板31と底板32と側板33とに接続される。また、これら複数の壁ユニット34は、互いに平行(例えば舶用ディーゼルエンジン10の高さ方向D1および幅方向D2に対して平行)となるように配置されている。これら複数の壁ユニット34は、図2に示すように、天板31と底板32と側板33とによって囲まれる架構5の内部空間を、クロスヘッド8毎の空間S1に区画する。この空間S1には、摺動板7に沿ってピストン15の往復動と同じ方向(図2では高さ方向D1)にクロスヘッド8が往復動する空間S2が含まれる。摺動板7は、壁ユニット34毎に、架構5の幅方向D2に間隔を空けて一対をなすように設けられている。
【0031】
このように壁ユニット34によって区画される架構5の空間S1の数は、架構5を備える舶用ディーゼルエンジン10のシリンダ12の数と一致する。また、このような空間S1を区画するために必要な壁ユニット34の数は、シリンダ12の数に「1」を加算した数と一致する。例えば、図2に示すように、シリンダ12と同数である6つの空間S1は、7つの壁ユニット34によって区画されている。
【0032】
つぎに、架構5を構成する単位ユニット(図2中の破線によって示されるユニット)を例示して、本実施形態に係る架構5の構成をより詳細に説明する。図3は、本発明の実施形態に係る架構の一構成例を示す模式図である。図3には、この架構5を構成する単位ユニットを軸方向D3から見た図が示されている。図3に示すように、架構5は、上述した天板31、底板32、側板33、壁ユニット34および摺動板7を備える。この架構5において、壁ユニット34は、仕切り板35と、隔壁36、37とを備える。隔壁36、37には、高さ方向D1からの荷重による摺動板7の変形を矯正するための矯正孔40a、40bが設けられている。
【0033】
摺動板7は、架構5の内部空間において往復動するクロスヘッド8を摺動自在に案内する板状構造体である。図3に示すように、摺動板7は、上述した天板31と底板32との間に延在(図3では高さ方向D1に延在)し、クロスヘッド8が摺動する摺動面同士が架構5の幅方向D2に対向するように対をなして設けられている。具体的には、摺動板7の上端部は天板31に接続され、摺動板7の下端部は底板32に接続される。また、一対の摺動板7における幅方向D2の両端面のうち、摺動面側の各端面には仕切り板35が接続され、摺動面とは反対側の各端面には隔壁36、37が各々接続される。これら摺動板7の各部と天板31、底板32、仕切り板35および隔壁36、37とは、例えば、溶接等によって接合されている。上記のように対をなす摺動板7は、シリンダ12内のピストン15の往復動に連動して往復動するクロスヘッド8を、ピストン15の往復動と同じ方向(図3では高さ方向D1)へ摺動自在に案内する。
【0034】
仕切り板35は、クロスヘッド8が往復動する空間(例えば図2に示す空間S2)を仕切る板状構造体である。図3に示すように、仕切り板35は、クロスヘッド8の往復動方向に延在し、クロスヘッド8が摺動する一対の摺動板7を連結するように設けられている。具体的には、仕切り板35の上端部は天板31に接続され、仕切り板35における幅方向D2の両端部は一対の摺動板7の各摺動面に接続される。これら仕切り板35の各部と天板31および摺動板7とは、例えば、溶接等によって接合されている。本実施形態において、仕切り板35は、壁ユニット34の中央板を構成する。また、図3に示すように、仕切り板35は、下端部に切欠部35aを有する。切欠部35aは、仕切り板35における幅方向D2の両端部から中央部に向かって仕切り板35側へ凹む湾曲形状をなすように形成されている。仕切り板35は、切欠部35aが高さ方向D1の上側に凸となるように設けられている。
【0035】
本実施形態において、仕切り板35は、クロスヘッド8が往復動する空間を仕切るように構成されている。すなわち、仕切り板35は、図3に示すように、天板31からクロスヘッド8の下死点の位置に亘って、一対の摺動板7の間に介在している。具体的には、仕切り板35は、高さ方向D1における切欠部35aの下端部(切欠下端部35b)の位置と底板32の位置との間に所定の間隔が空くように設けられている。例えば、仕切り板35において、切欠部35aの頂部35cの位置は、下死点に位置するクロスヘッド8の高さ方向D1の中心位置と一致する。なお、図3に二点鎖線で示されるクロスヘッド8は、下死点に位置した状態にある。
【0036】
隔壁36、37は、架構5の内部空間を仕切り板35と協同してクロスヘッド8毎の空間(図2に示す空間S1)に区画する板状構造体である。図3に示すように、隔壁36、37は、各々、上辺の寸法が下辺の寸法よりも短く且つ上辺および下辺に垂直な一辺を有する台形状をなす平面板によって構成され、摺動板7に対して仕切り板35とは反対側に延在するように設けられる。具体的には、隔壁36、37の各上端部は天板31に接続され、隔壁36、37の各下端部は底板32に接続される。また、隔壁36、37における幅方向D2の両端部のうち、台形状の上辺および下辺に垂直な一辺をなす各端部は摺動板7に接続され、当該垂直な一辺とは反対側の各端部は側板33に各々接続される。これら隔壁36、37の各部と天板31、底板32、側板33および摺動板7とは、例えば、溶接等によって接合されている。本実施形態において、隔壁36、37は、壁ユニット34の中間板、すなわち、側板33と摺動板7との間に介在する壁板を構成する。
【0037】
また、本実施形態に係る架構5において、隔壁36、37には、図3に示すように、矯正孔40a、40bが形成されている。矯正孔40a、40bは、架構5の高さ方向D1の両側から摺動板7に加わる荷重によって発生する摺動板7の変形を矯正するための貫通孔の一例である。例えば図3に示すように、一方の隔壁36には、一対の摺動板7のち、隔壁36側(図3では左側)の摺動板7の対象部分7aに対応して、矯正孔40aが形成されている。また、他方の隔壁37には、一対の摺動板7のち、隔壁37側(図3では右側)の摺動板7の対象部分7bに対応して、矯正孔40bが形成されている。上記対象部分7a、7bは、各々、摺動板7において変形の矯正対象となる部位であり、具体的には、仕切り板35が接続されておらず、架構5の高さ方向D1の両側から摺動板7に加わる荷重によって比較的変形し易い摺動板部分である。
【0038】
詳細には、図3に示すように、矯正孔40aは、弧形状部41a、42aと直線形状部43a、44aとを含むオーバル形状(長孔形状ともいう)の貫通孔である。この矯正孔40aにおいて、一方の弧形状部41aは、摺動板7の対象部分7aに向かって凸の弧形状部の一例である。この弧形状部41aは、曲率半径rの弧形状(例えば円弧形状)に形成される。他方の弧形状部42aは、摺動板7の対象部分7aと対向する弧形状部41aとは反対側に凸となるように形成され、上記弧形状部41aと同じ形状および曲率半径(=r)を有する。直線形状部43a、44aは、これらの弧形状部41a、42a同士を繋げる直線形状の部分である。一方の直線形状部43aは、高さ方向D1の下側(底板32側)の部分であり、他方の直線形状部44aは、高さ方向D1の上側(天板31側)の部分である。
【0039】
また、矯正孔40aは、図3に示すように、重心G1を有する。本発明において、矯正孔40aの重心G1は、矯正孔40aと同形状(本実施形態ではオーバル形状)に形成された板状構造体の重心に対応する矯正孔40a内の位置として定義される。すなわち、矯正孔40aの重心G1は、この矯正孔40aに嵌め込まれた上記板状構造体の重心と同じ位置である。このような矯正孔40aの重心G1は、図3に示すように、仕切り板35の下端部よりも高さ方向D1の下側に位置する。この仕切り板35の下端部としては、例えば、仕切り板35の切欠部35aの下端部である切欠下端部35bが挙げられる。
【0040】
また、矯正孔40aは、摺動板7の対象部分7aの変形をより効率よく矯正(抑制)するという観点から、この対象部分7aの近傍に形成されることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40aの摺動板7側の端部は、この矯正孔40aが形成されている隔壁36の幅方向D2の中心位置P1よりも摺動板7に近いことが好ましい。本実施形態において、隔壁36の幅方向D2は、この隔壁36の高さ方向D1および厚さ方向に対して垂直な方向である。隔壁36の厚さ方向は、上述した軸方向D3と同じ方向である。上記中心位置P1は、隔壁36のうち矯正孔40aが形成されている孔形成部36aにおける幅方向D2の中心位置である。また、矯正孔40aの摺動板7側の端部は、弧形状部41aの頂点である。
【0041】
また、矯正孔40aは、摺動板7の対象部分7aの変形を矯正する際に当該対象部分7aと隔壁36との接続部位に生じる応力集中を緩和するという観点から、この対象部分7aから所定の距離以上離間していることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40aの摺動板7側の端部は、この摺動板7から弧形状部41aの曲率半径r以上離間していることが好ましい。すなわち、矯正孔40aの弧形状部41aの頂点と摺動板7の対象部分7aとの距離L1は、この弧形状部41aの曲率半径r以上であることが好ましい。
【0042】
また、矯正孔40aは、摺動板7の対象部分7aの変形を矯正する際に底板32と隔壁36との接続部位に生じる応力集中を緩和するという観点から、底板32から所定の距離以上離間していることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40aの底板32側の端部は、この底板32から弧形状部41aの曲率半径r以上離間していることが好ましい。すなわち、矯正孔40aの底板32側の端部である直線形状部43aと底板32との距離L2は、この弧形状部41aの曲率半径r以上であることが好ましい。
【0043】
一方、図3に示すように、矯正孔40bは、弧形状部41b、42bと直線形状部43b、44bとを含むオーバル形状の貫通孔である。この矯正孔40bにおいて、一方の弧形状部41bは、摺動板7の対象部分7bに向かって凸の弧形状部の一例である。この弧形状部41bは、曲率半径rの弧形状(例えば円弧形状)に形成される。他方の弧形状部42bは、摺動板7の対象部分7bと対向する弧形状部41bとは反対側に凸となるように形成され、上記弧形状部41bと同じ形状および曲率半径(=r)を有する。直線形状部43b、44bは、これらの弧形状部41b、42b同士を繋げる直線形状の部分である。一方の直線形状部43bは、高さ方向D1の下側(底板32側)の部分であり、他方の直線形状部44bは、高さ方向D1の上側(天板31側)の部分である。
【0044】
また、矯正孔40bは、図3に示すように、重心G2を有する。この矯正孔40bの重心G2は、上述した矯正孔40aの重心G1と同様に定義される。矯正孔40bの重心G2は、図3に示すように、仕切り板35の下端部(詳細には切欠下端部35b)よりも高さ方向D1の下側に位置する。
【0045】
また、矯正孔40bは、摺動板7の対象部分7bの変形をより効率よく矯正(抑制)するという観点から、この対象部分7bの近傍に形成されることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40bの摺動板7側の端部は、この矯正孔40bが形成されている隔壁37の幅方向D2の中心位置P2よりも摺動板7に近いことが好ましい。本実施形態において、隔壁37の幅方向D2は、この隔壁37の高さ方向D1および厚さ方向に対して垂直な方向である。隔壁37の厚さ方向は、上述した軸方向D3と同じ方向である。上記中心位置P2は、隔壁37のうち矯正孔40bが形成されている孔形成部37aにおける幅方向D2の中心位置である。また、矯正孔40bの摺動板7側の端部は、弧形状部41bの頂点である。
【0046】
また、矯正孔40bは、摺動板7の対象部分7bの変形を矯正する際に当該対象部分7bと隔壁37との接続部位に生じる応力集中を緩和するという観点から、この対象部分7bから所定の距離以上離間していることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40bの摺動板7側の端部は、この摺動板7から弧形状部41bの曲率半径r以上離間していることが好ましい。すなわち、矯正孔40bの弧形状部41bの頂点と摺動板7の対象部分7bとの距離L3は、この弧形状部41bの曲率半径r以上であることが好ましい。
【0047】
また、矯正孔40bは、摺動板7の対象部分7bの変形を矯正する際に底板32と隔壁37との接続部位に生じる応力集中を緩和するという観点から、底板32から所定の距離以上離間していることが好ましい。例えば、図3に示すように、矯正孔40bの底板32側の端部は、この底板32から弧形状部41bの曲率半径r以上離間していることが好ましい。すなわち、矯正孔40bの底板32側の端部である直線形状部43bと底板32との距離L4は、この弧形状部41bの曲率半径r以上であることが好ましい。
【0048】
一方、上述した矯正孔40a、40bは、加工し易さという観点から、図3に例示するようなオーバル形状または円形状の貫通孔であることが好ましい。矯正孔40a、40bの形状がオーバル形状または円形状であれば、例えば、ドリルを用いた穿孔加工等によって隔壁36、37に矯正孔40a、40bを容易に形成することができる。また、これらの矯正孔40a、40bは、仕切り板35の幅方向D2の中心軸について線対称となるように形成されることが好ましい。
【0049】
(摺動板の変形)
つぎに、上述した摺動板7の変形について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る架構において対象とする摺動板の変形を例示する模式図である。本実施形態に係る架構5は、上述したように、タイボルト25等の締結部材により、下部の台板1および上部のシリンダジャケット11と一体に締結されて固定されている(図1参照)。この結果、架構5は、高さ方向D1の下側から台板1との締結による荷重を受けるとともに、高さ方向D1の上側からシリンダジャケット11との締結による荷重を受ける。架構5における一対の摺動板7は、上記のように高さ方向D1の上下両側から架構5が受ける荷重により、互いに離間する方向に変形する恐れがある。
【0050】
例えば、図4に示すように、架構5には、高さ方向D1の下側から、架構5と台板1(図1参照)との締結による荷重F1が加わる。これと同時に、架構5には、高さ方向D1の上側から、架構5とシリンダジャケット11(図1参照)との締結による荷重F2が加わる。これらの荷重F1、F2は、一対の摺動板7に対し、高さ方向D1の上下両側から押圧するように、当該一対の摺動板7に加わる。これにより、一対の摺動板7のうち、仕切り板35が接続されていないことから比較的剛性が弱い対象部分7a、7bが、図4に示すように、互いに離間する方向に変形(具体的には八の字状に湾曲変形)する。
【0051】
仮に、図4に示すように、架構5の隔壁36、37に上述した矯正孔40a、40b(図3参照)が形成されていない場合、隔壁36、37には、上記のように変形した状態の摺動板7の対象部分7a、7bを元の直線状の形状(高さ方向D1に延在する形状)に矯正しようとする力が発生しない。この場合、一対の摺動板7の対象部分7a、7bは、図4の実線によって示されるように、八の字状に湾曲変形した状態のままになってしまう。
【0052】
(摺動板の変形矯正)
つぎに、上述した隔壁36、37に形成されている矯正孔40a、40bによる摺動板7の変形矯正について説明する。図5は、本発明の実施形態に係る架構において対象とする摺動板の変形矯正を例示する模式図である。仮に架構5の隔壁36、37に矯正孔40a、40bが形成されていない場合、図4を参照しつつ説明したように、高さ方向D1の上下両側から架構5が受ける荷重F1、F2により、一対の摺動板7における対象部分7a、7bが、互いに離間する方向に変形した状態のままとなってしまう。これに対し、本実施形態における矯正孔40a、40bが隔壁36、37に形成されている架構5では、一対の摺動板7における対象部分7a、7bを変形前の元の状態に戻すべく、当該対象部分7a、7bを矯正することができる。
【0053】
詳細には、図5に示すように、架構5には、下部の台板1(図1参照)との締結による荷重F1と、上部のシリンダジャケット11(図1参照)との締結による荷重F2とが、高さ方向D1の上下両側から加わる。これらの荷重F1、F2により、架構5における一対の摺動板7は、高さ方向D1の上下両側から押圧される。この結果、一対の摺動板7の対象部分7a、7bは、図5中の破線によって例示されるように、互いに離間する方向に変形しようとする。
【0054】
上記一対の摺動板7における対象部分7a、7bの変形挙動と同時に、隔壁36、37は、上述した荷重F1、F2により、高さ方向D1の上下両側から押圧される。このように押圧された状態の隔壁36、37は、図5に示すように、矯正孔40a、40bを高さ方向D1に押し潰すように変形する。この際、一方の矯正孔40aは、下側の直線形状部43aと上側の直線形状部44aとを近づけるとともに、弧形状部41a、42aを幅方向D2に広げて曲率半径r(図3参照)が小さくなるように変形する。特に、矯正孔40aのうち摺動板7の対象部分7aと対向する弧形状部41aは、この対象部分7aに近づくように変形する。このような矯正孔40aの変形に伴い、隔壁36には、矯正孔40aの弧形状部41aと摺動板7の対象部分7aとの間の隔壁部分を当該対象部分7aに押し付ける力が発生する。隔壁36は、この発生した力(以下、矯正力と適宜いう)により、摺動板7の対象部分7aを変形前の元の状態とするように当該対象部分7aの変形を矯正する。
【0055】
上記一方の矯正孔40aの変形に並行して、他方の矯正孔40bは、下側の直線形状部43bと上側の直線形状部44bとを近づけるとともに、弧形状部41b、42bを幅方向D2に広げて曲率半径r(図3参照)が小さくなるように変形する。特に、矯正孔40bのうち摺動板7の対象部分7bと対向する弧形状部41bは、この対象部分7bに近づくように変形する。このような矯正孔40bの変形に伴い、隔壁37には、矯正孔40bの弧形状部41bと摺動板7の対象部分7bとの間の隔壁部分を当該対象部分7bに押し付ける力(矯正力)が発生する。隔壁37は、この発生した矯正力により、摺動板7の対象部分7bを変形前の元の状態とするように当該対象部分7bの変形を矯正する。
【0056】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る架構5では、天板31と底板32との間の空間内で往復動するクロスヘッド8をピストン軸方向へ摺動自在に案内する一対の摺動板7に対して、一対の摺動板7同士の間の仕切り板35とは反対側に延在するように隔壁36、37が設けられ、これらの隔壁36、37には矯正孔40a、40bが各々形成され、矯正孔40a、40bの各々は、摺動板7に向かって凸の弧形状部を含み、仕切り板35の下端部よりも高さ方向D1の下側の位置に重心を有するように構成している。
【0057】
上記の構成により、隔壁36、37には、架構5が高さ方向D1の上下両側から押圧された際に、矯正孔40a、40bを高さ方向D1に押し潰すように変形して、一対の摺動板7の対象部分7a、7bを互いに近づける方向に押す力(矯正力)を発生させることができる。このため、タイボルト25等の締結部材によって下部の台板1および上部のシリンダジャケット11と架構5とが一体に締結固定された際、高さ方向D1の上下両側(天板31側および底板32側)から架構5が受ける荷重F1、F2に起因して、一対の摺動板7に生じる、対象部分7a、7bが互いに離間する方向の変形(八の字状の湾曲変形)を、上記隔壁36、37に発生させた矯正力によって矯正することができる。例えば、矯正孔が形成されていない従来の架構に発生する摺動板の変形量を100とした場合、当該変形量を上記矯正力によって30以下に低減することができる。この結果、一対の摺動板7の上記変形を抑制するできることから、一対の摺動板7の各摺動面とクロスヘッド8との隙間が過度に広がる事態を防止して、一対の摺動板7に対するクロスヘッド8の相対的な位置ずれを抑制することができ、これにより、シリンダ12内部におけるピストン15の位置調整に掛かる手間を低減し且つ作業時間を短縮することができる。
【0058】
また、一対の摺動板7に対するクロスヘッド8の相対的な位置ずれを抑制することにより、一対の摺動板7の各摺動面に対するクロスヘッド8の傾いた状態または片寄った状態での摺動を防止することができ、延いては、クロスヘッド8と連動するピストン15のシリンダ12に対する傾いた状態または片寄った状態での摺動を防止することができる。この結果、舶用ディーゼルエンジン10の運転中等において、一対の摺動板7およびクロスヘッド8の損傷を防止するとともに、シリンダ12およびピストンの損傷を防止することができる。
【0059】
また、本発明の実施形態に係る架構5では、矯正孔40a、40bの摺動板7側の各端部を、矯正孔40a、40bの弧形状部41a、41bの曲率半径r以上、摺動板7から離間させている。このため、上述した摺動板7の変形矯正の際に摺動板7と隔壁36、37との間に生じる応力の集中を緩和することができる。これにより、摺動板7と隔壁36、37との各接続部位の応力集中による損傷を防止することができる。
【0060】
また、本発明の実施形態に係る架構5では、矯正孔40a、40bの底板32側の各端部を、矯正孔40a、40bの弧形状部41a、41bの曲率半径r以上、底板32から離間させている。このため、上述した摺動板7の変形矯正の際に底板32と隔壁36、37との間に生じる応力の集中を緩和することができる。これにより、底板32と隔壁36、37との各接続部位の応力集中による損傷を防止することができる。
【0061】
また、本発明の実施形態に係る架構5では、矯正孔40aの摺動板7側の端部を、隔壁36における幅方向D2の中心位置P1よりも摺動板7に近くなるように構成し、矯正孔40bの摺動板7側の端部を、隔壁37における幅方向D2の中心位置P2よりも摺動板7に近くなるように構成している。このため、一対の摺動板7の各対象部分7a、7bの変形を、矯正孔40a、40bの変形に伴って隔壁36、37に発生する矯正力によって効率よく矯正することができる。
【0062】
なお、上述した実施形態では、オーバル形状の矯正孔40a、40bが隔壁36、37に形成された場合を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、矯正孔40a、40bの各形状は、摺動板7の対象部分7a、7bに向かって凸の弧形状部を含むものであれば、オーバル形状に限らず、円形状、楕円形状、半円弧形状、弧形状と矩形状とを組み合わせた形状等、様々な形状であってもよい。また、矯正孔40a、40bの各形状は互いに同じでなくてもよいし、矯正孔40a、40bの各面積は互いに同じでなくてもよいし、矯正孔40a、40bは仕切り板35について線対称でなくてもよい。また、矯正孔40a、40bの摺動板7側の各弧形状部41a、41bは、互いに同じ曲率半径を有するものであってもよいし、互いに異なる曲率半径を有するものであってもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では、隔壁36、37に矯正孔40a、40bを各々1つずつ形成していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、隔壁36、37の各々に形成する矯正孔40a、40bの数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、架構5に含まれる複数の壁ユニット34のうち、軸方向D3の両端部に位置する壁ユニット34の隔壁36、37には上述の矯正孔40a,40bが形成されていないが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、軸方向D3の両端部に位置する壁ユニット34の隔壁36、37にも、上述の矯正孔40a,40bが形成されていてもよい。
【0065】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 台板
2 クランクシャフト
3 軸受
4 クランク
5 架構
6 連接棒
7 摺動板
7a、7b 対象部分
8 クロスヘッド
9 クロスヘッドピン
10 舶用ディーゼルエンジン
11 シリンダジャケット
12 シリンダ
13 シリンダライナ
14 シリンダカバー
15 ピストン
16 ピストン棒
17 燃焼室
18 排気弁
19 動弁装置
20 排気マニホールド
21 排気管
22 過給機
23 冷却器
24 掃気トランク
25 タイボルト
26 ナット
31 天板
31a 挿通孔
32 底板
33 側板
34 壁ユニット
35 仕切り板
35a 切欠部
35b 切欠下端部
35c 頂部
36、37 隔壁
36a、37a 孔形成部
40a、40b 矯正孔
41a、41b、42a、42b 弧形状部
43a、43b、44a、44b 直線形状部
D1 高さ方向
D2 幅方向
D3 軸方向
G1、G2 重心
P1、P2 中心位置
S1、S2 空間
図1
図2
図3
図4
図5