(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法、並びにモルタル
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20231215BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20231215BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20231215BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20231215BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20231215BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20231215BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20231215BHJP
C04B 22/04 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/08 Z
C04B22/06 Z
C04B24/02
C04B24/38 D
C04B24/26 E
C04B24/22 C
C04B22/04
C04B24/26 F
(21)【出願番号】P 2020025502
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 昌範
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩平
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-236258(JP,A)
【文献】特開2015-117166(JP,A)
【文献】特開2017-178754(JP,A)
【文献】特開2013-001602(JP,A)
【文献】特開2011-121795(JP,A)
【文献】特開2004-345898(JP,A)
【文献】特開2016-056081(JP,A)
【文献】特開2010-083710(JP,A)
【文献】特開2016-124744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、増粘剤及び細骨材を含
むセメント組成物と、水とを含むモルタルであって、
前記増粘剤が、20℃における2質量%水溶液の粘度で100~5000mPa・sであり、
セメント100質量部に対して、前記収縮低減剤の含有量が1~10質量部、
前記ポゾラン物質の含有量が3~38質量部
、前記膨張材の含有量が2~8質量部、前記増粘剤の含有量が固形分換算で0.01~0.3質量部、前記細骨材の含有量が150~280質量部であり、
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対して35~60質量部であり、
練り上がりから90分後において、JIS R5201-1997「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値が200mm以上である、モルタル。
【請求項2】
セメント組成物が、更に、再乳化型粉末樹脂を含む、請求項1に記載の
モルタル。
【請求項3】
セメント組成物が、更に、減水剤を含む、請求項1又は2に記載の
モルタル。
【請求項4】
セメント組成物が、更に、発泡剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の
モルタル。
【請求項5】
セメント組成物において、前記細骨材の粗粒率が、2.0~3.6である、請求項1~4のいずれか一項に記載の
モルタル。
【請求項6】
セメント組成物において、前記収縮低減剤が、液体収縮低減剤、又は、粉末収縮低減剤及び液体収縮低減剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の
モルタル。
【請求項7】
セメント組成物において、前記液体収縮低減剤以外の原材料を混合したプレミックス材の表面が前記液体収縮低減剤で被覆されてなる、請求項6に記載の
モルタル。
【請求項8】
セメント、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、増粘剤及び細骨材を含む、セメント組成物の製造方法において、
前記収縮低減剤が、液体収縮低減剤、又は、粉末収縮低減剤及び液体収縮低減剤であり、
前記増粘剤が、20℃における2質量%水溶液の粘度で100~5000mPa・sであり、
セメント100質量部に対して、前記収縮低減剤の含有量が1~10質量部、前記ポゾラン物質の含有量が3~38質量部、前記膨張材の含有量が2~8質量部、前記増粘剤の含有量が固形分換算で0.01~0.3質量部、前記細骨材の含有量が150~280質量部であり、
前記液体収縮低減剤以外の粉体成分を混合したプレミックス材全体に、液体収縮低減剤を噴霧する、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント組成物及びその製造方法、並びにモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物や建築構造物の構築又は補修、或いは機械の据え付け等において、流動性の高いセメント系グラウトモルタルが広く用いられている。近年では、土木構造物や建築構造物においては高耐久性が要求されており、使用されるグラウトモルタルは、高流動性の施工性に加え、乾燥収縮によるひび割れ抑制や強度発現性、遮塩性、中性化対策等の様々な性質が重要視されている。
【0003】
従来、このような材料としては、膨張材、再乳化型粉末樹脂、骨材、繊維物質、収縮低減剤、減水剤、消泡剤を含有し、流動性や、耐久性に優れ、コンクリートの断面修復補修用途に好適に使用できるポリマーセメント組成物(特許文献1参照)や、J14ロート流下時間で6~10秒の高流動性を有したポリマーセメントグラウト材(特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4493957号公報
【文献】特許第5335176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、グラウトモルタルとしては、流動性や可使時間が求められるとともに、硬化収縮量が小さく強度発現性に優れるものが求められており、さらに、ポンプ圧送に利用することから、材料分離に対する抵抗性も必要となる。しかしながら、このような性能を両立することは困難であった。
【0006】
したがって、本発明では、モルタルとして材料分離抵抗性を有し、流動性及び可使時間に優れ、且つ、硬化時の乾燥収縮が小さく、強度発現性にも優れるセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、特定の粘度を有する増粘剤を用い、収縮低減剤及びポゾラン物質の含有量を調整することで、モルタルとして材料分離抵抗性を有し、流動性及び可使時間に優れ、且つ、硬化時の乾燥収縮が小さく、強度発現性にも優れるセメント組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[9]である。
[1]セメント、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、増粘剤及び細骨材を含むセメント組成物と、水とを含むモルタルであって、
前記増粘剤が、20℃における2質量%水溶液の粘度で100~5000mPa・sであり、
セメント100質量部に対して、前記収縮低減剤の含有量が1~10質量部、前記ポゾラン物質の含有量が3~38質量部、前記膨張材の含有量が2~8質量部、前記増粘剤の含有量が固形分換算で0.01~0.3質量部、前記細骨材の含有量が150~280質量部であり、
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対して35~60質量部であり、
練り上がりから90分後において、JIS R5201-1997「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値が200mm以上である、モルタル。
[2]セメント組成物が、更に、再乳化型粉末樹脂を含む、[1]に記載のモルタル。
[3]セメント組成物が、更に、減水剤を含む、[1]又は[2]に記載のモルタル。
[4]セメント組成物が、更に、発泡剤を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のモルタル。
[5]セメント組成物において、前記細骨材の粗粒率が、2.0~3.6である、[1]~[4]のいずれかに記載のモルタル。
[6]セメント組成物において、前記収縮低減剤が、液体収縮低減剤、又は、粉末収縮低減剤及び液体収縮低減剤である、[1]~[5]のいずれかに記載のモルタル。
[7]セメント組成物において、前記液体収縮低減剤以外の原材料を混合したプレミックス材の表面が前記液体収縮低減剤で被覆されてなる、[6]に記載のモルタル。
[8]セメント、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、増粘剤及び細骨材を含む、セメント組成物の製造方法において、
前記収縮低減剤が、液体収縮低減剤、又は、粉末収縮低減剤及び液体収縮低減剤であり、
前記増粘剤が、20℃における2質量%水溶液の粘度で100~5000mPa・sであり、
セメント100質量部に対して、前記収縮低減剤の含有量が1~10質量部、前記ポゾラン物質の含有量が3~38質量部、前記膨張材の含有量が2~8質量部、前記増粘剤の含有量が固形分換算で0.01~0.3質量部、前記細骨材の含有量が150~280質量部であり、
前記液体収縮低減剤以外の粉体成分を混合したプレミックス材全体に、液体収縮低減剤を噴霧する、セメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モルタルとして材料分離抵抗性を有し、流動性及び可使時間に優れ、且つ、硬化時の乾燥収縮が小さく、強度発現性にも優れるセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のセメント組成物は、セメント、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、増粘剤及び細骨材を含む。
【0012】
セメントは種々のものを使用することができ、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを混合した各種混合セメント、石灰石粉末等の高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられる。セメントは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。セメントは、高流動性を付与させやすいという観点から、粉末度が比較的に小さいものが好ましく、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0013】
ポゾラン物質としては、JIS A 6201:2015に記載されている各種フライアッシュ、JIS A 6207:2016に記載されているシリカフューム、スラグ粉末、非晶質アルミノシリケート等が挙げられる。ポゾラン物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0014】
ポゾラン物質の含有量は、セメント100質量部に対して3~38質量部である。ポゾラン物質の含有量が上記範囲外であると、材料分離抵抗性、流動性及び可使時間が低下する。材料分離抵抗性や耐久性が更に向上するという観点から、ポゾラン物質の含有量は、セメント100質量部に対して4~35質量部であることが好ましく、6~30質量部であることがより好ましい。
【0015】
膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm2/gのものを使用することが好ましい。
【0016】
膨張材の含有量は、セメント100質量部に対して2~8質量部であることが好ましく、2.5~7質量部であることがより好ましく、3~6質量部であることが更に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、硬化体の緻密性が更に向上し、強度発現性及び耐久性に優れたものとなる傾向にある。
【0017】
収縮低減剤は、例えば、ポリオキシアルキレン化合物、ポリエーテル系化合物あるいはアルキレンオキシド化合物等を用いることができる。収縮低減剤として、具体的には、ポリオキシエチレン・アルキルアリルエーテル、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、低級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル、ポリオキシアルキレングリコール、エチレンオキシドメタノール付加物、エチレンオキシド・プロピレンオキシド重合体、フェニル・エチレンオキシド重合体、シクロアルキレン・エチレンオキシド重合体、ジメチルアミン・エチレンオキシド重合体等が挙げられる。収縮低減剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
収縮低減剤は、液体収縮低減剤及び粉末収縮低減剤のいずれでも用いることができ、併用することもできる。収縮低減剤は、粉塵を更に低減できるという観点から、液体収縮低減剤が好ましい。
【0018】
収縮低減剤の含有量は、セメント100質量部に対して1~10質量部である。収縮低減剤の含有量が上記範囲外であると、材料分離抵抗性が低下したり、乾燥収縮が発生したりする。乾燥収縮をより一層低減できるという観点から、収縮低減剤の含有量は、セメント100質量部に対して1.5~9.5質量部であることが好ましく、2~9質量部であることがより好ましい。なお、収縮低減剤が液体の場合、その含有量は有効成分量で換算するものとする。
【0019】
増粘剤は特に限定されるものではなく、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤等が挙げられる。増粘剤としては、中でもセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0020】
増粘剤は、20℃における2質量%水溶液の粘度が100~5000mPa・sであるものを使用する。増粘剤の粘度が上記範囲外であると、グラウトの混練性が低下し、流動性及び保持時間が確保できず、材料分離抵抗性も低下する。より良好な流動性、保持時間、材料分離抵抗性を確保するという観点から、増粘剤の粘度は、150~4500mPa・sであることが好ましく、200~3000mPa・sであることがより好ましく、200~2500mPa・sであることが更に好ましい。本明細書において、増粘剤の粘度は、2質量%となるように調製した増粘剤の水溶液を、20℃の環境下において単一円筒型回転式粘度計(B型)を用いて測定した値である。回転式粘度計は通常用いられているものを使用することができ、例えば、内筒回転型粘度計、外筒回転型粘度計を用いることができる。
【0021】
増粘剤の含有量は特に限定されないが、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~0.3質量部であることが好ましく、0.02~0.25質量部であることがより好ましく、0.03~0.2質量部であることが更に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性を確保しやすい。
【0022】
細骨材は特に限定されるものではなく、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中でも、吹付時の強度発現性に一層優れるという観点から、珪砂を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0023】
細骨材の粒度は、粒径が5mm以下である粒子が好ましく、粗粒率(FM)が2.0~3.6であることが好ましく、2.8~3.2のものがより好ましい。細骨材の粗粒率が上記範囲内であれば、流動性及び材料分離抵抗性により一層優れる。
【0024】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して150~280質量部であることが好ましく、170~260質量部であることがより好ましく、180~240質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性と可使時間を確保しやすい。
【0025】
本実施形態のセメント組成物は、更に、再乳化粉末樹脂を含有することができ、RC構造物等の躯体との付着性を更に向上することができる。再乳化型粉末樹脂は、成分的にはポリマーセメントに用いることができるポリマーであるなら特に限定されない。再乳化型粉末樹脂は、例えば、JIS A 6203:2015に規定されている再乳化型粉末樹脂が挙げられ、具体的には、アクリル系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、スチレンブタジエン系共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル系共重合体、エチレン/酢酸ビニル系共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。再乳化型粉末樹脂は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併せて用いてもよい。再乳化型粉末樹脂は、中でも、耐水性が一層優れるという観点から、アクリル系共重合体が好ましい。
【0026】
再乳化型粉末樹脂の含有量は、付着性がより一層優れるという観点から、セメント100質量部に対し、2~15質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましく、4~9質量部であることが更に好ましい。
【0027】
本実施形態の低収縮性高流動セメント組成物は、単位水量を低減し、乾燥収縮の抑制する観点から、更に、減水剤を含有することが好ましい。減水剤は、特に限定されないが、高流動性を長時間保持する観点からポリカルボン酸系(ポリカルボン酸高分子、ポリカルボン酸高分子化合物と架橋高分子等)を使用することが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の減水剤として、ナフタレン系、メラミン系(メラミンスルホン酸と変性リグニン、変性メチロースメラミン縮合物と水溶性特殊高分子等)等の減水剤を使用してもよい。減水剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0028】
減水剤の含有量は、単位水量を低減しやすいという観点から、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1~2質量部であることが好ましく、0.15~1.7質量部であることがより好ましく、0.2~1.3質量部であることが更に好ましい。
【0029】
本実施形態の低収縮性高流動セメント組成物は、無収縮性を付与する観点から、更に、発泡剤を含有することが好ましい。発泡剤の種類は限定されず、具体的には水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤としては、例えば、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末や過酸化物質等が挙げられる。発泡剤の中でも、膨張作用が得られやすいことから、アルミニウム粉末が好ましい。
【0030】
発泡剤の含有量は、セメント100質量部に対して0.0001~0.08質量部であることが好ましく、0.0002~0.03質量部であることがより好ましく、0.0003~0.01質量部であることが更に好ましい。発泡剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な膨張性が得られやすく、構造物との一体化が図れやすい。
【0031】
本発明の低収縮性高流動セメント組成物は、前記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、モルタルやコンクリートに使用されるその他の材料を添加することができる。その他の材料としては、例えば、繊維、芒硝、石膏、石粉、スラグ粉末、無機質フィラー、消泡剤、促進剤、遅延剤等が挙げられる。その他の材料は一種を単独で使用してもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0032】
セメント組成物をプレミックス化させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、比較的せん断作用が小さく、パドルや羽根等による掻き落としによる分散作用や拡散作用を主として混合するリボンミキサー、パドルミキサー等で混合することができる。混合は、全ての原材料を配合し計量して混合ミキサーへ投入後混練してもよく、収縮低減剤が液体の場合は、液体収縮低減剤以外の原材料を全て配合し計量して混合ミキサーへ投入後、液体噴霧器を用いて混合しながら液体収縮低減剤を噴霧し、プレミックス材全体に分散させてもよい。プレミックス材を水と混練する際の粉塵発生をより一層低減することができるという観点から、液体収縮低減剤をプレミックス材全体に噴霧する方法が好ましい。
これにより、表面が液体収縮低減剤で被覆されたセメント組成物を得ることができる。
【0033】
本実施形態のセメント組成物は、水と混合してモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント100質量部に対して35~60質量部であることが好ましく、36~57質量部であることがより好ましく、37~55質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、流動性と材料分離抵抗性を確保しやすく、強度発現性も良好なものとなる傾向にある。
【0034】
本実施形態のセメント組成物及びセメントモルタルは、材料分離抵抗性、流動性及び可使時間に優れ、硬化時の乾燥収縮が小さく、強度発現性もよいものとなる。そのため、本実施形態のセメント組成物及びモルタルは、コンクリート構造体、鋼・コンクリート複合構造体等の補修・補強材料として用いることもできる。本実施形態のセメント組成物及びモルタルの使用方法は適宜選択することができ、例えば、水比を増減し、流動性を調整することにより、型枠への流し込み工法に加え、吹付工法、凹部にコテで充填する左官工法等が選択できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
セメント:普通ポルトランドセメント
ポゾラン物質:フライアッシュ(JIS II種)及び非晶質アルミノ珪酸化合物の混合物(フライアッシュの質量:非晶質アルミノ珪酸化合物の質量=3:2)
膨張材:石灰系膨張材
液体収縮低減剤:低級アルコールのアルキレンオキシド付加物
粉末収縮低減剤:低級アルコールのアルキレンオキシド付加物
増粘剤A:水溶性セルロースエーテル(20℃、2質量%水溶液の粘度:307mPa・s)
増粘剤B:水溶性セルロースエーテル(20℃、2質量%水溶液の粘度:4140mPa・s)
増粘剤B:水溶性セルロースエーテル(20℃、2質量%水溶液の粘度:30740mPa・s)
減水剤A:ポリカルボン酸系高性能減水剤
減水剤B:ナフタレンスルホン酸系減水剤
再乳化粉末樹脂:アクリル共重合体樹脂
発泡剤:アルミ粉末
細骨材:珪砂調整品(粗粒率2.6~3.6に粒度調整したもの)
【0037】
[実験例1]
<セメント組成物の製造>
表1に示す配合割合で液体収縮低減剤以外の材料を配合してヘンシェルミキサーに投入し、混合しながら液体収縮低減剤を噴霧してセメント組成物を製造した。収縮低減剤は、粉体のものと液体のものを等量ずつ使用した。
【0038】
<モルタルの製造>
作製したセメント組成物と水を、高速ハンドミキサーで90秒間練り混ぜ、モルタルを作製した。水の割合は表1に示すとおりである。
【0039】
【0040】
<モルタルの評価>
作製したモルタル(本発明品1~6、参考品2~5)のフレッシュ性状における流動性及び流動性保持時間、材料分離抵抗性を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔流動性〕
JIS R5201-1997「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値を測定した。
〔作業性保持時間〕
作業性保持時間は、練り上がりから90分後の流動性を上記試験のテーブルフロー値により確認した。200mm以上のテーブルフロー値を保持しているものを良好、テーブルフロー値が200mm未満のものを不可と判定した。
〔材料分離抵抗性〕
材料分離抵抗性は骨材分離の有無とブリーディング発生の有無により確認した。
骨材分離は、容器内の練り上がり後のモルタルに手を入れて確認した際に、モルタルに均一性が無く、容器の底面に細骨材の触感が認められるものを骨材分離有り、モルタルが均一で、容器の底面に細骨材の触感が認められないものを骨材分離無しとした。
ブリーディングは、JIS A 1123:2011に準拠し、練り上がりから2時間後のモルタルについてブリーディングの発生有無を確認し、ブリーディングが発生したものを有り、発生しなかったものを無しとした。
これらの結果より、いずれも「無し」のものを良好、「有り」があるものを不可と判定した。
【0041】
表2に、フレッシュ性状の評価結果を示す。本発明の実施例は、何れも練上り直後のフロー値が270mm以上の高流動性であり、90分後のフロー値も200mm以上を保持していることが確認された。また、骨材分離やブリーディングの発生もなく、優れた材料分離抵抗性であることが示された。
【0042】
【0043】
[実験例2]
<モルタルの硬化性状の評価>
作製したモルタル(本発明品1~6、参考品1、6)の硬化性状における乾燥収縮及び圧縮強度を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔乾燥収縮〕
ゲージプラグを施した4×4×16cm鋼製型枠に成型した供試体を用いて、NEXCO断面修復用モルタル:試験法432に準拠し、寸法変化率を測定した。成型から48時間後に硬化した供試体を脱型し、温度23±3℃、湿度50±5℃に設定した恒温恒湿槽で養生を行った。
〔圧縮強度〕
JIS R5201:1997「セメントの物理試験方法」の準拠し、材齢28日の供試体について圧縮強度を測定した。養生は成型から48時間後に硬化した供試体を脱型し、材齢28日まで20℃、RH60%の試験室で気中養生を行った。
【0044】
表3に、硬化性状の評価結果を示す。実施例の供試体では、何れも寸法変化率は材齢91日で500×10-6以下であり、良好な低収縮性が確認された。また、実施例の供試体の圧縮強度も、材齢28日で50N/mm2以上の強度発現性が確認された。
【0045】
【0046】
[実験例3]
表1の本発明品1~3のセメント組成物において、セメント100質量部に対し、発泡剤0.03質量部を外割添加した材料を、実験例1と同様に液体収縮低減剤以外の材料を配合してヘンシェルミキサーに投入し、混合しながら液体収縮低減剤を噴霧してセメント組成物を製造した。作製したセメント組成物を用いて、セメント100質量部に対し、水を45質量部加え、高速ハンドミキサーで90秒間練り混ぜ、モルタルを作製した。
【0047】
作製したモルタルの無収縮性を評価するため、初期膨張率を測定した。評価試験方法を以下に示す。
〔初期膨張率試験〕
JSCE-F-533「PCグラウトのブリーディング率および膨張率試験方法」に準じて、初期膨張率を測定した。
【0048】
試験結果を表4に示す。実施例の供試体は、何れも材齢1日の膨張収縮率が+0.5~1.2%の膨張側にあり、良好な無収縮性が示された。
【0049】