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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】セメント系硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20231215BHJP
   C04B 7/28 20060101ALI20231215BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20231215BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B7/28
C04B18/14 C
C04B24/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020027266
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130590
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】新見 龍男
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
(72)【発明者】
【氏名】佃 美伸
(72)【発明者】
【氏名】黒田 高章
(72)【発明者】
【氏名】岩本正人
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154542(JP,A)
【文献】特開2000-281418(JP,A)
【文献】特開平11-060301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材とセメント系結合材と水と白華防止剤とを混合、硬化させるセメント系硬化体の製造方法において、骨材の少なくとも一部として高炉水砕スラグ骨材を用い、かつ当該高炉水砕スラグ骨材の使用量をセメント系結合材に対して0.5~1.4質量倍となる量とするセメント系硬化体の製造方法であって、
セメントがエコセメントであり、
白華防止剤が、ステアリン酸塩系のものであるセメント系硬化体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系結合材、骨材、水、白華防止剤を含むセメント系硬化体の製造において、白華防止剤の使用量を削減できる製造方法に関する。詳しくは、骨材に高炉水砕スラグ骨材を特定の範囲で使用することにより、製造されたセメント系硬化体における白華防止剤を少なくしても高い白華防止効果を得られる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系硬化体の製造に用いられるセメントはクリンカーおよび石膏を主成分とする無機粉末であり、水と反応して硬化する性質を有する。セメントに水、細骨材および粗骨材を併せて混練したコンクリートは、社会資本の形成に欠かせない材料であり、適切に製造・管理することで耐荷性能や耐久性能に優れた構造材料となる。
【0003】
一方、近年はコンクリートの美観や意匠性への関心が高まっている。例えば、インターロッキングブロック舗装ではブロックの色調や敷設した際のデザイン性や幾何パターンが重要とされており、機能だけでなく美観との調和が図られている。また、脱型後に表面の仕上げ工程を行わない打放しコンクリートは現代建築のデザインの一つとして広く用いられており、コンクリート特有の素材感や質感により構造物の美観の向上を図ることが出来る。
【0004】
しかしながらセメント系硬化体は、硬化体中のカルシウムなどの遊離成分が硬化体内部に浸透した水とともに表面に溶出し、炭酸化して白色物質が生成する白華現象が美観上の問題となっていた。例えば、近年、都市部におけるヒートアイランド現象の対策として用いられる保水性舗装ブロックにおいては、保水能力を向上するために用いる保水材が原因で白華現象がより顕著となる。
【0005】
このような白華現象を防止ないしは抑制するために、セメント系硬化体の原料とともに練り混ぜて使用する白華防止剤が提案されており(例えば、特許文献1、2参照)、いくつかは製品化もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-60301号公報
【文献】特開2017-218364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら白華防止剤を使用して白華を充分に抑制させるためには、その添加量が非常に多く必要であるのが通常であり、セメント系硬化体の製造コストが多大となることも問題とされていた。
【0008】
従って本発明は、セメント系硬化体の白華の防止に用いる白華防止剤の使用量を低減させたセメント系硬化体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった。そして、白華防止剤を用いたセメント系硬化体において、骨材に高炉水砕スラグ骨材を特定の範囲で用いることにより、白華防止剤の添加量が標準的な添加量より少ない場合でも白華を抑制できることを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、骨材とセメント系結合材と水と白華防止剤とを混合、硬化させるセメント系硬化体の製造方法において、骨材の少なくとも一部として高炉水砕スラグ骨材を用い、かつ当該高炉水砕スラグ骨材の使用量をセメント系結合材に対して0.5~1.4質量倍となる量とするセメント系硬化体の製造方法であって、
セメントがエコセメントであり、
白華防止剤が、ステアリン酸塩系のものであるセメント系硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、骨材に高炉水砕スラグ骨材を適正量使用することにより、白華防止剤のみで白華を防止することのできる添加量より少ない添加量で、セメント系硬化体の白華を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるセメント系結合材とは、セメント系硬化体の製造時に配合される成分の内、セメントおよび無機粉体系混和材を指す。セメントを単独で使用しても、強度や耐久性など所定の性能が得られる範囲で混和材を適宜混和してもよい。
【0013】
本発明で使用するセメントは、JIS規格で規定されている公知のセメントを採用することが可能であり、具体的にはJIS R 5210「ポルトランドセメント」、JIS R 5211「高炉セメント」、JIS R 5212「シリカセメント」、JIS R 5213「フライアッシュセメント」、JIS R 5214「エコセメント」が該当する。
【0014】
本発明で使用する無機粉体系混和材は、モルタル、コンクリート等セメント系混合物のフレッシュ性状、凝結、強度発現性や耐久性等の物性向上に寄与する公知の無機粉体を採用することが可能であり、具体的にはJIS R 5210「ポルトランドセメント」の少量混合成分に規定される無機粉末、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」、JIS A 6207「コンクリート用シリカフューム」、石灰石微粉末等が挙げられ、目開き150μmのふるいを重量で21%以上通過するものである。
【0015】
上記セメントのなかでも、一般に白華現象が生じやすいエコセメントを用いたセメント系硬化体の製造の際に、本発明を適用することが好ましい。
【0016】
本発明において、セメント系硬化体の製造には骨材が使用されるが、本発明の最大の特徴は、その骨材の少なくとも一部として、高炉水砕スラグ骨材を用いることにある。このような特定の骨材を特定の範囲で使用することにより、製造されたセメント系硬化体の白華現象を、より少ない白華防止剤の使用量で抑制ないしは防止できる。
【0017】
本発明で使用する高炉水砕スラグ骨材は、公知の高炉水砕スラグを用いることができる。具体的には、高炉により鉄を製造する際に発生する副産物であり、溶融状態のスラグを水で急冷した砂状または粒状のスラグであり、JIS A 5011-1に高炉水砕スラグ骨材として規定されるものを使用することが好ましい。
【0018】
なおコンクリート用骨材として公知のスラグであっても、例えば銅スラグや電気炉酸化スラグ、溶融スラグ、高炉徐冷スラグでは同様の効果は得られない。
【0019】
本発明において、上記高炉水砕スラグ骨材の使用量はセメントに対して0.5~1.4質量倍でなくてはならない。0.5質量倍に満たないと、白華防止が充分に図れない。また理由不明ながら、1.4質量倍を超えて多くても、再度白華現象が起きてしまう。好ましくは1.2質量倍以下である。
【0020】
上記高炉水砕スラグ骨材は、細骨材として使用してもよいし、粗骨材として使用してもよい。
【0021】
本発明においてセメント系硬化体を製造するに際し、骨材(細骨材、粗骨材)としては、上記高炉水砕スラグ骨材以外のものを使用してもよい。当該骨材としては、セメント系硬化体(モルタルやコンクリート)の製造に際して使用される公知の骨材、例えば砂などの細骨材や砂利などの粗骨材、軽量骨材や保水材等を特に制限なく使用できる。セメント系硬化体の製造に際してこれら骨材を用いる際の使用量は、前記高炉水砕スラグ骨材の使用量を前記範囲とし、この高炉水砕スラグ骨材とその他の骨材の合計の使用量が所望の範囲に入るように使用すればよい。この場合、前記した銅スラグや電気炉酸化スラグ、溶融スラグ、高炉徐冷スラグ等もその他の骨材として使用できる。
【0022】
本発明において、細骨材とは目開き10mmのふるいを全通し、目開き5mmのふるいを重量で85%以上通過する骨材であり、目開き150μmふるいに重量で80%以上残存するものであり、粗骨材とは5mmふるいに重量で85%以上とどまるものである。
【0023】
本発明のセメント系硬化体の製造方法においては、白華防止剤の使用が必須である。当該白華防止剤を使用しない場合、前記骨材を特定量使用しても十分な白華防止効果は得られない。当該白華防止剤とは一般に脂肪酸塩、界面活性剤、撥水剤や防水剤、有機化合物等の混合物から成る薬剤であり、セメント系硬化体の混練時に他の材料と同時に添加する混和剤の一種である。
【0024】
当該白華防止剤の主成分となる脂肪酸塩を具体的に例示すると、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ベヘニン酸カルシウム、オレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩が挙げられ、特にステアリン酸塩系の白華防止剤が一般的であり、ステアリン酸カルシウムを含む白華防止剤が最も好ましい。
【0025】
本発明のセメント系硬化体の製造方法において、上記白華防止剤の使用量は特に限定されないが、白華防止効果を充分に得る点でセメント系結合材に対して0.20質量%(外割:以下、全て同じ)以上用いることが好ましい。上限としては、高コストな白華防止剤の使用量を少なくするという目的から、一般的な添加量より少ない量であるセメント系結合材に対して0.50質量%以下、特に0.35質量%以下とすることが好ましい。
【0026】
なお、白華防止剤の添加量が0.50質量%を超えると、骨材種類に関わらず白華防止剤の効果により白華の抑制が可能となる傾向が強い。即ち、通常の白華防止剤の配合量は、セメント系結合材量の0.75~2.0質量%程度の範囲、多くは1質量%前後であり、この程度の量を使用すれば通常は、高炉水砕スラグ骨材を使用せずとも十分な白華防止効果を得られる。本発明はこれに対して高炉水砕スラグ骨材を使用して白華防止剤の使用量を低減させ、よってコストを抑制するものである。
【0027】
本発明において、セメント系硬化体の製造時における白華抑制剤の添加方法は、公知の方法が特に制限なく使用できる。例えば、あらかじめ水と混合してミキサーに投入する方法や、白華抑制剤を単独でミキサーに投入する方法が挙げられる。
【0028】
本発明のセメント系硬化体の製造方法において使用する水は、モルタルやコンクリートの調製用として公知の水が特に制限なく使用できる。具体的には、工水、水道水等である。
【0029】
本発明のセメント系硬化体の製造方法においては、上記した骨材、セメント系結合材、水及び白華防止剤のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的にモルタルやコンクリートの調製に際して混合される公知の添加剤であるAE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、空気量調整剤、凝結促進剤を添加配合しても構わない。
【0030】
本発明のセメント系硬化体において、水セメント比は一般的なモルタルやコンクリートで使用される範囲であれば特に制限されない。具体的には、水セメント比20~60%の範囲である。
【0031】
本発明において、骨材、セメント系結合材、水、白華防止剤及び必要に応じて配合するその他材料とを混合、硬化させるセメント系硬化体の製造方法は、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場における従来の製造方法が特に際限なく使用できる。
【0032】
本発明において、セメント硬化体を混錬する際に使用するミキサーは一般的にモルタルやコンクリートを混錬するミキサーが制限なく使用できる。具体的には、パン型ミキサー、強制二軸ミキサー、傾動ミキサー、モルタルミキサー、ハンドミキサー等が挙げられる。
【0033】
本発明において、骨材とセメント系結合材と水と白華防止剤とを混合、硬化させた後のセメント系硬化体の養生方法は、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場における従来の養生方法が特に際限なく使用できる。具体的には、湿潤養生、水中養生、蒸気養生、オートクレープ養生、気中養生等が挙げられる。
【0034】
本発明におけるセメント系硬化体は、上記した骨材、セメント系結合材、水、白華防止剤及び必要に応じて配合するその他材料とを混合・硬化させたものであるが、一般的にはモルタルおよびコンクリートとされる。なおモルタルはセメント系結合材、水、細骨材、混和剤の混練物であり、コンクリートはセメント系結合材、水、細骨材、粗骨材、混和剤の混練物である。
【実施例
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
なお白華の評価は目視により行った。評価者は10人とし、表1に示す判定基準に従った。即ち、白華が少ないと判断された場合を「〇」、やや発生したと判断された場合を「△」、著しく発生したと判断された場合を「×」とした。
【0037】
JISエコセメント、水、白華防止剤(富士ファインケミカル社:エフレックスNP:ステアリン酸塩系)、標準砂、保水材および高炉水砕スラグ骨材を表1に示す割合で配合し、20℃環境においてホバートミキサーにより混練して40×40×160mmのモルタルを作製した。
【0038】
混練1日後に脱型し、温度20℃、湿度60%の環境において14日間養生した。養生終了後は100℃環境で24時間乾燥し、モルタルの打ち込み面を上部にして側面にアルミ粘着テープでシールした後、温度5℃、湿度30%環境でモルタルの半分の高さまで水に浸漬し、浸漬14日後にモルタル上面における白華の発生の確認を行った。評価結果を合わせて表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
比較例1、2、3、参考例1、2は、従来技術である白華防止剤のみでの白華防止を確認した実験結果であり、セメント(100質量%)に対して0質量%、0.25質量%、0.50質量%、0.75質量%、1.0質量%添加して作製したモルタルの白華試験結果である。白華防止剤の添加率0~0.50質量%では全ての評価者で白華の発生が著しいと評価され、添加率0.75質量%でも白華の発生が少ないという評価は10人中4人であった。添加率1.0質量%で全ての評価者が白華は少ないと評価した。このことより、白華防止剤のみでは、その添加量が0.75質量%以下では白華現象の抑制は困難と言える。
【0041】
比較例4は、セメント系結合材にエコセメントを、スラグ骨材に高炉水砕スラグ骨材を、白華防止剤をセメントに対して0.25%使用し、セメント系結合材に対する高炉水砕スラグ骨材の使用量の比(スラグ骨材/結合材)を質量比で0.3とした場合の白華試験の結果である。全ての評価者が白華は多いと判断し、白華が抑制されていないことがわかる。
【0042】
実施例1、2は、セメント系結合材にエコセメントを、スラグ骨材に高炉水砕スラグ骨材を、白華防止剤をセメントに対して0.25質量%使用し、セメント系結合材に対する高炉水砕スラグ骨材の使用量の比(スラグ骨材/結合材)を質量比で0.6あるいは0.9とした場合の白華試験の結果である。実施例3は、セメント系結合材にエコセメントを、スラグ骨材に高炉水砕スラグ骨材を、白華防止剤をセメントに対して0.50質量%使用し、セメント系結合材に対する高炉水砕スラグ骨材の使用量の比(スラグ骨材/結合材)を質量比で1.2とした場合の白華試験の結果である。いずれのスラグ骨材/セメント系結合材の割合においても、全ての評価者が白華は少ないと判断し、白華防止剤の添加量が少なくても白華が抑制されていることがわかる。
【0043】
一方で、セメント系結合材に対する高炉水砕スラグ骨材の使用量の比(スラグ骨材/結合材)が質量比で1.5である比較例5では、白華の発生が少ないという評価は10人中2人であり、高炉水砕スラグのセメント系結合材に対する使用割合が多すぎても、白華抑制効果が小さくなってしまうことがわかる。
【0044】
比較例6、7、8は、セメント系結合材にエコセメントを、スラグ骨材に溶融スラグ骨材を、白華防止剤をセメントに対して0.25質量%使用し、セメント系結合材に対する溶融スラグ骨材の使用量の比(スラグ骨材/結合材)を質量比で0.3、0.9あるいは1.5混合した場合の白華試験の結果である。いずれのスラグ骨材/結合材においても、全ての評価者が白華は著しいと判断したことから、溶融スラグ骨材には白華防止剤の添加量の削減効果がないことがわかる。