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特許7403346帯電した電荷を維持する能力に優れた帯電調整用粉体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】帯電した電荷を維持する能力に優れた帯電調整用粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/16 20060101AFI20231215BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C09K3/16 101A
C01G23/047
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020027942
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021130596
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴康
(72)【発明者】
【氏名】関 敏正
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚文
(72)【発明者】
【氏名】吉見 智子
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 徹
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141058(JP,A)
【文献】特開2011-1239(JP,A)
【文献】特開昭61-283679(JP,A)
【文献】特開昭60-264326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/16
C01G23/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の表面の少なくとも一部にチタンニオブ酸化物を有する粒子からなる帯電調整用粉体であって、アルカリ金属の含有量が全体に対して20.0mmol/kg以下である帯電調整用粉体。
【請求項2】
アルカリ金属の含有量と、硫黄の含有量の合計が、全体に対して35.0mmol/kg以下である、請求項1に記載の帯電調整用粉体。
【請求項3】
ニオブの含有量が全体に対して15.0mmol/kg以上225.0mmol/kg以下である、請求項1又は2のいずれかに記載の帯電調整用粉体。
【請求項4】
芯材が二酸化チタンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
【請求項5】
走査型電子顕微鏡を用いて倍率50000倍で観察した際に粉体を構成する粒子の少なくとも一部の表面にくぼみが確認される、請求項1から4のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
【請求項6】
走査型電子顕微鏡を用いて倍率50000倍で観察した際に粉体を構成する粒子の表面に観察されるくぼみの数が、粒子表面1μmあたり10個以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
【請求項7】
BET法により測定した1gあたりの表面積をS1、走査型電子顕微鏡による観察で得られた体積基準メディアン径から算出した1gあたりの表面積をS2としたとき、S1/S2が1.05を超える、請求項1から6のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
【請求項8】
以下の工程A~Dを備えることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載された帯電調整用粉体の製造方法:
A:芯材となる粉体を水に分散させ、芯材の懸濁液を得る工程、
B:工程Aで得た懸濁液に、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加し、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液をアルカリ性溶液で中和し、芯材の表面の少なくとも一部にチタン及びニオブの水酸化物を析出させる工程、
C:工程Bで得た懸濁液中から、水可溶塩類の除去と固液分離を行う工程、
D:工程Cで得た固形分を焼成する工程。
【請求項9】
前記工程Bにおいて、懸濁液のpHが1.0以上6.0以下で中和する、請求項8に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
【請求項10】
前記工程Bにおいて、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを同時に添加する、請求項8又は9に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
【請求項11】
前記工程Dにおいて、固形分を、250℃以上900℃以下で、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気、又は酸素濃度を大気よりも低減した雰囲気で焼成することを含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、機能性粉体、フィルム、繊維、樹脂、プラスチック、紙等の表面に発生する帯電を調整するために使用される帯電調整用粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する金属酸化物からなる粉体及びこれを含有する塗料、繊維、プラスチック及び紙等は、金属酸化物の導電性により帯電の防止や静電気の除去に利用されている。
例えば、特開2002-339235号公報(特許文献1)では、カーボンブラック又は酸化スズで表面をコーティングした酸化チタン粒子を分散した導電性の合成繊維を定間隔に配列して製織した織物に低温プラズマ処理を行うことによって、制電性に優れた織物を製造する方法が開示されている。また、特開2010-59588号公報(特許文献2)では、非導電層と、酸化スズなどの導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含む熱可塑性重合体である導電層とからなり、発色性に優れたポリエステル系複合繊維が提案されている。特許文献2に開示されているポリエステル系複合繊維は、繊維内部が導電層であるため、静電気の帯電を抑制し、制電性を有する。
【0003】
これらの導電性金属酸化物及びそれを含有する塗料、繊維、プラスチック及び紙等は、その表面に帯電を生じるのを防止するか、あるいは発生した静電気を除去することを目的あるいは効果としている。しかし、近年電気集じん、静電複写、静電塗装などで静電気を産業に利用する機会が増えており、単に帯電した電荷を除去するだけでなく、帯電する電荷の量を制御する、帯電調整用粉体が求められるようになった。
【0004】
本出願人は、二酸化チタンをコア粒子とし、コア粒子表面にニオブドープ二酸化チタンのコート層を有する帯電調用粉体を開示した(特開2018-141058号公報)(特許文献3)。この帯電調整用粉体を混入又は塗布することにより、対象の表面に静電気が帯電することを防ぐことに加え、帯電量をマイナスに調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-339235公報
【文献】特開2010-059588公報
【文献】特開2018-141058公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3の帯電調整用粉体は、静電気を帯電させにくくすることを目的とするものであり、帯電した電荷はすぐに減衰する傾向があった。帯電する電荷の量を安定に制御するという目的に対しては、使い難いものであった。特に、高湿度下では帯電した電荷が外部に流出しやすい傾向があった。
【0007】
本発明の目的は、塗料、機能性粉体、フィルム、繊維、樹脂、プラスチック、紙等の帯電調整対象物に対して、粉体を添加、混合、又は塗布することで、それぞれの表面の帯電性を一定の範囲に制御しながら、かつ帯電した電荷を維持する能力に優れた帯電調整用粉体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、帯電調整用粉体に関して鋭意検討を重ねた結果、芯材の表面の少なくとも一部にチタンニオブ酸化物を有する粒子からなる粉体において、アルカリ金属の含有量が全体に対して20.0mmol/kg以下である際に、帯電した電荷を維持する能力が向上することを見いだした。
【0009】
本発明の具体的態様はこれらに限定されないが以下のとおりである。
[1]芯材の表面の少なくとも一部にチタンニオブ酸化物を有する粒子からなる帯電調整用粉体であって、アルカリ金属の含有量が全体に対して20.0mmol/kg以下である帯電調整用粉体。
[2]アルカリ金属の含有量と、硫黄の含有量の合計が、全体に対して35.0mmol/kg以下である、[1]に記載の帯電調整用粉体。
[3]ニオブの含有量が全体に対して15.0mmol/kg以上225.0mmol/kg以下である、[1]又は[2]のいずれかに記載の帯電調整用粉体。
[4]芯材が二酸化チタンである、[1]から[3]のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
[5]走査型電子顕微鏡を用いて倍率50000倍で観察した際に粉体を構成する粒子の少なくとも一部の表面にくぼみが確認される、[1]から[4]のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
[6]走査型電子顕微鏡を用いて倍率50000倍で観察した際に粉体を構成する粒子の表面に観察されるくぼみの数が、粒子表面1μmあたり10個以上である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
[7]BET法により測定した1gあたりの表面積をS1、走査型電子顕微鏡による観察で得られた体積基準メディアン径から算出した1gあたりの表面積をS2としたとき、S1/S2が1.05を超える、[1]から[6]のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体。
[8]以下の工程A~Dを備えることを特徴とする、[1]から[7]のいずれか一項に記載された帯電調整用粉体の製造方法:
A:芯材となる粉体を水に分散させ、芯材の懸濁液を得る工程、
B:工程Aで得た懸濁液に、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加し、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液をアルカリ性溶液で中和し、芯材の表面の少なくとも一部にチタン及びニオブの水酸化物を析出させる工程、
C:工程Bで得た懸濁液中から、水可溶塩類の除去と固液分離を行う工程、
D:工程Cで得た固形分を焼成する工程。
[9]前記工程Bにおいて、懸濁液のpHが1.0以上6.0以下で中和する、[8]に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
[10]前記工程Bにおいて、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを同時に添加する、[8]又は[9]に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
[11]前記工程Dにおいて、固形分を、250℃以上900℃以下で、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気、又は酸素濃度を大気よりも低減した雰囲気で焼成することを含む、[8]から[10]のいずれか一項に記載の帯電調整用粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ金属の含有量が全体に対して20.0mmol/kg以下である、チタンニオブ酸化物を芯材の表面の一部に有する粒子を用いることで、帯電した電荷を維持する能力に優れた帯電調整用粉体が提供される。特に、高い湿度に晒された場合でも帯電した電荷を維持する能力に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例5で得られた帯電調整用粉体の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1で得られた帯電調整用粉体の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】粒子界面抵抗算出のために用いた等価回路モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の帯電調整用粉体は、芯材の表面の少なくとも一部にチタンニオブ酸化物を有する粒子からなり、アルカリ金属の含有量が全体に対して20.0mmol/kg以下である。
【0013】
前記帯電調整用粉体は、芯材は二酸化チタンであり、表面にチタンとニオブの複合酸化物を有することが好ましい。帯電調整用粉体におけるニオブの量は、全体に対して15.0mmol/kg以上225.0mmol/kg以下であることが好ましい。ニオブ含有量が15.0mmol/kg以上であると、帯電発生効果が発揮され、また帯電伝播に寄与する酸素欠損の安定性が得られる。ニオブ含有量が225.0mmol/kg以下であると、粒子内で単一相が形成されるため帯電分布が生じにくく、帯電性能が安定しやすい。ニオブの含有量はより好ましくは100.0mmol/kg以上200.0mmol/kg以下であり、更に好ましくは125.0mmol/kg以上200.0mmol/kg以下である。また、ニオブの含有量は150.0mmol/kg以上200.0mmol/kg以下であれば一層好ましい。
【0014】
前記帯電調整用粉体は、アルカリ金属の含有量が、全体に対して20.0mmol/kg以下である。アルカリ金属含有量が大きいと、粒子表面にアルカリ金属の塩が析出し、粒子界面抵抗が低下する。粒子界面抵抗が小さい場合は粒子に帯電した電荷が外部に流出しやすくなり、帯電した電荷を維持しにくくなる。アルカリ金属の含有量は、より好ましくは、10.0mmol/kg以下であり、さらに好ましくは8.0mmol/kg以下である。本明細書において「アルカリ金属」は、ナトリウム及びカリウムを指すものとし、「アルカリ金属の含有量」という場合にはこれら2種の金属の含有量の合計をいうものとする。
【0015】
なお、帯電調整用粉体におけるアルカリ金属は主に、粉体を構成する粒子の表面の少なくとも一部にチタンニオブ酸化物を形成させる際のチタン塩及びニオブ塩の酸性混合液を中和するためのアルカリ性溶液に由来する。
【0016】
前記帯電調整用粉体は、アルカリ金属の含有量と硫黄の含有量の合計が、全体に対して35.0mmol/kg以下であることが好ましい。アルカリ金属の含有量と硫黄の含有量の合計が38.5mmol/kg以下であると、後述の方法で測定する帯電維持率が向上しやすい。より好ましくは、15.0mmol/kg以下であり、さらに好ましくは13.0mmol/kg以下である。
【0017】
アルカリ金属の含有量と硫黄の含有量の合計が帯電維持率に影響する理由は明確ではないが、以下のように考えられる。本発明においてアルカリ金属と硫黄は芯材やチタンニオブ酸化物を芯材上に形成する際に用いる溶液から粒子中に持ち込まれることがあり、アルカリ金属と硫黄の両物質ともに極性を持った状態で粒子内に存在し得る。極性物質の含有量が大きい場合、粒子が帯電した際に粒子内に回路が形成され、電荷が粒子の外部に流出しやすくなり、帯電した電荷を維持しにくくなると考えられる。
【0018】
本発明の帯電調整用粉体は、粉体を構成する粒子の少なくとも一部の表面に微細なくぼみが存在する方が好ましい。表面にくぼみが存在することで、一次粒子同士の接触面積が減少し、粒子間の電荷移動が起こりにくくなる。ここで粒子表面のくぼみとは、倍率50000倍の走査型電子顕微鏡写真において粒子表面に黒い斑点状に観察される微細な穴をいう。くぼみの形状は円形、楕円形、長方形、多角形及び不定形のものが存在し、円相当径は小さいもので5nm、大きいもので45nm程度である。また、細長い溝状のくぼみも存在する。溝状のくぼみは途中で折れ曲がった形状のものも存在し、大きいもので幅が25nm、長さは90nm程度である。くぼみはコア粒子まで達するものもあり、深さは最大で15nm程度である。図1に本発明(後述する実施例5)の帯電調整用粉体の走査型電子顕微鏡写真を示し、図2に比較(後述する比較例1)の帯電調整用粉体の走査型電子顕微鏡写真を示す。比較の粉体の粒子表面はいずれもなだらかであり、くぼみの数が非常に少ないのに対し(図2)、本発明の粉体の粒子表面には黒い斑点状のくぼみが多数観察できることがわかる(図1)。
【0019】
粒子表面にくぼみが形成される理由は明確になっていないが、以下のように考えられる。焼成前の芯材粒子の表面にはチタンニオブ水酸化物が多数存在しており、焼成によって水分やその他の成分が揮発し、体積が減少し、くぼみが生じる。
【0020】
一方で、チタンニオブの水酸化物及び複合酸化物は、温度が高くなると物質拡散が活発になり、くぼみが消失すると考えられる。更に、ナトリウムなどのアルカリ金属塩が存在すると、物質拡散がより活発になるため、よりくぼみが消失しやすいと考えられる。
【0021】
本発明の帯電調整用粉体について、粒子の表面積1μmあたりのくぼみの数が、10個以上であることが好ましい。より好ましくは、粒子の表面積1μmあたりのくぼみの数は50個以上であり、さらに好ましくは70個以上である。粒子の表面積1μmあたりのくぼみの数は、後述する方法で測定する。
【0022】
本発明の帯電調整用粉体のBET法で測定した比表面積S1(m/g)と、走査型電子顕微鏡を用いた観察で測定した体積基準メディアン径を基に算出した比表面積S2(m/g)とは、S1をS2で除した値S1/S2が、1.05を超えることが好ましい。S1及びS2は後述の方法で算出する。S2は粒径から算出した比表面積であるため表面のくぼみを反映していない。したがって、表面のくぼみが多い粒子ほど、S1/S2が大きくなる。S1/S2が、1.05を超えると、粒子表面にくぼみが多いため、一次粒子同士の接触面積が減少し、粒子間の電荷移動が起こりにくくなる。好ましくは、S1/S2が1.10以上であり、更に好ましくは1.15以上である。
【0023】
本発明の帯電調整用粉体は、後述する方法で測定した粒子界面抵抗の値が、1.80×10Ω・cm以上であることが好ましく、2.00×10Ω・cm以上であることがさらに好ましく、4.00×10Ω・cm以上であることが更に好ましい。粒子界面抵抗の値が大きいほど、帯電した電荷が外部に流出しにくくなり、帯電した電荷を維持しやすくなる。
【0024】
本発明の帯電調整用粉体は、マイナスの帯電量を有することが好ましい。帯電量の初期値が-20.0μC/g以下であることが更に好ましく、-30.0μC/g以下であることが一層好ましい。
【0025】
本発明の帯電調整用粉体は、後述する方法で測定した帯電維持率が、84.0%以上であることが好ましく、86.0%以上であることがさらに好ましく、90.0%以上であることがさらに好ましい。また、後述する方法で加湿した後に測定した帯電維持率が、84.0%以上であることが好ましく、85.5%以上であることがさらに好ましく、88.0%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の帯電調整用粉体を構成する粒子の一次粒子の粒子径は、特に限定されないが、焼成後の粉砕のしやすさや、帯電調整対象物内での分散性を考慮すると、後述する方法で測定する体積基準メディアン径において、0.050μm以上0.500μm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の帯電調整用粉体は、塗料、機能性粉体、フィルム、繊維、樹脂、プラスチック、紙等の帯電調整対象物に対して添加、混合、又は塗布することにより、それぞれに一定のマイナスの帯電量を与えながら、帯電した電荷を維持する能力を向上させることができる。
【0028】
本発明の帯電調整用粉体は、以下の工程A~Dを備える製造方法により調製することができる。
A:芯材となる粉体を水に分散させ、芯材の懸濁液を得る工程、
B:工程Aで得た懸濁液に、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加し、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液をアルカリ性溶液で中和し、芯材の表面の少なくとも一部にチタン及びニオブの水酸化物を析出させる工程、
C:工程Bで得た懸濁液中から、水可溶塩類の除去と固液分離を行う工程、
D:工程Cで得た固形分を焼成する工程。
【0029】
以下、本発明の帯電調整用粉体の製造方法について説明する。
[工程A:芯材]
工程Aで用いる芯材は、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタン以外にも、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型とルチル型の混晶である二酸化チタン、及び一般的に化学式がTiO2-n/2(OH)(nは0よりも大きく、4よりも小さい)で表されるオキシ水酸化チタンも芯材として好ましく用いることができる。特に、アナターゼ単相の二酸化チタン、若しくはX線回折測定により求められるルチル化率が0.05以下の二酸化チタンが好ましい。工程Aで用いる芯材として二酸化チタンを用いる場合には、後のチタンニオブ酸化物での被覆を促進するために、二酸化チタンは、表面処理されていないものを用いることが好ましい。
【0030】
芯材の粒子径は、特に限定されないが、粒子同士の凝集を抑える観点からは、0.050~0.500μm程度が好ましい。
工程Aでは、芯材となる粉体を水に分散させる際に、撹拌しながら昇温することが好ましい。昇温後の温度は、55~85℃の範囲内となることが好ましく、65~80℃がさらに好ましい。
【0031】
[工程B:チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液]
工程Bで用いるチタン塩及びニオブ塩の酸性混合液は、チタン源となるチタン塩水溶液と、ニオブ源となるニオブ塩水溶液とを混合して調製することができる。チタン源としては、硫酸チタン、塩化チタンなどを好適に用いることができる。ニオブ源としては、五塩化ニオブ、水酸化ニオブ(V)、五酸化ニオブ、オキシ水酸化ニオブ(V)などを好適に用いることができる。ニオブ源の溶解には、塩酸や硫酸を用いることが好ましいが、硝酸やその他の酸の水溶液を用いても良い。たとえば、塩化ニオブを塩酸に溶解して、ニオブ単体Nbに換算して30g/kgの溶液とした後、硫酸チタン水溶液と混合して、チタンニオブ酸性混合液を調製することができる。また、水酸化ニオブ及び五酸化ニオブを濃硫酸に溶解し、硫酸チタン水溶液と混合してチタンニオブ酸性混合液を調製することもできる。
【0032】
[工程B:中和]
工程Bでは、工程Aで得た懸濁液に、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加し、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液をアルカリ性溶液で中和することにより、芯材の表面の少なくとも一部にチタン及びニオブの水酸化物を析出させる。工程Bで得られた懸濁液を固液分離し、乾燥した試料を透過型電子顕微鏡で観察したとき、芯材表面の90%以上が、チタン及びニオブの水酸化物で覆われていることが好ましい。酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加した際の懸濁液のpHは1.0以上6.0以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは2.0以上4.0以下である。また、pHは、上記の範囲内で一定の値に維持することが好ましい。pHを一定の値に維持するために、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液と、アルカリ性溶液とは、同時に添加することが好ましい。
【0033】
中和のために添加するアルカリ性溶液は、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又はアンモニアから選択された1種又は2種以上を好ましく用いることができる。コスト的には水酸化ナトリウムが有利である。
【0034】
中和の際の温度は、55~85℃の範囲内、より好ましくは65~80℃の範囲内で、一定の値に保持することが好ましい。
酸性混合液とアルカリ性溶液とを添加し終えた後に、任意に、懸濁液を所定のpH及び所定の温度で一定時間保持して、熟成を行ってもよい。この際の温度及びpHは、特に限定されない。保持する時間は特に限定されないが、10分間~2時間程度が好ましい。
【0035】
[工程C:水可溶塩類の除去と固液分離]
工程Cでは不純物含有量の少ない水系溶媒を用いて繰り返し洗浄を行い、工程Bで得た懸濁液中の水可溶塩類の残存量ができるだけ少なくなるように水可溶塩類の除去を行うことが好ましい。水可溶塩類除去の際の洗浄にはフィルタープレスなどの装置を任意に用いることができる。
【0036】
水可溶塩類には、酸性混合液やアルカリ性溶液由来の塩類が含まれる。工程Cにおける水可溶塩類の除去の程度の目安として、懸濁液中の固形分におけるアルカリ金属の含有量と硫黄の含有量を用いることができる。アルカリ金属は、主にアルカリ性溶液に由来するため、アルカリ性溶液として例えば水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを用いた場合には、ナトリウムの含有量を水可溶塩類の除去の程度の目安に用いてもよい。硫黄は、主に硫酸に由来する。アルカリ金属(例えばナトリウム)及び硫黄の含有量は、洗浄後の固形分を一部抜き出して十分に乾燥させた後に、後述する方法で評価することができる。なお、硫黄は高温では揮発するため、焼成後は含有量が減少するので、工程Cの段階ではある程度の量の硫黄が残存していてもよい。
【0037】
工程Cにおける洗浄後の固形分のアルカリ金属含有量は、18.5mmol/kg以下であることが好ましく、10.0mmol/kg以下であることがより好ましく、5.0mmol/kg以下であることがさらに好ましい。また、工程Cにおける洗浄後の固形分の硫黄含有量は、230.0mmol/kg以下であることが好ましく、200.0mmol/kg以下であることがより好ましく、150.0mmol/kg以下であることがさらに好ましい。
【0038】
上述の水可溶塩類の除去後、固液分離を行って固形分を得る。得られた固形分は任意に乾燥させてもよい。乾燥する際の温度及び時間は特に限定されないが、例えば、100~150℃にて1~24時間である。
【0039】
[工程D:焼成]
焼成の際の温度は、250℃以上900℃以下が好ましい。焼成の雰囲気は特に限定されないが、酸素濃度を大気よりも大きくした雰囲気、大気雰囲気、酸素濃度を大気よりも低減した雰囲気、窒素ガスの非酸化雰囲気、又は水素ガスの還元雰囲気で焼成を実施することができる。酸素が存在する雰囲気で焼成することで粒子表面の酸化を、非酸化雰囲気や還元雰囲気で焼成することで、粒子表面を還元することができる。雰囲気を変更して2段焼成、もしくは3段以上の焼成を行ってもよく、2段目あるいは3段目以降の焼成の雰囲気及び温度は、粒子表面の酸化の進行度合いに応じて適宜変更することができる。表面酸化もしくは還元の進行を調整することで、焼成後の粉体の抵抗、帯電性能、及び色調を調整することができる。焼成時間、保持時間、並びに雰囲気ガス流量は、所望の粉体の特性、また、使用する炉の大きさや固形分の投入量に応じて、適宜調整することができる。例えば、これに限定されないが、非酸化雰囲気又は還元雰囲気で250℃以上780℃以下の温度で1段目の焼成を行い、次いで、空気雰囲気下で250℃以上500℃以下の温度で2段目の焼成を行うことが好ましい。
【0040】
[粉砕]
得られた焼成体は適宜粉砕して、帯電調整用粉体としてもよい。粉砕の方法は、ローラーミル、ジェットミル、容器駆動ミルなど、公知の方法を制限なく用いることができ、汎用の粉砕機で粉砕できる。粉砕の方法は、粒子径や粉砕品中の粗粒子の割合、コストなどを考慮して決定する。
【0041】
次に、帯電調整用粉体の物性の測定方法を説明する。
[二酸化チタンのルチル化率の測定方法]
株式会社リガク製X線回折装置RINT-TTR IIIを使用し、ターゲットは銅(Cu)、管電圧は50kV、管電流は300mA、発散スリット1/2°、発散縦スリット10mm、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm、走査速度0.5°/minの条件で、2θで20degから35degの範囲を走査し、アナターゼ型二酸化チタンの(101)面及びルチル型二酸化チタンの(110)面の回折強度を測定する。これらの回折強度より、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折強度(R)をアナターゼ型二酸化チタンの(101)面の回折強度(A)とルチル型二酸化チタンの(110)面の回折強度(R)の和で除してルチル化率を求める。
【0042】
ルチル化率=R/(A+R)
[ニオブ、硫黄、及びアルカリ金属含有量の測定方法]
ニオブ、カリウム及び硫黄については、蛍光X線分析装置を用いて測定し、特性X線強度より含有量を求める。ナトリウムについては試料を溶解し、ICP法により含有量を求める。
【0043】
[BET法による比表面積S1の測定方法]
BET法による比表面積S1は、MICROMETORICS INSTRUMENTCO.製ジェミニ2375を用いて一点法で測定する。
【0044】
[一次粒子の体積基準メディアン径の測定及び比表面積S2の算出方法]
走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略す)による試料の観察は、日本電子製JESM-7200を用いる。画像から200個以上の一次粒子を測定する。投影面積円相当径を測定し、一次粒子径とする。本発明においては、焼成によって2個以上の粒子が結合した場合については、SEM写真から境界が判別できる場合のみ、個々の粒子の粒子径を測定する。3乗の累積曲線で50%に相当する粒子径を体積基準メディアン径とする。体積基準メディアン径をrμmとすると、比表面積S2は以下の式で算出される。
S2=4×π×[(r/2)/10/{4/3×π×[(r/2)/10×粒子密度(g/m)}
なお、後述する実施例及び比較例では、約97.7%のアナターゼ型二酸化チタン(粒子密度3.90×10g/m)と約2.3%の五酸化二ニオブ(粒子密度4.47×10g/m)とで粒子が構成されることから、上記式の粒子密度として、3.93×10g/mを用いた。
【0045】
[粒子表面の単位面積当たりのくぼみの数の測定方法]
SEMを用いて倍率50000倍で粒子を観察し、粒子の半面が完全に確認できる粒子200個以上について、半面に存在するくぼみの数を数える。くぼみはSEM写真において、粒子表面上に黒い斑点として観察される。くぼみの数を2倍し、粒子1個あたりの表面に存在するくぼみの数とする。先述の一次粒子径について、粒子径の2乗の累積曲線を作成し、その50%に相当する粒子径を面積基準メディアン径(μm)とし、面積基準メディアン径から、粒子1個あたりの表面積を算出する。1粒子について、くぼみの数を粒子の面積で除した値(有効数字2桁)を、粒子表面の単位面積当たりのくぼみの数とする。
【0046】
[粒子界面抵抗の測定方法]
試料1gを東陽テクニカ製の粉体抵抗測定用治具で圧縮し、Research製VersaSTAT4を用いて電圧300mV、周波数10-3Hz以上10以下を測定し、ナイキストプロットを得る。これを、バルク抵抗、粒子界面抵抗及び電極接触抵抗の3種類の抵抗成分が存在すると仮定して、等価回路にフィッティングし、粒子界面抵抗を求める。図3に粒子界面抵抗算出のために用いた等価回路モデルを示す。
【0047】
[粉体帯電維持率の測定方法]
試料0.100gと鉄粉キャリア9.900gを混合し、直径40mm、高さ85mmのポリエチレン瓶に入れ、Red Devil製Paint Shaker5110で1分間振盪して摩擦帯電させた後、東芝ケミカル製粉体帯電量測定装置TB-200にて速やかに粉体帯電量を測定し、帯電量の初期値とする。測定後、鉄粉キャリアと混合した状態で4分間静置した後、再度測定を行う。経過4分の測定値を初期値で除した値を、帯電維持率とする。
【0048】
[加湿試料の粉体帯電維持率の測定方法]
試料を気温40℃、相対湿度98%の加湿環境に48時間静置した後、上記と同様に粉体帯電維持率を測定する。
【実施例
【0049】
以下の実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
[実施例1]
水酸化ニオブ(V)を濃硫酸に溶解して、硫酸チタン水溶液と混合して、チタン塩及びニオブ塩の酸性混合液(以下「チタンニオブ混合液」という。)を調製した。一次粒子の平均粒径が0.18μm、ルチル化率が0.01の二酸化チタン粉末の表面未処理品を水に分散して懸濁液とし、撹拌しながら昇温した。70℃になったら、pHを2.5に維持しながら、芯材となる二酸化チタンの重量に対して、Tiとして337g/kg、Nbとして20.6g/kgを含有するチタンニオブ混合液と水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加した。添加が終了したら、水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液のpHを5.5に調整し、70℃にて0.5時間保持した後、反応液を冷却後、固形分中のナトリウム含有量が0.2mmol/kg未満、硫黄含有量が11.9mmol/kgとなるまで洗浄し、固液分離した。洗浄後の固形分を乾燥機中で110℃にて12時間乾燥した。乾燥させた固形分を、窒素ガス中700℃で2時間焼成し、焼成品を更に空気雰囲気中430℃で2時間焼成し、粉砕し、試料1を作製した。
【0050】
試料1を蛍光X線及びICP法で測定したところ、ニオブ含有量は170.1mmol/kg、アルカリ金属の含有量は1.5mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は5.2mmol/kgであった。BET法で求めた比表面積S1は9.00m/gであった。SEM画像から解析した一次粒子の体積基準メディアン径は0.226μmで、体積基準メディアン径から算出した1gあたりの表面積S2は6.77m/gであり、S1/S2は1.33であった。面積基準メディアン径は0.203μmであり、単位面積当たりのくぼみの数は100個/μmあった。粒子界面抵抗は6.90×10Ω・cm、帯電量の初期値は-42.2μC/g、帯電維持率は91.1%、加湿試料の帯電維持率は89.1%であった。
【0051】
[実施例2]
反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が2.3mmol/kg、硫黄含有量が14.7mmol/kgとなった時点で洗浄を終了したこと、及び2段目の焼成温度を400℃としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料2を作製した。試料2のニオブ含有量は176.1mmol/kg、アルカリ金属の含有量は5.8mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は9.6mmol/kgであり、S1/S2は1.36、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は100個/μmであった。粒子界面抵抗は5.50×10Ω・cm、帯電量の初期値は-36.3μC/g、帯電維持率は99.4%、加湿試料の帯電維持率は98.5%であった。
【0052】
[実施例3]
反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が3.9mmol/kg、硫黄含有量が7.9mmol/kgとなった時点で洗浄を終了したことを除いては、実施例1と同様の方法で試料3を作製した。試料3のニオブ含有量は173.8mmol/kg、アルカリ金属の含有量は7.2mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は12.2mmol/kgであり、S1/S2は1.23、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は74個/μmであった。粒子界面抵抗は5.80×10Ω・cm、帯電量の初期値は-35.0μC/g、帯電維持率は94.1%、加湿試料の帯電維持率は98.0%であった。
【0053】
[実施例4]
チタンニオブ混合液と水酸化ナトリウム水溶液の添加終了後に反応液のpHを5.5に調整する操作を行わず、pH2.5のまま70℃にて0.5時間保持したこと、反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が0.2mmol/kg未満、硫黄含有量が83.2mmol/kgとなるまで洗浄したこと、及び1段目の焼成温度を750℃、2段目の焼成温度を450℃にしたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料4を作製した。試料4のニオブ含有量は167.0mmol/kg、アルカリ金属の含有量は1.7mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は14.2mmol/kgであり、S1/S2は1.27、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は100個/μmであった。粒子界面抵抗は2.30×10Ω・cm、帯電量の初期値は-37.8μC/g、帯電維持率は87.7%、加湿試料の帯電維持率は85.9%であった。
【0054】
[実施例5]
チタンニオブ混合液と水酸化ナトリウム水溶液の添加終了後に反応液のpHを5.5に調整する操作を行わず、pH2.5のまま70℃にて0.5時間保持したこと、反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が0.2mmol/kg未満、硫黄含有量が175.1mmol/kgとなるまで洗浄したこと、及び1段目の焼成温度を780℃、2段目の焼成温度を470℃にしたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料5を作製した。図1は試料5のSEM写真を示す。試料5のニオブ含有量は170.4mmol/kg、アルカリ金属の含有量は1.5mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は30.2mmol/kgであり、S1/S2は1.57、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は110個/μmであった。粒子界面抵抗は1.30×10Ω・cm、帯電量の初期値は-47.6μC/g、帯電維持率は84.7%、加湿試料の帯電維持率は85.2%であった。
【0055】
[実施例6]
反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が0.2mmol/kg未満、硫黄含有量が8.6mmol/kgとなるまで洗浄したこと、及び1段目の焼成温度を730℃としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料6を作製した。試料6のニオブ含有量は174.6mmol/kg、アルカリ金属の含有量は2.1mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は5.9mmol/kgであり、S1/S2は1.33、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は110個/μmであった。粒子界面抵抗は8.20×10Ω・cm、帯電量の初期値は-44.7μC/g、帯電維持率は92.2%、加湿試料の帯電維持率は86.5%であった。
【0056】
[比較例1]
反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が26.4mmol/kg、硫黄含有量が10.4mmol/kgとなった時点で洗浄を終了したこと、1段目の焼成温度を800℃、2段目の焼成温度を450℃としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料6を作製した。試料6のニオブ含有量は164.2mmol/kg、アルカリ金属の含有量は31.0mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は39.8mmol/kgであり、S1/S2は0.98、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は1.4個/μmであった。粒子界面抵抗は1.50×10Ω・cm、帯電量の初期値は-23.9μC/g、帯電維持率は83.0%、加湿試料の帯電維持率は82.9%であった。
【0057】
[比較例2]
チタンニオブ混合液と水酸化ナトリウム水溶液を添加する際と、添加終了後に保持する際の反応液の液温を60℃とし、反応液を冷却した後に、固形分中のナトリウム含有量が39.4mmol/kg、硫黄含有量が6.7mmol/kgとなった時点で洗浄を終了したこと、1段目の焼成温度を800℃、2段目の焼成温度を450℃としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試料7を作製した。試料7のニオブ含有量は169.9mmol/kg、アルカリ金属の含有量は44.7mmol/kg、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計は50.9mmol/kgであり、S1/S2は0.96、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数は8.1個/μmであった。粒子界面抵抗は1.60×10Ω・cm、帯電量の初期値は-47.9μC/g、帯電維持率は83.6%、加湿試料の帯電維持率は80.4%であった。
【0058】
表1は各試料の作製時の工程Bの中和pH及び反応温度、使用したアルカリ性溶液、工程Cの洗浄終了時のナトリウムの含有量及び硫黄含有量、工程Dの焼成雰囲気及び焼成温度、並びに得られた各試料の特性値(ニオブ含有量、ナトリウム含有量、カリウム含有量、アルカリ金属の含有量、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計、S1/S2、粒子表面単位面積当たりのくぼみの数、粒子界面抵抗、帯電維持率及び加湿試料の帯電維持率)を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明の帯電調整用粉体は、-30.0μC/g以下の帯電量の初期値を有する。アルカリ金属の含有量が20.0mmol/kgより大きく、アルカリ金属の含有量と硫黄含有量の合計が35.0mmol/kgより大きい帯電調整用粉体と比較して粒子界面抵抗及び帯電維持率が大きい。これより、本発明の帯電調整用粉体は、帯電を一定範囲に制御しながら、かつ帯電した電荷を維持する能力に優れていることがわかる。更に、高い湿度に晒した後でも帯電維持率が大きいことから、本発明の帯電調整用粉体は、湿度が大きい環境下でも、帯電した電荷を維持する能力に優れていることがわかる。
図1
図2
図3