(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】誘導加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
H05B6/12 333
(21)【出願番号】P 2020041652
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】文屋 潤
(72)【発明者】
【氏名】飯田 岳秋
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/089900(WO,A1)
【文献】特開2004-171931(JP,A)
【文献】特開2010-218782(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092803(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された少なくとも2つの主スイッチング素子を有するインバータと、
第1加熱コイル及び前記第1加熱コイルと直列に接続された第1共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と電源ライン又はGNDラインとの間に接続された第1共振回路と、
第2加熱コイル及び前記第2加熱コイルと直列に接続された第2共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と前記GNDラインとの間に接続された第2共振回路と、
副スイッチ及び前記副スイッチと直列に接続された副コンデンサを有し、前記第2共振回路の前記第2共振コンデンサと並列に接続された副回路とを備え
、
前記インバータは、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの共振周波数以上の周波数の高周波電流を出力し、
前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルに同時に電力を投入する場合であって、前記第1加熱コイルの上に載置された被加熱物への投入電流を上昇させる場合に、
前記インバータが、前記高周波電流の周波数を、第1周波数から、前記第1周波数よりも小さい第2周波数に変化させ、
前記副スイッチが、オフ状態からオン状態に切り換えられる
誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記副回路が接続された前記第2共振回路に要求される電力に応じて、前記副スイッチの単位時間あたりのオン状態の時間とオフ状態の時間の比率が制御される
請求項
1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記第1共振回路に直列に接続された第1スイッチと、
前記第2共振回路に直列に接続された第2スイッチとを備え、
前記副スイッチは、半導体スイッチング素子にダイオードが逆並列に接続された回路を2組有し、この2組の回路が逆直列に接続されて、双方向導通回路を構成している
請求項1
又は請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記第1共振回路に直列に接続された第1スイッチと、
前記第2共振回路に直列に接続された第2スイッチと、
前記第1スイッチのオン状態とオフ状態を切り換えるための操作を受け付ける第1操作部と、
前記第2スイッチのオン状態とオフ状態とを切り換えるための操作を受け付ける第2操作部とを有し、
前記第1共振回路は、前記インバータの出力と前記電源ラインとの間に接続されており、
前記副回路の前記副スイッチは、半導体スイッチング素子であり、
前記第1スイッチがオン状態のときに、前記第2操作部に対して前記第2スイッチをオン状態とするための操作が加えられた場合には、前記副スイッチをオン状態とした後に、前記第2スイッチをオン状態にする
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの上に載置された被加熱物の材料を判別する制御装置を有し、
前記第1加熱コイルの上に載置された被加熱物が非磁性材料であると判別された場合には、前記副スイッチのオン状態とオフ状態とを切り換えることにより、前記第2加熱コイルの共振周波数を低くし、
前記第2加熱コイルの上に載置された被加熱物が非磁性材料であると判別された場合には、前記第2スイッチをオフ状態とする
請求項
3又は請求項
4に記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
直列に接続された少なくとも2つの主スイッチング素子を有するインバータと、
第1加熱コイル及び前記第1加熱コイルと直列に接続された第1共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と電源ライン又はGNDラインとの間に接続された第1共振回路と、
第2加熱コイル及び前記第2加熱コイルと直列に接続された第2共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と前記GNDラインとの間に接続された第2共振回路と、
副スイッチ及び前記副スイッチと直列に接続された副コイルを有し、
前記第2共振回路の前記第2加熱コイルと並列に接続された副回路とを備えた
誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記インバータは、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの共振周波数以上の周波数の高周波電流を出力し、
前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルに同時に電力を投入する場合であって、前記第1加熱コイルの上に載置された被加熱物への投入電流を上昇させる場合に、
前記インバータから出力される高周波電流の周波数が、第1周波数から、前記第1周波数よりも小さい第2周波数に変化
し、
前記副スイッチ
が、オン状態からオフ状態に切り換えられる
請求項
6記載の誘導加熱調理器。
【請求項8】
直列に接続された少なくとも2つの主スイッチング素子を有するインバータと、
第1加熱コイル及び前記第1加熱コイルと直列に接続された第1共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と電源ライン又はGNDラインとの間に接続された第1共振回路と、
第2加熱コイル及び前記第2加熱コイルと直列に接続された第2共振コンデンサを有し、前記GNDラインと前記インバータの出力との間に接続された第2共振回路と、
副スイッチ及び前記副スイッチと直列に接続された副コンデンサを有する副回路とを備え、
2つの前記副回路が設けられており、
前記副回路の一方は、前記第1共振回路の前記第1共振コンデンサと並列に接続されており、
前記副回路の他方は、前記第2共振回路の前記第2共振コンデンサと並列に接続されて
おり、
前記インバータは、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの共振周波数以上の周波数の高周波電流を出力し、
前記第1加熱コイルと前記第2加熱コイルのうち、一方の上に載置された被加熱物への投入電力を上昇させ、他方の上に載置された被加熱物への投入電力を維持する場合に、
前前記インバータが、前記高周波電流の周波数を、第1周波数から、前記第1周波数よりも小さい第2周波数に変化させ、
前記第1加熱コイルと前記第2加熱コイルのうちの他方に接続された前記副回路の前記副スイッチが、オフ状態からオン状態に切り換えられる
誘導加熱調理器。
【請求項9】
直列に接続された少なくとも2つの主スイッチング素子を有するインバータと、
第1加熱コイル及び前記第1加熱コイルと直列に接続された第1共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と電源ライン又はGNDラインとの間に接続された第1共振回路と、
第2加熱コイル及び前記第2加熱コイルと直列に接続された第2共振コンデンサを有し、前記GNDラインと前記インバータの出力との間に接続された第2共振回路と、
副スイッチ及び前記副スイッチと直列に接続された副コイルを有する副回路とを備え、
2つの前記副回路が設けられており、
前記副回路の一方は、前記第1共振回路の前記第1加熱コイルと並列に接続されており、
前記副回路の他方は、前記第2共振回路の前記第2加熱コイルと並列に接続されている
誘導加熱調理器。
【請求項10】
前記インバータは、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの共振周波数以上の周波数の高周波電流を出力し、
前記第1加熱コイルと前記第2加熱コイルのうち、一方の上に載置された被加熱物への投入電力を上昇させ、他方の上に載置された被加熱物への投入電力を維持する場合に、
前記インバータから出力される高周波電流の周波数が、第1周波数から、前記第1周波数よりも小さい第2周波数に変化し、
前記第1加熱コイルと前記第2加熱コイルのうちの他方に接続された前記副回路の前記副スイッチが、オン状態からオフ状態に切り換えられる
請求項
9記載の誘導加熱調理器。
【請求項11】
前記主スイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体によって構成されている
請求項1~請求項
10のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項12】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンド又はガリウムナイトライドである
請求項
11記載の誘導加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1つのインバータから複数の加熱コイルに高周波電流を供給する誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の加熱コイルと、この複数の加熱コイルに高周波電流を供給するインバータ回路とを備えた誘導加熱調理器がある。このような誘導加熱調理器として、加熱コイルに流れる電流が零の状態を一定期間有する不連続動作と、加熱コイルに流れる電流が零の状態を有さない連続動作とを用いて、被加熱物に投入する電力を制御する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
煮物を作るときなど低出力で長時間加熱したい場合、あるいは被加熱物を保温したい場合には、被加熱物内の液体を沸騰させたり炒め物をしたりする場合と比べて、単位時間あたりに被加熱物に投入される電力を小さくすることが望まれる。特許文献1に記載の誘導加熱調理器では、加熱コイルに流れる電流が零の状態を一定期間有する不連続動作において、電流が零の期間を長くすることで、鍋などの被加熱物に対して単位時間あたりに投入される電力を小さくしている。しかし、電流が零の期間を有する不連続動作を、被加熱物を低出力で加熱したり保温したりするための電流制御に用いた場合、加熱コイルに流れる電流が零のときに被加熱物の温度が低下してしまい、使い勝手が低下するという課題があった。
【0005】
また、単位時間あたりに被加熱物に投入される平均電力を、所望の電力にしようとした場合、加熱コイルに流れる電流が零の状態を有する不連続動作では、連続動作に比べて電流の最大値を大きくする必要がある。加熱コイルに流れる電流が大きくなると、加熱コイル及びインバータの発熱量も大きくなることから、これらを冷却する能力も大きくする必要がある。すなわち、単位時間あたりに被加熱物に投入される平均電力を不連続動作と連続動作とで同じ電力とした場合、不連続動作の方が連続動作よりも冷却負荷が大きくなってしまう。そうすると、インバータの冷却手段として放熱フィンを用いる場合、放熱フィンの大型化につながる。また、加熱コイル及びインバータの冷却手段として送風機を用いる場合には、送風機の大型化、騒音の増加、又は消費電力の増加を招いてしまう。
【0006】
本開示は、上記のような課題と関連したものであり、加熱コイルに流れる電流を零にすることなく、1つのインバータに接続された複数の加熱コイルから被加熱物に投入される電力を段階的に制御することのできる誘導加熱調理器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る誘導加熱調理器は、直列に接続された少なくとも2つの主スイッチング素子を有するインバータと、第1加熱コイル及び前記第1加熱コイルと直列に接続された第1共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と電源ライン又はGNDラインとの間に接続された第1共振回路と、第2加熱コイル及び前記第2加熱コイルと直列に接続された第2共振コンデンサを有し、前記インバータの出力と前記GNDラインとの間に接続された第2共振回路と、副スイッチ及び前記副スイッチと直列に接続された副コンデンサを有し、前記第2共振回路の前記第2共振コンデンサと並列に接続された副回路とを備え、前記インバータは、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルの共振周波数以上の周波数の高周波電流を出力し、前記第1加熱コイル及び前記第2加熱コイルに同時に電力を投入する場合であって、前記第1加熱コイルの上に載置された被加熱物への投入電流を上昇させる場合に、前記インバータが、前記高周波電流の周波数を、第1周波数から、前記第1周波数よりも小さい第2周波数に変化させ、前記副スイッチが、オフ状態からオン状態に切り換えられるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、副回路の副スイッチのオン状態とオフ状態とを切り換えることで、加熱コイルに流れる電流を零にすることなく、1つのインバータに接続された複数の加熱コイルから被加熱物に投入される電力を段階的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の分解斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る第1加熱コイル11に流れる高周波電流を説明する図である。
【
図4】実施の形態1に係る第2加熱コイル13に流れる高周波電流を説明する図である。
【
図5】実施の形態1に係る第1共振回路51と第2共振回路52の共振特性を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る第1加熱口3A及び第2加熱口3Bへの投入電力の変化を説明する図である。
【
図7】本実施の形態に係る第2加熱口3Bへの投入電力の時間変化を示す図である。
【
図8】投入電力が零の期間を有する不連続動作を説明する図である。
【
図9】実施の形態2に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。
【
図10】実施の形態2に係る第2加熱コイル13と副コイル153の構成例を説明する図である。
【
図11】実施の形態3に係る第1共振回路51と第2共振回路52の共振特性を示す図である。
【
図12】実施の形態4に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。
【
図13】実施の形態4に係る第2操作部4Bにオン操作が加えられたときの制御を説明するフローチャートである。
【
図14】実施の形態5に係る誘導加熱調理器100の被加熱物の材料に応じた制御を説明するフローチャートである。
【
図15】実施の形態6に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
【
図16】実施の形態7に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
【
図17】実施の形態8に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る誘導加熱調理器を、キッチン台に組み込まれ、あるいは据え置かれて使用される誘導加熱調理器に適用した場合の実施の形態を、図面を参照して説明する。本開示に記載の技術は、主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、以下では、各実施の形態に示す構成のうち、組合せ可能な構成のあらゆる組合せを開示する。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。なお、各図面では、各構成部材の相対的な寸法関係又は形状等が実際のものとは異なる場合がある。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の分解斜視図である。
図1では、誘導加熱調理器100によって加熱される鍋などの被加熱物200を併せて図示するとともに、説明のため筐体2の一部を切り欠いて示している。誘導加熱調理器100は、被加熱物200が載置される天板1と、天板1の下に設けられた概ね箱形の筐体2とを有する。誘導加熱調理器100の上部には、操作入力を受け付ける操作部4と、情報を表示する表示部5が設けられている。天板1の下には、天板1の上に載置される被加熱物200を誘導加熱する第1加熱コイル11と、第2加熱コイル13とが設けられている。筐体2内には、制御装置6とインバータ20とが収容されている。
【0012】
天板1は、耐熱性ガラス又はセラミック等の非金属材料で構成される。天板1には、被加熱物200が載置される領域である第1加熱口3A及び第2加熱口3Bが設けられている。本実施の形態の天板1には、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bの外縁が印刷によって示されている。
図1では、円形の第1加熱口3A及び第2加熱口3Bが設けられた例を示しているが、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bの形状及び数は、図示の例に限定されない。
【0013】
第1加熱コイル11は、第1加熱口3Aの下に配置され、第2加熱コイル13は、第2加熱口3Bの下に配置される。第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13は、たとえば銅線又はアルミ線などの導線を巻回して構成されたコイルであり、高周波電流が供給されることで高周波磁界を発生する。
【0014】
制御装置6は、インバータ20を制御することで、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13の通電制御を行う。制御装置6は、操作部4を介して入力された情報に基づいて、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bに載置される被加熱物に所望の電力が供給されるように、インバータ20を制御する。なお、これ以降の説明において、第1加熱口3Aに載置される被加熱物への投入電力を、第1加熱口3Aへの投入電力、と称する場合がある。また、第2加熱口3Bに載置される被加熱物への投入電力を、第2加熱口3Bへの投入電力、と称する場合がある。制御装置6は、その機能を実現する回路デバイスなどのハードウェア、又はマイコン等の演算装置及びその上で実行されるソフトウェアで構成される。
【0015】
図2は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。
図2では、誘導加熱調理器100に電源を供給する商用交流電源40を併せて図示している。誘導加熱調理器100は、直流化手段41と、直流化手段41の出力側に接続されたインバータ20と、電源電位を供給する電源ライン42と、基準電位を供給するGNDライン43とを有する。直流化手段41は、ダイオードブリッジを備え、商用交流電源40から供給される交流電力を直流電力に変換する。
【0016】
インバータ20は、直流化手段41から出力される直流電力を高周波電力に変換して、この高周波電力を第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に供給する。インバータ20は、第1主スイッチング素子21と、第2主スイッチング素子22とを有するハーフブリッジ型インバータである。第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22は、電源ライン42とGNDライン43との間に直列に接続されている。第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22との間に、インバータ20の出力点がある。第1主スイッチング素子21のゲート端子及び第2主スイッチング素子22のゲート端子は、制御装置6に接続されている。
【0017】
第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22は、例えばワイドバンドギャップ半導体によって構成されている。ワイドバンドギャップ半導体は、シリコンと比較して、バンドギャップが大きい半導体素子の総称である。ワイドバンドギャップ半導体には、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンド又はガリウムナイトライドがある。第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22をワイドバンドギャップ半導体で構成することで、スイッチング素子の通電損失を減らすことができる。また、ワイドバンドギャップ半導体は放熱性が良好であるため、第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22を駆動する際のスイッチング周波数を高周波とした場合でも、放熱フィンを小型にすることができる。したがって、インバータ20の冷却構造の小型化及び低コスト化を実現することができる。また、ワイドバンドギャップ半導体は高温下でも性能が低下しにくいため、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13等の排熱によって高温化しやすい筐体2内において、第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22の信頼性を維持できる。
【0018】
インバータ20の出力点と、電源ライン42との間には、第1加熱コイル11と第1共振コンデンサ12とが直列に接続されている。第1加熱コイル11と第1共振コンデンサ12とで第1共振回路51を形成する。
【0019】
インバータ20の出力点と、GNDライン43との間には、第2加熱コイル13と第2共振コンデンサ14とが直列に接続されている。第2加熱コイル13と第2共振コンデンサ14とで第2共振回路52を形成する。
【0020】
第2加熱コイル13とGNDライン43との間には、第2共振コンデンサ14と並列に、副回路15が接続されている。副回路15は、副スイッチ151と、副コンデンサ152とを有する。副スイッチ151と副コンデンサ152とは直列に接続されている。副スイッチ151のオン状態とオフ状態とは、制御装置6によって切り換えられる。副スイッチ151のオン状態とオフ状態とが切り換えられることにより、副コンデンサ152の第2共振回路52への接続状態と未接続状態とが切り換えられる。
図2に示す副スイッチ151は、IGBT又はMOSFETなどの半導体素子で構成されており、副スイッチ151のゲート端子は、制御装置6に接続されている。半導体素子で構成された副スイッチ151には、ダイオード154が逆並列に接続されている。副スイッチ151がワイドバンドギャップ半導体で構成されていてもよい。ワイドバンドギャップ半導体は、高温下でも性能が低下しにくいため、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13等の排熱によって高温化しやすい筐体2内において、副スイッチ151の信頼性を維持できる。なお、副スイッチ151は、機械式リレーであってもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1に係る第1加熱コイル11に流れる高周波電流を説明する図である。
図3では、1つのインバータ20に接続された第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13のうち、第1加熱コイル11に供給される高周波電流を矢印で概念的に示している。また、
図3では、図の煩雑化を避けるため、
図2に示したダイオード154の図示を省略している。
図3において、(a)は第1主スイッチング素子21がオン、第2主スイッチング素子22がオフの状態を示し、(b)は第1主スイッチング素子21がオフ、第2主スイッチング素子22がオンの状態を示している。
図3の(a)の状態と(b)の状態とが、交互に切り換えられることにより、高周波電流が第1加熱コイル11に供給される。
図3(a)に示すように、第1主スイッチング素子21がオンすると、第1加熱コイル11を介して第1共振コンデンサ12へと電流が流れる。次に、
図3(b)に示すように、第1主スイッチング素子21がオフして第2主スイッチング素子22がオンすると、第1加熱コイル11を介して第1共振コンデンサ12から放電する。
図3の(a)の動作と(b)の動作を繰り返すことにより、第1加熱コイル11に高周波磁界が発生する。この高周波磁界が、鍋などの被加熱物と交差することにより、被加熱物に渦電流が発生して、被加熱物が発熱する。
【0022】
図4は、実施の形態1に係る第2加熱コイル13に流れる高周波電流を説明する図である。
図4では、1つのインバータ20に接続された第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13のうち、第2加熱コイル13に供給される高周波電流を矢印で概念的に示している。また、
図4では、図の煩雑化を避けるため、
図2に示したダイオード154の図示を省略している。
図4において、(a)は第1主スイッチング素子21がオン、第2主スイッチング素子22がオフの状態を示し、(b)は第1主スイッチング素子21がオフ、第2主スイッチング素子22がオンの状態を示している。
図4の(a)の状態と(b)の状態とが、交互に切り換えられることにより、高周波電流が第2加熱コイル13に供給される。
図4(a)に示すように、第1主スイッチング素子21がオンすると、第2加熱コイル13を介して第2共振コンデンサ14へと電流が流れる。次に、
図4(b)に示すように、第1主スイッチング素子21がオフして第2主スイッチング素子22がオンすると、第2加熱コイル13を介して第2共振コンデンサ14から放電する。
図4の(a)の動作と(b)の動作を繰り返すことにより、第2加熱コイル13に高周波磁界が発生する。この高周波磁界が、鍋などの被加熱物と交差することにより、被加熱物に渦電流が発生して、被加熱物が発熱する。
【0023】
図3では第1加熱コイル11に着目して電流の流れを説明し、
図4では第2加熱コイル13に着目して電流の流れを説明したが、インバータ20から出力される高周波電流は、第1加熱コイル11と第2加熱コイル13の両方に同時に流れる。すなわち、
図3(a)と
図4(a)に示す電流の流れが同時に発生し、
図3(b)と
図4(b)に示す電流の流れが同時に発生する。
図3(a)と
図4(a)において第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に流れる電流の位相は、
図3(b)と
図4(b)において第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に流れる電流の逆位相である。
【0024】
さらに
図4において、副スイッチ151がオン状態のときに副回路15に流れる電流を破線矢印で概念的に示している。
図4(a)に示すように、第1主スイッチング素子21がオンすると、第2加熱コイル13を介して、副コンデンサ152へと電流が流れる。副コンデンサ152と第2共振コンデンサ14とが並列に接続されているため、副スイッチ151がオン状態のときには、第2加熱コイル13と第2共振コンデンサ14と副コンデンサ152とで共振回路が構成される。次に、
図4(b)に示すように、第1主スイッチング素子21がオフして第2主スイッチング素子22がオンすると、第2加熱コイル13を介して副コンデンサ152から放電する。
【0025】
第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22のオン状態とオフ状態とが切り換わる周波数、すなわちインバータ20から出力される高周波電流の周波数を、駆動周波数と称する。
図2に示した制御装置6は、駆動周波数を制御することで、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13によって被加熱物に投入される電力を制御する。
【0026】
図5は、実施の形態1に係る第1共振回路51と第2共振回路52の共振特性を示す図である。
図5において、横軸はインバータ20の駆動周波数を示し、縦軸はアドミタンス(1/Ω)を示している。
図5では、
図2に示した第1共振回路51の共振特性を特性61にて示し、
図2に示した第2共振回路52の共振特性を、特性62、62Aにて示している。共振特性の頂点における周波数が、共振周波数を示す。
図5において、特性61の共振周波数をf0_1、特性62の共振周波数をf0_2、特性62Aの共振周波数をf0_2Aで示す。ここで、共振回路の共振周波数f0は、f0=1/2π√(L値×C値)で表される。L値は、共振回路のコイルの自己インダクタンス値であり、C値はコンデンサのキャパシタンス値である。
【0027】
第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22の駆動周波数は、電波法の規制によって20kHz~100kHzの範囲に定められている。
図2に示すハーフブリッジ型のインバータ20においては、被加熱物に投入する電力の制御をする際に、この範囲で駆動周波数を変化させる。具体的には、
図5の特性61に示すように、駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に低下させると、駆動周波数は第1共振回路51の共振周波数に近づく。そうすると、第1加熱コイル11に載置される被加熱物に電力が投入されやすくなる。これは駆動周波数が共振周波数に近づくことにより、アドミタンスが大きくなる、すなわちインピーダンスが小さくなるためである。駆動周波数は、第1共振回路51及び第2共振回路52の共振周波数よりも高い周波数の領域で、制御される。
図5の例では、第2共振回路52の共振周波数f0_2よりも、第1共振回路51の共振周波数f0_1の方が高いので、本実施の形態ではf0_1よりも高い周波数領域で、駆動周波数が制御される。このように、インバータ20の駆動周波数を変化させることで、被加熱物に投入する電力制御を実現する。
【0028】
図5において、特性62は副スイッチ151がオフの状態を示し、特性62Aは副スイッチ151がオンの状態を示している。副スイッチ151がオフの場合、第2共振回路52の共振周波数f0_2=1/2π√(L2×C2)である。ここで、L2は第2加熱コイル13の自己インダクタンス値、C2は第2共振コンデンサ14のキャパシタンス値である。副スイッチ151がオンのとき、第2共振コンデンサ14と副コンデンサ152とが並列に接続されていることにより、合成キャパシタンス値は、C2+C3となる。ここで、C3は副コンデンサ152のキャパシタンス値である。そうすると、副スイッチ151がオンの場合の共振周波数f0_2Aは、f0_2A=1/2π√(L2×(C2+C3))にて表される。すなわち、副スイッチ151がオフの場合の共振周波数f0_2に対して、副スイッチ151がオンの場合の共振周波数f0_2Aの方が小さい。
【0029】
したがって、副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることにより、第2共振回路52は、特性62と特性62Aという2種類の共振特性を得ることができる。
【0030】
本実施の形態では、1つのインバータ20に第1加熱コイル11と第2加熱コイル13という2つのコイルを接続している。ここで、第1加熱コイル11に対応した第1加熱口3Aへの投入電力と、第2加熱コイル13に対応した第2加熱口3Bへの投入電力とを、個別に制御することを考える。上記のように、第1加熱口3Aへの投入電力を上昇させるためにインバータ20の駆動周波数をf1からf2に低下させると、特性61の点Aから点Cへとアドミタンスが上昇する。これに伴って、第2共振回路52の特性62のアドミタンスが、点Bから点Dへと上昇してしまう。つまり、第1加熱口3Aへの投入電力を上昇させようとした場合に、同時に第2加熱口3Bへの投入電力も上昇してしまう。
【0031】
そこで、駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に低下させるときに、副回路15の副スイッチ151をオン状態とする。そうすると、第2共振回路52の共振特性は、特性62Aで示す状態となる。駆動周波数が第2周波数f2のときの特性62AにおけるアドミタンスD1は、駆動周波数が第1周波数f1のときの特性62におけるアドミタンスBと同じである。したがって、駆動周波数が第1周波数f1から第2周波数f2に低下しても、第2加熱口3Bに投入される電力は、変化しない。このように、1つのインバータ20からの出力によって、第1加熱口3Aへの投入電力と、第2加熱口3Bへの投入電力とを、個別に制御することができる。
【0032】
図6は、実施の形態1に係る第1加熱口3A及び第2加熱口3Bへの投入電力の変化を説明する図である。
図6(a)は、副スイッチ151がオフの状態で、駆動周波数を変化させたときの、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bへの投入電力の変化を示している。
図6(a)に示すように、インバータ20の駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に低下させると、第1加熱口3Aへの投入電力が500Wから2500Wに上昇する。
図6(a)の例では、駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2へ掃引しているため、第1加熱口3Aの投入電力も500Wから2500Wへ連続的に変化している。そして、
図5でも説明したように、駆動周波数の低下に伴って、第2加熱口3Bの投入電力が200Wから1000Wへと上昇する。
【0033】
図6(b)は、駆動周波数の変更に伴って副回路15の副スイッチ151を切り換えた場合の投入電力の変化を示している。
図6(b)に示すように、副スイッチ151がオフの状態において、第1加熱口3Aに500W、第2加熱口3Bに200Wが投入されている。インバータ20の駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に低下させると、第1加熱口3Aへの投入電力が500Wから2500Wに上昇するのは、
図6(a)にて示した通りである。これに伴って第2加熱口3Bへの投入電力が200Wから1000Wに上昇するが、このときに副スイッチ151をオン状態に切り換える。そうすると、第2加熱口3Bへの投入電力は、再び200Wとなる。このように、駆動周波数を低下させるとともに、副スイッチ151をオフからオンへ切り換えることにより、第1加熱口3Aへの投入電力を上昇させつつ第2加熱口3Bへの投入電力を駆動周波数の変更前の状態に維持できる。すなわち、第1加熱口3Aへの投入電力と第2加熱口3Bへの投入電力とを、個別に制御することができる。
【0034】
なお、副スイッチ151としてIGBTを用いて副スイッチ151をオン状態にするときには、副スイッチ151に印加するゲート電圧を徐々に上昇させてもよい。このようにすると、第2加熱口3Bへの投入電力は、1000Wから200Wへと徐々に低下する。投入電力を徐々に低下させることで、電力が急峻変化した際に鍋などの被加熱物から発生する異音を抑制することができる。
【0035】
図7は、本実施の形態に係る第2加熱口3Bへの投入電力の時間変化を示す図である。
図7では、副回路15の副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることによる、第2加熱口3Bへの投入電力の変化を示している。駆動周波数が一定であるとすると、副スイッチ151がオフのときとオンのときとで、第2加熱口3Bに投入される電力が異なる。これは、
図5に示したように、駆動周波数が第2周波数f2の場合を例にとると、副スイッチ151がオフ状態で特性62の点Dで表されるアドミタンスと、副スイッチ151がオン状態で特性62Aの点D1で表されるアドミタンスとが異なることに起因している。したがって、副スイッチ151をオフ状態にすることで、
図7に示す投入電力P1が得られ、副スイッチ151をオン状態にすることで、
図7に示す投入電力P2が得られる。なお、投入電力P1は投入電力P2よりも大きい。
【0036】
副スイッチ151がオンのときもオフのときも、第2加熱コイル13には高周波電流が流れるので、第2加熱口3Bへの投入電力は零にはならない。すなわち、投入電力P1及びP2は、零よりも大きい値である。このように、副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換え、このオン状態とオフ状態の時間の比率を調整することで、第2加熱口3Bへの投入電力を零にすることなく、単位時間あたりの投入電力を所望の値に制御することができる。
図7に示すような投入電力P1と投入電力P2とを交互に第2加熱口3Bに投入する制御は、第2加熱口3Bの被加熱物を保温する際又は煮物を作るときなど低出力で長時間加熱する際に適しており、誘導加熱調理器100の使い勝手を向上させることができる。
【0037】
図8は、投入電力が零の期間を有する不連続動作を説明する図である。
図8において、投入電力P4は零である。
図8に示すように、投入電力P3の状態と投入電力P4の状態を交互に繰り返した場合、単位時間あたりの投入電力を所望の値に制御することはできる。しかし、投入電力が零の状態があるため、この不連続動作で被加熱物を保温しようとすると、投入電力が零の期間に被加熱物の温度が低下してしまう。また、単位時間あたりの投入電力を、
図7に示す本実施の形態と同じ値にしようとした場合、投入電力P3は、投入電力P1よりも大きな値とする必要がある。すなわち、
図8のように投入電力が零の期間を設けると、投入電力の最大値を大きくしなければならない。投入電力が大きくなると、加熱コイル及びインバータの発熱量が大きくなり、これらの冷却能力も大きくする必要が生じる。
【0038】
しかし、
図7に示す本実施の形態によれば、
図8の投入電力P3と比べて投入電力P1を小さくできるので、インバータ20、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13の冷却負荷を小さくすることができる。また、本実施の形態によれば、投入電力P1と投入電力P2との間の変動量が、投入電力P3と投入電力P4との間の変動量よりも小さいので、被加熱物の温度変化を生じさせにくい。したがって、本実施の形態によれば、被加熱物の保温に適した投入電力の制御を行うことができる。
【0039】
以上のように、本実施の形態の誘導加熱調理器100は、直列に接続された第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22を有するインバータ20を備えた。インバータ20の出力と電源ライン42との間には、第1共振回路51が接続されている。第1共振回路51は、第1加熱コイル11及び第1加熱コイル11と直列に接続された第1共振コンデンサ12を有している。また、インバータ20の出力とGNDライン43との間には、第2共振回路52が接続されている。第2共振回路52は、第2加熱コイル13及び第2加熱コイル13と直列に接続された第2共振コンデンサ14を有している。また、第2共振回路52の第2共振コンデンサ14と並列に、副回路15が接続されている。副回路15は、副スイッチ151及び副スイッチ151と直列に接続された副コンデンサ152を有している。このため、副スイッチ151のオンとオフとを切り換えることで、第2加熱コイル13に流れる電流を零にすることなく、1つのインバータ20に接続された第1加熱コイル11と第2加熱コイル13それぞれから被加熱物に投入される電力を、段階的に制御できる。
【0040】
実施の形態2.
本実施の形態は、実施の形態1の副回路15とは異なる構成の副回路15Aを備えている。本実施の形態では、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0041】
図9は、実施の形態2に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。
図9において、第1加熱コイル11と第1共振コンデンサ12の互いの位置が、
図2で示したものと逆である。また、
図9において、第2加熱コイル13と第2共振コンデンサ14の互いの位置が、
図2で示したものと逆である。
【0042】
本実施の形態の副回路15Aは、副スイッチ151と、副コイル153とを備えている。副スイッチ151と副コイル153とは直列に接続されている。副回路15Aは、第2共振コンデンサ14とGNDライン43との間に、第2加熱コイル13と並列に接続されている。副スイッチ151のオン状態とオフ状態とが切り換えられることにより、副コイル153の第2共振回路52への接続状態と未接続状態とが切り換えられる。
【0043】
図10は、実施の形態2に係る第2加熱コイル13と副コイル153の構成例を説明する図である。第2加熱コイル13及び副コイル153は、
図1に示した第2加熱口3Bと対向する位置に設けられ、第2加熱口3Bに載置される被加熱物の加熱源として機能する。
図10に示すように、第2加熱コイル13と副コイル153をともに渦巻き状に形成し、これらを並列に配置してもよい。そのほか、環状の第2加熱コイル13の内周側に、環状の副コイル153を配置してもよい。副コイル153は、副スイッチ151を介して第2加熱コイル13に接続される。
【0044】
副スイッチ151がオン状態のときには、第2加熱コイル13及び副コイル153が第2加熱口3Bの加熱源として機能し、副スイッチ151がオフ状態のときには、第2加熱コイル13のみが第2加熱口3Bの加熱源として機能する。
【0045】
本実施の形態では、副回路15Aの副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることにより、実施の形態1と同様に、第2加熱口3Bへの投入電力を制御する。以下、具体的に説明する。
【0046】
共振回路の共振周波数f0は、共振周波数f0=1/2π√(L値×C値)で表されることを説明した。これを本実施の形態の第2共振回路52の共振周波数f0_2に当てはめる。副スイッチ151がオフ状態のときには、共振周波数f0_2=1/2π√(L2×C2)である。ここで、L2は第2加熱コイル13の自己インダクタンス値、C2は第2共振コンデンサ14のキャパシタンス値である。副スイッチ151がオン状態のときには、共振周波数f0_2=1/2π√(L2//L3×C2)である。L3は副コイル153のインダクタンス値であり、L2//L3=L2×L3/(L2+L3)である。
【0047】
本実施の形態では、副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることにより、第2共振回路52のコイルの巻き数が切り換えられる。副スイッチ151をオフ状態にすると、副スイッチ151がオン状態の時と比べてL値が大きくなるため、共振周波数f0_2が小さくなる。すなわち、
図5を参照すると、副スイッチ151がオフ状態のときに、特性62Aが得られ、副スイッチ151がオン状態のときに、特性62が得られる。したがって、
図5において駆動周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に低下させて第1加熱口3Aへの投入電力を増加させ、第2加熱口3Bへの投入電力は増加させず維持したい場合に、副スイッチ151をオンからオフへ切り換える。このようにすることで、第1加熱口3Aへの投入電力と第2加熱口3Bへの投入電力とを、それぞれ段階的に制御することができる。
【0048】
以上のように、本実施の形態は、直列に接続された第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22を有するインバータ20を備えた。インバータ20の出力と電源ライン42との間には、第1共振回路51が接続されている。第1共振回路51は、第1加熱コイル11及び第1加熱コイル11と直列に接続された第1共振コンデンサ12を有している。また、インバータ20の出力とGNDライン43との間には、第2共振回路52が接続されている。第2共振回路52は、第2加熱コイル13及び第2加熱コイル13と直列に接続された第2共振コンデンサ14を有している。また、第2共振回路52の第2加熱コイル13と並列に、副回路15Aが接続されている。副回路15Aは、副スイッチ151及び副スイッチ151と直列に接続された副コイル153を有している。このため、副スイッチ151のオンとオフとを切り換えることで、第2加熱コイル13に流れる電流を零にすることなく、1つのインバータ20に接続された第1加熱コイル11と第2加熱コイル13それぞれから被加熱物に投入される電力を、段階的に制御できる。
【0049】
また、本実施の形態では、第2加熱コイル13と副コイル153とを、1つの第2加熱口3Bの加熱源として配置した。実施の形態1では、第2共振回路52の共振周波数に関する特性62と特性62Aとを得るために、副コンデンサ152を設けていたが、本実施の形態では同様の2種類の共振周波数の特性を得るための副コイル153は、第2加熱口3Bの加熱源として設けられる。すなわち、本実施の形態では、共振特性を切り換えるための部品を回路基板に追加しなくてよい。したがって、回路基板の小型化を実現することができる。
【0050】
実施の形態3.
本実施の形態では、被加熱物への投入電力をより細かく制御する手段を説明する。本実施の形態は、実施の形態1の
図2と同じ回路構成であるものとして説明する。なお、本実施の形態で説明する事項を、実施の形態2の回路構成と組み合わせることもできる。
【0051】
図11は、実施の形態3に係る第1共振回路51と第2共振回路52の共振特性を示す図である。
図11では、
図5における特性62Aに代えて、特性62Bを示している。特性62Bは、副スイッチ151がオン状態のときの共振特性であるが、特性62Bの共振周波数f0_2Bは、
図5の特性62Aの共振周波数f0_2Aよりも低い。
図5では、第1周波数f1のときの特性62におけるアドミタンス(点B)と、第2周波数f2のときの特性62Aにおけるアドミタンス(点D1)とが、同じ値であった。しかし
図11では、第2周波数f2のときのアドミタンス(点D2)が、特性62におけるアドミタンス(点B)及び特性62Aにおけるアドミタンス(点D1)よりも小さい値である。すなわち、
図11と
図5とを比べると、第2周波数f2のときに第2加熱口3Bに投入される電力が、特性62Bの方が特性62Aよりも小さい。
【0052】
図11において、第2周波数f2のときに、点Dにおいて第2加熱口3Bに投入される電力が1000W、点D2において第2加熱口3Bに投入される電力が100Wであるとする。副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることで、第2加熱口3Bに対する投入電力が、1000Wと100Wとの間で切り換えられる。第2加熱口3Bへの投入電力を、1000Wと100Wとの間の値にする場合には、副スイッチ151のオン時間とオフ時間との比率を変化させる。例えば、
図11の点D1における電力(=200W)を得たい場合には、100%×200W=(1000W×(100-d)%)+(100W×d%)より、d=88.9%を得る。そして、副スイッチ151のオン時間がd(=88.9%)となるように、副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換える。このように、副スイッチ151のオンとオフの時間比率を調整することで、単位時間あたりの投入電力の平均値として、所望の投入電力を得ることができる。
【0053】
なお、
図5に示した特性62Aを
図11に示す特性62Bに変更するには、副コンデンサ152のキャパシタンス値を大きくすればよい。また、実施の形態2のように副コイル153を備えた副回路15Aであれば、
図5に示した特性62Aを
図11に示す特性62Bに変更するには、副コイル153のインダクタンス値を大きくすればよい。
【0054】
以上のように本実施の形態では、副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えたとき、第2共振回路52において、特性62と特性62Bという2種類の共振特性が得られるようにした。そして、特性62における第1周波数f1のときの第2加熱口3Bへの投入電力よりも、特性62Bにおける第2周波数f2のときの第2加熱口3Bへの投入電力の方が小さくなるように、第2共振回路52の共振特性を設定した。副スイッチ151のオンとオフの時間比率を制御することで、第2加熱口3Bへの投入電力を制御できるので、より細かな電力制御を行うことができる。したがって、誘導加熱調理器100の使い勝手を向上させることができる。
【0055】
ここで、共振回路における共振特性は、鍋等の被加熱物の材質及び位置によっても変化する。これは、被加熱物の材質及び位置によって、加熱コイルのインダクタンス値が変化するためである。しかし、本実施の形態によれば、副スイッチ151のオンとオフの時間比率を調整する幅があるので、被加熱物の材質及び位置の違いによる共振特性の差が吸収され、精度よく投入電力を制御することができる。
【0056】
実施の形態4.
本実施の形態では、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの一方のみを使用できるようにした態様を説明する。さらに本実施の形態では、実施の形態1、2で示した副スイッチ151に代えて、副スイッチ151Bを備えた例を示す。以下、実施の形態1~3との相違点を中心に説明する。
【0057】
図12は、実施の形態4に係る誘導加熱調理器100の回路構成を示す図である。副回路15Bは、直列に接続された副コンデンサ152と副スイッチ151Bとを有する。副スイッチ151Bは、いわゆる双方向型のIGBTである。詳しくは、副スイッチ151Bは、半導体素子で構成された半導体スイッチング素子155とこれに逆並列に接続されたダイオード154からなる回路の組を、2組有する。この半導体スイッチング素子155とダイオード154からなる2組の回路は、逆直列に接続されて、双方向導通回路を構成している。2つの半導体スイッチング素子155のゲート端子は、制御装置6に接続されている。半導体スイッチング素子155は、ワイドバンドギャップ半導体によって構成されていてもよい。ワイドバンドギャップ半導体は、高温下でも性能が低下しにくいため、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13等の排熱によって高温化しやすい筐体2内において、半導体スイッチング素子155の信頼性を維持できる。
【0058】
副スイッチ151Bを、双方向型のIGBTとすることで、第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22のオン状態とオフ状態とを切り換えたときに、副スイッチ151Bにおける不要な通電を回避することができる。ここで、
図2に示した半導体素子で構成された副スイッチ151とダイオード154とが逆並列接続された態様を、比較対象として参照する。
図2では、副スイッチ151がオフ状態に制御されていたとしても、第1主スイッチング素子21がオフで第2主スイッチング素子22がオンのとき、副スイッチ151がオンのときと同じ状態になり得る。すなわち、第2主スイッチング素子22がオンになると、副スイッチ151のエミッタからコレクタに向かう方向と同じ方向で、第2加熱コイル13に電流が流れる(
図2及び
図4参照)。そうすると、副スイッチ151のダイオード154を介して電流が流れ、副スイッチ151が導通状態となってしまう。すなわち、副スイッチ151をオフ状態として、副コンデンサ152を第2共振回路52に対して未接続の状態にしたい場合に、副コンデンサ152が第2共振回路52に接続されてしまう。そうなると、加熱口への投入電力の制御の精度が低下してしまう。
【0059】
本実施の形態では、双方向型のIGBTにて副スイッチ151Bを構成したので、第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22のオン状態とオフ状態とによらず、副スイッチ151Bが意図せず導通状態となるのを回避することができる。したがって、加熱口への投入電力の制御の精度を、さらに向上させることができる。
【0060】
また、誘導加熱調理器100には、
図12に示すように、第1操作部4Aと、第2操作部4Bとが設けられている。第1操作部4A及び第2操作部4Bは、使用者の操作入力を受け付けるボタン又はスイッチ等の入力装置である。第1操作部4A及び第2操作部4Bに対して操作が加えられると、操作に対応した信号が制御装置6に入力される。第1操作部4Aは、第1加熱コイル11に対応した第1加熱口3Aを使用するか否かを切り換えるためのものである。第2操作部4Bは、第2加熱コイル13に対応した第2加熱口3Bを使用するか否かを切り換えるためのものである。
【0061】
電源ライン42には、インバータ20と第1共振回路51との間に、第1スイッチ31が設けられている。第1スイッチ31がオフ状態になると、第1共振回路51が電源ライン42から切り離される。GNDライン43には、インバータ20と第2共振回路52との間に、第2スイッチ32が設けられている。第2スイッチ32がオフ状態になると、第2共振回路52がGNDライン43から切り離される。
【0062】
制御装置6は、第1操作部4A及び第2操作部4Bからの入力に基づいて、第1スイッチ31及び第2スイッチ32のオン状態とオフ状態とを切り換える。
【0063】
本実施の形態の誘導加熱調理器100では、第1加熱口3Aを使用するか否かと、第2加熱口3Bを使用するか否かを、個別に設定できるようになっている。ここで、第1スイッチ31は、第1加熱口3Aが使用されないときにはオフ状態であり、第2スイッチ32は、第2加熱口3Bが使用されないときにはオフ状態である。
【0064】
第1加熱口3Aのみを使用したい場合、使用者は、第1操作部4Aにオン操作を加える。そうすると、第1操作部4Aにオン操作が加えられたことを示すオン信号が、制御装置6に入力される。制御装置6は、第1操作部4Aからオン信号が入力されると、第1スイッチ31をオフ状態からオン状態に切り換える。このようにすることで、第1共振回路51がインバータ20に電気的に接続され、第1加熱コイル11に高周波電流を供給できる状態になる。また、第2加熱口3Bのみを使用したい場合、使用者は、第2操作部4Bにオン操作を加える。そうすると、第2操作部4Bにオン操作が加えられたことを示すオン信号が、制御装置6に入力される。制御装置6は、第2操作部4Bからオン信号が入力されると、第2スイッチ32をオフ状態からオン状態に切り換える。このようにすることで、第2共振回路52がインバータ20に電気的に接続され、第2加熱コイル13に高周波電流を供給できる状態になる。
【0065】
第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの一方のみが使用される場合には、使用される方に対応した第1加熱コイル11又は第2加熱コイル13にのみ、高周波電流が供給される。
【0066】
また、第1加熱口3Aのみを使用している状態で、第1加熱口3Aの使用を停止したい場合、使用者は、第1操作部4Aにオフ操作を加える。そうすると、第1操作部4Aにオフ操作が加えられたことを示すオフ信号が、制御装置6に入力される。制御装置6は、第1操作部4Aからオフ信号が入力されると、第1スイッチ31をオン状態からオフ状態に切り換える。このようにすることで、第1共振回路51がインバータ20から電気的に切り離され、第1加熱コイル11には高周波電流が供給されない状態になる。また、第2加熱口3Bのみを使用している状態で、第2加熱口3Bの使用を停止したい場合、使用者は、第2操作部4Bにオフ操作を加える。そうすると、第2操作部4Bにオフ操作が加えられたことを示すオフ信号が、制御装置6に入力される。制御装置6は、第2操作部4Bからオフ信号が入力されると、第2スイッチ32をオン状態からオフ状態に切り換える。このようにすることで、第2共振回路52がインバータ20から電気的に切り離され、第2加熱コイル13には高周波電流が供給されない状態になる。
【0067】
次に、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bを両方同時に使用する場合について説明する。本実施の形態では、
図12に示したように、第1共振回路51及び第2共振回路52が電源ライン42に対して接続される。第1スイッチ31及び第2スイッチ32が同時にオン状態になったとき、第1共振コンデンサ12及び第2共振コンデンサ14には、電源電圧が印加されることになる。また、副回路15Bの副コンデンサ152には、半導体素子で構成された副スイッチ151Bが直列に接続されている。半導体素子である副スイッチ151Bには、副スイッチ151Bがオフ状態であったとしても、μAオーダーの遮断電流が流れる。このため、第1スイッチ31及び第2スイッチ32が同時にオン状態になると、副コンデンサ152の両端に電圧が印加され、副コンデンサ152にも充電されることになる。副コンデンサ152に充電された状態で、副スイッチ151Bがオン状態になると、副コンデンサ152の充電電荷によって副スイッチ151Bに過電流が流れてしまうおそれがある。そうすると、副スイッチ151Bの定格電流を超える電流によって、副スイッチ151Bが破損されうる。そこで、本実施の形態の制御装置6は、副回路15Bが接続された第2共振回路52に対応した第2操作部4Bに、オン操作が加えられたとき、以下に示すような制御を行う。
【0068】
図13は、実施の形態4に係る第2操作部4Bにオン操作が加えられたときの制御を説明するフローチャートである。制御装置6は、第2操作部4Bにオン操作が加えられたか否か、すなわち第2操作部4Bからオン信号が入力されたか否かを監視する(S1)。第2操作部4Bにオン操作が加えられると(S1;YES)、第1スイッチ31がオン状態か否かを確認する(S2)。
【0069】
第1スイッチ31がオン状態であるとき(S2;YES)、副スイッチ151Bがオン状態に変更され(S3)、その後、第2スイッチ32がオン状態に変更される(S4)。このように、第2操作部4Bにオン操作が加えられたときに既に第1スイッチ31がオン状態であれば、副スイッチ151Bをオン状態にした後に、第2スイッチ32をオン状態にする。ステップS3にて副スイッチ151Bをオン状態にすることで、副コンデンサ152の充電電荷が放電される。副コンデンサ152の充電電荷が放電された後に第2スイッチ32がオン状態になることで、副コンデンサ152の充電電荷によって副スイッチ151Bに過電流が流れる現象を回避することができる。
【0070】
第1スイッチ31がオン状態でないときには(S2;NO)、続けて、第2スイッチ32がオン状態に変更される(S5)。第1スイッチ31がオン状態でなければ、上記したような遮断電流及び過電流の問題は生じないので、副スイッチ151Bをオン状態にしてから第2スイッチ32をオン状態にしなくてよい。
【0071】
図13で説明した制御は、実施の形態1及び実施の形態3において、副スイッチ151が半導体素子である場合に適用できる。なお、副スイッチ151が半導体素子ではなく機械式リレーである場合には、上記したような遮断電流及び過電流の問題は生じないので、
図13で説明した制御を行わなくてもよい。また、後述する実施の形態6のように、共振回路が電源ライン42に接続されない構成であれば、上記した遮断電流による副コンデンサ152への充電が生じないので、
図13で説明した制御を行わなくてもよい。
【0072】
実施の形態5.
鍋などの被加熱物の材料としては、鉄等の磁性材料及びアルミ等の非磁性材料がある。被加熱物の材料によって、共振回路の共振周波数が異なることが知られている。本実施の形態では、被加熱物の材料に応じた誘導加熱調理器100の制御について説明する。以下、
図12に示した回路構成を採用した誘導加熱調理器100を例に、本実施の形態の制御を説明する。
【0073】
まず、
図12に示すように、誘導加熱調理器100は、1つのインバータ20から第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に高周波電流を供給する。このため、第1加熱コイル11に供給される高周波電流の駆動周波数と、第2加熱コイル13に供給される高周波電流の駆動周波数とは、当然ながら同じである。第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの両方に、磁性鍋又は非磁性鍋のいずれか同じ種類のものが載置される場合、第1加熱口3Aにおける共振周波数と、第2加熱口3Bにおける共振周波数とが、概ね一致する。具体的には、
図5を参照すると、特性61の共振周波数f0_1と、特性62の共振周波数f0_2とが、概ね一致した状態になる。このため、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bに同じ材料の被加熱物が載置されている場合、上記実施の形態で示したように、駆動周波数を切り換え、また通電比率を制御することで、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bに所望の電力を投入することが可能となる。
【0074】
ところが、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bとに、異なる材料の被加熱物が載置された場合には、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bとで共振周波数が異なる。非磁性鍋が載置された加熱口においては、加熱コイルのインダクタンス値が小さくなるために、磁性鍋が載置された場合と比べて共振周波数が高くなる。
図5において、共振周波数よりも高い周波数の領域で駆動周波数が制御されることを説明したが、共振周波数が高くなると駆動周波数も高くする必要がある。例えば、磁性鍋の駆動周波数が22kHz程度、非磁性鍋の駆動周波数が35kHz程度である。2つの加熱口に同一の駆動周波数の高周波電流を供給する場合、非磁性鍋の駆動周波数に合わせてインバータ20を制御すると、磁性鍋にとっては高すぎる駆動周波数となり、磁性鍋に所望の電力を投入できない。このような事項を背景として、以下では、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bで、異なる材料の被加熱物を同時に加熱する場合の制御を説明する。
【0075】
図14は、実施の形態5に係る誘導加熱調理器100の被加熱物の材料に応じた制御を説明するフローチャートである。ここで、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bには、磁性材料の被加熱物である磁性鍋又は非磁性材料の被加熱物である非磁性鍋が載置されているものとする。また、
図12に示した第1スイッチ31及び第2スイッチ32はオン状態であるものとする。
【0076】
第1加熱口3A及び第2加熱口3Bに対して加熱開始の操作が入力されると、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bの被加熱物の材料が判定される(S10)。具体的には、制御装置6は、インバータ20を制御して、材料判定用の周波数の高周波電流を、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に供給する。材料判定用の周波数は、非磁性材料の共振周波数よりも高い周波数とすることができる。このようにすることで、材料判定を行っているときに被加熱物に投入される電力を、抑制することができる。材料判定用の周波数で第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に高周波電流を供給している状態で、制御装置6は、第1加熱コイル11に流れるコイル電流の値及び電圧の値、並びに第2加熱コイル13に流れるコイル電流の値及び電圧の値を検出する。特定の入力電流を供給したときのコイル電流の値、電圧の値、及びコイル電流と電圧との位相差によって、被加熱物の材料を判定することができる。
【0077】
ステップS10での判定に基づき、第1加熱口3Aに非磁性鍋が載置されている場合には(S11;非磁性鍋)、副スイッチ151Bがオン状態に切り換えられる(S12)。そして、第1加熱口3Aに設定された電力が第1加熱口3Aに優先的に投入されるように、駆動周波数が制御される(S13)。
【0078】
このように、第1加熱口3Aに非磁性材料の被加熱物が載置されている場合には、副スイッチ151Bをオン状態にして、第2共振回路52の共振コンデンサ容量を大きくする。この状態で、第1加熱口3Aに設定された電力が得られるよう、駆動周波数が制御される。第1加熱口3Aには非磁性材料の被加熱物が載置されているので、駆動周波数は、35kHz程度の高い値に制御される。第2共振回路52のコンデンサ容量を大きくすると、第2共振回路52の共振周波数が低下し、第2加熱口3Bに投入できる電力が小さくなる(
図5の特性62A参照)。しかし、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの投入電力の合計を一定とした場合、第2加熱口3Bの投入電力が小さくなることで、共振周波数の高い非磁性材料の被加熱物が載置された第1加熱口3Aには、大きな電力を投入できるようになる。
【0079】
なお、この場合、副スイッチ151Bをオン状態にして第2共振回路52の共振周波数を低下させることで、第2加熱口3Bに投入できる電力が小さくなってしまうが、メリットもある。すなわち、副スイッチ151Bをオフ状態とした場合でも、第1加熱口3Aの共振周波数が高くなることに伴ってインバータ20の駆動周波数が大きくなるため、第2加熱口3Bに投入できる電力が小さくなる。また、非磁性鍋が載置された第1加熱コイル11のインピーダンスが小さくなるため、第1共振回路51には大きな出力電流が流れることになる。したがって、第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22の損失が増え、損失が増えると第1加熱口3A及び第2加熱口3Bの双方に投入できる電力も低下する。したがって、本実施の形態のように、副スイッチ151Bをオン状態にして第2加熱口3Bに投入できる電力を抑制することで、第1加熱口3Aにおける加熱を優先させる。このようにすることで、第2加熱口3Bでの加熱調理の優先度は下がるものの、第1加熱口3Aにおいて非磁性鍋を使用したい使用者の使い勝手を向上させることができる。
【0080】
ステップS10での判定に基づき、第1加熱口3Aに磁性鍋が載置されている場合であって(S11;磁性鍋)、第2加熱口3Bに非磁性鍋が載置されている場合には(S14;非磁性鍋)、第2加熱口3Bの使用が禁止される(S15)。
【0081】
第2加熱口3Bでは、非磁性鍋を使用不可とすることで、磁性鍋が載置された第1加熱口3Aに所望の電力を投入できる。このため、第1加熱口3Aで加熱調理を行いたい使用者の使い勝手を向上させることができる。なお、本実施の形態では、非磁性鍋を使用したい場合には、第1加熱口3Aにて加熱することができるので(ステップS12、S13)、使用者の使い勝手を大きく損なうこともない。
【0082】
ステップS15において第2加熱口3Bの使用を禁止する場合には、表示部5にて、第2加熱口3Bにおいて非磁性鍋が使用できないことを表示するとよい。併せて、非磁性鍋を使用したい場合には第1加熱口3Aを使うことを促す情報を表示してもよい。また、表示部5における表示に代えて、あるいはこれに加えて、音声にて同様の情報を出力してもよい。このようにすることで、第2加熱口3Bを使用できないことによる使用者の混乱を解消することができる。
【0083】
ステップS10での判定に基づき、第1加熱口3A及び第2加熱口3Bに磁性鍋が載置されている場合には(S11;磁性鍋、S14;磁性鍋)、設定された電力が第1加熱口3A及び第2加熱口3Bに投入されるように、駆動周波数が制御される(S16)。このステップS16における駆動周波数の制御は、実施の形態1で述べた通りである。
【0084】
以上のように本実施の形態によれば、第1加熱口3Aにおいて非磁性材料で構成された被加熱物を使用することができる。このため、鍋等の被加熱物の選択の幅が広がり、使用者の使い勝手を向上させることができる。第1加熱口3Aで非磁性材料の被加熱物を加熱しているときに、第2加熱口3Bにおいて投入電力は大きくないものの加熱を行うことができる。したがって、2つの第1加熱口3Aと第2加熱口3Bとを同時に使用したい使用者の使い勝手を大きく損ねることがない。
【0085】
実施の形態6.
実施の形態1~5では、第1共振回路51が電源ライン42に接続され、第2共振回路52がGNDライン43に接続された回路構成例を説明した。本実施の形態では、第1共振回路51及び第2共振回路52が、GNDライン43に接続される回路構成例を説明する。本実施の形態では、実施の形態1~5との相違点を中心に説明する。
【0086】
図15は、実施の形態6に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
図15に示すように、インバータ20の出力とGNDライン43との間に、第1共振回路51と第2共振回路52とが並列に接続されている。また、第2共振回路52の第2共振コンデンサ14と並列に、副回路15が接続されている。第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22とが、交互にオフ状態からオン状態に切り換えられることで、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に高周波電流が供給される。インバータ20の駆動周波数、及び駆動周波数に応じた副回路15の副スイッチ151の制御は、実施の形態1にて説明した通りである。
【0087】
以上のように、本実施の形態の誘導加熱調理器100は、直列に接続された第1主スイッチング素子21及び第2主スイッチング素子22を有するインバータ20を備えた。インバータ20の出力とGNDライン43との間には、第1共振回路51が接続されている。第1共振回路51は、第1加熱コイル11及び第1加熱コイル11と直列に接続された第1共振コンデンサ12を有している。また、インバータ20の出力とGNDライン43との間には、第2共振回路52が接続されている。第2共振回路52は、第2加熱コイル13及び第2加熱コイル13と直列に接続された第2共振コンデンサ14を有している。また、第2共振回路52の第2共振コンデンサ14と並列に、副回路15が接続されている。副回路15は、副スイッチ151及び副スイッチ151と直列に接続された副コンデンサ152を有している。このため、副スイッチ151のオンとオフとを切り換えることで、第2加熱コイル13に流れる電流を零にすることなく、1つのインバータ20に接続された第1加熱コイル11と第2加熱コイル13それぞれから被加熱物に投入される電力を、段階的に制御できる。
【0088】
実施の形態7.
本実施の形態は、実施の形態1に示した副回路15を、2つ設けたものである。以下、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0089】
図16は、実施の形態7に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
図16に示すように、第2共振回路52に設けられた副回路15に加え、第1共振回路51にも副回路15が設けられている。具体的には、第1共振コンデンサ12と並列に、副回路15が設けられている。副回路15の副スイッチ151と副コンデンサ152とが直列に設けられている点は、実施の形態1と同じである。
【0090】
第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22とが、交互にオフ状態からオン状態に切り換えられることで、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に高周波電流が供給される。インバータ20の駆動周波数に応じて、2つの副回路15それぞれの副スイッチ151のオン状態とオフ状態とが、切り換えられる。
【0091】
ここで、
図5では、第2共振回路52に設けられた副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることで、特性62と特性62Aという2種類の共振特性が得られることを説明した。本実施の形態では、第1共振回路51にも副回路15を設けているので、この副回路15に設けられた副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを切り換えることで、第1共振回路51についても2種類の共振特性を得ることができる。すなわち、第1共振回路51と第2共振回路52の双方において、2種類の共振特性を得ることができる。したがって、2種類の共振特性を組み合わせることで、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bとに投入される電力をより精度よく段階的に制御することができる。
【0092】
例えば、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの両方に電力を投入している状態において、第1加熱口3Aへの投入電力を上昇させ、第2加熱口3Bの投入電力を維持する場合には、インバータ20の駆動周波数を低下させる。これにより、駆動周波数が第1加熱コイル11の共振周波数に近づくことで、第1加熱口3Aに投入される電力を上昇させることができる。併せて、第2共振回路52に接続された副回路15の副スイッチ151を、オフ状態からオン状態に変更する。このようにすることで、第2共振回路52の共振周波数が小さくなるため、駆動周波数が低下しても第2加熱口3Bに投入される電力の上昇を回避できる。なお、上記実施の形態で述べたとおり、副スイッチ151のオン状態の時間とオフ状態の時間の比率を調整することで、第2加熱口3Bへの投入電力のさらに詳細な制御が行われる。また、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの両方に電力を投入している状態において、第1加熱口3Aへの投入電力を維持し、第2加熱口3Bへの投入電力を上昇させる場合には、インバータ20の駆動周波数を低下させる。これにより、駆動周波数が第2加熱コイル13の共振周波数に近づくことで、第2加熱口3Bに投入される電力を上昇させることができる。併せて、第1共振回路51に接続された副回路15の副スイッチ151を、オフ状態からオン状態に変更する。このようにすることで、第1共振回路51の共振周波数が小さくなるため、駆動周波数が低下しても第1加熱口3Aに投入される電力の上昇を回避できる。なお、上記実施の形態で述べたとおり、副スイッチ151のオン状態の時間とオフ状態の時間の比率を調整することで、第1加熱口3Aへの投入電力のさらに詳細な制御が行われる。
【0093】
実施の形態8.
本実施の形態は、実施の形態2に示した副回路15Aを、2つ設けたものである。以下、実施の形態2との相違点を中心に説明する。
【0094】
図17は、実施の形態8に係る誘導加熱調理器100の回路構成を説明する図である。
図17に示すように、第2共振回路52に設けられた副回路15Aに加え、第1共振回路51にも副回路15Aが設けられている。具体的には、第1加熱コイル11と並列に、副回路15Aが設けられている。副回路15Aの副スイッチ151と副コイル153とが直列に設けられている点は、実施の形態2と同じである。
【0095】
第1主スイッチング素子21と第2主スイッチング素子22とが、交互にオフ状態からオン状態に切り換えられることで、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13に高周波電流が供給される。インバータ20の駆動周波数に応じて、2つの副回路15Aそれぞれの副スイッチ151のオン状態とオフ状態とが、切り換えられる。
【0096】
本実施の形態では、第1共振回路51と第2共振回路52の双方に副回路15Aを設けている。このため、それぞれの副回路15Aに設けられた副スイッチ151のオン状態とオフ状態とを個別に切り換えることで、第1共振回路51と第2共振回路52の双方において、2種類の共振特性を得ることができる。したがって、2種類の共振特性を組み合わせることで、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bとに投入される電力をより精度よく段階的に制御することができる。
【0097】
例えば、第1加熱口3Aと第2加熱口3Bの両方に電力を投入している状態において、第1加熱口3Aへの投入電力を上昇させ、第2加熱口3Bの投入電力を維持する場合には、インバータ20の駆動周波数を低下させる。これにより、駆動周波数が第1加熱コイル11の共振周波数に近づくことで、第1加熱口3Aに投入される電力を上昇させることができる。併せて、第2共振回路52に接続された副回路15Aの副スイッチ151を、オン状態からオフ状態に変更する。このようにすることで、第2共振回路52の共振周波数が小さくなるため、駆動周波数が低下しても第2加熱口3Bに投入される電力の上昇を回避できる。なお、上記実施の形態で述べたとおり、副スイッチ151のオン状態の時間とオフ状態の時間の比率を調整することで、第2加熱口3Bへの投入電力のさらに詳細な制御が行われる。
【0098】
なお、上記実施の形態で開示した技術は、炊飯器又は電気鍋に適用することもできる。この場合、第1加熱コイル11及び第2加熱コイル13により、炊飯器又は電気鍋の容器を誘導加熱することができる。被加熱物である炊飯器又は電気鍋の容器は、その炊飯器又は電気鍋に固有のものであるため、その材料は既知の状態である。したがって、実施の形態5で示した被加熱物の材料に応じた制御を行う必要はない。
【符号の説明】
【0099】
1 天板、2 筐体、3A 第1加熱口、3B 第2加熱口、4 操作部、4A 第1操作部、4B 第2操作部、5 表示部、6 制御装置、11 第1加熱コイル、12 第1共振コンデンサ、13 第2加熱コイル、14 第2共振コンデンサ、15 副回路、15A 副回路、15B 副回路、20 インバータ、21 第1主スイッチング素子、22 第2主スイッチング素子、31 第1スイッチ、32 第2スイッチ、40 商用交流電源、41 直流化手段、42 電源ライン、43 GNDライン、51 第1共振回路、52 第2共振回路、61 特性、62 特性、62A 特性、62B 特性、100 誘導加熱調理器、151 副スイッチ、151B 副スイッチ、152 副コンデンサ、153 副コイル、154 ダイオード、155 半導体スイッチング素子、200 被加熱物。