(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】クラッチユニット
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20231215BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20231215BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20231215BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
B60N2/16
A47C7/02 D
F16D41/10
(21)【出願番号】P 2020050527
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓俊
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007543(JP,A)
【文献】特開平6-313448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08-41/12
B60N 2/16
A47C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する入力側クラッチ部と、前記入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とからなり、
前記出力側クラッチ部は、前記入力側クラッチ部からの回転トルクが入力される入力部材と、前記入力部材からの回転トルクが出力される出力部材とを備え、
前記入力部材から入力される回転トルクの解除時、前記出力部材に対して入力部材を中立位相に復帰させる位相復帰手段を入力部材および出力部材に設けたことを特徴とするクラッチユニット。
【請求項2】
前記位相復帰手段は、前記入力部材に周方向に延びる長孔を形成すると共に、前記出力部材に軸方向に突出する凸部を形成し、前記長孔内に前記凸部を配置することにより形成された空間に弾性部材を収容した構造をなす請求項1に記載のクラッチユニット。
【請求項3】
前記位相復帰手段は、前記入力部材および前記出力部材の周方向3箇所以上に設けられている請求項1又は2に記載のクラッチユニット。
【請求項4】
前記入力側クラッチ部と前記出力側クラッチ部が自動車用シートリフタ部に組み込まれている請求項1~3のいずれか一項に記載のクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転トルクが入力される入力側クラッチ部と、入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側からの回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とを備えたクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒ころ等の係合子を用いるクラッチユニットでは、入力部材と出力部材間にクラッチ部が配設される。クラッチ部は、入力部材と出力部材間で係合子を係合および離脱させることにより、回転トルクの伝達および遮断を制御する構成になっている。
【0003】
本出願人は、レバー操作により座席シートを上下調整する自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットを先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたクラッチユニットは、
図9に示すように、レバー操作により回転トルクが入力されるレバー側クラッチ部1と、レバー側クラッチ部1からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側からの回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部2とを備えている。
【0005】
レバー側クラッチ部1の主要部は、レバー操作により回転トルクが入力される外輪3と、外輪3からの回転トルクをブレーキ側クラッチ部2に伝達する内輪4と、外輪3と内輪4間の楔すきまでの係合および離脱により外輪3からの回転トルクの伝達および遮断を制御する円筒ころ5とで構成されている。
【0006】
ブレーキ側クラッチ部2の主要部は、レバー側クラッチ部1からの回転トルクが入力される内輪4と、内輪4からの回転トルクが出力される出力軸6と、回転が拘束された外輪7と、出力軸6と外輪7間の楔すきまでの係合および離脱により出力軸からの回転トルクの遮断と内輪4からの回転トルクの伝達とを制御する円筒ころ8および板ばね9(
図10参照)とで構成されている。
【0007】
レバー側クラッチ部1では、レバー操作により外輪3に回転トルクが入力されると、円筒ころ5が外輪3と内輪4間の楔すきまに係合する。楔すきまでの円筒ころ5の係合により、内輪4に回転トルクが伝達されて内輪4が回転する。
【0008】
ブレーキ側クラッチ部2では、座席シートへの着座により出力軸6に回転トルクが逆入力されると、
図10に示すように、円筒ころ8が出力軸6と外輪7間の楔すきまと係合して出力軸6が外輪7に対してロックされる。出力軸6のロックで出力軸6から逆入力される回転トルクは遮断される。これにより、座席シートの座面高さが保持される。
【0009】
一方、レバー側クラッチ部1から回転トルクがブレーキ側クラッチ部2に入力されると、
図11に示すように、内輪4が円筒ころ8を押圧することにより、円筒ころ8が出力軸6と外輪7間の楔すきまから離脱する。楔すきまからの円筒ころ8の離脱により、出力軸6のロック状態が解除され、出力軸6は回転可能となる。
【0010】
内輪4がさらに回転すると、内輪4からの回転トルクが出力軸6に伝達され、出力軸6が回転する。出力軸6の回転により、座席シートの座面高さが調整可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ブレーキ側クラッチ部2では、レバー側クラッチ部1から入力される回転トルクが解除されてなくなると、二つの円筒ころ8間に介挿された板ばね9の弾性力により内輪4を押し戻すことにより、内輪4を出力軸6に対して中立位相に復帰させる(
図10参照)。
【0013】
出力軸6に対する内輪4の位相復帰により、円筒ころ8が出力軸6と外輪7間の楔すきまと係合して出力軸6が外輪7に対してロックされる。このようにして、レバー側クラッチ部1からの回転トルクの入力解除後、出力軸6のロック状態を確保している。
【0014】
ここで、レバー側クラッチ部1からの回転トルクの入力解除時、内輪4を出力軸6に対して中立位相に復帰させるために内輪4を押し戻す力は、円筒ころ8を介して内輪4に作用する板ばね9の弾性力のみである。
【0015】
そのため、内輪4が他の構成部品との摺動抵抗を持ち、その摺動抵抗による回転トルクが、板ばね9の弾性力でもって内輪4を押し戻す回転トルクよりも大きい場合、板ばね9の弾性力だけでは、内輪4を押し戻して出力軸6に対して中立位相に復帰させることが困難となる。
【0016】
その結果、円筒ころ8が出力軸6と外輪7間の楔すきまから離脱したままの状態(
図11参照)、つまり、レバー側クラッチ部1からの回転トルクの入力解除後、出力軸6のロック状態が解除されたままとなり、ロック状態確保の妨げになるおそれがある。
【0017】
また、出力軸6のロック状態が解除されたままであると、レバー側クラッチ部1での反転操作時、円筒ころ8と内輪4との間に存在する周方向隙間m(
図11参照)が大きいので、これがガタとなって内輪4の回転に対して出力軸6の回転ロスが大きくなる。
【0018】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、レバー側クラッチ部から入力される回転トルクの解除時、内輪を出力軸に対して中立位相に確実に復帰させ得るクラッチユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るクラッチユニットは、入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する入力側クラッチ部と、入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とを具備する。
【0020】
本発明における出力側クラッチ部は、入力側クラッチ部からの回転トルクが入力される入力部材と、入力部材からの回転トルクが出力される出力部材とを備えている。
【0021】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、入力部材から入力される回転トルクの解除時、出力部材に対して入力部材を中立位相に復帰させる位相復帰手段を入力部材および出力部材に設けたことを特徴とする。
【0022】
本発明では、入力部材および出力部材に設けられた位相復帰手段により、入力部材から入力される回転トルクの解除時、出力部材に対して入力部材を中立位相に確実に復帰させることができる。
【0023】
このように、出力部材に対して入力部材を中立位相に確実に復帰させることで、入力部材からの回転トルクの入力解除後、出力部材のロック状態を確保することが容易となる。
【0024】
本発明における位相復帰手段は、入力部材に周方向に延びる長孔を形成すると共に、出力部材に軸方向に突出する凸部を形成し、長孔内に凸部を配置することにより形成された空間に弾性部材を収容した構造が望ましい。
【0025】
このような構造を採用すれば、長孔と凸部とで形成された空間に収容した弾性部材の弾性力を利用することにより、入力部材からの回転トルクの入力解除時、出力部材に対して入力部材を中立位相に復帰させることが容易となる。
【0026】
本発明における位相復帰手段は、入力部材および出力部材の周方向3箇所以上に設けられていることが望ましい。
【0027】
このような構造を採用すれば、出力部材に対して入力部材を中立位相に復帰させるに際して、出力部材に対して入力部材を安定して動作させることができる。
【0028】
本発明における入力側クラッチ部および出力側クラッチ部は、自動車用シートリフタ部に組み込まれた構造が望ましい。
【0029】
このような構造を採用すれば、入力側クラッチ部をレバー側クラッチ部とし、出力側クラッチ部をブレーキ側クラッチ部とすることで、自動車用シートリフタ部において、ブレーキ側クラッチ部でのブレーキ力を向上させることができ、レバー側クラッチ部でのレバー反転操作時のガタを抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、位相復帰手段でもって、入力部材からの回転トルクの入力解除時、出力部材に対して入力部材を中立位相に確実に復帰させることができ、入力部材からの回転トルクの入力解除後、出力部材のロック状態を確保することが容易となる。
【0031】
このクラッチユニットを自動車用シートリフタ部に組み込んだ場合、ブレーキ側クラッチ部でのブレーキ力を向上させることができ、レバー側クラッチ部でのレバー反転操作時のガタを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態で、クラッチユニットの全体構成を示す断面図である。
【
図4】自動車の座席シートおよびシートリフタ部を示す構成図である。
【
図6】
図1の内輪および出力軸を示す斜視図である。
【
図9】従来のクラッチユニットの全体構成を示す断面図である。
【
図10】
図9の出力軸のロック状態を示す部分拡大断面図である。
【
図11】
図9の出力軸のロック解除状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係るクラッチユニットの実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態では、自動車用シートリフタ部に組み込まれたクラッチユニットを例示するが、自動車用シートリフタ部以外にも適用可能である。
【0034】
図1はクラッチユニットの全体構成を示す断面図、
図2は
図1のP-P線に沿う断面図、
図3は
図1のQ-Q線に沿う断面図である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前にクラッチユニットの全体構成を説明する。
【0035】
この実施形態のクラッチユニット10は、
図1に示すように、入力側クラッチ部としてのレバー側クラッチ部11と、出力側クラッチ部としてのブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造である。
【0036】
レバー側クラッチ部11は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する。
【0037】
レバー側クラッチ部11の主要部は、
図1および
図2に示すように、側板13と、外輪14と、内輪15と、複数の円筒ころ16と、保持器17と、内側センタリングばね18と、外側センタリングばね19とで構成されている。
【0038】
側板13の外周に軸方向へ延びる爪部13aを形成すると共に、外輪14の外周に切り欠き凹部14aを形成する。爪部13aを切り欠き凹部14aに嵌合させて加締めることにより、側板13と外輪14とが一体化されている。外輪14への回転トルクの入力は、側板13に取り付けられた操作レバー43(
図4参照)により行われる。
【0039】
内輪15は、出力軸22が挿通された筒状部15aと、筒状部15aのブレーキ側を径方向外側に延在させた拡径部15bと、拡径部15bの外周を軸方向に延在させた複数の柱部15c(
図3参照)とからなる。内輪15は、外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する。
【0040】
外輪14の内周には、複数のカム面14bが周方向等間隔に形成されている。外輪14のカム面14bと、内輪15の筒状部15aの円筒面15dとの間には、楔すきま20が形成されている。
【0041】
円筒ころ16は、外輪14と内輪15との間に配置される。円筒ころ16は、外輪14のカム面14bと内輪15の円筒面15dとの間に形成された楔すきま20での係合および離脱により外輪14からの回転トルクの伝達および遮断を制御する。
【0042】
保持器17は、円筒ころ16を収容するポケット17aが周方向複数箇所に等間隔で形成されている。保持器17は、ポケット17aにより、外輪14のカム面14bと内輪15の円筒面15dとの間の楔すきま20で円筒ころ16を保持する。
【0043】
内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配された断面円形のC字状弾性部材であり、その両端部を保持器17およびカバー24の一部に係止させている。
【0044】
内側センタリングばね18は、レバー操作により外輪14から回転トルクが入力されると、静止状態のカバー24に対して、外輪14に追従する保持器17の回転に伴い拡径して弾性力が蓄積される。外輪14からの回転トルクの入力がなくなると、内側センタリングばね18の弾性力により保持器17が中立状態に復帰する。
【0045】
内側センタリングばね18の径方向外側に位置する外側センタリングばね19は、外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配されたC字状の帯板弾性部材であり、その両端部を外輪14およびカバー24の一部に係止させている。
【0046】
外側センタリングばね19は、レバー操作により外輪14から回転トルクが入力されると、静止状態のカバー24に対して、外輪14の回転に伴い拡径して弾性力が蓄積される。外輪14からの回転トルクの入力がなくなると、外側センタリングばね19の弾性力により外輪14が中立状態に復帰する。
【0047】
ブレーキ側クラッチ部12の主要部は、
図1および
図3に示すように、レバー側クラッチ部11から延びる内輪15の柱部15cと、出力軸22と、静止系としての外輪23、カバー24および側板25と、複数対の円筒ころ27および断面N字形の板ばね28と、摩擦リング29とで構成されている。
【0048】
内輪14は、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが入力される入力部材である。また、出力軸22は、内輪14からの回転トルクが出力される出力部材である。
【0049】
出力軸22は、内輪15の筒状部15aが外挿された軸部22aと、軸部22aの略中央部位から径方向外側に延びる大径部22bと、軸部22aの出力側に同軸的に形成されたピニオンギヤ部22dとからなる。
【0050】
大径部22bの外周には、複数(
図3では6つ)の平坦なカム面22eが周方向等間隔に形成されている。大径部22bのカム面22eと外輪23の円筒面23aとの間には、楔すきま26が形成されている。楔すきま26に、2つの円筒ころ27とその間に介挿された1つの板ばね28とが配されている。
【0051】
円筒ころ27は、楔すきま26での係合および離脱により、出力軸22から逆入力される回転トルクの遮断と内輪15の柱部15cから入力される回転トルクの伝達とを制御する。板ばね28は、円筒ころ27同士に周方向への離反力を付勢する。
【0052】
複数対(
図3では6対)の円筒ころ27および板ばね28は、内輪15の柱部15cにより周方向等間隔に配されている。柱部15cは、レバー側クラッチ部11の外輪14から入力される回転トルクを出力軸22に伝達する機能と、円筒ころ27および板ばね28をポケット15fに収容して周方向等間隔に保持する機能とを有する。
【0053】
出力軸22の大径部22bには、内輪15からの回転トルクを出力軸22に伝達するための凸部22fが設けられている。凸部22fは、内輪15の拡径部15bに形成された孔15eに周方向のクリアランスをもって挿入配置されている。
【0054】
出力軸22のピニオンギヤ部22dは、シートリフタ部39(
図4参照)と連結される。軸部22aの入力側にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、レバー側クラッチ部11の構成部品を抜け止めしている。
【0055】
外輪23およびカバー24の外周に切り欠き凹部23b,24aを形成すると共に、側板25の外周に軸方向へ延びる爪部25aを形成する。切り欠き凹部23b,24aに爪部25aを嵌合させて加締めることにより、外輪23、カバー24および側板25が一体化されている。
【0056】
摩擦リング29は、例えば樹脂製の部材であり、側板25に固着されている。摩擦リング29は、出力軸22の大径部22bに形成された環状凹部22cの内周面22gに嵌め合い代をもって圧入されている。
【0057】
摩擦リング29の外周面29aと環状凹部22cの内周面22gとの間に生じる摩擦力によって、レバー操作時、静止状態の側板25に固着された摩擦リング29に対して摺動する出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0058】
以上のような構造を具備するレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の動作例を以下に説明する。
【0059】
レバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16が外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合する。
【0060】
この楔すきま20での円筒ころ16の係合により、内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。
【0061】
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する。内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。操作レバー43(
図4参照)のポンピング操作による外輪14の回転繰り返しで、内輪15は寸動回転する。
【0062】
ブレーキ側クラッチ部12では、座席シート40(
図4参照)への着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。
【0063】
このように、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされ、レバー側クラッチ部11へ逆入力される回転トルクの還流が遮断される。これにより、座席シート40の座面高さは保持される。
【0064】
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部11からの回転トルクが内輪15に入力されると、内輪15の柱部15cが円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して円筒ころ27を押圧する。これにより、円筒ころ27が楔すきま26から離脱する。
【0065】
この楔すきま26からの円筒ころ27の離脱により、出力軸22のロック状態が解除されて出力軸22は回転可能となる。このレバー操作によるロック解除時、摩擦リング29により出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0066】
そして、内輪15がさらに回転すると、内輪15の拡径部15bの孔15eと出力軸22の大径部22bの凸部22fとのクリアランスが詰まって内輪15の拡径部15bが出力軸22の凸部22fに回転方向で当接する。
【0067】
これにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、凸部22fを介して出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。つまり、内輪15が寸動回転すると、出力軸22も寸動回転する。その結果、座席シート40の座面高さが調整可能となる。
【0068】
以上で説明したクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の座面高さを調整する自動車用シートリフタ部39に組み込まれて使用される。
図4は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。
【0069】
図4に示すように、シートリフタ部39における座席シート40の座面高さは、レバー側クラッチ部11の側板13(
図1参照)に取り付けられた操作レバー43によって調整される。シートリフタ部39は、以下の構造を具備する。
【0070】
スライド可動部材44にリンク部材45,46の一端が回動自在に枢着されている。リンク部材45,46の他端は座席シート40に回動自在に枢着されている。リンク部材45の他端にはセクターギヤ47が一体的に設けられている。セクターギヤ47は出力軸22のピニオンギヤ部22dと噛合している。
【0071】
例えば、座席シート40の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、シートリフタ部39の操作レバー43を下側へ揺動させることにより、ブレーキ側クラッチ部12(
図1参照)のロック状態を解除する。
【0072】
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除時、摩擦リング29(
図1参照)により出力軸22に適正な回転抵抗を付与することで、座席シート40の座面をスムーズに低くすることができる。
【0073】
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除により、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12に伝達された回転トルクでもって、出力軸22のピニオンギヤ部22dが時計方向(
図4の矢印方向)に回動する。
【0074】
そして、ピニオンギヤ部22dと噛合するセクターギヤ47が反時計方向(
図4の矢印方向)に揺動し、リンク部材45とリンク部材46が共に傾倒して座席シート40の座面が低くなる。
【0075】
このようにして、座席シート40の座面高さを調整した後、操作レバー43を開放すると、操作レバー43が両センタリングばね18,19の弾性力によって上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0076】
なお、操作レバー43を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で座席シート40の座面が高くなる。座席シート40の座面高さを調整した後に操作レバー43を開放すると、操作レバー43が下側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0077】
この実施形態におけるクラッチユニット10の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成である位相復帰手段について、以下に詳述する。
【0078】
ブレーキ側クラッチ部12では、レバー側クラッチ部11から入力される回転トルクが解除されてなくなると、二つの円筒ころ27間に介挿された板ばね28の弾性力により内輪15の柱部15cを押し戻すことにより、その内輪15の柱部15cを出力軸22に対して中立位相に復帰させている(
図3参照)。
【0079】
出力軸22に対する内輪15の位相復帰により、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。このようにして、レバー側クラッチ部11からの回転トルクの入力解除後、出力軸22のロック状態を確保している。
【0080】
ここで、内輪15が他の構成部品との摺動抵抗を持ち、その摺動抵抗による回転トルクが、板ばね28の弾性力でもって内輪15を押し戻す回転トルクよりも大きい場合、板ばね28の弾性力だけでは、内輪15を押し戻して出力軸22に対して中立位相に復帰させることが困難となることから、板ばね28とは別に、位相復帰手段32を設けている。
【0081】
この位相復帰手段32は、
図5および
図6に示すように、ブレーキ側クラッチ部12の内輪15および出力軸22に設けられている。
【0082】
つまり、レバー側クラッチ部11からの回転トルクの解除時、出力軸22に対して内輪15を中立位相に復帰させる機能を具備した位相復帰手段32を、内輪15の拡径部15bおよび出力軸22の大径部22bに設けている。
【0083】
位相復帰手段32は、内輪15の拡径部15bに設けられた長孔15g(
図7参照)と、出力軸22の大径部22bに設けられた凸部22h(
図8参照)と、長孔15gの内部空間に配された弾性部材33とで構成されている。弾性部材33としては、コイルばねを例示しているが、板ばねあるいはエラストマー等であってもよい。
【0084】
長孔15gおよび凸部22hは、内輪15の拡径部15bおよび出力軸22の大径部22bの周方向3箇所に等間隔で設けられたトルク伝達用の孔15eおよび凸部22fと同様、拡径部15bおよび大径部22bの周方向3箇所に等間隔で設けられている。
【0085】
この実施形態では、3箇所に設けられた長孔15gおよび凸部22hを例示しているが、3箇所以上の長孔15gおよび凸部22hとしてもよい。
【0086】
長孔15gは、内輪15の拡径部15bの周方向に延びるように形成されている。凸部22hは、出力軸22の大径部22bから軸方向に突出するように形成されている。長孔15gに凸部22hを挿入することにより、凸部22hは長孔15gの周方向中央部位に配置される。
【0087】
その結果、長孔15gの内部で凸部22hの周方向両側に二つの空間が形成される。それぞれの空間に弾性部材33が収容される。弾性部材33は、凸部22hと長孔15gの端部との間で周方向に弾性力を付勢する。二つの弾性部材33間に配された凸部22hがストッパとして機能する。
【0088】
この実施形態では、内輪15および出力軸22に設けられた位相復帰手段32において、長孔15gにおける凸部22h両側の空間に収容された弾性部材33の弾性力を利用することにより、内輪15からの回転トルクの入力解除時、出力軸22に対して内輪15を中立位相に復帰させることができる。
【0089】
つまり、内輪15から回転トルクが入力されると、出力軸22に対して、例えば反時計方向(
図5矢印参照)に内輪15が回転することで、回転方向で後行する位置にある弾性部材33が凸部22hのストッパ機能により弾性力に抗して収縮し、回転方向で先行する位置にある弾性部材33が伸長する。
【0090】
内輪15からの回転トルクの入力が解除されてなくなると、回転方向で後行する位置にある弾性部材33の弾性力により内輪15が時計方向に回転することで、その内輪15を出力軸22に対して中立位相に復帰させることができる。
【0091】
一方、二つの円筒ころ27間に介挿された板ばね28の弾性力により内輪15を押し戻すことによっても、その内輪15を出力軸22に対して中立位相に復帰させている。
【0092】
この出力軸22に対する内輪15の位相復帰により、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対して確実にロックされる。このようにして、出力軸22のロック状態を積極的に確保する。
【0093】
この実施形態では、レバー側クラッチ部11からの回転トルクの入力解除時、内輪15を出力軸22に対して中立位相に復帰させるために、円筒ころ27を介して内輪15に作用する板ばね28の弾性力だけでなく、位相復帰手段32の長孔15gの空間に配された弾性部材33の弾性力も加わって内輪15を押圧する。
【0094】
そのため、内輪15が他の構成部品との摺動抵抗を持ち、その摺動抵抗による回転トルクが、板ばね28の弾性力により内輪15を押し戻す回転トルクよりも大きい場合であっても、板ばね28の弾性力に加えて弾性部材33の弾性力も作用することで、内輪15を押し戻して出力軸22に対して中立位相に復帰させることが容易となる。
【0095】
その結果、ブレーキ側クラッチ部12でのブレーキ力を向上させることができ、レバー側クラッチ部11でのレバー反転操作時のガタを抑制できるので、レバー操作による内輪15の回転に対して出力軸22の回転ロスを小さくすることができる。
【0096】
なお、この実施形態では、長孔15g、凸部22hおよび弾性部材33からなる位相復帰手段32を内輪15および出力軸22の周方向3箇所に等間隔で設けている。
【0097】
このように、位相復帰手段32を周方向3箇所以上に設けることにより、出力軸22に対して内輪15を中立位相に復帰させるに際して、出力軸22に対して内輪15を安定して動作させることができる。
【0098】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0099】
10 クラッチユニット
11 入力側クラッチ部(レバー側クラッチ部)
12 出力側クラッチ部(ブレーキ側クラッチ部)
15 入力部材(内輪)
15g 長孔
22 出力部材(出力軸)
22h 凸部
32 位相復帰手段
33 弾性部材
39 シートリフタ部