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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】監視装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/04 20060101AFI20231215BHJP
   H05H 13/00 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
H05H13/04 R
H05H13/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020060246
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021158090
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】川間 哲雄
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-324249(JP,A)
【文献】特開2010-204020(JP,A)
【文献】特開2019-023994(JP,A)
【文献】米国特許第05898279(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/04
H05H 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器システムを監視する監視装置であって、
前記加速器システムの稼働単位毎に、ビーム電流、アーク電流、イオン源用ガス量、および加速電圧の4つのパラメータのうち少なくとも前記ビーム電流及び前記アーク電流のパラメータの計測結果に係るデータを連続して取得し、当該データから特徴的な複数回分のデータを取得するデータ取得部を有する、監視装置。
【請求項2】
前記データ取得部が取得した特徴的な複数回分のデータに基づいて、前記加速器システムに係るパラメータの経時的変化を算出するトレンド算出部をさらに有する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記データ取得部は、前記4つのパラメータとは異なるパラメータの計測結果に係るデータを連続して取得し、
前記トレンド算出部は、前記4つのパラメータのいずれかと、前記4つのパラメータとは異なるパラメータとの関係性を示す数値を、経時的変化を算出するパラメータとする、請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記トレンド算出部により算出された結果を出力する出力部を有する、請求項2または3に記載の監視装置。
【請求項5】
前記トレンド算出部は、算出された経時的変化が所定の条件を満たしている場合には、その結果を通知するための処理を行う、請求項2~4のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項6】
前記データ取得部は、計測結果に係るデータを取得した際に、当該データに含まれる数値が所定の閾値を超えている異常値であることを検出した場合、前記異常値が存在することを通知するための処理を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項7】
前記データ取得部は、複数の前記加速器システムから、それぞれの稼働単位毎に前記4つのパラメータのうち少なくとも前記ビーム電流及び前記アーク電流のパラメータの計測結果に係るデータを連続して取得し、当該データから特徴的な複数回分のデータを、複数の前記加速器システムそれぞれにおいて取得する、請求項1~6のいずれか一項に記載の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、水素イオン等の荷電粒子を加速器において加速させた後、ターゲット装置に対して照射することによって、PET(Positron Emission Tomography)用薬剤に使用される放射性同位元素を製造することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-246131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、加速器を含むシステムの各部の運転状況を把握する場合、熟練作業者がシステムにおける計測結果等を直接確認することが一般的であった。しかしながら、システムの数が増えた場合等、この手法ではシステムを適切に監視することが難しくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、加速器を含むシステムの各部の状況を適切に監視することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る監視装置は、加速器システムを監視する監視装置であって、前記加速器システムの稼働単位毎に、ビーム電流、アーク電流、イオン源用ガス量、および加速電圧の4つのパラメータのうち少なくとも1つの計測結果に係るデータを連続して取得し、当該データから特徴的な複数回分のデータを取得するデータ取得部を有する。
【0007】
上記の監視装置によれば、加速器システムの稼働単位毎に、ビーム電流、アーク電流、イオン源用ガス量、および加速電圧の4つのパラメータのうち少なくとも1つの計測結果に係るデータが連続して取得され、当該データから特徴的な複数回分のデータが取得される。そのため、取得したパラメータに関係する加速器システムの各部の状況を適切に監視することが可能となる。
【0008】
前記データ取得部が取得した特徴的な複数回分のデータに基づいて、前記加速器システムに係るパラメータの経時的変化を算出するトレンド算出部をさらに有してもよい。
【0009】
取得した複数回分のデータから、パラメータの経時的変化が算出される。そのため、取得したパラメータに関係する加速器システムの各部の状況を適切に監視することが可能となる。
【0010】
前記データ取得部は、前記4つのパラメータとは異なるパラメータの計測結果に係るデータを連続して取得し、前記トレンド算出部は、前記4つのパラメータのいずれかと、前記4つのパラメータとは異なるパラメータとの関係性を示す数値を、経時的変化を算出するパラメータとする態様としてもよい。
【0011】
上記のように、4つのパラメータとは異なるパラメータとの関係性を示す数値を、経時的変化を算出するパラメータとする構成とすることで、上記の4つのパラメータだけからでは把握できない加速器システムの各部の状況の経時的変化を把握することが可能となる。
【0012】
前記トレンド算出部により算出された結果を出力する出力部を有する態様としてもよい。
【0013】
上記のように、算出された結果を出力する構成を有することで、監視装置からユーザ等への算出結果の通知が容易となり、より適切に算出された結果を通知することができる。
【0014】
前記トレンド算出部は、算出された経時的変化が所定の条件を満たしている場合には、その結果を通知するための処理を行う態様としてもよい。
【0015】
上記のように、算出された経時的変化が所定の条件を満たす場合にその結果を通知する構成とすることで、例えば、通知を受け取ったユーザ等は加速器システムにおける消耗部品等の消耗を事前に検出することができ、システムの異常が発生する前に、システムの各部の変化を把握することができる。
【0016】
前記データ取得部は、計測結果に係るデータを取得した際に、当該データに含まれる数値が所定の閾値を超えている異常値であることを検出した場合、前記異常値が存在することを通知するための処理を行う態様としてもよい。
【0017】
上記のように、データに含まれる数値が所定の閾値を超えている異常値であることを検出した場合に、異常値の存在を通知するための処理を行うことにより、経時的変化に関係なく異常値があることを監視装置からユーザ等に対して適切に通知することができる。
【0018】
前記データ取得部は、複数の前記加速器システムから、それぞれの稼働単位毎に前記4つのパラメータのうち少なくとも1つの計測結果に係るデータを連続して取得し、当該データから特徴的な複数回分のデータを、複数の前記加速器システムそれぞれにおいて取得する態様としてもよい。
【0019】
上記のように、複数の加速器システムからの計測結果に係るデータを取得して特徴的な複数回分のデータを加速器システム毎に取得する構成とすることで1台の監視装置で複数の加速器システムの監視が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、加速器を含むシステムの各部の状況を適切に監視することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態に係る監視装置を説明する概略構成図である。
図2図2は、加速器システムに含まれるイオン源を説明する概略構成図である。
図3図3は、加速器システムに含まれる加速器(サイクロトロン)を説明する概略構成図である。
図4図4は、監視装置による監視の手順を説明する図である。
図5図5(a)および図5(b)は、トレンドの算出結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本開示の一形態に係る監視装置の概略構成を説明する図である。監視装置1は、加速器システム2と連携して使用されるシステムであって、粒子線加速器の動作状況を監視するためのシステムである。
【0024】
図1に示すように、監視装置1は、データ取得部11と、データ保持部12と、トレンド算出部13と、出力部14と、を有する。
【0025】
監視装置1による監視対象となる加速器システム2は、例えば、放射性薬剤の製造において放射性同位元素を生成するためのシステムとして用いられ得る。加速器システム2は、イオン源21と、加速器22と、ターゲット装置23と、を含む。加速器22は、上述のRI製造用サイクロトロン、としての機能を有していてもよいし、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutoron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法システムなどにおいて、負イオンP(荷電粒子)を加速して荷電粒子線を生成するために用いられるサイクロトロン、または、原子核実験用サイクロトロンとしての機能を有していてもよい。また、加速器22は、サイクロトロンに限定されず、例えば、シンクロトロン等であってもよい。加速器システム2に含まれるイオン源21および加速器22について、図2および図3を参照しながら説明する。
【0026】
図2に示すイオン源21は所謂PIG(Penning又はPhillips Ionization Gauge)イオン源の一種である。イオン源21は、例えば、負イオンを生成する負イオン源装置とすることができる。
【0027】
PIG放電を行うイオン源21は、円筒状の陽極31の両端に陰極32を配置し、軸方向に十分強い磁場Fを加えた構造を持つ。この構造を有するイオン源21では、陽極31および陰極32に挟まれたチャンバ33内にイオン源ガスG(例えば、水素ガス)が注入された状態でアーク電源ARCによるアーク放電が行われる。この結果、アーク放電によってチャンバ33内で生成された電子は電極間の電場によって加速される。ただし、磁場Fにより半径方向を、両端の陰極32により軸方向を閉じこめられる結果、電子は磁場Fにまきつくように運動する。そのため壁に衝突することなくチャンバ33内に滞在する。このメカニズムによって電子の閉じ込め時間を長くすることができる。この結果、プラズマ生成が高効率に行われ得るため、プラズマによって電離されるイオンの生成も効率よく行われ得る。生成されたイオン(負イオン)は引出電源HVに接続された引出電極35を用いてイオンビームBとして、外部へ取り出され得る。イオンビームBには負イオンPが含まれ得る。
【0028】
図3に示す加速器22は、サイクロトロンの一種である。加速器22は、一対の磁極に挟まれた真空箱41を有する。一対の磁極はコイル(図示せず)によって囲われる。真空箱41には、イオン供給口42が設けられる。イオン供給口42を介してイオン源21(図2参照)からのイオンビームBが導入されることで、例えば、負イオンPが真空箱40内に供給される。真空箱41には真空排気用の排気口(不図示)が設けられており、この排気口には真空ポンプ(不図示)が接続されている。
【0029】
また、加速器22は、一対の加速電極43(ディー電極)と、フォイルストリッパー44と、出射口45と、を有する。
【0030】
一対の加速電極43は、それぞれ平面視において三角形状をなし、それぞれの頂角が対向配置される。加速電極43には、高周波の電圧がかけられる。この結果、負イオンPは、加速電極60によって周回しながら加速して次第にエネルギーを増すため、負イオンPの回転半径が大きくなり、螺旋運動をしているような周回軌道Kを描く。周回軌道Kは、一対の磁極の間に設けられる。
【0031】
フォイルストリッパー44は、負イオンPから電子を剥ぎ取る。フォイルストリッパー44は、例えば炭素製の薄膜からなるフォイルを有する。フォイルは、周回する負イオンPの周回軌道K上に侵入して負イオンPに接触すると、その負イオンPから電子を剥ぎ取る。電子を剥奪されて負電荷から正電荷となった陽子(加速粒子)は、周回軌道Kの曲率が反転し、その軌道が周回軌道Kの外側に飛び出す方向に向けて変更される。反転後の陽子の軌道上には、陽子を真空箱41内から取り出すための出射口45が設けられている。そのため、フォイルストリッパー44のフォイルが、負イオンPから電子を奪うことによって、結果的に陽子が出射口45へ誘導されることになる。
【0032】
ターゲット装置23は、加速器22から出射された陽子を照射するターゲットを含む装置である。ターゲットに対して陽子を照射することによって、ポジトロン核種が生成される。ポジトロン核種は、ターゲット装置から薬剤合成装置等へ導入されて、放射性薬剤が製造される。なお、加速器22がRI製造用サイクロトロンである場合、核種の材料となるターゲットを含むターゲット装置23が後段に設けられるが、BNCT等の中性子捕捉療法システムに用いられるサイクロトロンでは中性子線を生成するためのターゲットが加速器22の後段に設けられる。また、用途によっては、ターゲット装置23は設けられない場合もある。このように、ターゲット装置23の周辺の構成は適宜変更され得る。
【0033】
上記の加速器システム2に含まれる各装置の運転状況を監視するために重要なパラメータがいくつか存在する。例えば、イオン源21では、イオン源ガスの濃度、アーク放電に用いられるアーク電流の大きさ等がイオン源21における出力に大きく寄与すると考えられる。また、加速器22では、加速電極43(ディー電極)の電圧(ディー電圧)、加速器22から出射される陽子線のビーム電流が重要であると考えられている。これらのパラメータは、加速器システム2の運転状況を反映していると考えられる。したがって、監視装置1では、加速器システム2の上記のパラメータの少なくとも一つのパラメータに係る計測結果を連続して取得し、その傾向を評価する。また、監視装置1では、これらのパラメータと他のパラメータとを組み合わせて、解析を行ってもよい。監視装置1のユーザとしては、例えば、加速器システム2の使用者、加速器システム2の管理者、加速器システム2のメンテナンスを行う作業者(サービスマン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
図1に戻り、監視装置1のデータ取得部11は、加速器システム2からの各種データを取得する。取得するデータの種類としては、例えば、上記の各種パラメータに係るデータが挙げられる。各種データは、加速器システム2から直接監視装置1へ送られてもよいし、データ取得部11の一部を構成するデータロガーおよびデータ送信器を加速器システム2へ取り付けて、加速器システム2からデータロガー等が取得したデータを送信する構成としてもよい。また、データ取得部11は、各種パラメータに係るデータを連続して取得し、取得したデータから特徴的な複数回分のデータを取得してもよい。例えば、データ取得部11では、各種パラメータを連続して取得し、その中から、特徴的なデータとして予め設定されたピーク値(例えば、最大値)のみを選択して取得する構成としてもよい。
【0035】
データ取得部11において取得された各種データは、データ保持部12において保持される。監視装置1と加速器システム2との間は、例えば有線または無線による通信を行うことで、上記のデータの送受信を行う。また、データロガー等を用いる場合には、加速器システム2のデータ取得部11に含まれるデータロガーおよびデータ送信器と、監視装置1本体側のデータ取得部11との間で有線または無線による通信を行ってもよい。
【0036】
データ保持部12は、データ取得部11において取得された各種データを保持する機能を有する。保持期間は、特に限定されないが、後述のトレンドの算出の対象となる期間を考慮して設定され得る。なお、データ保持部12は、受信した各種信号に含まれる情報のほか、データ取得部11で使用される閾値等の情報、および、トレンド算出部13で使用されるトレンドの算出方法に関する情報、算出されたトレンドに基づいてユーザ等に対して通知が必要か否かを特定する情報等を保持していてもよい。
【0037】
トレンド算出部13は、データ取得部11で取得した各種データのそれぞれについて、経時的変化(トレンド)を算出する。
【0038】
トレンド算出部13が算出するトレンドとは、各種データそれぞれの傾向を示すものである。例えば、イオン源21のアーク電流の電流値は、イオン源21の電源故障に相関があることが推定される。また、例えば、イオン源21のアーク電流と、イオン源ガスの濃度との相関は、イオン源21の電極の劣化と相関があると考えられる。このように、上述の重要なパラメータ群は、加速器システム2の各装置・各部の状況に基づいて変動し得る。そこで、トレンド算出部13では、データ取得部11において時系列に沿って取得した複数のデータに基づいて、そのトレンドを算出する。
【0039】
なお、本実施形態での「トレンド」とは、そのパラメータの変化の傾向をいう。そのために、トレンド算出部13では、データ取得部11で取得した全データを使用せず、所定の条件に当てはまるデータ(結果)のみをトレンドの算出に使用してもよい。例えば、トレンドの算出対象となるあるパラメータについて運転中のピーク値が重要であると判断される場合には、データ取得部11が取得した全てのデータのなかから、例えば、一回の運転におけるピーク値のみをトレンドの算出に用いてもよい。すなわち、上述のように、データ取得部11において予め設定された特徴的な値のみを選択して取得した処理をトレンド算出部13において行う構成としてもよく、データ取得部11の機能の一部をトレンド算出部13が行う構成としてもよい。
【0040】
また、トレンド算出部13では、上述のパラメータとは異なる他のパラメータの計測結果も取得して、上述のパラメータと同様にトレンドを算出してもよい。また、上述のパラメータとは異なる他のパラメータと、上述のパラメータとを組み合わせることで得られる新たなパラメータについて、そのトレンドを算出してもよい。例えば、特定の日時に得られたイオン源21のアーク電流とイオン源ガスの濃度とから、その比率を算出し、この結果を新たなパラメータとしてトレンドを算出する構成としてもよい。
【0041】
トレンドの算出期間(一度にトレンドを算出する単位となる期間)は、特に限定されないが、例えば、1日単位での変動(日間変動)をまとめてトレンドとして算出してもよいし、週単位、月単位の平均値等をまとめてトレンドを算出してもよい。より短い期間で装置の各部の劣化が進行する場合には、トレンドの算出単位を短くして繰り返しトレンドを算出することで、その傾向を早めに把握することができる。一方、通常の加速器システム2の運転時からパラメータの変動が大きい場合には、短い期間でのトレンドでは通常運転時のパラメ-タの変動の影響を受けてしまうことも考えられる。したがって、ある程度長期間のトレンドを算出してもよい。このように、トレンドの算出期間、算出方法等は、適宜選択・変更することができる。
【0042】
なお、トレンド算出部13は、算出されたトレンドが所定の条件を満たしている場合には、ユーザ等に対してその結果を通知するように出力部14に対して通知する機能を有していてもよい。一例として、トレンドを算出した結果、通常時とは異なる傾向として、あるパラメータの数値が徐々に減少している傾向が確認されたとする。この場合、パラメータの減少傾向が所定の条件を満たす(例えば、ある期間での減少幅が所定値よりも大きくなる)場合には、当該パラメータの減少が通常時とは異なっていることをユーザ等に通知するように、トレンドの算出結果にユーザ等への通知内容等に対応付けられたフラグ等を付与してもよい。
【0043】
出力部14は、トレンド算出部13において算出されたトレンドを出力する。出力方法は特に限定されないが、例えば、出力結果を表示する表示装置(モニタ)等が設けられている場合には表示装置に対して出力をすることで、算出されたトレンドを装置のユーザ等に提示する機能を有していてもよい。また、出力部14によるトレンドを出力する出力方法として、例えば、加速器システム2の点検を行う作業者(サービスマン等)へ電子メール等によって通知する方法、または、インターネット経由で結果を閲覧可能となるようにウェブサーバへ送信する方法等を用いてもよい。このように、出力部14による出力先および出力方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。
【0044】
出力部14は、トレンド算出部13において算出されたトレンドに対して、所定の条件を満たしていることを示すフラグ等が付与されている場合には、当該フラグに対応する通知を加える等によってユーザに対してフラグに対応する情報を通知することとしてもよい。出力部14は、トレンド算出部13からの指示に基づいて、トレンドに関する情報を通知する。
【0045】
上記の監視装置1は、例えば、制御回路を有する。一例では、制御回路は、一つまたは複数のプロセッサと、メモリと、ストレージと、通信ポートと、入出力ポートとを有する。
【0046】
プロセッサはオペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する。ストレージはハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、または取り出し可能な媒体(例えば、磁気ディスク、光ディスクなど)の記憶媒体で構成され、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを記憶する。メモリは、ストレージからロードされたプログラム、またはプロセッサによる演算結果を一時的に記憶する。一例では、プロセッサは、メモリと協働してプログラムを実行することで、上記の各機能モジュールとして機能する。通信ポートは、プロセッサからの指令に従って、通信ネットワークNWを介して他の装置との間でデータ通信を行う。入出力ポートは、プロセッサからの指令に従って、キーボード、マウス、モニタなどの入出力装置(ユーザインタフェース)との間で電気信号の入出力を実行する。
【0047】
監視装置1は、一つまたは複数のコンピュータにより構成され得る。複数のコンピュータが用いられる場合には、通信ネットワークを介してこれらのコンピュータが互いに接続されることで論理的に一つの監視装置1が構成される。
【0048】
監視装置1として機能するコンピュータは限定されない。例えば、監視装置1はパーソナルコンピュータや携帯端末(例えばスマートフォン、タブレット端末など)などの小型のコンピュータで構成されてもよいし、その他のコンピュータで構成されていてもよい。
【0049】
次に、図4を参照しながら、監視装置1の動作方法について説明する。まず、加速器システム2が一連の動作を終了する(S01)と、監視装置1のデータ取得部11は、加速器システム2の各部からの信号を取得する(S02)。データ取得部11によって取得される信号には、パラメータの種類を特定する情報と、パラメータの計測結果と、に係るデータが含まれる。図4では、加速器システム2の動作が終了する(S01)ことを契機として信号を取得する場合について示しているが、例えば、加速器システム2の動作中など加速器システム2の動作の終了とは異なるタイミングで、パラメータの計測結果に係るデータを含む信号を取得する構成としてもよい。
【0050】
データ取得部11は、加速器システム2からの信号を取得する際に、取得した信号に含まれる計測結果に係るデータにおける異常値の有無の確認を行う(S03)。各部のパラメータは、それぞれ正常時に取り得る値の範囲等に基づいた閾値が設定されている。監視装置1では、予めこれらの情報を保持しておき、データ取得部11が信号を取得した際に、計測結果に係るデータが正常時の範囲から外れていないかを確認してもよい。このような構成とすることで、単回であってもパラメータが閾値を超えた値(異常値)を示した場合を適切に検出することができる。なお、取得した計測結果に係るデータに異常値が含まれている場合、データ取得部11は異常値を検出したことをユーザ等に通知するための処理を行うことができる。一例として、異常値を検出したデータ取得部11からの指示に基づいて、出力部14によって、ユーザ等に対して異常値があることを通知する信号等を出力する。より具体的には、異常値が含まれていることを示すアラーム音を発生しながら、異常値であると判断されたパラメータの種類とその異常値を出力部14から出力することで、ユーザに対して異常値の存在を通知する構成としてもよい。
【0051】
次に、データ取得部11は、計測結果に係るデータの保存を行う(S04)。データ取得部11が取得したデータはデータ保持部12に保持される。このとき、データ取得部11は、取得したデータから特徴的な複数回分のデータを選択して取得し、データの保存を行うこととしてもよい。データ保持部12は、データ取得部11において取得されたデータの種類を特定する情報と、計測結果(数値情報等)と、当該データの取得日時を特定する情報と、が対応付けられた状態でこれらの情報を保持する。
【0052】
次に、トレンド算出部13は、日単位のトレンドの作成を行う(S05)。日単位のトレンドを作成する場合、トレンド算出部13は、予め指定された日(例えば、1か月のうちの末日など、所定の日付)に、データ保持部12に保持される情報に基づいて、トレンドの算出を行う。上述のようにトレンドの算出方法は特に限定されない。一例として、特定のパラメータの毎日のピーク値をトレンドとしてまとめることを予め決めている場合、データ保持部12において保持されている当該パラメータの計測結果に係るデータから、毎日のピーク値に相当する数値を抽出し、これをトレンドとしてまとめることが考えられる。算出した結果は、出力部14から出力され得る。また、算出した結果は、データ保持部12等の自装置のメモリで保持する構成としてもよい。
【0053】
次に、トレンド算出部13は、月平均のトレンドの作成を行う(S06)。月平均のトレンドを作成する場合、トレンド算出部13は、予め指定された日(例えば、1か月のうちの末日など、所定の日付)に、データ保持部12に保持される情報に基づいて、月単位での平均値を算出し、これに基づいてトレンドの算出を行う。この際、例えば、過去数ヶ月(例えば、12か月)の月平均を用いて、トレンドを算出することとしてもよい。上述のようにトレンドの算出方法は特に限定されない。算出した結果は、出力部14から出力される。また、算出した結果は、データ保持部12等の自装置のメモリで保持する構成としてもよい。
【0054】
日単位のトレンドの作成、月平均のトレンドの作成は、各パラメータについて個別に行われる。したがって、日単位のトレンドの作成および月平均のトレンドの作成を要否については、パラメータ毎に設定することができる。また、パラメータによっては、ほかの間隔でトレンドを作成することとしてもよい。トレンド算出部13は、予め決められたスケジュールおよび予め決められた方法でトレンドを算出し、その結果を出力する。
【0055】
なお、本実施形態では、1日に一度加速器システム2が稼働することを想定しているが、加速器システム2は1日に複数回稼働することも考えられる。また、2日に3回など、日単位とは無関係で稼働することも考えられる。この場合、稼働回毎に各種信号を取得し、これらに含まれる計測結果に係るデータに基づいてトレンドを算出することとしてもよい。稼働回数が、日付と関係ない場合、例えば、1回の稼働を基準とする稼働回に基づいてトレンド算出の基準(トレンド算出の単位、期間等)を決定することで、加速器システム2を稼働させることによる各種パラメータの変化をより適切に把握できることも考えられる。一方、稼働の有無によらず時系列的に劣化することが考えられる装置等については稼働回を考慮せず上述の日単位、月平均等のトレンドを採用してもよい。
【0056】
図5(a)および図5(b)は、トレンド算出部13による算出の結果(出力部14から出力される結果)の一例を示している。図5(a)は、日単位でのアーク電流のピーク値の変化に関して、1か月分をまとめたものである。また、図5(b)は、アーク電流のピーク値の月平均(日毎の計測結果の平均値)の変化に関して、1年分をまとめたものである。図5(a)に示す日単位の変動をトレンドとしてまとめたものでは、日々の加速器システム2におけるアーク電流の変動を把握することができる。一方、図5(b)では、加速器システム2におけるアーク電流のピーク値が大きくどのように変化をしているかを把握することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態で説明した監視装置1によれば、加速器システム2の稼働単位毎に、ビーム電流、アーク電流、イオン源用ガス量、および加速電圧の4つのパラメータのうち少なくとも1つの計測結果に係るデータが連続して取得され、当該データから特徴的な複数回分のデータが取得される。そのため、取得したパラメータに関係する加速器システムの各部の状況を適切に監視することが可能となる。
【0058】
従来から、加速器システム2の管理は行われていたが、これまでは、メンテナンスに係る作業者による点検時に、加速器システム2の各部の計測結果等を直接確認することが一般的であった。また、加速器システム2の設置台数が限られているため、作業者の経験知に基づいて各部の状況を判断することも多かった。しかしながら、加速器システム2の設置台数が増加すると作業者が頻繁に点検を行うことも難しくなる可能性がある。これに対して、上記の監視装置1によれば、加速器システム2の動作において特に重要と考えられる上記の4つのパラメータのうちの少なくとも1つの計測結果について、特徴的な複数回分のデータが取得される。したがって、加速器システム2の各部の状況の変化を、加速器システム2から取得したパラメータの計測結果から把握することができ、加速器システム2に実際に故障等が生じる前に点検・修理等を行うことができる。また、上記の監視装置1を用いた場合、システム内の消耗部品の劣化等を早く把握することができる。したがって、作業者としては、消耗部品の準備や交換作業計画の策定などを適切に行うことができる。このように、上記の監視装置1によれば、加速器システム2の各部の状況を適切に把握することができるため、加速器システム2の作業者およびユーザの両方において利便性を高めることができる。
【0059】
また、上記の加速器システム2では、取得したデータから、パラメータの経時的変化が算出される。このような構成とすることで、加速器システム2の各部の状況の変化をパラメータの経時的変化として把握することができるため、取得したパラメータに関係する加速器システムの各部の状況を適切に監視することが可能となる。
【0060】
また、監視装置1では、上記の4つのパラメータとは異なるパラメータとの関係性を示す数値を、経時的変化を算出するパラメータとする構成とすることで、上記の4つのパラメータだけからでは把握できない加速器システムの各部の状況の経時的変化を把握することが可能となる。
【0061】
一例として、トレンドの算出に利用するパラメータと、そのトレンドから推定可能と考えられる各部の状況の変化(故障等)との関係を表1に示す。表1におけるプレート電源電流は、高周波アンプにおける真空管アンプに供給する電源をさす。また、電磁石電源は、加速器22に設けられる電磁石に供給する電源をさす。また、コリメータは、ターゲット装置23におけるコリメータをさす。
【0062】
【表1】
【0063】
また、監視装置1では、出力部14により、算出された結果を出力する。このような構成を有することで、ユーザに対する算出結果の通知が容易となり、ユーザに対してより適切に算出された結果を通知することができる。
【0064】
また、監視装置1のデータ取得部11は、計測結果に係るデータを取得した際に、当該データに含まれる数値が所定の閾値を超えている異常値であることを検出した場合、異常値が存在することをユーザに通知するための処理を行う。このような構成とすることにより、経時的変化に関係なく異常値があることをユーザに対して適切に通知することができる。監視装置1は、基本的には経時的変化を検出するための装置であるが、加速器システム2の突発的な異常についても適切に検出して通知する構成とすることで、加速器システム2の監視を監視装置1単体で適切に行うことが可能となる。
【0065】
また、監視装置1ではトレンド算出部13によって、算出された経時的変化が所定の条件を満たす場合にユーザ等に通知する。このような構成とすることで、例えば、「所定の条件」を消耗部品の消耗が進んだことを示す条件としておくことで、加速器システム2における消耗部品等の消耗を事前に検出することができ、システムの異常が発生する前に、システムの各部の変化を把握することができる。なお、「所定の条件」として、装置の故障の発生可能性が高まる条件等を設定しておくと、故障リスクが高まっている状態を故障前に把握することが可能となる。
【0066】
なお、上記実施形態では、監視装置1が1つの加速器システム2を監視する場合について説明したが、図1に示すように、監視装置1の監視対象は複数の加速器システム2であってもよい。図1では、2つの加速器システム2を示しているが、当然ながら監視対象の加速器システム2は3つ以上であってもよい。この場合、データ取得部11は、複数の加速器システム2から、それぞれの稼働単位毎に4つのパラメータのうち少なくとも1つの計測結果に係るデータを連続して取得する。また、データ取得部11は、当該データから特徴的な複数回分のデータを、複数の加速器システムそれぞれにおいて取得する。さらに、トレンド算出部13は、複数の加速器システム2それぞれからデータ取得部11が取得した複数のデータに基づいて、加速器システム2毎にパラメータの経時的変化を算出してもよい。このような構成とすることで、複数の加速器システム2の監視を1つの監視装置1で行うことができる。この場合、監視装置1において算出されるトレンドに基づいて、作業者が、実際に点検が必要と考えられる加速器システム2を特定して点検を行うことも可能となる。このように、監視装置1による加速器システム2の監視を行うことによって、加速器システム2の点検等の作業を効率よく行うことも可能となる。
【0067】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、上記実施形態で例示した加速器システム2のイオン源21、加速器22には限定されず、監視装置1は、種々の種類のイオン源、加速器に適用できる。また、イオン源21、加速器22の種類に応じて、経時的変化の算出に有効なパラメータの種類は変更し得る。したがって、対象となる加速器システム2の各装置の構造等を考慮して、監視装置1が取得するパラメータの種類は変更され得る。
【符号の説明】
【0069】
1…監視装置、2…加速器システム、11…データ取得部、12…データ保持部、13…トレンド算出部、14…出力部、21…イオン源、22…加速器。
図1
図2
図3
図4
図5