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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】トイレットロール
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20231215BHJP
   B31F 1/07 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
A47K10/16 A
A47K10/16 D
B31F1/07
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020062652
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159238
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大場 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 穣
(72)【発明者】
【氏名】保井 秀太
(72)【発明者】
【氏名】藁科 真一
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033752(JP,A)
【文献】特開2017-051510(JP,A)
【文献】特開2016-179582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0011014(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03170655(EP,A1)
【文献】特開2011-136167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
A47K 7/00
B31F 1/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続方向に沿う1~20mmの幅の圧着部によって2~3プライのシートが積層一体化されてなるプライ圧着シート同士が、
少なくとも一方のプライ圧着シートに形成されたエンボス加工による凸部に付与された接着剤によって接着一体化され、
その接着一体化された4~6プライのトイレットペーパーがロール状に巻かれている、
ことを特徴とするトイレットロール。
【請求項2】
圧着部は、接着剤を用いないピンエンボス加工又はコンタクトエンボス加工により形成されたものである、請求項1記載のトイレットロール。
【請求項3】
積層連続シートの圧着部又は接着剤による接着された部分を含むようにして幅方向(CD方向)に20mm、連続方向(MD方向)に100mm裁断した試料を、連続方向の一方端から50~60mmを剥離して、その分離端をチャック間の距離が55±2mmとなるようにセットし、一方のチャックを100mm/minの速度で、50mm引張り、その際の最大荷重量を測定した値であるプライ強度が、各プライ間において、5~40cNである、請求項1又は2記載のトイレットロール。
【請求項4】
少なくとも一部のエンボス加工による凹凸部分が、接着剤によって着色されている、請求項1~3の何れか1項に記載のトイレットロール。
【請求項5】
圧着部は、連続方向に沿って所定間隔で離間する凹部による列が、ロール幅方向に1~20mmの範囲内で1~4列配されているパターンであり、
かつ、コンタクトエンボス加工により形成されたものである、請求項1~4の何れか1項に記載のトイレットロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットペーパーがロール状に巻かれたトイレットロールに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットロールの製造方法には、原反ロールから繰り出した幅広のトイレットペーパーを、製品幅の複数倍幅又はそれ以上の幅で製品直径と同様の直径で巻き取って、ログとも称される中間製品を製造した後に、これを製品幅に裁断して個々のトイレットロールとすることが行われる。
【0003】
他方で、複数プライのトイレットペーパーは、各プライが離れないように、プライ同士を接合するのが一般的である。
【0004】
トイレットペーパーにおいて、プライ同士を接合する方法としては、ナーリング加工、コンタクトエンボス加工等といわれる、紙面長手方向に沿って紙面に目立たないようにエンボス加工を施して行う、圧着部による積層一体化がよく行われている。このエンボス加工は、ログを巻き取る際に、個々のトイレットロールとする際の裁断位置に対応する部位を、圧着するようにして行われる。
【0005】
一方で、トイレットペーパーにおいては、消費者の嗜好が多様化しており、プライ圧着によるエンボス加工とは異なるエンボス加工等によってデザイン性を高めることも行われている。エンボス加工によりデザイン性を付与する方法の一つとして、単にエンボス加工による凹凸を付与するだけではなく、エンボス加工による凸部に染料や顔料により着色した糊を付与し、この付与した糊によってプライ同士を接合するとともに、エンボス加工による凹凸部分を着色して、意匠性に優れるようにする方法がある。このようなエンボス加工による凹凸は、デコレーションエンボスなどともいわれている。このデコレーションエンボス加工は、ログを巻き取る前に、行われる。
【0006】
ところで、トイレットペーパーにおいては、温水洗浄便座の普及にともなって、特に使用時に破れない安心感を求める消費者等から、厚みのある3~6プライのような多プライ品が求められるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表平11-512036号公報
【文献】特開2017-154344号公報
【文献】特開2017-177705号公報
【文献】特開2015-167783号公報
【文献】特開2012-170659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プライ数が3プライを超えるような多プライの場合、エンボス加工による凸部に付与した糊によって、プライ同士を接合するデコレーションエンボス加工では、多くのプライを超えて浸透できるような糊の量を凸部に付与することが難しく生産性が悪い。また、多量の糊が固まることでトイレットペーパーに過度に硬い部分が形成され、柔らかさやしなやかさが劣るようになる。
【0009】
他方で、プライ数が3プライを超えるような多プライの場合、コンタクトエンボス等の積層一体化の方法では、圧着させることが難しく、一部の層がプライ剥離しやすくなる。圧着時の圧力を高くしすぎると、エンボス加工時に皺が発生しやすく、エンボス加工した凹凸が目立つようになり、デザイン性や見栄えが悪化する。さらに、圧着時に再内層のシートと最外層のシートの伸びの差が大きくなるため、いったん圧着しても使用時に容易にプライ離れが生じるおそれがある。
【0010】
このように、プライ数が3プライを超えるような多プライであって、プライ離れしがたく、デザイン性の高いトイレットロールは製造することが難しい。
【0011】
そこで、本発明の主たる課題は、消費者の嗜好の多様化に対応した様々なエンボス加工によるデザインとすることができ、さらに、製造時及び使用時にプライ離れ及び破れが生じ難く、柔らかさやしなやかさも十分な3プライを超える多プライのトイレットロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決した第一の手段は、
連続方向に沿う1~20mmの幅の圧着部によって2~3プライのシートが積層一体化されてなるプライ圧着シート同士が、
少なくとも一方のプライ圧着シートに形成されたエンボス加工による凸部に付与された接着剤によって接着一体化され、
その接着一体化された4~6プライのトイレットペーパーがロール状に巻かれている、
ことを特徴とするトイレットロールである。
【0013】
第二の手段は、
圧着部は、接着剤を用いないピンエンボス加工又はコンタクトエンボス加工により形成されたものである、上記第一の手段に係るトイレットロールである。
【0014】
第三の手段は、
各プライ間におけるプライ剥離強度が、5~40cNである、上記第一又は第二の手段に係るトイレットロールである。
【0015】
第四の手段は、
少なくとも一部のエンボス加工による凹凸部分が、接着剤によって着色されている、上記第一~第三の手段に係るトイレットロールである。
【0016】
第五の手段は、
圧着部は、連続方向に沿って所定間隔で離間する凹部による列が、ロール幅方向に1~20mmの範囲内で1~4列配されているパターンであり、
かつ、コンタクトエンボス加工により形成されたものである、上記第一~第四の手段に係るトイレットロールである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、消費者の嗜好の多様化に対応した様々なエンボス加工によるデザインとすることができ、さらに、製造時及び使用時にプライ離れ及び破れが生じ難く、柔らかさやしなやかさも十分な3プライを超える多プライのトイレットロールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】積層設備における圧着積層原反ロールの製造方法例を示す概略図である。
図2】プライ圧着工程の概略図である。
図3】プライ圧着ロールの凸部の配列を示す図である。
図4】プレイ圧着ロールから個々のトイレットロールとする工程を示す図である。
図5】エンボス加工により凹凸を形成する工程を示す図である。
図6】トイレットロールの斜視図である。
図7】トイレットペーパーの断面図である。
図8】プライ剥離強度の測定方法を説明するための図である。
図9】MMDの測定装置の概略を示す図である。
図10】本発明に係る凹部の深さの測定手順を説明するための概略図である。
図11】本発明に係るエンボス加工による凹部のパターンの例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次いで、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳述する。なお、本発明がこの実施形態に限定されるわけではない。
【0020】
本発明に係るトイレットロール3は、図6及び図7に示すように、コンタクトエンボス加工等による圧着部40によりプライ圧着された2~3プライのシートS8,S9同士が、エンボス加工によって形成された凸部41に付与された接着剤42により接着一体化された4~6プライのトイレットペーパー7が巻かれたものである。
【0021】
トイレットロール3の大きさなどは限定されないが、幅L1はJIS規格において定められる114mmが参考値とされ、90~120mm、好ましくは、95~110の範囲にするのが望ましい。また、直径L4は100~130mm、好ましくは、110~125の範囲にするのが望ましい。巻き長さ(トイレットペーパーの全長)は10~50m、好適には15~45m、紙管の直径は30~50mm、好適には35~45mmである。この大きさであれば一般的なトイレットロール用のペーパーホルダーが利用でき、トイレットペーパー7の長さも十分である。
【0022】
また、トイレットペーパー7の紙厚は、100~800μm、1プライ当り米坪は11.0~30.0g/m、好ましくは12~20g/m、より好ましくは12~18g/mである。坪量が10g/m未満であると、使用時に特に表裏面に位置するプライにおける強度が不足したり、破れやすくなったりすることがある。また、坪量が30g/mを超えると、本発明のように4~6プライの多プライとすると硬くなりすぎて、肌触りが悪化しやすくことがある。ここでの米坪とは、JIS P 8124(1998)の米坪測定方法によるものであり、紙厚とは、JIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて5回測定した平均値をいう。また、紙厚は、多プライのまま測定する。
【0023】
また、本発明のトイレットロールのロール重量は、紙管を含めて110~492g、好ましくは110~200g、より好ましくは130~150gである。トイレットールは、2~24ロール程度で複数個を纏めて市販されることが多いが、上記範囲であれば市販形態に応じた一般的な複数個の範囲で適宜の個数に調整しやすい。
【0024】
本実施形態に係る前記圧着部40は、連続方向に沿って配されており、その幅は1~20mmの細幅で、ナーリング加工、コンタクトエンボス加工、エッジエンボス加工、ピンエンボス加工等により形成される。特に、ピンエンボス加工又はコンタクトエンボス加工が望ましい。
【0025】
ナーリング加工は、周面がナーリング処理されたプライ圧着ロールを用い、コンタクトエンボス加工及びエッジエンボス加工は、周面に適宜のパターンの凸部を有するエンボスリングとも称されるプライ圧着ロールを用いてシート同士を圧着する。ピンエンボス加工は、周面にピン状の凸部を有するプライ圧着ロールを用い、凸部で紙面を打ち抜くようにして孔周辺の繊維の絡みを利用するようにして圧着する。これらの加工においては、接着剤は用いないのがよい。接着剤を用いないようにすることで、圧着部40が硬くならず、また、圧着部40が目立たなくなる。
また、圧着部40の幅が、上記範囲内であれば、接着剤を用いずかつ目立たずにシート同士を十分に圧着することができる。
【0026】
圧着部40において、コンタクトエンボス加工等により形成される個々の凹部等の形状は特に限定されない。点状、正方形、長方形、円形、楕円形等であってよい。孔であってもよい。
【0027】
特に好適な圧着部40は、コンタクトエンボス加工によるもので、そのエンボス加工により、連続方向に沿って所定間隔で離間する凹部による列が、ロール幅方向に1~20mmの範囲内で1~4列配されているものである。このような圧着部40は、製造時に皺は入り難く、製造しやすい。さらに、圧着力も十分なものとしやすい。
【0028】
圧着部40の位置としては、トイレットロール3の製品幅L1の幅内で限定されないが、トイレットロール3の製品幅方向中央に対して、左右の各二か所又は左右の何れか1カ所であるのが望ましい。また、トイレットロール3の製品幅L1の側部近傍であるのが望ましい。圧着部40が、紙面において目立たず、意匠性を付与するためのエンボス加工による凹凸の視認性が良好となる。また、プライ剥離は、トイレットロール3の幅方向の側縁から生じやすいため、側縁部がプライ圧着されていると使用時にプライ剥離がしがたくなる。
【0029】
他方、本発明に係るトイレットペーパー7は、上記のとおりプライ圧着された2~3プライのシートS8,S9同士が、エンボス加工によって形成された凸部41に付与された接着剤42により接着一体化されものであり、少なくとも一方のプライ圧着シートが、エンボス加工によって形成される凹凸を有している。この凹凸は、デザインエンボスとも称される、意匠性、嵩高性、柔らかさ、表面の滑らかさの向上のために紙面の広範に付与されるものであり、コンタクトエンボス加工等の圧着部40を形成するためのエンボス加工とは異なる技術である。また、エンボス加工は、プライ圧着シートの一方面が凹部のみ、他方面が凸部のみとなるシングルエンボス加工とも称される形態であるのが望ましい。
【0030】
図示の形態は、エンボス加工による凹凸が付与されたプライ圧着シートS8とエンボス加工による凹凸が付与されていないプライ圧着シートS9とを、重ね合わせ接着一体化した例を示すが、各プライ圧着シートのそれぞれがエンボス加工による凹凸を有しており、それらの凸部面同士を対面させるようにして重ね合わせられて接着一体化されていてもよい。この場合、一方のプライ圧着シートの凸部のみに接着剤が付与され、他方のプライ圧着シートの凸部には接着剤が付与されていないものでもよい。さらに、プライ圧着シート同士の接着一体化の形態として、一方のプライ圧着シートの凸部と他方のプライ圧着シートの凸部とを対面させて接着するティップ トゥ ティップと称される形態、一方のプライ圧着シートの凸部が他方のプライ圧着シートの凸部と異なる位置に対面させて接着するネステッドと称される形態のいずれでもよい。
【0031】
なお、一方のプライ圧着シートのみエンボス加工による凹凸を形成したものとする場合には、図示例のように、このエンボス加工による凹凸が形成されているプライ圧着シートS8が巻き取り時に外面側となるようにして形成する。このようにすることで、エンボス加工による凹凸による意匠が視認できるようになる。
【0032】
エンボス加工によって付与された凹凸のパターンによる柄等の意匠、凹部の深さ(エンボス深さ)、凹部の密度(エンボス密度)、個々の凹部の平面形状、凹部の総面積(エンボス付与面積)は、意匠性、嵩高性、柔らかさの向上性、表面の滑らかさを考慮して、適宜定められるものであり、必ずしも限定されるものではないが、本実施形態では、この凹凸における凸部を介してシート同士を接着することから、凹部の深さは、0.05~2.0mm、好ましくは、0.1~1.5mm、一つの凹部の底面面積は0.3~10.0mm、エンボス面積率1~15%、エンボス密度3~25個/cm2とするのが望ましい。もちろん、異なる複数種の凹部の形状があってよい。この範囲であれば、十分な接着一体化とシートの柔らかさを確保しやすい。
【0033】
ここで、エンボス密度は、10cm×10cmの範囲のエンボスの個数を数えて1cm×1cmあたりに換算した値である。なお、10cm×10cmの範囲5個所の平均値とする。エンボス面積率は、10cm×10cmの範囲で測定する。そして、その範囲内における凹部の個数に凹部の底面面積を乗じたエンボス総面積の割合をエンボス面積率とする。エンボス密度と同様に、10cm×10cmの範囲5個所の平均値とする。凹部の底面面積は、株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」により測定する。なお、凹部の底面面積は、設計上の同一形状の凹部5つの平均値とする。凹部の深さは、株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」又はその相当ソフトウェアにより測定する。測定は、倍率12倍、視野面積24mm×18mmの条件で測定する。但し、倍率と視野面積は、凹部の大きさによって、適宜変更することができる。具体的な測定手順は、図10を参照して説明すると、上記ソフトウェア等を用いて、平面視点で示される画像部(図中X部分)中の一つの凹部41の周縁の最長部を横切る線分Q1におけるエンボス深さ(測定断面曲線)プロファイルを得る。このエンボス深さプロファイルの断面曲線からλc:800μm(但し、λcはJIS-B0601「3.1.1.2」に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」)より短波長の表面粗さの成分を低域フィルタによって除去して得られる断面視点で示される画像部(図中Y部分)の「輪郭曲線Q2」のうち、上に凸で最も曲がりが強くなる2つの凹部エッジ点P1,P2と、凹部エッジ点P1,P2で挟まれる最小値を求め、深さの最小値Minとする。さらに、凹部エッジ点P1,P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。このようにして、エンボス深さ=最大値Max-最小値Minとする。又、凹部エッジ点P1,P2のX-Y平面上の距離(長さ)を最長部の長さと規定する。上記の上に凸で最も曲がりが強くなる2つの凹部エッジ点P1,P2は目視にて選択する。なお、その選択にあたっては、当該測定中のエンボス(凹部)40の平面視点の画像中の輪郭Eを参考としてもよい。同様にして、最長部に垂直な方向での最短部についても凹部の深さを測定し、大きい方の値を凹部の深さとして採用する。以上の測定を、トイレットペーパー表面の任意の10個の凹部について行い、その平均値を最終的なエンボス深さとする。
【0034】
他方、接着剤42は、メタクリル酸系樹脂、PVA(ポリビニールアルコール)、CMC(カルボキシルメチルセルロース)、デンプン、さらに単なる水などトイレットペーパーの水解性を過度に低下あさえない既知の糊が好適に利用できる。また、接着剤として、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスのラテックスを用いることもできる。
【0035】
また、接着剤42は、公知のインキ等を配合して着色されたものでもよい。また、接着性を有するインキそのものを接着剤として使用してもよい。接着剤を着色されたものとすると、エンボス加工による凹部が着色され、凹凸によりデザイン性がより向上する。
【0036】
ここで、本発明に係るトイレットロールは、各プライ間におけるプライ剥離強度が、3~100cN、好ましくは4~50cN、より好ましくは5~40cNであるのが望ましい。具体的には、接着剤42による接着一体化部分と、プライ圧着による圧着部40における各プライ間のプライ剥離強度が、上記範囲であるのが望ましい。この範囲にあれば、十分にプライ剥離が防止される。
【0037】
ここで、プライ剥離強度は、プライ圧着時における圧着用ロールの凸部の個数や密度、圧着時の圧力の調整、エンボス加工によって付与する凸部の面積、接着剤の接着力によって調整することができる。なお、このプライ剥離強度は、図8に(1)正面視、(2)側面視を示すように、積層連続シートのプライ圧着部分又は接着剤による接着部分を含むようにして幅方向(CD方向)に20mm、連続方向(MD方向)に100mm裁断した試料を用意し、その試料を連続方向の一方端から50~60mmを剥離して、その分離端を測定器の各チャックに、チャック間の距離が55±2mmとなるようにセットする。次いで、一方のチャックを100mm/minの速度で、50mm引張り、その際の最大荷重量を測定し、これをプライ剥離の強度とする。なお、測定器としては、株式会社イマダ社製 デジタルフォースゲージZ2-20Nモデル及び同社製 縦型電動計測スタンドMXシリーズ(可動式台座)、さらにこれらの相当機を用いることができる。その他、ロードセル引張り試験機(ミネベア株式会社製 TG-200N)でも測定することが可能である。
【0038】
本発明に係るトイレットロールでは、2~3プライのプライ圧着されたプライ圧着シートS8、S9が接着一体化されているため、接着一体化後のトイレットペーパー7は、4~6プライと多プライ構造となる。4~6プライのシートをプライ圧着せずに、接着剤により接着一体化しようとする場合は、各プライ間に接着剤を介在させるか、各プライ間に浸透可能な多量の接着剤を付与する必要があるため、トイレットペーパーが硬質となり、トイレットロールに要求される水解性も低下しやすい。また、特に、着色した接着剤を用いる際にエンボス加工による凸部のみではなくその近傍にまで接着剤が滲み、意匠性が低下しやすい。本発明に係るトイレットロールでは、予めプライ圧着されている2~3プライのプライ圧着シート同士を、エンボス加工による凸部に付与した接着剤を介して接着一体化するため、過度の量の接着剤が必要なく、多プライであってもトイレットロールの柔らかさや、水解性を高めることができ、また、エンボス加工による凹凸によるパターンの自由度も高く意匠性を発現させやすい。
【0039】
他方、本発明に係るトイレットペーパー7は、乾燥引張強度の縦方向が600~1600cN、特に4プライで測定した乾燥引張強度の縦方向が600~900cNであるのがよい。乾燥引張強度の縦方向が210~790cN、特に4プライで測定した乾燥引張強度の横方向が210~390cNであるのがよい。なお、4プライで測定した乾燥引張強度は、4プライのものはそのまま、2プライと3プライとが接着剤を介して一体化されている場合は、3プライから1プライ剥がして2プライとして測定する。また、3プライと3プライとが接着剤を介して一体化されている場合は、各々の3プライから最外層の1プライを剥がして、2プライと2プライとが接着剤で接着された状態で測定する。引張破断伸びは、縦方向が、18%以上、横方向が4.0%以上であるのがよい。ここでの、乾燥引張強度及び引張破断伸びは、JIS P8113(1998)に基づくものである。測定装置としては、ミネベア株式会社製「万能引張圧縮試験機 TG-200N」又はその相当機が挙げられる。
【0040】
また、本発明に係るトイレットペーパー7は、JIS L 1096(2010) E法に準じたハンドルオメータ法に基づいて測定されるソフトネスが1.5~3.5cNであるのが望ましい。より好ましくは、1.8~3.2cNである。ソフトネスは、エンボスパターン等によりこの範囲に調整することができる。ソフトネスが1.5~3.5cNの範囲であれば、使用時にトイレットペーパーとしての柔らかさを十分に感じることができる。
【0041】
さらに、本発明に係るトイレットペーパーは、表面性の指標であるMMDの値が、表面(凹部形成面)において5.0~11.0、好ましくは5.5~10.5であるのがよい。このMMDの範囲であれば、使用時にトイレットペーパーとしてのざらつきを感じることがなく滑らかさを感じられやすい。そのうえ、MMDの値は、表面性であるため、エンボス加工による凹凸にも影響される。係る範囲のエンボス加工による凹凸のティシュペーパーが巻かれた、トイレットロールであれば手に持った際の柔らかさが感じられやすくなる。また、巻かれた状態における各層を構成するトイレットペーパー同士の擦れが適度になり、製造時にしわやエンボス潰れが発生し難く、エンボスの鮮明さ、シワの入りにおいても優れたものとなる。なお、MMDの測定は、図9に示す測定装置100を用い、摩擦子の接触面を所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させ、このときの、摩擦係数を、摩擦感テスター KES-SE(カトーテック株式会社製)又はその相当機を用いて測定する。その摩擦係数を摩擦距離(移動距離=2cm)で除した値がMMDである。摩擦子は、直径0.5mmのピアノ線Pを20本隣接させてなり、長さ及び幅がともに10mmとなるように形成された接触面を有するものとする。接触面には、先端が20本のピアノ線P(曲率半径0.25mm)で形成された単位膨出部が形成されているものとする。
【0042】
ここで、トイレットロールは水解性があるのが望ましいため、湿潤紙力剤を添加しないほうが望ましいとされる。したがって、吸湿により柔軟性を発現するローション薬液等の保湿薬液を外添すると著しく使用時の強度が低下するなど望ましくないことがある。よって、本発明に係るトイレットロールは、吸湿により柔軟性を発現するローション薬液等の保湿薬液が外添により付与されていないのが望ましい。特には内添においても付与されていないのがよい。
【0043】
ここで、本発明に係るトイレットロールでは、消費者の嗜好の多様化に対応した様々なエンボス加工によるデザインとすればよいが、エンボス加工による凹部(凸部)の好適なパターンは、図11に示すように、紙面全体に、底面が対角L5×対角L5=1.0~1.5×1.0~1.5mmの正方形の凹部41(図11A)又はその正方形の四方角が対角線外方に向かって延在された略正方形(図11B)をなす凹部41が、中心間隔L6が4.5~5.5mmで幅方向に対する配列角度が45°で格子状に配列され、かつ、凹部41と凹部41との間に凹部の四方角同士から延在する谷線部43を有するものである。なお、谷線部43は、凹部41の四方角が最も深く、凹部間の中間が最も浅くなるように漸次緩やかに断面弓なりに配されているのが望ましい。このエンボスパターンは、上記のソフトネスやMMDを達成しやすく、柔らかさやしなやかさ、さらに便の拭き取り性について優れるものとしやすい。また、幅方向の45°に向かって谷線部43によって、巻き取り時のテンションが分散され本発明に係るトイレットロールの巻き長さ等において、エンボス加工による凹凸が極めて明瞭となるとともに、しわ等が発生しがたい。
【0044】
なお、本発明に係るトイレットペーパー7の構成繊維は、特に限定されない。トイレットペーパーに用いられる適宜のパルプ繊維であればよい。好ましくは、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)とLBKP(広葉樹クラフトパルプ)とを適宜に割合で配合したものが挙げられる。古紙パルプが配合されていてもよいが、得られるティシュペーパーの風合いの点から、バージンパルプのNBKPとLBKPのみから構成されているのがよい。その場合の配合割合(JIS P 8120)は、NBKP:LBKP=20:80~80:20がよく、特に、NBKP:LBKP=30:70~60:40が望ましい。
【0045】
また、本発明に係るトイレットロールでは、トイレットペーパーの連続方向に好ましく50~300mm間隔、より好ましく100~250mm間隔でミシン目が形成されているのがよい。この場合、ミシン目における連続方向の引張り強さは10~200cN、好ましくは40~60cNであるのがよい。この範囲であると製造時にミシン目で分断するおそれが格段に小さくなるとともに、トイレットロールとして使用する際にミシン目で確実に裁断することが好適に行えるようになる。なお、ミシン目における引張り強さとは、JIS P 8113に規定される引張り特性試験方法に準拠して測定される乾燥時引張り強さを意味し、ミシン目を跨いで測定した引張り強度を意味する。
【0046】
このミシン目における長手方向の引張り強さは、トイレットペーパー7の紙力と、ミシン目のタイカット比により調整することができる。ミシン目の好適な構成は、カット長が0.9~37.5mm、タイカット比(タイ:カット)が1:15~1:1である。
【0047】
他方、本発明のトイレットロールは、巻き硬さが0.5~1.8kgf、好ましくは0.8~1.5kgf、巻密度が0.5~1.7、好ましくは0.7~1.5であるのが望ましい。なお、巻硬さとは、ダイヤメータールール(ムラテックKDS株式会社製及びその相当機)をトイレットロールに巻き付け、プッシュプルゲージ(株式会社イマダ製及びその相当機)で三目盛り分引くのに必要な力を測定した値である。4プライ~6プライのように厚みがあっても巻硬さが0.5~1.8kgfであれば、巻き長さに比して硬いと感じ難いものとなる。上記の本発明に係る構成であればこの巻き硬さに調整することが容易である。また、巻密度とは、実断面積÷理論断面積で算出される値である。実断面積とは、巻長さ×紙厚で算出される値である。一方、理論断面積とは、(巻径/2)×(巻径/2)×π-(紙管外径/2)×(紙管外径/2)×πで算出される値である。つまり、端面の面積から紙管開口端側面積を差し引いた面積である。4プライ~6プライのように厚みがあっても巻密度が0.5~1.7の範囲にあるとロールを周面で手に持った際に巻き長さに比して硬いと感じ難いものとなる。
【0048】
次いで、本発明に係るトイレットロールの製造方法について図1図5を参照しながら説明する。
【0049】
本発明に係るトイレットロールは、2~3つの原反ロールからそれぞれ単層の連続シートを繰り出して、重ね合わせて積層し、2~3プライの積層連続シートとする積層工程と、2~3プライの積層連続シートをトイレットロール製品幅位置で圧着して積層一体化するプライ圧着工程と、プライ圧着された積層連続シートを巻き取って圧着積層原反ロールとする巻き取り工程と、圧着原反ロールからそれぞれプライ圧着された積層連続シートを繰り出して、少なくとも一つの積層連続シートにエンボス加工によって凹凸を形成するエンボス加工工程と、エンボス加工により形成された凹凸の凸部に対して接着剤を付与する接着剤付与工程と、エンボス加工による凹凸が付与された積層連続シート同士又はエンボス加工による凹凸が付与された積層連続シートとエンボス加工による凹凸が付与されていないプライ圧着された積層連続シートを、重ね合わせて前記凸部に付与された接着剤によって接着一体化する接着工程と、接着一体化した積層連続シートを巻き取ってトイレットロールの製品幅の複数倍幅以上かつ製品直径の中間製品を製造するログ形成工程と、ログ形成工程にて製造した中間製品をトイレットロールの製品幅に裁断して個々のトイレットロールとする裁断工程と、を経て製造することができる。
【0050】
原反ロール10は、ジャンボロールとも称されるものであり、トイレットペーパー用の原紙を抄紙する抄紙設備により製造することができる。原反ロール10の大きさは、抄紙設備の規模等によって異なり、必ずしも限定されるものではないが、直径1000~5000mm、長さ(幅)が1500~9200mm、巻き長さが5000~80000mのものが例示できる。
【0051】
原反ロール10を構成する連続シートのJIS P 8124による1プライ当たりの坪量は、最終製品を構成するトイレットペーパーとした際に10~30g/mとなるように調整する。なお、本発明に係る原紙の場合、後段の接着工程における接着剤の付与量等を考慮して原紙の坪量を定める。
【0052】
なお、原紙の紙厚(尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージにより測定)は、80~250μm、好ましくは100~200μm、より好ましくは130~180μmとするのが望ましい。また、連続シートは、クレープ率が10~30%、好ましくは15~28%、より好ましくは20~25%である。クレープ率が10%未満であると、後段の加工時に断紙しやすいとともに伸びの少ないコシのないトイレットペーパーとなる。他方、クレープ率が30%超過であると、加工時のシートの張力コントロールが難しく断紙しやすくなり、また、製造後にはシワが発生して見栄えの悪いトイレットペーパーとなりやすくなる。なお、クレープ率とは、下式で表わされる。
【0053】
クレープ率:{(製紙時のドライヤーの周速)-(巻き取り手段におけるリール装置のリール周速)}/(製紙時のドライヤーの周速)×100。
【0054】
また、連続シートにおける乾燥引張強度及び湿潤引張強度は、特に限定されない。乾燥紙力増強剤の使用、フリーネスの調整、原料パルプのNL比の調整など、既知の手法により適宜に調整することができる。なお、乾燥紙力増強剤としては、澱粉、ポリアクリルアミド、CMC(カルボキシメチルセルロース)若しくはその塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース亜鉛等を用いることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性塗工PAM等を用いることができる。
【0055】
湿潤紙力増強剤は、トイレットペーパーは一般に水解性を要することから、添加しないか添加しても少量とするのが望ましい。但し、添加した場合には、後段のワインダーにおけるログ製造時において有利に作用することから、この点を考慮して、少量、具体的にはパルプスラリーに対する重量比で5kg/t以下とすることができる。
【0056】
紙料に添加する薬品例としては、上記乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤のほか剥離剤、接着剤、苛性ソーダ等のpH調整剤、粘剤、消泡剤、防腐剤、スライムコントロール剤、染料、などが挙げられる、なお、これらの薬品は、適宜の工程で湿紙に塗工してもよい。
【0057】
抄紙設備等で製造した2~3の原反ロール10は、次工程にてプライ圧着された積層連続シートS3を巻き取った圧着積層原反ロール20とする。この圧着積層原反ロール20は、図1に示すプライマシンと称される積層設備等において製造することができる。
【0058】
図1に示す積層設備X2は、1~3の原反ロール10がセット可能であり、本発明においては2~3の原反ロール10をセットする。図示例では、2つの原反ロール10,10をセットしている。
【0059】
積層設備X2においては、セットされた原反ロール10,10から、それぞれ単層の連続シートS1,S1を繰り出し、重ね合わせ部(積層手段)に供給し、それらを連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とする。重ね合わせ部51は、例えば一対のニップロールで構成されており、各連続シートS1,S1を重ね合わせるとともに押さえるようにして一体化する(積層工程)。
【0060】
重ね合わせ部51で積層した積層連続シートS2は、図2に示すように、後段の工程を経てトイレットロールとした際にその製品幅L1内の適宜の位置で圧着して積層一体化する(プライ圧着工程)。この圧着は、トイレットロールの製品幅L1よりも幅狭であり、表面に適宜のパターンで細かな凸部を有する1~20mmの幅のプライ圧着用ロール52と、プライ圧着用のロール52と対となる金属製又はゴム製の受けロール53との間に積層連続シートS2を通紙させ、前記プライ圧着用のロール51を押し当てる、ナーリング加工、コンタクトエンボス加工等により、積層連続シートS2の各連続シートS1,S1同士を圧着する。この圧着した部分が圧着部40となる。
【0061】
プライ圧着ロールの凸部の先端の形状や凸部の配列は限定されないが、プライ圧着した積層連続シートをロール状にした後に巻きほどく操作を行うことから、プライ圧着をしっかりとするようにする必要があり、プライ圧着時に皺が発生しがたい配列であるのが望ましい。好適には、図3に示すように、プライ圧着ロール周面に回転方向に所定の等間隔L2で凸部55が配列されてなる列が、軸心方向に所定間隔L3で複数列、配されているものが望ましい。図示例は、凸部55の列56が軸心方向に三列配されているものを示しているが、この列は二~四列が望ましい。このような凸部55の配列とすると、3プライのような厚みのある積層連続シートS2に対して押し付けても、凸部55同士の間にシートが逃げる隙間があるため皺が発生しがたい。特に、凸部の間隔L(c)としては、1~10mm、列の間隔L(a)は、0.1~5mmであるのが望ましい。
【0062】
プライ圧着時の圧力は、必ずしも限定されないが、本発明ではプライ圧着した積層連続シートをロール状にした後に、後段で巻きほどく操作が必要となるため、プライ圧着は高めにするのがよい。
【0063】
プライ圧着の位置は、積層連続シートS2におけるトイレットロールの製品幅L1の幅内であればよいが、上記のとおりトイレットロールの製品幅方向中央に該当する部分に対して、左右の各二か所又は左右の何れか1カ所であるのが望ましい。特に、トイレットロールとした際の製品幅の側部近傍となる位置であるのが望ましい。プライ圧着部分は、意匠性を付与するエンボス加工による凹凸とは異なり、紙面に目立たないように形成されているのが望ましいため、幅方向の縁部において長手方向(連続方向)に1又は2カ所と多くないのが望ましい。
【0064】
なお、4~6プライのシートを積層してプライ圧着する場合には高いプライ圧着圧が必要となるため、積層連続シートや製造されるトイレットロールに、皺や破れが発生しやすくなり、また、製造速度の低下を招き、断紙も発生しやすくなる。2~3プライの積層連シートに対してプライ圧着工程を行えば、2~3プライのトイレットロールを製造する際のプライ圧着と同様の条件かややプライ圧着力と高める程度で十分となる。
【0065】
プライ圧着工程を経てプライ圧着された積層連続シートS3は、巻き取り手段56に案内して巻き取り、プライ圧着原反ロール20とする。巻き取り手段56は、回転可能な管軸に巻かれた積層連続シートS3の外面に接して回転する一対のワインディングドラム56A,56Bを有し、これら2つのワインディングドラム56A,56B及び管軸を回転させることで、積層連続シートS3を巻き取るように構成されている。ただし、ワインディングドラムではなく、管軸をモーター等によって回転させるようにしてもよい。
【0066】
このプライ圧着原反ロール20は、トイレットロールの巻き径(直径)と比較して大径のロールであり、トイレットロールの巻き径と同じ径の所謂ログとは異なる。
【0067】
ここで、プライマシン等の積層設備X2において、巻き取り部56の前段にスリット手段57を設け、積層連続シートS3を連続方向にスリットして適宜の幅とし、スリットした積層連続シートS3を巻取ることで後段のワインダーに適した適宜の幅のプライ圧着原反ロール20としてもよい。例えば、積層連続シートS3を半裁、或いは1/3裁程度にスリットすることができる。スリット手段57としては、積層連続シートS3の幅方向に、裁断幅に応じた適宜の間隔を開けて並設された複数のロールカッターと、これを受ける受け部からなるものが例示できるが、これに限定されない。
【0068】
プライマシン等の積層設備X2において製造したプライ圧着原反ロール20は、ワインダーX3とも称されるログ製造設備にセットしてログ2を製造する。
【0069】
図4は、ワインダーX3においてログを製造するログ製造工程(B)とともに、関連する長尺の紙管11Lを製造する工程(A)と、裁断工程(C)を示している。長尺の紙管11Lを製造する工程(図3中(A))は、二枚の帯状の紙管用原紙(板紙)12,12を紙管原反ロール12A,12Aからそれぞれ繰り出しつつ、所定位置に糊付けロール13により糊を付与し、この糊付けされた部分を重ねつつコアワインダー4によりシャフト15に螺旋状に巻付け、ワインダーX3又はプライ圧着原反ロール20の幅に応じた所定長さにスリッター16にて切り揃えることで、円筒の長尺の紙管11Lを形成する。なお、各紙管用原紙12,12は、各々違う原反を使用してもよく、例えば、一方に印刷を施したり、各々の米坪を変えたりしてもよい。本発明においても、必ずしも紙管原紙12,12は、同様のものである必要はない。なお、紙管の直径は35~50mmとするのが望ましい。
【0070】
長尺紙管11Lの製造と平行して又はその後において、ワインダーX3において、ログ2を製造する。ログ2は、トイレットロールの径と同径でありかつ幅がトイレットロールの複数倍幅以上ある中間製品である。
【0071】
ワインダーX3の原反ロール支持部には、二つの圧着原反ロール20A,20Bをセットし、各圧着原反ロール20A,20Bからそれぞれプライ圧着された積層連続シートS4,S5を繰り出す。そして、繰り出された積層連続シートS4,S5の少なくとも一方に、エンボス加工によって凹凸を形成したのちに、双方を積層一体化し、これを長尺紙管11Lに巻き付けてログ2とする。
【0072】
エンボス加工は、図5に示すように、プライ圧着原反ロール20A,20Bから、プライ圧着された積層連続シートS4,S5を適宜の速度で繰り出し、少なくとも一方の積層連続シートS4を、表面にエンボス形状及びエンボスパターンに対応する多数のエンボス付与凸部が形成された金属製のエンボスロール21Aと、このエンボスロール21Aを受ける表面が弾性素材の受けロール22Aとの間を通して凹凸を付与し(エンボス加工工程)、さらにその凹凸付与後から積層連続シートS4をエンボスロール21Aの周面に巻き掛けた状態で下流へ搬送する。このとき、エンボスロール周面上の積層連続シートS4はエンボスロール21Aの表面形状に変形され、エンボスロール21Aを被覆するようにして下流に搬送される。
【0073】
エンボス加工工程を経た積層連続シートS4に対しては、そのエンボス加工により形成された凹凸の凸部に対して接着剤を付与する(接着剤付与工程)。
接着剤の付与は、エンボスロール21Aの周面に対面するように転写ロール11rを配したロール転写装置等により行うことができる。ロール転写装置11としては、2ロール又は3ロール式転写装置、グラビア印刷装置、フレキソ印刷装置などが挙げられる。また、接着剤の付与は、エンボスロール21Aの周面に対して、接着剤を塗布可能な位置に設けたスプレー塗布式の付与装置を用いてもよい。スプレー塗布装式の付与装置としては、一流体式又は二流体式のノズル式スプレー装置、ローターダンプニング式スプレー塗布装置が挙げられる。
【0074】
ロール転写装置11による接着剤の付与は、転写ロール11rとエンボスロール21Aの周面との距離を調整することにより、エンボスロール21Aの表面形状に変形して、当該エンボスロール21Aに密着している状態の積層連続シート71Aの、エンボスロール21Aの凸部頂部に位置する部分にのみ接着剤を付与するのが望ましい。凸部頂部のみに接着剤を付与すれば製造されるトイレットペーパーが硬くなりがたい。但し、凸部以外の部分に接着剤が付与されていてもよい。
【0075】
接着剤を付与した積層連続シートS4は、エンボスロール21Aから剥離するとともに、その接着剤を付与した凸部面を、他方のプライ圧着原反ロール20Bから繰り出されたエンボス加工による凹凸が付与されていない積層連続シートS5に対面させて重ね合わせ、凸部に付与された接着剤を介して、両積層連続シートS4,S5を接着一体化する。
【0076】
接着一体化は、一方のエンボスロール21Aから離れた積層連続シートS4を、このエンボスロール21Aに近接する他のロール22Bから離れた積層連続シートS5とともに、これらのロール21A,22Bに隣接して配されるマリッジロール23とも称される重ね合わせロール上に導き、その重ね合わせロール上で接着することができる。但し、積層連続シート同士の重ね合わせ方法は、この形態に限られるわけではない。
【0077】
ここで、2~3プライのプライ圧着された積層連続シートS4、S5を接着一体化するため、接着一体化後の積層連続シートS6は、4~6プライと多プライ構造となる。4~6プライのシートをプライ圧着せずに、接着剤により接着一体化しようとする場合は、各プライ間に接着剤を介在させるか、各プライ間に浸透可能な多量の接着剤を付与する必要があるため、トイレットペーパーが硬質になりやすく、トイレットロールに要求される水解性も低下しやすい。また、特に、着色した接着剤を用いる際にエンボス加工による凸部のみではなくその近傍にまで接着剤が滲み、意匠性が低下するおそれがある。予めプライ圧着されている2~3プライの積層連シート同士を、エンボス加工による凸部に付与した接着剤を介して積層一体化することにより、過度の量の接着剤が必要なくなり、多プライであってもトイレットロールの柔らかさや、水解性を高めることができ、また、意匠性も発現させやすい。
【0078】
特に、本発明に係るトイレットペーパー7は、プライ圧着により各プライを構成するシート同士の密に接しているため、2~3プライの積層連続シート同士を接着剤によって接着する際の接着剤が各シートに浸透しやすい。このため、4~6プライの多プライであっても、各プライが接着剤により効果的に接着されるとともに、プライ圧着とも相まって、極めてプライ剥離がし難いものとなっているうえに、上記のトイレットペーパーの柔らかさも確保できる。さらに、本発明に係るトイレットペーパーでは、接着剤の使用量を過度にする必要がないため、少なくともJIS P 4501で規定される、ほぐれやすさの試験方法における水解性の結果が80秒以下を十分も確保できる。特に、本発明のトイレットペーパーでは、40秒以下、特に好ましくは20秒以下とすることができ、このような範囲に調整するのがよい。さらに、エンボス加工による凹凸の形成も2~3プライの積層連続シートに対して行うため、デザインの自由度も高い。
【0079】
接着剤の付与量は、エンボス加工により形成される凸部の数や密度によって適宜に調整されるが、0.1~10g/mであれば、トイレットペーパーが硬質になり難い。
【0080】
なお、図示の形態は、エンボス加工による凹凸が付与された積層連続シートS4とエンボス加工による凹凸が付与されていないプライ圧着された積層連続シートS5とを、重ね合わせ接着一体化した例を示すが、各プライ圧着原反ロール20A,20Bから繰り出した積層連続シートS4,S5のそれぞれにエンボス加工を行って凹凸を付与し、それらの凸部面同士を対面させて重ね合わせるようにしてもよい。この場合、一方の積層連続シートの凸部のみに接着剤を付与し、他方の積層連続シートの凸部には接着剤を付与しないようにしてもよい。さらに、積層連続シート同士の重ね合わせの位置関係を調整することで、一方の積層連続シートの凸部と他方の積層連続シートの凸部とを対面させて接着するティップ トゥ ティップと称される形態、一方の積層連続シートの凸部が他方の積層連続シートの凸部と異なる位置に対面させて接着するネステッドと称される形態とすることができる。
【0081】
エンボス加工による凸部を介して接着一体化した積層連続シートS6は巻き取り部75で巻き取ってトイレットロールの製品幅の複数倍幅以上かつ製品直径の中間製品であるログ2とする。ここで、本実施形態に係るトイレットロールの製造方法では、トイレットペーパーにミシン目を形成するのが望ましい。
【0082】
ミシン目の形成は、ワインダーX3内に設けられているミシン目付与手段70等により行うことができる。図4に示す例では、ミシン目付与手段70は、周面に軸心方向に沿って多数の刃が配設された刃列を有するパーフォレーションロール71とこのロールと対をなす受けロール72とで構成されており、パーフォレーションロール71と受けロール72との間に、接着一体化した積層連続シートS6を通す際に、パーフォレーションロール71の鋸刃が積層連続シートS6に接触してミシン目を付与する。パーフォレーションロール71の鋸刃は、周面に間隔を開けて複数列形成されており、パーフォレーションロール71の回転により、積層連続シートにミシン目が形成される。
【0083】
適宜ミシン目を形成するなどした接着一体化した積層連続シートは、ワインダーX3の巻き取り部75において、前記長尺の紙管製造工程(図4中(A))で製造した長尺の紙管11Lに巻き付けるようにして巻き取り、トイレットロールの製品幅の複数倍幅以上かつ製品直径の中間製品であるログ2とする。
【0084】
なお、接着一体化した積層連続シートの巻き取りは、紙管内に挿入したシャフトによって紙管を回転させて紙を巻き取るセンターワイディングであってもよいし、巻き取りロールやドラムロールとも称されるサーフェイスロールとエア抜きなどを行うライダーロールとによって外周面側から回転力を与えて紙管に紙を巻き付けるサーフェイスワインディングであってもよい。ワインダーの種類に応じて適宜の巻き取り方法とすることができる。ログ2は巻径及び巻長は、製造するトイレットロールの巻径及び巻長によち調整される。
【0085】
ここで、上記のとおりトイレットロールは水解性があるのが望ましいため、湿潤紙力剤を添加しないほうが望ましいとされるため、吸湿により柔軟性を発現するローション薬液等の保湿薬液を外添が望ましくないことがある、よって、本発明に係る製造方法では、ワインダーにおけるログ形成工程においても、吸湿により柔軟性を発現するローション薬液等の保湿薬液を外添により付与する工程は有さないようにするのが望ましい。
【0086】
製造したログ2は、例えば、ログアキュームレーターX4に連続的或いは簡潔的に移送する。ログアキュームレーターX4は、ログ2を高さ方向、横方向に移動させつつ複数本ストックしつつ後段のログカッターX5に移送する既知の装置である。
【0087】
ログ2は、ログアキュームレーターX4から順次ログカッターX5に移送し、必要に応じて幅方向両端部をトリム除去し、トイレットロールの製品幅に裁断して個々のトイレットロール3とする。図示例のログカッターX5は、ログ2周面に接するように複数間隔を開けて配された回転する丸刃76を有し、この丸刃によってログ2をトイレットロール3の幅に裁断するものである。但し、ログの裁断方法は、これに限定されない。
【0088】
裁断により紙管11にトイレットペーパーS6が巻かれた本発明に係る個々のトイレットロール3が製造される。
【実施例
【0089】
次いで、本発明に係るトイレットペーパー(実施例)と、その比較例におけるプライ剥離強度を測定した。
実施例は、幅方向の各縁部に圧着部が形成されている2プライのプライ圧着シート同士を、一方のプライ圧着シートに形成したエンボス加工による凸部を介して接着剤により接着した4プライ構造のトイレットペーペーである。エンボス加工による凹部の配列は図11(B)のパターンである。
【0090】
比較例1は、実施例1において圧着部を有さないようにして製造したものである。つまり、圧着部を有さない2プライのシートの一方の凸部に付与された接着剤を付与して、他方の2プライの圧着部を有さない2プライのシートと接着一体化した4プライのトイレットペーパーである。なお、凹部の配列及び製造時における接着剤の付与量は、実施例1と同様とした。
【0091】
比較例2は、市販される4プライのトイレットロールに係るトイレットペーパーであり、プライ圧着がされていないものである。
【0092】
比較例3は、市販される3プライのトイレットロールに係るトイレットペーパーであり、プライ圧着がされていないものである。
【0093】
プライ剥離強度の測定は、株式会社イマダ社製 デジタルフォースゲージZ2-20Nモデル及び、同社製 縦型電動計測スタンドMXシリーズ(可動式台座)を用い、上記方法により測定した。結果は下記のとおりである。
【0094】
【表1】
【0095】
測定の結果、圧着部によりプライ圧着されているシートが接着一体化された本発明の実施例は、各プライ間における剥離強度が、7.0~12.0cNであり、各プライが適度に一体化されている。これに対して、プライ圧着を行わずに接着一体化した比較例1では、3層目と4層目ではほとんど一体化がされていない結果となった。
接着剤を付与した一方の2プライのシートの当該接着剤が、他方のシートのプライ間にまで十分浸透していないか、製造時にシート間のずれが生じるなどしたと考えられる。
【0096】
したがって、圧着部を形成しない場合には、さらなる接着剤の増量等が必要となり、製造性やトイレットペーパーの柔らかさを悪化させる恐れがあることが知見される。
また、市販品の4プライである比較例2においても同様の傾向がみられる。また、3プライの市販品の剥離強度と比較しても、それ以上の剥離強度が達成されている。これらの結果から、本発明に係るトイレットロールでは、4プライ以上でありながら各プライの剥離強度が十分に一体化されており、柔らかさも低下させないようにすることができる。
【符号の説明】
【0097】
X2…積層設備(プライマシン)X3…ワインダー、X4…ログアキュームレーター、X5…ログカッター。
S1…連続シート、S2…積層連続シート、S3,S4,S5…プライ圧着された積層連続シート、S6…接着一体化した積層連続シート、S8,S9…シート、7…トイレットペーパー。
10…原反ロール、20,20A,20B…圧着積層原反ロール。
51…重ね合わせ部、52…プライ圧着用ロール、53…受けロール、55…エンボスロールの凸部、56…巻き取り手段、56A,56B…ワインディングドラム。
2…ログ、3…トイレットロール、4…コアワインダー、15…コアシャフト、16…スリッター手段、11L…長尺紙管、12…紙管原紙、12A…紙管原反ロール、13…糊付けロール。
21A…エンボスロール、21B…受けロール、22A…ロール、23…マリッジロール、75…巻き取り部、70…ミシン目付与手段、71…パーフォレーションロール、72…受けロール、75…巻き取り手段、76…丸刃。
L1…トイレットロールの製品幅、L(c)2…凸部の間隔、L(a)…凸部列の間隔
L4…トイレットロールの直径。
40…プライ圧着部、41…凸部(凹部)、43…谷線部、42…接着剤、L5…対角の長さ、L6…中心間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11