(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20231215BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20231215BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231215BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20231215BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20231215BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20231215BHJP
H01L 21/8249 20060101ALI20231215BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20231215BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20231215BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 657D
H01L29/78 655G
H01L29/78 657F
H01L29/78 652Q
H01L29/78 657A
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652D
H01L29/78 655B
H01L29/78 652M
H01L29/91 C
H01L29/91 J
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/78 658J
H01L29/06 301F
H01L29/78 655F
H01L27/06 321E
H01L27/06 321B
H01L27/06 102A
H01L29/78 301D
H01L29/78 301S
H01L29/78 301V
H01L21/322 L
(21)【出願番号】P 2020092235
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】曽根田 真也
(72)【発明者】
【氏名】原田 健司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔瑠
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-162950(JP,A)
【文献】特開2015-118991(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098270(WO,A1)
【文献】特開2011-216825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 29/861
H01L 29/06
H01L 21/8249
H01L 21/8234
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタとダイオードとが共通の半導体基板に形成された半導体装置であって、
前記半導体基板は、
前記トランジスタが形成されたトランジスタ領域と、
前記ダイオードが形成されたダイオード領域と、を有し、
前記トランジスタ領域は、
前記半導体基板の第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層よりも前記半導体基板の第1主面側に設けられた第1導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層上に設けられた第2導電型の第4半導体層と、
前記第4半導体層に電気的に接続された第2電極と、
前記第1半導体層に電気的に接続された第1電極と、を備え、
前記ダイオード領域は、
前記半導体基板の前記第2主面側に設けられた第2導電型の第5半導体層と、
前記第5半導体層上に設けられた前記第2半導体層と、
前記第2半導体層よりも前記半導体基板の前記第1主面側に設けられた前記第3半導体層と、
前記第3半導体層上に設けられた第1導電型の第6半導体層と、
前記第6半導体層に電気的に接続された前記第2電極と、
前記第5半導体層に電気的に接続された前記第1電極と、
前記第1主面側からの前記第3半導体層の厚み方向端と前記第2主面側からの前記第5半導体層の厚み方向端との間の前記第2半導体層の中間位置よりも深い位置まで達する結晶欠陥層で構成されるライフタイム制御層と、を備え
、
前記ライフタイム制御層は、
結晶欠陥の密度のピークが形成される深さである結晶欠陥密度最大深さが、前記中間位置よりも深い位置に設定され、前記ダイオード領域と前記トランジスタ領域との境界を跨いで前記ダイオード領域から前記トランジスタ領域に一部に張り出した張り出し部を有し、
前記第3半導体層の前記厚み方向端から前記中間位置までの厚みをt1、
前記中間位置から前記結晶欠陥密度最大深さまでの厚みをt2、とした場合に、
前記張り出し部は、
前記境界からの平面方向の張り出し幅wが、
w>((3×t1)-t2)/2となるように設定される半導体装置。
【請求項2】
トランジスタとダイオードとが共通の半導体基板に形成された半導体装置であって、
前記半導体基板は、
前記トランジスタが形成されたトランジスタ領域と、
前記ダイオードが形成されたダイオード領域と、を有し、
前記トランジスタ領域は、
前記半導体基板の第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層よりも前記半導体基板の第1主面側に設けられた第1導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層上に設けられた第2導電型の第4半導体層と、
前記第4半導体層に電気的に接続された第2電極と、
前記第1半導体層に電気的に接続された第1電極と、を備え、
前記ダイオード領域は、
前記半導体基板の前記第2主面側に設けられた第2導電型の第5半導体層と、
前記第5半導体層上に設けられた前記第2半導体層と、
前記第2半導体層よりも前記半導体基板の前記第1主面側に設けられた前記第3半導体層と、
前記第3半導体層上に設けられた第1導電型の第6半導体層と、
前記第6半導体層に電気的に接続された前記第2電極と、
前記第5半導体層に電気的に接続された前記第1電極と、
前記第1主面側からの前記第3半導体層の厚み方向端と前記第2主面側からの前記第5半導体層の厚み方向端との間の前記第2半導体層の中間位置よりも深い位置まで達する結晶欠陥層で構成されるライフタイム制御層と、を備え、
前記半導体基板は、
少なくとも前記ダイオード領域および前記トランジスタ領域が設けられた領域の周囲に終端領域を有し、
前記ライフタイム制御層は、
結晶欠陥の密度のピークが形成される深さである結晶欠陥密度最大深さが、前記中間位置よりも深い位置に設定され、前記ダイオード領域と前記終端領域との境界を跨いで前記ダイオード領域から前記終端領域に一部に張り出した張り出し部を有し、
前記第3半導体層の前記厚み方向端から前記中間位置までの厚みをt1、
前記中間位置から前記結晶欠陥密度最大深さまでの厚みをt2、とした場合に、
前記張り出し部は、
前記境界からの平面方向の張り出し幅wが、
w>((3×t1)-t2)/2となるように設定される半導体装置。
【請求項3】
前記ライフタイム制御層は、
前記第5半導体層には達しない深さに設定される、請求項1
または請求項2記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は半導体装置に関し、特に、逆導通半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆導通半導体装置(RC-IGBT:Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor)とは、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と還流ダイオード(FWD:Free Wheeling Diode)を共通の半導体基板に形成した半導体装置である。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたRC-IGBTにおいては、リカバリ電流を低減するために、p型のアノードの直下に軽イオンを注入することによる局所的なライフタイム制御を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RC-IGBTにおいては、還流ダイオードの電流密度を高くしており、局所的なライフタイム制御のためにp型のアノードの直下に軽イオンを注入してライフタイム制御層を形成すると、過渡動作時にドリフト層中間より裏面側にキャリアが多く発生し、空乏層が伸びにくくなるため、リカバリ動作中にアバランシェ電流が発生し、リカバリ破壊耐量が低下するという問題を有していた。
【0006】
本開示は上記のような問題を解決するためになされたものであり、リカバリ動作中のアバランシェ動作を抑制し、リカバリ破壊耐量を向上したRC-IGBTを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体装置は、トランジスタとダイオードとが共通の半導体基板に形成された半導体装置であって、前記半導体基板は、前記トランジスタが形成されたトランジスタ領域と、前記ダイオードが形成されたダイオード領域と、を有し、前記トランジスタ領域は、前記半導体基板の第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に設けられた第2導電型の第2半導体層と、前記第2半導体層よりも前記半導体基板の第1主面側に設けられた第1導電型の第3半導体層と、前記第3半導体層上に設けられた第2導電型の第4半導体層と、前記第4半導体層に電気的に接続された第2電極と、前記第1半導体層に電気的に接続された第1電極と、を備え、前記ダイオード領域は、前記半導体基板の前記第2主面側に設けられた第2導電型の第5半導体層と、前記第5半導体層上に設けられた前記第2半導体層と、前記第2半導体層よりも前記半導体基板の前記第1主面側に設けられた前記第3半導体層と、前記第3半導体層上に設けられた第1導電型の第6半導体層と、前記第6半導体層に電気的に接続された前記第2電極と、前記第5半導体層に電気的に接続された前記第1電極と、前記第1主面側からの前記第3半導体層の厚み方向端と前記第2主面側からの前記第5半導体層の厚み方向端との間の前記第2半導体層の中間位置よりも深い位置まで達する結晶欠陥層で構成されるライフタイム制御層と、を備え、前記ライフタイム制御層は、結晶欠陥の密度のピークが形成される深さである結晶欠陥密度最大深さが、前記中間位置よりも深い位置に設定され、前記ダイオード領域と前記トランジスタ領域との境界を跨いで前記ダイオード領域から前記トランジスタ領域に一部に張り出した張り出し部を有し、前記第3半導体層の前記厚み方向端から前記中間位置までの厚みをt1、前記中間位置から前記結晶欠陥密度最大深さまでの厚みをt2、とした場合に、前記張り出し部は、前記境界からの平面方向の張り出し幅wが、w>((3×t1)-t2)/2となるように設定されている。
【発明の効果】
【0008】
ダイオード領域において、第1主面側からの第3半導体層の厚み方向端と第2主面側からの第5半導体層の厚み方向端との間の第2半導体層の中間位置よりも深い位置まで達する結晶欠陥層で構成されるライフタイム制御層を備えることで、順方向動作時に第2半導体層の中間位置より第2主面側に蓄積されるキャリアを低減できるため、ダイオードのリカバリ動作時に空乏層が伸びやすくなり、ダイオード領域内でのアバランシェ動作を抑制でき、リカバリ破壊耐量を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係るRC-IGBTを示す平面図である。
【
図2】実施の形態1に係るRC-IGBTを示す平面図である。
【
図3】実施の形態1に係るRC-IGBTのIGBT領域とダイオード領域の境界部分の断面図である。
【
図4】実施の形態1に係るRC-IGBTにおけるライフタイム制御層に形成される結晶欠陥密度の深さ方向の分布を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係るRC-IGBTとの比較例の断面図である。
【
図6】実施の形態1に係るRC-IGBTと比較例とのダイオードの順方向動作時におけるキャリア密度の分布を示す図である。
【
図7】実施の形態1に係るRC-IGBTと比較例とのダイオードのリカバリ波形を示す図である。
【
図8】実施の形態1に係るRC-IGBTにおけるIGBTの部分平面図である。
【
図9】実施の形態1に係るRC-IGBTにおける部分断面図である。
【
図10】実施の形態1に係るRC-IGBTにおける部分断面図である。
【
図11】実施の形態1に係るRC-IGBTにおけるIGBTの部分平面図である。
【
図12】実施の形態1に係るRC-IGBTにおける部分断面図である。
【
図13】実施の形態1に係るRC-IGBTにおける部分断面図である。
【
図14】実施の形態1に係るRC-IGBTのIGBT領域と終端領域の境界部分の断面図である。
【
図15】実施の形態1に係るRC-IGBTのダイオード領域と終端領域の境界部分の断面図である。
【
図16】実施の形態1の変形例に係るRC-IGBTのIGBT領域とダイオード領域の境界部分の断面図である。
【
図17】実施の形態1の変形例に係るRC-IGBTのダイオード領域と終端領域の境界部分の断面図である。
【
図18】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図19】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図20】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図21】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図22】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図23】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図24】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図25】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図26】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図27】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【
図28】実施の形態1に係るRC-IGBTの製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<はじめに>
以下の説明において、n型およびp型は半導体の導電型を示し、本開示においては、第1導電型をp型、第2導電型をn型として説明するが、第1導電型をn型、第2導電型をp型としてもよい。また、n-型は不純物濃度がn型よりも低濃度であることを示し、n+型は不純物濃度がn型よりも高濃度であることを示す。同様に、p-型は不純物濃度がp型よりも低濃度であることを示し、p+型は不純物濃度がp型よりも高濃度であることを示す。
【0011】
また、図面は模式的に示されたものであり、異なる図面にそれぞれ示されている画像のサイズおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されたものではなく、適宜変更され得る。また、以下の説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称および機能も同様のものとする。よって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
【0012】
また、以下の説明では、「上」、「下」、「側」、「おもて」および「裏」などの特定の位置および方向を意味する用語が用いられる場合があるが、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするため便宜上用いられているものであり、実際に実施される際の方向とは関係しない。
【0013】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るRC-IGBT(Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor :逆導通IGBT)である半導体装置100を示す平面図である。また、
図2は、実施の形態1の他の構成のRC-IGBTである半導体装置101を示す平面図である。
図1に示す半導体装置100は、IGBT領域10とダイオード領域20とがストライプ状に並んで設けられたものであり、単に「ストライプ型」と呼んでよい。
図2に示す半導体装置101は、ダイオード領域20が縦方向と横方向に複数設けられ、ダイオード領域20の周囲にIGBT領域10が設けられたものであり、単に「アイランド型」と呼んでよい。
【0014】
<ストライプ型の全体平面構造>
図1において、半導体装置100は、1つの半導体装置内にIGBT領域10とダイオード領域20とを備えている。IGBT領域10およびダイオード領域20は、半導体装置100の一端側から他端側に延伸し、IGBT領域10およびダイオード領域20の延伸方向と直交する方向に交互にストライプ状に設けられている。
図1では、IGBT領域10を3個、ダイオード領域を2個で示し、全てのダイオード領域20がIGBT領域10で挟まれた構成で示しているが、IGBT領域10とダイオード領域20の数はこれに限るものでなく、IGBT領域10の数は3個以上でも3個以下でもよく、ダイオード領域20の数も2個以上でも2個以下でもよい。また、
図1のIGBT領域10とダイオード領域20の場所を入れ替えた構成であってもよく、全てのIGBT領域10がダイオード領域20に挟まれた構成であってもよい。また、IGBT領域10とダイオード領域20とがそれぞれ1つずつ互いに隣り合って設けられた構成であってもよい。
【0015】
図1に示すように、紙面下側のIGBT領域10に隣接してパッド領域40が設けられている。パッド領域40は半導体装置100を制御するための制御パッド41が設けられる領域である。IGBT領域10およびダイオード領域20を合わせてセル領域と呼ぶ。セル領域およびパッド領域40を合わせた領域の周囲には半導体装置100の耐圧保持のために終端領域30が設けられている。終端領域30には、周知の耐圧保持構造を適宜選択して設けることができる。耐圧保持構造は、例えば、半導体装置100のおもて面側である第1主面側に、p型半導体のp型終端ウェル層でセル領域を囲ったFLR(Field Limmiting Ring)および濃度勾配をつけたp型ウェル層でセル領域を囲ったVLD(Variation of Lateral Doping)を設けて構成してよく、FLRに用いられるリング状のp型終端ウェル層の数およびVLDに用いられる濃度分布は、半導体装置100の耐圧設計によって適宜選択してよい。また、パッド領域40のほぼ全域に渡ってp型終端ウェル層を設けてもよく、パッド領域40にIGBTセルおよびダイオードセルを設けてもよい。
【0016】
制御パッド41は、例えば、電流センスパッド41a、ケルビンエミッタパッド41b、ゲートパッド41c、温度センスダイオードパッド41d、41eであってよい。電流センスパッド41aは、半導体装置100のセル領域に流れる電流を検知するための制御パッドで、半導体装置100のセル領域に電流が流れる際に、セル領域全体に流れる電流の数分の1から数万分の1の電流が流れるようにセル領域の一部のIGBTセルまたはダイオードセルに電気的に接続された制御パッドである。
【0017】
ケルビンエミッタパッド41bおよびゲートパッド41cは、半導体装置100をオンオフ制御するためのゲート駆動電圧が印加される制御パッドである。ケルビンエミッタパッド41bはIGBTセルのp型ベース層に電気的に接続され、ゲートパッド41cはIGBTセルのゲートトレンチ電極に電気的に接続される。ケルビンエミッタパッド41bとp型ベース層とはp+型コンタクト層を介して電気的に接続されてもよい。温度センスダイオードパッド41d、41eは、半導体装置100に設けられた温度センスダイオードのアノードおよびカソードに電気的に接続された制御パッドである。セル領域内に設けられた図示しない温度センスダイオードのアノードとカソードとの間の電圧を測定して、半導体装置100の温度を測定する。
【0018】
<アイランド型の全体平面構造>
図2において、半導体装置101は、1つの半導体装置内にIGBT領域10とダイオード領域20とを備えている。ダイオード領域20は、半導体装置内に平面視で縦方向および横方向にそれぞれ複数並んで配置されており、ダイオード領域20は周囲をIGBT領域10に取り囲まれている。つまり、IGBT領域10内に複数のダイオード領域20がアイランド状に設けられている。
図2では、ダイオード領域20は紙面左右方向に4列、紙面上下方向に2行のマトリクス状に設けた構成で示しているが、ダイオード領域20の個数および配置はこれに限るものではなく、IGBT領域10内に1つまたは複数のダイオード領域20が点在して設けられ、それぞれのダイオード領域20が周囲をIGBT領域10に囲まれた構成であればよい。
【0019】
図2に示すように、IGBT領域10の紙面下側に隣接してパッド領域40が設けられている。パッド領域40は半導体装置101を制御するための制御パッド41が設けられる領域である。IGBT領域10およびダイオード領域20を合わせてセル領域と呼ぶ。セル領域およびパッド領域40を合わせた領域の周囲には半導体装置101の耐圧保持のために終端領域30が設けられている。終端領域30には、周知の耐圧保持構造を適宜選択して設けることができる。耐圧保持構造は、例えば、半導体装置101のおもて面側である第1主面側に、p型半導体のp型終端ウェル層でセル領域およびパッド領域40を合わせた領域を囲ったFLR(Field Limiting Ring)および濃度勾配をつけたp型ウェル層でセル領域を囲ったVLD(Variation of Lateral Doping)を設けて構成してよく、FLRに用いられるリング状のp型終端ウェル層の数およびVLDに用いられる濃度分布は、半導体装置101の耐圧設計によって適宜選択してよい。また、パッド領域40のほぼ全域に渡ってp型終端ウェル層を設けてもよく、パッド領域40にIGBTセルおよびダイオードセルを設けてもよい。
【0020】
制御パッド41は、例えば、電流センスパッド41a、ケルビンエミッタパッド41b、ゲートパッド41c、温度センスダイオードパッド41d、41eであってよい。電流センスパッド41aは、半導体装置101のセル領域に流れる電流を検知するための制御パッドで、半導体装置101のセル領域に電流が流れる際に、セル領域全体に流れる電流の数分の1から数万分の1の電流が流れるようにセル領域の一部のIGBTセルまたはダイオードセルに電気的に接続された制御パッドである。
【0021】
ケルビンエミッタパッド41bおよびゲートパッド41cは、半導体装置101をオンオフ制御するためのゲート駆動電圧が印加される制御パッドである。ケルビンエミッタパッド41bはIGBTセルのp型ベース層およびn+型ソース層に電気的に接続され、ゲートパッド41cはIGBTセルのゲートトレンチ電極に電気的に接続される。ケルビンエミッタパッド41bとp型ベース層とはp+型コンタクト層を介して電気的に接続されてもよい。温度センスダイオードパッド41d、41eは、半導体装置101に設けられた温度センスダイオードのアノードおよびカソードに電気的に接続された制御パッドである。セル領域内に設けられた図示しない温度センスダイオードのアノードとカソードとの間の電圧を測定して、半導体装置101の温度を測定する。
【0022】
<断面構成>
図3は、
図1に示した半導体装置100または
図2に示した半導体装置101におけるG-G線での矢示方向断面図であり、IGBT領域10とダイオード領域20の境界部分の構成を示している。
【0023】
図3に示すように、半導体装置100または半導体装置101は、半導体基板からなるn
-型ドリフト層1(第2半導体層)を有している。n
-型ドリフト層1は、n型不純物として例えばヒ素(As)またはリン(P)等を有する半導体層であり、n型不純物の濃度は1.0×10
12/cm
3~1.0×10
15/cm
3である。半導体基板は、IGBT領域10においては、n
+型ソース層13(第4半導体層)およびp
+型コンタクト層14からp型コレクタ層16(第1半導体層)までの範囲であり、ダイオード領域20においては、p
+型コンタクト層24(第6半導体層)からn
+型カソード層26(第5半導体層)までの範囲である。
【0024】
図3においてIGBT領域10のn
+型ソース層13およびp
+型コンタクト層14の紙面上端を半導体基板の第1主面、p型コレクタ層16の紙面下端を半導体基板の第2主面と呼ぶ。また、
図3においてダイオード領域20のp
+型コンタクト層24の紙面上端を半導体基板の第1主面、n
+型カソード層26の紙面下端を半導体基板の第2主面と呼ぶ。ダイオード領域20の第1主面とIGBT領域10の第1主面は同一面であり、ダイオード領域20の第2主面とIGBT領域10の第2主面は同一面である。
【0025】
半導体基板の第1主面は、半導体装置100または半導体装置101のおもて面側の主面であり、半導体基板の第2主面は、半導体装置100または半導体装置101の裏面側の主面である。半導体装置100または半導体装置101は、セル領域であるIGBT領域10において、第1主面と第1主面に対向する第2主面との間にn-型ドリフト層1を有している。ダイオード領域20においてもIGBT領域10と同じく半導体基板からなるn-型ドリフト層1を有している。ダイオード領域20のn-型ドリフト層1とIGBT領域10のn-型ドリフト層1とは連続して一体的に構成されたものであり、同一の半導体基板によって構成されている。
【0026】
図3に示すように、IGBT領域10では、n
-型ドリフト層1の第1主面側に、n
-型ドリフト層1よりもn型不純物の濃度が高いn型キャリア蓄積層2が設けられている。n型キャリア蓄積層2は、n型不純物として例えばヒ素(As)またはリン(P)等を有する半導体層であり、n型不純物の濃度は1.0×10
13/cm
3~1.0×10
17/cm
3である。なお、半導体装置100および半導体装置101は、n型キャリア蓄積層2が設けられずに、n型キャリア蓄積層2の領域にもn
-型ドリフト層1が設けられた構成であってもよい。n型キャリア蓄積層2を設けることによって、IGBT領域10に電流が流れた際の通電損失を低減することができる。n型キャリア蓄積層2とn
-型ドリフト層1とを合わせてドリフト層と呼んでもよい。
【0027】
n型キャリア蓄積層2は、n-型ドリフト層1を構成する半導体基板に、n型不純物をイオン注入し、その後アニールによって注入したn型不純物をn-型ドリフト層1である半導体基板内に拡散させることで形成される。
【0028】
n型キャリア蓄積層2の第1主面側には、p型ベース層15(第3半導体層)が設けられている。p型ベース層15は、p型不純物として例えばボロン(B)またはアルミ(Al)等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1012/cm3~1.0×1019/cm3である。p型ベース層15はアクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ絶縁膜11bに接している。p型ベース層15の第1主面側には、アクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ絶縁膜11bに接してn+型ソース層13が設けられ、残りの領域にp+型コンタクト層14が設けられている。n+型ソース層13およびp+型コンタクト層14は半導体基板の第1主面を構成している。なお、p+型コンタクト層14は、p型ベース層15よりもp型不純物の濃度が高い領域であり、p+型コンタクト層14とp型ベース層15とを区別する必要がある場合にはそれぞれを個別に呼称してよく、p+型コンタクト層14とp型ベース層15とを合わせてp型ベース層と呼んでもよい。
【0029】
また、半導体装置100または半導体装置101は、n-型ドリフト層1の第2主面側に、n-型ドリフト層1よりもn型不純物の濃度が高いn型バッファ層3が設けられている。n型バッファ層3は、半導体装置100または半導体装置101がオフ状態のときにp型ベース層15から第2主面側に伸びる空乏層がパンチスルーするのを抑制するために設けられる。n型バッファ層3は、例えば、リン(P)あるいはプロトン(H+)を注入して形成してよく、リン(P)およびプロトン(H+)の両方を注入して形成してもよい。n型バッファ層3のn型不純物の濃度は1.0×1012/cm3~1.0×1018/cm3である。
【0030】
なお、半導体装置100または半導体装置101は、n型バッファ層3が設けられずに、n型バッファ層3の領域にもn-型ドリフト層1が設けられた構成であってもよい。n型バッファ層3とn-型ドリフト層1とを合わせてドリフト層と呼んでもよい。
【0031】
半導体装置100または半導体装置101は、n型バッファ層3の第2主面側に、p型コレクタ層16が設けられている。すなわち、n-型ドリフト層1と第2主面との間に、p型コレクタ層16が設けられている。p型コレクタ層16は、p型不純物として例えばボロン(B)またはアルミ(Al)等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1016/cm3~1.0×1020/cm3である。p型コレクタ層16は半導体基板の第2主面を構成している。p型コレクタ層16は、IGBT領域10だけでなく、図示されない終端領域30にも設けられており、p型コレクタ層16のうち終端領域30に設けられた部分はp型終端コレクタ層16aを構成している。
【0032】
図3に示すように、IGBT領域10では、半導体基板の第1主面からp型ベース層15を貫通し、n
-型ドリフト層1に達するトレンチが形成されている。トレンチ内にゲートトレンチ絶縁膜11bを介してゲートトレンチ電極11aが設けられることでアクティブトレンチゲート11が構成されている。ゲートトレンチ電極11aは、ゲートトレンチ絶縁膜11bを介してn
-型ドリフト層1に対向している。また、トレンチ内にダミートレンチ絶縁膜12bを介してダミートレンチ電極12aが設けられることでダミートレンチゲート12が構成されている。ダミートレンチ電極12aは、ダミートレンチ絶縁膜12bを介してn
-型ドリフト層1に対向している。アクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ絶縁膜11bは、p型ベース層15およびn
+型ソース層13に接している。ゲートトレンチ電極11aにゲート駆動電圧が印加されると、アクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ絶縁膜11bに接するp型ベース層15にチャネルが形成される。
【0033】
図3に示すように、アクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ電極11aの上には層間絶縁膜4が設けられている。半導体基板の第1主面の層間絶縁膜4が設けられていない領域の上、および層間絶縁膜4の上にはバリアメタル5が形成されている。バリアメタル5は、例えば、チタン(Ti)を含む導電体であってよく、例えば、窒化チタンであってよく、チタンとシリコン(Si)を合金化させたTiSiであってよい。
図3に示すように、バリアメタル5は、n
+型ソース層13、p
+型コンタクト層14およびダミートレンチ電極12aにオーミック接触し、n
+型ソース層13、p
+型コンタクト層14およびダミートレンチ電極12aと電気的に接続されている。バリアメタル5の上には、エミッタ電極6が設けられる。エミッタ電極6は、例えば、アルミニウムシリコン合金(Al-Si系合金)などのアルミ合金で形成してもよく、アルミ合金で形成した電極上に、無電解めっき、あるいは電解めっきでめっき膜を形成した複数層の金属膜からなる電極であってもよい。無電解めっき、あるいは電解めっきで形成するめっき膜は、例えば、ニッケル(Ni)めっき膜であってよい。また、隣接する層間絶縁膜4間等の微細な領域であって、エミッタ電極6では良好な埋め込みが得られない領域がある場合には、エミッタ電極6よりも埋め込み性が良好なタングステン(W)を微細な領域に配置して、タングステンの上にエミッタ電極6を設けてもよい。なお、バリアメタル5を設けずに、n
+型ソース層13、p
+型コンタクト層14およびダミートレンチ電極12aの上にエミッタ電極6を設けてもよい。また、n
+型ソース層13などのn型の半導体層の上のみにバリアメタル5を設けてもよい。バリアメタル5とエミッタ電極6とを合わせてエミッタ電極と呼んでよい。なお、
図3では、ダミートレンチゲート12のダミートレンチ電極12aの上には層間絶縁膜4が設けられない図を示したが、層間絶縁膜4をダミートレンチゲート12のダミートレンチ電極12aの上に形成してもよい。層間絶縁膜4をダミートレンチゲート12のダミートレンチ電極12aの上に形成した場合には、別の断面においてエミッタ電極6とダミートレンチ電極12aとを電気的に接続すればよい。
【0034】
p型コレクタ層16の第2主面側には、コレクタ電極7(第1電極)が設けられる。コレクタ電極7は、エミッタ電極6(第2電極)と同様、アルミ合金またはアルミ合金とめっき膜とで構成されていてもよい。また、コレクタ電極7はエミッタ電極6と異なる構成であってもよい。コレクタ電極7は、p型コレクタ層16にオーミック接触し、p型コレクタ層16と電気的に接続されている。
【0035】
図3に示すように、ダイオード領域20においてもIGBT領域10と同様に、n
-型ドリフト層1の第1主面側にn型キャリア蓄積層2が設けられ、n
-型ドリフト層1の第2主面側にn型バッファ層3が設けられている。ダイオード領域20に設けられるn型キャリア蓄積層2およびn型バッファ層3は、IGBT領域10に設けられるn型キャリア蓄積層2およびn型バッファ層3と同一の構成である。なお、IGBT領域10およびダイオード領域20にn型キャリア蓄積層2は必ずしも設ける必要はなく、IGBT領域10にn型キャリア蓄積層2を設ける場合であっても、ダイオード領域20にはn型キャリア蓄積層2を設けない構成としてもよい。また、IGBT領域10と同じく、n
-型ドリフト層1、n型キャリア蓄積層2およびn型バッファ層3を合わせてドリフト層と呼んでもよい。
【0036】
n型キャリア蓄積層2の第1主面側には、p型アノード層25(第3半導体層)が設けられている。p型アノード層25は、n-型ドリフト層1と第1主面との間に設けられている。p型アノード層25は、IGBT領域10のp型ベース層15とp型不純物の濃度を同じ濃度にして、p型アノード層25とp型ベース層15とを同時に形成してもよい。また、p型アノード層25のp型不純物の濃度を、IGBT領域10のp型ベース層15のp型不純物の濃度よりも低くして、ダイオード動作時にダイオード領域20に注入される正孔の量を減少させるように構成してもよい。ダイオード動作時に注入される正孔の量を減少させることでダイオード動作時のリカバリ損失を低減することができる。
【0037】
p型アノード層25の第1主面側には、p+型コンタクト層24が設けられている。p+型コンタクト層24のp型不純物の濃度は、IGBT領域10のp+型コンタクト層14のp型不純物と同じ濃度としてよく、異なる濃度としてもよい。p+型コンタクト層24は半導体基板の第1主面を構成している。なお、p+型コンタクト層24は、p型アノード層25よりもp型不純物の濃度が高い領域であり、p+型コンタクト層24とp型アノード層25とを区別する必要がある場合にはそれぞれを個別に呼称してよく、p+型コンタクト層24とp型アノード層25とを合わせてp型アノード層と呼んでもよい。
【0038】
ダイオード領域20には、n型バッファ層3の第2主面側に、n+型カソード層26が設けられている。n+型カソード層26は、n-型ドリフト層1と第2主面との間に設けられている。n+型カソード層26は、n型不純物として例えばヒ素(As)またはリン(P)等を有する半導体層であり、n型不純物の濃度は1.0×1016/cm3~1.0×1021/cm3である。
【0039】
n+型カソード層26は半導体基板の第2主面を構成している。なお、図示していないが、上述のようにn+型カソード層26を形成した領域に、さらにp型不純物を選択的に注入して、n+型カソード層26を形成した領域の一部をp型半導体としてp+型カソード層を設けてもよい。このように、n+型カソード層とp+型カソード層とを半導体基板の第2主面に沿って交互に配置したダイオードは、RFC(Relaxed Field of Cathode)ダイオードと呼称される。
【0040】
図3に示すように、ダイオード領域20には、半導体基板の第1主面からp型アノード層25を貫通し、n
-型ドリフト層1に達するトレンチが形成されている。ダイオード領域20のトレンチ内にダイオードトレンチ絶縁膜21bを介してダイオードトレンチ電極21aが設けられることでダイオードトレンチゲート21が構成されている。ダイオードトレンチ電極21aはダイオードトレンチ絶縁膜21bを介してn
-型ドリフト層1に対向している。
【0041】
図3に示すように、ダイオードトレンチ電極21a、およびp
+型コンタクト層24の上にはバリアメタル5が設けられている。バリアメタル5は、ダイオードトレンチ電極21aおよびp
+型コンタクト層24とオーミック接触し、ダイオードトレンチ電極
21aおよびp
+型コンタクト層24に電気的に接続されている。バリアメタル5は、IGBT領域10のバリアメタル5と同一の構成であってよい。バリアメタル5の上には、エミッタ電極6が設けられる。ダイオード領域20に設けられるエミッタ電極6は、IGBT領域10に設けられたエミッタ電極6と連続して形成されている。なお、IGBT領域10の場合と同様に、バリアメタル5を設けずに、ダイオードトレンチ電極21aおよびp
+型コンタクト層24とエミッタ電極6とをオーミック接触させてもよい。なお、
図3では、ダイオードトレンチゲート21のダイオードトレンチ電極21aの上には層間絶縁膜4が設けられない図を示したが、層間絶縁膜4をダイオードトレンチゲート21のダイオードトレンチ電極21aの上に形成してもよい。層間絶縁膜4をダイオードトレンチゲート21のダイオードトレンチ電極21aの上に形成した場合には、別の断面においてエミッタ電極6とダイオードトレンチ電極21aとを電気的に接続すればよい。
【0042】
n+型カソード層26の第2主面側には、コレクタ電極7が設けられる。エミッタ電極6と同様、ダイオード領域20のコレクタ電極7は、IGBT領域10に設けられたコレクタ電極7と連続して形成されている。コレクタ電極7は、n+型カソード層26にオーミック接触し、n+型カソード層26に電気的に接続されている。
【0043】
また、
図3に示すように、半導体装置100ま
たは半導体装置101のダイオード領域20には、第1主面側からのp型アノード層25の厚み方向端と第2主面側からのn
+型カソード層26の厚み方向端との間のn
-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深い位置までライフタイム制御層LTが形成されている。
【0044】
ここでp型アノード層25の厚み方向端とは、n-型ドリフト層1とp型アノード層25の境界を意味するが、この境界は必ずしも平面ではなく、本開示では濃度分布を有さないか、緩やかな濃度分布を有するn型不純物に対して、n型不純物よりは明確な濃度分布を有するp型不純物の濃度が急峻に変化する領域をn-型ドリフト層1とp型アノード層25の境界として特定できる。同様にn+型カソード層26の厚み方向端とは、n型バッファ層3とn+型カソード層26の境界を意味するが、この境界は必ずしも平面ではないものの、n型バッファ層3とn+型カソード層26とでは濃度差が大きく、不純物濃度の変化が判りやすく、n型バッファ層3とn+型カソード層26の境界は特定できる。
【0045】
ライフタイム制御層LTは、例えばヘリウムまたは水素などの軽イオンのイオン注入によって結晶欠陥を形成し、イオン注入後の欠陥回復アニールによって結晶欠陥の一部が回復した結晶欠陥を含む結晶欠陥層である。n-型ドリフト層1中に結晶欠陥が形成されることで、キャリア(正孔)のライフタイムを短くでき、結晶欠陥の密度を制御することでキャリアのライフタイムを制御できるので、ライフタイム制御層と呼称するが、結晶欠陥制御層と呼称することもできる。
【0046】
ライフタイム制御層LT中で最もライフタイムが短くなる領域、すなわち結晶欠陥密度が最大となる領域が、p型アノード層25の厚み方向端とn+型カソード層26の厚み方向端との間のn-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深い位置にある。n-型ドリフト層1の厚みは、例えば、40μm~700μmである。
【0047】
また、ライフタイム制御層LTは、ダイオード領域20のn-型ドリフト層1中だけでなく、ダイオード領域20とIGBT領域10との境界を跨いでIGBT領域10のn-型ドリフト層1中にまで平面方向に張り出するように設けられている。このライフタイム制御層LTの張り出し部分の平面方向の幅はwであり、この幅wだけライフタイム制御層LTがIGBT領域10にまで延在しているだけである。
【0048】
ライフタイム制御層LT形成のための軽イオンの注入量は、面密度で、例えば1.0×1010ions/cm2~1.0×1012ions/cm2であり、注入エネルギーは数MeV~数十MeVである。軽イオンは、例えばサイクロトロン装置などによって加速された状態で注入され、半導体装置への注入深さは加速電圧(注入エネルギー)または、半導体装置の前に配置されるアブソーバーによって調整される。また、軽イオンは、メタルマスクまたは厚いレジストによって遮蔽することができ、それによってIGBT領域の一部だけに、ライフタイム制御層LTを形成することができる。イオン注入後の欠陥回復アニールは、例えば200℃~450℃である。
【0049】
図4は半導体基板内におけるライフタイム制御層LTに形成される結晶欠陥密度の深さ方向の分布を示す図であり、横軸に結晶欠陥密度[/cm
2]を示し、縦軸に半導体基板の第1主面からの深さ[μm]を示す。
【0050】
ライフタイム制御層LTは、第1主面側から軽イオンをイオン注入することによって形成されるため、軽イオンの通過領域と停止領域に結晶欠陥が形成され、通過領域ではp型アノード層も含めて結晶欠陥の密度は一定であるが、停止領域において結晶欠陥が急増し、急峻なピークを有しており、キャリアのライフタイムが最も短くなる。この結晶欠陥の密度のピークが形成される深さを結晶欠陥密度最大深さと呼称し、この深さが、p型アノード層25の厚み方向端(アノード層端)とn+型カソード層26の厚み方向端(カソード層端)との間のn-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深くなるようにライフタイム制御層LTを形成する。あるいは、結晶欠陥密度最大深さが、半導体基板の第1主面と第2主面との間の中間位置よりも深くなるようにライフタイム制御層LTを形成する。なお、結晶欠陥密度最大深さは、例えば30μm~600μmに設定される。
【0051】
図5は、実施の形態1の半導体装置100または半導体装置101との比較例となる、半導体装置90の断面図であり、平面図は、
図1に示した半導体装置100または
図2に示した半導体装置101と同様である。なお、
図5においては、
図3を用いて説明した半導体装置100または半導体装置101と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
図5に示す半導体装置90においては、ライフタイム制御層LTがn
-型ドリフト層1の上層部、すなわちn型キャリア蓄積層2に比較的近い位置に設けられているだけである。
【0053】
図6は、シミュレーションを用いて算出した、比較例の半導体装置90と実施の形態1の半導体装置100におけるダイオード領域20のダイオードの順方向動作時におけるキャリア密度(正孔)の分布を示す図である。
図6において、横軸に半導体基板の第1主面からの深さ[μm]を示し、縦軸にキャリア(正孔)密度[/cm
2]を示しており、実線が実施の形態1の半導体装置100での分布であり、破線が比較例の半導体装置90での分布である。
【0054】
比較例の半導体装置90の構造では、ドリフト層の中央部とその前後ではキャリア密度が比較的一定であり、中央部よりも図中右端のカソード層側(裏面側)に向けてキャリアが増加しているのに対して、実施の形態1の半導体装置100の構造では、図中左端のアノード層側(おもて面側)からキャリアが減少し、ドリフト層の中央部を超えると、ドリフト層の中央部よりもキャリアが少なくなっていることが分かる。
【0055】
これは、
図4に示したように、軽イオンの注入によって、結晶欠陥が急増し、最もライフタイムが短くなる領域、すなわち結晶欠陥密度が最大となる領域をp型アノード層25のアノード層端とn
+型カソード層26のカソード層端との間のn
-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深くなるように設けることで得られた結果であり、n
-型ドリフト層1の中央部より裏面側のキャリア密度を下げることができることを示している。
【0056】
図7は、シミュレーションを用いて算出した、比較例の半導体装置90と実施の形態1の半導体装置100におけるダイオード領域20のダイオードのリカバリ波形を示す図である。
図7において、横軸に時間[μsec]を示し、縦軸にアノード電流I
A[A]を示しており、実線が実施の形態1の半導体装置100でのリカバリ波形であり、破線が比較例の半導体装置90でのリカバリ波形である。
【0057】
比較例の半導体装置90の構造では、リカバリ動作中にリカバリ電流のセカンドピークが発生している。これは、リカバリ動作中の高い電界によって発生しているアバランシェ電流であり、リカバリ電流の大きなセカンドピークは、リカバリ破壊耐量の低下を招く。一方、実施の形態1の半導体装置100の構造においては、リカバリ電流のセカンドピークは発生していない。
図6に示したように、ドリフト層の中央部を超えると、ドリフト層の中央部よりもキャリア密度が低減するので、比較例の半導体装置90と比べてドリフト層内に空乏層が広がりやすく、電界ピーク強度が下がるため、リカバリ動作中のアバランシェ電流を抑制できる。これにより、リカバリ破壊耐量を向上することができる。
【0058】
また、
図3および
図4を用いて説明したように、ライフタイム制御層LTはp型アノード層25のアノード層端とn
+型カソード層26のカソード層端との間のn
-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深い位置に達するように設けられているが、n
+型カソード層26には達していない。このような構成とすることで、n
+型カソード層26の直上に積極的にキャリアが蓄積されるようにし、リカバリ電流によるサージ電圧を抑制したソフトリカバリを実現し、リカバリ破壊耐量を向上できる。
【0059】
また、
図3に示したように、IGBT領域10へのライフタイム制御層LTの張り出しを制限し、張り出し部分の幅をwとしている。また、
図3および
図4に示すように、アノード層端から中間位置CLまでの厚みをt1、中間位置CLから結晶欠陥密度最大深さとなる位置までの厚みをt2とした場合に、w>((3×t1)-t2)/2となるように、張り出し部分の幅wを設定する。
【0060】
IGBT領域10とダイオード領域20との境界部分におけるIGBT領域10へのライフタイム制御層LTの張り出しは、ダイオードの順方向動作時に、ダイオード領域20からダイオード領域20外に電流が広がる領域に設ける。ライフタイム制御層LTがない領域、すなわちライフタイム制御層LTとn+型カソード層26端との間の領域であれば、横方向(平面方向)への電流の広がりは、当該領域の深さ方向の距離と同程度である。一方で、ライフタイム制御層LTがある領域では、横方向の電流の広がりは、ライフタイム制御層LTの深さ方向の距離の半分程度となる。
【0061】
すなわち、IGBT領域10へのライフタイム制御層LTの張り出し幅wは、ライフタイム制御層LTが配置されてない領域のn-型ドリフト層1の深さ方向の厚み(t1-t2)と、ライフタイム制御層LTが配置されているn-型ドリフト層1の深さ方向の厚み(t1+t2)の半分(t1+t2)/2との合計よりも大きければよい。従って、w>(t1-t2)+(t1+t2)/2となるため、式を変形して、w>((3×t1)-t2))/2を満たすように張り出し幅wを制限することで、ライフタイム制御層LTを設けることによるIGBT領域10のオン電圧の上昇を抑制しながら、IGBT領域10のスイッチング損失を低減でき、リカバリ破壊耐量の向上と、IGBT特性の向上を同時に実現することができる。
【0062】
<IGBT領域の構造>
<部分平面構成>
図8は、
図1に示した半導体装置100または
図2に示した半導体装置101におけるIGBT領域10の破線で囲った領域82を拡大して示す部分平面図である。
図8に示すように、IGBT領域10には、アクティブトレンチゲート11とダミートレンチゲート12とがストライプ状に設けられている。半導体装置100では、アクティブトレンチゲート11およびダミートレンチゲート12は、IGBT領域10の長手方向に延伸しておりIGBT領域10の長手方向がアクティブトレンチゲート11およびダミートレンチゲート12の長手方向となっている。一方、半導体装置101では、IGBT領域10に長手方向と短手方向の区別が特段にないが、紙面左右方向をアクティブトレンチゲート11およびダミートレンチゲート12の長手方向としてもよく、紙面上下方向をアクティブトレンチゲート11およびダミートレンチゲート12の長手方向としてもよい。
【0063】
アクティブトレンチゲート11は、半導体基板に形成されたトレンチ内にゲートトレンチ絶縁膜11bを介してゲートトレンチ電極11aが設けられて構成されている。ダミートレンチゲート12は、半導体基板に形成されたトレンチ内にダミートレンチ絶縁膜12bを介してダミートレンチ電極12aが設けられて構成されている。アクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ電極11aは、ゲートパッド41c(
図1、
図2)に電気的に接続される。ダミートレンチゲート12のダミートレンチ電極12aは、半導体装置100または半導体装置101の第1主面上に設けられるエミッタ電極に電気的に接続される。
【0064】
n+型ソース層13が、アクティブトレンチゲート11の幅方向の両側にゲートトレンチ絶縁膜11bに接して設けられる。n+型ソース層13は、n型不純物として例えばヒ素(As)またはリン(P)等を有する半導体層であり、n型不純物の濃度は1.0×1017/cm3~1.0×1020/cm3である。n+型ソース層13は、アクティブトレンチゲート11の延伸方向に沿って、p+型コンタクト層14と交互に設けられる。p+型コンタクト層14は、隣り合った2つのダミートレンチゲート12の間にも設けられる。p+型コンタクト層14は、p型不純物として例えばボロン(B)またはアルミ(Al)等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1015/cm3~1.0×1020/cm3である。
【0065】
図8に示すように半導体装置100または半導体装置101のIGBT領域10では、アクティブトレンチゲート11が3本並んだ隣に、ダミートレンチゲート12が3本並び、ダミートレンチゲート12が3本並んだ隣に、アクティブトレンチゲート11が3本並んだ構成となっている。IGBT領域10は、このようにアクティブトレンチゲート11の組とダミートレンチゲート12の組が交互に並んだ構成をしている。
図8では、1つのアクティブトレンチゲート11の組に含まれるアクティブトレンチゲート11の数を3としたが、1以上であればよい。また、1つのダミートレンチゲート12の組に含まれるダミートレンチゲート12の数は1以上であってよく、ダミートレンチゲート12の数は0であってもよい。すなわち、IGBT領域10に設けられるトレンチ
ゲートの全てをアクティブトレンチゲート11としてもよい。
【0066】
<部分断面構成>
図9は
図8におけるA-A線での矢示方向断面図である。
図9に示すIGBT領域10の断面構成は、
図3に示したIGBT領域10の断面構成と基本的には同じであり、同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略するが、
図9は、IGBT領域10とダイオード領域20の境界部分の断面構成ではないため、IGBT領域10にはライフタイム制御層LTの張り出し部は設けられていない。
【0067】
図10は
図8におけるB-B線での矢示方向断面図である。
図10に示すIGBT領域10の断面構成は、p
+型コンタクト層14の配列方向に沿った断面構成であるので、p型ベース層15の第1主面側には、全てp
+型コンタクト層14が設けられており、n
+型ソース層13が見られない点で
図9とは異なる。つまり、
図8に示したように、n
+型ソース層13は、p型ベース層の第1主面側に選択的に設けられている。なお、ここで言うp型ベース層とは、p型ベース層15とp
+型コンタクト層14とを合わせて呼ぶ場合のp型ベース層のことである。
【0068】
この点を除き、
図10に示すIGBT領域10の断面構成は、
図3に示したIGBT領域10の断面構成と基本的には同じであり、同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略するが、
図10は、IGBT領域10とダイオード領域20の境界部分の断面構成ではないため、IGBT領域10にはライフタイム制御層LTの張り出し部は設けられていない。
【0069】
<ダイオード領域の構造>
<部分平面構成>
図11は、
図1に示した半導体装置100または
図2に示した半導体装置101におけるダイオード領域20の破線で囲った領域83を拡大して示す部分平面図である。
図11に示すように、ダイオード領域20には、ダイオードトレンチゲート21が、半導体装置100または半導体装置101の第1主面に沿ってセル領域であるダイオード領域20の一端側から対向する他端側に向かって延伸している。ダイオードトレンチゲート21は、ダイオード領域20の半導体基板に形成されたトレンチ内にダイオードトレンチ絶縁膜21bを介してダイオードトレンチ電極21aが設けられることで構成される。ダイオードトレンチ電極21aはダイオードトレンチ絶縁膜21bを介してn
-型ドリフト層1に対向している。隣接する2つのダイオードトレンチゲート21の間には、p
+型コンタクト層24およびp型アノード層25が設けられている。
【0070】
p+型コンタクト層24は、p型不純物として例えばボロン(B)またはアルミ(Al)等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1015/cm3~1.0×1020/cm3である。p型アノード層25は、p型不純物として例えばボロンまたはアルミ等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1012/cm3~1.0×1019/cm3である。p+型コンタクト層24とp型アノード層25とはダイオードトレンチゲート21の長手方向に交互に設けられている。
【0071】
<部分断面構成>
図12は
図11におけるC-C線での矢示方向断面図である。
図12に示すダイオード領域20の断面構成は、
図3に示したダイオード領域20の断面構成と同じであり、同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0072】
図13は
図11におけるD-D線での矢示方向断面図である。
図13に示すダイオード領域20の断面構成は、p型アノード層25の配列方向に沿った断面構成であるので、p型アノード層25とバリアメタル5との間に、p
+型コンタクト層24が設けられておらず、p型アノード層25が半導体基板の第1主面を構成している点で
図12とは異なる。つまり、
図11で示したように、p
+型コンタクト層24は、p型アノード層25の第1主面側に選択的に設けられている。
【0073】
<終端領域の構造>
図14は、
図1に示した半導体装置100または
図2に示した半導体装置101におけるE-E線での矢示方向断面図であり、IGBT領域10と終端領域30の境界部分の構成を示している。
【0074】
図14に示すように、半導体装置100または半導体装置101の終端領域30は、半導体基板の第1主面と第2主面との間にn
-型ドリフト層1を有している。終端領域30の第1主面および第2主面は、それぞれIGBT領域10およびダイオード領域20の第1主面および第2主面と同一面である。また、終端領域30のn
-型ドリフト層1は、それぞれIGBT領域10およびダイオード領域20のn
-型ドリフト層1と同一構成であり連続して一体的に形成されている。
【0075】
n-型ドリフト層1の第1主面側、すなわち半導体基板の第1主面とn-型ドリフト層1との間にp型終端ウェル層31が設けられている。p型終端ウェル層31は、p型不純物として例えばボロン(B)またはアルミ(Al)等を有する半導体層であり、p型不純物の濃度は1.0×1014/cm3~1.0×1019/cm3である。p型終端ウェル層31は、IGBT領域10およびダイオード領域20が含まれるセル領域を取り囲んで設けられている。p型終端ウェル層31は複数のリング状に設けられており、p型終端ウェル層31が設けられる数は、半導体装置100または半導体装置101の耐圧設計によって適宜選択される。また、p型終端ウェル層31のさらに外縁側にはn+型チャネルストッパ層32が設けられており、n+型チャネルストッパ層32はp型終端ウェル層31を取り囲んでいる。
【0076】
n-型ドリフト層1と半導体基板の第2主面との間には、p型終端コレクタ層16aが設けられている。p型終端コレクタ層16aは、セル領域に設けられるp型コレクタ層16と連続して一体的に形成されている。従って、p型終端コレクタ層16aを含めてp型コレクタ層16と呼んでもよい。
【0077】
半導体基板の第2主面上にはコレクタ電極7が設けられている。コレクタ電極7は、IGBT領域10およびダイオード領域20を含むセル領域から終端領域30まで連続して一体的に形成されている。一方、終端領域30の半導体基板の第1主面上にはセル領域から連続しているエミッタ電極6と、エミッタ電極6とは分離された終端電極6aとが設けられる。
【0078】
エミッタ電極6と終端電極6aとは、半絶縁性膜33を介して電気的に接続されている。半絶縁性膜33は、例えば、sinSiN(semi-insulating Silicon Nitride:半絶縁性シリコン窒化膜)であってよい。終端電極6aとp型終端ウェル層31およびn+型チャネルストッパ層32とは、終端領域30の第1主面上に設けられた層間絶縁膜4に形成されたコンタクトホールを介して電気的に接続されている。また、終端領域30には、エミッタ電極6、終端電極6aおよび半絶縁性膜33を覆って終端保護膜34が設けられている。終端保護膜34は、例えば、ポリイミドで形成してよい。
【0079】
図15は、
図1に示した半導体装置100における
F-F線での矢示方向断面図であり、ダイオード領域20と終端領域30の境界部分の構成を示している。
図15は、ダイオードトレンチゲート21の延伸方向に沿った断面図であり、ダイオードトレンチゲート21の延伸方向の端部はp型終端ウェル層31内に食い込んでいる。
【0080】
また、
図15に示されるように、ダイオード領域20のライフタイム制御層LTは、ダイオード領域20のn
-型ドリフト層1中だけでなく、ダイオード領域20と終端領域30との境界を跨いで終端領域30のn
-型ドリフト層1中にまで張り出するように設けられている。このライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wは、この幅wは先に説明した、ダイオード領域20とIGBT領域10との境界を跨いでIGBT領域10内張り出したライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wと同じである。また、
図3および
図4に示したように、アノード層端から中間位置CLまでの厚みをt1、中間位置CLから結晶欠陥密度最大深さとなる位置までの厚みをt2とした場合に、w>((3×t1)-t2)/2となるように、張り出し部分の幅wを設定することも同様である。張り出し幅wを制限することで、ライフタイム制御層LTを設けることによるIGBT領域10のオン電圧の上昇を抑制しながら、IGBT領域10のスイッチング損失を低減でき、リカバリ破壊耐量の向上と、IGBT特性の向上を同時に実現することができる。
【0081】
<変形例>
図16は実施の形態1の変形例に係る半導体装置におけるIGBT領域10とダイオード領域20の境界部分の構成を示す断面図であり、
図3に示した断面図に対応している。
図16に示す断面構成と
図3に示した断面構成との相違点は、IGBT領域10の第2主面側に設けられたp型コレクタ層16が、IGBT領域10とダイオード領域20との境界から距離U1だけダイオード領域20側にはみ出して設けられている点である。このように、p型コレクタ層16をダイオード領域20にはみ出して設けることにより、ダイオード領域20のn
+型カソード層26とアクティブトレンチゲート11との距離を大きくすることができ、還流ダイオード動作時にアクティブトレンチゲート11にゲート駆動電圧が印加された場合であっても、IGBT領域10のアクティブトレンチゲート11に隣接して形成されるチャネルからn
+型カソード層26に電流が流れるのを抑制することができる。距離U1は、例えば100μmであってよい。なお、RC-IGBTである半導体装置100または半導体装置101の用途によっては、距離U1がゼロまたは100μmより小さい距離であってもよい。
【0082】
このようにp型コレクタ層16が、IGBT領域10とダイオード領域20との境界から距離U1だけダイオード領域20側にはみ出して設けられている領域は、境界領域と呼称され、IGBT領域10とダイオード領域20との境界部分に限らず、ダイオード領域20と終端領域30の境界部分に設けてもよい。
【0083】
また、
図16に示したように、境界領域を設ける場合は、境界領域の距離U1がライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wよりも小さい場合は、ライフタイム制御層LTは、ダイオード領域20から境界領域およびIGBT領域10に跨るように設け、境界領域の距離U1がライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wよりも大きい場合は、ダイオード領域20から境界領域に跨るように設ける。
【0084】
図17は実施の形態1の変形例に係る半導体装置におけるダイオード領域20と終端領域30の境界部分の構成を示す断面図であり、
図15に示した断面図に対応している。
図17に示すように、p型終端コレクタ層16aは、ダイオード領域20側の端部が距離U2だけダイオード領域20にはみ出して設けられている。このように、p型終端コレクタ層16aをダイオード領域20にはみ出して設けることにより、ダイオード領域20のn
+型カソード層26とp型終端ウェル層31との距離を大きくすることができ、p型終端ウェル層31がダイオードのアノードとして動作するのを抑制することができる。距離U2は、例えば100μmであってよい。
【0085】
また、
図17に示したように、境界領域を設ける場合は、境界領域の距離U2がライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wよりも小さい場合は、ライフタイム制御層LTは、ダイオード領域20から境界領域および終端領域30に跨るように設け、境界領域の距離U2がライフタイム制御層LTの張り出し部分の幅wよりも大きい場合は、ダイオード領域20から境界領域に跨るように設ける。
【0086】
<RC-IGBTの製造方法>
次に、製造工程を順に示す断面図である
図18~
図28を用いて、RC-IGBTである半導体装置100または半導体装置101の製造方法を説明する。
【0087】
まず、
図18に示すようにn
-型ドリフト層1を構成する半導体基板を準備する。半導体基板には、例えば、FZ(Floating Zone)法で作製された、いわゆるFZウエハまたはMCZ(Magnetic Field Applied Czochralski)法で作製された、いわゆるMCZウエハを用いてよく、n型不純物を含むn型ウエハであってよい。半導体基板に含まれるn型不純物の濃度は、作製される半導体装置の耐圧によって適宜選択され、例えば、耐圧が1200Vの半導体装置では、半導体基板を構成するn
-型ドリフト層1の比抵抗が40~120Ω・cm程度となるようにn型不純物の濃度が調整される。
図18に示すように、半導体基板を準備する工程では、半導体基板の全体がn
-型ドリフト層1となっているが、このような半導体基板の第1主面側または第2主面側から、p型あるいはn型の不純物イオンを注入し、その後の熱処理などによって半導体基板内に拡散させることで、p型あるいはn型の半導体層を形成し、半導体装置100または半導体装置101は製造される。
【0088】
図18に示すように、n
-型ドリフト層1を構成する半導体基板は、IGBT領域10およびダイオード領域20になる領域を備えている。また、図示しないがIGBT領域10およびダイオード領域20になる領域の周囲には終端領域30となる領域を備えている。以下では、半導体装置100または半導体装置101のIGBT領域10およびダイオード領域20の構成の製造方法について主として説明するが、半導体装置100または半導体装置101の終端領域30については周知の製造方法により作製してよい。例えば、終端領域30に耐圧保持構造としてp型終端ウェル層31を有するFLRを形成する場合、半導体装置100または半導体装置101のIGBT領域10およびダイオード領域20を加工する前にp型不純物イオンを注入して形成してもよく、半導体装置100のIGBT領域10あるいはダイオード領域20にp型不純物をイオン注入する際に同時にp型不純物イオンを注入して形成してもよい。
【0089】
次に、
図19に示すように、半導体基板の第1主面側からリン(P)などのn型不純物を注入してn型キャリア蓄積層2を形成する。また、半導体基板の第1主面側からボロン(B)などのp型不純物を注入してp型ベース層15およびp型アノード層25を形成する。n型キャリア蓄積層2、p型ベース層15およびp型アノード層25は、半導体基板内に不純物イオンを注入した後、熱処理により不純物イオンを拡散させることで形成される。n型不純物およびp型不純物は、半導体基板の第1主面上にマスク処理を施した後イオン注入されるため、半導体基板の第1主面側に選択的に形成される。n型キャリア蓄積層2、p型ベース層15およびp型アノード層25は、IGBT領域10およびダイオード領域20に形成され、終端領域30でp型終端ウェル層31に接続される。
【0090】
なお、マスク処理とは、半導体基板上にレジストを塗布し、写真製版技術を用いてレジストの所定の領域に開口を形成し、開口を介して半導体基板の所定の領域にイオン注入を施したり、エッチングを施したりするために、半導体基板上にマスクを形成する処理を言う。
【0091】
p型ベース層15およびp型アノード層25は、同時にp型不純物をイオン注入して形成してもよい。この場合、p型ベース層15とp型アノード層25の深さおよびp型不純物濃度は同じとなり同一の構成となる。また、マスク処理によりp型ベース層15とp型アノード層25とに別々にp型不純物をイオン注入することで、p型ベース層15とp型アノード層25の深さおよびp型不純物濃度を異ならせてもよい。
【0092】
また、別の断面において形成されるp型終端ウェル層31は、p型アノード層25と同時にp型不純物をイオン注入して形成してもよい。この場合、p型終端ウェル層31とp型アノード層25との深さおよびp型不純物濃度は同じとなり同一の構成とすることが可能である。また、p型終端ウェル層31とp型アノード層25とを同時にp型不純物をイオン注入して形成して、p型終端ウェル層31とp型アノード層25とのp型不純物濃度を異なる濃度とすることも可能である。この場合、いずれか一方または双方のマスクをメッシュ状のマスクとして、開口率を変更すればよい。
【0093】
また、マスク処理によりp型終端ウェル層31およびp型アノード層25とを別々にp型不純物をイオン注入することで、p型終端ウェル層31およびp型アノード層25の深さおよびp型不純物濃度を異ならせてもよい。p型終端ウェル層31、p型ベース層15、およびp型アノード層25を同時にp型不純物をイオン注入して形成してもよい。
【0094】
次に、
図20に示すように、マスク処理によりIGBT領域10のp型ベース層15の第1主面側に選択的にn型不純物を注入してn
+型ソース層13を形成する。注入するn型不純物は、例えば、ヒ素(As)またはリン(P)であってよい。
【0095】
次に、
図21に示すように、半導体基板の第1主面側からp型ベース層15およびp型アノード層25を貫通し、n
-型ドリフト層1に達するトレンチ8を形成する。IGBT領域10において、n
+型ソース層13を貫通するトレンチ8は、側壁がn
+型ソース層13の一部を構成する。トレンチ8は、半導体基板上にSiO
2などの酸化膜を堆積させた後、マスク処理によってトレンチ8を形成する部分の酸化膜に開口を形成し、開口を形成した酸化膜をマスクとして半導体基板をエッチングすることで形成してよい。
図21では,IGBT領域10とダイオード領域20とでトレンチ8のピッチを同じにして形成しているが、IGBT領域10とダイオード領域20とでトレンチ8のピッチを異ならせてもよい。トレンチ8のピッチは平面視におけるパターンは、マスク処理のマスクパターンにより適宜変更することができる。
【0096】
次に、
図22に示すように、酸素を含む雰囲気中で半導体基板を加熱してトレンチ8の内壁および半導体基板の第1主面に酸化膜9を形成する。トレンチ8の内壁に形成された酸化膜9のうち、IGBT領域10のトレンチ8に形成された酸化膜9がアクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ絶縁膜11bおよびダミートレンチゲート12のダミートレンチ絶縁膜12bである。また、ダイオード領域20のトレンチ8に形成された酸化膜9がダイオードトレンチ絶縁膜21bである。半導体基板の第1主面に形成された酸化膜9は後の工程で除去される。
【0097】
次に、
図23に示すように、内壁に酸化膜9を形成したトレンチ8内に、CVD(chemical vapor deposition)などによってn型またはp型の不純物をドープしたポリシリコンを堆積させて、ゲートトレンチ電極11a、ダミートレンチ電極12aおよびダイオードトレンチ電極21aを形成する。
【0098】
次に、
図24に示すように、IGBT領域10のアクティブトレンチゲート11のゲートトレンチ電極11a上に層間絶縁膜4を形成した後に半導体基板の第1主面に形成された酸化膜9を除去する。層間絶縁膜4は、例えば、SiO
2であってよい。そして、マスク処理により堆積させた層間絶縁膜4にコンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、n
+型ソース層13上、p
+型コンタクト層14上、p
+型コンタクト層24上、ダミートレンチ電極12a上およびダイオードトレンチ電極21a上に形成される。
【0099】
次に、
図25に示すように、半導体基板の第1主面および層間絶縁膜4上にバリアメタル5を形成し、さらにバリアメタル5の上にエミッタ電極6を形成する。バリアメタル5は、窒化チタンをPDV(physical vapor deposition)またはCVDによって成膜することで形成される。
【0100】
エミッタ電極6は、例えば、スパッタリングまたは蒸着などのPVDによってアルミシリコン合金(Al-Si系合金)をバリアメタル5の上に堆積させて形成してよい。また、形成したアルミシリコン合金の上に、無電解めっきまたは電解めっきでニッケル合金(Ni合金)をさらに形成してエミッタ電極6としてもよい。エミッタ電極6をめっきで形成すると、エミッタ電極6として厚い金属膜を容易に形成することができるので、エミッタ電極6の熱容量を増加させて耐熱性を向上させることができる。なお、PVDでアルミシリコン合金のエミッタ電極6を形成した後に、めっき処理でニッケル合金をさらに形成する場合、ニッケル合金を形成するためのめっき処理は半導体基板の第2主面側の加工を行った後に実施してもよい。
【0101】
次に、
図25に示すように、IGBT領域10とダイオード領域20との境界部分のIGBT領域10の上部およびダイオード領域20の上部が開口部となったレジストマスクRMを形成し、レジストマスクRM上から、例えばヘリウムまたは水素(プロトン)などの軽イオンをイオン注入して、開口部の下方のn
-型ドリフト層1中にライフタイム制御層LTを形成する。軽イオンの注入量は、面密度で、例えば1.0×10
10ions/cm
2~1.0×10
12ions/cm
2であり、注入エネルギーは数MeV~数十MeVである。イオン注入後に欠陥を一部回復させるアニール(熱処理)を行うが、その温度は、例えば200℃~450℃であり、そのタイミングは、軽イオンの注入後であればいつでもよい。なお、レジストマスクRMの代わりにメタルマスクを用いてもよい。
【0102】
次に、
図26に示すように半導体基板の第2主面側を研削し、半導体基板を設計した所定の厚さに薄板化する。研削後の半導体基板の厚さは、例えば、30μm~600μmであってよい。この薄板化によりライフタイム制御層LTの深さが、例えば、
図3に示したn
-型ドリフト層1の中間位置CLよりも深い位置となるようにする。
【0103】
次に、
図27に示すように、半導体基板の第2主面側からn型不純物を注入しn型バッファ層3を形成する。さらに、半導体基板の第2主面側からp型不純物を注入しp型コレクタ層16を形成する。n型バッファ層3はIGBT領域10、ダイオード領域20および終端領域30に形成してよく、IGBT領域10またはダイオード領域20のみに形成してもよい。
【0104】
n型バッファ層3は、例えば、リン(P)イオンを注入して形成してよい。また、プロトン(H+)を注入して形成してよい。さらに、プロトンとリンの両方を注入して形成してよい。プロトンは比較的低い加速エネルギーで半導体基板の第2主面から深い位置にまで注入することができる。また、加速エネルギーを変えることでプロトンを注入する深さを比較的容易に変更することができる。このため、n型バッファ層3をプロトンで形成する際に、加速エネルギーを変更しながら複数回注入すると、リンで形成するよりも半導体基板の厚さ方向に幅が広いn型バッファ層3を形成することができる。
【0105】
また、リンはプロトンに比較して、n型不純物としての活性化率を高くすることができるので、リンでn型バッファ層3を形成することにより薄板化した半導体基板であってもより確実に空乏層がパンチスルーするのを抑制することができる。半導体基板をより一層薄板化するには、プロトンとリンの両方を注入してn型バッファ層3を形成するのが好ましく、この際には、プロトンはリンよりも第2主面から深い位置に注入される。
【0106】
p型コレクタ層16は、例えば、ボロン(B)を注入して形成してよい。p型コレクタ層16は、終端領域30にも形成され、終端領域30のp型コレクタ層16がp型終端コレクタ層16aとなる。半導体基板の第2主面側からイオン注入した後に、第2主面にレーザーを照射してレーザーアニールすることで、注入したボロンが活性化しp型コレクタ層16が形成される。この際、半導体基板の第2主面から比較的浅い位置に注入されたn型バッファ層3のためのリンも同時に活性化される。一方、プロトンは380℃~420℃といった比較的低いアニール温度で活性化されるので、プロトンを注入した後はプロトンの活性化のための工程以外で、半導体基板全体が380℃~420℃より高い温度にならないように留意する必要がある。レーザーアニールは、半導体基板の第2主面近傍のみを高温にできるため、プロトンを注入した後であってもn型不純物やp型不純物の活性化に用いることができる。
【0107】
次に、
図28に示すように、ダイオード領域20にn
+型カソード層26を形成する。n
+型カソード層26は、例えば、リン(P)を注入して形成してよい。n
+型カソード層26を形成するためのn型不純物の注入量は、p型コレクタ層16を形成するためのp型不純物の注入量より多い。
図28では、第2主面からのp型コレクタ層16とn
+型カソード層26の深さを同じに示しているが、n
+型カソード層26の深さはp型コレクタ層16の深さ以上である。n
+型カソード層26が形成される領域は、p型不純物が注入された領域にn型不純物を注入してn型半導体にする必要があるので、n
+型カソード層26が形成される領域の全てで注入された
n型不純物の濃度を
p型不純物の濃度より高くする。
【0108】
次に、半導体基板の第2主面上にコレクタ電極7を形成することで、
図3に示した断面構成が得られる。コレクタ電極7は、第2主面のIGBT領域10、ダイオード領域20および終端領域30の全面に渡って形成される。また、コレクタ電極7は、半導体基板であるn型ウエハの第2主面の全面に渡って形成してよい。コレクタ電極7は、スパッタリングまたは蒸着などのPVDによって、アルミシリコン合金(Ai-Si系合金)またはチタン(Ti)などを堆積させて形成してよく、アルミシリコン合金、チタン、ニッケルあるいは金など複数の金属を積層させて形成してもよい。さらには、PVDで形成した金属膜上に無電解めっきまたは電解めっきで、さらに金属膜を形成してコレクタ電極7としてもよい。
【0109】
以上のような工程により半導体装置100または半導体装置101は作製される。半導体装置100または半導体装置101は、1枚のn型ウエハにマトリクス状に複数作製されるので、レーザーダイシングまたはブレードダイシングにより個々の半導体装置100または半導体装置101に切り分けることで半導体装置100または半導体装置101は完成する。
【0110】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 n-型ドリフト層、10 IGBT領域、13 n+型ソース層、15 p型ベース層、16 p型コレクタ層、16a p型終端コレクタ層、20 ダイオード領域、25 p型アノード層、26 n+型カソード層、30 終端領域、31 p型終端ウェル層。