(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】エレベーターの制御装置と制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20231215BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B66B5/02 G
B66B3/00 R
(21)【出願番号】P 2020102884
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕智
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲
(72)【発明者】
【氏名】山田 高志
(72)【発明者】
【氏名】前原 知明
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-157160(JP,A)
【文献】特開2013-014395(JP,A)
【文献】特開2000-177946(JP,A)
【文献】実開昭53-036274(JP,U)
【文献】特開2011-201666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープの一端に接続されて昇降路を昇降するかごと、前記ロープの他端に接続されて前記昇降路を昇降するカウンターウエートと、前記昇降路に設置された浸水センサとを備えるエレベーターを制御する、エレベーターの制御装置において、
前記浸水センサにより前記昇降路の浸水の有無を判定する浸水判定部と、
前記浸水判定部が前記浸水があると判定した場合に、前記かごを前記昇降路の鉛直方向における中央位置に移動させる退避運転制御部と、
を備え、
前記昇降路の前記中央位置は
、前記かごと前記カウンターウエートが同じ鉛直方向の位置にあるときの、前記かごの鉛直方向の位
置である、
ことを特徴とする、エレベーターの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーターの制御装置において、
最下階から最上階までの階のうち、鉛直方向の中央部にある階が中央階であり、
前記かごが移動した前記昇降路の前記中央位置が前記中央階でなければ、前記かごを前記中央位置の上方の最寄りの階に移動させる、エレベーターの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベーターの制御装置において、
前記浸水センサが前記かごの走行中に浸水を検知した場合で、前記かごが前記昇降路の前記中央位置より上方を走行中の場合には、前記かごを下方の最寄りの階に停止させた後に、前記かごが前記昇降路の前記中央位置より下方を走行中の場合には、前記かごを上方の最寄りの階に停止させた後に、前記かごを前記昇降路の前記中央位置に移動させる、エレベーターの制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエレベーターの制御装置において、
前記エレベーターは、前記浸水センサが1つまたは複数の階に設置されており、
前記制御装置は、前記浸水センサが浸水を検知した場合には、浸水を検知した前記浸水センサが設置されている階に着床しようとしている前記かごを、着床前に上昇させて前記昇降路の前記中央位置に移動させる、エレベーターの制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベーターの制御装置において、
前記エレベーターは、前記浸水センサが複数の階に設置されており、
前記制御装置は、前記浸水センサのうち少なくとも1つが浸水を検知した後に、前記かごが昇降しても前記かごと前記カウンターウエートが浸水しない範囲を求め、前記範囲で前記かごを昇降させる運転を行う、エレベーターの制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のエレベーターの制御装置において、
前記エレベーターの冠水を予測した場合に前記エレベーターに信号を送信する監視センターに接続され、
前記監視センターからの前記信号を受信したら、前記かごを前記昇降路の前記中央位置に移動させる、エレベーターの制御装置。
【請求項7】
ロープの一端に接続されて昇降路を昇降するかごと、前記ロープの他端に接続されて前記昇降路を昇降するカウンターウエートと、前記昇降路に設置された浸水センサと、エレベーターの制御装置とを備えるエレベーターの制御方法において、
前記制御装置が、前記浸水センサが浸水を検知した後で、前記かごを前記昇降路の鉛直方向における中央位置に移動させる工程、
を有し、
前記昇降路の前記中央位置は
、前記かごと前記カウンターウエートが同じ鉛直方向の位置にあるときの、前記かごの鉛直方向の位
置である、
ことを特徴とするエレベーターの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの制御装置と制御方法に関し、特にエレベーターが浸水したときに冠水時退避運転をするための、エレベーターの制御装置と制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターには、エレベーターが浸水したときに、かごの浸水を回避するための冠水時退避運転を行うものがある。従来のエレベーターの冠水時退避運転では、かごを最下階以外の任意の階、特に最上階に停止させて、かごの浸水を回避する。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の報知制御装置は、冠水時退避運転が設定されたエレベーターから所定範囲内のエレベーターを識別する識別部と、識別部が識別したエレベーターの所在地における雨量を抽出する抽出部と、識別部が識別したエレベーターと抽出部が抽出した雨量に基づいて、報知を行う対象と報知のタイミングを制御する制御部を備え、冠水退避運転に係る報知を制御する。
【0004】
また、例えば、特許文献2に記載の冠水運転制御システムは、冠水制御運転を開始すると、かごの停止階を最上階に設定し、かごの運行速度に関する加速速度及び減速速度を低下させることで、かごの冠水運転制御を必要最小限に行い、利用者へのサービス低下を極力回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-154438号公報
【文献】特開2017-024876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エレベーターは、かごを吊り下げているロープを駆動して、かごを昇降させる。ロープには、一端にかごが接続され、他端にカウンターウエートが接続されている。
【0007】
従来のエレベーターでは、カウンターウエートの浸水に考慮した冠水時退避運転を行っておらず、例えば、最上階にかごを停止させた場合には、カウンターウエートが最下階に位置して浸水する可能性がある。カウンターウエートが浸水すると、カウンターウエートの部品を交換する必要があり、エレベーターの復旧に時間がかかることがある。
【0008】
本発明の目的は、エレベーターが冠水時退避運転を行うときに、かごとカウンターウエートの両方への浸水を防止するエレベーターの制御装置と制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるエレベーターの制御装置は、ロープの一端に接続されて昇降路を昇降するかごと、前記ロープの他端に接続されて前記昇降路を昇降するカウンターウエートと、前記昇降路に設置された浸水センサとを備えるエレベーターを制御する、エレベーターの制御装置において、前記浸水センサにより前記昇降路の浸水の有無を判定する浸水判定部と、前記浸水判定部が前記浸水があると判定した場合に、前記かごを前記昇降路の鉛直方向における中央位置に移動させる退避運転制御部とを備える。
【0010】
本発明によるエレベーターの制御方法は、ロープの一端に接続されて昇降路を昇降するかごと、前記ロープの他端に接続されて前記昇降路を昇降するカウンターウエートと、前記昇降路に設置された浸水センサと、エレベーターの制御装置とを備えるエレベーターの制御方法において、前記制御装置が、前記浸水センサが浸水を検知した後で、前記かごを前記昇降路の中央位置に移動させる工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、エレベーターが冠水時退避運転を行うときに、かごとカウンターウエートの両方への浸水を防止するエレベーターの制御装置と制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1によるエレベーターの制御装置を備えるエレベーターの概略を示す構成図である。
【
図2】本発明の実施例1における、制御装置が実行する冠水時退避運転の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施例2における、制御装置が実行する冠水時退避運転の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例2における、制御装置が実行する冠水時退避運転の別の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるエレベーターの制御装置と制御方法では、エレベーターが浸水を検知して冠水時退避運転を行うと、昇降路の鉛直方向における中央位置にかごを移動させる。昇降路の鉛直方向における中央位置は、エレベーターの規模、仕様、及び運転方法等に応じて、以下の実施例で説明するように定めることができる。かごが昇降路の鉛直方向における中央位置にあると、カウンターウエートは、かごとほぼ同じ鉛直方向の位置、またはかごと同じ鉛直方向の位置にあるので、浸水しない。本発明では、エレベーターの冠水時退避運転時に、かごを昇降路の鉛直方向における中央位置に移動させることで、かごとカウンターウエートの両方への浸水を防止することができる。このため、エレベーターの冠水時退避運転からの復旧に要する時間を短縮でき、復旧に必要な部品を低減できる。
【0014】
以下、本発明の実施例によるエレベーターの制御装置と制御方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1によるエレベーターの制御装置を備えるエレベーターの概略を示す構成図である。エレベーター30は、かご8と、ロープ5と、昇降路4と、カウンターウエート9と、巻上機用電動機2と、エレベーター30の制御装置1と、浸水センサ13を備える。
【0016】
かご8は、ロープ5に吊り下げられており、昇降路4を昇降する。かご8は、乗り場に設けられた乗り場釦(図示せず)、またはかご8内に設けられた行き先釦(図示せず)の操作によって、乗り場階12へ移動する。
【0017】
ロープ5には、一端にかご8が接続され、他端にカウンターウエート9が接続されている。
【0018】
カウンターウエート9は、ロープ5に吊り下げられており、昇降路4を昇降する。
【0019】
巻上機用電動機2は、巻上機でロープ5を駆動することで、かご8を昇降路4に沿って昇降させる。
【0020】
制御装置1は、エレベーター30を制御する。例えば、制御装置1は、巻上機用電動機2を制御して、かご8とカウンターウエート9を昇降させる。制御装置1は、巻上機用電動機2の回転に基づいてかご8の位置を検知するロータリーエンコーダ3の出力により、かご8の位置を把握することができる。また、制御装置1は、エレベーター30を遠隔的に監視する監視センター20に通信ネットワーク21で接続し、監視センター20と通信することができる。
【0021】
制御装置1は、浸水センサ13により昇降路4の浸水の有無を判定する浸水判定部41と、浸水判定部41が昇降路4の浸水があると判定した場合に、かご8を昇降路4の鉛直方向における中央位置に移動させる退避運転制御部42を備える。
【0022】
浸水センサ13は、例えば浸水検知スイッチで構成でき、昇降路4のピットに設置され、ピットへの浸水を検知することで、エレベーター30の浸水を検知する。浸水センサ13は、エレベーター30の浸水を検知すると、制御装置1に信号を送信する。制御装置1の浸水判定部41は、浸水センサ13からの信号により、昇降路4の浸水があると判定し、エレベーター30の浸水を検知することができる。
【0023】
浸水センサ13は、ピットだけでなく、昇降路4の壁に設置することで、1つまたは複数の階に設けることができる。浸水センサ13が1つまたは複数の階に設置されると、制御装置1は、浸水センサ13が設置された階への浸水を検知することができる。浸水センサ13が各階に設置されると、制御装置1は、最下階からどの階まで浸水したかを把握することができる。
【0024】
かご8の内部には、かご8内の利用客10に対して種々の情報を報知する放送機器(図示せず)や表示機器(図示せず)が設けられている。かご8の天井側の外部には、かご8の戸の開閉を制御する戸用電動機7と、放送機器や表示機器等のかご8の機器を制御するかご側制御装置6が設けられている。かご側制御装置6は、かご8の下部に接続されたテールコード11によって制御装置1と接続されており、テールコード11を介して、制御装置1から電力が供給されたり、制御装置1と制御信号を通信したりする。
【0025】
制御装置1は、マイクロコンピュータを備え、各機器に送る制御信号の演算処理、制御信号の入出力処理、及び通信処理を行う。制御装置1は、これらの処理を行うことにより、エレベーター30を制御するとともに、かご側制御装置6や乗り場制御装置(図示せず)等の周辺機器を制御する。
【0026】
エレベーター30が浸水すると、この浸水を検知した浸水センサ13から制御装置1に信号が送信され、制御装置1は、エレベーター30の運転モードを冠水時退避運転に切り替えて、冠水時退避運転を実行する。浸水センサ13が複数の階に設置されている場合には、複数の浸水センサ13のうち少なくとも1つが浸水を検知すると、制御装置1は、冠水時退避運転を実行する。
【0027】
本実施例によるエレベーター30の制御装置1が実行する冠水時退避運転の処理手順を、
図2を用いて説明する。本実施例では、制御装置1の退避運転制御部42は、冠水時退避運転を実行すると、かご8を中央階に移動させることにより、かご8とカウンターウエート9の両方への浸水を防止する。
【0028】
中央階とは、昇降路4の鉛直方向における中央位置の1つであり、エレベーター30が運行する最下階から最上階までの階のうち、鉛直方向の中央部にある階のことである。利用客10は、中央階に停止したかご8に乗降できる。制御装置1は、例えば、次の3つの方法により、中央階を求めることができる。1つめは、(最下階から最上階までの階の総数÷2)の結果を四捨五入して得られた数を中央階とする方法である。2つめは、(各階間の階床ピッチを全て合算した値÷2)で得られた数値だけ最下階から上方にある位置に最も近い停止階を、中央階とする方法である。最も近い停止階が2つある場合には、このうち上方にある停止階を中央階とする。3つめは、最下階から最上階までの階の総数が偶数の場合に、(最下階から最上階までの階の総数÷2)で得られた数に1を加えた数を中央階とする方法である。中央階は、予め求めて制御装置1に設定しておく。
【0029】
3つめの方法は、鉛直方向の中央部にある階(中央階の候補)が2つある場合に、上方にある階を中央階とする方法である。例えば、最下階が1階であり最上階が6階である場合には、3階と4階が鉛直方向の中央部にある階であり、これらの階のうち上方にある4階を中央階とする。
【0030】
図2は、本実施例における、制御装置1が実行する冠水時退避運転の処理手順を示すフローチャートである。
【0031】
ステップS10で、浸水センサ13がピットへの浸水を検知する。制御装置1は、浸水センサ13からの信号により、ピットへの浸水を検知し、浸水判定部41は、昇降路4の浸水があると判定する。
【0032】
ステップS11で、制御装置1は、エレベーター30の運転モードを冠水時退避運転に切り替える。このとき、制御装置1は、乗場とかご8からの行き先呼びを解除し、かご8内の放送機器や表示機器を用いて、かご8内の利用客10に対して冠水時退避運転を実行することを報知してもよい。
【0033】
ステップS12で、制御装置1は、かご8が走行しているか停止しているかを判定する。制御装置1は、かご8が走行していれば、ステップS13の処理を実行し、かご8が停止していれば、ステップS14の処理を実行する。
【0034】
ステップS13で、制御装置1は、かご8を最寄りの階に停止させる。制御装置1は、ロータリーエンコーダ3の出力によってかご8の位置を把握し、かご8の最寄りの階を求めることができる。
【0035】
ステップS14で、制御装置1は、かご8が中央階に停止しているか否かを判定する。中央階とは、上述したように、最下階から最上階までの階のうち、鉛直方向の中央部にある階のことである。制御装置1は、かご8が中央階に停止していなければ、ステップS15の処理を実行し、かご8が中央階に停止していれば、ステップS17の処理を実行する。
【0036】
ステップS15で、制御装置1は、かご8を中央階に移動させる。
【0037】
ステップS16で、制御装置1は、かご8を中央階に着床させる。
【0038】
ステップS17で、制御装置1は、かご8の戸を開き、かご8内の利用客10をかご8から降車させる。このとき、制御装置1は、かご8内の利用客10にかご8の外へ出ることを促すために、かご8の戸を開いた後に、かご8の内部の照明を消灯し、かご8内の釦を点滅させてもよい。さらに、制御装置1は、かご8内の放送機器や表示機器を用いて、かご8内の利用客10に対してかご8の外へ出ることを促してもよい。
【0039】
ステップS18で、制御装置1は、かご8の戸を開いた後に予め定めた一定時間(例えば15秒)が経過したら、かご8の戸を閉じる。
【0040】
ステップS19で、制御装置1は、エレベーター30の運転を休止する。
【0041】
ステップS20とステップS21は、かご8内に利用客10が残っている場合を考慮した処理である。
【0042】
ステップS20で、制御装置1は、かご8内の戸開き釦が押されたか否かを判定する。
【0043】
ステップS21で、制御装置1は、かご8内の戸開き釦が押されたら、かご8の戸を開く。かご8の戸を開いた後は、制御装置1は、ステップS18からの処理を繰り返す。
【0044】
制御装置1は、このようにして、かご8とカウンターウエート9が浸水するのを防ぐことができる。
【0045】
図2のフローチャートには示していないが、かご8の走行中に浸水センサ13がピットへの浸水を検知した場合には、制御装置1は、ステップS13でかご8を最寄りの階に停止させた後、この最寄りの階でかご8内の利用客10を降車させてから、ステップS15でかご8を中央階に移動させてもよい。この最寄りの階は、かご8が昇降路4の中央位置(中央階)より上方を走行中の場合には、かご8の下方にある最寄りの階であり、かご8が昇降路4の中央位置(中央階)より下方を走行中の場合には、かご8の上方にある最寄りの階である。例えば、中央階が5階であり、かご8が5階から行き先呼びの階である1階へ走行しており、かご8が4階から3階への走行中に浸水センサ13がピットへの浸水を検知したとする。すると、制御装置1は、かご8を最寄りの階である4階に一旦停止させて、4階でかご8内の利用客10を降車させる。予め定めた一定時間(例えば15秒)の経過後に、制御装置1は、かご8を中央階(5階)に移動させる。制御装置1は、このようにして、かご8を中央階に移動させる前に、かご8内の利用客10を降車させることもできる。
【0046】
また、
図2のフローチャートには示していないが、制御装置1は、かご8が下降中に浸水しそうなときは、かご8を上昇させて中央階に移動させてもよい。すなわち、制御装置1は、浸水センサ13が浸水を検知した場合には、浸水を検知した浸水センサ13が設置されている階に着床しようとしているかご8を、この階への着床前に上昇させて中央階に移動させてもよい。但し、中央階は、浸水していないものとする。
【0047】
例えば、制御装置1は、かご8が下降して最下階に着床しようとしているとき(かご8が減速しているとき)に、浸水センサ13がピットへの浸水を検知した場合には、かご8が最下階に着床する前にかご8を直ちに非常停止させ、かご8の走行方向を反転させて上昇させ、かご8を中央階に移動させることができる。
【0048】
なお、かご8が2つの階床を昇降するエレベーター30は、上述のかご8を中央階に移動させる制御ができない。このため、このようなエレベーター30では、利用客10の安全と復旧に必要な部品の多さを考慮して、カウンターウエート9の浸水の防止よりも、かご8の浸水の防止を優先させ、かご8を上階に移動させるものとする。
【0049】
本実施例によるエレベーター30の制御装置1と制御方法では、以上の処理を行い、エレベーター30が冠水時退避運転を行うときに、かご8とカウンターウエート9の両方への浸水を防止することができる。
【実施例2】
【0050】
本発明の実施例2によるエレベーターの制御装置と制御方法について説明する。本実施例によるエレベーターの制御装置は、実施例1で説明したエレベーター30(
図1)に備えられ、実施例1によるエレベーター30の制御装置1と同様の構成を備える。但し、本実施例では、冠水時退避運転を実行したときにかご8が移動する昇降路4の鉛直方向における中央位置が、実施例1と異なる。
【0051】
本実施例によるエレベーター30の制御装置1が実行する冠水時退避運転の処理手順を、
図3を用いて説明する。本実施例では、制御装置1の退避運転制御部42は、冠水時退避運転を実行すると、かご8を昇降路4の中央部に移動させることにより、かご8とカウンターウエート9の両方への浸水を防止する。
【0052】
昇降路4の中央部とは、昇降路4の鉛直方向における中央位置の1つであり、かご8とカウンターウエート9が同じ鉛直方向の位置にあるときのかご8の鉛直方向の位置、またはかご8の昇降範囲の鉛直方向における中央地点のことであり、利用客10がかご8に乗降できない位置も含む。かご8とカウンターウエート9が同じ鉛直方向の位置にあるとは、例えば、かご8の上端とカウンターウエート9の上端が同じ鉛直方向の位置にあること、またはかご8の下端とカウンターウエート9の下端が同じ鉛直方向の位置にあることである。かご8の昇降範囲の鉛直方向における中央地点とは、例えば、最下階から最上階までのかご8の昇降範囲の鉛直方向における中央地点(鉛直方向の中央地点)をミリメートル単位で求めた位置である。昇降路4の中央部の位置は、予め求めて制御装置1に設定しておく。
【0053】
図3は、本実施例における、制御装置1が実行する冠水時退避運転の処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS30からステップS33までの処理は、
図2に示した実施例1でのステップS10からステップS13までの処理とそれぞれ同じであるので、簡単に説明する。
【0055】
ステップS30で、浸水センサ13と制御装置1がピットへの浸水を検知する。浸水判定部41は、昇降路4の浸水があると判定する。
【0056】
ステップS31で、制御装置1は、エレベーター30の運転モードを冠水時退避運転に切り替える。
【0057】
ステップS32で、制御装置1は、かご8が走行しているか停止しているかを判定する。
【0058】
ステップS33で、制御装置1は、かご8を最寄りの階に停止させる。
【0059】
ステップS34からステップS38までの処理は、
図2に示した実施例1でのステップS17からステップS21までの処理と同じであるので、簡単に説明する。
【0060】
ステップS34で、制御装置1は、かご8の戸を開き、かご8内の利用客10をかご8から降車させる。
【0061】
ステップS35で、制御装置1は、かご8の戸を開いた後に予め定めた一定時間(例えば15秒)が経過したら、かご8の戸を閉じる。
【0062】
ステップS36で、制御装置1は、エレベーター30の運転を休止する。
【0063】
ステップS37とステップS38は、かご8内に利用客10が残っている場合を考慮した処理である。
【0064】
ステップS37で、制御装置1は、かご8内の戸開き釦が押されたか否かを判定する。
【0065】
ステップS38で、制御装置1は、かご8内の戸開き釦が押されたら、かご8の戸を開く。かご8の戸を開いた後は、制御装置1は、ステップS35からの処理を繰り返す。
【0066】
ステップS39で、制御装置1は、かご8の戸を閉じた後に予め定めた一定時間(例えば15秒)が経過したら、かご8内に利用客10がいないと判断して、ステップS40の処理を実行する。
【0067】
ステップS40で、制御装置1は、かご8を昇降路4の中央部に移動させて、エレベーター30の運転を休止する。
【0068】
図3のフローチャートに従うと、制御装置1は、かご8の走行中に浸水センサ13がピットへの浸水を検知した場合には、ステップS33でかご8を最寄りの階に停止させた後、この最寄りの階でかご8内の利用客10を降車させてから、ステップS40でかご8を昇降路4の中央部に移動させる。例えば、かご8が5階から行き先呼びの階である1階へ走行しており、かご8が5階から4階への走行中に浸水センサ13がピットへの浸水を検知したとする。すると、制御装置1は、かご8を最寄りの階である4階に一旦停止させて、4階でかご8内の利用客10を降車させる。予め定めた一定時間の経過後に、制御装置1は、かご8を昇降路4の中央部に移動させる。制御装置1は、このようにして、かご8を昇降路4の中央部に移動させる前に、かご8内の利用客10を降車させる。
【0069】
また、
図3のフローチャートには示していないが、実施例1と同様に、制御装置1は、かご8が下降中に浸水しそうなときは、かご8を上昇させて昇降路4の中央部に移動させてもよい。すなわち、制御装置1は、浸水センサ13が浸水を検知した場合には、浸水を検知した浸水センサ13が設置されている階に着床しようとしているかご8を、この階への着床前に上昇させて昇降路4の中央部に移動させてもよい。但し、昇降路4の中央部は、浸水していないものとする。
【0070】
例えば、制御装置1は、かご8が下降して最下階に着床しようとしているとき(かご8が減速しているとき)に、浸水センサ13がピットへの浸水を検知した場合には、かご8が最下階に着床する前にかご8を直ちに非常停止させ、かご8の走行方向を反転させて上昇させ、かご8を最寄りの階に移動させることができる。そして、制御装置1は、かご8の戸を開き、かご8内の利用客10をかご8から降車させ、かご8の戸が開いてから予め定めた一定時間(例えば15秒)が経過したら、かご8を昇降路4の中央部に移動させることができる。
【0071】
制御装置1は、このようにして、かご8とカウンターウエート9が浸水するのを防ぐことも可能である。
【0072】
制御装置1は、冠水時退避運転として、
図3に示したフローチャートの処理と異なる処理を実行することもできる。すなわち、制御装置1は、冠水時退避運転時に、かご8が走行していれば、初めにかご8を昇降路4の中央部に移動させて停止させ、かご8の停止位置が実施例1で説明した中央階でない場合(すなわち、利用客10がかご8から降車できない場合)には、かご8を中央階に移動させて停止させることもできる。制御装置1のこの処理を、
図4を用いて説明する。
【0073】
図4は、本実施例における、制御装置1が実行する冠水時退避運転の別の処理手順を示すフローチャートである。以下では、
図3に示したフローチャートと異なる点のみを説明する。
【0074】
ステップS32でかご8が走行していれば、制御装置1は、ステップS51の処理を実行する。
【0075】
ステップS51で、制御装置1は、かご8を昇降路4の中央部に移動させて停止させる。
【0076】
ステップS52で、制御装置1は、かご8の停止位置が、実施例1で説明した中央階か否かを判定する。かご8の停止位置が中央階であれば、ステップS34の処理を実行し、かご8の停止位置が中央階でなければ、ステップS53の処理を実行する。
【0077】
ステップS53で、制御装置1は、かご8をかご8の停止位置の上方の最寄りの階に移動させて停止させる。その後、制御装置1は、ステップS34の処理を実行する。
【0078】
なお、ステップS52で、かご8の停止位置が中央階ではないが、利用客10がかご8に乗降できる階であれば(すなわち、昇降路4の中央部が、利用客10がかご8に乗降できる、中央階以外の階であれば)、制御装置1は、ステップS53の処理を実行せずに、ステップS34の処理を実行してもよい。
【0079】
ステップS34からステップS39までの処理が終了したら、制御装置1は、ステップS54の処理を実行する。
【0080】
ステップS54で、制御装置1は、かご8が中央階に停止しているか否かを判定する。制御装置1は、かご8が中央階に停止していなければ、ステップS40の処理を実行し、かご8を昇降路4の中央部に移動させる。
【0081】
本実施例によるエレベーター30の制御装置1と制御方法では、以上の処理を行い、エレベーター30が冠水時退避運転を行うときに、かご8とカウンターウエート9の両方への浸水を防止することができる。
【0082】
実施例1または実施例2による制御装置1を備えるエレベーター30において、浸水センサ13は、ピットだけでなく、最下階から複数の階に設置することができる。浸水センサ13が最下階から複数の階に設置されていると、制御装置1は、浸水していない階を把握することができ、かご8が昇降してもかご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲を求めることができる。
【0083】
そこで、実施例1または実施例2による制御装置1は、エレベーター30が冠水時退避運転を行って運転を休止した後で、かご8を動かすことが可能な場合(例えば、制御装置1に設けられたエレベーター30の異常検出装置が異常を検出していない場合)には、エレベーター30の乗り場釦が押されると、一旦、エレベーター30の冠水時退避運転を解除し、かご8が昇降してもかご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲を求め、かご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲でかご8を昇降させる運転を行うことができる。かご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲は、(最上の浸水階プラス1階)で示される階と、(最上階マイナス最上の浸水階)で示される階との間の範囲である。かご8が移動できる上限を(最上階マイナス最上の浸水階)で示される階とする理由は、かご8が移動できる上限を小さくしないと、かご8が最上階に移動したら、カウンターウエート9が浸水するためである。カウンターウエート9の浸水を防ぐために、かご8が移動できる上限を、(最上階マイナス最上の浸水階)で示される階とする。
【0084】
例えば、10階床のエレベーター30で、最上の浸水階が1階の場合には、(最上の浸水階プラス1階)で示される階が2階(=1階プラス1階)であり、(最上階マイナス最上の浸水階)で示される階が9階(=10階マイナス1階)であるので、かご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲は、2階と9階との間の範囲である。そこで、制御装置1は、かご8を昇降させる範囲を2階と9階との間に変更し、この範囲でかご8を昇降させる運転を行う。
【0085】
以上説明したように、制御装置1は、エレベーター30が浸水していても、かご8とカウンターウエート9が浸水しない範囲を把握することで、かご8とカウンターウエート9を浸水させずに、エレベーター30の運転を一定範囲で続けることができる。制御装置1は、このような運転を行うときには、乗場とかご8内に運転できる階を案内してもよい。なお、かご8は、この一定範囲での運転が終了したら、再び昇降路4の鉛直方向における中央位置に戻るものとする。
【0086】
また、実施例1または実施例2による制御装置1は、エレベーター30が冠水時退避運転を行って運転を休止した後で、かご8を動かすことが可能な場合には、エレベーター30の冠水時退避運転を解除し、エレベーター30の保守装置による運転でかご8を昇降させることができる。保守装置には、例えば、かご8に設けられた保守運転用のスイッチ14や、かご8に接続された保守運転用の装置を用いることができる。保守装置を用いると、エレベーター30が浸水していても、かご8を任意の位置に移動させることができるので、エレベーター30の復旧時間を短縮させることができる。
【0087】
また、実施例1または実施例2による制御装置1は、エレベーター30を遠隔的に監視する監視センター20に通信ネットワーク21で接続することができる。監視センター20は、地域の冠水状況によりエレベーター30に冠水の可能性があるかを予測し、エレベーター30に冠水の可能性があることを予測した場合には、エレベーター30に冠水時退避運転を実行させるための信号を送信する。
【0088】
制御装置1は、監視センター20に接続されていると、監視センター20から冠水時退避運転の実行に関する信号を受信し、この信号に従ってエレベーター30に冠水時退避運転を行わせることができる。制御装置1は、監視センター20からこの信号を受信したら、エレベーター30に冠水時退避運転を行わせて、かご8内の利用客10をかご8から降車させ、昇降路4の鉛直方向における中央位置にかご8を移動させて、かご8とカウンターウエート9への浸水を防止する。例えば、制御装置1は、監視センター20から冠水時退避運転を実行させる信号を受信したら、エレベーター30が浸水する前に、かご8内の利用客10をかご8から降車させ、昇降路4の鉛直方向における中央位置にかご8を移動させることができる。なお、エレベーター30の監視センター20が、雨量等に基づいてエレベーター30に冠水時退避運転を行わせる技術は、既に公知であり、例えば特許文献1に記載されている。実施例1または実施例2による制御装置1でも、このような既存の技術を利用することができる。
【0089】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1…制御装置、2…巻上機用電動機、3…ロータリーエンコーダ、4…昇降路、5…ロープ、6…かご側制御装置、7…戸用電動機、8…かご、9…カウンターウエート、10…利用客、11…テールコード、12…乗り場階、13…浸水センサ、14…保守運転用のスイッチ、20…監視センター、21…通信ネットワーク、30…エレベーター、41…浸水判定部、42…退避運転制御部。