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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/06 20060101AFI20231215BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20231215BHJP
   F16J 1/09 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
F02B23/06 R
F02B23/06 M
F02B23/06 S
F02F3/26 C
F16J1/09
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020128449
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025557
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 銀
【審査官】西山 智宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-185242(JP,A)
【文献】特開2012-246859(JP,A)
【文献】特開2019-199825(JP,A)
【文献】特開2018-155160(JP,A)
【文献】特開平04-228846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0253094(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0308371(US,A1)
【文献】国際公開第2014/203382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/06
F02F 3/26
F16J 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂面に凹状のキャビティを有するピストンと、前記キャビティに燃料を噴霧する燃料噴射ノズルと、を有するディーゼルエンジンであって、
前記燃料噴射ノズルの先端部において先端から遠い部位の円周数ヶ所には上段噴孔が設けられ、前記先端部において前記先端に近い部位の円周数ヶ所には下段噴孔が設けられており、
前記キャビティの内周壁面において前記キャビティの内底面から開口へ向かう途中位置までの下側領域が、円周方向で面一とされており、
前記内周壁面において前記キャビティの内底面から開口へ向かう前記途中位置から前記開口側の上側領域の円周数ヶ所には、径方向外向きに凹むとともに前記上段噴孔から噴霧される燃料がそれぞれ衝突される凹部が設けられており、
前記下段噴孔の数は、前記上段噴孔の数の半分とされており、
前記下段噴孔は、噴霧する燃料を前記内底面において前記隣り合う各凹部の間に存在するすべての隔壁部のうちの一つおきの隔壁部の近傍に衝突させる位置に配置されていることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のディーゼルエンジンにおいて、
前記内周壁面において前記途中位置から内底面側の前記下側領域と前記上側領域との間には、段差が形成されていることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のディーゼルエンジンにおいて、
前記隔壁部の内端面において前記内底面から前記開口よりも手前の途中位置までの下側領域が、前記内周壁面の下側領域と軸方向で面一とされており、
前記隔壁部の内端面において前記途中位置から前記開口までの上側領域は、前記隔壁部の下側領域よりも径方向外向きに後退されており、
この後退に伴い前記隔壁部の下側領域と上側領域との間に段差が形成されていることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンにおいて、
前記燃料が衝突される隔壁部の円周方向に沿う幅は、前記燃料が衝突されない隔壁部の円周方向に沿う幅よりも大きく設定されていることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のディーゼルエンジンにおいて、
前記内底面の中央には、前記開口へ向けて隆起する山部が設けられており、
この山部の外周斜面は、前記下段噴孔から噴霧される燃料を沿わせて前記内底面に向かわせる案内面とされていることを特徴とするディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頂面に凹状のキャビティを有するピストンと、前記キャビティに燃料を噴霧する燃料噴射ノズルと、を有するディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、ディーゼルエンジン用ピストンの頂面には、燃焼室となる凹状のキャビティが設けられている。
【0003】
ディーゼルエンジンに用いる燃料噴射ノズルの先端部には、複数の上段噴孔と複数の下段噴孔とが設けられている。
【0004】
前記上段噴孔は、燃料噴射ノズルの先端から遠くに周方向に間隔を隔てて形成されている。前記下段噴孔は、燃料噴射ノズルの先端に近くに周方向に間隔を隔てて形成されている。
【0005】
前記上段噴孔の数と前記下段噴孔の数は同じに設定されており、前記上段噴孔と前記下段噴孔とは千鳥状に配置されている。
【0006】
前記キャビティの内周壁面の円周数ヶ所には、径方向内向きに突出する凸部が設けられており、隣り合う凸部の間が凹部になっている。
【0007】
そして、上記特許文献1には、「燃料噴射ノズルの上段噴孔から噴霧される燃料が前記凹部の上端部分に衝突して上下左右に広がる一方、燃料噴射ノズルの下段噴孔から噴霧される燃料が前記凸部の山部の頂部に衝突して上下左右に広がるが、前記凹部に燃料が衝突するまでの時間と、前記凸部に燃料が衝突するまでの時間とに差が生ずるので、前記凹部に衝突して上下左右に広がる燃料と前記凸部に衝突して上下左右に広がる燃料との干渉が抑えられる」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5589453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1では、燃料噴射ノズルの上段噴孔から噴霧されて前記キャビティの凹部に衝突して上下左右に広がる燃料と、燃料噴射ノズルの下段噴孔から噴霧されて前記キャビティの凸部に衝突して上下左右に広がる燃料とが干渉することを十分に抑制できていないために、煤(Soot)、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(THC)の排出量を低減する効果が弱いことが指摘される。
【0010】
このような事情に鑑み、本発明は、上段噴孔から噴霧されてキャビティの内周壁面の凹部に衝突した燃料と下段噴孔から噴霧されてキャビティの内底面において隔壁部の近傍に衝突した燃料との干渉を可及的に抑制可能とするディーゼルエンジンの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、頂面に凹状のキャビティを有するピストンと、前記キャビティに燃料を噴霧する燃料噴射ノズルと、を有するディーゼルエンジンであって、前記燃料噴射ノズルの先端部において先端から遠い部位の円周数ヶ所には上段噴孔が設けられ、前記先端部において前記先端に近い部位の円周数ヶ所には下段噴孔が設けられており、前記キャビティの内周壁面において前記キャビティの内底面から開口へ向かう途中位置までの下側領域が、円周方向で面一とされており、前記内周壁面において前記キャビティの内底面から開口へ向かう前記途中位置から前記開口側の上側領域の円周数ヶ所には、径方向外向きに凹むとともに前記上段噴孔から噴霧される燃料がそれぞれ衝突される凹部が設けられており、前記下段噴孔の数は、前記上段噴孔の数の半分とされており、前記下段噴孔は、噴霧する燃料を前記内底面において前記隣り合う各凹部の間に存在するすべての隔壁部のうちの一つおきの隔壁部の近傍に衝突させる位置に配置されていることを特徴としている。
【0012】
この構成によれば、前記上段噴孔から噴霧される燃料が前記凹部に衝突してから上下左右方向に広がる一方、前記下段噴孔から噴霧される燃料が前記内底面において前記隔壁部の近傍に衝突してから上方向および左右方向に広がる。
【0013】
ここで、前記凹部に燃料が衝突するまでの時間と前記内底面において前記隔壁部の近傍に燃料が衝突するまでの時間とに差が生ずるようになる。
【0014】
しかも、前記下段噴孔から噴霧される燃料の衝突位置が前記上段噴孔から噴霧される燃料の衝突位置よりも径方向内側に位置しているから、前記上段噴孔から噴霧されて前記凹部に衝突した燃料と前記下段噴孔から噴霧されて前記内底面において前記隔壁部の近傍に衝突した燃料とが異なる方向へ広がるようになって、前記内底面において前記隔壁部の近傍から特に上方向に広がる燃料が、前記凹部から上下左右方向に広がる燃料に干渉する可能性が低くなる。
【0015】
その結果、前記キャビティ内において燃料過濃となる部分を減らせて空気の利用率が向上するので、燃費の向上に貢献できるとともに、煤(Soot)、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(THC)の排出量を低減できるようになる。
【0016】
ところで、上記ディーゼルエンジンにおいて、前記内周壁面において前記途中位置から内底面側の前記下側領域と前記上側領域との間には、段差が形成されている構成とすることができる。
【0017】
この構成によれば、前記上段噴孔から噴霧されて前記凹部に衝突した燃料と、前記下段噴孔から噴霧されて前記内底面において前記下側領域に衝突した燃料とが干渉しにくくなる。
【0018】
また、上記ディーゼルエンジンにおいて、前記隔壁部の内端面において前記内底面から前記開口よりも手前の途中位置までの下側領域が、前記内周壁面の下側領域と軸方向で面一とされており、前記隔壁部の内端面において前記途中位置から前記開口までの上側領域は、前記隔壁部の下側領域よりも径方向外向きに後退されており、この後退に伴い前記隔壁部の下側領域と上側領域との間に段差が形成されている構成とすることができる。
【0019】
この構成によれば、前記内底面において前記隔壁部の近傍から特に上方向に向かう燃料が、前記隔壁部の下側領域によって前記キャビティの開口へ向けて真っ直ぐ案内されることになる。
【0020】
これにより、前記隔壁部の下側領域によって上方向に広がる燃料が前記凹部から上下左右方向に広がる燃料にさらに干渉しにくくなる。
【0023】
また、上記ディーゼルエンジンにおいて、前記燃料が衝突される隔壁部の円周方向に沿う幅は、前記燃料が衝突されない隔壁部の円周方向に沿う幅よりも大きく設定されている構成とすることができる。
【0024】
この構成によれば、前記内底面において前記隔壁部の近傍から特に上方向に広がる燃料が低減されることになる。
【0025】
これにより、前記内底面において前記隔壁部の近傍から特に上方向に広がる燃料が前記凹部から上下左右方向に広がる燃料にさらに干渉しにくくなる。
【0026】
また、上記ディーゼルエンジンにおいて、前記内底面の中央には、前記開口へ向けて隆起する山部が設けられており、この山部の外周斜面は、前記下段噴孔から噴霧される燃料を沿わせて前記内底面に向かわせる案内面とされている構成とすることができる。
【0027】
この構成によれば、前記下段噴孔から噴霧される燃料を前記キャビティ内の山部の外周斜面に沿わせて狙いとなる位置(前記内底面において前記隔壁部の近傍)に衝突させる過程で、前記燃料が空気に触れにくくなる。
【0028】
これにより、燃焼温度の上昇を抑制することが可能になるから、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減できるようになる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、上段噴孔から噴霧されてキャビティの内周壁面の凹部に衝突した燃料と下段噴孔から噴霧されてキャビティの内底面において隔壁部の近傍に衝突した燃料との干渉を可及的に抑制することが可能になる。これにより、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(THC)の排出量を可及的に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係るディーゼルエンジンのピストンの一実施形態を示す平面図である。
図2図1の(2)-(2)線断面を矢印方向から見た図である。
図3図1の(3)-(3)線断面を矢印方向から見た図である。
図4図2の(4)-(4)線断面を矢印方向から見た図である。
図5図1のピストンの一部を破断にして示す斜視図である。
図6】燃料噴射ノズルの下端を見上げた図である。
図7】この実施形態と従来例とについて、筒内圧力および熱発生履歴による計算結果を示すグラフである。
図8】本発明に係るディーゼルエンジンのピストンの他の実施形態を示す平面図である。
図9図8の(9)-(9)線断面を矢印方向から見た図である。
図10図8の(10)-(10)線断面を矢印方向から見た図である。
図11図9の(11)-(11)線断面を矢印方向から見た図である。
図12図8のピストンの一部を破断にして示す斜視図である。
図13】燃料噴射ノズルの下端を見上げた図である。
図14】この実施形態と従来例とについて、筒内圧力および熱発生履歴による計算結果を示すグラフである。
図15】本発明に係るディーゼルエンジンのピストンの他の実施形態で、図11に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1から図7に本発明の一実施形態を示している。図中、1はディーゼルエンジンのピストン(以下、単にピストンと言う)、2は燃料噴射ノズルである。
【0033】
ピストン1の頂面には、凹状のキャビティ3が設けられている。このキャビティ3の内底面の中央には、開口へ向けて隆起する山部4が設けられている。山部4の存在によって内底面が平面視で円環状になっている。
【0034】
山部4は、図2および図3に示すように、円錐形状とされている。この山部4の外周斜面は、図3に示すように、下段噴孔2bから噴霧される燃料を沿わせてキャビティ3の内底面に向かわせる案内面とされている。
【0035】
この山部4の裾野部分は、ピストン1の外周面と同心円となる円柱形状に形成されている。これにより、内底面が円環状になっていて、この円環状の内底面上の環状空間が、山部4の裾野部分を斜面にする場合に比べると、拡大されるようになっている。この拡大により下段噴孔2bから噴霧された燃料と空気との混合が促進されることになる。
【0036】
キャビティ3の内周壁面においてキャビティ3の内底面から開口へ向かう途中位置までの下側領域3aが、円周方向で面一とされている。言い換えれば、下側領域3aの内径寸法が円周方向の各部位で同一になっている。
【0037】
キャビティ3の内周壁面において前記途中位置から前記開口の手前までの上側領域の円周数ヶ所(例えば六ヶ所)には、径方向外向きに凹む凹部5が等間隔に設けられている。
【0038】
このような凹部5を設けることに伴いキャビティ3の内周壁面の下側領域3aと前記上側領域との間に段差6が形成されている。
【0039】
また、円周方向で隣り合う各凹部5の間には隔壁部7が存在している。この隔壁部7は六個になっている。図4に示すように、六個の隔壁部7のうち、前記燃料が衝突される隔壁部7の円周方向に沿う幅は、前記燃料が衝突されない隔壁部7の円周方向に沿う幅よりも大きく設定されている。
【0040】
隔壁部7の内端面においてキャビティ3の内底面からキャビティ3の開口よりも手前の途中位置までの下側領域7aは、キャビティ3の内周壁面の下側領域3aと軸方向で面一とされている。なお、隔壁部7の内端面における下側領域7aの軸方向に沿う寸法は、適宜に設定される。
【0041】
隔壁部7の内端面において前記途中位置から前記開口までの上側領域は、隔壁部7の下側領域7aよりも径方向外向きに後退されている。この後退に伴い隔壁部7の下側領域7aと前記上側領域との間に段差8が形成されている。
【0042】
この段差8は、キャビティ3の内周壁面の下側領域3aと前記上側領域との間の段差6よりもキャビティ3の開口側に位置している。
【0043】
なお、両段差6,8、隔壁部7の円周方向両側ならびに内底面と内周壁面とで作る内隅部には、丸い面取りやテーパ状の面取りが施されている。
【0044】
燃料噴射ノズル2は、ピストン1のキャビティ3に燃料を噴霧するものであって、その先端部には、図6に示すように、上段噴孔2aと、下段噴孔2bと、を有している。
【0045】
燃料噴射ノズル2の先端部は、テーパ形状とされている。上段噴孔2aは、燃料噴射ノズル2の円錐形部分において先端から遠い部位の円周数ヶ所に等間隔に設けられている。この上段噴孔2aから噴霧される燃料は各凹部5に衝突されるようになっている(図4の低密度のドット模様参照)。
【0046】
下段噴孔2bは、燃料噴射ノズル2の円錐形部分において先端に近い部位の円周数ヶ所に等間隔に設けられている。この下段噴孔2bから噴霧される燃料はキャビティ3の内底面において前記隣り合う各凹部5の間に存在するすべての隔壁部7のうちの一つおきの隔壁部7の近傍に衝突されるようになっている(図4の高密度のドット模様参照)。
【0047】
そして、上段噴孔2aの数は下段噴孔2bの数より多く設定されている。例えば図6に示すように、上段噴孔2aの数は六個、下段噴孔2bの数は三個とされる。
【0048】
このように数が異なる上段噴孔2aおよび下段噴孔2bは、上段噴孔2aと下段噴孔2bの位相が一致しないように千鳥状に配置される。
【0049】
また、上段噴孔2aの噴口径は下段噴孔2bの噴口径よりも大きく設定される。例えば上段噴孔2aの噴口径はφ0.12mm~φ0.16mm、下段噴孔2bの噴口径はφ0.10mm~φ0.13mmとされる。
【0050】
さらに、上段噴孔2aの噴口角度θ1は下段噴孔2bの噴口角度θ2よりも大きく設定される。例えば上段噴孔2aの噴口角度θ1は150度~160度、下段噴孔2bの噴口角度θ2は80度~90度とされる。
【0051】
なお、前記各数値は特に限定されるものではない。
【0052】
次に、この実施形態の作用を説明する。
【0053】
燃料噴射ノズル2の上段噴孔2aから噴霧される燃料は、図2の一点鎖線で示すように、キャビティ3の凹部5に衝突してから上下左右方向に広がる。一方、燃料噴射ノズル2の下段噴孔2bから噴霧される燃料は、図3の二点鎖線で示すように、キャビティ3の内底面において隔壁部7の近傍に衝突してから上方向および左右方向に広がる。
【0054】
なお、図4に示すように、上段噴孔2aから噴霧される燃料および下段噴孔2bから噴霧される燃料は共に平面視で扇形に広がるようになっているが、上段噴孔2aから噴霧される燃料の広がりの方が下段噴孔2bから噴霧される燃料の広がりよりも大きくなっている。
【0055】
但し、図4では、図2の(4)-(4)線断面図を上から見下ろすようになっているために、下段噴孔2bから噴霧されてキャビティ3の内底面に衝突した燃料のうち内周壁面の下側領域3aで左右方向に方向転換される燃料が、上段噴孔2aから噴霧されて凹部5に衝突して上下左右方向に広がる燃料と重なっているように見えるが、実際には、下段噴孔2bから噴霧されてキャビティ3の内底面に衝突した燃料のうち内周壁面の下側領域3aで左右方向に方向転換される燃料がキャビティ3の内底面寄りの空間で広がるようになる一方で、上段噴孔2aから噴霧されて凹部5に衝突して上下左右方向に広がる燃料はキャビティ3の開口寄りの空間で広がるようになるので、それらが干渉しにくくなっているのである。
【0056】
ここで、上段噴孔2aから凹部5の最深位置までの距離が、下段噴孔2bからキャビティ3の内底面において隔壁部7の近傍までの距離よりも長いために、上段噴孔2aから凹部5に燃料が衝突するまでの時間と下段噴孔2bからキャビティ3の内底面において隔壁部7の近傍に燃料が衝突するまでの時間とに差が生ずる。
【0057】
しかも、凹部5とキャビティ3の内周壁面の下側領域3aとの間に段差6を設けているとともに、隔壁部7の内端面の下側領域7aを前記内周壁面の下側領域3aと面一にしているから、下段噴孔2bから噴霧される燃料の衝突位置が上段噴孔2aから噴霧される燃料の衝突位置よりも径方向内側に位置するようになっている。
【0058】
これらの相乗作用により、上段噴孔2aから噴霧されて凹部5に衝突した燃料と、下段噴孔2bから噴霧されてキャビティ3の内底面において隔壁部7の近傍に衝突した燃料とが異なる方向へ広がるようになって、前記内底面において隔壁部7の近傍から特に上方向に広がる燃料が、キャビティ3の凹部5から上下左右方向に広がる燃料に干渉しにくくなる。
【0059】
その結果、キャビティ3内において燃料過濃となる部分を減らせて空気の利用率が向上するので、燃費の向上に貢献できるとともに、煤(Soot)、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(THC)の排出量を低減できるようになる。
【0060】
また、下段噴孔2bから噴霧される燃料を、キャビティ3の内底面の中央に設けられる山部4の外周斜面に沿わせて狙いとなる位置(内底面において隔壁部7の近傍)に衝突させるようにしている。
【0061】
これにより、前記燃料が山部4の外周斜面に沿って移動する過程で、前記燃料が空気に触れにくくなる。その結果、燃焼温度の上昇を抑制することが可能になるから、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減することが可能になる。
【0062】
次に、参考までに、この実施形態と従来例とについて、筒内圧力および熱発生履歴を3D数値流体力学(CFD)によりシミュレーションしたので、図7を参照して説明する。
【0063】
前記従来例としては、キャビティをバスタブ型としたピストンを用いている。また、この実施形態では、上段噴孔2aの数を六個、下段噴孔2bの数を三個、上段噴孔2aの噴口径をφ0.148mm、下段噴孔2bの噴口径をφ0.119mm、上段噴孔2aの噴口角度αを156度、下段噴孔2bの噴口角度βを90度とすることにより、上段噴孔2aおよび下段噴孔2bの総面積比(下段噴孔2bの総面積/上段噴孔2aの総面積)を0.320とし、上段噴孔2aおよび下段噴孔2bからの総燃料噴射量を1100cc/minとしている。
【0064】
この実施形態の結果を図7の実線で示し、従来例の結果を図7の破線で示している。この実施形態では、従来例と対比すると、下段噴孔2bから噴霧された燃料をキャビティ3の山部4の外周斜面で空気と混合させにくくすることによって、図7(a)に示すように初期の熱発生が緩慢になり、また、上段噴孔2aから噴霧されて凹部5に衝突して広がる燃料と下段噴孔2bから噴霧されてキャビティ3の内底面に衝突して広がる燃料との干渉を抑制することによって、図7(b)に示すように後期の燃焼が活発化し、図7(c)に示すように後燃えが低減していることが理解できる。
【0065】
このように、本発明を適用した実施形態のディーゼルエンジンでは、ピストン1のキャビティ3内の形状、ならびにキャビティ3内の各部と燃料噴射ノズル2の上段噴孔2aおよび下段噴孔2bとの相対位置関係を工夫することにより、燃費の向上に貢献できるとともに、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(THC)ならびに窒素酸化物(NOx)の排出量を可及的に低減できるようになっている。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0067】
(1)図8図14には本発明の他の実施形態を示している。この実施形態では、図14に示すように、上段噴孔2aの数を八個、下段噴孔2bの数を四個としている。また、例えば上段噴孔2aの噴口径はφ0.12mm~φ0.13mm、下段噴孔2bの噴口径はφ0.10mm~φ0.11mmとされる。
【0068】
その他の構成については、図1図7に示す実施形態と基本的に同様とされている。この実施形態においても上記実施形態と同様の作用、効果が得られる。
【0069】
次に、参考までに、この実施形態と従来例とについて、筒内圧力および熱発生履歴を3D数値流体力学(CFD)によりシミュレーションしたので、図14を参照して説明する。
【0070】
前記従来例としては、キャビティをバスタブ型としたピストンを用いている。また、この実施形態では、上段噴孔2aの数を八個、下段噴孔2bの数を四個、上段噴孔2aの噴口径をφ0.128mm、下段噴孔2bの噴口径をφ0.103mm、上段噴孔2aの噴口角度αを156度、下段噴孔2bの噴口角度βを90度とすることにより、上段噴孔2aおよび下段噴孔2bの総面積比(下段噴孔2bの総面積/上段噴孔2aの総面積)を0.320とし、上段噴孔2aおよび下段噴孔2bからの総燃料噴射量を1100cc/minとしている。
【0071】
この実施形態の結果を図7の実線で示し、従来例の結果を図14の破線で示している。この実施形態では、従来例と対比すると、下段噴孔2bから噴霧された燃料をキャビティ3の山部4の外周斜面で空気と混合させにくくすることによって、図14(a)に示すように初期の熱発生が緩慢になり、また、上段噴孔2aから噴霧されて凹部5に衝突して広がる燃料と下段噴孔2bから噴霧されてキャビティ3の内底面に衝突して広がる燃料との干渉を抑制することによって、図14(b)に示すように後期の燃焼が活発化し、図14(c)に示すように後燃えが低減していることが理解できる。
【0072】
(2)図示していないが、図1図7に示す実施形態において、上段噴孔2aの数と下段噴孔2bの数とを同数(例えば八個)とすることが可能である。この場合、すべての隔壁部7の円周方向に沿う幅を同じにすることが好ましい。
【0073】
(3)図示していないが、上記各実施形態において、下段噴孔2bから噴霧される燃料が衝突される隔壁部7の円周方向に沿う幅と、下段噴孔2bから噴霧される燃料が衝突されない隔壁部7の円周方向に沿う幅とを同じに設定することが可能である。
【0074】
(4)図示していないが、上記各実施形態において、山部4の裾野部分をそれ以外の外周斜面と連続するような斜面にすることが可能である。
【0075】
(5)例えば図15に示すように、凹部5の開口側の周方向幅(間口幅)を奥側の周方向幅よりも小さくすることが可能である。
【0076】
特に、この場合、上段噴孔2aから噴霧された燃料が凹部5に衝突した後で特に左右方向への広がりを抑制できるようになる。これにより、キャビティ3の内底面において隔壁部7の近傍から特に上方向に広がる燃料が、凹部5から左右方向に広がる燃料に干渉しにくくなる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、頂面に凹状のキャビティを有するピストンと、前記キャビティに燃料を噴霧する燃料噴射ノズルと、を有するディーゼルエンジンに好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ピストン
2 燃料噴射ノズル
2a 上段噴孔
2b 下段噴孔
3 キャビティ
3a 内周壁面の下側領域
4 山部
5 凹部
6 段差
7 隔壁部
7a 内端面の下側領域
8 段差
図1
図2
図3
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図6
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図15