(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】監視装置、監視方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2020130789
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】池田 龍司
(72)【発明者】
【氏名】長原 健一
(72)【発明者】
【氏名】小川 草太
(72)【発明者】
【氏名】松倉 紀行
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 智
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 友基
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-210064(JP,A)
【文献】特許第6474564(JP,B2)
【文献】特開2019-160128(JP,A)
【文献】特開2016-167194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0054806(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得する運転記録取得部と、
複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定する閾値設定部と、
前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得する損耗率取得部と、
前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得する故障率累積度数取得部と、
前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出する評価指標算出部と、
監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行う通知部と、
を備え、
前記閾値設定部は、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する、
監視装置。
【請求項2】
負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる複数種類の損耗率の候補のうちの一つを、監視に用いる損耗率として決定する損耗率決定部を備え、
前記評価指標算出部は、前記複数種類の損耗率の候補それぞれに対応する前記評価指標を算出し、
前記閾値設定部は、前記複数種類の損耗率の候補それぞれについて、対応する前記評価指標が最小となる前記閾値を設定し、
前記損耗率決定部は、設定された前記閾値における前記評価指標の最小値が最も小さい損耗率の候補を前記監視に用いる損耗率として決定する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記損耗率取得部は、さらに、評価指標が最小となる、前記損耗率の候補の組み合わせを探索する、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記損耗率は、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値を上回った時間の総計、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値と交差した回数、又は、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値を上回った分の時間積分値である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記評価指標算出部は、複数の分類方法のうちの一つに従って分類された前記装置の分類グループごとの前記評価指標のマクロ平均を、当該複数の分類方法ごとに算出し、
前記閾値設定部は、前記マクロ平均が最小となるように前記閾値を設定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項6】
複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、
複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、
前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、
前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、
前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、
監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、
を有し、
前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する、
監視方法。
【請求項7】
コンピュータに、
複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、
複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、
前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、
前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、
前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、
監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、
を実行させ、
前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視装置、監視方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
装置やプラントのモニタリングデータに基づいて装置等の健全性を監視し、適切な保守や運用方法の改善を行うことで機器の資産としての価値を担保するアセットマネジメントサービスにおいて、製品の摩耗故障の発生確率が高くなる時期を予測し、適切なメンテナンスを行うことが重要となっている。
【0003】
装置の運用期間を横軸にとり、故障の発生確率を縦軸に取った故障率曲線(いわゆるバスタブ曲線)に基づいて、運用期間を基準として摩耗故障の発生確率を予測するTBM(Time Based Maintenance)が従来から多く実施されてきた。
【0004】
従来のTBMは、運用状況を反映せずにメンテナンス期間を設定するため、稼働率の低い機器に対して過剰なメンテナンスコストを生じさせることがある。また、逆に負荷が極端に高い運用をされると、メンテナンス期間前に計画外故障が生じる可能性がある。
【0005】
そこで、装置の異常な挙動を検知してからメンテナンスを行うCBM(Condition Based Maintenance)への移行がトレンドとなっている。
【0006】
特許文献1では、正常時のKPIとなる観測値の重回帰分析と主成分分析モデルと実際の観測値の間に、突発的に大きな残差が生じたり、残差に増加傾向があったりする場合に異常と評価する手法を取っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、装置の異常な振る舞いが顕在化した時点から装置が停止に至ってしまうまでの期間は短いことが多い。そのため、CBMであっても、計画外停止や緊急のメンテナンス対応を要するケースが生じてしまう場合がある。
【0009】
本開示は、上記事情を考慮してなされたものであって、過剰メンテナンスや計画外停止等の発生を抑制可能に、適切に保守、メンテナンスを行うことができる監視装置、監視方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様によれば、監視装置は、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得する運転記録取得部と、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定する閾値設定部と、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得する損耗率取得部と、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得する故障率累積度数取得部と、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出する評価指標算出部と、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行う通知部と、を備え、前記閾値設定部は、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【0011】
本開示の一態様によれば、監視方法は、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、を有し、前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【0012】
本開示の一態様によれば、プログラムは、コンピュータに、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、を実行させ、前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の監視装置、監視方法およびプログラムによれば、過剰メンテナンスや計画外停止等の発生を抑制可能に、適切に保守、メンテナンスを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る監視装置の構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る監視装置の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る監視装置の処理フローを示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
【
図7】第3の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図5を参照しながら、第1の実施形態に係る監視装置について詳しく説明する。
【0016】
(規格情報管理装置の機能構成)
図1、
図2は、第1の実施形態に係る監視の構成を示す図である。
図1に示す監視装置1は、装置2の運転状態を監視して、適切なタイミングで保守、メンテナンスを要することを示す通知(アラート)を行う。本実施形態においては、監視対象となる装置2は、大型冷凍機や水中ポンプなどであるが、他の実施形態においてはこれに限られず、監視装置1は、あらゆる装置、機器、設備に適用可能である。
【0017】
監視装置1は、装置2から、運転中における負荷率又は負荷変化率を時々刻々と受信し、当該負荷率又は負荷変化率に基づいて算出される損耗率(後述)が所定の管理値に達した場合に、アラートを発報する。
【0018】
図1に示すように、監視装置1は、CPU10と、メモリ11と、通信インタフェース12と、記録媒体13とを備える。
【0019】
CPU10は、予め用意されたプログラムに従って動作することで、種々の機能を発揮する。CPU10の機能の詳細については後述する。
【0020】
メモリ11は、いわゆる主記憶装置であって、CPU10の動作に必要な記憶領域を提供する。
【0021】
通信インタフェース12は、広域通信ネットワーク(インターネット等)との接続を確立するインタフェースである。
【0022】
記録媒体13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等、不揮発性の大容量記憶領域である。記録媒体13には、複数(100例~500例程度)の装置2の故障事例に関する運転記録DBが記録されている。
【0023】
(CPUの機能構成)
図2は、第1の実施形態に係る規格情報管理装置のCPUの機能を示す図である。
図2に示すように、CPU10は、予め用意されたプログラムに従って動作することで、運転記録取得部100、閾値設定部101、損耗率取得部102、故障率累積度数取得部103、評価指標算出部104、通知部105および損耗率決定部106としての機能を発揮する。
【0024】
運転記録取得部100は、故障事例(過去に運転され、故障した装置2)の運転記録DBを取得する。運転記録DBには、各装置2が故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移が示されている。
【0025】
閾値設定部101は、複数の故障事例の運転記録における負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定する。
【0026】
損耗率取得部102は、運転時間に応じた装置2の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得する。後述するように、損耗率は、装置2の負荷率又は負荷変化率と、閾値設定部101によって設定された閾値との関係から導かれる値である。
【0027】
故障率累積度数取得部103は、損耗率に対する、複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得する。
【0028】
評価指標算出部104は、故障率累積度数を損耗率で積分した値である評価指標を算出する。なお、上述の閾値設定部101は、この評価指標が最小となるように閾値を設定する。閾値設定部101の当該機能については後述する。
【0029】
通知部105は、監視対象とする装置2の負荷率又は負荷変化率と閾値との関係から導かれる損耗率が、所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知(アラート)を行う。ここで、所定の管理値は、故障事例の故障率累積度数の推移に基づいて決定される。
【0030】
損耗率決定部106は、負荷率又は負荷変化率と閾値との関係から導かれる複数種類の「損耗率の候補」のうちの一つを、装置2の監視に用いる損耗率として決定する。
【0031】
(監視装置の処理フロー)
図3は、第1の実施形態に係る監視装置の処理フローを示す図である。
図4、
図5は、第1の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
以下、
図3~
図5を参照しながら、監視装置1が実行する処理の流れについて詳しく説明する。
【0032】
図3に示す監視装置1の処理フローは、装置2を監視する前の段階で実行される処理フローであって、監視対象とする装置2に対し、アラートを適切に行うための管理値を設定するための処理フローである。
【0033】
まず、監視装置1の運転記録取得部100は、過去の複数の故障事例についての運転記録DBを取得する(ステップS01)。なお、本実施形態においては、運転記録DBは記録媒体13に記録されているものとしているが、他の実施形態においてはこれに限定されない。他の実施形態においては、運転記録DBが外部の装置に記録されており、運転記録取得部100は、当該外部の装置にアクセスして運転記録DBを取得する態様であってもよい。
【0034】
運転記録DBの例については、
図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、運転記録DBは、故障事例において、運転が開始されてから故障に至るまでの負荷率又は負荷変化率の時刻歴が記録されたものである。ここで、負荷率とは、装置2の運転中における負荷の度合いを示す値である。装置2が大型冷凍機である場合、負荷率は、コンプレッサの消費電力(W)や回転数(rpm)であってよい。また、負荷率は、振動センサを介して得られる振動の大きさや、温度センサによる温度の観測値などであったりしてもよい。
また、負荷変化率は、負荷率の変化の度合いを示す値であって、例えば、負荷率の観測値の時間微分により算出されたものであってよい。
【0035】
図3に戻り、次に、監視装置1の閾値設定部101は、各運転記録DBの負荷率又は負荷変化率と対比するための閾値THを設定する(ステップS02)。なお、ここで設定される閾値THは、初期値としての仮の値であり、後のステップにおいて最適値に調整される。
【0036】
次に、監視装置1の損耗率取得部102は、負荷率又は負荷変化率と閾値THとの関係から導かれる値である「損耗率の候補」を取得する(ステップS03)。
【0037】
ここで、ステップS02、S03の処理について、
図4を参照しながら詳しく説明する。
損耗率とは運転時間に応じた装置2の損耗の進行度合いを示す値である。本実施形態においては、
図4に示すように、損耗率は以下の(1)~(3)の組み合わせからなる24パターンの「損耗率の候補」の中から一つが選出されたものとなる。
(1)負荷率又は負荷変化率(2パターン)
(2)負荷率又は負荷変化率を1~4乗した値(4パターン)
(3)以下の条件(a)~(c)(3パターン)
(a)・・・負荷率又は負荷変化率が閾値THを上回った時間の総計
(b)・・・負荷率又は負荷変化率が閾値THと交差した回数
(c)・・・負荷率又は負荷変化率が閾値THを上回った量の時間積分値
【0038】
図3に戻り、次に、監視装置1の故障率累積度数取得部103は、上記の24パターンの「損耗率の候補」それぞれについて、故障率累積度数を取得する(ステップS04)。
【0039】
ここで、
図5を参照しながら、ステップS04の処理について詳しく説明する。
図5に示すグラフは、各故障事例において故障に至った時点における損耗率を横軸にとり、その損耗率となるまでに故障に至った装置の累積数の全体数に対する割合(故障率累積度数)を縦軸にとったものである。例えば、
図5に示す例において、損耗率xiにおける故障率累積度数は、以下の式(1)によって表される。
【0040】
【0041】
本実施形態においては、
図5に示すグラフは、上述の「損耗率の候補」ごとに24個作成される。なお、「損耗率の候補」は、24パターンの種類ごとに単位が異なるが、互いに比較できるように、0~1の範囲で規格化する(
図5のグラフ横軸を参照)。
【0042】
また、
図5に示す例では、故障率累積度数の下限を0%よりも大きい値(例えば10%)に定め、故障率累積度数の上限を100%よりも小さい値(例えば90%)に定めている。このように、異常値が含まれやすい範囲(故障率累積度数が0または100に近い範囲)の故障事例を除外することで、故障率累積度数を用いた判定の精度を高めることができる。
【0043】
図3に戻り、次に、監視装置1の評価指標算出部104は、ステップS04で求めた24個の故障率累積度数のそれぞれから評価指標を算出する(ステップS05)。
【0044】
ここで、
図5を参照しながら、ステップS05の処理について詳しく説明する。
評価指標とは、ステップS04で求めた故障率累積度数(式(1))を損耗率で、xL(0)からxH(1)までの範囲で積分した値であり、式(2)のように表される。
【0045】
【0046】
つまり、評価指標は、
図5に示す故障率累積度数のグラフのxL~xHまでの範囲の面積となる。
【0047】
図3に戻り、次に、監視装置1の閾値設定部101は、ステップS05で求めた評価指標(
図5の故障率累積度数の面積)が最小となるように閾値THを調整する(ステップS06)。
具体的には、閾値設定部101は、ステップS02で設定した閾値TH(初期値)を増減させる。そうすると、閾値THの増減に伴って損耗率xiが変化するので(
図4参照)、この損耗率xiの変化に応じて評価指標も変化する。閾値設定部101は、評価指標の算出結果を参照しながら、当該評価指標が最小値となる閾値THを探索する。
閾値設定部101は、24個の故障率累積度数のそれぞれについて、評価指標が最小となる閾値THを特定する。この結果、24個の故障率累積度数の面積をそれぞれ最小化する24個の閾値THが特定される。
【0048】
次に、監視装置1の損耗率決定部106は、24個の故障率累積度数それぞれについて算出された24個の「評価指標の最小値」のうち最も小さい値を得た「損耗率の候補」の一つと、当該「評価指標の最小値」を与える閾値THを特定する。損耗率決定部106は、この「損耗率の候補」の一つ及び閾値THの組を、今後、監視対象とする装置2の監視に用いる損耗率及び閾値THとして決定する(ステップS07)。
【0049】
最後に、損耗率についての管理値(アラートの発報を行う判定閾値)を決定する。監視装置1は、監視対象の装置2から時々刻々と受信する運転履歴から、ステップS07で決定された損耗率及び閾値THを用いて損耗率を算出し、装置2を監視する(ステップS08)。損耗率の管理値の決定は、ステップS07の閾値THを用いて得られる故障率累積度数のグラフから、操作者の判断によって決定されてよい。
【0050】
(作用、効果)
図5を参照しながら、本実施形態に係る監視装置1の作用及び効果について説明する。
本実施形態に係る閾値設定部101は、評価指標が最小となるように調整される(
図3のステップS06参照)。このようにすることで、
図5の故障率累積度数のグラフの、xL~xHまでの積分値(面積)が最小化される。この積分値(面積)が最小化されることで、損耗率(
図5の横軸)に対し、故障率累積度数(
図5の縦軸)がなるべく急峻に上昇する特性となる閾値THを選ぶことができる。これにより、故障率累積度数が急峻に上昇する直前の損耗率を「管理値」として選択することで、故障の予兆が始まる直前の段階で適切にアラートを発報することができる。
【0051】
以上の通り、第1の実施形態に係る監視装置1によれば、運用実績(故障事例)に則した損耗率に基づいて保守、メンテナンスが行われるので、過剰メンテナンスや計画外停止等の発生を抑制可能に、適切に保守、メンテナンスを行うことができる。
【0052】
また、第1の実施形態に係る監視装置1は、複数種類(24パターン)の「損耗率の候補」それぞれに対応する評価指標を算出し、複数種類の「損耗率の候補」それぞれについて、対応する評価指標が最小となる閾値THを設定する。そして、監視装置1(損耗率決定部106)は、設定された閾値THにおける「評価指標の最小値」が最も小さい損耗率の候補を、装置2の監視に用いる損耗率として決定する。
このようにすることで、寿命の到来を正しく判定するために如何なるパラメータをもって監視すべきかが不明であっても、過去の故障事例から、その製品の寿命を判定するのに最適なパラメータ(損耗率)を選定することができる。
【0053】
<第2の実施形態>
次に、
図6を参照しながら、第2の実施形態に係る監視装置について詳しく説明する。
【0054】
(第2の実施形態に係る監視装置の処理)
図6は、第2の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
本実施形態に係る評価指標算出部104は、複数の分類方法の一つに従って分類された装置2の分類グループごとの評価指標のマクロ平均(後述)を、複数の分類方法ごとに算出する。
また、本実施形態に係る閾値設定部101は、マクロ平均が最小となるように閾値THを設定する。
【0055】
以下、
図6を参照しながら、本実施形態に係る監視装置1の処理の内容について詳しく説明する。
【0056】
本実施形態に係る装置2が大型冷凍機であって、例えば、以下のような(α)、(β)、(γ)の3種類の分類方法が考えられるとする。
(α)型番のみで分類
(β)仕様のみで分類
(γ)型番と仕様の組み合わせで分類
【0057】
本実施形態に係る評価指標算出部104は、複数の故障事例について、分類方法(α)、(β)、(γ)それぞれで分類された分類グループごとに評価指標を演算する。具体的には以下のとおりである。
【0058】
分類方法(α)を例に、評価指標算出部104の処理を説明する。
評価指標算出部104は、全故障事例のうち分類グループ“型番A”に属する故障事例の運転記録DBを抽出し、その運転記録DBについて所定の閾値TH(初期値)を設定して、「損耗率の候補」ごとの評価指標を算出する。
次に、評価指標算出部104は、全故障事例のうち分類グループ“型番B”に属する故障事例の運転記録DBを抽出し、その運転記録DBについて所定の閾値TH(初期値)を設定し、「損耗率の候補」ごとの評価指標を算出する。
そして、分類方法特定部107は、“型番A”、“型番B”それぞれの評価指標のマクロ平均を算出する。
閾値設定部101は、“型番A”、“型番B”に共通する閾値THを増減させて、マクロ平均が最小となる閾値THを探索する。
図6に示す例では、分類方法(α)を採用した場合、ある閾値THにおける、ある「損耗率の候補」の一つで、マクロ平均の最小値0.45を得たことを示している。
【0059】
監視装置1は、分類方法(β)、(γ)についても同様に、各分類グループに共通して適用される閾値THを増減させて、マクロ平均が最小となる「損耗率の候補」と閾値THを探索する。
図6に示す例では、分類方法(β)を採用した場合、ある閾値THにおける、ある「損耗率の候補」の一つで、マクロ平均の最小値0.47を得たことを示している。また、
図6に示す例では、分類方法(c)を採用した場合、ある閾値THにおける、ある「損耗率の候補」の一つで、マクロ平均の最小値0.46を得たことを示している。
【0060】
監視装置1は、マクロ平均が最も小さくなった「損耗率の候補」と閾値THを採用して、装置2の監視を行う。
【0061】
以上のように、評価指標算出部104は、複数の分類方法(α)、(β)、(γ)のそれぞれに従って分類された装置の分類グループごとの評価指標のマクロ平均を、複数の分類方法ごとに算出する。そして、閾値設定部101は、マクロ平均が最小となるように、閾値THを設定する。
【0062】
(作用、効果)
以上の通り、第2の実施形態に係る監視装置1によれば、分類方法ごとに算出される評価指標のマクロ平均にもとづいて、より適切な「損耗率の候補」と閾値THとが特定される。
【0063】
<第3の実施形態>
次に、
図7を参照しながら、第3の実施形態に係る監視装置について詳しく説明する。
【0064】
(第3の実施形態に係る監視装置の処理)
図7は、第3の実施形態に係る監視装置の処理の内容を示す図である。
本実施形態に係る損耗率取得部102は、第1の実施形態の機能に加えて、更に、評価指標が最小となる損耗率の候補の組み合わせを探索する。以下、第3の実施形態に係る損耗率取得部102の処理について詳しく説明する。
【0065】
図7に示すx1、x2、x3、・・は、複数種類(24パターン)の「損耗率の候補」の各々である。第3の実施形態に係る損耗率取得部102は、遺伝的プログラミングを用いて、最も小さい評価指標を得られる「損耗率の候補」の組み合わせを探索する。
【0066】
具体的には、
図7に示すように、まず、第n世代に属する複数種類の「損耗率の候補」の組み合わせ(a1)、(b1)、・・のそれぞれから、その一部の要素を抽出し、他の組み合わせの一部に組み入れる。
図7に示す例では、損耗率取得部102は、第n世代の組み合わせ(b1)に対し、組み合わせ(a1)の一部の要素を組み入れて、第n+1世代の組み合わせ(b2)を作成する。同様に、損耗率取得部102は、第n世代の組み合わせ(a1)に対し、組み合わせ(b1)の一部の要素を組み入れて、第n+1世代の組み合わせ(a2)を作成する。
【0067】
このようにして得られた、第n+1世代に属する複数種類の組み合わせ(a2)、(b2)、・・それぞれを損耗率(
図5のグラフの横軸)として採用した場合における評価指標の最小値を、第1の実施形態と同様に、閾値THを増減させながら探索する。そして、これらの組み合わせ(a2)、(b2)、・・のうち、評価指標の最小値をより低減できた組み合わせのみを選択して、次世代(第n+2世代)の組み合わせを作成する。
【0068】
このように、24パターンの「損耗率の候補」のいずれか一つを単独で「損耗率」とするのではなく、「損耗率」を複数の変数(損耗率の候補)の組み合わせとして定義することで、評価指標の最小化を一層追求することができる。この結果、装置2の監視に用いる「損耗率」と、その管理値をより適切なものとすることができる。
【0069】
<付記>
各実施形態に記載の監視装置、監視方法およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0070】
(1)第1の態様に係る監視装置1は、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得する運転記録取得部100と、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定する閾値設定部101と、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得する損耗率取得部102と、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得する故障率累積度数取得部103と、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出する評価指標算出部104と、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行う通知部105と、を備える。そして、閾値設定部101は、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【0071】
(2)第2の態様に係る監視装置1は、負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる複数種類の損耗率の候補のうちの一つを、監視に用いる損耗率として決定する損耗率決定部106を備える。そして、評価指標算出部104は、前記複数種類の損耗率の候補それぞれに対応する前記評価指標を算出し、閾値設定部101は、前記複数種類の損耗率の候補それぞれについて、対応する前記評価指標が最小となる前記閾値を設定し、損耗率決定部106は、設定された前記閾値における前記評価指標の最小値が最も小さい損耗率の候補を前記監視に用いる損耗率として決定する。
【0072】
(3)第3の態様に係る監視装置1によれば、損耗率取得部102は、さらに、評価指標が最小となる、前記損耗率の候補の組み合わせを探索する。
【0073】
(4)第4の態様に係る監視装置1によれば、前記損耗率は、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値を上回った時間の総計、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値と交差した回数、又は、前記負荷率又は負荷変化率が前記閾値を上回った分の時間積分値である。
【0074】
(5)第5の態様に係る監視装置1によれば、評価指標算出部104は、複数の分類方法のうちの一つに従って分類された前記装置の分類グループごとの前記評価指標のマクロ平均を、当該複数の分類方法ごとに算出し、閾値設定部101は、前記マクロ平均が最小となるように前記閾値を設定する。
【0075】
(6)第6の態様に係る監視方法は、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、を有し、前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【0076】
(7)第7の態様に係るプログラムは、コンピュータに、複数の故障事例について、故障に至るまでの運転時間に対する負荷率又は負荷変化率の推移を示す運転記録を取得するステップと、複数の故障事例の前記運転記録における前記負荷率又は負荷変化率と対比する閾値を設定するステップと、前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる値であって、運転時間に応じた装置の損耗の進行度合いを示す損耗率を取得するステップと、前記損耗率に対する、前記複数の故障事例の故障率累積度数の推移を取得するステップと、前記故障率累積度数を前記損耗率で積分した値である評価指標を算出するステップと、監視対象とする装置の前記負荷率又は負荷変化率と前記閾値との関係から導かれる損耗率が、前記故障事例の前記故障率累積度数の推移に基づいて決定された所定の管理値に至った場合に、メンテナンスを要する旨の通知を行うステップと、を実行させ、前記閾値を設定するステップでは、前記評価指標が最小となるように前記閾値を設定する。
【符号の説明】
【0077】
1 監視装置
10 CPU
100 運転記録取得部
101 閾値設定部
102 損耗率取得部
103 故障率累積度数取得部
104 評価指標算出部
105 通知部
11 メモリ
12 通信インタフェース
13 記録媒体
2 装置