(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】太陽光発電出力推定装置、太陽光発電出力推定方法、および太陽光発電出力推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20231215BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20231215BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20231215BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20231215BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
H02J13/00 301A
H02J3/00 170
H02J3/38 130
(21)【出願番号】P 2020132248
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】安並 一浩
【審査官】加舎 理紅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121133(JP,A)
【文献】特開2019-154213(JP,A)
【文献】特開2013-162666(JP,A)
【文献】特開2018-007370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00- 5/00
13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定時点における推定対象エリア内の特定の電力系統に連系されている全ての太陽光発電設備の発電出力の合計値であるPV発電出力合計値を推定する太陽光発電出力推定装置であって、
前記推定時点より前の特定の期間における、前記太陽光発電設備が設置された全ての需要家の見かけ上の消費電力である残余需要および前記推定対象エリアの日射強度であるエリア日射強度を記憶する記憶部と、
全ての前記需要家の前記残余需要の合計値である残余需要合計値および前記エリア日射強度に基づき、前記エリア日射強度を前記PV発電出力合計値に変換するための係数であるPV変換係数を推定する変換係数算出部と、
前記PV変換係数および前記推定時点における前記エリア日射強度に基づき、前記PV発電出力合計値を推定する発電出力推定部と、
を備える太陽光発電出力推定装置。
【請求項2】
前記記憶部には、さらに、前記エリア日射強度と前記推定対象エリアとの対応付け、ならびに、全ての前記需要家の残余需要と前記推定対象エリアおよび前記特定の電力系統との対応付けを行うための場所関連情報データが記憶されている、
請求項1に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記エリア日射強度の時系列データおよび全ての前記需要家の前記残余需要の時系列データとを記憶し、
前記変換係数算出部は、前記エリア日射強度の時系列データと全ての前記需要家の前記残余需要の合計値である前記残余需要合計値の時系列データとに基づき、前記PV変換係数を推定する、
請求項1に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項4】
前記変換係数算出部は、前記推定時点より前の少なくとも1つの第1期間における、前記エリア日射強度の時系列データと前記残余需要合計値の時系列データとに基づき、前記PV変換係数を推定する、
請求項3に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項5】
前記第1期間は、前記太陽光発電設備の設備容量の、前記推定時点での設備容量に対する差分が、予め定められた範囲内となる期間である、
請求項4に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項6】
前記第1期間における、前記エリア日射強度の時系列データと前記残余需要合計値の時系列データとの共分散である第1共分散を算出する第1共分散取得部と、
前記第1期間における、前記エリア日射強度の時系列データの分散である第2共分散を算出する第2共分散取得部と、
をさらに備え、
前記変換係数算出部は、前記第1共分散および前記第2共分散を用いて、前記PV変換係数を推定する、
請求項4または請求項5に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項7】
前記発電出力推定部は、前記PV変換係数に前記推定時点のエリア日射強度を乗じることで、前記PV発電出力合計値を推定する、
請求項1に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項8】
前記PV変換係数は、前記第1共分散を前記第2共分散で除して-1を乗じた値である、
請求項6に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項9】
前記第1期間は複数設定され、
前記第1共分散取得部は、複数の前記第1期間のそれぞれに対応する複数の前記第1共分散を算出し、
前記第2共分散取得部は、複数の前記第1期間のそれぞれに対応する複数の前記第2共分散を算出し、
前記変換係数算出部は、複数の前記第1共分散および複数の前記第2共分散から算出される複数の前記PV変換係数の代表値を、最終的な前記PV変換係数とする、
請求項6または請求項8に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項10】
前記太陽光発電設備は、余剰買取契約対象の太陽光発電設備である、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項11】
前記太陽光発電設備は、全量買取契約対象の太陽光発電設備および余剰買取契約対象の太陽光発電設備の両方を含む、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の太陽光発電出力推定装置。
【請求項12】
推定時点における推定対象エリア内の特定の電力系統に連系されている全ての太陽光発電設備の発電出力の合計値であるPV発電出力合計値を推定する太陽光発電出力推定方法であって、
コンピュータが、前記推定時点より前の特定の期間における、前記太陽光発電設備が設置された全ての需要家の見かけ上の消費電力である残余需要および前記推定対象エリアの日射強度であるエリア日射強度を記憶するステップと、
前記コンピュータが、全ての前記需要家の前記残余需要の合計値である残余需要合計値および前記エリア日射強度に基づき、前記エリア日射強度を前記PV発電出力合計値に変換するための係数であるPV変換係数を推定するステップと、
前記コンピュータが、前記PV変換係数および前記推定時点における前記エリア日射強度に基づき、前記PV発電出力合計値を推定するステップと、
を備える太陽光発電出力推定方法。
【請求項13】
請求項12に記載の太陽光発電出力推定方法の各ステップを前記コンピュータに実行させる太陽光発電出力推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽光発電設備の発電出力の推定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの利用を拡大することの重要性が高まっており、太陽光発電設備(PV)などの分散型電源を設置し、送電系統または配電系統(以下、送電系統または配電系統のことを「電力系統」という)に電力を供給する需要家が増えてきている。一方、電力系統を運用する電力会社などは、一部の太陽光発電設備の発電出力は把握しているものの、多くの太陽光発電設備の発電出力は把握できていない。
【0003】
通常、電力会社などが発電出力を把握できる太陽光発電設備は、全量買取契約の対象となっている太陽光発電設備(以下、「全量買取PV」という)であり、余剰買取契約の対象となっている太陽光発電設備(以下、「余剰買取PV」という)の発電出力は、電力会社などが把握することができない。これは、全量買取契約の対象となっている太陽光発電設備を保有する需要家(以下、「全量買取需要家」という)には、太陽光発電設備の発電量を計測するスマートメータ(SM)と、需要家内の負荷の消費電力量を計測するスマートメータとが個別に設置されているのに対し、余剰買取契約の対象となっている太陽光発電設備を保有する需要家(以下、「余剰買取需要家」という)には、太陽発電設備の発電量と負荷の消費電力量との合算値を計測するスマートメータしか設置されていないためである。
【0004】
このような事情から、各需要家が設置した太陽光発電設備の発電出力を推定する技術が考案されている。例えば、下記の特許文献1には、特定時点での太陽光発電設備の発電出力を推定する太陽光発電出力推定装置が開示されている。特許文献1の太陽光発電出力推定装置は、特定時点より前の特定期間における、太陽光発電設備の設置者ごとの太陽光発電設備の発電量の情報と、太陽光発電設備の設置者ごとの太陽光発電設備の設置場所での日射強度の情報に基づいて、設置者ごとまたは複数の設置者における特定時点での太陽光発電設備の発電出力と日射強度との関係式を推定し、その関係式を用いて、特定時点での太陽光発電設備の発電出力を推定する。太陽光発電設備の発電量の情報としては、全量買取需要家に設置されたスマートメータで測定した全量買取PVの発電量を利用することができる。また、太陽光発電設備の設置場所での日射強度は、変電所周辺に設置された日射計による測定値から推定、あるいは、気象衛星が撮影した雲画像(以下、「衛星画像」という)などから推定することができる。よって、この太陽光発電出力推定装置は、全量買取PVの発電量の情報と、全量買取PVの設置場所での日射強度の情報とから、発電出力と日射強度の関係式を推定し、特定時点における余剰買取PVの発電出力を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力会社などが多くの太陽光発電設備の発電出力を把握できていない状況下で、太陽光発電設備が大量に導入された場合、電力系統の運用には様々な問題が生じる。電力会社などでは、自身が所管する変電所などで、太陽光発電設備の発電出力を加味した見かけ上の電力系統の負荷(以下、「見かけ上の負荷」という)の消費電力を計測器などで計測できるものの、電力系統に連系されている全ての太陽光発電設備の発電出力合計値が未知であるため、実際の負荷(以下、「実負荷」という)の消費電力を正確に把握することができない。このため、太陽光発電設備が大量に導入された場合、重回帰分析などを利用して予測を行っている実負荷の消費電力の予測誤差が大きくなるという需給制御上のリスクが増大したり、系統事故後の復旧操作に支障が生じるという系統制御上のリスクが増大したりする。従って、太陽光発電設備の発電出力をより正確に推定することが可能な技術が望まれている。
【0007】
特許文献1の技術は、全量買取PVと余剰買取PVとで特性(効率や温度特性など)が同じであるという仮定に基づいている。よって、全量買取PVと余剰買取PVとで特性に大きな違いがある場合には、太陽光発電設備の発電出力の推定誤差が大きくなる。実際のところ、太陽光パネルの種類、設置方向、設置角度などは太陽光発電設備ごとに異なり、また、発電された直流電力を交流電力に変換するパワーコンディショナの効率や特性も太陽光発電設備ごとに異なるため、全量買取PVと余剰買取PVとで特性が大きく異なる可能性は高い。それゆえ、特許文献1の技術のように、全量買取PVの発電出力の情報を用いて余剰買取PVの発電出力を推定する方法では、電力系統に連系された太陽光発電設備の発電出力を十分な精度で推定することは困難である。
【0008】
本開示は以上のような課題を解決するためになされたものであり、全量買取PVの発電出力の情報を利用することなく、余剰買取PVの発電出力を推定する太陽光発電出力推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る太陽光発電出力推定装置は、推定時点における推定対象エリア内の特定の電力系統に連系されている全ての太陽光発電設備の発電出力の合計値であるPV発電出力合計値を推定する太陽光発電出力推定装置であって、前記推定時点より前の特定の期間における、前記太陽光発電設備が設置された全ての需要家の見かけ上の消費電力である残余需要および前記推定対象エリアの日射強度であるエリア日射強度を記憶する記憶部と、全ての前記需要家の前記残余需要の合計値である残余需要合計値および前記エリア日射強度に基づき、前記エリア日射強度を前記PV発電出力合計値に変換するための係数であるPV変換係数を推定する変換係数算出部と、前記PV変換係数および前記推定時点における前記エリア日射強度に基づき、前記PV発電出力合計値を推定する発電出力推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る太陽光発電出力推定装置によれば、全量買取PVの発電出力の情報を利用することなく、需要家の残余需要および日射強度の情報を利用して、日射強度と需要家に設置されている太陽光発電設備の発電出力との関係式(変換係数)を推定するため、全量買取PVと余剰買取PVとの特性の差の影響を受けず、太陽光発電設備の発電出力を高い精度で推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1の太陽光発電出力推定システムの構成図である。
【
図2】実施の形態1の太陽光発電出力推定装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】太陽光発電出力を推定する対象エリアと、その分割を説明するための図である。
【
図4】実施の形態1の太陽光発電出力推定装置の構成図である。
【
図5】実施の形態1の太陽光発電出力推定装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図6】実施の形態1の太陽光発電出力推定装置によるPV発電出力合計値の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第1共分散取得部による第1共分散の取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第2共分散取得部による第2共分散の取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】変換係数算出部によるPV変換係数の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】発電出力推定部によるPV発電出力合計値の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】PV発電出力合計値の実測値を示すグラフである。
【
図12】実施の形態1の太陽光発電出力推定装置によるPV発電出力合計値の推定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<A.実施の形態1>
<A-1.構成>
図1は、実施の形態1の太陽光発電出力推定システム11の構成図である。太陽光発電出力推定システム11は、太陽光発電出力推定装置101と、日射強度測定網60と、複数の需要家の下に設置された各種の設備とが、通信網25および通信ネットワーク50を介して接続された構成を有している。
図1において、実線は電力の流れを表し、破線は情報の流れを表している。
【0013】
図1では、複数の需要家として、第1需要家C1、第2需要家C2、・・・、第n需要家Cnが想定されている。第1需要家C1~第n需要家Cnには、負荷L1~Lnと太陽光発電設備PV1~PVnとがそれぞれ設置されている。第1需要家C1~第n需要家Cnに設置された太陽光発電設備PV1~PVnは、余剰買取対象の太陽光発電設備、すなわち余剰買取PVである。つまり、需要家C1~Cnは、余剰買取需要家である。
【0014】
日射強度測定網60は、広域の日射強度の測定値あるいは推定値を収集して配信(提供)する観測網である。日射強度測定網60は、例えば、日射計で測定した日射強度の測定値、気象庁のAMeDAS(地域気象観測システム)で観測されたデータなどから推定した日射強度の推定値、衛星画像から推定した日射強度の推定値などを収集し、それらの情報を任意のエリアまたは地点の日射強度を配信する。
【0015】
太陽光発電出力推定装置101は、日射強度測定網60から配信される任意のエリアの日射強度と、当該エリア内に存在する余剰買取需要家の残余需要(残余需要については後述する)の電力系統毎の合計値とを利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値と当該エリアの日射強度との関係式、具体的には、当該エリアの日射強度を、当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数を推定する。さらに、太陽光発電出力推定装置101は、推定した変換係数と当該エリアの日射強度とを利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの予め定められた時点(以下、「推定時点」という)での発電出力の電力系統毎の合計値を推定する。なお、推定時点には、現在の時点のみならず、過去または未来の時点が含まれる。太陽光発電出力推定装置101は、パーソナルコンピュータなどの汎用のコンピュータシステムがプログラムを実行することによって実現されてもよいし、専用のコンピュータシステムによって実現されてもよい。太陽光発電出力推定装置101の詳細な構成については、後述する。
【0016】
太陽光発電設備PV1~PVnは、例えば、需要家が有する建築物の屋根などに設置されている太陽光発電設備であり、小規模な太陽光発電設備のみならず、いわゆるメガソーラなどの大規模太陽光発電所も含まれてもよい。太陽光発電設備PV1~PVnは、電源30が連系されている電力系統20に連系されており、発電した電力を電力系統20に供給する。
【0017】
また、
図1に示すように、電力系統20には、第1需要家C1~第n需要家Cnにそれぞれ設置された負荷L1~Lnが接続されている。負荷L1~Lnは電力系統20から電力供給を受け、電力を消費する。電力系統20から見た負荷L1~Lnの見かけ上の消費電力は、電力系統20に接続されている負荷L1~Lnの実際の消費電力と、電力系統20に連系されている太陽光発電設備PV1~PVnの発電出力とに応じて変動する。以下、電力系統20から見た、各需要家の負荷L1~Lnによる見かけ上の消費電力を「残余需要」と呼ぶ。
【0018】
第1需要家C1~第n需要家Cnには、それぞれスマートメータSM1~SMnが設置されている。スマートメータSM1~SMnは、余剰買取PVである太陽光発電設備PV1~PVnの発電出力と負荷L1~Lnの消費電力とが需要家毎に合算された残余需要を計測する。ここで、スマートメータSM1~SMnが計測する「合算された残余需要」は、負荷L1~Lnの消費電力から、太陽光発電設備PV1~PVnの発電出力が、需要家毎にそれぞれ差し引かれた量である。スマートメータSM1~SMnが計測した残余需要の情報は、通信網25と通信ネットワーク50を介して、太陽光発電出力推定装置101に送られる。
【0019】
例えば、第1需要家C1では、スマートメータSM1が、太陽光発電設備PV1の発電出力と負荷L1の消費電力との合算値を残余需要として計測および記録する。そして、第1需要家C1の残余需要の情報は、スマートメータSM1から通信網25と通信ネットワーク50を介して、太陽光発電出力推定装置101に送られる。このようにして、太陽光発電出力推定装置101は、余剰買取PVである太陽光発電設備PV1~PVnを保有する需要家(つまり、余剰買取需要家)に設置されたスマートメータSM1~SMnの計測値である残余需要を取得する。
【0020】
日射強度測定網60には、日射計で測定した日射強度の測定値、気象庁のAMeDASで観測されたデータなどから推定した日射強度の推定値、衛星画像から推定した日射強度の推定値などが収集および記録されている。そして、広域のエリアの日射強度の情報は、日射強度測定網60から通信網25と通信ネットワーク50を介して、太陽光発電出力推定装置101に送られる。このようにして、太陽光発電出力推定装置101は、広域のエリアの日射強度を取得する。
【0021】
次に、太陽光発電出力推定装置101の詳細な機能について説明する。
図2は、太陽光発電出力推定装置101の機能を示すブロック図である。上述したように、太陽光発電出力推定装置101は、任意のエリアの日射強度と、当該エリア内に存在する余剰買取需要家の残余需要の電力系統毎の合計値を利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値と当該エリアの日射強度との関係式、具体的には、当該エリアの日射強度を、当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数を推定する。さらに、太陽光発電出力推定装置101は、推定した変換係数と当該エリアの日射強度とを利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの推定時点での発電出力の電力系統毎の合計値を推定する。上記の任意のエリアの詳細については、後述する。
【0022】
図2に示すように、太陽光発電出力推定装置101は、第1共分散取得部110と、第2共分散取得部120と、変換係数算出部130と、発電出力推定部140と、記憶部150とを備えている。
【0023】
記憶部150は、任意のエリアの日射強度を当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数と、当該エリア内に存在する余剰買取PVの推定時点での発電出力の電力系統毎の合計値とを、推定するためのデータなどを記憶しているメモリである。具体的には、記憶部150は、場所関連情報データ151と、日射強度データ152と、残余需要データ153と、変換係数データ154と、算出データ155とを記憶する。
【0024】
場所関連情報データ151には、余剰買取PVを保有する需要家の位置情報(住所または緯度経度)と、当該余剰買取PVの所属するエリアの情報(後述する対象エリアのうち、どのエリアに属しているのかという識別情報)と、余剰買取PVの所属する電力系統の情報(どの配電系統あるいは送電系統に属しているのかという識別情報)とが含まれている。日射強度データ152は、日射強度測定網60から取得された日射強度の測定値あるいは推定値である。残余需要データ153は、スマートメータSM1~SMnから取得された残余需要の計測値(正確には、瞬時値である計測値そのもの、あるいは、スマートメータ内部で処理し、積算処理等の加工を行った値)である。変換係数データ154は、変換係数算出部130によって算出された、任意のエリアの日射強度を当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数である。算出データ155は、第1共分散取得部110、第2共分散取得部120、および、発電出力推定部140が算出したデータである。
【0025】
図3は、太陽光発電出力を推定する対象エリア(言い換えると、日射強度測定網60から日射強度を入手できるエリア)と、その分割を説明するための図である。
図3において、対象エリアA0は、L[km]×M[km]の広さをもつ領域として規定されている。このLとMは、共に同じ値(つまりL=M)でもよいし、互いに異なる値でもよい。さらに、対象エリアA0は、入手できる日射強度データの空間分解能に合わせて、それぞれがX[km]×Y[km]の面積をもつ、(L×M)/(X×Y)個のエリアA1に、メッシュ状に分割される。このXとYは、共に同じ値(つまり、X=Y)でもよいし、互いに異なる値でもよい。例えば、気象庁の静止気象衛星ひまわり8号が撮影する衛星画像では、X=Y=0.5であり、これと同じ値のXおよびYが用いられてもよい。なお、上述した任意のエリアは、この(L×M)/(X×Y)個のエリアA1のうちの1つである。以下では、k番目のエリアA1のことをエリアA1(k)と表記することにする。
【0026】
図4は、
図3中の任意のエリアA1(k)を拡大した図である。この任意のエリアA1(k)の中には、余剰買取需要家である第1需要家C1、第2需要家C2、第i需要家Ci、第j需要家Cjが存在している。このうち、第1需要家C1の負荷L1および太陽光発電設備PV1と、第2需要家C2の負荷L2および太陽光発電設備PV2とは、電源30が連系されている電力系統20に連系されている。一方、第i需要家Ciの負荷Liおよび太陽光発電設備PViと、第j需要家Cjの負荷Ljおよび太陽光発電設備PVjとは、電源31が連系されている電力系統21に連系されている。つまり、第1需要家C1の設備と第2需要家C2の設備とは共に同じ電源系統に連系されており、第i需要家Ciの設備と第j需要家Cjの設備とは共に同じ電源系統に連系されている。しかし、第1需要家C1の設備および第2需要家C2の設備と、第i需要家Ciおよび第j需要家Cj)設備とは、互いに異なる電源系統に接続されている。
【0027】
図4の例では、1つの電源系統に、それぞれ2軒の余剰買取需要家が連系されているが、各電源系統の規模はどのような規模でもよい。例えば、送電系統程度の規模でもよいし、配電系統程度の規模でもよい。さらには、柱上変圧器単位程度の規模でもよいし、1軒の需要家単位の規模でもよい。
【0028】
太陽光発電出力推定装置101は、任意のエリアA1(k)毎に、さらに、電源系統毎に(
図4の例では電力系統20と電力系統21とで別々に)、当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値と当該エリアの日射強度との関係式、具体的には、当該エリアの日射強度を当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数を推定する。さらに、太陽光発電出力推定装置101は、推定した変換係数と当該エリアの日射強度を利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの推定時点での発電出力の電力系統毎の合計値を推定する。
【0029】
図5は、太陽光発電出力推定装置101のハードウェア構成を示す図である。
図5に示すように、太陽光発電出力推定装置101は、コンピュータ1、外部記憶装置5、出力装置7、および入力装置8を備えて構成されている。コンピュータ1は、CPU(Central Processing Unit)2、主記憶装置3、および補助記憶装置4を備えて構成される。外部記憶装置5は、ネットワーク6を介してコンピュータ1に接続されていてもよい。出力装置7はコンピュータ1の処理結果を表示または出力する。入力装置8はマウスおよびキーボードなどで構成できる。コンピュータ1のCPU2が主記憶装置3に格納されたプログラムを実行することにより、太陽光発電出力推定装置101の各機能が実行される。すなわち、主記憶装置3には、コンピュータ1を、余剰買取PVが設置された余剰買取需要家の見かけ上の消費電力である残余需要と、広域のエリアの日射強度と、を記憶する記憶部150と、任意のエリアに存在する余剰買取需要家の残余需要の電力系統毎の合計値と当該エリアの日射強度とに基づき、当該エリアの日射強度を当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数を推定する変換係数算出部130と、その変換係数と当該エリアの日射強度を利用して、当該エリア内に存在する余剰買取PVの推定時点での発電出力の電力系統毎の合計値を推定する発電出力推定部140と、として動作させるための、太陽光発電出力推定プログラムが格納されている。
【0030】
発電出力推定部140は、変換係数算出部130が、任意のエリアに存在する余剰買取需要家の残余需要の電力系統毎の合計値と当該エリアの日射強度とに基づき算出(推定)した、当該エリアの日射強度を当該エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の電力系統毎の合計値に変換するための変換係数と当該エリアの日射強度とを用いて、当該エリア内に存在する余剰買取PVの推定時点での発電出力の電力系統毎の合計値を推定する。
【0031】
なお、太陽光発電設備PV1~PVnの発電出力と負荷L1~Lnの消費電力には、有効電力と無効電力とが存在する。しかし、一般的な太陽光発電設備、特に家庭用の太陽光発電設備は力率一定で運転されているため、有効電力を推定することで無効電力も容易に推定することが可能である。このため、以下に記載する、太陽光発電設備PV1~PVnの発電出力と負荷L1~Lnの消費電力は、有効電力を指すものとする。
【0032】
本実施の形態では、説明の簡単化のため、
図4に示す任意のエリアA1(k)の電力系統20に連系されている余剰買取需要家を対象にして説明する。つまり、推定対象とする任意のエリア(以下、「推定対象エリア」という)はエリアA1(k)であり、対象とする電源系統(以下、「推定対象系統」という)は電力系統20である。また、推定対象エリア内に存在する余剰買取需要家の残余需要の推定対象系統における合計値(以下、「残余需要合計値」という)は、第1需要家C1に設置されているスマートメータSM1の測定値であるP
1(t)と第2需要家C2に設置されているスマートメータSM2の測定値であるP
2(t)の合計値である。また、推定対象エリアの日射強度(以下、「エリア日射強度」という)はエリアA1(k)の日射強度である。また、推定対象エリア内に存在する余剰買取PVの発電出力の推定対象系統における合計値(以下、「PV発電出力合計値」という)は、第1需要家C1に設置されている太陽光発電設備PV1の発電出力P
PV1(t)と第2需要家C2に設置されている太陽光発電設備PV2の発電出力P
PV2(t)との合計値である。なお、以下の説明は、その他のエリア、およびその他の電力系統についても同様に適用される。
【0033】
変換係数算出部130は、予め定められた期間における残余需要合計値とエリア日射強度とを用いて、エリア日射強度をPV発電出力合計値に変換するための変換係数(以下、「PV変換係数」という)を推定する。また、発電出力推定部140は、PV変換係数と推定時点のエリア日射強度とを用いて、PV発電出力合計値を推定する。この予め定められた期間は、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系された太陽光発電設備PV1~PV2の設備容量が、推定時点での設備容量から予め定められた範囲内となる期間であることが好ましい。すなわち、当該期間は、太陽光発電設備PV1~PV2の設備容量の、推定時点における設備容量に対する差分が、予め定められた範囲内となる期間であることが好ましい。
【0034】
つまり、変換係数算出部130は、推定対象エリアであるエリアA1(k)に存在し、推定対象系統である電力系統20に連系された太陽光発電設備PV1~PV2の設備容量が、推定時点での設備容量から予め定められた範囲内にある期間における、残余需要合計値とエリア日射強度とを用いて、PV変換係数を推定する。予め定められた期間とは、PV発電出力合計値を推定する推定時点以前の期間である。例えば、予め定められた期間は、PV発電出力合計値を推定する推定時点から1、2週間程度遡った期間であり、具体的にはPV発電出力合計値を推定する日の前日などである。
【0035】
さらに具体的には、変換係数算出部130は、予め定められた期間内の短時間における、残余需要合計値の時系列データとエリア日射強度の時系列データとを用いて、PV変換係数を推定する。ここで、短時間とは、例えば、6時間から10時間程度の短い期間であり、好ましくは8時間である。つまり、変換係数算出部130は、PV発電出力合計値を推定する推定時点から1、2週間程度遡った期間内の6時間から10時間程度の短時間における、残余需要合計値、および、エリア日射強度の時系列データを用いて、PV変換係数を推定する。なお、この短時間は、以下の「第1期間」に相当する。
【0036】
変換係数算出部130は、以下に説明する第1共分散取得部110および第2共分散取得部120がそれぞれ取得する第1共分散および第2共分散を用いて、PV変換係数を推定する。
【0037】
第1共分散取得部110は、残余需要合計値の時系列データとエリア日射強度の時系列データとの共分散である第1共分散を取得する。具体的には、第1共分散取得部110は、第1期間における残余需要合計値の時系列データと第1期間におけるエリア日射強度の時系列データとを取得し、残余需要合計値の時系列データとエリア日射強度の時系列データとの共分散を第1共分散として算出する。
【0038】
例えば、第1共分散取得部110は、記憶部150に記憶された日射強度データ152を参照することで、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データを取得する。なお、第1共分散取得部110は、記憶部150に記憶された場所関連情報データ151を利用することで、広域のエリアの日射強度から、推定対象エリアの日射強度を選択することができる。
【0039】
つまり、日射強度測定網60は、第1共分散取得部110および記憶部150に接続されている。そして、第1共分散取得部110は、日射強度測定網60から読み取った広域のエリア(ここではエリアA0)の日射強度を、日射強度データ152として記憶部150に随時記憶させる。そして、第1共分散取得部110は、第1期間における、推定対象エリア(ここではエリアA1(k))のエリア日射強度を、日射強度データ152から読み出すことで取得する。
【0040】
第1共分散取得部110が日射強度測定網60から広域のエリアの日射強度を読み取り、それを日射強度データ152として記憶部150に記憶させる時間間隔は、例えば1秒、10秒、1分、30分、または1時間などが考えられるが、特にこれらには限定されず、ユーザによって適切な数値が定められる。また、第1共分散取得部110は、一定時間間隔ではなくユーザによって任意に定められたタイミングで、日射強度測定網60から広域の日射強度を読み取ってもよい。また、第1共分散取得部110が読み取った広域のエリアの日射強度を日射強度データ152として記憶部150に記憶させるタイミングについても、特に制約はない。第1共分散取得部110が広域のエリアの日射強度を読み取るたびに、日射強度データ152を記憶部150に記憶させてもよいし、ユーザによって任意に定められたタイミングで記憶させてもよい。
【0041】
残余需要の時系列データは、記憶部150に残余需要データ153として記憶されている。第1共分散取得部110は、場所関連情報データ151を利用して、残余需要データ153を参照することで、第1期間における、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取需要家の残余需要の時系列データを取得し、それらの合算処理を行うことで、残余需要合計値の時系列データを算出および取得する。そして、第1共分散取得部110は、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データと第1期間における残余需要合計値の時系列データとの共分散である第1共分散を算出する。
【0042】
つまり、推定対象エリア内に存在し且つ推定対象系統に連系されている余剰買取需要家である第1需要家C1および第2需要家C2のスマートメータSM1およびSM2は、第1共分散取得部110および記憶部150に接続されている。そして、第1共分散取得部110は、スマートメータSM1およびSM2から読み取った第1需要家C1および第2需要家の残余需要を、残余需要データ153として記憶部150に随時記憶させる。さらに、第1共分散取得部110は、記憶部150に記憶された残余需要データ153から、第1期間における第1需要家C1および第2需要家C2の残余需要の時系列データを読み出し、それらの合算処理を行うことで、残余需要合計値を算出および取得する。
【0043】
第1共分散取得部110が、スマートメータSM1およびSM2から第1需要家C1および第2需要家C2の残余需要を読み取り、残余需要データ153として記憶部150に記憶させる時間間隔は、例えば1秒、10秒、1分、30分、または1時間などが考えられ、好ましくはスマートメータSM1およびSM2が残余需要を取得する時間間隔、あるいは、取得した残余需要を内部で加工(積算処理などの加工)する時間間隔であるが、特にこれらには限定されず、ユーザによって適切な数値が定められる。また、第1共分散取得部110は、一定時間間隔ではなくユーザによって任意に定められたタイミングで、スマートメータSM1およびSM2から残余需要を読み取ってもよい。また、第1共分散取得部110がスマートメータSM1およびSM2から読み取った残余需要を残余需要データ153として記憶部150に記憶させるタイミングについても、特に限定されない。第1共分散取得部110がスマートメータSM1およびSM2から残余需要を読み取るたびに記憶させてもよいし、ユーザによって任意に定められたタイミングで記憶させてもよい。
【0044】
上述のように、第1期間は上記の「短時間」に相当する期間であり、例えば、PV発電出力合計値を推定する推定時点から1、2週間程度遡った期間内の6時間から10時間程度の期間である。また、第1期間は、日射強度が強く、かつ、日射強度の変動が大きい期間であるのが好ましい。このように、第1共分散取得部110は、日射強度が強く、かつ、日射強度の変動が大きい期間を第1期間として、第1共分散を算出する。そして、第1共分散取得部110は、算出した第1共分散を、算出データ155として記憶部150に書き込み、記憶させる。
【0045】
第2共分散取得部120は、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データの分散を第2共分散として算出する。そして、第2共分散取得部120は、算出した第2共分散を、算出データ155として記憶部150に書き込み、記憶させる。
【0046】
例えば、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データが、記憶部150に日射強度データ152として記憶される。第2共分散取得部120は、日射強度データ152を参照することで、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データを取得する。そして、第2共分散取得部120は、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データの分散である第2共分散を算出する。なお、第2共分散取得部120は、記憶部150の場所関連情報データ151を利用することで、広域のエリアの日射強度の中からエリア日射強度を選択することができる。
【0047】
変換係数算出部130は、記憶部150に記憶された算出データ155から、第1共分散取得部110が取得した第1共分散と第2共分散取得部120が取得した第2共分散とを読み出し、PV変換係数を推定する。
【0048】
ここで、PV変換係数とは、第1共分散を第2共分散で除して-1を乗じた値である。つまり、変換係数算出部130は、第1共分散を第2共分散で除して-1を乗じた値をPV変換係数として算出する。そして、変換係数算出部130は、算出したPV変換係数を、変換係数データ154として記憶部150に書き込み、記憶させる。
【0049】
発電出力推定部140は、変換係数算出部130が取得したPV変換係数を変換係数データ154から読み出すとともに、第1共分散取得部が取得したエリア日射強度を日射強度データ152から読み出し、推定対象エリアの推定対象系統におけるPV発電出力合計値を推定する。具体的には、発電出力推定部140は、PV変換係数に、推定時点のエリア日射強度を乗じることで、PV発電出力合計値を算出する。
【0050】
<A-2.動作>
図6は、太陽光発電出力推定装置101によるPV発電出力合計値の推定処理の一例を示すフローチャートである。以下、
図6のフローに沿って、太陽光発電出力推定装置101がPV発電出力合計値を推定する処理について説明する。
【0051】
まず、第1共分散取得部110は、推定対象エリアであるエリアA1(k)のエリア日射強度の時系列データと、当該エリアA1(k)内に存在し、推定対象系統である電力系統20に連系されている全ての余剰買取需要家の残余需要合計値の時系列データの共分散である第1共分散を取得する(ステップS101)。具体的には、第1共分散取得部110は、第1共分散を算出することで取得し、取得した第1共分散を、記憶部150に算出データ155として書き込む。第1共分散取得部110が第1共分散を取得する処理の詳細については、後述する。
【0052】
次に、第2共分散取得部120は、推定対象エリアであるエリアA1(k)のエリア日射強度の時系列データの分散である第2共分散を取得する(ステップS102)。具体的には、第2共分散取得部120は、第2共分散を算出することで取得し、取得した第2共分散を、記憶部150に算出データ155として書き込む。第2共分散取得部120が第2共分散を取得する処理の詳細については、後述する。
【0053】
続いて、変換係数算出部130は、推定対象エリアであるエリアA1(k)のエリア日射強度と、当該エリアA1(k)内に存在し、推定対象系統である電力系統20に連系されている全ての余剰買取需要家(つまり、第1需要家C1と第2需要家C2)の残余需要合計値とを用いて、PV変換係数を推定する(ステップS103)。具体的には、変換係数算出部130は、記憶部150に記憶された算出データ155から、第1共分散取得部110が取得した第1共分散と、第2共分散取得部120が取得した第2共分散とを読み出し、それらの第1共分散と第2共分散とを用いて、PV変換係数を算出することで推定し、推定したPV変換係数を、変換係数データ154として記憶部150に書き込む。変換係数算出部130がPV変換係数を推定する処理の詳細については、後述する。
【0054】
そして、発電出力推定部140は、PV変換係数と、推定対象エリアであるエリアA1(k)のエリア日射強度とを用いて、PV発電出力合計値を推定する(ステップS104)。具体的には、発電出力推定部140は、記憶部150に記憶された変換係数データ154から、変換係数算出部130が推定したPV変換係数を読み出すとともに、記憶部150に記憶された日射強度データ152からエリア日射強度を読み出し、それらのPV変換係数とエリア日射強度とを用いて、PV発電出力合計値を算出することで推定する。発電出力推定部140がPV発電出力合計値を推定する処理の詳細については、後述する。
【0055】
以上により、太陽光発電出力推定装置101がPV発電出力合計値を推定する処理は終了する。
【0056】
図7は、第1共分散取得部110による第1共分散の取得処理の一例を示すフローチャートである。以下、第1共分散取得部110が第1共分散を取得する処理(
図6のステップS101)について、
図7のフローに沿って詳細に説明する。
【0057】
まず、第1共分散取得部110は、エリア日射強度の時系列データを取得する(ステップS201)。記憶部150に記憶されている日射強度データ152には、日射強度測定網60によって測定または推定された広域のエリアのエリア日射強度の時系列データが含まれており、第1共分散取得部110は、推定対象エリアのエリア日射強度の時系列データを日射強度データ152から読み出すことで取得する。
【0058】
より具体的には、第1共分散取得部110は、PV発電出力合計値を推定する推定時点以前の期間であって、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取PV(ここでは太陽光発電設備PV1およびPV2)の設備容量が推定時点での当該設備容量から予め定められた範囲内となる期間におけるエリア日射強度の時系列データを取得する。設備容量が推定時点での設備容量から予め定められた範囲内となる期間については、例えば、設備容量が推定時点での設備容量から±約5%以内になる期間など、ユーザによって適宜定められる。
【0059】
なお、第1共分散取得部110が取得するエリア日射強度の時系列データの期間は、第1共分散取得部110に予め入力されていてもよいし、ユーザによって適宜変更されてもよいし、第1共分散取得部110が算出して決定してもよい。本実施の形態では、第1共分散取得部110は、当該期間を、例えば、PV発電出力合計値を推定する日の前日とし、前日におけるエリア日射強度の時系列データを取得する。
【0060】
次に、第1共分散取得部110は、第1期間を探索する(ステップS202)。具体的には、第1共分散取得部110は、取得したエリア日射強度の時系列データを参照し、日射強度が強く、かつ、日射強度の変動が大きい期間を探索する。例えば、第1共分散取得部110は、PV発電出力合計値を推定する日の前日のうち、エリア日射強度が大きく、かつ、エリア日射強度の変動が大きい6時間から10時間程度の短い期間を探索する。そして、第1共分散取得部110は、探索した期間を第1期間と決定する。なお、第1共分散取得部110は、上記の期間(例えば、PV発電出力合計値を推定する日の前日)の中から、第1期間を探索するのではなく、上記の期間自体を探索してから、当該期間の中から第1期間を探索することにしてもよい。
【0061】
続いて、第1共分散取得部110は、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データと、第1期間における残余需要の時系列データとを取得する(ステップS203)。具体的には、第1共分散取得部110は、日射強度データ152から、第1期間における推定対象エリアのエリア日射強度の時系列データを読み出し、残余需要データ153から、第1期間における推定対象エリア内の推定対象系統に連系されている全ての余剰買取需要家の残余需要の時系列データを読み出して、取得する。
【0062】
そして、第1共分散取得部110は、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取需要家の残余需要の時系列データについて、合算処理を行うことで、残余需要合計値の時系列データを算出して取得する(ステップS204)。
【0063】
続いて、第1共分散取得部110は、エリア日射強度の時系列データと残余需要合計値の時系列データとの共分散を第1共分散として算出する(ステップS205)。そして、第1共分散取得部110は、算出した第1共分散を、算出データ155として記憶部150に書き込む。
【0064】
以上のようにして、第1共分散取得部110が第1共分散を取得する処理(
図6のステップS101)は、終了する。
【0065】
図8は、第2共分散取得部120による第2共分散の取得処理の一例を示すフローチャートである。以下、第2共分散取得部120が第2共分散を取得する処理(
図6のステップS102)について、
図8のフローに沿って詳細に説明する。
【0066】
まず、第2共分散取得部120は、第1期間におけるエリア日射強度の時系列データを取得する(ステップS301)。具体的には、第2共分散取得部120は、記憶部150に記憶されている日射強度データ152から、第1期間における推定対象エリアのエリア日射強度の時系列データを読み出すことで取得する。
【0067】
そして、第2共分散取得部120は、エリア日射強度の時系列データの分散である第2共分散を算出する(ステップS302)。具体的には、第2共分散取得部120は、第1期間における推定対象エリアのエリア日射強度の時系列データの分散を第2共分散として算出する。また、第2共分散取得部120は、算出した第2共分散を、算出データ155として記憶部150に書き込む。
【0068】
以上のようにして、第2共分散取得部120が第2共分散を取得する処理(
図6のステップS102)は、終了する。
【0069】
図9は、変換係数算出部130によるPV変換係数の推定処理の一例を示すフローチャートである。以下、変換係数算出部130がPV変換係数を推定する処理(
図6のステップS103)について、
図9のフローに沿って詳細に説明する。
【0070】
まず、変換係数算出部130は、記憶部150に記憶された算出データ155から、第1共分散および第2共分散を取得する(ステップS401)。
【0071】
そして、変換係数算出部130は、第1共分散および第2共分散を用いてPV変換係数を算出する(ステップS402)。具体的には、変換係数算出部130は、第1共分散を第2共分散で除して-1を乗じることで、PV変換係数を算出する。また、変換係数算出部130は、算出したPV変換係数を変換係数データ154として記憶部150に書き込む。
【0072】
以上のようにして、変換係数算出部130がPV変換係数を取得する処理(
図6のステップS103)は、終了する。
【0073】
図10は、発電出力推定部140によるPV発電出力合計値の推定処理の一例を示すフローチャートである。以下、発電出力推定部140がPV発電出力合計値を推定する処理(
図6のステップS104)について、
図10のフローに沿って詳細に説明する。
【0074】
まず、発電出力推定部140は、推定時点の推定対象エリアのエリア日射強度を取得する(ステップS501)。具体的には、発電出力推定部140は、記憶部150に記憶されている日射強度データ152から、推定時点の推定対象エリアのエリア日射強度を読み出すことで取得する。
【0075】
次に、発電出力推定部140は、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取PVのPV変換係数を取得する(ステップS502)。具体的には、発電出力推定部140は、記憶部150に記憶されている変換係数データ154から、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取PVのPV変換係数を読み出すことで取得する。
【0076】
そして、発電出力推定部140は、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取PVのPV変換係数と、推定時点の推定対象エリアのエリア日射強度とを用いて、推定時点の推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取PVのPV発電出力合計値を算出する(ステップS503)。また、発電出力推定部140は、算出したPV発電出力合計値を算出データ155として記憶部150に書き込む。
【0077】
以上のようにして、発電出力推定部140がPV発電出力合計値を推定する処理(
図6のステップS104)は、終了する。
【0078】
次に、変換係数算出部130が、PV変換係数を算出する方法について、具体的に説明する。ここでは、上記の事例と同様、推定対象エリア内に存在し、且つ、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家は第1需要家C1および第2需要家C2であるものとし、第1需要家C1および第2需要家C2は、それぞれ余剰買取PVである太陽光発電設備PV1および太陽光発電設備PV2を所有しているものとする。
【0079】
また、第1需要家C1の残余需要をP1(t)、第2需要家C2の残余需要をP2(t)、第1需要家C1の負荷L1の消費電力をPL1(t)、第2需要家C2の負荷L2の消費電力をPL2(t)、第1需要家C1の太陽光発電設備PV1の発電出力をPPV1(t)、第2需要家C2の太陽光発電設備PV2の発電出力をPPV2(t)、推定対象エリアのエリア日射強度をSR(t)とする。
【0080】
ここで、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取需要家の残余需要の合計値(上述の残余需要合計値に相当)をP(t)、負荷の消費電力の合計値をPL(t)、太陽光発電設備の発電出力の合計値(上述のPV発電出力合計値に相当)をPPV(t)とすると、以下の式(1)、式(2)、式(3)、式(4)が成り立つことは自明である。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
また、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取PVの発電出力の合計値であるPV発電出力合計値が、推定対象エリアのエリア日射強度に概ね比例すると仮定すると、次の式(5)が成立すると仮定できる。
【0086】
【0087】
式(5)において、係数wは、推定対象エリアのエリア日射強度を、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている全ての余剰買取PVの発電出力の合計値であるPV発電出力合計値に変換する係数、つまり、上述したPV変換係数に相当する係数である。また、ε(t)は時間的外乱である。
【0088】
そして、PL(t)およびε(t)の変動とPPV(t)の変動との間に相関がないと仮定すると、上記の式(4)と式(5)から、次の式(6)が導かれる。
【0089】
【0090】
式(6)において、Covt[ ]は共分散をとる演算子を示している。そして、上記の式(6)を以下の式(7)に変形することで、係数wの推定値を得ることができる。
【0091】
【0092】
つまり、Covt[SR(t),P(t)]は、エリア日射強度SR(t)と残余需要合計値P(t)との共分散である第1共分散である。そして、Covt[SR(t),SR(t)]は、エリア日射強度SR(t)の分散である第2共分散である。そして、wは、第1共分散Covt[SR(t),P(t)]を第2共分散Covt[SR(t),SR(t)]で除して-1を乗じたもの、すなわち、PV変換係数である。
【0093】
以上のようにして、変換係数算出部130は、第1共分散を第2共分散で除して-1を乗ずることで得られるPV変換係数wの推定値を算出することができる。
【0094】
引き続き、発電出力推定部140が、PV発電出力合計値を算出する方法について、具体的に説明する。
【0095】
時間的外乱ε(t)は微小であり無視できると仮定すると、上記の式(5)から、PV発電出力合計値に関する近似式として、次の式(8)を得ることができる。
【0096】
【0097】
よって、発電出力推定部140は、式(7)を用いて推定したPV変換係数wの推定値に、推定時点tにおける推定対象エリアのエリア日射強度SR(t)を乗じることで、PV発電出力合計値PPV(t)の推定値を算出することができる。
【0098】
第1期間が一つの期間として設定される場合、変換係数算出部130は、式(7)により推定した係数wをPV変換係数とする。しかし、第1期間が複数の期間として設定される場合、変換係数算出部130は、各第1期間に対して式(7)により係数wを推定する。すなわち、第1共分散取得部110および第2共分散取得部120は、複数の第1期間に対して、複数の第1共分散と複数の第2共分散とをそれぞれ算出する。そして、変換係数算出部130は、複数の第1共分散と複数の第2共分散とに基づき、複数の係数wを推定する。この場合、変換係数算出部130は、推定した複数の係数wの代表値をPV変換係数として採用する。そして、発電出力推定部140は、PV変換係数を用いてPV発電出力合計値の推定を行う。なお、複数の係数wの代表値は、複数の係数wの中央値であることが望ましいが、平均値、または、最頻値のような統計量であってもよい。このような処理を行うことで、稀に発生する係数wの外れ値、すなわち推定誤差が大きい係数wの影響により発生する、PV発電出力合計値の推定精度の悪化を軽減することができる。
【0099】
上の説明では、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家の件数を2軒(第1需要家C1と第2需要家C2)としたが、これは2軒に限られるものではなく、1軒でもよいし、3軒以上でもよい。また、この軒数は、推定対象系統の規模を調整することで、調整可能である。例えば、推定対象系統の規模を、需要家単位とすると、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家の数は1軒となる。また、推定対象系統の規模を、柱上変圧器単位とすると、数軒~数十軒程度の規模となり、配電線単位とすると、それよりも大きな規模に、さらに、送電線単位とすると、さらに大きな規模となる。また、推定対象エリア内に含まれる電力系統全てを推定対象系統とすると、推定対象エリア内に存在する全ての余剰買取需要家に設置されている余剰買取PVの発電出力の合計値を一括して推定することも可能である。
【0100】
また、実施の形態1では、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家単位で、余剰買取PVの発電出力の合計値の推定を行った。しかし、上述のように、推定対象エリア内に存在する全ての余剰買取需要家に設置されている余剰買取PVの発電出力の合計値を一括で推定した上で、推定対象エリア内に存在する電力系統毎に、それぞれの電力系統に連系する全ての余剰買取PVの発電出力の合計値を、上で推定した推定対象エリア内に存在する全ての余剰買取PVの発電出力の合計値を案分して割り振ることで、推定することも可能である。なお、その案分処理は、例えば、それぞれの電力系統に連系する余剰買取PVの定格容量の合計値を利用して、案分比を求めることなどで実現できる。
【0101】
PV変換係数を推定する際に利用するエリア日射強度と、PV発電出力合計値を推定する際に利用するエリア日射強度とは、それぞれ、別の計測システムの出力値を利用してもよい。例えば、PV変換係数を推定する際に利用するエリア日射強度として、全天日射計などで測定した日射強度の測定値を用い、PV発電出力合算値を推定する際に利用するエリア日射強度として、衛星画像から推定した日射強度の推定値を用いてもよい。さらに、PV変換係数を推定する際に利用するエリア日射強度として、全天日射計などで測定した日射強度の測定値を用い、PV発電出力合算値を推定する際に利用するエリア日射強度として、気象予測システムの出力値(予測値)を用いてもよい。なお、後者の場合は、推定時点が将来となるため、PV発電出力合算値の推定値は予測値となる。
【0102】
<A-3.効果>
次に、太陽光発電出力推定装置101が奏する効果の検証結果を
図11と
図12を用いて説明する。この検証では、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家が500軒程度存在するような、推定対象エリアおよび推定対象系統を検証の対象とした。また、推定対象エリア内のエリア日射強度は、この推定対象エリアに設置されている全天日射計の測定値を利用した。そして、500軒程度の余剰買取需要家のスマートメータの計測値である残余需要と、全天日射計の測定値であるエリア日射強度とを用いて、全ての余剰買取需要家に設置されている太陽光発電設備、つまり、余剰買取PVの発電出力の合計値であるPV発電出力合計値を推定した。なお、本検証例では、精度を検証するため、全ての余剰買取PVの発電出力も特別に計測し、その合算値を実測値(PV発電出力合計値の真値)として扱い、当該実測値と太陽光発電出力推定装置101の推定結果とを比較した。
【0103】
図11のグラフは、PV発電出力合計値の実測値(真値)を示し、
図12のグラフは、太陽光発電出力推定装置101によるPV発電出力合計値の推定値を示している。これらの図において、横軸は、時刻を示している。
図11の縦軸は、PV発電出力合計値(有効電力)の実測値(真値)を示し、
図12の縦軸は、PV発電出力合計値(有効電力)の推定値を示している。
図11と
図12とを比較すると、太陽光発電出力推定装置101によるPV発電出力合計値の推定精度は非常に高いことが確認できる。
【0104】
このように、実施の形態1の太陽光発電出力推定装置101によれば、全量買取PVの発電出力の情報を利用することなく、需要家の残余需要と日射強度のみを利用して、日射強度と需要家に設置されている太陽光発電設備の発電出力の関係式(変換係数)を高い精度で推定することで、太陽光発電設備の発電出力を高い精度で推定することができる。推定対象エリアの設定の仕方によっては、系統をまたいで発電出力を推定することも可能である。また、推定対象エリアを狭くすることで、発電出力の推定対象とする系統を絞ることや、さらに狭い領域に限定して発電出力を推定することも可能である。
【0105】
<B.実施の形態2>
<B-1.構成>
実施の形態1では、太陽光発電出力推定装置101が推定する対象を、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家に設置されている太陽光発電設備である余剰買取PVの発電出力とした。上述したように、発電出力が計測されていない太陽光発電設備は余剰買取PVであり、本来、推定を行いたいのは、余剰買取PVの発電出力のみである。しかし、電力会社などの系統運者が、本当に欲しい情報は、対象とする電力系統に連系されている太陽光発電設備の発電出力の合算値である。
【0106】
つまり、電力会社は、最終的には、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系されている太陽光発電設備の発電出力の合算値、すなわち、余剰買取PVの発電出力だけでなく、全量買取PVの発電出力も合算した値を把握したいというニーズがある(把握する必要性がある)。ゆえに、電力会社が実施の形態1の太陽光発電出力推定装置101を利用した場合には、余剰買取PVの発電出力の合計値しか把握することができないため、別途、全量買取PVの発電出力の計測値を、推定された余剰買取PVの発電出力の合計値に合算する処理が必要となる。また、推定時点が将来である場合には、別途、全量買取PVの発電出力の予測値を算出して、推定(予測)された余剰買取PVの発電出力の合計値に合算する処理が必要となる。
【0107】
そこで、実施の形態2では、実施の形態1で使用した、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家の残余需要合計値の代わりに、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている太陽光発電設備を所有する全ての需要家(つまり、全量買取需要家と余剰買取需要家)の残余需要合計値を用いて、PV変換係数を推定する。そうすることにより、太陽光発電出力推定装置101が最終的に推定するPV発電出力合計値は、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている太陽光発電設備(つまり、全量買取PVと余剰買取PV)の発電出力の合計値となる。
【0108】
なお、上の説明では、太陽光発電設備を所有する全ての需要家(つまり、全量買取需要家と余剰買取需要家)の残余需要合計値を用いたが、全量買取需要家については、通常、残余需要を直接的には計測していないため、PV発電出力をそのまま利用してもよい。つまり、上の説明における、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている太陽光発電設備を所有する全ての需要家(つまり、全量買取需要家と余剰買取需要家)の残余需要合計値の代わりに、推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている余剰買取需要家の残余需要合計値と全量買取PVの発電出力との合計値とを合算した値、を用いてもよい。
【0109】
<B-2.効果>
推定対象エリア内に存在し、推定対象系統に連系されている全ての太陽光発電設備の発電出力合計値の推定値を容易に取得できるようになるため、計算リソースの削減、処理時間の削減等につながる。
【0110】
<C.実施の形態3>
<C-1.構成>
実施の形態1では、式(4)~式(7)を用いて説明したように、負荷の消費電力の合計値PL(t)および時間的外乱ε(t)の変動と太陽光発電設備の発電出力の合計値PPV(t)(PV発電出力合計値に相当)の変動との間に相関がないとの仮定のもと、PV変換係数である係数wを、式(7)を用いて算出した。実施の形態3では、さらに、式(4)および式(5)において時間的な定常性が成立すると仮定し、係数wの推定方法を以下の方法に変更する。
【0111】
PL(t)およびε(t)の変動とPPV(t)の変動との間に相関がなく、且つ、式(4)および式(5)において時間的な定常性が成立すると仮定すると、上記の式(4)および式(5)から、次の式(9)が導かれる。
【0112】
【0113】
ここで、Covt[ ]は共分散をとる演算子を示している。式(9)は、以下の式(10)のように変形できる。
【0114】
【0115】
実施の形態3では、式(10)に-nΔt≦τ≦nΔtを満たす計2n+1個のτをそれぞれ代入し、それぞれの場合について、係数wを推定する。ここで、nは自然数、Δtはサンプリング周期(時間分解能を意味し、積算値の場合は、積算値の時間間隔に当たる)である。そして、その結果得られた係数wの複数の推定値の代表値(例えば、中央値、平均値、最頻値など)を、係数wの最終的な推定値とする。
【0116】
<C-2.効果>
複数のτを利用して係数wを推定し、その結果得られた係数wの複数の推定値の代表値(例えば、中央値、平均値、最頻値など)を最終的な係数wの推定値とすることで、稀に発生する係数wの推定値の外れ値の影響が除外され、PV変換係数の推定精度を向上させることができる。それにより、PV発電出力合計値の推定値の推定精度を向上させることができる。
【0117】
<D.ハードウェア構成>
上述した太陽光発電出力推定装置101における各部の構成は、処理回路により実現される。すなわち、処理回路は太陽光発電出力推定装置101における各部の構成を備える。処理回路には、専用のハードウェアが適用されてもよいし、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサが適用されてもよい。プロセッサは、例えば中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等である。
【0118】
処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。太陽光発電出力推定装置101における各部の機能それぞれは、複数の処理回路で実現されてもよいし、各部の機能をまとめて一つの処理回路で実現されてもよい。
【0119】
処理回路がプロセッサである場合、太陽光発電出力推定装置101における各部の機能は、ソフトウェア等(ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェア)との組み合わせにより実現される。ソフトウェア等はプログラムとして記述され、メモリに格納される。処理回路に適用されるプロセッサは、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。ここで、メモリには、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disk)及びそのドライブ装置等、または、今後使用されるあらゆる記憶媒体であってもよい。
【0120】
以上、太陽光発電出力推定装置101の各機能が、ハードウェア及びソフトウェア等のいずれか一方で実現される構成について説明した。しかしこれに限ったものではなく、一部の構成を専用のハードウェアで実現し、別の一部の構成をソフトウェア等で実現する構成であってもよい。以上のように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア等、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0121】
以上、太陽光発電出力推定装置101および太陽光発電出力推定システム11について説明した。しかし、本開示は、上記の各実施の形態に限定されるものではない。各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0122】
例えば、上記の実施の形態において、変換係数算出部130は、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系された余剰買取PVの設備容量が推定時点での設備容量から予め定められた範囲内にある期間におけるデータを用いて、PV変換係数を推定することにした。しかし、変換係数算出部130は、推定対象エリア内の、推定対象系統に連系された余剰買取PVの設備容量が予め定められた範囲となる期間を考慮することなく、PV変換係数を推定してもよい。
【0123】
また、上記の実施の形態において、残余需要は、スマートメータで計測、記録、保存、送信されることにした。しかし、残余需要の計測、記録、保存、送信は、スマートメータ以外の装置で行ってもよい。例えば、HEMS(Home Energy Management System)、パワーコンディショナ(PCS = Power Conditioning System)、スマートインバータ等で行ってもよいし、複数の装置で分担して行ってもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 コンピュータ、2 CPU、3 主記憶装置、4 補助記憶装置、5 外部記憶装置、6 ネットワーク、7 出力装置、8 入力装置、11 太陽光発電出力推定システム、20,21 電力系統、25 通信網、30,31 電源、50 通信ネットワーク、60 日射強度測定網、101 太陽光発電出力推定装置、110 第1共分散取得部、120 第2共分散取得部、130 変換係数算出部、140 発電出力推定部、150 記憶部、151 場所関連情報データ、152 日射強度データ、153 残余需要データ、154 変換係数データ、155 算出データ、C1~Cn 需要家、PV1~PVn 太陽光発電設備、L1~Ln 負荷、SM1~SMn スマートメータ、A0 推定対象エリアの全体、A1 推定対象エリア、A1(k) k番目の推定対象エリア。