(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ユーカリ属植物の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20231215BHJP
A01G 22/00 20180101ALI20231215BHJP
A01G 23/00 20060101ALI20231215BHJP
A01G 2/10 20180101ALI20231215BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G22/00
A01G23/00
A01G2/10
(21)【出願番号】P 2020137054
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英治
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙史郎
(72)【発明者】
【氏名】林 和典
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直希
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-104289(JP,A)
【文献】特開2007-236328(JP,A)
【文献】特開2020-119058(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037647(WO,A1)
【文献】特開平03-238346(JP,A)
【文献】特開平08-280282(JP,A)
【文献】特開2012-115259(JP,A)
【文献】特開2012-055216(JP,A)
【文献】Eucalyptus salignaの葉に含まれるフェノール性成分とその整合性に関わるPAL酵素の解析,東京大学農学部演習林報告,日本,2018年,138,1-42
【文献】ゲノミックセレクションによるユーカリの選抜育種,森林遺伝育種,日本,2017年,第6巻,98-102
【文献】ユーカリの材質育種における選抜指標抽出に関する研究(第1報),紙パ技協誌,日本,1995年,第49巻第4号,88-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/00
A01G 23/00
A01G 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
優良形質を有する植林木を予備選抜する予備選抜工程、
予備選抜された植林木の木材スペクトルから木材物性を予測し、優良な木材物性を有する植林木を選抜する木材分析工程、及び
選抜された植林木を育成し、事業用に適した植林木を選抜する試験植林工程、
を含む、ユーカリ属植物の生産方法。
【請求項2】
木材物性は、容積重、パルプ収率、繊維長及びリグニン含量から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試験植林工程において、選抜された植林木のクローン苗を挿し木により育成して植林木を得る、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
試験植林工程において育成された植林木について、予備選抜工程及び/又は木材分析工程を少なくとも1回再実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
予備選抜は、成長量及び樹形から選ばれる少なくとも1つの形質について行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ユーカリ属植物が、Eucalyptus pellita、Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla×Eucalyptus grandis、Eucalyptus pellita×Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla、Eucalyptus grandis、Eucalyptus maculata、Eucalyptus tereticornis、Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus rudis、Eucalyptus resinifera、Eucalyptus propinqua、Eucalyptus sideroxylon、Eucalyptus botryoides、Eucalyptus viminalis、Eucalyptus saligna、Eucalyptus ovata、Eucalyptus globulus、又は、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドである請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ユーカリ属植物の樹齢が2年以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
優良形質を有する植林木を予備選抜する予備選抜工程、
予備選抜された植林木の木材スペクトルから木材物性を予測し、優良な木材物性を有する植林木を選抜する木材分析工程、及び
選抜された植林木を育成し、事業用に適した植林木を選抜する試験植林工程、
を含む、ユーカリ属植物の選抜育種方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーカリ属植物の生産方法及び選抜育種方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止や持続可能な社会の構築には、温室効果ガスの排出抑制やCO2の吸収・固定の促進、さらには循環型資源であるバイオマスの利用促進が重要である。温室効果ガスの排出抑制には、非化石燃料への燃料転換や省エネルギーの推進が効果的であり、カーボンニュートラルとの考え方からバイオマス燃料は今後重要度が増すと考えられる。また、CO2の吸収・固定やバイオマス資源の増産の手法として大規模な商業植林が有効である。商業植林に使用される樹種として、ユーカリが知られており、主に紙パルプの原料や、家具、建築材料として利用されている。紙パルプの原料を目的として植栽されている場合の、ユーカリの主な育種目標は、成長性や容積重、木材性質の向上であり、木材に含まれる成分として、セルロース含量、ヘミセルロース含量の高い個体が望まれる。一方で、リグニン含量の高い個体は、エネルギー用途に適している。このように、用途に適した優良個体の開発が求められ、それらの形質を育種目標に育種が行われている。
【0003】
産業植林におけるユーカリの選抜育種では、種子を播種し、実生苗を用いて樹形や成長性で選抜を行う実生林試験を実施する。次に、実生林試験で選抜された個体の挿し木増殖を行い、作成したクローン苗を用いて、クローン適性試験を実施し、実生林試験の再現性を確認する。最後に、クローン苗を用いて数十個体を一つの単位とした試験植林で、実生林試験、クローン適性試験の再現性を確認し、更に木材分析(パルプ化適性、容積重測定等)を行った上で、最終選抜を行い、事業用クローンを選抜している。しかしながら、従来の方法では、それぞれの選抜試験には4~6年を要し、それらを3回実施する必要があるため、事業用クローンを選抜するまでに、12年以上の長い期間がかかることが課題となっている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
非特許文献2には、NIR法(近赤外分光分析法)を用いて、植林木のパルプ収率の分布と、異なる植栽地がパルプ収率に与える影響について調査している。
【0005】
非特許文献3~5では、Eucalyptus camaldulensisおよびE.globulusにおいて、成長錐を用いた非破壊な簡易木材分析法を用いて、樹幹縦方向(樹高方向)、横方向(心材から辺材方向)の木材各成分や容積重の分布を調査し、選抜指標の抽出と最適なサンプル採取位置について調査を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】新屋 智崇ほか「ゲノミックセレクションによるユーカリの選抜育種」(2017)森林遺伝育種 第6巻 98-102
【文献】福田 雄二郎ほか「ブラジル北部における製紙用植林木の特性評価」(2013)紙パ技協誌 第67巻第2号
【文献】小名 俊博ほか「ユーカリの材質育種における選抜指標抽出に関する研究(第6報)-E.camaldulensisにおける樹幹内変異を利用した材特性とパルプ特性との関係-」(1995年)紙パ技協誌 第49巻第9号 69~78頁
【文献】小名 俊博ほか「ユーカリの材質育種における選抜指標抽出に関する研究(第7報)-E.globulusにおける樹幹内変異を利用した材特性とパルプ特性との関係-」(1995年)紙パ技協誌 第49巻第10号 147~156頁
【文献】小名 俊博ほか「ユーカリの材質育種における選抜指標抽出に関する研究(第8報)-E.camaldulensis,およびE.globulusにおける成長錐コア採取最適位置について-」(1995年)紙パ技協誌 第49巻第11号 87~100頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の報告はいずれも、各物性を植林の選抜育種に実際に応用することについて記載していない。
【0008】
本発明の目的は、ユーカリ植物の生産・選抜育種において、木材物性を考慮しながらも短期間での選抜が可能な効率的な生産・選抜育種方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕優良形質を有する植林木を予備選抜する予備選抜工程、
予備選抜された植林木の木材スペクトルから木材物性を予測し、優良な木材物性を有する植林木を選抜する木材分析工程、及び
選抜された植林木を育成し、事業用に適した植林木を選抜する試験植林工程、
を含む、ユーカリ属植物の生産方法。
〔2〕木材物性は、容積重、パルプ収率、繊維長及びリグニン含量から選ばれる少なくとも1つを含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕試験植林工程において、選抜された植林木のクローン苗を挿し木により育成して植林木を得る、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕試験植林工程において育成された植林木について、予備選抜工程及び/又は木材分析工程を少なくとも1回再実施する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕予備選抜は、成長量及び樹形から選ばれる少なくとも1つの形質について行う、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕ユーカリ属植物が、Eucalyptus pellita、Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla×Eucalyptus grandis、Eucalyptus pellita×Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla、Eucalyptus grandis、Eucalyptus maculata、Eucalyptus tereticornis、Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus rudis、Eucalyptus resinifera、Eucalyptus propinqua、Eucalyptus sideroxylon、Eucalyptus botryoides、Eucalyptus viminalis、Eucalyptus saligna、Eucalyptus ovata、Eucalyptus globulus、又は、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドである〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕ユーカリ属植物の樹齢が2年以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕優良形質を有する植林木を予備選抜する予備選抜工程、
予備選抜された植林木の木材スペクトルから木材物性を予測し、優良な木材物性を有する植林木を選抜する木材分析工程、及び
選抜された植林木を育成し、事業用に適した植林木を選抜する試験植林工程、
を含む、ユーカリ属植物の選抜育種方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ユーカリ植物の生産・選抜育種において、木材物性を考慮しながらも短期間での生産・選抜が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.予備選抜工程〕
予備選抜工程においては、優良形質を有する植林木を予備選抜する。
【0012】
(対象植物)
本発明において、対象植物は、木本植物であればよい。木本植物は、通常は山林樹木であり、例えば、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナなどの広葉樹、アカマツ、スギ、ヒノキなどの針葉樹が挙げられ、好ましくは広葉樹、より好ましくはアカシア(Acacia)属植物及びユーカリ(Eucalyptus)属植物、更に好ましくはユーカリ属植物である。ユーカリ属植物は、パルプを高収率でもたらす木材チップを効率よく得ることができ、これによりパルプ生産及び紙の製造の効率化が可能である。ユーカリ属植物としては、例えば、Eucalyptus pellita、Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla×Eucalyptus grandis、Eucalyptus pellita×Eucalyptus brassiana、Eucalyptus urophylla、Eucalyptus grandis、Eucalyptus maculata、Eucalyptus tereticornis、Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus rudis、Eucalyptus resinifera、Eucalyptus propinqua、Eucalyptus sideroxylon、Eucalyptus botryoides、Eucalyptus viminalis、Eucalyptus saligna、Eucalyptus ovata、Eucalyptus globulus、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドが挙げられる。これらのうち、植林地の環境に適したもの(例えば、熱帯で植林する場合には、熱帯に適応可能性のある樹種)を選ぶことができるが、E.pellita、E.brassiana、E.urophylla、Eucalyptus brassianaとEucalyptus pellitaのハイブリッド、E.urophyllaとE.grandisのハイブリッド、これらから選ばれる2以上の樹種のハイブリッドが好ましく、E.pellita×E.brassiana、E.urophylla×E.grandisがより好ましい。
【0013】
予備選抜工程において予備選抜の対象は、植林木であり、通常は実生苗から生育した植林木であるが、クローン苗から生育した植林木でもよい。植林木の樹齢は特に限定されず、予備選抜が可能な樹齢であればよく、さらに、木材分析工程における木材サンプル(例えば、木材チップ)が得られる樹齢であることが好ましい。例えば、通常は2年以上、好ましくは3年以上である。上限は品質面からは特に限定されないが、経済的な観点からは短いほうがよい。ユーカリ属植物の場合、植林地域にもよるが、通常は15年以下であり、好ましくは10年以下である。植林木を苗から生育する場合、苗(例えば、実生苗)の育成条件(発根処理、育苗、植栽)は、適宜設定でき、特に限定されない。
【0014】
(予備選抜)
予備選抜の指標である形質としては、例えば、成長量、樹形が挙げられる。これらの少なくとも1つが好ましいが、すべてを指標とすることが好ましい。成長量の指標としては、例えば、材積、樹高、胸高直径が挙げられ、好ましくは材積である。各形質の選抜基準は、対象の樹種、選抜時の樹齢、植林条件(気候・期間)、個体数等の条件によって定めることができる。
【0015】
〔2.木材分析工程〕
木材分析工程においては、予備選抜された植林木の木材物性を予測し、さらに選抜する。木材物性の予測は、木材スペクトルを測定しこれを利用して行う。木材分析工程を行うことにより、従来は植林試験を行ってより優れた木材物性を有する植林木を選抜していたが、この工程を省略することが可能となるため、短期間での生産・選抜が可能である。
【0016】
(木材スペクトル)
木材スペクトルは、植林木の少なくとも一部である木材サンプルに光を照射した際に得られるスペクトルである。木材スペクトルは、通常、光を照射して反射光を測定することにより得られる。木材スペクトルの波長領域は、通常は、可視光または近赤外光領域であり、好ましくは350~2500nm、より好ましくは500nm~2500nm、さらに好ましくは500~1600nmであり、更により好ましくは赤外光(波長780nm以上)、とりわけ好ましくは近赤外光(波長780~1400nm程度)である。木材スペクトルの測定には、サンプルの近赤外光等の光を照射し、透過光または拡散反射光スペクトルを解析することができる装置であればよく、分光計測に一般的に用いられている分光計測装置(例えば、FieldSpec4(ASD社)、SAS(シブヤ精機)、NIRFlex N-500(BUCHI社)等)を用いることができる。
【0017】
木材スペクトルは、前処理されてもよい。これにより、木材サンプル間のばらつきを補正でき、ノイズ、アウトライヤーなどの影響を除外できるため、データの質を高めることができる。前処理としては例えば、平滑化処理、微分処理(例えば、一次微分処理、二次微分処理)、補正処理(例えば、多重散乱補正処理(MSC)、標準正規変数処理(SNV)、拡張多重散乱補正処理(EMSC)、ベースライン補正処理)、平均化処理、オートスケール処理、レンジスケール処理、分散スケール処理、ノーマライズ処理、常用対数処理(log10)、掛け算処理、引き算処理が挙げられる。
【0018】
(木材サンプル・木材物性の予測)
木材サンプルは、植林木の幹及び枝の一部であればよく、調製が容易であること等から、木粉が好ましい。木粉は、例えば、植物を伐採後、木材部分(幹及び枝)をドリルドライバー、粉砕機等の器具を用いて得ることができる。
木材物性の予測は、あらかじめ準備しておいた木材スペクトルと少なくとも1つの木材物性の相関に基づいて行えばよい。木材スペクトルと木材物性の相関は、単回帰分析又は多変量解析により行うことができる。単回帰分析により、木材スペクトルと1つの木材物性の相関を分析でき、多変量解析により、木材スペクトルと2以上の木材物性の相関を分析できる。単回帰分析の場合、検量線を用いることが好ましい。例えば、標準物質(好ましくは複数)についてそれぞれ木材スペクトルと木材物性を測定して検量線を作成しておき、木材サンプルの定量結果と検量線の関係を基に木材物性を推定し、予測値を得ることができる。
【0019】
(木材物性)
木材物性としては、数値で表せる物性が好ましく、例えば、容積重、パルプ収率、繊維長、木材組成(例えば、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、その他糖類の各含量)、抽出成分(アルカリ抽出成分・水性溶媒抽出成分)の含量が挙げられる。木材物性は2以上の組み合わせが好ましく、容積重、パルプ収率、繊維長、リグニン量の組み合わせがより好ましい。
【0020】
(容積重)
容積重の予測値の選抜基準は、通常550kg/m3以上、好ましくは600kg/m3超、より好ましくは635kg/m3以上、更に好ましくは650kg/m3、とりわけ好ましくは680kg/m3以上である。容積重の予測値が上記の数値を満たすものは、炭酸ガス固定量がより大きい木材であり、斯かる木材チップの大量生産の結果炭酸ガス固定量を増やすことができ、地球環境変動への緩和策、温暖化の抑制策として持続可能な社会の実現に貢献できる。上限は、品質面からは特に限定されない。容積重は、体積に対する重量の比率である。標準物質における容積重の測定は、木材チップを水が入っているメスシリンダーに投入し、その増加した目盛りを読み取り、体積の増加を確認後、チップを乾燥させ、絶乾の重量を測定し算出する方法(JAPAN TAPPI No.3:2000)で行うことができ、後段の実施例の測定方法も同様である。
【0021】
(パルプ収率)
パルプ収率の予測値の選抜基準は、通常48%以上、好ましくは49%以上、更に好ましくは52%以上である。パルプ収率の予測値が上記の数値を満たす木材チップは、パルプ生産量を向上させることができ、多くの紙を抄造できる。上限は、品質面からは特に限定されない。パルプ収率は、クラフトパルプを得る際のカッパー価18のときのパルプ収率の推定値である。標準物質におけるパルプのカッパー価は、TAPPI試験法T236hm-85に従って算出される値である。パルプ収率の測定は、木材チップに薬品(アルカリと硫黄化合物)を混合し、高圧、高温の条件下で蒸解することにより得られたパルプ量と供試したチップ量から算出することで得られ、後段の実施例の測定方法も同様である。
【0022】
(繊維長)
繊維長の予測値の選抜基準は、通常1.10mm以下、好ましくは1.05mm以下、より好ましくは1.00mm以下である。繊維長の予測値が上記の数値を満たす木材から得られる紙は、地合いが良好であり、印刷時のインキ着肉性を向上させることができ印刷ムラの発生を抑制できるため、印刷適性の良好な印刷用紙(例、新聞用紙)としての利用が期待できる。また、塗工ムラの発生も抑制できるため、塗工紙としての利用も期待できる。下限は、0.50mm以上、好ましくは0.55mm以上、より好ましくは0.60mm以上、更に好ましくは0.65mm以上である。標準物質における繊維長は、JIS P 8226:2011「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準拠しファイバーテスター(Lorentzen&Wettre社製)を用いて長さ加重平均繊維長として測定できる。
【0023】
(リグニン量)
リグニン量の予測値の選抜基準は、パルプの生産に適する植林木を選抜する際は、通常40%以下、好ましくは38%以下、より好ましくは35%以下である。リグニンの生産に適する植林木を選抜する際は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。リグニン量は、リグニンの含有量の、全体に対する重量比(%)である。標準物質におけるリグニン量は、クラーソン(Klason)法により測定できる。
【0024】
〔3.試験植林工程〕
試験植林工程では、木材分析工程で選抜された植林木を育成し、事業用に適した植林木を選抜する。これにより、優良な木材物性を有するとともに、成長性に優れた植林木を選抜できる。選抜された植林木をそのまま育成してもよいが、植林木のクローン苗を育成することが好ましい。クローン苗の育成は、挿し木によることが好ましい。クローン苗の調製、挿し木の調製及び挿し木苗の育苗の各条件は、適宜設定でき、特に限定されない。
【0025】
〔4.予備選抜工程・木材分析工程による再選抜〕
試験植林工程では、育成された植林木をそのまま最終的な個体として木材加工等に供してもよいが、植林木を再び予備選抜工程及び/又は木材分析工程(好ましくは両方)に供して、再選抜することができる。これにより、より優良な木材物性を有する植林木を選抜できる。予備選抜工程・木材分析工程による再選抜は、各工程について既に説明したのと同様に行うことができる。上記再選抜は、2回以上行ってもよい。
【実施例】
【0026】
実施例1
〔1.予備選抜工程〕
熱帯・亜熱帯地域に適応可能な樹種、ハイブリット種を含むユーカリ属植物(明細書に列記した具体例各種)約20万個体の苗(実生苗)を作成し、ブラジルの植林地において植栽試験を実施した。実生苗(植え付け時の苗の樹齢:挿し付け後100日目)は播種後約100日間、散水設備のある温室で発根処理を行い(約3週間、高湿度(約100%)、遮光)、順化室(遮光度、湿度を徐々に低下)、野外圃場を経て、雨季(12月末~6月)に植林地に植栽した(植栽密度:1666本/ha)。約4年間保育させた後、材積、樹形にて選抜し約200個体に絞り込みを行った。
【0027】
〔2.木材分析工程〕
実生林試験にて選抜した200個体の幹よりドリルドライバーにて、ドリルダストを採取し、粉砕機にて更に細かく砕き、木粉を作成した。その木粉を近赤外分光器にて測定し、木粉のスペクトル(波長領域780nm~2500nm)を得た。その後、事前に木粉のスペクトルと、化学実験(TAPPI JAPANに準拠したパルプ化適性試験)での実測値との相関から作成した検量線に代入し、形質(容積重、KP収率、リグニン量、繊維長)の推定を行った。各種形質結果をもとに、絞り込みを行い、約50個体に絞り込みを行った。
【0028】
〔3.試験植林工程〕
木材分析にて選抜した50個体を伐倒し、萌芽枝からさし木によるクローン苗の増殖を行った。そのクローン苗を砂耕栽培棚に移植し、母樹として枝を伸長させ、その枝を挿し木することでクローン苗の増殖を行った。その後、クローン苗を用いて、2回目の植栽試験を実施した(1系統:50本×3ヶ所=150本、50本はマス状に植栽)。4年間保育後、クローンとしての材積、樹形、病害耐性、均一性を確認し、各種形質に優れる5クローンを選抜した。各クローンから採取した木粉について測定した木材物性を表1に示す。
【0029】
【0030】
標準物質における各形質の測定条件は以下のとおりである。
容積重:J TAPPI NO.3:2000「木材チップ-容積重試験方法」に準拠して測定した。
【0031】
パルプ収率:表2に示す条件で、回転式マルチダイジェスターを用いて蒸解試験を行い、パルプ収率を測定した。
【0032】
【0033】
繊維長:JIS P 8226:2011「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準拠しファイバーテスター(Lorentzen&Wettre社製)を用いて長さ加重平均繊維長として測定した。
【0034】
リグニン含量:クラーソン(Klason)法により測定した。
【0035】
クローンA~Eの各サンプルは、いずれも良好な木材物性を示していた。これらの結果は、本発明により、良好な木材物性を有するユーカリ植物を短期間で生産・選抜育種できることを示している。