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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】香箱用潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20231215BHJP
   C10M 169/00 20060101ALI20231215BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 133/40 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20231215BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20231215BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20231215BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231215BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20231215BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M169/00
C10M107/02
C10M137/04
C10M137/02
C10M133/12
C10M133/40
C10M133/44
C10M117/00
C10M125/02
C10N10:02
C10N30:00 Z
C10N40:06
C10N50:10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020151076
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045468
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115603(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/059043(WO,A1)
【文献】特開2008-285672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0096040(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃の動粘度が20000cSt以上50000cSt以下であるエチレン・α-オレフィンコオリゴマーを含むベース成分100質量部に対して、
極圧剤として下記式(b-1)で表される中性リン酸エステル誘導体および下記式(b-2)で表される中性亜リン酸エステル誘導体から選ばれる少なくとも1種を、0.05質量部以上1質量部以下の量で、
酸化防止剤として下記式(c-1)で表されるジフェニルアミン誘導体および下記式(c-2)で表されるヒンダードアミン化合物を、合計で0.03質量部以上0.1質量部以下の量で、
金属不活性剤として下記式(D)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を、0.03質量部以上0.1質量部以下の量で含む、
香箱用潤滑組成物。
【化1】
(式(b-1)中、Rb11~Rb14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb15~Rb18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化2】
(式(b-2)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化3】
(式(c-1)中、Rc11およびRc12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。)
【化4】
(式(c-2)中、Rc21およびRc22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rc23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化5】
(上記式(D)中、Rd1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Rd2およびRd3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ベース成分が、さらに、リチウム石鹸グリースを含み、
前記ベース成分の合計100質量部中、前記エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを70質量部以上90質量部以下の量で、前記リチウム石鹸グリースを10質量部以上30質量部以下の量で含む、
請求項1に記載の香箱用潤滑組成物。
【請求項3】
さらに、カーボンブラックを、前記ベース成分100質量部に対して、1.5質量部以上2.5質量部以下の量で含む、
請求項1または2に記載の香箱用潤滑組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香箱用潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計には、香箱と、香箱内に収納されたぜんまいとが備えられている。ぜんまいは、香箱内で巻き上げられ、巻き上げられたぜんまいがほどけることによって香箱が回転する。ぜんまいがほどける際には、ぜんまいと香箱車との間で摺動したり、ぜんまい同士の間で摺動したりする。このような摺動による摩耗を抑制するため、香箱に潤滑油が注入されている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2003/054637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で用いる潤滑油では、ぜんまいがほどけやすくなり、時計が長時間安定して作動できない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、時計の香箱を安定して長期間作動できる香箱用潤滑組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の香箱用潤滑組成物は、40℃の動粘度が20000cSt以上50000cSt以下であるエチレン・α-オレフィンコオリゴマーを含むベース成分100質量部に対して、極圧剤として下記式(b-1)で表される中性リン酸エステル誘導体および下記式(b-2)で表される中性亜リン酸エステル誘導体から選ばれる少なくとも1種を、0.05質量部以上1質量部以下の量で、酸化防止剤として下記式(c-1)で表されるジフェニルアミン誘導体および下記式(c-2)で表されるヒンダードアミン化合物を、合計で0.03質量部以上0.1質量部以下の量で、金属不活性剤として下記式(D)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を、0.03質量部以上0.1質量部以下の量で含む。
【0007】
【化1】
【0008】
(式(b-1)中、Rb11~Rb14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb15~Rb18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0009】
【化2】
【0010】
(式(b-2)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0011】
【化3】
【0012】
(式(c-1)中、Rc11およびRc12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。)
【0013】
【化4】
【0014】
(式(c-2)中、Rc21およびRc22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rc23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0015】
【化5】
【0016】
(上記式(D)中、Rd1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Rd2およびRd3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の香箱用潤滑組成物は、時計の香箱を安定して長期間作動できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0019】
実施形態の香箱用潤滑組成物は、ベース成分、極圧剤、酸化防止剤および金属不活性剤を含む。
【0020】
<ベース成分>
ベース成分は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が20000cSt以上50000cSt以下であるエチレン・α-オレフィンコオリゴマーを含む。
【0021】
機械式時計では、ぜんまいがほどける際には、ぜんまいと香箱車との間で摺動したり、ぜんまい同士の間で摺動したりする。なお、本明細書において、ぜんまいと香箱車との間およびぜんまい同士の間を摺動部ともいう。従来、これら摺動部での摺動による摩耗を抑制するため、香箱に潤滑油が注入されている(たとえば、特許文献1)。しかしながら、特許文献1で用いる潤滑油では、摺動が抑えられすぎ、ぜんまいがほどけやすくなり、時計が長時間安定して作動できない。一方、グリース組成物を用いると、摺動が抑えられず、摩耗が起こりやすくなる。これに対して、実施形態の香箱用潤滑組成物では、上記のベース成分を用いることにより、適切に摺動が抑えられるため、時計の香箱を安定して長期間作動できる。
【0022】
エチレン・α-オレフィンコオリゴマーは、100℃の動粘度(JIS K 2283)が1500cSt以上2500cSt以下であることが好ましい。また、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーは、数平均分子量が2800以上8000以下であることが好ましい。本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法(標準物質:ポリスチレン)によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0023】
ベース成分は、粘度を調整するために、具体的には、粘度を低減するために、さらにリチウム石鹸グリースを含んでいてもよい。リチウム石鹸グリースを用いると、時計の香箱をより安定してより長期間作動できる。リチウム石鹸グリースは、JIS K 2220に従って測定された混和ちょう度(1/2)が200以上250以下であることが好ましい。
【0024】
リチウム石鹸グリースは、基油と増ちょう剤とを配合して得られる。基油としては、パラフィン系炭化水素油が好適に用いられる。パラフィン系炭化水素油としては、炭素原子数が30以上、好ましくは30~50のα-オレフイン重合体が好ましい。パラフィン系炭化水素油は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このα-オレフイン重合体としては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される1種の単量体の単重合体、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される少なくとも2種以上の単量体の共重合体が挙げられる。具体的には、1-デセンの3量体、1-ウンデセンの3量体、1-ドデセンの3量体、1-トリデセンの3量体、1-テトラデセンの3量体、1-ヘキセンと1-ペンテンとの共重合体などが挙げられる。また、パラフィン系炭化水素油は、100℃での動粘度が4cSt以上8cSt以下であることが好ましい。また、増ちょう剤としては、ステアリン酸リチウム石鹸、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム石鹸が挙げられる。増ちょう剤は、基油および増ちょう剤の合計100質量%に対して、10質量%以上20質量%以下で用いることが好ましく、14質量%以上16質量%以下で用いることが特に好ましい。
【0025】
リチウム石鹸グリースを含む場合は、ベース成分の合計(エチレン・α-オレフィンコオリゴマーおよびリチウム石鹸グリースの合計)100質量部中、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを70質量部以上90質量部以下の量で、リチウム石鹸グリースを10質量部以上30質量部以下の量で含むことが好ましい。エチレン・α-オレフィンコオリゴマーおよびリチウム石鹸グリースが上記の量で含まれていると、実施形態の香箱用潤滑組成物の粘度を好適な範囲に調整できる。
【0026】
<極圧剤>
極圧剤は、下記式(b-1)で表される中性リン酸エステル誘導体および下記式(b-2)で表される中性亜リン酸エステル誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む。極圧剤として、中性リン酸エステルを1種用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。中性亜リン酸エステルについても同様である。また、中性リン酸エステルと中性亜リン酸エステルとを、それぞれ1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。中性リン酸エステルは下記一般式(b-1)で表わされ、中性亜リン酸エステルは下記一般式(b-2)で表わされる。
【0027】
中性リン酸エステルは、中央部に2つのベンゼン環構造を有する。実施形態の香箱用潤滑組成物を摺動部に付着させたとき、これらのベンゼン環構造により、摺動部表面の広い範囲を覆うことができると考えられる。また、中性リン酸エステルは、後述のようにRb11~Rb14に4つの特定の脂肪族炭化水素基を有する。実施形態の香箱用潤滑組成物を摺動部に付着させたとき、これらの特定の脂肪族炭化水素基により、強固に摺動部に付着でき、中性リン酸エステル全体が剥がれ難くなると考えられる。中性亜リン酸エステルについても同様に考えられる。したがって、このような極圧剤を用いた実施形態の香箱用潤滑組成物は、摺動部に付着させたときに、強固な潤滑被膜を形成できる。このため、長期に渡って耐摩耗性および極圧性を発揮できる。
【0028】
【化6】
【0029】
式(b-1)中、Rb11~Rb14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0030】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0031】
b15~Rb18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0032】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0033】
中性リン酸エステルは、Rb15~Rb18に特定の置換基を有しているため、耐摩耗性および極圧性に優れる。これは、Rb15~Rb18に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた実施形態の香箱用潤滑組成物の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0034】
特に、Rb15およびRb17が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb16およびRb18が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、上述した耐摩耗性および極圧性がより優れる。
【0035】
b191およびRb192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0036】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0037】
ただし、Rb191およびRb192の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb191が水素原子のときは、Rb192は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb191がメチル基のときは、Rb192は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb191がエチル基のときは、Rb192は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0038】
特に、実施形態の香箱用潤滑組成物の膜を強固にするためには、Rb191が水素原子であり、Rb192が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0039】
【化7】
【0040】
式(b-2)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0041】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0042】
b25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0043】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0044】
中性亜リン酸エステルは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、耐摩耗性および極圧性に優れる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた実施形態の香箱用潤滑組成物の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0045】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、上述した耐摩耗性および極圧性がより優れる。
【0046】
b291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0047】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0048】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0049】
特に、実施形態の香箱用潤滑組成物の膜を強固にするためには、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0050】
実施形態の香箱用潤滑組成物に使用する場合に構造安定性がより高いと考えられるため、中性亜リン酸エステルがさらに好適に用いられる。
【0051】
実施形態の香箱用潤滑組成物において、極圧剤は、ベース成分100質量部に対して、0.05質量部以上1質量部以下の量で含まれる。なお、極圧剤を2種以上含む場合は、上記量は、2種以上の極圧剤の合計量である。極圧剤が1質量部を超えた量で含まれていると、摺動部の摺動が抑えられすぎる場合がある。
【0052】
<酸化防止剤>
酸化防止剤は、下記式(c-1)で表されるジフェニルアミン誘導体および下記式(c-2)で表されるヒンダードアミン化合物含む。実施形態の香箱用潤滑組成物は、摺動部における摩耗粉や錆のような析出物の生成を抑えるため、上記2種類の酸化防止剤を組み合わせて含む。上記2種類の酸化防止剤を組み合わせると、摺動部において発生する活性種を長期に渡って無害化できる。ジフェニルアミン誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
【化8】
【0054】
式(c-1)中、Rc11およびRc12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0055】
炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基などが挙げられる。
【0056】
pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数、好ましくは0~3の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。
【0057】
上記ジフェニルアミン誘導体は、たとえばジフェニルアミンと、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を置換基として導入させるための化合物(エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、2-ブテン、2-メチルプロペン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,4,4-トリメチルペンテンなどの二重結合を有する化合物)との反応により得られる。
【0058】
【化9】
【0059】
式(c-2)中、Rc21およびRc22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0060】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0061】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0062】
c23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0063】
炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0064】
特に、高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRc21、Rc22およびRc23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0065】
実施形態の香箱用潤滑組成物において、酸化防止剤は、ベース成分100質量部に対して、合計で0.03質量部以上0.1質量部以下の量で含まれる。ベース成分100質量部に対して、ジフェニルアミン誘導体を0.015質量部以上0.05質量部以下の量で、ヒンダードアミン化合物を0.015質量部以上0.05質量部以下の量で含むことが好ましい。
【0066】
<金属不活性剤>
金属不活性剤は、摺動部での腐食を防止するため、下記式(D)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を含む。金属不活性化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
【化10】
【0068】
式(D)中、Rd1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Rd2およびRd3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。
【0069】
実施形態の香箱用潤滑組成物において、金属不活性剤は、ベース成分100質量部に対して、0.03質量部以上0.1質量部以下の量で含まれる。なお、金属不活性剤を2種以上含む場合は、上記量は、2種以上の金属不活性剤の合計量である。
【0070】
<その他の成分>
実施形態の香箱用潤滑組成物は、その他の成分として、さらに着色剤、防錆剤を含んでいてもよい。着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックを加えると、香箱用潤滑組成物の視認性が向上する。香箱への供給量が分かりやすくなるとともに、さらに、香箱からの香箱用潤滑組成物の漏れを抑制できる効果もある。
【0071】
その他の成分を含む場合は、それぞれ、ベース成分100質量部に対して、1.5質量部以上2.5質量部以下の量で含まれていてもよい。
【0072】
実施形態の香箱用潤滑組成物は、ベース成分、極圧剤、酸化防止剤、金属不活性剤および必要に応じてその他の成分を適宜配合して調製できる。
【0073】
実施形態の香箱用潤滑組成物は、公知の方法により、機械式時計の香箱内に供給される。香箱から漏れない量で、かつ長期に渡って安定して時計を作動できる量で供給することが好ましい。
【0074】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 40℃の動粘度が20000cSt以上50000cSt以下であるエチレン・α-オレフィンコオリゴマーを含むベース成分100質量部に対して、極圧剤として下記式(b-1)で表される中性リン酸エステル誘導体および下記式(b-2)で表される中性亜リン酸エステル誘導体から選ばれる少なくとも1種を、0.05質量部以上1質量部以下の量で、酸化防止剤として下記式(c-1)で表されるジフェニルアミン誘導体および下記式(c-2)で表されるヒンダードアミン化合物を、合計で0.03質量部以上0.1質量部以下の量で、金属不活性剤として下記式(D)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を、0.03質量部以上0.1質量部以下の量で含む、香箱用潤滑組成物。
【0075】
【化11】
【0076】
(式(b-1)中、Rb11~Rb14は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb15~Rb18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb191およびRb192の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0077】
【化12】
【0078】
(式(b-2)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0079】
【化13】
【0080】
(式(c-1)中、Rc11およびRc12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、pおよびqは、それぞれ独立に、0~5の整数を表す。ただし、pおよびqは、同時に0を表さない。)
【0081】
【化14】
【0082】
(式(c-2)中、Rc21およびRc22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rc23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0083】
【化15】
【0084】
(上記式(D)中、Rd1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Rd2およびRd3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。)
上記〔1〕の香箱用潤滑組成物は、時計の香箱を安定して長期間作動できる。
〔2〕 上記ベース成分が、さらに、リチウム石鹸グリースを含み、上記ベース成分の合計100質量部中、上記エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを70質量部以上90質量部以下の量で、上記リチウム石鹸グリースを10質量部以上30質量部以下の量で含む、〔1〕に記載の香箱用潤滑組成物。
上記〔2〕の香箱用潤滑組成物は、リチウム石鹸グリースを用いているため、時計の香箱をより安定してより長期間作動できる。
〔3〕 さらに、カーボンブラックを、上記ベース成分100質量部に対して、1.5質量部以上2.5質量部以下の量で含む、〔1〕または〔2〕に記載の香箱用潤滑組成物。
上記〔3〕の香箱用潤滑組成物は、カーボンブラックを含むため、視認性が向上している。
【0085】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1-1]
ベース成分としてエチレン・α-オレフィンコオリゴマー(商品名:ルーカント(登録商標)HC-2000、三井化学株式会社製、40℃の動粘度(JIS K 2283)37500cSt、100℃の動粘度(JIS K 2283)2000cSt)100質量部に対して、極圧剤として中性亜リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)を0.5質量部と、酸化防止剤としてジフェニルアミン誘導体であるジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(商品名:イルガノックス(登録商標)L57、BASFジャパン株式会社製)を0.03質量部と、酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物であるデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)を0.03質量部と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体である1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0087】
[実施例1-2]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.05質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.03質量部と、ヒンダードアミン化合物0.03質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0088】
[実施例1-3]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体1.00質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.03質量部と、ヒンダードアミン化合物0.03質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0089】
[実施例1-4~1-9]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、表1の化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例1-10]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.5質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.015質量部と、ヒンダードアミン化合物0.015質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0092】
[実施例1-11]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.5質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.05質量部と、ヒンダードアミン化合物0.05質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0093】
[実施例1-12~1-15]
ジフェニルアミン誘導体としてジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物の代わりに、表2の化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0094】
【表2】
【0095】
[実施例1-16~1-21]
ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)(Rd21、Rd22=n-オクチル基、Rd23=1,8-オクチレン基)の代わりに、表3の化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0096】
【表3】
【0097】
[実施例1-22]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.5質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.03質量部と、ヒンダードアミン化合物0.03質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.03質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0098】
[実施例1-23]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。すなわち、ベース成分100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.5質量部と、ジフェニルアミン誘導体0.03質量部と、ヒンダードアミン化合物0.03質量部と、ベンゾトリアゾール誘導体0.1質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0099】
[実施例1-24]
ベース成分としてエチレン・α-オレフィンコオリゴマー(商品名:ルーカント(登録商標)HC-2000、三井化学株式会社製、40℃の動粘度(JIS K 2283)37500cSt、100℃の動粘度(JIS K 2283)2000cSt)100質量部に対して、極圧剤として中性リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスフェート)を0.5質量部と、酸化防止剤としてジフェニルアミン誘導体であるジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(商品名:イルガノックス(登録商標)L57、BASFジャパン株式会社製)を0.03質量部と、酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物であるデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)を0.03質量部と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体である1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0100】
[実施例1-25~1-30]
中性リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスフェート)(Rb11~Rb14=トリデシル基、Rb15、Rb17=メチル基、Rb16、Rb18=t-ブチル基、Rb191=水素原子、Rb192=n-プロピル基)の代わりに、表4の化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0101】
【表4】
【0102】
[実施例2-1]
ベース成分として、エチレン・α-オレフィンコオリゴマー(商品名:ルーカント(登録商標)HC-2000、三井化学株式会社製、40℃の動粘度(JIS K 2283)37500cSt、100℃の動粘度(JIS K 2283)2000cSt)およびリチウム石鹸グリースを用いた。ベース成分は、ベース成分100質量部中、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを80質量部およびリチウム石鹸グリースを20質量部含んでいた。
ここで、リチウム石鹸グリースは、以下のようにして調製した。PAO6(シェブロンテキサコ社製、100℃の動粘度6cSt、40℃の動粘度31cSt、分子量554)および12-ヒドロキシステアリン酸の混合物に、95℃のLiOH水溶液を添加し、反応させた。この反応により、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム石鹸が得られた。次いで、上記混合物を140℃で加熱して水を蒸発させ、さらに205℃まで加熱し、PAO6を添加した後、冷却した。次いで、冷却した混合物を3本ロールに通し、リチウム石鹸グリースを得た。リチウム石鹸グリースは、JIS K 2220に従って測定された混和ちょう度(1/2)は220であった。
上記ベース成分100質量部に対して、極圧剤として中性亜リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)を0.5質量部と、酸化防止剤としてジフェニルアミン誘導体であるジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(商品名:イルガノックス(登録商標)L57、BASFジャパン株式会社製)を0.03質量部と、酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物であるデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)を0.03質量部と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体である1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0103】
[実施例2-2]
ベース成分100質量部中、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを70質量部およびリチウム石鹸グリースを30質量部含むベース成分を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0104】
[実施例2-3]
ベース成分100質量部中、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを90質量部およびリチウム石鹸グリースを10質量部含むベース成分を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
[実施例2-4]
極圧剤として中性亜リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)の代わりに、中性リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスフェート)を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、香箱用潤滑組成物を得た。
【0105】
[実施例3-1]
ベース成分としてエチレン・α-オレフィンコオリゴマー(商品名:ルーカント(登録商標)HC-2000、三井化学株式会社製、40℃の動粘度(JIS K 2283)37500cSt、100℃の動粘度(JIS K 2283)2000cSt)100質量部に対して、極圧剤として中性亜リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)を0.5質量部と、酸化防止剤としてジフェニルアミン誘導体であるジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(商品名:イルガノックス(登録商標)L57、BASFジャパン株式会社製)を0.03質量部と、酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物であるデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)を0.03質量部と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体である1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部と、カーボンブラック2.0質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0106】
[実施例3-2]
ベース成分として、エチレン・α-オレフィンコオリゴマー(商品名:ルーカント(登録商標)HC-2000、三井化学株式会社製、40℃の動粘度(JIS K 2283)37500cSt、100℃の動粘度(JIS K 2283)2000cSt)およびリチウム石鹸グリースを用いた。ベース成分は、ベース成分100質量部中、エチレン・α-オレフィンコオリゴマーを80質量部およびリチウム石鹸グリースを20質量部含んでいた。
ここで、リチウム石鹸グリースは、以下のようにして調製した。PAO6(シェブロンテキサコ社製、100℃の動粘度6cSt、40℃の動粘度31cSt、分子量554)および12-ヒドロキシステアリン酸の混合物に、95℃のLiOH水溶液を添加し、反応させた。この反応により、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム石鹸が得られた。次いで、上記混合物を140℃で加熱して水を蒸発させ、さらに205℃まで加熱し、PAO6を添加した後、冷却した。次いで、冷却した混合物を3本ロールに通し、リチウム石鹸グリースを得た。リチウム石鹸グリースは、JIS K 2220に従って測定された混和ちょう度(1/2)は220であった。
上記ベース成分100質量部に対して、極圧剤として中性亜リン酸エステル誘導体である4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)を0.5質量部と、酸化防止剤としてジフェニルアミン誘導体であるジフェニルアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(商品名:イルガノックス(登録商標)L57、BASFジャパン株式会社製)を0.03質量部と、酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物であるデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)を0.03質量部と、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体である1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.05質量部と、カーボンブラック2.0質量部とを混合して、香箱用潤滑組成物を得た。
【0107】
[評価方法およびその結果]
機械式時計の香箱にぜんまいを収納し、実施例で得られた香箱用潤滑組成物を注入して、香箱蓋を閉めた。ぜんまいを巻き上げ、元に戻すまでの操作を1回として、この操作を1500回または2000回連続して行った。1500回または2000回の連続操作後、香箱蓋を開け、分解して、香箱およびぜんまいの摩耗を観察した。
また、1500回または2000回の連続操作後、香箱蓋を開ける際に、香箱の外側壁面に香箱用潤滑組成物がしみ出た跡があるか否かを観察した。
表5に評価結果を示す。
【0108】
【表5-1】
【0109】
【表5-2】
【0110】
実施例で得られた香箱用潤滑組成物は、いずれも1500回の連続操作後も摩耗が見られず、時計の香箱を安定して長期間作動できることが分かった。また、ベース成分がリチウム石鹸グリースを含む場合は、2000回の連続操作後も摩耗が見られず、時計の香箱をさらに安定して長期間作動できることが分かった。また、香箱用潤滑組成物がカーボンブラックを含む場合は、視認性が向上できるとともに、2000回の連続操作後もしみ出した跡が見られず、香箱からの香箱用潤滑組成物の漏れを抑制できることが分かった。