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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】医療用マーカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/20 20160101AFI20231215BHJP
   A61M 25/098 20060101ALI20231215BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
A61B34/20
A61M25/098
A61B6/00 390C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020163778
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056012
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬純
(72)【発明者】
【氏名】新澤 真洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】新井 真幸
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0069836(US,A1)
【文献】国際公開第2019/180580(WO,A1)
【文献】特開2013-116499(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0269601(US,A1)
【文献】特開2010-242835(JP,A)
【文献】特開昭52-012662(JP,A)
【文献】特開2011-255036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
A61M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体が螺旋状にされた螺旋体により構成される医療用マーカの製造方法であって、
隣接する一巻き同士が位相差を有しないように前記線状体が螺旋状に巻回された前駆体をスプリングバックさせて前記螺旋体を形成し、
前記前駆体の一巻きを前駆体側単位巻部と定義した際、前記螺旋体の軸方向から前記螺旋体を軸視した際における前記螺旋体の一巻きを構成する単位巻部は、前記軸方向において隣接する一方のスプリングバックさせた前記前駆体側単位巻部と他方のスプリングバックさせた前記前駆体側単位巻部の一部で構成され、
前記単位巻部の形状は、非正円となる巻形状となっており、
連続して前記軸方向に並ぶ複数の前記単位巻部は、隣接する一方の前記単位巻部の終端部分と他方の前記単位巻部の始端部分が重畳状態となっており、その結果、重畳する分だけ、前記巻形状同士は位相差を有することを特徴とする、
医療用マーカの製造方法。
【請求項2】
前記単位巻部の前記巻形状は、局所的に曲率が小さくなる頂領域を有することを特徴とする、
請求項1に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項3】
前記単位巻部の前記巻形状は、複数の前記頂領域を有する多角形又は正円を押し潰した形であることを特徴とする、
請求項2に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項4】
連続して前記軸方向に並ぶ複数の前記単位巻部のそれぞれの前記頂領域は、前記軸方向の一方側に進むに従って前記螺旋体の周方向の一方側にずれていくことを特徴とする、
請求項2又は3に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項5】
前記軸方向から前記螺旋体を軸視した際における前記軸方向の少なくとも一方側の端部の前記螺旋体の一巻きを構成する端部側単位巻部の端部側巻形状は、前記螺旋体の前記軸方向の途中の前記単位巻部の前記巻形状とは異なることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項6】
前記端部側巻形状は、正円であることを特徴とする、
請求項5に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項7】
前記前駆体側単位巻部の巻形状が正多角形を成す時、前記位相差θと、前記正多角形の中心角αは、以下の式を満たすことを特徴とする、
請求項に記載の医療用マーカの製造方法
0.1α≦θ≦0.9α
【請求項8】
前記前駆体側単位巻部の巻形状が正多角形を成す時、前記螺旋体を構成する材料の最大ひずみε、正多角形の外接円の半径R、前記線状体の半径ω、及び正多角形の角数nは、以下の式を満たすことを特徴とする、
請求項に記載の医療用マーカの製造方法
【請求項9】
柱状の芯材に前記線状体を巻回して前記前駆体を形成することを特徴とする、
請求項1に記載の医療用マーカの製造方法。
【請求項10】
前記線状体をコイル状に成形するコイリング装置により前記線状体をコイル状に成形して前記前駆体を形成することを特徴とする、
請求項1に記載の医療用マーカの製造方法。
【請求項11】
スプリングバックさせた後に、熱処理を施して前記螺旋体を形状付けすることを特徴とする、
請求項1、及び10のいずれか一項に記載の医療用マーカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の所定の部位に目印として留置させる医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内の所定の部位に目印として留置させる侵入型マーカとして、らせん状コイルの形態を有し、当該らせん状コイルはピッチの異なる区分を含むとともに、軸方向及び横方向に可撓性を有し、解剖学的部位の形状、サイズまたは位置の変化に追随して変形可能であるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。その侵入型マーカは、解剖学的部位の形状、サイズまたは位置の変化に追随して変形可能であるため、患者の体内の所定の部位に留まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5629698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記侵入型マーカは、表面がなだらかな凹凸を有するらせん状コイルである。上記侵入型マーカは、表面の凹凸を患者の体内の所定の部位に密着させて、その場所に留置されている。このため、上記侵入型マーカは、患者の体内の所定の部位に留まらせるためのアンカー効果が弱い。結果、上記侵入型マーカでは、患者の体内の所定の部位に安定して留置させることが期待できない。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、患者の体内の所定の部位に安定して留置させることが可能な医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の医療用マーカは、線状体が螺旋状にされた螺旋体により構成される医療用マーカであって、前記螺旋体の軸方向から前記螺旋体を軸視した際における、前記螺旋体の一巻きを構成する単位巻部の形状は、非正円となる巻形状となっており、連続して前記軸方向に並ぶ複数の前記単位巻部は、隣接する一方の前記単位巻部の終端部分と他方の前記単位巻部の始端部分が重畳状態となっており、その結果、重畳する分だけ、前記巻形状同士は位相差を有することを特徴とする。また、本発明の医療用マーカの製造方法は、線状体が螺旋状にされた螺旋体により構成される医療用マーカの製造方法であって、隣接する一巻き同士が位相差を有しないように前記線状体が螺旋状に巻回された前駆体をスプリングバックさせて前記螺旋体を形成し、前記前駆体の一巻きを前駆体側単位巻部と定義した際、前記螺旋体の軸方向から前記螺旋体を軸視した際における前記螺旋体の一巻きを構成する単位巻部は、前記軸方向において隣接する一方のスプリングバックさせた前記前駆体側単位巻部と他方のスプリングバックさせた前記前駆体側単位巻部の一部で構成され、前記単位巻部の形状は、非正円となる巻形状となっており、連続して前記軸方向に並ぶ複数の前記単位巻部は、隣接する一方の前記単位巻部の終端部分と他方の前記単位巻部の始端部分が重畳状態となっており、その結果、重畳する分だけ、前記巻形状同士は位相差を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法及び医療用マーカの製造方法において、前記単位巻部の前記巻形状は、局所的に曲率が小さくなる頂領域を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法及び医療用マーカの製造方法において、前記単位巻部の前記巻形状は、複数の前記頂領域を有する多角形又は正円を押し潰した形であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法及び医療用マーカの製造方法において、連続して前記軸方向に並ぶ複数の前記単位巻部のそれぞれの前記頂領域は、前記軸方向の一方側に進むに従って前記螺旋体の周方向の一方側にずれていくことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法及び医療用マーカの製造方法において、前記軸方向から前記螺旋体を軸視した際における前記軸方向の少なくとも一方側の端部の前記螺旋体の一巻きを構成する端部側単位巻部の端部側巻形状は、前記螺旋体の前記軸方向の途中の前記単位巻部の前記巻形状とは異なることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法及び医療用マーカの製造方法において、前記端部側巻形状は、正円であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法において、前記前駆体側単位巻部の巻形状が正多角形を成す時、前記位相差θと、前記正多角形の中心角αは、0.1α≦θ≦0.9αを満たすことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の医療用マーカ及び医療用マーカの製造方法において、前記前駆体側単位巻部の巻形状が正多角形を成す時、前記螺旋体を構成する材料の最大ひずみε、正多角形の外接円の半径R、前記線状体の半径ω、及び正多角形の角数nは、以下の式を満たすことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の医療用マーカの製造方法において、柱状の芯材に前記線状体を巻回して前記前駆体を形成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の医療用マーカの製造方法において、前記線状体をコイル状に成形するコイリング装置により前記線状体をコイル状に成形して前記前駆体を形成することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の医療用マーカの製造方法において、スプリングバックさせた後に、熱処理を施して前記螺旋体を形状付けすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の医療用マーカは、線状体が螺旋状にされた螺旋体により構成される医療用マーカであって、前記螺旋体の軸方向から前記螺旋体を軸視した際、前記螺旋体の一巻きを構成すると共に、連続して前記軸方向に並ぶ複数の単位巻部のうち少なくとも一つは、隣接する前記単位巻部の外縁を基準として前記軸方向に直交する方向の外側に凸となる凸部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用マーカによれば、患者の体内の所定の部位に安定して留置できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態における医療用マーカの斜視図である。
図2】(A)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの平面図である。(B)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの側面図である。
図3】(A)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの製造に用いられる線状体と芯材を示す斜視図である。(B)は、線状体を芯材に巻回した様子を示す側面図である。(C)は、線状体を芯材に巻回して形成された本発明の第一実施形態における前駆体の平面図である。
図4】(A)は、線状体を芯材に巻回して形成された本発明の第一実施形態における前駆体を簡略化して描いた平面図である。(B),(C)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの一部を簡略化して描いた平面図である。
図5】(A),(B)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの一部を簡略化して描いた平面図である。
図6】(A)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの変形例の製造に用いられる線状体と芯材を示す斜視図である。(B)は、線状体を芯材に巻回した様子を示す側面図である。(C)は、線状体を芯材に巻回して形成された第一実施形態における前駆体の変形例の平面図である。
図7】(A)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの変形例の平面図である。(B)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの変形例の側面図である。
図8】(A),(B)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの変形例の平面図である。
図9】(A)は、本発明の第一実施形態における医療用マーカの変形例で用いられる星形の芯材を示す平面図である。(B)は、本発明の第一実施形態における前駆体の変形例の平面図である。
図10】(A)は、本発明の第二実施形態における医療用マーカの平面図である。(B)は、本発明の第二実施形態における医療用マーカの側面図である。
図11】本発明の第二実施形態における医療用マーカの変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1図11は発明を実施する形態の一例であって、図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0021】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態における医療用マーカ1は、例えば、挿入用針内に入れ、押し出すことにより体内に挿入され、生体内の所定の部位に設置される。そして、医療用マーカ1は、生体内の所定の部位に目印として留まる。本実施形態における医療用マーカ1は、図1及び図2に示すように、線状体2が螺旋状にされた螺旋体3により構成される。螺旋体3は、螺旋体3の一巻きを構成する複数の単位巻部4により構成される。複数の単位巻部4は、連続して螺旋体3の軸方向(以下、単に、軸方向と呼ぶ。)Aに並ぶ。
【0022】
医療用マーカ1を製造するには、図3(A)に示すように、断面形状が四角形の柱状の芯材5と線状体2を用意する。そして、図3(B)に示すように、線状体2を芯材5に螺旋状に巻回する。この状態において、線状体2の一巻き(前駆体側単位巻部350)を四角柱状に形状付けして、螺旋体3の前駆体35を作り上げる。また、螺旋体3の前駆体35は、芯材5に巻回して作り上げる以外にも、(図示しない)コイリング装置により線状体2をコイル状に成形して作り上げてもよい。コイリング装置は、線状体2をコイル状に成形することができるものである。コイリング装置は、例えば、芯材5を用いないコイリングピンを有する方式のものが一例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、その他のタイプのものであってもよい。前駆体35は、図3(C)に示すように、軸方向Aから螺旋体3を軸視した際、四角形となる。前駆体35から芯材5を取り除くと、前駆体35は、自身の周方向Bにスプリングバックして図1及び図2に示すような螺旋体3となる。なお、螺旋体3の形状を安定させるため、熱処理を施して、形状付けをしてもよい。
【0023】
ここで、図3及び図4を参照して、単位巻部4Aについて説明する。なお、図4(A)は、図3(C)に示す、軸方向A(軸方向E)から軸視した際の前駆体35を、前駆体35の説明のため、簡略化して描いたものである。図4(B),(C)は、図2(A)に示す、軸方向A(軸方向E)から軸視した際の螺旋体3の一部を、螺旋体3の説明のため、簡略化して描いたものである。
【0024】
図3(C)及び図4(A)に示すように、線状体2を四角柱状の芯材5に巻回した状態における前駆体35の一巻きを構成する前駆体側単位巻部350の形状は、四角形となる。そして、複数の前駆体側単位巻部350は、図3(B)に示すように、連続して前駆体35の軸方向Eに並ぶ。また、前駆体35の軸方向Eにおいて隣接する一方の前駆体側単位巻部350の終点351と他方の前駆体側単位巻部350の始点352は、略一致する。結果、軸方向Eにおいて隣接する前駆体側単位巻部350の形状同士は、位相差を有しない。なお、前駆体35の軸方向Eは、軸方向Aと同方向となる。
【0025】
一方、図4(B)に示すように、前駆体35がスプリングバックして螺旋体3となると、隣接する前駆体側単位巻部350A,350B,350Cは拡開するため、前駆体側単位巻部350Aに隣接する前駆体側単位巻部350Bは、前駆体側単位巻部350Aに対して回転して姿勢(位相)をずらす。同様に、前駆体側単位巻部350Bに隣接する前駆体側単位巻部350Cは、前駆体側単位巻部350Bに対して回転して姿勢(位相)をずらす。ちなみに、軸方向Aから螺旋体3を軸視した場合、前駆体側単位巻部350A,350B、350Cは拡開しているため、前駆体側単位巻部350A,350B、350C単独では、閉じた形状が構成されない。この際、軸方向Aから螺旋体3を軸視すると、前駆体側単位巻部350A(点A1、点A2、点A3、点A4、点A5を順に結んだ線)と、この次に連続する前駆体側単位巻部350Bの一部320(点A5と点A1を結んだ線)とで、閉じた巻形状が構成される。つまり、図4(C)に示すように、本実施形態では、点A1、点A2、点A3、点A4、点A5、点A1を順に結んだ線に沿った巻形状が構成され、その外径は前駆体35から頂点が一つ追加された五角形となる。この閉じた(環となる)巻形状の部分が、螺旋体3の単位巻部4Aを構成するが、その始点及び終点は、隣接する一対の前駆体側単位巻部350A,350Bが交差する点A1となる。
【0026】
同様に、図5(A)に示すように、前駆体側単位巻部350B(点B1、点B2、点B3、点B4、点B5を順に結んだ線)と、この次に連続する前駆体側単位巻部350Cの一部330(点B5と点B1を結んだ線)とで、閉じた巻形状が構成される。つまり、本実施形態では、点B1、点B2、点B3、点B4、点B5、点B1を順に結んだ線に沿った巻形状が構成され、その外径は前駆体から頂点が一つ追加された五角形となる。この閉じた(環となる)巻形状の部分が、螺旋体3の単位巻部4Bを構成するが、その始点及び終点は、隣接する一対の前駆体側単位巻部350B,350Cが交差する点B1となる。
【0027】
ここで、図5(A)において、単位巻部4A,4Bを同時に捉えると、前段の単位巻部4Aの最終辺(点A5と点A1を結んだ線)の終端(後端)側の一部(終端部分)と、後段の単位巻部4Bの開始辺(点B1と点B2を結んだ線)の始端(前端)側の一部(始端部分)が互いに重畳する。この重畳する部分である重畳部321によって両単位巻部4A,4Bが重畳する分だけ、単位巻部4A,4Bの巻形状同士は位相差θ(ただし、θ≠0度)を有することになる。
【0028】
更に同様に、図5(B)に示すように、前駆体側単位巻部350C(点C1、点C2、点C3、点C4、点C5を順に結んだ線)と、この次に連続する前駆体側単位巻部350Dの一部340(点C5と点C1を結んだ線)で、閉じた巻形状が構成される。つまり、本実施形態では、点C1、点C2、点C3、点C4、点C5、点C1を順に結んだ線に沿った単位巻部4Cが構成される。そして、隣接する一対の単位巻部4B,4Cにも、重畳部331が形成される。一対の単位巻部4B,4Cの位相差θは、単位巻部4A,4Bの位相差と一致又は近似する。
【0029】
なお、上記説明の通り、隣接する単位巻部同士の位相差は一定であることが想定されるが、これに限定されるものではなく、一定でなくてもよい。また、前駆体側単位巻部350A、前駆体側単位巻部350B及び前駆体側単位巻部350Cの巻形状が正多角形を成す際、位相差θは、正多角形の中心角α(0度<α<90度:図4(A)参照)との関係が0.1α≦θ≦0.9αを満たすように設定されることが好ましく、0.2α≦θ≦0.8αを満たすように設定されることがより望ましい。従って、本実施形態においてαが45度である場合、位相差θは、4.5度≦θ≦40.5度を満たすように設定されることが好ましく、9度≦θ≦36度を満たすように設定されることがより望ましい。
【0030】
また、本実施形態では、軸方向Aから螺旋体3を軸視した際の単位巻部4A,4Bの巻形状は、五角形状となっている。このため、単位巻部4A,4Bの巻形状は、それぞれ頂部41を有する。なお、頂部41は、単位巻部4A,4Bの頂点42及びその近傍を含む頂点42周りの領域である。図4及び図5において頂点42は、点A1、点A2、点A3、点A4、点A5、点B1、点B2、点B3、点B4、点B5、点C1、点C2、点C3、点C4、点C5に相当する。単位巻部4A,4Bの巻形状同士が位相差θを有すると、図2(A)及び図4(C)に示すように、頂部41は、螺旋体3の周方向(以下、単に、周方向と呼ぶ。)Bにずれる。そして、単位巻部4A~4Cの頂部41は、図2(B)に示すように、軸方向Aの一方側に進むに従って周方向Bの一方側(反時計回り側)にずれていく。つまり、単位巻部4A~4Cは、それぞれ隣接する単位巻部4A~4Cに対して所定角度だけ回転した姿勢となる。そして、各単位巻部4は、軸方向Aの一方側に進むに従って同方向に所定角度だけ回転した姿勢となる。
【0031】
以上のように構成されると、図2(A)に示すように、軸方向Aにおいて隣接する単位巻部4A,4Bを軸方向Aから螺旋体3を軸視した時に、単位巻部4Aは、これに隣接する単位巻部4Bの外縁43Bを基準として軸方向Aに直交する方向(以下、直交方向と呼ぶ。)の外側に凸となる凸部40A(図2(A)の2点鎖線領域参照)を有する。同様に、軸方向Aにおいて隣接する単位巻部4B,4Cを軸方向Aから螺旋体3を軸視した時に、単位巻部4Bは、これに隣接する単位巻部4Cの外縁43Cを基準として直交方向の外側に凸となる凸部40B(図2(A)の2点鎖線領域参照)を有する。更に同様に、単位巻部4Cは、これに隣接する単位巻部4Dの外縁43Dを基準として直交方向の外側に凸となる凸部40Cを有する。凸部40A~40Cは、図2(A)に示すように、単位巻部4の頂部41を含んで構成される。
【0032】
また、線状体2は、前駆体35がスプリングバックするような材料で構成される。そのような材料として、例えば、弾性域及び塑性域を有する金属全てが挙げられる。特に、金属として、X線CTでアーチファクトの起こりにくさ、及びMRIでの視認性の向上の観点からプラチナータングステン合金(Pt-W)が好ましい。
【0033】
また、特に、前駆体側単位巻部350Aが正多角形を成す時、前駆体側単位巻部350Aを成す正多角形の外接円400の半径(図4(A)参照)をRとし、正多角形の角数をnとした場合、前駆体側単位巻部350Aの中心軸30周りにおける前駆体側単位巻部350Aの外縁一周の長さAは、以下の式1を満たす。
(式1)
【0034】
また、線状体2の半径をωとした場合、前駆体側単位巻部350Aの中心軸30周りにおける前駆体側単位巻部350Aを構成する線状体2の中心線一周の長さBは、以下の式2を満たす。
(式2)
【0035】
また、前駆体側単位巻部350Aの中心軸30周りにおける前駆体側単位巻部350Aの外縁にかかるひずみ量の合計εは、以下の式3を満たす。
(式3)
【0036】
この時、前駆体側単位巻部350Aの一つの角部にかかる角部ひずみ量εは、以下の式4を満たす。
(式4)
【0037】
式4に式1及び式2を代入すると、以下の式5となる。
(式5)
【0038】
そして、式5を整理すると式6となる。
(式6)
【0039】
そして、線状体2の最大ひずみε(%)が角部ひずみ量ε(%)よりも小さいと、医療用マーカ1の製造中に線状体2がちぎれたり、医療用マーカ1の角部にクラックが発生したりする可能性がある。このため、線状体2は、線状体2の最大ひずみε(%)が角部ひずみ量ε(%)以上となる材料により構成されることが好ましい。つまり、最大ひずみε(%)及び角部ひずみ量ε(%)は、式7を満たす。
(式7)
【0040】
以上のように構成される医療用マーカ1は、周方向B及び軸方向Aに配置される複数の凸部が外周に形成される。医療用マーカ1を生体内の所望の部位に設置すると、凸部がその部位に食い込む。このため、医療用マーカ1は、その部位から容易には離れない。つまり、凸部は、医療用マーカ1を生体内の所望の部位に留置するためのアンカーとして機能する。また、隣接する単位巻部4A,4Bの巻形状同士は位相差θが一定なら、凸部は、周方向B及び軸方向Aに均一に配置されるため、医療用マーカ1を生体内の所望の部位にどのように設置しても必ず食い込ませることができる。
【0041】
なお、螺旋体3の凸部の突出量(これは、例えば、前段の単位巻部の外縁を基準とした後段の単位巻線部の径方向の最大突出量と定義できる)を小さくするには、隣接する単位巻部4の位相差θを小さくすればよい。逆に、螺旋体3の凸部の突出量を大きくするには、隣接する単位巻部4の位相差θを0.5α(α:多角形の中心角)に近づければよい。即ち、凸部のアンカー機能を十分に発揮させる観点から、上記位相差θは決定される。
【0042】
また、螺旋体3の凸部の数を多くするには、多角形の頂点の数を多くすればよい。逆に、螺旋体3の凸部の数を少なくするには、多角形の頂点の数を小さくすればよい。凸部のアンカー機能を十分に発揮させる観点から、凸部の数も決定される。
【0043】
以上のような螺旋体3の中心軸30を基準とした最大外径D(図2(A)参照)は、0.1~1.5(mm)程度が好ましい。最大外径Dが0.1(mm)以下であると、X線やMRIで認識されにくいし、最大外径Dが1.5(mm)以上であると、対応する挿入用針が太くなり、低侵襲を実現できないからである。
【0044】
また、線状体2は、断面が略円形のものでもよいし、多角形でもよい。線状体2の断面が円形である場合、線径は、0.01~0.5(mm)程度が好ましい。線径が0.01(mm)以下では、X線やMRIで認識されにくいし、線径が0.5(mm)以上では、上記最大外径Dの螺旋体3を作成することが難しいからである。
【0045】
また、軸方向Aにおける螺旋体3の長さは、3~50(mm)程度が好ましい。螺旋体3の上記長さが3(mm)以下では、X線やMRIで認識されにくいし、螺旋体3の上記長さが50(mm)以上では、大き過ぎて生体内の所望の部位に留置しにくいからである。
【0046】
また、螺旋体3のピッチは、X線やMRIで認識されやすくするため、線状体2の線径の3倍以下の大きさが好ましい。
【0047】
<第一実施形態の変形例>
本発明の第一実施形態における医療用マーカ1の変形例として、軸方向Aから螺旋体3を軸視した際の単位巻部4の巻形状が四角形のものが挙げられる。単位巻部4の巻形状が四角形の螺旋体3は、例えば、図6(A)に示すように、断面形状が三角形の柱状の芯材5と線状体2を用意する。そして、図6(B)に示すように、線状体2を芯材5に螺旋状に巻回する。この状態において、線状体2の一巻き(前駆体側単位巻部350)を三角柱状に形状付けして、螺旋体3の前駆体35を作り上げる。前駆体35は、図6(C)に示すように、軸方向Aから螺旋体3を軸視した際、三角形となる。前駆体35から芯材5を取り除くと、前駆体35は、スプリングバックして、図7(A),(B)に示すように、単位巻部4の巻形状が四角形(図7(A)の一点鎖線参照)の螺旋体3となる。
【0048】
さらに、単位巻部4の巻形状が六角形以上の多角形となる螺旋体3を製造するには、単位巻部4の巻形状に対応する多角形の角数よりも一つ少ない多角形状の断面を有する芯材5に線状体2を螺旋状に巻回すればよい。前駆体35から芯材5を取り除くと、前駆体35は、スプリングバックして、単位巻部4の巻形状が六角形以上の螺旋体3となる。
【0049】
つまり、本実施形態における医療用マーカ1は、軸方向Aから螺旋体3を軸視した際の単位巻部4の巻形状が、非正円であればよい。そして、当該非正円は、局所的に曲率が小さくなる頂領域(頂部41に対応)を有する。
【0050】
また、軸方向Aにおいて隣接する一方の単位巻部4は、他方の単位巻部4の外縁から直交方向に凸となる凸部を有する。凸部は、頂領域の少なくとも一部により構成される。単位巻部4の巻形状が五角形の場合と同様に、螺旋体3は、単位巻部4の頂領域(頂部41に対応)が螺旋体3の周方向Bにずれる。そして、単位巻部4の頂領域(頂部41に対応)は、軸方向Aの一方側に進むに従って周方向Bの一方側(反時計回り側)にずれていく。
【0051】
芯材5の断面形状を変えることにより、以上の条件を満たしつつ、様々な単位巻部4の巻形状を有する螺旋体3を製造することができる。単位巻部4の巻形状として、例えば、複数の頂領域を有する多角形又は楕円形や、頂領域を一つ有する卵形状(例えば、半分が正円弧で残部が楕円弧)等が一例として挙げられる。
【0052】
例えば、芯材5の断面形状が楕円形の柱状の芯材5を用いた場合、その芯材5に線状体2を螺旋状に巻回した後に、前駆体35をスプリングバックさせると、図8(A)に示すように、単位巻部4の巻形状の一部に拡開した楕円形状を含む螺旋体3が形成される。さらに、頂角が90度以上の二等辺三角形となる断面形状を有する柱状の芯材5を用いた場合、その芯材5に線状体2を螺旋状に巻回した後に、前駆体35をスプリングバックさせると、図8(B)に示すように、頂角が鋭い凸部40が形成される。
【0053】
単位巻部4の巻形状が五角形の場合、四角形の場合と比べて、頂部41の数が増えるため、螺旋体3の凸部の数が多くなる。さらに、単位巻部4の巻形状の角数を増やすと、螺旋体3の凸部の数がより多くなる。ただし、凸部を生体内の所望の部位に留置するためのアンカーとして機能させるには、凸部の頂角の大きさは、135度以下が好ましく、108度以下とすることがより望ましい。凸部の頂角の大きさが小さい方が生体内の所望の部位に深く食い込みやすいからである。その観点から、図9(A)に示すように、断面形状が星形の芯材5に線状体2を螺旋状に巻回した後に、前駆体35(図9(B)参照)をスプリングバックさせた螺旋体3が好ましい。このような螺旋体3なら、頂領域を増やしても、凸部の頂角の大きさを小さくすることができる。この点から、断面形状が星形等の凹多角形の芯材5を用いて製造した螺旋体の方が、断面形状が凸多角形の芯材5を用いた場合に比べてアンカー機能を高くすることができる。
【0054】
<第二実施形態>
本発明の第一実施形態における医療用マーカ1では、図10(A),(B)に示すように、軸方向Aにおける螺旋体3の端部における単位巻部(以下、端部側単位巻部と呼ぶ。)4Eの巻形状(以下、端部側巻形状と呼ぶ。)が、螺旋体3の途中における単位巻部(以下、途中側単位巻部と呼ぶ。)4Fの巻形状(以下、途中側巻形状と呼ぶ。)と異なっている。X線やMRIで、医療用マーカ1の端部及び途中の位置を容易に確認できるようにするためである。結果、医療用マーカ1の姿勢を容易に確認できる。つまり、端部側単位巻部4Eは、螺旋体3の位置及び姿勢の認識を助ける役割を有する。
【0055】
図10(A),(B)では、一端側の端部側単位巻部4Eの端部側巻形状のみが途中側単位巻部4Fの途中側巻形状と異なっているように描かれているが、(図示しない)他端側の端部側単位巻部の端部側巻形状も途中側単位巻部4Fの途中側巻形状と異なっていてもよい。また、一端側の端部側単位巻部4Eの端部側巻形状と(図示しない)他端側の端部側単位巻部の端部側巻形状が異なっていてもよい。螺旋体3の両端における端部側単位巻部の端部側巻形状が異なっていれば、X線やMRIで、医療用マーカ1の端部の位置及び姿勢をより確実に確認できる。
【0056】
また、図10(A)では、端部側単位巻部4Eの端部側巻形状は、正円となっており、途中側単位巻部4Fの途中側巻形状は、四角形(図7(A)参照)となっている。ただし、端部側単位巻部4Eの端部側巻形状は、途中側単位巻部4Fの途中側巻形状と異なっていれば、正円以外の形状であってもよい。
【0057】
医療用マーカ1の端部の位置及び姿勢を確認するため、さらに、軸方向Aにおける区間毎に、単位巻部4の巻形状が異なっていてもよい。軸方向Aにおける区間は、少なくとも2つあればよい。例えば、図11に示すように、軸方向Aにおける区間S1では、単位巻部4の巻形状が五角形(図2(A)参照)となり、軸方向Aにおける区間S1に連続する区間S2では、単位巻部4の巻形状が四角形(図7(A)参照)となるような態様が一例として挙げられる。そして、少なくとも隣接する区間では、単位巻部4の巻形状は異なっていればよく、隣接しない区間における単位巻部4の巻形状は同じでも異なっていてもよい。
【0058】
以上の医療用マーカ1の態様を、先端がコイル状のコイル部で構成されたカテーテルのコイル部に適用してもよい。この場合、カテーテルのコイル部は、以上の実施形態における医療用マーカ1の態様と同様に構成される。そして、他の樹脂製の医療部材との密着性を向上させるため、カテーテルのコイル部の表面は、所定の樹脂によりコーティングされることが好ましい。
【0059】
尚、本発明の医療用マーカ1は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 医療用マーカ
2 線状体
3 螺旋体
4,4A,4B,4C,4D 単位巻部
4E 端部側単位巻部
4F 途中側単位巻部
5 芯材
30 中心軸
35 前駆体
40,40A,40B,40C 凸部
41 頂部
42 頂点
43B,43C,43D 外縁
321,331 重畳部
350,350A,350B,350C,350D 前駆体側単位巻部
351 前駆体側単位巻部の終点
352 前駆体側単位巻部の始点
400 外接円
A,E 軸方向
B 周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11