(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】薬剤ユニットおよび車両
(51)【国際特許分類】
B60H 3/00 20060101AFI20231215BHJP
A61L 9/12 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
B60H3/00 J
A61L9/12
(21)【出願番号】P 2020173247
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005430
【氏名又は名称】株式会社ホンダアクセス
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】原田 加奈
(72)【発明者】
【氏名】堀 健吾
(72)【発明者】
【氏名】桐嶋 えりか
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-137052(JP,U)
【文献】特開2014-094619(JP,A)
【文献】特表2010-528743(JP,A)
【文献】特開2009-040502(JP,A)
【文献】特開平02-249719(JP,A)
【文献】実開平02-127515(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 3/00- 3/06
A61L 9/12
B60J 5/06
B65D 83/00
B65D 85/00
E06B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に設けられたドアの閉鎖時に互いに対向する前記車両本体側および前記ドア側の一対の対向面の間に設けられる薬剤ユニットであって、
前記ドアの閉鎖時に前記一対の対向面の間の隙間に配置されるように全体が略扁平状を呈するとともに、揮発性を有する薬剤を収容するケースを備え、
前記一対の対向面は、前記車両本体側および前記ドア側のいずれか一方の第1対向面およびいずれか他方の第2対向面であり、
前記ケースは
、
前記第1対向面に取り付けられる取付面
と、前記薬剤と前記ケースの外部空間とを連通する通路と、前記第2対向面からの押圧力により前記通路を遮断する一方、前記第2対向面からの押圧力が除去されると前記通路を開放するように構成されたシャッタ部と、を有することを特徴とする薬剤ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤ユニットにおいて、
前記ドアの閉鎖時に前記ケースを押圧するように前記第2対向面に取り付けられた押圧部材をさらに備えることを特徴とする薬剤ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薬剤ユニットにおいて、
前記薬剤が含浸されるとともに、前記ケースに収容されるシート材をさらに備えることを特徴とする薬剤ユニット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤ユニットにおいて、
前記薬剤は、芳香剤であることを特徴とする薬剤ユニット。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤ユニットにおいて、
前記薬剤は、忌避剤であることを特徴とする薬剤ユニット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤ユニットと、
開口部が形成された車両本体と、
前記開口部を開閉するように前記車両本体に設けられたドアと、を備え、
前記車両本体または前記ドアは、前記薬剤ユニットが取り付けられる被取付面を有することを特徴とする車両。
【請求項7】
請求項6に記載の車両において、
前記車両本体または前記ドアは、単一の前記ドアに対して複数の前記薬剤ユニットが取り付けられるように複数の前記被取付面を有することを特徴とする車両。
【請求項8】
請求項6または7に記載の車両において、
前記ドアは、第1ドアと、該第1ドアに隣接して配置された第2ドアとを含み、
前記車両本体は、前記第1ドアおよび前記第2ドアの閉鎖時に、前記薬剤ユニットが前記第1ドアと前記第2ドアとにそれぞれ対向するように前記被取付面を有することを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付け可能に構成された薬剤ユニットおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、車両のインストルパネル内に配置された芳香剤からの匂いを、インストルパネルの側端部に形成された開口部を介してインストルパネルの外部に放出するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置は、車両のフロントドアの閉鎖により上記開口部が閉塞されるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、インストルパネルの内部に芳香剤が配置されるため、装置の構成が大がかりなものとなり、コストの大幅な上昇を伴う。また、芳香剤の取付場所も限られてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、車両本体に設けられたドアの閉鎖時に互いに対向する車両本体側およびドア側の一対の対向面の間に設けられる薬剤ユニットであって、ドアの閉鎖時に一対の対向面の間の隙間に配置されるように全体が略扁平状を呈するとともに、揮発性を有する薬剤を収容するケースを備える。一対の対向面は、車両本体側およびドア側のいずれか一方の第1対向面およびいずれか他方の第2対向面であり、ケースは、第1対向面に取り付けられる取付面と、薬剤とケースの外部空間とを連通する通路と、第2対向面からの押圧力により通路を遮断する一方、第2対向面からの押圧力が除去されると通路を開放するように構成されたシャッタ部と、を有する。
【0006】
本発明の他の態様である車両は、上述の薬剤ユニットと、開口部が形成された車両本体と、開口部を開閉するように車両本体に設けられたドアと、を備える。車両本体またはドアは、薬剤ユニットが取り付けられる被取付面を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、持続性の高い薬剤ユニットを安価に構成することができる。さらには、薬剤ユニットの取付場所の自由度が高いため、必要な場所で効率よく揮発性薬の成分拡散が行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットが適用される車両の側面図。
【
図2】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの車両への取付例を示す図。
【
図3】
図1の車両のリアドアの閉鎖時における要部構成を示す斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの組立状態を示す斜視図。
【
図5】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの分解斜視図。
【
図6】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットを
図5の状態からさらに分解した状態を示す斜視図。
【
図7A】
図5のVII-VII線に沿った断面図であり、
図1のリアドアの開放状態に対応する図。
【
図7B】
図5のVII-VII線に沿った断面図であり、
図1のリアドアの閉鎖状態に対応する図。
【
図8A】
図5のVIII-VIII線に沿った断面図であり、
図1のリアドアの開放状態に対応する図。
【
図8B】
図5のVIII-VIII線に沿った断面図であり、
図1のリアドアの閉鎖状態に対応する図。
【
図9A】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの動作の一例を示す断面図であり、
図1のリアドアの開放状態に対応する図。
【
図9B】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの動作の一例を示す断面図であり、
図1のリアドアの閉鎖状態に対応する図。
【
図10】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの車両への他の取付例を示す図。
【
図11】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの車両へのさらに他の取付例を示す図。
【
図12】本発明の実施形態に係る薬剤ユニットの車両へのさらなる別の取付例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図12を参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る薬剤ユニットは、乗員の乗降に際して開閉される開口部、すなわちドアを有する種々の車両に適用することができる。
図1は、本実施形態に係る薬剤ユニットが適用される車両1の側面図である。なお、
図1には、車両1の前後方向、左右方向および上下方向が示される。
【0010】
図1に示すように、車両1は、車体フレーム2に開閉可能に支持された左右一対(右側のみ図示)のフロントドア3およびリアドア4を有し、前席乗員および後席乗員は、これらドア3,4を介して車両1に乗降可能である。リアドア4は、車両1の側面に沿って後方にスライド移動するスライド式ドアである。車体フレーム2は、車両1の骨格をなす骨格部材を構成する。フロントドア3とリアドア4との間には、車体フレーム2の一部であるセンターピラー5が設けられる。本実施形態に係る薬剤ユニットは、車両1の開口部の周囲の骨格部材(センターピラー5など)に、または開口部を開閉するドア3,4の周縁部に装着される。
【0011】
図2は、本実施形態に係る薬剤ユニット10の車両1への取付例を示す図であり、右側のリアドア4のフレームを車室内側から見た図である。
図2に示すように、リアドア4は、その前端部に、上下方向に延在する前端面4aを有する。前端面4aの上下方向中央部または中央部よりも上方の平坦な位置に、薬剤ユニット10が装着される。
【0012】
図3は、リアドア4の閉鎖時における車両1の要部構成を示す斜視図である。
図3に示すように、リアドア4の閉鎖状態において、リアドア4の前端面4aとセンターピラー5の後端面5aとの間には前後方向所定長さ(例えば10mm程度)の隙間CLが設けられ、この隙間CLに薬剤ユニット10が介装される。なお、隙間CLは、薬剤ユニット10の取付の有無に拘わらず予め設けられる。センターピラー5の後端面5aには、リアドア4の前端面4aに装着された薬剤ユニット10の位置に対応してクッション材15が装着される。薬剤ユニット10の前面は、リアドア4の閉鎖によりクッション材15を介して押圧される。
【0013】
薬剤ユニット10は複数の部品を組み合わせて構成される。
図4は、薬剤ユニット10の組立状態を示す斜視図であり、
図5は、薬剤ユニット10の分解斜視図である。なお、以下では、
図2の取付状態を基準として、
図3,4のように前後方向、左右方向および上下方向を定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。
図4,5に示すように、薬剤ユニット10は、後側に配置されたベース部20と、前側に配置されたカバー部30と、ベース部20とカバー部30との間に配置されたシート材11とを有する。
【0014】
図4に示すように、薬剤ユニット10は、組立状態において全体が略矩形状を呈するとともに、前後方向の長さ(厚さ)がリアドア4の前端面4aと前端面4aに対向するセンターピラー5の後端面5aとの間の隙間CLよりも薄く(例えば2~3mm程度薄く)形成される。一例を挙げると、薬剤ユニット10の厚さは5mm~10mm程度であり、左右方向と上下方向とに比べて前後方向の長さが短く、全体が略扁平形状を呈する。ベース部20とカバー部30とは、それぞれ複数の部品を組み合わせて構成される。薬剤ユニット10の各部は、それぞれ上下対称および左右対称に構成される。
【0015】
図6は、ベース部20とカバー部30とを分解した状態の薬剤ユニット10の分解斜視図である。
図6に示すように、ベース部20は、接着テープ21と、ホルダ22と、シール材23とを有する。ホルダ22は、上下方向に細長に形成された略矩形状の板部221と、板部221の前面から突設された略矩形枠形状の上下左右の隔壁222とを有し、全体が樹脂材により構成される。さらに、ホルダ22は、上側の隔壁222の上方および下側の隔壁222の下方において、板部221の前面からそれぞれ突設された左右一対の係合爪223を有する。左右の隔壁222の左右外側の側面には、上下一対の突起部225が設けられる。
【0016】
接着テープ21は、例えばその前面および後面にそれぞれ接着面(前側接着面211、後側接着面212)を有する両面テープにより構成され、接着テープ21の前側接着面211がホルダ22の後面に接着される。なお、後側接着面212はリアドア4の前端面4aに接着され(
図2)、これによりベース部20がリアドア4に固定される。シール材23は、弾力性を有するゴム材等により構成される。ホルダ22には、隔壁222の内側に略矩形状の凹部224が設けられ、シール材23は、隔壁222の前端面に貼り付けられる。
【0017】
シート材11は、例えばマットやフェルト等の不織布あるいは織布、またはスポンジなどの樹脂等により構成される。すなわち、シート材11は、薬剤を含浸可能な部材により構成される。シート材11には、揮発性の薬剤として予め芳香剤が含浸される。なお、芳香剤に代えて、害虫などの嫌う匂い成分が含まれた忌避剤が、薬剤として用いられてもよい。匂いを発生しない無臭タイプの薬剤を用いることもできる。薬剤が含浸されたシート材11は、シール材23により周囲がシールされた状態でホルダ22の凹部224に収容される。なお、以下では、芳香剤を薬剤として用いる例を説明する。
【0018】
カバー部30は、内部カバー31と、シール材32と、ばね33と、表面カバー34とを有する。内部カバー31は、ホルダ22に対応した略矩形状の板部311と、板部311の上方および下方において前方に向けて突設された左右一対の係合爪312とを有し、全体が樹脂材により構成される。板部311の上方および下方には、板部311の上下端部に連なり、板部311よりも後方において板部311と略平行に延在するフランジ部313が設けられ、係合爪312はフランジ部313の前面の左右両端部から突設される。上下のフランジ部313の左右方向中央部には、それぞれ凹状のばね受け313aが設けられる。
【0019】
板部311の左右両端部には、後方に向けて左右一対の側壁314が突設される。側壁314には、ホルダ22の突起部225に対応して上下一対の係合孔314aが設けられる。薬剤ユニット10の組立時には、側壁314の内側にホルダの隔壁222が収容されるとともに、突起部225が係合孔314aに係合される。これにより、内部カバー31がホルダ22に組み付けられる。このとき、ホルダ22の係合爪223は、内部カバー31の左右の係合爪312の内側に挿通される。内部カバー31は、側壁314を左右方向外側に押し広げることで、ホルダ22から取り外し可能である。
【0020】
板部311の前面には、そのほぼ全域にかけて正面視略矩形の凹部315が設けられる。凹部315の底面には、前方に向けて突出された上下方向複数の第1凸部316と第2凸部317とが設けられる。
図7Aは、組立状態のカバー部30の要部構成を示す図であり、
図5のVII-VII線に沿った断面図である。
【0021】
図6,
図7Aに示すように、複数の第1凸部316は、それぞれ左右方向に細長に形成されるとともに、上下方向等間隔に配置され、その先端部は板部311の表面よりも前方に突出する。第1凸部316の先端部の上下の角部は、テーパ状に形成される(
図7Aのテーパ部316a)。複数の第2凸部317は、それぞれ左右方向細長に形成されるとともに、上下方向等間隔に、かつ、第1凸部316と上下方向交互に配置される。第2凸部317の前面は、凹部315の外側の板部311の前面と同一面上ないしほぼ同一面上に位置し、第2凸部317は第1凸部316よりも突出量が小さい。複数の第2凸部317の中央部には、それぞれ左右方向細長にスリット孔318が形成される。複数のスリット孔318は、それぞれ左右方向に細長に形成される。スリット孔318の前側の上下の縁部は、テーパ状に形成される(
図7Aのテーパ部318a)。
【0022】
シール材32は、内部カバー31の凹部315に対応して全体が一定厚さの略矩形状板状を呈し、弾力性を有するゴム材等により構成される。シール材32は、板部311の前面の凹部315に収容される。シール材32の厚さ(前後方向長さ)は、凹部315の深さよりも厚く形成される。シール材32には、左右方向細長の2種類のスリット孔(第1スリット孔321、第2スリット孔322)が、それぞれ上下方向交互に複数開口される。第1スリット孔321は、第2スリット孔322よりも上下方向の開口長さが短い。
【0023】
第1スリット孔321には板部311の第1凸部316が嵌合され、これにより内部カバー31に対しシール材32が位置決めされる。シール材32の厚さは第1凸部316の突出長さよりも薄く、第1凸部316の前端部はシール材32よりも前方に突出する。第2スリット孔322には、板部311の第2凸部317が嵌合される。
【0024】
上下一対のばね33は、例えばコイルばね(圧縮コイルばね)により構成される。これらばね33は、内部カバー31の上下端部に設けられた凹状、より詳しくは円筒凹状のばね受け313aにそれぞれ配置される。
【0025】
表面カバー34は、上下方向および左右方向に延在する略矩形状の板部341と、板部341の左右側縁部から後方に延在する略矩形状の左右一対の板部342とを有し、全体が樹脂材により構成される。板部341には、内部カバー31のスリット孔318に対応して、後方に向けて突出された上下方向複数の凸部343が設けられる。凸部343の先端部の上下の角部は、スリット孔318のテーパ部318aに対応してテーパ状に形成される(
図7Aのテーパ部343a)。
【0026】
さらに板部341には、内部カバー31の複数の第1凸部316に対応して左右方向細長のスリット孔344が、上下方向複数箇所に開口される。スリット孔344の後側の上下の縁部は、第1凸部316のテーパ部316aに対応してテーパ状に形成される(
図7Aのテーパ部344a)。左右の板部342には、上下方向細長のスリット孔342aが上下方向複数箇所に上下方向等間隔に開口される。より詳しくは、スリット孔342aは、上下に並んだ上下一対のスリット孔344の間の領域にかけて形成される。換言すると、スリット孔342aの上端部と、上下に並んだスリット孔344のうち上側のスリット孔344の下端部とは、上下方向ほぼ同一位置に位置し、スリット孔342aの下端部と、上下に並んだスリット孔344のうち下側のスリット孔344の上端部とは、上下方向ほぼ同一位置に位置する。
【0027】
板部341の上端部および下端部には、それぞれ後方に向けてガイド345が突設される。ガイド345の左右両端部は板部342に連なり、表面カバー34の後面は全体が略矩形凹状に形成される。ガイド345の上下方向内側には、ばね受け313aに対応して略円柱形状のピン346が突設される。ピン346は、ばね(コイルばね)33の内部に挿入され、ばね33の位置を拘束する。
【0028】
図6に示すように、板部341には、最上部のスリット孔344よりも上方においておよび最下部のスリット孔344よりも下方において、内部カバー31の係合爪312に対応して左右一対の貫通孔347がそれぞれ開口される。
図8Aは、
図5のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図8Aに示すように、内部カバー31のフランジ部313の左右両端部から突設された係合爪312の先端部には、左右方向に段付き状に爪部312aが突設される。爪部312aは、板部342の後端部に左右方向内側に突設された段部342bに係合する。段部342bはストッパーとして機能し、爪部312aと段部342bとの係合により、ばね33の付勢力による表面カバー34の前方への移動が制限される。
【0029】
表面カバー34の貫通孔347は、表面カバー34が後方に押動されたときに爪部312aが挿通可能なように爪部312aに対応して設けられる。すなわち、表面カバー34は、リアドア4の閉鎖時にクッション材15を介して押動されるが(
図3)、そのとき爪部312aが表面カバー34に干渉しないように貫通孔347が設けられる。
【0030】
図7Aは、表面カバー34にクッション材15を介した後方への押圧力が作用していない状態、すなわちリアドア4の開放状態に対応する。この状態では、内部カバー31の板部311と表面カバー34の板部341との間に略ボックス状の空間SP0が形成され、空間SP0を介して板部311の後方空間SP1と板部341の前方空間SP2とが連通する。すなわち、カバー部30には、板部311のスリット孔318と板部341のスリット孔344,342aとによりカバー部30の内部を通過する複数の通路PA(一部を
図7Aに矢印で示す)が形成され、通路PAを介して板部311の後方空間SP1と板部341の前方空間SP2とが連通する。内部カバー31のスリット孔318と表面カバー34のスリット孔344とは、上下方向に互いに位置をずらして設けられる。このため、通路PAは、前後方向に直線状ではなく屈曲して形成される。
【0031】
図7B,
図8Bは、それぞれリアドア4の閉鎖時におけるカバー部30の動作の一例を示す断面図であり、
図7A,
図8Aに対応する図である。なお、
図7B,
図8Bでは、便宜上、ばね33の図示を省略する。
【0032】
図7Bに示すように、リアドア4の閉鎖時には表面カバー34が後方に押動され、表面カバー34の板部341の後面がシール材32の前面に当接する。このとき、テーパ部318a,343a同士が密着した状態で内部カバー31のスリット孔318に表面カバー34の凸部343が嵌合する。さらに、テーパ部344a,316a同士が密着した状態で、表面カバー34のスリット孔344に内部カバー31の第1凸部316が嵌合する。これにより、カバー部30を前後に貫通する通路PA(
図7A)が遮断され、板部311の後方空間SP1と板部341の前方空間SP2との連通が阻止される。この場合、
図8Bに示すように、係合爪312の爪部312aは、表面カバー34の前面から突出することなく、貫通孔347の内部に位置する。
【0033】
本実施形態に係る薬剤ユニット10の動作について説明する。薬剤ユニット10は、
図5に示すように、ベース部20とカバー部30とがそれぞれ一体に(例えばそれぞれ分解不能に)設けられるとともに、ベース部20にカバー部30が着脱可能に設けられる。そして、芳香剤が含浸されたシート材11(例えばアロマシート)がベース部20のホルダ22に収容された状態で、ベース部20にカバー部30が取り付けられ、薬剤ユニット10が組み立てられる。
【0034】
組立後の薬剤ユニット10を車両1に取り付ける場合には、ベース部20裏側に貼付された接着テープ21の後側接着面212を露出させ、
図2に示すようにリアドア4の前端面4aに取り付ける。さらに、
図3に示すように、薬剤ユニット10の前端面に対向するセンターピラー5の後端面5aに、クッション材15を取り付ける。クッション材15は、樹脂材やゴム材等、弾力性を有する部材により構成される板状部材であり、薬剤ユニット10の外形形状に対応して全体が略矩形状に形成される。このクッション材15の前面には、例えば両面テープが貼り付けられることにより接着面が形成され、接着面を介してセンターピラー5の後端面5aにクッション材15が接着される。
【0035】
図9A,
図9Bは、それぞれ薬剤ユニット10の動作の一例を示す要部断面図であり、
図7A,
図7Bにベース部20とシート材11とを追加した図である。したがって、内部カバー31の後方空間SP1、すなわち、内部カバー31とホルダ22との間の空間にシート材11が収容されている。なお、
図9Aは、リアドア4の開放時の動作に相当し、
図9Bは、リアドア4の閉鎖時の動作に相当する。
図9Bでは、便宜上、ばね33の図示を省略する。
【0036】
図9Aに示すように、リアドア4の開放時には、表面カバー34がばね33により前方に付勢され、内部カバー31(板部311)と表面カバー34(板部341)との間に空間SP0が形成される。このため、スリット孔318,344およびスリット孔318,342aを介して内部カバー31(板部311)の後方空間SP1から表面カバー34(板部341)の前方空間(SP2)に至る通路PA(
図7A)が開放される。
【0037】
これにより通路PAを介して
図9Aの矢印に示すように空気が流れ、シート材11の芳香剤の香りを効率よく、リアドア4の開口部である前方空間SP2に向けて拡散することができる。したがって、乗員は車両1の乗降時に芳香を感じ、乗員の快適性が向上する。特に、リアドア4の開放に伴いリアドア4の周囲に空気の流れが生じるので、シート材11を通過する空気流れを生じさせやすく、香りの拡散の効果が高い。
【0038】
本実施形態では、内部カバー31のスリット孔318および表面カバー34のスリット孔344の上下方向の位置が互いにずれて形成される。このため、リアドア4の開放時に前方空間SP2から後方空間SP1内に埃や雨滴等が浸入することを防ぐことができ、薬剤ユニット10の劣化を抑制できる。表面カバー34には、前面にスリット孔344が形成されるだけでなく左右の側面にもスリット孔342aが形成されるので、リアドア4の開放時に薬剤ユニット10の周囲の広範囲にわたって香りを拡散することができる。スリット孔344とスリット孔342aとは、上下方向の位置が互いにずれて形成されるので、表面カバー43の上下方向全長にわたって連続的にスリット孔344,342aが形成されるようになり、周囲に香りを良好に拡散することができる。
【0039】
図9Bに示すように、リアドア4の閉鎖時には、表面カバー34がシール材32に当接するとともに、表面カバー34の凸部343が内部カバー31のスリット孔318に、内部カバー31の第1凸部316が表面カバー34のスリット孔344にそれぞれ嵌合する。これにより、内部カバー31の後方空間SP1と表面カバー34の前方空間とを連通する通路PA(
図7A)が遮断され、シート材11は、密閉された後方空間SP1に配置される。このため、芳香剤の揮発を抑制することができ、リアドア4の開放時に、芳香の効果を持続的に発揮できる。また、リアドア4の閉鎖時には薬剤ユニット10が密閉されるため、砂埃や水滴等の異物が薬剤ユニット10内に混入することを抑制することができ、リアドア4の開放時に安定した芳香の効果が得られる。
【0040】
薬剤ユニット10からの香りの拡散によりシート材11が乾燥して芳香の効果が低減すると、乗員は、薬剤ユニット10のベース部20がリアドア4に接着された状態で、カバー部30を取り外し、薬剤ユニット10を分解する。これによりシート材11を交換することができ、薬剤ユニット10を持続的に使用することができる。乗員は、内部カバー31の側壁314を左右方向外側に押し広げるように操作することで、カバー部30を容易に取り外すことができ、これによりシート材11の着脱や交換が容易である。
【0041】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)薬剤ユニット10は、車体フレーム2に設けられたリアドア4の閉鎖時に互いに対向する車体フレーム2側およびリアドア4側の一対の対向面、すなわちセンターピラー5の後端面5aとリアドア4の前端面4aとの間の隙間CLに設けられる(
図3)。この薬剤ユニット10は、揮発性の薬剤(芳香剤)が含浸されたシート材11を収容するケース、すなわちベース部20とカバー部30とを備える(
図4,
図5)。薬剤ユニット10(ベース部20、カバー部30)は、リアドア4の閉鎖時にセンターピラー5の後端面5aとリアドア4の前端面4aとの間の隙間CLに配置されるように全体が略扁平状を呈する(
図4)。ベース部20は、リアドア4の前端面4aに取り付けられる後側接着面212を有する(
図6)。
【0042】
これにより、簡易な構成の薬剤ユニット10により、リアドア4の開放に伴いドア開口部付近で芳香を効果的に生じせることができる。すなわち、薬剤ユニット10の取付用のスペースを別途設けるように車両1を構成することなく、薬剤ユニット10を車両1に後付けで容易に取り付けることができる。また、リアドア4の閉鎖時にはシート材11を密閉状態にすることができ、これにより芳香剤の揮発が抑制され、長期間にわたって芳香の効果を発揮できる。
【0043】
(2)薬剤ユニット10は、リアドア4の閉鎖時にカバー部30を押圧するようにセンターピラー5の後端面5aに取り付けられたクッション材15をさらに備える(
図3)。これにより、リアドア4とセンターピラー5との間の隙間CLのばらつきに拘わらず、リアドア4の閉鎖時に薬剤ユニット10にクッション材15を介して所定の押圧力を付与することができ、薬剤ユニット10を良好に密閉状態に保つことができる。また、クッション材15は弾力性を有する部材であるので、リアドア4の閉鎖時に薬剤ユニット10とクッション材15とが当接した際の衝撃を抑えることができる。
【0044】
(3)薬剤ユニット10は、芳香剤が含浸されるとともに、ケース(ベース部20とカバー部30との間)に収容されるシート材11を備える(
図5)。これにより、時間経過に伴い芳香の効果が低減されたときにシート材11を交換することで、芳香の効果を再び発揮することができる。すなわち、単にシート材11を交換するだけの安価な構成で、芳香の効果を持続できる。なお、シート材11を交換する代わりに、シート材11に追加的に芳香剤を含浸させることによっても、芳香の効果を持続できる。また、シート材11は簡素な形状であるため、取り扱いが容易であり、シート材11の交換作業等を容易に行うことができる。さらに、シート材11を用いることで、薬剤ユニット10を全体的に薄く形成することができ、リアドア4とセンターピラー5との間の限られた隙間CLに、薬剤ユニット10を容易に配置できる。
【0045】
(4)カバー部30は、薬剤(芳香剤)が収容されるカバー部30の後方空間SP1とカバー部30の前方空間SP2とを連通する通路PAを有する(
図7A)。カバー部30の表面カバー34は内部カバー31に対して前後方向に移動可能に設けられる。薬剤ユニット10は、クッション材15からの押圧力により表面カバー34が後方に押動されると、通路PAを遮断する一方、クッション材15からの押圧力が除去されてばね33により表面カバー34が前方に押動されると通路PAを開放するように構成される(
図7A,
図7B)。すなわち、表面カバー34の前後方向の移動に伴い、カバー部30のスリット孔318,344が閉鎖または開放され、通路PAが閉鎖または開放される。これにより、香り成分を長期間にわたってシート材11に保つことができ、芳香の効果を持続して発揮できる、
【0046】
(5)薬剤ユニット10の内部の薬剤として、芳香剤が用いられる。これにより、車両1の乗降時に、乗員が香りを感じるようになり、乗員の快適性が向上する。
【0047】
(6)薬剤ユニット10の内部の薬剤を忌避剤とすることもできる。これにより、リアドア4を介して車内に虫類などが入り込むことを抑制できる。
【0048】
(7)本実施形態に係る車両1は、薬剤ユニット10と、リアドア4の開口部が形成された車体フレーム2と、開口部を開閉するように車体フレーム2に設けられたリアドア4と、を備える(
図1~3)。リアドア4は、薬剤ユニット10が取り付けられる被取付面として前端面4aを有する(
図3)。このように薬剤ユニット10がリアドア4に取り付けられることで、乗員の動線上に効率よく匂いを拡散することができる。
【0049】
本実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、スライド式のリアドア4の前端面4aに薬剤ユニット10を取り付けるようにしたが、リアドア4の他の位置あるいはリアドア4以外に取り付けるようにしてもよく、薬剤ユニット10の取付位置は上述したものに限らない。
図10は、薬剤ユニット10を運転席側のフロントドア3に取り付けた例を示す斜視図である。
図10の例では、フロントドア3の上端面に、薬剤ユニット10の長手方向が前後方向となるように薬剤ユニット10が略水平姿勢で取り付けられる。図示は省略するが、リアドアを、ヒンジ部を支点にして回動可能なヒンジ式のリアドアとして構成し、リアドアの後端部とCピラーとの間に薬剤ユニット10を配置するようにしてもよい。
【0050】
薬剤ユニット10を、ドア側ではなく車両本体側(車体フレーム2側)に取り付けるようにしてもよい。例えばセンターピラー5の後端面5aに薬剤ユニット10を取り付け、リアドア4の前端面4aにクッション材15を取り付けるようにしてもよい。すなわち、互いに対向する一対の対向面(前端面4a,後端面5a)のうち、薬剤ユニット10が取り付けられる被取付面である第1対向面およびクッション材15が取り付けられる第2対向面は、ドア側および車両本体側のいずれであってもよい。車両本体側に薬剤ユニット10が取り付けられれば、車内の乗員に対し効率よく香りを拡散することができる。一方、ドア側に薬剤ユニットが取り付けられれば、車両本体から離れた場所で香りを拡散することができる。
【0051】
上記実施形態では、リアドア4に後側接着面212(取付面)を介して単一の薬剤ユニット10を取り付けるようにした。すなわち、単一のドアに対し単一の薬剤ユニット10を取り付けるようにしたが、単一のドアに対し複数の薬剤ユニット10をドア側および車両本体側の少なくとも一方に取り付けるようにしてもよい。
図11は、その一例を示す車両1の斜視図である。
図11では、上端部を支点にして上下方向に回動可能に設けられたバックドア6に対し複数の薬剤ユニット10が取り付けられる。すなわち、バックドア6の下端部と、バックドア6の周縁部に対向する車体フレーム2の開口部の外側(右側、左側、下側)とに、それぞれ薬剤ユニット10が取り付けられる。これにより、広範囲にわたって香りを拡散することができる。一部の香り成分がなくなった場合には、他の香り成分により、香りの効果を維持できる。
【0052】
単一のドアに対し複数の薬剤ユニットを取り付けることに代えて、複数のドアに対し単一の薬剤ユニットを取り付けるようにしてもよい。
図12は、その一例を概略的に示すセンターピラー5の一部の正面図、より詳しくはセンターピラー5の上下方向中央部近傍の正面図である。
図12では、センターピラー5の前後方向中央部における軸線CL1、すなわち図示しない前側ドア(第1ドア)と後側ドア(第2ドア)との境界線である軸線CL1をまたいで、センターピラー5に薬剤ユニット10Aが取り付けられる。したがって、薬剤ユニット10Aは幅広に構成され、前後のドアの閉鎖時には、薬剤ユニット10Aの前側が前側ドアにより押圧され、薬剤ユニット10Aの後側が後側ドアにより押圧される。これにより、薬剤ユニット10Aの個数を節約することができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、ドア閉鎖時にクッション材15を介して薬剤ユニット10を押圧するようにしたが、押圧部材の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、ベース部20とカバー部30との間にシート材11を収容するようにしたが、ケース内に揮発性を有する薬剤が収容されるのであれば、シート材以外を用いてもよい。上記実施形態では、ベース部20とカバー部30とによりケースを構成したが、ケースの構成はこれに限らない。上記実施形態では、スリット孔318,344に第1凸部316および凸部343を嵌合して、シート材11と前方空間SP2(外部空間)とを連通する通路PAを閉鎖するようにしたが、シャッタ部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、芳香剤を薬剤として用いたが、忌避剤を薬剤として用いてもよい。忌避剤は匂いを生じないものであってもよい。芳香剤や忌避剤に代えて、揮発性を有する他の薬剤を用いてもよい。例えば、揮発性を有する無臭タイプの種々の薬剤を用いてもよい。
【0054】
芳香剤を薬剤として用いる場合、例えば
図2で示されるような位置に薬剤ユニット10を設置すると、リアドア4から乗降する人の顔上半身近傍に薬剤ユニット10を位置させることができる。これにより、香りを効率よく届けることができる。一方、忌避剤を薬剤として用いる場合、例えば
図11で示されるようなバックドア6の周縁部に薬剤ユニット10を設置すると、バックドア6を開いた状態では車両の後方の高い位置に薬剤ユニット10を位置させることができる。これにより、忌避剤の効果を広範囲に広げることができる。なお、
図11に示すように単一のドアに複数の薬剤ユニット10を設置する場合、芳香剤を有する薬剤ユニットと忌避剤を有する薬剤ユニットとを、それぞれ設置するようにしてもよい。これにより、芳香剤による効果と忌避剤による効果を同時に得ることができる。
【0055】
上記実施形態では、リアドア4と車体フレーム2の一部であるセンターピラー5との間に、薬剤ユニット10を設けるようにしたが、例えばドア開口部に面した樹脂材(インストルメントパネルの左右側端面など)とドアとの間に、薬剤ユニットを設けるようにしてもよい。すなわち、薬剤ユニットは、車体フレーム2以外の車両本体とドアとの間に設けられてもよい。
【0056】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両、2 車体フレーム、4 リアドア、4a 前端面、5 センターピラー、5a 後端面、10,10A 薬剤ユニット、11 シート材、15 クッション材、20 ベース部、30 カバー部、212 後側接着面、PA 通路、SP2 前方空間