(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の電極組成物及びその作製方法、電極及びそれを備える電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231215BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20231215BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20231215BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20231215BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231215BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231215BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/66 A
H01M10/0525
H01M10/0566
H01M4/139
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/1391
H01M4/1393
C08L23/26
C08K3/01
(21)【出願番号】P 2020519980
(86)(22)【出願日】2018-10-08
(86)【国際出願番号】 FR2018052482
(87)【国際公開番号】W WO2019073160
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-04
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン マルク
(72)【発明者】
【氏名】アスタフィエヴァ クセニア
(72)【発明者】
【氏名】クールタ ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥーセ キャプシーヌ
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-063676(JP,A)
【文献】特開2014-029835(JP,A)
【文献】特開2015-151402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/0525、10/0566
C08L23/26
C08K3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池に使用可能な電極組成物であって、該組成物は、前記電極においてリチウムの可逆的な挿入/脱離を行うことができる活物質と、導電性フィラーと、少なくとも1つの変性ポリオレフィンを含むポリマーバインダーとを含み、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィン(If1、If2)が、非極性脂肪族ポリオレフィンから誘導され、CO及びOHの含酸素基を含み、境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の質量含量を有し
前記CO及びOHの含酸素基は、1712cm
-1でのC=O結合、1163cm
-1でのC
-O結合及び3400cm
-1での-OH結合を含む波数の決定バンドで、減衰全反射モードのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって検出されるC=O結合、C-O結合及び-OH結合を含む、電極組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの変性ポリオレフィン(If1、If2)は、境界値を含めて3%から7%の間の酸素原子の質量含量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記C=O結合は、カルボン酸官能基及びケトン官能基を含むカルボニル基を規定する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記カルボニル基は、更にエステル官能基を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、脂肪族オレフィンのホモポリマー、少なくとも2つの脂肪族オレフィンのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、以下の種類:
熱可塑性、又は、
エラストマー性、
の脂肪族モノオレフィンの線状又は分岐状の非ハロゲン化ホモポリマーである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、以下の種類:
熱可塑性、又は、
エラストマー性、
の2つの脂肪族モノオレフィンの線状又は分岐状の非ハロゲン化コポリマーである、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、50%を超えるエチレンから誘導される単位の質量含量を有し、例えば、エチレン及び1-オクテンのコポリマー、及び/又はEPDMである、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリマーバインダーは架橋されておらず、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィン(If1、If2)からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、
85%を超える質量割合で、前記電極がアノードである場合にリチウムイオン電池グレードの黒鉛を含む前記活物質、又は前記電極がカソードである場合に、リチウム化された遷移金属酸化物を含む前記活物質と、
5%未満の質量割合での前記ポリマーバインダーと、
1%から8%の間の質量割合でのカーボンブラック、膨張黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの混合物からなる群から選択される前記導電性フィラーと、
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
リチウムイオン電池のアノード又はカソードを形成することができる電極であって、前記電極は、
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物からなり、少なくとも50μmと等しい厚さを有する被膜と、
前記被膜と接触している金属集電体と、
を含むことを特徴とする、電極。
【請求項12】
前記電極は、該電極を備えるリチウムイオン電池に60%を超える初回充放電サイクル効率を与えることができ、前記初回充放電サイクルは、C/5のレジームで、前記アノードの場合は1Vから10mVの間で、そして前記カソードの場合は4.3Vから2.5Vの間で行われる、請求項11に記載の電極。
【請求項13】
前記電極は、該電極を備えるリチウムイオン電池に75%を超える前記初回充放電サイクル効率を与えることができる、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
前記電極は、前記活物質のためにリチウムイオン電池グレードの黒鉛を含むアノードであり、該電極を備えるリチウムイオン電池に、1Vから10mVの間で行われるサイクルについて、
85%を超える前記初回充放電サイクル効率、及び/又は、
電極1g当たり250mAhを超えるC/5のレジームでの容量、及び/又は、
95%以上、例えば100%の初回サイクルに対する20回のサイクル後のC/5のレジームでの容量の維持率、
を与えることができる、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記電極は、前記活物質のために、リチウム化された遷移金属酸化物を含むカソードであり、前記電極は、該電極を備えるリチウムイオン電池に、4.3Vから2.5Vの間で行われるサイクルについて、
77%以上の前記初回充放電サイクル効率、及び/又は、
電極1g当たり125mAhを超えるC/5のレジームでの容量、及び/又は、
電極1g当たり115mAhを超えるC/2のレジームでの容量、及び/又は、
20回のサイクル後の95%以上、例えば100%の初回サイクルに対するC/2での容量の維持率、及び/又は、
電極1g当たり105mAhを超えるCのレジームでの容量、
を与えることができる、請求項13に記載の電極。
【請求項16】
アノードと、カソードと、リチウム塩及び非水性溶剤を基礎とする電解質とを含む少なくとも1つのセルを備えるリチウムイオン電池であって、前記アノード及び/又は前記カソードは、それぞれ請求項11~15のいずれか一項に記載の電極からなることを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を作製する方法であって、連続的に、a)前記活物質と、少なくとも1つの前記非極性脂肪族ポリオレフィンと、前記導電性フィラーとを含む組成物の成分を混合することで、前記組成物の前駆体混合物を得ることと、b)前記前駆体混合物を金属集電体上に被膜形で堆積させることと、次いで、
c)10
4Paを超える酸素分圧で酸素を含む雰囲気下で、かつ200℃から300℃の間の酸化温度で、前記被膜を熱的酸化反応させるが、前記熱的酸化反応を、得られた組成物において、CO及びOHの含酸素基で変性された前記少なくとも1つのポリオレフィン(If1、If2)中の酸素原子の前記質量含量が境界値を含めて2%から10%の間であるように制御することと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項18】
以下:
液体ルートにより溶剤中に溶解又は分散された前記成分をミル粉砕する工程a)と、
工程b)に従って前記溶剤を蒸発除去した後に、前記酸化温度で前記被膜を制御してアニーリングすることによる工程c)と、
を実施する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
以下:
溶融物ルートを介して溶剤の蒸発によらずに、前記前駆体混合物中に存在する極性犠牲ポリマー相も含む前記成分を混合することにより、前記非極性脂肪族ポリオレフィン及び前記極性犠牲相が、前記混合後に前記前駆体混合物中に2つの分離相を形成する工程a)と、
出発温度から制御して温度増加させた後に、前記酸化温度で等温にすることで、前記極性犠牲ポリマー相を熱分解により少なくとも部分的に除去する工程c)と、
を実施する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記極性犠牲ポリマー相は、
50%を超える前記相中の質量割合で、500から5000の間の重量平均分子量を有するポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと、 50%未満の前記相中の質量割合で、20000から400000の間の重量平均分子量を有するポリ(アルケンカーボネート)と、を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に使用可能な電極組成物、この組成物の作製方法、そのような電極及びセル又は各セルがこの電極を備えるリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池には、負極がリチウム金属(液体電解質の存在下で安全性の問題を招く材料)から構成されるリチウム金属電池と、リチウムがイオン形に留まるリチウムイオン電池との主要な2種類が存在する。
【0003】
リチウムイオン電池は、極性の異なる少なくとも2つの伝導性ファラデー電極、すなわち負極又はアノード及び正極又はカソードからなり、それらの電極の間には、イオン伝導性を保証するLi+カチオンに基づく非プロトン性電解質に浸された電気絶縁体を構成するセパレーターが存在する。これらのリチウムイオン電池に使用される電解質は、通常、例えば、式LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3又はLiClO4のリチウム塩からなり、そのリチウム塩は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、又は通常は炭酸エステル、例えばエチレンカーボネート若しくはプロピレンカーボネート等の非水性溶剤の混合物中に溶解されている。
【0004】
リチウムイオン電池は、電池の充放電の間にアノードとカソードとの間でリチウムイオンが可逆的に交換されることに基づき、リチウムの物理的特性により、非常に低い質量に対して高いエネルギー密度を有している。
【0005】
リチウムイオン電池のアノードの活物質は、リチウムの可逆的な挿入/脱離のサイトとなるように設計されており、典型的には黒鉛(370mAh/gの理論容量及びLi+/Li対に対する0.05Vの酸化還元電位)又は別形として、例えば式Li4Ti5O12のリチウムチタン酸化物を含む混合金属酸化物から形成される。カソードの活物質に関しては、活物質は、通常、遷移金属酸化物又はリチウム鉄リン酸塩から形成される。したがって、これらの活物質は、電極へのリチウムの可逆的な挿入/脱離を可能にし、それらの質量割合が高いほど、電極の容量は大きくなる。
【0006】
これらの電極はまた、カーボンブラック等の導電性化合物と、十分な機械的凝集力を与えるためにポリマーバインダーとを含有せねばならない。
【0007】
リチウムイオン電池の電極は、通常、電極の成分を溶剤中に溶解又は分散させる工程と、得られた溶液又は分散液を金属集電体上に塗布する工程と、次いで最後に溶剤を蒸発除去する工程とを連続的に含む液体ルートの方法を介して製造される。有機溶剤を使用する方法(例えば、特許文献1に示される方法)は、特に、毒性又は可燃性のこれらの多量の溶剤を蒸発させる必要があるため、環境及び安全性の分野において不利点を有する。水性溶剤を使用する方法に関しては、それらの主な不利点は、電極を使用可能となる前に非常に徹底的に乾燥させねばならないことであり、その際、微量の水によりリチウム電池の有効耐用年数が限定される。水性溶剤を使用して黒鉛及びエラストマーバインダーを基礎とするアノードを製造する方法の記載については、例えば、特許文献2を挙げることができる。
【0008】
したがって、過去には、溶剤を使用せずに、特に溶融物ルートの実施技術(例えば、押出による)を介して、リチウムイオン電池の電極を製造することが求められてきた。残念ながら、これらの溶融物ルートの方法は、電池内でアノードが十分な容量を有するのにアノードのポリマーブレンド中に85%を超える活物質の質量割合を必要とするこれらの電池の場合には大きな問題を引き起こす。ここで、そのような活物質の含量では、混合物の粘度が非常に高くなることから、混合物の過熱及びその実施後の機械的凝集力の損失のリスクを伴う。特許文献3は、電極活物質と導電体並びにポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)又はポリビニルピロリドン(PVP)等のポリマーバインダー、リチウム塩及びこのポリマーに対して大過剰のプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート混合物を含む固体電解質組成物とを混合することを含む、リチウムポリマー電池の電極の押出による連続的作製方法を表す。上記文献では、得られたアノードのポリマー組成物に存在する活物質の質量割合は70%未満であり、それはリチウムイオン電池には明らかに不十分である。
【0009】
特許文献4は、その例示的な実施の形態において、カソード組成物を摩擦により集電体上に堆積させることによりリチウムイオン電池のカソード組成物を作製するための実質的に無溶剤の方法において、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる極性脂肪族ポリオレフィンをバインダーとして使用することを教示している。上記文献は、PVDF又はテトラフルオロエチレンポリマー等のフッ素化ポリオレフィンに加えて、エチレン、プロピレン又はブチレンから作製されたポリオレフィン等の非変性ポリオレフィンの使用が可能であることについて言及している。
【0010】
特許文献5は、多軸スクリュー押出機中で溶剤を用いずに作製されるリチウムイオン電池の電極組成物において、バインダーとして、エチレンオキシド-プロピレンオキシド-アリルグリシジルエーテルコポリマー等のアルケンオキシドの極性ポリマーを、任意にPVDF、PAN、PVP、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)又はエマルジョン中で作製されたスチレン-ブタジエンコポリマー(SBR)等のイオン非伝導性ポリマーと組み合わせて含むイオン伝導性ポリエーテルを使用することを教示している。上記文献の唯一の例示的な実施の形態では、電極組成物に存在する活物質の質量割合はたったの64.5%であり、それはリチウムイオン電池のためには明らかに不十分である。
【0011】
特許文献6は、エチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール又はポリアルケンカーボネート等の犠牲ポリマーの熱分解による湿式経路又は乾式経路を介して作製されるリチウムイオン電池の電極組成物におけるバインダーとしての熱可塑性ポリマーの使用を教示している。この分解は、アノード組成物の場合は不活性な雰囲気下(すなわち、非酸化的雰囲気、例えばアルゴン下)で、カソード組成物の場合は不活性又は酸化性のいずれかの雰囲気下(例えば、空気中)で行われる。上記文献は、所与の活物質及び所与のバインダーを用いてアノード組成物又はカソード組成物を作製する例を一切含まないことから、したがって変性されておらず、ポリエチレン、ポリプロピレン及びフッ化ポリオレフィン、例えばPVDF又はPTFEから選択され得るバインダー等の該組成物の他の成分を分解しないように、不活性又は酸化性の雰囲気下という犠牲ポリマーの分解条件を厳格に制御することを指摘しているにすぎない。
【0012】
本出願人の名義の特許文献7は、85質量%を超える活物質と、水素化ニトリルゴム(HNBR)等の架橋ジエンエラストマーから形成されたポリマーバインダーと、電池の電解質溶剤に使用可能な不揮発性有機化合物とを含むリチウムイオン電池のアノード組成物の溶剤の蒸発によらない溶融物ルートの作製を教示している。
【0013】
これまた本出願人の名義の特許文献8は、犠牲ポリマー相を使用するが、これを活物質、この相と相溶性であるように選択されたポリマーバインダー及び伝導性フィラーと混合して前駆体混合物を得ることで使用して、溶融物ルートを介して溶剤の蒸発によらずに作製されたリチウムイオン電池の電極組成物であって、後にそれを除去することで、上記組成物に使用可能な活物質の質量割合が80%を超えるにもかかわらず、溶融混合物の実施の間に可塑性及び流動性の改善が得られる、リチウムイオン電池の電極組成物を表す。上記文献では、その例示的な実施の形態において、成分の混合後に相のマクロ分離(macroseparation)を避け、前駆体混合物の炉内での空気下で熱処理による犠牲相の分解により得られる組成物の実現、集結性及び多孔性を制御するために、HNBR又はエチレン-エチルアクリレートコポリマーである極性エラストマーから誘導されるバインダーを、それ自身も極性でありポリアルケンカーボネートである犠牲相との相溶性のために使用することが推奨される。上記文献は、別形として、その他のバインダー形成ポリマーを使用可能であることについて言及しているが、それらのポリマーは選択された犠牲相と相溶性であり、こうして上記相が前駆体混合物中で連続的であり、その中でバインダーは分散相又は連続相として見られることを条件としており、その際、これらのその他のポリマーは、おそらく広義のポリオレフィン及びポリイソプレン等のエラストマーから選択される。したがって、バインダーと犠牲相との間のこの相溶性の制約により、前駆体混合物中に2つの分離相を有することを避けるために、犠牲相と同様の極性を有するバインダーを使用することが課せられる。
【0014】
これらの最後の2つの文献に示されている電極組成物は、全体としてリチウムイオン電池のために十分であるが、本出願人は、その最近の研究過程で、その電気化学的特性、特に初回充放電サイクルの間のその可逆性、特にC/5及びC/2のレジームでのそれらの容量並びに20回のサイクル後のそれらの容量の維持率を更に改善することを探求した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願公開第2010/0112441号
【文献】欧州特許第1489673号
【文献】米国特許第5749927号
【文献】国際公開第2013/090487号
【文献】米国特許第6939383号
【文献】米国特許第7820328号
【文献】欧州特許第2639860号
【文献】国際公開第2015/124835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の1つの目的は、85質量%を超える活物質を含む新規のリチウムイオン電池の電極組成物であって、溶融物ルートの実施に特に適しており、溶剤を用いずに、犠牲相と相溶性であるバインダーを選択することなく、同時に初回充放電サイクルで電極に可逆性の増大を与えることができ、そして容量及びサイクル性(すなわち、複数サイクル後の容量の維持)の両方が改善される、リチウムイオン電池の電極組成物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、この活物質及び導電性フィラーを、非極性脂肪族ポリオレフィンから誘導され、含酸素基CO及びOHを含み、境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の質量含量を有するポリマーバインダーとしての変性ポリオレフィンと混合すると、特に、溶融物ルートを介して溶剤の蒸発によらずに、これらの改善された電気化学的性能品質を有するリチウムイオン電池の電極組成物を得ることが可能であり、それと同時に、極性の犠牲ポリマー相、例えばアルケンカーボネートポリマーを使用することで、その分解の前にこのバインダーと2つの分離相が形成されることを本出願人が明らかにしたことにより、上記目的が達成される。
【0018】
したがって、バインダーのために非極性出発ポリマーが使用され、該ポリマーは、極性犠牲相と非相溶性であるとともに、電池のために使用されるこれまた極性である電解質とも非相溶性であり、この出発ポリマーは、特に非極性脂肪族ポリオレフィン(すなわち、ポリオレフィンのファミリーにおいて芳香族ポリオレフィン及び極性ポリオレフィンを除く)であり、上記非極性出発ポリマーは、その変性ポリオレフィンがその酸素の質量含量について上述の限定された範囲を含むようにこれらの含酸素基を加えることにより、犠牲相の除去後に得られる組成物において非常に特異的かつ制御された様式で変性されることから、本発明は、上述の文献の特許文献8の教示に反するものである。
【0019】
すなわち、本発明による電極組成物は、リチウムイオン電池に使用可能であり、該組成物は、前記電極においてリチウムの可逆的な挿入/脱離を行うことができる活物質と、導電性フィラーと、少なくとも1つの変性ポリオレフィンを含むポリマーバインダーとを含み、この組成物は、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィンが、非極性脂肪族ポリオレフィンから誘導され、CO及びOHの含酸素基を含み、境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の質量含量を有するものである。
【0020】
これらの含酸素基と2%~10%のこの酸素の質量含量(例えば、元素分析によって測定された質量/質量含量)との組み合わせは、これらの基で官能化された上記少なくとも1つの変性ポリオレフィンが、出発非極性脂肪族ポリオレフィンより極性であり、同時にこの官能化により全体的に非極性に留まり(すなわち、僅かに極性)、変性ポリオレフィンの鎖中のその含量が、初回サイクルでの可逆性、C/5のレジームでの容量及び電極のサイクル性(すなわち、その容量の維持)を含む目標とする電気化学的特性を得るために十分である(すなわち、少なくとも2%の酸素の質量含量)が、高すぎない(すなわち、10%以下の酸素の質量含量)ように制御されることにより反映されることに留意する。
【0021】
具体的には、本出願人は、比較試験の間に、非極性脂肪族ポリオレフィンの不十分な官能化(すなわち、上記質量含量が2%未満であり、例えばゼロであり、この場合に非極性ポリオレフィンは変性されていない)又は過剰の官能化(すなわち、上記質量含量が10%を超える)により、特に本出願には両者とも不十分である初回充放電サイクルでの効率及びC/5のレジームでの容量に関して、リチウムイオン電池の電極のために不十分な電気化学的特性がもたらされることを立証した。
【0022】
また、有利には、非極性脂肪族ポリオレフィンのこの特別な官能化により、それを特徴付ける上記基及びこれらの基による官能化の程度の両方に関して、溶融物ルートの方法で、そして予想外にも上述の文献の特許文献8の教示に鑑みて、このバインダーを形成する非極性脂肪族ポリオレフィンを、それに対して極性(例えば、少なくとも1つのアルケンカーボネートポリマーに基づく)であるため、この出発非極性ポリオレフィンと非相溶性である犠牲ポリマー相と組み合わせることが可能となることに留意する。
【0023】
また、非極性脂肪族ポリオレフィンのこの特別な官能化により、それを従来の液体ルートの方法でバインダーとして使用することも可能となることに留意する。
【0024】
好ましくは、上記少なくとも1つの変性ポリオレフィンは、境界値を含めて3%から7%の間の酸素原子の質量含量を有する。
【0025】
有利には、前記含酸素基CO及びOHは、
好ましくはカルボン酸官能基、ケトン官能基及び任意にまたエステル官能基を含むカルボニル基と、
アルデヒド基と、
アルコール基と、
を規定するC=O結合、C-O結合及び-OH結合を含むことができる。
【0026】
「ポリオレフィン」という用語は、本明細書では、既知のように、少なくとも1つのアルケンから及び任意にアルケン以外のコモノマーからも誘導される脂肪族又は芳香族のホモポリマー型ポリマー又はコポリマー型ポリマー(「コポリマー」は定義によりターポリマーを含む)を意味する。
【0027】
「脂肪族ポリオレフィン」という用語は、線状又は分岐状であり得る非芳香族炭化水素ベースのポリオレフィンであって、したがって、特にアルケンオキシド、アルケンカーボネートのポリマー並びにビニル芳香族モノマー、例えばスチレンから誘導されるホモポリマー及びコポリマーを除く、ポリオレフィンを意味する。
【0028】
本発明により使用可能な非極性脂肪族ポリオレフィンは、極性官能基を有するポリオレフィン、例えばハロゲン化ポリオレフィン、例えばポリフッ化ビニリデン又はポリ塩化ビニリデン(PVDF又はPVDC)、ポリヘキサフルオロプロピレン及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を除くことに留意する。
【0029】
本発明の別の特徴によれば、前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、脂肪族オレフィンのホモポリマー、少なくとも2つの脂肪族オレフィンのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0030】
上記非極性脂肪族ポリオレフィンは、以下の種類:
好ましくはポリエチレン(例えば、それぞれ低密度又は高密度、LDPE又はHDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(1-ブテン)及びポリメチルペンテンから選択される熱可塑性、又は、
好ましくはポリイソブチレンから選択されるエラストマー性、
の脂肪族モノオレフィンの線状又は分岐状の非ハロゲン化ホモポリマーであり得る。
【0031】
別形としては、上記非極性脂肪族ポリオレフィンは、以下の種類:
好ましくはエチレン-オクテンコポリマー(例えば、非限定的な目的のために、Elite(商標)5230Gの名称)、エチレン-ブテンコポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー及びエチレン-ブテン-ヘキセンコポリマーから選択される熱可塑性、又は、
好ましくはエチレン及びα-オレフィンのコポリマー、例えばエチレン-プロピレンコポリマー(EPM)及びエチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)から選択されるエラストマー性、
の2つの脂肪族モノオレフィンの線状又は分岐状の非ハロゲン化コポリマーであり得る。非限定的な目的のために挙げることができる例には、Vistalon(商標)8600(Exxon Mobil社)又はNordel IP 5565(Dow社)の名称のEPDMが含まれる。
【0032】
有利には、上記非極性脂肪族ポリオレフィンは、50%を超えるエチレンから誘導される単位の質量含量を有していてもよく、例えば、大部分のエチレン及び少量の1-オクテンから誘導されるコポリマー、及び/又はEPDMである。
【0033】
これらの非極性脂肪族ポリオレフィン、例えばEPDM又はポリエチレンは、特に従来技術において溶融物ルートで使用されるHNBR及びエチレン-エチルアクリレートコポリマーと比較して廉価であるという利点を有することに留意する。
【0034】
本発明の別の態様によれば、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィンは、104Pa(0.1バール)を超える酸素分圧で酸素を含む雰囲気下及び200℃から300℃の間の酸化温度での、前記非極性脂肪族ポリオレフィンと前記雰囲気の酸素との制御された熱的酸化反応の生成物であり得て、前記熱的酸化反応は、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィン中の酸素原子の前記質量含量が境界値を含めて2%から10%の間であるように制御される。
【0035】
本発明の第1の好ましい実施の形態によれば、組成物は、溶融物ルートを介して溶剤の蒸発によらずに得られ、極性犠牲ポリマー相と、上記活物質と、上記導電性フィラーと、上記非極性脂肪族ポリオレフィンとを含む前駆体混合物に適用される上記熱的酸化の生成物であり、そのため、上記極性犠牲ポリマー相及び上記非極性脂肪族ポリオレフィンが前駆体混合物中で2つの分離相を形成し、その熱的酸化により上記極性犠牲ポリマー相が分解され、上記非極性脂肪族ポリオレフィンのみが酸化されることで、上記反応を介して含酸素基を有するバインダーが生成される。
【0036】
上記組成物の前駆体混合物は、バインダーが犠牲ポリマー連続相中に又はこの相と共連続的に分散された上述の文献の特許文献8から知られるものとは異なることに留意する。
【0037】
また、この第1の方式で使用可能な上記極性犠牲ポリマー相は、好ましくは、アルケンカーボネートの少なくとも1つのポリマーを含み、最終的に得られる組成物中に残留形及び分解形で存在し得ることに留意する。
【0038】
本発明の第2の実施の形態によれば、組成物は、液体ルートを介して得られ、前記熱的酸化反応の前に蒸発除去される溶剤中に溶解又は分散される、前記活物質と、前記導電性フィラーと、前記非極性脂肪族ポリオレフィンとを含む前駆体混合物に適用される前記熱的酸化の生成物である。
【0039】
本発明の別の好ましい特徴によれば、前記ポリマーバインダーは架橋されておらず、前記少なくとも1つの変性ポリオレフィンからなり得る。
【0040】
本発明の別の特徴によれば、上記組成物は、
85%を超える、好ましくは90%以上の質量割合で、上記電極がアノードである場合にリチウムイオン電池グレードの黒鉛を含む上記活物質(この黒鉛は、例えばTimcal社製の人造黒鉛C-Nergy(商標)Lシリーズ又はTargray社製のPGPT100、PGPG200若しくはPGPT202シリーズからの人造黒鉛である)又は上記電極がカソードである場合に、好ましくはリチウム化されたニッケル、マンガン及びコバルト(NMC)酸化物の合金並びにリチウム化されたニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)酸化物の合金からなる群から選択されるリチウム化された遷移金属酸化物の合金を含む上記活物質と、
5%未満、好ましくは2%から4%の間の質量割合での上記ポリマーバインダーと、
1%から8%の間の、好ましくは3%から7%の間の質量割合での、カーボンブラック、特に高純度のカーボンブラック、膨張黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの混合物からなる群から選択される上記導電性フィラーと、
を含み得る。
【0041】
電極組成物中の上記活物質の85%を超えるこの質量割合は、該電極組成物を備えるリチウムイオン電池に高い性能を与えることに寄与することに留意する。
【0042】
また、本発明による電極組成物中に、その製造方法を改善又は最適化するために1種以上の他の特定の添加剤を導入することが可能であることに留意する。
【0043】
上記定義の電極組成物を作製するための本発明による方法は、連続的に、
a)上記活物質と、少なくとも1つの上記非極性脂肪族ポリオレフィンと、上記導電性フィラーとを含む組成物の成分を混合することで、上記組成物の前駆体混合物を得ることと、
b)上記前駆体混合物を金属集電体上に被膜形で堆積させることと、次いで、
c)104Paを超える酸素分圧で酸素を含む雰囲気下で、かつ200℃から300℃の間の、好ましくは240℃より高く290℃より低い酸化温度で様々な酸化時間(数分から30分間以上までの範囲であり得る)にわたり上記被膜を熱的酸化反応させるが、上記熱的酸化反応を、得られた組成物において、CO及びOHの含酸素基で変性された上記少なくとも1つのポリオレフィン中の酸素原子の上記質量含量が境界値を含めて2%から10%の間であるように制御することと、
を含む。
【0044】
本発明によるこの方法は、特に、達成されるべきこれらの基による官能化の最低及び最高の程度を表すこの酸素含量範囲を特徴とするこの特定の官能化を得るために、温度、圧力及び熱的酸化時間の条件を選択された非極性脂肪族ポリオレフィンに適合することにより、上記反応を正確に制御することを必要とすることに留意する。特に、これらの条件は、これらのCO基及びOH基並びに上記酸素含量をもたらすためにポリマーごとにかなり変動し得る。
【0045】
上記第1の好ましい実施の形態によれば、以下:
溶融物ルートを介して溶剤の蒸発によらずに、好ましくは少なくとも1つのアルケンカーボネートポリマーを含み、上記前駆体混合物中に、好ましくは30%を超える、更により有利には40%を超える体積割合で存在する極性犠牲ポリマー相も含む上記成分を混合することにより、上記非極性脂肪族ポリオレフィン及び上記極性犠牲相が、上記混合後に上記前駆体混合物中に2つの分離相を形成する工程a)と、
好ましくは40℃から60℃の間の出発温度から上記酸化温度まで制御して温度増加させた後に、上記酸化時間の間に上記酸化温度で等温にすることで、上記極性犠牲ポリマー相を熱分解により少なくとも部分的に除去する工程c)と、
を行うことができる。
【0046】
したがって、有利には、上記非極性脂肪族ポリオレフィンと上記極性犠牲ポリマー相との間の非相溶性にもかかわらず、本発明の組成物を得るために化合物の相溶化を一切省くことが可能であることに留意する。
【0047】
この第1の実施の形態によれば、上記極性犠牲ポリマー相は、有利には、
50%を超える上記相中の質量割合で、500g/molから5000g/molの間の重量平均分子量を有するポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと、
50%未満の上記相中の質量割合で、20000g/molから400000g/molの間の重量平均分子量を有するポリ(アルケンカーボネート)と、
を含み得る。
【0048】
本発明の上記第2の実施の形態によれば、以下:
液体ルートにより溶剤中に溶解又は分散された上記成分をミル粉砕する工程a)と、
工程b)に従って上記溶剤を蒸発除去した後に、上記酸化温度で上記被膜を制御してアニーリングすることによる工程c)と、
を行うことができる。
【0049】
液体ルートを介したこの第2の実施の形態によれば、有利には、特に上記ポリオレフィンが熱可塑性エチレンホモポリマー又はコポリマー(例えば、ポリエチレン又はエチレン-オクテンコポリマー)である場合に、上記非極性脂肪族ポリオレフィンを溶剤中で溶解させるための作用物質を使用することも可能であり、この作用物質は、例えばジクロロベンゼンである。
【0050】
本発明による電極は、リチウムイオン電池のアノード又はカソードを形成することができ、その電極は、
上記第1の実施の形態及び上記第2の実施の形態を含む上記定義の組成物からなり、少なくとも50μmと等しい、例えば50μmから100μmの間の厚さを有する被膜と、
上記被膜と接触している金属集電体と、
を含む。
【0051】
有利には、前記電極は、該電極を備えるリチウムイオン電池に60%を超える初回充放電サイクル効率を与えることが可能であり得て、前記初回充放電サイクルは、C/5のレジームで、アノードの場合は1Vから10mVの間で、そしてカソードの場合は4.3Vから2.5Vの間で行われる。
【0052】
本発明の上記第1の好ましい実施の形態によれば、上記被膜は、上記の溶融物ルートを介して得られた組成物からなり、上記電極は有利には、該電極を備えるリチウムイオン電池に75%を超える上記初回充放電サイクル効率を与えることが可能であり得る。
【0053】
上記第1の好ましい実施の形態によれば、前記電極は、前記活物質のためにリチウムイオン電池グレードの黒鉛を含むアノードであり得て、有利には該電極を備えるリチウムイオン電池に、1Vから10mVの間で行われるサイクルについて、
85%を超える、好ましくは88%を超える前記初回充放電サイクル効率、及び/又は、
電極1g当たり250mAhを超える、好ましくは電極1g当たり275mAh以上のC/5のレジームでの容量、及び/又は、
95%以上、例えば100%の初回サイクルに対する20回のサイクル後のC/5のレジームでの容量の維持率、
を与えることが可能であり得る。
【0054】
また、上記第1の好ましい実施の形態によれば、前記電極は、前記活物質のために、好ましくはリチウム化されたニッケル、マンガン及びコバルト(NMC)酸化物の合金並びにリチウム化されたニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)酸化物の合金からなる群から選択されるリチウム化された遷移金属酸化物の合金を含むカソードであり得て、前記電極は有利には、該電極を備えるリチウムイオン電池に、4.3Vから2.5Vの間で行われるサイクルについて、
77%以上の前記初回充放電サイクル効率、及び/又は、
電極1g当たり125mAhを超えるC/5のレジームでの容量、及び/又は、
電極1g当たり115mAhを超えるC/2のレジームでの容量、及び/又は、
20回のサイクル後の、また好ましくは40回のサイクル後の95%以上、例えば100%の初回サイクルに対するC/2のレジームでの容量の維持率、及び/又は、
電極1g当たり105mAhを超えるCのレジームでの容量、
を与えることができる。
【0055】
本発明によるリチウムイオン電池は、アノードと、カソードと、リチウム塩及び非水性溶剤を基礎とする電解質とを含む少なくとも1つのセルを含み、その電池は、上記アノード及び/又は上記カソードがそれぞれ上記定義の電極からなることを特徴とする。
【0056】
添付の図面と関連して、例示的な本発明のいくつかの実施形態に関する以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴点、利点、及び詳細が明らかになるであろう。これらの実施形態は実例として提示されるものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】非変性EPDMから形成される第1の対照バインダー及び同じ変性EPDMから形成される本発明による第1のバインダーからなる2つのエラストマー被膜の波数に対する吸光度の変化を示す、フーリエ変換赤外分光法(FTIRと略される)により測定された吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図2】非変性ポリエチレンから形成される第2の対照バインダー及び同じ変性ポリエチレンから形成される本発明による第2のバインダーからなる2つの熱可塑性被膜の波数に対する吸光度の変化を示す、FTIRにより測定された吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
液体ルート及び溶融物ルートを介して作製されたリチウムイオン電池のアノード及びカソードの対照例及び本発明による例
これらの全ての例において、以下の成分を使用した:
a)アノード活物質として、リチウムイオン電池グレードの人造黒鉛、
b)カソード活物質として、リチウム化されたニッケル、マンガン及びコバルト酸化物の合金NMC532(Targray社)、
c)伝導性フィラーとして、
c1)アノードには、伝導性の精製膨張黒鉛、
c2)カソードには、C65(Timcal社)という名称の伝導性カーボンブラック、
d)液体ルートの溶剤として、ヘプタン(Aldrich社)、
e)溶融物ルートの方法のための犠牲ポリマー相として、一方は、液体であり、ジオール官能基を有し、この相中に65%の質量割合で存在するNovomer社製のConverge(商標)Polyol 212-10という名称のポリプロピレンカーボネートと、もう一方は、固体であり、この相中に35%の質量割合で存在するEmpower Materials社製のQPAC(商標)40という名称のポリプロピレンカーボネートとの2種のポリプロピレンカーボネート(PPC)のブレンド、
f)バインダーとして、
f0)対照バインダーであるHNBR Zetpol(商標)0020(Zeon Chemicals社)、
f1)本発明によるターポリマーである58.0%のエチレンの質量含量及び8.9%のエチリデンノルボルネン(ENB)の含量を有するEPDM Vistalon(商標)8600(ExxonMobil社)、又は、
f2)99.0%超がエチレン及び1-オクテンの線状コポリマーからなるElite(商標)5230G(CAS登録番号26221-73-8)という名称の本発明による低密度ポリエチレン。
【0059】
アノードC1、アノードI1の作製のための液体ルートのプロトコル
成分a)、成分c1)、成分d)及び成分f1)をボールミル中で混合した後に、集電体を形成する金属シート上に混合後に得られた分散液をコーティングし、その後に乾燥及びアニーリングすることにより、対照アノードC1及び本発明によるアノードI1の2つのLiイオン電池のアノードを製造した。
【0060】
活物質、伝導性フィラー及びバインダー(ヘプタン中に1/10の質量比で溶解される)を、最初にボールミル中での350rpmで3分間のミル粉砕によりヘプタン中で混合した。
【0061】
次いで、得られた分散液を、12μm厚の裸銅シート上に150μmの開口を有するドクターブレードを使用してコーティングした。60℃で2時間にわたり溶剤を蒸発除去した後に、コーティングされた被膜を、本発明のアノードI1のために、
図1に関して以下で説明されるようにEPDMバインダーを変性させる目的のために周囲空気中での被膜の制御された酸化により250℃で30分間アニーリングした。その際、このアニーリングをしないと、対照アノードC1が得られたことが指摘される。2つのアノードのそれぞれについて50μmから100μmまでの範囲の最終厚さが得られた。
【0062】
こうして得られたアノード組成物C1、アノード組成物I1は、質量割合として表現して、それぞれ以下の配合:
94%の活物質a)と、
3%の伝導性フィラーc1)と、
3%の、C1の場合は非変性バインダーf1)、及びI1の場合は本発明による変性バインダーf1)と、
を有していた。
【0063】
アノードC2、アノードI2、アノードI3及びカソードI4、カソードI5、カソードI4’の作製のための溶融物ルートのプロトコル
両方の場合に69cm3の容量を有するHaake Polylab OS内部ミキサーを60℃から75℃の間の温度で使用して、溶融物ルートを使用して、成分a)、成分c1)、成分e)及び成分f0)、成分f1)又は成分f2)に基づいて3つのアノードを作製し、成分b)、成分c2)、成分e)及び成分f1)又は成分f2)に基づいて2つのカソードを作製した。
【0064】
こうして得られた混合物を、室温でScamex外部ロールミルを使用してカレンダー加工することで200μmの被膜厚さを得て、次いで50℃で再びカレンダー加工することで50μmの厚さが得られた。シートカレンダーを70℃で使用して、得られた被膜を銅集電体上に堆積させた。
【0065】
アノード及びカソードの前駆体被膜を炉内に入れて、そこから犠牲相(固体及び液体のPPC)を取り出した。それらを50℃から250℃までの制御された温度ランプにかけ、次いで250℃で30分間等温にすることで、それらを周囲空気中で熱的酸化に供して、この犠牲相を分解し、対応するバインダーf0)、f1)又はf2)を官能化させた。
【0066】
こうして、それぞれバインダー及び犠牲相を基礎とする2つの分離相のこの前駆体混合物における顕微鏡的検出により、42体積%の犠牲相e)を含む前駆体混合物から、対照組成物C2と本発明による2つの組成物I2及びI3とからなる3つのアノード組成物が得られた。これらの3つのアノード組成物C2、I2、I3は、この犠牲相の除去後に、質量割合として表現して、それぞれ以下の最終配合:
94%の活物質a)と、
3%の伝導性フィラーc1)と、
3%の、C2の場合は本発明によるものではない変性バインダーf0)、I2の場合は本発明による変性バインダーf1)、及びI3の場合は本発明による変性バインダーf2)と、
を有していた。
【0067】
この溶融物ルートのプロトコルをまた使用して、それぞれバインダー及び犠牲相を基礎とする2つの分離相のこの前駆体混合物における顕微鏡的検出により、50体積%の同じ犠牲相e)(2つの固体及び液体のPPCの配合)を含む前駆体混合物から、2つの本発明によるカソード組成物I4及びI5が得られた。これらの2つの組成物I4及びI5は、この犠牲相の除去後に、質量割合として表現して、それぞれ以下の配合:
90%の活物質b)と、
7%の伝導性フィラーc2)と、
3%の、I4の場合は本発明による変性バインダーf1)、及びI5の場合は本発明による変性バインダーf2)と、
を有していた。
【0068】
この同じ溶融物ルートのプロトコルをまた使用して、I4について得られた50μmの代わりにその最終厚さが80μmであることだけがカソードI4と異なる別のカソードI4’が得られた。こうして、カソードI4’の組成物は、I4と同じ前駆体混合物から得られ、同じ犠牲相e)の除去後のI4と同じ配合を有していた。
【0069】
本発明によるバインダーIf1及びIf2の特性決定
非変性バインダーf1)及びf2)並びに本発明による変性バインダーIf1及びIf2を、上述の液体ルート及び溶融物ルートの方法の間にFTIR(フーリエ変換赤外分光法)技術を介して特性決定して、波数に対する吸収スペクトルを得た。
【0070】
このために、EPDM Vistalon(商標)8600からなるバインダーf1)からそれぞれ形成された5つの100μm厚の第1の被膜Cf1及びポリエチレンのElite(商標)5230Gからなるバインダーf2)からそれぞれ形成された5つの100μm厚の第2の被膜Cf2を、ヘプタン中の溶液の蒸発により銅上に堆積させた。次いで、こうして堆積された第1の被膜Cf1及び第2の被膜Cf2のそれぞれを、制御された様式で周囲空気中、250℃で30分間処理することで、本発明によるこれらのバインダーf1)及びf2)を変性するCO基及びOH基が得られた。次いで、被膜Cf1、被膜If1、被膜Cf2、被膜If2のそれぞれを、FTIRによって「ATR」(減衰全反射)モードで研究した。
【0071】
図1は、まだ熱処理されていない5つの第1の被膜Cf1(非変性バインダーf1)を含むCf1)の1つのEPDM Vistalon(商標)8600についてのスペクトル及びこの第1の被膜If1であるが、上記のように250℃で30分間処理したものの同じEPDMについてのスペクトルを示しており、この最後のスペクトルは、EPDMの熱的酸化に特徴的なバンド、例えば1712cm
-1でのC=O結合、1163cm
-1でのC-O結合及び3400cm
-1での-OH結合を示すことが分かる。こうして変性されたこのEPDMの5つの第1の被膜If1のそれぞれにおける酸素原子の質量含量は、元素分析により測定され、実施された5つの測定についてのこの含量に関して、0.29%の標準偏差で5.9%の平均値が見られた。
【0072】
図2は、まだ熱処理されていない5つの第2の被膜Cf2(非変性バインダーf2)を含むCf2)の1つのポリエチレンのElite(商標)5230Gについてのスペクトル及びこの第2の被膜If2であるが、上記のように250℃で30分間処理したものの同じポリエチレンについてのスペクトルを示しており、この最後のスペクトルは、ポリエチレンの熱的酸化に特徴的なバンド、例えば上述の波数でのC=O結合、C-O結合及び-OH結合を示すことが分かる。こうして変性されたこのポリエチレンの5つの第2の被膜If2のそれぞれにおける酸素原子の質量含量は、元素分析により測定され、実施された5つの測定についてのこの含量に関して、0.65%の標準偏差で4.5%の平均値が見られた。
【0073】
液体ルートを介して作製されたアノードC1及びアノードI1、溶融物ルートを介して作製されたアノードC2及びアノードI2、アノードI3、並びに溶融物ルートを介して作製されたカソードI4、カソードI5、カソードI4’の電気化学的特性評価のためのプロトコル:
アノードC1、アノードC2、アノードI1、アノードI2、アノードI3及びカソードI4、カソードI5、カソードI4’を、サンプルパンチ(直径16mm、面積2.01cm2)を使用して切り出し、秤量した。同じ条件(熱処理)下で作製された裸集電体の質量を差し引くことにより、活物質の質量を決定した。それらを、グローブボックスに直接連結された炉内に入れた。それらを100℃、真空下で12時間乾燥させた後に、グローブボックス(アルゴン雰囲気:0.1ppmのH2O及び0.1ppmのO2)内に移した。
【0074】
次いで、リチウム金属対向電極と、Cellgard 2500セパレーターと、LiPF6 EC/DMC電池グレードの電解質(50%/50%の質量比)とを使用して、ボタンセル(CR1620形式)をアセンブルした。それらのセルを、Biologic VMP3ポテンシオスタットにおいて、
アノードの試験のために、1Vから10mVの間の一定電流でC/5のレジームで活物質の質量及び372mAh/gの理論容量を考慮して充放電サイクルを、そして、
カソードの試験のために、4.3Vから2.5Vの間の一定電流でC/5のレジームで活物質の質量及び170mAh/gの理論容量を考慮して充放電サイクルを、
実施することにより特性決定した。
【0075】
様々なシステムの性能を比較するために、容量(アノード又はカソード1g当たりのmAhで表現される)を、リチウムの脱離のために初回放電の間に(すなわち、初回充放電サイクル後の初期容量)、2回目の放電時(初回サイクルの効率の測定)に、アノード及びカソードの場合は20回のサイクル後に、そしてカソードの場合は40回のサイクル後に評価することで、20回のサイクル又は40回のサイクルでの容量の、同じ所与のレジーム(C/5)での初回サイクルでの容量に対する比率により定義される維持率(%)を計算した。アノード及びカソードについてのC/5のレジームでの容量の他に、C/2、C、2C及び5Cのレジームでの容量を、カソードについて測定した(全てのこれらの容量は、電極1g当たりのmAhで表現される)。
【0076】
以下の表1は、こうして得られた各セルにおける、アノードC1、アノードI1、アノードC2、アノードI2、アノードI3及びカソードI4、カソードI5についてのこの特性決定の結果を示す。
【0077】
【0078】
表1は、制御された熱的酸化により変性された(C=O結合、C-O結合及び-OH結合を含む含酸素基で5%から6%の間の酸素の質量含量で変性された)EPDMをバインダーとして含んで液体ルートを介して得られたアノードI1を備えたセルが、同じEPDMであるが、変性されていないものをバインダーとして含んで液体ルートを介して得られたアノードC1を備えた対照セルのこの同じ効率に対して、初回サイクルでの効率において顕著に改善(70%超)すること、そしてC/5での容量において更に大きく改善(220%超)することを示している。
【0079】
表1はまた、制御された熱的酸化により変性された(C=O結合、C-O結合及び-OH結合を含む含酸素基で4%から6%の間の酸素の質量含量で変性された)EPDM又はポリエチレンをバインダーとして含んで溶融物ルートを介して得られたアノードI2及びアノードI3を備えたセルが、同じ熱的酸化処理により変性されたHNBRをバインダーとして含んで溶融物ルートを介して得られたアノードC2を備えた対照セルのこの同じ効率に対して、初回サイクルでの効率において改善(約5%)すること、そしてアノードI2及びアノードI3のサイクル性がアノードC1に対して損なわれないこと(20回目のサイクルと初回サイクルとの間で、C/5での容量の維持率が100%に維持されていることを参照)を示している。
【0080】
表1はまた、同じ制御された熱的酸化によりそれぞれ変性されたEPDM及びポリエチレンバインダーをそれぞれ用いて溶融物ルートを介して得られたカソードI4及びカソードI5が、それを含むセルにC/2、C、2C及び5Cでの同様の十分な容量を与えることを示している。
【0081】
溶融物ルートを介して作製された80μmに等しい厚さを有するカソードI4’だけに関して、以下の表2に示されるように、対応するセルに与えられた容量をC/5及びC/2のレジーム(初回サイクルで、20回のサイクル後、及び40回のサイクル後)で測定した。
【0082】
【0083】
表2は、この同じ制御された熱的酸化により変性されたEPDMバインダーで溶融物ルートを介して得られたカソードI4’がまた、特に20回のサイクル後、そして40回のサイクル後でさえも非常に十分なサイクル性(20回のサイクル後及び40回のサイクル後のC/2での100%の容量の維持率を参照)で、それを備えるセルにC/5及びC/2での十分な容量を与えることを示している。