(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】抗体の複写保護措置
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
(21)【出願番号】P 2020521353
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2018078720
(87)【国際公開番号】W WO2019077113
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-08-31
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】デューフェル,ハルトムート
(72)【発明者】
【氏名】コボルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ライネンバッハ,アンドレアス
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-096098(JP,A)
【文献】特表2014-519029(JP,A)
【文献】FEBS Letters,1991年,vol. 287, no. 1, 2,p. 185-188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
G01N 27/00-27/92
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体及びタグを含む抗体コンジュゲートであって、前記抗体中に存在する1つ又は複数の元素が、前記1つ又は複数の元素の天然に存在する同位体比と異なる同位体比を呈し、天然において希少な同位体の量が、前記抗体中のそれぞれの前記元素の原子の4~20%に増大されており、ここで増大された量の希少同位体は抗体の配列中に無作為に分配されている、コンジュゲート。
【請求項2】
前記希少な同位体が、前記抗体中のそれぞれの前記元素の原子の6~12%に増大されている、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記希少な同位体が、前記抗体中のそれぞれの前記元素の原子の8~10%に増大されている、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記希少
な同位体が、元素炭素(C)の
13C、元素水素(H)の
2H、元素窒素(N)の
15N並びに元素酸素(O)の
17O及び/又は
18Oからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記
希少な同位体が、前記抗体の非必須アミノ酸に取り込まれている、請求項1から4のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記タグが、結合対のパートナー、官能基、治療的薬剤(薬物)、細胞毒性薬剤
、フルオロフォア
、化学発光タグ若しくは電気化学発光タグ、放射性タグ、画像化若しくは放射線治療目的の金属キレート複合体、酵素又は蛍光タンパク質からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
細胞毒性薬剤がドキソルビシン又は百日咳毒素であり、フルオロフォアがフルオレセイン又はローダミンである、請求項6に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
前記タグが、ビオチン又はストレプトアビジンタグである、請求項1から
7のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
前記抗体が、バイオマーカーに特異的に結合する、請求項1から
8のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
前記バイオマーカーが、疾患の指標である、請求項
9に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
抗体の配列決定を防止するための、請求項1から
10のいずれか一項に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項12】
抗体を配列決定から保護するための安定同位体標識の使用。
【請求項13】
前記安定同位体標識が、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)からなる群から選択される原子の安定同位体である、請求項
12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1から
10のいずれか一項に記載のコンジュゲートを少なくとも1つ含むキット。
【請求項15】
請求項1から
10のいずれか一項に記載のコンジュゲートを2つ含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体及びタグを含む抗体コンジュゲートであって、抗体中に存在する1つ又は複数の元素が、前記1つ又は複数の元素の天然に存在する同位体比と異なる同位体比を呈し、天然において希少な同位体の量が、抗体中のそれぞれの元素の原子の少なくとも4%に増大された抗体コンジュゲート、及びその使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、特に抗体のアミノ酸一次配列は、共有結合している修飾を含めて質量分析を使用して容易に決定され得る(Applicattions of liquid chromatography coupled to mass spectrometry-based metabolomics in clinical chemistry and toxicology:A review、2011年、:44巻、1号、:119~135頁、特別号)。一般に、a)標的を単離するステップと;b)標的を、様々なペプチドを生成する様々な異なる酵素で酵素的に消化するステップと;c)産生されたペプチドを、クロマトグラフィーによって分離するステップと;d)完全なペプチド及びその配列特異的断片の質量を、質量分析を使用して測定するステップと;e)測定されたデータのソフトウェアに基づく解釈を使用して、ペプチドの配列を同定するステップと;e)異なるプロテアーゼによって生成された重複するペプチドの組合せを使用して、タンパク質全体の完全なアミノ酸配列を決定するステップとが実行される。このプロセスには、わずか約50μgのタンパク質並びに市販のHPLC及び質量分析機器(例えばABSciex製TripleTOFシステム又はThermofisher製ハイブリッドMS測定器に基づくオービトラップ)及び適切なソフトウェア(例えばBioinformatics Solutions社製PEAKS[登録商標]Studio Software)が必要とされる。これまでに、抗体などのタンパク質を質量分析による配列決定から保護するのに利用できる機序はまだない。
【0003】
しかしながら、タンパク質、特に製薬、診断、及び/又は生物工学産物の一部になり得るという点で商業的対象になり得るタンパク質を配列決定から保護することは、当業者にとって急務である。
【0004】
この問題は、1つ又は複数の元素の安定同位体の比を改変させたタンパク質、特に抗体、並びにそれを産生する方法及びその使用を提供することによって本発明者らにより解決される。タンパク質における1つ又は複数の元素の安定同位体の改変された比の取込みは、前記タンパク質の質量を変化させる。質量分析を使用して分析される場合、生成されたペプチドのそれぞれの質量と完全タンパク質の質量の両方が、天然に存在する質量と異なる。従って、利用可能な標準的ツールを使用する配列の決定は、もはや不可能である。従って標識タンパク質のさらなる優位性は、質量分析スペクトルにおいてシグナルの減少をもたらすタンパク質中の同位体の均等な分布である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は、抗体及びタグを含む抗体コンジュゲートであって、抗体中に存在する1つ又は複数の元素が、前記1つ又は複数の元素の天然に存在する同位体比と異なる同位体比を呈し、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素の原子の少なくとも4%に増大されている、コンジュゲートに関する。第2の態様において、本発明は、抗体の配列決定(特にMass Specによる)を防止するための、本発明の第1の態様に規定される抗体コンジュゲートの使用に関する。
【0006】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に規定される抗体コンジュゲートの配列を決定(特にMass Specによる)から保護するための安定同位体標識の使用に関する。
【0007】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に規定される抗体コンジュゲートを少なくとも1つ含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】LC-MS/MS後の配列カバレッジを示す図である;A:通常培地中で発現させた抗TnT抗体;B:
13C標識培地中で発現させた抗TnT抗体。
【
図2】同位体効果のシミュレーションを示す図である。
【
図3】ペプチドNTQPIMDTDGSYFVYSKの測定したスペクトルを示す図である;
図3Aは、シミュレーションを示す図である;
図3Bは、通常(第1のスペクトル)又は
13C標識培地(第2のスペクトル)において発現させた抗TnT抗体を示す図である。
【
図5】
図5Aは、Biacoreアッセイにおける抗TnT抗体の結合親和性を示す表である。
図5Bは、Biacoreアッセイにおける抗TnT抗体の結合親和性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本発明を以下で詳細に説明する前に、本明細書に記述される特定の方法論、プロトコール及び試薬は変更することが可能であり、したがって本発明はこれらに限定されないことを理解すべきである。本明細書に使用される用語は、特定の実施形態だけについて記述するためのものであり、添付の請求項によってのみ限定されることになる本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されたい。別段の規定がない限り、本明細書に使用される技術及び科学的用語の全ては、当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0010】
いくつかの文書が、本明細書の本文の全体を通じて引用される。本明細書に引用される文書のそれぞれ(特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、指示書等の全てを含む)を、前後を問わず、その全体を参照により本明細書に組み込む。本明細書における何ものも、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利を持たないということの容認として解釈されるべきでない。本明細書に引用される文書のいくつかは、「参照により組み込まれる」と特徴づけられる。これらの組み込まれた参照の定義又は教示と本明細書において列挙される定義又は教示の間に矛盾が生じた場合、本明細書の本文を優先する。
【0011】
以下において、本発明の要素について記述されることになる。これらの要素は、特定の実施形態により記載される。しかしながら、それらを任意の様式及び任意の数で組み合わせて、追加の実施形態を作製し得ることを理解すべきである。様々に記述される例及び好ましい実施形態は、明確に記述されている実施形態のみに本発明を限定するものと解釈されるべきでない。本説明は、明確に記述された実施形態を任意の数の開示されている及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記述されている要素全ての任意の入替え及び組合せは、文脈上別段の指示がない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0012】
単語、「含む(comprise)」、及び「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、明示された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を内包するが、他の任意の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外しないことを意味すると理解されよう。
【0013】
内容が別途明確に指図しない限り、本明細書並びに添付の請求項に使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、複数の指示対象を含む。
パーセンテージ、濃度、量、及び他の数値データは、本明細書において「範囲」形式で表示又は提示され得る。そのような範囲形式は、単に利便性及び簡潔さのために使用されているものであり、従って、範囲の限度として明確に記載されている数値を含むだけでなく、あたかも各数値及び部分的範囲が明確に記載されているかのようにその範囲に包含される個々の数値又は部分的範囲の全ても含むと柔軟に解釈されるべきであることを理解すべきである。実例として、「4~20%」の数値的範囲は、明確に記載されている値である4%~20%を含むだけでなく、表示された範囲内の個々の値及び部分的範囲も含むと解釈されるべきである。従って、この数値的範囲に含まれるのは、4、5、6、7、8、9、10、・・・18、19、20%などの個々の値及び4~10%、5~15%、10~20%などの部分的範囲、等である。この同じ原則は、例えば最小又は最大値など、1つだけの数値を記載している範囲にも適用される。さらに、そのような解釈は、範囲の幅又は記述される特徴にかかわらず適用されるべきである。
【0014】
用語「約」は、数値に関連して使用される場合、表示されている数値より5%小さい下限及び表示されている数値より5%大きい上限を有する範囲内の数値を包含することを意図される。
【0015】
用語「アミノ酸」とは、置換された若しくは無置換のアミノ基、置換された若しくは無置換のカルボキシ基、及び1つ若しくは複数の側鎖若しくは基、又はこれらの基のいずれかの類似体を含む任意の単量体単位のことを一般に指す。典型的な側鎖には、例えば、チオール、セレノ、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ボレート、ボロネート、リン酸、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、又はこれらの基の任意の組合せがある。他の代表的なアミノ酸には、光活性化可能な架橋剤を含むアミノ酸、金属結合アミノ酸、スピン標識されたアミノ酸、蛍光アミノ酸、含金属アミノ酸、新規の官能基を持つアミノ酸、他の分子と共有結合的若しくは非共有結合的に相互作用するアミノ酸、光ケージド及び/若しくは光異性化可能なアミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチン若しくはビオチン類似体を含むアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、他の炭水化物修飾アミノ酸、ポリエチレングリコール若しくはポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換されたアミノ酸、化学的に切断可能な及び/若しくは光切断可能なアミノ酸、炭素連結した糖含有アミノ酸、酸化還元活性なアミノ酸、アミノ酸を含有するアミノチオ酸並びに1つ又は複数の中毒性部分を含むアミノ酸があるが、これに限定されない。本明細書では、用語「アミノ酸」は、20種の天然の又は遺伝的にコードされている以下のアルファアミノ酸:アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を含む。用語「非必須」アミノ酸とは、ヒトによって合成され得、従ってヒト食餌に必須でないアミノ酸のことを指す。11種の非必須アミノ酸:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン及びチロシンが存在する。「必須アミノ酸」は、人体によって合成され得ないものであり、従って、食事タンパク質によって得る必要があるものである。必須アミノ酸には、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンがある。これら20種の天然アミノ酸の構造は、例えば、Stryerら、Biochemistry、第5版、Freeman and Company(2002年)に示されている。セレノシステイン及びピロリシンなど追加のアミノ酸も、遺伝的にコードされ得る(Stadtman[1996年]「Selenocysteine」、Annu Rev Biochem.65:83~100頁、及びIbbaら[2002年]「Genetic code:introducing pyrrolysine」、Curr Biol.12[13]:R464~R466頁)。用語「アミノ酸」は、非天然アミノ酸、修飾アミノ酸(例えば、側鎖及び/又は骨格を修飾した)及びアミノ酸類似体も含む。アミノ酸は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に統合され得る。
【0016】
本発明の文脈において、用語「ペプチド」とは、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の短いポリマーのことを指す。それは、タンパク質と同じ化学(ペプチド)結合を有するが、長さが一般により短い。最も短いペプチドはジペプチドであり、1つのペプチド結合によってつながれた2つのアミノ酸からなる。トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、等もあり得る。一般に、ペプチドは、最高4、6、8、10、12、15、18又は20アミノ酸の長さを有する。ペプチドは、環状ペプチドでない限り、アミノ末端及びカルボキシル末端を有する。
【0017】
本発明の文脈において、用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって共に結合されているアミノ酸の単一の線状鎖のことを指し、少なくとも約21のアミノ酸、即ち少なくとも21、22、23、24、25等のアミノ酸を一般に含む。ポリペプチドは、2つ以上の鎖で構成されるタンパク質の1つの鎖であり得、又はタンパク質が1つの鎖で構成されている場合、タンパク質自体であり得る。
【0018】
本発明の異なる態様の文脈において、用語「タンパク質」とは、二次及び三次構造を回復する1つ又は複数のポリペプチドを含む分子のことを指し、さらにいくつかのポリペプチド、即ちいくつかのサブユニットで組成されて四次構造を形成するタンパク質のことを指す。タンパク質には、非ペプチド基が結合している場合があり、それは補欠分子族又は補因子と呼ばれ得る。
【0019】
本明細書では、用語「バリアント」は、その長さ又は配列における1つ若しくは複数の変化によって得られる分子と比較して異なっている分子と理解されるべきである。バリアントが得られる分子は、親分子としても公知である。用語「バリアント」は、親分子の「断片」又は「誘導体」を含む。一般に、「断片」は、長さ又はサイズにおいて親分子より小さく、「誘導体」は、親分子と比較してその配列中に1つ又は複数の違いを呈する。翻訳後修飾されたタンパク質(例えばグリコシル化、ビオチン化、リン酸化、ユビキチン化、パルミトイル化、又はタンパク質分解性に切断されたタンパク質)及びメチル化されたDNAなど修飾された核酸などだがそれに限らない修飾された分子も包含される。RNA-DNAハイブリッドなどだがこれに限らない異なる分子の混合物も、用語「バリアント」に包含される。一般に、バリアントは、人工的、好ましくは遺伝子技術的手段によって構築され、親タンパク質若しくはポリヌクレオチドは、野生型タンパク質若しくはポリヌクレオチド、又はその共通配列である。しかしながら、天然に存在するバリアントも、本明細書では用語「バリアント」に包含されると理解されるべきである。さらに、本発明において使用可能なバリアントは、バリアントが親分子の生物学的活性を少なくとも1つ呈する、即ち機能的に活性があるならば、親分子のホモログ、オルソログ若しくはパラログ、又は人工的に構築されたバリアントから得られてもよい。
【0020】
特に、用語「ペプチドバリアント」、「ポリペプチドバリアント」、「タンパク質バリアント」は、アミノ酸配列における1つ若しくは複数の変化によってそれが得られるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質と比較して異なるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質と理解されるべきである。それぞれのバリアントが得られるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質は、親ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質としても公知である。さらに、本発明において使用可能なバリアントは、バリアントが、親ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質の生物学的活性を少なくとも1つ呈するならば、親ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質のホモログ、オルソログ若しくはパラログ、又は人工的に構築されたバリアントから得られてもよい。アミノ酸配列における変化は、アミノ酸交換、挿入、欠失、N末端短縮若しくはC末端短縮、又はこれら変化の任意の組合せでもよく、その変化は1つ又はいくつかの部位で起こってもよい。ポリペプチド又はタンパク質バリアントは、総数で最高200個(最高1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200個)のアミノ酸配列における変化(即ち交換、挿入、欠失、N末端短縮及び/又はC末端短縮)を呈してもよい。アミノ酸交換は、保存的でも及び/又は非保存的でもよい。これとは別に又は追加的に、本明細書では「バリアント」は、それが得られる親ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に対する配列同一性の特定の程度によって特徴付けられ得る。より正確には、本発明の文脈におけるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質バリアントは、その親ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に対して少なくとも80%の配列同一性を呈する。ポリペプチド又はタンパク質バリアントの配列同一性は、20、30、40、50、60、70、80、90、100個又はより多くのアミノ酸の連続的な区間にわたる。
【0021】
参照配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大パーセント配列同一性を達成した後に参照親配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義され、整列化の目的で配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的の整列化は、当業者の範囲である様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージなど一般公開されているコンピューターソフトウェアを使用して達成され得る。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson及びD.J.Lipman(1988年)、「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」、PNAS 85:2444~2448頁;W.R.Pearson(1996年)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol.266:227~258頁;及びPearsonら、(1997年)Genomics 46:24~36頁に著されており、http://www.ebi.ac.uk/Tools/sss/fasta/から一般公開されている。当業技術者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列化を達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、配列を整列するための適当なパラメータを決定することができる。
【0022】
用語「アミノ酸突然変異」又は「アミノ酸改変」は、親アミノ酸配列のアミノ酸配列における修飾を意味する。典型的な修飾には、アミノ酸置換、挿入及び/又は欠失がある。
用語「位におけるアミノ酸突然変異」又は「位におけるアミノ酸改変」は、指定された残基の置換若しくは欠失又は指定された残基に隣接する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入を意味する。用語「指定された残基に隣接する挿入」は、1~2個以内のその残基の挿入を意味する。挿入は、指定された残基に対してN末端でも又はC末端でもよい。
【0023】
用語「アミノ酸置換」は、既定の親アミノ酸配列中のアミノ酸残基の少なくとも1つを異なる「置きかえ」アミノ酸残基により置きかえることを意味する。置きかえ残基(単数)又は残基(複数)は、「天然に存在するアミノ酸残基」(即ち、遺伝暗号によってコードされる)でもよく、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択されてもよい。アミノ酸交換は、保存的、半保存的及び/又は非保存的であってもよい。アミノ酸が化学的に関連するアミノ酸により置換される半保存的、特に保存的アミノ酸置換が、好ましい。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を持つアミノ酸間、又は芳香族残基を有するアミノ酸である。典型的な半保存的及び保存的置換は以下の通りである:
【0024】
【0025】
新たなシステインが遊離チオールとして残存する場合、A、F、H、I、L、M、P、V、W又はYからCへの交換は、半保存的である。さらに、当業者は、立体的に厳しい位置にあるグリシンは、置換されるべきでなく、Pは、アルファへリックス又はベータシート構造を有するタンパク質の部分に導入されるべきでないことを認識できよう。
【0026】
1つ又は複数の天然に存在しないアミノ酸残基による置換も、本明細書におけるアミノ酸置換の定義に包含される。「天然に存在しないアミノ酸残基」とは、上で挙げた天然に存在するアミノ酸残基以外の残基を意味し、天然に存在しないアミノ酸残基は、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基を共有結合することができる。天然に存在しないアミノ酸残基の例には、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、αアミノイソ酪酸(Aib)及びEllman、ら、Meth.Enzym.202(1991年)301~336頁に記述されるものなど他のアミノ酸残基類似体がある。そのような天然に存在しないアミノ酸残基を生成するには、Norenら(Science 244[1989年]182頁)及び/又はEllmanら(上記)の手順が、使用され得る。簡潔には、これらの手順は、天然に存在しないアミノ酸残基を持つサプレッサーtRNAを化学的に活性化するステップと、その後RNAをin vitro転写及び翻訳するステップとを含む。
【0027】
用語「アミノ酸欠失」は、アミノ酸配列中の既定の位置における少なくとも1つのアミノ酸残基の除去を意味する。
本出願内でアミノ酸改変について言及される場合はいつでも、それは熟慮されたアミノ酸改変であり、無作為なアミノ酸修飾ではない。
【0028】
用語「抗原」とは、免疫系にそれに対する抗体を産生させる任意の実体のことを指す。抗原は、身体内(「自己抗原」)又は外部環境(「非自己」)起源であり得る。抗原提示細胞は、ペプチドの形態で組織適合性分子上に抗原を提示する。適応免疫系のT細胞が、抗原を認識する。抗原及び組織適合性分子の型に応じて、異なる型のT細胞が、活性化される。
【0029】
「エピトープ」、別名「抗原決定基」は、巨大分子の局所、特に抗原の局所であり、タンパク質性又は非タンパク性のいずれかであり、免疫系、特に抗体、B細胞又はT細胞によって認識される。エピトープは、一般に抗原の部分であり、抗体又はその抗原結合断片によって結合される能力がある。本文脈において、用語「結合」は、特異的結合に好ましくは関する。本発明の文脈において、用語「エピトープ」は、抗体によって認識されるタンパク質の局所のことを指す。エピトープは、通常アミノ酸又は糖側鎖など、分子の化学的に活性な表面基からなり、特定の3次元的な構造的特徴、及び特定の電荷特性を通常有する。立体配座エピトープに対する結合は、変性溶媒の存在下で失われるが、非立体配座エピトープは失われないので、前者と後者は区別される。特定のエピトープに対する抗体(即ち、同じエピトープに結合する抗体)結合のスクリーニングは、例えば、それだけには限らないが、アラニンスキャニング、ペプチドブロット(Meth.Mol.Biol.248[2004年]443~463頁を参照のこと)、ペプチド切断分析、エピトープ切除、エピトープ抽出、抗原の化学修飾(Prot.Sci.9[2000年]487~496頁を参照のこと)、及びクロスブロッキング(「Antibodies」、Harlow及びLane[Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、NY]を参照のこと)など当業者において日常的な方法を使用して行われ得る。抗原構造に基づく抗体プロファイリング(Antigen Structure-based Antibody Profiling)(ASAP)、別名修飾支援プロファイリング(Modification-Assisted Profiling)(MAP)により、化学的又は酵素的に修飾された抗原表面に対する多数の抗体それぞれの結合プロファイルに基づいて特定の抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体の多数をビンすることが可能になる(例えば米国特許出願公開第2004/0101920号を参照のこと)。各ビン中の抗体は、同じエピトープに結合し、そのエピトープは、別のビンによって表されるエピトープと明確に異なる又は部分的に重なる一意的なエピトープであり得る。また、競合結合を使用して、抗体が、同じ抗原に対する参照抗体と同じ抗原のエピトープに結合するか、結合について競合するかを容易に決定することができる。実施形態において、競合結合アッセイで測定して1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰の一方の抗体が、他方の抗体の結合を少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%又はさらに99%若しくはより多く阻害する場合、2つの抗体は、同じ又は重複するエピトープに結合すると考えられる(例えば、Junghansら、Canser Res.50[1990年]1495~1502頁を参照のこと)。
【0030】
一部の実施形態において、一方の抗体の結合を減少させる又は排除する抗原中のアミノ酸突然変異の本質的に全てが、他方の抗体の結合も減少させる又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープに結合すると考えられる。一方の抗体の結合を減少させる又は排除するアミノ酸突然変異のサブセットのみが、他方の抗体の結合を減少させる又は排除する場合、2つの抗体は「重複するエピトープ」を有すると考えられる。
【0031】
本明細書では用語「抗体」とは、膜貫通領域を欠き、従って血流及び体腔へと放出され得る分泌される免疫グロブリン(Ig)のことを指す。「天然の抗体」とは、様々な構造を持つ天然に存在する免疫グロブリン分子のことを指す。例えば、天然のIgG抗体は、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される。
【0032】
ヒト抗体は、保有する重鎖に基づいて異なるアイソタイプに分類される。ギリシア文字:α、γ、δ、ε及びμによって表示される5つの型のヒトIg重鎖がある。存在する重鎖の型は、それぞれ異なる役割を実行し、異なる型の抗原に対して適切な免疫応答を指令する抗体のクラスを定義する。従って、抗体の「クラス」とは、重鎖に保有される定常ドメイン又は定常領域の型のことを指す。抗体の主要な5つのクラスは:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMであり、これらのうちいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2にさらに分けられてもよい。
【0033】
固有の重鎖は、サイズ及び組成が異なり;およそ450アミノ酸を含み得る(Janewayら[2001年]Immunobiology、Garland Science)。IgAは、消化管、気道及び尿生殖路などの粘膜領域、並びに唾液、涙及び母乳中に見られ、病原体によるコロニー形成を防ぐ(Underdown及びSchiff[1986年]Annu.Rev.Immunol.4:389~417頁)。IgDは、抗原に曝露されていないB細胞上の抗原受容体として主に機能し、好塩基球及び肥満細胞の活性化に関係して、抗菌性因子を産生する(Geisbergerら[2006年]Immunology 118:429~437頁;Chenら[2009年]Nat.Immunol.10:889~898頁)。IgEは、肥満細胞及び好塩基球からのヒスタミン放出の引き金を引くアレルゲンに対する結合を介してアレルギー反応に関係する。IgEは、寄生虫に対する保護にも関係する(Pierら[2004年]Immunology、Infection and Immunity、ASM Press)。IgGは、侵入病原体に対する抗体に基づく免疫の大多数を提供し、胎盤を横断して胎児に受動免疫を与えることができる唯一の抗体アイソタイプである(Pierら[2004年]Immunology、Infection and Immunity、ASM Press)。ヒトには、異なる4つのIgGサブクラス(IgG1、2、3及び4)があり、血清中のその存在量の順序で命名されており、IgG1が最も豊富であり(およそ66%)、続いてIgG2(およそ23%)、IgG3(およそ7%)及びIgG4(およそ4%)である。異なるIgGクラスの生物学的プロファイルは、それぞれのヒンジ領域の構造によって決定される。IgMは、単量体形態及び非常に高い親和力を持つ分泌5量体形態でB細胞の表面に発現される。IgMは、充分なIgGが産生される前のB細胞媒介性(体液性)免疫の初期段階において病原体の排除に関係する(Geisbergerら[2006年]Immunology 118:429~437頁)。抗体は、単量体として見いだされるだけでなく、2つのIg単位の二量体(例えばIgA)、4つのIg単位の四量体(例えば硬骨類魚のIgM)又は5つのIg単位の五量体(例えば哺乳動物のIgM)を形成することも公知である。抗体は、ジスルフィド結合によって接続される2つの同一の重鎖及び同一の2つの軽鎖を含む4つのポリペプチド鎖で一般にできており、「Y」形状に似た巨大分子である。鎖のそれぞれは、いくつかの免疫グロブリンドメインを含み、そのうち一部は定常ドメインであり、他は可変ドメインである。免疫グロブリンドメインは、2つのβシート内に配置された7~9個の逆平行ストランドの2層サンドイッチからなる。
【0034】
一般に、抗体の「重鎖」は4つのIgドメインを含み、そのうちの3つは「定常ドメイン」(CHドメイン:CH1、CH2、CH3)であり、そのうちの1つは「可変ドメイン」(VHドメイン)である。「軽鎖」は、1つの定常Igドメイン(CL)及び1つの可変Igドメイン(VL)を一般に含む。例えば、ヒトIgG重鎖は、CH1-CH2-CH3の順序でN末端からC末端に連結されている4つのIgドメインで構成され、一方ヒトIgG軽鎖は、VL-CLの順序でN末端からC末端に連結されている2つの免疫グロブリンドメインで構成され、カッパ又はラムダ型(Vκ-Cκ又はVλ-Cλ)のいずれかである。例えば、ヒトIgGの定常鎖は、447アミノ酸を含む。
【0035】
従って、用語抗体の「可変領域」若しくは「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインのことを指す。重鎖の可変ドメインは、「VH」と称することができる。軽鎖の可変ドメインは、「VL」と称することができる。これらのドメインは、一般に抗体の最も可変な部分であり、抗原結合部位を含有する。用語「可変」とは、可変ドメインの特定の部分が抗体の間で配列において大きく異なり、各特定の抗体の特定の抗原に対する結合及び特異性に使用されるという事実のことを指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメインの全体にわたって均一に分布しているのではない。それは、軽鎖及び重鎖可変ドメイン両方にある「超可変領域」(HVR)と呼ばれる3つの局所に集中している。可変ドメインのより高度に保存されている部分は、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、ベータシート配置の形を主にとり3つのHVRによって接続される4つのFR領域を含み、そのHVRは、ベータシート構造を接続し、一部の場合においてその部分を形成するループを形成する。各鎖中のHVRは、FR領域によって互いに近くに接近して保持され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、National Institute of Health、Bethesda、MD[1991年]を参照のこと)。従って、本明細書では用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列中で超可変(「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる)であり、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は抗原接触残基(「抗原接触」)を含有する抗体可変ドメインの領域のそれぞれのことを指す。一般に、抗体は6つのHVR:3つのVH(H1、H2、H3)及び3つのVL(L1、L2、L3)を含む。本明細書において典型的なHVRは:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia及びLesk、J.Mol.Biol.196:901~917頁[1987年]);
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3)に存在するCDR(Kabatら、上記);
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)及び93~101(H3)に存在する抗原接触(MacCallumら、J.Mol.Biol.262:732~745頁[1996年]);及び
(d)HVRアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、及び94~102(H3)を含めた、(a)、(b)並びに/又は(c)の組合せを含む。
【0036】
「フレームワーク領域」又は「FR」とは、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基のことを指す。可変ドメインのFRは、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4から一般になる。従って、HVR及びFR配列は、VH(又はVL)において以下の配列:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4に一般に記載される。
【0037】
用語「位」は、ペプチド鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の場所を意味する。位は、連続した、又は確立された形式、例えば抗体番号付けのための「KabatのEUインデックス」に従って付番されてもよい(Kabat,E.A.、Wu,T.T.、Perry,H.M.、Gottesman,K.S.及びFoeller,C.、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD[1991年]、NIH Publication 91~3242頁、参照により本明細書に明示的に組み込む)。「KabatのEUインデックス」とは、ヒトIgG 1EU抗体の残基番号付けのことを指す。従って、IgGの文脈においてCHドメインは、以下の通りである:「CH1」は、KabatのEUインデックスによるアミノ酸118~220位を指し;「CH2」は、KabatのEUインデックスによるアミノ酸237~340位を指し;「CH3」は、KabatのEUインデックスによるアミノ酸341~447位を指す。特に明記しない限り、HVR(例えばCDR)残基及び可変ドメイン中の他の残基(例えばFR残基)は、本明細書においてKabatら、上記に従って付番される。
【0038】
定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接関係しないが、様々なエフェクター機能を呈する。「エフェクター機能」とは、抗体の定常ドメインに起因する抗体の生物学的活性のことを指し、抗体の定常ドメインは、抗体アイソタイプによって異なる。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;及びB細胞活性化がある。
【0039】
用語「ヒンジ領域」は、野生型抗体重鎖においてCH1ドメインとCH2ドメインをつなぐ抗体重鎖ポリペプチドの部分、例えば、ヒトIgG1の場合EU付番システム(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html)による約216位~約238位、又はKabat番号付けの約226位~約243位を意味する。Kabatによる226位は、ヒトIgG1重鎖定常領域の99位に対応する。他のIgGサブクラスのヒンジ領域は、ヒトIgG1サブクラス配列のヒンジ領域システイン残基と整列させることによって決定され得る。ヒンジ領域は通常、同一のアミノ酸配列を持つ2つのポリペプチドからなる二量体である。ヒンジ領域は、約25アミノ酸残基を一般に含み、抗原結合領域がそれぞれ独立に動くことを可能にする柔軟性がある。ヒンジ領域は、3つのドメイン:上部、中間部及び下部ヒンジドメインにさらに分割され得る(例えば、Rouxら、J.Immunol.161[1998年]4083頁を参照のこと)。用語Fc領域の「上部ヒンジ領域」は、例えばヒトIgG1の場合、N末端から中間部ヒンジ領域、即ちEU番号付けによるFc領域の残基216~225のアミノ酸残基の区間を意味する。用語「中間部ヒンジ領域」、例えばヒトIgG1の場合、即ちEU番号付けによるFc領域の残基226~230は、架橋システイン残基を含むアミノ酸残基の区間を意味し、プロリン及びシステインに富み、上部及び下部ヒンジ領域の間に位置する。用語Fc領域の「下部ヒンジ領域」は、例えばヒトIgG1の場合、C末端直ぐから中間部ヒンジ領域、即ちEU番号付けによるFc領域の残基231~238のアミノ酸残基の区間を意味する。
【0040】
用語「抗体」は、所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を包含する。用語は、全長抗体とその断片の両方を包含する。用語「全長抗体」、「完全な抗体」及び「全抗体」は、その実質的に完全な形態の抗体を指すために本明細書において互換的に使用されるが、以下で定義される抗体断片を指さない。従ってその用語は、天然の抗体と実質的に同一の構造及びアミノ酸配列を有する抗体を意味する。
【0041】
用語「キメラ」抗体とは、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の供給源若しくは種から得られ、重鎖及び/又は軽鎖の残りが異なる供給源若しくは種から得られる抗体のことを指す。
【0042】
「ヒト抗体」とは、ヒト若しくはヒト細胞によって産生される又はヒト抗体レパートリー若しくは他のヒト抗体コード配列を活用するヒト以外の供給源から得られる抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を保有する抗体である。ヒト抗体についての本定義は、ヒト以外の抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0043】
「ヒト化」抗体とは、ヒト以外のHVR由来のアミノ酸残基及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体のことを指す。特定の実施形態において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、一般に2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、その可変ドメインにおいてHVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全ては、ヒト以外の抗体のそれに対応し、FRの全て又は実質的に全ては、ヒト抗体のそれに対応する。ヒト化抗体は、ヒト抗体から得られる抗体定常領域の少なくとも一部分を任意選択で含んでもよい。抗体の「ヒト化形態」、例えば、ヒト以外の抗体とは、ヒト化を受けた抗体のことを指す。
【0044】
「単離された」抗体とは、天然の環境成分から分離された抗体である。一部の実施形態において、抗体は、例えば、電気泳動的(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動[IEF]、キャピラリー電気泳動法)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)方法による決定で95%若しくは99%より高い純度で精製される。抗体純度を判定する方法の総説については、例えば、Flatmanら、J.Chromatogr.B 848:79~87頁(2007年)を参照のこと。
【0045】
本明細書では用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体のことを指し、即ち、集団を含む個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープを結合する。ただし例えば天然に存在する突然変異を含有する又はモノクローナル抗体調製の産生時に生じる起こり得るバリアント抗体を除く。そのようなバリアントは、一般的に少量存在する。異なる決定基(エピトープ)に対して作られた異なる抗体を一般に含むポリクローナル抗体調製とは対照的に、モノクローナル抗体調製の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して作られる。従って、修飾語句「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特徴を示し、何らかの特別な方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきでない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ方法、組み換えDNA方法、ファージディスプレイ方法及びヒト免疫グロブリン座の全て又は一部を含有するトランスジェニック動物を活用する方法を含むがこれに限定されない様々な技術によって作られてもよく、そのような方法及びモノクローナル抗体を作る他の典型的な方法については、本明細書に記述される。
【0046】
「裸の抗体」とは、タグにコンジュゲートされていない抗体のことを指す。
「親和性」とは、分子の単一の結合部位(例えば、抗体)とその結合パートナー(例えば、抗原)との非共有結合性相互作用の総計の強度のことを指す。特に明記しない限り、本明細書では、「結合親和性」とは、結合ペアのメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する内因性結合親和性のことを指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、解離定数(Kd)により一般に表すことができる。「親和性成熟した」抗体とは、1つ又は複数の超可変領域(HVR)中に1つ若しくは複数の改変を持つ抗体のことを指し、そのような改変を保有しない親抗体と比較して、そのような改変は、抗原に対する抗体の親和性を改善する。親和性は、本明細書に記述される方法を含めて、当業者に一般的な公知の方法によって測定され得る。結合親和性を測定する特定の例示的及び典型的な実施形態について、以下に記述される:
例えば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラスモン共鳴アッセイを使用して測定されてもよい。BIACORE(登録商標)2000又はBIACORE(登録商標)3000(BIAcore、Inc.Piscataway、NJ)アッセイは、およそ10反応単位(RU)の固定化抗原CM5チップを用いて37℃で実行される。カルボキシメチル化したデキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE、Inc.)は、供給元の指示書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化されてもよい。抗原を、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/mL(およそ0.2μM)に希釈し、その後流速5μL/分で注入して、およそ10反応単位(RU)の結合タンパク質を得ることができる。抗原の注入後、1Mエタノールアミン注入が、反応していない基をブロッキングする。動態測定のために、Fabの2倍段階希釈物(0.78nM~500nM)が、0.05%ポリソルベート20(TWEEN(登録商標)20[商標])界面活性剤を含むPBS(PBST)及び任意選択で、5%DMSO中で、流速およそ25μL/分で、37℃で注入される。結合速度(kon)及び解離速度(koff)は、結合及び解離センサグラムを同時に当てはめることにより単純な1対1のラングミュア結合モデル(BIACORE[登録商標]Evaluation Softwareバージョン3.2)を使用して算出される。平衡解離定数(Kd)は、比koff/konとして算出される。例えば、Chenら、J.Mol.Biol.293:865~881頁(1999年)を参照のこと。上の表面プラスモン共鳴アッセイによって会合速度が106M-1s-1を上回る場合、その後、会合速度は、ストップフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを持つ8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で測定する、抗原の濃度を増加させながらPBS、pH7.2中の20nM抗-抗原抗体(Fab形態)の蛍光放射強度の増大又は低下(励起=295nm;放射=340nm、16nm帯域通過)を37℃で測定する蛍光消光技術を使用することにより決定され得る。
【0047】
代替の方法において、Kdは、放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。一実施形態において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンとその抗原で実行される。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性は、滴定系列の未標識抗原の存在下で最小濃度の(125I)標識抗原とFabを平衡化し、次いで抗Fab抗体被覆プレートを用いて結合した抗原を捕捉することによって測定される(例えば、Chenら、J.Mol.Biol.293:865~881頁[1999年]を参照のこと)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)が、50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mL抗Fab捕捉抗体(Cappel Labs)で終夜コーティングされ、その後PBS中の2%(質量/容量)ウシ血清アルブミンを用いて室温(およそ23℃)で2~5時間ブロッキングされる。非吸着性プレート(Nunc#269620)中で、100pM又は26pM[125I]抗原が、目的のFabの段階希釈物と混合される(例えば、Prestaら、Cancer Res.57:4593~4599頁[1997年]における、抗VEGF抗体、Fab-12の判定と整合する)。目的のFabは、次いで終夜インキュベートされるが;インキュベーションをより長い間(例えば、約65時間)続けて、平衡が得られることを確実にしてもよい。その後、混合物は捕捉プレートへ移されて、室温で(例えば、1時間)インキュベートされる。溶液は、次いで除去され、プレートは、PBS中の0.1%ポリソルベート20(TWEEN20[登録商標])で8回洗浄される。プレートが乾燥したら、150μL/ウェルのシンチレーション試薬(MICROSCINT-20[商標];Packard)が添加され、プレートは、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター(Packard)で10分間計数される。最大結合20%以下を与える各Fabの濃度が、競合結合アッセイに使用するために選択される。
【0048】
抗体のパパイン消化は、それぞれ単一の抗原結合部位を持つ「Fab断片」と呼ばれる(「Fab部分」又は「Fab領域」とも称される)2つの同一の抗原結合断片、及び名前が容易に結晶化する能力を反映している残りの「Fc断片」(「Fc部分」又は「Fc領域」とも称される)を産生する。ヒトIgG Fc領域の結晶構造は、1980年代に決定された。IgG、IgA及びIgDアイソタイプにおいて、Fc領域は、抗体の2つの重鎖のCH2及びCH3ドメインから得られる2つの同一のタンパク質断片で構成され;IgM及びIgEアイソタイプにおいて、Fc領域は、各ポリペプチド鎖中の3つの重鎖定常ドメイン(CH2~4)を含有する。加えて、より小さい免疫グロブリン分子が天然に存在する又は人工的に構築されている。
【0049】
用語「Fab’断片」とは、Ig分子のヒンジ領域をさらに含むFab断片のことを指し、一方「F(ab’)2断片」は、化学的に連結されているか又はジスルフィド結合によって接続されているかいずれかの2つのFab’断片を含むと理解される。
【0050】
「単一ドメイン抗体(sdAb)」(Desmyterら[1996年]Nat.Structure Biol.3:803~811頁)及び「ナノボディ」は、単一のVHドメインしか含まず、「一本鎖Fv(scFv)」断片は、短いリンカーペプチドによって軽鎖可変ドメインにつながれた重鎖可変ドメインを含む(Hustonら[1988年]Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、5879~5883頁)。二価の一本鎖可変断片(di-scFv)は、2つのscFv(scFvA-scFvB)を連結することによって操作され得る。これは、2つのVH及び2つのVL領域を持つ単一ペプチド鎖を産生し、「直列型scFv」(VHA-VLA-VHB-VLB)を生ずることによって行われ得る。別の可能性は、2つの可変領域が同時に折りたたまるには短すぎるリンカーを持つscFvを作製し、scFvを二量体化させることである。通常、5残基の長さのリンカーを使用して、これら二量体を生成する。この型は、「ダイアボディ」として公知である。VH及びVLドメイン間のより一層短いリンカー(1又は2アミノ酸)は、単一特異的な三量体、いわゆる「トリアボディ」又は「トリバディ(tribadies)」の形成をもたらす。二重特異的ダイアボディは、それぞれ配置VHA-VLB及びVHB-VLA又はVLA-VHB及びVLB-VHAを持つ鎖を発現することによって形成される。一本鎖ダイアボディ(scDb)は、12~20アミノ酸、好ましくは14アミノ酸のリンカーペプチド(P)によって連結されるVHA-VLB及びVHB-VLA断片(VHA-VLB-P-VHB-VLA)を含む。「二重特異性T細胞誘導(BiTE)」は、異なる抗体の2つのscFvからなる融合タンパク質であり、scFvの一方はCD3受容体を介してT細胞に、他方は腫瘍特異性分子を介して腫瘍細胞に結合する(Kuferら、[2004年]Trends Biotechnol.22:238~244頁)。二重親和性再標的化分子(「DART」分子)は、C末端ジスルフィド架橋によってさらに安定化されたダイアボディである。
【0051】
従って、用語「抗体断片」とは、完全な抗体の部分のことを指し、好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体断片には、それだけには限らないがFab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片;ダイアボディ;トリアボディ、sdAb、ナノボディ、scFv、di-scFv、直列型scFv、scDb、BiTE及びDARTがある。
【0052】
本明細書では用語「コンジュゲート」とは、互いに近くに接近しており、共通の又は相互関係のある機能を果たすいくつかの個々の成分、一部若しくは部分を包括する全体のことを指す。コンジュゲートの個々の部分は、同じ又は異なる性質のものでもよく、即ち、その部分は、ヌクレオチド、アミノ酸、核酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物又は脂質などだがこれに限らない同じ、類似若しくは異なる化学物質で構成されてもよい。例えば、コンジュゲートは、いくつかの関連するペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質、或いはタンパク質及び1つ若しくは複数の核酸の混合物、又は1つ若しくは複数のタンパク質及び1つ若しくは複数の脂質及び/若しくは炭水化物の混合物を含んでもよい。同一、類似又は異なる化学物質の他の任意の組合せも包含されるものと理解される。コンジュゲートの個々の部分は、相互接続していても又はしていなくてもよい。一般に、コンジュゲートの個々の部分は、共有結合性又は非共有結合性結合によって接続される。用語「抗体コンジュゲート」とは、抗体と標識及び/又はタグを含むがこれに限定されない1つ若しくは複数の追加部分を含むコンジュゲートのことを指す。
【0053】
本開示の文脈において、「タグ」とは、タンパク質に結合される部分のことを指す。タグを、タンパク質に結合させてタンパク質を検出可能にしてもよく、又は前記タンパク質に結合させて特定の機能を持つタンパク質を得てもよい。適切な検出可能なタグには、それだけには限らないが、蛍光色素(例えばGFT及びそのバリアント、FITC、TRITC、フルオレセイン並びにローダミン、等)、高電子密度試薬(例えば金)、酵素(例えば、ELISAに一般的に使用される)、化学発光分子、電気化学発光分子、ビオチン、ジゴキシゲニン又はハプテン及び検出可能な若しくは検出可能にできる他の物質がある。例えば、抗体はビオチン化又はルテニル化されてもよい。特定の機能を持つタンパク質を生じるタグには、それだけには限らないが、結合対のパートナー、官能基、治療的薬剤(薬物)及び/又は細胞毒性薬剤(例えばドキソルビシン又は百日咳毒素などの毒素)がある。
【0054】
タグを抗体に結合させる方法は、当業者に周知であり、例えばHaugland(2003年)Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals、Molecular Probes,Inc.;Brinkley(1992年)Bioconjugate Chem.3:2頁;Garman、(1997年)Non-Radioactive Labeling:A Practical Approach、Academic Press、London;Means(1990年)Bioconjugate Chem.1:2頁;Glazerら、Chemical Modification of Proteins.Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(T.S.Work及びE.Work、編)American Elsevier Publishing Co.、New York;Lundblad,R.L.及びNoyes,C.M.(1984年)Chemical Reagents for Protein Modification、第I及びII巻、CRC Press、New York;Pfleiderer,G.(1985年)「Chemical Modification of Proteins」、Modern Methods in Protein Chemistry、H.Tschesche編、Walter DeGruyter、Berlin及びNew York;及びWong(1991年)Chemistry of Protein Conjugation and Cross-linking、CRC Press、Boca Raton、Fla.);DeLeon-Rodriguezら、Chem.Eur.J.10(2004年)1149~1155頁;Lewisら、Bioconjugate Chem.12(2001年)320~324頁;Liら、Bioconjugate Chem.13(2002年)110~115頁;Mierら、Bioconjugate Chem.16(2005年)240~237頁に豊富に記述されている。
【0055】
本開示の文脈において、「標識」とは、追加のタグを結合させることなくそれ自体を検出可能な様式で改変された構造を有する分子のことを指す。そのような標識の例は、それだけには限らないが放射性同位体又は安定同位体標識がある。
【0056】
同位体は、中性子の数が異なる特定の化学元素のバリアントである。所与の元素の全ての同位体は、各原子内に同数の陽子を有する。原子の核内の陽子の数は、原子番号と呼ばれ、中性(非イオン化)原子においては電子の数に等しい。各原子番号は、特定の元素を特定するが、同位体を特定せず;所与の元素の原子は、幅広い数の中性子を有し得る。核内の核子(陽子と中性子の両方)の数は、原子の質量数であり、所与の元素の各同位体は、異なる質量数を有する。例えば、炭素12(12C)、炭素13(13C)及び炭素14(14C)は、それぞれ質量数12、13及び14を持つ元素炭素の3つの同位体である。炭素の原子番号は6であり、これは全ての炭素原子が6つの陽子を有することを意味し、従って、これらの同位体の中性子数は、それぞれ6、7及び8つである。一部の同位体には放射能があり従って「放射性同位体」又は「不安定同位体」と呼ばれるが、他の同位体は、放射性に崩壊することが決して観察されず、「安定同位体」と呼ばれる。例えば、14Cは、炭素の放射性同位体であるが、12C及び13Cは、安定同位体である。天然に存在している炭素の98.9%は12C(「一般同位体」とも呼ばれる)であり、一方で1.1%だけが13C(「希少な同位体」とも呼ばれる)である。さらなる例は、2つの安定同位体、天然に存在する窒素の大多数を組成する窒素14(14N:99.6%、一般同位体)及び窒素15(15N:0.4%、希少な同位体)からなる窒素(N)である。酸素(O)には3つも安定同位体:それぞれ、99.76%(一般同位体)、0.04%(希少な同位体)及び0.20%(希少な同位体)の天然の分布を持つ16O、17O及び18Oがある。また、水素(H)には、3つの天然に存在する同位体があり、1H(プロチウムとも呼ばれる)、2H(ジュウテリウムとも呼ばれる)及び3H(トリチウムとも呼ばれる)を時には意味し、最初の2つは安定であり、3つ目は12.32年の半減期を有する。天然に存在するHの99.98%パーセントは、1H(一般同位体)であり、一方で天然に存在するHの0.02%だけが2H(希少な同位体)である。
【0057】
従って、用語「一般同位体」とは、天然に存在する同位体の大多数を組成する原子の同位体のことを指す。例えば、炭素の一般安定同位体は、12Cである。窒素の一般安定同位体は、14Nである。酸素の一般安定同位体は、16Oであり、水素の一般安定同位体は、1Hである。
【0058】
従って、用語「希少な同位体」とは、天然に存在する同位体の少数を組成する原子の同位体のことを指す。例えば、炭素の希少安定同位体は、13Cである。窒素の希少安定同位体は、15Nである。酸素の希少安定同位体は、17O又は18Oであり、水素の希少安定同位体は、2Hである。
【0059】
用語「比」とは、2つの数値間の関係のことを指す。本開示の文脈において、特に用語「比」は、タンパク質中の所与の元素の同位体のパーセンテージ間の関係のことを指す。用語「改変された比」は、天然の同位体分布と異なる特定の元素の同位体分布に関する。例えば、1.1%より多い13C原子がタンパク質中に存在する場合、例えばタンパク質中に存在する炭素の5%、10%又は20%が、13Cである場合、炭素同位体の比は改変されている。そのような場合、同位体分布は、98.9% 12C:1.1% 13Cから95% 12C:5% 13C、90% 12C:10% 13C又は80% 12C:20% 13Cに改変されている。さらなる例は窒素の同位体比であり、99.6% 14N:0.4% 15Nの比で天然に存在する。従って、窒素の改変された同位体比は、99.0% 14N:1.0% 15N、又は90% 14N:10% 15N、又は80% 14N:20% 15Nの比を含み得る。
【0060】
用語「増大された量の同位体」とは、所与の元素の特定の同位体の量の改変のことを指し、その量は、前記元素の天然に存在する同位体分布より多い。例えば、元素炭素の同位体13Cの場合、元素炭素の全存在量の1.1%で天然に存在し、13Cが、例えば元素炭素の全存在量の1.2%、2%、5%又は10%で存在する場合、その量は増大している。
【0061】
用語「減少された量の同位体」とは、所与の元素の特定の同位体の量の改変のことを指し、その量は、前記元素の天然に存在する同位体分布より少ない。例えば、元素炭素の同位体14Cが、元素炭素の全存在量の98.9%で天然に存在する場合に12Cが、例えば元素炭素の全存在量の98.8%、98%、95%又は90%で存在する場合、その量は減少している。
【0062】
本開示の文脈において、用語「配列決定」とは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の一次構造を決定することを指す。配列決定によって、配列決定された分子の原子レベルの構造の多くを簡潔に要約する配列として公知の記号的な線形描写を得られる。タンパク質配列決定を実行する方法には:エドマン分解、ペプチド質量フィンガープリント、質量分析及びプロテアーゼ消化がある。一般に、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の配列が一旦公知になれば、その配列は、容易に再現され得る。
【0063】
本開示の文脈において、用語「複写保護措置」とは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の再生産を、特にその配列の同定から防止するように設計される試みのことを指す。用語「配列決定からの保護」とは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の配列決定を防止するように設計される試みのことを指す。例えば、タンパク質の配列は、質量分析又はエドマン分解を使用して特定され得る。従って、用語複写保護措置とは、これら方法のいずれか、特に質量分析によるタンパク質配列の同定を防止するように設計される試みのことを指す。
【0064】
「質量分析」(「Mass Spec」又は「MS」)は、化学種をイオン化し、その質量対電荷比に基づいてイオンを選別する分析技術である。サンプル調製ステップの後、目的の分析物が、例えばガス又は液体クロマトグラフィーを使用してマトリックスから分離される。質量分析測定の場合、以下の3つのステップが実行される:
1.少量のサンプルが、電子の喪失によって通常陽イオンへとイオン化される。イオン化供給源には、それだけには限らないがエレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)がある。
【0065】
2.イオンが、その質量及び電荷に従って選別され、分離される。高電界非対称波形イオン移動度分析(FAIMS)が、イオンフィルターとして使用されてもよい。
3.分離されたイオンが次いで測定され、結果がチャート上に表示される。
【0066】
質量分析計は、僅かに質量の異なるイオンを分離し、検出するので、所与の元素の異なる同位体を容易に区別する。従って、質量分析は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を含むがこれに限定されない分析物の正確な質量決定及び特徴づけにとって重要な方法である。その適用は、タンパク質及びそれの翻訳後修飾の同定、タンパク質複合体、それのサブユニット及び機能的相互作用の解明並びにプロテオミクスにおけるタンパク質の全体的な測定を含む。質量分析によるペプチド又はタンパク質のde novo配列決定は、アミノ酸配列の予備知識なしに一般に実行され得る。
【0067】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサルなどヒト以外の霊長類)、ウサギ及び齧歯動物(例えば、マウス及びラット)があるが、これに限定されない。特定の実施形態において、個体又は対象は、ヒトである。
【0068】
本明細書において用語「疾患」、「障害」又は「徴候」は、互換的に使用され、異常な状態、特に疾病又は傷害などの異常な医学的状態のことを指し、組織、器官又は個体は、もはや効率的にその機能を果たし得ない。一般に、必ずしもそうではないが、疾患は、そのような疾患の存在を示す特定の症状又は症候に関連する。従って、そのような症状又は症候の存在は、疾患を患っている組織、器官又は個体の指標となり得る。これらの症状又は症候の改変は、そのような疾患の進行の指標となり得る。疾患の進行は、疾患の「悪化」又は「改善」を示し得るそのような症状若しくは症候の増減により一般に特徴づけられる。疾患の「悪化」は、組織、器官又は生物がその機能を効率的に果たす能力の減少によって特徴づけられ、疾患の「改善」は、組織、器官又は個体がその機能を効率的に果たす能力の増大によって一般に特徴づけられる。疾患を「発症する危険性がある」組織、器官又は個体は、健康な状態にあるが、疾患が現れる潜在性を示す。一般に、疾患を発症する危険性は、そのような疾患の初期若しくは弱い症候又は症状と関連する。そのような場合、疾患の発症は、処置によってまだ防止され得る。疾患の例には、それだけには限らないが、心疾患、外傷疾患、炎症性疾患、感染性疾患、皮膚状態、内分泌疾患、腸疾患、神経障害、関節疾患、遺伝的障害、自己免疫性疾患及び様々な型のがんがある。
【0069】
本発明の文脈において、用語「バイオマーカー」とは、生体系の生物学的状態のインジケーターとして使用されるその系内にある実体のことを指す。当業者において、用語「バイオマーカー」は、前記内在性実体(例えば抗体、核酸プローブ等、画像化システム)を検出するための手段にも時には適用される。本発明の文脈において、用語「バイオマーカー」は、実体に対してしか適用されず、検出手段に適用されてはならない。従って、バイオマーカーは、核酸(DNA、mRNA、miRNA、rRNA等)、タンパク質(細胞表面受容体、細胞質性タンパク質等)、代謝産物若しくはホルモン(血糖、インスリン、エストロゲン等)、別の分子の特定の修飾に特徴的な分子(例えばタンパク質上の糖部分又はホスホリル残基、ゲノムDNA上のメチル残基)又は生物によって内部に取り込まれる実体若しくはそのような実体の代謝産物など生体に存在する任意の種類の分子であり得る。
【0070】
「キット」は、少なくとも1つの試薬、例えば、障害を処置するための医薬又は本発明のバイオマーカー遺伝子若しくはタンパク質を特異的に検出するためのプローブを含む任意の製品(例えばパッケージ又は容器)である。製品は、本発明の方法を実行する単位として好ましくは宣伝、流通又は販売される。一般に、キットは、バイアル、管、など1つ又は複数の容器手段を厳重に閉じ込めて受けとめるために区分されている運搬手段をさらに含み得る。特に、容器手段のそれぞれは、第1の態様の方法に使用される別々の元素のうちの1つを含む。キットは、緩衝液、希釈剤を含むがこれに限定されないさらなる材料を含む1つ又は複数の他の容器、フィルター、注射針、注射器、及び使用指示書を含む添付文書をさらに含んでもよい。ラベルは、組成物が特定の適用に使用されることを示すために容器上に存在してもよく、in vivo又はin vitroいずれかの使用法も示してもよい。コンピュータプログラムコードは、光学的記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)などのデータ記憶媒体若しくは装置、又は直接コンピュータ若しくはデータ処理装置に提供されてもよい。さらに、キットは、較正目的で本明細書の他の場所に記述されるバイオマーカーの標準量を含んでもよい。
【0071】
「添付文書」は、治療的製品又は医薬の市販のパッケージに慣例上含まれる指示書のことを指すために使用され、適用、使用量、薬量、投与、禁忌事象、パッケージングされた製品と組み合わされる他の治療的製品、及び/又はそのような治療的製品若しくは医薬の使用に関する警告、等に関する情報を含有する。
実施形態
第1の態様において、本発明は、抗体及びタグを含む抗体コンジュゲートであって、抗体中に存在する1つ又は複数の元素は、前記1つ又は複数の元素の天然に存在する同位体比と異なる同位体比を呈し、天然において希少な同位体の量が増大されている、コンジュゲートに関する。従って、本発明は、抗体及びタグ中に存在する1つ又は複数の元素の同位体比が改変された抗体を含む抗体コンジュゲートに関する。特に、前記抗体は、1つ又は複数の元素の同位体比を有し、天然において希少な同位体の量は増大されている。
【0072】
第1の態様の実施形態において、元素は、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)からなる群から選択される。特定の実施形態において、元素は炭素(C)又は窒素(N)である。特定の実施形態において、元素は炭素(C)である。
【0073】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の、元素炭素(C)の安定同位体13Cを含む。従って、抗体は、天然に存在する13Cの量より多い同位体13Cの量を含み、即ち、その量は、炭素の全体の存在量の1.1%より多い。
【0074】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の、元素水素(H)の安定同位体2Hを含む。従って、抗体は、天然に存在する2Hの量より多い同位体2Hの量を含み、即ち、その量は、水素の全体の存在量の0.02%より多い。
【0075】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の、元素窒素(N)の安定同位体15Nを含む。従って、抗体は、天然に存在する15Nの量より多い同位体15Nの量を含み、即ち、その量は、窒素の全体の存在量の0.4%より多い。
【0076】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の、元素酸素(O)の安定同位体17O及び/又は18Oを含む。従って、抗体は、天然に存在する17O及び/又は18Oの量より多い同位体17O及び/又は18Oの量を含み、即ち、その量は、それぞれ酸素の全体の存在量の0.04%又は0.2%より多い。
【0077】
第1の態様の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素の原子の少なくとも4%に増大されている。
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの原子全体の存在量の6~90%に増大されている。
【0078】
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの原子全体の存在量の6~12%、特に8~10%に増大されている。
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの原子全体の存在量の30~70%、特に40~60%に増大されている。
【0079】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の安定同位体13Cを含み、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の4~20%に増大されている。特定の実施形態において、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の5~15%に増大されている。特定の実施形態において、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の6~13%に増大されている。従って、特定の実施形態において、13Cの量は、1.1%~少なくとも4%に増大されている。従って、同位体比は、98.9%の12C及び1.1%の13Cから最高96%の12C及び少なくとも4%の13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから95% 12C:5% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから94% 12C:6% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから87% 12C:13% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから85% 12C:15% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから80% 12C:20% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから33% 12C:67% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、抗体は、抗体中の炭素の全体の存在量の4~20%、特に5~15%、特に6%の同位体13Cの含有量を呈する。
【0080】
第1の態様の実施形態において、抗体は、増大された量の安定同位体15Nを含み、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の4~96%に増大されている。特定の実施形態において、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の5~95%に増大されている。特定の実施形態において、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の6~94%に増大されている。従って、特定の実施形態において、15Nの量は、0.4%~少なくとも4%に増大されている。従って、同位体比は、99.6%の14N及び0.4%の15Nから最高96%の14N及び少なくとも4%の15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから95% 14N:5% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから90% 14N:10% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから80% 14N:20% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから60% 14N:40% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、抗体は、抗体中の窒素の全体の存在量の同位体15Nの5~95%、特に10~90%、特に20~60%、特に30~50%の含有量を呈する。
【0081】
第1の態様の実施形態において、増大された量の希少安定同位体は、抗体の配列中に無作為に分配される。
第1の態様の実施形態において、増大された量の希少安定同位体は、抗体の非必須アミノ酸に取り込まれている。
【0082】
第1の態様の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、キメラ抗体(特にヒト化抗体)又は抗体断片である。第1の態様の実施形態において、抗体は単一特異的又は多重特異性抗体である。実施形態において、抗体は、抗体断片であり、抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片;ダイアボディ;トリアボディ、sdAb、ナノボディ、scFv、di-scFv、直列型scFv、scDb、BiTE、DART;及びこれら抗体断片のいずれかから形成される多重特異性抗体からなる群から選択される。
【0083】
第1の態様の実施形態において、抗体は単離された抗体である。
第1の態様の実施形態において、抗体は製薬抗体又は診断用抗体である。特に、抗体は、特定の疾患に特異的な1つ又は複数のバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。特に、抗体は、心疾患、外傷疾患、炎症性疾患、感染性疾患、皮膚状態、内分泌疾患、腸疾患、神経障害、関節疾患、遺伝的障害、自己免疫性疾患及び様々な型のがんからなる群から選択される疾患に特異的な1つ又は複数のバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。
【0084】
実施形態において、抗体は、心疾患を示すバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。特に、診断用抗体は、トロポニンC又はトロポニンT(省略:TnT又はTropT)に対して作られる。
【0085】
特定の実施形態において、抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば10-8M未満、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラスモン共鳴アッセイを使用して、又は放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)を使用して測定される。
【0086】
第1の態様の実施形態において、コンジュゲートに含まれるタグは、結合対のパートナー、官能基、治療的薬剤(薬物)、細胞毒性薬剤(例えばドキソルビシン又は百日咳毒素などの毒素)、フルオロフォア(フルオレセイン又はローダミンのような蛍光色素など)、化学発光タグ若しくは電気化学発光タグ、放射性タグ、画像化若しくは放射線治療目的の金属キレート複合体、酵素又はGFPのような蛍光タンパク質である。
【0087】
一実施形態において、タグは結合対のパートナーである。本明細書では結合対は、高い親和性、即ち1ナノモル又はより優れた親和性で互いに結合する2つのパートナーからなる。結合対の実施形態は、例えば、受容体とリガンド、ハプテンと抗ハプテン抗体からなる結合対、及び天然に存在する高親和性結合対に基づく結合対である。
【0088】
受容体-リガンド結合対の一例は、ステロイドホルモン受容体と対応するステロイドホルモンからなる対である。
本発明に適した結合対の1つの型は、ハプテンと抗ハプテン抗体結合対である。ハプテンは、100~2000ダルトン、好ましくは150~1000ダルトンの分子量を持つ有機分子である。そのような小分子は、担体分子にカップリングすることによって免疫原性になり得、抗ハプテン抗体は、標準的な手順により生成され得る。ハプテンは、ステロール、胆汁酸、性ホルモン、コルチコイド、カルデノリド、カルデノリドグリコシド、ブファジェノリド、ステロイドサポゲニン並びにステロイドアルカロイド、カルデノリド及びカルデノリドグリコシドを含む群から選択されてもよい。これらの実体クラスの代表例は、ジゴキシゲニン、ジギトキシゲニン、ギトキシゲニン、ストロファンチジン、ジゴキシン、ジギトキシン、ジトキシン(ditoxin)、ストロファンチンである。別の適切なハプテンは、例えばフルオレセインである。
【0089】
天然に存在する高親和性結合対に基づく結合対の例は、ビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体とアビジン若しくはストレプトアビジン及びFimGとDsF結合対である。ビオチン-(ストレプト)アビジン結合対は当業者に周知である。FimG-DsF結合対の基本的な原理は、例えばWO2012/028697に記述されている。
【0090】
一実施形態において、結合対は、ハプテンと抗ハプテン抗体、ビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体とアビジン若しくはストレプトアビジン、FimGとDsF、及び受容体とリガンドから選択される。
【0091】
一実施形態において、結合対は、ハプテンと抗ハプテン抗体及びビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体/アビジン若しくはストレプトアビジン、FimGとDsFから選択される。
【0092】
一実施形態において、結合対は、ビオチン(又はアミノビオチン、イミノビオチン又は脱硫ビオチンなどのビオチン類似体)とアビジン又はストレプトアビジンである。
一実施形態において、結合対は、ビオチンとストレプトアビジンからなる。
【0093】
一実施形態において、タグは、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸エステル、エポキシド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、アミノ基、ハロゲン、ヒドラジン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、マレイミド、アルキニル、アジド、イソシアン酸塩、イソチオシアナート及びホスホラミダイト、トランスシクロオクテン、テトラジンからなる群から選択される官能基である。
【0094】
一実施形態において、タグは、カルボン酸、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、アミノ基、ハロゲン、スルフヒドリル、マレイミド、アルキニル、アジド、イソシアン酸塩、イソチオシアナート及びホスホラミダイトからなる群から選択される官能基である。
【0095】
一実施形態において、タグは、治療的薬剤(薬物)であり、例えば抗体又はその抗原結合断片でもよい。リツキサン/マブセラ/リツキシマブ、2H7/オクレリズマブ、ゼバリン/イブリツモマブ、アーゼラ/オファツムマブ(CD20)、HLL2/エプラツズマブ、イノツズマブ(CD22)、ゼナパックス/ダクリズマブ、シムレクト/バシリキシマブ(CD25)、ハーセプチン/トラスツズマブ、ペルツズマブ(Her2/ERBB2)、マイロターグ/ゲムツズマブ(CD33)、ラプティバ/エファリズマブ(Cd11a)、アービタックス/セツキシマブ(EGFR、上皮成長因子受容体)、IMC-1121B(VEGF受容体2)、タイサブリ/ナタリズマブ(α4β1及びα4β7インテグリンのα4サブユニット)、レオプロ/アブシキシマブ(gpIIb-gpIIa及びαvβ3-インテグリン)、オルソクローンOKT3/ムロモナブ-CD3(CD3)、ベンリスタ/ベリムマブ(BAFF)、トーラックス/オテリキシズマブ(CD3)、ソリリス/エクリズマブ(C5補体タンパク質)、アクテムラ/トシリズマブ(IL-6R)、パノレクス/エドレコロマブ(EpCAM、上皮細胞接着分子)、CEA-CAM5/ラベツズマブ(CD66/CEA、癌胎児性抗原)、CT-11(PD-1、プログラム死-1 T細胞阻害性受容体、CD-d279)、H224G11(cMet受容体)、SAR3419(CD19)、IMC-A12/シクスツムマブ(IGF-1R、インシュリン様成長因子1受容体)、MEDI-575(PDGF-R、血小板由来増殖因子受容体)、CP-675、206/トレメリムマブ(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)、RO5323441(胎盤成長因子又はPGF)、HGS1012/マパツムマブ(TRAIL-R1)、SGN-70(CD70)、ベドチン(SGN-35)/ブレンツキシマブ(CD30)及びARH460-16-2(CD44)など、細胞表面分子に対して作られたいくつかの治療抗体及びそのリガンドが公知である。
【0096】
さらなる実施形態において、タグは、(i)微小管阻害剤、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAインターカレーターとして機能し得る化学療法薬;(ii)酵素的に機能し得るタンパク質毒素;(iii)治療的放射性同位体、から選択される細胞毒性薬剤である。
【0097】
化学療法薬には、マイタンシノイド、オーリスタチン、ドラスタチン、トリコテセン、CC1065、カリケアマイシン、及び他のエンジイン抗生物質、タキサン、アントラサイクリン並びに立体異性体、アイソスター、その類似体又は誘導体があるが、これに限定されない。
【0098】
タンパク質毒素には、それだけには限らないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の結合活性がない断片、外毒素A鎖(緑膿菌[Pseudomonas aeruginosa]由来)、リシンA鎖(Vitettaら[1987年]Science、238:1098頁)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII及びPAP-5)、ゴーヤ阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセン(WO93/21232)がある。
【0099】
治療的放射性同位体には、32P、33P、90Y、125I、131I、131In、153Sm、186Re、188Re、211At、212B、212Pb及びLuの放射活性同位体がある。放射性同位体は、公知の方法で取り込むことができる(Frakerら[1978年]Biochem.Biophys.Res.Commun.80:49~57頁;「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」Chatal、CRC Press 1989年)。炭素14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、複合体に放射性核種をコンジュゲートするのに典型的なキレート化剤である(WO94/11026)。
【0100】
一実施形態において、タグは、(i)検出可能なシグナルを与える;(ii)第2の標識と相互作用させて、第1又は第2の標識によって得られる検出可能なシグナルを修飾し、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を与える;(iii)電荷、疎水性、形状又は他の物理的パラメータによって移動度、例えば、電気泳動的移動度若しくは細胞透過性に影響を及ぼす、又は(iv)捕捉部分を提供して、例えばイオン複合体形成をモジュレートするといった機能を果たし得る。
【0101】
検出可能なシグナルを生成する数多くのタグが、利用可能であり、以下のカテゴリーに一般に分類され得る:
(a)蛍光タグ又はフルオロフォア、
(b)化学発光色素(Briggsら、「Synthesis of Functionalized Fluorescent Dyes and Their Coupling to Amines and Amino Acids」、J.Chem.Soc.Perkin-Trans.1[1997年]1051~1058頁)、及び
(c)電気化学発光タグ。
【0102】
蛍光タグ又はフルオロフォアには、希土類キレート(ユウロピウムキレート)、フルオレセイン型タグ(FITC、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセインを含む);TAMRAを含めたローダミン型タグ;ダンシル;リサミン;シアニン;フィコエリトリン;テキサスレッド;及びその類似体がある。蛍光タグは、例えば上記、Current Protocols in Immunologyに開示されている技術を使用してコンジュゲートされてもよい。蛍光色素及び蛍光タグ試薬には、例えばInvitrogen/Molecular Probes(Eugene、Oregon、USA)及びPierce Biotechnology,Inc.(Rockford、Ill)から市販されているものがある。
【0103】
化学発光を生成するタグの異なるクラスには、ルミノール、アクリジニウム化合物、セレンテラジン並びに類似体、ジオキセタン、ペルオキシシュウ酸及びその誘導体に基づく系がある。免疫診断手順の場合、アクリジニウムに基づくタグが主に使用される(詳細な概要は、Dodeigne C.ら、Talanta 51[2000年]415~439頁にある)。
【0104】
電気化学発光タグとして主要な妥当なタグは、それぞれルテニウム及びイリジウムに基づく電気化学発光複合体である。電気化学発光(ECL)は、高感度且つ選択的な方法として分析適用に非常に有用であると立証された。それは、化学発光分析の分析優位性(バックグラウンド光信号がない)を、電極電位を印可することによる反応制御の容易さと組み合わせている。一般に、液相又は液固界面においてTPA(トリプロピルアミン)により再生するルテニウム複合体、特に[Ru(Bpy)3]2+(およそ620nmで光子を放出する)が、ECL標識として使用される。最近では、イリジウムに基づくECL標識も記述されている(WO2012107419[A1])。
【0105】
画像化及び治療目的用の標識として適した金属キレート複合体は、当業者に周知である(米国特許出願公開第2010/0111856号;米国特許第5,342,606号;第5,428,155号;第5,316,757号;第5,480,990号;第5,462,725号;第5,428,139号;第5,385,893号;第5,739,294号;第5,750,660号;第5,834,456号;Hnatowichら、J.Immunol.Methods 65[1983年]147~157頁;Mearesら、Anal.Biochem.142[1984年]68~78頁;Mirzadehら、Bioconjugate Chem.1[1990年]59~65頁;Mearesら、J.Cancer[1990年]、補遺10:21~26頁;Izardら、Bioconjugate Chem.3[1992年]346~350頁;Nikulaら、Nucl.Med.Biol.22[1995年]387~90頁;Cameraら、Nucl.Med.Biol.20[1993年]955~62頁;Kukisら、J.Nucl.Med.39[1998年]2105~2110頁;Verelら、J.Nucl.Med.44[2003年]1663~1670頁;Cameraら、J.Nucl.Med.21[1994年]640~646頁;Rueggら、Cancer Res.50[1990年]4221~4226頁;Verelら、J.Nucl.Med.44[2003年]1663~1670頁;Leeら、Cancer Res.61[2001年]4474~4482頁;Mitchellら、J.Nucl.Med.44[2003年]1105~1112頁;Kobayashiら、Bioconjugate Chem.10[1999年]103~111頁;Miedererら、J.Nucl.Med.45[2004年]129~137頁;DeNardoら、Clinical Cancer Research 4[1998年]2483~90頁;Blendら、Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals 18[2003年]355~363頁;NikulaらJ.Nucl.Med.40[1999年]166~76頁;Kobayashiら、J.Nucl.Med.39[1998年]829~36頁;Mardirossianら、Nucl.Med.Biol.20[1993年]65~74頁;Roselliら、Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals、14[1999年]209~20頁)。
【0106】
酵素も、タグとして使用され得る。様々な酵素-基質標識系が、利用可能である。酵素は、様々な技術を使用して測定され得る色素を生成する基質の化学的改変を一般に触媒する。例えば、酵素は、基質における変色を触媒してもよく、その変色は、分光測光法で測定され得る。別法として、酵素は、基質の蛍光又は化学発光を改変してもよい。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起され、測定され得る光(例えば化学発光測定装置を使用する)を次いで放射してもよく、又はエネルギーを蛍光アクセプターに供与する。酵素的標識の例には、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ(AP)、3-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼなど)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ、などがある。
【0107】
酵素-基質組合せの例(米国特許第4,275,149号;第4,318,980号も参照のこと)には、例えば
(i)ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と基質である過酸化水素、過酸化水素は、色素前駆体(例えば、オルトフェニレンジアミン[OPD]又は3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン塩酸塩[TMB])を酸化する;
(ii)アルカリホスファターゼ(AP)と色素生成基質であるパラニトロフェニルリン酸;及び
(iii)3-D-ガラクトシダーゼ(3-D-Gal)と色素生成基質(例えば、p-ニトロフェニル-(3-D-ガラクトシダーゼ))又は蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリル-(3-D-ガラクトシダーゼ)がある。
【0108】
第2の態様において、本発明は、含まれている抗体の配列決定を防止するための、本発明の第1の態様に関して上で詳細に記載したコンジュゲートの使用に関する。
特定の実施形態において、コンジュゲートを使用して、質量分析による含まれている抗体の配列決定を防止する。
【0109】
第3の態様において、本発明は、抗体の配列を決定から、特に配列決定から保護するための安定同位体標識の使用に関する。特定の実施形態において、安定同位体標識を使用して、質量分析による抗体の配列決定を防止する。第3の態様の特定の実施形態において、安定同位体標識は、抗体、特に抗体コンジュゲートに含まれる抗体内の特定の元素の安定同位体の量を改変、特に増大させることによって作製される。
【0110】
第3の態様の実施形態において、安定同位体が改変され、特に増大されている元素は、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)からなる群から選択される。特定の実施形態において、元素は炭素(C)又は窒素(N)である。特定の実施形態において、元素は炭素(C)である。
【0111】
第3の態様の実施形態において、増大された量の、元素炭素(C)の安定同位体13Cを使用して、抗体の配列を決定から保護する。従って、天然に存在する13Cの量より多い安定同位体13Cの量、即ち炭素の全体の存在量の1.1%より多い量を使用して、抗体の配列を決定から保護する。第3の態様の実施形態において、増大された量の、元素水素(H)の安定同位体2Hを使用して、抗体の配列を決定から保護する。従って、天然に存在する2Hの量より多い安定同位体2Hの量、即ち水素の全体の存在量の0.02%より多い量を使用して、抗体の配列を決定から保護する。
【0112】
第3の態様の実施形態において、増大された量の、元素窒素(N)の安定同位体15Nを使用して、抗体の配列を決定から保護する。従って、天然に存在する15Nの量より多い安定同位体15Nの量、即ち窒素の全体の存在量の0.4%より多い量を使用して、抗体の配列を決定から保護する。
【0113】
第3の態様の実施形態において、増大された量の、元素酸素(O)の安定同位体17O及び/又は18Oを使用して、抗体の配列を決定から保護する。従って、天然に存在する17O及び/又は18Oの量より多い安定同位体17O及び/又は18Oの量、即ち酸素の全体の存在量のそれぞれ0.04%又は0.2%より多い量を使用して、抗体の配列を決定から保護する。
【0114】
第3の態様の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素の原子の少なくとも4%に増大されている。
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素全体の存在量の6~90%に増大されている。
【0115】
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素全体の存在量の6~12%、特に8~10%に増大されている。
特定の実施形態において、天然において希少な同位体の量は、抗体中のそれぞれの元素全体の存在量の30~70%、特に40~60%に増大されている。
【0116】
第3の態様の実施形態において、増大された量の安定同位体13Cが使用され、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の4~20%に増大されている。特定の実施形態において、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の5~15%に増大されている。特定の実施形態において、13Cの量は、抗体中の炭素の全体の存在量の6~13%に増大されている。従って、特定の実施形態において、13Cの量は、1.1%~少なくとも4%に増大されている。従って、同位体比は、98.9%の12C及び1.1%の13Cから最高96%の12C及び少なくとも4%の13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから95% 12C:5% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから94% 12C:6% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから87% 12C:13% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから85% 12C:15% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから80% 12C:20% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、比は、98.9% 12C:1.1% 13Cから33% 12C:67% 13Cまで改変される。特定の実施形態において、抗体は、抗体中の炭素の全体の存在量の4~20%、特に5~15%、特に6%の同位体13Cの含有量を呈する。
【0117】
第3の態様の実施形態において、増大された量の安定同位体15Nが使用され、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の4~96%に増大されている。特定の実施形態において、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の5~95%に増大されている。特定の実施形態において、15Nの量は、抗体中の窒素の全体の存在量の6~94%に増大されている。従って、特定の実施形態において、15Nの量は、0.4%~少なくとも4%に増大されている。従って、同位体比は、99.6%の14N及び0.4%の15Nから最高96%の14N及び少なくとも4%の15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから95% 14N:5% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから90% 14N:10% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから80% 14N:20% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、比は、99.6% 14N:0.4% 15Nから60% 14N:40% 15Nまで改変される。特定の実施形態において、抗体は、抗体中の窒素の全体の存在量の同位体15Nの5~95%、特に10~90%、特に20~60%、特に30~50%の含有量を呈する。
【0118】
第3の態様の実施形態において、増大された量の希少安定同位体は、抗体の配列中に無作為に分配される。
第3の態様の実施形態において、増大された量の希少安定同位体は、抗体の非必須アミノ酸に取り込まれている。
【0119】
第3の態様の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、キメラ抗体(特にヒト化抗体)又は抗体断片である。第3の態様の実施形態において、抗体は単一特異的又は多重特異性抗体である。実施形態において、抗体は、抗体断片であり、抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片;ダイアボディ;トリアボディ、sdAb、ナノボディ、scFv、di-scFv、直列型scFv、scDb、BiTE、DART;及びこれら抗体断片のいずれかから形成される多重特異性抗体からなるリストから選択される。
【0120】
第3の態様の実施形態において、抗体は単離された抗体である。
第3の態様の実施形態において、抗体は製薬抗体又は診断用抗体である。特に、抗体は、特定の疾患に特異的な1つ又は複数のバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。特に、抗体は、心疾患、外傷疾患、炎症性疾患、感染性疾患、皮膚状態、内分泌疾患、腸疾患、神経障害、関節疾患、遺伝的障害、自己免疫性疾患及び様々な型のがんからなる群から選択される疾患に特異的な1つ又は複数のバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。
【0121】
実施形態において、抗体は、心疾患を示すバイオマーカーに特異的な診断用抗体である。特に、診断用抗体は、トロポニンC又はTに対して作られる。
特定の実施形態において、抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば10-8M未満、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラスモン共鳴アッセイを使用して、又は放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)を使用して測定される。
【0122】
第3の態様の実施形態において、複合体に含まれるタグは、結合対のパートナー、官能基、治療的薬剤(薬物)、細胞毒性薬剤(例えばドキソルビシン又は百日咳毒素などの毒素)、フルオロフォア(フルオレセイン又はローダミンのような蛍光色素など)、化学発光タグ若しくは電気化学発光タグ、放射性タグ、画像化若しくは放射線治療目的の金属キレート複合体、酵素又はGFPのような蛍光タンパク質である。
【0123】
一実施形態において、タグは結合対のパートナーである。本明細書では結合対は、高い親和性、即ち1ナノモル又はより優れた親和性で互いに結合する2つのパートナーからなる。結合対の実施形態は、例えば、受容体とリガンド、ハプテンと抗ハプテン抗体からなる結合対、及び天然に存在する高親和性結合対に基づく結合対である。
【0124】
受容体-リガンド結合対の一例は、ステロイドホルモン受容体と対応するステロイドホルモンからなる対である。
本発明に適した結合対の1つの型は、ハプテンと抗ハプテン抗体結合対である。ハプテンは、100~2000ダルトン、好ましくは150~1000ダルトンの分子量を持つ有機分子である。そのような小分子は、担体分子にカップリングすることによって免疫原性になり得、抗ハプテン抗体は、標準的な手順により生成され得る。ハプテンは、ステロール、胆汁酸、性ホルモン、コルチコイド、カルデノリド、カルデノリドグリコシド、ブファジェノリド、ステロイドサポゲニン並びにステロイドアルカロイド、カルデノリド及びカルデノリドグリコシドを含む群から選択されてもよい。これらの実体クラスの代表例は、ジゴキシゲニン、ジギトキシゲニン、ギトキシゲニン、ストロファンチジン、ジゴキシン、ジギトキシン、ジトキシン、ストロファンチンである。別の適切なハプテンは、例えばフルオレセインである。
【0125】
天然に存在する高親和性結合対に基づく結合対の例は、ビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体とアビジン若しくはストレプトアビジン及びFimGとDsF結合対である。ビオチン-(ストレプト)アビジン結合対は当業者に周知である。FimG-DsF結合対の基本的な原理は、例えばWO2012/028697に記述されている。
【0126】
一実施形態において、結合対は、ハプテンと抗ハプテン抗体、ビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体とアビジン若しくはストレプトアビジン、FimGとDsF、及び受容体とリガンドから選択される。
【0127】
一実施形態において、結合対は、ハプテンと抗ハプテン抗体及びビオチン又はアミノビオチン、イミノビオチン若しくは脱硫ビオチンなどのビオチン類似体/アビジン若しくはストレプトアビジン、FimGとDsFから選択される。
【0128】
一実施形態において、結合対は、ビオチン(又はアミノビオチン、イミノビオチン又は脱硫ビオチンなどのビオチン類似体)とアビジン又はストレプトアビジンである。
一実施形態において、結合対は、ビオチンとストレプトアビジンからなる。
【0129】
一実施形態において、タグは、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸エステル、エポキシド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、アミノ基、ハロゲン、ヒドラジン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、マレイミド、アルキニル、アジド、イソシアン酸塩、イソチオシアナート及びホスホラミダイト、トランスシクロオクテン、テトラジンからなる群から選択される官能基である。
【0130】
一実施形態において、タグは、カルボン酸、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、アミノ基、ハロゲン、スルフヒドリル、マレイミド、アルキニル、アジド、イソシアン酸塩、イソチオシアナート及びホスホラミダイトからなる群から選択される官能基である。
【0131】
一実施形態において、タグは、治療的薬剤(薬物)であり、例えば抗体又はその抗原結合断片でもよい。リツキサン/マブセラ/リツキシマブ、2H7/オクレリズマブ、ゼバリン/イブリツモマブ、アーゼラ/オファツムマブ(CD20)、HLL2/エプラツズマブ、イノツズマブ(CD22)、ゼナパックス/ダクリズマブ、シムレクト/バシリキシマブ(CD25)、ハーセプチン/トラスツズマブ、ペルツズマブ(Her2/ERBB2)、マイロターグ/ゲムツズマブ(CD33)、ラプティバ/エファリズマブ(Cd11a)、アービタックス/セツキシマブ(EGFR、上皮成長因子受容体)、IMC-1121B(VEGF受容体2)、タイサブリ/ナタリズマブ(α4β1及びα4β7インテグリンのα4サブユニット)、レオプロ/アブシキシマブ(gpIIb-gpIIa及びαvβ3-インテグリン)、オルソクローンOKT3/ムロモナブ-CD3(CD3)、ベンリスタ/ベリムマブ(BAFF)、トーラックス/オテリキシズマブ(CD3)、ソリリス/エクリズマブ(C5補体タンパク質)、アクテムラ/トシリズマブ(IL-6R)、パノレクス/エドレコロマブ(EpCAM、上皮細胞接着分子)、CEA-CAM5/ラベツズマブ(CD66/CEA、癌胎児性抗原)、CT-11(PD-1、プログラム死-1 T細胞阻害性受容体、CD-d279)、H224G11(cMet受容体)、SAR3419(CD19)、IMC-A12/シクスツムマブ(IGF-1R、インシュリン様成長因子1受容体)、MEDI-575(PDGF-R、血小板由来増殖因子受容体)、CP-675、206/トレメリムマブ(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)、RO5323441(胎盤成長因子又はPGF)、HGS1012/マパツムマブ(TRAIL-R1)、SGN-70(CD70)、ベドチン(SGN-35)/ブレンツキシマブ(CD30)及びARH460-16-2(CD44)など、細胞表面分子に対して作られたいくつかの治療抗体及びそのリガンドが公知である。
【0132】
さらなる実施形態において、タグは、(i)微小管阻害剤、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAインターカレーターとして機能し得る化学療法薬;(ii)酵素的に機能し得るタンパク質毒素;(iii)治療的放射性同位体、から選択される細胞毒性薬剤である。
【0133】
化学療法薬には、マイタンシノイド、オーリスタチン、ドラスタチン、トリコテセン、CC1065、カリケアマイシン、及び他のエンジイン抗生物質、タキサン、アントラサイクリン並びに立体異性体、アイソスター、その類似体又は誘導体があるが、これに限定されない。
【0134】
タンパク質毒素には、それだけには限らないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の結合活性がない断片、外毒素A鎖(緑膿菌由来)、リシンA鎖(Vitettaら[1987年]Science、238:1098頁)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファサルシン、シナアブラギリタンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPII及びPAP-5)、ゴーヤ阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセン(WO93/21232)がある。
【0135】
治療的放射性同位体には、32P、33P、90Y、125I、131I、131In、153Sm、186Re、188Re、211At、212B、212Pb及びLuの放射活性同位体がある。放射性同位体は、公知の方法で取り込むことができる(Frakerら[1978年]Biochem.Biophys.Res.Commun.80:49~57頁;「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」Chatal、CRC Press 1989年)。炭素14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、複合体に放射性核種をコンジュゲートするのに典型的なキレート化剤である(WO94/11026)。
【0136】
一実施形態において、タグは、(i)検出可能なシグナルを与える;(ii)第2の標識と相互作用させて、第1又は第2の標識によって得られる検出可能なシグナルを修飾し、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を与える;(iii)電荷、疎水性、形状又は他の物理的パラメータによって移動度、例えば、電気泳動的移動度若しくは細胞透過性に影響を及ぼす、又は(iv)捕捉部分を提供して、例えばイオン複合体形成をモジュレートするといった機能を果たし得る。
【0137】
検出可能なシグナルを生成する数多くのタグが、利用可能であり、以下のカテゴリーに一般に分類され得る:
(a)蛍光タグ又はフルオロフォア、
(b)化学発光色素(Briggsら、「Synthesis of Functionalized Fluorescent Dyes and Their Coupling to Amines and Amino Acids」、J.Chem.Soc.Perkin-Trans.1[1997年]1051~1058頁)、及び
(c)電気化学発光タグ。
【0138】
蛍光タグ又はフルオロフォアには、希土類キレート(ユウロピウムキレート)、フルオレセイン型タグ(FITC、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセインを含む);TAMRAを含めたローダミン型タグ;ダンシル;リサミン;シアニン;フィコエリトリン;テキサスレッド;及びその類似体がある。蛍光タグは、例えば上記、Current Protocols in Immunologyに開示されている技術を使用してコンジュゲートされてもよい。蛍光色素及び蛍光タグ試薬には、例えばInvitrogen/Molecular Probes(Eugene、Oregon、USA)及びPierce Biotechnology,Inc.(Rockford、Ill)から市販されているものがある。
【0139】
化学発光を生成するタグの異なるクラスには、ルミノール、アクリジニウム化合物、セレンテラジン並びに類似体、ジオキセタン、ペルオキシシュウ酸及びその誘導体に基づく系がある。免疫診断手順の場合、アクリジニウムに基づくタグが主に使用される(詳細な概要は、Dodeigne C.ら、Talanta 51[2000年]415~439頁にある)。
【0140】
電気化学発光タグとして主要な妥当なタグは、それぞれルテニウム及びイリジウムに基づく電気化学発光複合体である。電気化学発光(ECL)は、高感度且つ選択的な方法として分析適用に非常に有用であると立証された。それは、化学発光分析の分析優位性(バックグラウンド光信号がない)を、電極電位を印可することによる反応制御の容易さと組み合わせている。一般に、液相又は液固界面においてTPA(トリプロピルアミン)により再生するルテニウム複合体、特に[Ru(Bpy)3]2+(およそ620nmで光子を放出する)が、ECL標識として使用される。最近では、イリジウムに基づくECL標識も記述されている(WO2012107419[A1])。
【0141】
画像化及び治療目的用の標識として適した金属キレート複合体は、当業者に周知である(米国特許出願公開第2010/0111856号;米国特許第5,342,606号;第5,428,155号;第5,316,757号;第5,480,990号;第5,462,725号;第5,428,139号;第5,385,893号;第5,739,294号;第5,750,660号;第5,834,456号;Hnatowichら、J.Immunol.Methods 65[1983年]147~157頁;Mearesら、Anal.Biochem.142[1984年]68~78頁;Mirzadehら、Bioconjugate Chem.1[1990年]59~65頁;Mearesら、J.Cancer[1990年]、補遺10:21~26頁;Izardら、Bioconjugate Chem.3[1992年]346~350頁;Nikulaら、Nucl.Med.Biol.22[1995年]387~90頁;Cameraら、Nucl.Med.Biol.20[1993年]955~62頁;Kukisら、J.Nucl.Med.39[1998年]2105~2110頁;Verelら、J.Nucl.Med.44[2003年]1663~1670頁;Cameraら、J.Nucl.Med.21[1994年]640~646頁;Rueggら、Cancer Res.50[1990年]4221~4226頁;Verelら、J.Nucl.Med.44[2003年]1663~1670頁;Leeら、Cancer Res.61[2001年]4474~4482頁;Mitchellら、J.Nucl.Med.44[2003年]1105~1112頁;Kobayashiら、Bioconjugate Chem.10[1999年]103~111頁;Miedererら、J.Nucl.Med.45[2004年]129~137頁;DeNardoら、Clinical Cancer Research 4[1998年]2483~90頁;Blendら、Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals 18[2003年]355~363頁;NikulaらJ.Nucl.Med.40[1999年]166~76頁;Kobayashiら、J.Nucl.Med.39[1998年]829~36頁;Mardirossianら、Nucl.Med.Biol.20[1993年]65~74頁;Roselliら、Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals、14[1999年]209~20頁)。
【0142】
酵素も、タグとして使用され得る。様々な酵素-基質標識系が、利用可能である。酵素は、様々な技術を使用して測定され得る色素を生成する基質の化学的改変を一般に触媒する。例えば、酵素は、基質における変色を触媒してもよく、その変色は、分光測光法で測定され得る。別法として、酵素は、基質の蛍光又は化学発光を改変してもよい。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起され、測定され得る光(例えば化学発光測定装置を使用する)を次いで放射してもよく、又はエネルギーを蛍光アクセプターに供与する。酵素的標識の例には、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ(AP)、3-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼなど)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ、などがある。
【0143】
酵素-基質組合せの例(米国特許第4,275,149号;第4,318,980号も参照のこと)には、例えば
(i)ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)と基質である過酸化水素、過酸化水素は、色素前駆体(例えば、オルトフェニレンジアミン[OPD]又は3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン塩酸塩[TMB])を酸化する;
(ii)アルカリホスファターゼ(AP)と色素生成基質であるパラニトロフェニルリン酸;及び
(iii)3-D-ガラクトシダーゼ(3-D-Gal)と色素生成基質(例えば、p-ニトロフェニル-(3-D-ガラクトシダーゼ))又は蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリル-(3-D-ガラクトシダーゼ)がある。
【0144】
第4の態様において、本発明は、バイオマーカーの存在及び/又は量を決定するための、本発明の第1の態様に関して上で規定した少なくとも1つのコンジュゲートを含むキットに関する。特定の実施形態において、キットは、本発明の第1の態様に関して上で規定した2つのコンジュゲートを含む。
【0145】
特定の実施形態において、前記キットは、本発明の第1の態様に規定される第1及び第2のコンジュゲートを含む。実施形態において、第1及び第2のコンジュゲートは、同じ抗原に結合する能力がある。特に、前記第1及び前記第2のコンジュゲートの結合は、互いに干渉しない。実施形態において、前記コンジュゲートの一方は、固相に結合される又は結合する能力があり、前記抗体又はその抗原結合断片の他方は、検出可能に標識される。従って、第4の態様において、本発明は、バイオマーカーのレベルを測定するキットに関し、キットは:第1及び第2のコンジュゲートを含み、前記第1及び前記第2のコンジュゲートは、前記抗原に結合する能力があり、前記第1及び前記第2のコンジュゲートの結合は、互いに干渉せず、前記コンジュゲートの一方は、固相に結合にされる又は結合する能力があり、前記コンジュゲートの他方は、検出可能にタグ付けされる。
【0146】
実施形態において、キットは、バイアル及び管からなる群から選択される1つ又は複数の容器手段を厳重に閉じ込めて受けとるために区分されている運搬手段をさらに含む。特定の実施形態において、容器手段は、使用されるいくつかの別々の元素のうちの1つ、特に緩衝液、希釈剤からなる群から選択されるもの、フィルター、注射針、注射器、及び使用指示書を含む添付文書をさらに含む。ラベルは、組成物が特定の適用に使用されることを示すために容器上に存在してもよく、in vivo又はin vitroいずれかの使用法も示してもよい。
【0147】
特定の実施形態において、キットは、少なくとも1つの容器、前記少なくとも1つの容器上のラベル及び前記少なくとも1つの容器中に含有される組成物を含み、組成物は、バイオマーカーに結合する少なくとも1つのコンジュゲートを含む。特に、前記容器上のラベルは、組成物を使用して、サンプル中のバイオマーカーの存在を評価し得ることを示す。特に、キットは、特定のサンプル型内のバイオマーカーの存在を評価するコンジュゲートを使用する指示書を含む。キットは、サンプルを調製し、サンプルにコンジュゲートを適用するための一組の指示書及び材料をさらに含み得る。
【0148】
特定の実施形態において、キットは、第1の態様の文脈で上で規定した第1のコンジュゲート及び第2のコンジュゲートを含む容器を1つ含む。
特定の実施形態において、キットは2つの容器を含み、第1の容器は第1のコンジュゲートを含み、第2の容器は、第1の態様の文脈で上で規定した第2のコンジュゲートを含む。
【0149】
さらなる実施形態において、キットは、1つ又は複数の緩衝液(例えば、ブロッキング緩衝液、洗浄緩衝液、基質緩衝液等)、酵素的標識によって化学的に改変される基質(例えば、クロモゲン)などの他の試薬、エピトープ賦活溶液、対照サンプル(陽性及び/又は陰性対照)、対照スライド、等からなる群から選択される成分も含む。キットは、キットを使用して入手される結果を解釈する指示書も含み得る。
【実施例】
【0150】
実施例1:抗体標識化及びMass Spec分析
抗体「MAK11-7、抗トロポニンT」を、通常又はC13-グルコース富化RPMI培地(Gibcoカタログ番号31870-025)、+2g/Lグルコース(通常又は13C)及び5%ウシ胎仔血清の存在下でマウスハイブリドーマクローン(骨髄腫細胞[P3x63-Ag8.653]に融合させたマウス脾臓の単一細胞)を利用して発現させた。対応するハイブリドーマ細胞を、37℃、6% CO2で7日間インキュベートした。
【0151】
細胞を採取した後、所望の抗体を含有する培養上清を単離し、直列型MS/MS分析用として移した。詳細には、FCSマトリックス(ウシ胎仔血清)中の抗体を、DTTを用いて50℃で30分間還元し、遊離SH基を、暗所で、室温でカルバミドメチル化し、トリプシンを使用して37℃で18時間消化した。ペプチドを、合計実行時間45分間を有するアセトニトリル勾配溶出IP-RP-HPLCを用いてクロマトグラフィーにより分離し、Thermofisher製FTICRを使用してデータ依存的直列型MS/MS様式で分析した(
図1)。実験データを、理論的に算出されるデータと実験データを比較するMascot(データベース検索アルゴリズム)を使用して評価した。データを、標準的なパラメータを使用して標的配列及び公知の「混入物」を含む、組織内で生成したデータベースに対して検索した(酵素:トリプシン;切断不良の最大数=2;前駆体質量許容差:10ppm;断片許容差:0.8m/z;静的修飾:カルバミドメチル化;可変修飾:酸化)。入手した結果は、ペプチド配列の確率に基づくリストとして表される。
図1Aに示すように、軽鎖及び重鎖のそれぞれで38%が、明確に特定できた。対照的に、C13標識抗体の重鎖の2%及び軽鎖の0%しか、明確に特定できなかった(
図1Bを参照のこと)。
【0152】
重鎖のトリプシン消化は、例えばペプチド断片NTQPIMDTDGSYFVYSKを生成する。二重正荷電[M+2H]
2+ペプチドの
12Cと
13Cの異なる比の同位体分布の理論的な算出により、
図2に示すスペクトルを得られる(算出は、IsoProバージョン3.0を使用して実行した)。
【0153】
図3Aに示すように測定したデータに対する比較により、ペプチドの発現培地依存的同位体分布が明らかになる。重い培地において、それは、およそ6%の
13Cの取込みに相当する(
図3Bを参照のこと)。従って、6%の
13C(通常存在する1.1%と比較して)をすでに取り込んでいることにより、ペプチドの同定を防止する。このことは、非常に高い実験データ品質を必要とするde novo配列決定も成功しないであろうことを示唆する。そのような場合、6%未満の
13Cをすでに取り込んでいることにより、抗体を保護することになる。
【0154】
実施例2:生体分子相互作用分析
C13標識抗トロポニンT抗体のその抗原に対する機能性、即ち結合活性を分析するために、BIACORE(登録商標)表面プラスモン共鳴アッセイを使用してKdを37℃で測定した。結果を
図5に与え、C13標識抗体が、通常の、非標識抗体と同じKd値を呈する、即ち同じ結合親和性を呈することを示す。
【0155】
詳細な動力学的調査を、GE Healthcare T200機器で37℃で実行した。Biacore CM5シリーズSセンサーを、機器に取り付け、流体力学的に処理し、製造業者の指示書に従ってあらかじめ調整した。システム緩衝液は、PBS-DT(PBS pH7.4、0.05% DMSO、0.05% Tween20[質量/容量])であった。サンプル緩衝液は、1mg/mL CMD(カルボキシメチルデキストラン、Fluka)で補充したシステム緩衝液であった。一実施形態において、マウス抗体捕捉システムを、CM5バイオセンサー上に確立した。ポリクローナルウサギ抗マウスIgG Fc捕捉抗体(RbAMIgG、PAb<M-IgG>Rb-IgG[IS])(BR-1008-38、2016-12、GE HC)を、NHS/EDC化学を使用して製造業者の指示書に従って13kRUで固定化した。
【0156】
抗TropT抗体を、それぞれ10nMでサンプル緩衝液に希釈し、流速10μL/分で0.5分間バイオセンサー上に捕捉させ、続いて2.5倍濃縮したPBS-DTシステム緩衝液を用いて80μL/分で0.5分間洗浄した。反応単位(RU)のマウス抗体捕捉レベル(CL)を、監視した。
【0157】
一連の濃度のTropT分析物(37kDa、Roche)を、結合相2分間及び解離相15分間で、80μL/分で注入した。TropT濃度は、0nM、1.1nM、3.3nM、10nM×2、30nM及び90nMであった。バイオセンサー捕捉システムを、20μL/分で10mMグリシンpH1.5の注入15秒間、その後10mMグリシンpH1.7の注入2分間によって再生した。
【0158】
センサグラム重層プロットを作成して、TropT結合シグナルを可視化した。分析物結合相のシグナルプラトーの結合後期のレポートポイントを監視した。動態パラメータを、Biacore評価用ソフトを使用して決定した。動態パラメータ、ka[1/Ms]、kd[1/s]、t1/2解離[分]、KD[M]及び抗体:TropT結合化学量論(モル比)を決定した。
【配列表】